特許第6659440号(P6659440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6659440
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】クロテンコナカイガラムシの性誘引物質
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/533 20060101AFI20200220BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20200220BHJP
   A01N 37/06 20060101ALI20200220BHJP
   A01P 19/00 20060101ALI20200220BHJP
   A01M 1/02 20060101ALI20200220BHJP
   A01M 1/00 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   C07C69/533CSP
   C07C67/08
   A01N37/06
   A01P19/00
   A01M1/02 B
   A01M1/00 Q
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-87422(P2016-87422)
(22)【出願日】2016年4月25日
(65)【公開番号】特開2017-197446(P2017-197446A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100180954
【弁理士】
【氏名又は名称】漆山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田端 純
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第08062651(US,B1)
【文献】 特開2004−161654(JP,A)
【文献】 特開2017−197444(JP,A)
【文献】 特開昭58−090529(JP,A)
【文献】 特開2007−284400(JP,A)
【文献】 特開2012−250962(JP,A)
【文献】 Tabata, Jun; Ichiki, Ryoko T.,Sex Pheromone of the Cotton Mealybug, Phenacoccus solenopsis, with an Unusual Cyclobutane Structure,Journal of Chemical Ecology,2016年,42(11),1193-1200
【文献】 Nakahata, Takashi; Itagaki, Noriaki; Arai, Tomonori; Sugie, Hajime; Kuwahara, Shigefumi,Synthesis of the sex pheromone of the citrus mealybug, Pseudococcus cryptus,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2003年,67(12),2627-2631
【文献】 Dunkelblum, Ezra; Ben-Dov, Yair; Goldschmidt, Zeev; Wolk, Joel L.; Somekh, Lila,Synthesis and field bioassay of some analogs of sex pheromone of citrus mealybug, Planococcus citri (Risso),Journal of Chemical Ecology,1987年,13(4),863-871
【文献】 Lee-Ruff, Edward; Turro, Nicholas J.; Amice, P.; Conia, J. M.,Anomalous acid-catalyzed reactions of cyclobutanones,Canadian Journal of Chemistry ,1969年,47(15),2797-2802
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/533
C07C 67/08
A01N 37/06
A01P 19/00
A01M 1/00
A01M 1/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)で示される化合物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の化合物からなるクロテンコナカイガラムシの性誘引物質。
【請求項3】
請求項2に記載の性誘引物質を有効成分として含むクロテンコナカイガラムシの性誘引組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の性誘引組成物、担体、及び捕虫器を備えたクロテンコナカイガラムシの捕虫装置。
【請求項5】
前記担体が徐放性担体である、請求項4に記載の捕虫装置。
【請求項6】
請求項3に記載の性誘引組成物、及び担体を備えたクロテンコナカイガラムシの交信撹乱装置。
【請求項7】
前記担体が徐放性担体である、請求項6に記載の交信撹乱装置。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の捕虫装置、又は請求項6又は7に記載の交信攪乱装置を用いるクロテンコナカイガラムシの防除方法。
【請求項9】
以下の式(II)で示される化合物
【化2】
及び以下の式(III)で示される化合物
【化3】
を混合し、脱水縮合反応させることによって得られる
請求項1の式(I)で示される化合物からなるクロテンコナカイガラムシの性誘引物質を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロテンコナカイガラムシの性誘引物質、その製造方法又はそれを有効成分として含む性誘引組成物、その性誘引組成物を備えた捕虫装置又は交信撹乱装置、及びそれらの装置を用いたクロテンコナカイガラムシの防除法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロテンコナカイガラムシ(Phenacoccus solenopsis)(本明細書では、しばしば「本種」と表記する)は、カメムシ目(Hemiptera)カイガラムシ上科(Coccoidea)コナカイガラムシ科(Pseudococcidae)に属する小型の難防除害虫である。本種の2齢以降の幼虫及びメス成虫は、楕円形で、自ら分泌した白色のロウ質物で背面を被覆している。幼虫及びメス成虫は草食性で、口吻を被子植物組織に差し込み、篩管液等を摂取することから、植物の成長阻害、排泄物によって誘発されるすす病、及び植物病原ウイルスの媒介の原因害虫となり得る。
【0003】
