特許第6663322号(P6663322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6663322ラクトバチルス・ガセリにコール酸低減能力を付与する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6663322
(24)【登録日】2020年2月18日
(45)【発行日】2020年3月11日
(54)【発明の名称】ラクトバチルス・ガセリにコール酸低減能力を付与する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20200227BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20200227BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20200227BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200227BHJP
   A23K 10/18 20160101ALI20200227BHJP
   C12P 33/00 20060101ALN20200227BHJP
   A23L 33/135 20160101ALN20200227BHJP
【FI】
   C12N1/20 E
   C12N1/20 Z
   A61K35/747
   A61P3/06
   A61P35/00
   A61P43/00 111
   A23K10/18
   !C12P33/00
   !A23L33/135
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-149815(P2016-149815)
(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公開番号】特開2018-14965(P2018-14965A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 利信
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 泰幸
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−097870(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0208859(US,A1)
【文献】 特開2004−208577(JP,A)
【文献】 Anaerobe, 2012, vol.18, p.516-522
【文献】 J Dairy Sci, 2002, vol.85, p.2705-2710
【文献】 日本乳酸菌学会誌, 2016, vol.27, no.2, p.134, 「16-1-17」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ガセリにコール酸低減能力を付与または増強する方法であって、
ラクトバチルス・ガセリ菌体とミネラル塩を接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項2】
ミネラル塩が一価の金属塩である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一価の金属塩が、塩化リチウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群から選ばれるいずれか一以上である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
菌体と一価の金属塩との接触工程が、0.1M〜5Mの濃度範囲の金属塩溶液に菌体を5分以上曝露する工程である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
コール酸低減能力を有するラクトバチルス・ガセリ菌体の製造方法であって、
ラクトバチルス・ガセリ菌体とミネラル塩を接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項6】
ラクトバチルス・ガセリを有効成分とするコール酸低減剤の製造方法であって、
ラクトバチルス・ガセリ菌体とミネラル塩を接触させることによりコール酸低減能力を付与されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程あるいは、コール酸低減能力を増強されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程を含む前記製造方法。
【請求項7】
以下の(1)および(2)の工程を含む、ラクトバチルス・ガセリ菌体を含むコール酸低減用飲食品、コール酸低減用飲食品組成物またはコール酸低減用飼料の製造方法。
(1)ラクトバチルス・ガセリ菌体とミネラル塩を接触させることによりコール酸低減能力を付与されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程あるいは、コール酸低減能力を増強されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程
