特許第6665414号(P6665414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6665414
(24)【登録日】2020年2月25日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】Fc結合性タンパク質の保存方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/735 20060101AFI20200302BHJP
【FI】
   C07K14/735ZNA
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-63067(P2015-63067)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-183112(P2016-183112A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年2月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山中 直紀
(72)【発明者】
【氏名】大江 正剛
【審査官】 竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−526154(JP,A)
【文献】 特表2010−523508(JP,A)
【文献】 特開2011−105716(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02796144(EP,A1)
【文献】 特開2013−112640(JP,A)
【文献】 特開2011−206046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fc結合性タンパク質を含む水溶液であって、
前記水溶液のpHが7.0から8.5であり、
前記水溶液が0.5mol/L以上1.0mol/L以下の塩化ナトリウムを含み、
前記Fc結合性タンパク質が、
(i)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、または
(ii)配列番号3に記載のアミノ酸配列において以下の(a)〜(d)のいずれか1以上のアミノ酸置換が生じているアミノ酸配列からなるタンパク質である、
前記水溶液:
(a)配列番号1の66番目に該当するロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(b)配列番号1の147番目に該当するグリシンがアスパラギン酸に置換
(c)配列番号1の158番目に該当するチロシンがヒスチジンに置換
(d)配列番号1の176番目に該当するバリンがフェニルアラニンに置換。
【請求項2】
Fc結合性タンパク質を0.5mol/L以上1.0mol/L以下の塩化ナトリウムを含むpH7.0から8.5の水溶液中で保存する、Fc結合性タンパク質の保存方法であって、
前記Fc結合性タンパク質が、
(i)配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、または
(ii)配列番号3に記載のアミノ酸配列において以下の(a)〜(d)のいずれか1以上のアミノ酸置換が生じているアミノ酸配列からなるタンパク質である、方法:
(a)配列番号1の66番目に該当するロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(b)配列番号1の147番目に該当するグリシンがアスパラギン酸に置換
(c)配列番号1の158番目に該当するチロシンがヒスチジンに置換
(d)配列番号1の176番目に該当するバリンがフェニルアラニンに置換。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fc結合性タンパク質を水溶液中で長期間保存可能な方法に関する。特に本発明はヒトFcγRIIIa由来のFc結合性タンパク質を水溶液中で長期間保存可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Fcレセプターは、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。Fcレセプターはその結合する免疫グロブリンの種類によって分類されており、IgGのFc領域に結合するFcγレセプター、IgEのFc領域に結合するFcεレセプター、IgAのFc領域に結合するFcαレセプター等がある(非特許文献1)。また、各レセプターは、その構造の違いによりさらに細かく分類され、Fcγレセプターの場合、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIbの存在が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
Fcγレセプターの中でも、FcγRIIIaはナチュラルキラー細胞(NK細胞)やマクロファージなどの細胞表面に存在しており、ヒト免疫機構の中でも重要なADCC(抗体依存性細胞傷害)活性に関与している重要なレセプターである。このFcγRIIIaとヒトIgGとの親和性は結合の強さを示す結合定数(KA)が10−1以下であることが報告されている(非特許文献2)。ヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列(配列番号1)はUniProt(Accession number:P08637)などの公的データベースに公表されている。また、ヒトFcγRIIIaの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列、細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されている。図1にヒトFcγRIIIaの構造略図を示す。なお、図1中の番号はアミノ酸番号を示しており、その番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1中の1番目のメチオニン(Met)から16番目のアラニン(Ala)までがシグナル配列(S)、17番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までが細胞外領域(EC)、209番目のバリン(Val)から229番目のバリン(Val)までが細胞膜貫通領域(TM)および230番目のリジン(Lys)から254番目のリジン(Lys)までが細胞内領域(C)とされている。なおFcγRIIIaはIgG1からIgG4まであるヒトIgGサブクラスのうち、特にIgG1とIgG3に対し強く結合する一方、IgG2とIgG4に対する結合は弱いことが知られている。
