(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る配線パターン形成システム10の構成を示すブロック図である。配線パターン形成システム10は、基板に配線パターンを形成して配線基板を製造するものである。配線パターン形成システム10は、描画データ作成手段11と、描画手段12と、現像手段13と、配線パターン形成手段14と、検査手段15と、補正手段16とを備える。
図1では、配線パターン形成システム10の外部に設けられる設計データ作成手段19も図示している。
【0017】
図2は、配線パターン形成システム10が配線基板を製造する処理の流れを示す図である。配線基板の製造では、所望の配線パターンを示す設計データ(CADデータ)が、設計データ作成手段19により作成され(ステップS1)、描画データ作成手段11に出力される。描画データ作成手段11は、例えば、コンピュータにより実現され、ベクトルデータである設計データがラスタデータである描画データに変換される。すなわち、描画データが作成される(ステップS2)。
【0018】
描画手段12は、マスクを利用せずに露光パターンを直接的に形成するダイレクト露光装置(描画装置)であり、配線基板となる予定の基板が保持されている。基板の絶縁層表面には、配線形成用の導体膜が形成され、当該導体膜上にはレジスト膜が形成されている。描画手段12では、描画データに基づいて、感光性のレジスト膜に紫外線等を照射することにより、当該レジスト膜にパターンが描画(露光)される(ステップS3)。
【0019】
パターンの描画が完了すると、基板は、現像装置である現像手段13へと搬送される。現像手段13では、露光後のレジスト膜に現像液を噴射する現像工程が行われる(ステップS4)。現像工程により、レジスト膜の不要領域が除去され、レジストのパターン(現像パターン)が形成される。エッチング装置である配線パターン形成手段14では、現像工程後の基板に対してエッチングが施される。これにより、レジストのパターンに覆われていない、すなわち、レジストのパターンから露出する導体膜の部分が除去される(削られる。)。その後、レジスト剥離を行うことにより、レジストのパターンが除去される。このようにして、導体膜のパターンである配線パターンが基板上に形成される(ステップS5)。
【0020】
配線パターンが形成された基板、すなわち、配線基板は、検査装置である検査手段15に搬送され、配線パターンが検査される(ステップS6)。実際には、設計データが示すパターンは、配線パターン以外に、所定のテストパターンを含んでおり、基板上に形成されたテストパターンの検査結果が、補正手段16に出力される。補正手段16は、例えば、コンピュータにより実現され、基板上のテストパターンの検査結果と、設計データが示すテストパターンとの差異等に基づいて、設計データが補正される(ステップS7)。このとき、設計データにおいて配線パターンの形状は補正され、テストパターンの形状は補正されない。補正された設計データは、次の基板に描画すべきパターンを示すものとして、描画データ作成手段11に出力される。
【0021】
描画データ作成手段11では、補正された設計データから描画データが作成され(ステップS2)、上記と同様の条件にて、描画工程、現像工程および配線パターン形成工程が行われる(ステップS3〜S5)。すなわち、補正された設計データに基づいて、基板上に配線パターンが形成される。これにより、設計データ作成手段19により作成された設計データ、すなわち、元の設計データ(補正されていない設計データ)が示す配線パターンに近似した配線パターンを有する配線基板が製造される。配線パターン形成システム10では、配線基板が製造される毎に、検査工程および検査結果に基づく設計データの補正(元の設計データに対する補正)が行われ(ステップS6,S7)、補正された設計データが、次の基板に対する配線パターンの形成に利用される(ステップS2〜S5)。なお、設計データの補正は、所定数の配線基板の製造毎、予め定められた期間毎等、任意に決定された間隔にて行われてよい。
【0022】
図3は、上記描画データ作成手段11、描画手段12および補正手段16の一例を含む描画装置1の構成を示す図である。描画装置1は、基板9の表面に設けられた感光材料であるレジスト膜に光を照射することにより、レジスト膜上にパターンの画像を直接的に描画する直描装置である。描画装置1によりパターンが描画された基板9には、各種装置において現像、エッチングが施される(
図1参照)。これにより、基板9上にパターンが形成される。基板9に対するエッチングは、例えば、基板9に対してエッチング液を付与することにより行われるウェットエッチングである。
【0023】
