(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のリガンド結合繊維は、細胞膜受容体に親和性のあるリガンド、及び当該リガンドと結合しているリガンド結合繊維前駆体(以下、繊維前駆体と称する)を含むことを主たる特徴とする。
【0023】
1.繊維前駆体
本発明のリガンド結合繊維に含まれる繊維前駆体(本発明のリガンド結合繊維の前駆体、即ちリガンドが結合する前の繊維)は、細胞膜受容体に親和性のあるリガンドが結合し得るものであれば特に制限されないが、好ましくは(A)一般式(1)で表される単位構造及び一般式(2)で表される単位構造を含む高分子化合物を含有し、より好ましくは更に(B)架橋剤及び(C)酸化合物を含有する繊維前駆体(以下、「本発明の繊維前駆体」とも称する)である。
本発明の繊維前駆体が含有し得る各成分について、以下に詳述する。
【0024】
[成分A]
本発明の繊維前駆体は成分Aとして、一般式(1)で表される単位構造及び一般式(2)で表される単位構造を含む高分子化合物(以下、「成分Aの高分子化合物」又は単に「成分A」とも称する)を含有することが好ましい。成分Aに含まれる一般式(1)で表される単位構造は、側鎖にヒドロキシ基を有するため、成分Aを架橋剤及び酸化合物とともに紡糸することにより、ヒドロキシ基同士が架橋剤を介して架橋反応することにより高分子化合物同士が架橋し、有機溶剤耐性を有する繊維が得られる。また、成分Aに含まれる一般式(2)で表される単位構造は、側鎖に活性エステル基を有するため、任意のアミン(特に、一級アルキルアミンが好ましい)との求核置換反応によって、後述のリガンド等を高分子化合物に固定化することができる。
【0026】
〔式中、
R
1は、水素原子又はメチル基を示し、
Q
1は、エステル結合又はアミド結合を示し、
R
2は、少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ基で置換されている炭素原子数1〜10のアルキル基又は炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基を示す。〕
【0028】
〔式中、
R
3は、水素原子又はメチル基を示し、
Q
2は、活性エステル基を示す。〕
【0029】
一般式(1)及び一般式(2)における各基の定義について、以下に詳述する。
【0030】
R
1は、水素原子又はメチル基を示す。
【0031】
Q
1は、エステル結合又はアミド結合を示し、成分Aの高分子化合物の溶剤に対する溶解性の観点から、好ましくはエステル結合である。
【0032】
Q
2は、活性エステル基を示す。「活性エステル基」とは、エステル基の片方に電子求引性の置換基を有することによってカルボニル基が活性化された(求核攻撃を受けやすい)エステル基をいい、具体的には、一般式(3)で表されるエステル基である。
【0034】
式中、Q
3は活性エステル基を形成する1価の有機基(電子求引性基)を示し、その具体例としては、N−スクシンイミド基、p−ニトロフェニル基及びペンタフルオロフェニル基が挙げられるが、細胞親和性の観点から、好ましくは、N−スクシンイミド基である。
【0035】
R
2は、少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ基で置換されている炭素原子数1〜10のアルキル基又は炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基を示す。該炭素原子数1〜10のアルキル基は直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。該アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜4である。
また、R
2における少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ基で置換されている炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基の「炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基」としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。
R
2は、繊維前駆体製造時における架橋反応効率や、製造された繊維前駆体の細胞親和性の観点から、好ましくは、少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ基で置換されている炭素原子数1〜10(より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4)のアルキル基又は少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ基で置換されているフェニル基である。
【0036】
R
3は、水素原子又はメチル基を示す。
【0037】
一般式(1)で表される単位構造は、R
1が、水素原子又はメチル基であり、Q
1が、エステル結合であり、R
2が、少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ基で置換されている炭素原子数1〜10(より好ましくは1〜6、特に好ましくは1〜4)のアルキル基又は少なくとも1個の水素原子がヒドロキシ基で置換されているフェニル基であることが好ましい。
【0038】
一般式(1)で表される単位構造は、好ましくは、一般式(5)で表される単位構造である。
【0040】
[式中、R
4は上記R
1と同義であり、R
5は上記R
2と同義である。]
【0041】
一般式(2)で表される単位構造は、好ましくは、一般式(6)で表される単位構造である。
【0043】
[式中、R
6は水素原子又はメチル基である。]
【0044】
成分Aの高分子化合物において、一般式(1)で表される単位構造と一般式(2)で表される単位構造との組成比は、合成のしやすさ、溶剤に対する溶解性、繊維形成のしやすさ、任意のアミンを固定化した際の効果の観点から、(一般式(1)で表される単位構造)/(一般式(2)で表される単位構造)=(35〜95モル%)/(5〜65モル%)が好ましい。これらの単位構造の組成比は、
13C−NMRにより測定される。
成分Aの高分子化合物は、本発明の目的を損なわない限り、一般式(1)で表される単位構造及び一般式(2)で表される単位構造以外の単位構造を含んでもよいが、成分Aの高分子化合物の重合性の観点から、成分Aの高分子化合物の全単位構造に対する一般式(1)で表される単位構造の割合(モル%)は、35〜95モル%が好ましく、一般式(2)で表される単位構造の割合(モル%)は、5〜65モル%が好ましい。また成分Aの高分子化合物の全単位構造に対する一般式(1)で表される単位構造の割合と一般式(2)で表される単位構造の割合との合計(モル%)は、成分Aの高分子化合物の重合性の観点から、90モル%を超えることが好ましく、95モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。成分Aの高分子化合物の全単位構造に対する各単位構造の割合は、
13C−NMRにより測定される各単位構造の組成比から算出できる。
【0045】
成分Aの重量平均分子量は、繊維前駆体の有機溶媒耐性の観点から、好ましくは1,000〜1,000,000の範囲であり、より好ましくは5,000〜500,000の範囲であり、特に好ましくは10,000〜300,000の範囲である。本発明において「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される、ポリスチレン換算の分子量をいう。
【0046】
