【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために鋭意検討した結果、水溶液中のFcレセプター(Fc結合性タンパク質)を安定に保存できるpHを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の態様を包含する:
(A)Fc結合性タンパク質を含む水溶液であって、前記水溶液のpHが7.0から9.0である、前記水溶液。
【0012】
(B)さらに0.5mol/L以上の塩化ナトリウムを含む、(A)に記載の水溶液。
【0013】
(C)Fc結合性タンパク質が、
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質、または
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質である、
(A)または(B)に記載の水溶液。
【0014】
(D)Fc結合性タンパク質をpH7.0から9.0の水溶液中で保存する、Fc結合性タンパク質の保存方法。
【0015】
(E)Fc結合性タンパク質を、0.5mol/L以上の塩化ナトリウムを含むpH7.0から9.0の水溶液中で保存する、Fc結合性タンパク質の保存方法。
【0016】
(F)Fc結合性タンパク質が、
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質、または
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質である、
(D)または(E)に記載の保存方法。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明においてFc結合性タンパク質とは、ヒトFcγRIIIaの細胞外領域(具体的には天然型ヒトFcγRIIIaの場合、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから208番目のグルタミンまでの領域)(
図1)を構成するタンパク質があげられる。なお必ずしもヒトFcγRIIIa細胞外領域の全領域でなくてもよく、ヒトFcγRIIIa細胞外領域を構成するタンパク質(ポリペプチド)のうち、少なくとも抗体(免疫グロブリン)のFc領域に結合する本来の機能を発現し得る領域のポリペプチドを含んでいればよい。本明細書におけるヒトFc結合性タンパク質の一例として、
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質や、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質、
があげられる。
【0019】
前記(ii)の具体例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(40)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質(特願2014−166883号)があげられる。
(1)配列番号1の18番目のメチオニンがアルギニンに置換
(2)配列番号1の27番目のバリンがグルタミン酸に置換
(3)配列番号1の29番目のフェニルアラニンがロイシンまたはセリンに置換
(4)配列番号1の30番目のロイシンがグルタミンに置換
(5)配列番号1の35番目のチロシンがアスパラギン酸、グリシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、セリン、スレオニン、ヒスチジンのいずれかに置換
(6)配列番号1の46番目のリジンがイソロイシンまたはスレオニンに置換
(7)配列番号1の48番目のグルタミンがヒスチジンまたはロイシンに置換
(8)配列番号1の50番目のアラニンがヒスチジンに置換
(9)配列番号1の51番目のチロシンがアスパラギン酸またはヒスチジンに置換
(10)配列番号1の54番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(11)配列番号1の56番目のアスパラギンがスレオニンに置換
(12)配列番号1の59番目のグルタミンがアルギニンに置換
(13)配列番号1の61番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(14)配列番号1の64番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(15)配列番号1の65番目のセリンがアルギニンに置換
(16)配列番号1の71番目のアラニンがアスパラギン酸に置換
(17)配列番号1の75番目のフェニルアラニンがロイシン、セリン、チロシンのいずれかに置換
(18)配列番号1の77番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換
(19)配列番号1の78番目のアラニンがセリンに置換
(20)配列番号1の82番目のアスパラギン酸がグルタミン酸またはバリンに置換
(21)配列番号1の90番目のグルタミンがアルギニンに置換
(22)配列番号1の92番目のアスパラギンがセリンに置換
(23)配列番号1の93番目のロイシンがアルギニンまたはメチオニンに置換
(24)配列番号1の95番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(25)配列番号1の110番目のロイシンがグルタミンに置換
(26)配列番号1の115番目のアルギニンがグルタミンに置換
(27)配列番号1の116番目のトリプトファンがロイシンに置換
(28)配列番号1の118番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(29)配列番号1の119番目のリジンがグルタミン酸に置換
(30)配列番号1の120番目のグルタミン酸がバリンに置換
(31)配列番号1の121番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(32)配列番号1の151番目のフェニルアラニンがセリンまたはチロシンに置換
(33)配列番号1の155番目のセリンがスレオニンに置換
(34)配列番号1の163番目のスレオニンがセリンに置換
(35)配列番号1の167番目のセリンがグリシンに置換
(36)配列番号1の169番目のセリンがグリシンに置換
(37)配列番号1の171番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(38)配列番号1の180番目のアスパラギンがリジン、セリン、イソロイシンのいずれかに置換
(39)配列番号1の185番目のスレオニンがセリンに置換
(40)配列番号1の192番目のグルタミンがリジンに置換
また前記(ii)の別の具体例としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(41)から(111)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質があげられ、さらに具体的な例として配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含むFc結合性タンパク質があげられる(特願2015−047462号)。
(41)配列番号2の45番目のフェニルアラニンがイソロイシンまたはロイシンに置換
(42)配列番号2の55番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(43)配列番号2の64番目のグルタミンがアルギニンに置換
(44)配列番号2の67番目のチロシンがセリンに置換
(45)配列番号2の77番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(46)配列番号2の93番目のアスパラギン酸がグリシンに置換
