特許第6656925号(P6656925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656925
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】作物の生育状態判別方法および生育方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20200220BHJP
【FI】
   A01G7/00 603
   A01G7/00 601C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-553379(P2015-553379)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(86)【国際出願番号】JP2014006305
(87)【国際公開番号】WO2015093054
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2013-263394(P2013-263394)
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】安藤 登
(72)【発明者】
【氏名】桐生 麻子
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 睦
(72)【発明者】
【氏名】皆見 武志
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 靖
【審査官】 中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−215326(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/073507(WO,A1)
【文献】 特開2012−247235(JP,A)
【文献】 特開2008−076346(JP,A)
【文献】 特開2012−179009(JP,A)
【文献】 特表2010−512780(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0152464(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
G01N 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内に設置された定植板に、間隔をおいて作物の種、苗または菌床を定植し、上記作物を生育させつつ、これと併行して当該作物の生育状態を判別するための方法であって、
予め上記定植板の上面を、光の反射率が上記作物の反射率と異なるように形成するとともに、経時的に上記定植板側に向けて照射光を照射し、その反射光の照度を、2以上の照度計を用いて、各々の照度計の指向特性において測定感度が最も大きくなる方向と上記定植板とのなす角度が互いに異なる方向から測定してその経時変化を観察することにより、上記作物の生育状況を上記作物の体積の変化として捉えて、上記作物の生育状態を判別することを特徴とする作物の生育状態判別方法。
【請求項2】
上記2以上の照度計のうちの少なくとも1つは、上記定植板の側方に配置され、かつ当該照度計の指向特性において測定感度が最も大きくなる方向が水平となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の作物の生育状態判別方法。
【請求項3】
上記照射光は、LEDから発せられる赤色光または青色光であることを特徴とする請求項1または2に記載の作物の生育状態判別方法。
【請求項4】
上記定植板の上方から上記作物の生育用の人工光を照射するとともに、上記照射光は、上記作物の生育用の上記人工光であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の作物の生育状態判別方法。
【請求項5】
屋内に設置された定植板に、間隔をおいて作物の種、苗または菌床を定植し、上記定植板の上方から人工光を照射して上記作物を生育させるための方法であって、
予め上記定植板の上面を上記作物と光の反射率が異なる色に形成するとともに、経時的に上記定植板側に向けて照射光を照射し、その反射光の照度を、2以上の照度計を用いて、各々の照度計の指向特性において測定感度が最も大きくなる方向と上記定植板とのなす角度が互いに異なる方向から測定してその経時変化を観察することにより、上記作物の生育状況を上記作物の体積の変化として捉えて、上記作物の生育状態を判別し、収穫またはさらに生育を継続することを特徴とする作物の生育方法。
【請求項6】
