特許第6659281号(P6659281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6659281
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】集束イオンビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20200220BHJP
   H01J 27/26 20060101ALI20200220BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   H01J37/317 D
   H01J27/26
   H01J37/08
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-176553(P2015-176553)
(22)【出願日】2015年9月8日
(65)【公開番号】特開2017-54632(P2017-54632A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】杉山 安彦
(72)【発明者】
【氏名】大庭 弘
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−517233(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0187433(US,A1)
【文献】 特開2002−251976(JP,A)
【文献】 特開2006−004671(JP,A)
【文献】 特表2013−506959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01J 27/26
H01J 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを放出するイオン源と、
前記イオン源のエミッタの先端からイオンを引き出す引出電極と、
前記引出電極との電位差によって、前記引出電極によって引き出されたイオンを集束させるコンデンサレンズを構成する第1レンズ電極と、を備え、
前記引出電極と前記第1レンズ電極との間にレンズ作用を発生させて、前記イオン源から放出させたイオンの全てを集束させることにより、第一電極を含むコンデンサレンズを通過させ、
前記エミッタに印加する加速電圧を変化させた場合も、前記エミッタと前記引出電極との電位差を所定の値に保ち、かつ前記エミッタと、前記第1レンズ電極との電位差が一定の電圧差になるように制御する、集束イオンビーム装置。
【請求項2】
前記引出電極は、第1引出電極と、第2引出電極と、を備え、
前記第1引出電極の孔の大きさは、前記第2引出電極の孔の大きさより小さい、請求項1に記載の集束イオンビーム装置
【請求項3】
前記引出電極は、第1引出電極と、第2引出電極と、を備え、
前記第1引出電極と、前記第2引出電極との間に、さらに制御電極、を備え、
前記第1引出電極の孔の大きさは、前記制御電極の孔の大きさより小さい、請求項1に記載の集束イオンビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体金属イオン源を搭載した集束イオンビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオンビームを試料の所定領域を走査させながら照射することにより、試料表面の所定領域を加工する、または集束イオンビーム照射により発生する二次粒子を検出することにより試料表面を観察する集束イオンビーム装置がある。
【0003】
集束イオンビーム装置の液体金属イオン源は、先端部が針状に形成され液体金属で表面が濡れたエミッタを備えている。加熱電源を用いて、エミッタを保持する部材(フィラメントなど)に適宜通電することによって、エミッタ先端部に液体金属供給源から液体金属が供給されその表面が液体金属で常時濡れている。エミッタの先端部と、電圧が印加される引出電極とにできる強電界によってイオンが放出される。放出されたイオンには、レンズ電極と接地電極とで構成されるコンデンサレンズによって、所定のエネルギーを与え、ビーム状に形成する。さらに、集束イオンビーム装置では、光学系の諸条件を調整して、集束イオンビームのビーム径とイオン電流値を変化させて所望の値を得る。
