(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6659345
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20200220BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
H01J49/42
G01N27/62 E
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-245783(P2015-245783)
(22)【出願日】2015年12月17日
(65)【公開番号】特開2017-111988(P2017-111988A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉成 清美
(72)【発明者】
【氏名】照井 康
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表平11−510946(JP,A)
【文献】
特表2015−507820(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/023706(WO,A1)
【文献】
特表2008−500684(JP,A)
【文献】
国際公開第1997/007530(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2n本の棒状電極と、
前記棒状電極に直流電圧Uと高周波電圧VRFcosΩtとを印加して、前記棒状電極間に高周波の四重極以上の多重極電界を生成させる制御部とを備えた質量分析装置であって、
前記棒状電極のうち少なくとも一組の対向する棒状電極間の距離が、イオンが入射する入口部とイオンが出射する出口部において異なり、
前記少なくとも1組の対向する棒状電極間の距離が、前記入口部から前記出口部に向けて徐々に減少し、前記出口部から前記棒状電極の全体長さの1/100以上2/3未満の距離では、対向する電極が互いに平行に設置され、
前記出口部付近における、互いに対向する2組の電極間の距離を各々、dx、dyとするとき、前記制御部は、dx、dyの値に応じて、2組の電極間のそれぞれの高周波電圧VRFcosΩtの振幅値VRFx、VRFyが互いに異なるように制御し、
dy/dx=Cとするとき、
前記制御部は、VRFy/VRFx=C2となるように振幅値VRFx、VRFyを制御する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
2n本の棒状電極と、
前記棒状電極に直流電圧Uと高周波電圧VRFcosΩtとを印加して、前記棒状電極間に高周波の四重極以上の多重極電界を生成させる制御部とを備えた質量分析装置であって、
前記棒状電極のうち少なくとも一組の対向する棒状電極間の距離が、イオンが入射する入口部とイオンが出射する出口部において異なり、
前記少なくとも1組の対向する棒状電極間の距離が、前記入口部から前記出口部に向けて徐々に増加し、前記出口部から前記棒状電極の全体長さの1/100以上2/3未満の距離では、対向する電極が互いに平行に設置され、
前記出口部付近における、互いに対向する2組の電極間の距離を各々、dx、dyとするとき、前記制御部は、dx、dyの値に応じて、2組の電極間のそれぞれの高周波電圧VRFcosΩtの振幅値VRFx、VRFyが互いに異なるように制御し、
dy/dx=Cとするとき、
前記制御部は、VRFy/VRFx=C2となるように振幅値VRFx、VRFyを制御する
ことを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析装置であって、
前記棒状電極のうち、少なくとも1組の対向する棒状電極間の距離が、前記入口部から前記出口部に向けて徐々に減少し、別の1組の対向する棒状電極間の距離が、前記入口部から前記出口部に向けて徐々に増加し、それぞれの組の電極が互いに90度回転した位置に配置されていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の質量分析装置において、
前記棒状電極は、前記入口部から前記出口部に向けて傾斜して配置されていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の質量分析装置であって、
