【0018】
熱可塑性バインダーは、結晶質であるか、非晶質であるかを問わず、石油ワックス、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アミドからなる群より選ばれた少なくとも1種類を用いることができる。
石油ワックスとしては、日本工業規格 (JIS K2235) によって規定されている、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのいずれも用いることができる。好適には炭素鎖が直鎖構造を持った飽和脂肪族炭化水素で、かつ炭素原子数が18以上35以下のものが好ましく、炭素原子数が20以上30以下のものはさらに好ましい。
また、脂肪酸としては、炭素鎖の形状、炭素原子数、炭素鎖の結合状態(飽和もしくは不飽和)によって特に限定されるものではないが、好適には炭素鎖が直鎖構造を持った飽和脂肪酸で、かつ炭素原子数が10以上25以下のものが好ましく、15以上20以下のものがさらに好ましい。
さらに、脂肪酸エステルとしては、脂肪酸とアルコールの炭素鎖の形状、炭素原子数、炭素鎖の結合状態(飽和もしくは不飽和)によって特に限定されるものではないが、好適には炭素鎖が直鎖構造をもった飽和脂肪酸エステルで、かつ炭素原子数が、10以上25以下のものが好ましく、15以上20以下のものはさらに好ましい、
また、脂肪酸アミドとしては、脂肪酸の炭素鎖の形状、炭素原子数、炭素鎖の結合状態(飽和もしくは不飽和)によって特に限定されるものではないが、好適には炭素鎖が直鎖構造を持った飽和脂肪酸アミドであり、かつ炭素原子数が、10以上25以下のものが好ましく、15以上20以下のものがさらに好ましい、
さらに、ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラールが挙げられる。ポりビニルブチラールとしては、分子量が1.0×10
4以上20.0×10
4であり、1.5×10
4以上10.0×10
4のものが好ましい。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク41μm)100重量部に対してステアリン酸15重量部を温エタノール(50℃)に溶解させ、アルミナ粗粒粉と混合した。加熱減圧下でエタノールを取り除き、粉砕した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例1の造形用粉末を得た。
【0027】
[実施例2]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク41μm)100重量部に対してステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)中の固形成分が20重量部になるよう、アルミナ粗粒粉とステアリン酸エマルジョンを混合した。混合水溶液を室温で乾燥させ粉砕した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例2の造形用粉末を得た。
【0028】
[実施例3〜実施例11]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm)100重量部に対してステアリン酸粗粒粉(粒度分布ピーク125μm)15重量部をV型混合機(VM−2:筒井理化学器機株式会社製)にて混合した。250μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例3の造形用粉末を得た。
また、実施例4では熱可塑性バインダーとしてポリビニルブチラール粗粒粉(粒度分布ピーク55μm)を用い、実施例5ではベヘニル酸エステル粗粒粉(粒度分布ピーク76μm)を用い、その他の条件は実施例3と同様にして造形用粉末を得た。
さらに、実施例6シリコン粗粒粉(粒度分布ピーク23μm)、実施例7ではシリカ粗粒粉(粒度分布ピーク46μm)、実施例8ではムライト粗粒粉(粒度分布ピーク15μm)、実施例9ではジルコニア粗粒粉(粒度分布ピーク28μm)、実施例10では炭化ケイ素粗粒粉(粒度分布ピーク26μm)、実施例11では炭化ケイ素粗粒粉(粒度分布ピーク43μm)、を用い、その他の条件は実施例3と同様にして造形用粉末を得た。
【0029】
[実施例12〜実施例15]
アルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm)100重量部に対して分散剤(A6114、東亜合成株式会社製)1重量部、水25重量部を加え、各種熱可塑性バインダーの水系エマルジョン(実施例12ではマイクロクリスタリンワックスのエマルジョン、実施例13ではステアリン酸のエマルジョン、実施例14ではパラフィンワックスのエマルジョン、実施15ではステアリン酸アミドのエマルジョン)をアルミナ微粒粉100重量部に対して熱可塑性バインダー固形成分が20重量部になるように混合した。混合水溶液をスプレードライ装置(スプレードライヤADL311S:ヤマト科学株式会社製)にて造粒粒子径が約30μmになるように調製して造粒した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例12〜実施例15の造形用粉末を得た。
【0030】
[実施例16]
アルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm)100重量部に対してステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)の固形成分が20重量部になるように混合した。混合水溶液を室温で乾燥させ、100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例16の造形用粉末を得た。
【0031】
[実施例17]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク12μm)70重量部とアルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm) 30重量部を混合し、混合したアルミナ原料粉末100重量部に対して分散剤(A6114、東亜合成株式会社製)1重量部、水25重量部を加え、ステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)の固形成分が20重量部になるように混合した。混合水溶液をスプレードライ装置(スプレードライヤADL311S:ヤマト科学株式会社製)にて造粒粒子径が約30μmになるように調製して造粒した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例17の造形用粉末を得た。
