特許第6655392号(P6655392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6655392ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6655392
(24)【登録日】2020年2月5日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20200217BHJP
   C08G 75/0231 20160101ALI20200217BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20200217BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08G75/0231
   C08K3/00
   C08L101/00
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-530951(P2015-530951)
(86)(22)【出願日】2014年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2014070850
(87)【国際公開番号】WO2015020142
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2016年2月3日
【審判番号】不服2018-14166(P2018-14166/J1)
【審判請求日】2018年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-166720(P2013-166720)
(32)【優先日】2013年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】芳野 泰之
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 佐藤 健史
【審判官】 橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】 特表平4−500825(JP,A)
【文献】 特開平4−292625(JP,A)
【文献】 特表2013−522387(JP,A)
【文献】 特開2008−247955(JP,A)
【文献】 特開2001−279097(JP,A)
【文献】 特開平6−172489(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/025190(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C08G75/00-75/32,79/00-79/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、さらに無機質充填剤とを含有するものであり、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
ジヨード芳香族化合物と、単体硫黄と、重合禁止剤とを、前記ジヨード芳香族化合物、前記単体硫黄及び前記重合禁止剤を含む溶融混合物中で反応させることを含む方法により得ることのできるものであり、且つ、前記重合禁止剤に由来するアミノ基を末端基として有し、かつ、
主鎖中に下記一般式(20)
【化2】
で表されるジスルフィド結合を有する、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記重合禁止剤が、下記式(I)で表される化合物を含む、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【化1】
[式中、Xはアミノ基を表す。]
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
末端に下記一般式(1−1)
【化3】
(式中、Yはアミノ基である。)で表される一価の基を有する、請求項1又は2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
該ポリアリーレンスルフィド樹脂と、該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01〜5,000ppmの範囲となる割合でヨウ素原子を含む混合物である、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、エラストマーとを含有するものであり、かつ、前記エラストマーが、α−オレフィンとアミノ基と反応し得る官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得られるものであり、かつ、前記ビニル重合性化合物が、α,β−不飽和カルボン酸またはそのアルキルエステルおよびグリシジル(メタ)アクリレートである、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、さらにシラン化合物を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形品。
【請求項8】
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、さらに無機質充填剤とを、溶融混練すること、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
ジヨード芳香族化合物と、単体硫黄と、重合禁止剤とを、前記ジヨード芳香族化合物、前記単体硫黄及び前記重合禁止剤を含む溶融混合物中で反応させることを含む方法により得られること、且つ、前記重合禁止剤に由来するアミノ基を末端基として有し、かつ、
主鎖中に下記一般式(20)
【化2】
で表されるジスルフィド結合を有すること、
を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記重合禁止剤が、下記式(I)で表される化合物を含む、請求項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【化4】
[式中、Xはアミノ基を表す。]
【請求項10】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
末端に下記一般式(1−1)
【化5】
(式中、Yはアミノ基である。)で表される一価の基を有する、請求項8又は9に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
該ポリアリーレンスルフィド樹脂と、該ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し0.01〜5,000ppmの範囲となる割合でヨウ素原子を含む混合物である、請求項10のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、エラストマーとを含有するものであり、かつ、前記エラストマーが、α−オレフィンとアミノ基と反応し得る官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得られるものであり、かつ、前記ビニル重合性化合物が、α,β−不飽和カルボン酸またはそのアルキルエステルおよびグリシジル(メタ)アクリレートである、請求項11のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、さらにシラン化合物を含む、請求項12のいずれか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項13のいずれか一項に記載の製造方法で製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形及びブロー成形からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶融加工法で成形する、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子部品分野をはじめさまざまな分野で、環境に対する取り組みとして低ハロゲン化への動きが活発化している。
