特許第6654731号(P6654731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6654731III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6654731
(24)【登録日】2020年2月3日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20200217BHJP
   H01L 33/14 20100101ALI20200217BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20200217BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   H01L33/32
   H01L33/14
   H01L21/205
   C23C16/34
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-174556(P2019-174556)
(22)【出願日】2019年9月25日
【審査請求日】2019年9月25日
(31)【優先権主張番号】特願2018-184555(P2018-184555)
(32)【優先日】2018年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 康弘
【審査官】 右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−251687(JP,A)
【文献】 特開2018−093160(JP,A)
【文献】 特表2009−529230(JP,A)
【文献】 特表2008−521248(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第106684218(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 − 33/64
H01S 5/00 − 5/50
H01L 21/205
C23C 16/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記p型コンタクト層はp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、
前記p型コンタクト層の厚さが500nm以上1500nm以下であること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下である、請求項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であり、
前記p型コンタクト層はp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、
前記p型コンタクト層の厚さが300nm以上であること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記p型コンタクト層の厚さが500nm以上1500nm以下である、請求項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記コドープ領域層が、p型不純物を1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm含み、n型不純物を1×1018atoms/cm〜1×1020atoms/cm含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記コドープ領域層のp型不純物がMgであり、n型不純物がSiである、請求項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
n型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)とし、かつ、前記p型コンタクト層の厚さを500nm以上1500nm以下とすること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項8】
発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
n型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であり、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)とし、かつ、前記p型コンタクト層の厚さを300nm以上とすること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体発光素子およびその製造方法に関し、特に、信頼性及び発光出力に共に優れたIII族窒化物半導体発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Al、Ga、In等のIII族元素とNとの化合物からなるIII族窒化物半導体は、青色光から深紫外光の発光素子の材料として用いられている。中でも、高Al組成のAlGaNからなるIII族窒化物半導体は、発光波長200〜350nmの深紫外光発光素子(DUV−LED)に用いられている。
【0003】
一般に、III族窒化物半導体を用いた深紫外光発光素子の発光効率は極めて低く、高出力化の実現は困難と言われてきたが、小型かつ高出力な深紫外発光素子を実現するために、内部量子効率の向上のほか高い光取出効率や低抵抗特性などを実現するための試みが種々行われてきた。
【0004】
ここで、p型コンタクト層(p型AlGaN層、Al組成は0以上10%未満)は、活性層から発光される紫外光を吸収する。そこで特許文献1では、発光波長355nmのIII族窒化物半導体発光素子においては、p型コンタクト層を部分的に除去してp型クラッド層を露出する開口部を有したIII族窒化物半導体発光素子が記載されている。特許文献1におけるp型コンタクト層の厚さは、部分除去のない従来技術では20nmとされ、部分除去がある実施形態では200nmとされる。