描画装置1は、データ処理装置2と、露光装置3とを備える。データ処理装置2は、基板9上に描画されるパターンの設計データを補正し、描画データを生成する。露光装置3は、データ処理装置2から送られた描画データに基づいて基板9に対する描画(すなわち、露光)を行う。データ処理装置2と露光装置3とは、両装置間のデータの授受が可能であれば、物理的に離間していてもよく、もちろん、一体的に設けられてもよい。
【0024】
図4は、データ処理装置2の構成を示す図である。データ処理装置2は、各種演算処理を行うCPU201と、基本プログラムを記憶するROM202と、各種情報を記憶するRAM203とを含む一般的なコンピュータシステムの構成となっている。データ処理装置2は、情報記憶を行う固定ディスク204と、画像等の各種情報の表示を行うディスプレイ205と、操作者からの入力を受け付けるキーボード206aおよびマウス206bと、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体R1から情報の読み取りおよび書き込みを行う読取/書込装置207と、描画装置1の他の構成等との間で信号を送受信する通信部208とをさらに含む。
【0025】
データ処理装置2では、事前に読取/書込装置207を介して記録媒体R1からプログラムR2が読み出されて固定ディスク204に記憶されている。CPU201は、プログラムR2に従ってRAM203や固定ディスク204を利用しつつ演算処理を実行することにより(すなわち、コンピュータがプログラムを実行することにより)、後述の機能を実現する。
【0026】
図5は、データ処理装置2の機能を示すブロック図である。
図5では、データ処理装置2に接続される露光装置3の構成の一部(描画コントローラ31)、および、外部の検査装置4を併せて示す。データ処理装置2は、データ補正装置21と、データ変換部22とを備える。データ補正装置21は、基板9上にエッチングにより形成されるパターンの設計データを補正する。データ補正装置21は、設計データ記憶部211と、参照情報生成部212と、参照情報記憶部213と、下面エッチング量取得部214と、データ補正部216とを備える。データ変換部22には、データ補正装置21により補正された設計データ(以下、「補正済みデータ」という。)が入力される。補正済みデータは、通常、ポリゴン等のベクトルデータである。データ変換部22は、ベクトルデータである補正済みデータをラスタデータである描画データに変換する。データ処理装置2の機能は専用の電気的回路により実現されてもよく、部分的に専用の電気的回路が用いられてもよい。
【0027】
図3に示すように、露光装置3は、描画コントローラ31と、ステージ32と、光出射部33と、走査機構35とを備える。描画コントローラ31は、光出射部33および走査機構35を制御する。ステージ32は、光出射部33の下方にて基板9を保持する。光出射部33は、光源331と、光変調部332とを備える。光源331は、光変調部332に向けてレーザ光を出射する。光変調部332は、光源331からの光を変調する。光変調部332により変調された光は、ステージ32上の基板9に照射される。光変調部332としては、例えば、複数の光変調素子が二次元に配列されたDMD(デジタルミラーデバイス)が利用される。光変調部332は、複数の光変調素子が一次元に配列された変調器等であってもよい。
【0028】
走査機構35は、ステージ32を水平方向に移動する。具体的には、走査機構35により、ステージ32が主走査方向、および、主走査方向に垂直な副走査方向に移動される。これにより、光変調部332により変調された光が、基板9上にて主走査方向および副走査方向に走査される。露光装置3では、ステージ32を水平に回転する回転機構が設けられてもよい。また、光出射部33を上下方向に移動する昇降機構が設けられてもよい。走査機構35は、光出射部33からの光を基板9上にて走査することができるのであれば、必ずしもステージ32を移動する機構である必要はない。例えば、走査機構35により、光出射部33がステージ32の上方にて主走査方向および副走査方向に移動されてもよい。
【0029】
ここで、基板9に対するエッチングについて説明する。
図6Aないし
図6Cは、基板9に対するエッチングを説明するための図であり、基板9の断面図である。
図6Aに示すように、基板9に対するエッチングを行う際には、事前に、金属(例えば銅)等の導電性材料にて形成された導体膜8が基板9の主面に形成され、レジスト材料によるマスクパターン71が導体膜8上に形成される。基板9の主面は、例えば基板9に設けられた絶縁層(基板9自体であってもよい。)の表面である。導体膜8およびマスクパターン71の厚さは予め決定される。マスクパターン71は、複数のマスク要素711の集合である。
【0030】
続いて、基板9に対して、エッチング液を利用するウェットエッチングが行われる。このとき、基板9(の絶縁層)およびマスクパターン71はエッチング液によりエッチングされない。したがって、