【0032】
[実施例18]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm) 80重量部とアルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm) 20重量部を混合し、混合したアルミナ原料粉末100重量部に対してステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)の固形成分が20重量部になるように混合した。混合水溶液を室温で乾燥させ粉砕後、100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例18の造形用粉末を得た。
【0033】
[実施例19]
アルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm)100重量部に対して分散剤(A6114、東亜合成株式会社製)1重量部、水30重量部を加え、ステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)をアルミナ微粒粉100重量部に対して熱可塑性バインダー固形成分が30重量部になるように混合した。混合水溶液をスプレードライ装置(スプレードライヤADL311S:ヤマト科学株式会社製)にて造粒した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、造粒粉を作製した。作製した造粒粉100重量部に対して、アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm)を20重量部に配合して、V型混合機(VM−2:筒井理化学器機株式会社製)にて混合した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例19の造形用粉末を得た。
【0034】
[比較例1]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm) 100重量部に対してナイロン樹脂粗粒粉(粒度分布ピーク50μm)10重量部をV型混合機(VM−2:筒井理化学器機株式会社製)にて混合した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、比較例1の造形用粉末を得た。
【0035】
[比較例2]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm) 100重量部に対してポリプロピレン樹脂粉末10重量部をV型混合機(VM−2:筒井理化学器機株式会社製)にて混合した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、比較例2の造形用粉末を得た。
【0036】
以上のようにして得られた実施例1〜19及び比較例1、2の造形用粉末を、粉末床溶融結合装置(Rafael300:株式会社アスペクト製)を用いて予熱を行わず、レーザー出力10Wで造形物を作製した。
【0037】
<評 価>
以上のようにして調製した実施例1〜19及び比較例1、2の造形用粉末、及びそれによって製造された造形物について、以下の測定を行った。結果を表1及び表2に示す。
[熱可塑性バインダー含有量の測定]
熱分析装置(TG8120:リガク株式会社製)を用いて、大気下で1000℃まで加熱し熱可塑性バインダーを燃焼させ、重量減少から熱可塑性バインダー含有量(g)、残留重量から原料粉末含有量(g)を計算した。
[熱可塑性バインダー融点の測定]
熱分析装置(TG8120:リガク株式会社製)を用いて、DTA曲線をから判断した。
[熱可塑性バインダーガラス転移点の測定]
熱分析装置(SDT Q600:ティ・エイ・インストルメンツ・ジャパン株式会社製)を用いて、DSC曲線から判断した。
[Hausner比の測定]
粉末の静かさ密度とタップ密度を測定し、前述した式(1)を用いて計算した。
[粒度分布の測定]
乾式のレーザー回折・散乱式粒度分析計(MT3000、マイクロトラックベル社製)により測定した。
[原料粉末の表面積]
比表面積を表面積分析装置(AUTOSORB-3:ユアサアイオニクス株式会社製)を用いて測定し、前述した式(2)を用いて計算した。
[熱可塑性バインダーの体積]
造形用粉末中の熱可塑性バインダーの重量と熱可塑性バインダーの密度から、前述した式(3)を用いて体積を計算した。
[造形物の作製]
粉末床溶融結合装置(Rafael300、光源:CO
2のレーザー、株式会社アスペクト製)を用い、大気下、予熱無しで造形物(3mm×5mm×70mm)を作製した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、融点(非晶質ではガラス転移点)が低い熱可塑性バインダーを用いた実施例1〜11では、粉末層形成の工程を1回又は複数回行えば、予熱すること無しに、粉末床溶融結合法により造形物の作製が可能であった。また、レーザー光照射時にガスが発生することもなかった。
一方、高融点の熱可塑性バインダーを用いた比較例1及び比較例2では、粉末層の予熱を行わず造形を行うと、造形物に反りやクラックが生じ、正常な造形物を作成することができなかった。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すように、実施例12〜19の造形用粉末を用いた場合、粉末層の予熱を行わなくても、粉末層形成工程を1回又は複数回行えば、予熱すること無しに、粉末床溶融結合法により造形物の作製が可能であった。造形物を作製するが可能であった。また、レーザー照射時にガスが発生することもなかった。
【0042】
<造形用粉末の構造>
実施例の造形用粉末を走査型電子顕微鏡で観察した結果、得られた模式図を
図1に示す。以下に
図1中の文言の意味を以下に示す。
・粗粒粉:粒度分布ピークが10μm以上400μm以下の範囲にある原料粉末。
・微粒粉:粒度分布ピークが0.1μm以上10μm未満の範囲にある原料粉末。
・粉末粒子状:乾式混合で作製した造形用粉末であり、原料粉末と熱可塑性バインダーの粒子が別粒子状態であることを示す。
・膜状:湿式混合で作製した造形用粉末であり、原料粉末と熱可塑性バインダーが造形用粉末粒子に含まれ、熱可塑性バインダーが溶融固化した状態を示す。
・分散粒子状:湿式混合で作製した造形用粉末であり、原料粉末と熱可塑性バインダーが造形用粉末粒子に含まれ、エマルジョン化した熱可塑性バインダー粒子が原料粉末表面に吸着もしくは一部溶解した状態を示す。
【0043】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。