(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6656995
(24)【登録日】2020年2月7日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】多重反射型セル及び分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/03 20060101AFI20200220BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20200220BHJP
【FI】
G01N21/03 B
G01N21/3504
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-74604(P2016-74604)
(22)【出願日】2016年4月1日
(65)【公開番号】特開2017-187317(P2017-187317A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2018年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】赤松 武
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 嘉之
【審査官】
嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】
実開平02−075761(JP,U)
【文献】
特開2010−212572(JP,A)
【文献】
特開平06−308020(JP,A)
【文献】
特開平07−014783(JP,A)
【文献】
米国特許第09250175(US,B1)
【文献】
米国特許第03567329(US,A)
【文献】
特開平09−101257(JP,A)
【文献】
特開平08−035926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
OSA Publishing
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した光を多重反射した後に外部へ射出する多重反射型セルであって、
測定対象ガスが導入されるセル室を形成し、前記測定対象ガスを前記セル室に導入するための導入ポートと、前記測定対象ガスを前記セル室から導出するための導出ポートが設けられたセル本体と、
前記セル本体に取り付けられて、前記セル室に反射面が位置する2以上の反射部材と、
前記セル本体に対して前記反射部材の位置を調整する位置調整機構とを備え、
前記セル本体は、前記セル室と外部とを連通し、前記反射部材が取り付けられる取り付け部を有しており、
前記取り付け部に取り付けられた反射部材と前記セル本体との間に、前記セル室と前記セル本体の外部との間を気密に封止するシール部材が設けられており、
前記位置調整機構は、前記セル室の外部に設けられている多重反射型セル。
【請求項2】
前記位置調整機構は、前記シール部材による可動範囲内において、前記反射部材を調整するものである請求項1記載の多重反射型セル。
【請求項3】
前記取り付け部は、前記セル本体に対する前記反射部材の取り付け角度に沿って傾斜して設けられている請求項1又は2記載の多重反射型セル。
【請求項4】
3つの反射部材を有するものであり、
1つの反射部材である第1反射部材と、残りの2つの反射部材である第2反射部材とが互いに対向して配置されており、
前記2つの第2反射部材は、前記第1反射部材の光軸を含む面に対して対称となるように配置され、それらの光軸が前記第1反射部材に向かって相寄る方向に傾斜しており、
前記第2反射部材は、前記位置調整機構により位置調整可能に設けられている請求項1乃至3の何れか一項に記載の多重反射型セル。
【請求項5】
前記反射部材は、先端面に反射面を有する円筒形状をなすものであり、
前記取り付け部は、前記反射部材の外側周面に対向する断面円形の内側周面を有するものであり、
前記シール部材は、前記反射部材の外側周面と前記取り付け部の内側周面との間を気密にシールするものである請求項1乃至4の何れか一項に記載の多重反射型セル。
【請求項6】
前記位置調整機構は、前記セル本体の外部に面して設けられている請求項1乃至5の何れか一項に記載の多重反射型セル。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の多重反射型セルを備えた分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光を多重反射した後に外部へ射出する多重反射型セル、及びこれを用いた分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばFTIR(フーリエ変換赤外分光)法を用いた測定対象ガスの吸光分析では、その測定対象ガスが導入されるセル室のセル長を短くしつつ、測定対象ガスを通過する光の光路長を長くするために、複数の反射面を有するホワイト型の多重反射型セルが用いられている(特許文献1、2参照)。