(2)(1)で得られた菌体を飲食品、飲食品用組成物または飼料に添加する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・ガセリにコール酸低減能力を付与する方法に関する。また、ラクトバチルス・ガセリを有効成分とするコール酸低減剤の製造方法に関する。さらにはコール酸低減能力が増強されたラクトバチルス・ガセリおよびこれを含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
血清中のコレステロールは適正な範囲で存在することが望ましく、高いと脂質代謝異の原因となることが知られている。
ところで、体外に排泄される胆汁酸量が増加すると胆汁酸の体内での生合成量、つまり肝臓におけるコレステロールから胆汁酸への異化作用が亢進すると共に、LDL レセプターを介しての血中からのLDL取り込みが亢進し、これが血清コレステロールを低下させる要因となることが知られている(TIBTECH, vol.12, pp.6-8, 1994) 。このように、胆汁酸の生体外への排泄量を増加させることが血清コレステロール濃度の低下につながる。
したがって、胆汁酸を低減させる性質を有する乳酸菌を利用することで、同様の効果が期待できる。
【0003】
乳酸菌を利用して生体内においてコール酸を低減させることでコレステロールの低減を期待できるとする方法としては、以下の方法が知られている。
特許文献1には、グルコースを駆動力としてラクトバチルス属やビフィドバクテリウム属の乳酸菌菌体内に一次胆汁酸であるコール酸を取り込んで、菌体外にはコール酸を排出しないという性質を有する乳酸菌を利用する方法が記載されている。
特許文献2には、種々のラクトバチルス属乳酸菌からコール酸の低下作用に優れた乳酸菌をスクリーニングし、得られた乳酸菌の低減作用のメカニズムについて記載されている。
非特許文献1には、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカスとストレプトコッカスサーモフィラスの菌体外多糖(EPS)を利用したコール酸の吸着について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-97870号公報
【特許文献2】特開2004-208577号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JDairy Sci.2002 Nov;85(11):2705-2710
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、一次胆汁酸のコール酸を菌体内に取り込み菌対外に排出しないという性質を有する乳酸菌を利用することで、脂質代謝、特に血清コレステロール濃度を低下させたり、大腸がんの発現リスクを低減させることが期待されている。しかし、コール酸の低減にはグルコースなどのエネルギー源を必要とするため、添加物の利用が余儀なくされるという問題がある。
特許文献2については、スクリーニングされた乳酸菌が、46%という高いコール酸低減率を示し、該低減作用がコール酸の吸着と分解作用の両作用によるものであることが確認されているが、このような高い低減率を示したのはわずか1菌株のみと非常に限定的であり、ラクトバチルス属の他の菌株はいずれも0〜15%という非常に弱い低減作用しか示さなかった。
非特許文献1においては、ラクトバチルス属の乳酸菌の菌体外多糖を利用したコール酸の吸着は、低減量が最大でも15%程度という低い効果しか得られなかった。
以上より、コール酸の低減効果の高い乳酸菌のさらなる探索は重要であることはもちろんであるが、既存の乳酸菌にコール酸の低減能力を付与あるいは、既存の乳酸菌の本来有するコール酸低減能力を増強できないか、というアプローチについても検討する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために、既存の乳酸菌、特にその中でもラクトバチルス属の乳酸菌にコール酸の低減能力を付与できないか、あるいは、わずかであってもコール酸低減能力を有するような乳酸菌の当該能力をさらに増強できないか、様々な菌体処理を施して鋭意検討した。その結果、驚くべきことに、ラクトバチルス属の乳酸菌をミネラル塩に接触させることにより一次胆汁酸であるコール酸を低減する性質を付与できること、あるいは、すでに備えたコール酸低減能力をさらに増強できることを見出し、これがラクトバチルス・ガセリに特有の処理効果であることをも見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>
ラクトバチルス・ガセリにコール酸低減能力を付与または当該能力を増強する方法であって、ラクトバチルス・ガセリ菌体とミネラル塩を接触させる工程を含む、前記方法。
<2>
ミネラル塩が一価の金属塩である請求項1に記載の方法。
<3>
一価の金属塩が、塩化リチウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群から選ばれるいずれか一以上である<2>に記載の方法。
<4>
菌体と一価の金属塩との接触工程が、0.1M〜5Mの濃度範囲の金属塩溶液に菌体を5分以上曝露する工程である、<2>又は<3>に記載の方法。
<5>
コール酸低減能力を有するラクトバチルス・ガセリ菌体の製造方法であって、
ラクトバチルス・ガセリ菌体とミネラル塩を接触させる工程を含む、前記方法。
<6>
ラクトバチルス・ガセリを有効成分とするコール酸低減剤の製造方法であって、
