特許第6660761号(P6660761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6660761粒子線治療システムおよびリッジフィルタならびにリッジフィルタの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6660761
(24)【登録日】2020年2月13日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】粒子線治療システムおよびリッジフィルタならびにリッジフィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20200227BHJP
【FI】
   A61N5/10 N
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-32729(P2016-32729)
(22)【出願日】2016年2月24日
(65)【公開番号】特開2017-148204(P2017-148204A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高柳 泰介
(72)【発明者】
【氏名】藤高 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 千博
(72)【発明者】
【氏名】村田 朋貴
(72)【発明者】
【氏名】松浦 妙子
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】梅垣 菊男
(72)【発明者】
【氏名】平田 雄一
【審査官】 木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−116284(JP,A)
【文献】 特開2009−2786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
G21K 1/00 ― 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線のエネルギー分布を拡大するためのリッジフィルタであって、
通過する粒子線のエネルギーを減衰させる第1の構造体および第2の構造体を有し、
前記リッジフィルタにおける粒子線入射方向を深さ方向、前記粒子線入射方向と垂直をなす平面における一方向を繰り返し方向とそれぞれ定義したときに、
前記第1の構造体は、
前記深さ方向に平行な直線と前記繰り返し方向に平行な直線とを含む平面における第1の断面形状が、前記第1の断面形状の重心を対称点とした点対称形状であり、
前記第1の断面形状の前記深さ方向の最上流の辺を第1の辺、最下流の辺を第2の辺としたとき、前記第1の辺と前記第2の辺が平行かつ前記第1の辺と前記第2の辺の長さが繰り返し方向において最も長く、
前記第1の辺と第2の辺からなる四角形が平行四辺形であり、
前記第2の構造体は、前記第1の構造体を前記深さ方向に垂直な面で反転させた形状を有し、
前記第1の構造体および第2の構造体は、前記繰り返し方向に複数配置されるとともに、
前記第1の構造体の前記第1の辺と前記第2の辺とのうちの前記第2の構造体側の辺と、前記第2の構造体の前記深さ方向の最上流の辺を第3の辺、最下流の辺を第4の辺としたときに前記第3の辺と前記第4の辺とのうちの前記第1の構造体側の辺と、が接続されている
ことを特徴とするリッジフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のリッジフィルタにおいて、
前記深さ方向において、前記第1の構造体が前記第2の構造体よりも上流側に位置する
ことを特徴とするリッジフィルタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリッジフィルタにおいて、
前記第1の構造体の前記深さ方向の最上流面もしくは最下流面、または前記第2の構造体の前記深さ方向の最上流面もしくは最下流面において前記第1の構造体または前記第2の構造体を固定する台座部と、
前記台座部を複数個挟み込む固定部を備える
ことを特徴とするリッジフィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載のリッジフィルタにおいて、
一体成型品である
ことを特徴とするリッジフィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリッジフィルタにおいて、
前記第1の構造体と前記第2の構造体とが前記深さ方向に積層されている
ことを特徴とするリッジフィルタ。
【請求項6】
請求項5に記載のリッジフィルタにおいて、
積層された第1の構造体と第2の構造体からなる前記平面における第2の断面形状は、前記平面における間隙の第3の断面形状と同一形状である
ことを特徴とするリッジフィルタ。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のリッジフィルタにおいて、
前記深さ方向に反転させたとき同一形状である
ことを特徴とするリッジフィルタ。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリッジフィルタであって、
前記深さ方向から見たとき、前記第1の構造体と前記第2の構造体が交互に配置されている
ことを特徴とするリッジフィルタ。
【請求項9】
リッジフィルタを備えた粒子線治療システムであって、
前記リッジフィルタは、
通過する粒子線のエネルギーを減衰させる第1の構造体および第2の構造体を有し、
前記リッジフィルタにおける粒子線入射方向を深さ方向、前記粒子線入射方向と垂直をなす平面における一方向を繰り返し方向とそれぞれ定義したときに、
前記第1の構造体は、
前記深さ方向に平行な直線と前記繰り返し方向に平行な直線とを含む平面における断面形状が、前記断面形状の重心を対称点とした点対称形状であり、
前記断面形状の前記深さ方向の最上流の辺を第1の辺、最下流の辺を第2の辺としたとき、前記第1の辺と第2の辺が平行かつ前記第1の辺と前記第2の辺の長さが繰り返し方向において最も長く、