【0003】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下「PPS樹脂」と略すことがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下「PAS樹脂」と略すことがある。)は、ハロゲン系難燃剤を用いなくとも高い難燃性が得られることから、ハロゲンフリー材料として注目を集めている。
【0004】
ポリフェニレンスルフィド樹脂は、例えば、p−ジクロロベンゼンと、硫化ナトリウム、又は水硫化ナトリウム及び水酸化ナトリウムとを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させる溶液重合により製造することができる(例えば、特許文献1、2参照。)。現在市販されているポリフェニレンスルフィド樹脂は、一般にこの方法により生産されている。
【0005】
しかし、この方法で得られる重合生成物は、一般に、塩化ナトリウムなどの副生物及び有機極性溶媒を含むため、これらを除去するための精製処理が必要とされる。また、精製処理を行ったとしても、樹脂中の塩素原子を十分に除去することは困難な場合が少なくない。
【0006】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の他の製造方法として、塩素原子を含む原料及び極性溶媒を使用せず、ジヨード芳香族化合物と単体硫黄とを溶融重合させる方法が知られている(特許文献3、4、5参照)。この方法で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂は、ヨウ素原子を含むものの、例えば重合反応物又は重合反応後の反応魂を減圧下で加熱してヨウ素を昇華させることによって、ヨウ素原子を比較的容易に十分に低濃度まで除去することができる。すなわち、この溶融重合による方法によれば、塩素原子を実質的に含まず、ハロゲン原子の濃度が十分に低減されたポリアリーレンスルフィド樹脂を容易に製造できることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第2,513,188号明細書
【特許文献2】米国特許第2,583,941号明細書
【特許文献3】米国特許第4,746,758号明細書
【特許文献4】米国特許第4,786,713号明細書
【特許文献5】特開2010−501661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記溶融重合による方法で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、成形加工の際などに加熱により発生するガスの量が比較的多く、この点で更なる改良が必要とされる。特に、ポリアリーレンスルフィド樹脂を無機質充填剤、各種熱可塑性樹脂、エラストマー等の他の材料と混合して調製した樹脂組成物に関して、ガス発生の問題が顕著となる傾向があった。ガス発生量が多いと、成形品の品質低下などの問題が生じる可能性があるため、ガス発生を抑制することは、成形用材料として実用上非常に重要である。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする主な課題は、ジヨード芳香族化合物と単体硫黄とを溶融重合させる方法によりポリアリーレンスルフィド樹脂を含有する樹脂組成物に関して、加熱による発生ガス量を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは種々の検討を行った結果、ジヨード芳香族化合物と単体硫黄と溶融重合させるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、特定の官能基を有する重合禁止剤を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分(以下、単に「前記他の成分」ということがある。)と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。前記ポリアリーレンスルフィド樹脂はジヨード芳香族化合物と、単体硫黄と、重合禁止剤とを、前記ジヨード芳香族化合物、前記単体硫黄及び前記重合禁止剤を含む溶融混合物中で反応させることを含む方法により得ることのできるものであり、且つ、前記重合禁止剤に由来するヒドロキシ基及び/又はアミノ基を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジヨード芳香族化合物と単体硫黄とを溶融重合させる方法により得られるポリアリーレンスルフィド樹脂を含有する樹脂組成物に関して、成形等のための加熱による発生ガス量を抑制することができる。
【0013】
本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、塩素原子を実質的に含まず、ハロゲン原子の濃度が十分に低減されたものとなり得る。更に、本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と無機質充填剤、熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂から選ばれる他の成分との組み合わせに基づいて、機械特性、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱水性、キャビティーバランスの点でも優れた特性を発現することができる。キャビティーバランスは、複数のキャビティーを有する金型を用いた射出成形により、同時に複数の成形品を成形したときの、各キャビティーの充填度の均一性に関連する。成形材料のキャビティーバランスが十分でないと、一部のキャビティーが十分に充填されないといった成形不良が発生し易くなる傾向がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂等のポリアリーレンスルフィド樹脂を含有する。このポリアリーレンスルフィド樹脂は、ジヨード芳香族化合物と、単体硫黄と、重合禁止剤とを含む溶融混合物中で、ジヨード芳香族化合物、単体硫黄及び重合禁止剤を反応させることを含む方法により得られる。
【0016】
ジヨード芳香族化合物は、芳香族環と、芳香族環に直接結合した2個のヨウ素原子とを有する。ジヨード芳香族化合物としては、ジヨードベンゼン、ジヨードトルエン、ジヨードキシレン、ジヨードナフタレン、ジヨードビフェニル、ジヨードベンゾフェノン、ジヨードジフェニルエーテル及びジヨードジフェニルスルフォン等が挙げられるが、これらに限定されない。2つのヨウ素原子の置換位置は特に限定されないが、好ましくは2つの置換位置が分子内で出来る限り遠い位置にあることが望ましい。好ましい置換位置は、パラ位、及び4,4’−位である。
【0017】
ジヨード芳香族化合物の芳香族環は、フェニル基、ヨウ素原子以外のハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、アミノ基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、カルボキシ基、カルボキシレート、アリールスルホンおよびアリールケトンから選ばれる少なくとも1種の置換基によって置換されていてもよい。ただし、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化度及び耐熱性等の観点から、未置換のジヨード芳香族化合物に対する置換されたジヨード芳香族化合物の割合は、好ましくは0.0001〜5質量%の範囲であり、より好ましくは0.001〜1質量%の範囲である。