液体金属イオン源のイオン種は、Ga(ガリウム)が実用化されている。Gaイオンを安定に放出させるためには、放出イオン電流を1μAから5μAの範囲で動作させる必要がある。イオンは、エミッタの先端部から放射状に放出する。その際の放射半角は、10°から20°の範囲である。また、液体金属イオン源の後段のコンデンサレンズを収差の小さい状態で使用するためには、イオン源とコンデンサレンズの距離を可能な限り短くした方がよい。しかし、液体金属イオン源から放出したイオンの外周成分は、コンデンサレンズの孔を通過せず、電極面にあたってしまい、不具合を引き起こす。特許文献1にその対策が開示されている。
【0004】
特許文献1には、引出電極と、コンデンサレンズのレンズ電極との距離を6ミリメートル以下にすることで、コンデンサレンズの収差を小さくして、より小さなビーム径を実現できることが開示されている。また、特許文献1に記載の技術では、放出したイオンが引出電極とコンデンサレンズの各電極に照射され、この照射によって引出電極とコンデンサレンズの各電極から二次電子とスパッタ粒子が発生してイオン源の動作を不安定にする。特許文献1に記載の技術では、レンズ電極の電圧を5kV以下にすることで、レンズ電極に照射されるイオンのエネルギーも当然低くなる。従って、特許文献1に記載の技術では、エネルギーの低いイオンビームがレンズ電極に照射されても、スパッタリングイールドが小さくなるので、レンズ電極でのスパッタ粒子の数を減らすことができる。これにより、特許文献1には、集束イオンビーム装置の安定性を向上できることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、放出したイオンがコンデンサレンズの各電極に照射されず、従ってコンデンサレンズの各電極からの二次電子とスパッタ粒子の発生をなくしてイオン源の動作を安定にする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4299074号公報
【特許文献2】特開2002−251976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、引出電極とレンズ電極との距離を6ミリメートル以下にエミッタとレンズ電極の距離を近づけるため、スパッタ物のエミッタへの堆積は増加の方向であり、集束イオンビーム装置の性能が向上しても、イオン源の安定時間は短縮する傾向にあった。
また、特許文献2に記載の技術では、放出したイオンがコンデンサレンズの各電極に照射されないようにレンズ孔を十分に大きく(10mm程度)する必要があり、その結果強いレンズ作用を得ることが困難となり、ビーム軌道の制御性に限界があり平行ビームをつくれないという課題があった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、従来技術よりコンデンサレンズの収差を小さくしてより小さなビーム径を実現でき、かつ集束イオンビームの安定性を向上させることができる集束イオンビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る集束イオンビーム装置は、イオンビームを放出するイオン源と、前記イオン源のエミッタの先端からイオンを引き出す引出電極と、前記引出電極との電位差によって、前記引出電極によって引き出されたイオンを集束させるコンデンサレンズを構成する第1レンズ電極と、を備え、前記引出電極と前記第1レンズ電極との間にレンズ作用を発生させて、前記イオン源から放出させたイオンの全てを集束させることにより、第一電極を含むコンデンサレンズを通過させ、前記エミッタに印加する加速電圧を変化させた場合も、前記エミッタと前記引出電極との電位差を所定の値に保ち、かつ前記エミッタと、前記第1レンズ電極との電位差が一定の電圧差になるように制御する
この構成によって、本実施形態によれば、イオン源からエミッション(放出)された全イオンを、引出電極と第1レンズ電極との間に強いレンズ作用を発生させて集束させることによって、レンズ電極(第1レンズ電極〜第3レンズ電極)に当たらないようにすることができる。
【0010】
(2)また、本発明の一態様に係る集束イオンビーム装置において、前記引出電極は、第1引出電極と、第2引出電極と、を備え、前記第1引出電極の孔の大きさは、前記第2引出電極の孔の大きさより小さいようにしてもよい。