【0004】
遺伝子組換え技術を利用したFcレセプター(Fc結合性タンパク質)の発現に関しては、これまで、大腸菌(特許文献1)、動物細胞(非特許文献3)、バチルス属細菌(特許文献2)、酵母(特許文献3)、麹菌(特許文献4)を宿主とした発現が報告されている。中でも大腸菌を宿主として用いた系では、高密度培養によるFcレセプター(Fc結合性タンパク質)の製造法(特許文献5)、疎水クロマトグラフィー(特許文献6)や陽イオン交換クロマトグラフィーを用いたFcレセプター(Fc結合性タンパク質)の精製法も報告されている。さらにはFcレセプター構造遺伝子の改変によりFcレセプター(Fc結合性タンパク質)の安定化や生産性が向上する(特許文献7)など、Fcレセプターの産業利用への関心が高まっている。
【0005】
一方でFcレセプターは精製後に溶液状態で保存すると凝集しやすいことが問題となっており、産業利用において重大な欠点となっていた。すなわち、精製したFcレセプターを使用するまでの間放置しておくと、凝集し析出する問題があった。さらに凝集したFcレセプターをそのまま放置しておくと変性し再溶解できなくなる問題もあった。
【0006】
タンパク質の保存方法としては、特定の抗体を安定に保存する緩衝液(特許文献8)や保存方法(特許文献9)が知られている。しかしながら前述した方法は、タンパク質としての性質の異なるFc結合性タンパク質には適用できなかった。そのためFcレセプターを安定に保存できる方法の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−245580号公報
【特許文献2】特開2009−201403号公報
【特許文献3】特開2011−072246号公報
【特許文献4】特開2011−200203号公報
【特許文献5】特開2012−034591号公報
【特許文献6】特開2011−126827号公報
【特許文献7】特開2011−206046号公報
【特許文献8】特表2008−515775号公報
【特許文献9】WO2005/035573号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.V.Ravetch等,Annu.Rev.Immunol.,9,457,1991
【非特許文献2】J.Galon等,Eur.J.Immunol.,27,1928−1932,1997
【非特許文献3】A.Paetz等,Biochem.Biophys.Res.Commun.,338,1811,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、Fcレセプター(Fc結合性タンパク質)を凝集させずに長期間安定的に保存可能な溶液、およびFcレセプターを凝集させずに長期間安定的に保存する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために鋭意検討した結果、水溶液中のFcレセプター(Fc結合性タンパク質)を安定に保存できるpHを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の態様を包含する:
(A)Fc結合性タンパク質を含む水溶液であって、前記水溶液のpHが7.0から9.0である、前記水溶液。
【0012】
(B)さらに0.5mol/L以上の塩化ナトリウムを含む、(A)に記載の水溶液。
【0013】
(C)Fc結合性タンパク質が、
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質、または
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質である、
(A)または(B)に記載の水溶液。
【0014】
(D)Fc結合性タンパク質をpH7.0から9.0の水溶液中で保存する、Fc結合性タンパク質の保存方法。
【0015】
(E)Fc結合性タンパク質を、0.5mol/L以上の塩化ナトリウムを含むpH7.0から9.0の水溶液中で保存する、Fc結合性タンパク質の保存方法。
【0016】
(F)Fc結合性タンパク質が、
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質、または
配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質である、
(D)または(E)に記載の保存方法。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明においてFc結合性タンパク質とは、ヒトFcγRIIIaの細胞外領域(具体的には天然型ヒトFcγRIIIaの場合、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目のグリシンから208番目のグルタミンまでの領域)(図1)を構成するタンパク質があげられる。なお必ずしもヒトFcγRIIIa細胞外領域の全領域でなくてもよく、ヒトFcγRIIIa細胞外領域を構成するタンパク質(ポリペプチド)のうち、少なくとも抗体(免疫グロブリン)のFc領域に結合する本来の機能を発現し得る領域のポリペプチドを含んでいればよい。本明細書におけるヒトFc結合性タンパク質の一例として、
