(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、1枚ずつの成膜対象に対する酸化アルミニウム膜の形成が1つの成膜空間において連続的に繰り返されると、成膜空間の状態が変わり続けることに伴い、例えば成膜対象の数が増加するほど酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなる現象が生じてしまう。
【0005】
本発明は、酸化アルミニウム膜の形成された成膜対象の数が増加するほど、酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなる傾向を抑えることを可能とした酸化アルミニウム膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための酸化アルミニウム膜の形成方法は、酸化アルミニウムを主成分とするターゲットを備えた単一の真空室を用いて各成膜対象に対して1回ずつ一連の処理を行う。前記一連の処理が、前記真空室の外部に位置する前記成膜対象を前記真空室の内部に移す前記成膜対象の前記真空室への搬入と、酸素を含まないガスの前記真空室への供給と、前記ガスを用いたプラズマの生成、および、前記プラズマを用いた前記ターゲットのスパッタから構成される、前記成膜対象への酸化アルミニウム膜の形成と、前記プラズマの生成の停止と、前記真空室の内部に位置する前記成膜対象を前記真空室の外部に移す前記成膜対象の前記真空室からの搬出と、から構成される。前回の前記形成後から今回の前記形成前までの処理を成膜間処理とし、連続する複数の前記成膜間処理のなかの少なくとも1つに、酸素を含むガスの前記真空室への供給と停止とを含む。
【0007】
本願発明者らは、酸化アルミニウム膜の形成方法について鋭意研究するなかで、以下のことを見出した。すなわち、複数の成膜対象に対して、成膜対象ごとに酸化アルミニウム膜を形成する際に、前回の酸化アルミニウム膜の形成後と、今回の酸化アルミニウム膜の形成前との間に、酸素を含有するガスを真空室に供給することによって、酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなる傾向が抑えられることを見出した。
【0008】
この点で、上記構成によれば、前回の酸化アルミニウム膜の形成後と、今回の酸化アルミニウム膜の形成前との間に、酸素を含有するガスを真空室に供給する。そのため、成膜対象の数が増加するほど酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなる傾向を抑えることができる。
【0009】
上記酸化アルミニウム膜の形成方法において、前記成膜対象の前記真空室への搬入の後に、前記酸素を含むガスの前記真空室への供給と停止とを行ってもよい。
上記構成によれば、酸素を含むガスの真空室への供給と停止と、その直後に行われる酸化アルミニウム膜の形成との間に、成膜対象の搬入と搬出とが行われないため、真空室の内部が、酸素を含むガスが供給された直後における酸化アルミニウム膜の形成までに、真空室の外部に開放されない。これにより、酸素を含むガスが供給された直後における酸化アルミニウム膜の形成において、酸素ガスの供給と停止とによる効果が得られやすい。
【0010】
上記酸化アルミニウム膜の形成方法において、全ての前記成膜間処理に、前記酸素を含むガスの前記真空室への供給と停止とを含んでもよい。
上記構成によれば、成膜間処理ごとに真空室に対して酸素を含むガスを供給するため、各酸化アルミニウム膜の形成に対して酸素を含むガスの供給による影響を与えることができる。それゆえに、酸素を含むガスが供給される頻度がより低い場合と比べて、成膜対象の数が増加するほど酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなることがより抑えられる。
【0011】
上記酸化アルミニウム膜の形成方法において、前記酸素を含むガスの供給と停止とを、前記酸素を含まないガスの前記真空室への供給の間に行ってもよい。
上記構成によれば、酸素を含むガスがターゲットをスパッタするためのガスとともに真空室に供給されるため、酸素を含むガスが真空室の全体に行き渡りやすくなる。それゆえに、酸素を含むガスを供給することの効果が、酸化アルミニウム膜の成膜速度に反映されやすくなる。
【0012】
上記酸化アルミニウム膜の形成方法では、前記酸素を含むガスの前記真空室への供給において、単位体積当たりの前記酸素を含むガスの供給量が、7.31×10
−5mol/m
3以上2.90×10
−4mol/m
3以下であってもよい。
【0013】
上記酸化アルミニウム膜の形成方法では、前記酸素を含むガスの前記真空室への供給において、単位体積当たりの前記酸素を含むガスの供給量が、7.31×10