【0018】
単体硫黄は、硫黄原子のみによって構成される物質(S、S、S、S等)を意味し、その形態は限定されない。具体的には、局法医薬品として市販されている単体硫黄を用いてもよいし、汎用的に入手することができる、S及びS等を含む混合物を用いてもよい。単体硫黄の純度も特に限定されない。単体硫黄は、室温(23℃)で固体であれば、粒形状又は粉末状であってもよい。単体硫黄の粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.001〜10mmの範囲であり、より好ましくは0.01〜5mmの範囲であり、更に好ましくは0.01〜3mmの範囲である。
【0019】
重合禁止剤は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応において当該重合反応を禁止又は停止する化合物であって、ポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖の末端にヒドロキシ基及び/又はアミノ基を導入し得る化合物を少なくとも1種含む。必要により、重合禁止剤として、これら官能基を有しない化合物等を併用してもよい。重合禁止剤がヒドロキシ基及び/又はアミノ基を有していてもよいし、重合の停止反応等によってヒドロキシ基又はアミノ基を生成してもよい。例えば、下記式(I)又は(II)で表される化合物が重合禁止剤として用いられ得る。式(I)中、Xはヒドロキシ基又はアミノ基を表す。
【0020】
【化1】
【0021】
式(I)で表される化合物としては、例えば、2−ヨードフェノール、2−ヨードアニリンなどが挙げられる。式(II)で表される化合物としては、2−ヨードベンゾフェノンが挙げられる。
【0022】
式(I)で表される化合物によれば、下記式(I−1)で表される一価の基が主鎖の末端基として導入される。式(I−1)中のXは、重合禁止剤に由来するヒドロキシ基又はアミノ基である。
【0023】
【化2】
【0024】
式(II)で表される化合物によれば、下記式(II−1)で表される一価の基が主鎖の末端基として導入される。式(II)で表される化合物に由来するヒドロキシ基が、例えば、式(II)中のカルボニル基の炭素原子が硫黄ラジカルと結合することによりポリアリーレンスルフィド樹脂中に導入され得る。
【0025】
【化3】
【0026】
式(I−1)又は(II−1)で表される基は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖中に原料(単体硫黄)に由来して存在するジスルフィド結合が溶融温度下でラジカル開裂して発生した硫黄ラジカルと、式(I)で表される化合物又は式(II)で表される化合物とが結合することによって、ポリアリーレンスルフィド樹脂中に導入されると考えられる。これら特定構造の構成単位の存在は、本実施形態に係る溶融重合により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂に特徴的である。
【0027】
本実施形態のポリアリーレンスルフィド樹脂は、ジヨード芳香族化合物と、単体硫黄と、重合禁止剤と、必要に応じて触媒と含む混合物を加熱して得られる溶融混合物中で溶融重合を行うことによって生成する。溶融混合物中のジヨード芳香族化合物の割合は、単体硫黄1モルに対して、好ましくは0.5〜2モルの範囲であり、より好ましくは0.8〜1.2モルの範囲である。また、混合物中の重合禁止剤の割合は、固体硫黄1モルに対して、好ましくは0.0001〜0.1モルの範囲であり、より好ましくは0.0005〜0.05の範囲である。
【0028】
重合禁止剤を添加する時期は、特に制限されないが、ジヨード芳香族化合物、単体硫黄及び必要に応じて添加される触媒を含む混合物を加熱して、混合物の温度が好ましくは200℃〜320℃の範囲、より好ましくは250〜320℃の範囲となった時点で重合禁止剤を添加することができる。
【0029】
溶融混合物にニトロ化合物を触媒として添加して、重合速度を調節することができる。このニトロ化合物としては、通常、各種ニトロベンゼン誘導体を用いることができる。ニトロベンゼン誘導体としては、例えば1,3−ジヨード−4−ニトロベンゼン、1−ヨード−4−ニトロベンゼン、2,6−ジヨード−4−ニトロフェノール及び2,6−ジヨード−4−ニトロアミンが挙げられる。触媒の量は、通常、触媒として添加される量であればよく、例えば単体硫黄100質量部に対して0.01〜20質量部の範囲であることが好ましい。
【0030】
溶融重合の条件は、重合反応が適切に進行するように、適宜調整される。溶融重合の温度は、好ましくは、175℃以上、生成するポリアリーレンスルフィド樹脂の融点+100℃以下の範囲、より好ましくは180〜350℃の範囲である。溶融重合は、絶対圧が好ましくは1[cPa]〜100[kPa]の範囲、より好ましくは13[cPa]〜60[kPa]の範囲で行われる。溶融重合の条件は、一定である必要は無い。例えば、重合初期は温度を好ましくは175〜270℃の範囲、より好ましくは180〜250℃の範囲とし、かつ、絶対圧を6.7〜100[kPa]の範囲とし、その後、連続的に又は階段状に昇温及び減圧させながら重合を行い、重合後期は、温度を好ましくは270℃以上、かつ生成するポリアリーレンスルフィド樹脂の融点+100℃以下の範囲、より好ましくは300〜350℃の範囲とし、かつ、絶対圧を1[cPa]〜6[kPa]の範囲として重合を行うことができる。本明細書において、樹脂の融点は、示差走査熱量計(パーキンエルマー製DSC装置 Pyris Diamond)を用いてJIS K 7121に準拠して測定される値を意味する。
【0031】
溶融重合は、酸化架橋反応を防ぎつつ、高い重合度を得る観点から、好ましくは、非酸化性雰囲気下で行う。非酸化性雰囲気において、気相の酸素濃度が好ましくは5体積%未満、より好ましくは2体積%未満であり、更に好ましくは気相が酸素を実質的に含有しない。非酸化性雰囲気は、好ましくは、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
【0032】
溶融重合は、例えば、加熱装置、減圧装置及び撹拌装置を備える溶融混練機を用いて行うことができる。溶融混錬機としては、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、連続混練機、単軸押出機、及び二軸押出機が挙げられる。
【0033】
溶融重合のための溶融混合物は、溶媒を実質的に含有しないことが好ましい。より具体的には、溶融混合物に含まれる溶媒の量が、ジヨード芳香族化合物と、単体硫黄と、重合禁止剤と、必要に応じて触媒との合計100質量部に対して、好ましくは10質量部以下の範囲、より好ましくは5質量部以下の範囲、さらに好ましくは1質量部以下の範囲である。溶媒の量は、0質量部以上の範囲、0.01質量部以上の範囲、又は0.1質量部以上の範囲であってもよい。
【0034】
溶融重合後の溶融混合物(反応生成物)を冷却して固体状態の混合物を得た後、減圧下、又は非酸化性雰囲気の大気圧下で、混合物を加熱して重合反応を更に進行させてもよい。これによりさらに分子量を増大させることができるだけでなく、生成したヨウ素分子が昇華されて除去されるため、ポリアリーレンスルフィド樹脂中のヨウ素原子濃度を低く抑えることができる。好ましくは100〜260℃の範囲、より好ましくは130〜250℃の範囲、更に好ましくは150〜230℃の範囲の温度まで冷却することで、固体状態の混合物を得ることができる。固体状態への冷却後の加熱は、溶融重合と同様の温度及び圧力条件下で行うことができる。
【0035】
