特許第6656597号(P6656597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656597
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/00 20100101AFI20200220BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20200220BHJP
   H01L 33/16 20100101ALI20200220BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20200220BHJP
【FI】
   H01L33/00 Z
   H01L33/32
   H01L33/16
   B23K26/53
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-159209(P2018-159209)
(22)【出願日】2018年8月28日
(65)【公開番号】特開2019-50367(P2019-50367A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2018年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2017-174026(P2017-174026)
(32)【優先日】2017年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 直人
(72)【発明者】
【氏名】日下 翔
【審査官】 右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−011358(JP,A)
【文献】 特開2015−029039(JP,A)
【文献】 特開2008−078440(JP,A)
【文献】 特開2014−041924(JP,A)
【文献】 特開2011−240363(JP,A)
【文献】 特開2010−177395(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029735(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0011310(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0135557(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 − 33/64
H01L 21/78 − 21/80
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイアからなり第1面及び第2面を有する基板と、前記第2面に設けられた半導体構造と、を含むウェーハの前記基板にレーザ光を照射し、前記基板の内部に複数の改質領域を形成するレーザ光照射工程と、
前記レーザ光照射工程の後に前記ウェーハを複数の発光素子に分離する分離工程と、
を備え、
前記レーザ光照射工程は、
複数の第1線に沿って前記レーザ光を走査する第1照射工程であって、前記複数の第1線は、前記第1面に平行で前記サファイアのm軸に沿う第1方向に延び、前記第1面に平行で前記サファイアのa軸に沿う第2方向に並ぶ、第1照射工程と、
前記第1照射工程後に、前記第2方向に延びる第2線に沿って前記レーザ光を走査する第2照射工程と、
を含み、
前記第1照射工程において、
前記レーザ光は、前記第1方向に沿う複数の位置に照射され、前記第1方向に沿う前記複数の位置の第1照射ピッチは、2.5μm以下であり、
前記複数の第1線の前記第2方向におけるピッチは、0.7mm以上であ
前記第2照射工程において、前記レーザ光は、前記第2方向に沿う複数の位置に照射され、前記第2方向に沿う前記複数の位置の第2照射ピッチは、前記第1照射ピッチよりも大きく、
前記第1線に沿って形成された前記複数の改質領域が互いに重なり合う、発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2面は、前記サファイアのc面である、請求項記載の発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記第2照射ピッチは、5.0μm以上12.0μm以下である、請求項またはに記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1照射工程及び前記第2照射工程における前記レーザ光の出力は、100mW以上300mW以下である、請求項1〜のいずれか1つに記載の発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1照射工程において、前記レーザ光は、前記第1面から前記第2面に向かう深さ方向における複数の位置に照射される、請求項1〜のいずれか1つに記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に発光層となる化合物半導体を積層した発光素子を製造する方法において、基板にレーザ照射することによって、素子分離線を形成する方法が提案されている。