特許第6664650号(P6664650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6664650-造形物の製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6664650
(24)【登録日】2020年2月21日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20200302BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20200302BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20200302BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20200302BHJP
【FI】
   B28B1/30
   B33Y10/00
   B22F3/16
   B22F3/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-7443(P2016-7443)
(22)【出願日】2016年1月18日
(65)【公開番号】特開2017-127999(P2017-127999A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年1月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/革新的設計生産技術 高付加価値セラミックス造形技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 彰紘
(72)【発明者】
【氏名】堀田 幹則
(72)【発明者】
【氏名】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大司 達樹
(72)【発明者】
【氏名】時園 岳朗
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰広
(72)【発明者】
【氏名】藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】村上 健二
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−536324(JP,A)
【文献】 特表2007−518605(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104140259(CN,A)
【文献】 特開2006−321711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B1/30
C04B35/00
B22F3/16
B22F3/02
B22F3/105
B33Y10/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末床溶融結合法を用いた造形物の製造方法であって、
融点又はガラス転移点が20℃以上130℃以下である熱可塑性バインダーと、セラミックス及び/又は金属の原料粉末とを、Hausner比が1.11以上1.20以下の造形用粉末となるように混合する造形用粉末調製工程を行い、
前記造形用粉末を造形ステージ上に予熱を行うことなく粉末層を形成する粉末層形成工程と、
前記粉末層にレーザー光を照射して所定のパターン形状に固化させる照射工程と、
を繰り返すことによって造形物を得る造形物の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス及び/又は金属は、金属酸化物、金属非酸化物、及び金属からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記固化工程は、大気雰囲気又は不活性ガス雰囲気で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末床溶融結合法を用いた造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な形状を有するセラミックス部材、モデル品、或いは少量多品種のセラミックス部材の製造方法として、粉末床溶融結合法が注目されている。粉末床溶融結合法とは、原料として粉末を用いた積層造形法であり、造形用粉末を厚さ数十〜数百μmの粉末層を形成させる粉末層形成工程と、こうして形成された粉末層に対して三次元造形物の断面形状にレーザーや電子ビーム等を照射することで選択的に加熱し、溶融固化または焼結させる断面形状形成行程と、を繰り返して積層することにより、三次元造形物を作製する方法である。
【0003】