日本において本種は近年になって確認されたことから、外国から持ち込まれた侵入害虫と考えられている。現時点での国内分布は局所的であるが、他国ではマンゴー等の果樹やトマト等の野菜類、又は綿花等の農作物に甚大な被害を及ぼしており(非特許文献1)、農産業分野における経済的損失の原因となっている。そのため、国内分布の拡大阻止、再侵入予防、及び適切な防除対策が急務とされている。この課題を解決するためには、国内における本種の発生又は分布状況の把握や効率的な防除方法の確立が必要である。
【0004】
一般にカイガラムシ上科昆虫の防除には化学農薬が使用される。例えば、アセタミプリド、チアメトキサム、ジノテフラン及びチアメトキサム等を有効成分とするネオニコチノイド系殺虫剤、メダチオン(DMTP)及びイソキサチオン等を有効成分とする有機リン系殺虫剤、ブプロフェジン等を有効成分とするチアジアジン系殺虫剤、ピリフルキナゾン等を有効成分とするキナゾリン系殺虫剤、及びアラニカルブ等を有効成分とするカーバメート系殺虫剤等が挙げられる。しかし、化学農薬を用いた防除法は、薬剤抵抗性個体の出現、リサージェンス(農薬使用による天敵や競合種の除去を原因とする標的害虫の再増加現象)、環境汚染、及び農作物への残留等が大きな問題となっている。また、2齢以降のコナカイガラムシは、ロウ質物からなる殻で被覆されているため、通常の化学農薬が効きにくいという問題もある。
【0005】
近年では、環境に配慮する関心の高まりから環境と調和した持続的な防除技術への移行が求められており、化学農薬の代替防除技術として生物防除が注目されている。生物防除は、自然生態系における捕食被食関係や宿主寄生体関係に基づき、天敵を生物農薬(天敵製剤)に利用して害虫、病原性微生物又は雑草等を防除する方法である。コナカイガラムシ科昆虫においても、例えば、日本土着種のフジコナカイガラムシ(Planococcus kraunhiae)に対しては、土着寄生蜂であるフジコナカイガラクロバチ(Allotropa subclavata)を利用して防除する方法等が開発されている(非特許文献2)。しかし、一般に寄生種は、宿主特異性が極めて高く、同属種であっても捕食又は寄生対象とならないことが多い。また、クロテンコナカイガラムシは侵入種であり、土着種ではないことから、本種を特異的に捕食又は寄生する天敵種が日本国内には分布していない可能性も高い。少なくとも現時点でクロテンコナカイガラムシに対する有効な天敵種は日本国内では知られていない。一方、外国産の天敵種を国内に導入し、放飼することによって標的害虫を駆除する方法もある。ワタフキカイガラムシ(Icerya purchasi)の天敵であるオーストラリア原産種ベダリアテントウ(Rodolia cardinalis)の導入例は、その好例である。しかし、本種の天敵種を利用した生物防除法は確立しておらず、開発及び導入後の在来種への影響調査等には長期期間を要し、その実用化は容易ではない。
【0006】
一方、性誘引物質を利用した防除方法が様々な害虫で実用化されている。性誘引物質とは、成熟生物個体(成体)が分泌する化学物質で、同種の異性成体に対して強力な誘引作用を示す。それ故、人工的に化学合成した性誘引物質を用いて標的害虫の性誘引物質を人為的に操作することにより、標的害虫を効率的に防除することができる。例えば、圃場等の対象エリアに標的害虫の性誘引物質を散布することで、標的害虫のオス個体のメス探索行動を阻害して交尾機会を剥奪することができる。この方法を数世代に亘って繰り返すことで、対象エリアから標的害虫を駆除することが可能となる。このような性誘引物質を有効成分とする製剤は、交信撹乱剤と呼ばれている。カイガラムシ上科昆虫のオス成虫の形態は、メス成虫のそれと全く異なり、翅を有し、性誘引物質に誘引されて自由に移動することができる。一方で、オス成虫の寿命は数日以下であり、ごく限られた期間に交尾する。したがって、交信撹乱剤は、カイガラムシ上科の管理技術としても有用である(非特許文献3)。性誘引物質を利用した防除方法は、化学農薬の防除方法のような直接的な殺虫作用はないものの、他の多くの点で化学農薬よりも優れている。例えば、性誘引物質自体が昆虫由来の天然物質であるため環境汚染問題が生じない、繁殖上不可欠な物質であることから抵抗性個体も出現しない、そして種特異的に効果を示すのでリサージェンスの問題も発生することがない、と言った利点を有する。
【0007】
また、性誘引物質は、防除対象種の分布及び発生状況の調査においても極めて有効である。例えば、性誘引物質の種特異的誘引作用を利用することで、対象種のみを捕えて、その分布及び発生状況をモニタリングすることで防除計画を立案できる。このような作用は、化学農薬や生物防除にはない特徴である。
【0008】
したがって、性誘引物質の化学構造を明らかにし、工業的に合成することができれば、交信撹乱剤の有効成分として、また標的害虫の発生調査手段として活用できる。実際、多くの害虫種で性誘引物質が同定され、その化学構造に基づいて化学合成された性誘引物質がトラップ等の資材として害虫管理に利用されている(特許文献1及び2)。
【0009】
しかし、性誘引物質は、極めて高い種特異性を有するが故に、種ごとにその化学構造が全く異なる。そのため適用対象の汎用性がほとんどなく、標的害虫ごとに単離し、同定しなければならない。また、メス個体から分泌される性誘引物質は極めて微量であり、その単離、回収や化学構造の同定も容易ではない。それ故に、クロテンコナカイガラムシの性誘引物質についても、これまで単離された報告はなく、またその化学構造についても未知のままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4734553号公報
【特許文献2】特許第5857369号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Hodgson C.J., et al., 2008, Zootaxa 1913: 1-35.
【非特許文献2】手柴真弓, 2013, 日本応用動物昆虫学会誌 57: 129-135.
【非特許文献3】TABATA, J., et al., 2015, J. Essent. Oil Res., 27:232-237.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、クロテンコナカイガラムシの分布及び発生調査並びに防除を目的とした性誘引物質、それを製造する方法、並びにその性誘引物質を有効成分とする農業害虫管理資材としての組成物を開発し、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために、クロテンコナカイガラムシの性誘引物質(本明細書では、しばしば「クロテン用性誘引物質」と略称する)の単離を試み、膨大な数の本種未交尾メスから性誘引物質を単離・同定することに成功した。同定された性誘引物質は、新規のエステル化合物であり、その化学構造に基づいて性誘引物質を合成する方法も開発した。本発明は、上記知見や開発結果に基づくものであり、すなわち以下を提供する。
(1)以下の式(I)で示される化合物。
【化1】
(2)前記(1)に記載の化合物からなるクロテン用性誘引物質。
(3)前記(2)に記載の性誘引物質を有効成分として含むクロテンコナカイガラムシの性誘引組成物。
(4)前記(3)に記載の性誘引組成物、担体、及び捕虫器を備えたクロテンコナカイガラムシの捕虫装置。
(5)前記担体が徐放性担体である、前記(4)に記載の捕虫装置。
(6)前記(3)に記載の性誘引組成物、及び担体を備えたクロテンコナカイガラムシの交信撹乱装置。
