【文献】
Kenji Kikuchi et al.,"Photocurrent multiplication in Ga2O3/CuInGaSe2 heterojunction photosensors",Sensors and Actuators A,2015年 1月13日,Vol.224,pp.24-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、光電変換素子の高解像度化が進み、それに伴って光電変換部の面積が縮小したことにより受光感度低下の問題が顕在化するようになってきている。
カルコパイライト型またはスファレライト型であるCIGSをp型半導体層に用いた光電変換素子は、主に太陽電池として利用されており、高い光吸収係数、高い量子効率およびエネルギー変換効率、光照射による劣化が少ないといった利点を有している。しかし、例えばイメージセンサのように電界印加動作をする素子の場合、暗電流が増大するため充分なS/Nを得ることが難しかった(例えば、下記非特許文献1、2を参照)。
なお、スファレライト型およびカルコパイライト型とは、II-IV-V2族化合物半導体がとり得る2種類の結晶構造を称するものである。
【0003】
これに対し、膜構造を工夫することで暗電流を低減する手法が提案されている(例えば、下記特許文献1)。カルコパイライト型またはスファレライト型の化合物半導体をイメージセンサに用いることを目的として、電界印加によって動作させる例は数少なく、n型半導体層としては、既に太陽電池で主流となっている硫化カドミウム(CdS)が知られている(例えば、特許文献1を参照)が、これはカドミウムを使用しているので、他の材料を使用したい、という要求がある。また、バンドギャップが2.4eVと狭いため、青色光が吸収されてしまい、可視光イメージセンサとしての利用も好ましくない。
【0004】
そこで、本発明者等は、n型半導作層としてワイドギャップn型半導体である酸化ガリウム(バンドギャップ4.9eV)を用いることで、暗電流をある程度低減することに成功している(例えば、特許文献2を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る光電変換素子10の断面図である。
すなわち、この光電変換素子10は、負極性の下部電極1aを備えた基板1の上面に、CIGS層からなるp型半導体層2(以下、CIGS層2とも称する)、酸化ガリウム(Ga
2O
3)からなるn型半導体層3(以下、酸化ガリウム層3とも称する)および透明な電極層4を、この順に積層形成してなり、印加する逆バイアス電圧が0Vのとき、CIGS層2と酸化ガリウム層3の境界付近のp型半導体層2側の領域において、この境界の全面に沿って、完全空乏層が形成されている。
また、CIGS層2は、カルコパイライト型またはスファレライト型のCuIn
1-XG
a
X(Se
1-yS
y)
2を成膜することにより構成される。ただし、0≦X,Y≦1 である。
また、上記完全空乏層はCIGS内のCu欠陥にGaが入り込んで生成されたものと考えられる。
【0016】
また、本発明の実施形態に係る光電変換素子10の製造方法においては、酸化ガリウム層3を作製する際には、基板1、下部電極層1aおよびCIGS層2を積層形成したものを350〜500℃に加熱しながら酸化ガリウム層2を成膜するようにしたものである。
これにより、印加する逆バイアス電圧が0Vのときでも、従来技術と比較し、暗電流を低くできるとともにS/Nを高くすることができ、かつ、0Vまたは0Vに近い低い逆バイアス電圧を印加した場合であっても感度が良好な、可視光用の光電変換素子を得ることができる。
【0017】
上記基板1は、下部電極層1aを、例えば蒸着法などを用いてその上面に形成したものであり、例えばSi、Ge、サファイヤ、ガラス等からなる平面性の良い板部材を用いることができる。また、光照射を基板1の上面側(図面の紙面上方側)から行う場合(本実施形態では基本的にはこの態様とされている)には、上述した上部電極層4は透明な部材で形成する必要があるが、基板1や下部電極層1aは不透明な材料により形成することも可能である。また、電極層4は、例えば金や窒化チタン等からなる薄膜電極を用いることができる。