溶融重合工程により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応生成物は、そのまま直接、溶融混練機に投入する等の方法により樹脂組成物を製造することもできるが、当該反応生成物に当該反応生成物が溶解する溶媒を加えて溶解物を調製し、当該溶解物の状態で反応装置から反応生成物を取り出すことが、生産性に優れるだけでなく、さらに反応性も良好となるため好ましい。当該反応生成物が溶解する溶媒の添加は、溶融重合後に行うことが好ましいが、溶融重合の反応後期に行ってもよく、また、上記のとおり溶融混合物(反応生成物)を冷却して固体状態の混合物を得た後、加圧下、減圧下、又は非酸化性雰囲気の大気圧下で、混合物を加熱して重合反応を更に進行させた後であってもよい。当該溶解物を調製する工程は、非酸化性雰囲気下で行ってもよい。また、加熱溶解の温度としては、前記反応生成物が溶解する溶媒の融点以上の範囲であればよく、好ましくは200〜350℃の範囲、より好ましくは210〜250℃の範囲であり、加圧下で行うことが好ましい。
【0036】
前記溶解物を調製するために用いる、前記反応生成物が溶解する溶媒の配合割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応生成物100質量部に対して、好ましくは90〜1000質量部、より好ましくは200〜400質量部の範囲である。
【0037】
反応生成物が溶解する溶媒としては、例えば、フィリップス法等の溶液重合において重合反応溶媒として用いられる溶媒を用いることができる。好ましい溶媒の例としては、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸、ε−カプロラクタム、N−メチル−ε−カプロラクタム等の脂肪族環状アミド化合物、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、テトラメチル尿素(TMU)、ジメチルホルムアミド(DMF)、及びジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド化合物、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル(重合度は2000以下で、炭素数1〜20のアルキル基を有するもの)等のエーテル化ポリエチレングリコール化合物、並びに、テトラメチレンスルホキシド、及びジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド化合物が挙げられる。その他の使用可能な溶媒の例として、ベンゾフェノン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、4,4’−ジブロモビフェニル、1−フェニルナフタレン、2,5−ジフェニル−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジフェニルオキサゾール、トリフェニルメタノール、N,N−ジフェニルホルムアミド、ベンジル、アントラセン、4−ベンゾイルビフェニル、ジベンゾイルメタン、2−ビフェニルカルボン酸、ジベンゾチオフェン、ペンタクロロフエノール、1−ベンジル−2−ピロリジオン、9−フルオレノン、2−ベンゾイルナフタレン、1−ブロモナフタレン、1,3−ジフェノキシベンゼン、フルオレン、1−フェニル−2−ピロリジノン、1−メトキシナフタレン、1−エトキシナフタレン、1,3−ジフェニルアセトン、1,4−ジベンゾイルプタン、フェナントレン、4−ベンゾイルビフェニル、1,1−ジフェニルアセトン、o,o’−ビフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、トリフェニレン、2−フェニルフェノール、チアントレン、3−フェノキシベンジルアルコール、4−フェニルフェノール、9,10−ジクロロアントラセン、トリフェニルメタン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、9,10−ジフェニルアントラセン、フルオランテン、ジフェニルフタレート、ジフェニルカルボネート、2,6−ジメトキシナフタレン、2,7−ジメトキシナフタレン、4−ブロモジフェニルエーテル、ピレン、9,9’−ビ−フルオレン、4,4’−イソプロピルリデン−ジフェノール、イプシロン−カプロラクタム、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ジフェニルイソフタレート及びジフェニルーターフタレート及び1−クロロナフタレンからなる群から選ばれる1種以上の溶媒が挙げられる。
【0038】
反応装置から取り出された当該溶解物は、後処理を行った後、前記他の成分と溶融混練して樹脂組成物を調製することが、反応性がより良好となるため好ましい。溶解物の後処理の方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)当該溶解物を、そのまま、又は酸若しくは塩基を加えた後、減圧下又は常圧化で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、当該溶解物に用いた溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、及びアルコール類などから選ばれる溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法。
(2)当該溶解物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール、エーテル、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、及び脂肪族炭化水素などの溶媒(当該溶解物の溶媒に可溶であり、且つ少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び無機塩等を含む固体状生成物を沈降させ、固体状生成物を濾別、洗浄及び乾燥する方法。
(3)当該溶解物に、当該溶解物に用いた溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、及びアルコールなどから選ばれる溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法。
【0039】
なお、上記(1)〜(3)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中又は窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。酸素濃度が5〜30体積%の範囲の酸化性雰囲気中又は減圧条件下で熱処理を行い、ポリアリーレンスルフィド樹脂を酸化架橋させることもできる。
【0040】
溶融重合により得られるポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応生成物は、原料に由来するヨウ素原子を含有する。そのため、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、通常、ヨウ素原子を含む混合物の状態で、樹脂組成物の調製などのために用いられる。該混合物におけるヨウ素原子の濃度は、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂に対して0.01〜10000ppmの範囲であり、好ましくは10〜5000ppmの範囲である。ヨウ素分子の昇華性を利用して、ヨウ素原子濃度を低く抑えることも可能であり、その場合には、900ppm以下の範囲、好ましくは100ppm以下の範囲、さらには10ppm以下の範囲とすることも可能である。さらにヨウ素原子を検出限界以下に除去することも可能ではあるものの、生産性を考えると実用的ではない。検出限界は、例えば0.01ppm程度である。溶融重合により得られる本実施形態のポリアリーレンスルフィド樹脂又はこれを含む反応生成物は、ヨウ素原子を含んでいる点で、例えば、フィリップス法などのジクロロ芳香族化合物の有機極性溶媒中での溶液重合法により得られたポリアリーレンスルフィドと明確に区別され得る。
