【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決できる合金系として、Au−Cu−Al合金に着目した。上記の特許文献2で言及しているように、Au−Cu−Al合金は、形状記憶効果を発現できる合金であり、常温での超弾性発現の可能性も有する合金である。更に、Niを構成元素としていないので生体適合性の要求もクリアしている。
【0014】
そして、Au−Cu−Al合金を構成するAuは、本発明の課題であるアーチファクトレス化に対して重要な利点がある。即ち、Auは、磁化率が−34ppmの反磁性金属である。上記の通り、アーチファクトレスな材料としては、水の磁化率(−9ppm)に近い範囲とすることが好適である。Auは、この基準に近い磁化率の金属であり、本発明の課題解決の起点というべき金属である。
【0015】
本発明者等の検討によれば、合金の磁化率は、構成金属の磁気的性質とその量(組成)に応じて制御することができる。上記のとおり、Auの磁化率は−34ppmであるので、これをわずかにプラス側にシフトさせることで水の磁化率(−9ppm)に近づけることができる。一方、Au−Cu−Al合金のAu以外の構成金属についてみると、常磁性金属であるAlは磁化率が16ppmであることから、Auに合金化することで合金の磁化率のプラス側に調整できる。また、反磁性金属のCuは磁化率−9ppmと目標値近傍にあり、Alと比較すると合金の磁化率に対する影響がマイルドである。
【0016】
本発明者等は、以上のような考察を背景として鋭意検討を行い、Au−Cu−Al合金について、有用な形状記憶効果を発現しつつ、アーチファクトレスと称することができる磁化率を示す適切な組成範囲の合金を見出した。そして、その製造、医療用器具への加工の観点から好適なAu−Cu−Al合金の構成を有する本発明に想到した。
【0017】
即ち、本発明は、20原子%以上40原子%以下のCu、15原子%以上30原子%以下のAl、残部Au及び不可避不純物のAu−Cu−Al合金からなる形状記憶合金であって、ビッカース硬度が360Hv以下である形状記憶合金である。
【0018】
以下、本発明についてより詳細に説明する。本発明に係るAu−Cu−Al合金からなるアーチファクトレス化した形状記憶合金は、Auを主要な構成元素としつつ、Cu、Alを好適範囲で添加した合金である。そして、所定の組成範囲としたAu−Cu−Al合金について、その硬度を規定したものである。以下、この合金の構成金属について説明する。尚、以下において合金組成を示す「%」とは、特に明示がない限り、「原子%」の意義である。また、合金の「磁化率」とは、体積磁化率の意義である。
【0019】
本発明に係るAu−Cu−Al合金において、Cuの添加量は、20原子%以上40原子%以下とする。Cuは、主に、合金の形状記憶効果や超弾性に関与する金属元素である。Cuが20原子%未満では形状記憶効果が発現し難くなる。そして、40原子%を超えると、変態温度が高くなり過ぎ、人体の体温以下での形状記憶効果が発現し難くなる。Cuについては、25原子%以上35原子%以下とするのがより好ましい。
【0020】
また、Alの添加量は、15原子%以上30原子%以下とする。本発明においては、Alも重要な構成金属である。Alは、形状記憶効果に関与すると共に、磁化率の調整作用が比較的大きい金属元素である。更に、Alは合金の加工性にも影響を及ぼす。Alが15原子%未満となると、適切な温度での形状記憶効果が発現し難くなり、磁化率の調整作用にも劣る。そして、Alが30原子%を超えると、変態温度が過度に低くなると共に、硬度が高くなり過ぎて加工性が極度に悪化する。Alについては、18原子%以上30原子%以下とするのがより好ましい。
【0021】
以上のCu、Al添加量を基準として残部をAu及び不可避不純物とする。Au濃度については、40原子%以上57原子%以下とするのがより好ましい。
【0022】
また、本発明に係る合金の不可避不純物としては、Cr、Mg、W、Si等が含まれる可能性がある。これらの不可避不純物元素は、それぞれ0ppm以上50ppm以下とするのが好ましい。より好ましくは、それぞれ0ppm以上30ppm以下とするのが好ましい。
【0023】
