(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
紙基材の少なくとも一部に、繊維同士が密着され、前記紙基材よりも厚さが薄く密度が高いことで、前記紙基材よりも光透過性の高い凹形状のすかし模様が形成され、前記すかし模様の少なくとも一部に重畳して、前記紙基材と異なる色のインキから成る印刷模様の少なくとも一部が形成され、前記印刷模様と重畳する前記すかし模様は、前記すかし模様が形成されていない基材上の前記印刷模様と比べて、平滑性が高い印刷模様残存すかし模様であるすかし入り用紙の製造方法であって、
前記紙基材にあらかじめ形成された前記印刷模様の少なくとも一部に重畳して、超音波加工により、繊維同士が密着され、前記紙基材よりも厚さが薄く密度が高いことで、前記紙基材よりも光透過性の高い前記凹形状のすかし模様の少なくとも一部を形成することを特徴とするすかし入り用紙の製造方法。
前記超音波加工によって、前記すかし模様を形成する際に、部分的に高さが異なる型形状を有するホーン又はアンビルを用いるか又は部分的に前記超音波加工の条件を異ならせることで、前記凹形状の凹部の厚さ及び密度が部分的に異なった階調を有する前記すかし模様を形成することを特徴とする請求項1記載のすかし入り用紙の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるすかし入り用紙(1)の一例を示す図である。このすかし入り用紙(1)は、紙基材(2)上の一部に本発明におけるすかし模様(4a)が形成されているすかし模様形成領域(3)を有している。すかし入り用紙(1)には、すかし模様形成領域(3)の他に、料額、図柄、模様等が印刷されていてもよい。
【0025】
すかし模様形成領域(3)を設ける位置は、すかし入り用紙(1)のどの位置でもよく、すかし模様形成領域(3)の大きさは、すかし入り用紙(1)を透過して観察した場合に、目視により容易に認識することができるものであれば、特に限定するものではない。また、
図1のすかし入り用紙(1)は、2か所のすかし模様形成領域(3)を設けた例を示しているが、本発明のすかし入り用紙(1)に設けるすかし模様形成領域(3)の数は、1か所であってもよいし、2か所より多くてもよい。
【0026】
紙基材(2)は、主に繊維から成るものであり、紙基材(2)の例としては、紙、不織布等がある。なお、紙基材(2)は、繊維以外の製紙用薬品、てん料、顔料、染料、添加剤、塗工剤等を含んでいてもよい。
【0027】
紙基材(2)を構成する繊維の種類については、紙、不織布の一般的な材料として用いられる木材繊維、非木材繊維等の天然繊維、再生セルロース繊維、合成繊維、無機繊維等があり、これらの繊維を単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。なお、以降の説明では、紙基材(2)のことを、単に「基材(2)」として説明する。
【0028】
図2(a)は、
図1に示す、すかし模様形成領域(3)の拡大図である。また、
図2(b)は、
図2(a)におけるすかし模様形成領域(3)のX―X’線における断面図である。
図2(a)に示すように、すかし模様形成領域(3)は、少なくとも一部にすかし模様(4a)を備えている。
【0029】
図2(b)に示すように、すかし模様(4a)は、一方の面において基材(2)の表面よりも深く、凹形状になっており、基材(2)の厚さが薄く、繊維の密度が高くなっている。以下、すかし模様(4a)が形成されていない部分の基材(2)の厚さとすかし模様(4a)が形成された部分の基材の厚さを区別するため、すかし模様(4a)が形成されていない基材の厚さについては、そのまま「基材の厚さ」とし、すかし模様(4a)が形成された部分の厚さについては、「すかし模様の厚さ」又は単に「厚さ」と記載する。また、繊維の密度のことを単に「密度」として説明する。
【0030】
図3は、すかし模様形成領域(3)の一部を走査型電子顕微鏡で観察した拡大写真図である。