図6Bに示すように、マスク要素711にて覆われていない導体膜8の上面の領域がエッチングにより除去される。
【0031】
エッチング液による導体膜8の除去は、マスク要素711にて覆われていない導体膜8の上面の領域から、およそ等方的に進行し、
図6Cに示すように、マスク要素711と基板9との間の領域にも及ぶ。その結果、各マスク要素711を用いて導体膜8に形成されるパターン要素811では、当該マスク要素711に接する上面の幅が、基板9に接する下面の幅よりも狭くなる。すなわち、パターン要素811の断面形状が台形となる。
図6Cでは、断面形状が台形となる各パターン要素811の片側の側壁近傍のみを示している。マスクパターン71に含まれる複数のマスク要素711に対応する複数のパターン要素811は互いに分離しており、複数のパターン要素811の集合が導体膜8のパターンとなる。
【0032】
次に、
図7を参照しつつ、描画装置1による描画の流れについて説明する。まず、データ補正装置21では、後述の処理にて利用される参照情報が参照情報記憶部213に記憶されることにより準備される(ステップS11)。参照情報の詳細については後述する。また、基板9上にエッチングにより形成される予定のパターンの設計データが、データ補正装置21に入力され、設計データ記憶部211に記憶されることにより準備される(ステップS12)。
【0033】
続いて、露光装置3により設計データが示すパターンがレジスト膜に描画され、さらに、現像、エッチング、レジスト剥離等の処理が行われた基板9(以下、「処理済み基板9」という。)が準備される。処理済み基板9は、後述のステップS17における描画が行われる基板9と同じ形状および大きさである。設計データが示すパターンは、基板9上に形成すべき配線パターン以外に、テストパターンを含む。
【0034】
図8は、処理済み基板9の一部を拡大して示す平面図であり、テストパターンの領域を示している。テストパターンを示す複数のパターン要素811のそれぞれは、一の方向に伸びる略直線状である。
図8に示す複数のパターン要素811のうち互いに隣接する2つのパターン要素811をパターン要素ペア810として、処理済み基板9では、複数のパターン要素ペア810が形成される。
【0035】
図9は、処理済み基板9上の一のパターン要素ペア810を示す図であり、パターン要素811の長手方向に垂直な断面を示している。また、
図9では、パターン要素ペア810の2つのパターン要素811の形成に用いられる2つのマスク要素711を二点鎖線にて示している。以下の説明では、各パターン要素ペア810に対応する2つのマスク要素711を「マスク要素ペア710」と呼ぶ。
【0036】
処理済み基板9における複数のパターン要素ペア810は、複数のマスク要素ペア710をそれぞれ用いてエッチングにより形成される。具体的には、まず、露光装置3によるレジスト膜への描画、および、レジスト膜の現像により、複数のマスク要素ペア710が形成される。各マスク要素ペア710に含まれる2つのマスク要素711は、導体膜8上において互いに隣接する。マスク要素ペア710の2つのマスク要素711間の隙間の幅Gをマスクギャップ幅Gとすると、複数のマスク要素ペア710では、互いに異なる複数のマスクギャップ幅Gがそれぞれ設定される。そして、エッチング液の種類、濃度、温度や、処理時間等を所定の設定条件としたエッチングにより、複数のマスク要素ペア710を用いて、導体膜8の複数のパターン要素ペア810が形成される。処理済み基板9では、レジスト剥離により複数のマスク要素711は除去されている。
【0037】
既述のように、各マスク要素711を用いて導体膜8に形成されるパターン要素811では、当該マスク要素711に接する上面の幅が、基板9に接する下面の幅よりも狭くなる。以下の説明では、マスク要素ペア710に含まれる各マスク要素711において、マスクギャップ幅Gを規定するエッジから、当該マスク要素711に対応するパターン要素811の上面のエッジまでの距離(パターン要素811の長手方向に垂直かつ基板9の主面に沿う方向の距離)を「上面エッチング量ET」と呼び、パターン要素811の下面のエッジまでの距離を「下面エッチング量EB」と呼ぶ。上面エッチング量ETおよび下面エッチング量EBは、マスクギャップ幅Gに依存して変化する。
【0038】
描画装置1の外部に設けられる検査装置4では、処理済み基板9の複数のパターン要素ペア810の上面の画像が取得され、当該画像に基づいて、各パターン要素ペア810の上面間の隙間の幅である上面ギャップ幅GTが測定される。なお、検査装置4は、描画装置1に設けられてもよい。各パターン要素ペア810の上面ギャップ幅GTの測定値は、下面エッチング量取得部214に入力される。
【0039】