しかし、セラミックスや金属は、樹脂に比べて融点が高いことから、これら材料自身を溶融固化または焼結により造形物を作製することは困難である。また、セラミックスや一部の金属については、塑性変形し難く、熱応力が大きいため、溶融固化または焼結することができても、造形物に割れやクラック等が生じ易くなり、良好な造形物を得ることは困難である。このため、これらのセラミックスや金属の粉末積層造形においては、まずはバインダーを含んだ原料粉末を積層し、バインダーをレーザー等で固化することにより成形体を作製した後、焼結を行うことが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂を含む、平均粒子径が1〜100μmの球状の粉末焼結積層造形法に使用される微小球体であって、微小球体の表面の一部又は全部が凝集防止粒子で被覆されていることで、滑り性もしくは流動性に優れ、かつ高い充填率が達成可能な粉末焼結積層造形に適した微小球体について記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、合成樹脂粉末30〜90重量%と無機充填剤10〜70重量%からなる材料を粉末層に展開し、レーザー光を照射して照射部位を溶融、固化させる。材料の粉末層展開とレーザー光照射による溶融固化を繰り返し行うことで三次元的モデルを作製することが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、砂粒子表面が熱硬化性樹脂成分にて被覆されたレジンコーテッドサンドを粉末層に形成し、レーザー光を照射して所要の2次元パターンの硬化層を形成する工程とを繰り返すことにより3次元造形物を得る方法が記載されている。この方法によれば、粉末層に形成されたレジンコーテッドサンドを予熱しておかなくても、レーザー光を照射すれば硬化剤が樹脂を架橋して熱硬化性樹脂となるため、そのまま所定の2次元パターン硬化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-321711号公報
【特許文献2】特開2011-242649号公報
【特許文献3】特開2003-266547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の従来のセラミックスや金属の粉末を原料とする粉末床溶融結合法では、粉末層に対してレーザー等で加熱した場合、急激な温度変化により造形物に反りやクラックが生じるという問題があった。この問題を解決するため、レーザー等を照射する前に粉末層を融点付近まで予熱しておくことが行われていた。しかしながら、粉末層を予熱するためには、装置内部全体を加熱する必要があるため、多くの時間とエネルギーを必要とするため、生産速度の低下やコスト増を招くという不具合を生じることになる。
また、上記特許文献3に記載の、硬化剤及び樹脂を含有する造形用粉末を用いた造形物の製造方法では、レーザー光の照射時に、熱硬化反応に伴うガスが発生し、造形物内部に欠陥が生じるという問題があった。
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、粉末床溶融結合法において、粉末層を予熱することなく造形物を作成することが可能であって、レーザー光照射時にガスの発生による造形物内部に欠陥が生じない造形物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の造形物の製造方法は、粉末床溶融結合法を用いた造形物の製造方法であって、融点又はガラス転移点が20℃以上130℃以下である熱可塑性バインダーと、セラミックス及び/又は金属の原料粉末と、を混合して造形用粉末とする造形用粉末調製工程と、前記造形用粉末を造形ステージ上に予熱を行うことなく粉末層を形成する粉末層形成工程と、前記粉末層にレーザー光を照射して所定のパターン形状に固化させる照射工程と、を繰り返すことによって造形物を得ることを特徴とする。
【0010】
本発明の造形物の製造方法では、まず造形用粉末調製工程として、熱可塑性バインダーと、セラミックス及び/又は金属の原料粉末とを混合して造形用粉末とする。そして、粉末層形成工程として、造形用粉末を造形ステージ上に予熱を行うことなく粉末層を形成する。さらに、照射工程として、粉末層にレーザー光を照射して所定のパターン形状に固化させる。ここで、粉末層を構成している造形用粉末に混合されている熱可塑性バインダーとしては、融点又はガラス転移点が20℃以上130℃以下の範囲という低い温度のものを用いるため、粉末層にレーザー光を照射してバインダーを溶融するのに、それほど急激な温度変化は生じず、造形物に反りやクラックが生じるおそれが少ない。このため、粉末層をレーザー等を照射する前に予熱しておく必要がなく、多くの時間とエネルギーを必要とすることもないことから、ひいては、生産速度の向上と製造コストの低廉化を実現できる。
なお、ここで熱可塑性バインダーとは、加熱によって硬化する熱硬化性バインダーを含まない意であり、架橋反応を行うための硬化剤も含まれていないものをいう。このため、硬化剤を含有する熱硬化性バインダーと異なり、レーザー光照射時にガスが発生することはなく、ガス発生による造形物内部に欠陥が生じない。
【0011】
セラミックス及び/又は金属としては、金属酸化物、金属非酸化物、及び金属の少なくとも1種類を用いることができる。
【0012】
また、固化工程は大気雰囲気又は不活性ガス雰囲気で行うことができる。固化工程を不活性ガス雰囲気で行えば、酸素と反応し易いセラミックスや金属を用いる場合に、化学変化が生じないため好適である。不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウム、窒素等を用いることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の造形物の製造方法によれば、粉末層を予熱することなく造形物を作成することができ、レーザー光照射時にガスの発生による造形物内部に欠陥が生じない造形物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例で用いた造形用粉末の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施形態について説明する。