図3(a)は、すかし模様(4a)と基材(2)の平面拡大写真図である。
図3(b)は、
図3(a)のX―X´線におけるすかし模様(4a)と基材(2)の断面拡大写真図である。
【0031】
図3(a)を観察すると、基材(2)の表面では繊維1本ごとの形状が観察できるとともに、繊維間に空隙が存在する様子も観察できる。これに対して、すかし模様(4a)の部分は、繊維1本ごとの形状や空隙の存在を観察することができない。
図3(a)のすかし模様(4a)は、基材(2)の繊維間の空隙がなくなり、構成する繊維同士が付着し、一体化して形成したもので、繊維形状が消失した状態である。なお、本発明において、この状態を密着という。
図3(b)を観察すると、基材(2)の厚さに対して、すかし模様(4a)の厚さは薄くなっているとともに、繊維間の隙間がほとんどなく、密着し、密度が高くなっている様子が観察できる。
【0032】
図4は、本発明におけるすかし模様形成領域(3)の一部を透過光で観察した平面拡大写真図である。なお、
図4のすかし模様(4a)は、
図2のすかし模様形成領域(3)に形成された模様とは異なる例である。透過光で観察すると、基材(2)に対して、すかし模様(4a)の方が明るく見える。一般的に、光を透過する基材において、基材の厚さが薄くなると光の透過光量は高くなる。また、紙のような多孔質の基材では、光が透過する際に、基材の内部の空隙で光の散乱、屈折、吸収等が起きる。空隙が多い基材に比べて、空隙が少なく密度が高い状態になると、光の散乱や屈折する頻度が低下するので、光の透過光量は高くなる。本発明において、すかし模様(4a)が基材(2)に比べて、明るく見えるのは厚さが薄く、密度が高くなっているためである。なお、本発明において、すかし模様(4a)の明るく見える度合いは、厚さが薄く、かつ、密度が高い程、より明るく見える。
【0033】
本発明における透過光の光源は、可視光、赤外光等の基材を透過するものである。また、すかし模様(4a)を確認する方法は、光に透かしての目視での観察、スキャナ等で採取した画像での観察によるものをいう。
【0034】
本発明におけるすかし模様(4a)は、超音波溶着技術を用いて形成するものである。
【0035】
一般的に、超音波溶着技術とは、超音波ウェルダーとも呼ばれる超音波溶着機の振動子と固定された加工治具で被加工物である基材に圧力をかけて挟み、機械的な超音波振動によって瞬間的に摩擦熱を生じさせ、基材を溶着するものである。振動子とは、ホーンとも呼ばれ、超音波の振動エネルギーを効率よく伝達させるための共振体のことである。加工治具とは、アンビルとも呼ばれ、ホーンからの超音波振動を効率良く受け、ホーンとアンビルの間にある基材を溶着するためのものである。ホーン又はアンビルのどちらかの基材に接する面に特定の型形状を施すことにより、基材の超音波加工部の形は、特定の型形状を再現したものとなる。また、超音波溶着技術の特長としては、溶着部周辺への熱等の影響が全くないことである。
【0036】
ホーン又はアンビルのどちらかの被加工物に接する面に施す特定の型形状は、例えば、機械彫刻機、NC加工機、放電加工機等によって作製され、文字、模様、線画等の自由な形にすることができる。
【0037】
超音波溶着機には、スタンプ方式(プレス方式ともいう)及びミシン方式がある。スタンプ方式は、ホーンが垂直方向に下降して、被加工物である基材をアンビルで挟み、加工する方式である。スタンプ方式の特徴は、基材の一部に加工できることである。一方、ミシン方式とは、振動子が固定されており、特定の型形状が施されたアンビルがロール形状になっており、アンビルが回転して、布を縫うミシンのように加工する方式である。ロール形状のアンビルをローレットともいう。ミシン方式の特徴は、ウェブ状の被加工物に連続模様を加工できることである。本発明における超音波加工は、スタンプ方式とミシン方式のどちらでもよい。また、スタンプ方式は、超音波加工をしている間、被加工物が停止した状態であるが、ミシン方式は被加工物が動いて加工される。
【0038】
