特許第6656919号(P6656919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許66569195−オキソプロリナーゼ、5−オキソプロリナーゼ遺伝子、および5−オキソプロリナーゼの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656919
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】5−オキソプロリナーゼ、5−オキソプロリナーゼ遺伝子、および5−オキソプロリナーゼの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20200220BHJP
   A23L 27/21 20160101ALI20200220BHJP
   A23L 27/24 20160101ALI20200220BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20200220BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20200220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20200220BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20200220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20200220BHJP
   C12N 9/78 20060101ALI20200220BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   A23L5/00 J
   A23L27/21 Z
   A23L27/24
   A23L29/00
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12N9/78ZNA
   C12N15/55
【請求項の数】5
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2015-500301(P2015-500301)
(86)(22)【出願日】2014年2月14日
(86)【国際出願番号】JP2014053426
(87)【国際公開番号】WO2014126186
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2017年1月31日
【審判番号】不服2018-14254(P2018-14254/J1)
【審判請求日】2018年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-27844(P2013-27844)
(32)【優先日】2013年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】真中 純子
(72)【発明者】
【氏名】仲原 丈晴
【合議体】
【審判長】 長井 啓子
【審判官】 天野 貴子
【審判官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−66566(JP,A)
【文献】 特開昭59−37947(JP,A)
【文献】 特開平8−252075(JP,A)
【文献】 B8NXJ6(B8NXJ6_ASPFN),UniProtKB [online],2009年3月3日,Entry name B8NXJ6_ASPFN,Primary accession no. B8NXJ6,[2019年11月6日検索],インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/B8NXJ6>
【文献】 I8THJ4(I8THJ4_ASPO3),UniProtKB [online],2012年10月3日,Entry name I8THJ4_ASPO3,Primary accession no. I8THJ4,[2019年11月6日検索],インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/I8THJ4>
【文献】 B8NXH1(B8NXH1_ASPFN),UniProtKB [online],2012年10月3日,Entry name B8NXH1_ASPFN,Primary accession no. B8NXH1,[2019年11月6日検索],インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/B8NXH1>
【文献】 I7ZNV1(I7ZNV1_ASPO3),UniProtKB [online],2012年10月3日,Entry name I7ZNV1_ASPO3,Primary accession no. I7ZNV1,[2019年11月6日検索],インターネット<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/I7ZNV1>
【文献】 Nierman, W. C.,Aspergillus flavus NRRL3357 scf_1106286417242, whole Genome shotgun sequence.,NCBI Nucleotide Database[online],2009年5月27日,Database accession No. NW_002477251, [2014年2月26日検索],インターネット<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NW_002477251.1?report=genbank&from=19>
【文献】 Oxoprolinase.,NCBI Protein Database,[retrieved on 2014−02−26],2006年10月31日,Database accesion No. Q2TY24,Retrieed from the Ingernet:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q2TY24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus(JDream3)
PubMed
BIOSIS/CAPLUS/EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
Uniprot/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)の5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列を有し5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質、又は配列番号2のアミノ酸配列を有し5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質、
(b)配列番号1および2のいずれかで表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質
を含む、飲食品用のうま味改善剤。
【請求項2】
下記の酵素学的性質を有し、5−オキソプロリナーゼ活性を有する、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)由来であるタンパク質
i)作用:L−ピログルタミン酸をL−グルタミン酸に変換する
ii)分子量:タンパク質のポリペプチド鎖部分の分子量が140kDaであるかまたはSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定した場合に約140kDaである
iii)至適pH:pH7.0〜pH8.0である
iv)安定pH:pH6.0〜pH9.0である
v)温度安定性:Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中、37℃で15分間処理後に80%以上の活性が残存する
vi)至適温度:Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中、25℃〜45℃である
vii)ATP、1価カチオン、および2価カチオン要求性を示す
を含む、飲食品用のうま味改善剤。
【請求項3】
以下の(e)または(f)のDNAを有する、5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質をコードする5−オキソプロリナーゼ遺伝子
(e)配列番号4、5、56および57のいずれかで表される塩基配列を有するDNA
(f)配列番号4、5、56および57のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
によりコードされる5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質を含む、飲食品用のうま味改善剤。
【請求項4】
(e)配列番号4、5、56および57のいずれかで表される塩基配列を有するDNA、又は
(f)配列番号4、5、56および57のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
を含む組換えベクターを含む形質転換体または形質導入体を含む、飲食品用のうま味改善剤。
【請求項5】
L−ピログルタミン酸を含有する飲食品と請求項1、2又は3に記載のうま味改善剤に含まれるタンパク質を混合する、または、L−ピログルタミン酸を含有する飲食品を請求項に記載のうま味改善剤に含まれる形質転換体または形質導入体を用いて発酵させることを含む、うま味のある飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−オキソプロリナーゼ、5−オキソプロリナーゼ遺伝子、および5−オキソプロリナーゼの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
しょうゆ、酵母エキス、あるいは発酵調味料等の製造において、エンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼによる酵素的分解、あるいは酸による化学的分解等により、大豆、小麦、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質原料から遊離されるL−グルタミン酸(「うま味」成分)が、熱や圧力の存在下、非酵素的な反応によってL−ピログルタミン酸(うま味を有さない)へと変化し、その結果、うま味が低下してしまう現象が報告されている(非特許文献1)。この課題に対する方策として、これらの食品に5−オキソプロリナーゼを作用させる酵素分解型調味料が提案されている(特許文献1)。特許文献1に開示されている5-オキソプリナーゼはパン酵母由来であり、そのアミノ酸配列の記載はない。
【0003】
5−オキソプロリナーゼ(5−oxoprolinase、5−oxo−L−prolinase)は、国際生化学連合の酵素委員会による分類基準においてEC 3.5.2.9に分類され、ピログルタマーゼ(pyroglutamase)、ピログルタミン酸加水分解酵素(pyroglutamic hydrolase、pyroglutamate hydrolase)、ピロリドンカルボン酸加水分解酵素(L−pyrrolidone carboxylate)とも称される酵素である。5−オキソプロリナーゼは、L−ピログルタミン酸(L−pyroglutamic acid、5−オキソプロリン、5−oxoproline、5−oxo−L−proline、(S)−5−オキソピロリジン−2−カルボン酸等ともいう)をHOおよびATPの存在下で加水分解し、うま味成分として知られているL−グルタミン酸とリン酸を生成する反応を触媒する。
【0004】
L−ピログルタミン酸+2HO+ATP → L−グルタミン酸+ADP+リン酸
上述の通り、5−オキソプロリナーゼは、L−ピログルタミン酸からL−グルタミン酸を生成できるので、L−ピログルタミン酸を含有する飲食品に作用させることにより、該飲食品中のL−グルタミン酸含有量を増加させて、うま味を向上させることが期待される。
【0005】
また、飲食品のうま味向上以外に期待される5−オキソプロリナーゼの用途としては、例えば、5−オキソプロリナーゼがL体に特異的に作用することを利用して、ピログルタミン酸やグルタミン酸のラセミ体からの光学異性体の分離が挙げられる。さらに、食品、血清、尿中等に含まれるL−ピログルタミン酸を定量する目的で、5−オキソプロリナーゼを利用することも可能である。このように、5−オキソプロリナーゼには、多岐に渡る産業上の用途が期待される。
【0006】
これまでに、いくつかの生物種から、5−オキソプロリナーゼ活性が確認され、酵素の抽出や酵素学的性質の解析がなされている。例えば、ラット(肝臓(非特許文献2)、腎臓(非特許文献3))、シュードモナス(Pseudomonsas)属(非特許文献4)、小麦胚芽(非特許文献5)、アルカリゲネス(Alcaligenes)属(非特許文献6)の5−オキソプロリナーゼが知られている。また、パン酵母において、5−オキソプロリナーゼタンパク質を強制発現させた例がある(非特許文献7)。
【0007】
しかし、先に述べたような多岐にわたる用途が期待されている酵素であるにも関わらず、今日まで、上述の各種公知の酵素を含め、5−オキソプロリナーゼが産業上利用可能な製品として量産され、市販されている実績はなく、各種用途に好適に利用可能な5−オキソプロリナーゼが提供されることが強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−252075号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】醤油の化学と技術、栃倉辰六郎編、181頁,日本醸造協会
【非特許文献2】Scand. J. Clin. Lab. Invest. 32, 233−237, 1973
【非特許文献3】Proc. Nat. Acad. Sci USA 68, 2982−2985,1971
【非特許文献4】Biochem. Biophys. Res. Commun. 56, 90−96, 1974
【非特許文献5】Plant Physiol. 62, 798−801, 1978
【非特許文献6】Agric. Biol. Chem. 52, 735−741, 1988
【非特許文献7】FEMS Yeast Res. 10, 394-401, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、各種用途に好適に利用可能な5−オキソプロリナーゼ、例えば、飲食品のうま味向上や、ラセミ体からの光学異性体の分離、L−ピログルタミン酸の定量等の用途に好適に使用できる5−オキソプロリナーゼを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者等は、鋭意検討の結果、アスペルギルス属に属する微生物から、従来報告されていた各種5−オキソプロリナーゼとは酵素学的性質が顕著に異なる新規な5−オキソプロリナーゼを見出し、この酵素タンパク質をコードする遺伝子を単離した。さらに、この5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含有する微生物又は該5−オキソプロリナーゼ生産能を有する微生物を培地に培養し、得られる培養物から5−オキソプロリナーゼを採取して、この酵素が各種産業上の用途において好適に利用可能な性質を有していることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は、以下に関する。
【0013】
(1)以下の(a)または(b)の5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質。
(a)配列番号1および2のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列を有し5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質
(b)配列番号1および2のいずれかで表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質
(2)下記の酵素学的性質を有し、5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質。
i)作用:L−ピログルタミン酸をL−グルタミン酸に変換する
ii)分子量:タンパク質のポリペプチド鎖部分の分子量が約140kDaである
iii)至適pH:pH7.0〜pH8.0である
iv)安定pH:pH6.0〜pH9.0である
v)温度安定性:Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中、37℃で15分間処理後に80%以上の活性が残存する
vi)至適温度:Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中、25℃〜45℃である
vii)ATP、1価カチオン、および2価カチオン要求性を示す
(3)アスペルギルス属に属する微生物由来である、上記(2)に記載の5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質。
(4)アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)由来である、上記(3)に記載の5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質。
(5)以下の(c)または(d)の5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質をコードする5−オキソプロリナーゼ遺伝子。
(c)配列番号1および2のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列を有し5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質
(d)配列番号1および2のいずれかで表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が、付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有し5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質
(6)以下の(e)または(f)のDNAを有する5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質をコードする5−オキソプロリナーゼ遺伝子。
(e)配列番号4、5、56および57のいずれかで表される塩基配列を有するDNA
(f)配列番号4、5、56および57のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(7)上記(5)または(6)記載の5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含む組換えベクター。
(8)上記(7)記載の組換えベクターを含む形質転換体または形質導入体。
(9)上記(8)記載の形質転換体または形質導入体を培地に培養し、得られる培養物から5−オキソプロリナーゼを採取することを特徴とする5−オキソプロリナーゼの製造法。
(10)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質、上記(5)もしくは(6)に記載の遺伝子によりコードされる5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質、または上記(8)記載の形質転換体もしくは形質導入体を含む、飲食品用のうま味改善剤。
(11)L−ピログルタミン酸を含有する飲食品と上記(10)記載のうま味改善剤に含まれるタンパク質を混合する、または、L−ピログルタミン酸を含有する飲食品を上記(10)記載のうま味改善剤に含まれる形質転換体または形質導入体を用いて発酵させることを含む、うま味のある飲食品の製造方法。
(12)L−ピログルタミン酸とD−ピログルタミン酸の分割方法であって、以下の工程、
(i) L−ピログルタミン酸およびD−ピログルタミン酸を含む溶液に、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質または(5)もしくは(6)に記載の遺伝子によりコードされる5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質を作用させ、L−ピログルタミン酸をL−グルタミン酸へと加水分解する工程、および
(ii)工程(i)において生成したL−グルタミン酸とD−ピログルタミン酸を分離する工程、
を含む前記方法。
【0014】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2013-027844号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上述の各種用途に好適に利用できる新規な5−オキソプロリナーゼを提供できる。本発明の一態様において、本発明の5−オキソプロリナーゼは、公知の酵素よりもpH変化の影響を受けにくく、広範なpHで用いることができる。さらに、本発明の一態様において、本発明の5−オキソプロリナーゼは、基質との親和性も高い。加えて、本発明の5−オキソプロリナーゼの由来微生物の例であるアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)やアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus Tamarii)等は、味噌・醤油・日本酒・焼酎などの各種醸造食品の製造に古くから使われ、長い食経験のある微生物であり、特に、飲食品への利用という用途に対しては、安全の観点からも優れており、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の5−オキソプロリナーゼおよび酵母由来5−オキソプロリナーゼの至適pHを示す図である。
図2】本発明の5−オキソプロリナーゼおよび酵母由来5−オキソプロリナーゼのpH安定性を示す図である。
図3】アスペルギルス属菌発現用カセット作製用プラスミドpAsAlpPの構造の概略を示す図である。5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子としては、scaffold00004.806、scaffold00004.820、scaffold00036.1302が挙げられる。
図4】アスペルギルス・ソーヤの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のエクソン−イントロン構造の予測図である。括弧内は塩基数を示す。
図5】アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質をアスペルギルス・ソーヤにおいて発現させた菌体抽出液およびNi−NTA Superflowカラムにより精製したタンパク質のSDS−PAGE後のゲルのCBB染色像を示す図である。
図6】アスペルギルス属菌で発現させた3種のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質の添加量と、反応後の反応液中のL−グルタミン酸濃度の関係を示す図である。
図7】反応系に添加した1価カチオンの種類と相対活性の関係を示す図である。
図8】反応系に添加した2価カチオンの種類と相対活性の関係を示す図である。
図9】本発明の5−オキソプロリナーゼおよび酵母由来5−オキソプロリナーゼの至適温度を示す図である。
図10】本発明の5−オキソプロリナーゼおよび酵母由来5−オキソプロリナーゼの温度安定性を示す図である。
図11】本発明の5−オキソプロリナーゼの基質特異性を示す図である。
図12】アスペルギルス属菌で発現させたアスペルギルス・オリゼ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質の添加量と、反応後の反応液中のL−グルタミン酸濃度の関係を示す図である。
図13】トマトエキス希釈液と本発明の5−オキソプロリナーゼとの反応後の、反応液中のグルタミン酸濃度、およびピログルタミン酸濃度の関係を示す図である。(括弧内は、酵素未添加を100としたときの相対値を示す。)
図14】濃口しょうゆ希釈液と本発明の5−オキソプロリナーゼとの反応後の、反応液中のグルタミン酸濃度、およびピログルタミン酸濃度の関係を示す図である。(括弧内は、酵素未添加を100としたときの相対値を示す。)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
(5−オキソプロリナーゼの活性測定法)
本発明の5−オキソプロリナーゼ(以下、文脈により「本酵素」という)の活性は、FEMS Yeast Res.(Vol.10、394頁〜401頁、2010年)に記載の方法を改変した方法により測定することができる。本方法においては、L−ピログルタミン酸の分子内アミド結合が加水分解されて生じるL−グルタミン酸を測定することにより酵素活性を算出する。L−グルタミン酸量の測定には、L−グルタミン酸オキシダーゼ等、L−グルタミン酸に働く酵素を用いた方法や、液体クロマトグラフィー等を用いることができ、例えば、下記の測定法を用いることができる。
【0019】
[測定法1]
基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸(MP Biomedicals社製、製造番号102781)、6.25mM ATP、12.5mM MgCl、187.5mM KCl、pH8.0〕0.08mLと、活性測定対象の酵素溶液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で任意の濃度に希釈して調製する)0.02mLを混合し、37℃で1時間酵素反応を行わせる。次いで、前記酵素反応液を100℃、3分間加熱して酵素反応を停止後、酵素反応液中のL−グルタミン酸濃度を測定する。加熱後の反応液は、必要に応じ、遠心分離(15,000×g、10分間)した上清をL−グルタミン酸の測定に用いてもよい。なお、その他本明細書に記載の試薬は、特に記載のない限り、和光純薬工業社製、ナカライテスク社製、Sigma社製、同仁化学研究所社製、ベクトン・ディッキンソン社製、日本製薬社製、タカラバイオ社製等の試薬、純度に区別のあるものは特級グレードの試薬を用いる。
【0020】
L−グルタミン酸の定量には、「ヤマサL−グルタミン酸検出キットII」(ヤマサ醤油社製、L−グルタミン酸オキシダーゼが含まれる)を用い、酵素反応液0.02mLに対し、前記キットのL−グルタミン酸検出用発色試薬0.15mLを混合、あるいは、酵素反応液0.03mLに対し、L−グルタミン酸検出用発色試薬0.12mLを混合し、20〜30分間、室温で反応後の600nmの吸光度を測定し、L−グルタミン酸標品による検量線に基づいて、酵素反応液中のL−グルタミン酸濃度を算出する(測定値)。また、前記基質溶液の代わりに緩衝液を加えて同様に反応を行い、反応液中のL−グルタミン酸濃度を算出する(ブランク値)。得られた「ブランク値」と「測定値」から下式に基づいて、5−オキソプロリナーゼの活性が計算できる。酵素活性の単位は、前述の条件下で1分間に1μmolのL−グルタミン酸を生成する酵素量を1単位(U)と定義する。
【数1】
【0021】