前記棒状電極は、前記入口部から前記出口部に向けて階段状に徐々に距離が変化することを特徴とする質量分析装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の質量分析装置であって、
前記出口部付近では、対向する複数の電極組の電極間距離が略同一であることを特徴とする質量分析装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の質量分析装置であって、
前記棒状電極のうち少なくとも1組の対向する棒状電極は電極間の距離が同一、かつ、平行に配置されていることを特徴とする質量分析装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の質量分析装置であって、
前記棒状電極が複数セット、タンデム状に連ねられて成り、
複数セットのうち、ガス衝突によりイオンを解離するための棒状電極において、棒状電極のうち少なくとも一組の対向する棒状電極間の距離が、イオンが入射する入口部とイオンが出射する出口部において異なることを特徴とする質量分析装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の質量分析装置であって、
前記出口部付近及び前記入口部付近の少なくともいずれかにおいて対向する電極が互いに平行に設置されることを特徴とする質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四重極型質量分析計を用いた質量分析システムに係り、特に、生体内試料の分析用途の場合など、高い感度及び高い分解能を必要とする質量分析に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、少なくとも4本の棒状電極から成り、前記棒状電極に直流電圧Uと高周波(RF)電圧V
RFcos(Ωt+Φ
0)とを印加された四重極型電極系を複数台、タンデム方式に連結させた質量分析システムでは、複数台の四重極型電極系のうちの1台はバッファーガスを充填して、ターゲットイオンをバッファーガスとの衝突で解離(Collision Induced Dissociation)する衝突室の役目を持つ。特に、衝突室内の四重極型電極系を通過するイオンは、バッファーガスとの衝突により通過速度が減速するため、衝突室通過が遅延して質量分析結果であるマススペクトルにクロストークなどの悪影響を及ぼす可能性が高い。そのため、減速イオンを加速する目的でイオンの進行方向に向かってDC成分の電位勾配を生成する手段が採用されている。
【0003】
特許文献1では、衝突室におけるイオンの加速手段として、
図5に示すように、棒状電極の径を徐々に変化させたものを交互に反対向きに4本の電極(4−2−a, 4−2−b, 4−2−c, 4−2−d)を配置させて、対向する電極(4−2−a, 4−2−c)に、RF電圧-VcosΩtと微小DC電圧ΔUyを重畳印加しており、もう一方の対向する電極(4−2−b, 4−2−d)に、RF電圧+VcosΩtと微小DC電圧ΔUxを重畳印加している。これにより、電極系の中心軸状にDC成分の電位勾配が生成される。このときの中心軸上での生成されるDC 成分の電位ポテンシャルの数値解析結果を
図6に示す。イオンの進行方向(z方向)に沿って、DC成分の電位ポテンシャルが傾斜していることが分かる。これにより内部を通過するイオンは加速される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US5847386
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6に示すようにDC成分の電位勾配が生成される場合、内部を通過するイオンを進行する方向に加速する効果がある。このとき、内部を通過する、個数100のイオンの軌道及び速度を解析した結果を
図7に示す。z方向の速度の解析結果を見ると、速度が大幅に振動しているのが分かる。
図8に示すように、電極径の同じ4本の電極を平行に並べた通常の電極系の場合、
図9に示すようにz方向の速度はバッファーガスとの衝突で減速はしているものの、
図7のように振動はしていない。
図5に示す体系の場合と
図8に示す体系の場合の電極系出口におけるz方向速度v
zをイオン毎にプロットした結果を