超音波溶着機のスタンプ方式の一例としては、日本ヒューチャア株式会社製の形式W5080がある。超音波溶着機のミシン方式の一例としては、スズキマシンリエンジニアリング株式会社製のローラー送り式超音波ウェルダーの形式1170デジタルモデルがある。
【0039】
図5は、スタンプ方式の超音波溶着機(10)により、本発明のすかし入り用紙(1)を作製するために、基材(2)を加工するときの一例である模式図を示したものである。
【0040】
本発明において、超音波溶着機(10)によって加工する基材(2)は、前述のように、繊維から成る紙又は不織布であって、いずれも乾いた状態の基材(2)を対象に行われる。ただし、ここでいう乾いた状態とは、具体的な基材(2)の水分の値を限定するものではなく、紙の製造工程、例えば、抄紙機のドライヤで一度乾燥させた紙のことで、特許文献2のように、あらかじめ作製された紙又は不織布の基材(2)に対して、故意的に加湿することのない状態のことである。
【0041】
ホーン(5)とアンビル(6)は金属製であり、アンビル(6)の被加工物である基材(2)と接する面に、すかし模様(4a)に対応した型形状(8)が施されている。ホーン(5)とアンビル(6)の間に基材(2)を置き、アンビル(6)は台座(7)に固定された状態であり、ホーン(5)が下降し、基材(2)を挟んだ瞬間に、超音波振動が発振され、アンビル(6)の型形状(8)の部分に超音波による摩擦熱が発生し、該部分の基材(2)が密着した状態になる。超音波溶着機の加工によって、基材(2)が密着した部分は、前述のように、光の透過光量が高くなっており、アンビル(6)に施された型形状(8)が、基材(2)にすかし模様(4a)として形成されることとなる。なお、
図5の超音波溶着機(10)では、アンビル(6)に、すかし模様(4a)に対応した型形状(8)が施されているが、ホーン(5)に、すかし模様(4a)に対応した型形状が施されていてもよい(図示せず)。
【0042】
超音波溶着機は、出力、周波数、振幅、圧力、時間等の加工条件を調整することにより、すかし模様の厚さ及び密度を部分的に変えることで、階調のあるすかし模様を形成することができる。以下、階調のあるすかし模様を形成する方法について説明する。
【0043】
図6(a)は、すかし入り用紙(1)のすかし模様形成領域(3)に、異なる超音波溶着条件で加工したすかし模様(4c、4d)の断面図であり、
図6(a)は、すかし模様(4c)を加工した後に、超音波溶着条件を変えて、すかし模様(4d)を加工したものである。すかし模様(4d)は、すかし模様(4c)よりも厚さが薄くなっていることが分かる。
図6(a)の模式図では分かりにくいが、すかし模様(4d)の密度は、すかし模様(4c)よりも高い状態である。これは、超音波溶着機の出力、周波数、振幅、圧力、時間等を変更したことによるものである。例えば、圧力のみを高くした場合、基材を押さえる力が高くなるので、基材を構成する繊維がより密着し、薄くなる。また、加工時間を長くした場合も、超音波振動による摩擦熱が発生する積算量が多くなるので、基材を構成する繊維がより密着し、薄くなる。
図6(a)のすかし模様形成領域(3)を透過光で観察すると、すかし模様(4d)はすかし模様(4c)に比べて、厚さが薄く、密度が高いことで、光を透過する量が多くなるので、明るく観察される。また、すかし模様(4d)はすかし模様(4c)に比べて、光学センサでの読取時に高い透過光量の値が検出される。このように、本発明において、階調のあるすかし模様とは、厚さと密度が部分的に異なることで、すかし模様の中に、明るい部分と暗い部分を含んで形成されたすかし模様のことである。
【0044】
このようにして、同じ基材に異なる超音波溶着条件で加工したすかし模様を二つ以上加工することで、2階調、3階調のように部分的に明るさが異なるすかし模様を形成することができる。
【0045】
図6(b)は、同じ超音波溶着条件で、高さが異なる型形状を用いて、加工したすかし模様(4e、4f、4g)を示す。