【0005】
特許文献1のみならず、活性層から発光される紫外光を吸収するp型コンタクト層は、その光吸収の悪影響から薄いことが望ましいとされており、p型コンタクト層は200nm以下の厚さとすることが通常であった。
【0006】
また、本発明者は、特許文献2において、電子ブロック層にSi含有不純物ドープ領域層を含ませることにより、発光出力の経時変化を抑制でき、信頼性に優れたIII族窒化物半導体発光素子を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−213448号公報
【特許文献2】特開2016−149544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで種々の試みがなされてきたものの、発光出力の経時変化の抑制ができ、かつ、更に優れた発光出力を有するIII族窒化物半導体発光素子の実現が求められる。
【0009】
そこで本発明は、発光出力の経時変化の抑制ができ、かつ、より優れた発光出力を有するIII族窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記諸課題を解決すべく鋭意検討し、電子ブロック層にコドープ領域層を形成する場合としない場合とでp型コンタクト層の厚みの影響を検討した。そして、コドープ領域層を形成する場合には、p型コンタクト層の厚さを従来技術の知見に反し、敢えて大きくすることで、発光出力の経時変化を抑制できつつ、優れた発光出力を得ることができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記p型コンタクト層はp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、
前記p型コンタクト層の厚さが500nm以上1500nm以下であること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
(2)前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下である、前記(1)に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【0013】
(3)発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、
n型層と、発光層と、電子ブロック層と、p型コンタクト層とをこの順に備え、
前記電子ブロック層がコドープ領域層を有しており、
前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であり、
前記p型コンタクト層はp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、
前記p型コンタクト層の厚さが300nm以上であること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
(4)前記p型コンタクト層の厚さが500nm以上1500nm以下である、前記(3)に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【0014】
(5)前記コドープ領域層が、p型不純物を1×1018atoms/cm〜1×1020atoms/cm含み、n型不純物を1×1018atoms/cm〜1×1020atoms/cm含む、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【0015】
(6)前記コドープ領域層のp型不純物がMgであり、n型不純物がSiである、前記(5)に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【0016】
(7)発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
n型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)とし、かつ、前記p型コンタクト層の厚さを500nm以上1500nm以下とすること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
(8)発光波長が200nm〜350nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
n型層を形成する工程と、発光層を形成する工程と、電子ブロック層を形成する工程と、p型コンタクト層を形成する工程と、をこの順に備え、
前記電子ブロック層を形成する工程は、前記電子ブロック層にコドープ領域層を形成する工程を含み、前記電子ブロック層の厚みが10nm以上30nm以下であり、
前記p型コンタクト層を形成する工程において、前記p型コンタクト層をp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)とし、かつ、前記p型コンタクト層の厚さを300nm以上とすること
を特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、発光出力の経時変化の抑制ができ、かつ、従来よりも優れた発光出力を有するIII族窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に従うIII族窒化物半導体発光素子を説明する模式断面図である。