(造形用粉末調整工程)
本発明の造形物の製造方法に用いられる造形用粉末の原料となるセラミックスとしては、特に限定はなく、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、複合酸化物等が挙げられる。これらは、単独でもよいし、二種以上を併用してもよい。また、本発明の造形用粉末の原料となる金属としてはシリコン、アルミニウム、鉄、ステンレス、チタン、タングステン等が挙げられる。
【0016】
金属酸化物としては特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化銅、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化タンタル、酸化タングステン、アパタイトなどが挙げられる。
また、金属窒化物としては特に限定されないが、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化バナジウム、窒化クロム、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、窒化タンタルなどが挙げられ、
さらに、金属炭化物としては特に限定されないが、例えば、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化ニオブ、炭化モリブデン、炭化タンタル、炭化タングステンなどが挙げられる。
また、複合酸化物としては特に限定されないが、例えば、コージェライト、ムライト、サイアロン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。
【0017】
また、造形用粉末に添加されるバインダーとしては、加熱によって溶融あるいは軟化するものであって、融点あるいはガラス転移点が20℃以上130℃以下であるものであれば、融点を有する結晶性の有機化合物やガラス転移点を有する非結晶性の有機化合物等を用いることができる。融点あるいはガラス転移点が20℃以上130℃以下であるものであれば、粉末層形成工程において形成された粉末層に対し、レーザーや電子ビーム等を照射することによって、容易に溶解、固化して造形物を形成することができるため、予熱を行う必要がない。
【0018】
熱可塑性バインダーは、結晶質であるか、非晶質であるかを問わず、石油ワックス、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アミドからなる群より選ばれた少なくとも1種類を用いることができる。
石油ワックスとしては、日本工業規格 (JIS K2235) によって規定されている、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのいずれも用いることができる。好適には炭素鎖が直鎖構造を持った飽和脂肪族炭化水素で、かつ炭素原子数が18以上35以下のものが好ましく、炭素原子数が20以上30以下のものはさらに好ましい。
また、脂肪酸としては、炭素鎖の形状、炭素原子数、炭素鎖の結合状態(飽和もしくは不飽和)によって特に限定されるものではないが、好適には炭素鎖が直鎖構造を持った飽和脂肪酸で、かつ炭素原子数が10以上25以下のものが好ましく、15以上20以下のものがさらに好ましい。
さらに、脂肪酸エステルとしては、脂肪酸とアルコールの炭素鎖の形状、炭素原子数、炭素鎖の結合状態(飽和もしくは不飽和)によって特に限定されるものではないが、好適には炭素鎖が直鎖構造をもった飽和脂肪酸エステルで、かつ炭素原子数が、10以上25以下のものが好ましく、15以上20以下のものはさらに好ましい、
また、脂肪酸アミドとしては、脂肪酸の炭素鎖の形状、炭素原子数、炭素鎖の結合状態(飽和もしくは不飽和)によって特に限定されるものではないが、好適には炭素鎖が直鎖構造を持った飽和脂肪酸アミドであり、かつ炭素原子数が、10以上25以下のものが好ましく、15以上20以下のものがさらに好ましい、
さらに、ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラールが挙げられる。ポりビニルブチラールとしては、分子量が1.0×10以上20.0×10であり、1.5×10以上10.0×10のものが好ましい。
【0019】
また、熱可塑性バインダーの融点又はガラス転移点は、20℃未満ではハンドリング時に熱可塑性バインダーの融解が容易に始まるために用いることができず、130℃を超えると造形時に予熱を必要とするため、20℃以上130℃以下の範囲にあることが必要である。好ましくは30℃以上120℃以下であり、さらに好ましいのは40℃以上110℃以下である。また、熱可塑性バインダーは2種類以上を混合して用いてもよく、結晶質の熱可塑性バインダーと非晶質の熱可塑性バインダーとを混合して用いてもよい。
【0020】