成分Aは、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造することができる。例えば、一般式(1)で表される単位構造に対応する単量体及び一般式(2)で表される単位構造に対応する単量体を、適当な溶媒(例、アセトニトリル等)中で、適当な重合開始剤(例、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等)を使用して重合すること等により製造できるが、これに限定されない。市販品を使用してもよい。
【0047】
一般式(1)で表される単位構造に対応する単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、CAS番号:868−77−9の化合物)、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート(例えば、CAS番号:923−26−2の化合物)、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート(例えば、CAS番号:2478−10−6の化合物)、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド(例えば、CAS番号:923−02−4の化合物)、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド(例えば、CAS番号:5238−56−2の化合物)、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド(例えば、CAS番号:26099−09−2の化合物)、p−ヒドロキシ(メタ)アクリルアニリド(例えば、CAS番号:19243−95−9の化合物)等が挙げられ、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又は2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましく、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが最も好ましい。
なお、本発明において「(メタ)アクリレート化合物」とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方をいう。例えば、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸の両方をいう。
【0048】
一般式(2)で表される単位構造に対応する単量体としては、p−ニトロフェニル(メタ)アクリレート(例えば、CAS番号:16522−41−1の化合物)、ペンタフルオロフェニル(メタ)アクリレート(例えば、CAS番号:13642−97−2の化合物)、N−アクリルオキシスクシンイミド(CAS番号:38862−24−7の化合物)、N−スクシンイミジルメタクリレート(CAS番号:38862−25−8の化合物)が好ましく、N−スクシンイミジルメタクリレートが最も好ましい。
【0049】
[成分B]
本発明の繊維前駆体は成分Bとして、架橋剤(以下、「成分Bの架橋剤」又は単に「成分B」とも称する)を含有することが好ましい。成分Bは、後述の成分Cと併用することにより、成分Aのヒドロキシ基同士を、成分B自身を介して架橋させることで、繊維前駆体に有機溶剤耐性を付与することができる。
【0050】
成分Bの架橋剤は、酸存在下でヒドロキシ基と反応し得るものであれば特に制限されないが、例えば、1,3,4,6−テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(ブトキシメチル)グリコールウリル等のアミノプラスト架橋剤;2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジヒドロキシメチルフェニル)プロパン等のフェノプラスト架橋剤;ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート架橋剤;1,4−ビス(ビニルオキシ)ブタン等のビニルエーテル架橋剤;等が挙げられる。
【0051】
成分Bは、好ましくはアミノプラスト架橋剤であり、好ましくは1,3,4,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)グリコールウリル(CAS番号:5395−50−6)、1,3,4,6−テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリル(CAS番号:17464−88−9)、1,3,4,6−テトラキス(エトキシメチル)グリコールウリル(CAS番号:65952−06−9)、1,3,4,6−テトラキス(1−メチルエトキシ)グリコールウリル(CAS番号:508220−69−7)、1,3,4,6−テトラキス(1,1−ジメチルエトキシ)グリコールウリル(CAS番号:547744−08−1)又は1,3,4,6−テトラキス(ブトキシメチル)グリコールウリル(CAS番号:15968−37−3)であり、より好ましくは1,3,4,6−テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリルである。
【0052】
成分Bは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0053】
成分Bの架橋剤は、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0054】
[成分C]
本発明の繊維前駆体は成分Cとして、酸化合物(以下、「成分Cの酸化合物」又は単に「成分C」とも称する)を含有することが好ましい。当該酸化合物は塩の態様であってもよく、即ち、本発明における「酸化合物」なる用語は、塩をも包含する概念である。成分Cは、成分Bと併用することにより、成分Aのヒドロキシ基同士が成分Bを介して架橋反応する際にその架橋反応を促進させることができる。
【0055】
成分Cの酸化合物としては、例えば、スルホン酸化合物、カルボン酸化合物等の有機酸化合物;塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸化合物等が挙げられる。
【0056】
成分Cは、好ましくは有機酸化合物であり、より好ましくはスルホン酸化合物である。スルホン酸化合物としては、例えば、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウム−p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられ、好ましくはピリジニウム−p−トルエンスルホナートである。
【0057】
成分Cは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
成分Cの酸化合物は、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0059】
本発明の繊維前駆体は、本発明の目的を著しく損なわない限り、成分A〜C以外に、繊維前駆体に通常使用される添加剤を必要に応じて含んでもよい。当該添加剤としては、例えば、界面活性剤、レオロジー調整剤、薬剤、微粒子等が挙げられる。
【0060】
本発明の繊維前駆体の種類は特に制限されないが、例えば、本発明のリガンド結合繊維を生体適合材料(例、細胞培養基材等)等に使用する場合、本発明の繊維前駆体は、ナノメートルオーダー(例、1〜1000nm)の直径を持つ繊維前駆体(ナノ繊維前駆体)、又はマイクロメートルオーダー(例、1〜1000μm)の直径を持つ繊維前駆体(マイクロ繊維前駆体)等であることが好ましく、ナノ繊維前駆体がより好ましい。
【0061】