なお、式中の[Glu]は酵素反応液におけるL−グルタミン酸濃度(測定値)、[Glu blank]は50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を基質溶液の代わりに添加した反応液のL−グルタミン酸濃度(ブランク値)、[enzyme]は反応液中の5−オキソプロリナーゼの濃度、60は1時間の分数を表す。
【0022】
(本発明の5−オキソプロリナーゼの酵素学的性質)
実施の一態様においては、本発明の5−オキソプロリナーゼは、以下の酵素学的性質を有する。
【0023】
(1)作用:分子内アミド結合を有するL−ピログルタミン酸を加水分解する。
【0024】
(反応例:
L−ピログルタミン酸+2HO+ATP → L−グルタミン酸+ADP+リン酸)
(2)要求性:本酵素は、ATP、1価カチオン、2価カチオン要求性を示す。
【0025】
(3)至適pHおよび安定pH範囲:前述の測定法1を用い、緩衝液のpHを変化させ、各pHにおいて本酵素の活性を測定したとき、本酵素の至適pHはpH7.0〜pH8.0である(図1参照)。図1に示す通り、本酵素は前記至適pH範囲において、最大活性の70%以上を保持し得る。
【0026】
また、本酵素液を、測定法1を用い、pH4.0〜11.0の範囲において、4℃、16時間処理した後の残存活性を測定した場合において、本酵素の安定pH範囲はpH6.0〜9.0である(図2参照)。図2に示す通り、本酵素は前記安定pH範囲で処理した場合において、最大活性の70%以上を保持し得る。また、本酵素はpH5.0以下およびpH11.0以上のpH条件下で処理した場合には、ほぼ完全に失活する。
【0027】
(4)至適温度範囲:測定法1を用い、反応時の温度を変化させ、各温度における活性を測定した場合において、本酵素の至適温度は37℃である(図9参照)。
【0028】
(5)温度安定性:前記測定法1を用い、Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中、各温度で15分間処理後の残存活性を測定した場合において、本酵素は37℃で15分間処理後に80%以上の活性を保持する。
【0029】
(6)分子量:SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定した結果、本酵素の分子量は約140kDaである。
【0030】
(7)基質特異性:本酵素はL−ピログルタミン酸を特異的にL−グルタミン酸に加水分解し、D−ピログルタミン酸は加水分解しない。
【0031】
なお、実施の一態様においては、本発明の5−オキソプロリナーゼの親和性をL−ピログルタミン酸に対するKm値として表した場合において、本酵素のひとつのオルソログ(As4.806、後述)ではKm値は93μM、本酵素の別のひとつのオルソログ(As4.820、後述)ではKm値は76μMである。
【0032】
(本発明の5−オキソプロリナーゼの由来)
本発明の5−オキソプロリナーゼは、本明細書記載の酵素学的性質を有する限り、その由来により限定されるものではないが、実施の一態様において、本発明の5−オキソプロリナーゼは、好ましくは微生物由来のタンパク質であり、さらに好ましくは糸状菌由来のタンパク質であり、さらに好ましくはアスペルギルス(Aspergillus)属に属する糸状菌、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等由来のタンパク質である。
【0033】
アスペルギルス・オリゼ、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・タマリおよびアスペルギルス・ニガーは、味噌・醤油・日本酒・焼酎などの、日本における醸造食品の製造に古くから使われてきており、高い酵素生産性と、長年の利用による安全性に対する信頼の高さから、産業上特に重要な微生物である。
【0034】
さらに、本発明の5−オキソプロリナーゼは、遺伝子組換え技術により得られる5−オキソプロリナーゼも含むものである。
【0035】
(本発明の5−オキソプロリナーゼのアミノ酸配列)
実施の一態様において、本発明の5−オキソプロリナーゼは、配列番号1および2のいずれかに表されるアミノ酸配列を有するタンパク質である。例えば、配列番号1および2のいずれかに表されるアミノ酸配列を有するタンパク質は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する糸状菌の染色体DNAまたはcDNA由来の5−オキソプロリナーゼ遺伝子をクローニングし、これを適当なベクター−宿主系に導入して発現させることにより得ることもできる。
【0036】
さらに、本発明は、5−オキソプロリナーゼ活性を有し、配列番号1および2のいずれかで表されるアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列を有するタンパク質も包含する。「1もしくは数個(複数)のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列」とあるのは、目的とする5−オキソプロリナーゼ活性が得られる限り、配列番号1および2のいずれかで表されるアミノ酸配列に、該アミノ酸配列とは異なる配列が付加されてもよく、また、該アミノ酸配列の一部が欠失または置換されてもよいことを意味する。アミノ酸の付加、欠失もしくは置換に関し、1もしくは数個のアミノ酸とは、1〜10個、例えば1〜9個、例えば1〜8個、例えば1〜7個、例えば1〜6個、例えば1〜5個、例えば1〜4個、例えば1〜3個のアミノ酸をいう。例えば、配列番号1および2のいずれかで表されるアミノ酸配列の第1番目のメチオニンが欠失しても、本発明の5−オキソプロリナーゼと同様の酵素学的性質を有する5−オキソプロリナーゼ活性を示す限り、かかる付加・欠失・置換等を有するアミノ酸配列を有するタンパク質も本発明に含まれる。また、本発明の5−オキソプロリナーゼは、配列番号1および2のいずれかで表されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列を有するタンパク質を包含する。
【0037】
(本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子)
実施の一態様としては、本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子は、上記酵素学的性質を有するタンパク質をコードする5−オキソプロリナーゼ遺伝子である。
【0038】
また、実施の一態様としては、本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子は配列番号56および57のいずれかで表される塩基配列を有する5−オキソプロリナーゼ遺伝子である。
【0039】
さらには、本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子は、宿主に導入し、該遺伝子の転写後に、上記酵素学的性質を有するタンパク質をコードする遺伝子へとスプライシングされる5−オキソプロリナーゼ遺伝子である。そのような遺伝子には、例えば、配列番号4および5のいずれかで表される塩基配列を有する5−オキソプロリナーゼ遺伝子が挙げられる。
【0040】
また、本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子は、5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号4、5、56および57のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ5−オキソプロリナーゼ活性を有するタンパク質をコードする5−オキソプロリナーゼ遺伝子をも包含する。
【0041】
前記「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドのシグナルが非特異的なハイブリッドのシグナルと明確に識別される条件であり、使用するハイブリダイゼーションの系と、プローブの種類、配列および長さによって異なる。そのような条件は、ハイブリダイゼーションの温度を変えること、洗浄の温度および塩濃度を変えることにより決定可能である。例えば、非特異的なハイブリッドのシグナルまで強く検出されてしまう場合には、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の温度を上げると共に、必要により洗浄の塩濃度を下げることにより特異性を上げることができる。また、特異的なハイブリッドのシグナルも検出されない場合には、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の温度を下げると共に、必要により洗浄の塩濃度を上げることにより、ハイブリッドを安定化させることができる。このような最適化は、本技術分野の研究者が容易に行い得るものである。
【0042】
ストリンジェントな条件の具体例としては、例えば、プローブとしてDNAプローブを用い、ハイブリダイゼーションは、5×SSC、1.0%(w/v) 核酸ハイブリダイゼーション用ブロッキング試薬(ベーリンガ・マンハイム社製)、0.1%(w/v) N−ラウロイルサルコシン、0.02%(w/v) SDSを用い、一晩(8〜16時間程度)で行う。洗浄は、0.1〜0.5×SSC、0.1%(w/v) SDS、好ましくは0.1×SSC 、0.1%(w/v) SDSを用い、15分間、2回行う。ハイブリダイゼーションおよび洗浄を行う温度は65℃以上、好ましくは68℃以上である。
【0043】
また、本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子は、配列番号4、5、56および57のいずれかで表される塩基配列からなるDNAと80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上の配列同一性を示し、かつ5−オキソプロリナーゼの機能を有するタンパク質をコードする5−オキソプロリナーゼ遺伝子も包含する。
【0044】
(配列同一性を算出するための手段)
2つのアミノ酸配列または塩基配列における配列同一性を算出するためのプログラムとしては、例えば、Karlin および Altschulのアルゴリズム(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264−2268、1990およびProc.Natl. Acad. Sci. USA 90:5873−5877、1993)が知られており、このアルゴリズムを用いたBLASTプログラムがAltschul等によって開発されている(J. Mol. Biol. 215:403−410、1990)。さらに、BLASTより感度よく配列同一性を決定するプログラムであるGapped BLASTも知られている(Nucleic Acids Res. 25:3389−3402、1997)。したがって、当業者は例えば上記のプログラムを利用して、与えられた配列に対し、高い配列同一性を示す配列をデータベース中から検索することができる。これらは、例えば、米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイト(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)において利用可能である。
【0045】
上記の各方法は、データベース中から配列同一性を示す配列を検索するために通常的に用いられるが、個別の配列の配列同一性を決定する手段としては、Genetyxネットワーク版 version 11.0.6(ゼネティックス社製)のホモロジー解析を用いることもできる。この方法は、Lipman−Pearson法(Science 227:1435−1441、1985)に基づくものである。塩基配列の配列同一性を解析する際は、可能であればタンパク質をコードしている領域(CDSまたはORF)を用いる。
【0046】
(遺伝子工学的手法による5−オキソプロリナーゼ遺伝子のクローニング)
本発明の5−オキソプロリナーゼをコードする遺伝子は、適当な公知の各種ベクター中に挿入することができる。さらに、このベクターを適当な公知の各宿主に導入して、5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含む組換えベクター(組換え体DNA)が導入された形質転換体または形質導入体を作製できる。これらの遺伝子の取得方法や、遺伝子配列、アミノ酸配列情報の取得方法、各種ベクターの製造方法や形質転換体の作製方法は、当業者にとって公知であり、一例を後述する。
【0047】
本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子をクローニングするには、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法を適宜用いることができる。例えば、5−オキソプロリナーゼ生産能を有する微生物菌体や種々の細胞から、常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology (WILEY Interscience、1989)記載の方法により、染色体DNAまたはmRNAを抽出することができる。さらにmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。このようにして得られた染色体DNAまたはcDNAを用いて、染色体DNAまたはcDNAのライブラリーを作製することができる。
【0048】
一態様において、5−オキソプロリナーゼ遺伝子は、該遺伝子を有する微生物由来の染色体DNAまたはcDNA由来の遺伝子を鋳型としたクローニングにより、得ることができる。そのような遺伝子の由来微生物として、例えば、糸状菌、好ましくはアスペルギルス(Aspergillus)属に属する糸状菌、さらに好ましくは、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株等が挙げられる。より詳細には、まず、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)NBRC4239株を培養し、得られた菌体を液体窒素中で凍結させた後、乳鉢等を用いて物理的に磨砕することにより細かい粉末状の菌体片とし、該菌体片から通常の方法により染色体DNA画分を抽出する。該抽出操作には、市販の染色体DNA抽出キットが利用できる。
【0049】
次いで、前記染色体DNAを鋳型として、5’末端配列および3’末端配列に相補的な合成プライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」と表記する)を行うことにより、DNAを増幅する。プライマーとしては、該遺伝子を含むDNA断片の増幅が可能であれば、いかなる配列のプライマーを用いてもよい。その例としては、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)のゲノム配列を参考として設計した配列番号7および8、配列番号9および10、および配列番号11および12で表されるプライマー等が挙げられる。作製したプライマーDNAを用いて、5’RACE法や3’RACE法などの適当なPCRにより、目的の遺伝子断片を含むDNAを増幅させ、これらを連結させて全長の目的遺伝子を含むDNAを得ることができる。
【0050】
また、一態様においては、微生物から取得する以外に、化学合成法を用いて5−オキソプロリナーゼ遺伝子を構築することも可能である。
【0051】
PCRにより増幅された増幅産物や、化学合成した遺伝子における塩基配列の確認は、例えば以下のように行うことができる。まず、配列を確認したいDNAを通常の方法に準じて適当なベクターに挿入して組換え体DNAを作製する。ベクターへのクローニングには、TA Cloning Kit(Invitrogen社製)等の市販のキット、あるいは、pUC18(タカラバイオ社製)、pUC119(タカラバイオ社製)、pBR322(タカラバイオ社製)、pBluescript SK+(Stratagene社製)、pYES2/CT(Invitrogen社製)等の市販のプラスミドベクターDNA、λEMBL3(Stratagene社製)等の市販のバクテリオファージベクターDNAが使用できる。該組換え体DNAを用いて、宿主細胞、例えば、大腸菌エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) K−12株、好ましくはJM109株(タカラバイオ社製)、DH5α株(タカラバイオ社製)を形質転換する。得られた形質転換体に含まれる組換え体DNAを、QIAGEN Plasmid Mini Kit(QIAGEN社製)等を用いて精製する。
【0052】
そして、該組換え体DNAに挿入されている各遺伝子の塩基配列の決定を、ジデオキシ法(Methods in Enzymology、101、20−78、1983)等により行う。具体的な配列解析装置としては、例えば、Li−COR MODEL 4200Lシークエンサー(アロカ社製)、370DNAシークエンスシステム(パーキンエルマー社製)、CEQ2000XL DNAアナリシスシステム(ベックマン社製)等を用いて解析できる。そして、決定された塩基配列を元に、翻訳されるポリペプチド、すなわち、5−オキソプロリナーゼタンパク質のアミノ酸配列が確定される。
【0053】
(5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含む組換えベクターの構築)
本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含む組換えベクター(組換え体DNA)を構築し、該組換えベクターにより形質転換または形質導入を行うことにより、本酵素を生産し得る組換え微生物を取得することができる。該組み換え微生物は、本酵素を効率的に生産するための一手法としても有用である。
【0054】
5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含む組換えベクターは、5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含むPCR増幅産物と、各種ベクターとを、5−オキソプロリナーゼ遺伝子の発現が可能な形で結合することにより構築することができる。すなわち、例えば適当な制限酵素で5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含むDNA断片を切り出し、適当な制限酵素で切断したプラスミドに挿入することにより構築することができる。あるいは、プラスミドと相同的な配列を両末端に付加した該遺伝子を含むDNA断片と、インバースPCRにより増幅したプラスミド由来のDNA断片を、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech社製)を用いて連結させることにより得ることがができる。
【0055】
(形質変換体または形質導入体の取得)
上記のようにして得られた組換えベクターを用いて微生物を形質転換する方法は、宿主として用いる微生物および該組換えベクターの種類により異なるが、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、相同組換えやトランスポゾンを利用することにより宿主の染色体上に直接的に挿入する手法、およびプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、人工染色体等のベクター上に連結することにより宿主内に導入する手法などが挙げられる。
【0056】
相同組換えを利用する方法では、染色体上の組換え部位の上流領域、下流領域と相同な配列、適当なプロモーターおよびターミネーターと、5−オキソプロリナーゼ遺伝子とを連結し、糸状菌のゲノム中に挿入することができる。自身の高発現プロモーター制御下で宿主に強制発現することにより、セルフクローニングによる形質転換体を得ることができる。高発現プロモーターは、例えば、糸状菌に属する微生物の場合、α−アミラーゼ遺伝子(amy)のプロモーター領域、翻訳伸長因子であるTEF1プロモーター領域、アルカリプロテアーゼ遺伝子(alp)プロモーター領域等が挙げられる。
【0057】
ベクターを利用する方法では、クローニングした5−オキソプロリナーゼ遺伝子を、常法により、原核細胞もしくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、染色体組込み型、人工染色体等のベクターに組み込み、各々のベクターに対応する宿主を常法により形質転換または形質導入することができる。
【0058】
そのような、好適なベクター−宿主系としては、宿主中で5−オキソプロリナーゼを生産させ得るものであればいかなるものでも用いることができ、糸状菌発現ベクターpST14(Mol.Gen.Genet. 218、99−104、1989)および糸状菌の系、酵母発現ベクター〔YEpFLAG−1(SIGMA社製)、pYES2(Invitrogen社製)、pYD1(Invitrogen社製)、pAUR123(タカラバイオ社製)〕および酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の系、大腸菌発現ベクター〔pBluescriptII(Stratagene社製)、pUC(タカラバイオ社製)pET(Invitrogen社製)、pRSET(Invitrogen社製)、pTE(Stratagene社製)〕および大腸菌エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)の系等が挙げられる。
【0059】
また、上記ベクターには、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、URA3、pyrG、niaDのような、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子、またはアンピシリン、カナマイシンあるいはオリゴマイシン等の薬剤に対する抵抗遺伝子等が挙げられる。また、組換えベクターは、宿主細胞中で本発明の遺伝子を発現することのできるプロモーターまたはその他の制御配列(例えば、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列等)を含むことが望ましい。プロモーターとしては、適当な誘導プロモーターまたは構成的プロモーターが挙げられ、具体的には、例えば、GAL1プロモーター、alpプロモーター、amyBプロモーター、lacプロモーター等が挙げられる。但し、5−オキソプロリナーゼ遺伝子の発現に必要な機能については、挿入する5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含むDNA断片が、その機能を有している場合は必ずしも必要ではない。また、共形質転換法により形質転換を行う場合には、ベクターDNA上に必ずしもマーカー遺伝子を有する必要はない。また、精製のためのタグをつけることもできる。例えば、5−オキソプロリナーゼ遺伝子の上流、もしくは下流に適宜リンカー配列を接続し、ヒスチジンをコードする塩基配列を6コドン以上接続することにより、ニッケルカラムを用いた精製を可能にすることができる。
【0060】
(形質変換体または形質導入体の宿主)
宿主細胞としては、5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含む組換えベクターによる形質転換または形質導入により、本酵素を生産することができる生物であればいかなる生物も用いることができ、原核細胞、真核細胞、または真核生物、例えば大腸菌または酵母の他、他の細菌、糸状菌、放線菌等の微生物あるいは動物細胞が使用できるがこれに限られない。
【0061】
下等真核宿主細胞の一例としては、糸状菌や酵母が挙げられる。糸状菌に分類される微生物としては、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、ニューロスポラ(Neurospora)属、ペニシリウム属(Penicillium)、フザリウム(Fusarium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属またはムコール(Mucor)属などに属する糸状菌が挙げられる。これらの属に分類される微生物であって、本発明に用いる5−オキソプロリナーゼを生産する具体的な好ましい微生物としては、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニドゥランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)などが挙げられる。より具体的には、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株が挙げられる。糸状菌への形質転換方法としては、公知の方法、例えば、プロトプラスト化した後ポリエチレングリコールおよび塩化カルシウムを用いる方法(Mol.Gen.Genet. 218、99−104、1989)を用いることができる。
【0062】
酵母に分類される微生物としては、例えば、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、カンジダ(Candida)属などに属する酵母が挙げられる。これらの属に分類される微生物であって、本発明に用いる5−オキソプロリナーゼを生産する具体的な好ましい微生物としては、チゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)等が挙げられる。より具体的には、Zygosaccharomyces rouxii NBRC1876株が挙げられる。酵母への形質転換方法としては、公知の方法、例えば、酢酸リチウムを用いる方法(Meth. Mol. Cell. Biol.、 5、 255−269(1995))やエレクトロポレーション(J Microbiol Methods 55 (2003)481−484)等を好適に用いることができるが、これに限定されず、スフェロプラスト法やガラスビーズ法等を含む各種任意の手法を用いて形質転換を行えば良い。
【0063】
高等真核宿主細胞の一例としては、昆虫細胞、哺乳類細胞が挙げられる。より具体的には、カイコの細胞(Sf9 cell)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(Chinese hamster ovarian cell : CHO cell)(いずれもATCCより分与)などが挙げられる。哺乳類細胞への形質転換方法としては、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、ウイルスベクター法等を用いることができるが、これに限定されず、各種任意の手法を用いて形質転換を行えば良い。
【0064】
原核宿主細胞の一例としては、エシェリヒア(Escherichia)属に属する微生物、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli) K−12株、好ましくは、BL21(DE3)株、JM109株、DH5α株(いずれも、タカラバイオ社製)等が挙げられる。それらを形質転換し、または、それらに形質導入して、DNAが導入された宿主細胞(形質転換体)を得ることができる。こうした宿主細胞に組換えベクターを移入する方法としては、例えば、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行う方法やエレクトロポレーション法を用いることができる。さらには市販のコンピテントセル(例えばECOS Competent エシェリヒア・コリ BL21(DE3);ニッポンジーン社製)を用いても良い。
【0065】
(本発明の5−オキソプロリナーゼの製造)