さらに、造形用粉末のHausner比は1.10以上1.40以下であることが好ましく、1.10以上1.30以下であることがさらに好ましく、1.11以上1.20以下であることが最も好ましい。Hausner比が1.10未満であると造形用粉末の流動性が優れることから、粉末層形成時の層の乱れが生じやすくなる。また、Hausner比が1.40を超えると造形用粉末の流動性が悪くなり、やはり粉末層形成時の層の乱れが生じやすくなる。
Hausner比とは、造形用粉末の静かさ密度とタップ密度の値を、下記の式(1)を用いて計算した値をいう。ここで、かさ密度とは、造形用粉末を静かに容器に入れたときの粉末の密度であり、JIS−R1628に準じて測定した値をいう。
また、タップ密度とは、造形用粉末を容器に入れた後,容器にタップによる衝撃を加え,体積変化がなくなったときの粉末の密度を指し、JIS−K5101に準じて、タップ回数は200回とした場合の値をいう。
【数1】
【0021】
また、造形用粉末は、単一もしくは複数の粒度分布ピークが10μm以上500μm以下の範囲にあることが好ましく、さらに好ましいのは20μm以上300μm以下であり、最も好ましいのは30μm以上100μm以下である。造形用粉末の粒度分布ピークが10μm以上であれば流動性に優れ、粉末層形成における精度が向上する。また、造形用粉末の粒度分布ピークが500μm以下であれば、作製した造形物の強度に優れたものとなる。なお、造形用粉末の粒度分布は、測定方法が特に限定されるものではないが、例えば、乾式のレーザー回折・散乱式粒度分布計や写真撮影と画像解析による分布測定により測定することができる。
【0022】
また、熱可塑性バインダーの体積をセラミックス及び/又は金属の原料粉末の表面積で除した値は、0.03μm以上3.00μm以下が好ましく、さらに好ましいのは0.04μm以上1.00μm以下である。熱可塑性バインダーの体積を原料粉末の表面積で除した値が0.03μm未満では、加熱による造形用粉末の固化体の強度が小さくなる。また、3.00μmを超える場合、熱可塑性バインダーの含有量が多すぎて加熱時の熱可塑性バインダー溶融により造形物の寸法精度が低下するおそれがある。なお、原料粉末の表面積は、測定方法が特に限定されるものではないが、例えば、ガス吸着法を用いた表面積分析装置により比表面積を測定したのち、式(2)を用いて計算することができる。
【数2】
熱可塑性バインダーの体積は、熱可塑性バインダーの重量と熱可塑性バインダーの密度から式(3)を用いて計算することができる。
【数3】
【0023】
造形用粉末は、セラミックス及び/又は金属の原料粉末と熱可塑性バインダーとを混合することによって製造することができる。混合方法としては、乾式法(原料粉末と熱可塑性バインダーを乾式で混合する方法)及び湿式法(原料粉末と熱可塑性バインダーを湿式溶媒中に分散し、あるいは、溶解した熱可塑性バインダーを原料粉末と混ぜた後に、溶媒を取り除き、熱可塑性バインダーを原料粉末の粒子表面に固定化させる方法で混合する方法)のいずれの方法も用いることができる。乾式混合の方法ではボールミルやV型混合機を用いた混合方法などが挙げられ、湿式混合ではバインダーを分散させた溶液と原料粉末と混ぜ合わせた後に、加熱噴霧・乾燥させるスプレードライ法や、溶媒に溶かしたバインダーを加熱減圧下で溶媒を取り除き混合させる方法などが挙げられる。なお、湿式法で混合した場合においいて、溶媒中に分散した熱可塑性バインダーを用いた場合、原料粉末と混合後に溶媒を熱可塑性バインダーの融点よりも低い温度で取り除くことで熱可塑性バインダーが分散粒子状態で原料粉末の粒子表面に吸着され、分散した熱可塑性バインダーの融点よりも高い温度で溶媒を取り除く、もしくは溶媒に溶解した熱可塑性バインダーを用いた場合、熱可塑性バインダーが原料粉末の粒子表面に膜状に吸着される。
【0024】
(粉末層形成工程)
本発明の造形物の製造方法における粉末層形成工程としては、ブレード等を移動させて粉末を粉末層に展開する方法や、回転するローラーを移動させて粉末を粉末層に展開する方法、逆回転のローラーを移動させて粉末を粉末層に展開する方法などが挙げられる。
【0025】
(照射工程)
照射工程において、粉末層に照射するためのレーザーとしては、例えばCOレーザー、ファイバーレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、He−Cdレーザー、半導体励起固体レーザーなどを挙げることができる。この中で、COレーザーは、簡易に制御でき、特に好適に用いることができる。これらのレーザーは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、レーザー光照射時の雰囲気としては、例えばヘリウム、窒素、アルゴンなどのガス中、あるいは大気中においても実施できる。雰囲気を不活性ガスとすることで、造形用粉末の酸化や腐食を防止するとともに、レーザー光照射による造形物の過熱による変形を防止することができる。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク41μm)100重量部に対してステアリン酸15重量部を温エタノール(50℃)に溶解させ、アルミナ粗粒粉と混合した。加熱減圧下でエタノールを取り除き、粉砕した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例1の造形用粉末を得た。