図2】実施例におけるp型コンタクト層の厚さと発光出力との対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施形態の説明に先立ち、エピタキシャル成長により形成される各層の厚さ及びAl組成の測定手法を説明する。各層の厚さは、光干渉式膜厚測定器を用いて測定できる。さらに、各層の厚さのそれぞれは、隣接する各層の組成が十分異なる場合(例えばAl組成比が、0.01以上異なる場合)、透過型電子顕微鏡による成長層の断面観察からも算出できる。また、隣接する層のうち、Al組成比が同一であるか、または、ほぼ等しい(例えば0.01未満)ものの、不純物濃度の異なる層の境界および厚さについては、両者の境界ならびに各層の厚さは、TEM−EDSに基づく測定によるものとする。また、障壁層や電子ブロック層を含め各層の厚さが数nm〜数十nmと薄い層は、透過型電子顕微鏡による各層の断面観察でのTEM−EDSを用いて各層厚さとAl組成を測定できる。また、厚さが十分厚い層(例えば1μm以上)については、フォトルミネッセンス測定による発光波長(バンドギャップエネルギー)から対象とする層のAl組成を確認できる。
【0020】
(III族窒化物半導体発光素子)
以下、図1を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。また、各図において、説明の便宜上、基板および各層の縦横の比率を実際の比率から誇張して示している。
【0021】
本発明の一実施形態に従うIII族窒化物半導体発光素子100は、n型層30と、発光層40と、電子ブロック層60と、p型コンタクト層70と、をこの順に有する。図1に示すように、発光層40が障壁層40bおよび、障壁層40bよりもバンドギャップの小さい井戸層40wを交互に積層することは好ましい態様の一つである。また、同図に示すように、発光層40と、電子ブロック層60との間にAlNガイド層50を設けることも好ましい態様である。
【0022】
図1に示すように、III族窒化物半導体発光素子100のn型層30を、基板10の表面にAlN層20が設けられたAlNテンプレート基板上に設けることができる。また、III族窒化物半導体発光素子100には、発光層40、AlNガイド層50、電子ブロック層60、およびp型コンタクト層70の一部をエッチング等により除去し、露出したn型層30上に形成したn型電極80と、p型コンタクト層70上に形成したp型電極90とが設けられてもよい。上記の基板10、AlN層20、n型電極80およびp型電極90は一般的な構成とすることができ、具体的な構成は何ら限定されるものではない。また、図示しないが、AlN層20とn型層30の間には、AlGaN層、組成傾斜層、超格子層の1つ以上から選ばれるバッファ層を備えていてもよい。
【0023】
<n型層>
n型層30は、少なくともAlを含むIII族窒化物半導体層とすることができ、例えばAlGaN材料からなり、また、III族元素としてのAlとGaに対して5%以内の量のInを含んでいてもよい。n型層30には、n型の不純物(ドーパント)がドープされる。こうしたn型不純物としては、Si,Ge,Sn,S,O,Ti,Zr等を例示することができる。不純物濃度は、n型として機能することのできる不純物濃度であれば特に限定されず、例えば1.0×1018atoms/cm〜1.0×1020atoms/cmとすることができる。また、n型層30のAl含有率は、特に制限はなく、一般的な範囲とすることができる。n型層30を単層または複数層から構成することもできる。
【0024】
<発光層>
III族窒化物半導体発光素子100において、発光層40がn型層30に続いて設けられる。発光層40を、障壁層40bおよび、障壁層40bよりもバンドギャップの小さい井戸層40wを交互に積層することで形成することができる。例えば、障壁層40bおよび井戸層40wとして、Al組成の異なるAlGaN材料を用いることができる。障壁層40bおよび井戸層40wは、必要に応じて、In等のIII族元素を5%以内の組成比で導入し、AlGaInN材料等としてもよいが、III族元素としてはAlおよびGaのみを用いた三元系のAlGaN材料とすることがより好ましい。発光層40の各層は、n型およびi型のいずれとしてもよいが、障壁層40bはn型とすることが好ましい。電子濃度が増え、井戸層内の結晶欠陥を補償する効果があるためである。なお、発光層40は、障壁層および井戸層を繰り返し形成し、障壁層で挟み込んだ一般的な多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造としてもよいし、p層側の最後の障壁層を取り除き、障壁層40b及び井戸層40wを交互にN層ずつ(但し、Nは整数である)積層した構造としてもよい。
【0025】
障壁層40bとしてAlGa1−bN材料を用い、井戸層40wとしてAlGa1−wN材料を用いる場合、障壁層40bのAl組成bを例えば0.51〜0.95、より好ましくは0.53〜0.85とすることができ、井戸層40wのAl組成wを、例えば0.30〜0.80(但し、w<b)とすることができる。また、障壁層40bおよび井戸層40wのそれぞれの層数を、例えば1〜10の正の整数とすることができる。さらに、障壁層40bの厚みを3nm〜30nmとすることができ、井戸層40wの厚みを0.5nm〜5nmとすることができる。
【0026】
井戸層40wのAl組成によって発光する光の中心波長を概ね調整することができ、例えば、発光層40における井戸層40wのAl組成wを0.35以上とすると、発光層40から放射される光の中心波長が300nm以下となる。
【0027】
<n型ガイド層>
また、図1には図示しないが、発光層40とn型層30との間に、n型ガイド層を設けてることも好ましい。n型ガイド層はAlGaN材料を用いることが好ましく、そのAl組成は、前記のn型層30のAl組成以上、かつ、障壁層40bのAl組成b以下とすることが好ましい。その厚さは3nm〜30nmとすることができる。また、n型ガイド層には、n型層と同様にn型の不純物(ドーパント)がドープされることが好ましいが、その不純物量はn型層よりも低いことが好ましい。
【0028】
<AlNガイド層>
