特許第6663232号(P6663232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6663232新規結晶構造を有するアジルサルタン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663232
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】新規結晶構造を有するアジルサルタン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 413/10 20060101AFI20200227BHJP
【FI】
   C07D413/10CSP
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-14006(P2016-14006)
(22)【出願日】2016年1月28日
(65)【公開番号】特開2017-132719(P2017-132719A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】森 博志
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−530805(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103319473(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Kα線を用いるX線回折により、少なくとも2θ=9.4°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを与え、示差走査熱量(DSC)測定で決定される融点が115℃以上135℃以下であることを特徴とするアジルサルタンのM型結晶。
【請求項2】
アジルサルタンをジメチルホルムアミドに溶解することで得た溶液に、ケトン類、或いはエステル類の溶媒を加えてアジルサルタンを析出させることを特徴とする請求項1記載のアジルサルタンのM型結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な結晶構造を有するアジルサルタン(化学名称:1−[[2′−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1,2,4− オキサジアゾール−3−イル)[1,1′−ビフェニル−4−イル]メチル]−2−エトキシ−1H−ベンゾイミダゾール−7−カルボン酸)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【化1】
【0004】
で示されるアジルサルタン(化学名称:1−[[2′−(4,5−ジヒドロ−5−オキソ−1,2,4− オキサジアゾール−3−イル)[1,1′−ビフェニル−4−イル]メチル]−2−エトキシ−1H−ベンゾイミダゾール−7−カルボン酸)は、アンジオテンシンII受容体拮抗薬として優れた効果を示す治療薬として非常に有用な化合物である(特許文献1)。
【0005】
このアジルサルタンは、結晶多形を有することが知られている。ここで、結晶多形を有するとは、同一分子において結晶構造が異なる複数の結晶形が存在することを意味する。結晶多形における各結晶形間では、外観、溶解性、融点、溶出率、バイオアベイラビリティー、安定性、有効性などの医薬品としての品質に関係する特性が異なることが多い。
【0006】
アジルサルタンは、通常、下記式(2)
【0007】
【化2】
【0008】
で示されるアジルサルタンメチルエステル(化学名称:メチル−1−[[2′−(5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1,2,4− オキサジアゾール−3−イル)ビフェニル−4−イル]メチル]−2−エトキシ−1H−ベンゾイミダゾール−7−カルボキシレート)をアルカリ性水溶液中で加水分解することによって合成される(特許文献1、非特許文献1、2参照)。
【0009】
特許文献1では、加水分解後の反応溶液から溶媒を留去して得られた残渣に酢酸エチルを加えて結晶化することで、156〜157℃の融点を有する無色プリズム晶のアジルサルタンを得ることが記載されている。
【0010】
また、非特許文献1では、反応後の溶液を中和処理して得られた結晶をエタノールで洗浄することで、212〜214℃の融点を有する無色プリズム晶のアジルサルタンを得ることが記載されている。
【0011】
さらに、非特許文献2では、アセトンと水の混合溶媒からアジルサルタンの粗結晶を取得した後、アセトン中に懸濁させて1時間撹拌することで、融点208〜211℃の白色結晶のアジルサルタンを得る方法が記載されている。
【0012】
しかしながら、これらの方法によって合成されたアジルサルタンの各結晶は比較的低い溶解度、バイオアベイラビリティーであることが報告されている(特許文献2)。
【0013】
そのため、特許文献2では、より優れた物理化学的性質を有する、特に相対的に高い溶解度、バイオアベイラビリティー及び/又は有効性を有するアジルサルタンの結晶形A〜Kの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許2645962号公報
【特許文献2】特表2014−530805号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー、(米国)、1996年、vol.39、p.5228−5235