そして、Au−Cu−Al合金からなる本発明に係る形状記憶合金は、ビッカース硬度が360Hv以下である。本発明者等の検討によると、本発明に係るAu−Cu−Al合金は、比較的靭性に乏しく、その加工履歴や熱履歴等によっては加工性が劣る場合がある。一方、本発明は医療用器具の構成材料として期待されるが、ワイヤ等の形状に加工されることが多い。そこで、本発明では、加工性を担保する上でその硬度を規定している。ビッカース硬度が360Hvを超える合金は、加工性が悪化して医療用器具への加工が困難となる。尚、本発明のAu−Cu−Al合金からなる形状記憶合金のビッカース硬度は、130Hv以上であるものが好ましい。
【0024】
測定の容易性を考慮し、本発明では硬度値として、ビッカース硬度を規定する。ビッカース硬度の測定においては、ビッカース硬度計、マイクロビッカース硬度計等、材料の寸法・形態に応じて測定機器を選択できる。硬度測定時の荷重もそれらに応じるが、10gf以上300gf以下で測定するのが一般的である。
【0025】
以上説明した本発明に係る形状記憶合金は、人体の体温や常温域における形状記憶効果又は超弾性の発現と、磁場環境下におけるアーチファクトレス化との双方を達成できる合金である。ここで、人体の体内環境での形状記憶効果発現のため、本発明の合金は、変態温度(Ms点)が313K以下を示すものが好ましい。
【0026】
一方、アーチファクトレス化に関して、本発明に係る形状記憶合金は、体積磁化率が−24ppm以上6ppm以下であるものが好ましい。生体の体積磁化である−9ppmに対して±15ppmを好適範囲とする。この範囲内であれば、MRI等の磁場環境下においてアーチファクトによる影響を十分軽減することができる。
【0027】
尚、これまで述べたように、本発明に係る形状記憶合金は、上記した形状記憶効果発現と磁化特性の双方に対する要求を達成する必要がある。これらの特性を同時に好適なものとするためには、合金材料の均質性が良好であることが好ましい。この均質性としては、例えば、合金組成上の均質性が挙げられ、その具体例として、合金中の構成金属の濃度にバラツキが少ないこと等が挙げられる。バラツキに関しては、例えば、評価対象となる合金材料の任意部分において、長手断面(線材長さ方向に対して平行な断面)と短手断面(線材長さ方向に対して垂直な断面)の組成分析を行うことで評価できる。この組成分析では、長手断面及び短手断面に対し、中心部と端部付近の1点を含む少なくとも5点以上の部位について、Au、Cu、Alの少なくともいずれかの濃度(原子%)を分析し、それらの標準偏差を求める。そして、長手断面及び短手断面の少なくともいずれかにおいて、少なくともいずれか一つの元素の濃度の標準偏差1.0原子%以下となっていることが好ましい。この組成の標準偏差は、0.8原子%以下がより好ましく、0.6原子%以下が更に好ましい。尚、この分析の対象としては、Au濃度を選択するのが好ましい。
【0028】
以上説明した本発明に係るAu−Cu−Al合金からなる形状記憶合金材料は、カテーテル、ステント、塞栓コイル、ガイドワイヤ等の医療用器具の構成材料として好適である。これらの医療用器具は、線材(ワイヤ)の形態から加工されて製造される。本発明は、上述したAu−Cu−Al合金からなる線材を含むものである。
【0029】
この形状記憶合金線材の好ましい態様は、直径は1mm以下の線材である。上記した各種の医療用器具は、人体の血管等を通過させて手術・治療に供される。これを可能とするため、細線状の線材が適用される。また、近年、より微小化する医療器具への対応を考慮すると、線材の直径は、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。尚、線材の直径の下限値は、できるだけ小さいことが好ましいが、その用途や加工性を考慮して10μm以上とするのが好ましい。
【0030】
本発明に係る形状記憶合金線材は、上述したAu−Cu−Al合金からなることから、変態点及び磁気特性(体積磁化率)は、上記範囲内であるものが好ましい。また、均質性も具備しているものが好ましく、線材断面における構成金属の濃度分布がバラツキのないことが好ましい。即ち、線材の任意断面(長手断面、短手断面の少なくともいずれか)について、Au濃度、Cu濃度、Al濃度の少なくともいずれかを分析したとき、Au濃度の標準偏差、Cu濃度の標準偏差、Al濃度の標準偏差の少なくともいずれかが1.0原子%以下であることが好ましい。ここでも、各元素の標準偏差は、0.8原子%以下がより好ましく、0.6原子%以下が更に好ましい。