前記第1の辺と第2の辺からなる四角形が平行四辺形であり、
前記第2の構造体は、前記第1の構造体を前記深さ方向に垂直な面で反転させた形状を有し、
前記第1の構造体および第2の構造体は、前記繰り返し方向に複数配置されるとともに、
前記第1の構造体の前記第1の辺と前記第2の辺とのうちの前記第2の構造体側の辺と、前記第2の構造体の前記深さ方向の最上流の辺を第3の辺、最下流の辺を第4の辺としたときに前記第3の辺と前記第4の辺とのうちの前記第1の構造体側の辺と、が接続されている
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項10】
ビームのエネルギー分布を拡大するためのリッジフィルタの製造方法であって、
前記リッジフィルタは、
通過する粒子線のエネルギーを減衰させる第1の構造体および第2の構造体を有し、
前記リッジフィルタにおける粒子線入射方向を深さ方向、前記粒子線入射方向と垂直をなす平面における一方向を繰り返し方向とそれぞれ定義したときに、
前記第1の構造体は、
前記深さ方向に平行な直線と前記繰り返し方向に平行な直線とを含む平面における断面形状が、前記断面形状の重心を対称点とした点対称形状であり、
前記断面形状の前記深さ方向の最上流の辺を第1の辺、最下流の辺を第2の辺としたとき、前記第1の辺と第2の辺が平行かつ前記第1の辺と前記第2の辺の長さが繰り返し方向において最も長く、
前記第1の辺と第2の辺からなる四角形が平行四辺形であり、
前記第2の構造体は、前記第1の構造体を前記深さ方向に垂直な面で反転させた形状を有し、
前記第1の構造体および第2の構造体は、前記繰り返し方向に複数配置するとともに、
前記第1の構造体の前記第1の辺と前記第2の辺とのうちの前記第2の構造体側の辺と、前記第2の構造体の前記深さ方向の最上流の辺を第3の辺、最下流の辺を第4の辺としたときに前記第3の辺と前記第4の辺とのうちの前記第1の構造体側の辺と、を接続する
ことを特徴とするリッジフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線治療システムおよびリッジフィルタならびにリッジフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1では、照射野形成装置にリッジフィルタを設置する手法が提示されている。非特許文献1のリッジフィルタは左右対称な山状の構造体を横方向へ一列に並べて構成されている。
【0003】
また、特許文献1では、ブラッグピーク幅を十分に広げることを目的として、ビームの飛程を分散させる機能を備えたリッジフィルタを備え、リッジフィルタを構成する構造体は、構造体の繰り返し方向において点対称形状且つ左右非対称形状であり、深さ方向の最上流面および最下流面の繰り返し方向の厚さが等しく、最上流面や最下流面より繰り返し方向の厚さが厚い部分が深さ方向において存在しない構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−116284号公報
【非特許文献1】U.Weber and G.Kraft, “Design and construction of a ripple filter for a smoothed depth dose distribution in conformal particle therapy”, Phys.Med.Biol.44 (1999) 2765−2775.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粒子線治療では、スキャニング照射法が普及しつつある。このスキャニング照射法では、標的を微少領域(以下、スポット)に分割して考え、スポット毎に細径のビームを照射する。あるスポットに既定の線量が付与されると、ビームの照射を停止し、次のスポットに向けてビームを走査する。ビームをビーム進行方向(以下、深さ方向)と垂直な方向(以下、横方向)に走査する場合は、走査電磁石を用いる。ある深さについてすべてのスポットに既定線量が付与されると、ビームを深さ方向に走査する。ビームを深さ方向に走査する場合は、加速器での加速条件を変更する、もしくはビームをレンジシフタ中を通過させるなどの方法によってビームのエネルギーを変更する。最終的に、全てのスポット、即ち標的全体に一様な線量が付与される。
【0006】
このスポットスキャニングでは、スポットを細かく配置するほど照射時間は増加し、線量率が低下する傾向にある。なお、標的全体に一様な線量を付与することを体積照射と呼ぶ。
【0007】
スポット毎のビームは深さ方向にブラッグカーブと呼ばれる線量分布を形成する。ブラッグカーブはビームの飛程近傍にピーク(ブラッグピーク)を持つ。ブラッグピークより深い位置では、線量は急激にほぼゼロまで低下する。
【0008】
ブラッグピークの発生深さは被照射体へのビームの入射エネルギーに依存し、高エネルギーのビームほどピークは深い位置に発生する。また、スポット毎のビームは横方向に対して2次元ガウス分布状の広がりを持つ。ガウス分布の1σ、即ちスポットサイズはアイソセンタ面において2mm〜20mm程度である。高エネルギーのビームほどスポットサイズは小さい。
【0009】
重粒子線などのようにブラッグカーブが鋭いピークを持つ場合、深さ方向には細かな間隔でスポットを配置する必要がある。従って、線量率が低下し、治療が長時間化する課題があった。また、粒子線治療システムは多くのビームエネルギーを用意する必要があるため、日々の粒子線治療システムの品質保証にも時間と手間を要する。
【0010】
このような課題に対して、非特許文献1に記載されたリッジフィルタには、ビームの飛程をガウス分布状に分散させることでブラッグピークの幅を拡大させる機能がある。このリッジフィルタの高さが大きいほどピーク幅の拡大量は増加し、少ないスポット数で一様な線量分布を形成できる。即ち、粒子線治療システムの線量率が向上する。また、粒子線治療システムは、ピーク幅の拡大に伴ってビームの飛程変動にロバストな線量分布を形成することができる。
【0011】