下面エッチング量取得部214では、処理済み基板9のパターンの描画に用いた設計データから、各パターン要素ペア810の形成に用いられるマスク要素ペア710のマスクギャップ幅Gが特定される。そして、上面ギャップ幅GTの測定値から当該マスクギャップ幅Gを引いて得た値の半分が、上面エッチング量ETの測定値として取得される(ステップS13)。本実施の形態では、マスクパターン71の各マスク要素711の位置、形状、大きさが、設計データが示すパターンと厳密に一致するものとしている。
【0040】
ここで、ステップS11にて準備される既述の参照情報について説明する。
図10は、参照情報の一例を示す図である。
図10では、エッチングにおける上面エッチング量ETの経時変化を線L1にて示し、下面エッチング量EBの経時変化を線L2にて示している。参照情報は、マスク要素ペア710を用いてエッチングにより導体膜8に形成されるパターン要素ペア810の上面エッチング量ETと、下面エッチング量EBとの関係を実質的に示す。上面エッチング量ETはエッチング開始時刻から処理時間の経過に従って漸次増大する。エッチング開始時刻から所定時間経過した時刻においてエッチング液が基板9の表面に到達し(
図6B中にて二点鎖線にて示す導体膜8の形状E2参照)、下面エッチング量EBが当該時刻から処理時間の経過に従って漸次増大する。なお、
図9の左右方向に関して、パターン要素811の下面のエッジがマスク要素ペア710の間に位置する場合に下面エッチング量EBは負の値となり、当該エッジがマスク要素711の下方に位置する場合に下面エッチング量EBは正の値となる。参照情報は、複数のマスクギャップ幅Gのそれぞれに対して生成される。参照情報を生成する処理については後述する。
【0041】
下面エッチング量取得部214では、例えば、一のマスクギャップ幅Gにおける上面エッチング量ETの測定値がD1である場合、
図10中にて上面エッチング量ETの変化を示す線L1が距離D1となる処理時間T1が特定される。そして、下面エッチング量EBの変化を示す線L2において処理時間T1における距離D2が下面エッチング量EBの値として取得される。このようにして、各マスクギャップ幅Gの上面エッチング量ETの測定値を用いて参照情報を参照することにより、処理済み基板9に対して、複数のマスクギャップ幅Gにおける複数の下面エッチング量EBの値が取得される(ステップS14)。マスクギャップ幅Gと下面エッチング量EBとの関係では、典型的には、マスクギャップ幅Gが小さくなるに従って下面エッチング量EBは漸次小さくなり、変化率は漸次増大する。
【0042】
データ補正部216では、複数のマスクギャップ幅Gにおける複数の下面エッチング量EBの値に基づいて、設計データ記憶部211に記憶される設計データが補正され、補正済みデータが生成される(ステップS15)。設計データの補正では、基板9上の導体膜8に対して、下面エッチング量EBに従った過剰な(すなわち、所望量を超える)エッチングが行われることが考慮される。すなわち、複数のマスクギャップ幅Gにおける複数の下面エッチング量EBの値を参照して、エッチング後の基板9上のパターンにおける各パターン要素811の下面が所望の線幅や大きさにて形成されるように、設計データの配線パターンに含まれるパターン要素の線幅や、大きさを変更する補正が行われる。実際には、上記複数のマスクギャップ幅Gとは相違するギャップ幅(マスク要素711のギャップ幅)の下面エッチング量EBの値は、各種補間演算により求められ、ギャップ幅と下面エッチング量EBとの関係を示すエッチング曲線が設計データの補正に利用される。なお、設計データのテストパターンに含まれるパターン要素の形状は変更(補正)されない。
【0043】
補正済みデータは、データ補正部216からデータ変換部22へと送られる。データ変換部22では、ベクトルデータである補正済みデータがラスタデータである描画データに変換される(ステップS16)。当該描画データは、データ変換部22から露光装置3の描画コントローラ31へと送られる。露光装置3では、描画データに基づいて、描画コントローラ31により光出射部33の光変調部332および走査機構35が制御されることにより、基板9に対する描画が行われる(ステップS17)。描画が行われた基板9に対して、現像、エッチング等の処理が行われることにより、配線パターン(およびテストパターン)を示す複数のパターン要素811が基板9上に形成される。
【0044】
本実施の形態では、
図7のステップS13は、
図2のステップS6の検査工程に対応し、ステップS14,S15は、ステップS7の設計データ補正工程に対応する。また、ステップS16は、ステップS2の描画データ作成工程に対応し、ステップS17は、ステップS3の描画工程に対応する。したがって、
図2のステップS2〜S7の繰り返しにおいて、
図7のステップS13〜S17が繰り返される。このとき、ステップS17にてパターンが描画され、ステップS4,S5を経て配線パターンが形成された基板9を処理済み基板9として、他の基板9に対するステップS13〜S17が行われる。なお、