【0003】
この多重反射型セルでは、所望の光路長を得るために、反射面を有する反射部材が押しねじ又は引きねじ等の位置調整機構によって精密に調整される。通常、セル構造の簡単化のために、位置調整機構はセル室内に収容されている。そのため、セル室の内容積は、位置調整機構を収容するために大きく取っておく必要がある。
【0004】
ところで、この多重反射型セルを用いて測定対象ガスの成分の時間変化などを測定する場合には、セル室の内容積を小さくして導入される測定対象ガスの置換時間をできる限り短くし、応答性を向上させることが求められる。
【0005】
このために特許文献1の多重反射型セルは、セル室内のデッドスペースにブロック体を配置してデッドスペースを埋めることによりセル室の内容積を小さくするように構成している。
【0006】
しかしながら、この多重反射型セルでは、多重反射の光路の側方(光路に直交した位置にある周辺部)のデッドスペースを低減するものであり、反射部材の位置調整機構に起因するデッドスペースを低減するものではない。また、ブロック体を別途設ける必要があり、構造が複雑になってしまうだけでなく、ブロック体とセル室内面との間に形成される隙間に測定試料ガスが滞留するデッドスペースになってしまう。さらに、位置調整機構に起因するデッドスペースや前記ブロック体を設ける構成は、多重反射型セルの小型化の障害となる。
【0007】
特許文献2の多重反射型セルは、試料が導入されるガス容器と、このガス容器の両側に配置された3つの反射部材とを有し、試料ガス及び反射部材をガス容器の窓によって隔離した構造を有するものである。この構成では、位置調整機構の起因するデッドスペースを排除することができる。
【0008】
しかしながら、ガス容器の窓を通過する際の光の反射を低減するために、別構造(具体的にはブリュースター窓)を設ける必要がある。また、試料ガス及び反射部材が離間しているので、その分の光路長が無駄になってしまうだけでなく、所望の光路長を得るためにはセル全体が大型化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−101257号公報
【特許文献2】特開平8−35926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決すべくなされたものであり、構造を複雑にすることなく、位置調整機構に起因するデッドスペースを削減しつつ、所望の光路長に調整できることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係る多重反射型セルは、入射した光を多重反射した後に外部へ射出する多重反射型セルであって、試料が導入されるセル室が形成されるセル本体と、前記セル本体に取り付けられて、前記セル室に反射面が位置する2以上の反射部材と、前記セル本体に対して前記反射部材の位置を調整する位置調整機構とを備え、前記セル本体は、前記セル室と外部とを連通し、前記反射部材が取り付けられる取り付け部を有しており、前記取り付け部に取り付けられた反射部材と前記セル本体との間にシール部材が設けられており、当該シール部材により前記セル室と前記セル本体の外部との間が封止されており、前記位置調整機構は、前記セル室の外部に設けられていることを特徴とする。
【0012】
この多重反射型セルによれば、反射部材とセル本体との間に設けられたシール部材によりセル室とセル本体の外部との間が封止されており、位置調整機構がセル室の外部に設けられているので、セル室内に位置調整機構を設けることにより生じるセル室内のデッドスペースを排除しつつ、所望の光路長に調整することができる。これにより、セル室の内容積を小さくして試料の置換時間をできる限り短くし、応答性を向上させることができる。
また、反射部材の反射面がセル室内に位置しているので、反射面の前方に窓等を設ける必要が無く、当該窓の反射を低減するための構造を不要にするとともに、互いに対向する2つの反射面の間の空間全体を光路長として利用することができる。さらに、試料と反射面との間に窓等を設ける必要が無いので、所望の光路長を得るためにはセル全体が大型化してしまう心配も無い。
【0013】
位置調整機構による反射部材の移動量がシール部材による可動範囲を超えてしまうと、セル室の密閉を確保できなくなってしまう。
この問題を好適に解決するためには、前記位置調整機構は、前記シールによる可動範囲内において、前記反射部材を調整するように構成されたものであることが望ましい。
【0014】
前記取り付け部は、前記セル本体に対する前記反射部材の取り付け角度に沿って傾斜して設けられていることが望ましい。
この構成であれば、取り付け部の傾斜により反射部材の角度の大部分を調整することができ、位置調整機構による反射部材の調整を軽微にすることができる。したがって、シール部材による可動範囲で反射部材の位置調整を可能にし易くできる。
【0015】