ここで、リッジフィルタの横方向への繰り返し間隔はスポットサイズと同等程度まで細かくする必要がある。これは、繰り返し間隔を荒くすると異なる飛程損失のビームが十分に混ざり合わず、体積照射において横方向の線量分布にリップルが発生し、線量一様度の悪化を招く可能性があるためである。
【0012】
従って、スポットサイズの小さな粒子線治療システムでは、リッジフィルタによりブラッグピーク幅を十分に広げられず、高線量率でのビーム照射が困難になるとの課題があった。これは、非特許文献1に記載された構造のリッジフィルタでは、繰り返し間隔の細かい先端部が薄くなり、高さの大きなものを加工することが非常に困難となるためである。また、先端部が薄いために、リッジフィルタ、特にその先端部が破損しやすい、との課題もあった。
【0013】
このような課題に対して、特許文献1では平行四辺形に類似した形状の断面を備えたリッジフィルタが開示されている。このリッジフィルタは、非特許文献1に示される山状の構造体を中心で分割し、片方を上下反転させた構造を備える。従って、飛程損失の割合は非特許文献1の形状と同等だが、尖鋭部が除かれるため、加工が容易となる。
【0014】
ビームが走査電磁石による偏向を受けると、ビームはリッジフィルタに対し斜めに入射する。このときリッジフィルタへのビームの入射角度は、横方向のスポット位置に依存する。特許文献1のリッジフィルタは左右非対称な構造なため、リッジフィルタでのビームの飛程損失の割合はスポット位置に依存して変化することになる。従って、横方向に大きな標的に対しては一様な線量分布を形成できないという課題があることが本発明者らによって明らかとなった。
【0015】
このような課題に対し、走査電磁石からリッジフィルタまでの距離を十分長くとれば、走査されたビームは深さ方向に対してほぼ平行と見なせるためこうした課題を解決できる。しかしながら、走査電磁石を搭載する照射野形成装置と、回転ガントリーの大型化・重量増加を招く、との問題がある。
【0016】
上述の特許文献1には、リッジフィルタを構成する構造体を交互に左右反転させて並べることで、リッジフィルタ全体で左右対称形状とする構造体配置についても開示されている。こうした配置であれば、ビームがリッジフィルタに対し斜めに入射しても標的に対し一様な線量分布が得られる、と考えられていた。
【0017】
しかしながら、特許文献1に記載された構造体配置は、尖鋭部は除かれるものの、リッジフィルタ内に狭小な空間を作り、特に全ての構造体を一体成型で加工する場合において、加工の容易さが損なわれてしまう、との問題があることが本発明者らによって明らかとなった。また、狭小な空間部分は寸法検査ができないために、仮に製作した場合でも精度管理が困難という課題もある。
【0018】
本発明は、ブラッグピーク幅を十分に広げることができ、且つ照射野形成装置および回転ガントリーの大型化を招くことなく横方向に大きく広がった標的に一様な線量分布を形成可能なスポットサイズの小さな粒子線治療システムと、このような粒子線治療システムに好適であり、且つ加工の容易なリッジフィルタとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、粒子線のエネルギー分布を拡大するためのリッジフィルタであって、通過する粒子線のエネルギーを減衰させる第1の構造体および第2の構造体を有し、前記リッジフィルタにおける粒子線入射方向を深さ方向、前記粒子線入射方向と垂直をなす平面における一方向を繰り返し方向とそれぞれ定義したときに、前記第1の構造体は、前記深さ方向に平行な直線と前記繰り返し方向に平行な直線とを含む平面における第1の断面形状が、前記第1の断面形状の重心を対称点とした点対称形状であり、前記第1の断面形状の前記深さ方向の最上流の辺を第1の辺、最下流の辺を第2の辺としたとき、前記第1の辺と前記第2の辺が平行かつ前記第1の辺と前記第2の辺の長さが繰り返し方向において最も長く、前記第1の辺と第2の辺からなる四角形が平行四辺形であり、前記第2の構造体は、前記第1の構造体を前記深さ方向に垂直な面で反転させた形状を有し、前記第1の構造体および第2の構造体は、前記繰り返し方向に複数配置されるとともに、前記第1の構造体の前記第1の辺と前記第2の辺とのうちの前記第2の構造体側の辺と、前記第2の構造体の前記深さ方向の最上流の辺を第3の辺、最下流の辺を第4の辺としたときに前記第3の辺と前記第4の辺とのうちの前記第1の構造体側の辺と、が接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ブラッグピーク幅を十分に広げることができ、且つ照射野形成装置および回転ガントリーの大型化を招くことなく横方向に大きく広がった標的に一様な線量分布を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態における粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
図2】発明の第1の実施形態における照射野形成装置の概略図である。
図3】本発明の第1の実施形態におけるスキャニング照射法を採用した照射野形成装置によって形成される、1スポットあたりの線量分布図である。
図4】本発明の第1の実施形態におけるリッジフィルタの一部構成の概略図である。
図5】本発明の第1の実施形態におけるリッジフィルタの一部構成の奥行き方向に垂直な平面における概略断面図である。
図6】本発明の第1の実施形態におけるリッジフィルタの奥行き方向に垂直な平面における概略断面図である。
図7】本発明の第1の実施形態におけるリッジフィルタを構成する構造体の一例を示す概略図である。
図8】本発明の第1の実施形態における構造体を構成する小構造体の一例を示す概略図である。
図9】本発明の第1の実施形態におけるリッジフィルタを、従来技術で置き換えた場合に形成される線量分布の一例を示す概略図である。
図10】本発明の第1の実施形態におけるリッジフィルタによって形成される線量分布の一例を示す概略図である。
図11】本発明の第1の実施形態における構造体を構成する小構造体の他の一例を示す概略図である。