【0041】
一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂としてのポリフェニレンスルフィド樹脂は、例えば、下記一般式(10):
【0042】
【化4】

で表される繰り返し単位(アリーレンスルフィド単位)を含む主鎖を有する。式(10)で表される繰り返し単位は、パラ位で結合する下記式(10a):
【0043】
【化5】

で表される繰り返し単位、及び、メタ位で結合する下記式(10b):
【0044】
【化6】

で表される繰り返し単位であることがより好ましい。これらの中でも、式(10a)で表されるパラ位で結合した繰り返し単位が、樹脂の耐熱性及び結晶性の面で好ましい。
【0045】
一実施形態に係るポリフェニレンスルフィド樹脂は、下記一般式(11):
【0046】
【化7】

(式中、R20及びR21は、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、又はエトキシ基を表す。)
で表される、芳香族環に結合した側鎖としての置換基を有する繰り返し単位を含み得る。ただし、結晶化度及び耐熱性の低下の観点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、一般式(11)の繰り返し単位を実質的に含まないことが好ましい。より具体的には、式(11)で表される繰り返し単位の割合は、式(10)で表される繰り返し単位と式(11)で表される繰り返し単位との合計に対して、好ましくは2質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下である。
【0047】
本実施形態のポリアリーレンスルフィド樹脂は、上記アリーレンスルフィド単位から主として構成されるが、通常、原料の単体硫黄に由来する、下記式(20):
【0048】
【化8】

で表されるジスルフィド結合に係る構成単位も主鎖中に含む。耐熱性、機械的強度の点から、式(20)で表される構成単位の割合は、アリーレンスルフィド単位と、式(20)で表される構成部位との合計に対して、好ましくは2.9質量%以下の範囲、より好ましくは1.2質量%以下の範囲である。
【0049】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂の融点は、好ましくは250〜300℃の範囲、より好ましくは265〜300℃の範囲である。ポリアリーレンスルフィド樹脂の300℃における溶融粘度(V6)は、好ましくは1〜2000[Pa・s]の範囲、より好ましくは5〜1700[Pa・s]の範囲である。ここで、溶融粘度(V6)は、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との比(オリフィス長/オリフィス径)が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の溶融粘度を意味する。
【0050】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、1種又は2種以上の無機質充填剤を含有することができる。無機充填剤が配合されることにより、高剛性、高耐熱安定性の組成物が得られる。無機充填剤としては、例えばカーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ及び酸化チタン等の粉末状充填剤、タルク及びマイカ等の板状充填剤、ガラスビーズ、シリカビーズ及びガラスバルーン等の粒状充填剤、ガラス繊維、炭素繊維及びウォラストナイト繊維等の繊維状充填剤、並びにガラスフレークが挙げられる。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンブラック、及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機質充填剤を含有することが特に好ましい。
【0051】
無機充填剤の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは5〜200質量部の範囲、更に好ましくは15〜150質量部の範囲である。無機質充填剤の含有量がこれらの範囲にあることにより、成形品の機械的強度保持の点でより優れた効果が得られる。
【0052】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、エラストマー、及び架橋性樹脂から選ばれる、ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の樹脂を含有することができる。これら樹脂は、無機質充填剤とともに樹脂組成物中に配合することもできる。
【0053】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、シリコーン樹脂、及び液晶ポリマー(液晶ポリエステル等)が挙げられる。
【0054】
ポリアミドは、アミド結合(−NHCO−)を有するポリマーである。ポリアミド樹脂としては、例えば、(i)ジアミンとジカルボン酸の重縮合から得られるポリマー、(ii)アミノカルボン酸の重縮合から得られるポリマー、及び(iii)ラクタムの開環重合から得られるポリマー等が挙げられる。ポリアミドは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
ポリアミドを得るためのジアミンの例としては、脂肪族系ジアミン、芳香族系ジアミン、及び脂環族系ジアミン類が挙げられる。脂肪族系ジアミンとしては、直鎖状又は側鎖を有する炭素数3〜18のジアミンが好ましい。好適な脂肪族系ジアミンの例としては、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカンメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,14−テトラデカメチレンジアミン、1,15−ペンタデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、1,17−ヘプタデカメチレンジアミン、1,18−オクタデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、及び2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
芳香族系ジアミンとしては、フェニレン基を有する炭素数6〜27のジアミンが好ましい。好適な芳香族系ジアミンの例としては、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジ(m−アミノフェノキシ)ジフェニルスルフォン、4,4'−ジ(p−アミノフェノキシ)ジフェニルスルフォン、ベンジジン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジエチル−5,5'−ジメチルジフェニルメタン、4,4'−ジアミノ−3,3',5,5'−テトラメチルジフェニルメタン、2,4−ジアミノトルエン、及び2,2'−ジメチルベンジジンが挙げられる。
これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
脂環族系ジアミンとしては、シクロヘキシレン基を有する炭素数4〜15のジアミンが好ましい。好適な脂環族系ジアミンの例としては、4,4'−ジアミノ−ジシクロヘキシレンメタン、4,4'−ジアミノ−ジシクロヘキシレンプロパン、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジメチル−ジシクロヘキシレンメタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、及びピペラジンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
