(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656618
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】換気システム
(51)【国際特許分類】
E06B 7/02 20060101AFI20200220BHJP
【FI】
E06B7/02
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-11204(P2015-11204)
(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-135953(P2016-135953A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2018年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175560
【氏名又は名称】三協立山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136331
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 陽一
(72)【発明者】
【氏名】大浦 豊
(72)【発明者】
【氏名】朝岡 幸康
(72)【発明者】
【氏名】野村 吉和
(72)【発明者】
【氏名】平下 幸孝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 信介
(72)【発明者】
【氏名】樋山 恭助
(72)【発明者】
【氏名】李 時桓
(72)【発明者】
【氏名】河原 大輔
【審査官】
家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−009408(JP,U)
【文献】
実開昭57−013793(JP,U)
【文献】
実開昭52−086252(JP,U)
【文献】
特開2005−003348(JP,A)
【文献】
実開平06−040747(JP,U)
【文献】
特表2013−525733(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01096097(EP,A1)
【文献】
独国特許出願公開第19723485(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 7/00−7/10
E06B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
戸と、ファンとを備え、戸は、室外に面した室外側開口部と、室内に面した室内側開口部と、戸内に設けられ室外側開口部と室内側開口部とを連通する換気経路と、室内外の表面板と、室内外の表面板間に設けられた断熱材とを有し、表面板は内外で熱的に分離されており、ファンにより室内の空気を室外に吸い出して室内を負圧にして、空気が換気経路を室外側から室内側に流れることで室内から室外に逃げる熱を回収して室内に取り入れるか、逆にファンにより室外の空気を室内に吸い込んで室内を正圧にして、空気が換気経路を室内側から室外側に流れることで室外から室内に入ってくる熱を回収して室外に捨てることを特徴とする換気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
換気を行いつつ室内外の熱の出入りを抑えられる換気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
玄関等の戸に換気口を設け、戸を閉めたまま換気口を通じて換気が行えるようにしたものが従来より知られている(例えば、特許文献1参照)。このような戸は、冬季に換気口開けたままにしておくと、冷たい外気が流入して不快であるため、冬季は換気口を閉じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−262076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上に述べた実情に鑑み、常時換気を行いつつ室内外の熱の出入りを抑えられる
換気システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために請求項1記載の発明による換気システムは、戸と、
ファンとを備え、戸は、室外に面した室外側開口部と、室内に面した室内側開口部と、戸内に設けられ室外側開口部と室内側開口部とを連通する換気経路と、室内外の表面板と、室内外の表面板間に設けられた断熱材とを有し、表面板は内外で熱的に分離されており、
ファンにより室内の空気を室外に吸い出して室内を負圧にして、空気が換気経路を室外側から室内側に流れることで室内から室外に逃げる熱を回収して室内に取り入れるか、逆に
ファンにより室外の空気を室内に吸い込んで室内を正圧にして、空気が換気経路を室内側から室外側に流れることで室外から室内に入ってくる熱を回収して室外に捨てることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明による換気システムは、戸に設けた換気経路を通じて常時換気が行え、
ファンにより室内の空気を室外に吸い出して室内を負圧にして、空気が換気経路を室外側から室内側に流れることで室内から室外に逃げる熱を回収して室内に取り入れるか、逆に