−5mol/m
3以上4.54×10
−4mol/m
3以下であって、かつ、今回の形成時における前記真空室内の酸素を含むガスの分圧が1.29×10
−4Pa未満であってもよい。
【0014】
本願発明者らは、酸化アルミニウム膜の形成方法について鋭意研究するなかで、酸素を含むガスを真空室に供給することが以下の条件を満たすことによって、複数の基板間において、酸化アルミニウム膜の成膜速度におけるばらつきが抑えられることを見出した。
【0015】
すなわち、本願発明者らは、単位体積当たりの酸素を含むガスの供給量が、7.31×10
−5mol/m
3以上2.90×10
−4mol/m
3以下であることによって、複数の基板間において、酸化アルミニウム膜の成膜速度におけるばらつきが抑えられることを見出した。
【0016】
また、本願発明者らは、単位体積当たりの酸素を含むガスの供給量が、7.31×10
−5mol/m
3以上4.54×10
−4mol/m
3以下であって、かつ、プラズマ生成時における真空室内の酸素を含むガスの分圧が1.29×10
−4Pa未満であることによっても、上記と同等の効果が得られることを見出した。
【0017】
この点で、上記構成によれば、複数の基板間において、酸化アルミニウム膜の成膜速度におけるばらつきを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から
図10を参照して、酸化アルミニウム膜の形成方法を具体化した一実施形態を説明する。以下では、酸化アルミニウム膜の形成方法が実施されるスパッタ装置の構成、酸化アルミニウム膜の形成方法、および、実施例を順に説明する。
【0020】
[スパッタ装置]
図1を参照してスパッタ装置の構成を説明する。
図1が示すように、スパッタ装置10は、成膜空間11Sを区画する箱状を有した真空室11を備え、真空室11の内部には、成膜対象の一例である基板Sを支持する支持部12が位置している。支持部12は、例えばステージである。
【0021】
真空室11のうち、支持部12と対向する部位には、バッキングプレート13が固定され、バッキングプレート13のうち、支持部12と対向する面には、ターゲット14が固定されている。ターゲット14の主成分は酸化アルミニウムであり、ターゲット14のうち、95質量%以上がAl
2O
3であり、99質量%以上がAl
2O
3であることが好ましい。
【0022】
真空室11の外部であって、バッキングプレート13に対してターゲット14が位置する側とは反対側には、磁気回路15が位置している。磁気回路15は、ターゲット14のうち、支持部12と対向する面に漏洩磁場を形成する。磁気回路15は、ターゲット14と支持部12とが対向する方向に沿って延びる軸を中心に回転する機構を含んでもよい。こうした機構によれば、磁気回路15は、ターゲット14のうちで磁気回路15と対向する部位を変えることができる。
【0023】
真空室11は、真空室11の壁部における一部を貫通する搬出入口11aを有している。搬出入口11aを通じて、真空室11に対する基板Sの搬入と搬出とが行われる。なお、スパッタ装置10は、例えば複数の真空室を備えるマルチチャンバ型の成膜装置における1つの真空室を上述した真空室11として含む構成でもよい。
【0024】
この場合には、真空室11は、例えば、基板Sを搬送するための他の真空室にゲートバルブを介して接続され、真空室11には、他の真空室の内部に位置する搬送ロボットによって、基板Sが搬送される。
【0025】
真空室11には、真空室11の内部を排気する排気部16が接続され、排気部16は、例えば各種のポンプやバルブを含んでいる。真空室11にはさらに、スパッタガス供給部17、および、酸素ガス供給部18が接続されている。スパッタガス供給部17は、例えば、酸素を含まないガスの一例であるスパッタガスを所定の流量で真空室11の内部に供給するマスフローコントローラである。スパッタガスは、例えばアルゴン(Ar)ガスである。酸素ガス供給部18は、例えば、酸素を含むガスの一例である酸素ガスを所定の流量で真空室11の内部に供給するマスフローコントローラである。
【0026】
バッキングプレート13には高周波電源19が接続され、高周波電源19は、バッキングプレート13に高周波電圧を印加することによって、ターゲット14に高周波電圧を印加する。
【0027】
スパッタ装置10は制御部10Cを備え、制御部10Cは、排気部16、スパッタガス供給部17、酸素ガス供給部18、および、高周波電源19に電気的に接続され、排気部16、スパッタガス供給部17、酸素ガス供給部18、および、高周波電源19の駆動を制御する。
【0028】