発光層40に続き、AlNガイド層50を発光層40上に設けてもよい。AlNガイド層50は、最も好ましくはIII族元素のAl組成比を100%として形成したAlNからなる窒化物半導体層である。ただし、他のIII族元素(Ga等)が製造工程中に不可避に混入した場合や、変質時に発生するガスや変質の進行状況を考慮して、結果としてAl組成比が96%〜100%であれば、AlNガイド層50に含まれるものとする。AlNガイド層50の厚みは0.5nm以上2.0nm以下が好ましく、0.7nm以上1.7nm以下がより好ましい。AlNガイド層50は、アンドープであることが好ましいが、Mgなどのp型不純物やSiなどのn型不純物を添加しても構わない。また、AlNガイド層50中の不純物濃度が均一である必要はなく、例えば、発光層40側と電子ブロック層60側との間で、不純物濃度が異なっていてもよい。不純物を添加した際にはi型だけでなく、結果として一部もしくは全体がp型化、またはn型化してもよい。
【0029】
なお、「i型」であるとは、特定の不純物を意図的には添加していない層(アンドープ層ともいう)のことをいう。理想的には、不純物を全く含まない半導体とするのが好ましいが、電気的にp型またはn型のいずれとしても機能しない半導体であればよく、キャリア密度が小さいもの(例えば5×1016atoms/cm未満のもの)はi型と称することができる。また、隣接する半導体層よりp型またはn型の不純物の拡散があったとしても、特定の不純物を意図的に添加したことにはならない。
【0030】
また、III族窒化物半導体発光素子100は、発光層40におけるAlNガイド層50側のN層目の井戸層40wと、AlNガイド層50との間に、バンドギャップが障壁層40b以上かつAlNガイド層50未満のファイナルバリア層を更に有することも好ましい。この場合、ファイナルバリア層の厚みを0.1nm以上1.0nm以下と非常に薄くして設けることが好ましい。
【0031】
<電子ブロック層>
続いて、電子ブロック層60が発光層40上に設けられる。図1に示す実施形態では、電子ブロック層60がAlNガイド層50上に隣接して設けられる。電子ブロック層60は一般的に、発光層として機能する多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造とp型層(p型クラッド層またはp型コンタクト層)との間に設けることにより、電子を堰止めして、電子を発光層(MQWの場合には井戸層)内に注入して、電子の注入効率を高めるための層として用いられる。これは、発光層のAl組成が高い場合には、p型コンタクト層70のホール濃度が低いため、ホールを発光層に注入しにくく、一部の電子がp型コンタクト層70側に流れてしまうが、電子ブロック層60を設けることにより、こうした電子の流れを防止することができるからである。本実施形態でも、AlNガイド層50に隣接して設けられた電子ブロック層60は、同様にp型コンタクト層70側への電子の流れを防止することができ、電子の注入効率を高めることができる。
【0032】
電子ブロック層60のAl組成はAlGa1−zN(0.5≦z≦0.8)であることが好ましい。電子ブロック層全体の厚みは、5nm以上40nm以下とすることができ、10nm以上30nm以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明における電子ブロック層60においては、電子ブロック層にドープするp型不純物(Mg,Zn,Ca,Be,Mn等)を少なくとも有し、これらの中でも最も好ましいp型不純物はMgである。そして、p型不純物と共にSiに代表されるn型不純物が含まれるコドープ領域層60cを有する。
【0034】
電子ブロック層60のp型不純物量は、SIMS分析により測定することができ、平均で例えば1.0×1018atoms/cm3〜5.0×1020atoms/cm3とすることが好ましい。n型不純物量もSIMS分析により測定することができ、電子ブロック層60は、p型不純物とn型不純物とが共に1×1018atoms/cm3以上含まれたコドープ領域層60cを有するものである。コドープ領域層60cにおいては、p型(例えばMg)の不純物濃度を1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3とすることが好ましく、n型(例えばSi)の不純物濃度を1×1018atoms/cm3〜1×1020atoms/cm3とすることが好ましく、また、p型とn型の両者の不純物濃度の合計を2×1018atoms/cm3〜2×1020atoms/cm3とすることが好ましい。いずれもSIMS分析により測定することができる。電子ブロック層のSIMS分析において、p型とn型の不純物濃度が上記範囲となる領域があれば、その領域にコドープ領域層があると考えられる。コドープ領域層60cにおいて、p型の不純物濃度がn型の不純物濃度より大きくてもよいし、小さくてもよいし、p型及びn型のそれぞれの不純物濃度を同程度(p型の不純物濃度を1としてn型の不純物濃度を0.8〜1.2程度)としてもよい。
【0035】
なお、図1では、電子ブロック層60のうち、p型コンタクト層70の側にコドープ領域層60cを設けた例を図示している。しかしながら、コドープ領域層60cはこの例に限定されない。電子ブロック層60の全体がコドープ領域層であってもよく、また、電子ブロック層60の一部のみがコドープ領域層であり、他はp型不純物のみの領域があってもよい。コドープ領域層の厚さは、1nm以上とすることが好ましい。コドープ領域層の厚さの測定については、TEM−EDSを用いるものとする。さらに、コドープ領域層の厚さは、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。10nmを超えて厚いと、高抵抗化することにより順方向電圧が大きくなる恐れがあるためである。
【0036】
なお、電子ブロック層60は、AlNガイド層50とコドープ領域層60cとの間に、n型不純物がドーピングされずp型不純物のみがドーピングされた領域を有することがより好ましい。
【0037】