上記照射光は、LEDから発せられる赤色光または青色光であることを特徴とする請求項5に記載の作物の生育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物工場等の屋内において人工照明下で生育される作物の生育状態判別方法、生育方法並びに作物生育装置および植物工場に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、人工照明によって作物を計画的に育成する植物工場等が各所に設けられている。上記植物工場は、一般に、平板状の定植板を広範囲に敷設し、この定植板に所定間隔を置いて穴部を穿設して、当該穴部に通水性を有するとともに作物の根が入り込みやすい素材を充填し、各々の素材上に作物の苗等を定植して、水耕あるいは点滴によって養液を供給しつつ、上記定植板の上方に設けた照明装置から人工光を照射して上記作物を育成するものである。
【0003】
ところで、従来の上記植物工場においては、生育した作物の収穫時期を、勘や経験則あるいは播種からの時間管理のみによって決定していた。このため、上記作物の未成育や過生育によって、作物自体の生産品質の低下を招いたり、あるいは上記作物が生育し過ぎて光合成の効率が低下することにより生産性の非効率化を招いたりするという問題点があった。
【0004】
さらに、工場設備における養液の供給不良や人工光の照明不良等によって部分的な生育不足等が生じた場合にも、これにきめ細かく対応することが難しいために、計画的な栽培が行い難く、自動化を図るための障害となっていた。
【0005】
一方、施設栽培等において、作物の生育や栽培状態を把握するための一指標として、葉面積指数(LAI)が知られている。この葉面積指数は、もともと農耕地や森林内の植物群落等における一方向から見た単位面積当たりに重なる葉の面積の総和を示すものである。
【0006】
そして、下記特許文献1においては、植物の一方の側に互いに波長が異なる第1光源および第2光源を配置し、上記植物に対して上記第1光源および第2光源とは反対側に当該第1光源および第2光源からの光によって照射される上記植物を撮影して、得られた撮影画像に基づいて、第1光源からの光の透過の度合いを示す第1透過量と、第2光源からの光の透過の度合いを示す第2透過量とを算出して、両者の差分量に基づいて上記葉面積指数(LAI)を算出する葉面積指数計測システムが提案されている。
【0007】
上記葉面積指数計測システムによれば、例えば植物群落において、植物群の一方の側部に上記第1および第2光源を配置し、上記植物群を間に挟んだ水平方向の他側部に撮影手段を配置して、上記第1および第2光源からの光によって照射される植物群を撮影しつつ、第1および第2光源および撮影手段を植物群に沿って移動させることにより、当該植物群における葉面積指数を計測することができる。
【0008】
しかしながら、上記葉面積指数計測システムを用いて、上述した植物工場における植物の生育状況、すなわち葉の繁り方の変化を判別しようとすると、光源および撮影手段の一方を、植物の葉の上方に配置するとともに、他方を定植板と植物の葉との間の狭隘なスペースに配置して、定植板に沿って移動させる必要があり、現実的には実施することが困難である。
【0009】
加えて、上記葉面積指数計測システムにおいては、撮影手段によって撮影した画像から輝度値を算出する機能、得られた輝度値を照度に変換する機能、および上記照度からLAIを算出する機能、ならびにこれらの機能を実行する際に必要な各種のデータベースを具備する必要があり、システムが複雑であるとともに、LAIを計測するために要するコストが嵩むという問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2012/073507 A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、植物工場のような狭隘な空間においても、簡易な設備によって容易に作物の生育状況をリアルタイムで判別することができる作物の生育状態判別方法、生育方法並びに作物生育装置および植物工場を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、屋内に設置された定植板に、間隔をおいて作物の種、苗または菌床を定植し、上記作物を生育させつつ、これと併行して当該作物の生育状態を判別するための方法であって、予め上記定植板の上面を、光の反射率が上記作物の反射率と異なるように形成するとともに、経時的に上記定植板側に向けて照射光を照射し、その反射光の照度を、2以上の照度計を用いて、各々の照度計の指向特性において測定感度が最も大きくなる方向と上記定植板とのなす角度が互いに異なる方向から測定してその経時変化を観察することにより、上記作物の生育状況を上記作物の体積の変化として捉えて、上記作物の生育状態を判別することを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記2以上の照度計のうちの少なくとも1つは、上記定植板の側方に配置され、かつ当該照度計の指向特性において測定感度が最も大きくなる方向が水平となるように配置されていることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記照射光が、LEDから発せられる赤色光または青色光であることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記定植板の上方から上記作物の生育用の人工光を照射するとともに、上記照射光は、上記作物の生育用の上記人工光であることを特徴とするものである。