勿論、基板1、基板1に付設した下部電極層1a、および上述した上部電極層4をすべて透明な材料により形成することも可能である。
【0018】
また、CIGS層2は、 HYPERLINK "http://astamuse.com/ja/keyword/10687490" ワ
イドギャップp型半導体であるCIGSを積層形成したものであり、基板1の上面に、多元蒸着法、三段階法、あるいはスパッタリング法等を用い、膜厚0.5〜3μmのカルコパ
イライト型またはスファレライト型半導体(CuIn
1-xGa
X(Se
1-yS
y)
2)を成膜
することにより形成される。ただし、0≦X,Y≦1 である。
【0019】
また、酸化ガリウム層3は、さらにCIGS層2の上面にスパッタリング法やPLD(pulsed laser depositionパルスレーザ蒸着)法等を用い、例えば、膜厚0.1〜1μm
の酸化ガリウム(Ga
2O
3)を成膜することにより形成される。
【0020】
また、上部電極層4は、酸化ガリウム層3の上面に、蒸着法等を用い、ITOなどの透明導電膜を成膜することにより形成される。
【0021】
次に、本発明の実施形態に係る光電変換素子の製造方法について説明する。
まず、下部電極層1aを付設したガラス等の基板1の上面に、多元蒸着法、三段階法、あるいはスパッタリング法等を用い、いわゆるCIGSを膜厚0.5〜3μmとなるように成膜してp型半導体層(CIGS層)2を形成する。
【0022】
次に、基板1を350〜500℃に加熱しながら、CIGS層2上に酸化ガリウム(Ga
2O
3)をスパッタリング法やPLD(pulsed laser depositionパルスレーザ蒸着)法等を用
い、膜厚0.1〜1μmとなるように成膜することによりn型半導体層(酸化ガリウム層)
3を形成する。
最後に、酸化ガリウム層3の上面に、蒸着法等を用い、透明導電膜からなる上部電極層4を成膜する。
【0023】
ところで、本発明の実施形態に係る光電変換素子においては、印加する逆バイアス電圧が0Vのときでも、CIGS層2と酸化ガリウム層3の境界よりもCIGS層2側で該境界の全面に沿って、ハッチングで示されるような完全空乏層が生成されている。
【0024】
すなわち、このような構成とされていることは、例えば、
図2(A)に示す、実施例に係る光電変換素子10のEBIC(Electron Beam Induced Current)像の解析結果から
明らかである。なお、この
図2(A)が示すデータは、酸化ガリウム層を450℃で加熱し
ながら作成した場合のものである。すなわち、この解析に処せられる光電変換素子10のサンプルは、Moからなる基板1の上面に、下部電極層1a、CIGS層2(厚みが1μ
m)、酸化ガリウム層3(厚みが100nm)およびITOからなる上部電極層4(厚みが30nm)を積層してなるものであり、本実施例のCIGS層2と酸化ガリウム層3の境界
域よりもCIGS層2の領域に入ったところで、この境界の全面に沿った所定厚の領域として完全空乏層(図中ハッチングの領域)が生成されている。
このことは
図2(A)を拡大して示す
図3(A)の像解析写真により明らかである。
【0025】
これに対して、
図2(B)に示す、酸化ガリウムを常温で作製した従来技術に係る光電変換素子10(層構成は上記実施例のものと同様である)のEBIC像の解析結果から明らかなように、従来技術のものでも、CIGS層と酸化ガリウム層の境界域よりもCIGS層の領域に入ったところには若干の完全空乏層(図中ハッチングの領域)が生成されているものの、極めて離散的であり、該境界に沿う全面に亘って生成されていない。このことは
図2(B)を拡大して示す
図3(B)の像解析写真により明らかである。
【0026】
なお、EBIC像の解析とは、以下のようにしてなされる。
すなわち、半導体デバイスに電子線を照射すると、内部に電子正孔対が生成される。次に、pn接合内に生成される電界により、上記電子正孔対は分離され、これにより電流が発生する。EBIC像の輝度(電流値)はpn接合の内部電界強度に比例することになるため、SEM像(電子プローブでサンプル上を走査した時の、電子線誘起電流の変化を可視化した像
)とEBIC像を重ねることで、輝度の変化に基づき空乏層の幅や位置、さらには完全空乏層となっているか否かを解析することができる。