発光素子の製造方法において、生産性の向上が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5119463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生産性を向上できる発光素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、発光素子の製造方法は、第1面及び第2面を有する基板と、前記第2面に設けられた半導体構造と、を含むウェーハの前記基板にレーザ光を照射し、前記基板の内部に複数の改質領域を形成するレーザ光照射工程と、前記レーザ光照射工程の後に前記ウェーハを複数の発光素子に分離する分離工程と、を含む。前記レーザ光照射工程は、複数の第1線に沿って前記レーザ光を走査する第1照射工程を含む。前記複数の第1線は、前記第1面に平行な第1方向に延び、前記第1面に平行で前記第1方向と交差する第2方向に並ぶ。前記レーザ光照射工程は、前記第1照射工程後に、前記第2方向に延びる第2線に沿って前記レーザ光を走査する第2照射工程を含む。前記第1照射工程において、前記レーザ光は、前記第1方向に沿う複数の位置に照射され、前記第1方向に沿う前記複数の位置の第1照射ピッチは、2.5μm以下であり、前記複数の第1線の前記第2方向におけるピッチは、0.7mm以上である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、生産性を向上できる発光素子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る発光素子の製造方法を例示するフローチャートである。
図2】実施形態に係る発光素子の製造方法で用いられるウェーハを例示する模式図である。
図3】実施形態に係る発光素子の製造方法で用いられるウェーハを例示する模式図である。
図4】実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式図である。
図5】実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式的平面図である。
図6】実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式的平面図である。
図7】実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式的平面図である。
図8】実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式的平面図である。
図9】発光素子の製造方法の一部を例示する模式的断面図である。
図10】発光素子の製造方法に関する実験結果を例示するグラフ図である。
図11】発光素子の製造方法に関する実験結果を例示する顕微鏡写真像である。
図12】発光素子の製造方法に関する実験結果を例示する顕微鏡写真像である。
図13】発光素子の製造方法に関する実験結果を例示する模式図である。
図14】実施形態に係る発光素子の別の製造方法の一部を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
図1は、実施形態に係る発光素子の製造方法を例示するフローチャートである。
図2及び図3は、実施形態に係る発光素子の製造方法で用いられるウェーハを例示する模式図である。図2は、図3のII−II線断面図である。図3は、図2の矢印ARから見た平面図である。
【0010】
図1に示すように、実施形態に係る発光素子の製造方法は、レーザ光照射工程(ステップS110)及び分離工程(ステップS120)を含む。レーザ光照射工程は、第1照射工程(ステップS111)及び第2照射工程(ステップS112)を含む。分離工程は、第1分離工程(ステップS121)及び第2分離工程(ステップS122)を含む。
【0011】
レーザ照射工程においては、ウェーハにレーザ光を照射する。以下、ウェーハの例について説明する。
【0012】