(7)前記担体が徐放性担体である、前記(6)に記載の交信撹乱装置。
(8)前記(4)又は(5)に記載の捕虫装置、又は前記(6)又は(7)に記載の交信攪乱装置を用いるクロテンコナカイガラムシの防除方法。
(9)以下の式(II)で示される化合物
【化2】
及び以下の式(III)で示される化合物
【化3】
を混合し、脱水縮合反応させることによって得られる
前記(1)の式(I)で示される化合物からなるクロテン用性誘引物質を製造する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のクロテン用性誘引物質によれば、本種オス成虫を種特異的に誘引することができる。また、その誘引作用を利用して、対象エリア内の本種の分布状況及び/又は発生状況をモニタリングしたり、本種オス成虫を特異的に誘殺することができる。
【0015】
本発明の性誘引組成物を備えた捕虫装置によれば、本種オス成虫を捕獲して、本種の分布や発生の調査、又は捕殺することができる。
【0016】
本発明の性誘引組成物を備えた交信撹乱装置によれば、本種の交尾行動を撹乱することができる。
【0017】
本発明のクロテン用性誘引物質製造方法によれば、本種の性誘引物質を化学合成法により製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.クロテンコナカイガラムシの性誘引物質とその製造方法
1−1.概要
本発明の第1の態様は、クロテンコナカイガラムシの性誘引物質(クロテン用性誘引物質)とその製造方法である。本発明の性誘引物質は、新規エステル化合物からなり、本種オス成虫に対して種特異的誘引作用を示す。また、本発明の製造方法は、本種特異的な性誘引物質を化学合成により製造することができる。
【0019】
1−2.定義
本明細書で頻用する用語について、以下で定義する。
「クロテンコナカイガラムシ(Phenacoccus solenopsis)」は、カメムシ目(Hemiptera)カイガラムシ上科(Coccoidea)コナカイガラムシ科(Pseudococcidae)に属する昆虫である。熱帯〜温帯を中心とした世界各地に分布し、様々な被子植物を宿主植物とするが、農作物では、特にワタ及びオクラ等のアオイ科(Malvaceae)植物、ヒマワリ等のキク科(Asteraceae)植物、ナスやトマト等のナス科(Soanaceae)植物に対して甚大な被害を及ぼす難防除農業害虫として知られている。農業害虫として重要なのは、植物の篩管液等を摂取する幼虫及びメス成虫である。オス成虫は、メス成虫と異なり一対の翅や触角を有し、長距離移動が可能であるが、口吻がなく短命であるため、直接的な農業害虫とはならない。ただし、本明細書における標的害虫は、本種のオス成虫個体である。
【0020】
本明細書において「性誘引物質」とは、性フェロモンとも呼ばれる生物の繁殖行動に関与する化学物質である。一般的に成体が分泌し、種特異性が非常に高く、同種の異性成体に対してのみ強力な誘引作用を示す。通常、メス成体が同種のオス成体を誘引する目的で分泌するが、その逆のケースも知られている。本発明の標的害虫であるクロテンコナカイガラムシは、メス成虫が本種のオス成虫を誘引するために性誘引物質を分泌する。本発明のクロテン用性誘引物質は、後述する式(I)で示される構造と同一の構造を有する限り、由来は問わない。例えば、本種由来であってもよいし、式(I)の化学式に基づいて化学合成された化合物であってもよい。
【0021】
本明細書において「農薬」とは、標的害虫に対して成長阻害、変態阻害、殺虫作用、誘引作用等の生理的影響及び/又は行動的影響を及ぼす薬剤又は組成物をいう。
【0022】
1−3.構成
クロテン用性誘引物質は、以下の式(I)で示される(2,2-ジメチル-3-(プロパン-2-イリデン)シクロブチル)メチル3-メチルブタ-2-エノエート((2,2-dimethyl-3-(propan-2-ylidene)cyclobutyl)methyl 3-methylbut-2-enoate)(本明細書では、しばしば慣用名「セネシオ酸マコネリル」と表記する)からなる。
【0023】
【化4】
【0024】
セネシオ酸マコネリルは、常温(5〜35℃)で揮発性及び芳香性を有する無色の液体である。
【0025】
セネシオ酸マコネリルは、クロテンコナカイガラムシ特異的な性誘引物質の構成成分として同定された新規のエステル化合物であり、本種オス成虫に対してのみ強い誘引作用を示す。したがって、本発明の性誘引物質の対象害虫は、本種オス成虫となる。
【0026】
1−4.製造方法
クロテン用性誘引物質であるセネシオ酸マコネリルは、化学合成によって人工的に製造することができる。製造方法は、特に限定はしないが、例えば、以下の式(II)で示される公知のアルコール化合物であるマコネリオール(Zhang, A. et al., 2004, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101:9601-9606)及び以下の式(III)で示される化合物であるセネシオ酸を混合し、脱水縮合反応させることによって得ることができる。
【0027】
【化5】
【0028】
【化6】
【0029】
クロテン用性誘引物質の製造方法の具体例として、限定はしないが、ジクロロメタン中でマコネリオールとセネシオ酸を、好ましくは等量混合し、4-ジメチルアミノピリジン存在下でジイソプロピルカルボジイミドを加えてエステル化すればよい。
【0030】
2.クロテンコナカイガラムシの性誘引組成物
2−1.概要
本発明の第2の態様は、クロテンコナカイガラムシの性誘引組成物(本明細書では、しばしば「性誘引組成物」と略称する)である。本発明の性誘引組成物は、前記第1態様のクロテン用性誘引物質であるセネシオ酸マコネリルを有効成分として含むことを特徴とする。本発明の性誘引組成物は、後述する本種の捕虫装置又は交信撹乱装置における誘引資材として利用することができる。
【0031】
2−2.構成
2−2−1.構成成分
(1)有効成分
本発明の性誘引組成物において、クロテンコナカイガラムシのオス成虫に対する誘引作用を示す有効成分は、第1態様に記載のクロテン用性誘引物質であり、上記式(I)で示されるセネシオ酸マコネリルである。
【0032】
性誘引組成物に含まれる有効成分の含有量は、性誘引組成物の剤形、後述する溶媒や担体の種類、及び施用方法によって異なる。したがって、それぞれの条件を勘案して適宜定めればよい。通常は、クロテン用性誘引物質が有効成分としての機能、すなわち本種オス成虫を誘引する機能を発揮する上で必要な量であって、かつそれを適用する圃場等において、農作物等の植物や他の生物種に対して有害な作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。性誘引組成物に含まれるクロテン用性誘引物質の具体的な含有量については、後述するクロテンコナカイガラムシの捕虫装置、及びクロテンコナカイガラムシの交信撹乱装置において説明する。
【0033】
(2)溶媒又は賦形剤