ラクトバチルス・ガセリ菌体とミネラル塩を接触させることによりコール酸低減能力を付与されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程あるいは、コール酸低減能力を増強されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程
を含む前記製造方法。
<7>
以下の(1)および(2)の工程を含む、ラクトバチルス・ガセリ菌体を含むコール酸低減用飲食品、コール酸低減用飲食品組成物またはコール酸低減用飼料の製造方法。
(1)ラクトバチルス・ガセリ菌体とミネラル塩を接触させることによりコール酸低減能力を付与されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程あるいは、コール酸低減能力を増強されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程
(2)(1)で得られた菌体を飲食品、飲食品用組成物または飼料に添加する工程
<8>
以下の(1)および(2)の工程により製造されたラクトバチルス・ガセリ菌体を含むコール酸低減用飲食品、コール酸低減用飲食品組成物またはコール酸低減用飼料。
(1)ラクトバチルス・ガセリ菌体とミネラル塩を接触させることによりコール酸低減能力を付与されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程あるいは、コール酸低減能力を増強されたラクトバチルス・ガセリ菌体を得る工程
(2)(1)で得られた菌体を飲食品、飲食品用組成物または飼料に添加する工程
<9>
ラクトバチルス・ガセリの菌体であって、
菌体をミネラル塩で接触処理することにより、未処理のラクトバチルス・ガセリに比べて、処理後のラクトバチルス・ガセリの単位菌体量あたりのCA低減量が20%以上増えたラクトバチルス・ガセリ菌体、
を含むコール酸低減用飲食品、コール酸低減用飲食品組成物またはコール酸低減用飼料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ミネラル塩、そのうちでも特に一価の金属塩に一定時間菌体を晒すという簡単な処理工程により、ラクトバチルス・ガセリにCA(コール酸)低減能力を付与・増強することができた。したがって、このような能力を有するラクトバチルス・ガセリを有効成分とするCA低減剤を提供することができる。本発明のCA低減剤はCAを低減することによって副次的にDCA(デオキシコール酸)を低減させることも可能であるため、がんの予防効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ラクトバチルス・ガセリの未処理菌体、LiCl処理菌体、熱処理菌体のDCAおよびCA低減効果を示すグラフである。
図2】ラクトバチルス属のLiCl処理菌体のCA低減効果を示すグラフである。
図3】ラクトバチルス・ガセリの未処理菌体、様々なミネラル塩処理菌体のDCAおよびCA低減効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ラクトバチルス・ガセリの菌体)
本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を用いることを特徴とする。ラクトバチルス・ガセリに属する乳酸菌としては、SBT2055(FERM BP-10953)、JCM1131、SBT10239(FERM P-16639)、SBT1703(FERM P-17785)、SBT10241(FERM P-17786)、SBT10801(FERM P-18137)、SBT2056(FERM P-11038)、SBT0274(FERM P-11039)が挙げられ、その中でも、SBT2055、JCM1131が好ましく、SBT2055が特に好ましいが、本発明のミネラル塩の処理によりCA低減効果を付与あるいは増強されるラクトバチルス・ガセリ菌体であれば特に限定されるものではない。
ラクトバチルス・ガセリは、常法に従って培養することができる。培地には、乳培地又は乳成分を含む培地、これを含まない半合成培地など種々の培地を用いることができる。このような培地としては、還元脱脂乳培地などを例示することができる。
得られた培養物から遠心分離などの集菌手段によって分離された菌体をそのまま本発明のCA低減能力の付与対象菌体、増強対象菌体として用いることができる。
菌体として純粋に分離されたものだけでなく、培養物、懸濁物、その他の菌体含有物も用いることができる。
培養物などの形態としては、合成培地であるMRS培地(DIFCO社製)、還元脱脂乳培地など一般的に乳酸菌の培養に用いられる培地を用いた培養物だけでなく、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料などの乳製品などを例示することができるが特に限定されるものではない。
【0011】
(CA低減能力の付与・増強)
本発明におけるCA低減能力とは、CAの量を減少させる能力である。本発明でいうコール酸低減能力の付与とは、本来CA低減能力が無いラクトバチルス・ガセリに本発明のミネラル塩による処理を施すことにより、CA低減能力を具備することをいう。また、CA低減能力の増強とは、本来CA低減能力を有するラクトバチルス・ガセリに本発明の処理を施すことにより、未処理のラクトバチルス・ガセリに比べてCA低減能力が強化されたことをいう。本発明のミネラル塩処理によるコール酸低減能力の付与や増強は、例えば、未処理のラクトバチルス・ガセリに比べて、処理後のラクトバチルス・ガセリの単位菌体量あたりのCA低減量が増えたかどうかを調べることなどにより容易に判断することができる。