図2及び図3に示すように、ウェーハ50Wは、基板50及び半導体構造51を含む。基板50は、第1面50a及び第2面50bを有する。第2面50bは、第1面50aとは反対側の面である。半導体構造51は、例えば、第2面50bに設けられる。
【0013】
半導体構造51は、例えば、n形半導体層、活性層及びp形半導体層を含む。p形半導体層と基板50との間にn形半導体層が位置する。p形半導体層とn形半導体層との間に活性層が位置する。半導体構造51は、例えば、InAlGa1−x−yN(0≦x、0≦y、x+y<1)等の窒化物半導体を含む。活性層が発する光のピーク波長は、例えば、例えば、360nm以上650nm以下である。
【0014】
第2面50bから第1面50aに向かう方向をZ軸方向とする。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向及びX軸方向に対して垂直な方向をY軸方向とする。第1面50a及び第2面50bは、X−Y平面に沿って広がる。Z軸方向は、基板50の厚さ方向(例えば、深さ方向)に対応する。
【0015】
図3に示すように、半導体構造51は、例えば、複数の領域51rを含む。複数の領域51rそれぞれが1つの発光素子に対応する。複数の領域51rは、第1方向D1及び第2方向D2に並ぶ。
【0016】
第1方向D1は、第1面50aに平行な1つの方向である。第2方向D2は、第1面50aに平行で、第1方向D1と交差する。第2方向D2は、例えば、第1方向D1に対して垂直である。この例では、第1方向D1は、X軸方向に沿う。第2方向D2は、Y軸方向に沿う。
【0017】
基板50は、例えば、サファイアからなる。基板50は、例えば、サファイア基板(例えば、c面サファイア基板)である。基板50において、第1面50aは、c面に対して傾斜していても良い。基板50がサファイア基板である場合、1つの例において、第1方向D1は、サファイア基板のm軸に沿う。このとき、第2方向D2は、サファイア基板のa軸に沿う。
【0018】
基板50は、オリエンテーションフラット55を有する。この例では、オリエンテーションフラット55の延びる方向は、ウェーハ50Wの第1方向D1に沿っている。実施形態において、第1方向D1と、オリエンテーションフラット55の延びる方向と、の関係は、任意である。第2方向D2と、オリエンテーションフラット55の延びる方向と、の関係は、任意である。
【0019】
このようなウェーハ50Wにレーザ光が照射される。ウェーハ50Wが複数の領域51rの境界に沿って分離される。複数の領域51rから複数の発光素子が得られる。
【0020】
図4は、実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式図である。
図4は、レーザ光の照射を例示している。図4に示すように、ウェーハ50Wの基板50に、レーザ光61が照射される。この例では、レーザ光61は、第1面50aから基板50に入射する。
【0021】
レーザ光61は、パルス状に出射される。レーザ光源として、例えば、Nd:YAGレーザ、チタンサファイアレーザ、Nd:YVO4レーザ、または、Nd:YLFレーザなどが用いられる。レーザ光61の波長は、基板50を透過する光の波長である。レーザ光61は、例えば、800nm以上1200nm以下の範囲にピーク波長を有するレーザ光である。
【0022】
レーザ光61は、X−Y平面に平行な方向に沿って走査される。例えば、レーザ光61と、基板50と、の相対的な位置が、X−Y平面に平行な方向に沿って変更される。レーザ光61の集光点のZ軸方向に沿う位置(基板50を基準にしたときの位置)が変更可能でも良い。
【0023】
例えば、基板50の第1面50aに沿う1つの方向に沿って、レーザ光61が、離散的に照射される。レーザ光61が照射された複数の位置は、その1つの方向に沿って互いに離れている。レーザ光61が照射された複数の位置は、1つのピッチ(レーザ照射ピッチLp)で並ぶ。レーザ照射ピッチLpは、レーザ光61のショット間ピッチに対応する。
【0024】
レーザ光61の照射により、基板50の内部に、複数の改質領域53が形成される。レーザ光61は基板50の内部に集光される。基板50の内部の特定の深さの位置において、レーザ光61によるエネルギーが集中する。これにより、複数の改質領域53が形成される。複数の改質領域53を形成するときにおけるレーザ光61の集光点のピッチは、レーザ照射ピッチLpに対応する。改質領域53は、例えば、基板50の内部において、レーザ照射により脆化した領域である。
【0025】
複数の改質領域53から、例えば、亀裂が進展する。亀裂は、基板50のZ軸方向に伸展する。亀裂は、基板50の分離の開始位置となる。例えば、後述する分離工程において、力(例えば、荷重、または衝撃など)が加わる。これにより、亀裂に基づいて、基板50が分離される。