【0016】
次いで、請求項5に記載の発明は、屋内に設置された定植板に、間隔をおいて作物の種、苗または菌床を定植し、上記定植板の上方から人工光を照射して上記作物を生育させるための方法であって、予め上記定植板の上面を上記作物と光の反射率が異なる色に形成するとともに、経時的に上記定植板側に向けて照射光を照射し、その反射光の照度を、2以上の照度計を用いて、各々の照度計の指向特性において測定感度が最も大きくなる方向と上記定植板とのなす角度が互いに異なる方向から測定してその経時変化を観察することにより、上記作物の生育状況を上記作物の体積の変化として捉えて、上記作物の生育状態を判別し、収穫またはさらに生育を継続することを特徴とするものである。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、上記照射光が、LEDから発せられる赤色光または青色光であることを特徴とするものである。
【0018】
次いで、請求項7に記載の発明に係る作物育成装置は、間隔をおいて作物の種、苗または菌床が定植されるとともに上面の光の反射率が上記作物の反射率と異なる定植板と、この定植板の上方に配置されて上記作物を生育させる人工光を照射する照明装置と、上記定植板および上記作物から反射される反射光の照度を、各々の照度計の指向特性において測定感度が最も大きくなる方向と上記定植板とのなす角度が互いに異なる方向から測定する2以上の照度計とを備えてなることを特徴とするものである。
【0019】
さらに、請求項8に記載の本発明に係る植物工場は、屋内に、請求項7に記載の作物生育装置が設置されていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項1〜8のいずれかに記載の発明において、定植板の上面と作物との光の反射率の差は、大きい程、反射光の照度の経時変化が大きくなって測定精度が向上するために、生育状態の判断が容易になる。このような観点から、上記反射率の差は、少なくとも50%以上であることが望ましく、さらに70%以上にすることがより好ましい。
【発明の効果】
【0021】
請求項1〜8のいずれかに記載の発明においては、作物の苗を定植する定植板の上面を、上記作物と光の反射率が異なるように形成しているために、上記定植板に向けて照射光を照射した際の、作物からの反射と定植板からの反射の率の差によって、作物の生育の程度、例えば葉の大きさの変化の度合いが判る。すなわち、作物および定植板からの反射光の照度が、作物が生育することにより次第に大きくなって定植板の上面を覆い、作物間の間隔が狭くなるにしたがって変化する。したがって、上記定植板の上面を、作物よりも反射率が高くなるように形成しておけば、上記作物が大きくなるにつれて上記反射光の照度が経時的に低下してゆく。
【0022】
したがって、上記定植板からの反射光の照度を経時的に計測し、その変化を観察することにより、作物の生育傾向を把握することができる。この結果、簡易な設備によって、上記作物の栽培状況あるいは収穫時期を容易に判断することができるとともに、特に生育の遅い区画が見出された場合には、早期にその原因の追究を行う等の不具合の検出およびその対応が可能になる。
【0023】
ここで先ず、定植板に照射する照射光について説明すると、照射光に対する反射率の高い定植板を用いる場合には、当該照射光としては、作物からの反射が少ないもの程、作物の生育に伴う経時的な反射光の変化率を大きくすることができる。このため、請求項に記載の発明のように、反射光を得るための照射光として、上記作物における吸収が多くて反射が少なく、かつ作物における光合成に使用される光を、前記照射光として用いることが好ましい。
【0024】
また、上記照射光の光源としては、蛍光灯、白熱電球、LED、レーザー、CCLF(冷陰極管)、高圧水銀灯等の人工光の光源が好ましい。このような人工光は、自然光に比べて照度の変化が少ないため、作物の生長に起因する反射率の変化を測定することが容易となる。上記人工光のなかでも、LEDからの赤色光あるいは青色光は、本発明が対象とする植物工場等の屋内の施設において作物の生育のための人工光として用いられているために、請求項4に記載の発明のように、上記照射光として上記人工光を用いることができ、この結果設備の一層の簡易化を図ることが可能になる。
【0025】