本発明において、ラクトバチルス・ガセリに本発明のミネラル塩による処理を施すことにより、未処理の菌体に比べてCA低減能力が10%以上増えた菌体が望ましく、20%以上増えた菌体がさらに望ましく、30%以上あるいは40%以上であればより一層望ましい。
【0012】
(ミネラル塩による菌体の処理)
本発明の処理に用いられるミネラル塩としては、一価、二価または三価の金属塩が望ましく、より望ましくは一価の金属塩である。二価の金属塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、銅の塩が挙げられ、このうちでも硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化銅が好ましい。また、三価の金属塩としては鉄の塩が挙げられ、塩化鉄が好ましい。また、一価の金属塩としてカリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩が好ましく、このうちでも塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムなどが好ましい。本発明によるミネラル塩による菌体の処理方法としては、菌体とミネラル塩が一定時間接触できるような態様であればいずれでもよく、典型的には、処理対象の菌体懸濁液中にミネラル塩を添加し、一定時間菌体をミネラル塩に曝露するにより、処理することができる。あるいは、菌体の培養工程において、培地に一価のミネラル塩を添加することにより、培養液中で一定時間菌体をミネラル塩に曝露することにより、処理することもできる。
菌体懸濁液中または培養液中のミネラル塩の濃度は、0.1M〜5Mの濃度範囲が望ましく、0.5M〜5Mがさらに望ましく、1.0M〜5Mがよりいっそう望ましい。また、曝露する時間は、1分以上が望ましく、5分以上がさらに望ましく、10分以上がよりいっそう望ましい。
本発明によるミネラル塩の処理により、CAの低減能力が付与・増強されればよく、DCAの低減能力についての変化は問わないが、がんの予防効果を考慮した場合、菌体の保有するDCAの低減能力に影響を与えず、CAの低減能力のみが付与・増強されることが望ましい。
【0013】
本発明のCA低減剤は、ラクトバチルス・ガセリに上記ミネラル塩の処理を施すことにより、CA低減能力が付与・増強されたラクトバチルス・ガセリを有効成分とする。DCA低減能力は本発明のCA低減剤においては必須ではなく、具備していても具備していなくてもいずれでもよい。
本発明のCA低減剤の製剤化に際しては製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して濃縮、凍結乾燥するほか、加熱乾燥して死菌体にしてもよい。これらの乾燥物、濃縮物、ペースト状物も含有される。また、ラクトバチルス・ガセリのCA低減作用を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能であり、これらを経口的に投与することが望ましい。
【0014】
本発明のCA低減剤はどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
【0015】
本発明のCA低減剤は、これを有効成分とするコレステロール低減剤、脂質代謝異常改善剤またはがん予防薬等として利用することができる。さらに、本発明のCA低減剤を飼料に配合することができる。前記飲食品と同様にどのような飼料に配合しても良く、飼料の製造工程中に原料に添加しても良い。
【0016】
本発明のCA低減能力を付与あるいは増強されたラクトバチルス・ガセリの菌体及び菌体を含む培養物を配合して、CA低減剤あるいは、CA低減用飲食品、栄養組成物、飼料などの素材又はそれら素材の加工品に配合させて使用する場合、前記ラクトバチルス・ガセリの菌体または菌体を含む培養物の配合割合は特に限定されず、製造の容易性や好ましい一日投与量にあわせて適宜調節すればよい。投与対象者の症状、年齢などを考慮してそれぞれ個別に決定されるが、通常成人の場合、ラクトバチルス・ガセリの菌体自体を0.1〜5,000mg、あるいは、菌体を含む培養物を10〜200g摂取できるように配合量などを調整すればよい。このようにして摂取することにより所望の効果を発揮することができる。
以下、本発明を実施例をもとにさらに詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定して解釈されるものではない。
【実施例】
【0017】
〔試験例1〕ラクトバチルス・ガセリの菌体処理によるDCAまたはCAの低減効果の検討
1.試験方法
(1)供試乳酸菌
ラクトバチルス・ガセリSBT2055(FERM BP-10953)
【0018】
(2)菌体の調整
各種乳酸菌はMRS液体培地にて37℃、16時間静置培養した。菌体を遠心回収後(1,910×g,4℃,15min)、リン酸緩衝液(100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7),含1mM MgSO・7HO)で3回洗浄した。得られた洗浄菌体はリン酸緩衝液に再懸濁し、O.D.600=4.5に調整し、菌体懸濁液とし、以下の試験に用いた。下記に示す処理をしない菌体を未処理菌体とした。