【0027】
[実施例2]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク41μm)100重量部に対してステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)中の固形成分が20重量部になるよう、アルミナ粗粒粉とステアリン酸エマルジョンを混合した。混合水溶液を室温で乾燥させ粉砕した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例2の造形用粉末を得た。
【0028】
[実施例3〜実施例11]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm)100重量部に対してステアリン酸粗粒粉(粒度分布ピーク125μm)15重量部をV型混合機(VM−2:筒井理化学器機株式会社製)にて混合した。250μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例3の造形用粉末を得た。
また、実施例4では熱可塑性バインダーとしてポリビニルブチラール粗粒粉(粒度分布ピーク55μm)を用い、実施例5ではベヘニル酸エステル粗粒粉(粒度分布ピーク76μm)を用い、その他の条件は実施例3と同様にして造形用粉末を得た。
さらに、実施例6シリコン粗粒粉(粒度分布ピーク23μm)、実施例7ではシリカ粗粒粉(粒度分布ピーク46μm)、実施例8ではムライト粗粒粉(粒度分布ピーク15μm)、実施例9ではジルコニア粗粒粉(粒度分布ピーク28μm)、実施例10では炭化ケイ素粗粒粉(粒度分布ピーク26μm)、実施例11では炭化ケイ素粗粒粉(粒度分布ピーク43μm)、を用い、その他の条件は実施例3と同様にして造形用粉末を得た。
【0029】
[実施例12〜実施例15]
アルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm)100重量部に対して分散剤(A6114、東亜合成株式会社製)1重量部、水25重量部を加え、各種熱可塑性バインダーの水系エマルジョン(実施例12ではマイクロクリスタリンワックスのエマルジョン、実施例13ではステアリン酸のエマルジョン、実施例14ではパラフィンワックスのエマルジョン、実施15ではステアリン酸アミドのエマルジョン)をアルミナ微粒粉100重量部に対して熱可塑性バインダー固形成分が20重量部になるように混合した。混合水溶液をスプレードライ装置(スプレードライヤADL311S:ヤマト科学株式会社製)にて造粒粒子径が約30μmになるように調製して造粒した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例12〜実施例15の造形用粉末を得た。
【0030】
[実施例16]
アルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm)100重量部に対してステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)の固形成分が20重量部になるように混合した。混合水溶液を室温で乾燥させ、100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例16の造形用粉末を得た。
【0031】
[実施例17]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク12μm)70重量部とアルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm) 30重量部を混合し、混合したアルミナ原料粉末100重量部に対して分散剤(A6114、東亜合成株式会社製)1重量部、水25重量部を加え、ステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)の固形成分が20重量部になるように混合した。混合水溶液をスプレードライ装置(スプレードライヤADL311S:ヤマト科学株式会社製)にて造粒粒子径が約30μmになるように調製して造粒した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例17の造形用粉末を得た。
【0032】
[実施例18]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm) 80重量部とアルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm) 20重量部を混合し、混合したアルミナ原料粉末100重量部に対してステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)の固形成分が20重量部になるように混合した。混合水溶液を室温で乾燥させ粉砕後、100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例18の造形用粉末を得た。
【0033】
[実施例19]
