【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
一次ウイルス接種区の被験トマトとして、トマト苗(品種:大安吉日、ナント種苗)に一次ウイルスとしてTYLCVを感染させ植物体全身に感染した。TYLCVを感染させた被験トマトをアクリルケージに設置した。一次ウイルスとしてのTYLCVとしては、国際公開第2012/105696号に記載される17G株を用いた。
17G株の全長DNA配列をアグロバクテリウム用バイナリーベクターpCAMBIA2300(CAMBIA社)に挿入し、プラスミド(pCAM17G1)として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに平成22年11月2日に受領され、受領番号FERM−AP22037が付与され、2010年12月3日に受託番号FERM P−22037が付与されている。該プラスミドは、植物体にアグロインフィルタレーション法で感染させ、ウイルスが発現し、非虫媒性が保たれていることを確認している。また、該プラスミド及び17G株は、本出願人によって保存維持されており、日本国特許法施行規則27条の3の規定に準ずる分譲は本出願人が保証する。
なお、17G株は、国際公開第2012/105696号に記載されるように、配列番号1記載の塩基配列で表されるDNAを有する植物ウイルスであって、媒介虫により伝染されないトマト黄化葉巻ウイルス(非虫媒性TYLCV)の代表株といえる植物ウイルスである。非虫媒性TYLCVは、本発明における一次ウイルスとして好適に用いることができる。
また、TYLCVの非虫媒性として、TYLCVのCP領域に存在する3アミノ酸が虫媒性に関与していると考えられており、CP領域をコードする配列番号2又は配列番号3の塩基配列で表されるDNAを有する、TYLCVが、非虫媒性という性質を有すると考えられる。配列番号4又は配列番号5で示されるアミノ酸配列で示されるペプチドを有するTYLCVも非虫媒性という性質を有するものである。
なお、非虫媒性という性質を有するTYLCVを提供できるのであれば、配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸が欠失、付加、および/または置換されたアミノ酸配列で示されるペプチドを有するTYLCVも一次ウイルスとして用いることができる。さらに、非虫媒性という性質を有するTYLCVを提供できるのであれば、配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列の、例えば、80%、好ましくは85%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%、よりさらに好ましくは98%の相同性を有するアミノ酸配列で示されるペプチドを有するTYLCVも一次ウイルスとして用いることができる。
また、本発明においては、外皮タンパク質(CP)のアミノ酸として、アルギニン(80)、フェニルアラニン(147)、及びアスパラギン(171)を有するTYLCVも非虫媒性のウイルスとして一次ウイルスとして用いることができる。さらに、各3つのアミノ酸が、CP領域における80番目、147番目、171番目に厳密に存在している必要はなく、当業者に公知の手法によりアラインメントした際に、該当するアミノ酸がそれぞれアルギニン、フェニルアラニン、アスパラギンであるアミノ酸配列を有するウイルスも一次ウイルスとして用いることができる。また、アルギニン(80)、フェニルアラニン(147)、及びアスパラギン(171)がそれぞれ、非虫媒性というウイルスにおける機能を保持できるのであれば、構造上類似するアミノ酸に置換されていてもよい。アルギニン(80)、フェニルアラニン(147)、及びアスパラギン(171)は、一文字表記する場合には、R80、F147、N171と表される。本発明においては、外皮タンパク質としての機能を失わない限り、R80、F147、及びN171の3つのアミノ酸を外皮タンパク質内に有するTYLCVが、非虫媒性を示すウイルスであり、一次ウイルスとして用いることができる。本発明において、ウイルスの外皮タンパク質におけるアミノ酸として、アルギニン(80)、フェニルアラニン(147)、及びアスパラギン(171)を有する非虫媒性TYLCVは、虫媒性TYLCVのCPタンパク質におけるQ80R、Y147F、及びK171Nに相当する変異として、R80、F147、及びN171を有しているウイルスであってよく、Q80、Y147、及びK171を厳密に有している虫媒性TYLCV由来でなくても、アラインメントすることにより相当するアミノ酸が、それぞれ、アルギニン、フェニルアラニン、及びアスパラギンを有していればよい。
