特許第6663265号(P6663265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663265
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】心肺機能測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20200227BHJP
【FI】
   A61B5/11 110
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-59775(P2016-59775)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-169868(P2017-169868A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雅明
【審査官】 佐藤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−015887(JP,A)
【文献】 特開2012−130391(JP,A)
【文献】 特開2005−027942(JP,A)
【文献】 特開2012−002797(JP,A)
【文献】 特開2000−174591(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0074307(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相差のある2つのI,Q信号を出力するドップラーセンサにより心肺機能を測定する心肺機能測定装置において、
上記I,Q信号をアナログデジタル変換するA/D変換器と、
このA/D変換器から出力されたI,Q信号を入力し、心拍測定においては心拍の周波数範囲を通すバンドパスフィルタ、呼吸測定においては呼吸の周波数範囲を通すローパスフィルタ又はバンドパスフィルタからなる第1のフィルタと、
この第1のフィルタから出力されたI,Q信号を通すヒルベルトフィルタと、
上記第1のフィルタから出力されたI,Q信号を通し、上記のヒルベルトフィルタと同じ遅延を持つ遅延回路と、
上記ヒルベルトフィルタを通したI信号をIh、Q信号をQhとし、上記遅延回路を通したI信号をId、Q信号をQdとしたとき、
A=(−1)×Id×Qh
B=Ih×Qd
C=A+B
の式で得られるA,B,Cの信号を演算する演算回路と、
この演算回路で得られたA,B,Cの信号のうち、正、負のピークレベルの大きいものを選択して、周波数解析又はパルスカウントすることにより呼吸数又は心拍数を測定する測定部と、を設けたことを特徴とする心肺機能測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心肺機能測定装置、特にマイクロ波を利用したドップラーセンサを用いて、心拍数、呼吸数を測定する心肺機能測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に、従来のマイクロ波ドップラーセンサを使って心肺機能を測定する装置の1例が示されており、図3において、符号の1はI,Q信号を出力するドップラーセンサ、2はI,Q信号のいずれかを選択するセレクタ、3はLPF(ローパスフィルタ)、4はAD(アナログ/デジタル)コンバータ、5は呼吸と心拍の周波数範囲を通過帯域とするLPF/BPF(バンドパスフィルタ)、21は呼吸数や心拍数を測定する測定部である。
【0003】
この心肺機能測定装置では、図3のように、ドップラーセンサ1の出力のうち、セレクタ2で選択されたI,Q信号を一方の出力をAD変換し、このAD変換後の信号を、呼吸を測定する場合には呼吸の周波数範囲を通過するLPF/BPF(LPF、BPFのいずれでもよい)5を通し、心拍を測定する場合には心拍の周波数範囲を通過するLPF/BPF(この場合はBPF)5を通し、その後、測定部21にて周波数変換(フーリエ変換)すること、又はパルスをカウントすることにより呼吸数又は心拍数が測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5776817号公報
【特許文献2】特許5432254号公報