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質や、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸残基のうちの一つ以上が他のアミノ酸残基に置換、挿入または欠失したタンパク質、
があげられる。
【0019】
前記(ii)の具体例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(40)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質(特願2014−166883号)があげられる。
(1)配列番号1の18番目のメチオニンがアルギニンに置換
(2)配列番号1の27番目のバリンがグルタミン酸に置換
(3)配列番号1の29番目のフェニルアラニンがロイシンまたはセリンに置換
(4)配列番号1の30番目のロイシンがグルタミンに置換
(5)配列番号1の35番目のチロシンがアスパラギン酸、グリシン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、セリン、スレオニン、ヒスチジンのいずれかに置換
(6)配列番号1の46番目のリジンがイソロイシンまたはスレオニンに置換
(7)配列番号1の48番目のグルタミンがヒスチジンまたはロイシンに置換
(8)配列番号1の50番目のアラニンがヒスチジンに置換
(9)配列番号1の51番目のチロシンがアスパラギン酸またはヒスチジンに置換
(10)配列番号1の54番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(11)配列番号1の56番目のアスパラギンがスレオニンに置換
(12)配列番号1の59番目のグルタミンがアルギニンに置換
(13)配列番号1の61番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(14)配列番号1の64番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(15)配列番号1の65番目のセリンがアルギニンに置換
(16)配列番号1の71番目のアラニンがアスパラギン酸に置換
(17)配列番号1の75番目のフェニルアラニンがロイシン、セリン、チロシンのいずれかに置換
(18)配列番号1の77番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換
(19)配列番号1の78番目のアラニンがセリンに置換
(20)配列番号1の82番目のアスパラギン酸がグルタミン酸またはバリンに置換
(21)配列番号1の90番目のグルタミンがアルギニンに置換
(22)配列番号1の92番目のアスパラギンがセリンに置換
(23)配列番号1の93番目のロイシンがアルギニンまたはメチオニンに置換
(24)配列番号1の95番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(25)配列番号1の110番目のロイシンがグルタミンに置換
(26)配列番号1の115番目のアルギニンがグルタミンに置換
(27)配列番号1の116番目のトリプトファンがロイシンに置換
(28)配列番号1の118番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(29)配列番号1の119番目のリジンがグルタミン酸に置換
(30)配列番号1の120番目のグルタミン酸がバリンに置換
(31)配列番号1の121番目のグルタミン酸がアスパラギン酸またはグリシンに置換
(32)配列番号1の151番目のフェニルアラニンがセリンまたはチロシンに置換
(33)配列番号1の155番目のセリンがスレオニンに置換
(34)配列番号1の163番目のスレオニンがセリンに置換
(35)配列番号1の167番目のセリンがグリシンに置換
(36)配列番号1の169番目のセリンがグリシンに置換
(37)配列番号1の171番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(38)配列番号1の180番目のアスパラギンがリジン、セリン、イソロイシンのいずれかに置換
(39)配列番号1の185番目のスレオニンがセリンに置換
(40)配列番号1の192番目のグルタミンがリジンに置換
また前記(ii)の別の具体例としては、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(41)から(111)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質があげられ、さらに具体的な例として配列番号3に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含むFc結合性タンパク質があげられる(特願2015−047462号)。
(41)配列番号2の45番目のフェニルアラニンがイソロイシンまたはロイシンに置換
(42)配列番号2の55番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(43)配列番号2の64番目のグルタミンがアルギニンに置換
(44)配列番号2の67番目のチロシンがセリンに置換
(45)配列番号2の77番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(46)配列番号2の93番目のアスパラギン酸がグリシンに置換
(47)配列番号2の98番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(48)配列番号2の106番目のグルタミンがアルギニンに置換
(49)配列番号2の128番目のグルタミンがロイシンに置換
