特許第6660875号(P6660875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6660875熱可塑性物質をマイクロ波エネルギーで硬化させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6660875
(24)【登録日】2020年2月13日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】熱可塑性物質をマイクロ波エネルギーで硬化させる方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/02 20060101AFI20200227BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20200227BHJP
   H01L 21/312 20060101ALI20200227BHJP
【FI】
   B05D3/02 Z
   B05D7/24 301S
   H01L21/312 B
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-505491(P2016-505491)
(86)(22)【出願日】2014年3月18日
(65)【公表番号】特表2016-520417(P2016-520417A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】US2014031015
(87)【国際公開番号】WO2014153336
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2017年3月21日
(31)【優先権主張番号】13/986,012
(32)【優先日】2013年3月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ハバード ロバート エル
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−028271(JP,A)
【文献】 特開2005−105079(JP,A)
【文献】 Journal of Photopolymer Science and Technology,2005,Vol.18,No.2,p.327-332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00〜 7/26
C08G73/00〜73/26
B29C71/04
C08J 7/00〜 7/02
7/12〜 7/18
H01L21/312
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択された基板上に、制御された配向を備えたポリイミド膜を作製する方法であって、
基板上に可溶性形態のポリイミドを堆積させて膜を形成する工程と、
前記膜をソフトベークして残留溶媒を除去する工程と、
前記ポリイミドのガラス転移温度Tgより少なくとも100℃低い温度で、20〜120分間、可変周波数マイクロ波(VFM)により前記膜を硬化させる工程と
を含み、
前記ポリイミドは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物−p−フェニレンジアミン(BPDA−PPD)を含み、前記VFM硬化は175〜200℃の温度で実施され、
前記硬化させる工程を、前記膜の熱膨張率が前記基板の熱膨張率と一致するまで行う方法。
【請求項2】
前記VFM硬化は、選択された中心周波数の少なくとも±5%の帯域幅に亘りマイクロ波力を掃引的に印加する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板は、集積回路を上に載せた半導体ウエハを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリイミドの多分散指数(PDI)を低減させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記PDIの低減は、サイズ排除クロマトグラフィーを含む分離技術を用いること、または、前記ポリイミドの出発材料の形成の間のポリイミドのエンドキャップ反応の初期化を制限することにより行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
選択された基板上に、制御された配向を備えたポリイミド膜を作製することにより、マイクロ電子デバイスを作る方法であって、
集積回路を上に載せた半導体ウエハを準備する工程と、
前記半導体ウエハ上に可溶性形態のポリイミド膜を堆積させて膜を形成する工程と、
前記膜をソフトベークして残留溶媒を除去する工程と、
前記ポリイミドのガラス転移温度Tgより少なくとも100℃低い温度で、20〜120分間、可変周波数マイクロ波(VFM)により前記膜を硬化させる工程と
を含み、
前記ポリイミドは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物−p−フェニレンジアミン(BPDA−PPD)を含み、前記VFM硬化は175〜200℃の温度で実施され、