ファンにより室外の空気を室内に吸い込んで室内を正圧にして、空気が換気経路を室内側から室外側に流れることで室外から室内に入ってくる熱を回収して室外に捨てることで、換気しながら室内外の熱の出入りを抑えられる。また、表面板が内外で熱的に分離されているため、伝熱による熱の出入りも抑えられる。本発明によれば、戸を設置するだけで換気及び熱交換機能を発揮させられ、壁や窓枠に施工するよりも施工が容易で、低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の戸の第1実施形態を示す縦断面図である。
【
図4】(a)は第1実施形態の戸の室内側開口部に設けられるフィルター部の正面図であり、(b)はA−A断面図である。
【
図8】本発明の戸の第3実施形態を示す縦断面図である。
【
図9】本発明の戸の第4実施形態を示す縦断面図である。
【
図10】室内側開口部の他の実施形態を示す縦断面図である。
【
図11】室内側開口部の他の実施形態を示す正面図であって、(a)は室内側開口部を全開にした状態、(b)は室内側開口部を半開にした状態、(c)は室内側開口部を全閉にした状態を示す。
【
図12】室内側開口部の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜4は、本発明の
換気システムに用いられる戸の第1実施形態を示している。この戸5は、玄関ドアに適用したものであって、躯体開口部に取付けられたドア枠6にピボット式のヒンジ7で室外側に開くように取付けられている。
【0009】
戸5は、
図1,2に示すように、室外側と室外側に鋼板よりなる表面板4a,4bを備え、室内外の表面板4a,4bの間に発泡スチロールよりなる断熱材8が配置され、断熱材8の周囲を囲むように樹脂製の押出形材よりなる上枠9と下枠10と左右の竪枠11,11が配置されている。このように、室内外の表面板4a,4b間に断熱材8と樹脂製の枠9,10,11を配置することで、室内外の表面板4a,4bが熱的に分離されている。
【0010】
図1に示すように、下枠10には上下方向に貫通して室外側開口部1が室外に面して設けてあり、室内側の表面板4bの上部には室内側開口部2が室内に面して設けてあり、断熱材8には室外側開口部1と室内側開口部2を連通する換気経路3が設けてある。換気経路3は、
図3に示すように、左右方向に間隔をおいて複数系統設けてある。
【0011】
室内側開口部2の室内側には、
図1,4に示すように、フィルター部12が設けてある。フィルター部12には、不織布等よりなるフィルター13を保持したフィルターカバー14が着脱自在に係合取付けしてあり、該フィルター13によりゴミ等を除去すると共に、室内に入る空気の流量を調整している。またフィルター部12には、下向きにL字形に曲がった風向き変更板15が設けてあり、これによりフィルター部12から出た空気が下向きで室内に流出するようにしている。
【0012】
本換気システムは、冬季においては、室内に設置したファンにより室内の空気を室外に吸い出すことで、室内空間が負圧に調整される。これに伴い、
図1中に矢印で示すように、戸5の室外側開口部1、換気経路3、室内側開口部2を通じて、外気が室内に流入する。戸5は、室外側の表面板4aが外気と略同じ温度であり、室内側の表面板4bが室内と略同じ温度であり、断熱材8には室内からの熱が伝わりその熱が伝えられる。したがって、室外側開口部1から流入した冷たい外気は、断熱材8をくりぬいて形成した換気経路3を通過する間に、断熱材8に伝えられた熱を吸収して暖められて、室内側開口部2より室内に流入する。このように、室内から室外に逃げる熱を空気の流れによって回収し、室内に戻すことで、室内から室外への熱の損失がなくなるので、非常に高い断熱性が得られ、暖房負荷を小さくすることができる。
【0013】
本換気システムは、夏季においては、冬季とは逆に、室内に設置したファンにより室外の空気を室内に吸い込むことで、室内空間が正圧に調整される。これに伴い、
図1中の矢印と逆の方向に空気が流れ、戸5の室内側開口部2、換気経路3、室外側開口部1を通じて、室内の空気が室外に排出される。このとき、室内側開口部2から取り込まれた室内のエアコンで冷やされた空気は、断熱材8をくりぬいて形成した換気経路3を通過する間に、日射等により断熱材8に伝えられた熱を吸収して暖められて、室外側開口部1より室外に排出される。このように、室外から室内に入る熱を空気の流れによって回収し、室外に捨てることで、室外から室内に入る熱を削減できるので、非常に高い断熱性が得られ、冷房負荷を小さくすることができる。
【0014】
以上に述べたようにこの戸5は、換気経路3を通じて常時換気が行え、換気経路3は換気経路3を流れる空気に戸5の熱を伝えるように設けてあるので、冬季には室内から室外に逃げる熱を回収し、夏季には室外から室内に入ってくる熱を捨てることで、換気しながら室内外の熱の出入りを抑えられる。室内側開口部2にフィルター部12を設けたことで、換気量を調整できると共に、流路内の流速を下げて熱回収率を向上することができる。また、表面板4a,4bが内外で熱的に分離されているため、伝熱による熱の出入りも抑えられる。本実施形態によれば、戸5を設置するだけで換気及び熱交換機能を発揮させられ、壁や窓枠に施工するよりも施工が容易で、低コストである。ドア枠6はそのままで、既存の戸を本実施形態の戸5に交換することも可能である。室外側開口部1を戸5の下部に上下方向に貫通して設けたので、換気経路3から雨水が浸入することがなく、また、室外側の表面板4aに開口部が無いため、意匠性が良い。換気経路3が戸5内に複数設けてあることで、効率よく熱回収が行える。この戸5は、24時間換気を行うための換気口として機能させられ、通常の換気口と比べ、冬季は、外気を暖めて室内に取り込むことができ、夏季は、外気から入る熱を室外に捨てることができる。