本発明の繊維前駆体の直径(繊維前駆体の繊維径)は、リガンド結合繊維の用途等に応じて適宜調整すればよいが、後述の繊維前駆体製造用組成物の濃度、及び紡糸のし易さの観点から、1〜1000nmが好ましく、10〜1000nmがより好ましい。本発明において、繊維前駆体の直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて測定される。
本発明の繊維前駆体の長さは、上記繊維前駆体の直径に対し1000倍以上であることが望ましい。
繊維前駆体の単位面積あたりの重さ(目付量)は、例えば7μg/cm
2以上であり、好ましくは10μg/cm
2以上である。
【0062】
本発明の繊維前駆体の製造方法は、その成分や種類等に応じて自体公知の方法を適宜選択すればよく特に制限されないが、例えば、本発明の繊維前駆体が上記の成分A〜Cを含有するものである場合、当該繊維前駆体は、成分A〜C及び溶剤を含有する繊維前駆体製造用組成物を紡糸することにより製造できる。
【0063】
本発明において用いられる溶剤は、少なくとも上記成分A〜Cを均一に溶解又は分散し得、且つ、各成分と反応しないものであれば特に制限されないが、成分A〜Cの溶解性の観点から、極性溶剤が好ましい。
当該極性溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられ、組成物の紡糸し易さのため、好ましくはアセトンとジメチルアセトアミドの混合溶媒であり、その好ましい混合比率(重量%)は、アセトン/ジメチルアセトアミド=(90重量%〜60重量%)/(10重量%〜40重量%)である。
【0064】
溶剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0065】
繊維前駆体製造用組成物における成分Aの含有割合は、適度な太さを有する繊維前駆体製造の観点から、5〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましい。
【0066】
繊維前駆体製造用組成物における成分Bの含有割合は、成分Aとの反応効率の観点から、0.1〜5重量%が好ましく、0.2〜4.5重量%がより好ましい。
【0067】
繊維前駆体製造用組成物に含まれる成分Aと成分Bの重量比(成分Aの重量/成分Bの重量)は、繊維前駆体の製造時の反応効率の観点から、5〜65が好ましく、5〜25がより好ましい。
【0068】
繊維前駆体製造用における成分Cの含有割合は、架橋反応速度、架橋反応効率の観点から、0.01〜1.0重量%が好ましく、0.05〜0.5重量%がより好ましく、0.07〜0.4重量%が特に好ましい。
【0069】
繊維前駆体製造用組成物に含まれる成分Aと成分Cの重量比(成分Aの重量/成分Cの重量)は、架橋反応速度、架橋反応効率の観点から、20〜120が好ましく、80〜115がより好ましい。
【0070】
繊維前駆体製造用組成物は、成分A〜C及び溶剤以外に、繊維前駆体が含んでもよい添加剤と同様の添加剤を含有してよい。
【0071】
繊維前駆体製造用組成物は、上記の成分A〜C及び溶剤を、あるいは、成分A〜C、溶剤及び上記の添加剤を、混合することにより調製できる。混合方法は特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって混合すればよい。
【0072】
繊維前駆体製造用組成物の紡糸方法は繊維前駆体を形成できるものであれば特に制限されないが、例えば、メルトブロー法、複合溶融紡糸法、電界紡糸法等が挙げられ、繊維形成能の観点から、電界紡糸法が好ましい。
【0073】
電界紡糸法は、公知の紡糸方法であり、公知の電界紡糸装置を用いて行うことができる。本発明の繊維前駆体製造用組成物をノズル(例、ニードル等)の先端から吐出する速度(吐出速度);印加電圧;繊維前駆体製造用組成物を吐出するノズルの先端から、これを受け取る基板(コレクタ部)までの距離(吐出距離)等の各種条件は、製造する繊維前駆体の直径等に応じて適宜設定できる。吐出速度は、通常0.1〜100μl/minであり、好ましくは0.5〜50μl/minであり、より好ましくは1〜20μl/minである。印加電圧は、通常0.5〜80kVであり、好ましくは1〜60kVであり、より好ましくは3〜40kVである。吐出距離は、通常1〜60cmであり、好ましくは2〜40cmであり、より好ましくは3〜30cmである。
【0074】
繊維前駆体が形成される基板(コレクタ部)は、導電性であってもなくてもよく、例えば、樹脂基板(例、ポリスチレン基板、アクリル基板、ポリカーボネート基板、ポリエチレン基板、塩化ビニル基板、ポリエチレンテレフタレート基板等)、金属基板(例、金基板、銀基板、白金基板等が挙げられ、表面が金属で覆われた(めっきされた)基板も含む)、ガラス基板、シリコン基板、セラミックス基板等が挙げられるが、細胞培養基材として、基材の耐破損性や細胞観察のしやすさの観点から、樹脂基板が好ましい。
また繊維前駆体が形成される基板は、表面処理を施されていてもよい。当該表面処理としては、例えば、金属(例、Pt、Pd、Au、Ag、Cu等)蒸着処理、UVオゾン処理等が挙げられる。導電性の低い基板(例、樹脂基板等)は、その表面に金属蒸着処理を施すことにより、金属蒸着処理を施していない場合に比べて、多量の繊維前駆体を形成することができる。
【0075】
本発明の繊維前駆体は、基板上に層状に形成されることが好ましいが、それ以外の構造であってもよい。
【0076】
本発明の繊維前駆体は、繊維前駆体が形成された基板とともに使用してよく、或いは、基板から分離して使用してもよい。本発明の繊維前駆体が基板とともに使用される場合、基板における繊維前駆体の目付量(基板上の単位面積当たりの担持量)は、通常7μg/cm
2以上であり、好ましくは10μg/cm
2以上であり、より好ましくは13μg/cm
2以上であり、最も好ましくは15μg/cm
2以上である。基板における繊維前駆体の目付量の上限値は特に制限されないが、通常15000μg/cm
2である。
【0077】
繊維前駆体製造用組成物を紡糸した後に、該紡糸した繊維前駆体を、特定の温度で加熱することが好ましい。紡糸した繊維前駆体を特定の温度で加熱することにより、より優れた有機溶剤耐性を発現させることができる。
【0078】
紡糸した繊維前駆体を加熱する温度は、通常70〜300℃であり、成分Bの架橋剤の反応性、及び成分Aの高分子化合物の耐熱性の観点から、好ましくは80〜250℃であり、より好ましくは90〜200℃である。当該温度が70℃未満であると、成分A同士の架橋反応が不十分であり、製造した繊維前駆体の有機溶媒耐性が低くなる傾向があり、300℃を超えると、成分Aの高分子化合物自体が熱による分解又は溶解等を起こし繊維前駆体が形成できない。
【0079】
紡糸した繊維前駆体の加熱方法は、上記の加熱温度で加熱し得るものであれば特に制限されず、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で適宜加熱することができる。該加熱方法の具体例としては、大気下にてホットプレート又はオーブン等を使用する方法等が挙げられる。
【0080】
紡糸した繊維前駆体を加熱する時間は、加熱温度等に応じて適宜設定し得るが、架橋反応速度、生産効率の観点から、1分間〜48時間が好ましく、5分間〜36時間がより好ましく、10分間〜24時間が特に好ましい。
【0081】
2.細胞膜受容体に親和性のあるリガンド
本発明のリガンド結合繊維に含まれるリガンドは、細胞膜受容体に親和性があり、且つ、繊維前駆体と結合し得るものが好ましい。また当該リガンドは、合成リガンドであってもよい。ここで「合成リガンド」とは、天然には存在していない有機物から化学合成法によって人工的に製造することによってのみ得られるリガンドをいう。ゆえに、例えば合成ペプチドは、本明細書でいう「合成リガンド」ではない。
【0082】
本発明において用いられるリガンドとしては、例えば、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、アミノ酸誘導体及び糖類等が挙げられる。