なお、スパッタ装置10が上述したマルチチャンバ型の成膜装置に含まれる場合には、制御部10Cは、ゲートバルブおよび搬送ロボットに電気的に接続され、ゲートバルブの駆動と搬送ロボットの駆動とを制御することによって、真空室11への基板Sの搬送を制御してもよい。
【0029】
こうしたスパッタ装置10では、制御部10Cが排気部16を駆動することによって、真空室11を所定の圧力に減圧させる。次いで、基板Sが真空室11の内部に搬入された後、制御部10Cは、スパッタガス供給部17に真空室11にスパッタガスを供給させる。そして、制御部10Cは、高周波電源19を駆動してバッキングプレート13に電圧を印加させる。これにより、ターゲット14の周りにプラズマが生成されることで、ターゲット14がスパッタされる。結果として、基板Sの表面に酸化アルミニウム膜が形成される。
【0030】
[酸化アルミニウム膜の形成方法]
図2および
図3を参照して、酸化アルミニウム膜の形成方法を説明する。
酸化アルミニウム膜の形成方法は、酸化アルミニウムを主成分とするターゲット14を備えた単一の真空室11を用いて複数の基板Sにおける各基板Sに対して1回ずつ一連の処理を行う。一連の処理は、基板Sの搬入、スパッタガスの真空室11への供給、酸化アルミニウム膜の形成、プラズマの生成の停止、および、基板Sの搬出から構成されている。
【0031】
基板Sの搬入では、真空室11の外部に位置する基板Sを真空室11の内部に移す。スパッタガスの真空室11への供給では、真空室11内にプラズマを生成するためのガスであるスパッタガスを真空室11に供給する。酸化アルミニウム膜の形成は、スパッタガスを用いたプラズマの生成、および、プラズマを用いたターゲット14のスパッタから構成される。プラズマの生成の停止では、酸化アルミニウム膜を形成するためのプラズマの生成を停止する。基板Sの搬出では、真空室11の内部に位置する基板Sを真空室11の外部に移す。
【0032】
こうした一連の処理において、前回の酸化アルミニウム膜の形成後から、今回の酸化アルミニウム膜の形成前までの処理が成膜間処理である。すなわち、上述した処理のうち、前回の酸化アルミニウム膜が形成された後に、酸化アルミニウム膜が形成された基板Sを搬出する処理、および、今回の酸化アルミニウム膜を形成するための基板Sを真空室11に搬入する処理が、それぞれ成膜間処理に含まれる。
【0033】
酸化アルミニウム膜の形成方法は、連続する複数の成膜間処理のなかの少なくとも1つに、酸素ガスの真空室11への供給と停止とを含んでいる。
こうした酸化アルミニウム膜の形成方法によれば、前回の酸化アルミニウム膜の形成後と、今回の酸化アルミニウム膜の形成前との間に、酸素ガスを真空室11に供給するため、基板Sの数が増加するほど酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなる傾向を抑えることができる。
【0034】
しかも、酸化アルミニウム膜の形成方法では、基板Sの真空室11への搬入の後に、酸素ガスの真空室11への供給と停止とを行う。
酸素を含むガスの真空室11への供給と停止と、その直後に行われる酸化アルミニウム膜の形成との間に、成膜対象の搬入と搬出とが行われないため、真空室11の内部が、酸素ガスが供給された直後における酸化アルミニウム膜の形成までに、真空室11の外部に開放されない。これにより、酸素ガスが供給された直後における酸化アルミニウム膜の形成において、酸素ガスの供給と停止とによる効果が得られやすい。
【0035】
また、酸化アルミニウム膜の形成方法は、全ての成膜間処理に、酸素ガスの真空室11への供給と停止とを含んでいる。
酸化アルミニウム膜の形成方法では、成膜間処理ごとに真空室11に対して酸素ガスを供給するため、各酸化アルミニウム膜の形成に対して酸素ガスの供給による影響を与えることができる。それゆえに、酸素ガスが供給される頻度がより低い場合と比べて、基板Sの数が増加するほど酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなることがより抑えられる。
【0036】
酸化アルミニウム膜の形成方法では、酸素ガスの供給と停止とを、スパッタガスの真空室11への供給の間に行う。これにより、酸素ガスがスパッタガスとともに真空室11に供給されるため、酸素ガスが真空室11の全体に行き渡りやすくなる。それゆえに、酸素ガスを供給することの効果が、酸化アルミニウム膜の成膜速度に反映されやすくなる。
【0037】
一実施形態では、
図2が示すように、酸化アルミニウム膜の形成方法は、搬入工程(ステップS11)、供給工程(ステップS12)、形成工程(ステップS13)、および、搬出工程(ステップS14)を含んでいる。
【0038】
搬入工程では、真空室11の外部に位置する成膜前の基板Sを、真空室11の内部に搬入し、かつ、基板Sを支持部12に配置する。基板Sの搬入は、基板Sが真空室11の外部に位置する時点から、基板Sが真空室11の内部に位置する時点までの期間を含む。