図6(b)のすかし模様は、一度の超音波溶着で形成されたものである。すかし模様(4e)に比べて、すかし模様(4f)は厚さが薄くなっており、すかし模様(4g)は更に薄くなっている。また、すかし模様の密度は、すかし模様(4g)>すかし模様(4f)>すかし模様(4e)の順で高くなっている。すかし模様(4e、4f、4g)は、厚さと密度が異なることから、
図6(b)のすかし模様を透過光で観察すると、すかし模様(4g)>すかし模様(4f)>すかし模様(4e)の順で明るさが異なるすかし模様を確認することができる。
【0046】
図6(b)のすかし模様を加工するために使用した型形状の高さは、すかし模様(4g)>すかし模様(4f)>すかし模様(4e)の順で高いものである。本方法では、一度の加工で異なる階調のすかし模様を加工できるメリットがある。
【0047】
図6(c)は、同じ超音波溶着条件で、傾斜を付けた型形状を用いて、加工したすかし模様(4h)を示す。
図6(c)のすかし模様(4h)は、一度の超音波溶着で形成されたものである。
図6(a)及び
図6(b)のすかし模様は、超音波加工時に、基材と接する表面が水平な状態の型形状を用いるのに対して、
図6(c)のすかし模様(4h)は、基材と接する面の表面が傾斜している型形状を用いて加工される点が異なる。傾斜をつけた型形状を用いて形成したすかし模様(4h)は、厚さ及び密度が連続的に変化しており、透過光で観察した場合に、明るさが連続的に変化し、階調のあるすかし模様となる。なお、階調が異なるすかし模様を形成する方法として、前述した方法を組み合わせてもよい。
【0048】
以上に説明した加工方法によれば、あらかじめ作製された紙に直接、加工を行うことで、外観品質を損なうことなく、かつ、強度が低下することのない、すかし入り用紙(1)を作製することができる。また、本発明のすかし入り用紙(1)は、基材(2)を構成する繊維が溶着していることから、基材内部の繊維間結合が強くなり、改ざん防止効果が得られるとともに、堅ろう性が高い。続いて、第1の実施の形態のすかし入り用紙(1)を形成するための、より好ましい方法について説明する。
【0049】
一つ目のすかし入り用紙(1)を形成するための好ましい方法としては、本発明におけるすかし模様(4a)を形成する際に、アンビル(6)の型形状が変わる機構にすることで、基材1枚ごとに異なる固有識別情報となるすかし模様(4a)を施す方法である。アンビル(6)の型形状が変わる機構とは、例えばナンバリング装置のようなものをいう。ナンバリング装置とは、印刷機にセットして番号等を用紙へ印刷するものであり、印刷するごとに自動的に番号が繰り上がる機構となっている。ナンバリング印刷は、IDカード、チケット、切符、回数券、伝票、紙幣、商品券等で使用されている。ナンバリング装置の印字部分は、金属製であり、番号を繰り上げる機構には、電子式、ロータリー式がある。このようなナンバリング装置の印字部分を型形状として用いることで、基材ごとに異なるすかし模様(4a)を形成することができる。なお、ナンバリング装置の印字部分が備える図柄は、数字に限定されず、文字、記号、他の模様とすることも可能である。
【0050】
また、基材ごとに異なるすかし模様(4a)を形成する別の例としては、一枚の金属板に異なる模様の型形状をあらかじめ形成しておき、金属板をXYステージに固定して、所望とする模様に対応した型形状を超音波加工部に移動させることで可能である。
【0051】
固有識別情報としてすかし模様(4a)を形成する場合、例えば、パスポート、通帳等の基材(2)に、あらかじめ印刷されている持ち主の名前、性別、生年月日、冊子番号等の情報又はそれらの情報の一部を、すかし模様(4a)として後から形成することができる。これにより、あらかじめ印刷された情報と、すかし模様(4a)の照合によって真偽判別の手段とすることができる。なお、あらかじめ印刷された情報を暗号化したものをすかし模様(4a)として形成することで、偽造防止効果を付与することができる。このように、印刷された情報と関連性のある情報のすかしを、抄紙工程で形成することは困難であるが、後からすかし模様(4a)を形成する本発明では、容易に可能となる。