本発明の性誘引組成物は、必要に応じて農薬製剤上許容可能な溶媒又は賦形剤を含むことができる。本明細書において「農薬製剤上許容可能な溶媒又は賦形剤」とは、性誘引組成物の製剤化と施用を容易にし、有効成分であるクロテン用性誘引物質の維持又は/及び作用速度を制御する物質であって、圃場等に施用しても土壌及び水質等の環境に対する有害な影響がないか又は小さく、また農作物等の植物や他の生物種、特にヒトに対しても有害性がないか又は低いため、その農薬成分としての使用が認められている物質をいう。以下、溶媒及び賦形剤について具体的に説明をする。
【0034】
溶媒には、水、又は有機溶媒が挙げられる。水には、滅菌水、脱イオン水、超純水、及び水溶液が挙げられる。有機溶媒には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンクロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、アセトン、アセトニトリル、クロロホルム、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、プロパノールパラフィン類、脂肪酸類、脂肪酸エステル類、又はそれらの混合溶媒等が挙げられる。中でもペンタン又はヘキサンは、本発明の性誘引組成物の溶媒として好ましい。
【0035】
本明細書において「賦形剤」とは、性誘引組成物の成形、有効成分の配合や希釈、有効成分のコーティングによる徐放化を目的として加えられる添加剤をいう。主として性誘引組成物が固形製剤の場合に使用される。賦形剤には、例えば、粉砕天然鉱物、粉砕合成鉱物、乳化剤、分散剤及び界面活性剤等が挙げられる。
【0036】
粉砕天然鉱物には、例えば、カオリン、クレイ、タルク及びチョークが挙げられる。
粉砕合成鉱物には、例えば、高分散シリカ及びシリケートが挙げられる。乳化剤としては、非イオン性乳化剤やアニオン性乳化剤(例えば、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、アルキルスルホネート及びアリールスルホネート)が挙げられる。
【0037】
分散剤としては、例えば、リグノ亜硫酸廃液及びメチルセルロースが挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、リグノスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ジブチルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩、アルキルアリールスルホネート、アルキルスルフェート、アルキルスルホネート、脂肪アルコールスルフェート、脂肪酸及び硫酸化脂肪アルコールグリコールエーテル、さらに、スルホン化ナフタレン及びナフタレン誘導体とホルムアルデヒドの縮合物、ナフタレン又はナフタレンスルホン酸とフェノール及びホルムアルデヒドの縮合物、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、エトキシル化イソオクチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、アルキルフェニルポリグリコールエーテル、トリブチルフェニルポリグリコールエーテル、トリステアリルフェニルポリグリコールエーテル、アルキルアリールポリエーテルアルコール、アルコール及び脂肪アルコール/エチレンオキシドの縮合物、エトキシル化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、エトキシル化ポリオキシプロピレン、ラウリルアルコールポリグリコールエーテルアセタール、ソルビトールエステル、リグノ亜硫酸廃液、及びメチルセルロースが挙げられる。
【0038】
2−2−2.剤形
本発明の性誘引組成物の剤形は、クロテン用性誘引物質を大気中に放出し得る形態であれば、いかなる形態であってもよく、特に限定はしない。例えば、液体状態の液剤、固体状態の固形剤とすることができる。液剤の場合、有効成分であるクロテン用性誘引物質を適当な溶液に懸濁し、必要に応じて補助剤(界面活性剤や鉱物粉等)を添加した、水溶剤、水和剤、油性分散液剤、乳剤、エマルション剤、及び油剤等が挙げられる。固形剤の場合、有効成分であるクロテン用性誘引物質を適当な賦形剤と混合して調製した、粉剤、顆粒剤、粒剤、散布剤、塗布剤、錠剤、ペースト剤、ゲル剤が挙げられる。大気中で崩壊する物質で被覆したコーティング剤も本発明の性誘引組成物の剤形に含まれる。
【0039】
2−2−3.施用方法
本発明の性誘引組成物を施用する方法は、対象エリア内に有効成分であるクロテン用性誘引物質を放出し、拡散することができれば、特に限定はしない。性誘引組成物の使用目的等に合わせて当該分野で公知の方法によって適宜施用すればよい。
【0040】
例えば、ハウス栽培や水耕栽培のような屋内、すなわち閉鎖空間内でクロテンコナカイガラムシのオス個体に対する交信撹乱を目的として性誘引組成物を施用する場合には、性誘引組成物をその屋内に散布すればよい。この場合、性誘引組成物の剤形は、液剤又は粉剤が好ましい。液剤であれば、噴霧装置を用いて、また粉剤であればファン等を備えた拡散装置を用いて散布することができる。あるいは、後述するクロテンコナカイガラムシの交信撹乱装置を用いて、性誘引組成物をその装置内に設置して施用してもよい。この場合、性誘引組成物の剤形は、粉剤、顆粒剤、粒剤、散布剤、塗布剤、錠剤、ペースト剤、ゲル剤、又はそれらの組み合わせのいずれであってもよい。装置内に備えられた徐放性担体等に担持させるため、含浸、塗布、又は噴霧する場合であれば、液剤、粉剤、塗布剤、又はペースト剤が好ましい。
【0041】
また、閉鎖空間内又は開放空間において、本種オス成虫の誘殺を目的とする場合には、後述するクロテンコナカイガラムシの捕虫装置内に性誘引組成物を設置して施用してもよい。この場合、性誘引組成物の剤形は、粉剤、顆粒剤、粒剤、散布剤、塗布剤、錠剤、ペースト剤、ゲル剤、又はそれらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0042】
さらに、開放空間において、本種の発生状況又は分布状況の調査を目的とする場合には、クロテンコナカイガラムシの捕虫装置を用いて、上記と同様に性誘引組成物を施用すればよい。
【0043】
3.クロテンコナカイガラムシの捕虫装置
3−1.概要
本発明の第3の態様は、クロテンコナカイガラムシの捕虫装置(本明細書では、しばしば「捕虫装置」と略称する)である。本発明の捕虫装置を用いることで、対象エリア内の本種の分布状況、及び発生状況を調査及び/又はモニタリングすることや、対象エリア内の本種オス成虫個体を誘殺することができる。
【0044】
3−2.定義
本明細書において「捕虫装置」とは、標的害虫を捕獲することを目的とした装置をいう。本明細書において「害虫」とは、農業、林業及び造園業分野に有害な影響を与える昆虫綱(Insecta)生物である。また本明細書において「標的害虫」は、捕獲対象となる害虫をいう。本明細書ではクロテンコナカイガラムシ、特にそのオス成虫個体が標的害虫に該当する。
【0045】
本明細書において「対象エリア」とは、標的害虫の捕殺又は調査の対象となるエリアをいう。屋内のような閉鎖空間、又は屋外のような開放空間のいずれであってもよい。対象エリアの面積に限定はなく、目的に応じて適宜定められる。例えば、ビニルハウスのような閉鎖空間における標的害虫の捕殺が目的の場合には、そのビニルハウスの設置面積が対象エリアとなる。一方、圃場内における標的害虫の発生状況や分布状況の把握を目的とする場合には、その圃場が占める面積が対象エリアとなる。