本発明の5−オキソプロリナーゼは、各種公知の酵素生産方法を用いて製造することができる。例えば、5−オキソプロリナーゼ生産微生物を培地中で培養して目的とする5−オキソプロリナーゼを産生させ、培養物あるいは培養菌体内部より酵素を採取することができる。また、本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子または該5−オキソプロリナーゼ遺伝子を含む組換えベクターを包含し、5−オキソプロリナーゼ生産能を有する微生物を培養し、該培養物より5−オキソプロリナーゼを採取することができる。
【0066】
本酵素を製造するために使用される微生物としては、本酵素の生産能を有する限り、遺伝子組換えの有無に関わらず、いかなる微生物を使用してもよく、大腸菌または酵母の他、他の細菌、糸状菌、放線菌等の微生物あるいは動物細胞が使用できる。具体的には、エシェリヒア(Escherichia)属に属する大腸菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する酵母、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する糸状菌、哺乳類細胞などが挙げられる。具体的には、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae) RIB40(ATCC 42149)株、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株等を挙げることができる。また、該菌株の変異株を用いることも可能である。該菌株の変異株を得る方法としては、例えば、ラジオアイソトープ、紫外線、ニトロソグアニジン等を用いて原株に突然変異を起こさせる方法を用いることができる。
【0067】
当然のことながら、本酵素の生産に使用する微生物は、本酵素の生産能を有すると同時に、従来の別種の5−オキソプロリナーゼの生産能を兼ね備えたものであってもよい。例えば、組換えにより本酵素を生産させる際に、宿主として使用する微生物が本来保有している宿主自身の別種の5−オキソプロリナーゼも同時に生産される場合等が想定される。また、本来、本酵素を含む複数種の両方の5−オキソプロリナーゼの生産能を兼ね備えた微生物や、ある種の5−オキソプロリナーゼの生産能を有する微生物に、本酵素を含む複数種の5−オキソプロリナーゼをコードする遺伝子を導入して複数種の5−オキソプロリナーゼの生産能を兼ね備えさせる場合等も想定される。
【0068】
このような複数種の5−オキソプロリナーゼの生産能を兼ね備えた微生物を用いて5−オキソプロリナーゼを生産する場合には、各種の培養条件下で培養することによって、目的に応じ、各5−オキソプロリナーゼの生産比率を任意に変化させて酵素生産させることも可能であるし、任意の公知の分離精製技術を利用して所望の5−オキソプロリナーゼのみを得ることもできるし、あるいは、特段の分離精製工程を経ることなく、本酵素を含む5−オキソプロリナーゼ粗精製物を得ることもできる。
【0069】
上記の微生物を培地に培養し、得られる培養物から本酵素を採取する。培養法は、通常の固体培養法もしくは液体培養法を採用することができる。
【0070】
培地は、微生物を培養する通常の培地、すなわち炭素源、窒素源、無機物、その他の栄養素を適切な割合で含有するものであれば、合成培地または天然培地のいずれでも使用できる。
【0071】
炭素源としては、同化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、マルトース、デンプン加水分解物、グリセリン、フルクトース、糖蜜等が使用される。また、窒素源としては、利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、酵母エキス、トリプトン、ペプトン、ソイトン、肉エキス、コーンスティープリカー、大豆粉、大豆もしくは小麦ふすま侵出液、アミノ酸、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。無機物としては、食塩、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化カルシウム等の種々の塩類が挙げられる。必要に応じてビタミン類、消泡剤などを添加してもよい。その他にも、添加することにより本発明の5−オキソプロリナーゼ製造量を向上させることができる栄養源や成分があれば、単独で、あるいは組み合わせて用いてもよい。また、形質転換微生物の場合は必要に応じて、ガラクトース、イソプロピル−1−チオ−β−ガラクトシド(IPTG)などのプロモーターの誘導物質を添加し、5−オキソプロリナーゼの生産を行う。これらの培地成分は、単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。
【0072】
培養条件は、培養する微生物により異なる。例えば、培地の初発pHは、pH5〜10に調整し、培養温度は、20〜40℃、培養時間は、10〜25時間、あるいは1〜7日間等、適宜設定することができ、通気撹拌深部培養、振盪培養、静地培養などにより実施する。
【0073】
例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の微生物を培養する場合の培地および培養条件の一例として、2%(w/v) デキストリン、1%(w/v) ポリペプトン、0.5%(w/v) KHPO、0.05%(w/v) MgSO・7HO、0.1%(w/v) カザミノ酸、pH調整せず弱酸性になる)を用いた、30℃、120rpmで2〜4日間の振盪培養が挙げられる。酵母を培養する場合の培地および培養条件の一例として、2%(w/v) バクトペプトン、1%(w/v) バクトイースト・エクストラクト、2%(w/v) グルコースの培地を用いた、30℃、200rpmで24時間の振盪培養が挙げられる。例えば、大腸菌の培養は、10〜42℃の培養温度、好ましくは25℃前後の培養温度で4〜24時間、さらに好ましくは25℃前後の培養温度で4〜8時間、通気攪拌深部培養、振盪培養、静置培養等により実施すればよい。哺乳類細胞や昆虫細胞の培養では、それぞれの細胞に合わせて、各種糖、アミノ酸、無機塩、ビタミン、血清、成長ホルモン等を混合した培地を選択する、37℃で1〜7日間の、静置培養、あるいは振盪培養が挙げられる。必要に応じて、5%二酸化炭素の供給されるインキュベーター内で、培養することができる。また、市販の培養用培地(日水製薬社製、Invitrogen社製、Sigma−Aldrich社製等)を用いてもよい。
【0074】
酵素生産微生物の培養終了後、培養物から5−オキソプロリナーゼを採取するには、通常の酵素の採取手段を用いることができる。例えば、5−オキソプロリナーゼが菌体外部に放出される場合には、濾過または遠心分離等により菌体を分離して、5−オキソプロリナーゼを含む培養液を粗酵素液として回収することができる。
【0075】
あるいは、5−オキソプロリナーゼが菌体内に存在する場合には、培養物から、例えば、濾過、遠心分離などの操作により菌体を分離し、この菌体から5−オキソプロリナーゼを採取するのが好ましい。例えば、超音波破砕機、フレンチプレス、ダイノミル、乳鉢などの破壊手段を用いて菌体を破壊する方法、リゾチームなどの細胞壁溶解酵素を用いて菌体細胞壁を溶解する方法、トリトンX−100などの界面活性剤を用いて菌体から酵素を抽出する方法などを単独または組み合わせて採用し、次いで、濾過または遠心分離などにより不溶物を取りのぞき、粗酵素液を得ることができる。
【0076】
得られた粗酵素液から、5−オキソプロリナーゼをさらに精製するには、通常のタンパク質精製法を使用することができる。具体的には、例えば、硫安塩析法、有機溶媒沈澱法、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、ニッケルカラム等)、電気泳動法等が挙げられ、単独または適宜組み合わせて用いることができる。
【0077】
(本発明の5−オキソプロリナーゼの各種用途への応用における優位性)
本発明の5−オキソプロリナーゼは、pH7.0〜8.0で良好に作用するため、中性域を含む広範なpH域における用途・使用工程に対して好適に使用することができる。また、本発明の5−オキソプロリナーゼの安定pH範囲は広範にわたるため、本酵素を定量試薬、食品加工用助剤等として利用する場合にも、pH環境が変化したときの影響を受けにくいという利点を有する。
【0078】
また、本発明の5−オキソプロリナーゼは、至適温度範囲が中温領域にある。そのため、試薬として、あるいは、食品加工等に本発明の5−オキソプロリナーゼを使用するにあたり、必要以上に加温することなく、所定の作用効果を奏することができ、食品中や試薬中に配合して反応を行わせる際に、食品中や試薬中の各種成分の熱変性等を少なく抑えられることも期待できる。
【0079】
上記の通り、本酵素は、必要以上に加温しなくても良好に作用する一方で、一定の耐熱性を有しており、食品加工等に使用するにあたり行われる加熱工程との共存も可能であるという点でも、実用化に適しているといえる。
【0080】
なお、本発明の5−オキソプロリナーゼは、上述の通り、一定の耐熱性を有しつつ、通常の調味料製造等で広く用いられる加熱殺菌条件、例えば、達温95℃等の条件では迅速に完全に失活するため、製造工程中に、本酵素失活のための特別の加熱工程を組み入れる必要を生じない。
【0081】
さらに、本酵素のL−ピログルタミン酸に対するKm値は小さく、より効率的に反応を触媒でき、反応時間の短縮や酵素の使用量低減も期待できる。
【0082】
以上、これまでに5−オキソプロリナーゼが食品用や試薬用に実用化されたという報告はないが、いくつかの文献で報告されている公知の酵素の特性等と比較した限りでも、本発明の5−オキソプロリナーゼは上記のような点で優れており、各種用途への応用における優位性を有する。
【0083】
(各種用途における応用に向けた、本発明の5−オキソプロリナーゼの製造上の工夫)
各種用途における応用に向けて、本発明の5−オキソプロリナーゼを製造する際には、後の工程においてよりよい効果を奏することを意図して、当業者として想定可能な各種の製造段階の工夫を採用することもできる。
【0084】
例えば、特定のpHでの粉末化やセンサー等への固定化、高温での加熱などが想定される用途、特定の成分の除去や添加が好まれる配合で製剤化する場合、あるいは、本酵素の特性とは異なる特定範囲のpHや温度条件が好適であることがわかっている別の酵素や試薬成分と共存させる必要がある場合、等、必要に応じ、上流の製造工程における条件設定を個別に最適化することもできる。
【0085】
(本発明の5−オキソプロリナーゼを用いた、飲食品の製造)
上述のように得られた本発明の5−オキソプロリナーゼを用いて各種飲食品を加工することにより、L−グルタミン酸をより高い濃度にて含有する、うま味のある飲食品やうま味の改善された飲食品を製造することができる。具体的には、L−ピログルタミン酸を含有する飲食品と本酵素とを接触もしくは混合する、または、L−ピログルタミン酸を含有する飲食品を本酵素を発現する微生物により発酵させることにより、前記飲食品中のL−ピログルタミン酸を加水分解し、呈味成分として重要なL−グルタミン酸に変換することにより、従来にない優れた呈味力を有する飲食品を得ることができる。本願明細書において飲食品に含まれるL−グルタミン酸濃度を高めることおよび/またはL−ピログルタミン酸濃度を低下させることを、飲食品のうま味の改善という。L−グルタミン酸は熱や圧力の存在下で非酵素的反応によってL−ピログルタミン酸へと変化する。したがって本酵素は、飲食品中のL−グルタミン酸がL−ピログルタミン酸へと変化したものを、再度L−グルタミン酸へと加水分解することにより飲食品のうま味を維持するために用いることもできる。このような、うま味の維持も本願明細書にいう、うま味の改善に包含されるものとする。
【0086】
すなわち本酵素はうま味のないL−ピログルタミン酸をL−グルタミン酸に変換するうま味改善剤として利用でき、本酵素を発現する微生物はうま味に富んだ発酵食品を製造するための微生物として利用できる。微生物は好ましくは本酵素を高発現する微生物、または本酵素活性の高い微生物である。
【0087】
本酵素を適用できる飲食品としてはL−グルタミン酸またはL−ピログルタミン酸を含むものであれば特に限定されないが、例えばトマトや白菜等の野菜、小麦粉等の穀類、マッシュルームやシイタケ等のキノコ類、大豆等の豆類、昆布等の海草、海苔、しょうゆ、魚醤、味噌、鰹節、削り節等の各種発酵食品や缶詰、レトルト食品、インスタント食品、冷凍食品を含む各種加工食品等が挙げられる。
【0088】
ある実施形態において本発明のうま味改善剤は、本酵素を任意の適当な形態で含む。例えば本酵素は溶解状態(希釈状態および濃縮状態を含む)、ゲル、固形粉末、顆粒等の形態であり得る。別の実施形態において、本発明のうま味改善剤は本酵素を発現する形質転換体または形質導入体(微生物)を含有する。この場合、本酵素を発現する微生物は培養液、培養物、懸濁物、固形粉末、顆粒等の任意の形態とすることができる。本発明のうま味改善剤は賦形剤や安定化剤等の、任意の他の成分を必要に応じて含み得る。
【0089】
うま味のある飲食品やうま味の改善された飲食品の製造にあたり好適な5−オキソプロリナーゼの添加量や酵素処理条件の詳細は、加工対象の飲食品および要求するL−グルタミン酸の濃度に応じて、適宜設定すればよい。本酵素の酵素反応の進行状況を検証したり、発酵後のうま味向上の評価は、飲食品中のL−グルタミン酸濃度を、酵素法やクロマトグラフィー等の公知の手段を用いて測定したり、各種公知の官能評価を行えばればよい。なお、一般に、ヒトがうま味を感じるL−グルタミン酸濃度の域値は0.03%程度といわれるが、共存成分による影響を受け、その効果は相乗的であると考えられる。本酵素はpH7.0〜8.0で良好に作用するため、中性域を含む広範なpH域において使用できる。食品は一般に低pHのものが多いが、本酵素はこうした飲食品の加工に広く用いることができる。
【0090】
本酵素を飲食品に利用し、あるいは、本酵素の生産微生物を用いて飲食品を発酵させる場合には、飲食品に安全に利用できる微生物から本酵素を取得することや、飲食品に安全に利用できる微生物を用いて飲食品を発酵させることも重要である。本酵素の由来微生物の一例である、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)およびアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)は、高い酵素生産性と、長年の利用による安全性に対する信頼性が高い麹カビ(黄麹菌)に属し、味噌・しょうゆ・日本酒等、日本における醸造食品の製造にも古くから使われている。このような微生物は、飲食品を加工するという用途において、好適に用いることができる。
【0091】
(本発明の5−オキソプロリナーゼを用いた、L−ピログルタミン酸測定用試薬の製造)
本発明の5−オキソプロリナーゼは、L−ピログルタミン酸の測定に用いることもできる。例えば、L−ピログルタミン酸含量を測定したい検体を限外濾過して、タンパク質成分を除き、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で適宜希釈した溶液を測定用の溶液とする。限外濾過には、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)等を使用できる。該測定用の溶液をATP、1価カチオン、2価カチオンの存在下で本酵素と反応させることにより、L−ピログルタミン酸からL−グルタミン酸への反応を行わせ、反応により生じたL−グルタミン酸を、例えば、測定法1の方法で測定することにより、検体中のL−ピログルタミン酸濃度を算出できる。反応に際しては、適宜、酵素濃度と反応時間を設定することができる。また、測定用試薬中には、防腐剤、緩衝液、安定剤等、本酵素の反応に直接的に関与しない諸成分を含め、任意の成分を配合することもできる。
【0092】
(本発明の5−オキソプロリナーゼを用いた、ラセミ体の分割)
本酵素は、L−ピログルタミン酸を基質とし、D−ピログルタミン酸は基質とはならない。D−グルタミン酸やD−ピログルタミン酸は薬品や食品添加物、農薬の生成における重要な出発物質であるが、その製造工程には有機合成やラセミ体の分割等が必要であるため、L−体やラセミ体と比較して、高価である。本酵素により、不純物となるL−ピログルタミン酸を加水分解することにより、高純度のD−ピログルタミン酸を得、得られたD−ピログルタミン酸を任意の方法により加水分解することにより、D−グルタミン酸を得ることができる。
【0093】
例えば、L−ピログルタミン酸とD−ピログルタミン酸の混合液について、測定法1に準じた反応液中で本酵素と反応させることにより、L−ピログルタミン酸を特異的にL−グルタミン酸に変換する。L−グルタミン酸とD−ピログルタミン酸を分離する方法は、通常の化合物の分離方法を用いることができる。具体的には、例えば、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、結晶化法等を用いることができる。こうした一連の工程を含む方法を本願明細書においてラセミ体のピログルタミン酸の分割方法という。また、ラセミ体の分割において適宜、誘導体化等の修飾を行うこともできる。
【0094】
L−ピログルタミン酸がL−グルタミン酸へと変換されたことの確認は、L−ピログルタミン酸の残存量を検出することにより行うか、または、DL−ピログルタミン酸、DL−グルタミン酸、およびL−グルタミン酸を測定することにより行うこともできる。例えば、DL−ピログルタミン酸は、液体クロマトグラフィーで分離、ブロモチモールブルーによる誘導体化後、紫外線吸収程度を検出し、標品を用いた検量線から算出することができ、L−グルタミン酸は、測定法1で示すように、L−グルタミン酸オキシダーゼを用いた酵素法により測定することができる。DL−ピログルタミン酸混合液中において本酵素によりL−グルタミン酸へと変換されたL−ピログルタミン酸は、反応後に生じたL−グルタミン酸濃度、あるいは、反応前のDL−ピログルタミン酸濃度と反応後のDL−ピログルタミン酸濃度の差から算出することができる。
【0095】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0096】
(A.アスペルギルス属に属する微生物からの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質の取得)
1.アスペルギルス・ソーヤにおける5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子の検索
ラット5−オキソプロリナーゼ(NCBI Reference Sequence: NP_446356.1)、およびその酵母オルソログであるOXP1/YKL215c(NCBI Reference Sequence: NP_012707.1)のタンパク質配列データを用い、それらと比較的配列同一性の高い遺伝子を、糸状菌に属するアスペルギルス属菌から探索することを試みた。検索にはBlastプログラム(tblastn)を用いた。アスペルギルス属菌のDNAデータとしては、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae) NBRC4239株のゲノム配列(DDBJ/EMBL/GenBank DNA databases、 Accession numbers for the 65 scaffold sequences; DF093557-DF093585、DNA RESEARCH 18,165-176,2011)を用いた。
【0097】
検索の結果、比較的遺伝子配列の同一性が高かった配列領域として、配列番号4〜6で示す3つの遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302)がみつかった。
【0098】
遺伝情報処理ソフトウェアGenetyxネットワーク版 version 11.0.6(ゼネティックス社製)によりアミノ酸レベルでの配列同一性の比較を行うと、前記scaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302と、ラット5−オキソプロリナーゼとの配列同一性は、それぞれ51.5%、55.2%、48.6%、酵母オルソログOXP1/YKL215cとの配列同一性は、それぞれ51.1%、54.1%、46.9%であった。
【0099】
これら3領域の配列情報をアスペルギルス属菌における5−オキソプロリナーゼオルソログ候補分子探索の手がかりとすることとし、以下の操作を進めた。
【0100】
2.アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)からのゲノムDNA抽出
アスペルギルス・ソーヤ NBRC4239株をバッフル付き三角フラスコにて、PD培地(2%(w/v) デキストリン、1%(w/v) ポリペプトン、0.5%(w/v) KHPO、0.05%(w/v) MgSO・7HO、0.1%(w/v) カザミノ酸)中、30℃で1〜2日間振盪培養し、濾過により菌体を回収した。回収して得た菌体を、液体窒素中で凍結させ乳鉢と乳棒を用いて磨砕し、細かい粉末状の菌体片とした。
【0101】
65℃に温めたNuclei Lysis Solution(Promega社製) 300μLにスパーテル1杯程度の前記粉末状の菌体片を加え、ボルテックスした後、65℃で15分間、インキュベートした。次いで、50μg/mLとなるようにRNase(ニッポンジーン社製)を添加し、37℃で15分間インキュベートした。その後、Protein Precipitation Solution(Promega社製) 125μLを加え、20秒間、激しくボルテックスし、14,000×gで5分間遠心した。得られた上清をイソプロパノール300μLと混合し、11,000×gで3分間遠心して得た沈殿を、70%エタノールでリンスすることにより、アスペルギルス・ソーヤ NBRC4239株由来のゲノムDNAを回収した。このゲノムDNAにTE(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA)を加え、50℃、5分間インキュベートして溶解することにより、所望の濃度のゲノムDNA溶液を調製した。
【0102】
3.アスペルギルス・ソーヤにおける5−オキソプロリナーゼのオルソログ候補遺伝子のクローニング
上記で得られたゲノムDNAを鋳型に、アスペルギルス・ソーヤの3つの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302)をPCRによりそれぞれ増幅することを試みた。具体的には、scaffold00004.806には配列番号7および8、scaffold00004.820には配列番号9および10、scaffold00036.1302には配列番号11および12のプライマーを用い、反応試薬としてPrime Star Max(タカラバイオ社製)、装置としてMastercycler gradient(eppendorf社製)を用い、反応試薬キットに添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。前記のPCRにより増幅した3種類の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のDNA断片と考えられるDNA断片(約4000塩基対)は、それぞれ1%アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。また、クローニング用のベクターとして、pUC19由来のプラスミドベクターであるpAsNを用いた。pAsNは、pUC19のLacZ遺伝子座に、アスペルギルス・ソーヤ由来硝酸還元酵素遺伝子(プロモーター領域、ターミネーター領域を含む)、アスペルギルス・ソーヤ由来tef1遺伝子のプロモーター領域(Ptef1、上流748bp、配列番号15)、およびアスペルギルス・ソーヤ由来アルカリプロテアーゼ遺伝子のターミネーター領域(Talp、下流800bp、配列番号16)を導入することにより作製したベクターである。pAsNを鋳型とし、配列番号13および14のインバースPCR用のプライマーを用いて、PCRにより、5‘側にTalp、および3’側にPtef1を含むプラスミドの配列をDNA断片として増幅し、次いでDNA断片を1%アガロースゲル中で分離、QIAquick Gel Extraction Kitを用いて精製した。
【0103】
そして、精製した3種類の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のDNA断片と考えられるDNA断片を、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech社製)を用いて、プラスミドpAsN由来のDNA断片とそれぞれ連結した。これにより、PCRにより増幅した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のDNA断片と考えられるDNA断片を、プラスミドpAsNのPtef1領域およびTalp領域の間にそれぞれ連結した組換えプラスミドを得た。
【0104】
これらの組換えプラスミドを用いて大腸菌JM109株を定法により形質転換後、該形質転換体から前記組換えプラスミドをそれぞれ抽出し、該プラスミド中に挿入された各DNA配列の解析を行った。解析の結果、前記の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のDNA断片と考えられるDNA断片は、それぞれアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNAに存在するscaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302の配列と一致することを確認した。
【0105】
データベース検索で見出された遺伝子配列の名称であるscaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302に対応させて、各プラスミドをそれぞれ、pAsN−4.806 pre mRNA、pAsN−4.820 pre mRNA、pAsN−36.1302 pre mRNAと名付けた。
【0106】
4.アスペルギルス属菌用発現ベクターの作製
アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株ゲノムDNAに、上述の方法により取得した5−オキソプロリナーゼのオルソログ候補遺伝子を導入するために、形質転換用DNA断片作製用のプラスミドを下記のように作製した。アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株ゲノムDNA上の遺伝子組換え部位としては、アスペルギルス属菌の生育に影響を与えないことを確認したアルカリプロテアーゼ遺伝子座を選択した。
【0107】
まず、上述の方法により取得した3種の組換えプラスミド(pAsN−4.806、pAsN−4.820、pAsN−36.1302)中の各5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子を、その上流に位置するPtef1領域および下流に位置するTalp領域とともに、配列番号17および18のプライマーを用いてPCRによりそれぞれ増幅した。Ptef1は、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子を発現させる際のプロモーターであり、Talpは、遺伝子相同組換え部位の下流領域と相補的な配列である。
【0108】
また、遺伝子相同組換え部位の上流領域と相補的な配列として、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株ゲノムDNAを鋳型とし、配列番号19および20のプライマーを用いてアルカリプロテアーゼ遺伝子のプロモーター領域(Palp、上流1515bp、配列番号21)をPCRにより増幅した。また、後述の形質転換の操作において、形質転換体が得られたことを確認するために用いる、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子として、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株ゲノムDNAを鋳型とし、配列番号22および23のプライマーを用いてウリジン要求性を相補する遺伝子周辺領域(pyrG、上流407bp、コード領域896bpおよび下流535bpを含む1838bp、配列番号24)をPCRにより増幅した。