上記リガンドは、天然のものでもよいし、或いは、人工的に合成して得られるもの、遺伝子操作により得られるもののいずれであってもよい。
【0083】
前記蛋白質としては、例えば、癌胎児性抗原、扁平上皮癌関連抗原、サイトケラチン19フラグメント、シアル化糖鎖抗原KL−6、ナトリウム利尿ペプチド、トロポニン、ミオグロビン等の疾患マーカー、インターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−3(IL−3)、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−9(IL−9)、インターロイキン−10(IL−10)、インターロイキン−11(IL−11)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−13(IL−13)、インターロイキン−14(IL−14)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−18(IL−18)、インターロイキン−21(IL−21)、インターフェロン−α(IFN−α)、インターフェロン−β(IFN−β)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、単球コロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、幹細胞因子(SCF)、flk2/flt3リガンド(FL)、白血病細胞阻害因子(LIF)、オンコスタチンM(OM)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α)、トランスフォーミング成長因子−β(TGF−β)、マクロファージ炎症蛋白質−1α(MIP−1α)、上皮細胞増殖因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子−1、2、3、4、5、6、7、8、又は9(FGF−1、2、3、4、5、6、7、8、又は9)、神経細胞増殖因子(NGF)肝細胞増殖因子(HGF)、白血病阻止因子(LIF)、プロテアーゼネキシンI、プロテアーゼネキシンII、血小板由来成長因子(PDGF)、コリン作動性分化因子(CDF)、ケモカイン、Notchリガンド(Delta1など)、Wnt蛋白質、アンジオポエチン様蛋白質2、3、5または7(Angpt2、3、5または7)、インスリン様成長因子(IGF)、インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)、インシュリン、成長ホルモン等の細胞増殖因子、及びコラーゲンI乃至XIX、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン−1乃至12、ラミニン511、ラミニン521、ニトジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド(von Willebrand)因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、各種エラスチン、各種プロテオグリカン、各種カドヘリン、デスモコリン、デスモグレイン、各種インテグリン、E−セレクチン、P−セレクチン、L−セレクチン、免疫グロブリンスーパーファミリー、マトリゲル、ポリ−D−リジン、ポリ−L−リジン等の細胞接着因子、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等の各種抗体等が挙げられる。
【0084】
前記ペプチドとしては、例えば、アンジオテンシンI乃至IV、ブラジキニン、フィブリノペプチド、ナトリウム利尿ペプチド、ウロディラチン、グアニリン、エンドセリン1乃至3、サリューシン、ウロテンシン、オキシトシン、ニューロフィジン、バソプレシン、副腎皮質刺激ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、エンドルフィン、リポトロピン、ウロコルチン1乃至3、黄体形成ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ソマトスタチン、コルチスタチン、プロラクチン放出ペプチド、メタスチン、タキキニン、サブスタンスP、ニューロキニン、エンドキニン、ニューロテンシン、ニューロメジン、ゼニン、グレリン、オベスタチン、メラニン凝集ホルモン、オレキシン、ニューロペプチド、ダイノルフィン、ネオエンドルフィン、エンドモルフィン、ノシセプチン、ピログルタミル化RF アミドペプチド、ガラニン、ガストリン、コレシストキニン、セクレチン、リラキシン、グルカゴン、グリセンチン、アドレノメデュリン、アミリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン、ディフェンシン、チモシン、YIGSRペプチド等が挙げられる。
【0085】
前記アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、ジヒドロキシフェニルアラニン、チロキシン、フォスフォセリン、デスモシン、β−アラニン、サルコシン、オルニチン、クレアチン、γ−アミノ酪酸、テアニン、カイニン酸、ドウモイ酸、イボテン酸等が挙げられる。
【0086】
前記アミノ酸誘導体としては、セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、チラミン(CAS番号:51−67−2の化合物)、ドーパミン(CAS番号:51−61−6の化合物)等が挙げられる。
【0087】
前記糖類としては、例えば、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、ノイラミン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン等が挙げられる。
【0088】
また本発明はリガンドとして、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、アミノ酸誘導体及び糖類以外の化学物質を用いてもよい。そのような化学物質としては、例えば、2−ジメチルアミノエチルアミン(CAS番号:108−00−9の化合物)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン(CAS番号:111−41−1の化合物)、N−(2−アミノエチル)ピペラジン(CAS番号:140−31−8の化合物)、4−(2−アミノエチル)モルホリン(CAS番号:2038−03−1の化合物)、1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリドン(CAS番号:6281−42−1の化合物)、トリプトアミン(CAS番号:61−54−1の化合物)、ヒスタミン二塩酸塩(CAS番号:56−92−8の化合物)等の一級アミン;エチレンジアミン二塩酸塩(CAS番号:333−18−6の化合物)、1,6−ジアミノヘキサン(CAS番号:124−09−4の化合物)、N,N’−ビス(アミノプロピル)ピペラジン(CAS番号:7209−38−3の化合物)の一級ジアミン等が挙げられる。
【0089】
本発明はリガンドとして、トロンボポエチン(TPO)受容体に親和性があるリガンドを用いてもよい。トロンボポエチン(TPO)受容体に親和性があるリガンドとしては、例えば、特開平11−1477号公報、特開平11−152276号公報、国際公開第01/07423号、国際公開第01/53267号、国際公開第02/059099号、国際公開第02/059100号、国際公開第00/35446号、国際公開第00/66112号、国際公開第01/34585号、国際公開第01/17349号、国際公開第01/39773号、国際公開第01/21180号、国際公開第01/89457号、国際公開第02/49413号、国際公開第02/085343号、特開2001−97948号公報、国際公開第99/11262号、国際公開第02/062775号、国際公開第03/062233号、特開2003−238565号公報等に記載の化合物が挙げられる。また下記の式(7)〜式(15)で表される化合物も、トロンボポエチン(TPO)受容体に親和性があるリガンドとして用いてよい。