【0026】
このように、レーザ光照射工程(ステップS110)においては、基板50にレーザ光61を照射して、基板50の内部に複数の改質領域53を形成する。レーザ照射が、例えば、第1方向D1及び第2方向D2に沿って行われる。
【0027】
そして、分離工程(ステップS120)においては、レーザ光照射工程の後に、ウェーハ50Wを複数の発光素子に分離する。例えば、2つの方向に沿った分離を行うことで、ウェーハ50Wが複数の発光素子に分離される。
【0028】
以下、レーザ光照射工程の例について説明する。
図5は、実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式的平面図である。
図5は、第1照射工程(ステップS111)を例示している。図5に示すように、第1照射工程においては、複数の第1線L1に沿ってレーザ光61を走査する。
【0029】
複数の第1線L1は、第1方向D1に延び、第2方向D2に並ぶ。既に説明したように、第1方向D1は、第1面50aに平行である。第2方向D2は、第1面50aに平行で、第1方向D1と交差する。複数の第1線L1は、第1ピッチP1で並ぶ。第1ピッチP1は、第2方向D2において隣接する2つの第1線L1が第2方向D2に沿う距離である。実施形態において、第1ピッチP1は、例えば、0.7mm以上である。第1ピッチP1は、好ましくは0.7mm以上3mm以下、より好ましくは0.9mm以上2.5mm以下であり、さらに好ましくは1mm以上2mm以下である。
【0030】
複数の第1線L1は、例えば、第2方向D2に並ぶ複数の領域51r(図3参照)どうしの間の境界に沿う。
【0031】
図5に示すように、複数の第1線L1の1つに沿ったレーザ光61の照射において、レーザ光61は、複数の第1位置61aに照射される。複数の第1位置61aは、第1方向D1に沿って並ぶ。複数の第1位置61aのピッチは、第1照射ピッチLp1に対応する。第1照射ピッチLp1は、第1方向D1において隣接する2つの第1位置61aが第1方向D1に沿う。
【0032】
第1照射ピッチLp1は、例えば、2.5μm以下、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下である。
【0033】
図6は、実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式的平面図である。
図6は、第2照射工程(ステップS112)を例示している。図6に示すように、第2照射工程においては、複数の第2線L2に沿ってレーザ光61を走査する。
【0034】
複数の第2線L2は、第2方向D2に延びる。複数の第2線L2は、第1方向D1において、第2ピッチP2で並ぶ。第2ピッチP2は、第1方向D1において隣接する2つの第2線L2が第1方向D1に沿う距離である。
【0035】
複数の第2線L2は、例えば、第1方向D1に並ぶ複数の領域51r(図3参照)どうしの間の境界に沿う。
【0036】
第2照射工程における複数の第2線L2の1つに沿ったレーザ光61の照射において、レーザ光61は、複数の第2位置61bに照射される。複数の第2位置61bは、第2方向D2に沿って並ぶ。複数の第2位置61bのピッチは、第2照射ピッチLp2に対応する。第2照射ピッチLp2は、第2方向D2において隣接する2つの第2位置61bが第2方向D2に沿う。
【0037】
1つの例において、第1照射ピッチLp1は、第2照射ピッチLp2よりも小さい。
【0038】
1つの例において、第1ピッチP1(図5参照)は、第2ピッチP2(図6参照)よりも小さい。第1ピッチP1を第2ピッチP2よりも大きくしてもよいし、第1ピッチP1と第2ピッチP2とを同じにしてもよい。
【0039】
以下、分離工程の例について説明する。
図7は、実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式的平面図である。
図7は、第1分離工程を例示している。第1分離工程においては、複数の第1線L1に沿って、ウェーハ50Wを複数のバー52に分離する。例えば、ブレードを用いて、荷重を第1線L1に沿ってウェーハ50Wに加えることにより、ウェーハ50Wが、複数のバー52に分離される。実施形態において、1つのバー52は、複数の領域51rが第1方向D1に並んだ状態である。
【0040】
図8は、実施形態に係る発光素子の製造方法の一部を例示する模式的平面図である。
図8は、第2分離工程を例示している。第2分離工程は、第1分離工程の後に行われる。第2分離工程は、第1分離工程の後に、複数の第2線L2に沿って、バー52を複数の発光素子51eに分離する。例えば、ブレードを用いて、荷重を第2方向D2に沿ってバー52(ウェーハ50W)に加えることにより、バー52が、複数の発光素子51eに分離される。