【0109】
さらに、プラスミドpUC19(タカラバイオ社製)を鋳型として、配列番号25および26のインバースPCR用のプライマーを用いてプラスミドpUC19の166塩基目〜393塩基目(塩基番号は試薬に添付された制限酵素地図による)を除いた配列(MCS、複製開始点、アンピシリン耐性遺伝子を含む)をPCRにより増幅した。なお、反応試薬としてPrime Star Max(タカラバイオ社製)を用い、添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。
【0110】
前記のPCRにより増幅したそれぞれのDNA断片を1%アガロースゲル中で分離、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。前記の各プライマーには、次の操作でDNA断片どうしを連結させる際に隣接するDNA断片と同一の配列15bp程度が付加されており、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech社製)を用いて、それぞれを連結することができる。すなわち、pUC19由来のDNA断片とPalpのDNA断片、PalpのDNA断片とpyrGのDNA断片、pyrGのDNA断片とPtef1のDNA断片、Ptef1のDNA断片と5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820、あるいはscaffold00036.1302)のDNA断片、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のDNA断片とTalpのDNA断片、およびTalpのDNA断片とpUC19由来のDNA断片を連結することができる。これにより、図3に示すように、pUC19のマルチクローニングサイト(MCS)の上流に、Palp、pyrG、Ptef1、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820、あるいはscaffold00036.1302)、およびTalpの配列が順に連結された3種の組換えプラスミドを取得した。
【0111】
該組換えプラスミドを用いて大腸菌JM109株を定法により形質転換後、該形質転換体から前記組換えプラスミドをそれぞれ抽出し、該プラスミド中に挿入された各DNA配列の解析を行い、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820、あるいはscaffold00036.1302)の配列が、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNAに存在するscaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302の配列と一致することを確認した。
【0112】
由来する遺伝子配列の名称であるscaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302に対応させて、各プラスミドをそれぞれ、pAsAlpP−4.806 pre mRNA、pAsAlpP−4.820 pre mRNAおよびpAsAlpP−36.1302 pre mRNAと名付けた。
【0113】
5.アスペルギルス・ソーヤにおける5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDS配列の取得とHisタグ配列の付加
上述の3種の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のエクソン−イントロン構造を予測すると、いずれの遺伝子中にも2つのエクソンと1つのイントロンが存在すると考えられた(図4参照)。具体的には、scaffold00004.806(オルソログ候補遺伝子1、配列番号4)の3986塩基のうち3109番から3158番が、scaffold00004.820(オルソログ候補遺伝子2、配列番号5)の3899塩基のうち2524番から2579番が、scaffold00036.1302(オルソログ候補遺伝子3、配列番号6)の3917塩基のうち35番から90番が、それぞれイントロンであると予測された。
【0114】
イントロンを除いた配列(以下、CDSと表記する)を得るために、PCRによりエクソンと予測される領域を増幅し、エクソン1とエクソン2を連結した。すなわち、上記で作製したプラスミドpAsAlpP−4.806 pre mRNAを鋳型とし、配列番号17および27のプライマーを用いて、上流側にPtef1が連結されたscaffold00004.806のエクソン1領域を、配列番号30および31のプライマーを用いて、scaffold00004.806のエクソン2領域をPCRにより増幅した。pAsAlpP−4.820 pre mRNAを鋳型とし、配列番号17および28のプライマーを用いて、上流側にPtef1が連結されたscaffold00004.820のエクソン1領域を、配列番号32および33のプライマーを用いて、scaffold00004.820のエクソン2領域をPCRにより増幅した。pAsAlpP−36.1302 pre mRNAを鋳型とし、配列番号17および29のプライマーを用いて、上流側にPtef1が連結されたscaffold00036.1302のエクソン1領域を、配列番号34および35のプライマーを用いて、scaffold00036.1302のエクソン2領域をPCRにより増幅した。また、pAsAlpP−4.820 pre mRNAを鋳型とし、配列番号13および23のインバースPCR用のプライマーを用いて5‘側にTalp、3’側にPalpおよびpyrGを含むプラスミドの配列をPCRにより増幅し、DNA断片を得た。反応試薬としてPrime Star Maxを用い、添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。
【0115】
前記のPCRにより増幅したDNA断片を1%アガロースゲル中で分離、QIAquick Gel Extraction Kitにより精製し、3種類の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子それぞれについて、上流側にPtef1が連結されたエクソン1領域のDNA断片およびエクソン2領域のDNA断片を、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kitを用いて、プラスミド由来のDNA断片に連結することにより、3種類の5−オキソプロリナーゼのオルソログ候補遺伝子のイントロン予測配列を除いた配列を組み込んだプラスミドを得た。
【0116】
該組換えプラスミドを、データベース検索で見出された遺伝子配列の名称であるscaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302に対応させて、pAsAlpP−4.806 CDS、pAsAlpP−4.820 CDS、およびpAsAlpP−36.1302 CDSと名付けた。
【0117】
次に、発現させたタンパク質の精製過程を簡略化するために、Hisタグ融合タンパク質発現用プラスミドの構築を行った。上記で作製した3種類のプラスミドpAsAlpP−4.806 CDS、pAsAlpP−4.820 CDS、およびpAsAlpP−36.1302 CDSを鋳型とし、それぞれ配列番号36および31、配列番号37および33、配列番号38および35のプライマーを用いて、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302)CDSの5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加した3種類のDNA断片をPCRにより増幅した。
【0118】
また、pAsAlpP−4.806 pre mRNAを鋳型とし、配列番号13および14のインバースPCR用のプライマーを用いて5‘側にTalp、3’側にPalp、pyrGおよびPtef1を含むプラスミド側の配列をPCRにより増幅した。反応試薬としてPrime Star Maxを用い、添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。
【0119】
前記のPCRにより増幅したそれぞれのDNA断片を1%アガロースゲル中で分離、QIAquick Gel Extraction Kitを用いて精製し、3種類の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDSの5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加したDNA断片それぞれを、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kitを用いて、5‘側にTalp、3’側にPalp、pyrGおよびPtef1を含むプラスミド由来のDNA断片に連結することにより、pUC19のマルチクローニングサイト(MCS)の上流に、Palp、pyrG、Ptef1、ヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820、あるいはscaffold00036.1302)のCDS、およびTalpの配列が順に連結された3種の組換えプラスミドを取得した。
【0120】
該組換えプラスミドを用いて大腸菌JM109株を定法により形質転換後、該形質転換体から前記組換えプラスミドをそれぞれ抽出し、該プラスミド中に挿入された各DNA配列の解析を行った。解析の結果、Palp、pyrG、Ptef1、ヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDS、およびTalpのそれぞれの配列がアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNA上の配列と一致することを確認した。
【0121】
以上のようにして、3種の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302))に対し、Hisタグ配列を付加し、かつ、イントロンであることが予測される配列を除去する操作を行った。
【0122】
上記操作を経た3種の遺伝子をそれぞれ含むプラスミドを、由来する遺伝子配列の名称であるscaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302に対応させて、pAsAlpP−His−4.806 CDS、pAsAlpP−His−4.820 CDS、およびpAsAlpP−His−36.1302 CDSと名付けた。
【0123】
6.アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子形質転換体の取得
上記のように作製したpAsAlpP−His−4.806 CDSを鋳型として、配列番号39および40のプライマーを用い、Palp、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子scaffold00004.806のCDS領域、およびTalpが連結されたDNA断片を、pAsAlpP−His−4.820 CDSを鋳型として、配列番41および40のプライマーを用い、Palp、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子scaffold00004.820のCDS領域、およびTalpが連結されたDNA断片を、pAsAlpP−His−36.1302 CDSを鋳型として、配列番41および42のプライマーを用い、Palp、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子scaffold00036.1302のCDS領域、およびTalpが連結されたDNA断片を、それぞれPCRにより増幅した。なお、反応試薬としてKOD Dash Neo(TOYOBO社製)、装置としてMastercycler gradient(eppendorf社製)を用い、反応試薬キットに添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。
【0124】
上記増幅した3種のDNA断片(5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子それぞれについて、Palp、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDS領域、およびTalpが連結されたDNA断片)は、エタノール沈殿後、TEに溶解して、所望の濃度のDNA溶液を調製し、下記の手順でアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来pyrG破壊株(pyrG遺伝子の上流48bp、コード領域896bp、下流240bp欠損株)の形質転換に用いた。
【0125】
まず、形質転換に用いるアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株(マルツプレートに培養したアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来pyrG破壊株の分生子、9cmシャーレに10分の1程度)を、0.01% Tween80溶液に懸濁し、10mMとなるようにウリジンを添加したPD培地(2%(w/v) デキストリン、1%(w/v) ポリペプトン、0.5%(w/v) KHPO、0.05%(w/v) MgSO・7HO、0.1%(w/v) カザミノ酸)150mLに植菌し、18時間程度、振盪培養した。培養後、濾過により菌体を回収し、形質転換用にPCRにより増幅しておいたDNA断片(3種の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子それぞれについて、Palp、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDS領域、およびTalpが連結されたDNA断片)のTE溶液(DNA10μg程度/20μL)を用いて、プロトプラスト−PEG法により、形質転換を行った。
【0126】
得られた各形質転換体においては、NBRC4239株のアルカリプロテアーゼ遺伝子座にpyrG、Ptef1、およびHisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDS領域が連結された配列がそれぞれ導入される。これらの株は、ウリジン要求性を相補する遺伝子であるpyrGが導入されることにより、ウリジン無添加培地に生育できるようになることで、目的の遺伝子が導入された株を選択できる。
【0127】
さらに、該形質転換体について、コロニーPCRにより目的の遺伝子座に遺伝子導入された株であることの確認を行なった。すなわち、爪楊枝で掻きとった該形質転換体の分生子をTEに懸濁してPCRの鋳型とし、配列番号43および44のプライマーを用い、アルカリプロテアーゼ遺伝子座の上流237塩基目から下流277塩基目に挟まれた領域をPCRにより増幅した。反応試薬には、KOD FX (TOYOBO社製)を用い、94℃、5分間の熱処理後、添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。その結果、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNAのアルカリプロテアーゼ遺伝子座のアルカリプロテアーゼ遺伝子(alp、1389bp、配列番号45)に換えて、形質転換体株では、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDS領域が連結されたDNA(約6.6kbp)の存在を示す約7kbpのシグナルが検出されたことにより、前記の形質転換体ではアルカリプロテアーゼ遺伝子座において相同組換えされたことを確認した。
【0128】
上記の方法により、3種のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子に各々由来する遺伝子による形質転換体(5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子によるアスペルギルス属菌形質転換体)を取得することができた。各5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子によるアスペルギルス属菌形質転換体は、由来する遺伝子の名称であるscaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302に対応させて、それぞれNBRC4239−His−4.806 CDS株、NBRC4239−His−4.820 CDS株、およびNBRC4239−His−36.1302 CDS株と名付けた。
【0129】
7.アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質の取得
上記のようにして取得した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子によるアスペルギルス属菌形質転換体のゲノムDNAに導入された、5−オキソプロリナーゼ候補遺伝子の上流にはヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列が付加されており、アスペルギルス属菌形質転換体を培養することにより、N末側にヒスチジン8個のタグが融合された5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を発現させることができる。
【0130】
該N末Hisタグ融合5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質は、定法によりNiカラムを用いて精製することができる。すなわち、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子によるアスペルギルス属菌形質転換体(NBRC4239−His−4.806 CDS株、NBRC4239−His−4.820 CDS株、およびNBRC4239−His−36.1302 CDS株)の分生子を、PD培地(2%(w/v) デキストリン、1%(w/v) ポリペプトン、0.5%(w/v) KHPO、0.05%(w/v) MgSO・7HO、0.1%(w/v) カザミノ酸)に1×10個/mLとなるように植菌し、30℃、120rpmで、2日間培養し、濾過により菌体を回収した。
【0131】
回収した菌体を液体窒素中で凍結させ、乳鉢と乳棒を用いて磨砕して得た細かい粉末状の菌体片を、培養液の1/10〜1/20量の2mM PMSFを含む抽出バッファー(50mM Tris、300mM NaCl、20%(w/v) グリセロール、0.5mM L−ピログルタミン酸、pH8.0)に懸濁した。得られた懸濁液の遠心上清を0.2μmのフィルターで濾過し、菌体抽出液(粗酵素溶液)とした。
【0132】
その後、この菌体抽出液の一部を、Ni−NTA Superflowカラム(QIAGEN社製)に供してHisタグ融合5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を結合させ、イミダゾール20mMを含む抽出バッファーで洗浄後、イミダゾール250mMを含む抽出バッファーで溶出された5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質含有画分を得た。なお、必要に応じて、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)を用いて、前記5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質含有画分をさらに濃縮した。5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質含有画分は、抽出バッファーに対して透析を行い、精製酵素溶液とした。
【0133】
上記の酵素の精製操作により、培養100mLあたり、100〜300μgの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質が得られた。以下、それぞれの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を、由来する遺伝子の名称(scaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302))に対応して、As4.806、As4.820、As36.1302と表記する。
【0134】
8.各5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質のSDS−PAGEによる精製度の確認
As4.806、As4.820、As36.1302をそれぞれ含む上記形質転換体由来の菌体抽出液(5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質粗酵素溶液)、および精製タンパク質(精製酵素溶液)の一部を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。電気泳動はLaemmliの方法に従い、トリスSDSβMEサンプル処理液(コスモバイオ社製)を添加し、100℃、5分間の熱処理後、アクリルアミド5−20%のグラジェントゲル(和光純薬工業社製)、Tris−Glycine SDS Running buffer(Invitrogen社製)を用いて泳動した。泳動終了後にゲルのCBB染色を行った結果を図5に示す。これにより、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As4.806、As4.820、As36.1302)が、高い純度で精製されていることを確認した。分子量は約140kDa(黒三角でマークした部分)であり、本発明中に開示した遺伝子の配列から算出される大きさと一致していた。
【0135】
なお、各タンパク質の量は、アスペルギルス・ソーヤ由来酵素の菌体抽出液では湿菌500μg相当、アスペルギルス・ソーヤ由来酵素の精製タンパク質溶液ではタンパク質1μgを電気泳動に供した。参照として、公知の5−オキソプロリナーゼである酵母オルソログOXP1/YKL215cについて、後述する手順で同様に菌体抽出液と精製タンパク質溶液を調製し、菌体抽出液100μL相当、精製タンパク質1μgを電気泳動に供した。
【0136】
(B.酵母由来5−オキソプロリナーゼの取得)
本発明の5−オキソプロリナーゼの諸性質を公知酵素と比較するための参照用酵素として、本発明と同様に微生物由来の5−オキソプロリナーゼのオルソログタンパク質として報告されている酵母由来のOXP1/YKL215cを調製した。なお、酵母からの前記5−オキソプロリナーゼの取得に関しては、FEMS Yeast Res.(Vol.10、394頁〜401頁、2010年)等に開示されている手順等に準じて各種操作を行った。
【0137】
1.サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からのゲノムDNA抽出
サッカロマイセス・セレビシエ INVsc1株(Invitrogen社製)をYPD培地(1%(w/v) イーストエキストラクト、2%(w/v) ペプトン、2%(w/v) D−グルコース)で一晩、振盪培養後、13,000×g、1分間の遠心により菌体を回収した。回収した菌体を、滅菌milli−Q水で洗浄した後、Nuclei Lysis Solution(Promega社製) 300μLと直径0.5mmのマルチビーズショッカー用専用グラスビーズ(安井器械社製)を加え、ビーズショッカー(安井器械社製)により破砕した(2000rpm、60秒間破砕後、30秒間静置、これを8回繰り返した)。その後、65℃で15分間インキュベートした後、50μg/mLとなるようにRNase(ニッポンジーン社製)を添加、37℃で15分間インキュベートした。Protein Precipitation Solution(Promega社製) 125μLを加え、10秒間、激しくボルテックスし、17,000×gで3分間遠心した。
【0138】
得られた上清をイソプロパノール300μLと混合し、17,000×gで10分間遠心して得た沈殿を、70%エタノールでリンスすることにより、酵母由来ゲノムDNAを回収した。回収したゲノムDNAに対して適量のTEを加え、50℃、5分間インキュベートして溶解することにより、所望の濃度のゲノムDNA溶液を調製した。
【0139】
2.酵母OXP1/YKL215cのクローニングと酵母形質転換体の作製
サッカロマイセス・セレビシエ INVsc1株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号46および47に示したプライマーを用いて、5’側に制限酵素SacIの認識配列およびヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列、3’側に制限酵素XhoIの認識配列を付加した、OXP1/YKL215cのコード領域(3861bp、配列番号48)をPCRにより増幅した。反応試薬としてPrime Star Max(タカラバイオ社製)、装置としてMastercycler gradient(eppendorf社製)を用い、反応試薬キットに添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。
【0140】
前記のPCRにより増幅した、制限酵素認識配列およびヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加したOXP1/YKL215cと考えられるDNA断片を、1%アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製し、制限酵素SacI(タカラバイオ社製)およびXhoI(BioLabs社製)で切断後、1%アガロースゲル中で分離し、QIA quick Gel Extraction Kitを用いて、再度精製した。精製された前記DNA断片を、ligation high ver2(TOYOBO社製)を用いて、酵母発現用プラスミドpYES2/CT(Invitrogen社製)のSacI−XhoIサイトに連結することにより、酵母形質転換体作製用の組換えプラスミドpYES2−His−YKL215cを構築した。
【0141】
次いで、前記組換えプラスミドpYES2−His−YKL215cを用いて、大腸菌JM109株を定法により形質転換し、該形質転換体から前期組換えプラスミドpYES2−His−YKL215cを抽出し、該プラスミド中に挿入されたDNA配列解析を行った。解析の結果、上記のヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加したOXP1/YKL215cと考えられるDNA断片は、サッカロマイセス・セレビシエOXP1/YKL215cの配列と一致することを確認した。
【0142】
次いで、前記プラスミドpYES2−His−YKL215cを用いて、S.c.EasyComp(商標) Transformation kit(Invitrogen社製)を用い、添付のマニュアルに従って、サッカロマイセス・セレビシエ INVsc1株を形質転換し、pYES2/CTにコードされたウラシル合成遺伝子であるURA3の発現により、ウラシル無添加培地に生育できるようになることで、ウラシル非要求性となることを指標に、OXP1/YKL215cによる酵母形質転換体を選抜した。