ポリアミドを得るためのジカルボン酸としては、脂肪族系ジカルボン酸、芳香族系ジカルボン酸、及び脂環族系ジカルボン酸を挙げることができる。
【0059】
脂肪族系ジカルボン酸としては、炭素数2〜18の飽和又は不飽和のジカルボン酸が好ましい。好適な脂肪族系ジカルボン酸の例としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、プラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸、マレイン酸、及びフマル酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
芳香族系ジカルボン酸としては、フェニレン基を有する炭素数8〜15のジカルボン酸が好ましい。好適な芳香族系ジカルボン酸の例としては、イソフタル酸、テレフタル酸、メチルテレフタル酸、ビフェニル−2,2'−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4,4'−ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、及び1,4−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、トリメリット酸、トリメシン酸、及びピロメリット酸等の多価カルボン酸を、溶融成形可能な範囲内で用いることもできる。
【0061】
アミノカルボン酸としては、炭素原子数4〜18のアミノカルボン酸が好ましい。好適なアミノカルボン酸の例としては、4−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、14−アミノテトラデカン酸、16−アミノヘキサデカン酸、及び18−アミノオクタデカン酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
ポリアミドを得るためのラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ζ−エナントラクタム、及びη−カプリルラクタムが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
好ましいポリアミドの原料の組み合わせとしては、ε−カプロラクタム(ナイロン6)、1,6−ヘキサメチレンジアミン/アジピン酸(ナイロン6,6)、1,4−テトラメチレンジアミン/アジピン酸(ナイロン4,6)、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、1,9−ノナメチレンジアミン/1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸、及びm−キシリレンジアミン/アジピン酸が挙げられる。これらの中でも、1,4−テトラメチレンジアミン/アジピン酸(ナイロン4,6)、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、又は1,9−ノナメチレンジアミン/1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸から得られるリアミド樹脂が更に好ましい。
【0064】
熱可塑性樹脂の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは3〜100質量部の範囲、更に好ましくは5〜45質量部の範囲である。ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量がこれらの範囲にあることにより、耐熱性、耐薬品性及び機械的物性の更なる向上という効果が得られる。
【0065】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合されるエラストマーとしては、熱可塑性エラストマーが用いられることが多い。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマー及びシリコーン系エラストマーが挙げられる。なお、本明細書において、熱可塑性エラストマーは、前記熱可塑性樹脂ではなくエラストマーに分類される。
【0066】
エラストマー(特に熱可塑性エラストマー)は、ヒドロキシ基又はアミノ基と反応し得る官能基を有することが好ましい。これにより、接着性及び耐衝撃性等の点で特に優れた樹脂組成物を得ることができる。係る官能基としては、エポキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、オキサゾリン基、及び、式:R(CO)O(CO)−又はR(CO)O−(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。)で表される基が挙げられる。係る官能基を有する熱可塑性エラストマーは、例えば、α−オレフィンと前記官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得ることができる。α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン及びブテン−1等の炭素原子数2〜8のα−オレフィン類が挙げられる。前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル等のα、β−不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその他の炭素原子数4〜10のα、β−不飽和ジカルボン酸及びその誘導体(モノ若しくはジエステル、及びその酸無水物等)、並びにグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ基、カルボキシ基、及び、式:R(CO)O(CO)−又はR(CO)O−(式中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するエチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−ブテン共重合体が、靭性及び耐衝撃性の向上の点から好ましい。
【0067】
エラストマーの含有量は、その種類、用途により異なるため一概に規定することはできないが、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは3〜100質量部の範囲、更に好ましくは5〜45質量部の範囲である。エラストマーの含有量がこれらの範囲にあることにより、成形品の耐熱性、靭性の確保の点でより一層優れた効果が得られる。
【0068】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合される架橋性樹脂は、2以上の架橋性官能基を有する。架橋性官能基としては、エポキシ基、フェノール性水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、酸無水物基、及びイソシアネート基などが挙げられる。架橋性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びウレタン樹脂が挙げられる。
【0069】
エポキシ樹脂としては、芳香族系エポキシ樹脂が好ましい。芳香族系エポキシ樹脂は、ハロゲン基又は水酸基等を有していてもよい。好適な芳香族系エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、及びビフェニルノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの芳香族系エポキシ樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これら芳香族系エポキシ樹脂の中でも特に、他の樹脂成分との相溶性に優れる点から、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0070】