多重反射型セルの具体的な実施の態様としては、3つの反射部材を有するものであり、1つの反射部材である第1反射部材と、残りの2つの反射部材である第2反射部材とが互いに対向して配置されている。そして、前記2つの第2反射部材は、前記第1反射部材の光軸を含む面に対して対称となるように配置され、それらの光軸が前記第1反射部材に向かって相寄る方向に傾斜している構成が考えられる。
この構成においては、光軸が傾斜した第2反射部材の位置決めが特に難しくなる。そのため、前記第2反射部材が、前記位置調整機構により位置調整可能に設けられていることが望ましい。
【0016】
セル本体には、外部から光を入射させる入射窓及び光を反射させる出射窓を設ける必要がある。ここで、セル本体において第2反射部材側に入射窓及び出射窓を設けると位置調整機構により所望の位置に窓を設けることが難しくなる。このため、入射窓及び出射窓を無理なくセル本体に設ける構成としては、前記第1反射部材が前記セル本体に固定されており、前記セル本体において前記第1反射部材側に光を入射させる入射窓及び光を射出させる出射窓が設けられていることが望ましい。
【0017】
反射部材、取り付け部及びシール部材の構成を簡単にするためには、前記反射部材は、先端面に反射面を有する円筒形状をなすものであり、前記取り付け部は、前記反射部材の外側周面に対向する断面円形の内側周面を有するものであり、前記シール部材は、前記反射部材の外側周面と前記取り付け部の内側周面との間を気密にシールするものであることが望ましい。
【0018】
例えば多重反射型セルを組み立てた後に反射部材の位置決めを可能にするためには、前記位置調整機構は、前記セル本体の外部に面して設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、反射部材とセル本体との間に設けられたシール部材によりセル室とセル本体の外部との間が封止されており、位置調整機構がセル室の外部に設けられているので、構造を複雑にすることなく、位置調整機構に起因するデッドスペースを削減しつつ、所望の光路長に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態の分析装置の構成を示す模式図である。
【
図2】同実施形態における多重反射型セルの部分的に断面を示す側面図である。
【
図4】同実施形態におけるセル本体、第2反射部材、シール部材及び位置調整機構の位置関係を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る多重反射型セルを用いた分析装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態の分析装置100は、例えば自動車などの内燃機関から排出される試料ガスである排ガスに含まれる複数の成分の濃度を時系列データとして測定する排ガス分析装置である。
【0023】
具体的にこの分析装置100は、
図1に示すように、例えば自動車のテールパイプから出る排ガスの一部又は全部を試料採取部101により採取して、当該試料採取部101により採取された排ガスを希釈することなく多重反射型セル102に導入して、FTIR法により排ガス中の例えば二酸化炭素(CO
2)、窒素酸化物(NOx)等の複数の成分について各濃度を測定するものである。
【0024】
また、分析装置100において、多重反射型セル102が設けられた排ガスラインL1には、排ガスを多重反射型セル102に導入するためのポンプ103、排ガスの流量を調整するバルブ104、排ガスの流量を測定する流量計105、排ガス中の塵埃を除去するフィルタ106等が設けられている。なおポンプ103は、多重反射型セル102の上流に設けられても良いし、下流に設けられても良い。また、排ガスラインL1又は多重反射型セル102には、光検出器108の校正を行うためのゼロガス、スパンガスを多重反射型セル102に供給する基準ガス供給ラインL2、及び、排ガスラインL1又は多重反射型セル102を清浄するためのパージガスラインL3が接続されている。
【0025】
さらに、分析装置100は、多重反射型セル102に向かって赤外光を照射する光源107と、多重反射型セル102を通過して射出された光の強度を検出する光検出器108とを備えている。そして、分析装置100は、光検出器108により得られた光強度信号を用いて排ガスの赤外吸収スペクトルを算出して、この赤外吸収スペクトルから、複数の成分の濃度を算出する。
【0026】
次に、多重反射型セル102の詳細について
図2〜
図4を参照して説明する。
【0027】
多重反射型セル102は、特に
図2及び
図3に示すように、排ガスが導入されるセル室2Sが形成されるセル本体2と、セル本体2に取り付けられて、セル室2Sに反射面3xが位置する3つの反射部材31〜33と、セル本体2に対して反射部材32、33の位置を調整する位置調整機構4とを備えている。なお、セル本体2には、排ガスを導入するための導入ポートP1及び排ガスを導出するための導出ポートP2が設けられている(
図3参照)。
【0028】
このセル本体2において、特に
