特許第6665437号(P6665437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6665437第3級アルキルシラン及び第3級アルキルアルコキシシランの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6665437
(24)【登録日】2020年2月25日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】第3級アルキルシラン及び第3級アルキルアルコキシシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/12 20060101AFI20200302BHJP
   B01J 27/122 20060101ALI20200302BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20200302BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200302BHJP
   C07B 49/00 20060101ALN20200302BHJP
【FI】
   C07F7/12 Q
   B01J27/122 Z
   C07F7/18 B
   C07F7/12 M
   C07F7/12 P
   !C07B61/00 300
   !C07B49/00
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-140725(P2015-140725)
(22)【出願日】2015年7月14日
(65)【公開番号】特開2016-138086(P2016-138086A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2018年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-10040(P2015-10040)
(32)【優先日】2015年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩永 宏平
(72)【発明者】
【氏名】徳久 賢治
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−086675(JP,A)
【文献】 特開平10−175983(JP,A)
【文献】 特開平07−157491(JP,A)
【文献】 特開平05−202073(JP,A)
【文献】 特開平06−184169(JP,A)
【文献】 特開平09−157277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C07B
JSTPlus(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第3級アルキルグリニャール試薬とクロロシランとを、塩化銅(I)の存在下、−130℃〜−20℃で反応させる、第3級アルキルシランの製造方法。
【請求項2】
クロロシランがテトラクロロシラン、メチルジクロロシラン、エチルトリクロロシランである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第3級アルキルグリニャール試薬がt−ブチルマグネシウムハライド、t−ペンチルマグネシウムブロミドである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
第3級アルキルシランが、t−ブチルトリクロロシラン、t−ブチルメチルクロロシラン、t−ブチルエチルジクロロシラン、t−ペンチルトリクロロシランである、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
−80℃〜−20℃で反応を行う、請求項1からのいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載の製造方法によって製造された第3級アルキルシランと、アルコールとを反応させる、第3級アルキルアルコキシシランの製造方法。
【請求項7】
アルコールが炭素数1から3のアルキルアルコールである、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
アルコールがメタノール又はエタノールである、請求項又はに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第3級アルキルシラン及び第3級アルキルアルコキシシランの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
t−ブチルシラン類に代表される第3級アルキルシランの製造方法は、一般にアルキルリチウムとクロロシランとの反応がよく知られている。この方法は、アルキルリチウムのコストが高いことが問題となっている。そのため、より安価なグリニャール試薬を使用した製造方法が必要とされている。第3級アルキルグリニャール試薬とクロロシランの反応において、CN、SCN、NCS等のイオンを触媒量加えることで、反応が進行することが知られている(非特許文献1参照)。しかし、CNイオンは毒性の強い化合物を形成する恐れが強く、製造工程における使用や廃棄には大きな問題がある。また、SCNイオンやNCSイオンは製造物中に硫黄が残留し、その臭いが製品品質上大きな問題となる。その他、ハロゲン化銅を触媒とすることでも反応が進行することが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、当該特許文献中の実施例、並びに本願発明者の追試するところによると(比較例参照)、当該文献の方法による合成法は、目的物を充分効率よく生成し得ていない。