【特許文献3】特許5333427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の心肺機能測定装置では、呼吸や心拍によるドップラーセンサからの出力信号の変動レベルは微弱なものであるため、呼吸数又は心拍数を正しく測定することが困難であった。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、微弱な呼吸、心拍の信号を強調し、呼吸数や心拍数を正確に測定することができる心肺機能測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、位相差のある2つのI,Q信号を出力するドップラーセンサにより心肺機能を測定する心肺機能測定装置において、上記I,Q信号をアナログデジタル変換するA/D変換器と、このA/D変換器から出力されたI,Q信号を入力し、心拍測定においては心拍の周波数範囲を通すバンドパスフィルタ、呼吸測定においては呼吸の周波数範囲を通すローパスフィルタ又はバンドパスフィルタからなる第1のフィルタと、この第1のフィルタから出力されたI,Q信号を通すヒルベルトフィルタと、上記第1のフィルタから出力されたI,Q信号を通し、上記のヒルベルトフィルタと同じ遅延を持つ遅延回路と、上記ヒルベルトフィルタを通したI信号をIh、Q信号をQhとし、上記遅延回路を通したI信号をId、Q信号をQdとしたとき、
A=(−1)×Id×Qh
B=Ih×Qd
C=A+B
の式で得られるA,B,Cの信号を演算する演算回路と、
この演算回路で得られたA,B,Cの信号のうち、正、負のピークレベルの大きいものを選択して、周波数解析又はパルスカウントすることにより呼吸数又は心拍数を測定する測定部と、を設けたことを特徴とする。
【0008】
上記において、ヒルベルトフィルタは、位相(正の周波数領域)が90度遅れる特性を持つヒルベルト変換フィルタであり、ヒルベルトフィルタと同じ遅延とは、ヒルベルトフィルタをFIR(Finite Impulse Response)のデジタルフィルタで実現した場合、ヒルベルトフィルタの次数の半分の次数の遅延(時間)を意味する
【0009】
上記の構成によれば、ドップラーセンサから位相の異なる(90度位相差のある)I,Q信号が出力されており、これらI,Q信号がAD変換され、呼吸を測定する場合は、呼吸の周波数範囲を通過帯域とするLPF(ローパスフィルタ)又はBPF(バンドパスフィルタ)に通され、心拍を測定する場合は、心拍の周波数範囲を通過帯域とするBPFに通された後、I,Q信号のそれぞれがヒルベルトフィルタと遅延回路とに通される。そして、演算回路では、上記演算式によって、A,B,Cの信号(値)が演算され、これらの信号の周波数解析又はパルスカウントを測定部で行うことで、呼吸数又は心拍数が測定される。即ち、A,B信号の場合はその半分の値をとることにより、C信号の場合は、そのままの値をとることにより、呼吸数、心拍数が測定される。
【0010】
上記のA信号とB信号は、ドップラーセンサ出力の位相が約180度(又は0度)ずれている場合に強調され、Cの信号は、約90度(又は270度)ずれている場合に強調されることとなり、これらの強調されたA,B,Cの信号を用いることで、正確な測定が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構成によれば、ヒルベルトフィルタと遅延回路を用いた演算により、呼吸、心拍の微弱なドップラーセンサの出力信号を強調した信号を作ることができ、呼吸数や心拍数を正確に測定することが可能となる。
また、本発明は、非接触で心拍数、呼吸数を測定する装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る実施例の心肺機能測定装置の構成を示す回路ブロック図である。
図2】実施例のドップラーセンサのI,Q信号の位相関係及び演算結果の位相関係を示す図である。
図3】従来の心肺機能測定装置の構成を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、実施例の心肺機能測定装置の構成が示されており、この実施例において、符号の1はI,Qの2つの信号を出力するドップラーセンサ、3a,3bはアンチエイシングフィルタであるLPF(ローパスフィルタ)、4a,4bはAD(アナログ/デジタル)コンバータ、5a,5bは第1のフィルタであり、この第1のフィルタ5a,5bは、心拍測定では心拍の周波数範囲を通すBPF(バンドパスフィルタ)が適用され、呼吸測定では呼吸の周波数範囲を通すLPF又はBPFが適用される。
【0014】