(50)配列番号2の133番目のバリンがグルタミン酸に置換
(51)配列番号2の135番目のリジンがアスパラギンまたはグルタミン酸に置換
(52)配列番号2の156番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(53)配列番号2の158番目のロイシンがグルタミンに置換
(54)配列番号2の187番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(55)配列番号2の191番目のロイシンがアルギニンに置換
(56)配列番号2の196番目のアスパラギンがセリンに置換
(57)配列番号2の204番目のイソロイシンがバリンに置換
(58)配列番号2の34番目のメチオニンがイソロイシン、リジン、スレオニンのいずれかに置換
(59)配列番号2の37番目のグルタミン酸がグリシンまたはリジンに置換
(60)配列番号2の39番目のロイシンがメチオニンまたはアルギニンに置換
(61)配列番号2の49番目のグルタミンがプロリンに置換
(62)配列番号2の62番目のリジンがイソロイシンまたはグルタミン酸に置換
(63)配列番号2の64番目のグルタミンがトリプトファンに置換
(64)配列番号2の67番目のチロシンがヒスチジンまたはアスパラギンに置換
(65)配列番号2の70番目のグルタミン酸がグリシンまたはアスパラギン酸に置換
(66)配列番号2の72番目のアスパラギンがセリンまたはイソロイシンに置換
(67)配列番号2の77番目のフェニルアラニンがロイシンに置換
(68)配列番号2の80番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(69)配列番号2の81番目のセリンがアルギニンに置換
(70)配列番号2の83番目のイソロイシンがロイシンに置換
(71)配列番号2の84番目のセリンがプロリンに置換
(72)配列番号2の85番目のセリンがアスパラギンに置換
(73)配列番号2の87番目のアラニンがスレオニンに置換
(74)配列番号2の90番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(75)配列番号2の91番目のフェニルアラニンがアルギニンに置換
(76)配列番号2の93番目のアスパラギン酸がバリンまたはグルタミン酸に置換
(77)配列番号2の94番目のアラニンがグルタミン酸に置換
(78)配列番号2の97番目のバリンがメチオニンとグルタミン酸に置換
(79)配列番号2の98番目のアスパラギン酸がアラニンに置換
(80)配列番号2の102番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(81)配列番号2の106番目のグルタミンがロイシンに置換
(82)配列番号2の109番目のロイシンがグルタミンに置換
(83)配列番号2の117番目のグルタミンがロイシンに置換
(84)配列番号2の119番目のグルタミン酸がバリンに置換
(85)配列番号2の121番目のヒスチジンがアルギニンに置換
(86)配列番号2の130番目のプロリンがロイシンに置換
(87)配列番号2の135番目のリジンがチロシンに置換
(88)配列番号2の136番目のグルタミン酸がバリンに置換
(89)配列番号2の141番目のヒスチジンがグルタミンに置換
(90)配列番号2の146番目のセリンがスレオニンに置換
(91)配列番号2の154番目のリジンがアルギニンに置換
(92)配列番号2の159番目のグルタミンがヒスチジンに置換
(93)配列番号2の163番目のグリシンがバリンに置換
(94)配列番号2の165番目のリジンがメチオニンに置換
(95)配列番号2の167番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(96)配列番号2の169番目のヒスチジンがチロシンに置換
(97)配列番号2の174番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(98)配列番号2の177番目のリジンがアルギニンに置換
(99)配列番号2の185番目のセリンがグリシンに置換
(100)配列番号2の194番目のセリンがアルギニンに置換
(101)配列番号2の196番目のアスパラギンがリジンに置換
(102)配列番号2の201番目のスレオニンがアラニンに置換
(103)配列番号2の203番目のアスパラギンがイソロイシンまたはリジンに置換
(104)配列番号2の207番目のスレオニンがアラニンに置換
(105)配列番号2の94番目のアラニンがセリンに置換
(106)配列番号2の98番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(107)配列番号2の117番目のグルタミンがアルギニンに置換
(108)配列番号2の156番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(109)配列番号2の174番目のチロシンがヒスチジンに置換
(110)配列番号2の181番目のリジンがグルタミン酸に置換
(111)配列番号2の203番目のアスパラギンがアスパラギン酸またはチロシンに置換
また前記(ii)のさらに別の具体例としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において以下の(112)から(115)に示す天然に生じるアミノ酸置換のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質があげられる。
(112)配列番号1の66番目のロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(113)配列番号1の147番目のグリシンがアスパラギン酸に置換
(114)配列番号1の158番目のチロシンがヒスチジンに置換
(115)配列番号1の176番目のバリンがフェニルアラニンに置換