【0041】
上記の分離は、例えば、割断により実行される。
【0042】
既に説明したように、1つの例において、第1ピッチP1は、第2ピッチP2よりも小さい。上記の製造方法により得られる複数の発光素子51eの1つにおいて、第1方向D1に沿う長さは、第2方向D2に沿う長さよりも長い。複数の発光素子51eの1つは、長辺と短辺とを有する。長辺の長さが、第2ピッチP2に実質的に対応する。短辺の長さは、第1ピッチP1に対応する。
【0043】
上記のように、レーザ光照射工程では、第1照射工程(ステップS111)及び第2照射工程(ステップS112)が実施される。第1照射工程の後に第2照射工程が実施されるときに、所望でない状態でレーザ光61が基板50(ウェーハ50W)に照射される場合があることが分かった。以下、この例について説明する。
【0044】
図9は、発光素子の製造方法の一部を例示する模式的断面図である。
図9は、第1照射工程の後に第2照射工程が実施されたときの、基板50、及び、レーザ光61の照射の状態を例示している。この例では、第1照射工程が適切な条件で行われていない。
【0045】
図9に示すように、第1照射工程において、第1線L1に沿ってレーザ光61が照射される。これにより、基板50の内部に、複数の改質領域53aが形成される。図9では、第2方向D2とZ軸方向とを含む平面による断面が図示されている。このため、複数の改質領域53aの1つが図示されている。複数の改質領域53aは、第1方向D1に沿って並ぶ。
【0046】
レーザ光61の照射の条件が適切な場合には、基板50に複数の改質領域53aが形成され、基板50にクラックCRが生じるが、基板50の主面(例えば第1面50a)は、連続しており、1つの平面である。つまり、レーザ光61を照射することだけでは、基板50はクラックCRを起点として分離されない。クラックCRは、複数の改質領域53を起点として発生する。
【0047】
一方、レーザ光61の照射の条件が不適切な場合には、基板50に複数の改質領域53aが形成され、基板50にクラックCRが生じる。クラックCRにより、第1線L1を境界として、基板50の第1面50aが分離されてしまう。分離されて形成された2つの第1面50aは、連続していない。2つの第1面50aは、互いに傾斜する。このように、レーザ光61の照射の条件が不適切な場合には、基板50に意図しない「割れ」が生じてしまう。
【0048】
この意図しない「割れ」により、基板50の第1面50aは、平坦ではなくなる。「割れ」により、第1面50aが傾斜する。この状態で、第2照射工程が実施されると、基板50内において、レーザ光61の集光点の深さ位置が、一定ではなくなる。このため、第2照射工程で形成される複数の改質領域53bの深さ位置が一定ではなくなる。
【0049】
図9に示すように、例えば、クラックCRに近い領域では、改質領域53bの位置は、深い。一方、クラックCRから遠い領域では、改質領域53bの位置は、浅い。このため、第2照射工程に基づく分離(第2分離工程)が所望の状態で実施することが困難になる。例えば、不良が発生し易くなり、歩留まりが低下し易くなることで、生産性を十分に高めることが困難になる。クラックCRに近い領域では、レーザ光61が集光される位置が半導体構造51に近くなる。このため、レーザ光61によるダメージが半導体構造51に生じてしまう。
【0050】
このように、第1照射工程の条件が不適切であると、意図しない「割れ」が生じてしまい、その結果、第2照射工程を適切な条件で実施し難くなることが分かった。
【0051】
実施形態においては、第1照射工程の条件を適切にする。これにより、例えば、意図しない「割れ」が抑制できる。これにより、第2照射工程を適切な条件で実施できる。生産性を向上できる発光素子の製造方法を提供できる。
【0052】
以下、第1照射工程の条件に関しての実験結果について説明する。
【0053】
実験においては、基板50として、厚さが200μmのサファイア基板を用いた。試料の平面形状は、辺の長さが10.2mmの正方形である。試料の中央部に、照射条件を変えたレーザ光61を照射した。レーザ光61を、サファイア基板のm軸に沿って照射した。レーザ光61の照射の後に、試料の破断強度を測定した。破断強度の測定において、試料に加えられるヘッドの押し込み速度は、0.05mm/secである。
【0054】
試料SP11においては、レーザ光61のパワーは、3.5μJであり、レーザ照射ピッチLpは、1.5μmである。試料SP11において、レーザパルス幅は、5.0psである。