図12】本発明の第2の実施形態における照射野形成装置の概略図である。
図13】本発明の第2の実施形態における散乱体照射法を採用した照射野形成装置によって形成される、線量分布図である。
図14】本発明の第2の実施形態における構造体を構成する小構造体の一例を示す概略図である。
図15】本発明の第2の実施形態における構造体を構成する小構造体の他の一例を示す概略図である。
図16】本発明の第1の実施形態におけるリッジフィルタの奥行き方向に垂直な平面における概略断面図である。
図17】本発明の第3の実施形態におけるリッジフィルタの奥行き方向に垂直な平面における他の一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の粒子線治療システムおよびリッジフィルタならびにリッジフィルタの製造方法の実施形態を、図面を用いて説明する。
【0023】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態における粒子線治療システムおよびリッジフィルタならびにリッジフィルタの製造方法を、図1乃至図11を用いて説明する。まず図1を用いて、本発明の一実施形態における粒子線治療システムの構成および動作について説明する。図1は、本発明の一実施形態における粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
【0024】
図1に示すように、粒子線治療システムは、陽子線照射装置102を備えている。なお、本実施形態では陽子線照射装置102を例に説明するが、本発明は陽子より質量の重い粒子(炭素線など)を用いた重粒子線照射装置にも適用することができる。
【0025】
陽子線照射装置102は、図1に示すように、陽子線発生装置103、陽子線輸送装置104および回転式照射装置105を有する。なお、本実施形態では回転ガントリーを備える回転式照射装置105を例に説明するが、照射装置は固定式を採用することもできる。
【0026】
図1において、陽子線発生装置103は、イオン源106、前段加速器107(例えば、直線加速器)およびシンクロトロン108を有する。イオン源106で発生した陽子イオンは、まず、前段加速器107で加速される。前段加速器107から出射した陽子線(以下、ビーム)は、シンクロトロン108で所定のエネルギーまで加速された後、出射デフレクタ109から陽子線輸送装置104に出射される。最終的に、ビームは、回転式照射装置105を経て被照射体に照射される。
【0027】
回転式照射装置105は、回転ガントリー(図示せず)および照射野形成装置110を有する。回転ガントリーに設置された照射野形成装置110は、回転ガントリーと共に回転する。陽子線輸送装置104の一部は、回転ガントリーに取り付けられている。
【0028】
なお、本実施形態では陽子線の加速装置としてシンクロトロン108を採用したが、サイクロトロンや直線加速器を採用することができる。
【0029】
次に照射野形成装置110の詳細について図2を参照して説明する。図2はスキャニング照射法を採用する照射野形成装置110の概略図である。図2において、スキャニング照射法では、標的201を微少領域(スポット)202に分割し、スポット202毎にビームを照射する。通過したビームの飛程をガウス分布状に分散させ、ブラッグピークの幅を拡大するために、照射野形成装置110には、ビームのエネルギー分布を拡大するためのリッジフィルタ101が設置されている。
【0030】
図3はリッジフィルタ101を通過した1スポットあたりの陽子線の水中ブラッグカーブを示す概念図である。図3において、ブラッグピーク幅の拡大により、本実施形態の粒子線治療システムでは深さ方向(図2におけるZ方向)へのスポット間隔を拡張でき、高線量率でのビーム照射が可能となることが判る。
【0031】
スキャニング照射法では、あるスポット202に所定の線量が付与されると、照射を停止して次の所定スポット202に向けてビームが走査される。横方向(図2におけるX方向およびY方向)へのビーム走査には照射野形成装置110に搭載した走査電磁石203を用いる。
【0032】
ある深さについてすべてのスポット202に所定線量を付与すると、照射野形成装置110は深さ方向にビームを走査する。深さ方向へのビームの走査は、シンクロトロン108での加速条件を変更する、もしくは、ビームを照射野形成装置110等に搭載したレンジシフタ(図示せず)を通過させる等の方法によりビームのエネルギーを変更することによって行う。
【0033】
上述のような手順を繰り返すことで、最終的に標的201全体に一様な線量分布が形成される。スポット202毎のビームの横方向線量分布は、アイソセンタ面において1σ=2mm〜20mmのガウス分布状に広がっている。本実施形態では、走査電磁石203を励磁しない状態においてビームの中心が通過する直線をビーム軸と定義する。また、回転式照射装置105の回転軸とビーム軸との交点をアイソセンタと定義する。
【0034】
次に、リッジフィルタ101の詳細について図4乃至図6を参照して説明する。図4にリッジフィルタ101の一部構成の概略図を、図5に奥行き方向に垂直な平面におけるリッジフィルタ101の一部構成の断面の概略図を示す。図6に繰り返し方向に垂直な平面におけるリッジフィルタ101の概略の断面を示す。
【0035】
図4および図5に示すように、リッジフィルタ101は、ビームの入射方向と同じ方向を深さ方向(図2におけるZ方向と同じ)、ビーム入射方向と垂直をなす平面におけるリッジフィルタ101の一方の方向を繰り返し方向(図2におけるX方向と同じ)、もう一方の方向を奥行き方向(図2におけるY方向と同じ)とそれぞれ定義したときに、構造体301が繰り返し方向に複数個配置された構造となっている。奥行き方向については、最上流面301A等の面が延在している形状となっている。
【0036】
また、図5に示すように、リッジフィルタ101は、奥行き方向に垂直な面における断面形状が、ある構造体301と隣り合う構造体301との間に形成される空気層(以降、間隙という)の断面形状(第3の断面形状)と、構造体301自体の断面形状(第2の断面形状)とが同一の形状になっている。