【0143】
3.酵母OXP1/YKL215cタンパク質の取得
上記のようにして取得したOXP1/YKL215cによる酵母形質転換体に導入されたプラスミド中のOXP1/YKL215c遺伝子の上流には、ヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列が付加されており、酵母形質転換体をガラクトースの存在下で培養することにより、N末側にヒスチジン8個のタグが融合されたOXP1/YKL215cタンパク質を発現誘導することができる。該N末Hisタグ融合OXP1/YKL215cタンパク質は、定法によりNiカラムを用いて精製することができる。
【0144】
すなわち、前記のOXP1/YKL215cによる酵母形質転換体を、前培養用液体培地(0.67%(w/v) アミノ酸不含有イーストニトロゲンベース (ベクトン・ディッキンソン社製)、0.192%(w/v) ウラシル不含有酵母合成ドロップアウト培地用添加物 (sigma社製)、2.0%(w/v) ラフィノース)中、30℃で24時間、振盪培養した。その後、本培養用液体培地(0.67%(w/v)アミノ酸不含有イーストニトロゲンベース、0.192%(w/v)ウラシル不含有酵母合成ドロップアウト培地用添加物、2.5%(w/v)D−ガラクトース、0.75%(w/v)ラフィノース)で10倍に希釈し、30℃で12〜18時間培養し、500×g、1〜5分間の遠心により菌体を回収した。回収した菌体は、培養液の1/10〜1/20量の2mM PMSFを含む抽出バッファー(50mM Tris、300mM NaCl、20%(w/v) グリセロール、0.5mM L−ピログルタミン酸、pH8.0)に懸濁し、マルチビーズショッカーを用いて破砕した。あるいは、前記回収した菌体を液体窒素中で凍結させ乳鉢と乳棒を用いて磨砕し、細かい粉末状の菌体片とした後に、培養液の1/10〜1/25量の2mM PMSFを含む抽出バッファーに懸濁した。
【0145】
前記2種類の破砕菌体懸濁液の遠心上清を0.2μmのフィルターで濾過し、菌体抽出液(粗酵素溶液)とした。その後、この菌体抽出液をNi−NTA Superflowカラム(QIAGEN社製)に供してHisタグ融合OXP1/YKL215cタンパク質を結合させ、イミダゾール20mMを含む抽出バッファーで洗浄後、250mMを含む抽出バッファーで溶出されるOXP1/YKL215cタンパク質含有画分を得た。
【0146】
なお、必要に応じて、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)を用いて前記OXP1/YKL215cタンパク質含有画分をさらに濃縮した。OXP1/YKL215cタンパク質含有画分は、抽出バッファーに対して透析を行い、精製酵素溶液とした。上記の酵素精製により、培養100mlあたり、55〜200μgのOXP1/YKL215cタンパク質(以下、「YKL215c」と表記する)が得られた。
【0147】
4.OXP1/YKL215cのSDS−PAGEによる精製度の確認
OXP1/YKL215cによる酵母形質転換体由来の菌体抽出液(粗酵素溶液)、および精製タンパク質(精製酵素溶液)の一部を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。電気泳動はLaemmliの方法に従い、トリスSDSβMEサンプル処理液(コスモバイオ社製)を添加し、100℃、5分間の熱処理後、アクリルアミド5−20%のグラジェントゲル(和光純薬工業社製)、Tris−Glycine SDS Running buffer(Invitrogen社製)を用いて泳動した。泳動終了後にゲルのCBB染色を行った結果を図5に示す。これにより、YKL215cが、高い純度で精製されていることを確認した。分子量は約140kDaであり、YKL215cのアミノ酸配列(1286アミノ酸、配列番号55)から算出される大きさと一致していた。
【0148】
なお、各タンパク質の量は、菌体抽出液では培養液100μL相当、精製タンパク質溶液ではタンパク質1μgを電気泳動に供した。
【0149】
(C.アスペルギルス属菌中で発現させたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質の活性確認)
1.5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質とL−ピログルタミン酸との反応によるL−グルタミン酸生成活性の検出
上述のA.の7.により得られたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As4.806、As4.820、およびAs36.1302)、および上述のB.の3.により得られた酵母由来5−オキソプロリナーゼ酵母オルソログタンパク質YKL215cを用いて、以下の手順に従って、5−オキソプロリナーゼ活性を確認した。
【0150】
L−ピログルタミン酸溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、pH8.0〕0.08mLと、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で200μg/mLに希釈した前記の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As4.806、As4.820、およびAs36.1302)溶液0.02mLを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。参照として、L−ピログルタミン酸溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、pH8.0〕0.08mLと、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で200μg/mLに希釈したYKL215c溶液0.02mLを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。前記の反応液を100℃、3分間加熱して酵素反応を停止後、酵素反応液中のL−グルタミン酸濃度を測定した。
【0151】
L−グルタミン酸の定量には、「ヤマサL−グルタミン酸検出キットII」(ヤマサ醤油社製)を用い、酵素反応液0.02mLに対して前記キットのL−グルタミン酸検出用発色試薬0.15mLを混合し、室温で20〜30分間反応後の600nmの吸光度を測定した。L−グルタミン酸標品による検量線を用いて、酵素反応液中のL−グルタミン酸濃度を算出し、反応液中のL−グルタミン酸濃度から酵素の活性の有無を調べた。
【0152】
その結果、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As4.806、As4.820、およびAs36.1302)、および5−オキソプロリナーゼ酵母オルソログタンパク質YKL215cのいずれを反応に用いた場合にも、反応液中のL−グルタミン酸は検出限界(5μM)以下であった。すなわち、反応液中に添加したL−ピログルタミン酸(0.5mM)のほとんどがL−グルタミン酸へと変換されておらず、5−オキソプロリナーゼ活性は検出できなかった。
【0153】
2.ATPおよび金属イオンの存在下における、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質とL−ピログルタミン酸との反応と活性の検出
上記の結果を受けて、発明者らは、L−ピログルタミン酸からL−グルタミン酸への変換において、リン酸化を伴う反応機構が存在する可能性を予想した。また、ATP要求性の酵素は、その触媒活性に金属イオンの存在を要求する場合がある。5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質とL−ピログルタミン酸との反応によりL−グルタミン酸への変換を検出できなかった要因は、反応系に補助因子が不足していることであるとも考えられた。そこで、次に、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質と基質であるL−ピログルタミン酸との反応を、ATP及び金属イオンの存在下で行った。
【0154】
具体的には、上述のA.の7.により得られたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As4.806、As4.820、およびAs36.1302)、および上述のB.の3.により得られた酵母由来5−オキソプロリナーゼ酵母オルソログタンパク質YKL215cを用いて、以下の手順に従って、5−オキソプロリナーゼ活性を確認した。なお、酵素の活性測定に関しては、FEMS Yeast Res.(Vol.10、394頁〜401頁、2010年)に記載の方法を改変した方法により測定した。L−ピログルタミン酸の分子内アミド結合が加水分解されて生じるL−グルタミン酸の増加程度を酵素学的に測定することにより酵素活性を算出することができる。
【0155】
基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸(MP Biomedicals社製)、6.25mM ATP(ORIENTAL YEAST社製)、12.5mM MgCl2、187.5mM KCl、pH8.0〕0.08mLと、前記の各5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As4.806、As4.820、およびAs36.1302)溶液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて200μg/mLに希釈)0.02mLをそれぞれ混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。なお、L−ピログルタミン酸は強酸性を示すため、緩衝液に溶解して、使用時のpHに調整後、他の試薬と混合して基質溶液の調製を行った。具体的には、L−ピログルタミン酸 10mmolとTris 10mmolを水80mL程度に溶解し、塩酸でpH8に調整後、100mLにメスアップした。同様に、以降の実施例においても、L−ピログルタミン酸を様々な緩衝液中に溶解した試薬は、L−ピログルタミン酸を各種緩衝液に溶解後に、使用時のpHになるよう調整して用いた。
【0156】
その他、本明細書に記載の試薬は、特に記載のない限り、和光純薬工業社製、ナカライテスク社製、Sigma社製、同仁化学研究所社製、ベクトン・ディッキンソン社製、日本製薬社製、タカラバイオ社製等の試薬、純度に区別のあるものは特級グレードの試薬を用いた。
【0157】
また、参照として、基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgCl、187.5mM KCl、pH8.0〕0.08mLと、YKL215c溶液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で200μg/mLに希釈)0.02mLを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。
【0158】
反応後、前記の各酵素反応液を100℃、3分間加熱して酵素反応を停止後、酵素反応液中のL−グルタミン酸濃度を測定した。
【0159】
L−グルタミン酸の定量には、「ヤマサL−グルタミン酸検出キットII」(ヤマサ醤油社製)を用い、前記酵素反応液0.02mLに対して前記キットのL−グルタミン酸検出用発色試薬0.15mLを混合し、室温で20〜30分間反応後の600nmの吸光度を測定した(測定値)。また、前記基質溶液の代わりに、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)0.08mLを用い、該緩衝液と前記の各5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As4.806、As4.820、およびAs36.1302)、または酵母オルソログタンパク質YKL215c溶液(50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて200μg/mLに希釈)をそれぞれ混合し、37℃で1時間反応を行った後、反応液中のL−グルタミン酸濃度を測定した(ブランク値)。得られた「ブランク値」と「測定値」から下式に基づいて、5−オキソプロリナーゼの活性を計算した。酵素活性の単位は、前述の条件下で1分間に1μmolのL−グルタミン酸を生成する酵素量を1単位(U)と定義した。
【数2】
【0160】
なお、式中の[Glu]は酵素反応液におけるL−グルタミン酸濃度(測定値)、[Glu blank]は50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を基質溶液の代わりに添加した反応液のL−グルタミン酸濃度(ブランク値)、[enzyme]は反応液中の5−オキソプロリナーゼの濃度、60は1時間の分数を表す。
【0161】
各アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質、および酵母由来オルソログタンパク質YKL215cについて、上記活性測定法に基づいて算出した5−オキソプロリナーゼの活性を調べた結果を表1に示す。
【表1】
【0162】
上述のC.の1.に示したように、いずれの精製タンパク質もTris−HCl緩衝液との反応では、反応液中のL−グルタミン酸濃度は検出限界以下であったが、表1に示すように、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ候補タンパク質As4.806およびAs4.820の精製タンパク質を基質溶液と反応させた場合には、公知の5−オキソプロリナーゼであるYKL215cと同様に、反応液中のL−グルタミン酸濃度が100μM以上に上昇した。
【0163】
このことから、YKL215c、As4.806、およびAs4.820は、ATP、1価カチオンであるカリウムイオン、および2価カチオンであるマグネシウムイオンの存在下、L−ピログルタミン酸をL−グルタミン酸に変換する反応を触媒する活性、つまり、5−オキソプロリナーゼ活性を持つことが確認された。
【0164】
一方で、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ候補タンパク質As36.1302では、ATP、1価カチオンであるカリウムイオン、および2価カチオンであるマグネシウムイオンの存在下でも、L−ピログルタミン酸との反応により反応液中のL−グルタミン酸濃度は上昇せず、5−オキソプロリナーゼ活性は検出できなかった。
【0165】
5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質As36.1302の5−オキソプロリナーゼ活性が検出されなかった要因として、酵素の力価が低く酵素量が不足していたことも予想されたので、反応液中の酵素量をさらに増やして同様に活性の有無の確認をした。
【0166】
50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で100、200、500、および1000μg/mLに希釈した前記のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As36.1302)溶液、Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で100、200、500、および1000μg/mLに希釈した前記のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ(As4.806、As4.820)溶液を調製し、それぞれ0.02mLを、基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgCl、187.5mM KCl、pH8.0〕0.08mLと混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。上述、C.の2.記載の方法に準じ、酵素反応後の溶液中のL−グルタミン酸濃度を測定し、酵素の活性の有無を調べた。各アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログおよび5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質について、タンパク質添加量とL−グルタミン酸濃度の関係は図6に示す通りであった。
【0167】
図6に示すように、As4.806(図中白抜き三角印でプロット)およびAs4.820(図中白抜き丸印でプロット)では、添加したタンパク質濃度依存的にL−グルタミン酸濃度が上昇した。
【0168】
一方で、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質As36.1302(図中白抜き四角印でプロット)を添加した反応系においては、添加量を200μg/mLまで増やしても、反応液中のL−グルタミン酸濃度が上昇せず、5−オキソプロリナーゼ活性は検出できなかった。
【0169】
これにより、上記の一連の手法により、同程度の配列同一性を示す3つの候補遺伝子から取得してきた3種のタンパク質のうち、As4.806、As4.820が5−オキソプロリナーゼのアスペルギルス・ソーヤオルソログであることが判明した。
【0170】
As4.806、As4.820およびAs36.1302のアミノ酸配列に相当する、配列番号56、57および58の各配列から予想されるオープンリーディングフレームにコードされるアミノ酸配列を、配列番号1、2および3に示す。
【実施例2】
【0171】
(アスペルギルス属菌由来5−オキソプロリナーゼの酵素学的性質)
実施例1において活性が確認された本発明の5−オキソプロリナーゼであるAs4.806およびAs4.820の酵素の諸性質を、下記のように調べた。また、参照酵素として、公知の5−オキソプロリナーゼである酵母由来YKL215cについても、同様に酵素の諸性質を調べた。それらの結果は、表2に示す通りである。
【0172】
なお、各5−オキソプロリナーゼは、特に記載しない限り、実施例1のA.の7.に記載の方法により得られたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ(As4.806、およびAs4.820)、および実施例1のB.の3.に記載の方法により得られた酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215cを用いた。
【表2】
【0173】
(1)ATP要求性
上述の実施例1のC.の2.において、As4.806およびAs4.820は、ATP、1価カチオンであるカリウムイオン、および2価カチオンであるマグネシウムイオンの存在下で、5−オキソプロリナーゼ活性を持つことがわかった。そこで、ATPがL−ピログルタミン酸からL−グルタミン酸への反応を触媒するために必要な補助因子であるのかどうかを調べた。
【0174】
具体的には、実施例1のC.の2.記載の方法に準じて、基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgCl、187.5mM KCl、pH8.0〕に加えて、ATPを含まない基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、12.5mM MgCl、187.5mM KCl、pH8.0〕を用い、前記のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ(As4.806およびAs4.820)溶液との反応を行った。該反応液中のL−グルタミン酸の濃度を測定し、得られたL−グルタミン酸濃度から実施例1のC.の2.記載の式に基づいて、5−オキソプロリナーゼの活性を計算した。酵素活性の単位は、本試験の条件下で1分間に1μmolのL−グルタミン酸を生成する酵素量を1単位(U)と定義した。
【0175】
各アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼについて、ATPの存在、あるいは非存在下でL−ピログルタミン酸との反応を行い、上記活性測定法に基づいて算出した5−オキソプロリナーゼの活性を表3に示す。その結果、ATP存在下では5−オキソプロリナーゼ活性が検出されたが、ATP非存在下では、As4.806およびAs4.820のどちらも、5−オキソプロリナーゼ活性は検出されなかった。
【0176】
このことから、本発明の5−オキソプロリナーゼAs4.806およびAs4.820はATP要求性の5−オキソプロリナーゼであることがわかった。
【表3】
【0177】
(2)1価カチオン、2価カチオン要求性
上述の実施例1のC.の2.において、本発明の5−オキソプロリナーゼであるAs4.806およびAs4.820は、ATP、1価カチオンであるカリウムイオン、および2価カチオンであるマグネシウムイオンの存在下で、5−オキソプロリナーゼ活性を持つことがわかった。そこで、1価カチオン、および2価カチオンがL−ピログルタミン酸からL−グルタミン酸への反応を触媒するために必要な補助因子であるのかどうかを調べた。
【0178】
具体的には、まず、基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgCl、187.5mM KCl、pH8.0〕、カリウムイオンを含まない基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgCl、pH8.0〕、およびマグネシウムイオンを含まない基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、pH8.0〕を調製した。次に、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で200μg/mLに希釈した前記のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ(As4.806およびAs4.820)溶液を調製した。前記3種類の基質溶液0.08mLと、前記2種類の酵素溶液0.02mLとを、それぞれを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。実施例1のC.の2.記載の方法に準じ、該酵素反応後の溶液中のL−グルタミン酸濃度を測定し、5−オキソプロリナーゼの活性を計算した。
【0179】
各アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼについて、ATPの存在、あるいは非存在下でL−ピログルタミン酸との反応を行い、上記活性測定法に基づいて算出した5−オキソプロリナーゼの活性を表4に示した。その結果、カリウムイオンとマグネシウムイオンの両者の存在下では5−オキソプロリナーゼ活性が検出されたが、カリウムイオン非存在下、あるいはマグネシウムイオン非存在下では、As4.806およびAs4.820のどちらも、5−オキソプロリナーゼ活性は検出されなかった。
【0180】
このことから、本発明の5−オキソプロリナーゼAs4.806およびAs4.820は、1価カチオン要求性、かつ2価カチオン要求性の5−オキソプロリナーゼであることがわかった。
【表4】
【0181】
次いで、As4.806およびAs4.820によるL−ピログルタミン酸からL−グルタミン酸への反応を触媒することのできる、1価カチオン、および2価カチオンの種類を調べた。
【0182】
1価カチオンの種類の検討では、1価カチオンを含まない基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgSO、pH8.0〕、KClを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgSO、187.5mM KCl、pH8.0〕、NHClを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgSO、187.5mM NHCl、pH8.0〕、CsClを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgSO、187.5mM CsCl、pH8.0〕、LiClを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgSO、187.5mM LiCl、pH8.0〕、NaClを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgSO、187.5mM NaCl、pH8.0〕をそれぞれ調製した。50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で300μg/mLに希釈した前記のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ(As4.806およびAs4.820)溶液を調製し、それぞれ0.02mLと、前記6種類の基質溶液0.08mLとを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。参照として、50mM Tris(pH8.0)緩衝液で300μg/mLに希釈した前記の酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215c溶液0.02mLと、前記6種類の基質溶液0.08mLとを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。実施例1のC.の2.記載の方法に準じ、該酵素反応後の溶液中のL−グルタミン酸濃度を測定し、酵素の活性の有無を調べた。
【0183】
その結果、図7で示す通り、添加することによって、As4.806(図中白地に黒の斜線のバー)およびAs4.820(図中黒のバー)の5−オキソプロリナーゼ活性が検出される1価カチオンが複数確認された。カリウムイオンの他にも、アンモニウムイオン、セシウムイオンなどを添加した場合に、活性が検出された。特に、アンモニウムイオンを添加することにより比較的高い活性が検出された。参照酵素であるYKL215c(図中白のバー)では、アンモニウムイオンおよびセシウムイオンを添加した場合に、活性が検出された。各カチオンの濃度検討を行うことにより、5−オキソプロリナーゼによるL−ピログルタミン酸からL−グルタミン酸への反応を触媒することができる1価カチオンを、カリウムイオン以外にも選択できると考えられる。
【0184】
2価カチオンの種類の検討では、2価カチオンを含まない基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、pH8.0〕、MgSOを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、12.5mM MgSO、pH8.0〕、CoSOを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、12.5mM CoSO、pH8.0〕、MnSOを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、12.5mM MnSO、pH8.0〕、Ca(CHCOOH)を含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、12.5mM Ca(CHCOOH)、pH8.0〕、FeSOを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、12.5mM FeSO、pH8.0〕、NiSOを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、12.5mM NiSO、pH8.0〕、CuSOを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、12.5mM CuSO、pH8.0〕、ZnSOを含む基質溶液〔50mM Tris、0.625mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、187.5mM KCl、12.5mM ZnSO、pH8.0〕をそれぞれ調製した。50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で300μg/mLに希釈した前記のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ(As4.806およびAs4.820)溶液を調製し、それぞれ0.02mLと、前記9種類の基質溶液0.08mLとを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。