【0015】
図5〜7は、本発明による戸5の第2実施形態を示している。この戸5は、
図5に示すように、戸5内部にポーラス材16が室外側の表面板4aから離間して設けられており、室外側開口部1は室外側の表面板4aとポーラス材16との隙間17に連通するように、下枠10の室外側寄りに上下方向に貫通して設けられている。室内側の表面板4bには、
図7に示すように、室内側開口部2,2,…が戸5の略全面に分散して複数設けられている。ポーラス材16は、断熱性を有し且つ空気が通過できる多孔質の部材であって、例えばグラスウール等を用いることができる。図中の矢印は、冬季における空気の流れを示しており、室外側開口部1より流入した外気は、ポーラス材16全体を通過する間に熱を吸収し、室内側の表面板4bに設けられた多数の室内側開口部2,2,…より分散して室内に流入する。
【0016】
下枠10には、
図5,6に示すように、室外側開口部1の開度を調節する調節機構18を備える。調節機構18は、左右方向にスライド可能に設けられた長尺の穴明きプレート19で構成され、室内側に設けたツマミ20を操作して該プレート19を左右にスライドさせることで、プレート19の穴21と室外側開口部1との重なり量が変化して室外側開口部1の開度が調節され、それに伴い多数分散して設けられた室内側開口部2,2,…からの換気量が一括して調整される。
【0017】
第2実施形態の戸5は、戸5内に設けられたポーラス材16に全体的に空気を通過させられるので、空気に戸5の熱を効率よく伝えられる。また、室内側の表面板4bに室内側開口部2を分散して複数設けたことで、室内側開口部2が1箇所の場合と比べて、気流が和らぎ、不快感を軽減できる。
【0018】
図8は、本発明による戸5の第3実施形態を示している。この戸5は、戸5内部にポーラス材16が室外側及び室内側の表面板4a,4bから離間して設けられ、室外側開口部1は第2実施形態と同様に、下枠10の室外側寄りに上下方向に貫通して設けられている。室内側開口部2は、室内側の表面板4bの上部1箇所に設けてある。
本実施形態によれば、戸5内部に設けたポーラス材16を空気が通過することで、熱回収効率が向上する。
【0019】
図9は、本発明による戸5の第4実施形態を示している。この戸5は、戸5の内部全体にポーラス材16を充填している。本実施形態によれば、戸5の内部全体に設けたポーラス材16を空気が通過することで、熱回収率が向上する。第1実施形態のように、断熱材8をくりぬいて換気経路3を形成する手間が要らないので、製作が容易である。
【0020】
図10は、室内側開口部2の他の実施形態を示している。
図10(a)は、室内側開口部2にポーラス材16を詰めた例を示している。このように、室内側開口部2にポーラス材16を詰めることで、気流が和らぎ、不快感を軽減できると共に、空気の流れに抵抗を与えることで、流路内の流速を下げて熱回収率を向上することができる。
図10(b)は、換気経路3の室内側の出口部分を上向きに傾斜して設けた例を示している。このようにすることで、空気が上向きに出るため、外気が顔などに直接当たるのを防ぎ、不快感を軽減できる。
【0021】
図11は、室内側開口部2の他の実施形態であって、開閉機構22を設けた場合を示している。開閉機構22は、ツマミ23と連動して左右方向にスライドする穴明きプレート24により構成され、(a)に示すように、ツマミ23を右側にスライドすると、プレート24の穴25が室内側開口部2と重なって室内側開口部2が全開となり、(c)に示すように、ツマミ23を左端にスライドすると、プレート24の穴25と室内側開口部2とが完全に横にずれて、室内側開口部2が全閉となる。(b)に示すように、ツマミ23を左右方向の中間で止めると、プレート24の穴25が室内側開口部2と部分的に重なり、室内側開口部2が半開となる。このように、ツマミ23を左右に動かすことで、換気量を調整することができる。
【0022】
図12は、室内側開口部2の他の実施形態であって、室内側開口部2に熱伝達部26を設けた場合を示している。熱伝達部26は、アルミ等の熱伝導率の良い材質で形成したヒートシンクであり、室内側の表面板4bから室内の熱が伝達され、室内側開口部2から空気が出るときヒートシンク26から空気に伝熱される。このように熱伝達部26を設けることで、室内側の表面板4bの熱を空気に効率よく伝えられるので、室内に入る空気をより暖めることができる。
【0023】
本発明は以上に述べた実施形態に限定されない。断熱材やポーラス材の材質、室外側・室内側開口部の位置や形状等は、適宜変更することができる。換気経路の設け方は任意であり、例えば換気経路を上下に折り返して設け、換気経路を長くすることで、熱回収率を向上することができる。下枠の内部の空気の通り道以外の部分に断熱材を充填しておくことで、冷たい外気が流入することによる結露の発生を抑えられる。フィルター部を室外側開口部に設けることもできる。本発明の戸は、開き戸に限らず、引戸であってもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 室外側開口部
2 室内側開口部
3 換気経路
4a,4b 表面板
5 戸