ところで、上記定植板および作物からの反射光を一方向から測定する場合には、作物の生育を2次元(面積)の変化として捉えることができる。さらに、上記定植板および作物からの反射光を2以上の照度計を用いて、各々の照度計の指向特性において測定感度が最も大きくなる方向と上記定植板とのなす角度が互いに異なる方向から測定してもよい。例えば、作物の生育が進み隣接して定植された作物同士の一部が接触又は重複した後、第1の照計から測定した反射光の照度変化が極めて小さくなった場合においても、第2の照計により第1の照度計とは異なる角度からの照度変化を測定することができるため、第1および第2の照度計が計測する照度変化を総合して判断することにより、作物の生育状況をより高い精度で計測することができる。
【0026】
すなわち、請求項に記載の発明においては、上記定植板からの反射光の照度を、2以上の照度計を用いて、各々の照度計の指向特性において測定感度が最も大きくなる方向と上記定植板とのなす角度が互いに異なる方向から測定しているために、作物の生育状況を3次元(体積)の変化として捉えることが可能になる。
【0027】
特に、上記定植板から上方への反射光の照度および水平方向への反射光の照度を測定すれば、設備上、照度計の設置が容易であるとともに、作物の葉の水平方向への大きさ(面積)の変化および鉛直方向への大きさ(面積)の変化を把握することができる。この結果、両方向からの反射光の照度の変化を合成することにより、作物の葉の生育を当該葉の体積の変化として把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の第1の実施形態を説明するための概略図である。
図2図2は、本発明の実施例1における栽培日数と反射光の光量子束密度の変化との関係を示すグラフである。
図3図3は、図2の栽培日数による作物の葉の生育状態の変化を示す写真である。
図4図4は、本発明の第2の実施形態を説明するための概略図である。
図5図5は、本発明の実施例2における栽培日数と反射光の照度の変化との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る作物の生育状態判別方法、生育方法並びに作物生育装置および植物工場を、葉物作物を育成する場合に適用した第1の実施形態を説明するための概略図である。
【0030】
先ず、本発明に係る作物生育装置および植物工場の第1の実施形態について説明すると、この植物工場においては、広範囲にわたって、ポリスチレン(特にポリスチレンフォーム等)の板材からなる定植板1が敷設されており、この定植板1の上面1aは、光の反射率が最も高い白色に形成されている。そして、この定植板1に所定間隔を置いて穴部が穿設され、各々の穴部に、ウレタンのスポンジやロックウール等の通水性を有するとともに作物の根が入り込みやすい素材が充填されている。
【0031】
そして、各々の素材上に、レタス等の作物となる作物2の苗等が定植されている。また、定植板1に隣接して、作物2の苗等が定植された素材に水耕あるいは点滴によって養液を供給する養液供給手段が設けられるとともに、定植板1の上方には、上記作物2を生育するための人工の赤色光または青色光を照射するLED照明装置3が配置されている。さらに、この照明装置3に隣接して、照明装置3から定植板1側に向けて照射された光の反射光の光量子束密度(μmol/m2/s)を測定するための照度計4が設置されている。
【0032】
次に、以上の構成からなる植物工場を用いた本発明に係る作物の生育状態判別方法または生育方法の一実施形態について説明する。
上記植物工場において生育されている作物2の生育状態を判別するには、LED照明装置3から定植板1側に向けて一定照度の赤色光または青色光を連続的に、あるいは断続的に照射して、作物2を生育させるとともに、これと併行して、上記照射光の上記定植板1の上面1aおよび作物2の葉からの反射光の光量子束密度を、照度計4によって計測する。そして、得られた光量子束密度のデータを、例えば横軸を生育日数とし、縦軸を計測された光量子束密度とするグラフにプロットすることにより、上記反射光の光量子束密度の経時変化を観察する。
【0033】
すると、定植板1の上面1aを、作物2の葉よりも光の反射率が高い白色に形成しているために、作物2が生育することにより次第に大きくなって、その葉が定植板1の上面1aを覆う面積が増えて行くにしたがって、作物2の葉の面および定植板1の上面1aからの反射光の光量子束密度の値が次第に低下してゆく。
【0034】
したがって、定植板1および作物2の葉からの反射光の光量子束密度を経時的に計測し、その変化を観察することにより、作物の葉の生長傾向を把握することができる。この結果、例えば光量子束密度の経時的な変化率が徐々に低下して一定値以下となった際、または測定される光量子束密度の変化が小さくなった際に、作物2が十分に生育したとして、その収穫時期と判断することが可能になる。
【0035】
これに対して、上記光量子束密度の経時的な変化率の低下が鈍い場合には、当該照度計4の設置個所における作物2の生育が異常に遅いと判断して、早期にその原因の追究を行うことが可能になる。