アルミナ微粒粉(粒度分布ピーク0.5μm)100重量部に対して分散剤(A6114、東亜合成株式会社製)1重量部、水30重量部を加え、ステアリン酸エマルジョン(固形成分30重量%、溶媒:水)をアルミナ微粒粉100重量部に対して熱可塑性バインダー固形成分が30重量部になるように混合した。混合水溶液をスプレードライ装置(スプレードライヤADL311S:ヤマト科学株式会社製)にて造粒した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、造粒粉を作製した。作製した造粒粉100重量部に対して、アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm)を20重量部に配合して、V型混合機(VM−2:筒井理化学器機株式会社製)にて混合した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、実施例19の造形用粉末を得た。
【0034】
[比較例1]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm) 100重量部に対してナイロン樹脂粗粒粉(粒度分布ピーク50μm)10重量部をV型混合機(VM−2:筒井理化学器機株式会社製)にて混合した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、比較例1の造形用粉末を得た。
【0035】
[比較例2]
アルミナ粗粒粉(粒度分布ピーク31μm) 100重量部に対してポリプロピレン樹脂粉末10重量部をV型混合機(VM−2:筒井理化学器機株式会社製)にて混合した。100μmのふるいを通して粗大な粒子を取り除き、比較例2の造形用粉末を得た。
【0036】
以上のようにして得られた実施例1〜19及び比較例1、2の造形用粉末を、粉末床溶融結合装置(Rafael300:株式会社アスペクト製)を用いて予熱を行わず、レーザー出力10Wで造形物を作製した。
【0037】
<評 価>
以上のようにして調製した実施例1〜19及び比較例1、2の造形用粉末、及びそれによって製造された造形物について、以下の測定を行った。結果を表1及び表2に示す。
[熱可塑性バインダー含有量の測定]
熱分析装置(TG8120:リガク株式会社製)を用いて、大気下で1000℃まで加熱し熱可塑性バインダーを燃焼させ、重量減少から熱可塑性バインダー含有量(g)、残留重量から原料粉末含有量(g)を計算した。
[熱可塑性バインダー融点の測定]
熱分析装置(TG8120:リガク株式会社製)を用いて、DTA曲線をから判断した。
[熱可塑性バインダーガラス転移点の測定]
熱分析装置(SDT Q600:ティ・エイ・インストルメンツ・ジャパン株式会社製)を用いて、DSC曲線から判断した。
[Hausner比の測定]
粉末の静かさ密度とタップ密度を測定し、前述した式(1)を用いて計算した。
[粒度分布の測定]
乾式のレーザー回折・散乱式粒度分析計(MT3000、マイクロトラックベル社製)により測定した。
[原料粉末の表面積]
比表面積を表面積分析装置(AUTOSORB-3:ユアサアイオニクス株式会社製)を用いて測定し、前述した式(2)を用いて計算した。
[熱可塑性バインダーの体積]
造形用粉末中の熱可塑性バインダーの重量と熱可塑性バインダーの密度から、前述した式(3)を用いて体積を計算した。
[造形物の作製]
粉末床溶融結合装置(Rafael300、光源:COのレーザー、株式会社アスペクト製)を用い、大気下、予熱無しで造形物(3mm×5mm×70mm)を作製した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示すように、融点(非晶質ではガラス転移点)が低い熱可塑性バインダーを用いた実施例1〜11では、粉末層形成の工程を1回又は複数回行えば、予熱すること無しに、粉末床溶融結合法により造形物の作製が可能であった。また、レーザー光照射時にガスが発生することもなかった。
一方、高融点の熱可塑性バインダーを用いた比較例1及び比較例2では、粉末層の予熱を行わず造形を行うと、造形物に反りやクラックが生じ、正常な造形物を作成することができなかった。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示すように、実施例12〜19の造形用粉末を用いた場合、粉末層の予熱を行わなくても、粉末層形成工程を1回又は複数回行えば、予熱すること無しに、粉末床溶融結合法により造形物の作製が可能であった。造形物を作製するが可能であった。また、レーザー照射時にガスが発生することもなかった。
【0042】
<造形用粉末の構造>
実施例の造形用粉末を走査型電子顕微鏡で観察した結果、得られた模式図を図1に示す。以下に図1中の文言の意味を以下に示す。
・粗粒粉:粒度分布ピークが10μm以上400μm以下の範囲にある原料粉末。
・微粒粉:粒度分布ピークが0.1μm以上10μm未満の範囲にある原料粉末。
・粉末粒子状:乾式混合で作製した造形用粉末であり、原料粉末と熱可塑性バインダーの粒子が別粒子状態であることを示す。
・膜状:湿式混合で作製した造形用粉末であり、原料粉末と熱可塑性バインダーが造形用粉末粒子に含まれ、熱可塑性バインダーが溶融固化した状態を示す。
・分散粒子状:湿式混合で作製した造形用粉末であり、原料粉末と熱可塑性バインダーが造形用粉末粒子に含まれ、エマルジョン化した熱可塑性バインダー粒子が原料粉末表面に吸着もしくは一部溶解した状態を示す。
【0043】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
図1