電子ブロック層60がコドープ領域層60cを有することにより、例えばMgをドープすることでホール注入効率を高めて、発光出力を維持しまた順方向電圧を低減しつつ、Siをドープすることでpコンタクト層からのMgの発光層への拡散を抑制し、寿命の悪化を抑制することができると考えられる。
【0038】
<p型コンタクト層>
電子ブロック層60に続きp型コンタクト層70が設けられる。p型コンタクト層70は、AlGa1−xN(0≦x≦0.1)である。p型コンタクト層70にドープするp型不純物としては、Mg,Zn,Ca,Be,Mn等を例示することができる。また、p型コンタクト層70全体の平均不純物濃度は、p型として機能することのできる不純物濃度であれば特に限定されず、例えば1.0×1018atoms/cm〜5.0×1021atoms/cmとすることができる。
【0039】
p型コンタクト層70は、p型電極80と接する側に、Mg濃度が3×1020atoms/cm以上の高濃度領域を有することが好ましく、この高濃度領域におけるMg濃度が5×1020atoms/cm以上であることがより好ましい。高濃度領域の厚さは、通常15nm以下である。なお、高濃度領域以外と高濃度領域におけるMg濃度は、SIMS測定による平均濃度である。
【0040】
さて、従来、p型コンタクト層70の厚みは、200nm以下であることが通常であった。p型コンタクト層は、発光層40からの光を吸収するため、その吸収を抑制するために薄くすることが通常であり、また、厚くするメリットは特にないと考えられてきたからである。しかしながら、本発明では、電子ブロック層60においてコドープ領域層60cがある場合には、p型コンタクト層70の厚みを300nm以上とした方が発光出力増大のために好ましく、さらに、500nm以上1500nm以下とすることがより好ましいことを見出した。
【0041】
p型コンタクト層において電流が拡散するにはある程度の厚さが必要であるものの、電子ブロック層60がコドープ領域層60cを有しない場合には、p型コンタクト層70において電流が拡散するよりも電子ブロック層60へ電流が進む方が優位である。そのため、従来技術ではp型コンタクト層70が厚いほど発光効率が下がり、p型コンタクト層の厚さを200nm以下とすべきと考えられていたと予想される。しかしながら、電子ブロック層60がコドープ領域層60cを有する場合には、電子ブロック層60のコドープ領域層60cへ電流が進む方よりも、p型コンタクト層70において電流が拡散する方が優位になると推察される。そのため、p型コンタクト層70の厚さが200nm以下では電流の拡散による発光効率向上の寄与が小さいところ、厚みを300nm以上とすれば、光吸収の悪影響よりも電流の拡散による発光効率向上の寄与が上回って、最終的な発光出力が向上すると予想される。
【0042】
以上のように、本発明に従うIII族窒化物半導体発光素子は、コドープ領域層60c及び厚さ300nm以上のp型コンタクト層70を有するので、発光出力の経時変化を抑制でき、かつ、従来よりも優れた発光出力を有することができる。
【0043】
以下に、図1に示した基板10、AlN層20、n型電極80およびp型電極90についてそれらの具体的な態様を例示的に説明するが、これらは種々の変形が可能である。既述のとおり、本発明に従う実施形態において、図1に示したサファイアの基板10、AlN層20、n型電極80およびp型電極90は、本発明を何ら限定するものではない。
【0044】
III族窒化物半導体発光素子100の基板10として、サファイア基板を用いることができる。サファイア基板の表面にエピタキシャル成長させたAlN層20が設けられたAlNテンプレート基板を用いてもよい。サファイア基板としては、任意のサファイア基板を用いることができ、オフ角の有無は任意であり、オフ角が設けられている場合の傾斜方向の結晶軸方位は、m軸方向またはa軸方向のいずれでもよい。例えば、サファイア基板の主面を、C面が0.5度のオフ角θで傾斜した面とすることができる。AlNテンプレート基板を用いる場合、サファイア基板表面のAlN層の結晶性が優れていることが好ましい。また、AlNテンプレート基板の表面に、アンドープのAlGaN層が設けられていることも好ましい。また、基板10としてAlN単結晶基板を用いてもよい。
【0045】
n型電極80は、例えばTi含有膜およびこのTi含有膜上に形成されたAl含有膜を有する金属複合膜とすることができ、その厚み、形状およびサイズは、発光素子の形状およびサイズに応じて適宜選択することができる。また、p型電極90についても、例えばNi含有膜およびこのNi含有膜上に形成されたAu含有膜を有する金属複合膜とすることができ、その厚み、形状およびサイズは、発光素子の形状およびサイズに応じて適宜選択することができる。
【0046】
(III族窒化物半導体発光素子の製造方法)
次に、上述したIII族窒化物半導体発光素子100を製造する方法の実施形態を説明する。本製造方法は、n型層30を形成する工程と、発光層40を形成する工程と、電子ブロック層60を形成する工程とp型コンタクト層70を形成する工程と、をこの順に備える。そして、電子ブロック層60を形成する工程は、電子ブロック層60にコドープ領域層60cを形成する工程を含む。さらに、p型コンタクト層70を形成する工程において、p型コンタクト層70をp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)とし、かつ、p型コンタクト層70の厚さを300nm以上とする。以下、好適な態様を含め、各工程を順次説明する。ただし、前述したIII族窒化物半導体発光素子100の実施形態と重複する構成については同じ参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0047】