【0099】
本発明の繊維前駆体とリガンドとの結合の形態は、両者が結合してさえいれば特に制限されないが、一態様として、本発明の繊維前駆体が成分Aの高分子化合物を含有し、リガンドがアミノ基を有する場合、リガンドのアミノ基と成分AのQ
2とは、求核置換反応によって結合し得る。
アミノ基を有するリガンドの具体例としては、例えば上記に例示した化合物のカルボン酸をカルボン酸アミドに変換した後、ホフマン転位反応等によりアミノ化した化合物が挙げられる。
また、本発明において用いられるリガンドとして上記に例示した化合物の置換基の一部を自体公知の方法によってアミノ化した上で、本発明のリガンドとして使用してもよい。
【0100】
アミノ基を有するリガンドの特に好ましい一態様として、一般式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」とも称する)が挙げられる。
【0102】
〔式中、
X
1は、3,4−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基又は4−t−ブチルフェニル基を示し、
X
2は、置換されていてもよいアミノ基を示し、
L
1は、単結合又は−CH
2−C
6H
4−を示し、
L
2は、単結合又は−CONH−を示し、
L
3は、炭素原子数2〜6のアルキレン基を示す。〕
【0103】
一般式(4)における各基の定義について、以下に詳述する。
【0104】
X
1は、3,4−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基又は4−t−ブチルフェニル基を示し、好ましくは4−t−ブチルフェニル基である。
【0105】
X
2は、置換されていてもよいアミノ基を示す。本明細書中、「置換されていてもよい」とは、特に規定する場合を除き、1個以上の置換基を有していてもよいことを意味し、該「置換基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、アリル基、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。
X
2は、好ましくはアミノ基である。
【0106】
L
1は、単結合又は−CH
2−C
6H
4−を示し、好ましくは、単結合である。
【0107】
L
2は、単結合又は−CONH−を示し、好ましくは、単結合である。
【0108】
L
3は、炭素原子数2〜6のアルキレン基を示す。炭素原子数2〜6のアルキレン基は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、例えば、エチレン基、n−プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ジメチルメチレン基、メチルエチレン基、ジメチルエチレン基、ジメチルプロピレン基、シクロプロピレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。中でも、炭素原子数2〜4のアルキレン基が好ましく、炭素原子数2〜3のアルキレン基がより好ましい。
【0109】
好適な化合物(4)としては、
X
1が、4−t−ブチルフェニル基であり、
X
2が、好ましくはアミノ基であり、
L
1が、単結合又は−CH
2−C
6H
4−(好ましくは、単結合)であり、
L
2が、単結合又は−CONH−(好ましくは、単結合)であり、
L
3が、炭素原子数2〜6(好ましくは2〜4、より好ましくは2〜3)のアルキレン基である化合物(4)である。
【0110】
好適な化合物(4)の具体例としては、下記の式(16)〜(18)で表される化合物等が挙げられる。
【0114】
化合物(4)は、例えば、特許第4386072号公報に記載の方法、又はそれに準じる方法により製造できる。
【0115】
3.リガンド結合繊維の製造(リガンドの繊維前駆体への固定化)
本発明において、繊維前駆体とリガンドとの結合の形態は、両者が結合してさえいれば特に制限されないが、一態様として、活性エステル基を有する繊維前駆体(例えば、本発明の繊維前駆体等)を使用する場合、細胞膜受容体に親和性のあるリガンドは、繊維前駆体に存在する活性エステル基とリガンドとの反応により、前記繊維前駆体に固定化できる。活性エステル基は、中性の条件で遊離アミノ基と反応する。アミンの塩基性は、芳香族アミンよりアルキルアミンが強く、アルキルアミンは活性エステルとの反応により適している。水溶性の低いアミンの場合には、エタノールやジメチルスルホキシド等のような有機溶剤に溶解して反応させることが好ましい。本発明の繊維前駆体を用いる場合、活性エステル基とリガンドとの反応は、繊維前駆体製造用組成物の調製時に行うことが可能である。また繊維前駆体製造用組成物を紡糸して繊維前駆体を製造した後に行ってもよく、繊維前駆体に加熱処理を施した後に行ってもよい。反応条件は、好ましくは0℃〜80℃で1〜48時間であり、さらに好ましくは0℃〜60℃で1〜24時間であり、最も好ましくは0℃〜50℃で1〜24時間である。
【0116】
本発明のリガンド結合繊維の直径は、その用途等に応じて適宜調整すればよいが、1〜1000nmが好ましく、10〜1000nmがより好ましい。本発明において、リガンド結合繊維の直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて測定される。
また本発明のリガンド結合繊維の長さは、上記直径に対し1000倍以上であることが望ましい。
【0117】
本発明のリガンド結合繊維は、基板上に担持された状態で使用され得る。その場合、基板におけるリガンド結合繊維の目付量(基板上の単位面積当たりの担持量)は、通常7μg/cm
2以上であり、好ましくは10μg/cm
2以上であり、より好ましくは13μg/cm
2以上であり、最も好ましくは15μg/cm
2以上である。基板におけるリガンド結合繊維の目付量の上限値は特に制限されないが、通常15000μg/cm
2である。
通常、繊維前駆体の目付量と、リガンド結合繊維の目付量の値はほぼ同じ(誤差範囲内)である。
【0118】
本発明のリガンド結合繊維の用途は特に制限されないが、後述の実施例に示されるように、本発明のリガンド結合繊維は優れた有機溶剤耐性を有しており、細胞培養基材として十分な機能を有することから、特に細胞培養基材(例えば、細胞培養足場材料等)に適している。
【0119】
4.細胞培養基材
本発明の細胞培養基材は、本発明のリガンド結合繊維を含むことを、主たる特徴とする。本発明において「細胞培養基材」とは、細胞に対して悪影響を及ぼさず、選択的に特定の細胞のみ培養が可能な材料をいう。
【0120】
本発明の細胞培養基材としては、例えば、ガラス、金属、及びポリスチレン等のプラスチック上に本発明のリガンド結合繊維を吹付けた細胞培養基材(例えば、6穴平底マイクロプレート等)、本発明のリガンド結合繊維を導入した培養バック等が挙げられる。
【0121】
本発明の細胞培養基材を用いて培養される「細胞」とは、動物或いは植物を構成する最も基本的な単位であり、その要素として細胞膜の内部に細胞質と各種の細胞小器官をもつものである。この際、DNAを内包する核は、細胞内部に含まれても含まれなくてもよい。
【0122】