【0003】
第3級アルキルシランは汎用の化合物であり、公知の様々な化学製品及び中間体として使用されている。例えば第3級アルキルアルコキシシランは、対応するテトラアルコキシシランとアルキルリチウムとの反応により製造することができる。この方法は、上述の第3級アルキルシランの製造方法と同様に、アルキルリチウムのコストが高いことが問題となっている(特許文献2参照)。また、第3級アルキルアルコキシシランは、Si−Cl結合を有する第3級アルキルシランとアルコールとの反応によっても合成することができる。第3級アルキルアルコキシシランは、例えば含ケイ素高分子前駆体、含ケイ素薄膜前駆体、官能基保護試薬、コーティング剤、シランカップリング剤、シリカ粒子前駆体、表面改質剤等に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−157491
【特許文献2】特許第4863182号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Patrick, J. L.; David, P. M.; Quentin, E. T. Organometallics, 1989, 8, 1121.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、安価な材料を用いた、効率の良い第3級アルキルシランの製造方法を提供し、さらに、そのようにして製造された、Si−Cl結合を有する第3級アルキルシランを用いた、第3級アルキルアルコキシシランの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、第3級アルキルグリニャール試薬とクロロシランの反応において、触媒の共存下、反応を低温で行うことにより、効率よく第3級アルキルシランを製造可能であることを見出し、さらに、そのようにして製造された、Si−Cl結合を有する第3級アルキルシランをアルコールと反応させることによって、第3級アルキルアルコキシシランを製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、第3級アルキルグリニャール試薬とクロロシランとを、ハロゲン化銅の存在下、−130℃〜−20℃で反応させる、第3級アルキルシランの製造方法に関する。
【0009】
さらに本発明は、上述のようにして製造された、Si−Cl結合を有する第3級アルキルシランと、アルコールとを反応させる、第3級アルキルアルコキシシランの製造方法に関する。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
最初に、第3級アルキルグリニャール試薬とクロロシランとを、ハロゲン化銅の存在下、−130℃〜−20℃で反応させる第3級アルキルシランの製造方法について説明する。
【0012】
第3級アルキルグリニャール試薬としては、t−ブチルマグネシウムハライド、t−ペンチルマグネシウムハライド、1,1−ジメチル−2−プロペニルマグネシウムハライド、1,1,2−トリメチルプロピルマグネシウムハライド、1−メチルシクロペンチルマグネシウムハライド、テキシルマグネシウムハライド、1−アダマンチルマグネシウムハライド等を例示することができる。特に反応効率が良い点で、t−ブチルマグネシウムハライドが好ましい。ハライドとして用いるハロゲン化合物としては特に制限はなく、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などを例示することができる。取扱いが容易な点で、特に塩素、臭素が好ましい。具体的な第3級グリニャール試薬としてはt−ブチルマグネシウムフルオリド、t−ブチルマグネシウムクロリド、t−ブチルマグネシウムブロミド、t−ブチルマグネシウムヨージド、t−ペンチルマグネシウムクロリド、t−ペンチルマグネシウムブロミド、1,1−ジメチル−2−プロペニルマグネシウムクロリド、1,1−ジメチル−2−プロペニルマグネシウムブロミド、1,1,2−トリメチルプロピルマグネシウムクロリド、1,1,2−トリメチルプロピルマグネシウムブロミド、1−メチルシクロペンチルマグネシウムクロリド、1−メチルシクロペンチルマグネシウムブロミド、テキシルマグネシウムクロリド、テキシルマグネシウムブロミド、1−アダマンチルマグネシウムクロリド、1−アダマンチルマグネシウムブロミド、1−アダマンチルマグネシウムヨージド等が挙げられ、反応効率が良い点で、特にt−ブチルマグネシウムクロリド、t−ブチルマグネシウムブロミド、t−ペンチルマグネシウムブロミド等が好ましく、t−ブチルマグネシウムクロリド、t−ブチルマグネシウムブロミドが殊更好ましい。これら第3級アルキルグリニャール試薬は、例えばマグネシウムと対応する第3級アルキルハライドとの反応のような一般的な方法によって調製することができるし、市販のものをそのまま用いることもできる。
【0013】
クロロシランとしては、テトラクロロシランの他、ケイ素上に1〜3個の塩素以外の置換基が入っていてもよく、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等を例示することができる。
【0014】
ハロゲン化銅としては、塩化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(I)等を例示することができる。反応収率が高い点、安価で入手が容易な点で、特に塩化銅(I)臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)が好ましく、塩化銅(I)が殊更好ましい。