まず、基板10としてサファイア基板を用意するのが一般的である。基板10の表面10AにAlN層を形成したAlNテンプレート基板を形成することが好ましく、市販のAlNテンプレート基板を用いてもよい。なお、AlN層20は、例えば、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法や分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、スパッタ法などの公知の薄膜成長方法により形成することができる。
【0048】
AlN層20のAl源としては、トリメチルアルミニウム(TMA)を用いることができる。また、N源としては、アンモニア(NH)ガスを用いることができる。これらの原料ガスを、キャリアガスとして水素ガスを用いることにより、AlN層20を形成することができる。
【0049】
なお、AlN層20の成長温度は特に限定されないが、1270℃以上1350℃以下が好ましく、1290℃以上1330℃以下がより好ましい。この温度範囲であれば、続いて熱処理工程を行う場合にAlN層20の結晶性を向上することができる。また、チャンバ内の成長圧力については、例えば5Torr〜20Torrとすることができる。より好ましくは、8Torr〜15Torrである。
【0050】
また、NHガスなどのV族元素ガスと、TMAガスなどのIII族元素ガスの成長ガス流量を元に計算されるIII族元素に対するV族元素のモル比(以降、V/III比と記載する)については、例えば130以上190以下とすることができる。より好ましくは140以上180以下である。なお、成長温度および成長圧力に応じて最適なV/III比が存在するため、成長ガス流量を適宜設定することが好ましい。
【0051】
続いて、上述のようにして得られた、サファイアの基板10上のAlN層20に対して、このAlN層20の成長温度よりも高温で熱処理を施すことが好ましい。この熱処理工程は、公知の熱処理炉を用いて行うことができる。かかる熱処理を行うことにより、AlN層20の(10−12)面のX線ロッキングカーブの半値幅を400秒以下とし、高い結晶性を実現することができる。
【0052】
その後、AlN層20上に、アンドープのAlGaN層を形成することも好ましい。Al源としてTMA、Ga源としてトリメチルガリウム(TMG)、N源としてNHガスを用いることで、AlGaN材料からなる層を形成することができ、このことは以下に説明するn型層30、n型ガイド層、発光層40、ファイナルバリア層、AlNガイド層50、電子ブロック層60およびp型コンタクト層70の形成においても同様である。これらの原料ガスを、キャリアガスとして水素ガスもしくは窒素ガスまたは両者の混合ガスを用いてチャンバ内に供給する。また、NHガスなどのV族元素ガスと、TMAガスなどのIII族元素ガスの成長ガス流量を元に計算されるV/III比については、例えば100以上100000以下とすることができる。より好ましくは300以上30000以下である。成長温度および成長圧力に応じて最適なV/III比が存在するため、成長ガス流量を適宜設定することが好ましいのはAlN層20を形成する場合と同様である。
【0053】
次に、n型層30を形成する工程を行う。n型層30は、AlN層20上に形成することができ、アンドープのAlGaN層上に形成することが好ましい。n型不純物については既述のとおりである。
【0054】
続いて、発光層40を形成する工程を行う。井戸層40wおよび障壁層40bを形成する際のAl組成比の調整にあたっては、Al源の流量とGa源の流量の比を適宜変更すればよい。発光層40をAlGaN材料で形成する場合、成長温度を1000℃以上1400℃以下とすることが好ましく、1050℃以上1350℃以下とすることがより好ましい。
【0055】
次いで、発光層40上にAlNガイド層50を形成することも好ましい。この場合、トリメチルアルミニウムガス(TMAガス)およびアンモニアガス(NHガス)からなる原料ガスを用いて発光層40上に直接、AlNガイド層50をエピタキシャル成長させることが好ましい。Ga等の他のIII族元素の混入を意図的に排除するため、原料ガスはトリメチルアルミニウムガス(TMAガス)およびアンモニアガス(NHガス)のみからなることが特に好ましい。キャリアガスとしては、窒素を主成分とするキャリアガスを用いることが好ましく、窒素ガスを用いることがより好ましい。また、成長温度を1000℃以上1400℃以下とすることが好ましく、1050℃以上1350℃以下とすることがより好ましい。成長時間を適宜選択することで、AlNガイド層50の厚さを0.5nm以上2.0nm以下とすることができる。
【0056】
次に、AlNガイド層50の上に電子ブロック層60を形成する工程を行う、次いで、p型電子ブロック層60上にp型コンタクト層70を形成する工程を行う。
【0057】
上述のように、電子ブロック層60は、コドープ領域層60cを含む。コドープ領域層60cを形成するための不純物としては、例えばSiおよびMgとすることができる。Si源としては、モノシラン(SiH)などを用いることができ、Mg源としては、シクロペンタジニエルマグネシウム(CPMg)を用いることができる。SiおよびMgを混合してドープするには、両者の混合ガスをチャンバに供給すればよい。
【0058】
p型コンタクト層70を形成するための不純物としては、例えばMgまたはZnなどから適宜選択して用いることができ、Mg源としては、シクロペンタジニエルマグネシウム(CPMg)を用いることができ、Zn源としては、ZnClを用いることができる。複数の不純物を混合してドープする場合には、不純物源の混合ガスをチャンバに供給すればよい。
【0059】
また、p型コンタクト層のp型電極と接する側において、p型不純物を高濃度でドーピングしてもよい。高濃度でドーピングするために、p型コンタクト層を成長後にIII族源ガスの供給を停止または成長時の1/4以下の流量とし、Mg源ガスおよびV族源ガスのみをp型コンタクト層の表面に供給する時間を1分〜20分設けることが好ましい。
【0060】