架橋性樹脂の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは3〜100質量部の範囲、更に好ましくは5〜30質量部の範囲である。架橋性樹脂の含有量がこれら範囲にあることにより、成形品の剛性及び耐熱性の向上という効果が特に顕著に得られる。
【0071】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ヒドロキシ基又はアミノ基と反応し得る官能基を有するシラン化合物を含有することができる。係るシラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及びγ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
【0072】
シラン化合物の含有量は、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。シラン化合物の含有量がこれらの範囲にあることにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂と前記他の成分との相溶性向上という効果が得られる。
【0073】
本実勢形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤及び滑剤等のその他の添加剤を含有してもよい。添加剤の含有量は、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、1〜10質量部の範囲であることが好ましい。
【0074】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上記方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂と、前記他の成分とを溶融混練する方法により、例えば、ペレット状のコンパウンド等の形態で得ることができる。溶融混錬の温度は、例えば、250〜350℃の範囲であることが好ましく、さらに290〜330℃の範囲であることがより好ましい。溶融混錬は、2軸押出機等を用いて行うことができる。
【0075】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、単独で又は前記他の成分などの材料と組み合わせて、射出成形、押出成形、圧縮成形及びブロー成形のような各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形品に加工することができる。本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、加熱されたときのガス発生量が少ないことから、高品質の成形品の容易な製造を可能にする。
【0076】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂が本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、OA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等を例えば射出成形、圧縮成形により得るために用いることができる。また、本実勢形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、コンポジット、シート及びパイプ等のための押出成形及び引抜成形等の各種成形加工用の材料、並びに、繊維又はフィルム用の材料として幅広く有用である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0078】
1.評価法
1−1.PPS樹脂の溶融粘度
PPS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT−500Cを用い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10/1にて、6分間保持した後に溶融粘度を測定した。
【0079】
1−2.PPS樹脂の融点
パーキンエルマー製DSCを用いて、PPS樹脂のサンプルを50℃から350℃まで20℃/分で昇温し、ポリマーが融解したときの吸熱ピークのピーク温度を融点とした。
【0080】
1−3.PPS樹脂中のヨウ素含有量
ダイアンインスツルメンツ燃焼ガス吸収装置を用い、PPS樹脂を燃焼させ、発生したガス及び残渣を純水に吸収させた。吸収液中のヨウ素イオンをダイオネクスイオンクロマトグラフで定量した。
【0081】
1−4.PPS樹脂中のジスルフィド結合の割合
理学電気工業株式会社製、蛍光X線分析装置ZSX100eを用いて、イオウ原子総量(イオウ総量)を測定し、下記式に基づき、PPS樹脂中のジスルフィド結合の割合を求めた。
【0082】
【数1】
【0083】
1−5.曲げ特性
・準拠試験方法・・・ASTM D−790
・試験片・・・3.2mm(厚)×12.7mm(幅)×127mm(長)
・試験結果・・・試験数n=10の平均値
【0084】
1−6.シャルピー衝撃強さ
・準拠試験方法・・・ISO 179−1(ノッチ無/ノッチ有)
・試験片・・・4.0mm(厚)×10.0mm(幅)×100mm(長)
・試験結果・・・試験数n=10の平均値
【0085】
1−7.耐酸性試験/耐アルカリ性試験
所定の曲げ歪みとなるように試験片に曲げ応力を負荷した状態で、試験片を試験溶液に浸漬し、試験片が破断するまでの時間を調べた。試験片中央部には切削ノッチを設けた。
・耐酸性試験溶液・・・サンポール原液(商品名、塩酸及び界面活性剤を含有する界面活性剤、大日本除虫菊製)
・耐アルカリ性試験溶液・・・ドメスト原液(商品名、次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び界面活性剤を含有するアルカリ性洗剤、日本リーバ製)
・試験片・・・1.6mm(厚)×12.7mm(幅)×127mm(長)
・曲げ歪み・・・1.2%(ASTM D−790に定める曲げ特性試験方法での曲げ応力を試験片に負荷した状態。)
・評価項目 ・・・試験片が破断するまでの時間
・試験結果 ・・・試験数n=5の平均値
【0086】
1−8.耐熱水性試験
試験片を95℃の熱水に浸漬し、曲げ強さの経時変化を調べた。
・試験片・・・3.2mm(厚)×12.7mm(幅)×127mm(長)
・曲げ強さの試験方法・・・ASTM D−790
・評価項目・・・1000時間、3000時間後の曲げ強さの初期強さに対する保持率
・試験結果・・・試験数n=5の平均値
【0087】
1−9.キャビティーバランス
40個分のキャビティーを有するワッシャー金型を用いて、一次スプルーに最も近い位置のキャビティー(C1)が完全に充填される限りで最低の成形条件でPPSコンパウンドを射出成形した。成形条件は75トン成形機、シリンダー温度320℃、金型温度140℃、保圧無しとした。
成型後の、キャビティー(C1)と同じランナーにある一次スプルーから最も遠いキャビティー(C10)の充填度を比較した。充填度(質量%)は、キャビティー(C1)の成形品に対する、キャビティー(C10)の成形品の質量比から求めた。キャビティー(C10)の充填度が高いほど、キャビティーバランスが優れていると言える。充填度に基づいて、各組成物のキャビティーバランスを以下の基準で判定した。
AA:100〜90質量%の範囲
A:89〜80質量%の範囲
B:79〜70質量%の範囲
C:69〜60質量%の範囲
D:59%質量以下の範囲
【0088】
1−10.発生ガス量
ガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて、ポリアリーレンスルフィド樹脂又は樹脂組成物の所定量のサンプルを325℃で15分間加熱し、そのときの発生ガス量を質量%として定量した。