【0039】
つまり、基板Sの搬入は、スパッタ装置10での処理の対象である複数の基板Sのうち、次にスパッタ装置10にて処理される基板Sが特定された状態で、スパッタ装置10がその特定の基板Sが搬入されることを待機している期間を含む。また、基板Sの搬入は、1つの基板Sを真空室11の外部から真空室11の内部に移すために、真空室11の外部と真空室11の内部との境界において、基板Sを移動させている期間を含む。
【0040】
供給工程では、制御部10Cが、基板Sが配置された成膜空間11Sの内部への酸素ガスの供給の開始と停止とを酸素ガス供給部18に行わせる。このとき、制御部10Cは、高周波電源19にターゲット14に対して高周波電圧を印加させないため、真空室11の内部には、酸素ガスを用いたプラズマが生成されない。さらに、制御部10Cは、酸素ガス供給部18に酸素ガスの供給を開始させると同時に、スパッタガス供給部17に真空室11の内部へのアルゴンガスの供給を開始させる。
【0041】
形成工程では、制御部10Cが、スパッタガス供給部17に真空室11に対してアルゴンガスの供給を継続させる。次いで、制御部10Cは、高周波電源19を駆動して、バッキングプレート13を介してターゲット14に高周波電圧を印加する。これにより、制御部10Cは、所定の厚さを有する酸化アルミニウム膜を基板Sの表面に形成する。
【0042】
搬出工程では、真空室11の内部に位置する成膜後の基板Sを真空室11の外部に搬出する。基板Sの搬出は、基板Sが真空室11の内部に位置する時点から、基板Sが真空室11の外部に位置する時点までの期間を含む。
【0043】
つまり、基板Sの搬出は、スパッタ装置10での処理の対象である複数の基板Sのうち、スパッタ装置10での処理が完了した特定の基板Sが真空室11の外部に移されることで、真空室11の内部に基板Sが位置しない状態で、スパッタ装置10が待機している期間を含む。また、基板Sの搬出は、1つの基板Sを真空室11の内部から真空室11の外部に移すために、真空室11の内部と真空室11の外部との境界において、基板Sを移動させている期間を含む。
【0044】
なお、基板Sの搬出が含む待機の期間と、基板Sの搬入が含む待機の期間とが切り替わる時点は、スパッタ装置10での処理対象が、m番目(m≦1)の基板Sからm+1番目に移った時点である。
【0045】
酸化アルミニウム膜の形成方法では、ステップS11からステップS14までの処理が行われた後に、制御部10Cが、スパッタ装置10にてn枚(n≦2)の基板Sが処理されたか否かを判断する(ステップS15)。制御部10Cが、n枚の基板Sが処理されたと判断したときには(ステップS15:YES)、酸化アルミニウム膜の形成が一旦終了される。一方で、制御部10Cがn枚の基板Sが処理されていないと判断したときには(ステップS15:NO)、ステップS11からステップS14までの処理が、n枚の基板に対する処理が行われるまで繰り返される。
【0046】
図3は、スパッタ装置10にて、1枚目の基板Sに酸化アルミニウム膜が形成されるときの排気部16、スパッタガス供給部17、酸素ガス供給部18、および、高周波電源19の駆動の態様が示されている。なお、スパッタ装置10において2枚目以降の基板Sに酸化アルミニウム膜が形成されるときには、以下に説明するタイミングt2からタイミングt6までの処理が所定の間隔で繰り返される。
【0047】
図3が示すように、タイミングt1において、制御部10Cが排気部16を駆動し、排気部16が所定の排気流量Fvで真空室11の内部を排気する。タイミングt1の後であって、タイミングt1に続くタイミングt2よりも前に、基板Sが真空室11の内部に搬入される。すなわち、タイミングt1からタイミングt2までの間に、上述した搬入工程が含まれる。
【0048】
タイミングt2において、制御部10Cが、スパッタガス供給部17と酸素ガス供給部18とにガスの供給を開始させる。これにより、スパッタガス供給部17が、アルゴンガスを所定の流量Faで真空室11の内部に供給する。また、酸素ガス供給部18が、酸素ガスを所定の流量Foで真空室11の内部に供給する。
【0049】
タイミングt3において、制御部10Cは、酸素ガス供給部18に酸素ガスの供給を停止させる。このとき、制御部10Cは、スパッタガス供給部17にタイミングt2にて供給させた流量Faと同じ流量Faで、スパッタガス供給部17にアルゴンガスを供給させ続ける。すなわち、タイミングt2からタイミングt3までの期間が、上述した供給工程である。
【0050】
供給工程において、真空室11の圧力は、アルゴンガスおよび酸素ガスが供給された状態において、0.1Pa以上2.5Pa以下であることが好ましい。なお、アルゴンガスおよび酸素ガスが供給される前の真空槽の圧力は、1×10