【0046】
本明細書において「分布状況」とは、対象エリア内への標的害虫の侵入の有無、及び/又は対象エリア内での標的害虫の生息の有無等に関する情報をいう。
【0047】
本明細書において「発生状況」とは、対象エリア内における標的害虫の成虫発生時期、繁殖の有無、及び/又は個体数等に関する情報をいう。
【0048】
3−3.構成
本発明の捕虫装置は、第2態様の性誘引組成物、担体、及び捕虫器を必須の構成要素として備える。以下、それぞれの構成要素について具体的に説明をする。
【0049】
(1)性誘引組成物
性誘引組成物は、本発明の捕虫装置において、本種オス成虫を誘引するための重要な資材である。性誘引組成物の構成は、第2態様に記載と同一であり、ここでの説明は省略する。
【0050】
捕虫装置に用いる性誘引組成物において、クロテン用性誘引物質の含有量は、例えば、液剤の場合にはクロテン用性誘引物質を溶媒に対して0.001mg/mL〜100.0mg/mL、好ましくは0.005mg/mL〜50.0mg/mL、より好ましくは0.01mg/mL〜10.0mg/mLの濃度で含んでいればよい。溶媒は、有機溶媒、特にペンタン又はヘキサンが好適である。また、性誘引組成物を後述する徐放性担体に担持又は内蔵させて使用する場合には、担体1gあたりのクロテン用性誘引物質量が、0.005mg/g〜200mg/g、好ましくは0.01mg/g〜100mg/g又は0.02mg/g〜50.0mg/g、より好ましくは0.05mg/g〜20.0mg/gとなるように、性誘引組成物内にクロテン用性誘引物質を含んでいればよい。
【0051】
(2)担体
本明細書において「担体」とは、それ自身が剛性を有し、性誘引組成物を担持又は内蔵する物資である。本発明の性誘引組成物の剤形が液剤や粉剤のように不定形の場合には、それらに一定の形状を付与することができる。また剤形にかかわらず、捕虫装置において性誘引組成物の設置場所を提供でき、時として捕虫装置の筐体として機能し得る。
【0052】
担体の素材は、性誘引組成物を一定の形状で保持又は内蔵できる程度の剛性を有していれば特に限定はしない。例えば、ガラス、プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等を含む)、ゴム(天然ゴム、合成ゴムを含む)、セラミックス、植物由来物(綿、麻等の植物繊維、紙、木炭、木片等を含む)、動物由来物(骨片、貝殻、スポンジ、毛、羽毛、絹等を含む)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。また、多孔質構造の素材は、比表面積が大きいため、性誘引組成物の担持量や内蔵量を増大できる。さらに、孔径の調製によって、有効成分の放出量を制御できることから、徐放性担体としても好ましい。多孔質構造の担体としては、例えば、多孔質セラミック、多孔質プラスチック、木炭、骨片、スポンジ、フィルタ(プラスチック製、植物製、動物製)、メンブレン、及び布(プラスチック製、植物製、動物製)等が挙げられる。徐放性担体には、孔径の調製が容易な多孔質プラスチック、プラスチック製メンブレン等が好適である。
【0053】
担体の形状は、特に限定しない。例えば、シート状、容器状、袋状、カプセル状、管状、及びビーズ状等が挙げられる。
【0054】
本発明の捕虫装置における担体の具体例として、ポリエチレンからなるキャップ、ゴム、又は細管が挙げられる。
【0055】
(3)捕虫器
本発明において「捕虫器」とは、標的害虫を捕獲し、保持する器をいう。性誘引組成物によって本発明の捕虫装置に誘引されたクロテンコナカイガラムシのオス成虫は、この捕虫器によって捕獲される。したがって、捕虫器は、本発明の捕虫装置に特有の構成要素であり、性誘引組成物と並んで重要な資材である。
【0056】
捕虫器は、標的害虫を捕獲する捕獲手段と、捕獲後の標的害虫を保持する保持手段を備えている。捕獲手段と保持手段は同一の構成であってもよいし、別々の構成であってもよい。
【0057】
同一構成の例としては、粘着トラップや水盤トラップが挙げられる。粘着トラップは、テープやシート等の支持体に粘着剤が塗布された構成を有する。性誘引組成物によって誘引された本種オス成虫は、粘着剤に捕獲され、そのまま保持されるように構成されている。この場合、粘着剤が捕獲手段と保持手段を兼ねる。また、水盤トラップは、お盆状の容器に水、水溶液、油等の液体を張った構成を有する。性誘引組成物によって誘引された本種オス成虫が液面に落下し、そのまま液体に捕獲され、そのまま保持されるように構成されている。この場合、容器に張った液体が捕獲手段と保持手段を兼ねる。本種オス成虫の誘因手段は、前述の性誘引組成物に基づくが、粘着トラップの粘着剤や水盤トラップの液体に性誘引組成物を包含させることで、粘着剤や液体が捕獲手段と保持手段に加えて、誘因手段も兼ね備えることができる。
【0058】
別々の構成の例としては、吸引トラップや電撃トラップが挙げられる。吸引トラップは、吸引手段(捕獲手段)と保管手段(保持手段)を有する捕虫器である。吸引手段は性誘引組成物によって捕虫装置内に誘引された本種オス成虫を、陰圧を利用して吸引し、捕獲するように構成されている。また保管手段は、捕獲した個体が逃亡できないように、又は散乱しないように所定の容器内で保管するように構成されている。電撃トラップは、電撃格子及び虫受けトレイを有する捕虫器である。捕虫装置内に設置された性誘引組成物によって本種オス成虫が誘引された際に、虫体が電撃格子に接触すると感電するように構成されている。虫受けトレイは、感電死して落下した本種オス成虫を保持するように構成されている。感電死せず、電気ショックから復活した個体が、逃亡できないように虫受けトレイに水等の液体を張ってもよい。
【0059】
捕虫器は、いずれの構成であってもよく、特に、粘着トラップや水盤トラップは、簡便で低コストであるため好ましい。また2以上の構成を組み合わせてもよい。例えば、粘着トラップ又は水盤トラップとの併用が挙げられる。例えば、前述の虫受けトレイに液体を張る例は、電撃トラップと水盤トラップの併用に相当する。
【0060】
保持手段において、標的害虫の生死や形状維持は目的に合わせて処理される。例えば、標的害虫の捕殺が目的であれば、本種オス成虫を生存させる必要も、遺骸形状を維持する必要もない。したがって、保持手段の標的害虫はいかなる状態で保持しても構わない。一方、標的害虫の発生状況や分布状況の調査が目的であれば、生死は問わないが、データ収集上、個体数を計数できる程度に個体の形状が保持手段で維持されている必要がある。
【0061】
4.クロテンコナカイガラムシの交信撹乱装置
4−1.概要
本発明の第4の態様は、クロテンコナカイガラムシの交信撹乱装置(本明細書では、しばしば「撹乱装置」と略称する)である。本発明の撹乱装置を用いることで、対象エリア内の本種オス成虫のメス成虫探索行動を撹乱させて交尾機会を剥奪することができる。
【0062】
4−2.定義
本明細書において「交信撹乱装置」とは、標的害虫の性誘引物質を介した雌雄成虫間の交信(コミュニケーション)の撹乱又は阻害を目的とした装置をいう。
【0063】