図10に示す。
図5に示す体系の場合のv
zの分散幅が、
図8に示す体系の場合に比べ、約5倍程度広がっている。これは、イオンの通過時間の差、つまり、質量スペクトルの幅に密接に関係するため、分解能低下につながる可能性が高い。
【0006】
分解能低下につながる速度分散の原因を検討した結果を次に示す。
図8の体系でイオンのZ方向速度が振動していないのに対して、
図5の体系では振動する原因は、RF成分の電位ポテンシャルが、DC成分の電位勾配(
図6)と同様に傾斜しているためと考える。
図11にRF成分の中心軸上電位ポテンシャル解析結果を示す。z座標に応じてRF成分の電位ポテンシャルが変化している、つまり、z方向にもRF電界が生成されているため、z方向にイオンが振動し、出口でもイオンの速度が振動・分散すると考える。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の質量分析装置は、2n本の棒状電極と、
前記棒状電極に直流電圧Uと高周波電圧V
RFcosΩtとを印加して、前記棒状電極間に高周波の四重極以上の多重極電界を生成させる制御部とを備えた質量分析装置であって、
棒状電極のうち少なくとも一組の対向する棒状電極間の距離が、イオンが入射する入口部とイオンが出射する出口部において異なり、
前記少なくとも1組の対向する棒状電極間の距離が、入口部から出口部に向けて徐々に減少することを特徴としている。
【0008】
また、本発明の第2の質量分析装置は、2n本の棒状電極と、
前記棒状電極に直流電圧Uと高周波電圧V
RFcosΩtとを印加して、前記棒状電極間に高周波の四重極以上の多重極電界を生成させる制御部とを備えた質量分析装置であって、
棒状電極のうち少なくとも一組の対向する棒状電極間の距離が、イオンが入射する入口部とイオンが出射する出口部において異なり、
前記少なくとも1組の対向する棒状電極間の距離が、入口部から出口部に向けて徐々に増加することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
イオンの進行方向のRF電界生成が抑制される(z方向のイオン振動が抑制される)ため、減速イオンの加速、及び、速度分散幅の低減が両立でき、これにより、高感度・高分解能分析を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第一実施例のタンデム型四重極質量分析装置の各電極配置、構造の概略図である。
【
図2】本発明による質量分析データを計測する質量分析システム全体の概略図である。
【
図3】四重極電場内におけるイオン安定透過領域図である。
【
図4】本発明の第一実施例による、四重極電極系の構造と、電圧印加方法の概略図である。
【
図5】対向する電極間距離をz座標に応じて変更させる、従来の四重極電極系の構造と、従来の電圧印加方法の概略図である。
【
図6】
図4及び
図5の体系における、中心軸上のDC成分の電位ポテンシャルを、シミュレーションにより導出した結果をまとめた図である。
【
図7】従来法による四重極電極内のイオン軌道とz方向速度を解析した結果である。
【
図8】対向する電極間距離をz座標に応じて変更させないタイプの、従来の四重極電極系の構造と、従来の電圧印加方法の概略図である。
【
図9】
図8に示す体系における、四重極電極系内のイオンのz方向速度を解析した結果である。
【
図10】
図5に示す体系(従来)の場合と、
図14に示す体系(第二実施例)における、出口におけるz方向速度を解析した結果である。
【
図11】
図5に示す体系(従来)の場合と、
図14に示す体系(第二実施例)における、中心軸上のRF成分繊維ポテンシャルのz座標依存性を求めた結果である。
【
図12】四重極電極系とその後に続く出口電極との概略図である。
【
図13】四重極系出口付近における中心軸上電位ポテンシャルを逆位相で解析した結果を表した図である。
【
図14】本発明の第一実施例による、四重極電極系の構造と、電圧印加方法の概略図である。
【
図15】
図5に示す体系(従来)の場合と、
図14に示す体系(第二実施例)における、z方向イオン速度を解析した結果を表した図である。
【
図16】本発明の第三実施例による、四重極電極系の構造と、電圧印加方法の概略図である。
【
図17】本発明の第三実施例による、四重極電極系の構造と、電圧印加方法の概略図である。
【