【0011】
(3)また、本発明の一態様に係る集束イオンビーム装置において、前記引出電極は、第1引出電極と、第2引出電極と、を備え、前記第1引出電極と、前記第2引出電極との間に、さらに制御電極、を備え、前記第1引出電極の孔の大きさは、前記制御電極の孔の大きさより小さいようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来技術よりコンデンサレンズの収差を小さくしてより小さなビーム径を実現でき、かつイオン源から放出された全イオンを、引出電極、コンデンサレンズを構成する各電極に当たらないようにすること、すなわちレンズ孔を通過させることができる。これにより、本発明によれば、引出電極、コンデンサレンズを構成する各電極のスパッタおよび二次電子の発生をなくすことができるため、イオン源の安定動作時間を長くすることができる。この結果、本発明によれば、従来技術より集束イオンビーム装置の性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来技術のイオン源、コンデンサレンズとイオンビームの軌道、本発明のイオン源、コンデンサレンズとイオンビームの軌道を示す図である。
図2】実施形態に係る集束イオンビーム装置の構成例を示す図である。
図3】第1実施形態に係るコンデンサレンズの構成例、エミッタを基準とした各電極の電位の例を示す図である。
図4】第1実施形態に係る各電極に印加される電圧を示す図である。
図5】本実施形態と従来技術における集束イオンビームの性能を示すビーム電流とビーム径の関係を説明する図である。
図6】第2実施形態に係る引出電極の構成例、エミッタを基準とした各電極の電位の例を示す図である。
図7】実施形態に係る比率Vcon/Vextを一定に保ったまま第1引出電極と第2引出電極の電位を変化させた場合のイオンビーム軌道の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
まず、本発明の概要を説明する。
図1は、従来技術のイオン源、コンデンサレンズとイオンビームの軌道、本発明のイオン源、コンデンサレンズとイオンビームの軌道を示す図である。なお、コンデンサレンズとは、イオン源から放出されたイオンを集束、加速、減速等の制御を行うレンズである。
【0020】
図1における画像g900は、従来技術のイオン源、コンデンサレンズとイオンビームの軌道を示す図である。画像g900は、集束イオンビーム装置のうちイオン光学系の一部を図示した物である。従来技術のイオン源は、イオン源911、引出電極912を有している。また、従来技術のコンデンサレンズは、固定絞り913、第1のレンズ電極914、第2のレンズ電極915を有している。
引出電極912は、イオン源911からイオンを引き出す。固定絞り913は、イオンビームの開口を制限する。第1のレンズ電極914と第2のレンズ電極915は、イオンビームを加速、集束させる。画像g900の符号g921で囲んだ領域に示すように、固定絞り913にイオンが照射されると、スパッタ粒子と二次電子が発生する。そして、発生した二次電子は、イオン源911のエミッタに吸い寄せられ、またスパッタ粒子の一部はエミッタ表面に堆積する。この現象によって、イオン源の安定動作が損なわれる。
【0021】
このため、本発明では、画像g100に示すように、引出電極141、第1レンズ電極142、第2レンズ電極143、第3レンズ電極144を用いて、イオン源14aから放出されたイオンの軌道を集束させて、放出されたイオン全てを、コンデンサレンズを構成する各電極の孔を通過させる。
これにより、本発明では、イオン光学系のコンデンサレンズの短焦点化により、収差を低減し集束イオンビーム(FIB)の性能を向上させるとともに、レンズ電極のスパッタおよび二次電子の発生を無くすことができるため、イオン源の安定動作時間を長くすることができる。
また、本発明によれば、従来技術の構成にあった固定絞り913が不要となる。
【0022】
<集束イオンビーム装置の構成>
次に、集束イオンビーム装置1の構成について説明する。
図2は、実施形態に係る集束イオンビーム装置1の構成例を示す図である。図2において、集束イオンビーム装置1の左右方向をx軸方向、奥行き方向をy軸方向、高さ方向をz軸方向とする。
【0023】