【非特許文献2】オーガニック プロセス リサーチ アンド ディベロップメント、(米国)2013年、Vol.17、p.77−86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
一般的に化合物を医薬品原薬として用いる場合には非常に高純度のものが望まれており、精製効果が高い、有機溶媒を用いた再結晶法等の方法が採用される場合が多い。
【0017】
しかしながら、本発明者が特許文献1、および非特許文献1、2に記載の方法でアジルサルタンを合成したところ、得られたアジルサルタンの各結晶は、有機溶媒に対して非常に難溶性であることが分かった。さらに、特許文献2に記載の方法でアジルサルタンの結晶形A〜Kを合成したところ、酸性水溶液に対する溶解度は、特許文献1、および非特許文献1、2に記載の方法で得られた従来の結晶に比べて改善されているものの、有機溶媒に対する溶解度は低いままであり、従来のアジルサルタンの結晶と同様、精製効果の高い有機溶媒を用いた精製操作を行う場合には、多量の溶媒が必要となるため、工業的に精製を行う場合には大きな問題があった。
【0018】
そのため、有機溶媒に対して可溶であって、有機溶媒を用いた再結晶法が採用可能なアジルサルタンの結晶の開発が望まれていた。
【0019】
したがって、本発明の目的は、有機溶媒への溶解性が改善された、新規な結晶形を有するアジルサルタンの結晶、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った。その結果、アジルサルタンをジメチルホルムアミドに溶解して得た溶液に、ケトン類、或いはエステル類の溶媒を加えて析出させることで得たアジルサルタンの結晶は、その結晶形が従来の結晶形とは異なる結晶形態であり、メタノールやエタノールなどのアルコール類や酢酸エチルなどのエステル類を含む、様々な溶媒に対しての溶解度が非常に高い結晶であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち、本発明は、Cu−Kα線を用いるX線回折により、少なくとも2θ=9.4°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを与える結晶構造を有し、示差走査熱量(DSC)測定で決定される融点が115℃以上135℃以下であるアジルサルタンM型結晶である。
【0023】
また、本発明は、アジルサルタンをジメチルホルムアミドに溶解することで得た溶液に、ケトン類、或いはエステル類の溶媒を加えてアジルサルタンM型結晶を析出させることを特徴とするアジルサルタンM型結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の方法により得られたアジルサルタンM型結晶は、新規な結晶構造を有しており、既知のアジルサルタン結晶と比較して、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類の各有機溶媒に対する溶解度が極めて高い。したがって、アジルサルタンM型結晶は、再結晶時の有機溶媒の必要量が少量で済み、精製効率が高い有機溶媒を用いた精製操作が容易に可能となり、その工業的利用価値は高い。特に高純度の原薬を必要とする医薬品等の中間体として、最適に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1において製造された本発明のアジルサルタンM型結晶のX線回折チャートである。
図2】実施例1において製造された本発明のアジルサルタンM型結晶のDSCチャートである。
図3】比較例1において製造された従来のアジルサルタン結晶(特許文献2:結晶形A)のX線回折チャートである。
図4】比較例1において製造された従来のアジルサルタン結晶(特許文献2:結晶形A)のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、上記本発明の方法について、順を追って説明する。
【0027】
(アジルサルタンM型結晶)
本発明のアジルサルタンM型結晶は、Cu−Kα線を用いるX線回折により、少なくとも2θ=9.4°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを有する化合物である。この場合、X線回折角の測定誤差は、±0.2°まで許容される。このアジルサルタンM型結晶のX線回折測定結果を図1に示した。
【0028】
前記アジルサルタンM型結晶は、下記の実施例において詳細に説明するが、特許文献1、2、非特許文献1、2に記載されている既知のアジルサルタン結晶と比較して、メタノールやエタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンなどのケトン類、テトラヒドロフランなどのエーテル類の有機溶媒に対する溶解性が改善されている。具体的には、室温において、アジルサルタンM型結晶は、既知のアジルサルタン結晶よりも同量のメタノールに約7〜10倍溶解させることができる。
【0029】
また、本発明におけるアジルサルタンM型結晶は既知のアジルサルタン結晶と比較して最も低い融点を示し、示差走査熱量(DSC)測定で決定される融点が115℃以上135℃以下である。本発明において、示差走査熱量(DSC)測定で決定される融点は測定により得られた吸熱ピークのピークトップ温度を指す。
【0030】
(アジルサルタンM型結晶の製造方法)
本発明におけるアジルサルタンM型結晶は、アジルサルタンをジメチルホルムアミドに溶解することで得た溶液に、ケトン類、或いはエステル類の溶媒を加えてアジルサルタンM型結晶を析出させることで取得することが出来る。
【0031】