−6Pa以上1×10
−4Pa以下であることが好ましい。アルゴンガスの流量Faは、例えば35sccm以上200sccm以下である一方で、酸素ガスの流量Foは、4sccm以上10sccm以下である。アルゴンガスの流量Faは、酸素ガスの流量Foに対して大幅に大きいことが好ましく、例えば10倍以上大きいことが好ましい。こうした条件において、酸素ガスが真空室11に供給される時間は、2秒以上10秒以下であることが好ましい。
【0051】
また、供給工程では、単位体積当たりの酸素ガスの供給量が、7.31×10
−5mol/m
3以上2.90×10
−4mol/m
3以下であることが好ましい。あるいは、プラズマの生成時、言い換えればターゲットへの高周波電圧の印加を開始するときにおける真空室11内の酸素ガスの分圧が1.29×10
−4Pa未満であるときには、単位体積当たりの酸素ガスの供給量は、7.31×10
−5mol/m
3以上4.54×10
−4mol/m
3以下であってもよい。
【0052】
供給工程において、成膜空間11Sの単位体積当たりの酸素ガスの供給量が、上述した範囲に含まれることによって、酸化アルミニウム膜が形成された基板Sの数が増加するほど酸化アルミニウム膜の成膜速度が高まる傾向がより抑えられる。
【0053】
タイミングt4にて、制御部10Cが高周波電源19を駆動して、高周波電源19に所定の高周波電圧Vをターゲット14に印加させる。なお、タイミングt3からタイミングt4までの間は、真空室11に供給された酸素ガスが、排気部16によって真空室11の外部に排気される期間である。タイミングt5にて、制御部10Cは、高周波電源19にターゲット14への高周波電圧の印加を停止させる。すなわち、タイミングt4からタイミングt5までの期間が、上述した形成工程である。
【0054】
タイミングt6にて、制御部10Cは、スパッタガス供給部17にアルゴンガスの供給を停止させる。制御部10Cは、タイミングt2からタイミングt6までの間にわたって、スパッタガス供給部17に同じ流量Faのアルゴンガスを真空室11の内部に供給させる。
【0055】
そのため、タイミングt2からタイミングt4までの期間においてアルゴンガスを供給しない場合や、タイミングt2からタイミングt4までの間にアルゴンガスの流量が変わる場合と比べて、以下の効果を得ることができる。
【0056】
すなわち、タイミングt2からタイミングt4までの期間は、アルゴンガスの供給を開始してからアルゴンガスからプラズマが生成されるまでの期間である。この期間においてアルゴンガスの流量が一定に保たれているため、アルゴンガスからプラズマが生成されるときには、アルゴンガスの流量が安定している。それゆえに、アルゴンガスからプラズマが生成されやすくなる。
【0057】
また、タイミングt2からタイミングt6までの間にわたって、酸素ガスの流量Foよりも大幅に大きい流量Faでアルゴンガスが真空室11に供給される。そのため、タイミングt2からタイミングt3の間において、酸素ガスの供給の開始と停止とが行われても、成膜空間11Sの内部において圧力が変わることが抑えられる。
【0058】
[実施例]
図4から
図10を参照して、実施例1から実施例6および比較例1を説明する。
実施例1から実施例6および比較例1では、上述したタイミングt2からタイミングt6におけるアルゴンガスの流量を200sccmに設定し、タイミングt4からタイミングt5における高周波電源の出力を4000Wに設定し、かつ、タイミングt4からタイミングt5までの時間を129秒に設定した。
【0059】
実施例1から実施例4では、タイミングt2からタイミングt3における酸素ガスの流量を4sccmに設定し、実施例5および実施例6では、タイミングt2からタイミングt3における酸素ガスの流量を10sccmに設定した。また、タイミングt2からタイミングt3において、真空室の内部の圧力を2.3Paに設定した。
【0060】
なお、実施例1から実施例6では、タイミングt2からタイミングt4までの時間を15秒に設定した。一方で、タイミングt2からタイミングt3までの時間であって酸素ガスを供給する時間を、実施例1および実施例5では2秒、実施例2および実施例6では5秒、実施例3では8秒、実施例4では10秒にそれぞれ設定した。これに対して、比較例1では、酸素ガスの供給を行わなかった。
【0061】
なお、酸化アルミニウム膜の形成に用いたスパッタ装置において、真空室の容積は0.082m
3であった。そのため、各実施例および比較例において、真空室に供給された酸素ガスの流量と酸素ガスを供給した時間とを乗算した値が表1に示す各値であるとき、真空室に供給された酸素ガスのモル数、および、単位体積当たりのモル数(mol/m