【0015】
本発明の製造方法で得られる第3級アルキルシランとしては、t−ブチルトリクロロシラン、t−ブチルジクロロシラン、t−ブチルメチルジクロロシラン、t−ブチルメチルクロロシラン、t−ブチルエチルジクロロシラン、t−ブチルビニルジクロロシラン、t−ブチルフェニルジクロロシラン、t−ブチルフェニルクロロシラン、t−ブチルメチルフェニルクロロシラン、t−ブチルトリメチルシラン、t−ペンチルトリクロロシラン、t−ペンチルジクロロシラン、t−ペンチルメチルジクロロシラン、t−ペンチルメチルクロロシラン、t−ペンチルエチルジクロロシラン、t−ペンチルビニルジクロロシラン、t−ペンチルフェニルジクロロシラン、t−ペンチルフェニルクロロシラン、t−ペンチルメチルフェニルクロロシラン、t−ペンチルトリメチルシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルトリクロロシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルジクロロシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルメチルジクロロシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルメチルクロロシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルエチルジクロロシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルビニルジクロロシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルフェニルジクロロシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルフェニルクロロシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルメチルフェニルクロロシラン、1,1−ジメチル−2−プロペニルトリメチルシラン、1,1,2−トリメチルプロピルトリクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルジクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルメチルジクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルメチルクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルエチルジクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルビニルジクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルフェニルジクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルフェニルクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルメチルフェニルクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルトリメチルシラン、1−メチルシクロペンチルトリクロロシラン、1−メチルシクロペンチルジクロロシラン、1−メチルシクロペンチルメチルジクロロシラン、1−メチルシクロペンチルメチルクロロシラン、1−メチルシクロペンチルエチルジクロロシラン、1−メチルシクロペンチルビニルジクロロシラン、1−メチルシクロペンチルフェニルジクロロシラン、1−メチルシクロペンチルフェニルクロロシラン、1−メチルシクロペンチルメチルフェニルクロロシラン、1−メチルシクロペンチルトリメチルシラン、テキシルトリクロロシラン、テキシルジクロロシラン、テキシルメチルジクロロシラン、テキシルメチルクロロシラン、テキシルエチルジクロロシラン、テキシルビニルジクロロシラン、テキシルフェニルジクロロシラン、テキシルフェニルクロロシラン、テキシルメチルフェニルクロロシラン、テキシルトリメチルシラン、1−アダマンチルトリクロロシラン、1−アダマンチルジクロロシラン、1−アダマンチルメチルジクロロシラン、1−アダマンチルメチルクロロシラン、1−アダマンチルエチルジクロロシラン、1−アダマンチルビニルジクロロシラン、1−アダマンチルフェニルジクロロシラン、1−アダマンチルフェニルクロロシラン、1−アダマンチルメチルフェニルクロロシラン、1−アダマンチルトリメチルシラン等が挙げられ、反応効率が良い点で、特にt−ブチルトリクロロシラン、t−ブチルメチルクロロシラン、t−ブチルエチルジシクロロシラン、t−ペンチルトリクロロシラン、1,1,2−トリメチルプロピルトリクロロシランが好ましく、t−ブチルトリクロロシラン、t−ブチルメチルクロロシラン、t−ブチルエチルジシクロロシランがさらに好ましく、t−ブチルトリクロロシランが殊更好ましい。
【0016】
本発明の方法による第3級アルキルシランの製造の典型的な例としては、上述したクロロシランにハロゲン化銅を加えたものを調製し、これを低温下で攪拌しながら第3級アルキルグリニャール試薬を添加し、添加終了後に温度を徐々に室温付近へ戻しながら熟成するものである。
【0017】
クロロシランとハロゲン化銅の混合物、及び第3級アルキルグリニャール試薬は、溶媒で希釈してもよい。用いる溶媒は、用いるクロロシラン、ハロゲン化銅及び第3級アルキルグリニャール試薬と反応しないものなら特に制限はなく、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、トリエチルアミン等を用いることができる。これらの溶媒を単独で、または混合して用いてもよい。