本発明の細胞培養基材は、例えば、動物由来の細胞の培養に用いることができる。本発明における動物由来の細胞には、精子や卵子などの生殖細胞、生体を構成する体細胞、幹細胞(多能性幹細胞等を含む)、前駆細胞、生体から分離された癌細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(即ち、細胞株(癌細胞株を含む))、生体から分離され人為的に遺伝子改変が成された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が含まれる。
【0123】
生体を構成する体細胞の例としては、以下に限定されるものではないが、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞または骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞(例えば、臍帯血由来のCD34陽性細胞)、及び単核細胞等が挙げられる。当該体細胞は、例えば皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液(臍帯血を含む)、骨髄、心臓、眼、脳または神経組織などの任意の組織から採取できる。
【0124】
幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞であり、その例としては、以下に限定されるものではないが、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞等が挙げられる。多能性幹細胞としては、例えば前記幹細胞のうち、ES細胞、胚性生殖幹細胞、iPS細胞等が挙げられる。
【0125】
前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。また癌細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。
【0126】
細胞株の例としては、以下に限定されるものではないが、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、MDCK、MDBK、BHK、C−33A、AE−1、3D9、Ns0/1、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five(登録商標)、Vero等が挙げられる。
【0127】
癌細胞株の例としては、以下に限定されるものではないが、ヒト乳がん細胞株としてHBC−4、BSY−1、BSY−2、MCF−7、MCF−7/ADR RES、HS578T、MDA−MB−231、MDA−MB−435、MDA−N、BT−549、T47D、ヒト子宮頸がん細胞株としてHeLa、ヒト肺がん細胞株としてA549、EKVX、HOP−62、HOP−92、NCI−H23、NCI−H226、NCI−H322M、NCI−H460、NCI−H522、DMS273、DMS114、ヒト大腸がん細胞株としてCaco−2、COLO−205、HCC−2998、HCT−15、HCT−116、HT−29、KM−12、SW−620、WiDr、ヒト前立腺がん細胞株としてDU−145、PC−3、LNCaP、ヒト中枢神経系がん細胞株としてU251、SF−295、SF−539、SF−268、SNB−75、SNB−78、SNB−19、ヒト卵巣がん細胞株としてOVCAR−3、OVCAR−4、OVCAR−5、OVCAR−8、SK−OV−3、IGROV−1、ヒト腎がん細胞株としてRXF−631L、ACHN、UO−31、SN−12C、A498、CAKI−1、RXF−393L、786−0、TK−10、ヒト胃がん細胞株としてMKN45、MKN28、St−4、MKN−1、MKN−7、MKN−74、皮膚がん細胞株としてLOX−IMVI、LOX、MALME−3M、SK−MEL−2、SK−MEL−5、SK−MEL−28、UACC−62、UACC−257、M14、白血病細胞株としてCCRF−CRM、K562、MOLT−4、HL−60TB、RPMI8226、SR、UT7/TPO、Jurkat等が挙げられる。
【0128】
これらの細胞のうち、TPO受容体に親和性のあるリガンドを用いた本発明のリガンド結合繊維を含む細胞培養基材(例、細胞培養足場材料等)を用いて培養される細胞としては、例えば、TPO受容体を発現している造血幹細胞、造血前駆細胞、巨核球前駆細胞、巨核球、血小板、UT7/TPO細胞等が挙げられる。
【0129】
本発明の細胞培養基材は、本発明のリガンド結合繊維を原材料の一つとして使用し、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって製造することができる。
【実施例】
【0130】
以下、本発明に係る具体例を説明するが、これによって本発明は何ら限定されるものではない。
【0131】
[高分子化合物1の重量平均分子量の測定]
下記の高分子化合物1の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。測定に用いた装置、測定条件は次の通りである。
装置:TOSOH HLC−8320GPC system
カラム:Shodex(登録商標)KF−803L、KF−802及びKF−801
カラム温度:40℃
溶離液:DMF
流量:0.6ml/分
検出器:RI
標準試料:ポリスチレン
【0132】
[高分子化合物1の
13C−NMR測定]
下記の高分子化合物1の単位構造の組成比は、
13C−NMRにより測定した。測定及び解析に用いた装置、条件は次の通りである。
装置:日本電子株式会社 JNM−ECA500、Delta V5.0
測定核:
13Cゲートデカップリング
積算回数:18000
測定温度:室温
検出ピーク:69〜71ppm(HPMA由来)、
25〜27ppm(NSuMA由来)
測定溶剤:重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d
6)、750uL
サンプル量:0.1g
緩和試薬:クロム(III)アセチルアセナート、4mg
【0133】
[リガンド化合物の
1H−NMR測定]
リガンド化合物は、
1H−NMRにより同定した。条件は次の通りである。
装置:Varian NMR System 400 NB (400MHz)
測定溶媒:CDCl
3
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)(δ0.0ppm、
1H)
【0134】
(合成例1:高分子化合物1)
2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA;東京化成工業株式会社製)18.37g、N−スクシンイミジルメタクリレート(NSuMA;東京化成工業株式会社製)10.00g、及び2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(MAIB;和光純薬工業株式会社製)0.03gをアセトニトリル66.25gに溶解させ、窒素雰囲気下、加熱還流させたアセトニトリル47.32g中へ滴下した。滴下終了後、加熱還流を保ちながら、18時間反応させた。その後、この反応混合液をジエチルエーテル中に滴下してポリマーを析出させた。ポリマーを取り出した後、減圧下で乾燥することで、高分子化合物1を19.9g得た。当該高分子化合物1の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で235,000であった。
13C−NMRにて測定した組成比は、HPMA/NSuMA=63モル%/37モル%であった。
【0135】
(合成例2:リガンド化合物[4]の合成)
【0136】
【化23】
【0137】
<化合物[1]の合成>