3)、言い換えれば単位体積当たりの供給量は、表1に示す通りであった。
【0062】
【表1】
表1が示すように、実施例1におけるモル数が0.60×10
−5molであり、単位体積当たりのモル数が7.31×10
−5mol/m
3であった。実施例2および実施例5におけるモル数が1.49×10
−5molであり、単位体積当たりのモル数が1.81×10
−4mol/m
3であった。実施例3におけるモル数が2.38×10
−5molであり、単位体積当たりのモル数が2.90×10
−4mol/m
3であった。
【0063】
実施例4におけるモル数が2.98×10
−5molであり、単位体積当たりのモル数が3.63×10
−4mol/m
3であった。実施例6におけるモル数が3.72×10
−5molであり、単位体積当たりのモル数が4.54×10−
4mol/m
3であった。
【0064】
各実施例および比較例1では、25枚の基板に対して連続して酸化アルミニウム膜を形成し、1枚目、5枚目、10枚目、15枚目、16枚目、20枚目、および、25枚目のそれぞれの基板に形成された酸化アルミニウム膜の厚さを測定した。また、各実施例および比較例1において、測定した酸化アルミニウム膜の厚さに基づき、線形近似曲線を作成した。
【0065】
なお、以下において参照する
図4から
図10では、酸化アルミニウム膜の厚さと処理された基板の枚数との関係を示すグラフと、各グラフにおける線形近似曲線とが重ねて示されている。
【0066】
図4が示すように、実施例1での酸化アルミニウム膜の厚さは、1枚目から順に525.23Å、526.76Å、525.57Å、525.38Å、528.28Å、528.97Å、および、527.92Åであることが認められた。また、線形近似曲線の傾きが正であること、すなわち、酸化アルミニウム膜の成膜速度は、酸化アルミニウム膜の形成を繰り返すことに伴って高くなる傾向を有することが認められた。
【0067】
図5が示すように、実施例2での酸化アルミニウム膜の厚さは、1枚目から順に525.76Å、527.19Å、526.48Å、525.32Å、526.32Å、526.47Å、および、525.51Åであることが認められた。また、線形近似曲線の傾きが負であること、すなわち、酸化アルミニウム膜の成膜速度は、酸化アルミニウム膜の形成を繰り返すことに伴って低くなる傾向を有することが認められた。
【0068】
図6が示すように、実施例3での酸化アルミニウム膜の厚さは、1枚目から順に542.56Å、544.39Å、543.42Å、542.67Å、545.04Å、545.74Å、および、544.18Åであることが認められた。また、線形近似曲線の傾きが正であること、すなわち、酸化アルミニウム膜の成膜速度は、酸化アルミニウム膜の形成を繰り返すことに伴って高くなる傾向を有することが認められた。
【0069】
図7が示すように、実施例4での酸化アルミニウム膜の厚さは、1枚目から順に520.45Å、520.86Å、518.19Å、516.09Å、517.59Å、517.50Å、および、516.19Åであることが認められた。また、線形近似曲線の傾きが負であること、すなわち、酸化アルミニウム膜の成膜速度は、酸化アルミニウム膜の形成を繰り返すことに伴って低くなる傾向を有することが認められた。
【0070】
図8が示すように、実施例5での酸化アルミニウム膜の厚さは、1枚目から順に546.27Å、548.09Å、546.90Å、547.03Å、547.73Å、547.60Å、および、547.73Åであることが認められた。また、線形近似曲線の傾きが正であること、すなわち、酸化アルミニウム膜の成膜速度は、酸化アルミニウム膜の形成を繰り返すことに伴って高くなる傾向を有することが認められた。
【0071】
図9が示すように、実施例6での酸化アルミニウム膜の厚さは、1枚目から順に544.65Å、546.82Å、544.91Å、543.96Å、546.69Å、547.11Å、および、546.59Åであることが認められた。また、線形近似曲線の傾きが正であること、すなわち、酸化アルミニウム膜の成膜速度は、酸化アルミニウム膜の形成を繰り返すことに伴って高くなる傾向を有することが認められた。
【0072】
図10が示すように、比較例1での酸化アルミニウム膜の厚さは、1枚目から順に553.23Å、556.35Å、555.27Å、555.47Å、555.58Å、557.44Å、および、556.80Åであることが認められた。また、線形近似曲線の傾きが正であること、すなわち、酸化アルミニウム膜の成膜速度は、酸化アルミニウム膜の形成を繰り返すことに伴って高くなる傾向を有することが認められた。
【0073】