図3に示すように、1つの反射部材である第1反射部材31と、残りの2つの反射部材である第2反射部材32、33とが互いに対向して配置されている。ここで、2つの第2反射部材32、33は、第1反射部材31の光軸31Cを含む面に対して対称となるように配置され、それらの光軸32C、33Cが第1反射部材31に向かって相寄る方向に傾斜した状態で配置される。
【0029】
第1反射部材31は、先端面に反射面3xが形成された板状をなすものである。この第1反射部材31は、セル本体2の内部に形成されるセル室2Sを形成する第1側壁部21の内面にねじ5により固定されている(
図2参照)。具体的に第1反射部材31は、第1側壁部21に形成された貫通孔を介して、第1側壁部21の外部からねじ固定される。ここで、第1反射部材32の後端面と第1側壁部21の内面とは密着している。なお、第1反射部材31のセル本体21に対する位置決めは、例えば、第1反射部材31の裏面及び第1側壁部21に挿し込まれた平行ピン6(
図3参照)や、第1反射部材の裏面及び第1側壁部の間に形成された凹凸構造により行われる。
【0030】
一方、2つの第2反射部材32、33は、セル本体2において第1側壁部21に対向する第2側壁部22に設けられた取り付け部221に取り付けられる。この取り付け部221は、セル本体2においてセル室2Sと外部とを連通する貫通孔であり、2つの第2反射部材32、33それぞれに対応して設けられている。また、取り付け部221は、セル本体2に対する第2反射部材32、33の取り付け角度を大まかに定めるものであり、その取り付け角度に沿って傾斜して設けられている。
【0031】
また、第2反射部材32、33は、先端面に反射面3xが形成された円柱状をなすものである。これに対応して、取り付け部221は、第2反射部材32、33の外側周面33pに対向する断面円形の内側周面221pを有している(
図4参照)。
【0032】
そして、
図3及び
図4に示すように、この取り付け部221に挿しこまれて取り付けられた第2反射部材32、33とセル本体2との間にシール部材7が設けられている。このシール部材7は、弾性材料からなり、第2反射部材32、33とセル本体2との間の隙間を埋めるものであり、例えばOリングである。このシール部材7により、第2反射部材32、33は、セル本体2の取り付け部221に対してガタつきなく取り付けられる。
【0033】
以下に、第2反射部材33側のシール部材7の周辺構造について
図4を参照して詳述する。なお、第2反射部材32側の構成は、第2反射部材33側と同一である。
【0034】
シール部材7は、第2反射部材33の外側周面33pと取り付け部221の内側周面221pとの間を気密にシールするものである。このシール部材7は、第2反射部材33の先端部外側周面に形成された環状の凹溝33Mに一部が配置されている。この凹溝33Mに配置されたシール部材7により、第2反射部材32、33の先端部側において、セル室2Sが気密に封止される。また、第2反射部材32、33は、シール部材7によって取り付け部221に保持された状態となる。
【0035】
ここで、第2反射部材33の外側周面33pと取り付け部221の内側周面221pとの間において、シール部材7よりもセル室2S側のデッドスペースを可及的に小さくするために、凹溝33Mは、第2反射部材33における反射面3xの近傍に形成されていることが望ましい。
【0036】
このようにシール部材7を介して取り付け部221に取り付けられた第2反射部材32、33は、位置調整機構4により位置調整可能とされている。
【0037】
具体的に位置調整機構4は、セル本体2に当接してセル本体2に対する第2反射部材32、33の位置を微調整するものである。この位置調整機構4は、第2反射部材32、33に対して進退移動可能に設けられ、セル本体3の対面に当接する調整ねじ41を用いて構成されている。
【0038】
この調整ねじ41は、第2反射部材32、33の後端部に設けられたフランジ部3Fに設けられている。このフランジ部3Fは、セル本体2の第2側壁部22の外面22pに対向して設けられている。
【0039】
そして、調整ねじ41は、このフランジ部3Fの厚み方向に貫通した雌ねじ孔に螺合して設けられている。本実施形態では、円環状のフランジ部3Fに対して、第2反射部材32、33の中心軸周りに等間隔に4箇所設けられている。この調整ねじ41の先端部が第2側壁部22の外面22pに当接する。また、セル本体2の外部に位置するフランジ部3Fに調整ねじ41を設けていることにより、位置調整機構4は、セル本体2の外部に面して設けられることになる。
【0040】
このように構成された位置調整機構4により、第2反射部材32、33は、セル本体2の取り付け部221に対してその位置が調整される。例えば、4つの調整ねじ41それぞれにおけるフランジ部3Fからセル本体2への突出量を調整することにより、第2反射部材32、33は、セル本体2に対して、その光軸32C、33Cの方向に沿った位置が調整されるとともに、その光軸32C、33Cの向きが調整される。なお、調整ねじ41は、上記のように外面22pに当接するねじの他に、第2側壁部22に形成された雌ねじ孔に螺合して、その雌ねじ孔に対する螺合量が調整されることによって、第2反射部材32、33の位置を調整するねじであっても良い。