試料SP12においては、レーザ光61のパワーは、3.5μJであり、レーザ照射ピッチLpは、2.0μmである。試料SP12において、レーザパルス幅は、5.0psである。
試料SP13においては、レーザ光61のパワーは、3.5μJであり、レーザ照射ピッチLpは、2.5μmである。試料SP13において、レーザパルス幅は、5.0psである。
試料SP14においては、レーザ光61のパワーは、3.5μJであり、レーザ照射ピッチLpは、3.0μmである。試料SP14において、レーザパルス幅は、5.0psである。
このように、試料SP11〜SP14において、レーザ光61の照射条件のうち、パワー、レーザパルス幅は同じ値であり、レーザ照射ピッチの値が変更される。
【0055】
図10は、発光素子の製造方法に関する実験結果を例示するグラフ図である。
図10の縦軸は、破断強度N1(ニュートン:N)である。図10には、上記の試料SP11〜SP14の破断強度N1が示されている。図10で示される試料SP11〜SP14の破断強度N1は、それぞれの試料SP11〜SP14に対して3回測定を行い、それらの測定で得られた値の平均値である。試料SP11における破断強度N1は、3.8Nであった。試料SP12における破断強度N1は、2.3Nであった。試料SP13における破断強度N1は、1.6Nであった。試料SP14における破断強度N1は、0.6Nであった。
【0056】
図10から分かるように、破断強度N1は、レーザ照射ピッチLpに強く依存する。レーザ照射ピッチLpが小さくすることで、高い破断強度N1が得られる。上記の実験においては、レーザ光61は、サファイア基板のm軸に沿って照射される。例えば、レーザ光61がサファイア基板のa軸に沿って照射される場合においても、図10と同様の結果が得られると考えられる。
【0057】
例えば、試料SP14のように破断強度N1が比較的小さい場合、第1照射工程を実施した後の基板50において、意図しない「割れ」が生じる。一方、破断強度N1が高い場合に、第1照射工程を実施した後の基板50において、意図しない「割れ」の発生が抑制できる。
【0058】
レーザ照射ピッチLpを小さくすることで、高い破断強度N1が得られる。例えば、レーザ照射ピッチLpが1.5μm以下のときには、3.8Nよりも高い破断強度N1が得られる。第1照射工程を実施した後の基板50において、意図しない「割れ」の発生がさらに抑制できる。
レーザ照射ピッチLpが所定値よりも広くした場合、形成される亀裂同士が繋がりにくくなり基板50が割れにくい傾向であった。このため、本発明者らは、レーザ照射ピッチLpを狭くすることで基板50が割れやすくなると考えていた。しかしながら、上述のとおり、実際には、レーザ照射ピッチLpを狭くすることで破断強度N1が上昇し、基板50の意図しない「割れ」が抑制されることが分かった。意図しない「割れ」が抑制された理由としては、レーザ光61の走査線上における基板50の内部に複数の改質領域53が密に形成され、それらが互いに重なり合うことで基板50が割れにくくなったためであると考えられる。
【0059】
実施形態においては、第1照射工程におけるレーザ照射ピッチLp(すなわち、第1照射ピッチLp1)を小さくする。例えば、第1照射ピッチLp1は、2.5μm以下である。これにより、高い破断強度N1が得られ、意図しない「割れ」が抑制できる。これにより、例えば、第2照射工程におけるレーザ光61の照射の状態(集光点の深さ)が安定する。
【0060】
実施形態において、第1照射ピッチLp1は、1.0μm以上である。これにより、例えば、レーザ光照射工程においてレーザ光による半導体構造51へのダメージを抑制できる。また、レーザ光照射工程に要する時間が長くなることが抑制でき生産性を向上できる。
【0061】
実施形態において、例えば、第1照射ピッチLp1は、第2照射ピッチLp2よりも小さいことが好ましい。これにより、第1照射工程の後において意図しない「割れ」が抑制できる。
【0062】
例えば、第2照射ピッチLp2は、5.0μm以上12.0μm以下、好ましくは5.0μm以上7.0μm以下である。第2照射ピッチLp2が5.0μm以上であることにより、例えば、基板の分離の際に、分離の起点となる線が直線的になり易くなる。第2照射ピッチLp2が12.0μm以下であることにより、例えば、改質領域53からのクラックCR同士が繋がりにくくなることを抑制でき、基板50の分離が容易になる。
【0063】