図2に示すように、集束イオンビーム装置1は、内部を真空状態に維持可能な試料室11、試料室11の内部において試料Sを固定可能なステージ12、ステージ12を駆動する駆動機構13、を備えている。また、集束イオンビーム装置1は、集束イオンビーム鏡筒14、検出器15、表示装置16、ガス供給部17、制御部18を含んで構成される。
【0024】
駆動機構13は、ステージ12に接続された状態で試料室11の内部に収容されており、制御部18から出力される制御信号に応じてステージ12を所定軸に対して変位させる。駆動機構13は、水平面に平行かつ互いに直交するx軸およびy軸と、x軸およびy軸に直交するz軸とに沿って平行にステージ12を移動させる移動機構13aを備えている。
また、駆動機構13は、ステージ12をx軸またはy軸周りに回転させるチルト機構13b、およびステージ12をz軸周りに回転させる回転機構13cを備えている。
【0025】
集束イオンビーム鏡筒14は、ステージ12に固定された試料Sに集束イオンビームを照射する。集束イオンビーム鏡筒14は、試料室11の内部においてビーム出射部14Aをステージ12の鉛直方向上方の位置でステージ12に臨ませ、かつ光軸を鉛直方向に平行にして、試料室11に固定されている。これによって、ステージ12に固定された試料Sに鉛直方向に向かい集束イオンビームを照射可能である。
また、集束イオンビーム鏡筒14は、イオン源14a、イオン光学系14bを備える。イオン光学系14bは、コンデンサレンズ14c、ビームブランキング電極14d、絞り14e、アライメント14f、対物レンズ14g、および走査電極14hを備えている。
【0026】
イオン源14aは、例えば、液体ガリウムなどを用いた液体金属イオン源である。イオン源14aおよびイオン光学系14bは、集束イオンビームの照射位置および照射条件などが制御部18によって制御される。
【0027】
コンデンサレンズ14cは、イオン源から放射状に放出したイオンを集束してビーム状にするもので、後述するように、第1レンズ電極142、第2レンズ電極143、第3レンズ電極144等を備えている。印加電圧を制御することによってレンズ作用の大きさを調節することが可能である。
【0028】
ビームブランキング電極14dは、コンデンサレンズ14cによって集束されたイオンビームの試料S上へ照射の制御を、制御部18の制御に応じて行う。ビームブランキング電極14dは、偏向器として作用する。イオンビームを試料S上へ照射する場合は、ビームブランキング電極14dを動作させない。イオンビームの試料S上への照射を停止する場合は、ビームブランキング電極14dを動作させてイオンビームを光軸から偏向させる。これにより、イオンビームは絞り14eの穴を通過せず、穴周辺に照射されて試料S上へは到達しない。
絞り14eは、イオンビームの電流を、制御部18の制御に応じて制限するもので、径の異なる複数の絞りで構成し所望のビーム電流に応じて絞り径を選択できる構成にしてもよい。
【0029】
アライメント14fは、絞り14eを通過したイオンビームの軌道補正を、制御部18の制御に応じて行い、イオンビームが対物レンズ14gの中心部を通過するように調整する。
対物レンズ14gは、アライメント14fを通過した集束イオンビームを試料S上の所定の位置に制御部18の制御に応じて合焦させる。
走査電極14hは、対物レンズ14gを通過したイオンビームを制御部18の制御に応じて試料S上で走査させる。走査電極14hは対物レンズ14gの上部に配置してもよい。
なお、図示しないがイオンビームの断面形状を円形に調整するための非点補正器をコンデンサレンズ14cと対物レンズ14gの間に備えてもよい。
【0030】
検出器15は、試料Sに集束イオンビームが照射されたときに試料Sから放射される二次荷電粒子(例えば、二次電子および二次イオンなど)Rの強度(二次荷電粒子の量)を検出し、検出した二次荷電粒子Rの強度の情報を出力する。検出器15は、試料室11の内部において二次荷電粒子Rの強度を検出可能な位置、例えば試料Sの斜め上方の位置などに配置され、試料室11に固定されている。
【0031】
表示装置16は、検出器15によって検出された二次荷電粒子Rに基づく画像データなどを表示する。
【0032】