本発明の製造方法により得られるアジルサルタンM型結晶は、新規な結晶構造を有しており、既知のアジルサルタン結晶と比較して、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類の有機溶媒に対する溶解度が極めて高い。
【0032】
(アジルサルタン)
本発明において使用されるアジルサルタンは、特に制限されず、公知の方法で製造されたものを使用することができる。例えば、特許文献1に記載の方法、すなわち、アジルサルタンメチルエステル(化学名称:メチル−1−[[2′−(5−オキソ−4,5−ジヒドロ−1,2,4− オキサジアゾール−3−イル)ビフェニル−4−イル]メチル]−2−エトキシ−1H−ベンゾイミダゾール−7−カルボキシレート)をメタノールと水酸化リチウム水溶液の混合溶液中で3時間、加熱還流しながら反応させることによって製造することができる(特許文献1、実施例1eを参照)。
【0033】
本発明において使用されるアジルサルタンは、一旦溶液状態とするため、その結晶形などは特に限定されず、たとえば非特許文献1、2および特許文献1、2に記載の結晶形、アモルファス、有機アミン塩またはこれらが混合した形態であってもよく、粉末、塊状物、またはこれらが混合した形状であってもよく、無水物、水和物、溶媒和物またはこれらが混合した形態であってもよく、水和物または溶媒和物であるときの水または溶媒の分子数は特に制限されない。また、アジルサルタンM型結晶の製造時にジメチルホルムアミドとケトン類、或いはエステル類の溶媒を用いることから、当該有機溶媒を含む湿体であってもよく、その他の溶媒についても、結晶化の際に影響を及ぼさない範囲、具体的には、当該アジルサルタンの50質量%以下の量で残留していてもよいが、当該有機溶媒以外の溶媒を含まないことが最も好ましい。また、使用するアジルサルタンの純度は特に制限されず、上記製造方法によって得られたものをそのまま使用することができる。ただし、最終的に得られるアジルサルタンの結晶の純度をより高くするために、一般的な精製方法、例えば再結晶やリスラリー、カラムクロマトグラフィーなどの方法により、必要に応じて1回以上精製したものを、アジルサルタンとして利用することもできる。
【0034】
具体的には、下記の実施例で記載した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の条件で測定した際、アジルサルタンのピーク面積割合が95%以上であるアジルサルタンを対象とすることが好ましい。また、有機溶媒に対して溶解度が高い結晶を得ることを目的として、前記HPLCの純度測定において、アジルサルタンのピーク面積割合が100%となるものを使用することもできる。
【0035】
(アジルサルタン溶液の調製方法)
本発明による方法は、まずアジルサルタンをジメチルホルムアミドに溶解することでアジルサルタン溶液を得る。この際、使用するジメチルホルムアミドは特に制限されることなく、市販のものをそのまま用いることができる。ジメチルホルムアミドの使用量は、使用するアジルサルタンの結晶形により適宜決定すれば良いが、一般的にアジルサルタン1gに対して、0.5mL以上10mL以下とすればよく、ジメチルホルムアミドの使用量が多くなると、収率が低下するため、0.5mL以上5mL以下にて溶解することが好ましい。なお、本発明における溶媒の体積は25℃におけるものとする。また、アジルサルタンを溶解させる際の温度は、使用するアジルサルタンの結晶形やジメチルホルムアミドの量によって適宜決定すればよく、10℃以上50℃以下の範囲で溶解することが好ましい。なお、当然のことながら、完全に溶解しないものが存在する場合には、溶解しないものを濾別して処理することもできる。さらに、本発明において溶液を得る方法は、特に制限されず、アジルサルタンとジメチルホルムアミドとを混合して溶液を調整すれば良く、混合する方法や順序も特に制限されない。
【0036】
(アジルサルタンM型結晶の結晶化)
本発明による方法は、得られたアジルサルタンの溶液にケトン類、或いはエステル類の溶媒を加えてアジルサルタンM型結晶を析出させることを特徴とする。本方法を採用することで、高収率にて有機溶媒への溶解度が改善されたアジルサルタンM型結晶を取得することができる。本発明においてアジルサルタン溶液に加える溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、或いは酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル類から選択することができるが、より高純度のアジルサルタンを取得するためにはエステル類の溶媒を加えることが好ましく、その中でも酢酸エチルを使用することが最も好ましい。また、本発明においては、これらケトン類の溶媒とエステル類の溶媒とを混合して加えることもできる。本発明においては、ケトン類、或いはエステル類の溶媒を加えてアジルサルタンを析出させることで、有機溶媒に対する溶解性が向上したアジルサルタンM型結晶を析出させることができる。
【0037】