【0185】
参照として、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で300μg/mLに希釈した前記の酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215c溶液0.02mLと、前記9種類の基質溶液0.08mLとを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。前記の反応液を100℃、3分間加熱して酵素反応を停止後、該反応液に1M HClを5μL加えて混合し、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)用いた、限外濾過により、除タンパク質画分を調製した。該除タンパク質画分を、イオン交換クロマトグラフィーに供し、分離後のアミノ酸をニンヒドリンによるポストラベル法で検出した。L−グルタミン酸標品による検量線を用いて、前記の酵素反応後の溶液中のL−グルタミン酸濃度を算出し、酵素の活性の有無を調べた。
【0186】
その結果、図8で示す通り、添加することによって、As4.806(図中白地に黒の斜線のバー)およびAs4.820(図中黒のバー)の5−オキソプロリナーゼ活性が検出される2価カチオンが複数確認された。マグネシウムイオンの他にも、マンガンイオン、または鉄イオンなどを添加した場合に、比較的高い活性が検出された。参照酵素であるYKL215c(図中白のバー)では、コバルトイオン、マンガンイオン、鉄イオンまたはニッケルイオンを添加した場合に、活性が検出された。各カチオンの濃度検討を行うことにより、5−オキソプロリナーゼによるL−ピログルタミン酸からL−グルタミン酸への反応を触媒することができる2価カチオンを、マグネシウムイオン以外にも選択できると考えられる。
【0187】
(3)至適pH
本発明の5−オキソプロリナーゼであるAs4.806およびAs4.820における至適pHを調べた。結果を図1に示す。
【0188】
具体的には、55.6mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0、9.0、図中黒丸印でプロット)、55.6mM クエン酸−NaOH緩衝液バッファー(pH4.0、pH5.0、pH6.0、図中黒四角印でプロット)、55.6mM リン酸−NaOH緩衝液(pH6.0、pH7.0、pH8.0、図中白抜き三角印でプロット)、55.6mM HEPES−NaOH緩衝液(pH7.0、pH8.0、図中×印でプロット)、55.6mM グリシン−NaOH緩衝液(pH9.0、H9.5、pH10.0、pH10.5、図中白抜き斜め四角印でプロット)、55.6mM CHES−NaOH緩衝液(pH9.0、pH10.0、図中白抜き四角印でプロット)、55.6mM CAPS−NaOH緩衝液(pH10.0、pH11.0、図中米印でプロット)でpH調整した基質溶液(0.556mM L−ピログルタミン酸、5.56mM ATP、11.1mM MgCl、166.7mM KClを含む)0.09mLと、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で400μg/mLに希釈した前記の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As4.806、As4.820)溶液0.01mLを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。
【0189】
参照として、前記のpHの異なる緩衝液で調製した基質溶液0.09mLと、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)緩衝液で600μg/mLに希釈した前記の酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215c溶液0.01mLを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。実施例1のC.の2.記載の方法に準じ、酵素反応後の溶液中のL−グルタミン酸濃度を測定し、最もL−グルタミン酸濃度が高いpHにおける測定値を100とし、相対活性を比較した。
【0190】
その結果、上記の本発明のアスペルギルス・ソーヤ由来の5−オキソプロリナーゼAs4.806およびAs4.820は、pH7.0もしくはpH8.0において最も高い活性を示し、pH7.0−8.0に至適pHを有していた。個別にみると、As4.806の相対活性が最も高かったのはpH7.0においてであり、その周辺域として、pH7.0−9.0の範囲で最大相対活性値の70%以上を示したことから、この範囲で好適に使用できると考えられた。
【0191】
また、As4.820の相対活性が最も高かったのはpH8.0においてであり、その周辺域として、pH7.0−9.0の範囲で最大相対活性値の70%以上を示したことから、この範囲で好適に使用できると考えられた。
【0192】
一方、公知の酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215cの相対活性が最も高かったのはpH10.0においてであり、pH9.5以下、およびpH10.5以上では、最大相対活性値の70%以下の活性となった。さらに、アスペルギルス・ソーヤ由来の5−オキソプロリナーゼAs4.806およびAs4.820が好適に使用できるpH7.0−8.0の範囲では、最大相対活性値の40%以下の活性しか示さなかった。以上より、本発明のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼは、公知の酵素と比較して、中性領域での実用に適していると考えられた。
【0193】
(4)pH安定性
本発明の5−オキソプロリナーゼであるAs4.806およびAs4.820について、pH4.0〜11.0の範囲におけるpH安定性を調べた。結果を図2に示す。
【0194】
具体的には、100mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0、9.0、図中黒丸印でプロット)、100mM クエン酸−NaOH緩衝液バッファー(pH4.0、pH5.0、pH6.0、図中黒四角印でプロット)、100mM リン酸−NaOH緩衝液(pH6.0、pH7.0、pH8.0、図中白抜き三角印でプロット)、100mM HEPES−NaOH緩衝液(pH7.0、pH8.0、図中×印でプロット)、100mM グリシン−NaOH緩衝液(pH9.0、H9.5、pH10.0、pH10.5、図中白抜き斜め四角印でプロット)、100mM CHES−NaOH緩衝液(pH9.0、pH10.0、図中白抜き四角印でプロット)、100mM CAPS−NaOH緩衝液(pH10.0、pH11.0、図中米印でプロット)0.015mLと、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で600μg/mLに希釈した前記のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ(As4.806およびAs4.820)溶液0.015mLを、それぞれを混合し、4℃で16時間保存した。該As4.806およびAs4.820を4℃で保存した溶液0.01mLと基質溶液〔50mM Tris、0.556mM L−ピログルタミン酸、5.56mM ATP、11.1mM MgCl、166.7mM KCl、pH8.0〕0.09mLを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。
【0195】
参照として、前記のpHの異なる各種100mMの緩衝液0.015mLと、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で200μg/mLに希釈した前記の酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215c溶液0.015mLを、それぞれを混合し、4℃で16時間保存した。該YKL215cを4℃で保存した溶液0.01mLと基質溶液〔50mM CHES、0.556mM L−ピログルタミン酸、5.56mM ATP、11.1mM MgCl、166.7mM KCl、pH10.0〕0.09mLを混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。前記の酵素反応させた溶液は、100℃、3分間加熱して酵素反応を停止後、遠心した(15,000×g、10分間)上清をL−グルタミン酸の測定用の検体として得た。該L−グルタミン酸測定用の検体は、実施例1のC.の2.記載の方法に準じ、酵素反応後の溶液中のL−グルタミン酸濃度を測定し、最もL−グルタミン酸濃度が高いpHにおける測定値を100とし、相対活性を比較した。
【0196】
その結果、上記の本発明のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼAs4.806およびAs4.820は、4℃、16時間処理後に、pH6.0〜9.0の範囲で最大相対活性値の70%以上の残存活性を示したことから、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼの安定pH範囲は、pH6.0〜9.0であると考えらえた。また、pH5.0以下およびpH11.0以上で保存した場合には、ほぼ完全に失活することがわかった。
【0197】
なお、参照酵素である酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215cは、pH9.0〜10.0の範囲で最大相対活性値の70%以上の残存活性を示したことから、酵母由来5−オキソプロリナーゼの安定pH範囲は、pH9.0〜10.0であると考えられた。
【0198】
以上より、本発明のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼの安定pH範囲は、弱酸性領域から弱アルカリ性に渡っており、公知の酵素YKL215cよりも中性〜酸性域を含む広範のpH範囲での安定性が高いことがわかった。
【0199】
(5)至適温度
至適温度の決定では、実施例1のC.の2.に記載の5−オキソプロリナーゼ活性検出反応液を、4、15、25、37、45、55、65℃で1時間インキュベートし、実施例1のC.の2.に記載の方法に準じ、L−グルタミン酸濃度を測定した。最もL−グルタミン酸濃度が高い温度における測定値を100とし、相対活性を比較した。
【0200】
図9に示すとおり、本発明のアスペルギルス・ソーヤ由来の5−オキソプロリナーゼAs4.806(図中白抜き三角印でプロット)およびAs4.820(図中白抜き四角印でプロット)では、37℃付近で最大相対活性を示し、25℃以下および45℃以上では最大相対活性の80%以下を示したことから、As4.806およびAs4.820の至適温度は37℃付近であると考えられた。
【0201】
なお、酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215c(図中×印でプロット)では、45℃付近で最大相対活性を、37℃付近で最大相対活性の90%の活性を示した。25℃以下および55℃以上では最大相対活性の80%以下を示した。よって、YKL215cの至適温度は45℃付近であると考えられた。
【0202】
(6)温度安定性
温度安定性の検討では、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で希釈した本発明の5−オキソプロリナーゼ(As4.806またはAs4.820)溶液0.03mLを、4、37、45、50、55、60、65、70℃で15分間インキュベートした後、基質溶液〔50mM Tris、0.714mM L−ピログルタミン酸、7.14mM ATP、14.2mM MgCl、214.3mM KCl、pH8.0〕0.07mLと混合し、37℃で1時間の酵素反応を行った。実施例1のC.の2.記載の方法に準じ、酵素反応後の溶液中のL−グルタミン酸濃度を測定し、熱処理せずに4℃で保存した酵素の反応液における測定値を100とし、相対活性を比較した。
【0203】
図10に示す通り、上記の本発明のアスペルギルス・ソーヤ由来の5−オキソプロリナーゼAs4.806(図中白抜き三角印でプロット)は、37℃、15分間の熱処理後に80%以上の残存活性を有しており、約37℃まで安定であることがわかった。
【0204】
本発明のアスペルギルス・ソーヤ由来の5−オキソプロリナーゼAs4.820(図中白抜き四角印でプロット)では、45℃の熱処理後に80%以上の残存活性を有しており、約45℃まで安定であることがわかった。また、酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215c(図中×印でプロット)では、45℃の熱処理後に80%以上の残存活性を有しており、約45℃まで安定であることがわかった。
【0205】
以上より、As4.806およびAs4.820において、反応至適温度である37℃においては活性の低下は検出されず、安定的に酵素反応を行うことができることがわかった。
【0206】
(7)L−ピログルタミン酸に対するKm値
基質であるL−ピログルタミン酸に対する本酵素の親和性を調べるために、前記、実施例1のC.の2.記載の活性測定法において、基質であるL−ピログルタミン酸濃度を変化させて活性測定を行い、Hanes−Woolf Plotを用いて、ミカエリス定数(Km)を算定した。
【0207】
その結果、本発明の5−オキソプロリナーゼAs4.806のL−ピログルタミン酸に対するKm値は93μM、As4.820のL−ピログルタミン酸に対するKm値は76μMであった。
【0208】
これに対し、酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215cのL−ピログルタミン酸に対するKm値は513μMであった。
【0209】
すなわち、本発明の5−オキソプロリナーゼは、公知の酵母5−オキソプロリナーゼよりもKm値が数〜6倍低く、親和性の高い酵素であることを示しており、より効率的に基質との反応を進行させることができることが期待される。
【0210】
(8)基質特異性
本発明の5−オキソプロリナーゼであるAs4.806およびAs4.820がL−ピログルタミン酸に特異的に反応して加水分解するのに対し、D−ピログルタミン酸を基質とはしないことを確認した。基質特異性の決定では、グルタミン酸の生成とピログルタミン酸の減少により、5−オキソプロリナーゼ活性の有無を決定した。
【0211】
具体的には、実施例1のC.の2.記載の方法に準じて、基質溶液〔50mM Tris、2.5mM L−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgCl、187.5mM KCl、pH8.0〕、およびL−ピログルタミン酸をD−ピログルタミン酸に変えた基質溶液〔50mM Tris、2.5mM D−ピログルタミン酸(MP Biomedicals社製、製造番号156461)、6.25mM ATP、12.5mM MgCl、187.5mM KCl、pH8.0〕を調製した。次に、実施例5の2.記載の方法に準じて取得した小麦ふすまで生産したアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼAs4.806−solid溶液(後述、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて7.68unit/1200μg/mLに希釈)、および実施例3の2.記載の方法に準じて取得した酵母発現アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼSC−As4.820溶液(後述、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて12.75unit/1500μg/mLに希釈)を調製した。前記2種類の基質溶液0.28mLと、前記2種類の酵素溶液0.07mLとをそれぞれを混合し、37℃で4時間の酵素反応を行った。
【0212】
また、参照として、前記2種類の基質溶液0.28mLと酵素を含まない10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)0.07mLとをそれぞれを混合し、37℃で4時間の酵素反応を行った。
【0213】
反応後、該反応液0.04mLに0.022M HClを360μL加えて混合し、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)を用いた限外濾過により、除タンパク質画分を調製した。該除タンパク質画分をイオン交換クロマトグラフィーに供し、分離後のアミノ酸をニンヒドリンによるポストラベル法で検出した。グルタミン酸標品による検量線を用いて、前記の酵素反応後の溶液中のグルタミン酸濃度を算出し、酵素の活性の有無を調べた。
【0214】
続いて、該反応液をAmicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)用いた限外濾過により、除タンパク質画分を調製した。該除タンパク質画分をイオン交換クロマトグラフィーに供し、分離後の有機酸をブロモチモールブルーによるポストラベル法で検出した。ピログルタミン酸標品による検量線を用いて、前記の酵素反応後の溶液中のピログルタミン酸濃度を算出し、ピログルタミン酸濃度の減少の有無を調べた。結果を図11に示す。
【0215】
図11で示すように、L−ピログルタミン酸とAs4.806−solidを反応させたとき、あるいはL−ピログルタミン酸とSC−As4.820を反応させたときに反応液中のグルタミン酸濃度が上昇し(図中上段、黒のバー)、ピログルタミン酸濃度が減少した(図中下段、黒のバー)。一方で、D−ピログルタミン酸とそれぞれの5−オキソプロリナーゼを反応させたときにはグルタミン酸濃度はほとんど変化せず(図中上段、白地に黒の斜線のバー)、ピログルタミン酸の減少も見られなかった(図中下段、白地に黒の斜線のバー)。
【0216】
これにより、5−オキソプロリナーゼAs4.806、及びAs4.820はL−ピログルタミン酸を基質とし、D−ピログルタミン酸を基質としないことが示された。
【0217】
上述のように本発明の5−オキソプロリナーゼは、至適pHが公知の5−オキソプロリナーゼと異なることから、異なる用途、使用場面を提供し、特に、アルカリ性に偏った至適pHやpH安定性を有する公知酵素では効果を上げにくかった弱酸性〜中性〜弱アルカリ性条件下の使用において特に優れている。例えば、そのようなpH条件下での使用の例としては、各種食品加工の実際の使用工程中等を想定することができ、それ以外にも、公知酵素では好適に使用できなかった新たな使用場面を提供することが期待される。
【0218】
また、本発明の5−オキソプロリナーゼは、試薬あるいは食品加工等の用途に利用する場合に、試験環境のpHが変化したときの影響を受けにくく、その取扱いが容易で利用しやすいと考えられることから、公知の5−オキソプロリナーゼよりも優れているといえる。このような特性により汎用性が広がることから、公知の5−オキソプロリナーゼでは使用しにくかった用途・使用工程に対しでも好適に使用することができ、5−オキソプロリナーゼの実用化のバリエーション化に貢献するものであるといえる。
【0219】
さらに、本発明の5−オキソプロリナーゼは、L−ピログルタミン酸に対するKm値は小さく、より効率的に反応を触媒でき、反応時間の短縮や酵素の使用量低減も期待できる利点を有する。
【実施例3】
【0220】
(アスペルギルス属菌由来5−オキソプロリナーゼの酵母による生産)
実施例1のC.の2.で取得した本発明のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼAs4.806およびAs4.820を、異種宿主である酵母を宿主としても生産できることを確認すること、さらに、上述の実施例においては活性を確認できなかったアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補As36.1302について、酵母を宿主とすることにより活性を持ったタンパク質を取得することについて、確認を行った。
【0221】
1.アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ遺伝子および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子の酵母発現用プラスミドの作製と酵母形質転換体の取得
実施例1のA.の5.で取得した5−オキソプロリナーゼオルソログ遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820)、および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子(scaffold00036.1302)のイントロン予測配列を除いた配列を導入したプラスミドpAsAlpP−4.806 CDS、pAsAlpP−4.820 CDS、pAsAlpP−36.1302 CDSから、PCRにより増幅した各遺伝子のDNA断片をpYES2/CT(Invitrogen社製)に導入することにより、酵母発現用プラスミドを得た。
【0222】
具体的には、pAsAlpP−4.806 CDSを鋳型とし、配列番号49および50に示したプライマーを用いて、5’側に制限酵素EcoRIの認識配列およびヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列、3’側に制限酵素NotIの認識配列を付加したscaffold00004.806のCDSのDNA断片をPCRにより増幅した。pAsAlpP−4.820 CDSを鋳型とし、配列番号51および52に示したプライマーを用いて、5’側に制限酵素KpnIの認識配列およびヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列、3’側に制限酵素NotIの認識配列を付加したscaffold00004.820のCDSのDNA断片をPCRにより増幅した。pAsAlpP−36.1302 CDSを鋳型とし、配列番号53および54に示したプライマーを用いて、5’側に制限酵素EcoRIの認識配列およびヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列、3’側に制限酵素NotIの認識配列を付加したscaffold00036.1302のCDSのDNA断片をPCRにより増幅した。
【0223】
反応試薬としてPrime Star Max(タカラバイオ社製)、装置としてMastercycler gradient(eppendorf社製)を用い、反応試薬キットに添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。
【0224】
前記のPCRにより増幅した3種類のDNA断片を、1%アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製し、制限酵素EcoRI(NEB社製)、KpnI−HF(BioLabs社製)、およびNotI(タカラバイオ社製)で切断後、1%アガロースゲル中で分離し、QIA quick Gel Extraction Kitを用いて、再度精製した。精製された前記DNA断片を、ligation high ver2(TOYOBO社製)を用いて、pYES2/CT(Invitrogen社製)のEcoRI−NotIサイト、KpnI−NotIサイトに連結し、pYES2/CTのマルチクローニングサイトに5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ遺伝子および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子(scaffold00004.806、scaffold00004.820、あるいはscaffold00036.1302)のCDSを組み込んだ、3種類の酵母形質転換体作製用の組換えプラスミドを得た。
【0225】
該組換えプラスミドを用いて大腸菌JM109株を定法により形質転換後、該形質転換体から前記組換えプラスミドをそれぞれ抽出し、該プラスミド中に挿入されたDNA配列の解析を行った。解析の結果、5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDSの配列が、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNA上の配列と一致することを確認した。上記操作を経た3種の遺伝子をそれぞれ含むプラスミドを、由来する遺伝子配列の名称であるscaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302に対応させて、pYES2−His−4.806、pYES2−His−4.820、およびpYES2−His−36.1302と名付けた。
【0226】
前記3種類のプラスミドpYES2−His−4.806 CDS、pYES2−His−4.820 CDS、およびpYES2−His−36.1302 CDSを用いて、S.c.EasyComp(商標)Transformation kit(Invitrogen社製)を用い、添付のマニュアルに従って、サッカロマイセス・セレビシエ INVsc1株を形質転換し、pYES2/CTにコードされたウラシル合成遺伝子であるURA3の発現により、ウラシル無添加培地に生育できるようになることで、ウラシル非要求性となることを指標に、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ遺伝子および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子による酵母形質転換体を選抜した。3種類のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ遺伝子および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子による酵母形質転換体は、由来する遺伝子の名称であるscaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302に対応させて、それぞれINVsc1−His−4.806 CDS株、INVsc1−His−4.820 CDS株、およびINVsc1−His−36.1302 CDS株と名付けた。
【0227】
2.酵母発現アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼおよびオルソログ候補タンパク質の取得