本発明はFc結合性タンパク質を含む水溶液を保存する際、当該水溶液のpHを7.0から9.0の範囲とすることを特徴としている。好ましくは、前記pHの範囲で緩衝能を有する緩衝液成分を含むとよく、一例として、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、MOPS緩衝液、TES緩衝液、HEPES緩衝液、DIPSO緩衝液、TASPO緩衝液、POPSO緩衝液、EPPS緩衝液、Tricine緩衝液、Bicine緩衝液、TAPS緩衝液があげられる。なお、Fc結合性タンパク質を含む水溶液に0.5mol/L以上の塩化ナトリウムをさらに含ませると、保存中に発生するFc結合性タンパク質の凝集をさらに抑えることができるため、より好ましい。本発明のFc結合性タンパク質を含む水溶液の調製法に特に限定はなく、例えば、透析による方法や、限外ろ過による方法や、硫安などの塩またはアセトン、エタノール等の水と任意の容量比で混和する有機溶媒を加えて沈殿物として回収する方法を用いて、Fc結合性タンパク質水溶液(またはFc結合性タンパク質そのもの)を調製した後、pHが7.0から9.0の緩衝液に再溶解させればよい。中でも処理の簡便性から、透析や限外ろ過による方法が工業的には好ましく用いられる。塩化ナトリウムの添加は、前述した方法で得られたpHが7.0から9.0の水溶液に、必要量の塩化ナトリウムを添加すればよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明はFc結合性タンパク質を含む水溶液を保存する際、当該水溶液のpHを7.0から9.0とすることを特徴としている。これにより、精製したFc結合性タンパク質を、他の用途(例えばアフィニティークロマトグラフィー用リガンド)に用いるまでの間に、凝集により生じる、Fc結合性タンパク質のロスが防止され、Fc結合性タンパク質の利用効率を大幅に向上させることできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ヒトFcγRIIIaの構造を示す図。
図2】Fc結合性タンパク質を含む水溶液の、pHによる安定性の違いを示す図。
図3】Fc結合性タンパク質を含む水溶液に添加する塩による、安定性の違いを示す図。
図4】Fc結合性タンパク質を含む水溶液に添加する塩化ナトリウムの濃度による、安定性の違いを示す図。
図5】本発明のFc結合性タンパク質水溶液の保存安定性を示す図。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は前記例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1 Fc結合性タンパク質の調製
以降の実施例で用いるFc結合性タンパク質を、以下の方法で調製した。
(1)配列番号3に記載の配列からなるFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(配列番号4)を含む発現ベクターpTrcFcR9T8−R1を、特開2014−223064号公報で開示の方法にて作成し、当該発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換した。なお配列番号3に記載の配列からなるFc結合性タンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において以下の(I)から(IV)のアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質である(特願2015−047462号)。
(I)配列番号2の45番目のフェニルアラニンがイソロイシンに置換
(II)配列番号2の64番目のグルタミンがアルギニンに置換
(III)配列番号2の133番目のバリンがグルタミン酸に置換
(IV)配列番号2の187番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(2)得られた組換え大腸菌を、特開2012−034591号公報および特開2013−085531号公報で開示の方法に基づき、培養することで、Fc結合性タンパク質を発現させた。
(3)組換え大腸菌の培養液より菌体を回収後、特開2013−252099号公報で開示の抽出液を用いて、菌体内に発現したFc結合性タンパク質を抽出した。
(4)(3)で得られた菌体抽出液から遠心分離により上清を回収し、Fc結合性タンパク質抽出液を得た。
(5)(4)で得られたFc結合性タンパク質抽出液を、あらかじめ平衡化緩衝液A(150mmol/Lの塩化ナトリウムと0.05%のTween 20とを含んだ20mmol/LのTris−HCl酸緩衝液(pH 7.5))で平衡化した、アフィニティークロマトグラフィー用ゲル(IgG Sepharose6 Fast Flow、GEヘルスケア社製)を充填したカラムに添加した。
(6)平衡化緩衝液Aでゲルを十分洗浄した後、0.1mol/Lグリシン−塩酸緩衝液(pH 3.0)でFc結合性タンパク質を溶出し、高純度に精製したヒトFc結合性タンパク質を含む溶液を得た。
【0024】
実施例2 pHの違いによる水溶液中のFc結合性タンパク質の安定性評価
Fc結合性タンパク質を含む水溶液の、pHによる安定性の違いを確認した。
(1)実施例1で得られた精製Fc結合性タンパク質水溶液を以下の組成からなる緩衝液で透析した。
(検討した緩衝液)
20mmol/L クエン酸緩衝液(pH 3.0)
20mmol/L クエン酸緩衝液(pH 3.5)
20mmol/L 酢酸緩衝液(pH 4.0)
20mmol/L 酢酸緩衝液(pH 4.5)
20mmol/L 酢酸緩衝液(pH 5.0)
20mmol/L 酢酸緩衝液(pH 5.5)
20mmol/L リン酸緩衝液(pH 6.0)
20mmol/L リン酸緩衝液(pH 6.5)
20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.0)