図18】本発明の第三実施例による、四重極電極系の構造と、電圧印加方法の概略図である。
【
図19】本発明の第四実施例による、四重極電極系の構造と、電圧印加方法の概略図である。
【
図20】
図5に示す体系(従来)の場合と、
図14に示す体系(第二実施例)における、Q2出口における中心軸((x,y)=(0,0))上の電位ポテンシャルの時間変化を解析した結果を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
出口付近でz方向にイオンが振動することを抑制するような電位分布を生成する。このために、次の2つの手段が必要と考える。1つ目は、出口付近でRF成分の電位ポテンシャルがz座標に対してほぼ一定(変化が小さい、或いは変化しない)にすることで、z方向のRF電界生成を抑制する。
【0012】
また、中心軸上のRF成分の電位ポテンシャルがゼロで無い場合、
図13に示すように、中心軸上の電位も位相によって正の値、負の値と振動する。このときの出口における中心軸上の電位ポテンシャルの時間変化を解析した結果を
図20(1)に示す。この場合、振幅173V程度でRF電圧周波数と同じ周波数で振動するのが分かる。
図12に示すように、出口電極には、通常DC成分の電圧のみで、RF電圧は印加しないため、多重極電極系と出口電極間に、中心軸に生成されるRF電界と同等のRF電界が生成されてしまう。つまり、多重極電極系と出口電極間にも、z方向にイオンが振動するRF電界が生成されることになる。したがって、2つ目の手段としては、
図20(2)に示すように、多重極電極系の出口付近における中心軸上の電位ポテンシャルのRF成分がゼロになるように電極形状・配置や電圧により調整する。
【0013】
以上のように、内部に傾斜状のDC電位ポテンシャルを生成する多重極電極系において、多重極電極系の出口付近において、RF成分の電位ポテンシャルがz座標に対してほぼ一定にし、さらに、出口付近の中心軸上のRF成分の電位ポテンシャルをゼロに近い値にすることで、イオンの進行方向のRF電界生成が抑制される(z方向のイオン振動が抑制される)ため、減速イオンの加速、及び、速度分散幅の低減が両立できる、高感度・高分解能分析可能な質量分析装置である。
【0014】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
まず、第一の実施例について、
図1〜4,6,11を用いて説明する。
図1は第一実施例の特徴である、3段のQMSから成るタンデム型四重極質量分析装置を示す図であり、
図2は、本実施例の質量分析システムの全体構成図である。まず、質量分析システム11に対して、分析フローを示す。質量分析対象の試料は、ガスクロマトグラフィー(GC)又は液体クロマトグラフィー(LC)などの前処理系1にて、時間的に分離・分画され、次々とイオン化部2にて、イオン化された試料イオンは、イオン輸送部3を通って、質量分析部4に入射され、質量分離される。ここで、mはイオン質量、Zはイオンの帯電価数である。質量分析部4への電圧は、制御部8から制御されながら、電圧源9から印加される。最終的に分離され通過してきたイオンは、イオン検出部5で検出され、データ処理部6でデータ整理・処理され、その分析結果である質量分析データは表示部7にて表示される。この一連の質量分析過程(試料のイオン化、試料イオンビームの質量分析部4への輸送及び入射、質量分離過程、及び、イオン検出、データ処理、ユーザ入力部10の指令処理)の全体を制御部8で制御している。
【0015】
ここで、質量分離部4は、
図1に示すように、4本の棒状電極から成る四重極質量分析計(QMS)がほぼ同軸上に、3段連なって構成されている。ここで、4本以上の棒状電極から構成する多重極質量分析計としてもよい。また、
図1に示すように、棒状電極の長手方向をz方向、断面方向をx,y平面とすると、棒状電極のx,y断面図にて示すように、4本の棒状電極は、円柱電極でも良く、また、点線で示したような双極面形状をした棒状電極でも良い。
【0016】
質量分析部4における、i段目(i=1、2、3)のQMSの4本の電極には、向かい合う電極を1組として、電極4−i−aと4−i−cには、直流電圧と高周波電圧の重畳した電圧:+(U
i+V
icosΩ
it)、電極4−i−bと4−i−dには、その逆位相の電圧:−(U
i+V
icosΩ
it)が印加され、4本の棒状電極間には、次式に示す、高周波電界Ex