【0052】
二つ目のすかし入り用紙(1)を形成するための好ましい方法としては、
図7に示すように、超音波溶着機(10)により基材(2)を加工するときに、クッション材(9)を用いる方法である。
図7(a)に示すように、すかし模様(4a)に対応した型形状(8)が、アンビル(6)に施されている場合、超音波溶着を行う際に、基材(2)をアンビル(6)とクッション材(9)で挟んで加工を行うことにより、超音波溶着加工時の出力、周波数、振幅、時間等の加工条件が同じ場合に、クッション材(9)を用いない場合に比べて、強い超音波溶着状態を得ることができる。すなわち、超音波溶着機の加工条件が同じ場合で、クッション材(9)を用いた場合には、厚さがより薄く、密度がより高いすかし模様(4a)が得られる。また、
図7(b)に示すように、すかし模様(4a)に対応した型形状(8)がホーン(5)に施されている場合は、基材(2)をホーン(5)とクッション材(9)で挟んで加工を行う。
【0053】
クッション材(9)には、超音波溶着加工時に紙基材(2)と熱溶着しない材質が適している。また、クッション材(9)の弾性率は、型形状(8)の弾性率よりも高くなければならない。このような特性を有するクッション材(9)の具体例としては、紙、不織布等がある。クッション材(9)の厚みは、基材(2)よりも厚いことが望ましいが、薄い場合は複数枚を重ねてもよい。
【0054】
クッション材(9)を用いることで、強い超音波溶着状態を得ることができる理由は、クッション材(9)が、型形状が施されたアンビル(6)の押し込みを吸収し凹むために、間に配置している基材(2)へ超音波の振動が十分に伝わるためである。
【0055】
クッション材を用いる方法は、薄い基材(2)にすかし模様(4a)を形成する場合に、特に効果が高い。薄い基材(2)とは、基材の厚さが150μm以下の紙、不織布等をいう。
【0056】
(第2の実施の形態)
図8は、本発明の第2の実施の形態におけるすかし入り用紙(1)の一例を示す図である。第2の実施の形態のすかし入り用紙(1)は、すかし模様形成領域(3)の少なくとも一部に印刷模様(11)が印刷されており、印刷模様(11)は、すかし模様(4a)の少なくとも一部に重畳して形成される。なお、第2の実施の形態は、すかし模様形成領域(3)の構成が第1の実施の形態と異なり、基材(2)を構成する繊維、すかし模様の位置、大きさ等については、第1の実施の形態と同じであるため説明を省略し、第1の実施の形態と異なる点について説明する。また、第2の実施の形態において、印刷模様(11)は、
図8に示す「星型」の例で説明するが、印刷模様(11)は、星型に限定されるものではなく、数字、記号、マーク等の他の模様であってもよい。印刷模様(11)は基材と異なる色で印刷される。ここで、基材と異なる色とは、明度、彩度及び色相の少なくとも一つが異なっていればよい。
【0057】
印刷模様(11)は、第2の実施の形態のすかし模様を形成する前に、基材(2)に印刷される。印刷模様(11)の印刷方法は、凹版印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、凸版印刷、インクジェットプリンタ、レーザープリンタ等での印刷、コピー機等での複写印刷等で形成されたものである。また、これらの印刷方法を組み合わせてもよい。
【0058】
図9(a)は、
図8に示す、すかし模様形成領域(3)の拡大図である。また、
図9(b)は、
図9(a)におけるすかし模様形成領域(3)のX―X’線における断面図である。
図9(a)に示すように、すかし模様形成領域(3)は、少なくとも一部に印刷模様(11)が印刷されており、すかし模様(4a)の少なくとも一部に重畳して印刷模様(11)が形成される。すかし模様を形成する方法は、第1の実施の形態と同じであり超音波溶着技術により行われる。なお、印刷模様(11)が重畳したすかし模様のことを以降、印刷模様残存すかし模様(4b)という。