本明細書において「交信撹乱」とは、性誘引物質の人工的放出により、特定の生物種における異性への誘因行動をかき乱して混乱させることをいう。本明細書においては、特に本種オス成虫によるメス成虫探索行動を、人工的に合成した同種の性誘引物質を用いて妨害し、雌雄の交尾機会を剥奪することをいう。
【0064】
4−3.構成
本発明の交信撹乱装置は、第2態様の性誘引組成物及び担体を必須の構成要素として備える。
【0065】
性誘引組成物及び担体の基本構成は、第3態様の捕虫装置に記載の構成と同じである。そこで、重複する説明については省略し、ここでは交信撹乱装置に特徴的な構成についてのみを記載する。
【0066】
性誘引組成物は、第2態様の性誘引組成物を用いる。交信撹乱装置に用いる性誘引組成物は、含有するクロテン用性誘引物質の量を捕虫装置の性誘引組成物におけるそれよりも高く設定することが好ましい。これは、本種に対する各装置の使用目的が異なるためである。具体的には、捕虫装置は、対象エリア内に生息する本種オス成虫を装置内に誘引し、捕獲することを目的としている。これに対して交信撹乱装置は、対象エリア内に生息する本種オス成虫の性誘引物質に対する誘引行動を撹乱させて、本種メス成虫との交尾成立を妨害又は阻止することを目的としている。一般に、対象エリア内に放出する性誘引物質量が高いほど、標的害虫の誘因行動に対する撹乱効果が高いが、逆に撹乱作用によって誘引効果は低くなってしまう。したがって、交信撹乱装置に用いる性誘引組成物は、捕虫装置の性誘引組成物よりもクロテン用性誘引物質の含有量が高い。例えば、性誘引組成物が液剤の場合にはクロテン用性誘引物質を溶媒に対して0.1mg/mL〜1000.0mg/mL、好ましくは0.5mg/mL〜500.0mg/mL、より好ましくは1.0mg/mL〜100.0mg/mLの濃度で含んでいればよい。溶媒は、捕虫装置の場合と同様、有機溶媒、特にペンタン又はヘキサンが好適である。また、性誘引組成物を後述する徐放性担体に担持又は内蔵させて使用する場合には、担体1gあたりのクロテン用性誘引物質量が、1.0mg/g〜1000.0mg/g、好ましくは2.0mg/g〜500.0mg/g、より好ましくは5.0mg/g〜200.0mg/gとなるように、性誘引組成物内にクロテン用性誘引物質を含んでいればよい。
【0067】
対象害虫に対する交信撹乱は、連続的に、かつ長期間に亘って性誘引物質を放出し続けなければ効果が現れない。したがって、本装置に備えられる担体は、徐放性担体であることが望ましい。例えば、第2態様に記載の孔径を調節した多孔質担体等が挙げられる。
【0068】
5.クロテンコナカイガラムシの防除方法
5−1.概要
本発明の第5の態様は、クロテンコナカイガラムシの防除方法(本明細書では、しばしば「防除方法」と略称する)である。本発明の防除方法によれば、対象エリア内の本種を防除することができる。
【0069】
5−2.定義
本明細書において「防除」とは、標的害虫、すなわちクロテンコナカイガラムシによる害を防ぐために、その駆除、侵入防止、及び生息数の管理を行うことをいう。本明細書における「防除方法」は、本種による害を防ぐために行われる広義の防除方法であり、対象エリア内における本種の駆除方法及び発生調査方法を包含する。
【0070】
本明細書において「駆除」とは、本種を追い払い、本種の生息環境や繁殖手段を剥奪し、また本種を捕殺することによって、対象エリアから本種を排除することをいう。
【0071】
本明細書において「発生調査」とは、対象エリア内の本種の分布状況及び発生状況を管理するために発生全般に関わる情報収集するための調査をいう。対象エリアにおける本種の生息調査(分布調査)、個体数調査、発生ステージとその時期の調査を含む。
【0072】
5−3.方法
本発明の防除方法は、駆除方法及び発生調査方法に大別される。以下、それぞれの方法について具体的に説明をする。
【0073】
5−3−1.駆除方法
駆除方法で、クロテンコナカイガラムシのオス成虫を捕殺して、又は繁殖手段を剥奪して、対象エリア内の本種個体数を徐々に減じることにより、最終的に対象エリアから本種を排除する、又はその個体数を著しく減じた状態で管理することを目的とする。
【0074】
駆除方法は、さらに捕殺方法と交信撹乱方法に分類できる。以下でそれぞれの方法について説明する。
【0075】
A.捕殺方法
捕殺方法では、第3態様に記載の捕虫装置を用いて、対象エリア内の本種オス成虫を誘引し捕殺する。本方法は、対象エリアの選定工程、捕虫装置の設置工程、装置内の性誘引組成物の交換工程を含む。
【0076】
(1)対象エリア選定工程
「対象エリア選定工程」は、クロテンコナカイガラムシを捕殺すべき対象エリアを具体的に選定する工程である。対象エリアの条件や状況が把握できなければ効率的な捕殺ができないからである。それ故に、本工程は、本方法の以降の工程における基準となる工程である。対象エリアは、特に限定はしない。実施者が希望する領域を対象エリアとして自由に定めればよい。選定後は、面積、外周距離、空間条件(閉鎖空間か開放空間か)、栽培作物種等の対象エリアに関する様々な情報を獲得しておく。
【0077】
(2)捕虫装置設置工程
「捕虫装置設置工程」は、対象エリア内に第3態様に記載の捕虫装置を設置する工程である。本工程では、前記対象エリア選定工程で得られた対象エリアに関する情報に基づいて、対象エリア内に生息するクロテンコナカイガラムシのオス成虫を効率的に誘引し、捕殺できるように捕虫装置を設置する。設置条件については、以下の通りである。
【0078】
捕虫装置の設置場所は、限定はしないが、クロテン用性誘引物質が対象エリア全体に拡散されやすい場所が好ましい。例えば、対象エリア内の風上等は好ましい。
【0079】
捕虫装置の設置密度は、限定はしないが、屋外であれば0.1〜100個/100m2、好ましくは1〜50個/100m2又は2〜25個/100m2であればよい。また、屋内であれば0.1〜50個/100m2、好ましくは1〜20個/100m2であればよい。
【0080】
本発明の各捕虫装置の設置間隔は、限定はしないが、通常は1m〜100mが好ましく、2m〜50m、3m〜20m、又は5〜15mがより好ましい。
【0081】
捕虫装置の設置位置(設置高)は、限定はしないが、クロテン用性誘引物質の拡散効率を高めるため地上10cm〜200cm、好ましくは地上20cm〜180cm又は地上30cm〜160cmの高さがよい。
【0082】
捕虫装置の設置時期は、限定はしないが、本種オス成虫発生期間、例えば、露地では4月〜11月が好ましく、5月〜10月がより好ましい。
【0083】
(3)性誘引組成物交換工程
「性誘引組成物交換工程」は、対象エリアに設置した捕虫装置内における性誘引組成物を交換する工程である。
【0084】
本方法は、捕虫装置に備えられた性誘引組成物が包含する有効成分、クロテン用性誘引物質の誘因作用によって、クロテンコナカイガラムシのオス成虫を装置内に誘引する原理に基づく。したがって、性誘引組成物中のクロテン用性誘引物質が放出により枯渇すると誘引効果が失われ、目的を達成し得ない。そこで、クロテン用性誘引物質が枯渇する前に、定期的に性誘引組成物を補充又は交換する必要がある。本工程では、その補充又は交換を目的としている。
【0085】