対照区(一次ウイルス無接種区)の被験トマトには、ウイルスフリーのトマト苗(品種:大安吉日、ナント種苗)を用いた。
次に、チャレンジ接種を行うため、二次ウイルスとしてTYLCVを感染させたトマト苗(品種:大安吉日、ナント種苗)にウイルスフリーのタバココナジラミを5日間放飼し、二次ウイルス保毒虫を得た。二次ウイルスとしてのTYLCVとしては、イスラエルマイルド系統233G株を用いた。
先に準備した被験トマトを設置したアクリルケージに、二次ウイルス保毒虫を被験トマトあたり10頭以上となるように放飼した。チャレンジ接種に用いたタバココナジラミの保毒虫率は100%で、十分にウイルスを保毒していることを確認した。
チャレンジ接種後、被験トマトを隔離網室で生育させた。
二次ウイルスの感染を確認するため、チャレンジ接種後5週目の被験トマトの上葉を採取し、ウイルスDNAを抽出した。ウイルスDNAの抽出方法は次の通りである。
トマト葉を緩衝液(100 mM Tris HCl pH8.0,50mM EDTA,500 mM NaCl,0.001% 2−Mercaptoethanol)で磨砕し、10%SDSを添加して65℃、10分間処理した。次に、5M酢酸カリウムを添加し、遠心分離した。得られた上清をフェノール/クロロホルム(1:1)で処理した後、2−プロパノールで沈殿させ、DNAを濃縮回収した。ウイルスDNAを抽出した後、抽出DNAを鋳型に、二次ウイルス検出プライマーのTYmdv1(5’−ATTGACCAAGATTTTACACTTATCCC−3’:配列番号6)、TYunic1(5’−AAGTGGRTCCCACATATTGCAAGA−3’:配列番号7)及びGoTaq(登録商標) Green Master Mix(Promega社製)を用いてPCRによってウイルスDNAの増幅を試みた。結果を
図1に示す。
対照区(
図1中、一次ウイルス無接種区)における二次ウイルス検出株数は18/20(被検トマト株数)であったのに対し、一次ウイルス接種区では16/18(被検トマト株数)と、二次ウイルスの感染株数に大きな差はなかった。しかしながら、一次ウイルス接種区において、PCRで検出した二次ウイルスの電気泳動のバンドは、対照区のものに比べて明らかに細く薄いものであった。
【0030】
PCR後に電気泳動した増幅産物のバンドの濃さによって、抽出したウイルスDNA量がある程度推定できる。チャレンジ接種後10週目にウイルスDNAを抽出し、PCRで増幅後、その増幅産物を電気泳動の泳動バンドの濃さで比較すると、一次ウイルス接種トマト株における二次ウイルスのバンドは、一次ウイルスを接種しなかった場合と比べて、そのバンドが薄い傾向にあった。PCR陽性だったトマト株のうちバンドが薄い割合は、一次ウイルス接種トマトで87.5%、一次ウイルス無接種トマトでは22.2%であった(表1)。
このことは、一次ウイルスを接種しておくと後から伝染された二次ウイルスの増殖が抑制される可能性を示唆している。
また、チャレンジ接種後5週目と10週目の結果から、一次ウイルスを接種したトマトでは、二次ウイルスの感染を防ぐことはできないが、二次ウイルス感染後のウイルス増殖を抑え続けていることが示唆された。
【0031】
表1.TYLCVにおける二次ウイルスのPCRによるバンドの濃度差(接種10週目)
【0032】
【表1】
【0033】
二次ウイルス接種後12週目に、PCR後の電気泳動バンドの濃いトマト株、薄いトマト株に分け、これらのトマト株を伝染源としてタバココナジラミに十分保毒させ、ウイルスフリーのトマトに二次伝染させた。具体的には、次のような手順で実験を行った。
伝染源のトマト株を個別に1株ずつケージセットし、ウイルスフリーのタバココナジラミに5日間保毒させた。伝染源のトマト株1株につき、二次伝染試験用の被験トマトとして、トマト苗(品種:ハウス桃太郎、タキイ種苗)を新たに10本用意して、苗あたり10頭以上放飼し、5日間接種吸汁させた。
その結果、対照区でバンドの濃かった区では二次伝染が75%、バンドの薄かった区では二次伝染が20%みられた。一方、一次ウイルス接種区において、バンドの濃かった区では二次伝染が30%だったものの、バンドの薄かった区では二次伝染が起こらなかった。