【0018】
反応行程中の雰囲気として用いることのできるガスは、用いるクロロシラン、ハロゲン化銅及び第3級アルキルグリニャール試薬と反応しないものなら特に制限はなく、乾燥空気、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等を例示することができる。
【0019】
クロロシランと第3級アルキルグリニャール試薬の比率には特に制限はなく、反応が効率よく進行する点で、クロロシランに対し0.5モル当量〜1.5モル当量が好ましく、0.8モル当量〜1.2モル当量が殊更好ましい。
【0020】
添加するハロゲン化銅の量には特に制限はなく、反応が効率よく進行する点で、クロロシランに対し0.01モル当量〜1モル当量が好ましく、0.01モル当量〜0.1モル当量が殊更好ましい。
【0021】
第3級アルキルグリニャール試薬を添加する速度に特に制限はなく、低温を維持し、また反応が効率よく進行する点で、10分〜24時間が好ましい。
【0022】
反応温度は、−130℃〜−20℃である。反応温度が高温になると、望ましくない副反応が発生し、合成効率が低下する。副反応を充分抑制しながら、望みの反応が速やかに進行する点で、特に−80℃〜−20℃が好ましい。
【0023】
反応時間には特に制限はなく、反応を十分完結させる点で、0.5時間〜24時間が好ましく、1時間〜12時間がさらに好ましく、2時間〜6時間が殊更好ましい。
【0024】
添加終了後に温度を室温付近へ戻すまでの時間には特に制限はなく、副反応が抑制され、かつ速やかに処理が可能である点で、10分〜24時間が好ましく、1時間〜18時間がさらに好ましく、2時間〜12時間が殊更好ましい。
【0025】
得られた反応溶液は、H NMRやガスクロマトグラフィー等の方法によって反応の終結を確認した後、ろ過、溶媒留去、蒸留等の一般的な方法によって、目的とする第3級アルキルシランを精製することができる。また、得られた反応溶液、または反応溶液を精製して得られた第3級アルキルシランをさらに反応に用いることで、第3級アルキルシリル基を有する化合物を種々合成することができる。
【0026】
次に、本発明の製造方法で得られた第3級アルキルシランと、アルコールとを反応させる、第3級アルキルアルコキシシランの製造方法について説明する。
【0027】
用いるアルコールに特に制限はなく、製造したいアルキルクロロシランに対応したアルコールを任意に用いることができる。反応効率が良い点で炭素数1から3のアルキルアルコールが好ましく、メタノール又はエタノールが殊更好ましい。
【0028】
アルコールにあらかじめトリエチルアミンやピリジンのような塩基を加えておくことで、第3級アルキルクロロシランとアルコールとの反応により生成する酸を中和し、反応を効率よく進めることができる。
【0029】
本発明の方法による第3級アルキルアルコキシシランの製造の典型的な例としては、上述のようにして製造された、Si−Cl結合を有する第3級アルキルシランをアルコールに添加し、添加終了後に攪拌しながら熟成するものである。
【0030】
第3級アルキルシランとアルコールは、溶媒で希釈してもよい。用いる溶媒は、用いる第3級アルキルシランやアルコールと反応しないものなら特に制限はなく、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、トリエチルアミン等を用いることができる。これらの溶媒を単独で、または混合して用いてもよい。
【0031】
第3級アルキルシランを添加するアルコールの量は特に制限はなく、反応が効率よく進行する点で、第3級アルキルシランに含まれるSi−Cl結合に対し0.1モル当量〜50モル当量が好ましく、1モル当量〜10モル当量がさらに好ましく、1モル当量〜3モル当量が殊更好ましい。
【0032】
アルキルシランの添加時間には特に制限はなく、望みの反応を選択性良く得る点で、10分〜48時間が好ましく、30分〜6時間がさらに好ましい。
【0033】
反応温度には特に制限はなく、−130℃〜200℃が好ましい。また、アルキルシランの添加や熟成の途中で、必要に応じて温度を変えてもよい。
【0034】
熟成時間には特に制限はなく、望みの反応を充分進行させる点で、30分〜48時間が好ましく、1時間〜24時間がさらに好ましい。熟成時の反応温度は、アルキルシランの添加時よりも高いことが殊更好ましい。
【0035】
得られた反応溶液は、H NMRやガスクロマトグラフィー等の方法によって反応の終結を確認した後、ろ過、溶媒留去、蒸留等の一般的な方法によって、目的とする第3級アルキルアルコキシシランを精製することができる。
【0036】
本発明の製造方法で得られた第3級アルキルシランと、アルコールとを反応させる、第3級アルキルアルコキシシランとしては、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリイソプロポキシシラン、t−ペンチルトリメトキシシラン、t−ペンチルトリエトキシシラン、t−ペンチルトリイソプロポキシシラン等が挙げられ、反応効率が良い点で、特にt−ブチルトリエトキシシラン、t−ペンチルトリエトキシシランが好ましく、t−ブチルトリエトキシシランが殊更好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明の製造方法を用いることにより、安価な材料を用いて、効率良く第3級アルキルシランを製造することができる。また、そのようにして製造した、Si−Cl結合を有する第3級アルキルシランとアルコールから、第3級アルキルアルコキシシランを製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