上記のようにして取得したアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ遺伝子および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子による酵母形質転換体INVsc1−His−4.806 CDS株、INVsc1−His−4.820 CDS株、およびINVsc1−His−36.1302 CDS株に導入されたプラスミド中の、5−オキソプロリナーゼ遺伝子および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子の上流には、ヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列が付加されており、酵母形質転換体をガラクトースの存在下で培養することにより、N末側にヒスチジン8個のタグが融合された5−オキソプロリナーゼおよび5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を発現誘導することができ、定法によりNiカラムを用いて精製することができる。すなわち、前記のINVsc1−His−4.806 CDS株、INVsc1−His−4.820 CDS株、およびINVsc1−His−36.1302 CDS株を、前培養用液体培地(0.67%(w/v) アミノ酸不含有イーストニトロゲンベース (ベクトン・ディッキンソン社製)、0.192%(w/v) ウラシル不含有酵母合成ドロップアウト培地用添加物 (sigma社製)、2.0%(w/v) ラフィノース)中、30℃で24時間、振盪培養した。その後、本培養用液体培地(0.67%(w/v)アミノ酸不含有イーストニトロゲンベース、0.192%(w/v)ウラシル不含有酵母合成ドロップアウト培地用添加物、2.5%(w/v)D−ガラクトース、0.75%(w/v)ラフィノース)で10倍に希釈し、30℃で12〜18時間培養し、1,500×g、1〜5分間の遠心により菌体を回収した。
【0228】
回収した菌体は、培養液の1/10〜1/20量の2mM PMSFを含む抽出バッファー(50mM Tris、300mM NaCl、20%(w/v) グリセロール、0.1 mM DTT、0.5mM L−ピログルタミン酸、pH8.0)に懸濁し、直径0.5mmのマルチビーズショッカー用専用グラスビーズ(安井器械社製)を加えて、マルチビーズショッカー(安井器械社製)を用いて破砕した(2000rpm、60秒間破砕後、30秒間静置、これを8回繰り返した)。破砕後の菌体懸濁液の遠心上清を0.2μmのフィルターで濾過し、菌体抽出液とした。
【0229】
その後、この菌体抽出液をNi−NTA Superflowカラム(QIAGEN社製)に供してHisタグ融合5−オキソプロリナーゼおよびHisタグ融合5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を結合させ、イミダゾール20mMを含む抽出バッファーで洗浄後、250mMを含む抽出バッファーで溶出されるHisタグ融合タンパク質含有画分を得た。
【0230】
なお、前記3種類のHisタグ融合タンパク質含有画分は、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)を用いてさらに濃縮後、抽出バッファーに対して透析を行い、精製酵素溶液を得た。以下、それぞれのHisタグ融合5−オキソプロリナーゼおよびHisタグ融合5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を、由来する遺伝子の名称(scaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302)に対応して、SC−As4.806、SC−As4.820、SC−As36.1302と表記する。上記の酵素精製により、培養100mlあたり、SC−As4.806では10〜20μg、SC−As4.820では75〜400μg、SC−As36.1302では10〜20μgのタンパク質が得られた。
【0231】
3.酵母発現アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼの活性確認
上述の実施例3の2.により得られた、酵母で発現させたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼタンパク質(SC−As4.806およびSC−As4.820)および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(SC−As36.1302)、実施例1のB.の3.により得られた酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215cについて、実施例1のC.の2.に記載の方法に準じて、5−オキソプロリナーゼ活性を測定した。結果を表5に示す。
【表5】
【0232】
表5に示すように、酵母で発現させたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼSC−As4.806、SC−As4.820、および酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215cは、基質溶液との反応により、5−オキソプロリナーゼ活性が検出された。このことから、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼAs4.806、As4.820は、酵母で発現させた場合にも5−オキソプロリナーゼ活性を示し、異種発現した場合にも活性を持って発現可能であることが確認された。
【0233】
また、酵母で発現させたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質SC−As36.1302では、基質溶液との反応によりL−グルタミン酸濃度が上昇せず、5−オキソプロリナーゼ活性は検出されなかった。すなわち、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質As36.1302は、酵母で発現させた場合にも5−オキソプロリナーゼ活性を示さないことが確認された。
【実施例4】
【0234】
(アスペルギルス属菌由来5−オキソプロリナーゼの大腸菌による生産)
酵母由来5−オキソプロリナーゼYKL215cは、大腸菌で発現させることができなかったと報告されている(FEMS Yeast Res. 10, 394-401, 2010)。しかし、麹菌由来ピログルタミン酸開環酵素に関しては不明であり、活性を保持した酵素の大腸菌での発現・大量精製が可能となれば、性能評価に用いる酵素が容易に得られるようになる。実施例1のC.の2.で取得した本発明のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼAs4.806およびAs4.820を、異種宿主である大腸菌を宿主としても生産できることについて、確認を行った。
【0235】
1.アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ遺伝子の大腸菌発現用プラスミドの作製と大腸菌形質転換体の取得
実施例1のA.の5.で取得した、ヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ遺伝子(scaffold00004.806、およびscaffold00004.820)のCDSを導入したプラスミドpAsAlpP−His−4.806 CDS、pAsAlpP−His−4.820 CDSから、PCRにより増幅した各遺伝子のDNA断片をpET−22b(+)(Novagen社製)に導入することにより、大腸菌発現用プラスミドを得た。
【0236】
具体的には、pAsAlpP−His−4.806 CDSを鋳型とし、配列番号59および60に示したプライマーを用いて、5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加したscaffold00004.806のCDSのDNA断片を、pAsAlpP−His−4.820 CDSを鋳型とし、配列番号61および62に示したプライマーを用いて、5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加したscaffold00004.820のCDSのDNA断片をPCRにより増幅した。
【0237】
さらに、プラスミドpET−22b(+)を鋳型として、配列番号63および64のインバースPCR用プライマーを用いて、プラスミドpET−22b(+)の制限酵素サイトNdeIとNotIで挟まれた領域を除いた配列をPCRにより増幅した。なお、反応試薬としてPrime Star Max(タカラバイオ社製)、装置としてMastercycler gradient(eppendorf社製)を用い、反応試薬キットに添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。
【0238】
前記のPCRにより増幅したそれぞれのDNA断片を、1%アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。2種類の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDSの5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加したDNA断片それぞれを、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kitを用いて、制限酵素サイトNdeIとNotIで挟まれた領域を除いたプラスミドpET−22b(+)に連結することにより、プラスミドpET−22b(+)のマルチクローニングサイト(MCS)のNdeIとNotIに挟まれた領域に5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ遺伝子(scaffold00004.806、あるいはscaffold00004.820)のCDSを組み込んだ、2種類の大腸菌形質転換体作製用の組換えプラスミドを得た。
【0239】
該組換えプラスミドを用いて大腸菌JM109株を定法により形質転換後、該形質転換体から前記組換えプラスミドをそれぞれ抽出し、該プラスミド中に挿入されたDNA配列の解析を行った。解析の結果、5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のCDSの配列が、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNA上の配列と一致することを確認した。上記操作を経た2種の遺伝子をそれぞれ含むプラスミドを、由来する遺伝子配列の名称であるscaffold00004.806、およびscaffold00004.820に対応させて、pET−22b(+)−His−4.806 CDS、およびpET−22b(+)−His−4.820 CDSと名付けた。
【0240】
前記2種類のプラスミドpET−22b(+)−His−4.806 CDS、およびpET−22b(+)−His−4.820 CDSを用いて、大腸菌ECOS(商標)コンピテント大腸菌BL21(DE3)株(ニッポンジーン社製)を定法により形質転換し、pET−22b(+)にコードされたアンピシリン耐性遺伝子の発現によりアンピシリン添加培地に生育できるようになることを指標に、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ遺伝子による大腸菌形質転換体を選抜した。各アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ遺伝子による大腸菌形質転換体は、由来する遺伝子の名称であるscaffold00004.806、およびscaffold00004.820に対応させて、それぞれBL21−His−4.806 CDS株、およびBL21−His−4.820 CDS株と名付けた。
【0241】
2.大腸菌発現アスペルギルス属菌由来5−オキソプロリナーゼタンパク質の取得
上記のようにして取得したアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ遺伝子による大腸菌形質転換体BL21−His−4.806 CDS株、およびBL21−His−4.820 CDS株に導入された、プラスミド中の5−オキソプロリナーゼ遺伝子および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子の上流には、ヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列が付加されており、大腸菌形質転換体をIPTGの存在下で培養することにより、N末側にヒスチジン8個のタグが融合された5−オキソプロリナーゼタンパク質を発現誘導することができ、定法によりNiカラムを用いて精製することができる。すなわち、前記のBL21−His−4.806 CDS株、およびBL21−His−4.820 CDS株を、50μg/mLのアンピシリンを含有するLB液体培地(1.0%(w/v)ポリペプトン(ベクトン・ディッキンソン社製)、0.5%(w/v)イーストエキス(ベクトン・ディッキンソン社製)、0.5%(w/v)NaCl(和光純薬社製)中、30℃で一晩、振盪培養した。50μg/mLのアンピシリンを含有するLB液体培地で100倍に希釈して3.0時間振盪培養し、その後、0.1mMとなるようにIPTGを添加して、さらに30℃で2.5〜3.0時間、振盪培養した。5,000×g、3分間の遠心により菌体を回収した。
【0242】
回収した菌体は液体窒素中で凍結させ、乳鉢と乳棒を用いて磨砕し、細かい粉末状の菌体片とした後に、培養液の1/12量の2mM PMSFを含む抽出バッファー(50mM Tris、300mM NaCl、20%(w/v) グリセロール、0.5mM L−ピログルタミン酸、pH8.0)に懸濁し、懸濁液の粘度を下げるために、超音波処理を行った。破砕後の菌体懸濁液の遠心上清を0.2μmのフィルターで濾過し、菌体抽出液とした。
【0243】
その後、この菌体抽出液をNi−NTA Superflowカラム(QIAGEN社製)に供してHisタグ融合5−オキソプロリナーゼを結合させ、イミダゾール20mMを含む抽出バッファーで洗浄後、250mMを含む抽出バッファーで溶出されるHisタグ融合タンパク質含有画分を得た。
【0244】
なお、前記2種類のHisタグ融合タンパク質含有画分は、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)を用いてさらに濃縮後、抽出バッファーに対して透析を行い、精製酵素溶液を得た。以下、それぞれのHisタグ融合5−オキソプロリナーゼを、由来する遺伝子の名称(scaffold00004.806、およびscaffold00004.820)に対応して、EC−As4.806、およびEC−As4.820と表記する。上記の酵素精製により、培養100mlあたり、EC−As4.806では55μg、EC−As4.820では63μgのタンパクが得られた。
【0245】
3.大腸菌発現アスペルギルス属菌由来5−オキソプロリナーゼの活性確認
上述の実施例4の2.により得られた、大腸菌で発現させたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼタンパク質(EC−As4.806およびEC−As4.820)について、実施例1のC.の2.に記載の方法に準じて、5−オキソプロリナーゼ活性を測定した。結果を表6に示す。
【表6】
【0246】
表6に示すように、大腸菌で発現させたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼEC−As4.806、およびEC−As4.820は、基質溶液との反応により、5−オキソプロリナーゼ活性が検出された。このことから、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼAs4.806、およびAs4.820は、大腸菌で発現させた場合にも5−オキソプロリナーゼ活性を示し、異種発現した場合にも活性を持って発現可能であることが確認された。また、麹菌由来ピログルタミン酸開環酵素機能を持つためには糖鎖が不要であることも明らかとなり、活性を保持した酵素の大腸菌での発現・大量精製が可能となれば、性能評価に用いる酵素が容易に得られるようになる。
【0247】
上述のように本発明の5−オキソプロリナーゼは、宿主をアスペルギルス属菌等の糸状菌に限定されることなく、生産することができる。異種発現が可能であることは、発現量増加を目的とした宿主の選択や、酵素の改良時のタンパク質レベルでの確認の際に有利であり、本発明の実用上の有意性に貢献する。
【実施例5】
【0248】
(アスペルギルス属菌に発現させたアスペルギルス属菌由来5−オキソプロリナーゼおよび5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質の固体培養における生産)
味噌・醤油・日本酒・焼酎などの各種醸造食品の製造では、麹菌を固体培養して麹を作製する。一般的に、固体培養と液体培養とでは、異なる発現パターンを示すことが知られており、酵素の発現量や比活性も液体培養とは異なる可能性があると考えられる。
【0249】
そこで、実施例1のA.の6.で取得した本発明のアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼAs4.806による形質転換体およびAs4.820による形質転換体を、小麦ふすまを用いた固体培養で培養することにより活性を持ったタンパク質を生産できることを確認すること、さらに、実施例1のC.の2.においては活性を確認できなかったアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質As36.1302について、小麦ふすまを用いた固体培養を行うことにより、活性を持ったタンパク質を取得することについて確認を行った。
【0250】
1.小麦ふすま培養物からのアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼおよび5−オキソプロリナーゼ候補タンパク質の取得
実施例1のA.の6.で取得したアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ遺伝子によるアスペルギルス属菌形質転換体NBRC4239−His−4.806 CDS株、NBRC4239−His−4.820 CDS株、および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子によるアスペルギルス属菌形質転換体NBRC4239−His−36.1302 CDS株のゲノムDNAに導入された、5−オキソプロリナーゼ遺伝子および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子の上流には、ヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列が付加されており、アスペルギルス属菌形質転換体を培養することによりN末側にヒスチジン8個のタグが融合された5−オキソプロリナーゼおよび5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を発現誘導することができ、定法によりNiカラムを用いて精製することができる。
【0251】
まず、小麦ふすま10gに対して水8mLを加え、150mL 三角フラスコに5gずつ入れてオートクレーブすることにより、80%散水小麦ふすま固体培地を作製した。次に、実施例1のA.の6.で取得したNBRC4239−His−4.806 CDS株、NBRC4239−His−4.820 CDS株、およびNBRC4239−His−36.1302 CDS株の分生子5×10個を、前述の80%散水小麦ふすま固体培地に培養し、30℃で培養した。菌糸が伸びてきた頃に手入れをし、再び培養した。菌糸の伸長が進んでおり、分生子はほとんど存在しない形態を示した42時間培養した培養物を回収し、液体窒素で凍結した。
【0252】
回収した小麦ふすま培養物1gを、液体窒素中で乳鉢と乳棒を用いて磨砕して得た細かい粉末状の菌体片を、10mLの2mM PMSFを含む抽出バッファー(50mM Tris、300mM NaCl、20%(w/v) グリセロール、0.5mM L−ピログルタミン酸、pH8.0)に懸濁した。得られた懸濁液の遠心上清を0.2μmのフィルターで濾過し、小麦ふすま培養物抽出液とした。
【0253】
その後、この小麦ふすま培養物抽出液をNi−NTA Superflowカラム(QIAGEN社製)に供してHisタグ融合5−オキソプロリナーゼおよびHisタグ融合5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を結合させ、イミダゾール20mMを含む抽出バッファーで洗浄後、250mMを含む抽出バッファーで溶出されるHisタグ融合タンパク質含有画分を得た。
【0254】
なお、前記3種類のHisタグ融合タンパク質含有画分は、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)を用いてさらに濃縮後、抽出バッファーに対して透析を行い、精製酵素溶液を得た。以下、それぞれのHisタグ融合5−オキソプロリナーゼタンパク質およびHisタグ融合5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を、由来する遺伝子の名称(scaffold00004.806、scaffold00004.820、およびscaffold00036.1302)に対応して、As4.806−solid、As4.820−solid、As36.1302−solidと表記する。上記の酵素精製により、培養100mlあたり、As4.806−solidでは43μg、As4.820−solidでは57μg、As36.1302−solidでは47μgのタンパク質が得られた。
【0255】
2.上述の実施例5の1.により得られた、小麦ふすま培養物から精製したアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼおよび5−オキソプロリナーゼ候補タンパク質の活性確認
上述の実施例5の1.により得られた、小麦ふすま培養物から精製したアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼ(As4.806−solidおよびAs4.820−solid)および5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質(As36.1302−solid)について、実施例1のC.の2.に記載の方法に準じて、5−オキソプロリナーゼ活性を測定した。結果を表7に示す。
【表7】
【0256】
表7に示すように、小麦ふすま培養物から精製したアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼタンパク質As4.806−solid、およびAs4.820−solidは、基質溶液との反応によりグルタミン酸濃度が上昇した。このことから、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼAs4.806、およびAs4.820は、小麦ふすまで発現させた場合にも5−オキソプロリナーゼ活性を示し、活性を持って生産可能であることが確認された。
【0257】
また、小麦ふすまで発現させたアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質As36.1302−solidでは、基質溶液との反応によりL−グルタミン酸濃度が上昇せず、5−オキソプロリナーゼ活性は検出されなかった。すなわち、アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質As36.1302は、小麦ふすまで発現させた場合にも5−オキソプロリナーゼ活性を示さないことが確認された。
【0258】
さらに、小麦ふすまで生産したアスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼAs4.806−solidは、液体培養時の数倍以上に高い活性を保ったまま発現させることができることが示され、固体培養時に効率的にグルタミン酸の生産が可能であることが示唆された。
【実施例6】
【0259】
(アスペルギルス・オリゼからの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質の取得)
1.アスペルギルス・オリゼにおける5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子の検索
アスペルギルス・ソーヤの5−オキソプロリナーゼAs4.820のタンパク質の配列データを用い、それらと比較的配列同一性の高い遺伝子を、アスペルギルス・オリゼから探索することを試みた。検索にはBlastプログラム(tblastn)を用いた。アスペルギルス・オリゼのDNAデータとしては、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae) RIB40株のゲノム配列(独立行政法人 製品評価技術基盤機構のデータベース:DOGAN、Nature 438(7071),1157−1161,2005)を用いた。
【0260】
検索の結果、比較的遺伝子配列同一性が高かった配列領域として、配列番号65で示す遺伝子AO090103000443(3843bp)がみつかった。AO090103000443のDNA配列から予想されるオープンリーディングフレームにコードされるアミノ酸配列を配列番号66に示す。
【0261】
遺伝情報処理ソフトウェアGenetyxネットワーク版 version 11.0.6(ゼネティックス社製)によりアミノ酸レベルでの配列同一性の比較を行うと、AO090103000443とアスペルギルス・ソーヤの5−オキソプロリナーゼAs4.820との配列同一性は99.0%であり、アスペルギルス・オリゼの5−オキソプロリナーゼオルソログであることが示唆された。また、AO090103000443とラット5−オキソプロリナーゼとの配列同一性は55.0%、酵母由来5−オキソプロリナーゼであるOXP/YKL215cとの配列同一性は54.1%であった。これは実施例1のC.の2.で5−オキソプロリナーゼ活性のあることが示されたアスペルギルス・ソーヤの5−オキソプロリナーゼAs4.820とラット5−オキソプロリナーゼとの配列同一性51.5%、およびAs4.820と酵母オルソログ5−オキソプロリナーゼとの配列同一性51.1%と同程度であることからも、AO090103000443がアスペルギルス・オリゼの5−オキソプロリナーゼオルソログであることが示唆された。
【0262】
そこで、AO090103000443のDNA配列情報を利用して、AO090103000443にコードされるタンパク質の5−オキソプロリナーゼ活性の有無を確認する実験を進めた。
【0263】
2.アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)からのゲノムDNA抽出
アスペルギルス・オリゼ RIB40株をバッフル付き三角フラスコにて、PD培地(2%(w/v) デキストリン、1%(w/v) ポリペプトン、0.5%(w/v) KHPO、0.05%(w/v) MgSO・7HO、0.1%(w/v) カザミノ酸)中、30℃で1〜2日間振盪培養し、濾過により菌体を回収した。回収して得た菌体を、液体窒素中で凍結させ乳鉢と乳棒を用いて磨砕し、細かい粉末状の菌体片とした。
【0264】