ガス供給部17は、試料室11の内部においてガス噴射部17aをステージ12に臨ませて、試料室11に固定されている。ガス供給部17は、集束イオンビームによる試料Sのエッチングを試料Sの材質に応じて選択的に促進するためのエッチング用ガスGと、試料Sの表面に金属または絶縁体などの堆積物によるデポジション膜を形成するためのデポジション用ガスGと、などを試料Sに供給可能である。例えば、Si系の試料Sに対するフッ化キセノンと、有機系の試料Sに対する水と、などのエッチング用ガスGを、集束イオンビームの照射と共に試料Sに供給することによって、エッチングを選択的に促進させる。また、例えば、フェナントレン、プラチナ、カーボン、またはタングステンなどを含有した化合物ガスのデポジション用ガスGを、集束イオンビームの照射と共に試料Sに供給することによって、デポジション用ガスGから分解された固体成分を試料Sの表面に堆積させる。
【0033】
制御部18は、試料室11の外部に配置され、操作者の入力操作に応じた信号を出力する入力部18aを備えている。
制御部18は、入力部18aから出力される信号、または、予め設定された自動運転制御処理によって生成された信号などによって、集束イオンビーム装置1の動作を統合的に制御する。
また、制御部18は、イオン源14aのエミッタ(以下、エミッタ14aともいう)に印加される電位が変更された場合であっても、エミッタ14aと引出電極141の電位差および/またはエミッタ14aと第1レンズ電極142との電位差が一定になるように制御する。
図2に示す例では鉛直方向に向かい集束イオンビームを照射する装置を示したが、これに限らず、傾斜方向や水平方向から照射するように構成してもよい。
【0034】
[第1実施形態]
図3は、本実施形態に係るコンデンサレンズ14cの構成例、エミッタ14aを基準とした各電極の電位の例を示す図である。なお、座標系は、図2と同じである。
図3に示すように、本実施形態のコンデンサレンズ14cは、第1レンズ電極142、第2レンズ電極143、第3レンズ電極144を備えている。また、引出電極141は、第1引出電極1411、第2引出電極1412を備えている。
【0035】
まず、各電極のx軸およびy軸方向の孔径について説明する。孔は円形であり、x軸およびy軸方向の孔径は等しい。
第1引出電極1411の孔径φは、例えば、約1[mm]〜3[mm]である。第2引出電極1412の孔径φは、例えば、約2[mm]〜4[mm]である。第1レンズ電極142の孔径φは、例えば、約3[mm]〜5[mm]である。第2レンズ電極143の孔径φは、例えば、約3[mm]〜5[mm]である。第3レンズ電極144の孔径φは、例えば、約8[mm]〜10[mm]である。なお、第1引出電極1411の孔径φは、第2引出電極1412の孔径φより小さい。第2引出電極1412の孔径φは、第1レンズ電極142の孔径φより小さい。第1レンズ電極142の孔径φは、第2レンズ電極143の孔径φと同じである。第2レンズ電極143の孔径φは、第3レンズ電極144の孔径φより小さい。
【0036】
次に、エミッタ14aを基準とした各電極の電位について説明する。
図3は、エミッタ14aへの印加電圧(加速電圧)を30000[V]とした場合の、正イオンに対する電位を示す。第1引出電極1411と第2引出電極1412は同電位であり、電位は例えば6500[V]である。第1レンズ電極142の電位は、例えば50000[V]である。第2レンズ電極143の電位は、例えば20000[V]である。第3レンズ電極144の電位は、30000[V]である。なお、第3レンズ電極144は、接地されている。全ての電極の電位は、集束イオンビーム装置1の操作者によって制御部18(図2)を操作することによって調整される。
【0037】
図3に示すように、本実施形態では、引出電極141と、第1レンズ電極142との電位差が43500[V](=50000−6500)である。これにより、本実施形態では、引出電極141と第1レンズ電極142との間に強いレンズ作用を発生させて集束させることで、イオン源14aから放出させたイオンの全てを、コンデンサレンズ14cを通過するようにしている。
【0038】
また、放電防止のために、第2引出電極1412と第1レンズ電極142との間隔Lは、6[mm]より大きく設定されている。
なお、図3に示した例では、引出電極141が第1引出電極1411と第2引出電極1412とを備える例を説明したが、引出電極141は1つであってもよい。
【0039】
<各電極に印加される電圧と、エミッタを基準とした第1レンズ電極142の電位の例>