前記硬化させる工程を、前記膜の熱膨張率が前記半導体ウエハの熱膨張率と一致するまで行う方法。
【請求項7】
前記VFM硬化は、選択された中心周波数の少なくとも±5%の帯域幅に亘りマイクロ波力を掃引的に印加する工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記集積回路は、幅100〜10nmの機能回路特徴部を備える、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマーを圧縮する装置および方法に関し、特に、選択された基板上に、結晶化度を改良した高密度の熱可塑性膜を作る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、機械、電気および化学特性が優れていることから、マイクロ電子工学産業にとって魅力的な材料であり、従来の熱硬化の処理時間は、通常4〜6時間の範囲である。温度勾配率が遅いことおよび様々な温度における待機時間が長いことは、反応速度を遅くし、反応副生成物および溶媒をガス放出させ、ポリマー鎖を配向させるために必要である。これらのポリマーを硬化させるために必要な処理時間を短くすることによって、スループットを高め、生産コスト全体を低減させることになる。
【0003】
p−フェニレンジアミン(PPD)を有する3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)などのポリアミック酸ベースのポリイミドは、残留応力の低い誘電体が不可欠である電子パッケージングの用途に望ましい。このポリマー特有の特性の多くは、その骨格のもつ剛直な性質と硬化時に生じる高い配向度とに起因する。この配向は、低い熱膨張率(CTE)を達成して、低応力膜を作り出すために非常に重要である。
【0004】
このタイプのポリマー系の明らかな欠点の一つは、硬化温度が高い(通常、350℃)ことであり、このため、このポリマーは、特徴部サイズが小さく、これに対応して拡散距離が小さいことにより、様々な処理工程に利用可能な熱収支が厳しく制限される多くの先進的な半導体システムで使用することができない。例えば、最近のある論文は、このポリマー系の望ましい特性を表1に報告しているが、報告された全ての膜は、従来のオーブン硬化であれ、迅速なホットプレート硬化であれ、またはマイクロ波硬化であれ、310〜350℃で処理されていた[K.D. Farnsworth et al., Variable Frequency Microwave Curing of 3,3',4,4'-Biphenyltetracarboxylic acid dianhydride / P-Phenylenediamine (BPDA/PPD), Intl. Journal of Microcircuits and Electronic Packaging 23:162-71 (2002)]。VFM硬化は、速度が著しくさらに速いが、硬化温度は変わらず、この範囲の硬化温度は、興味の対象となっている多くの用途にとっての許容可能な最大温度を大きく超えている。要求の厳しい電子工学応用にこれらのポリマーシステムを適用することにおける難しさは、商業用のBPDA/PPDが30年以上に亘って利用可能であったにもかかわらず、非常に限定的にしか使用されていないという事実から理解することができる。
【表1】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、以下のことを含む。すなわち、熱可塑性膜を圧縮する改良された方法を提供すること、半導体基板上で熱可塑性膜を圧縮する方法を提供すること、改良された特性を有する熱可塑性膜で半導体ウエハをコーティングする方法を提供すること、改良された結晶化度の熱可塑性膜を作るための低温処理を提供すること、および選択された基板上に、制御された配向を備えたポリイミド膜を作る方法を提供することである。本発明のこれらのおよびこれ以外の目的および利点は、図面と共に以下の明細書を読むと明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、熱可塑性膜を圧縮する方法は、
選択された基板上に可溶性形態での熱可塑性物質を堆積させる工程と、
膜をソフトベークして残留溶媒を除去する工程と、
この熱可塑性物質のガラス転移温度Tgより100℃低い温度以下の温度で、20〜120分間、VFMにより膜を硬化させる工程と
を含む。
本発明の別の態様によれば、マイクロ電子デバイスを作る方法は、
集積回路を上に載せた半導体ウエハを準備する工程と、
半導体ウエハ上に可溶性形態での熱可塑性膜を堆積させる工程と、
膜をソフトベークして残留溶媒を除去する工程と、
熱可塑性物質のガラス転移温度Tgより100℃低い温度以下の温度で、20〜120分間、VFMにより膜を硬化させる工程と
を含む。
【0007】
本発明の別の態様によれば、電子デバイスは、
上に機能集積回路を有する半導体と、
その上に塗布された実質的に高密度で、300〜400℃の範囲のTgを有する熱可塑性コーティング部と
を備えている。