本発明において、加えるケトン類、或いはエステル類の溶媒の使用量は、選択する溶媒の種類により適宜決定すればよく、通常、上記アジルサルタン溶液の調製で使用したジメチルホルムアミド1mLに対して1mL以上50mL以下とすればよく、収率、操作性を考慮すると5mL以上20mL以下とすることが好ましい。この際、ケトン類、或いはエステル類の溶媒を加える温度は特に制限されず、アジルサルタンがジメチルホルムアミドに溶解したことを確認した後、当該温度にてすぐに加えることもできるが、30℃以下で加えることがより好ましい。30℃以下で加えることにより、熱分解による不純物の増加を抑制することができ、得られるアジルサルタンM型結晶の純度もより高純度となる。また、ケトン類、或いはエステル類の溶媒を加える方法も特に制限されず、一度で全量加える方法、数回に分割して加える方法のどちらも採用することができる。本発明では、ケトン類、或いはエステル類の溶媒を加えた後、一定温度にて撹拌することでアジルサルタンM型結晶を析出させる。この際に保持する温度は−5℃以上30℃以下とすればよく、より高収率にてアジルサルタンを取得するためには、0℃以上10℃以下で保持することが好ましい。また、保持する時間は、保持する温度により適宜決定すればよいが、通常5時間以上とすることが好ましい。また、この際、アジルサルタンの結晶が析出しにくい場合には、種結晶を添加することもできる。
【0038】
このようにして析出したアジルサルタンM型結晶は、ろ過や遠心分離などにより固液分離した後、自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥などの方法で乾燥することにより単離することが出来る。
【0039】
本方法にて取得したアジルサルタンは、新規な結晶構造を有したアジルサルタンM型結晶である。本発明のアジルサルタンM型結晶は、有機溶媒に対する溶解度が改善されており、既知の結晶形と比較してアルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類の溶媒に対する溶解度が極めて高い。したがって、アジルサルタンM型結晶を対象として精製操作を行う場合には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類の各溶媒を用いて、容易に再結晶等の精製操作を行うことができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。
【0041】
先ず、アジルサルタンの溶解性の評価、アジルサルタンの定量、および純度の測定、粉末X線回折(XRD)の測定、示差走査熱量計(DSC)を用いた融点の測定は、以下の方法でおこなった。
【0042】
<アジルサルタンの溶解性評価>
1gのアジルサルタンをナスフラスコに量りとり、室温条件下、5mLの有機溶媒を加えた後、スターラーピースを用いて1時間攪拌を行った。その後、30分間静置して得られた飽和溶液中のアジルサルタン量を、下記<アジルサルタンの純度の測定>における条件と同じ条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて検量線法により定量した。
【0043】
<アジルサルタンの純度の測定>
装置:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
機種:2695−2489−2998(Waters社製)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:210nm)
カラム:Kromasil C18、内径4.6mm、長さ15cm(粒子径5μm)(AkzoNobel社製)
カラム温度:30℃一定
サンプル温度:25℃一定
移動相A:アセトニトリル
移動相B:15mMリン酸二水素カリウム水溶液(pH=2.5 リン酸にて調整)
移動相の送液:移動相A,Bの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
【0044】
【表1】
【0045】
流速:1.0mL/min
測定時間:40分
上記条件において、アジルサルタンは約7.3分にピークが確認される。以下の実施例、比較例において、アジルサルタンの純度は、すべて、上記条件で測定される全ピークの面積値(溶媒由来のピークを除く)の合計に対する各化合物のピーク面積値の割合である。
【0046】
<アジルサルタンの結晶形の測定>
装置:X線回折装置(XRD)
機種:SmartLab(株式会社リガク製)
測定方法:ASC6 BB Dtex
X 線出力:40kV−30mA
波長:CuKa/1.541882Å
【0047】
<アジルサルタンの融点の測定>
装置:示差走査熱量計(DSC)
機種:DSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)
昇温条件:5℃/分
ガス:アルゴン
【0048】
製造例1
(アジルサルタンの製造:特許文献1)
直径15cmの2枚撹拌翼を備えた5000mL四つ口フラスコにアジルサルタンメチルエステル100g、メタノール730mLを入れ、撹拌しながら加熱溶解した。そこに2N水酸化リチウム水溶液590mLを添加し、還流温度まで昇温した後、3時間反応を行った。得られた反応溶液を室温まで冷却し、2N塩酸水溶液を用いて反応液のpHを3に調製した。該反応溶液を濃縮して、得られた残渣に水1200mL、ジクロロメタン3000mLを加えて30分間撹拌、15分間静置した後、ジクロロメタン層を分液により分取した。得られたジクロロメタン溶液を濃縮して、得られた残渣に酢酸エチル2000mLを加えて20〜30℃で終夜撹拌した。次いで、減圧濾過して析出した結晶を分取し、50℃で乾燥して、82.5gのアジルサルタンの無色プリズム晶を得た(アジルサルタン純度:96.12%)。このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると2θ=7.6°、9.3°、17.4°、19.5°、21.3°に特徴的なピークを与える結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は157℃であった。
【0049】