(47)配列番号2の98番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(48)配列番号2の106番目のグルタミンがアルギニンに置換
(49)配列番号2の128番目のグルタミンがロイシンに置換
(50)配列番号2の133番目のバリンがグルタミン酸に置換
(51)配列番号2の135番目のリジンがアスパラギンまたはグルタミン酸に置換
(52)配列番号2の156番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(53)配列番号2の158番目のロイシンがグルタミンに置換
(54)配列番号2の187番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(55)配列番号2の191番目のロイシンがアルギニンに置換
(56)配列番号2の196番目のアスパラギンがセリンに置換
(57)配列番号2の204番目のイソロイシンがバリンに置換
(58)配列番号2の34番目のメチオニンがイソロイシン、リジン、スレオニンのいずれかに置換
(59)配列番号2の37番目のグルタミン酸がグリシンまたはリジンに置換
(60)配列番号2の39番目のロイシンがメチオニンまたはアルギニンに置換
(61)配列番号2の49番目のグルタミンがプロリンに置換
(62)配列番号2の62番目のリジンがイソロイシンまたはグルタミン酸に置換
(63)配列番号2の64番目のグルタミンがトリプトファンに置換
(64)配列番号2の67番目のチロシンがヒスチジンまたはアスパラギンに置換
(65)配列番号2の70番目のグルタミン酸がグリシンまたはアスパラギン酸に置換
(66)配列番号2の72番目のアスパラギンがセリンまたはイソロイシンに置換
(67)配列番号2の77番目のフェニルアラニンがロイシンに置換
(68)配列番号2の80番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(69)配列番号2の81番目のセリンがアルギニンに置換
(70)配列番号2の83番目のイソロイシンがロイシンに置換
(71)配列番号2の84番目のセリンがプロリンに置換
(72)配列番号2の85番目のセリンがアスパラギンに置換
(73)配列番号2の87番目のアラニンがスレオニンに置換
(74)配列番号2の90番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(75)配列番号2の91番目のフェニルアラニンがアルギニンに置換
(76)配列番号2の93番目のアスパラギン酸がバリンまたはグルタミン酸に置換
(77)配列番号2の94番目のアラニンがグルタミン酸に置換
(78)配列番号2の97番目のバリンがメチオニンとグルタミン酸に置換
(79)配列番号2の98番目のアスパラギン酸がアラニンに置換
(80)配列番号2の102番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(81)配列番号2の106番目のグルタミンがロイシンに置換
(82)配列番号2の109番目のロイシンがグルタミンに置換
(83)配列番号2の117番目のグルタミンがロイシンに置換
(84)配列番号2の119番目のグルタミン酸がバリンに置換
(85)配列番号2の121番目のヒスチジンがアルギニンに置換
(86)配列番号2の130番目のプロリンがロイシンに置換
(87)配列番号2の135番目のリジンがチロシンに置換
(88)配列番号2の136番目のグルタミン酸がバリンに置換
(89)配列番号2の141番目のヒスチジンがグルタミンに置換
(90)配列番号2の146番目のセリンがスレオニンに置換
(91)配列番号2の154番目のリジンがアルギニンに置換
(92)配列番号2の159番目のグルタミンがヒスチジンに置換
(93)配列番号2の163番目のグリシンがバリンに置換
(94)配列番号2の165番目のリジンがメチオニンに置換
(95)配列番号2の167番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(96)配列番号2の169番目のヒスチジンがチロシンに置換
(97)配列番号2の174番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(98)配列番号2の177番目のリジンがアルギニンに置換
(99)配列番号2の185番目のセリンがグリシンに置換
(100)配列番号2の194番目のセリンがアルギニンに置換
(101)配列番号2の196番目のアスパラギンがリジンに置換
(102)配列番号2の201番目のスレオニンがアラニンに置換
(103)配列番号2の203番目のアスパラギンがイソロイシンまたはリジンに置換
(104)配列番号2の207番目のスレオニンがアラニンに置換
(105)配列番号2の94番目のアラニンがセリンに置換
(106)配列番号2の98番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(107)配列番号2の117番目のグルタミンがアルギニンに置換
(108)配列番号2の156番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(109)配列番号2の174番目のチロシンがヒスチジンに置換
(110)配列番号2の181番目のリジンがグルタミン酸に置換
(111)配列番号2の203番目のアスパラギンがアスパラギン酸またはチロシンに置換
また前記(ii)のさらに別の具体例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(112)から(115)に示す天然に生じるアミノ酸置換のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質があげられる。
(112)配列番号1の66番目のロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(113)配列番号1の147番目のグリシンがアスパラギン酸に置換
(114)配列番号1の158番目のチロシンがヒスチジンに置換
(115)配列番号1の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換
本発明はFc結合性タンパク質を含む水溶液を保存する際、当該水溶液のpHを7.0から9.0の範囲とすることを特徴としている。好ましくは、前記pHの範囲で緩衝能を有する緩衝液成分を含むとよく、一例として、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、MOPS緩衝液、TES緩衝液、HEPES緩衝液、DIPSO緩衝液、TASPO緩衝液、POPSO緩衝液、EPPS緩衝液、Tricine緩衝液、Bicine緩衝液、TAPS緩衝液があげられる。なお、Fc結合性タンパク質を含む水溶液に0.5mol/L以上の塩化ナトリウムをさらに含ませると、保存中に発生するFc結合性タンパク質の凝集をさらに抑えることができるため、より好ましい。本発明のFc結合性タンパク質を含む水溶液の調製法に特に限定はなく、例えば、透析による方法や、限外ろ過による方法や、硫安などの塩またはアセトン、エタノール等の水と任意の容量比で混和する有機溶媒を加えて沈殿物として回収する方法を用いて、Fc結合性タンパク質水溶液(またはFc結合性タンパク質そのもの)を調製した後、pHが7.0から9.0の緩衝液に再溶解させればよい。中でも処理の簡便性から、透析や限外ろ過による方法が工業的には好ましく用いられる。塩化ナトリウムの添加は、前述した方法で得られたpHが7.0から9.0の水溶液に、必要量の塩化ナトリウムを添加すればよい。