本明細書に添付され本明細書の一部を形成する図面は、本発明の特定の態様を描写するために含まれている。本発明のより明らかな概念、および、本発明で提供されるシステムの構成要素と作用とのより明らかな概念は、図面で示された例示的な、したがって非限定的な実施形態を参照することにより、より容易に明らかになるが、この図面中では、同様の参照符号は(2つ以上の図中で現れる場合には)同じ部材を示す。図面中の特徴は必ずしも原寸に比例していない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】BPDA−PPDの構造の概略図である。
図2】様々な条件下で硬化したBPDA−PPD膜の係数を示した図である。
図3図2と同じ条件下で硬化したBPDA−PPD膜の硬度を示す図である。
図4】VFMにより200℃で何度も硬化したBPDA−PPDのイミド化の%を示す図である。
図5】ポリイミドPMDA−ODAのねじれ鎖特性を示す図である。
図6】線形ポリイミドの二官能性ポリアミック酸の部分を提供することが可能な代替のいくつかの分子のクラスを示す図である。
図7】ポリイミドの二官能性アミンを提供することが可能な代替のいくつかの分子のクラスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一般的に、本発明は、改良された物理特性と高い結晶化度とを生じさせながら、電子回路と共に使用するのに十分低い温度で、熱可塑性物質とりわけポリイミドを圧縮する方法を提供する。この方法は、特にBPDA−PPDベースのポリマーに適用可能であるが、以下に続く開示中で、この方法は、これ以外の意図的に設計された同じ特徴を備えたポリイミド構造にも広く適用可能であることが明らかになろう。
【0010】
BPDA−PPDポリマー、すなわち、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物/P−フェニレンジアミンは、HD Microsystems(250 Cheesequake Road、Parlin、NJ 00859−1241)製のポリアミック酸ベースのポリイミドであり、PI 2611の製品記号表示下で販売されている。この材料は、高温(>200℃)で、HD Microsystemsから受領したその可溶性ポリアミック酸形態から、不溶性の完全にイミド化したポリマーへと変換する。このポリマーの特有の特性の多くは、その骨格の剛直な性質と硬化時に生じる高い配向度とに起因する。
【0011】
図1で示されるように非常に線形であるBPDA−PPDは、従来のオーブン方法によって、推奨される350℃で硬化されると、係数の上昇、熱膨張率の低減および赤外(FTIR)ピークシフトによって証明される通り、配向および結晶化度の上昇を示す[J.C. Coburn, M.T. Pottiger, and C.A. Pryde, "Structure Development in Polyimide Films", Mat. Res. Soc. Symp. Proc., Vol. 308, 475-87 (1993)]。これらの高いレベルの配向/結晶化は、対流加熱を使用し、250℃と350℃との間の硬化温度で達成されるが、これは表2に示す通りである。Tg(340℃)より高い350〜400℃の温度での硬化では、実際に、CTEが小さくなり、係数が上昇し、結果として膜中の残留応力σが激しく上昇する。この点は実際に、環が表面へ面内配向しないことに起因する。表3のBTDA/ODA/MPDなどの通常の非線形のポリイミドを、Tgより高い温度で硬化させる場合には、残留応力に影響を与えず、その理由は、表面に整列化されていないためである。
【表2】
【0012】
【表3】
【0013】
出願人は、集積回路の用途に有用な範囲でBPDA−PPDなどの材料を処理するために、実質的により低い温度でマイクロ波硬化を行うことが可能か否かに関して究明するために一連の研究を開始した。実験は、MicroCure(商標) 2100 VFM (Lambda Technologies、Morrisville、NC)を用いて、掃引周波数5.65〜7.0GHzの範囲、掃引速度0.1秒、および200Wの電力で行った。以下に示す例から明らかなように、結果は驚くべき内容であったのみならず、従来のポリマー理論の視点からでは、実際直観に反する内容であった。
【実施例】
【0014】
(例)
PI 2611膜を、175℃および200℃で5から120分の範囲の時間、VFM硬化させた。樹脂をシリコンウエハ上に4000rpmでスピンコートして、厚さ7μmの膜を得、続いて膜を、130℃で2分間ソフトベークし、硬化前に残留溶媒を除去した。図2は、これらの標本のヤング率を、オーブン硬化された標本(350℃と400℃)と比較して示す。200℃で60分硬化させた後に、この係数は急上昇し、この時点で、この係数は従来のオーブン中で硬化された材料の係数よりも実際高いという驚くべき観察がなされた。備考:係数は、基板の影響を最小限にするために、100〜200nmの厚さに関するナノインデンテーション方法により計測した。
(例)
図3は、上述の例中で記載されたBPDA−PPD膜の硬度を示す。この場合も、硬化時間約60分で激しい上昇が見られ、この時点で、硬度は、350℃のオーブン硬化により生成されたものの硬度と同等である。
(例)