次に、各電極に印加される電圧と、エミッタを基準とした第1レンズ電極142の電位の例について説明する。
図4は、本実施形態に係る各電極に印加される電圧を示す図である。なお、イオン源14aのエミッタに印加される加速電圧は、例えば集束イオンビーム装置1の操作者によって選択される。
【0040】
図4に示すように、エミッタに印加される加速電圧が30000[V]の場合、制御部18(図2)の制御によって、引出電極141には接地電位を基準として23500[V](=30000−6500)が印加され、第1レンズ電極142には接地電位を基準として−20000[V](=30000−50000)が印加される。
また、エミッタに印加される加速電圧が20000[V]の場合、制御部18の制御によって、引出電極141には接地電位を基準として13500[V](=20000−6500)が印加され、第1レンズ電極142には接地電位を基準として−30000[V](=20000−50000)が印加される。
【0041】
また、エミッタに印加される加速電圧が1000[V]の場合、制御部18の制御によって、引出電極141には接地電位を基準として−5500[V](=1000−6500)が印加され、第1レンズ電極142には接地電位を基準として−49000[V](=1000−50000)が印加される。
【0042】
図4に示した例では、エミッタの加速電圧と、第1レンズ電極142との電位差が、一定の値である50000[V]になるように制御部18によって制御される例である。
なお、一定の値の範囲は、例えば30000[V]〜90000[V]である。
【0043】
図4に示したように、エミッタの加速電圧が変更された場合であっても、エミッタの加速電圧と第1レンズ電極142との電位差を、従来技術の電圧差より一定の大きな値に保つことで、引出電極141で引き出したイオンの軌道を集束させて、引き出したイオン全てを、第1レンズ電極142〜第3レンズ電極144の孔を通過させることができる。これにより、エミッタの加速電圧が変更された場合であっても、イオン源14aから放出されたイオンを、コンデンサレンズ14cに当たらないようにすることができる。
【0044】
以上のように、本実施形態の集束イオンビーム装置1は、イオンビームを放出するイオン源14aと、イオン源のエミッタの先端からイオンを引き出す引出電極141と、引出電極との電位差によって、引出電極によって引き出されたイオンを集束させるコンデンサレンズを構成する第1レンズ電極142と、を備え、引出電極と第1レンズ電極との間に強いレンズ作用を発生させて、イオン源から放出させたイオンの全てを集束させることにより、第一電極を含むコンデンサレンズを通過させる。
【0045】
この構成によって、本実施形態によれば、イオン源14aからエミッション(放出)されたイオンを、引出電極と第1レンズ電極との間に強いレンズ作用を発生させて集束させることによって、コンデンサレンズであるレンズ電極(第1レンズ電極142〜第3レンズ電極144)に当たらないようにすることができる。これにより、本実施形態によれば、第1レンズ電極142のスパッタおよび二次電子の発生を無くすことができるため、イオン源14aの安定動作時間を長くすることができる。この結果、本実施形態によれば、従来技術より集束イオンビーム装置の性能を向上することができる。
【0046】
また、本実施形態の集束イオンビーム装置1において、エミッタ(イオン源14a)に印加する加速電圧を変化させた場合も、エミッタと引出電極141との電位差を所定の値に保ち、かつエミッタと、第1レンズ電極142との電位差が一定の電圧差になるように制御する。
この構成によって、エミッタの加速電圧が変更された場合であっても、エミッタの加速電圧と第1レンズ電極142との電位差を一定の大きな値に保たれる。
【0047】
また、本実施形態の集束イオンビーム装置1において、エミッタ(イオン源14a)と第1レンズ電極142との電位差は、30000V以上かつ90000V以下である。
【0048】
この構成によって、本実施形態によれば、コンデンサレンズ14cを単焦点化することができる。この結果、コンデンサレンズ14cの収差を低減することができるので、集束イオンビームの性能を向上させることができる。