既に説明したように、実施形態においては、第1ピッチP1(複数の第1線L1の第2方向D2におけるピッチ)は、0.7mm以上である。第1ピッチP1は、好ましくは0.7mm以上3mm以下、より好ましくは0.9mm以上2.5mm以下であり、さらに好ましくは1mm以上2mm以下である。第1ピッチP1が0.7mm以上の場合、基板50のうち改質領域53が形成された部分に比較的大きい力が働き、意図しない「割れ」が生じやすい。これは、ウェーハ50Wが応力による反りを有し、第1ピッチP1が大きくなると、隣り合う第1線D1間それぞれにおける反り量が比較的大きくなり、その反りに起因するものであると考えられる。その結果、第1照射工程を行った後、あるいは第1照射工程を行っている途中で、改質領域53が形成された部分に意図しない「割れ」が生じやすい傾向にあると考えられる。本実施形態においては、第1照射ピッチLp1を狭くしている。これにより、破断強度N1が大きくなり、第1ピッチP1が比較的大きい場合であっても意図しない「割れ」を抑制できる。
【0064】
上記のように、第1照射ピッチLp1は、第2照射ピッチLp2よりも小さいことが好ましい。このとき、1つの例においては、第1線L1(第1方向D1)はm軸に沿い、第2線L2(第2方向D2)はa軸に沿う。別の例では、第1線L1(第1方向D1)はa軸に沿い、第2線L2(第2方向D2)はm軸に沿う。さらに別の例では、第1線L1(第1方向D1)がa軸に対して傾斜し、第2線L2(第2方向D2)もa軸に対して傾斜しても良い。
【0065】
実施形態において、第1方向D1(第1線L1)がm軸に沿い、第2方向D2(第2線L2)がa軸に沿うことが特に好ましい。これは、以下に説明するように、レーザ光61の走査がm軸に沿って行われることにより、レーザ照射ピッチLp(第1照射ピッチLp1)を小さくしても、分離の起点となる線(後述)が直線的となり易いためである。
【0066】
以下、レーザ光61がa軸に沿って走査されるときの実験結果の例について説明する。
【0067】
図11及び図12は、発光素子の製造方法に関する実験結果を例示する顕微鏡写真像である。
これらの図には、試料SP21、試料SP22及び試料SP23の顕微鏡写真像が示されている。これらの試料において、レーザ光61のレーザ照射ピッチLpが互いに異なる。これらの試料においては、レーザ光61は、Y軸方向に沿って走査されている。この実験では、Y軸方向は、サファイア基板のa軸に沿う。X軸方向は、サファイア基板のm軸に沿う。
【0068】
試料SP21におけるレーザ照射ピッチLpは、12μmである。試料SP22におけるレーザ照射ピッチLpは、10μmである。試料SP23におけるレーザ照射ピッチLpは、8μmである。図11において、写真のフォーカスは、改質領域53の深さに位置する。図12において、写真のフォーカスは、基板50(サファイア基板)の表面(この例では、第1面50a)に位置する。
【0069】
図11から分かるように、レーザ照射ピッチLpが大きい試料SP21においては、複数の改質領域53を直線的に結ぶ線53Lが観察される。この線53Lは、クラックCR(またはクラックCRの起源)に対応すると考えられる。レーザ照射ピッチLpが中程度の試料SP22においても、複数の改質領域53の一部において、改質領域53を直線的に結ぶ線53Lが観察される。しかし、この線53Lは、試料SP21と比べると、曲がっている。レーザ照射ピッチLpが小さい試料SP23においては、複数の改質領域53を直線的に結ぶ線53Lが実質的に観察されない。試料SP23においては、複数の改質領域53の周り通過する曲線的な線53Xが観察される。
【0070】
図12から分かるように、サファイア基板の表面(第1面50a)において、レーザ照射ピッチLpが大きい試料SP21においては、第1方向D1に沿う明確な線53Lが観察される。この線53Lは、クラックCR(またはクラックCRの起源)に対応すると考えられる。レーザ照射ピッチLpが中程度の試料SP22においては、この線53Lの直線性が低くなり、線53Lの一部は、第1方向D1に対して傾斜する。レーザ照射ピッチLpが小さい試料SP23においては、線53Lは、さらに不明確となり、線53Lの一部は、第1方向D1に対して大きく傾斜する。
【0071】
図13は、発光素子の製造方法に関する実験結果を例示する模式図である。
図13は、図11及び図12の顕微鏡写真から推定される基板50中の線53L及び線53Xを模式的に示している。
【0072】
図13に示すように、レーザ照射ピッチLpが大きい試料SP21においては、サファイアの結晶の格子点54を第2方向D2に沿って繋ぐ線53Lが生じる。レーザ照射ピッチLpが小さい試料SP23においては、上記の線53Lの他に、サファイアの結晶の格子点54を通り第2方向D2に対して傾斜した方向に延びる線53Xが生じると考えられる。レーザ照射ピッチLpが中間の試料SP22においては、試料SP21と試料SP23との中間の状態が生じると考えられる。
【0073】