図4は、200℃でのVFM硬化によるイミド化のパーセントを、FTIRで測定し、時間に対する関数として示す図である。イミド化は20分後に約80%が完了し、60分から120分の間に小さな変遷があるが、60分後に本質的に完了することがわかる。
【0015】
BPDA−PPDを200℃のみでマイクロ波(VFM)により完全に硬化させると(Tg=350℃)、90〜100%への硬化度合の上昇および図2の係数、図3の硬度および図4のFTIRで示されるように、処理に入って60分と75分との間で、配向の激しい移行で起こる。この配向は予期せず、MWにより時間と共に激しい相転移として生じるが、この係数は、対流オーブン硬化で見られるようなより高いレベルに上昇することはなく、一方、CTEは3.1ppm/℃で留まる。これは、Tgを超える温度に加熱しないと、残留応力レベルがより低くさえなることを示す。その結果、BPDA/PPD膜のシリコンウエハ上でのVFM硬化は、追加的な反りを示すことがない。
【0016】
この高い配向は、ポリマー鎖の密な整列化を意味し、これは、液晶相が非常に配向されて「棒のように」まとまることに類似している。この特別な熱可塑性構造の電子工学的性質は、芳香環中での非常に良好に整列化されたsp2軌道と、図1に示されているように、複素イミド環が、この非常に線形で剛性を有する構造に沿っていることとの結果である。商業的に利用可能なポリイミドのより一般的な構造は、これとは対照的に、図5のPMDA−ODAであるKapton(登録商標)膜中にある一般的なポリイミドの構造で示されるように、よりねじれ、柔軟性を有する。
【0017】
形態学的に等方性を有するPMDA−ODAの面外CTEは、面内CTEの1.2倍に過ぎないが、配向されたBPDA−PPDは、異方性を有し、面内の率が25倍高い。この異方性における低いCTEは、シリコンのCTE(3ppm/℃)と厳密に一致し、これによって、シリコンウエハ上にコーティングされたポリマー膜は、冷却後には実質的に誘導応力を有さない。この点は、ポリイミド誘電膜でコーティングされた薄いシリコンウエハスタックの使用が増えつつある電子工学産業にとって、非常に高い密度機能性を提供するために非常に重要である。ポリマー誘電膜のCTE(約60ppm/℃)とシリコンウエハのCTEとの間での現状の不一致は、通常300mmの直径のウエハ中に300〜800μmの反りを作る。この点は、解決困難な問題であったが、その理由は、先進的なデバイスとパッケージング構造とに対して互換性を有するように250℃未満の硬化温度を探し求めている電子工学産業にとっては、BPDA−PPDの硬化時の350〜400℃という従来のオーブン硬化温度が、ウエハ処理の実地での限界をはるかに超えているためである。例えば、先進的なメモリデバイス、例えばポリマーまたはセラミック製のRAMデバイスなどの中には、250℃よりずっと高い温度では動作不能なものがある。マイクロ波を用いて200℃のみの硬化温度で、高い配向性を有する低いCTEのポリイミド膜を作る能力は、非常に重要な技術上の飛躍的な進歩である。
【0018】
ポリイミド膜は、マイクロ電子産業において、何十年にも亘って最適な有機誘電体であったが、その理由は、この材料が、300℃を超える温度に対して、高い熱安定性、化学安定性および機械安定性を有するためである。電子工学デバイス技術の最近の進歩によって、250℃を上回る高温処理に対してしばしば感受性を来している。この限界により、電子工学産業は、硬化温度が250℃未満である他の化学的なクラス、例えば、ポリベンゾオキサゾールおよびエポキシなどを模索せざるを得なくなった。全ての場合において、ポリイミドに代わるこれらの物質では、安定性および誘電特性に関して妥協してきたか、または、製造上の頑健性を低減させてきた。従来のオーブンで300℃未満の温度で不完全に硬化されたポリイミドは、マイクロ電子デバイスには許容され得ない化学的および誘電特性を有する。
【0019】
高い配向性を有する低CTEポリイミド膜を、200℃程度の低温で作り出す能力によって、主に250℃以下で行われるパッケージング処理の流れの大部分において頑健なポリイミド膜硬化を含むことができ、これによって、ダイ接着、ダイ封止、鋳造、ダイアンダーフィルおよびダイ積層の応用において一般的に使用されるエポキシ接着剤の分解を回避することができる。
さらに、Tg未満での低いマイクロ波硬化温度と、パッケージングまたは組み立てにおいて使用される他の任意の処理工程によってみられる最高温度との間の差は、ここでは50℃以下となる。この低い温度の範囲での逸脱は、従来のオーブン硬化においてみられる係数およびCTEに関する時間と温度との強い効果をほぼ取り除くが、これについては、M.T. Pottiger and J.C. Coburn, "Modeling Stresses in Polyimide Films", Mat. Res. Soc. Symp. Proc., Vol 308, 527-534 (1993) に記載されている通りである。
【0020】