【0036】
このように、上記構成からなる作物の生育状態判別方法または生育方法によれば、定植板1に照射する照射光として、作物2の生育用の赤色光または青色光を用いているために、照度計4といった簡易な設備の追加によって、作物2の生育と併行して、リアルタイムでその収穫時期を容易に判断することができるとともに、特に生育の遅い区画が見出された場合に、早期にその原因の追究を行うことが可能になる。
【0037】
しかも、定植板1の上面1aを、最も光の反射率が高い白色とし、かつ定植板1に照射する照射光として、作物2の葉の面からの反射が少ない赤色光または青色光を用いているために、作物2の生育に伴う経時的な反射光の変化率を大きくすることができる。
【0038】
(第2の実施形態)
図4は、本発明に係る作物の生育状態判別方法、生育方法並びに作物生育装置および植物工場を、葉物作物を育成する場合に適用した第2の実施形態を説明するための概略図で、図1に示したものと同一構成部分に付いては、以下同一符号を付してその説明を簡略化する。
【0039】
本実施形態の作物生育装置および植物工場が、図1に示した第1の実施形態と異なる点は、定植板1の上方に配置された作物2を生育するためのLED照明装置3に隣接して設置された定植板1からの光の反射光の光量子束密度(μmol/m2/s)を測定するための照度計4に加えて、さらに定植板1の側方であって作物2を水平方向に臨む位置に、同様の照度計5を設置したことにある。
【0040】
以上の構成からなる植物工場を用いた作物の生育状態判別方法または生育方法の第2の実施形態においては、LED照明装置3から定植板1側に向けて一定照度の赤色光または青色光を連続的に、あるいは断続的に照射して、作物2を生育させるとともに、これと併行して、上記照射光の上記定植板1の上面1aおよび作物2の葉からの反射光の光量子束密度を、照度計4および照度計5によって計測する。
【0041】
そして、作物2が生育することにより次第にその葉が大きくなって、定植板1の上面1aを覆う面積が増えて行くにしたがって、照度計4によって測定された作物2の葉の面および定植板1の上面1aからの反射光の光量子束密度の値が次第に低下し、隣接する株の葉体が重複すると、上記光量子束密度の経時的な変化率が緩やかになって一定値に収束する。
【0042】
この生育状態においても、作物2が生育することにより、その葉が上方に向けて成長してゆく。すると、照度計5によって測定された作物2の葉の面からの反射光の光量子束密度の値が、経時的に低下して行く。そして、最終的に照度計5によって測定される光量子束密度の変化率が所定の値以下に小さくなった際に、作物2が十分に生育したとして、その収穫時期と判断することが可能になる。
【0043】
このように、上記第2の実施形態においては、照度計4によって定植板1から上方への反射光の照度を測定するとともに、照度計5によって水平方向への反射光の照度を測定しているために、作物2の葉の水平方向への大きさ(面積)の変化および鉛直方向への大きさ(面積)の変化を把握することができる。この結果、両方向からの反射光の照度の変化を合成することにより、作物の葉の生育を当該葉の体積の変化として把握することが可能になる。
【0044】
さらに、照度計4によって得られた測定値をPH、照度計5によって得られた測定値をPVとすると、作物2の体積Vは、次式によって近似させることができる。
V=α×(PV0−PV)×(PH0−PH1/2 (1)
ここで、PV0、PH0は、それぞれPV、PHの初期の値であり、αは測定場所における光学的環境に基づき任意に設定される比例定数である。
【0045】
また、上述したように、作物2の生育によって隣接する株の葉体が重複すると、照度計4または5によって測定された反射光の光量子束密度における経時的な変化率が緩やかになって一定値に収束する場合がある。したがって、隣接する株の葉体が重複する経過日数tまでは、上記(1)式によって作物2の体積Vを推定し、上記経過日数tを超えた後は、次式(2)によって作物2の体積Vを近似させることができる。
V=Vt+α×(PVt−P)×(PHt−P) (2)
【0046】
ここで、Vtは、経過日数t時における上記(1)式によって得られた作物2の体積であり、PVt、PHtは、それぞれVt、PVの経過日数tにおける値、αは測定場所における光学的環境に基づき任意に設定される比例定数である。
【0047】
上記(1)式および(2)式を用いて作物2の体積Vを推定することにより、より一層高い精度で作物の収穫時期等を判断することが可能になる。
【0048】
なお、上記第1および第2の実施形態においては、反射光の照度の測定を、照度計4、または照度計4と照度計5を用いて光量子束密度を測定することによって実施した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、照度計4によって反射光の照度(ルックス)を測定したり、あるいは分光放射照度計によって上記反射光の放射強度を測定したりすることによって実施することも可能である。