上述したように、EBIC信号量が大きい(輝度が高い)ということは内部電界が強いということを意味し、結局、完全空乏層が形成されていることを示すものである。
【0027】
上述したことから、
図3(A)を
図3(B)と比較して分析すると以下のことが結論づけられる。
すなわち、従来技術では、
図3(B)に示すようにEBIC信号量が小さい値となっており(完全空乏層(図中ハッチング領域)となっている領域はごくわずかで離散的である)、また、CIGS層2ではなく酸化ガリウム層3に生成されている。
【0028】
一方、本実施例では、
図3(A)に示すように、EBIC信号量が大きい値となっており、完全空乏層がCIGS層に広がっている(完全空乏層(図中ハッチング領域)となっている領域は、両層2、3の境界からCIGS層2側に入った領域において、上記境界の全面に沿った層状の領域にわたって広がっている)、ことが明らかである。すなわち、CIGS層2には、境界付近において、所定厚み(例えば100nm)の完全空乏層が生成されてい
る。
このような現象は、従来技術では、酸化ガリウム層3とCIGS層2のキャリア濃度比が大きく(Ga
2O
3<<CIGS)、完全空乏層を含めて空乏層は酸化ガリウム層3側に広がっている(酸化ガリウム3側には広がっていない)ことになるが、本実施例のものではCIGS層2内のCu欠陥にGaが入り込むことで、n型CIGS層が形成され、pn接合が強化された状態となっていると考えられる。
【0029】
このように、本実施例の光電変換素子10においては、完全空乏層が酸化ガリウム層3側に支配的に広がるのが防止されて、低電圧印加時でも良好な可視光感度を得ることができるものとなっている。
【0030】
また、本実施例の光電変換素子10の製造方法においては、CIGS層2を作製した後に、基板1(実際には、基板1上にCIGS層2を成膜してなる積層体)を350〜500℃の範囲の温度に加熱しながら酸化ガリウム層3を成膜するようにしている。
ここで、350〜500℃の範囲の温度とは、この範囲の1点の近傍の温度であってもよいし、この範囲内で変動する温度であってもよい。
この加熱処理により、CIGS内のCu欠陥にGaが入り込んで、n型CIGS層が形成され、pn接合が強化された状態となっていると考えられ、これにより、低電圧印加時でも良好な可視光感度を得ることができる光電変換素子を製造することができる。
【0031】
本実施例に係る光電変換素子の製造方法により形成された光電変換素子のサンプルについてEBIC解析を行うと、
図2(A)および
図3(A)の像と同様の結果が得られた。
すなわち、実施例では、EBIC信号量が大きくなるように形成されているので完全空乏層が広がっている領域(完全空乏層(図中ハッチング領域)は、両層2、3の境界からCIGS層2側に入った領域において、この境界の全面に亘って広がっていることが明らかである。
【0032】
これに対して、酸化ガリウム層を作製する際に、基板を加熱せずに酸化ガリウム層を成膜した従来技術に係る光電変換素子の製造方法においては、その製造方法により形成された光電変換素子のサンプルについてEBIC解析を行うと、
図2(B)および
図3(B)の像と同様の結果が得られた。
すなわち、
図3(B)に示すように、従来技術では、EBIC信号量が小さく、CIGS層よりも酸化ガリウム層に空乏層が支配的に広がっていることが明らかである。
【0033】
したがって、本実施例の光電変換素子の製造方法においては、完全空乏層が酸化ガリウム層3側に支配的に広がるのが防止され、CIGS層2側において境界に沿った層状に形成され、低電圧印加時でも良好な可視光感度を得ることができる光電変換素子10を製造することができる。
【0034】
図4は、CIGS層2をp型半導体層として、酸化ガリウム層3をn型半導体層として、上述した実施例の光電変換素子の製造方法により形成した光電変換素子10(
図2(A)に示すもの)と、その比較例としての従来技術により製造した光電変換素子との両者について、逆バイアス電圧(V)と電流(μA)の関係を表すグラフを示すものである。また、この
図4が示すデータは、酸化ガリウム層を400℃で加熱しながら作成した場合のも
のである。
なお、信号電流値は、波長550nm、強度50μW/cm