性誘引組成物の補充は、捕虫装置内の性誘引組成物が予め設定された所定量を下回った時に、随時追加するように行えばよい。新たに補充する性誘引組成物の剤形やクロテン用性誘引物質の含有量等については、捕虫装置内の性誘引組成物のそれと同じでよいが、必ずしも同一にする必要はない。性誘引組成物が担体に担持又は内蔵されている場合には、担体と共に追加補充することができる。
【0086】
性誘引組成物の交換は、捕虫装置内の性誘引組成物に含まれるクロテン用性誘引物質が枯渇する前に性誘引組成物ごと新旧入れ替えればよい。性誘引組成物が担体に担持又は内蔵されている場合には、担体ごと交換することができる。交換期間は、対象エリアの面積、空間条件、徐放性担体の使用、捕虫器の形態によって異なるため、対象エリアの条件に持ちづいて適宜定めればよい。例えば、面積100m2(1アール)の屋外対象エリアに設置された捕虫装置において、徐放性担体に担持された性誘引組成物を交換する場合であれば、徐放性担体ごと10日〜14日おきに、粘着トラップに担持された性誘引組成物を粘着トラップごと交換する場合であれば、5日〜7日おきに交換することが好ましい。
【0087】
B.交信撹乱方法
交信撹乱方法は、対象エリア内におけるクロテンコナカイガラムシの繁殖手段、具体的には交尾機会を剥奪して、対象エリアから本種を徐々に排除していく方法である。本方法は、対象エリアの選定工程、交信撹乱装置の設置工程、装置内の性誘引組成物の交換工程を含む。対象エリアの選定工程、及び性誘引組成物の交換工程の基本構成は、それぞれ、上記捕殺方法における対象エリア選定工程、及び性誘引組成物交換工程に準ずる。したがって、ここでは、本方法に特有の交信撹乱装置設置工程、及び性誘引組成物交換工程における固有の構成についてのみ説明をする。
【0088】
(1)交信撹乱装置設置工程
「交信撹乱装置設置工程」は、対象エリア内に第4態様に記載の交信撹乱装置を設置する工程である。本工程では、前記対象エリア選定工程で得られた対象エリアに関する情報に基づいて、対象エリアにクロテン用性誘引物質を放出及び拡散させて、対象エリア内に生息する本種オス成虫のメス成虫探索行動を撹乱させるように交信撹乱装置を設置する。設置条件については、以下の通りである。
【0089】
交信撹乱装置の設置密度は、限定はしないが、屋外であれば5〜50個/100m2、又は10〜30個/100m2であればよい。また、屋内であれば1〜30個/100m2、又は5〜10個/100m2でよい。
【0090】
交信撹乱装置の設置間隔は、限定はしないが、0.5m〜100m又は1m〜50m、好ましくは1.4m〜10m又は2〜5mである。
交信撹乱装置の設置位置(設置高)及び設置時期は、上記捕虫装置と同じでよい。
【0091】
(2)性誘引組成物交換工程
本工程の基本構成は、捕殺方法に記載の性誘引組成物交換工程に準じる。
本方法の場合、交信撹乱装置に備えられた性誘引組成物が包含する有効成分、クロテン用性誘引物質の放出及び拡散によって、対象エリア内のクロテンコナカイガラムシのオス成虫におけるメス成虫探索行動を拡散させて、交尾機会を剥奪する原理に基づく。したがって、捕殺方法と同様に、性誘引組成物中のクロテン用性誘引物質が放出により枯渇すると交信撹乱効果が失われ、目的を達成し得ない。そこで、クロテン用性誘引物質が枯渇する前に、定期的に性誘引組成物を補充又は交換する必要がある。本工程では、その補充又は交換を目的としている。
【0092】
性誘引組成物の補充は、基本的に捕殺方法に記載のそれに準ずる。交換期間は、例えば、面積100m2(1アール)の屋外対象エリアに設置された捕虫装置において、徐放性担体に担持された性誘引組成物を交換する場合であれば、徐放性担体ごと30日〜60日おきに交換することが好ましい。具体例として、対象エリアの圃場において、適当な間隔で網又はロープを張り、その網又はロープに性誘引組成物を噴霧又は塗布により担持させる方法が挙げられる。性誘引組成物の担持量は、本発明の性誘引物質の量として、0.1g/100m2〜50g/100m2、好ましくは0.25g/100m2〜25g/100m2を使用すればよい。
【0093】
5−3−2.発生調査方法
発生調査方法では、第3態様に記載の捕虫装置を用いて、対象エリア内のクロテンコナカイガラムシを防除するため、分布状況及び発生状況を管理する。この方法によって、対象エリア内に生息する本種オス成虫の分布状況及び発生状況を把握し、前記駆除方法における具体的かつ効率的な対応策に反映させることができる。本方法は、対象エリアの選定工程、捕虫装置の設置工程、捕虫器回収工程、捕虫個体統計分析工程、捕虫器再設置工程、及び装置内の性誘引組成物の交換工程を必須の工程として含む。このうち対象エリア選定工程、捕虫装置の設置工程、及び装置内の性誘引組成物の交換工程は、上記捕殺方法に記載の各工程と同じであることから、その説明を省略し、ここでは本方法に特有の捕虫器回収工程、及び統計分析工程、及び捕虫器再設置工程について、以下で説明をする。
【0094】
(1)捕虫器回収工程
「捕虫器回収工程」は、対象エリアに設置後、所定の期間を経過した捕虫装置から捕虫器を回収する工程である。捕虫器の捕獲手段と保持手段が別個の場合には、保持手段のみを回収すればよい。また、性誘引組成物含有粘着トラップのように捕虫器が性誘引組成物、担体と一体化している場合には、一括で回収してもよい。
【0095】
(2)統計分析工程
「捕虫個体統計分析工程」は、捕虫装置から回収した捕虫器において、捕獲された本種オス個体数を計数し、その捕虫装置の設置情報(設置場所、設置密度、設置間隔、設置位置及び設置期間)と関連付けてデータ化する工程である。単独データで、又は過去のデータと共に、統計学的に処理することで、対象エリア内におけるクロテンコナカイガラムシの一時的又は経時的な分布状況、及び/又は発生状況を分析することができる。ここで得られた分析結果に基づいて、対象エリアにおける効率的な捕殺方法又は交信撹乱方法を策定することができる。
捕獲された本種オス個体数の計数方法は、特に限定はしない。通常は目視による計数でよい。
【0096】
(3)捕虫器再設置工程
「捕虫器再設置工程」は、対象エリアに設置された捕虫装置を継続して使用するために、上記捕虫器回収工程で回収した捕虫器に換わる新たな捕虫器を捕虫装置に再び設置する工程である。再設置される捕虫器は、以前の捕虫器と同じ構成でよいが、捕虫装置に設置可能な限り他の構成の捕虫器に変更してもよい。捕虫器の捕獲手段と保持手段が別個の場合には、回収した保持手段のみを再設置すればよい。また、捕虫器が性誘引組成物や担体と一体化している場合には、それらと共に交換することで再設置することも可能である。
【実施例】
【0097】
以下に、本発明の内容を実施例によりさらに具体的に示すが、本発明は本実施例の記載に限定されるものではない。
【0098】
<実施例1:クロテンコナカイガラムシの性誘引物質の単離と同定>
(目的)
クロテンコナカイガラムシのメス成虫から性誘引物質を単離し、その化学物質を同定する。
【0099】
(方法)