【0031】
また、線材のビッカース硬度についても、360Hv以下であることが要求される。尚、この合金線材は、表面における結晶粒径が、5μm以上30μm以下であることが好ましい。線材を医療用器具に加工する際の適度な加工性と、医療用器具としたときに適度な弾性を発揮させるためである。線材のビッカース硬度も、130Hv以上とするのが好ましい。
【0032】
次に、本発明に係るAu−Cu−Al合金及び合金線材の製造方法について説明する。本発明に係る合金は、基本的に溶解鋳造法にて製造することができ、各金属の原材料を溶解して溶湯を作製し、これを鋳造することでAu−Cu−Al合金とすることができる。本発明における組成範囲のAu−Cu−Al合金は、溶解鋳造法によって固溶合金を得ることが比較的容易である。また、鋳造時の冷却速度を適切にすることで、均一性が良好な合金を製造することができる。
【0033】
但し、上記したように、Au−Cu−Al合金は、場合によっては靭性に乏しく、硬度が高い加工性に劣る合金となる場合がある。そこで本発明者等は、Au−Cu−Al合金の特質を考慮し、溶解鋳造法等の一般的な合金製造方法とは異なる合金材の製造方法を検討した。そして、本発明に係る合金材の好適な製造方法として、固相拡散に基づく方法を見出した。
【0034】
このAu−Cu−Al合金の製造方法は、Au−Cu合金からなる中空材に金属Alからなる芯材を内挿し、密着させてクラッド材とし、前記クラッド材を500℃以上700℃以下の温度で熱処理してAu−Cu−Al合金とする形状記憶合金の製造方法である。この合金の製造方法は、固相拡散によって合金を構成する金属元素の移動及び固溶を進行させて均質なAu−Cu−Al合金を形成する方法である。
【0035】
本来、固相拡散によって合金が形成可能であること自体は、公知である。例えば、超伝導材料の製造方法として知られている、いわゆるブロンズ法と称される方法がある。このブロンズ法の具体例としては、難加工性の超伝導材料であるNb
3Snの製造のため、Cu−Sn合金線材の中にNb線材を埋め込み、熱処理することで、Nb線材の表面にSnを拡散させる方法が知られている。このブロンズ法も固相拡散による合金製造法である。ここで、本発明に係るAu−Cu−Al合金の製造に、このような従来の固相拡散による合金製造法と適用しようとする場合、以下のような障壁がある。
【0036】
まず、本発明ではAu−Cu−Al合金という3元系合金を均質性良好に製造することが求められる。合金の均質性を考慮したとき、固相拡散は合金製造にとって必ずしも有利な原理とはならない。固相拡散の適用においては、対象とする複数の金属元素の拡散挙動の相違を考慮することが必要となる。拡散挙動の極度な相違は、組成の不均一性やボイド(カーケンダルボイド)の要因となって、合金の均質性を阻害する。
【0037】
また、合金の均質性を確保するためには、構成金属(Au、Cu、Al)が相互に異相(金属間化合物)を形成することを抑制する必要がある。本発明者等の検討によれば、Au、Cu、Alの各金属を種々組み合わせたとき、場合によっては金属間化合物が生成する可能性がある。例えば、金属Auと金属Alとを固相拡散させると金属化合物(Au
2Al、Au
4Al等)が生成し得る。このような金属間化合物は、合金形成の際に元素拡散の障害となり、均質性を損なう可能性がある。
【0038】
更に、上記のブロンズ法が意図しているのは、通常、2元系合金(Nb
3Sn等)の製造である。上記の例でも、Nb線材を埋め込んだCu−Sn合金線材中のSnのみの拡散と合金化が期待されるが、Cuは合金形成に寄与していない。本発明の合金は3元系合金であり、そのような合金形成に寄与しない金属の利用はない方が好ましい。
【0039】
本発明者等のAu−Cu−Al合金からなる形状記憶合金の製造方法は、固相拡散に関するこれらの問題点に配慮して見出されたものである。
【0040】