【0049】
また、反射光を得るための照射光についても、照明装置3から照射される作物2を育成するための人工光とは別の光源からのものを用いてもよい。これは、上記作物2として茸類を生育する場合のように、当該作物2を育成するための人工光を必要としない場合があるからである。また、照射光の照度についても、一定でなくてもよい。この場合には、上記照射光の照度変化に対応して、測定した反射光の光量子束密度を補正することによって、同様に生育状況を観察することができるためである。
【0050】
また、測定対象は反射率でもよい。さらには、上記照射光として、太陽光等の自然光も用いることが可能である。自然光等の複数の波長を含む照射光を用いる場合には、一定の波長のみを対象として測定することにより、反射光は反射率の測定精度を向上させて作物の生育状態をより正確に把握することができる。
【0051】
さらに、定植板1は、非透光性であることが好ましいが、色については上述の実施形態において使用した白色に限定されるものではなく、照明装置3から照射される照射光を反射する色であれば、様々な色のものを用いることが可能である。
【0052】
ただし、上述したように、定植板1の上面1aと作物2の葉との光の反射率の差は、大きい程、反射光の照度の経時変化が大きくなって測定精度が向上する。このため、上記反射率の差は、少なくとも50%以上であることが望ましく、さらに70%以上にすることがより好ましい。
【0053】
また、定植板1の照射光に対する反射率は、定植板の色や材質以外にも、上面1aへの塗料の塗布、研磨および粗化処理等の表面加工によって調整することも可能である。特に、定植板1の表面に、光を全反射するダイヤモンドフィルムシートなどを貼れば、高い反射率や光効率を得る観点から好ましい。一般的に、明度の高い色ほど反射率が高くなる傾向があるが、使用する照射光の波長を考慮して、適宜選択することが好ましい。ちなみに、上記定植板1としては、樹脂製や金属製等の汎用のものを用いることができる。
【0054】
さらに、上記第1および第2の実施形態においては、定植板1として、生育する作物より照射光に対する反射率が高いものを用いた場合について説明したが、その逆であっても本発明の課題を達成することができる。例えば、照明装置3から照射される一定照度の照射光に対して高い反射率を有する作物を生育する場合には、当該作物よりも上記照射光に対して反射率の低い上面を有する定植板を選択することにより、作物の生育に伴い照度計により測定される反射光の照度が増加することにより、作物の生育状態を判別することができる。
【0055】
また、上記実施形態においては、本発明に係る判別方法によってレタス等の作物となる植物を例示しているが、本発明に係る植物栽培方法等が対象とする栽培作物は、特に限定されることなく、野菜類、いも類、きのこ類、果物類、豆類、穀物類、種実類、観賞用植物類、シダ類、コケ類などとできる。また、これらの植物の栽培形態も、特に限定されることなく、水耕栽培、土耕栽培、養液栽培、固形培地耕などであってもよい。
【0056】
野菜類としては、レタス類、ネギ、ミズナ、サラダナ、シュンギク、パセリ、ミツバ、コマツナ、カラシミズナ、カラシナ、ワサビナ、クレソン、ハクサイ、ツケナ類、チンゲンサイ、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、メキャベツ、タマネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラ、アスパラガス、セルリー、ホウレンソウ、セリ、ウド、ミョウガ、フキ、シソ、オオバ、各種ハーブ等が挙げられる。また、いわゆる「ベービーリーフ」と称され、主として若葉で食されるデトロイト、ロロロッサ、ルッコラ、ピノグリーン、レッドロメイン、チコリー等の葉菜類も挙げられる。
【0057】
レタス類には、結球性レタス、非結球レタス及び半結球レタスなどが含まれ、例えば、リーフレタス、フリルレタス、サニーレタス、ロメイン、グリーンウェーブ、グリーンリーフ、レッドリーフ、フリルアイス(登録商標)、リバーグリーン(登録商標)、フリルリーフ、フリンジグリーン、ノーチップ、モコレタス、サンチュ、チマ・サンチュが挙げられる。
【0058】
各種ハーブには、例えば、バジル、イタリアンパセリなどが含まれる。さらに、甘草、人参、紫胡、アシュワガンダ、エキナセア、リンデン、セントジョーンズワート、カモミールなどの薬用植物の栽培も可能である。
【0059】
また、トマト、メロン、キュウリ、イチゴ、カボチャ、スイカ、ナス、ピーマン、オクラ、サヤインゲン、ソラマメ、エンドウ、エダマメ、トウモロコシ等の果菜類、ダイコン、カブ、ゴボウ、ニンジン、ジャガイモ、サトイモ、サツマイモ、ヤマイモ、ショウガ、ワサビ、レンコン等の根菜類なども栽培対象とすることができる。
【0060】