65℃に温めたNuclei Lysis Solution(Promega社製) 300μLにスパーテル1杯程度の前記粉末状の菌体片を加え、ボルテックスした後、65℃で15分間、インキュベートした。次いで、50μg/mLとなるようにRNase(ニッポンジーン社製)を添加し、37℃で15分間インキュベートした。その後、Protein Precipitation Solution(Promega社製) 125μLを加え、20秒間、激しくボルテックスし、14,000×gで5分間遠心した。得られた上清をイソプロパノール300μLと混合し、11,000×gで3分間遠心して得た沈殿を、70%エタノールでリンスすることにより、アスペルギルス・オリゼ RIB40株由来のゲノムDNAを回収した。このゲノムDNAにTE(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA)を加え、50℃、5分間インキュベートして溶解することにより、所望の濃度のゲノムDNA溶液を調製した。
【0265】
3.アスペルギルス・オリゼにおける5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子のクローニングとアスペルギルス属菌用発現ベクターの作製
上述のアスペルギルス・オリゼの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子AO090103000443のエクソン−イントロン構造を予測すると、アスペルギルス・ソーヤの5−オキソプロリナーゼオルソログ遺伝子と同様に、2つのエクソンと1つのイントロンが存在すると考えられた。具体的には、配列番号67で示したの3899塩基のうち2524番から2579番がイントロンであると予測され、スプライシングにより配列番号65のCDSが生成されると予想された。本実験では、予測されたイントロンの配列を除去せずに配列番号67で示されるpre mRNAの配列を次の操作に用いた。
【0266】
実験6の2.により取得したゲノムDNAを鋳型に、配列番号68および69のプライマーを用いて、5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加したアスペルギルス・オリゼの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子AO090103000443のpre mRNAの配列をPCRにより増幅した。反応試薬としてPrime Star Max(タカラバイオ社製)、装置としてMastercycler gradient(eppendorf社製)を用い、反応試薬キットに添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。前記のPCRにより増幅したヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加したAO090103000443のpre mRNAと考えられるDNA断片は、1%アガロースゲル中で分離し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて精製した。また、クローニング用のベクターとして、実施例1のA.の4.で作製した組換えプラスミドpAsAlpP−4.806 pre mRNA(pUC19のマルチクローニングサイト(MCS)の上流に、Palp、pyrG、Ptef1、5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子scaffold00004.806のpre mRNA、およびTalpの配列が順に連結された組換えプラスミド)を鋳型とし、配列番号13および23のインバースPCR用のプライマーを用いて5‘側にTalp、3’側にPalp、pyrGおよびPtef1を含むプラスミド側の配列をPCRにより増幅した。次いでDNA断片を1%アガロースゲル中で分離、QIAquick Gel Extraction Kitを用いて精製した。
【0267】
上記のようにして取得した2種類のDNA断片をIn−Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech社製)を用いて連結し、5’側にヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列を付加したアスペルギルス・オリゼの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子AO090103000443 pre mRNAのDNA断片と考えられるDNA断片を、プラスミドpAsAlpPのPtef1領域およびTalp領域の間に連結し、麹菌形質転換体作製用の組換えプラスミドを得た。得られた組換えプラスミドは、由来する遺伝子の名称であるAO090103000443に対応させて、pAsAlpP-AO090103000443 pre mRNAと名付けた。
【0268】
この組換えプラスミドを用いて大腸菌JM109株を定法により形質転換後、該形質転換体から前記組換えプラスミドをそれぞれ抽出し、該プラスミド中に挿入された各DNA配列の解析を行った。解析の結果、前記の5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子AO090103000443 pre mRNAのDNA断片と考えられるDNA断片は、アスペルギルス・オリゼRIB40株のゲノムDNAに存在するAO090103000443の配列(配列番号67)と一致することを確認した。
【0269】
4.アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のアスペルギルス・オリゼ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子による形質転換体の取得
上記のように作製したpAsAlpP-AO090103000443 pre mRNAを鋳型として、配列番41および40のプライマーを用い、Palp、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子AO090103000443 pre mRNA、およびTalpが連結されたDNA断片をPCRにより増幅した。なお、反応試薬としてKOD Dash Neo(TOYOBO社製)、装置としてMastercycler gradient(eppendorf社製)を用い、反応試薬キットに添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。
【0270】
上記ように増幅したDNA断片(Palp、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子AO090103000443 pre mRNA、およびTalpが連結されたDNA断片)は、エタノール沈殿後、TEに溶解して、所望の濃度のDNA溶液を調製し、下記の手順でアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来pyrG破壊株(pyrG遺伝子の上流48bp、コード領域896bp、下流240bp欠損株)の形質転換に用いた。
【0271】
まず、形質転換に用いるアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株(マルツプレートに培養したアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来pyrG破壊株の分生子、9cmシャーレに10分の1程度)を、0.01% Tween80溶液に懸濁し、10mMとなるようにウリジンを添加したPD培地(2%(w/v) デキストリン、1%(w/v) ポリペプトン、0.5%(w/v) KHPO、0.05%(w/v) MgSO・7HO、0.1%(w/v) カザミノ酸)150mLに植菌し、18時間程度、振盪培養した。培養後、濾過により菌体を回収し、形質転換用にPCRにより増幅しておいたDNA断片(Palp、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子AO090103000443 pre mRNA、およびTalpが連結されたDNA断片)のTE溶液(DNA10μg程度/20μL)を用いて、プロトプラスト−PEG法により、形質転換を行った。
【0272】
得られた各形質転換体においては、NBRC4239株のアルカリプロテアーゼ遺伝子座にpyrG、Ptef1、およびHisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子AO090103000443 pre mRNAが連結された配列がそれぞれ導入される。これらの株は、ウリジン要求性を相補する遺伝子であるpyrGが導入されることにより、ウリジン無添加培地に生育できるようになることで、目的の遺伝子が導入された株を選択できる。
【0273】
さらに、該形質転換体について、コロニーPCRにより目的の遺伝子座に遺伝子導入された株であることの確認を行なった。すなわち、爪楊枝で掻きとった該形質転換体の分生子をTEに懸濁してPCRの鋳型とし、配列番号43および44のプライマーを用い、アルカリプロテアーゼ遺伝子座の上流237塩基目から下流277塩基目に挟まれた領域をPCRにより増幅した。反応試薬には、KOD FX (TOYOBO社製)を用い、94℃、5分間の熱処理後、添付されたプロトコールに従って伸長反応を行った。その結果、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNAのアルカリプロテアーゼ遺伝子座のアルカリプロテアーゼ遺伝子(alp、1389bp、配列番号45)に換えて、形質転換体株では、pyrG、Ptef1、Hisタグ配列を付加した5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子AO090103000443 pre mRNAが連結されたDNA(約6.6kbp)の存在を示す約7kbpのシグナルが検出されたことにより、前記の形質転換体ではアルカリプロテアーゼ遺伝子座において相同組換えされたことを確認した。
【0274】
上記の方法により、アスペルギルス・オリゼ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子に由来する遺伝子による形質転換体(アスペルギルス・オリゼの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子によるアスペルギルス属菌形質転換体)を取得することができた。該形質転換体は、由来する遺伝子の名称AO090103000443に対応させて、NBRC4239−His−AO090103000443 pre mRNA株と名付けた。
【0275】
5.アスペルギルス・オリゼ由来5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質の取得
上記のようにして取得したアスペルギルス・オリゼの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子によるアスペルギルス属菌形質転換体のゲノムDNAに導入された、5−オキソプロリナーゼ候補遺伝子の上流にはヒスチジン8個の配列をコードする24塩基の配列が付加されており、アスペルギルス属菌形質転換体を培養することにより、N末側にヒスチジン8個のタグが融合された5−オキソプロリナーゼ候補タンパク質を発現させることができる。
【0276】
該N末Hisタグ融合5−オキソプロリナーゼ候補タンパク質は、定法によりNiカラムを用いて精製することができる。すなわち、アスペルギルス・オリゼの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補遺伝子によるアスペルギルス属菌形質転換体(NBRC4239−His−AO090103000443 pre mRNA株)の分生子を、PD培地(2%(w/v) デキストリン、1%(w/v) ポリペプトン、0.5%(w/v) KHPO、0.05%(w/v) MgSO・7HO、0.1%(w/v) カザミノ酸)に1×10個/mLとなるように植菌し、30℃、120rpmで、2日間培養し、濾過により菌体を回収した。
【0277】
回収した菌体を液体窒素中で凍結させ、乳鉢と乳棒を用いて磨砕して得た細かい粉末状の菌体片を、培養液の1/13量の2mM PMSFを含む抽出バッファー(50mM Tris、300mM NaCl、20%(w/v) グリセロール、0.5mM L−ピログルタミン酸、pH8.0)に懸濁した。得られた懸濁液の遠心上清を0.2μmのフィルターで濾過し、菌体抽出液(粗酵素溶液)とした。
【0278】
その後、この菌体抽出液の一部を、Ni−NTA Superflowカラム(QIAGEN社製)に供してHisタグ融合5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質を結合させ、イミダゾール20mMを含む抽出バッファーで洗浄後、イミダゾール250mMを含む抽出バッファーで溶出された5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質含有画分を得た。なお、必要に応じて、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)を用いて、前記5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質含有画分をさらに濃縮した。5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質含有画分は、抽出バッファーに対して透析を行い、精製酵素溶液とした。
【0279】
上記の酵素の精製操作により、培養100mLあたり283μgの5−オキソプロリナーゼオルソログ候補タンパク質が得られた。
【0280】
6.アスペルギルス属菌で発現させたアスペルギルス・オリゼ由来5−オキソプロリナーゼ候補タンパク質の活性確認
上述の実施例6の5.により得られたアスペルギルス・オリゼ由来5−オキソプロリナーゼ候補タンパク質について、実施例1のC.の2.に記載の方法に準じて、5−オキソプロリナーゼ活性を測定した。タンパク質添加量とL−グルタミン酸濃度の関係は図12に示す通りであった。
【0281】
図12に示すように、添加したAO090103000443タンパク質の濃度依存的にL−グルタミン酸濃度が上昇し、アスペルギルス・オリゼの5−オキソプロリナーゼオルソログであることが判明した。
【0282】
このことから、アスペルギルス属菌由来の5−オキソプロリナーゼはアスペルギルス・ソーヤに限定されることなく、相同性の高い分子がアスペルギルス属菌に広く存在することが示された。
【実施例7】
【0283】
本発明の5−オキソプロリナーゼを飲食品の加工に用いることにより、飲食品のうま味向上に使用できると考えられる。すなわち、ピログルタミン酸を多く含んだ飲食品中で、5−オキソプロリナーゼによりピログルタミン酸を加水分解処理すると、呈味成分として重要なグルタミン酸を大量に遊離でき、従来にない優れた呈味力を有する飲食品を得ることができると予想される。
【0284】
そこで、以下の手順に従って、ピログルタミン酸含量が高い食品であるトマトエキス、およびしょうゆをアスペルギルス属菌由来の5−オキソプロリナーゼで処理することにより、グルタミン酸濃度を上昇させる効果を調べた。
【0285】
(A.アスペルギルス属菌由来の5−オキソプロリナーゼによるトマトエキス中のグルタミン酸量の増加)
トマトエキス(ライコレッド社製、Brix 60%)はミリQ水で希釈し、1M KOHによりpH8に調整した。反応に用いた5−オキソプロリナーゼは、実施例3の2.記載の方法に準じて取得した酵母発現アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼSC−As4.820を、実施例1のC.の2.記載の方法に準じて5−オキソプロリナーゼの活性を測定し、トマトエキスとの反応液に用いた。
【0286】
具体的には、トマトエキス希釈液〔8倍希釈したマトエキス、6.25mM ATP、pH8.0〕0.16mLと、実施例3の2.記載の方法に準じて取得した5−オキソプロリナーゼオルソログタンパク質SC−As4.820溶液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて10.6unit/1200μg/mLに希釈)0.04mLをそれぞれ混合し、37℃で4時間の酵素反応を行った。
【0287】
また、参照として、トマトエキス希釈液〔8倍希釈したマトエキス、6.25mM ATP、pH8.0〕0.16mLと、前記5−オキソプロリナーゼオルソログタンパク質溶液の代わりに、10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、牛血清アルブミン(以下、BSAと表記する)溶液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて1200μg/mLに希釈)、あるいは実施例1のA.の7.記載の方法に準じて取得したAs36.1302溶液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて、1200μg/mLに希釈)0.04mLをそれぞれ混合し、37℃で4時間の酵素反応を行った。
【0288】
反応後、前記の反応液にミリQ水を0.4mL加えて3倍希釈液を調製した。該希釈液は、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)用いた限外濾過により、除タンパク質画分を調製した。該除タンパク質画分をイオン交換クロマトグラフィーに供し、分離後の有機酸をブロモチモールブルーによるポストラベル法で検出した。ピログルタミン酸標品による検量線を用いて、前記の酵素反応後の溶液中のピログルタミン酸濃度を算出し、ピログルタミン酸濃度の減少の有無を調べた。続いて、該希釈液0.12mLに0.03M HClを0.28mL加えて混合し、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)用いた限外濾過により除タンパク質画分を調製した。該除タンパク質画分をイオン交換クロマトグラフィーに供し、分離後のアミノ酸をニンヒドリンによるポストラベル法で検出した。グルタミン酸標品による検量線を用いて、前記の酵素反応後の溶液中のグルタミン酸濃度を算出し、酵素の活性の有無を調べた。
【0289】
その結果、図13で示す通り、希釈したトマトエキスにSC−As4.820を添加することによって反応液中のグルタミン酸濃度が上昇し(図中白のバー)で、ピログルタミン酸濃度が減少した(図中白地に黒の斜線のバー)。
【0290】
一方で、SC−As4.820の代わりに、10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、BSA溶液、および実施例1のC.の2.で示すように50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中で5−オキソプロリナーゼ活性を示さなかったAs36.1302溶液を添加しても、反応液中のグルタミン酸濃度が上昇せず、ピログルタミン酸濃度にもほとんど変化がなく、5−オキソプロリナーゼ活性は検出できなかった。
【0291】
これにより、上記一連の手法により、ピログルタミン酸含量が高い食品であるトマトエキスをアスペルギルス・ソーヤ由来の5−オキソプロリナーゼで処理することにより、グルタミン酸濃度を上昇させる効果があることが示された。
【0292】
(B.アスペルギルス属菌由来の5−オキソプロリナーゼによるしょうゆ中のグルタミン酸量の増加)
濃口しょうゆ(キッコーマン社製、特選丸大豆しょうゆ)はミリQ水で希釈し、1M KOHによりpH8に調整した。反応に用いた5−オキソプロリナーゼは、実施例3の2.記載の方法に準じて取得した酵母発現アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼSC−As4.820を、実施例1のC.の2.記載の方法に準じて5−オキソプロリナーゼの活性を測定し、濃口しょうゆとの反応液に用いた。
【0293】
具体的には、濃口しょうゆ希釈液〔3倍希釈した濃口しょうゆ、6.25mM ATP、pH8.0〕0.16mLと、実施例3の2.記載の方法に準じて取得した5−オキソプロリナーゼオルソログタンパク質SC−As4.820溶液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて4.43unit/600μg/mLに希釈)0.04mLをそれぞれ混合し、37℃で4時間の酵素反応を行った。
【0294】
また、参照として、濃口しょうゆ希釈液〔3倍希釈した濃口しょうゆ、6.25mM ATP、pH8.0〕0.16mLと、前記5−オキソプロリナーゼオルソログタンパク質溶液の代わりに、10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、BSA溶液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて1200μg/mLに希釈)、あるいは実施例1のA.の7.記載の方法に準じて取得したAs36.1302溶液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて600μg/mLに希釈)0.04mLをそれぞれ混合し、37℃で4時間の酵素反応を行った。
【0295】
反応後、前記の反応液にミリQ水を0.4mL加えて3倍希釈液を調製した。該希釈液は、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)用いた限外濾過により、除タンパク質画分を調製した。該除タンパク質画分をイオン交換クロマトグラフィーに供し、分離後の有機酸をブロモチモールブルーによるポストラベル法で検出した。ピログルタミン酸標品による検量線を用いて、前記の酵素反応後の溶液中のピログルタミン酸濃度を算出し、ピログルタミン酸濃度の減少の有無を調べた。続いて、該希釈液0.12mLに0.03M HClを0.28mL加えて混合し、Amicon Ultra−0.5mL 10K (Millipore社製)用いた限外濾過により、除タンパク質画分を調製した。該除タンパク質画分をイオン交換クロマトグラフィーに供し、分離後のアミノ酸をニンヒドリンによるポストラベル法で検出した。グルタミン酸標品による検量線を用いて、前記の酵素反応後の溶液中のグルタミン酸濃度を算出し、酵素の活性の有無を調べた。
【0296】
その結果、図14で示す通り、希釈した濃口しょうゆにSC−As4.820を添加することによって反応液中のグルタミン酸濃度が上昇し(図中白のバー)、ピログルタミン酸濃度が減少した(図中白地に黒の斜線のバー)。
【0297】
一方で、SC−As4.820の代わりに、10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)、BSA溶液、および実施例1のC.の2.で示すように50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)中で5−オキソプロリナーゼ活性を示さなかったAs36.1302溶液(10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて1200μg/mLに希釈)を添加しても、反応液中のグルタミン酸濃度が上昇せず、5−オキソプロリナーゼ活性は検出できなかった。
【0298】
これにより、上記一連の手法により、ピログルタミン酸含量が高い食品であるしょうゆをアスペルギルス属菌由来の5−オキソプロリナーゼで処理することにより、グルタミン酸濃度を上昇させる効果があることが示された。
【0299】
以上の結果より、ピログルタミン酸を多く含んだ飲食品中で、本発明の5−オキソプロリナーゼによりピログルタミン酸を呈味成分として重要なグルタミン酸に加水分解処理することができ、従来にない優れた呈味力を有する飲食品を得ることができると予想される。
【実施例8】
【0300】
(本発明の5−オキソプロリナーゼを用いた、ラセミ体の分割)
ラセミ体は化学的、物理的性質が同じであり、通常の条件下では区別が難しい。光学分割剤を用いジアステレオマーを形成させ分離する方法、結晶化よる方法、光学分割用カラムを用いる方法が用いられるが、万能な方法ではなく、物質により適した方法を選択する必要がある。実施例2に示したとおり、本酵素は、L−ピログルタミン酸を基質とし、D−ピログルタミン酸は基質とはならない。この性質を利用してラセミ体のピログルタミン酸を光学分割することができる。
【0301】
一例として、次の手順を用いることができる。具体的には、実施例1のC.の2.記載の方法に準じて、L−ピログルタミン酸とD−ピログルタミン酸の混合液〔50mM Tris、2.5mM L−ピログルタミン酸、2.5mM D−ピログルタミン酸、6.25mM ATP、12.5mM MgCl2、187.5mM KCl、pH8.0〕、および、実施例3の2.記載の方法に準じて取得した酵母発現アスペルギルス・ソーヤ由来5−オキソプロリナーゼSC−As4.820溶液(後述、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を用いて希釈)を調製した。前記2種類の基質溶液0.4mLと、前記2種類の酵素溶液0.1mLとをそれぞれを混合し、37℃で4時間の酵素反応を行った。
【0302】
反応後、該反応液をポアサイズ0.45μmのPVDFフィルターで濾過して除タンパク質画分を調製し、逆相クロマトグラフィー用のカラムCAPCELL PAK C18 MGIII(資生堂、20×250mm)に供した。反応液を注入後、溶離液として溶離液A(0.1% トリクロロ酢酸水溶液)と溶離液B(0.1% トリクロロ酢酸/80% アセトニトリル溶液)を用い、溶離液Bの割合を次第に上昇させることにより溶出画分を得た。該溶出液の210nmの紫外線吸収を測定すると、2つのピークが検出された。それぞれのピークに相当する複数の画分を混合し、定法により、エバポレーターで濃縮した。該濃縮画分について、実施例2の(8)に記載の方法に準じて、グルタミン酸、およびピログルタミン酸の濃度を測定した。また、実施例1のC.の2.に記載の方法に準じて、L−グルタミン酸濃度を測定した。
【0303】
その結果、保持時間の早いピークを含む画分ではグルタミン酸(L−グルタミン酸とほぼ同じ濃度)が検出され、ピログルタミン酸は検出されなかったことから、L−グルタミン酸が分取できたことを確認した。保持時間の遅いピークを含む画分では、グルタミン酸は検出されずピログルタミン酸が検出された。また、L−ピログルタミン酸を検出すると検出限界以下であったことから、保持時間の遅いピークを含む画分ではL−ピログルタミン酸は存在せず、D−ピログルタミン酸が高純度で得られたことを確認した。L−グルタミン酸溶液は、酸性条件下、高温高圧下で処理することにより、再びL−ピログルタミン酸が得られることが知られている。以上により、本酵素を使用することにより、ピログルタミン酸のラセミ体から、L−ピログルタミン酸とD−ピログルタミン酸の分割が可能であることが示された。
【0304】
用いるカラムの種類によっては保持時間の早いピークを含む画分にピログルタミン酸が含まれ、保持時間の遅いピークを含む画分にL−グルタミン酸が含まれ得る。この場合は、予め標準物質(ピログルタミン酸またはL−グルタミン酸)を用いてピーク位置を決定しておき、上記と同様の手順でピログルタミン酸のラセミ体から、L−ピログルタミン酸とD−ピログルタミン酸とを分離することができる。
【0305】
本酵素を飲食品に利用し、あるいは、本酵素の生産微生物を用いて飲食品を発酵させる場合には、飲食品に安全に利用できる微生物から本酵素を取得することや、飲食品に安全に利用できる微生物を用いて飲食品を発酵させることも重要である。本発明の5−オキソプロリナーゼ遺伝子は、食経験のあるアスペルギルス属菌から単離された遺伝子である。飲食品の加工への使用の際には、アスペルギルス属菌由来の5−オキソプロリナーゼ遺伝子、タンパク質を使用することは食の安心安全につながり、産業上極めて有用であると考えられる。
【0306】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]