本発明の方法では、Au−Cu合金からなる中空材に金属Alからなる芯材を内挿・密着させてクラッド材を固相拡散の処理対象とする点を特徴とする。このAu−Cu合金と金属Alとの組み合わせが、固相拡散に関連する多くの問題点を解消する。本発明者等の検討では、この組み合わせを適用し、適宜の熱処理を行うことで、各金属元素の好適な拡散が進行し、3元系合金が形成される。この過程では、ボイド形成もなく、金属間化合物のような異相も生じることなく、緻密で均質な合金材を得ることができる。更に、Au−Cu合金と金属Alとの組み合わせは、加工性の観点からも利点がある。この点については、後に詳述する。
【0041】
そして、本発明に係る方法では、Au−Cu合金/金属Alのクラッド材を適切な温度で熱処理することで、均質なAu−Cu−Al合金とする。この熱処理温度は、500℃以上700℃以下とする。500℃未満では、固相拡散が不十分であり組成面で均質な合金材を得ることができない。また、700℃を超えると、合金化後の線材が融解する可能性があるからである。熱処理時間は、Au−Cu合金/金属Alのクラッド材のサイズによって調整され、3分以上24時間以下の範囲とするのが好ましい。より好ましくは5分以上1時間以下。更に好ましくは5分以上30分以下とすることが好ましい。
【0042】
そして、本発明では、製造する合金の組成は、中空材であるAu−Cu合金の組成と、芯材である金属Alの組成によって調整することができる。具体的には、クラッド材としたときの断面について、Au−Cu合金と金属Alの組成と各金属(Au、Cu、Al)の比重に基づいて、Au−Cu合金と金属Alとの面積比(中空材及び芯材の厚さ)を調整することで合金組成を制御できる。
【0043】
尚、この製造方法で芯材となる金属Alとは、純Alを意図するものであり、純度99.9原子%以上100原子%以下のAlである。金属Alの純度は、99.99原子%以上がより好ましい。また、Au−Cu合金の中空材は、内部に空洞を有する管状の構造体である。中空材の短手側断面の形状は特に限定されず、円形、楕円形、矩形の何れでも良い。Au−Cu合金の組成については、製造する3元系合金の組成と金属Alの組成を考慮して、中空材の寸法(厚さ)と共に決定される。本発明に係るAu−Cu−Al合金(20原子%以上40原子%以下のCu、15原子%以上30原子%以下のAl、残部Au)を考慮したとき、目安として、Au−Cu合金のAu濃度は50原子%以上68原子%以下となる。また、クラッド材としたときの、面積比は、金属Alの面積/Au−Cu合金の面積比が0.3以上0.4以下とするのが好ましい。また、Au−Cu合金の中空材に芯材となる金属Alを挿入するとき、その時点で両者が密着している必要はない。つまり、中空材の中空部分の断面積と心材の断面積とを一致させる必要はない。挿入後に中空材を加工して密着させれば良いからである。
【0044】
そして、本発明に係るAu−Cu−Al合金の製造方法は、形状記憶合金線材の製造方法としても好適である。この形状記憶合金線材の製造方法は、Au−Cu合金からなるチューブに金属Alからなる線材を内挿してクラッドチューブとし、このクラッドチューブを少なくとも1回伸線加工してクラッド線材とした後、前記クラッド線を500℃以上700℃以下の温度で熱処理してAu−Cu−Al合金線材とする方法である。
【0045】
上述した合金材の製造方法に対して、この線材の製造方法はAu−Cu合金からなるチューブに金属Alからなる線材を内挿してクラッドチューブを形成する。このチューブ及び線材の意義は基本的には、中空材及びクラッド材と同様である。本発明では、直径の小さい線材を製造することから、2mm以上5mm以下程度の比較的外径の小さいチューブを使用する。尚、Au−Cu合金チューブに金属Al線材を内挿するとき、両者が密着している必要はない。
【0046】
そして、この線材の製造方法では、Au−Cu合金/金属Alの構造のクラッドチューブを伸線加工してクラッド線材とする。つまり、合金化の前に線材にする。この工程は、Au−Cu合金/金属Alのクラッド構造のチューブについて、上記したこれらの材料の組み合わせに基づくメリット、及び、個々の材料のメリットを利用し、効率的に細線化した合金線材を製造する特徴部分である。
【0047】
即ち、Au−Cu合金と金属Alは、いずれも加工性が良好な金属・合金である。それらは、固相拡散で3元合金となった状態よりも加工性が良い。よって、合金化の前に伸線加工することで、断線のおそれなく所望の線径の線材を製造することができる。