0.2リットルのガラス容器に羽化後7日から30日前後の未交尾状態のクロテンコナカイガラムシメス成虫を500頭程、ソラマメに寄生させて密閉し、容器内に放出された性誘引物質を含む揮発性化合物をエアポンプにより吸引した。その後、1.5gの吸着剤(テナックスTA、メッシュサイズ20-35;GLサイエンス社製)で捕集した。この操作を繰り返して、約10000頭のメスが一日当たりに放出する量の性誘引物質を回収し、約500mLのヘキサンに溶出したものを粗抽出液とした。1平方cmの濾紙に0.1メス当量(0.1頭のメスが一日当たりに放出する量に相当する性誘引物質量)の粗抽出液を含浸させた後、10頭のクロテンコナカイガラムシオス成虫を入れた直径9cmのシャーレにその濾紙を投入したところ、10頭全ての個体(100%)が濾紙に誘引された。この検定結果から、粗抽出液には目的とするクロテンコナカイガラムシの性誘引物質が含まれていることが示唆された。
【0100】
次に、0.2gのシリカゲルを充填したカラムクロマトグラフに、前記粗抽出液を注入し、ジエチルエーテルを0、5、15、及び50%含むペンタンをそれぞれ2mLずつ用いて分画し、溶出した。上記と同じ濾紙を用いた方法でオス成虫の誘引性を検定したところ、0.1メス当量の5%ジエチルエーテル画分に対して30頭中26頭の個体(87%)が誘引された。
【0101】
続いて、この5%ジエチルエーテル画分をInertsil SIL 100Aカラム(粒径5μm、内径4.6mm、長さ250mm;GLサイエンス社製)を備えた高速液体クロマトグラフ装置によって、さらに分画した。ジエチルエーテルを3%含むペンタンを流速1ml/分で流し、7.3分から8.0分に溶出してきた画分を回収した。上記と同様の方法で、0.1メス当量の画分を30頭のオスに提示したところ、28頭(93%)が誘引された。
【0102】
さらに、この画分をDB-23カラム(内径0.53mm、長さ15m;J&Wサイエンティフィック社製)を据え付けたガスクロマトグラフ装置(アジレント・テクノロジー社製)によってさらに分画した。カラムオーブン内の温度を、初期温度50℃(1分間保持)から毎分8℃ずつ200℃まで昇温する分析条件で、15.2分から15.7分に溶出される画分を回収し、0.1メス当量を30頭のオスに提示したところ、30頭(100%)が誘引された。この画分は、単一の物質のみを含み、その物質がクロテンコナカイガラムシのオス成虫に対して誘引活性を有する性誘引物質(性フェロモン)であることが確認された。
【0103】
この物質を質量分析装置(日本電子社製)により分析した。高分解能質量分析で分子量は236.17845と測定され、分子式はC15H24O2と推定された。EIマススペクトル[m/z (相対強度%)]は次の通りである;55 (9.1), 83 (31.9), 93 (14.8), 105 (8.7), 121 (100), 136 (37.7), 236 (0.3) 。
【0104】
この物質をさらに核磁気共鳴装置(NMR;日本電子社製)により分析した。1H-NMRの測定値は次の通りである;δH: 5.75 (1H, s), 4.23 (2H, d, J = 8.4), 2.51 (1H, m), 2.23 (1H, m), 2.13 (3H, s), 2.12 (1H, s), 1.51 (3H, s), 1.43 (3H, s), 1.40 (3H, s), 1.25 (3H, s), 1.14 (3H, s)。
【0105】
(結果)
異常の分析結果から、単離された物質は、前述の式1で示される化学構造を有する新規エステル化合物「セネシオ酸マコネリル」であることが推定された。
【0106】
<実施例2:クロテンコナカイガラムシの性誘引物質の製造>
(目的)
実施例1で単離・同定されたクロテン用性誘引物質を化学合成する。
【0107】
(方法)
ZHANG, A. and NIE, J.(2005. J. Agric. Food Chem. 53:2451-2455)に記載の公知の方法で合成した15.4mgのマコネリオールと15.0mgのセネシオ酸(東京化成工業社製)を0.35mLのジクロロメタン中で混合した。18.9mgのジイソプロピルカルボジイミド(和光純薬社製)及び18.3mgの4-ジメチルアミノピリジン(東京化成工業社製)を加え、40℃で1昼夜エステル化して(2,2-dimethyl-3-(propan-2-ylidene)cyclobutyl)methyl 3-methylbut-2-enoate(セネシオ酸マコネリル)を合成した。
【0108】
また、実施例1に記載の方法に準じて、合成したエステル化合物0.1mgを濾紙に含浸させて、オス成虫の誘引性を検定した。
【0109】
(結果)
合成したエステル化合物の収率は98%であった。エステル化合物をガスクロマトグラフ・質量分析計(GC-MS)によって分析した。GC-MSはAgilent 6890/5973(アジレント・テクノロジー社製)にDB-1カラム(内径0.25mm、長さ30m;J&Wサイエンティフィック社製)を据え付け、カラムオーブン内の温度を、初期温度60℃(1分間保持)から毎分8℃ずつ220℃まで昇温する分析条件に設定したものを用いた。本実施例で得られたエステル化合物は、クロテンコナカイガラムシのメス成虫から捕集し、単離した性誘引物質と保持時間(13.86分)及びEIマススペクトル[m/z (相対強度%);55 (9.1), 83 (31.9), 93 (14.8), 105 (8.7), 121 (100), 136 (37.7), 236 (0.3)]が完全に一致した。ガスクロマトグラフ・質量分析計は、Agilent 6890/5973(アジレント・テクノロジー社製)にDB-1カラム(内径0.25mm、長さ30m;J&Wサイエンティフィック社製)を据え付け、カラムオーブン内の温度を、初期温度60℃(1分間保持)から毎分8℃ずつ220℃まで昇温する分析条件に設定したものを用いた。
また、オス成虫の誘引性検定では、多数のオス成虫が誘引された。
【0110】
以上の結果から、クロテン用性誘引物質はセネシオ酸マコネリルであることが確認された。
【0111】
<実施例3:クロテンコナカイガラムシ用性誘引物質の種特異性の検証>
(目的)
実施例2で化学合成したセネシオ酸マコネリルがクロテンコナカイガラムシのオス成虫を種特異的に誘引できることを確認する。
【0112】
(方法)
0.1mgのセネシオ酸マコネリルを0.1mLのヘキサンに溶解し、これを検証用とした。陰性対照用(比較用)には0.1mLのヘキサンのみからなる溶液とした。それぞれのヘキサン溶液をゴムキャップに塗布して、クロテンコナカイガラムシのオス成虫と、同じコナカイガラムシ科に属するフタスジコナカイガラムシ(Ferrisia virgata)のオス成虫ぞれぞれ10頭に提示し、誘引されるオス成虫の数を調べた。
【0113】
(結果)
表1に結果を示す。
【0114】
【表1】
【0115】
クロテン用性誘引物質であるセネシオ酸マコネリルには、10頭全てのクロテンコナカイガラムシのオス成虫が誘引された(100%)。対して、フタスジコナカイガラムシのオス成虫は、全く誘引されなかった(0%)。
【0116】
以上の結果は、セネシオ酸マコネリルがクロテンコナカイガラムシのオス成虫のみを誘引する種特異的性誘引物質であることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によれば、クロテンコナカイガラムシのオス成虫を誘引、及び/又は捕獲し、発生状況を知るのに有効な性誘引剤を得ることができる。また、雌雄の交尾行動を撹乱する交信撹乱剤や、オス成虫を誘引除去する大量誘殺剤としても利用することができる。