ウイルスを一次接種した場合と接種しなかった場合における二次ウイルス伝染率の違いは、PCR検出バンドの濃淡の割合に伝染率を乗じて算出した。この伝染率の合計値を、一次ウイルスを接種した場合としなかった場合で比べると、一次ウイルスを接種しなかった対照区では、全体の二次伝染率が62.7%(二次ウイルス検出バンドが濃い場合の58.3%と薄い場合の4.4%の合計)となるのに対し、一次ウイルス接種区では3.8%(二次ウイルス検出バンドが濃い場合の3.8%と薄い場合の0%の合計)となる(表2)。
したがって、一次ウイルスを接種しておくと二次ウイルスの増殖が抑制され、二次ウイルスの伝染率が一次ウイルスを接種しなかった場合に比べておよそ16分の1になることが予想される。
以上の結果から、一次ウイルスが存在することで、二次ウイルスの感染が阻止できないとしても、その増殖を抑制し、二次伝染率を低くする効果、すなわち、一次ウイルスを接種したトマトからの二次ウイルスの二次伝染が起こりにくいことが推察された。
【0034】
表2.一次ウイルス接種及び無接種トマトに二次ウイルスをチャレンジ接種したトマトからの二次ウイルスの二次伝染率
【0035】
【表2】
【0036】
[実施例2]
ウイルスフリーのカボチャ苗(品種:えびす、タキイ種苗)24本を準備し、半数ずつ一次ウイルスとしてのZYMV(ZY−02株、Journal of General Plant Pathology、2006、72,p.52−56を参照)接種区と無接種区(対照区)に配置した。
一次ウイルス接種後10日目に二次ウイルスとしてZYMV(4S株、日本植物病理学会報,2006,72,p.40を参照)を汁液接種した。
チャレンジ接種後8日目に、本葉第5葉をサンプリングして一次ウイルス及び二次ウイルスの識別プライマーを用いて混合感染分析を行った。
一次ウイルス検出プライマー(ZY−02を検出)として、Z5−457F(5’−CGCTCGTATTGAGCATGATG−3’:配列番号8)とZ5−793R(5’−TTCCTCATGCGCGACTGACACC−3’:配列番号9)を使用し、二次ウイルス検出プライマー(4Sを検出)として、Oki4S−386F(5’−GCGGACTTAGAGGCCTTGTT−3’:配列番号10)とOki4S−1087R(5’−TATCGCGCGCAATTTTGAGG−3’:配列番号11)を使用した。PrimeScript II High Fidelity One Step RT−PCR Kit(TaKaRa社製)を用いてRT−PCRを行った。
一次ウイルスは接種したすべてのカボチャから検出され、接種しなかったカボチャからは検出されなかった(
図2a,b)。二次ウイルスは、一次ウイルスを接種しなかった対照区では100%検出されたものの、一次ウイルス接種区では67%検出された(
図2c,d)。
【0037】
そこで、二次ウイルスを接種したカボチャ苗を伝染源とし、ワタアブラムシに保毒させ、ウイルスフリーのカボチャに二次伝染させた。具体的には、次のような手順で実験を行った。
分析に用いた一次ウイルスと二次ウイルスの両方を接種したカボチャ苗9本と対照区で二次ウイルスが感染したカボチャ苗9本を保毒源として、3時間絶食させたウイルスフリーのワタアブラムシ100頭以上を各カボチャに放飼して20分間保毒させた。二次伝染試験用のウイルスフリーの被検カボチャ(品種:えびす、タキイ種苗)を各保毒源あたり16本準備し、1株につき5頭ずつ保毒虫を接種した。接種吸汁は2時間とした。接種吸汁後、殺虫剤を撒布して保毒虫を除去した。結果を表3に示す。
一次ウイルス(ZY−02株)と二次ウイルス(4S)の両方を接種したカボチャ苗9本のうち4Sの感染が確認できたカボチャ苗は6本であり、残り3本は4Sが非感染だった。4Sの感染が確認されたカボチャ苗のうち、接種後3週目に二次伝染がみられたのは3本のみで、二次ウイルスの二次伝染率は6〜13%であった。4Sの感染が確認できなかった3本の保毒源からは二次伝染がなかった。その結果、一次ウイルスと二次ウイルスの両方を接種し、かつ両方が感染している場合の全体の虫媒伝染率(二次伝染率)は5%(5/96)となった。
一方、対照区二次ウイルスのみ接種)のカボチャ苗9本のうち、2本を保毒原として二次伝染の試験を行った。接種後3週目にRT−PCRで感染分析を行った結果、二次伝染率は38%(6/16)および56%(9/16)であった(全体47%:15/32)。
以上のことから、カボチャとZYMVの組み合わせにおいても、一次ウイルスを予防接種した植物に二次ウイルスを感染させた場合、二次ウイルスの伝染率(二次伝染)が対照区に比べて抑制されることが判明した。
【0038】
表3.一次ウイルス接種及び無接種カボチャに二次ウイルスをチャレンジ接種したカボチャからの二次ウイルスの二次伝染率
【0039】
【表3】