2 の光照射条件で行った
ときの電流値である。
【0035】
また、本実施例と従来技術のいずれについても、CIGS層2は多元蒸着法で成膜しており、膜厚は1μmとした。また本実施例と従来技術のCIGSの違いを正確に比較するために同じ成膜ロットのサンプルを使用した。
また、本実施例と従来技術のいずれについても、酸化ガリウム層3は、スパッタリング法を用いて膜厚が100nmとなるまで成膜した。ただし、このときの基板温度は、本実施例のものでは450℃としたのに対し、従来技術では室温(25℃)とした。
【0036】
図4のグラフからも明らかなように、本実施例のものでは、暗電流が低減されており、これにより、信号電流から暗電流を差し引いた値(▲印曲線)が増大した。また、逆バイアス電圧が0Vの場合において、従来技術のものでは信号電流が僅かであったのに対し、本実施例のものでは、可視光感度を得るのに十分な信号電流が得られた。
一方、従来技術のものでは逆バイアス電圧が増加するのにしたがって急激に増加しており、これにより信号電流から暗電流を差し引いた値(小さい●点線)は所定の値(
図4では0.6μA)以上とはならない。
【0037】
さらに、光電変換素子10の基板温度を室温(25℃、従来技術)、300℃、350℃、400
℃、450℃、500℃、550℃、600℃と変化させて酸化ガリウムを作製し、それぞれの逆バイアス電圧(V)に対する暗電流(A)の値を測定して暗電流特性を得、
図5に示すようなグラフを得た。なお、この
図5のデータを得るために用いた光電変換素子10のサンプルは、前述した
図4のデータを得るために用いた光電変換素子10のサンプルとは製造ロットが互いに異なっている。
この
図5から明らかなように、暗電流は基板温度を450〜500℃に設定して作製した場合に最も減少することが明らかである。
【0038】
図6は、CIGS層2をp型半導体層とし、酸化ガリウム層3をn型半導体層として、上述した実施例に係る光電変換素子の製造方法により形成した光電変換素子10と、その比較例としての従来技術により製造した光電変換素子との両者について、照射光の波長(nm)に対する量子効率(%)の関係を表すグラフを示すものである。
【0039】
なお、印加電圧(逆バイアス電圧)0V、1Vの低い電圧に対して、従来技術による光電変換素子では完全空乏層を含めた空乏層が酸化ガリウム層側に支配的に広がり可視光感度が得られない。また、紫外線領域の量子効率も低い。
これに対して、本実施例による光電変換素子は、印加電圧(逆バイアス電圧)が0Vであっても、CIGS層2側に完全空乏層が広がり可視光感度が得られており、またその量子効率も従来技術と比較して大幅に増大している。さらに逆バイアス電圧(印加電圧)を1Vとした場合には、可視光域(波長400-700nm)の平均量子効率は74%にも達してい
る。
【0040】
図7は、各基板温度(室温〜600℃)における、波長−量子効率特性を示すグラフであ
る。
すなわち、光電変換素子10の基板温度を室温(25℃、従来技術)、300℃、350℃、400℃、450℃、500℃、550℃、600℃と変化させて酸化ガリウムを作製し、それぞれの波長
(nm)に対する量子効率(%)の値を測定して暗電流特性を得、
図7に示すようなグラフを得た。
図7から明らかなように、量子効率は基板温度を550〜600℃に設定した場合に最も大きくなることが明らかである。
【0041】
<変更態様>
本発明の光電変換素
子の製造方法としては、上記実施形態のものに限られるものではなく、その他の種々の態様の変更が可能である。例えば、上記実施形態においては、上面に電極を付設した基板1の上方に、下部電極層1a、p型半導体層(CIGS層)2、n型半導体層(酸化ガリウム層)3および電極層4を、この順に設けるようにしているが、下部電極層1aとp型半導体層2の間や、n型半導体層3と電極層4の間や、電極層4の上面に、他の層を設けてもよい。また、n型半導体層3にバッファ層を含めるようにしてもよい。
【0042】
また、上記基板1としては、上述したようにSi、Ge、サファイヤ、ガラス等からなる平面性の良い板部材を用いることができる。
また、基板1に付設される電極としては、Au電極であれば酸化されない等の利点があるが、例えばIn電極等の他の電極を用いることも可能である。