ここで、電子ブロック層60をAlGa1−zN材料で形成する場合、p型電子ブロック層60の形成は、キャリアガスとして水素を主成分とするガスを用いることができる。原料ガスは既述のとおりTMA、TMGおよびNHガスであり、さらに不純物源のガスを適宜選択して用いる。なお、キャリアガスとして窒素ガスを用いてAlNガイド層50の形成し、キャリアガスとして水素を用いて電子ブロック層60を形成する場合、キャリアガスの切り替えが必要となる。この場合、AlNガイド層50を形成後、TMAガスの供給を中断し、キャリアガスを窒素から水素に切り替えて20秒〜1分程度経過した後に、TMAガスおよびTMGガスを供給して電子ブロック層60を形成する。
【0061】
最後に、発光層40、AlNガイド層50、電子ブロック層60およびp型コンタクト層70の一部をエッチング等により除去し、露出したn型層30上にn型電極80を、p型コンタクト層70上にp型電極90をそれぞれ形成することができる。こうして、III族窒化物半導体発光素子100を作製することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
参考例1]
サファイア基板(直径2インチ、厚さ:430μm、面方位:(0001)、m軸方向オフ角θ:0.5度)を用意した。次いで、MOCVD法により、上記サファイア基板上に中心膜厚0.60μm(平均膜厚0.61μm)のAlN層を成長させ、AlNテンプレート基板とした。その際、AlN層の成長温度は1300℃、チャンバ内の成長圧力は10Torrであり、V/III比が163となるようにアンモニアガスとTMAガスの成長ガス流量を設定した。V族元素ガス(NH)の流量は200sccm、III族元素ガス(TMA)の流量は53sccmである。なお、AlN層の膜厚については、光干渉式膜厚測定機(ナノスペックM6100A;ナノメトリックス社製)を用いて、ウェーハ面内の中心を含む、等間隔に分散させた計25箇所の膜厚を測定した。
【0064】
次いで、上記AlNテンプレート基板を熱処理炉に導入し、10Paまで減圧後に窒素ガスを常圧までパージすることにより炉内を窒素ガス雰囲気とした後に、炉内の温度を昇温してAlNテンプレート基板に対して熱処理を施した。その際、加熱温度は1650℃、加熱時間は4時間とした。
【0065】
続いて、MOCVD法により、アンドープのAlGaN層として、Al0.7Ga0.3Nからなる厚さ1μmのアンドープAl0.7Ga0.3N層を形成した。次に、n型層として、Al0.65Ga0.35Nからなり、Siドープした厚さ2μmのn型層を形成した。なお、SIMS分析の結果、n型層のSi濃度は1.0×1019atoms/cmであった。
【0066】
続いて、n型層上に、Al0.65Ga0.35NからなりSiドープした厚さ20nmのn型ガイド層を形成し、さらに障壁層として厚さ4nmのAl0.65Ga0.35Nを形成した。次いで、Al0.45Ga0.55Nからなる厚さ3nmの井戸層および厚さ4nmのAl0.65Ga0.35Nからなる障壁層を交互に2層ずつ形成し、さらにAl0.45Ga0.55Nからなる厚さ3nmの井戸層を形成した。なお、障壁層の形成においてはSiをドープした。
【0067】
その後、3層目の井戸層上に、窒素ガスをキャリアガスとし、アンドープのAlNガイド層を形成した。AlNガイド層の厚さは1nmとした。
【0068】
次に、TMAガスの供給を停止しつつ、アンモニアガスを供給し続けたままキャリアガスの窒素を止めて水素を供給し、キャリアガスを水素に変更した後に、III族元素の原料ガスであるTMAガスおよびTMGガスを再び供給して、Al0.68Ga0.32Nからなり、Mgをドープした層さ18nmの電子ブロック層を形成した。次いで、Al0.68Ga0.32Nからなり、MgおよびSiをドープした厚さ2nmの電子ブロック層(コドープ領域層)を形成し、合計20nmの電子ブロック層とした。
なお、コドープ領域層を形成するためにMgおよびSiをドープするにあたり、SiH4ガスを8sccmで、Cp2Mgガスを250sccmでチャンバ内に供給した。SIMS分析によると電子ブロック層のMgおよびSiがドープされた領域におけるSi濃度は、2.0×1019atoms/cmであり、Mg濃度は2.0×1019atoms/cmであった。
【0069】
続いて、キャリアガスを窒素ガスに切り替えた後、GaNからなり、Mgドープした厚さ300nmのp型コンタクト層を形成した。なお、厚さ300nmの内の、電極に接する厚さ25nmの領域においては、TMGガスの流量を減らしてMgの存在確率を上げ、かつ、成長速度を落とすことにより高Mg濃度の層とした。SIMS分析の結果、p型電子ブロック層側のp型層のMg濃度は平均で3.0×1019atoms/cmであり、高Mg濃度とした部分のMg濃度は平均で1.2×1020atom/cmであった。
【0070】
その後、p型コンタクト層の上にマスクを形成してドライエッチングによるメサエッチングを行い、n型層の一部を露出させた。次いで、p型コンタクト層上に、Ni/Auからなるp型電極を形成し、露出したn型層上には、Ti/Alからなるn型電極を形成した。なお、p型電極のうち、Niの厚みは50Åであり、Auの厚みは1500Åである。また、n型電極のうち、Tiの厚みは200Åであり、Alの厚みは1500Åである。最後に550℃でコンタクトアニール(RTA)を行って、電極を形成した。
【0071】
以上のとおりにして作製したIII族窒化物半導体発光素子の、各層の構成を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
[実施例2]
p型コンタクト層の厚さを600nmとした以外は、参考例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0074】
[実施例3]
p型コンタクト層の厚さを900nmとした以外は、参考例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0075】
[実施例4]
p型コンタクト層の厚さを1200nmとした以外は、参考例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0076】