【0037】
また、図6に示すように、構造体301は、深さ方向における最上流面301A側および最下流面301B側で台座部303と接している。また、この台座部303は、繰り返し方向において固定部304によって複数個挟み込む形で固定されている。なお、固定部304は、奥行き方向から台座部303を固定することや、繰り返し方向および奥行き方向の両方向側から台座部303を固定するようにしてもよい。
【0038】
本実施形態では、リッジフィルタ101の構造体301を一つずつ個別に加工、製作し、それらを固定部304によって挟み込んで固定する構成としたが、金型等を作成し、鋳造や射出成型によって全ての構造体と台座部を一体成型で加工、製作することとした構成や、3Dプリンタによって構造体301部分のみ、若しくは台座部303や固定部304を含めて一体形成することとした構成であっても、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0039】
次に、図7を参照してリッジフィルタ101を構成する構造体301の詳細について説明する。図7にリッジフィルタ101を構成する構造体301の概略図を示す。
【0040】
構造体301は、奥行き方向に対して垂直な平面における断面形状が、構造体301の中心を通る深さ方向に垂直な線に線対称である。また、構造体301を深さ方向に垂直な面で上下反転させても同じ形状である。構造体301は、この垂直な面で2つの小構造体305に分割される。小構造体305のうち、深さ方向における上流側が第1の構造体、下流側が第2の構造体である。
【0041】
また、構造体301は、深さ方向の最上流面301A、最下流面301Bおよび中間面301Cの繰り返し方向の厚さが等しく形成されており、この3つの面(最上流面301A、最下流面301Bおよび中間面301C)より繰り返し方向において厚さが厚い部分が深さ方向において存在しない構造となっている。
【0042】
次に、図8を参照して構造体301を構成する小構造体305の詳細について説明する。図8に、構造体301を構成する小構造体305の概略図を示す。
【0043】
図8に示すように、小構造体305は、深さ方向において階段形状および逆階段形状となっており、ブラッグピーク幅を広げるよう形成されている。
【0044】
また、小構造体305は、奥行き方向に対して垂直な平面における断面形状が、繰り返し方向の中心線に対して左右非対称形状で、かつ繰り返し方向の中心線と深さ方向の中心線との交点S(重心)に対して点対称形状となっており、山状のような深さ方向における尖鋭部(先端部,頂上)を有さない形状となっている。
【0045】
更に、小構造体305は、深さ方向の最上流面305Aおよび最下流面305Bの繰り返し方向の厚さ(長さ)が等しくなっている。また、この最上流面305Aや最下流面305Bより繰り返し方向の厚さ(長さ)が厚い(長い)部分が深さ方向において存在しない構造となっている。
【0046】
本実施形態におけるリッジフィルタ101は、これらのような構造を満たす小構造体305を2つ組み合わせた構造体301を複数備えることでビームの飛程をガウス分布状に分散させることができ、ブラッグピークの幅を拡大させることができる。
【0047】
なお、図8の小構造体301の例では、段数は図示の都合上20段としているが、段数は20段に限定されず、リッジフィルタの求める性能に応じて適宜変更可能である。
【0048】
前述のように、小構造体305の奥行き方向に対して垂直な平面における断面形状は、左右非対称な構造である。従って、図5に示す構造体301に代わって、小構造体305と同様の形状の構造体からリッジフィルタ101を構成すると、走査電磁石から標的までの距離が短くビームがリッジフィルタ101に対し斜めに入射するケースでは、リッジフィルタ101中のビームの飛程損失の割合がスポット位置に依存して変化することになる。
【0049】
従って、標的の各スポットに等しい線量を付与しても、図9に示すように、一様な横方向線量分布が得られない。このような場合に一様な線量分布を得るには、リッジフィルタに対しビームが深さ方向と平行に入射したとみなせるように、走査電磁石からリッジフィルタまでの距離を長くとる必要が生じる。なお図9は、従来の構造のリッジフィルタを用いる場合の線量分布の一例を示す図である。
【0050】
しかしながら、図7に示すように、本実施形態における構造体301は、小構造体305の下流に、深さ方向に垂直な面で上下反転させたもう一つの小構造体305を配置した構造であるため、スポット位置に依存した飛程損失の変化が打ち消される。即ち、ビームが深さ方向に対して斜めにリッジフィルタ101に入射した場合でも、図10に示すように、標的に対し横方向に一様な線量分布を形成することができる。なお図10は、本実施形態の構造のリッジフィルタ101を用いる場合の線量分布の一例を示す図である。
【0051】
従って、走査電磁石からリッジフィルタまでの距離を短くとることができ、走査電磁石を搭載する照射野形成装置と、回転ガントリーを大型化・重量増加させることなく横方向に大きな標的に対して一様な線量分布を形成できる。
【0052】
次に、このような構造のリッジフィルタ101の製造方法について説明する。
【0053】
リッジフィルタ101の構造体301を構成する小構造体305の材質は、ビームの散乱を抑えてエネルギーを吸収する必要があるため、アルミまたは銅などの金属やABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(Acrylonitrile butadiene styrene)樹脂)とする。
【0054】
構造体301は、インゴット(素材のかたまり)から旋盤やフライス盤などを用いた削り出しによって一体形成によって必要数を作製する。この他の方法としては、3Dプリンタによって構造体301を複数個形成するか、上述した材料からなる板を深さ方向に対して複数積層して形成することができる。
【0055】