(溶解性評価)
製造例1で得られたアジルサルタンの無色プリズム晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:15.8g/L、酢酸エチル:1.3g/L、アセトン:1.9g/L、テトラヒドロフラン:5.9g/Lであった。
【0050】
製造例2
(アジルサルタンの製造:非特許文献1)
直径10cmの2枚撹拌翼を備えた1000mL四つ口フラスコにアジルサルタンメチルエステル50g、0.4N水酸化ナトリウム水溶液780mLを入れ、70℃まで昇温した後、同温度にて1.5時間反応を行った。得られた反応溶液を室温まで冷却し、2N塩酸水溶液を用いて反応液のpHを3に調製した。析出したアジルサルタン結晶を減圧濾過により濾別した後、エタノールを用いてアジルサルタン結晶を洗浄した。得られたアジルサルタン湿体を50℃で乾燥して、44.0gのアジルサルタンの無色プリズム晶を得た(アジルサルタン純度:95.58%)。このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると2θ=9.1°、9.6°、18.2°、21.8°、24.4°に特徴的なピークを与える結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は212℃であった。
【0051】
(溶解性評価)
製造例2で得られたアジルサルタンの無色プリズム晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:11.1g/L、酢酸エチル:1.1g/L、アセトン:1.5g/L、テトラヒドロフラン:5.6g/Lであった。
【0052】
実施例1
直径2.5cmの2枚撹拌翼を備えた100mL三つ口フラスコに製造例1で得られたアジルサルタン5gを量りとり、ジメチルホルムアミド10mLを入れ、30℃で加熱溶解した。得られたアジルサルタン溶液に酢酸エチル50mLを加えた後、5℃まで冷却し、終夜撹拌した。次いで、減圧濾過して析出した結晶を分取し、50℃で乾燥して、4.9gのアジルサルタンの結晶を得た(アジルサルタン純度:99.14%)。このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると、図1に示すX線回折チャートが得られ、この結晶は2θ=9.3°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを与えるM型結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は128℃であった(図2)。
【0053】
(溶解性評価)
実施例1で得られたアジルサルタンM型結晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:121.9g/L、酢酸エチル:110.1g/L、アセトン:113.8g/L、テトラヒドロフラン:110.4g/Lであった。
【0054】
実施例2
直径2.5cmの2枚撹拌翼を備えた100mL三つ口フラスコに製造例2で得られたアジルサルタン5gを量りとり、ジメチルホルムアミド10mLを入れ、40℃で加熱溶解した。得られたアジルサルタン溶液を30℃以下まで冷却した後、酢酸エチル50mLを加え、さらに冷却し、5℃で終夜撹拌した。次いで、減圧濾過して析出した結晶を分取し、50℃で乾燥して、4.9gのアジルサルタンの結晶を得た(アジルサルタン純度:98.49%)。このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると、2θ=9.4°、11.4°、13.4°、14.8°、26.1°に特徴的なピークを与えるM型結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は123℃であった。
【0055】
(溶解性評価)
実施例2で得られたアジルサルタンM型結晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:119.8g/L、酢酸エチル:109.4g/L、アセトン:111.3g/L、テトラヒドロフラン:109.8g/Lであった。
【0056】
実施例3
追加溶媒としてアセトンを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、4.6gのアジルサルタン結晶を得た(アジルサルタン純度:98.85%)。このアジルサルタンを試料としてXRDを測定すると、2θ=9.3°、11.5°、13.3°、14.8°、26.0°に特徴的なピークを与えるM型結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は118℃であった。
【0057】
(溶解性評価)
実施例3で得られたアジルサルタンM型結晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:120.4g/L、酢酸エチル:111.5g/L、アセトン:112.2g/L、テトラヒドロフラン:111.6g/Lであった。
【0058】
実施例4
追加溶媒として酢酸プロピルを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、4.4gのアジルサルタン結晶を得た(アジルサルタン純度:99.02%)。このアジルサルタンを試料としてXRDを測定すると、2θ=9.3°、11.4°、13.3°、14.8°、26.1°に特徴的なピークを与えるM型結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は124℃であった。