実施例1(t−ブチルトリクロロシランの製造)
テトラクロロシラン8.11g(47.7mmol)と塩化銅(I)0.150g(1.51mmol)をテトラヒドロフラン42.8gに混合し、ドライアイスとメタノールの混合冷媒(−72℃)で冷却した。これに、濃度2.0Mのt−ブチルマグネシウムクロリド24mL(48mmol)を40分かけて滴下した。冷媒温度を維持したまま4時間撹拌し、さらに2時間かけて温度を10℃まで戻しながら撹拌した。得られた混合物をH NMRで分析し、テトラヒドロフランを内部標準として収率を算出したところ、t−ブチルトリクロロシラン90%、ビス(t−ブチル)ジクロロシラン2%であった。
【0040】
実施例2(t−ブチルトリエトキシシランの製造)
実施例1で得たt−ブチルトリクロロシラン7.43g(38.8mmol)を、エタノール10.7g(232mmol)とトリエチルアミン11.9g(118mmol)の混合溶液に、21分かけて23〜26℃で滴下し、さらに滴下終了後3時間加熱還流を行った。得られた混合物をH NMR及びガスクロマトグラフィーで分析したところ、ケイ素化合物はt−ブチルトリエトキシシランのみが観測された。
【0041】
実施例3(t−ペンチルトリクロロシランの製造)
テトラクロロシラン5.92g(34.8mmol)と塩化銅(I)0.367g(3.71mmol)をテトラヒドロフラン27.1gに混合し、冷却器を用いて−40℃まで冷却した。これに、濃度1.5Mのt−ペンチルマグネシウムブロミド18mL(27mmol)を36分かけて滴下した。冷媒温度を維持したまま277分撹拌し、さらに3.5時間かけて温度を17℃まで戻しながら撹拌し、さらに室温で14時間攪拌した。得られた混合物をGCで分析し、n−ドデカンを内部標準として収率を算出したところ、t−ペンチルトリクロロシラン66%であった。
【0042】
実施例4(t−ブチルメチルクロロシランの製造)
メチルジクロロシラン6.92(60.2mmol)と塩化銅(I)0.60g(6.1mmol)をテトラヒドロフラン53.9gに混合し、冷却器を用いて−40℃まで冷却した。これに、濃度2.2Mのt−ブチルマグネシウムクロリド29mL(64mmol)を70分かけて滴下した。冷媒温度を維持したまま240分撹拌し、さらに3時間かけて温度を14℃まで戻しながら撹拌し、さらに室温で14時間攪拌した。得られた混合物をGCで分析し、n−ドデカンを内部標準として収率を算出したところ、t−ブチルメチルクロロシラン85%であった。
【0043】
実施例5(t−ブチルエチルジクロロシランの製造)
エチルトリクロロシラン9.75g(59.6mmol)と塩化銅(I)0.589g(5.95mmol)をテトラヒドロフラン53.5gに混合し、冷却器を用いて−40℃まで冷却した。これに、濃度2.2Mのt−ブチルマグネシウムクロリド29mL(64mmol)を70分かけて滴下した。冷媒温度を維持したまま240分撹拌し、さらに2.5時間かけて温度を14℃まで戻しながら撹拌し、さらに室温で15時間攪拌した。得られた混合物をGCで分析し、n−ドデカンを内部標準として収率を算出したところ、t−ブチルエチルジクロロシラン91%であった。
【0044】
比較例1
テトラクロロシラン37.3g(220mmol)と塩化銅(I)0.563g(5.69mmol)をテトラヒドロフラン23.5gに混合した。これにマグネシウム5.87g(242mmol)、t−ブチルクロリド20.3g(219mmol)、及びテトラヒドロフラン195gから調製したt−ブチルマグネシウムクロリドを、148分かけて27〜35℃で滴下し、さらに滴下終了後3時間加熱還流を行った。得られた混合物をH NMRで分析し、テトラヒドロフランを内部標準として収率を算出したところ、t−ブチルトリクロロシラン44%、ビス(t−ブチル)ジクロロシラン5%であった。
【0045】
比較例2
テトラクロロシラン8.05g(47.4mmol)とチオシアン酸銅(I)0.312g(2.56mmol)をテトラヒドロフラン42.7gに混合した。これに濃度2.0Mのt−ブチルマグネシウムクロリド24mL(48mmol)を、120分かけて24〜28℃で滴下した。得られた混合物は強い硫黄臭を呈した。これをH NMRで分析し、テトラヒドロフランを内部標準として収率を算出したところ、t−ブチルトリクロロシラン78%、ビス(t−ブチル)ジクロロシラン13%であった。
【0046】
比較例3
テトラクロロシラン27.4g(161mmol)と塩化銅(I)0.472g(4.76mmol)をテトラヒドロフラン152gに混合した。これを氷浴(0℃)の冷却漕で冷却し、濃度2.0Mのt−ブチルマグネシウムクロリド80mL(160mmol)を56分かけて滴下し、さらに滴下終了後24℃で16時間攪拌した。得られた混合物をH NMRで分析し、テトラヒドロフランを内部標準として収率を算出したところ、t−ブチルトリクロロシラン71%、ビス(t−ブチル)ジクロロシラン13%であった。この混合物を濾過して固形分を除去し、これをエタノール44.5g(966mmol)とトリエチルアミン49.0g(484mmol)の混合溶液に、74分かけて25〜32℃で滴下し、さらに滴下終了後3時間加熱還流を行った。得られた混合物を濾過して固形分を除去し、溶媒を減圧留去した。残渣を減圧蒸留(92℃、8kPa)して無色透明の液体を15.7g得た。GCで分析したところ、この液体はt−ブチルトリエトキシシランを70%含む混合物であり、t−ブチルトリエトキシシランを単離することはできなかった。