i, Ey
iが生成される。
【0018】
ここで、iはQMSの段目数を表し、ここでは、i=1、2、3である。イオン化された試料イオンは、この棒状電極間の中心軸(z方向)に沿って導入され、(8)式の高周波電界の中を通過する。このときのx, y方向のイオン軌道の安定性は棒状電極間でのイオンの運動方程式(Mathieu方程式)から導かれる次の無次元パラメータa
i、q
iによって決まる。
【0020】
ここで、無次元パラメータa
i、q
iは、i 段目のQMSにおける安定性パラメータである。また、 (9)、(10)式中のr
0は対向するロッド電極間の距離の半値、eは素電荷、m/Zはイオンの質量対電荷比、Uはロッド電極に印加する直流電圧、V、Ωは高周波電圧の振幅及び角振動周波数である。r
0、U、V、Ωの値が決まると、各イオン種はその質量対電荷比m/Zに応じて、
図3のa−q平面上の異なる(a
i,q
i)点に対応する。このとき、(9)、(10)の式から、各イオン種の異なる(a
i,q
i)点は、次の(11)式の直線上に全て存在することになる。
【0022】
x, y両方向のイオン軌道に対し、安定解を与えるa
i,q
iの定量的範囲(安定透過領域)を
図3に示す。ある特定の質量対電荷比 m/Zを有するイオン種のみを棒状電極間に通過させ、その他のイオン種をQMSの外に不安定出射させて質量分離するためには、
図3の安定透過領域の頂点付近と交わるようにU,V比を調整する必要がある(
図3)。安定透過するイオンが振動しながら、棒状電極間をz方向に通過するのに対して、不安定化イオンは振動が発散して、x、y方向に出射する。この点を利用して、3段のQMSによるタンデム型四重極質量分析システムでは、1段目のQMS(Q1)では、特定の質量対電荷比 m/Z を持つイオン種のみがQ1を通過するようにさせるため、
図3に示すように、安定透過領域の頂点付近の点に操作点が来るように、電極への印加電圧を調整し、2段目のQMS(Q2)では、中性ガスなどのバッファーガスを充填させた衝突室13が設置されており、その中でQ1を通過した特定イオン種(親イオン)を衝突解離(Collision Induced Dissociation)などにより壊して解離イオン(娘イオン)を生成させ、3段目のQMS(Q3)で各種の娘イオンを質量スペクトル分析する。
【0023】
本実施例では、2段目のQMSの電極体系に対して、
図4に示すように、棒状電極の径を徐々に変化させたものを交互に反対向きに4本の電極(4−2−a, 4−2−b, 4−2−c, 4−2−d)を配置させて、対向する電極(4−2−a, 4−2−c)に、RF電圧-V
RF_Y・cosΩtと微小DC電圧ΔUyを重畳印加しており、もう一方の対向する電極(4−2−b, 4−2−d)に、RF電圧+V
RF_X・cosΩtと微小DC電圧ΔUxを重畳印加している。これにより、電極系の中心軸状にDC成分の電位勾配が生成される。このときの中心軸上での生成されるDC 成分の電位ポテンシャルの数値解析結果を
図6に示す。イオンの進行方向(z方向)に沿って、DC成分の電位ポテンシャルが傾斜していることが分かる。これにより内部を通過するイオンは加速される。DC成分の電位ポテンシャルと同様、RF成分の電位ポテンシャルも傾斜する(
図11)。
【0024】
本実施例では、2段目のQMSの電極体系の出口付近でz方向にイオンが振動することを抑制するような電位分布を生成させるため、2段目のQMSの電極体系の出口付近における中心軸上の電位ポテンシャルのRF成分がゼロになるように電圧を調整する。具体的には、
図4に示すように、対向する電極ペアX(4−2−b, 4−2−d),Y(4−2−a, 4−2−c)間の距離dx,dyの関係から、2段目のQMSの電極体系の入口、出口における、各々の距離dx,dyの関係を次式で表す場合、
【0026】
(2)、(3)式の関係に基づいて、対向する電極ペアX(4−2−b, 4−2−d),Y(4−2−a, 4−2−c)に印加するRF電圧の振幅値 V
RF_X, V
RF_Yを制御内容12にて設定する。
【0028】
尚、このとき、(3)式の変わりに(4)式のように比例関係に基づいて設定しても良い。このとき、2段目のQMSの電極体系の出口付近における中心軸上の電位ポテンシャルのRF成分がゼロになるため、出口付近でイオンの進行方向への振動が抑制され、速度分散幅が低減される。