マグネチックスターラーを備えた50ml四口フラスコに、メチル 5−(クロロカルボニル)チオフェン−2−カルボキシレート(TEC)1.00g(4.89mmol)とアセトニトリル12gを仕込み、内温5℃に保った。かかる混合物に、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,2−ジアミノエタン(0.783g、4.89mmol)及びトリエチルアミン(1.088g、10.75mmol)のアセトニトリル(8g)溶液を滴下した後、室温にて17時間攪拌した。反応液に酢酸エチル30g、純水30gを加え、分液を行い、有機相を回収した。当該有機相に硫酸ナトリウム5gを加え、30分間静置した後、これをろ過した。続いて、ろ液を濃縮乾燥し、化合物[1]1.39g(4.23mmol)を得た(収率:87%、性状:薄茶色固体)。
1H-NMR(400MHz) in CDCl
3:1.43ppm(s, 9H), 3.37-3.44ppm(m, 2H), 3.51-3.56ppm(m, 2H), 3.90ppm(s, 3H), 4.99-5.11ppm(m, 1H), 7.32ppm(d, J= 3.5 Hz, 1H), 0.98-1.12ppm(m, 1H), 8.03ppm(d, J = 3.5 Hz, 1H)
【0138】
<化合物[2]の合成>
マグネチックスターラーを備えた50ml四口フラスコに、化合物[1]1.36g(4.14mmol)、ヒドラジン一水和物2.073g(41.42mmol)、2−プロパノール23.20gを仕込み、内温80℃にて6時間攪拌した。その後、減圧下、反応液を濃縮乾燥し、化合物[2]1.29g(3.93mmol)を得た(収率:95%、性状:黄色結晶)。
1H-NMR(400MHz) in d6-DMSO:1.37ppm(s, 9H), 3.07ppm(q, J = 6.3 Hz, 2H), 3.24ppm(q, J = 6.3 Hz, 2H), 4.26-4.78ppm(br, 2H), 6.93ppm(t, J = 5.5 Hz, 1H), 7.63-7.67ppm(m, 2H), 8.62ppm(t, J = 5.5 Hz, 1H), 9.78-10.06ppm(br, 1H)
【0139】
<化合物[3]の合成>
マグネチックスターラーを備えた50ml四口フラスコに、化合物[2]1.29g(3.93mmol)、KHBT(国際公開第2004/108683号又は米国特許公開第2006/094694号に記載の方法に従って合成した。)1.13g(4.13mmol)、ジメチルスルホキシド11.90gを仕込み、内温110℃にて5時間攪拌した。その後、反応液に純水50gを加え、析出した結晶を減圧吸引濾過した。更に、この結晶をジイソプロピルエーテル6gで洗浄した後、減圧乾燥し、化合物[3]1.63g(2.79mmol)を得た(収率:71%、性状:黄色結晶)。
1H-NMR(400MHz) in d6-DMSO:1.30ppm(s, 9H), 1.38ppm(s, 9H), 2.48ppm(s, 3H), 3.08-3.14ppm(m, 2H), 3.22-3.33ppm(m, 2H), 6.94ppm(t, J = 5.5 Hz, 1H), 7.42ppm(d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.69ppm(d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.77ppm(d, J = 3.7 Hz, 1H), 7.98ppm(s, 1H), 8.00ppm(d, J = 3.7 Hz, 1H), 8.72ppm(t, J = 5.7 Hz, 1H), 11.24-11.55ppm(br, 1H), 11.98-12.22ppm(br, 1H)
【0140】
<化合物[4]の合成>
マグネチックスターラーを備えた50ml四口フラスコに、化合物[3]1.38g(2.35mmol)、98%ギ酸14.00gを仕込み、内温40℃にて1時間攪拌した。その後、減圧下、反応液からギ酸を留去し、ジイソプロピルエーテル7g、テトラヒドロフラン1.4gを加え、析出した結晶を減圧吸引濾過した。続いて、この結晶を減圧乾燥し、化合物[4]1.07g(2.21mol)を得た(収率:94%、性状:黄色結晶)。
1H-NMR(400MHz) in d6-DMSO:1.30ppm(s, 9H), 2.47ppm(s, 3H), 2.96ppm(t, J = 6.0 Hz, 2H), 3.48ppm(q, J = 5.7 Hz, 2H), 7.41ppm(d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.70ppm(d, J = 8.6 Hz, 2H), 7.82ppm(d, J = 4.0 Hz, 1H), 7.93ppm(s, 1H), 7.96ppm(d, J = 4.0 Hz, 1H), 8.32ppm(s, 1H), 9.22ppm(t, J= 5.1 Hz, 1H), 12.05-12.95(br, 1H)
【0141】
<繊維前駆体製造用組成物(溶液)の調製>
(繊維前駆体製造用組成物1)
高分子化合物1;1.70g、1,3,4,6−テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリル0.34g、ピリジニウム−p−トルエンスルホナート0.017g、ジメチルアセトアミド1.57g、及びアセトン4.50gを混合した後、ミックスローターVMR−5(アズワン株式会社製)にて溶解するまで100rpmで攪拌し、繊維前駆体製造用組成物1を得た。当該繊維前駆体製造用組成物1における高分子化合物1の含有割合は、約21重量%である。
【0142】
[電界紡糸法による繊維前駆体の製造]
電界紡糸法による繊維前駆体の製造は、エスプレイヤーES−2000(株式会社フューエンス製)を用いて実施した。繊維前駆体製造用組成物1は、1mlのロック式ガラス注射筒(アズワン株式会社製)に注入し、針長13mmのロック式金属製ニードル24G(武蔵エンジニアリング株式会社製)を取り付けた。ニードル先端から繊維を受け取る基板までの距離(吐出距離)は20cmとした。印加電圧は25kVとし、吐出速度は10μl/minとした。
【0143】
[繊維前駆体の形状の確認方法]
繊維前駆体の形状の確認は、イオンスパッター(E−1030、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)にてPt−Pdを繊維前駆体に1分間蒸着した後、走査型電子顕微鏡(SEM)(S−4800、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して、拡大倍率10,000倍で観察することにより行った。
【0144】
[繊維前駆体の繊維径の測定方法]
繊維前駆体の繊維径(繊維前駆体の太さ)の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)(S−4800、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用して、拡大倍率10,000倍の画像を撮影及び保存した後、付属の測長ツールにより行った。
【0145】
[ポリスチレン(PSt)基板の表面処理A]
アクリサンデー株式会社製「プラバン」(商品名;厚さ0.2mm)から自作したΦ30mmポリスチレン(PSt)基板の片面をイオンスパッター(E−1030、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)にて30秒間Pt−Pd蒸着した。
【0146】
[ポリスチレン(PSt)基板の表面処理B]
アクリサンデー株式会社製「プラバン」(商品名;厚さ0.2mm)から自作したΦ30mmポリスチレン(PSt)基板の片面をUVオゾンクリーナーUV253E(フィルジェン株式会社製)にて10分間処理した。
【0147】
[実施例1]