【0059】
図9(b)に示すように、印刷模様残存すかし模様(4b)は、一方の面において、印刷模様(11)の図柄が表面に残存しており、基材(2)の表面よりも深く、凹形状になっており、厚さが薄く、密度が高くなっている。なお、
図9(b)において、印刷模様残存すかし模様(4b)の上の印刷模様(11)と基材(2)の上の印刷模様(11)は、連続的に繋がった状態を示しているが、
図9(c)に示すように、印刷模様(11)が連続的に繋がることなく、途中で破断した構成であってもよい。凹形状の深さが深い程又は印刷模様(11)を形成するインキの耐折れ曲げ性が低い程、印刷模様(11)が途中で破断しやすくなる。ただし、いずれの構成であっても、真上から観察した場合に印刷模様(11)として視認することができる。
【0060】
図10は、本発明の第2の実施の形態におけるすかし模様形成領域(3)の一部を透過光で観察した平面拡大写真図である。なお、
図10のすかし模様形成領域(3)は、
図8及び
図9のすかし模様形成領域(3)に形成された模様とは異なる例である。透過光で観察すると、基材(2)に対して、すかし模様(4a)の方が明るく見える。また、基材(2)に印刷した印刷模様(11)に対して、印刷模様残存すかし模様(4b)の方が明るく見える。これは、印刷模様残存すかし模様(4b)が印刷模様(11)に比べて、厚さが薄く、密度が高くなっているためである。また、印刷模様残存すかし模様(4b)のインキが光を透過するためである。
【0061】
本発明における印刷模様残存すかし模様(4b)は、基材(2)に印刷模様(11)を形成した後に、超音波溶着技術を用いて形成するものである。その際、
図9及び
図10において、印刷模様残存すかし模様(4b)の上の印刷模様(11)は、すかし模様(4a)が形成されていない基材(2)の上の印刷模様(11)と比べて、平滑性が高くなっている。これは、印刷模様残存すかし模様(4b)が形成された部分の繊維の密着によって基材の平滑性が向上するとともに、印刷模様(11)を構成するインキ膜自体も、超音波加工によって加圧されて平滑性が向上するためである。なお、超音波溶着技術、加工条件等については、前述したすかし模様(4a)を形成する場合と同様である。また、印刷模様残存すかし模様(4b)についても、加工条件の変更や高さが異なる型形状を用いることで、透過光量の階調を変えることができる。
【0062】
図8及び
図9では、印刷模様(11)の一部とすかしの一部が重複して、印刷模様残存すかし模様(4b)が形成された例であるが、第2の実施の形態は、これに限定されるものではなく、
図11(a)に示すように、印刷模様(11)の全体がすかし模様(4a)の一部に重畳する構成でもよいし、
図11(b)に示すようにすかし模様(4a)の全体が印刷模様(11)の一部に重畳する構成でもよい。
【0063】
以上に説明した加工方法によれば、あらかじめ印刷された紙に直接、加工を行うために、特許文献2のように、すかしを形成するために基材を加湿及び乾燥させる必要がない。そのため、紙に皺、うねり等が発生しないので、外観品質を低下させることがない。また、本発明のすかし入り用紙(1)は、基材(2)の一部や印刷模様(11)を消失することがないので、印刷模様(11)の画線切れが起きることがない。また、抄紙機で形成したすかしは、繊維量の違いにより凹凸がある場合がある。凹凸のあるすかしに、後から印刷した場合、平滑でないために、印刷適性が劣り、画線切れが生じるが、本発明では印刷画線を消失することがなく、印刷模様とすかし模様を両立させることができる。
【0064】
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した偽造防止印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
図12は、本発明の実施例1におけるすかし入り用紙(1−1)を示す。このすかし入り用紙(1−1)は、基材(2−1)上の一部に本発明におけるすかし模様(4a−1)が形成されているすかし模様形成領域(3−1)を有している。すかし入り用紙(1−1)には、すかし模様形成領域(3−1)の他に、図柄、模様等が印刷されている。