【0019】
(3)菌体の処理方法
(3−1)LiCl処理方法
上記(2)で調整した菌体懸濁液から遠心分離によって菌体を回収し、5M LiClに再懸濁した。冷蔵もしくは室温で30分間静置した後、菌体をリン酸緩衝液で2回洗浄して、同緩衝液に再懸濁した菌体をLiCl処理菌体とした。
(3−2)加熱処理方法
上記(2)で調整した菌体懸濁液を80℃、30分間処理したものを加熱処理菌体とした。
【0020】
(4)菌体のDCA(デオキシコール酸)もしくはCA(コール酸)の低減効果の確認方法
LiCl処理菌体、加熱処理菌体、未処理菌体の菌体懸濁液(O.D.600= 4.5)1260mlに、10mM CAもしくはDCAを140ml添加して混合し、37℃で18時間静置した。反応液は回収後速やかに冷却して遠心分離(20,400×g,4℃,10min)し、上清を回収した。反応液上清中の残存するCAおよびDCAは総胆汁酸テストワコー(和光純薬社製)を用いて、添付のプロトコールに従って定量し、添加した初期濃度を100(%)として残存率(%)を算出した。
【0021】
(5)菌体の疎水度の評価方法
菌体懸濁液を濁度(O.D.600)=1に調整し、菌体懸濁液2mlを400mlのキシレンと混合して120秒間ボルテックスにより攪拌した。120秒間静置した後、キシレン層(上層)を除去した。水相(下層)を回収し、分光光度計にてO.D.600を測定した。疎水度(Hydrophobisity)は以下の式より算出した。
疎水度(%)=(OD-OD)/OD×100
OD:キシレン処理前の濁度;
OD;キシレン処理後の濁度
【0022】
2.試験結果
結果を図1に示す。
2−1.菌体のDCA低減効果
未処理菌体は20%程度のDCA低減効果を示した。LiCl処理菌体では、特に変化はなく、未処理菌体と同等の低減効果しか示さなかった。一方、加熱処理菌体では低減効果を全く示さなくなった。
2−2.菌体のCA低減効果
未処理菌体ではCA低減効果を示さなかった。一方、LiCl処理菌体では、40%程度のCAを低減できるように変化していることが明らかとなった。また、加熱処理菌体では未処理菌体と同様にCA低減効果を示さなかった。
2−3.菌体疎水度評価
菌体をLiCl処理および加熱処理しても菌体表面の疎水度に変化は認められなかった(データは示さず)。
【0023】
3.考察
LiCl処理は、DCAに対する低減効果とは無関係にCAに対する低減能力を菌体に付与していることがわかった。あくまでも想像の域を出ないが、LiCl処理によって菌体が高い塩濃度にさらされることで、表層たんぱく質の構造変化が促され、CA吸着に都合のよい構造に変化したことが考えられる。なお、菌体をLiCl処理および加熱処理しても菌体表面の疎水度に変化は認められなかったことから、DCAおよびCAの吸着に表面疎水度は関連性が低いことが示唆された。
【0024】
〔試験例2〕ラクトバチルス属菌体のLiCl処理によるCA吸着活性の変化について
試験例1により、ラクトバチルス・ガセリの菌体をLiCl処理することで、DCAに対する低減能力は変化させず、CA低減能力を付与することができることがわかった。そこで、他のラクトバチルス属細菌についてもLiCl処理によって同様の能力が付与されるかどうかを検証した。
【0025】
1.試験方法
(1)供試乳酸菌
Lactobacillus gasseri SBT2055(FERM BP-10953)(以下SBT2055)
Lactobacillus gasseri JCM1131(以下JCM1131)
Lactobacillus acidophilus JCM1132(以下JCM1132)
Lactobacillus helveticus JCM1120(以下JCM1120)
Lactobacillus helveticus SBT2171(FERM BP-5445 )(以下SBT2171)
Lactobacillus helveticus SBT2161(NITE BP-01707)(以下SBT2161)
Lactobacillus reuteri JCM1112(以下JCM1112)
Lactobacillus rhamnosus NBRC3425(以下NBRC3425)
Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus ATCC11842(以下ATCC11842)
Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus SBT0164(以下SBT0164)
なお、FERM BP-10953、FERM-BP-5445は、独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターに寄託されている。NITE BP-01707は独立行政法人製品評価技術基盤機構に寄託されている。ATCC11842はAmerican Type Culture Collectionから入手可能である。JCM1120、1131、1132、1112は独立行政法人理化学研究所から入手可能である。NBRC3425は独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手可能である。
【0026】
(2)菌体の処理方法およびコール酸低減効果確認方法
試験例1と同様の方法により処理した各LiCl処理菌体について、CA(コール酸)低減効果を確認した。