【0048】
また、このAu−Cu合金/金属Alの組み合わせは、目的とする合金組成の線材を製造することができる点においても有用である。上記のとおり、固相拡散を利用する本発明の合金製造方法では、クラッドチューブ(クラッド材)の断面における、Au−Cu合金の断面積と金属Al断面積の比率調整によって、3元合金にしたときの組成を制御することができる。但し、クラッドチューブにおける面積比が、伸線加工により大きく変化するようでは、線材としたときの合金組成に過大な誤差が生じる。本発明者等の検討によれば、Au−Cu合金/金属Alの組み合わせのクラッドチューブにおいては、繰返し伸線加工を受けても各層の面積比の変化は極めて小さく、線材にした後に熱処理しても目的の組成の合金線材にすることができる。これは、Au−Cu合金及び金属Alがそれぞれ有する良好な加工性によるものと推定されるが、この組み合わせは合金線材の組成調整の観点から有用な効果がある。
【0049】
以上のとおり、本発明に係る形状記憶合金線材の製造方法は、供給形態が線材となる医療用器具を構成する線材の製造方法として好適である。
【0050】
この線材の製造方法については、基本的な原理や工程は、上記の合金材の製造方法と同様であり、クラッドチューブを形成したときの断面におけるAu−Cu合金層と金属Al層の面積比で組成調整する。Au−Cu合金チューブと金属Al線材の組成等の目安は上記と同様となる。
【0051】
クラッドチューブを形成した後の伸線加工について、加工方法の具体的態様は特に限定されない。スエージング加工、圧延加工(溝ロール圧延)、ダイス引き加工、押し出し加工の何れでも良いし、これらを組み合わせることができる。そして、伸線加工は少なくとも1回なされるが、その回数と加工方法は、目標とする線材の直径によって調整される。この伸線加工においては、1回(1パス)あたりの加工率を断面減少率で3%以上15%以下とする。製造効率の確保と断線回避のためである。また、伸線加工の加工温度は、10℃以上100℃以下とするのが好ましい。加工中の組織変化を抑制するためである。但し、後述する固相拡散(合金化)を意図する伸線加工においては、この加工温度の条件は適用されない。
【0052】
クラッド線材が製造目的の線材の線径になるまで伸線加工を行った後、熱処理で固相拡散させて3元系合金の線材とする。上記と同様、熱処理温度は、500℃以上700℃以下とする。熱処理時間は、3分以上24時間以下の範囲とするのが好ましい。
【0053】
また、クラッド線材の固相拡散の熱処理は、伸線加工の加工温度を調整することで加工と同時に進行させることができる。この形状記憶合金線材の製造方法は、Au−Cu合金からなるチューブに金属Alからなる線材を内挿してクラッドチューブとし、クラッドチューブを少なくとも1回伸線加工する工程を含み、少なくとも1回の伸線加工の、いずれか1回以上の伸線加工を500℃以上700℃以下の温間加工としてAu−Cu−Al合金線材とする方法となる。
【0054】
このように、伸線加工と合金化の熱処理を同時に行うことで、加工後に別途行われる熱処理の工程を省略することができる。この方法でも伸線加工は、複数回行われることが一般的であるが、そのうちの1回以上を温間加工とする。好ましくは、最終の伸線加工の工程において、温間加工とするのが好ましい。温間加工における加工温度も500℃以上700℃以下とする。但し、加工装置上の理由から、この温間加工を適用する場合の加工温度に関しては、550℃以上とすることが好ましい。尚、この伸線加工の一部を温間加工にする以外の条件(加熱時間等)は、上記の線材加工後に熱処理をする形状記憶合金線材の製造方法と同様とすることができる。
【0055】
以上の形状記憶合金線材の製造方法によって、均質なAu−Cu−Al合金からなる線材が製造される。この線材を適宜に切断して加工することで、各種の医療用器具を作製することができる。
【0056】
本発明は医療用材料として、各種の医療用器具への応用が期待できる。具体的には、塞栓コイル、歯列矯正具、クラスブ、人工歯根、クリップ、ステープル、カテーテル、ステント、ボーンプレート、ガイドワイヤ等の医療用器具への応用が可能である。