6a,6bは、信号の位相が90度遅れる特性を持つヒルベルトフィルタ、7a,7bは、信号をヒルベルトフィルタ6a,6bの遅延と同じ時間だけ遅らせる遅延回路(ヒルベルトフィルタ次数の半分の次数の遅延を持つ遅延素子)、8はIh(ヒルベルトI出力)×Qd(遅延回路Q出力)を計算する乗算回路、9はヒルベルトフィルタ6bの出力に−1を乗算する乗算回路、10は−Qh(乗算回路の−Q出力)×Id(遅延回路I出力)を計算する乗算回路、11は乗算回路8と9の出力の加算器、12はセレクタ、13は高速フーリエ変換(FFT)等の周波数変換を行うこと、又は単にパルス(波形)をカウントすることにより呼吸数と心拍数を計数する測定部である。
【0015】
実施例は以上の構成からなり、ドップラーセンサ1から出力されたI,Q2つの信号は、それぞれのLPF(アンチエイリアシングフィルタ)3a,3bを通った後、ADコンバータ4a,4bでAD変換され、このAD変換された信号は第1のフィルタ5a,5bに入力される。この第1のフィルタ5a,5bでは、呼吸測定の場合は、呼吸の周波数範囲を通すLPF又はBPFを通され、心拍測定の場合は、心拍の周波数範囲を通すBPFを通される。この第1のフィルタ5a,5bの出力は、2系統に分かれ、一方(I信号系統)はヒルベルトフィルタ6aと遅延回路7aに入力され、他方(Q信号系統)はヒルベルトフィルタ6bと遅延回路7bに入力される。即ち、ヒルベルトフィルタ6a,6bでは、信号の位相が90度遅れ、遅延回路7a,7bでは、信号がフィルベルトフィルタ6a,6bと同じ遅延(ヒルベルトフィルタの次数の半分の次数の遅延)分だけ遅れる。
【0016】
そして、次段の演算回路(8〜11)にて次の演算が行われる。
上記ヒルベルトフィルタ6a,6bを通ったI,Q信号をそれぞれIh,Qh、遅延回路7a,7bを通ったI,Q信号をそれぞれId,Qdとすると、乗算回路8でIh×Qd(=B)、乗算回路9と10で−1×Q×Id(=A)、加算器11で(Ih・Qd)+(−1・Q・Id)[=A+B=C]が計算される。
【0017】
図2に、上記演算でのI,Q信号の位相関係が示されており、I,Qの信号は、図2(a)のように90度の位相差があり、このI信号がヒルベルトフィルタ6aを通ると、図2(b)のIhのように位相が90°遅れ、Q信号もヒルベルトフィルタ6bを通ると、図2(c)のQhように位相が90°遅れる。一方、遅延回路7a,7bでは、位相の遅れはなく、図2(d)のように、遅延回路7aの出力IdとQhが180°ずれることになるので、乗算回路10においては、−QhとIdとを掛けることによりA信号が得られ、図2(e)のように、遅延回路7bの出力QdとIhは位相のずれがない(0°)ので、乗算回路8においては、IhとQdとを掛けることで、B信号が得られる。また、加算器11からはA+BのC信号が得られる。
【0018】
このようなA〜Cの信号において、ドップラーセンサの出力信号の位相が約180度(又は0度)ずれている場合にはA信号とB信号が強調され、約90度(又は270度)ずれている場合にはC信号が強調されることになり、これらの強調されたA,B,Cの信号を用いることで、正確な測定が可能となる。
【0019】
上記のA,B,Cの3つの信号は、セレクタ12へ出力されており、このセレクタ12ではA〜Cの信号のうち、パワーレベルの大きいものが選択される。そして、選択されたA〜Cのいずれかの信号が測定部13へ入力されることにより、周波数解析又はパルスカウントが行われ、周波数解析をする場合は解析結果のパワー(振幅)を計算し、そのピーク値の周波数から呼吸数又は心拍数が求められ、パルスをカウントする場合はそのカウント値から呼吸数又は心拍数が求められる。ここで、信号が選択されたときには、上記の求められたそのままの値を、A,B信号が選択されたときには、求められた値の半分の値を呼吸数又は心拍数とする。
【0020】
上記実施例では、A〜Cの信号のうち、選ばれたいずれかの信号から呼吸数、心拍数を測定するように構成したが、A〜Cの全ての信号を測定部13にて周波数解析又はパルスカウントし、その結果を選択するようにしてもよい
【符号の説明】
【0021】
1…ドップラーセンサ、 2,12…セレクタ、
3,3a,3b…LPF(アンチエイリアシングフィルタ)、
4,4a,4b…ADコンバータ、
5,5a,5b…第1のフィルタ(LPF/BPF)、
6a,6b…ヒルベルトフィルタ、
7a,7b…遅延回路、 8,9,10…乗算回路、
11…加算回路、 13,21…測定部。
図1
図2
図3