【0027】
2.試験結果
各乳酸菌のLiCl処理前と処理後のCA低減効果を図2に示す。
LiCl処理前後でCA低減効果に有意な変化が認められたのは、ラクトバチルス・ガセリのみであった。試験例1の結果とも併せると、LiCl処理によるCA低減効果の付与または増強はラクトバチルス・ガセリに特有なものであることが示された。
【0028】
〔試験例3〕ミネラル塩処理によるCA低減効果の検討
LiCl(塩化リチウム)のほかに1価の金属塩としてNaCl(塩化ナトリウム)およびKCl(塩化カリウム)、2価の金属塩としてMgSO・7HO、CaCl、CuCl2、3価の金属塩としてFeCl・6HOを用いて処理を行った菌体についても、CA低減効果の検討を行った。
1.試験方法
(1)供試乳酸菌および菌体の調整
試験例1に同じ
(2)菌体のミネラル塩処理
試験例1と同じLiCl処理方法によりLiCl処理菌体を得た。また、LiCl処理方法において、5MのLiClを5MのNaClまたは5MのKClに置き換えて処理した菌体をそれぞれNaCl処理菌体、KCl処理菌体とした。
また、5MのLiClを中性pHにおける飽和濃度の2価または3価の金属塩に置き換えて処理した菌体をそれぞれMgSO・7HO処理菌体、CaCl処理菌体、CuCl処理菌体FeCl・6HO処理菌体とした。
(4)菌体のDCAおよびCA低減効果
各処理菌体および未処理菌体ついて、試験例1と同じ方法によりDCAおよびCAの低減効果を評価した(二価および三価の金属塩処理菌体についてはCAのみ評価した)。
【0029】
2.試験結果
結果を図3に示す。
DCAについては、いずれの塩で処理した菌体も未処理菌体と同じ程度のDCA低減効果しか認められなかった。
一方、CAについては、一価、二価、三価のいずれの金属塩による処理菌体もCA低減効果を示した。このうちでも、特に一価の金属塩であるLiCl処理菌体、NaCl処理菌体およびKCl処理菌体はいずれもCA低減効果が大きかった。ただし、CA低減効果はLiCl処理した場合に最も大きく、NaCl処理およびKCl処理ではLiCl処理に比べ小さかった。
【実施例1】
【0030】
(本発明のCA低減剤の調製)
ラクトバチルス・ガセリSBT2055をMRS液体培地に植菌し、37℃にて16時間静置培養を行った。培養物を、4℃、7000rpmで15分間遠心分離した後、滅菌水による洗浄と遠心分離を3回繰り返して行い、洗浄菌体を得た。当該菌体を5M NaClに再懸濁した。冷蔵もしくは室温で30分間静置した後、菌体をリン酸緩衝液で2回洗浄して、同緩衝液に再懸濁した菌体をNaCl処理菌体とした。このNaCl処理菌体を凍結乾燥処理して菌体粉末を得た。これはこのまま本発明のCA低減剤としても利用できる。
【実施例2】
【0031】
(本発明のCA低減剤(錠剤タイプ)の製造)
実施例1にて調製した菌体粉末1部に脱脂粉乳4部を混合し、この混合粉末を打錠機により1gずつ常法により打錠して、本発明のCA低減剤を含む錠剤をそれぞれ調製した。
【実施例3】
【0032】
(カプセル剤の製造)
表1に示した配合により原料を混合し、造粒により顆粒状とした後、空カプセルに10mgずつ充填して、本発明のCA低減剤を含むカプセル剤を製造した。
【0033】
【表1】
【実施例4】
【0034】
(スティック状健康食品の製造)
実施例1で得られた菌体粉末30gに、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、本発明のCA低減作用を有するスティック健康食品を製造した。
【実施例5】
【0035】
(飲料の製造)
表2に示した配合により原料を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、果汁飲料を製造した。
【0036】
【表2】
【実施例6】
【0037】
(発酵乳の製造 1)
実施例1で得られた菌体粉末をヨーグルトミックス(10%の還元脱脂乳を添加し、100℃にて10分間加熱したもの)に0.01〜0.1%量添加して調製した。これを発酵は37℃で行い、乳酸酸度0.85に到達した時点で冷却し、発酵を終了させて本発明のCA低減作用を有する発酵乳を調製した。
【0038】
上記実施例では、CA低減能力を付与した菌体を凍結乾燥した菌体粉末を用いたが、凍結乾燥せずに、湿菌体のままで用いてもよい。菌体粉末、湿菌体いずれの場合であっても、前述した食品に限らず、様々な食品に混合して利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、ラクトバチルス・ガセリにCA(コール酸)低減能力を付与・増強することができる。したがって、このような能力を有するラクトバチルス・ガセリを有効成分とするCA低減剤を提供することができる。また、当該CA低減剤を含むCA低減作用を有する栄養組成物、飲食品、又は飼料等を提供することができる。これらを服用することにより報告されているようながんの予防が期待できる。
【受託番号】
【0040】
[寄託生物材料への言及]
ラクトバチルス・ガセリSBT2055
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566)
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成8年3月27日
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP−10953
図1
図2
図3