構造体301の製造条件は一般的な条件とすることができ、構造体301の形状が尖鋭部を持たない形状、すなわち、奥行き方向に対して垂直な平面における断面形状が構造体301の中心を通る深さ方向に垂直な線に線対称であり、垂直な線で構造体301を分割して小構造体305を考慮するときに、小構造体305が、繰り返し方向の中心線に対して左右非対称形状で、かつ繰り返し方向の中心線と深さ方向の中心線との交点Sに対して点対称形状、深さ方向の最上流面301Aおよび最下流面301Bの繰り返し方向の厚さが等しく、最上流面305Aや最下流面305Bより繰り返し方向の厚さが厚い部分が深さ方向において存在しない構造となるように、上述したアルミ,銅,ABS等からなるインゴットを削り出し加工によって作製するか、それらの素材を用いて3Dプリンタで形成する。
【0056】
台座部303は、構造体301と同時に削り出し加工もしくは3Dプリンタによる一体形成によって作製するか、構造体301を削り出し加工もしくは3Dプリンタによって作製した後に別途作製した台座部303を最上流面301Aおよび最下流面301Bに対して取り付けることによって、構造体301に接触させる。台座部303および固定部304の材質は、構造体301と同材質とすることが望ましい。
【0057】
このような台座部303を備えた構造体301を複数作製した後に、構造体を繰り返し方向に複数個配置し、その状態で固定部304によって台座部303を固定させることでリッジフィルタ101を作製する。または、複数の構造体301、台座部303および固定部304を3Dプリンタで一体形成してもよい。
【0058】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0059】
上述したように、本発明の粒子線治療システムおよびリッジフィルタならびにその製造方法の第1の実施形態では、ビームの飛程を分散させる機能を備えたリッジフィルタ101を備え、このリッジフィルタ101を構成する構造体301は、構造体301の中心を通る深さ方向と垂直な線に線対称であり、この線で構造体301を分割して得られる小構造体305は、繰り返し方向の中心線に対して左右非対称形状で、繰り返し方向の中心線と深さ方向の中心線との交点に対して点対称形状で、深さ方向の最上流面301Aおよび最下流面301Bの繰り返し方向の厚さが等しく、最上流面301Aおよび最下流面301Bより繰り返し方向の厚さが厚い部分が深さ方向において存在しない構造である。
【0060】
すなわち、小構造体305は、深さ方向に平行な直線と前記繰り返し方向に平行な直線とを含む平面における断面形状が、断面形状の重心を対称点とした点対称形状であり、断面形状の深さ方向の最上流の辺を第1の辺、最下流の辺を第2の辺としたとき、第1の辺と第2の辺が平行かつ第1の辺と第2の辺の長さが繰り返し方向において最も長く、第1の辺と第2の辺からなる四角形が平行四辺形となっている。
【0061】
よって、深さ方向へのスポット間隔を広げられるため、体積照射に必要なビームエネルギー数を削減でき、粒子線治療システムの品質保証において時間と手間を低減できる。更に、リッジフィルタが破損しにくくなるため、粒子線治療システムの稼働率が向上する。
【0062】
また、構造体301は、深さ方向の最上流面301A、最下流面301Bおよび中間面301Cの繰り返し方向の厚さが等しく、3つの面より繰り返し方向の厚さが厚い部分が深さ方向において存在しない。更に、リッジフィルタ101を構成する構造体301は、奥行き方向に対して垂直な平面における断面形状が、深さ方向に垂直な面で上下反転させても同じ形状である。このため、小さなスポットサイズでも線量一様度を悪化させることなく線量率を向上できる。また、深さ方向へのスポット間隔を広げられ、体積照射に必要なビームエネルギー数を削減することができる。更に、リッジフィルタが破損しにくくなる。
【0063】
また、構造体301は、小構造体305の下流に、深さ方向に垂直な面に対して上下反転させたもう一つの小構造体305を配置した構造であるため、スポット位置に依存した飛程損失の変化が打ち消される。即ち、ビームが深さ方向に対して斜めにリッジフィルタ101に入射した場合でも、図10に示すように、標的に対し横方向に一様な線量分布を形成することができる。
【0064】
リッジフィルタ101の構造体301が山状における尖鋭部を持たない構造であるため、繰り返し間隔が細かく、且つ高さの大きな構造体を製作可能となる。従って、このような構造体301を備えたリッジフィルタ101をスキャニング照射法を用いた粒子線治療システムに用いることで、小さなスポットサイズでも線量一様度を悪化させることなく線量率を向上できる。
【0065】
また、リッジフィルタ101の構造体301が尖鋭部を持たないため、加工が容易になるため製造が容易であり、リッジフィルタの製造に要するコストを低減することができ、粒子線治療システムを低コスト化できる。更に、ビーム進行方向(深さ方向)にリッジフィルタ101の先端部の高さを高くすることが非常に容易であり、ブラッグピーク幅を容易に広げることができる。このため、ブラッグピーク幅を増加するのに厚手のレンジシフタを設置する必要がないため、ビームサイズを細く保つことができる。
【0066】
また、リッジフィルタ101は、奥行き方向に垂直な面において、構造体301部分の断面形状と、間隙の断面形状とが同一形状であるため、繰り返し間隔が細かく、且つ高さが大きくても、構造体301部分を形成する際の空間が十分に確保されており、また構造体301の強度も十分確保されるため、高い精度で構造体301の作製が可能であり、小さなスポットサイズでも線量一様度を悪化させることなく線量率を向上することができる等の効果が得られる。
【0067】