図7のステップS11,S12は、
図2のステップS1に含まれる。
【0045】
次に、参照情報の生成について述べる。導体膜8のエッチングでは、導体膜8においてエッチング液と接する面であるエッチング界面が、
図6B中に符号E1を付す形状、符号E2を付す形状を経て、
図6C中の符号E3を付す形状となる。ここで、エッチングの開始(
図6A参照)から、エッチング界面が基板9の表面に到達した時点での形状E2となるまでの過程では、エッチングがほぼ等方的に一定速度で進行し、エッチング界面が形状E2から形状E3となるまでの過程では、エッチング界面の形状が時間に関する多項式で表現できると仮定する。このような仮定の下では、エッチングの開始からエッチング界面が形状E2となるまでに要する時間は、実験等により予め求められているエッチング速度(すなわち、単位時間当たりにエッチングが進行する距離であり、エッチングレートとも呼ばれる。)と、導体膜8の厚さとから求められる。また、エッチング界面が形状E2から形状E3になるまでの過程における、上面エッチング量ETの時間変化ET(t)、および、下面エッチング量EBの時間変化EB(t)は、それぞれ数1および数2により表現される。数1および数2において、tはエッチング界面が基板9の表面に到達した時刻からの時間である。
【0046】
(数1)
ET(t)=a0+a1*t+a2*t
2+a3*t
3+・・・
【0047】
(数2)
EB(t)=b0+b1*t+b2*t
2+b3*t
3+・・・
【0048】
エッチング界面が形状E2から形状E3になる過程では、エッチングに特異的な変化はないと考えられるから、数1および数2において時間tの3次項以降を無視して、上面エッチング量ETの時間変化ET(t)、および、下面エッチング量EBの時間変化EB(t)を数3および数4のようにモデル化(定式化)することができる。
【0049】
(数3)
ET(t)=a0+a1*t+a2*t
2
【0050】
(数4)
EB(t)=b0+b1*t+b2*t
2
【0051】
数3および数4は、実質的には、エッチングにおけるパターン要素ペア810の形状の変化(形状E2からの変化)を定式化した多項式である。参照情報生成部212では、複数のマスクギャップ幅Gのそれぞれに関して、数3および数4における係数a0、a1、a2、b0、b1、b2が決定される。具体的には、数3および数4における係数a0、b0は、tが0である、すなわち、エッチング界面が基板9の表面に到達した時点における上面エッチング量ETおよび下面エッチング量EBである。t=0における上面エッチング量ET(すなわち、係数a0)は、既述のエッチング速度を用いて取得可能であり、t=0における下面エッチング量EB(すなわち、係数b0)は、(−G/2)である。また、数3および数4における係数a1、b1は、t=0における上面エッチング量ETの変化量(ET’(0))、および、t=0における下面エッチング量EBの変化量(EB’(0))であり、ここでは、エッチング速度と同じであるものとする。
【0052】
数3および数4における係数a2、b2は、エッチングが行われたテスト基板を用いて決定される。具体的には、テスト基板の導体膜8上には、複数のマスクギャップ幅Gがそれぞれ設定された複数のマスク要素ペア710が形成され、当該複数のマスク要素ペア710を用いて、複数のパターン要素ペア810がエッチングにより形成される。テスト基板は、上述の基板9と形状およびサイズが同じであることが好ましい。エッチングにおけるエッチング液の種類、濃度、温度や、処理時間は、上述の処理済み基板9に対する処理と同じである。テスト基板のエッチングの処理時間は、複数のマスク要素ペア710に対応する複数のパターン要素ペア810が適切に形成される範囲内で変更されてよい。
【0053】
その後、検査装置4においてテスト基板上の複数のパターン要素ペア810の上面ギャップ幅GT(
図9参照)が測定される。また、各パターン要素ペア810の下面間の隙間の幅である下面ギャップ幅GBも測定される。複数のパターン要素ペア810の上面ギャップ幅GTおよび下面ギャップ幅GBの測定値、すなわち、複数のマスクギャップ幅Gにおける上面ギャップ幅GTおよび下面ギャップ幅GBの測定値は、テスト基板のエッチングの処理時間と共に参照情報生成部212に入力される。なお、下面ギャップ幅GB(および上面ギャップ幅GT)は、顕微鏡等を利用して測定されてよい。
【0054】