【0059】
(溶解性評価)
実施例4で得られたアジルサルタンM型結晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:118.6g/L、酢酸エチル:112.4g/L、アセトン:111.9g/L、テトラヒドロフラン:111.8g/Lであった。
【0060】
実施例5
追加溶媒としてメチルエチルケトンを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、4.8gのアジルサルタン結晶を得た(アジルサルタン純度:98.80%)。このアジルサルタンを試料としてXRDを測定すると、2θ=9.3°、11.3°、13.2°、14.9°、26.1°に特徴的なピークを与えるM型結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は120℃であった。
【0061】
(溶解性評価)
実施例5で得られたアジルサルタンM型結晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:121.1g/L、酢酸エチル:111.4g/L、アセトン:110.6g/L、テトラヒドロフラン:109.9g/Lであった。
【0062】
比較例1
(特許文献2に記載の方法によるアジルサルタン結晶形Aの製造)
直径5.0cmの2枚撹拌翼を備えた300mL三つ口フラスコに製造例1で得られたアジルサルタン5gを量りとり、メタノール50mLを入れ、還流温度で加熱撹拌した。還流温度にて1時間撹拌を行ったが、完全に溶解しなかったため、不溶物を濾過した後に得られたアジルサルタン溶液を25℃まで冷却し、同温度にて1時間撹拌を行った。その後、さらに10℃で2時間撹拌した。次いで、析出した結晶を減圧濾過して分取し、50℃で乾燥して、2.1gのアジルサルタンの結晶を得た(アジルサルタン純度:98.44%)。このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると、図3に示すX線回折チャートが得られ、2θ=9.1°、18.3°、21.5°、23.8°に特徴的なピークを与えるA型結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は201℃であった(図4)。
【0063】
(溶解性評価)
比較例1で得られたアジルサルタンA型結晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:13.2g/L、酢酸エチル:1.9g/L、アセトン:2.4g/L、テトラヒドロフラン:7.1g/Lであった。
【0064】
比較例2
(特許文献2に記載の方法によるアジルサルタン結晶形Bの製造)
直径5.0cmの2枚撹拌翼を備えた300mL三つ口フラスコに製造例1で得られたアジルサルタン5gを量りとり、テトラヒドロフラン25mLを入れ、還流温度まで加熱撹拌した。還流温度にて1時間撹拌を行ったが、完全に溶解しなかったため、不溶物を濾過した後に得られたアジルサルタン溶液を25℃まで冷却し、同温度にて1時間撹拌を行った。その後、さらに10℃で2時間撹拌した。次いで、減圧濾過して析出した結晶を分取し、50℃で乾燥して、2.5gのアジルサルタンの結晶を得た(アジルサルタン純度:97.22%)。このアジルサルタンを試料として、XRDを測定すると2θ=9.1°、18.6°、21.5°に特徴的なピークを与えるB型結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は197℃であった。
【0065】
(溶解性評価)
比較例2で得られたアジルサルタンB型結晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:11.5g/L、酢酸エチル:1.7g/L、アセトン:1.9g/L、テトラヒドロフラン:6.3g/Lであった。
【0066】
実施例6
比較例1で得られたアジルサルタンのA型結晶を使用した以外は、実施例2と同様の操作を行い、4.8gのアジルサルタン結晶を得た(アジルサルタン純度:99.69%)。このアジルサルタンを試料としてXRDを測定すると、2θ=9.3°、11.2°、13.4°、14.7°、26.0°に特徴的なピークを与えるM型結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は130℃であった。
【0067】
(溶解性評価)
実施例6で得られたアジルサルタンM型結晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:120.2g/L、酢酸エチル:114.4g/L、アセトン:110.9g/L、テトラヒドロフラン:111.5g/Lであった。
【0068】
実施例7
比較例2で得られたアジルサルタンのB型結晶を使用した以外は、実施例2と同様の操作を行い、4.8gのアジルサルタン結晶を得た(アジルサルタン純度:99.44%)。このアジルサルタンを試料としてXRDを測定すると、2θ=9.3°、11.2°、13.5°、14.6°、26.0°に特徴的なピークを与えるM型結晶構造を有する化合物であることが分かった。また、DSC測定による融点は126℃であった。
【0069】
(溶解性評価)
実施例7で得られたアジルサルタンM型結晶の各有機溶媒への溶解性を上記方法で確認したところ、メタノール:119.1g/L、酢酸エチル:113.1g/L、アセトン:111.1g/L、テトラヒドロフラン:109.5g/Lであった。
図1
図2
図3
図4