繊維前駆体製造用組成物1を電界紡糸法により紡糸し、上記表面処理Aを行ったΦ30mmPSt基板上に20分間吹付けた後、80℃で48時間加熱処理を行った。得られた繊維前駆体(繊維前駆体1)をエタノールで洗浄して風乾した後、当該繊維前駆体1の形状を走査型電子顕微鏡(SEM)で確認した。繊維前駆体1の繊維径は約700nmであった。この繊維前駆体1に後述する方法にてリガンド化合物[4]の固定化を行い、リガンド化合物[4]が固定化された繊維前駆体1(リガンド結合繊維1)を得た。
【0148】
[実施例2]
上記表面処理Aを行ったΦ30mmPSt基板に代えて上記表面処理Bを行ったΦ30mmPSt基板を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、繊維前駆体2を得た。繊維前駆体2の繊維径は約700nmであった。この繊維前駆体2に後述する方法にてリガンド化合物[4]の固定化を行い、リガンド化合物[4]が固定化された繊維前駆体2(リガンド結合繊維2)を得た。
【0149】
[実施例3]
上記表面処理Aを行ったΦ30mmPSt基板に代えて未処理のΦ30mmPSt基板を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて繊維前駆体3を得た。繊維前駆体3の繊維径は約570nmであった。この繊維前駆体3に後述する方法にてリガンド化合物[4]の固定化を行い、リガンド化合物[4]が固定化された繊維前駆体3(リガンド結合繊維3)を得た。
【0150】
[比較例1]
実施例1で得られた繊維前駆体1を、リガンド化合物[4]の固定化を行わずに、比較例1の繊維として使用した。
【0151】
なお実施例1〜3のリガンド結合繊維1〜3及び比較例1の繊維は、繊維前駆体が形成された基板とともに使用した。
【0152】
[比較例2]
上記表面処理Aを行ったΦ30mmPSt基板を、比較例2の基板として使用した。
【0153】
実施例1〜3のリガンド結合繊維1〜3及び比較例1の繊維の各繊維前駆体重量を表1に示す。リガンド結合繊維1〜3の繊維前駆体重量及び比較例1の繊維の繊維前駆体重量は、繊維前駆体及び該繊維前駆体を担持するPSt基板の全体重量を測定し、該重量からPSt基板の重量を差し引いて算出した。
【0154】
【表1】
【0155】
[リガンド化合物[4]の固定化]
6穴平底マイクロプレート(アズワン株式会社製)に実施例1〜3の繊維前駆体1〜3を配置した。各繊維前駆体を配置したウェルに対して、リガンド化合物[4](0.9mg)のジメチルスルホキシド(2.0mL)溶液を添加し、室温にて6時間静置した。その後、溶液を除き、各繊維前駆体をジメチルスルホキシド及びエタノールで洗浄し、風乾した。
【0156】
<試験例1:細胞培養評価>
実施例1のリガンド結合繊維1及び比較例1の繊維について、細胞培養評価を行った。当該評価における対照には、PSt基板を配置した系(陽性対照:培地中にトロンボポエチン(TPO)10ng/mLを添加、陰性対照:培地のみ)を用いた。なお、以下において、CO
2インキュベーターにおけるCO
2の濃度(%)は、雰囲気中のCO
2の体積%で示した。
【0157】
[細胞の調製]
細胞は、TPO依存性ヒト巨核芽球性白血病細胞株(UT−7/TPO;Komatsuら,Blood,1996,87,pp.4552−4560)を用いた。細胞の培養には、10%(v/v)FBS及び10ng/mLのTPO(Thrombopoietin,Peprotech株式会社製)を含むIMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)培地(Sigma−Aldrich株式会社製)を用いた。細胞は、37℃CO
2インキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度を保った状態で、2日間以上培養した。得られた培養液を遠心分離(株式会社トミー精工製、LC−200、1500rpm/3分、室温)した後、上清を除き、TPОを除いた上記のIMDM培地を添加して細胞懸濁液を調製した。なお、ここで「FBS」とは、牛胎児血清(Biological Industries社製)を意味する。
【0158】
[基材の滅菌]
6穴平底マイクロプレート(アズワン株式会社製)に、実施例1のリガンド結合繊維、比較例1の繊維、及びPSt基板(陽性対照用及び陰性対照用)を配置し、それぞれ70%エタノール2mLを添加し、室温で5分間浸漬した後、10分間風乾した。
【0159】
[細胞培養1回目]
6穴平底マイクロプレートに、滅菌した実施例1〜3のリガンド結合繊維1〜3、比較例1の繊維、比較例2の基板、並びに、陽性対照用及び陰性対照用のPSt基板を配置し、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)培地(Sigma−Aldrich株式会社製)2mLで2回洗浄した。その後、8.0×10
4cells/4mL/wellに調製したUT−7/TPOの細胞懸濁液を加えた。PSt基板を配置したウェルのうち、陽性対照用のPSt基板を配置したウェルにTPOを添加し、終濃度10ng/mLとした。その後、5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃で6日間CO
2インキュベーター内にて静置した。
【0160】
[WST−8を用いた細胞数計測]
6日間の細胞培養の後、実施例1〜3のリガンド結合繊維1〜3、比較例1の繊維、比較例2の基板、並びに、陽性対照用及び陰性対照用のPSt基板を配置した各ウェルから細胞培養液を回収した。それぞれの細胞培養液のピペッティングを行った後、その100μLを96穴プレート(コーニング株式会社製)に移し、さらに10μLのWST−8試薬(キシダ化学株式会社製)を添加した。37℃で120分CO
2インキュベーター内にて静置した後、吸光度計(モレキュラーデバイス社製、SpectraMax)にて450nmの吸光度を測定した。
【0161】
[細胞培養2回目及び3回目]
1回目の細胞培養の後、実施例1〜3のリガンド結合繊維1〜3、並びに、陽性対照用及び陰性対照用のPSt基板をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)4mLで2回洗浄した。その後、8.0×10
4cells/4mL/wellに調製したUT−7/TPOの細胞懸濁液を加えた。陽性対照用のPSt基板を配置したウェルにはTPOを添加し、終濃度10ng/mLとした。その後、5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃で6日間CO
2インキュベーター内にて静置した。
6日間の培養の後、上記と同様にWST−8を用いて細胞数の計測を行った。
2回目の細胞培養及び細胞数計測の後、これと同様にして3回目の細胞培養(6日間)及び細胞数計測を行った。
【0162】
結果を表2及び表3に示す。尚、各サンプルの細胞数は、陽性対照の細胞数を100%とする百分率に換算して比較した。
【0163】
【表2】
【0164】
【表3】
【0165】
表3に示される結果から明らかなように、実施例1及び実施例2のリガンド結合繊維では、陽性対照と同等以上の細胞数が得られた。これは、含有する繊維前駆体の量が実施例3のリガンド結合繊維よりも多いため、多くのリガンドを固定化することができ、その結果、細胞増殖に必要なシグナル伝達が活発に行われたためと考えられる。
また、実施例1及び実施例2のリガンド結合繊維は、リガンドが繊維前駆体に固定化されているため、繰り返し細胞培養しても、毎回同等の細胞数が得られた。一方、陽性対照では、毎回の細胞培養の際、TPOを添加する必要があった。
さらに、リガンド結合繊維の繊維径が100nm以上であり、且つ、基板における繊維前駆体の目付量が10μg/cm
2以上、より好ましくは13μg/cm
2以上、最も好ましくは15μg/cm
2以上であれば、陽性対照と同等以上の細胞数が得られた。