既述のように、エッチングの開始からエッチング界面が基板9の表面に到達するまでの時間(エッチング界面が形状E2となるまでの時間)をTmとすると、数3および数4は、エッチングの開始から時間Tmが経過した後における上面エッチング量ETの時間変化ET(t)、および、下面エッチング量EBの時間変化EB(t)を示す。また、時間Tmは、エッチング速度と、導体膜8の厚さとから求められる。さらに、参照情報生成部212では、各マスクギャップ幅Gにおける上面ギャップ幅GTおよび下面ギャップ幅GBの測定値から、上面エッチング量ETおよび下面エッチング量EBの値(測定値)が求められる。したがって、係数a0、a1が決定された数3において、テスト基板のエッチングの処理時間から時間Tmを引いて得られる値をtに、上面エッチング量ETの測定値をET(t)にそれぞれ代入することにより、係数a2が求められる。同様に、係数b0、b1が決定された数4において、テスト基板のエッチングの処理時間から時間Tmを引いて得られる値をtに、下面エッチング量EBの測定値をEB(t)にそれぞれ代入することにより、係数b2が求められる。
【0055】
参照情報生成部212では、各マスクギャップ幅Gに対して、数3および数4における係数a0、a1、a2、b0、b1、b2を決定することにより、エッチングにおけるパターン要素ペア810の上面エッチング量ETの経時変化と、下面エッチング量EBの経時変化とを示す参照情報(
図10参照)が取得される。参照情報は、パターン要素ペア810の上面エッチング量ETと下面エッチング量EBとの関係を実質的に示す。参照情報は、データ補正装置21の外部のコンピュータにて生成されて参照情報記憶部213に入力されてもよい。
【0056】
以上に説明したように、データ補正装置21では、参照情報記憶部213において、パターン要素ペア810の上面エッチング量ETと、下面エッチング量EBとの関係を示す参照情報が、複数のマスクギャップ幅Gのそれぞれに対して記憶される。また、複数のマスクギャップ幅Gがそれぞれ設定された複数のマスク要素ペア710を用いてエッチングが行われた処理済み基板9において、複数のマスク要素ペア710に対応する複数のパターン要素ペア810のそれぞれの上面エッチング量ETの測定値が取得される。そして、当該測定値を用いて参照情報を参照することにより、処理済み基板9に対して複数のマスクギャップ幅Gにおける複数の下面エッチング量EBの値が取得され、複数の下面エッチング量EBの値に基づいて設計データが補正される。これにより、導体膜8のパターンの下面を基準とする設計データの補正を容易に行うことができる。
【0057】
また、参照情報を取得する際には、複数のマスクギャップ幅Gのそれぞれに関して、導体膜8が基板9の表面までエッチングされた状態(すなわち、エッチング界面が基板9の表面に到達した時点の状態)から、導体膜8が当該表面に沿ってエッチングされる際のパターン要素ペア810の形状の変化が時間の多項式で定式化される。そして、当該多項式の係数が、所定時間のエッチングが行われたテスト基板におけるパターン要素ペア810の形状の測定値を用いたフィッティングにて決定される。これにより、参照情報を容易に取得することができる。なお、設計データに基づいてパターンが形成された処理済み基板9が、テスト基板として扱われてもよい。
【0058】
既述のように、
図2のステップS2〜S7の繰り返しでは、原則として同じ条件の処理が各工程にて行われる。しかしながら、エッチング装置におけるエッチング条件(例えば、エッチング液の温度等)が、僅かに変化することがある。このとき、処理済み基板9における複数のマスクギャップ幅Gの上面エッチング量ETの測定値が変動する。
【0059】
この場合も、下面エッチング量取得部214では、
図10の参照情報において上面エッチング量ETの測定値に対応する処理時間が特定され、当該処理時間に対応する下面エッチング量EBの値が取得される。すなわち、エッチング条件の僅かな変化による上面エッチング量ETの測定値の変動が、エッチングの処理時間の変動に実質的に換算されて、下面エッチング量EBの値が精度よく取得される。これにより、導体膜8のパターンの下面を基準とする設計データの補正(元の設計データに対する補正)を精度よく行うことができる。
【0060】
ところで、基板9に対するエッチングでは、基板9上の位置に依存してエッチング量(上面エッチング量ETおよび下面エッチング量EB)が異なることがある。このような場合には、
図11に示すように、処理済み基板9上において、複数の位置P(以下、「対象位置P」という。)にテストパターンが配置されることが好ましい。すなわち、複数の対象位置Pのそれぞれにおいて、複数のマスクギャップ幅Gに対応する複数のパターン要素ペア810が形成される。
【0061】
図11の処理済み基板9を用いた
図7の処理では、各対象位置Pにおいて複数のパターン要素ペア810の上面エッチング量ETの測定値が取得される(ステップS13)。続いて、各マスクギャップ幅Gの参照情報(
図10参照)において、各対象位置Pにおける当該マスクギャップ幅Gの上面エッチング量ETの測定値に対応する処理時間が特定され、当該処理時間に対応する下面エッチング量EBの値が取得される(ステップS14)。すなわち、基板9上の位置に依存するエッチング量の相違(上面エッチング量ETの測定値の相違)が、同一の参照情報を用いてエッチングの処理時間の相違に実質的に換算されて、下面エッチング量EBの値が取得される。