20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
20mmol/L トリス−塩酸緩衝液(pH 8.0)
20mmol/L トリス−塩酸緩衝液(pH 8.5)
20mmol/L ホウ酸緩衝液(pH 9.0)
20mmol/L ホウ酸緩衝液(pH 9.5)
20mmol/L ホウ酸緩衝液(pH 10.0)
(2)アヴァクタ社製Optim2タンパク質物性解析装置を用いて、温度上昇によるFc結合性タンパク質の凝集開始温度Tagg(℃)の測定をすることで、タンパク質の安定性を評価した。
【0025】
凝集開始温度Tagg(℃)の測定結果を図2に示す。pHが7.0から9.0で凝集開始温度が高くなっていることから、当該pH領域の水溶液でFc結合性タンパク質の安定性が向上することがわかる。
【0026】
実施例3 塩の違いによる水溶液中のFc結合性タンパク質の安定性評価
Fc結合性タンパク質を含む水溶液に添加する塩による、安定性の違いを確認した。
(1)実施例1で得られた精製Fc結合性タンパク質水溶液を以下の組成からなる緩衝液で透析した。なお塩の濃度は、各塩のイオン強度の効果を考慮し、適宜調整した。
(検討した緩衝液)
0.5mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.5mol/L 塩化カリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.16mol/L 塩化マグネシウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.16mol/L 塩化カルシウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.16mol/L 硫酸アンモニウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.12mol/L 硫酸マグネシウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.16mol/L 硫酸ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.005mol/L EDTAを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
(2)アヴァクタ社製Optim2タンパク質物性解析装置を用いて、温度上昇によるFc結合性タンパク質の凝集開始温度Tagg(℃)の測定をすることで、タンパク質の安定性を評価した。
【0027】
凝集開始温度Tagg(℃)の測定結果を図3に示す。添加する塩として塩化ナトリウムを用いることで、Fc結合性タンパク質の安定性が向上することがわかる。
【0028】
実施例4 塩濃度の違いによる水溶液中のFc結合性タンパク質の安定性評価
Fc結合性タンパク質を含む水溶液に添加する塩化ナトリウムの濃度による、安定性の違いを確認した。
(1)実施例1で得られた精製Fc結合性タンパク質水溶液を以下の組成からなる緩衝液で透析した。
(検討した緩衝液)
0.1mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.2mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.3mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.4mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.5mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.6mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.7mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.8mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
0.9mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
1.0mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)
(2)アヴァクタ社製Optim2タンパク質物性解析装置を用いて、温度上昇によるFc結合性タンパク質の凝集開始温度Tagg(℃)の測定をすることで、タンパク質の安定性を評価した。
【0029】
凝集開始温度Tagg(℃)の測定結果を図4に示す。塩化ナトリウム濃度を0.5mol/L以上添加することでFc結合性タンパク質の安定性が向上することがわかる。
【0030】
上記実施例2から4の結果をまとめると、Fc結合性タンパク質を含む水溶液のpHが7.0から9.0であり、かつ前記水溶液に0.5mol/L以上の塩化ナトリウムをさらに含ませると、Fc結合性タンパク質を最も安定的に保存できることがわかる。
【0031】
実施例5
本発明のFc結合性タンパク質水溶液の保存安定性を確認した。
(1)0.8mol/L 塩化ナトリウムを含んだ20mmol/L リン酸緩衝液(pH 7.5)に実施例1で得られた精製Fc結合性タンパク質を添加することで、Fc結合性タンパク質水溶液を調製した。
(2)調製した水溶液を、−20℃での凍結保存、または3から10℃での冷蔵保存を行なった。
【0032】
結果を図5に示す。凍結保存、冷凍保存ともに6ヶ月以上保存しても、Fc結合性タンパク質の劣化はなく、沈殿物や凝集体も確認できなかった。このことから本発明により、Fc結合性タンパク質を水溶液中で長期間、安定に保存できることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]