各実施例および比較例1の各々において、1枚目から25枚目の基板に形成された酸化アルミニウム膜の平均値を算出した。また、25枚目における酸化アルミニウム膜の厚さである最終値から平均値を減算した値を膜厚の増加量として算出した。これらの算出結果は、以下の表2に示す通りであった。
【0074】
【表2】
表2が示すように、増加量は、実施例1において1.05Å、実施例2において−0.64Å、実施例3において0.18Å、実施例4において−1.93Å、実施例5において0.26Å、実施例6において0.78Å、比較例1において1.07Åであることがそれぞれ認められた。
【0075】
つまり、実施例1から実施例6によれば、増加量が小さくなること、すなわち、処理された基板の枚数が増加することに伴って酸化アルミニウム膜の成膜速度が次第に大きくなる傾向が抑えられることが認められた。これに対して、比較例1では、実施例1から実施例6の全てよりも増加量が大きいこと、すなわち、処理された基板の枚数が増加することに伴って酸化アルミニウム膜の成膜速度が次第に高くなる傾向を有することが認められた。
【0076】
各実施例および比較例1の各々において、1枚目から25枚目の基板に形成された酸化アルミニウム膜のうち、最大の膜厚から最小の膜厚を引いた値である膜厚差ΔT(Å)を算出した。膜厚差ΔTの算出をした結果は、以下の表3に示す通りであった。
【0077】
【表3】
表3が示すように、膜厚差ΔTは、実施例1において3.74Å、実施例2において1.87Å、実施例3において3.18Å、実施例4において4.77Å、実施例5において1.82Å、実施例6において3.15Å、比較例1において4.21Åであることがそれぞれ認められた。
【0078】
つまり、実施例1から実施例3、実施例5、および、実施例6によれば、処理された基板の枚数が増加することに伴って酸化アルミニウム膜の成膜速度が次第に大きくなることに起因して酸化アルミニウム膜の成膜速度がばらつくことが抑えられることが認められた。すなわち、単位体積当たりの酸素ガスの供給量が、7.31×10
−5mol/m
3以上2.90×10
−4mol/m
3以下であれば、処理された基板の数が増加することに伴って酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなる傾向が抑えられることに加えて、複数の基板間における酸化アルミニウム膜の成膜速度のばらつきも抑えられることが認められた。
【0079】
なお、実施例4では、高周波電圧をターゲットに印加する直前において、すなわち上述したタイミングt4の直前において真空室内の酸素ガスの分圧を測定したところ、1.74×10
−4Paであることが認められた。これに対して、実施例6では、実施例4よりも単位時間当たりの酸素ガスの供給量が実施例4よりも大きい一方で、実施例4よりも酸素ガスが排気される期間が長いため、高周波電圧をターゲットに印加する直前における酸素ガスの分圧が、4.66×10
−5Paであることが認められた。
【0080】
更に、実施例6において排気時間を変更して検証したところ、高周波電圧をターゲットに印加する直前における酸素ガスの分圧が1.29×10
−4未満であれば、複数の基板間における酸化アルミニウム膜の成膜速度のばらつきが抑えられることが認められた。つまり、単位体積当たりの酸素ガスの供給量が、4.54×10
−4mol/m
3であっても、プラズマ生成時における酸素ガスの分圧が、1.29×10
−4Pa未満であれば、複数の基板間における酸化アルミニウム膜の成膜速度のばらつきが抑えられることが認められた。
【0081】
また、実施例4よりも単位時間当たりの酸素ガスの供給量が小さく、かつ、酸素ガスが排気される期間の長い実施例では、高周波電圧をターゲットに印加する直前における酸素ガスの分圧が、1.29×10
−4Paよりも小さいことが認められた。具体的には、実施例1では3.03×10
−5Paであり、実施例2では3.62×10
−5Paであり、実施例3では5.61×10
−5であり、実施例5では、3.43×10
−5Paであることが認められた。
【0082】
以上説明したように、酸化アルミニウム膜の形成方法の一実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)前回の酸化アルミニウム膜の形成後と、今回の酸化アルミニウム膜の形成前との間に、酸素ガスを真空室11に供給するため、処理された基板Sの数が増加するほど酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなる傾向を抑えることができる。
【0083】