[実施例5]
p型コンタクト層の厚さを600nmとし、p型電子ブロック層の全体の厚さを30nmとしつつ、この30nmのうちMgのみの厚さを28nmとしてコドープ領域層の厚さを2nmとした以外は、参考例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0077】
[実施例6]
p型コンタクト層の厚さを900nmとし、p型ブロック層の厚さを30nmとしつつ、この30nmのうちMgのみの厚さを28nmとしてコドープ領域層の厚さを2nmとした以外は、参考例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0078】
[実施例7]
p型コンタクト層の厚さを900nmとし、p型ブロック層の厚さを25nmとしつつ、この25nmのうちMgのみの厚さを23nmとしてコドープ領域層の厚さを2nmとした以外は、参考例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0079】
[比較例1]
p型コンタクト層の厚さを150nmとした以外は、参考例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0080】
[比較例2〜5]
p型電子ブロック層にSiをドーピングしなかった以外は、それぞれ比較例1、参考例1、実施例〜3と同様にしてIII窒化物半導体発光素子を作製した。
【0081】
[比較例6]
p型電子ブロック層にSiをドーピングせず、p型ブロック層の厚さを40nmとした以外は、比較例1と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0082】
[比較例7]
p型電子ブロック層にSiをドーピングせず、p型電子ブロック層の厚さを40nmとした以外は、実施例3と同様にしてIII族窒化物半導体発光素子を作製した。
【0083】
(評価1:各層の厚さとAl組成の評価)
エピタキシャル成長により形成される各層の厚さを、光干渉式膜厚測定器及び透過型電子顕微鏡を用いて測定した。また、障壁層及び電子ブロック層を含め各層の厚さが数nm〜数十nmと薄い層は、透過型電子顕微鏡による各層の断面観察でのTEM−EDSを用いて各層厚さとAl組成を測定した。厚さが十分厚い層(1μm以上)については、フォトルミネッセンス測定による発光波長(バンドギャップエネルギー)から対象とする層のAl組成を確認した。
【0084】
(評価2:発光出力と発光波長)
Siフォトダイオード(S1227-1010BQ、浜松ホトニクス社製)を用いて、Inボールを介して電流10mAで通電したときの発光出力を測定した。また、ファイバ光学分光器(USB2000+、Ocean Photonics社製)を用いて電流10mAでの発光波長も測定した。
【0085】
(評価3:発光出力の経時変化)
発光素子をAlN製サブマウントに実装し、電流350mAを連続通電した場合の発光出力の経時変化を測定した。発光素子を連続通電165時間後の、初期発光出力に対する発光出力の割合が、70%以上を〇とし、70%未満を×とした。さらに、電流600mAを連続通電した場合の発光出力の経時変化を測定した。発光素子を連続通電500時間後の、初期発光出力に対する発光出力の割合について、表2に測定値を併せて記載する。
【0086】
参考例1、実施例〜7及び比較例1〜7に係るIII族窒化物半導体発光素子の評価結果を表2に示す。さらに、電子ブロック層の厚さが20nmで共通する参考例1、実施例〜4、比較例1〜5におけるp型コンタクト層の厚みと発光出力との対応関係を図2のグラフに示す。
【0087】
【表2】
【0088】
まず、表2より、比較例6と7から、電子ブロック層にSiをドーピングしない場合は、電子ブロック層の厚さが40nmでは発光出力の経時変化は小さいものの、発光出力も低いことが分かる。そして、比較例2〜5の結果から、電子ブロック層の厚さを20nmまで薄くすると、発光出力の経時変化が悪化(評価:×)し、p型コンタクト層の厚さが厚いほど発光出力が小さくなる傾向であることが分かる。比較例2〜5におけるp型コンタクト層の厚み増大に伴う発光出力の低減傾向は従来技術に示唆されるとおりである。一方、これらの比較例に対して、参考例1、実施例〜7の結果より、電子ブロック層にSiをドーピングした場合には、発光出力の経時変化を小さくでき、かつ、発光出力を比較例1に比べて大きくできたことが確認でき、実施例2のようにp型コンタクト層の厚さが従来よりも厚いところで、最も発光出力が大きくなる範囲があることが分かる(図2も参照)。また、実施例2,5及び実施例3,6,7の比較から、電子ブロック層は薄い方が好ましいことも確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、発光出力の経時変化の抑制ができ、かつ、従来よりも優れた発光出力を有するIII族窒化物半導体発光素子を提供することができるため、有用である。
【符号の説明】
【0090】
10 基板
10A 基板の主面
20 AlN層
30 n型層
40 発光層
40b 障壁層
40w 井戸層
50 AlNガイド層
60 電子ブロック層
70 p型コンタクト層
80 n型電極
90 p型電極
100 III族窒化物半導体素子
【要約】
【課題】発光出力の経時変化の抑制ができ、かつ、従来よりも優れた発光出力を有するIII族窒化物半導体発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のIII族窒化物半導体発光素子100は、発光波長が200nm〜350nmであり、n型層30と、発光層40と、電子ブロック層60と、p型コンタクト層70とをこの順に備え、電子ブロック層60がコドープ領域層60cを有しており、p型コンタクト層60はp型AlGa1−xN(0≦x≦0.1)であり、p型コンタクト層60の厚さが300nm以上である。
【選択図】図1
図1
図2