ここで、集束イオンビームの性能の例を、図5を用いて説明する。図5は、本実施形態と従来技術における集束イオンビームの性能を示すビーム電流とビーム径の関係を説明する図である。図5において、横軸はビーム電流、縦軸はビーム径である。曲線g301は、従来技術におけるビーム電流とビーム径の関係を表し、曲線g311は、本実施形態におけるビーム電流とビーム径の関係を表している。また、曲線g301は、引出電極とコンデンサレンズのレンズ電極との距離Dが4ミリメートの例である。ビーム電流を大きくとる場合、絞り14eの径を大きくして孔を通過するイオンビームを増加させる必要があるが、同時に収差によるボケが大きくなり、その結果ビーム径が広がってしまう。収差を抑えてより小さなビーム径が実現できれば、性能が向上したと言える。例えば特許文献1に示されている集束イオンビームの性能は、ビーム電流40nAの場合のビーム径は1000nm(1μm)であるのに対して、本発明によればビーム電流40nAの場合のビーム径は500nmと、従来の1/2まで縮小することができる。
【0049】
また、本実施形態によれば、引出電極141と第1レンズ電極142の電位差が従来技術より高い電位差であるため、引出電極141と第1レンズ電極142の間に強いレンズ作用を発生させて、イオン源14aからエミッションされたビーム電流の全てを、コンデンサレンズ14cを通過させることができる。この結果、本実施形態によれば、イオン源14aからエミッションされたイオンが、レンズ電極(第1レンズ電極142〜第3レンズ電極144)に当たらないようにすることができる。これにより、第1レンズ電極142〜第3レンズ電極144のスパッタおよび二次電子の発生を無くすことができるため、イオン源14aの安定動作時間を長くすることができる。この結果、本実施形態によれば、従来技術より集束イオンビーム装置の性能を向上することができる。
【0050】
また、本実施形態の集束イオンビーム装置1において、イオンビームの進行方向に対して第1レンズ電極142の後段に、第2レンズ電極143と、第3レンズ電極144と、をさらに備え、第3レンズ電極は接地され、第2レンズ電極は、第1レンズ電極および第3レンズ電極との電位差に応じて、第1レンズ電極によって集束されたイオンビームの軌道を調整する。
また、本実施形態の集束イオンビーム装置1において、第1レンズ電極142の孔φの大きさは、第2レンズ電極143の孔φの大きさと同じであり、第2レンズ電極の孔φの大きさは、第3レンズ電極144の孔φの大きさより小さい。
【0051】
この構成によって、本実施形態によれば、第1レンズ電極によって集束されたイオンビームの軌道を調整することで、試料に到達する電流量を変化させることができる。
【0052】
[第2実施形態]
本実施形態では、第1引出電極1411と第2引出電極1412との間に、さらに制御電極145を備える例を説明する。
図6は、本実施形態に係る引出電極の構成例、エミッタを基準とした各電極の電位の例を示す図である。座標系は、図2図3と同じである。なお、イオンビームの進行方向の第2引出電極1412の後段には、図3と同様に、第1レンズ電極142、第2レンズ電極143、第3レンズ電極144を備えている。図5に示すように、本実施形態の引出電極14c’は、第1引出電極1411、第2引出電極1412、制御電極145を備えている。また、制御電極145は、第1引出電極1411と第2引出電極1412との間に配置されている。なお、制御電極145は、図5に示すように、第2引出電極1412より第1引出電極1411に近い位置に配置されることが好ましい。これにより、イオン源14aから放出されたイオンを、イオン源14aのエミッタの先端に近い位置で集束させることができる。
【0053】
まず、各電極のx軸およびy軸方向の孔径について説明する。孔は円形であり、x軸およびy軸方向の孔径は等しい。
第1引出電極1411の孔径φ11は、例えば、約1[mm]〜3[mm]である。制御電極145の孔径φ12は、例えば、約2.2[mm]〜4.2[mm]である。第2引出電極1412の孔径φ13は、約3[mm]〜5[mm]である。なお、第1引出電極1411の孔径φ11は、制御電極145の孔径φ12より小さい。制御電極145の孔径φ12は、第2引出電極1412の孔径φ13より小さい。
【0054】
次に、エミッタを基準とした各電極における電位について説明する。図6は、エミッタ14aへの印加電圧(加速電圧)を30000[V]とした場合の、正イオンに対する電位を示す。