いも類としては、じゃがいも、さつまいも、里芋、長芋、山芋、キャッサバ、こんにゃくいも、タロイモ、キクイモ、アピオス等が挙げられる。
きのこ類としては、シイタケ、エノキタケ、シメジ類、マツタケ、トリュフ、ナメコ、マッシュルーム、マイタケ、エリンギ、ヒラタケ等が挙げられる。
【0061】
果物類としては、マンゴー、パイナップル、イチジク、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ボイセンベリー、ブドウ、ユスラウメ、クランベリー、ハスカップ、スグリ、フサスグリ、パパイア、パッションフルーツ、ドラゴンフルーツ等が挙げられる。
【0062】
穀類としては、アマランサス、アワ、エンバク、オオムギ、キビ、コムギ、コメ、モチゴメ、ソバ、トウモロコシ、ハトムギ、ヒエ、ライムギを例示することができる。
【0063】
コケ類としては、マゴケ綱に属するコケ類が含まれる。例えば、エゾスナゴケ(Racomitriumjaponicum)等、いわゆる砂苔と称される、ボウシゴケ目(Grimmiales)ギボウシゴケ科シモフリゴケ属のコケ類が挙げられる。
【0064】
また、観賞用植物としては、バラ、ミニバラ、リンドウなどに加えて、アジアンタム、プテリス、イワヒバなどのシダ類を含む種々の観葉植物を栽培対象とすることができる。
【実施例】
【0065】
(実施例1)
上記第1の実施形態に示した作物の生育状態判別方法を用いて、レタスの生育状態の判別を行った。このレタスの生育状態の判別は、LED照明装置3から、赤色光を一定の照度で照射して作物2を生育させつつ、定植板1および作物2の葉面からの反射光の光量子束密度を照度計4で計測した場合と、LED照明装置3から、青色光を一定の照度で照射して作物2を生育させつつ、定植板1および作物2の葉面からの反射光の光量子束密度を照度計4で計測した場合とについて実施した。
【0066】
図2および図3は、この結果を示すものである。図2に示すグラフおよび図3に示す作物2の葉の生育状態の写真から、作物2の定稙(0日目)から生育16日目までは、葉の増加によって定植板1の上面1aが徐々に覆われ、これに伴って反射する光の量が減少して行くことにより、照度計4によって計測された反射光の光量子束密度の値が大きな比率で低下していることが判る。
【0067】
そして、生育17日目以降は、定植板1の上面1aのほぼ全面が作物2の葉によって覆われ、以降は上記葉の量が増加するのみであることから、照度計4によって計測された反射光の光量子束密度の値が緩やかな比率で低下し、20日目以降は概ね一定の値に収束していることが判る。
【0068】
したがって、LED照明装置3から一定照度の赤色光または青色光を定植板1側に向けて照射して作物2を生育させるとともに、これと併行して照度計4により定植板1の上面1aおよび作物2の葉面からの反射光の光量子束密度(照度)を測定し、当該光量子束密度の経時的な変化を観察して、その減少率が予め設定した値になった時に、作物2の収穫時期として判断することが可能になる。
【0069】
(実施例2)
上記第2の実施形態に示した作物の生育状態判別方法を用いて、実施例1と同様にレタスの生育状態の判別を行った。このレタスの生育状態の判別は、LED照明装置3から、赤色光を一定の照度で照射して作物2を生育させつつ、定植板1および作物2の葉面からの反射光の光量子束密度を照度計4および照度計5によって計測した。
【0070】
また、上記照度計4および照度計5によって得られた測定値に基づいて、照度計4の測定値から予測作物重量を算出するとともに、照度計4および照度計5の測定値から上記(1)式および(2)式により体積Vを算出した。そして、前記体積Vに作物2の仮定密度を乗じることにより、これらの算出結果と当該作物重量の実測値とを比較した。
【0071】
図5は、この結果を示すものであり、横軸が経過日数、左縦軸が照度計4、5による測定値を作物定植前の照度計4、5による測定値で除して10を乗じた照度(無次元数)であり、右縦軸が作物重量を示すものである。
【0072】
同図から、作物2の生育によって隣接する株の葉体が重複した経過日数t(本実施例において経過日数14日)以降は、上方の照度計4によって測定された反射光の照度の変化は小さくなった。一方、水平方向の照度計5によって測定された反射光の照度は継続して減少することが確認され、隣接する株の葉体が重複した後も植物の生育状態の変化を確認することができた。さらに、照度計4および照度計5の測定値から上記(1)式および(2)式により算出した予測作物重量は、実測値に近い値を示し、より高い精度で作物の生育状態を把握することができた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
植物工場等の屋内において人工照明下で生育される作物の生育状態を判別するために用いられる。
【符号の説明】
【0074】
1 定植板
1a 上面
2 作物
3 LED照明装置
4、5 照度計
図1
図2
図3
図4
図5