【0062】
データ補正部216では、複数の対象位置Pにおける複数の下面エッチング量EBの値に基づいて設計データが補正され、補正済みデータが生成される(ステップS15)。このとき、設計データが示す基板9上の各位置のパターン要素の補正では、例えば、当該位置の最寄りの対象位置Pにおける下面エッチング量EBの値が参照される。これにより、基板9上の位置に依存したエッチング量の相違を考慮して、設計データが補正される。補正済みデータは描画データに変換され(ステップS16)、当該描画データに基づいて、基板9に対する描画が行われる(ステップS17)。
【0063】
以上のように、データ補正装置21では、処理済み基板9上の複数の対象位置Pのそれぞれにテストパターンが配置される場合に、各マスクギャップ幅Gに関して、同一の参照情報を参照することにより、複数の対象位置Pにおける複数の下面エッチング量EBの値が取得される。これにより、当該複数の下面エッチング量EBの値に基づいて、設計データの高精度な補正を容易に行うことが実現される。
【0064】
図9から明らかなように、パターン要素ペア810の上面間の隙間の幅である上面ギャップ幅GTは、上面エッチング量ETの2倍にマスクギャップ幅Gを加算した値である。したがって、各マスクギャップ幅Gにおいて、上面ギャップ幅GTと上面エッチング量ETとを等価なものとして扱うことが可能である。同様に、パターン要素ペア810の下面間の隙間の幅である下面ギャップ幅GBは、下面エッチング量EBの2倍にマスクギャップ幅Gを加算した値である。したがって、各マスクギャップ幅Gにおいて、下面ギャップ幅GBと下面エッチング量EBとを等価なものとして扱うことが可能である。
【0065】
よって、データ補正装置21の参照情報記憶部213では、パターン要素ペア810の上面ギャップ幅GTと下面ギャップ幅GBとの関係を実質的に示す参照情報が、複数のマスクギャップ幅Gのそれぞれに対して記憶されている。また、下面エッチング量取得部214は、処理済み基板9における上面ギャップ幅GTの測定値を用いて参照情報を参照することにより、処理済み基板9に対して、複数のマスクギャップ幅Gにおける複数の下面ギャップ幅GBの値を取得する下面ギャップ幅取得部として捉えることができる。そして、データ補正部216では、複数のマスクギャップ幅Gにおける複数の下面ギャップ幅GBの値に基づく設計データの補正が実質的に行われている。
【0066】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る検査装置について説明する。
図12は、検査装置4aの機能を示すブロック図である。検査装置4aは、設計データに基づく描画後のエッチングにより基板9上に形成されたパターンを検査する装置である。検査装置4aは、
図2に示すデータ処理装置2と同様に、一般的なコンピュータシステムの構成となっている。
【0067】
検査装置4aは、設計データ記憶部41と、参照情報記憶部42と、実画像記憶部43と、上面ギャップ幅取得部44と、データ補正部45と、欠陥検出部46とを備える。設計データ記憶部41および参照情報記憶部42は、
図5の設計データ記憶部211および参照情報記憶部213と同様である。実画像記憶部43は、検査対象の基板9(以下、「対象基板9」という。)上に形成された導体膜8のパターンの上面を示す画像データを検査画像データとして記憶する。上面ギャップ幅取得部44は、検査画像データに基づいてテストパターンに含まれるパターン要素ペア810の上面ギャップ幅GT(
図9参照)の測定値を取得する。データ補正部45は、上面ギャップ幅GTの測定値を用いて、検査画像データが示す導体膜8のパターンから、対象基板9上の当該パターンの下面の形状を取得する。欠陥検出部46は、導体膜8のパターンの下面の形状に基づいて当該パターンの欠陥を検出する。
【0068】
次に、
図13を参照しつつ、検査装置4aによる検査の流れについて説明する。検査装置4aによる検査では、まず、複数のマスクギャップ幅Gのそれぞれに関して、パターン要素ペア810の上面ギャップ幅GTと下面ギャップ幅GBとの関係を示す参照情報が、参照情報記憶部42に記憶されることにより準備される(ステップS21)。参照情報は、外部のコンピュータまたは検査装置4aに設けられる参照情報生成部にて生成される。また、対象基板9上に導体膜8のパターンを形成する際に利用された設計データが、設計データ記憶部41に記憶されることにより準備される(ステップS22)。
【0069】