材料バルク全体に亘る臨界反応双極子の均一なマイクロ波励起により、ポリイミド鎖の硬化反応(イミド化/環化)は非常に効率が良くなる一方で、バルク中での温度をずっと低く(200℃)保つ。ポリマーの低温硬化は、様々な系で実証されている。この反応は、完了(図4に示す通りほぼ90%)に近くなるにしたがって、鎖の剛性がさらに高くなり、鎖はより可動性が小さくなる。回転する双極子(この点では、主にカルボニル)中でのマイクロ波エネルギーの継続的な効果は、剛性を有するこれらの棹体をより低いエネルギースタッキングサイト中に配向/結晶化するのを支持する。同様のことが、小さな水の分子の同期結晶化(凍結)温度、0℃前のまさに最後の温度で見られうる。この同期性は、ポリマーの標準的な対流加熱では見られず、その理由は、この処理には、秩序を高めるのとほぼ同程度に秩序を乱す他のものとの衝突による、鎖の無作為な衝突が含まれており、その結果、より高温が必要となるためである。
【0021】
出願人は、驚くべき低い温度においてマイクロ波により誘導された配向が、BTDA−PPDの線形構造により可能であることを示した。この観察に基づき、出願人は、この現象が、同じ特徴を備えたこれ以外の意図的に設計されたポリイミド構造にも拡張されうることを期待している。
(例)
本発明による方法を利用する他のポリマーの設計では、図6の一般的なクラスに示唆されるような二官能性ポリアミック酸部分と、図7に示唆されるようなR1およびR2を有する二官能性アミンとを組み合わせることができる。硬化されると、高い配向能力を備え、線形で、共役し、かつ剛性を有するポリイミド膜を生成するこれ以外の多くの可能性も存在する。
【0022】
[Y.Kuramoto、「Chemical Oscillations,Waves,and Turbulence.」Springer、Berlin(1984)]では、化学および生物分野における突然の位相転移は、分布の臨界レベルにおいて分子間の相互作用により生じうることが示されている。硬化の終焉に近づくとより遅い速度で動く分極性ポリマー鎖のマイクロ波により誘導される相互作用は、これらの鎖の長さの分布がより狭い場合には、より効果的に同期化され、より配向される。
【0023】
(例)
BTDA−PPDに関して観察された配向または結晶化は、相転移の様式で(図2〜4参照)強く同期していると思われることから、出発材料中の鎖の長さ分布を小さくすることによって、MW照射における他のポリイミドおよびこれ以外の熱可塑性物質における高い配向レベルを誘導することが可能であるはずである。熱可塑性物質の多分散指数(PDI)を小さくすることは、サイズ排除クロマトグラフィーなどの分離技術を用いることによって、または、出発材料の形成における熱可塑性物質のエンドキャップ反応の初期形成を制限することによって行われうる。これらの方法により、例えば、ポリオレフィン、ポリビニル、ポリカーボネートおよびアクリロニトリルなどの、硬度およびCTEが調節可能である点が有利であるはるかに広い選択範囲でのポリイミドおよびこれ以外の熱可塑性物質の機械特性を高めることが可能であるべきである。この選択的設計の能力は、標準的な熱硬化技術を使用した場合には、明らかにあり得ない。
【0024】
上述の例および説明に基づけば、許容可能な結果を生じる処理変数の範囲があること、ある特別な施用と別のものとでは最適なパラメータが異なりうることが理解されるであろう。当業者は、日常の実験を通じて特別な系に用いる処理を容易に最適化することができる。BPDA−PPD系については、出願人は、175〜225℃の温度範囲で、約20〜120分間処理することを好む。特注のポリマー配合、例えば、図6および7に関連付けて説明したポリマー配合については、Tg値は、多少変わる可能性があるが、多くの場合では約300〜400℃の範囲内であると理解されるであろう。これらの系については、BPDA−PPDと同様に、出願人は、マイクロ波処理が、特別な配合について、Tgより約100℃低い温度以下の温度で行われることを好む。したがって、望ましい処理温度の上限も、最終使途によりある温度までと指示されるであろう。電子工学デバイスについて、業界は、一般的に約250℃未満に維持させることを好み、多くの場合で、可能であれば200℃未満に維持させることを好む。
【0025】
本発明が、従来は形成不能であった構造の製造を可能にすることは、当業者には明らかであろう。特に、温度上限が250℃以下である機能的なシリコン集積回路を、Tgが350℃以上である熱可塑性物質の高密度な層でコーティングした複合的な構造を作り上げることができる。集積回路の特徴の特徴部サイズは100〜15nmでありうる。全ての従来技術の方法では、この種のポリマーを圧縮するために必要とされる処理温度は、下にある回路部材の機能性を破壊してしまう。
VFM処理は、キャビティおよび加工対象品のサイズおよび形状、基板のタイプなどの変数に基づいて、当業者が特別な周波数範囲、掃引速度などを選択することができる、本質的に柔軟性を有する方法であることが理解されることになろう。ある選択された帯域幅(通常、中心周波数の±5%または±10%)に亘って周波数を掃引することは、均一性を向上させるのみならず、アーク放電およびこれ以外の加工対象品中の電子工学部品に対して悪影響を及ぼす効果を防ぐことは周知である。したがって、出願人は、中心周波数の少なくとも±5%、より好ましくは±10%の帯域幅に亘って、周波数を掃引することを好む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7