(2)酸素ガスの真空室11への供給と停止と、その直後に行われる酸化アルミニウム膜の形成との間に、基板Sの搬入と搬出とが行われないため、真空室11の内部が、酸素ガスが供給された直後における酸化アルミニウム膜の形成までに、真空室11の外部に開放されない。これにより、酸素ガスが供給された直後における酸化アルミニウム膜の形成において、酸素ガスの供給と停止とによる効果が得られやすい。
【0084】
(3)成膜間処理ごとに真空室11に対して酸素ガスを供給するため、各酸化アルミニウム膜の形成に対して酸素ガスの供給による影響を与えることができる。それゆえに、酸素ガスが供給される頻度がより低い場合と比べて、基板Sの数が増加するほど酸化アルミニウム膜の成膜速度が高くなることがより抑えられる。
【0085】
(4)酸素ガスがスパッタガスとともに真空室11に供給されるため、酸素ガスが真空室11の全体に行き渡りやすくなる。それゆえに、酸素ガスを供給することの効果が、酸化アルミニウム膜の成膜速度に反映されやすくなる。
【0086】
(5)単位体積当たりの酸素ガスの供給量が、7.31×10
−5mol/m
3以上2.90×10
−4mol/m
3以下であることによって、複数の基板間において、酸化アルミニウム膜の成膜速度のばらつきを抑えることができる。
【0087】
(6)単位体積当たりの酸素ガスの供給量が、7.31×10
−5mol/m
3以上4.54×10
−4mol/m
3以下であって、かつ、プラズマ生成時の酸素ガスの分圧が1.29×10
−4Pa未満であることによって、複数の基板間において、酸化アルミニウム膜の成膜速度のばらつきを抑えることができる。
【0088】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
・単位体積当たりの酸素ガスの供給量が7.31×10
−5mol/m
3以上4.54×10
−4mol/m
3以下の範囲であっても、プラズマ生成時における酸素ガスの分圧が、1.29×10
−4Pa以上でもよい。こうした構成であっても、成膜間処理に酸素ガスの供給と停止とが含まれる以上は、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0089】
・単位体積当たりの酸素ガスの供給量は、7.31×10
−5mol/m
3よりも小さくてもよいし、2.90×10
−4mol/m
3よりも大きくてもよい。こうした構成であっても、成膜間処理に酸素ガスの供給と停止とが含まれる以上は、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0090】
・酸素ガスは、スパッタガスとともに真空室11に供給されなくてもよい。すなわち、成膜間処理における酸素ガスの供給では、酸素ガスのみが真空室11に供給されてもよい。こうした構成であっても、成膜間処理において真空室11に酸素ガスが供給されるため、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0091】
・各成膜間処理が酸素ガスの供給と停止とを含まなくともよく、連続する複数の成膜間処理のうち、少なくとも1つの成膜間処理が酸素ガスの供給と停止とを含んでいればよい。こうした構成であれば、酸化アルミニウム膜の形成が複数回繰り返されることに伴って、酸化アルミニウム膜の膜厚が次第に大きくなる傾向を、酸素ガスの供給と停止とを行うごとに抑えることは可能である。
【0092】
・酸素ガスの供給と停止とは、成膜間処理のうち、スパッタガスの供給される処理以外である基板Sの搬入および基板Sの搬出のいずれかに含まれてもよい。なお、上述したように、基板Sの搬入は、基板Sの搬入を待機している期間と、基板Sの搬入を行っている期間との両方を含むため、酸素ガスの供給と停止とはこれらのいずれの期間において行われてもよい。また、基板Sの搬出は、基板Sを搬出した後に待機している期間と、基板Sの搬出を行っている期間との両方を含むため、酸素ガスの供給と停止とはこれらのいずれの期間において行われてもよい。こうした構成であっても、成膜間処理において酸素ガスの供給と停止とが行われる以上は、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。
【0093】
・スパッタガスはアルゴンガスに限らず、例えば他の希ガスなどであってもよい。要は、スパッタガスは、酸素を含まず、かつ、酸化アルミニウムを主成分とするターゲットのスパッタによって成膜対象に酸化アルミニウム膜を形成することが可能なガスであればよい。
【0094】
・成膜間処理において供給される酸素を含むガスは、上述した酸素ガスに限らず、例えばオゾン、H
2Oでもよく、NO
2、N
2O、CO
2などであってもよい。これらのガスを用いた場合であっても、成膜間処理にて真空室11に供給されたガスが酸素を含む以上は、上述した(1)と同等の効果を得ることはできる。また、酸素を含むガスと同時に窒素ガスを供給してもよい。