また、リッジフィルタ101は、構造体301の最上流面301Aまたは最下流面301Bにおいて構造体301とそれぞれ接する台座部303と、繰り返し方向と奥行き方向との少なくともいずれかの方向から台座部303を複数個挟み込む固定部304を更に有する。従って、リッジフィルタ101を移動させたり回転させたりする際に構造体301の部分がたわんでしまうことを強く抑制することができ、より高精度な照射が可能となるとともに、回転ガントリーに搭載するのに好適なリッジフィルタとなる。また、高い精度で構造体301を繰り返し方向に並べて固定する際に、固定部304によって奥行き方向から挟み込んで固定するだけでよいため、固定が容易となり、また微調整が容易である。よって、高い精度で繰り返し方向に構造体301を配置することができ、ハンドリングに優れたリッジフィルタとなる。更に、台座部303を固定部304によって固定するため、構造体301に負担がかからず、構造体301がより破損しにくくなり、粒子線治療システムの稼働率の向上に更に寄与する。
【0068】
なお、リッジフィルタ101の構造体301を構成する小構造体は、図8に示すような深さ方向において階段状となっている構造に限らず、図11に示すように深さ方向においてなめらかな形状となっている構造(小構造体306)を用いることができる。
【0069】
図11に示すようなこの小構造体306も、繰り返し方向の中心線に対して左右非対称形状で、かつ繰り返し方向の中心線と深さ方向の中心線との交点に対して点対称形状となっている。また、小構造体306は、深さ方向の最上流面306Aおよび最下流面306Bの繰り返し方向の厚さが等しくなっている。更に、深さ方向において最上流面306Aや最下流面306Bより繰り返し方向の厚さが厚い部分が存在せず、同じ厚さとなっている構造である。
【0070】
このような構造の小構造体306も、アルミ,銅,ABS等からなるインゴットを削り出し加工や3Dプリンタ等の方法によって作製することができる。
【0071】
リッジフィルタ101の構造体を構成する小構造体が図11に示すような小構造体306であっても、上記と同様の効果が得られる。
【0072】
<第2の実施形態>
本発明の粒子線治療システムおよびリッジフィルタならびにその製造方法の第2の実施形態を図12乃至図15を用いて説明する。なお、厚さ方向、繰り返し方向、奥行き方向は、第1の実施形態と同様の定義とする。また、本実施形態における粒子線治療システムの全体構成は図1と同様である。
【0073】
第1の実施形態の照射野形成装置110はスキャニング照射法を採用しているが、ウォブラー照射法を採用した場合でも同様の効果が得られる。本実施形態では、ウォブラー照射法について図12および図13を用いて説明する。図12はウォブラー照射法を採用した本実施形態の照射野形成装置の概略図、図13は本実施形態の照射野形成装置によって形成される線量分布図である。
【0074】
図12に示すように、ウォブラー照射法では、照射野形成装置110Aの内部に散乱体601,コリメータ602,ボーラス603が追加される。
【0075】
このようなウォブラー照射法では、治療計画装置(図示せず)などにより、まず被照射体表面からの標的の深さ、大きさに応じて適切なビームエネルギーが選択される。ビームのエネルギーは、シンクロトロン108での加速条件を変更する、もしくは、ビームを照射野形成装置110A等に搭載したレンジシフタ(図示せず)を通過させる等の方法で変更する。ビームエネルギーが決まると、標的の横方向の大きさに応じて散乱体601の厚みが変更される。さらに、走査電磁石電源(図示せず)から走査電磁石203に対して供給される最大電流値が決定される。最大電流値はビーム走査経路の半径を決める。ビーム照射を開始すると、ビームを横方向に円形に走査するため、走査電磁石電源は周期的に正負が反転し、走査電磁石203毎に位相が90度ずれ、最大電流値の等しい交流電流を走査電磁石203に供給する。散乱体を通過して横方向に拡散したビームを円形に走査することで、横方向に一様な線量分布が形成される。なお、横方向に一様な線量分布を形成する手段としては、2重散乱体法も有効である。2重散乱体法は走査電磁石の替わりに2種類の散乱体をビーム通過位置に配置することで横方向に一様な線量分布を形成する。
【0076】
図13に示すように、ウォブラー照射法のリッジフィルタ101Aは、ビームの飛程分散を調整し、標的201の幅に合致するように深さ方向に拡大ブラッグピーク(Spread Out Bragg Peak、以下SOBPと記載)を形成する機能を備える。
【0077】
本実施形態のリッジフィルタ101Aを以下に説明する。第1の実施形態で示したようなスキャニング照射法の場合と同様に、リッジフィルタ101Aの周期構造を構成する各構造体309は、奥行き方向に対して垂直な平面における断面形状が、構造体309の中心を通る深さ方向に垂直な線について線対称である。また、構造体309は、深さ方向に垂直な面で上下反転させても同じ形状である。この垂直な面で2つの小構造体307に分割される。図14を用いて、本実施形態の小構造体307を説明する。
【0078】
図14に示すように、小構造体307は、深さ方向において階段形状となっており、深さ方向に対して拡大ブラッグピークを形成する形状となっている。また、小構造体307は、繰り返し方向の中心線に対して左右非対称形状で、かつ繰り返し方向の中心線と深さ方向の中心線との交点Sに対して点対称形状となっている。更に、深さ方向の最上流面307Aおよび最下流面307Bの繰り返し方向の厚さが等しく、最上流面307Aや最下流面307Bより繰り返し方向の厚さが厚い部分が深さ方向において存在しない構造となっている。
【0079】
ボーラス603とコリメータ602は標的201の形状に合わせて事前に加工され、図12に示すように操作者などにより照射野形成装置110Aの先端部分に取り付けられる。ボーラス603はABS樹脂等で形成され、深さ方向の標的201形状に合わせて場所ごとにビームの飛程を調整する。コリメータ602は横方向の標的201形状に合わせて適切な形にビームを遮蔽し、標的201の外側での被曝を低減する。なお、本実施形態では通常のコリメータ602としたが、マルチリーフコリメータでも同様の効果が得られる。
【0080】
上記の手順により、ウォブラー照射法では標的201の横方向と深さ方向に一様な線量分布が形成される。
【0081】
その他の構成・動作および製造方法は前述した第1の実施形態と略同じ構成・動作および製造方法であり、詳細は省略する。
【0082】