【0041】
ここで、位置調整機構4による第2反射部材32、33の移動量は、Oリング7による可動範囲内となるように設定されている。ここで、Oリング7による可動範囲は、測定に影響を与えない範囲である。詳細には、位置調整機構4による第2反射部材32、33の移動量は、Oリング7による測定に影響を与えない程度の密閉が確保される範囲内となるように設定されている。なお、Oリング7の密閉許容量とは、Oリング7によるシール性が確保できる範囲の値であり、例えば、Oリング7の周方向における各部のつぶし率(=つぶし量δ/Oリング線径W)が8〜30%の範囲となる量である。なお、取り付け部221に対する反射部材32、33のガタつき量は、位置調整機構4による位置調整を妨げないように設定されている。
【0042】
また、本実施形態の多重反射型セル102において、第1反射部材31が固定される第1側壁部21には、光をセル室2S内に入射させる入射窓W1及び光をセル室2S外に射出させる出射窓W2が設けられている。具体的に入射窓W1及び出射窓W2は、第2反射部材32、33の配列方向に沿って第1反射部材31を挟んだ位置に設けられている。
【0043】
なお、本実施形態の多重反射型セル102では、入射窓W1から入射した光は、当該入射窓W1から視て遠い方の第2反射部材33に入射するように構成されている。つまり、入射窓W1は、遠い方の第2反射部材33を向くように傾斜して設けられている。一方、出射窓W2は、当該出射窓W2から視て遠い方の第2反射部材32を向くように傾斜して設けられている。その他、入射窓W1は、近い方の第2反射部材32を向いて設けられ、出射窓W2も、近い方の第2反射部材33を向いて設けられたものであっても良い。
【0044】
なお、本実施形態の多重反射型セル102は、セル本体2の第1側壁部21の外面に、多重反射型セル102を外部の部材に取り付けるための取付用フランジ部材8がねじにより固定されている。この取付用フランジ部材8には、光源107からの光を入射窓W1に導くための導入路81が形成されるとともに、出射窓W2から出射された光を光検出器108に導くための導出路82が形成されている。また、セル本体2と入射窓W1及び出射窓W2との間、及び、セル本体2と取付用フランジ部材8との間には、例えばOリング等のシール部材91、92により封止されている。なお、何れか一方により封止するものであっても良い。
【0045】
このように構成した本実施形態の分析装置100によれば、第2反射部材32、33とセル本体2との間に設けられたシール部材7によりセル室2Sとセル本体2の外部との間が封止されており、位置調整機構4がセル室2Sの外部に設けられているので、セル室2S内に位置調整機構4を設けることにより生じるセル室2S内のデッドスペースを排除しつつ、所望の光路長に調整することができる。これにより、セル室2Sの内容積を小さくして試料の置換時間をできる限り短くし、応答性を向上させることができる。
【0046】
また、反射部材31〜33の反射面3xがセル室2S内に位置しているので、反射面3xの前方に窓等を設ける必要が無く、当該窓の反射を低減するための構造を不要にするとともに、互いに対向する2つの反射面3xの間の空間全体を光路長として利用することができる。さらに、排ガスと反射面3xとの間に窓等を設ける必要が無いので、所望の光路長を得るためにはセル全体が大型化してしまう心配も無い。
【0047】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0048】
例えば、前記実施形態では、2つの第2反射部材32、33を位置調整機構4により位置調整可能に設けたものであったが、第1反射部材31を位置調整機構4により位置調整可能に設けても良いし、少なくとも1つの反射部材31〜33を位置調整機構4により位置調整可能に設けても良い。
【0049】
また、前記実施形態では、3つの反射部材31〜33を用いて多重反射するものであったが、2つの反射部材又は4つ以上の反射部材を用いて多重反射するものであっても良い。
【0050】
さらに、前記実施形態では、試料採取部101により採取された排ガスを希釈することなく多重反射型セル102の導入するものであったが、多重反射型セル102に導入する前に、大気などの希釈ガスを用いて排ガスを希釈し、その希釈排ガスを多重反射型セル102に導入するように構成しても良い。ここで、希釈排ガスは、排ガスと希釈ガスとを所定の割合(希釈比)で希釈したものである。
【0051】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
100・・・分析装置
102・・・多重反射型セル
2・・・セル本体
221・・・取り付け部
2S・・・セル室
W1・・・入射窓
W2・・・出射窓
31・・・第1反射部材
31C・・・第1反射部材の光軸
32・・・第2反射部材
32C・・・第2反射部材の光軸
33・・・第2反射部材
33C・・・第2反射部材の光軸
3x・・・反射面
4・・・位置調整機構
7・・・Oリング(シール部材)