【0089】
2.ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)の合成(表1)
(合成例1)
p−ジヨードベンゼン(東京化成株式会社、p−ジヨードベンゼン純度98.0%以上)300.0g、固体硫黄(関東化学株式会社製、硫黄(粉末))27.00g、2−ヨードアニリン(東京化成株式会社製)2.0gを180℃に窒素雰囲気下で加熱し、これらを溶解及び混合した。次に220℃に昇温し、絶対圧26.6kPaまで減圧した。系内が320℃で絶対圧133Paとなるように、段階的に温度と圧力変化させて、得られた溶融混合物を加熱しながら、8時間、溶融重合を行った。反応終了後、NMP200gを加えて、220℃で加熱撹拌し、得られた溶解物をろ過した。ろ過後の溶解物にNMP320gを加え、ケーキ洗浄ろ過を行った。得られたNMPを含むケーキにイオン交換水1Lを加え、オートクレーブ中で200℃10分間攪拌した。次いでケーキをろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水1Lを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキにイオン交換水1Lを加えて10分間攪拌した。次いでケーキをろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水1Lを加えケーキ洗浄を行った。この操作をもう一度繰り返した後、ケーキを120℃で4時間乾燥し、PPS樹脂91gを得た。得られたPPS樹脂のヨウ素含有量は200ppmであり、ジスルフィド結合の割合は0.2質量%であった。
【0090】
(合成例2)
前記「2−ヨードアニリン」の替りに「ジフェニルジスルフィド(住友精化株式会社 DPDS)」を用いたこと以外は合成例1と同様にしてPPS樹脂91gを得た。
【0091】
(合成例3)
オートクレーブにN−メチルピロリドン(以下NMPと略称する)600g,硫化ナトリウム5水塩336.3g(2.0mol)を仕込み、窒素雰囲気下、200℃まで昇温することにより水−NMP混合物を留去した。ついでこの系にp−ジクロロベンゼン292.53gと2,5−ジクロロアニリンを1.62gをNMP230gに溶かした溶液を添加し、220℃で5時間さらに240℃で2時間窒素雰囲気下で反応させた。反応容器を冷却後内容物を取り出し、一部をサンプリングし、未反応2,5−ジクロロアニリンをガスクロマトグラフで定量した。また残りのスラリは熱水で数回洗浄し、ポリマーケーキを濾別した。このケーキを80℃減圧乾燥し、粉末状のPPS樹脂を得た。赤外吸収スペクトルを測定したところ、3380cm−1付近にアミノ基に由来すると見られる吸収スペクトルが観測された。
【0092】
【表1】
【0093】
3.ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(PPSコンパウンド)
3−1.原料
PPS樹脂組成物を調製するため、以下の材料を準備した。
(熱可塑性エラストマー)
・ELA:エチレン/グリシジルメタクリル酸(3質量%)/アクリル酸メチル(27質量%)の共重合体(住友化学工業社製、「ボンドファースト7L」)
(熱可塑性樹脂)
・PA6T:テレフタル酸65モル%、イソフタル酸25モル%、アジピン酸10モル%を必須の単量体成分として反応させて得られた芳香族ポリアミド(融点310℃、Tg120℃)
・PA9T:ノナンジアミンとテレフタル酸とを反応させて得られたポリアミド(株式会社クラレ製、「ジェネスタ N1000A」)
・PA46:ポリアミド46(ディーエスエム ジャパン エンジニアリング プラスチックス株式会社製、「スタニール TS300」)
・PPE:ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル(固有粘度0.45dl/g(30℃、クロロホルム中))
・PES:芳香族ポリサルホン樹脂(住友化学工業(株)製、品名:スミカエクセルPES4100P)
【0094】
・PAR:以下の方法により合成した芳香族ポリエステル
撹拌翼、窒素導入口を備えた重合装置に3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビフェニル−4、4’−ジオール2.42Kg(10.0モル)とメタクレゾール50gを、水酸化ナトリウム1.0Kgを含む30Lの脱酸素水に溶解し水溶液を得た。別に、64gのテトラブチルアンモニウムブロマイド、イソフタル酸クロリド1.62Kg(8.0モル)、テレフタル酸クロリド0.41Kg(2.0モル)を5Lのジクロロメタンに溶解させ有機溶液を得た。水溶液を窒素気流下で撹拌しながら有機溶液を加え、25℃で30分間撹拌を続けた後、水溶液相を除去した。生成物を含む有機溶液相を蒸留水で繰り返し洗浄した後に、アセトン浴に注ぎ沈殿を得、更にアセトンで洗浄して芳香族ポリエステルを得た。その後、真空乾燥機にて200℃で3時間、約10Paの減圧条件下で真空乾燥して3.2kgの芳香族ポリエステルを得た。
【0095】
・LCP:以下の方法により合成したサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂
ハイドロキノン55.1g(0.5モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル93.1g(0.5モル)、テレフタル酸116.3g(0.7モル)、2,6−ジカルボキシナフタレン64.9g(0.3モル)、p−ヒドロキシ安息香酸621.5g(4.5モル)、無水酢酸612.5g(6モル)を冷却器及び撹拌機を備えた反応容器中に仕込み窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら昇温し、170℃で60分環流した。次いで、副生成物の酢酸を除去しながら4時間かけて反応容器を370℃に徐々に上昇させ、更に、370℃で反応系を25kPaに減圧した。更にその温度で副生成物の酢酸を除去しながら圧力を2時間にわたって0.5〜1kPaまで減圧し重合を行った。次いで、370℃で1時間重合を行った。この間に副生する酢酸を除去しながら、強力な撹拌下で重合を行い、その後、系を徐々に冷却し、200℃で得られた液晶ポリエステル樹脂を系外へ取出した。
【0096】
(シランカップリング剤)
・エポキシシラン:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(無機質充填剤)
・GF:ガラス繊維チョップドストランド(繊維径10μm、長さ3mm)
・CF:ピッチ系炭素繊維、引張弾性率560GPa
・カーボンブラック:黒鉛化カーボンブラック
・CaCO(炭酸カルシウム):丸尾カルシウム株式会社製、「カルテックス5」(粉末状、平均粒径1.2μm)
【0097】
3−2.コンパウンドの作製と評価
表2〜4に示す配合組成で各原料をタンブラーを用いて均一に混合した後、2軸混練押出機(TEM−35B、東芝機械)を用いて300℃で溶融混練して、ペレット状のコンパウンドを得た。得られたコンパウンドをシリンダー温度300℃、金型温度140℃の条件で射出成形し、曲げ特性、アイゾット衝撃強さ、耐酸性試験、耐アルカリ性試験又は耐熱水性試験に用いる試験片を作成し、各種評価を行った。また、PPS樹脂単体、及びコンパウンドについて、発生ガス量を測定した。評価結果を各表に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
各表に示される結果から明らかなように、合成例1のPPS樹脂は、無機質充填剤、各種の樹脂と配合して得た樹脂組成物の発生ガス量が、無置換の重合禁止剤を用いて得たPSS樹脂の合成例2と比較して顕著に低減することが確認された。更に、合成例1のPPS樹脂を用いて得た樹脂組成物は、機械特性(曲げ、衝撃)、耐酸性、耐アルカリ性、耐熱水性、キャビティーバランスの点でも優れていた。