第1引出電極1411と第2引出電極1412の電位Vextは同電位であり、例えば6500[V]である。制御電極145の電位Vconは、例えば500[V]である。
本実施形態では、電位Vextと電位Vconとの比率Vcon/Vextを、例えば0.01〜0.5に設定する。図5に示した例の比率Vcon/Vextは、約0.077(=500/6500)である。このように構成した場合は、第2引出電極1412から出射されるイオンビームの径を、1[mm]〜3[mm]程度の平行ビームにすることができる。これにより、本実施形態では、第2引出電極1412の後段に配置されるコンデンサレンズ14cにイオンビームが当たらないように構成することが容易である。
【0055】
ここで、比率Vcon/Vextを一定に保ったまま第1引出電極1411と第2引出電極1412の電位Vextを変化させた場合のイオンビーム軌道の例を説明する。
図7は、本実施形態に係る比率Vcon/Vextを一定に保ったまま第1引出電極1411と第2引出電極1412の電位Vextを変化させた場合のイオンビーム軌道の例を示す図である。
【0056】
図7において、比率Vcon/Vextは0.077である。画像g200は、電位Vextが6500[V]、電位Vconが500[V]のときのイオンビームの軌道を示す画像である。画像g210は、電位Vextが5000[V]、電位Vconが385[V]のときのイオンビームの軌道を示す画像である。画像g220は、電位Vextが8000[V]、電位Vconが615[V]のときのイオンビームの軌道を示す画像である。
【0057】
図6の画像g200〜画像g220に示したように、比率Vcon/Vextを一定の値0.077に保ったまま電位Vextを変化させても、イオンビームの軌道は一定である。これにより、本実施形態によれば、比率Vcon/Vextを一定の値に保てばイオンビームが広がらないので、イオンビーム全てを、第2引出電極1412の後段のコンデンサレンズ14cを通過させることができる。
【0058】
以上のように、本実施形態の集束イオンビーム装置1において、第1引出電極1411の電位と第2引出電極1412の電位とは同電位であり、エミッタ(イオン源14a)と第1引出電極の電位差Vextと、エミッタと制御電極145の電位差Vconとの比率Vcon/Vextが、0.01から0.5の範囲である。
【0059】
この構成によって、本実施形態では、第2引出電極1412が出射するイオンビームを、例えば1[mm]〜3[mm]程度の平行ビームとすることができる。これにより、本実施形態によれば、第2引出電極1412の後段に配置するコンデンサレンズ14cにイオンビームが当たらないように構成することができる。これにより、第1レンズ電極142のスパッタおよび二次電子の発生を無くすことができるため、イオン源14aの安定動作時間を長くすることができる。この結果、本実施形態によれば、従来技術より集束イオンビーム装置の性能を向上することができる。
【0060】
なお、第1実施形態または第2実施形態の集束イオンビーム装置1は、検査装置、加工装置のいずれに適用してもよい。
また、第2実施形態に示す第1引出電極1411と第2引出電極1412との間に制御電極145を備える構成とし、以降は従来技術で与えられるコンデンサレンズを含む光学系としてもよい。
【0061】
また、第1実施形態または第2実施形態によれば、コンデンサレンズ14cの孔径を大きく(例えば10[mm])にすることなく、イオンビームがコンデンサレンズ14cに当たらなくすることができる。
【0062】
なお、上記の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1…集束イオンビーム装置、11…試料室、12…ステージ12、13…駆動機構13、14…集束イオンビーム鏡筒、15…検出器、16…表示装置、17…ガス供給部、18…制御部、14a…イオン源、14b…イオン光学系、14c…コンデンサレンズ、14d…ビームブランキング電極、14e…絞り、14f…アライメント、14g…対物レンズ、14h…走査電極、141…引出電極、1411…第1引出電極、1412…第2引出電極、142…第1レンズ電極、143…第2レンズ電極、144…第3レンズ電極、145…制御電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7