このように、レーザ照射ピッチLpが大きい場合には、サファイアの結晶の格子点54を第2方向D2に沿って繋ぐ線53Lが形成される。これに対して、レーザ照射ピッチLpが小さい場合には、第2方向D2に対して傾斜した方向に延びる線53Xが生じ易くなる。線53Xは、蛇行した線状である。蛇行した線53Xが生じると、例えば、基板50を分離したときに、切断面が直線的ではなくなる場合もある。
【0074】
このように、a軸に沿ってレーザ光61を照射する場合において、レーザ照射ピッチLpを小さくすると、蛇行した線53Xが生じ易くなる。これは、六方晶に特有の現象であると考えられる。
【0075】
一方、m軸に沿ってレーザ光61を照射する場合には、レーザ照射ピッチLpを小さくした場合にも、蛇行した線53Xは生じにくい。
【0076】
上記から、実施形態においては、レーザ照射ピッチLpが小さい第1照射工程においては、a軸ではなくm軸に沿ってレーザ光61が走査されることが好ましい。このとき、第2照射工程においては、a軸に沿ってレーザ光61が走査されることが好ましい。これにより、レーザ照射ピッチLpを小さくして、意図しない「割れ」を抑制できる。さらに、蛇行した線53Xの発生を抑制できる。その結果、生産性をより向上できる発光素子の製造方法が提供できる。
【0077】
実施形態において、第1照射工程及び第2照射工程におけるレーザ光61の出力は、100mW以上300mW以下、好ましくは100mW以上150mW以下であることが好ましい。出力が300mWよりも高いと、例えば、半導体構造51(例えば、発光素子51e)にダメージが生じる場合がある。出力が100mWよりも低いと、例えば、改質領域53が形成し難くなる、または、改質領域53からの亀裂が伸展し難くなる。このため、基板50の分離が困難になる。出力が100mW以上300mW以下のときに、例えば、半導体構造51へのダメージを抑制しつつ、容易な分離が可能になる。
【0078】
図14は、実施形態に係る発光素子の別の製造方法の一部を例示する模式図である。
図14は、レーザ光61の照射を例示している。この例では、レーザ光61の集光点は、基板50の複数の深さ位置にある。例えば、レーザ光61が複数回走査されて基板50に照射される。例えば、複数回の走査において、レーザ光61の集光点の深さ位置が変更される。これにより、例えば、複数の改質領域53の群と、複数の改質領域53Aの群と、が形成される。複数の改質領域53のZ軸方向における位置は、複数の改質領域53AのZ軸方向の位置とは異なる。
【0079】
このように、第1照射工程において、レーザ光61は、第1面50aから第2面50bに向かう深さ方向(Z軸方向)における複数の位置に照射されても良い。これにより、例えば、蛇行した線53Xの発生をより安定して抑制できる。
【0080】
実施形態によれば、生産性を向上できる発光素子の製造方法を提供できる。
【0081】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
【0082】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、発光素子の製造方法で用いられるウェーハ、基板、半導体構造、発光素子及びレーザなどのそれぞれの具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0083】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0084】
その他、本発明の実施の形態として上述した発光素子の製造方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての発光素子の製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0085】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0086】
50…基板、 50W…ウェーハ、 50a…第1面、 50b…第2面、 51…半導体構造、 51e…発光素子、 51r…領域、 52…バー、 53、53A…改質領域、 53L、53X…線、 53a、53b…改質領域、 54…格子点、 55…オリエンテーションフラット、 61…レーザ光、 61a、61b…第1、第2位置、 AR…矢印、 CR…クラック、 D1、D2…第1、第2方向、 L1、L2…第1、第2線、 Lp…レーザ照射ピッチ、 Lp1、Lp2…第1、第2照射ピッチ、 N1…破断強度、 P1、P2…第1、第2ピッチ、 SP11〜SP14、SP21〜SP23…試料
図1
図2
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