続いて、対象基板9上に形成された導体膜8のパターンの上面を示す画像データが取得され、当該画像データが検査画像データとして実画像記憶部43に記憶される(ステップS23)。ここで、対象基板9上の導体膜8のパターンは、設計データに基づいて基板9上のレジスト膜に描画されたパターンを現像してレジスト膜のマスクパターン71を形成し、当該マスクパターン71を用いてエッチングを施すことにより、対象基板9上に形成されるパターンである。
図7を参照して説明した処理と同様に、設計データが示すパターンは、配線パターン以外に、テストパターンを含む。したがって、複数のマスクギャップ幅Gがそれぞれ設定された複数のマスク要素ペア710を用いて、対象基板9上に複数のパターン要素ペア810が形成されている。なお、検査画像データは、検査装置4aの外部または検査装置4aに設けられる撮像部にて取得される。
【0070】
上面ギャップ幅取得部44では、検査画像データに基づいて、テストパターンに含まれる複数のパターン要素ペア810のそれぞれの上面ギャップ幅GTの測定値が取得される(ステップS24)。すなわち、複数のマスクギャップ幅Gにそれぞれ対応する複数の上面ギャップ幅GTの測定値が取得される。
【0071】
データ補正部45では、対象基板9上の一のパターン要素811を注目パターン要素811として、注目パターン要素811の形成に用いられたマスク要素711と、当該マスク要素711に隣接するマスク要素711との間の隙間の幅が、マスク要素711のギャップ幅として設計データに基づいて特定される。続いて、当該ギャップ幅に近似または一致するマスクギャップ幅Gの参照情報を、当該マスクギャップ幅Gに対応する上面ギャップ幅GTの測定値を用いて参照することにより、下面ギャップ幅GBの値が取得される。そして、検査画像データが示す画像において、注目パターン要素811の領域の線幅や大きさを、例えば、上面ギャップ幅GTの測定値と下面ギャップ幅GBの値との差(正確には、
図9の上面エッチング量ETと下面エッチング量EBとの差)に基づいて変更することにより、対象基板9上の注目パターン要素811の下面の形状が取得される。
【0072】
図5のデータ補正部216と同様に、上記マスクギャップ幅Gとは相違するギャップ幅における上記差が各種補間演算により求められ、上記差とギャップ幅との関係を示す曲線が生成されてもよい。この場合、注目パターン要素811に対するマスク要素711のギャップ幅に対応する上記差が当該曲線から取得され、注目パターン要素811の領域の線幅や大きさの変更に利用される。当該曲線を利用する処理も、実質的には、注目パターン要素811に対して設計データから特定されるマスクギャップ幅Gの参照情報を、当該マスクギャップ幅Gの測定値を用いて参照していると捉えることができる。
【0073】
データ補正部45では、対象基板9上において配線パターンに含まれる全てのパターン要素811のそれぞれを注目パターン要素811として上記処理を行うことにより、検査画像データが示すパターンから、対象基板9上に形成された導体膜8のパターンの下面の形状が取得される(ステップS25)。欠陥検出部46では、データ補正部45により取得されたパターンの下面の形状に基づいて、対象基板9上の導体膜8のパターンの欠陥が検出される(ステップS26)。例えば、各パターン要素811の下面のエッジと、当該パターン要素811に隣接するパターン要素811の下面のエッジとの間の距離が求められ、当該距離が所定の閾値以下である場合に、両パターン要素811が欠陥として検出される。欠陥の検出は様々な手法にて行われてよい。
【0074】
以上に説明したように、検査装置4aでは、パターン要素ペア810の上面ギャップ幅GTと下面ギャップ幅GBとの関係を示す参照情報が、複数のマスクギャップ幅Gのそれぞれに対して準備される。また、対象基板9上に形成されたパターンの上面の画像データである検査画像データが準備され、当該検査画像データに基づいて、複数のパターン要素ペア810のそれぞれの上面ギャップ幅GTの測定値が取得される。そして、対象基板9上のパターンの各パターン要素811に対して、設計データから特定されるマスクギャップ幅Gの参照情報を、当該マスクギャップ幅Gに対する測定値を用いて参照することにより、検査画像データが示すパターンから対象基板9上のパターンの下面の形状が取得される。これにより、導体膜8のパターンの下面を基準とする検査を容易に行うことが実現される。
【0075】
上記データ補正装置21、描画装置1、配線パターン形成システム10および検査装置4aでは、様々な変更が可能である。
【0076】
図7および
図13における処理の順序は適宜変更されてよい。例えば、
図7の処理においてステップS11とステップS12との順序が入れ換えられてもよい(
図13のステップS21,S22において同様)。
【0077】
基板9は、プリント基板以外に、半導体基板やガラス基板等であってもよい。データ補正装置21は、描画装置1から独立して利用されてよい。
【0078】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。