【0029】
本実施例によれば、Q2の印加電圧を調整するだけで、DC成分の電位ポテンシャル勾配(イオン加速効果)を維持しながら、出口付近でイオンの進行方向への振動が抑制され、速度分散幅が低減され、高分解能分析が期待できると考える。
【0030】
次に、第二の実施例について、
図11,12,14,15,20を用いて説明する。ここでは、
図14に示すように、Q2の棒状電極4−2−a, 4−2−b, 4−2−c, 4−2−dにおいて、その両端、或いは、少なくとも、出口側をz方向に平行にする(対向する電極間距離dx, dyをz座標に対して一定にする)ことを特徴とする。つまり、これにより、出口付近でRF成分の電位ポテンシャルがz座標に対してほぼ一定(変化が小さい、或いは変化しない)にすることで、z方向のRF電界生成を抑制する。この平行にする距離は、例えば、出口部から棒状電極の全体長さの1/100以上2/3未満の距離とすることができる。
【0031】
第二の実施例の効果を
図10,11に示す。
図11には、RF成分の電位ポテンシャルを示す。出口付近でzに対して、RF成分電位ポテンシャルが一定となっている。また、このとき、第一の実施例に示した(2)(3)式によるRF電圧振幅値の調整をしているため、
図20(2)に示すように、出口でRF成分の電位ポテンシャルがゼロとなっている。Kのときの実際の速度分布を解析した結果を
図10に示した。白抜きのプロットに比べ、z方向速度の分散幅が約1/5程度に低減していることを確認できる。
図15(1),(2)には、従来の
図5の電極系、本実施例での電極系での、Q2内部のz方向イオン速度を解析した結果を各々示す。
図15(1)によると、Q2の出口に向けイオンのz方向速度が激しく振動している一方、
図15 (2)では、出口に向けイオンのz方向速度が抑制されている様子を確認できる。
【0032】
以上のように、本実施例に依れば、出口付近でイオンの進行方向への振動が抑制され、速度分散幅が低減される効果がさらに期待できると考える。
【0033】
次に、第三の実施例について、
図16, 17, 18を用いて説明する。ここでは、
図4に示す電極形状以外にも、Q2の棒状電極4−2−a, 4−2−b, 4−2−c, 4−2−dにおいて、対向する電極間の距離をz座標に応じて変化させる手段として、
図16に示すように、円柱電極の径を大きく変えずに円柱電極自身を斜めに配置させるような電極体系でもよい。また、
図17に示すように、全体のQ2の電極長さに対して、複数(2個以上)箇所に分割するような、平行で短めの電柱型電極を複数セット準備して、各電極間距離を徐々にずらしながら、階段状に電極間距離が徐々に変化させるような体系としてもよい。また、
図18に示すように、2組の対向電極のうち、1組については互いに平行に設置され、もう1組に対してはz座標に応じて電極間距離を変化させる。つまり、
図18のXの対向電極に関しては、電極間距離dxは一定であり、Yの対向電極に関しては、電極間距離dyはz座標に応じて変化している。
【0034】
本実施例に拠れば、よりシンプルな電極を用いるため、製造上の精度向上、コストダウン等の効果が期待できると考える。
【0035】
次に、第四の実施例について、
図19を用いて説明する。ここでは、電極系として、
図19に示すように、2組の対向電極ペアX,Yに対して、各々の電極間距離dx, dyがdx≠dyとなるような電極系であっても、Q2の出口では、ほぼdx=dyとなるように配置されたことを特徴とする。本実施例によると、出口付近の体系に応じた、RF電圧振幅の補正が無くても上記実施例と同様の効果が有り、煩雑な電圧補正が不要になる。
【符号の説明】
【0036】
1は前処理系、2はイオン化部、3はイオン輸送部、4は質量分析部、4−1−a,4−1−b,4−1−c,4−1−dは第一段目の四重極電極系における4本の棒状電極、4−2−a,4−2−b,4−2−c,4−2−dは第二段目の四重極電極系における4本の棒状電極、4−3−a,4−3−b,4−3−c,4−3−dは第三段目の四重極電極系における4本の棒状電極、は質量分析部、5はイオン検出部、6はデータ処理部、7は表示部、8は制御部、9は電圧源、10はユーザ入力部、11はタンデム型質量分析システム全体、12は印加電圧制御内容、13は衝突室、14は第二段目の四重極電極系の入口電極、15は第二段目の四重極電極系の出口電極。