本発明の粒子線治療システムおよびリッジフィルタならびにリッジフィルタの製造方法の第2の実施形態においても、前述した粒子線治療システムおよびリッジフィルタならびにリッジフィルタの製造方法の第1の実施形態とほぼ同様な効果が得られる。
【0083】
すなわち、リッジフィルタ101Aが尖鋭部を持たない構造体を有するため、その製作における加工が容易になり、粒子線治療システムを低コスト化することができる。特に、ウォブラー照射法を採用した粒子線治療システムでは、エネルギー、SOBP幅に応じて多数のリッジフィルタを製作する必要があるが、本実施形態のような尖鋭部を持たない構造体を有するリッジフィルタはその効果が顕著となる。また、加工が容易になることで、高さを大きくしたリッジフィルタを製作可能で、より大きなSOBP幅を形成できる。さらに、リッジフィルタが破損しにくくなるため、粒子線治療システムの稼働率が向上する。
【0084】
なお、本実施形態のリッジフィルタ101Aの構造体309を構成する小構造体は、図12に示すような繰り返し方向の厚さが深さ方向において変化する先端が尖った三角錐形状を繰り返し方向の中心線で分割し、分割したうちの一方を上下反転させた構造の小構造体307に限られず、図14に示すような深さ方向になめらかな形状とした図15に示すような構造の小構造体308とすることができる。
【0085】
この図15に示す小構造体308も、繰り返し方向の中心線に対して左右非対称形状で、かつ繰り返し方向の中心線と深さ方向の中心線との交点Sに対して点対称形状となっている。また、小構造体308は、深さ方向の最上流面308Aおよび最下流面308Bの繰り返し方向の厚さが等しくなっている。更に、深さ方向において最上流面308Aや最下流面308Bと同じ厚さとなっており、繰り返し方向の厚さが厚い部分が存在しない構造となっている。このような構造の小構造体308も、アルミ,銅,ABS等からなるインゴットの削り出し加工や3Dプリンタによって作製することができる。
【0086】
図15に示すような小構造体308から構成される構造体を備えたリッジフィルタについても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0087】
<第3の実施形態>
第1の実施形態で述べたように、リッジフィルタ101には、ビームがリッジフィルタ101に対し斜めに入射するケースでも、リッジフィルタ101中のビームの飛程損失の割合がスポット位置に依存して変化しない事が求められる。さらに、加工および寸法検査の容易性を損ねないように、狭小な空間を持たない事が求められる。
【0088】
本実施形態のリッジフィルタ101B,101Cを、図16図17を用いて説明する。図16および図17に本実施形態における繰り返し方向に垂直な平面におけるリッジフィルタ101の概略の断面を示す。
【0089】
図16に示すように、リッジフィルタ101Bにおける構造体701は、第1の実施形態における構造体301や第2の実施形態における構造体309に相当する役割を示す。
【0090】
しかしながら、構造体701の形状は、第1の実施形態における小構造体305および第2の実施形態における小構造体307と同様に、奥行き方向に垂直な面における断面形状が、繰り返し方向の中心線に対して左右非対称形状で、かつ繰り返し方向の中心線と深さ方向の中心線との交点S(重心)に対して点対称形状となっており、山状のような深さ方向における尖鋭部(先端部,頂上)を有さない形状となっている。構造体701は、固定部702に固定されている。
【0091】
また、第1の実施形態におけるリッジフィルタ101や第2の実施形態におけるリッジフィルタ101Aと比較して、本実施形態のリッジフィルタ101Bでは、構造体701が繰り返し方向に一つおきに配置されている。さらに、固定部702の下面には、上面と同様の構造が備わっている。ただし、下面側は、各構造体701が左右反転し、繰り返し方向に構造体1つ分をスライドさせた構造となっている。
【0092】
本実施形態におけるリッジフィルタは、図17に示すように、上面構造体701Aの上面と、下面構造体701Bの下面にそれぞれ固定部702を配置し、保持する構成のリッジフィルタ101Cとしてもよい。このとき、上面構造体701Aの下面と、下面構造体701Bの上面は必ずしも同一平面上にある必要はない。
【0093】
図16図17に示すような構造体701,701A,701Bから構成される構造体を備えたリッジフィルタについても、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0094】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0095】
例えば、図7に示すような構造体301や図9に示すような構造体309、を深さ方向に複数個積み重ねた構造の構造体を備えたリッジフィルタであっても、同様の効果が得られる。
【0096】
また、リッジフィルタ101の空気層を、構造体と異なる材料で形成してもよい。例えば、構造体を金属とし、間隙に該当する部分を樹脂で形成してもよい。
【符号の説明】
【0097】
101,101A,101B,101C…リッジフィルタ
102…陽子線照射装置
103…陽子線発生装置
104…陽子線輸送装置
105…回転式照射装置
106…イオン源
107…前段加速器
108…シンクロトロン
109…出射デフレクタ
110,110A…照射野形成装置
201…標的
202…スポット
203…走査電磁石
301…リッジフィルタの構造体
301A…構造体の最上流面
301B…構造体の最下流面
301C…構造体の中間面
303…台座部
304…固定部
305,306,307,308…小構造体
305A,306A,307A,308A…小構造体の最上流面
305B,306B,307B,308B…小構造体の最下流面
601…散乱体
602…コリメータ
603…ボーラス
701…構造体
701A…上面構造体
701B…下面構造体
702…固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17