【0066】
実施例1においては、基材の厚さ90μm、坪量70g/m
2の上質紙を、基材(2−1)として用いた。密着は超音波溶着機(スタンプ形:日本ヒューチャア株式会社製W5080)を用いて、表1に示す加工条件ですかし模様(4a−1)を形成した。なお、すかし模様(4a−1)が形成された部分の厚さは、75μmであった。
【0068】
表1に示す加工条件で形成したすかし入り用紙(1−1)を蛍光灯にかざして、すかし模様(4a−1)を観察した結果、すかし模様(4a−1)が基材(2−1)よりも明るい様子が目視で観察された。また、透過型スキャナを用いて、すかし模様(4a−1)と基材(2−1)の可視光による透過光画像を採取し、画像処理ソフトにより透過光量値を求めた。スキャナによる可視光透過画像の取込条件は、スキャナ:ES−2200(EPSON社製)、ドライバ:Ver.2.75、解像度:100dpi、イメージ:8ビットグレー、濃度補正:0〜255、ICM:ターゲットsRGBとした。測定した結果、基材(2−1)の透過光量値が96であったのに対して、すかし模様(4a−1)は121であった。この数値が大きいほど、明るいことを示す。このことから、すかし模様(4a−1)が目視及び機器により、明るく認識できた。
【0069】
(実施例2)
図13は、本発明の実施例2におけるすかし入り用紙(1−2)を示す。このすかし入り用紙(1−2)は、基材(2−2)上の一部に本発明における印刷模様残存すかし模様(4b−1)が形成されているすかし模様形成領域(3−2)を有している。すかし入り用紙(1−2)には、すかし模様形成領域(3−2)の他に、料額、図柄、模様等が印刷されている。
【0070】
実施例2においては、基材(2−2)に上質紙を用いて、印刷模様(11−2)をレーザープリンタで印刷した。印刷模様(11−2)を印刷した後に、超音波溶着機(スタンプ形:日本ヒューチャア株式会社製W5080)を用いて、表2に示す加工条件で印刷模様残存すかし模様(4b−1)を形成した。印刷模様残存すかし模様(4b−1)を形成する際には、超音波溶着機のアンビルに電子制御式番号器を用いて、1枚ごとに異なる文字及び数字を形成した。
【0072】
表2に示す加工条件で形成したすかし入り用紙(1−2)を蛍光灯にかざして、印刷模様残存すかし模様(4b−1)を目視で観察した結果、印刷模様残存すかし模様(4b−1)が基材(2−2)よりも明るく観察された。また、印刷模様残存すかし模様(4b−1)をルーペで拡大して観察したところ、印刷模様(11−2)が残存していることも確認された。これは、レーザープリンタのインキが超音波溶着による摩擦熱で消失しない堅ろう性を有しているためである。また、超音波溶着の際に、アンビルに電子制御式番号器を用いたことにより、1枚ごとに印刷模様残存すかし模様(4b−1)の数字が異なるすかし入り用紙を作製することができた。
【0073】
(実施例3)
実施例3は、基材(2−3)に、実施例1と同じ上質紙を用い、実施例1の加工条件において、更に、クッション材(9)を用いて超音波溶着加工を施したすかし入り用紙(1−3)である。クッション材(9)には、坪量75g/m
2、107μmの上質紙1枚を用いた。
【0074】
図14(a)は、本発明の実施例3におけるすかし入り用紙(1−3)を透過光で観察した写真を示す。また、比較のため、同じ加工条件で、クッション材(9)を用いないで加工したすかし入り用紙を
図14(b)に示す。
図14(a)に示すように、クッション材を用いて加工したすかし入り用紙の方が、すかし模様(4a)が明るく鮮明に観察される。これは、基材(2)の繊維を密着させている度合いが強いためである。なお、
図14(a)のすかし模様(4a)が形成された部分の厚さは45μmであり、超音波溶着機の加工条件が同じ場合でも、クッション材を用いることで、より強い超音波溶着状態が得られた。