【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ヒト免疫グロブリンと、ヒトFc結合性タンパク質を固定化した担体と、標識物質を結合した抗ヒト免疫グロブリン抗体との間の特異的反応を利用して、ヒト免疫グロブリン(抗体)を抗体依存性細胞障害活性の強さに基づき分析できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の(A)から(D)の態様を包含する:
(A)ヒト免疫グロブリンとヒトFc結合性タンパク質を固定化した担体と標識物質を結合した抗ヒト免疫グロブリン抗体とを反応させることで抗体依存性細胞障害活性の強さに基づきヒト免疫グロブリンを分析する方法であって、ヒト免疫グロブリンとヒトFc結合性タンパク質を固定化した担体との反応を酸性条件で行なう、前記方法。
【0012】
(B)ヒトFc結合性タンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目から192番目までのアミノ酸を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したタンパク質である、(A)に記載の方法。
【0013】
(C)ヒトFc結合性タンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目から192番目までのアミノ酸を含むタンパク質である、(A)に記載の方法。
【0014】
(D)酸性条件がpHが3.0から6.0までの範囲である、(A)から(C)のいずれかに記載の方法。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明においてヒトFc結合性タンパク質とは、ヒト抗体のFc領域に結合性を持つタンパク質であり、一例としてヒトFcγレセプターである、ヒトFcγRI、ヒトFcγRIIa、ヒトFcγRIIb、ヒトFcγRIIIa、ヒトFcγRIIIbがあげられる。ヒトFc結合性タンパク質の例として、ヒトFcγRIIIaである、
(i)配列番号1に記載の野生型Fc結合性タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目から192番目までのアミノ酸残基を含むポリペプチドや、
(ii)配列番号1に記載の野生型Fc結合性タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目から192番目までのアミノ酸残基を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したポリペプチド、
があげられる。前記(ii)の一態様としては、WO2015/041303号に記載のポリペプチドがあげられる。また前記(ii)の別の態様としては、配列番号2に記載の配列からなるポリペプチドがあげられる。また前記(ii)のさらに別の態様としては、配列番号4に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、かつ当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(84)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じたポリペプチドがあげられる(特願2015−115078号)。
(1)配列番号4の45番目のフェニルアラニンがイソロイシンまたはロイシンに置換
(2)配列番号4の55番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(3)配列番号4の64番目のグルタミンがアルギニンに置換
(4)配列番号4の67番目のチロシンがセリンに置換
(5)配列番号4の77番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(6)配列番号4の93番目のアスパラギン酸がグリシンに置換
(7)配列番号4の98番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(8)配列番号4の106番目のグルタミンがアルギニンに置換
(9)配列番号4の128番目のグルタミンがロイシンに置換
(10)配列番号4の133番目のバリンがグルタミン酸に置換
(11)配列番号4の135番目のリジンがアスパラギンまたはグルタミン酸に置換
(12)配列番号4の156番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(13)配列番号4の158番目のロイシンがグルタミンに置換
(14)配列番号4の187番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(15)配列番号4の191番目のロイシンがアルギニンに置換
(16)配列番号4の196番目のアスパラギンがセリンに置換
(17)配列番号4の204番目のイソロイシンがバリンに置換
(18)配列番号4の34番目のメチオニンがイソロイシン、リジンまたはスレオニンに置換
(19)配列番号4の37番目のグルタミン酸がグリシンまたはリジンに置換
(20)配列番号4の39番目のロイシンがメチオニンまたはアルギニンに置換
(21)配列番号4の49番目のグルタミンがプロリンに置換
(22)配列番号4の62番目のリジンがイソロイシンまたはグルタミン酸に置換
(23)配列番号4の64番目のグルタミンがトリプトファンに置換
(24)配列番号4の67番目のチロシンがヒスチジンまたはアスパラギンに置換
(25)配列番号4の70番目のグルタミン酸がグリシンまたはアスパラギン酸に置換
(26)配列番号4の72番目のアスパラギンがセリンまたはイソロイシンに置換
(27)配列番号4の77番目のフェニルアラニンがロイシンに置換
(28)配列番号4の80番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(29)配列番号4の81番目のセリンがアルギニンに置換
(30)配列番号4の83番目のイソロイシンがロイシンに置換
(31)配列番号4の84番目のセリンがプロリンに置換
(32)配列番号4の85番目のセリンがアスパラギンに置換
(33)配列番号4の87番目のアラニンがスレオニンに置換
(34)配列番号4の90番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(35)配列番号4の91番目のフェニルアラニンがアルギニンに置換
(36)配列番号4の93番目のアスパラギン酸がバリンまたはグルタミン酸に置換
(37)配列番号4の94番目のアラニンがグルタミン酸に置換
(38)配列番号4の97番目のバリンがメチオニンとグルタミン酸に置換
(39)配列番号4の98番目のアスパラギン酸がアラニンに置換
(40)配列番号4の102番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(41)配列番号4の106番目のグルタミンがロイシンに置換
(42)配列番号4の109番目のロイシンがグルタミンに置換
(43)配列番号4の117番目のグルタミンがロイシンに置換
(44)配列番号4の119番目のグルタミン酸がバリンに置換
(45)配列番号4の121番目のヒスチジンがアルギニンに置換
(46)配列番号4の130番目のプロリンがロイシンに置換
(47)配列番号4の135番目のリジンがチロシンに置換
(48)配列番号4の136番目のグルタミン酸がバリンに置換
(49)配列番号4の141番目のヒスチジンがグルタミンに置換
(50)配列番号4の146番目のセリンがスレオニンに置換
(51)配列番号4の154番目のリジンがアルギニンに置換
(52)配列番号4の159番目のグルタミンがヒスチジンに置換
(53)配列番号4の163番目のグリシンがバリンに置換
(54)配列番号4の165番目のリジンがメチオニンに置換
(55)配列番号4の167番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(56)配列番号4の169番目のヒスチジンがチロシンに置換
(57)配列番号4の174番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(58)配列番号4の177番目のリジンがアルギニンに置換
(59)配列番号4の185番目のセリンがグリシンに置換
(60)配列番号4の194番目のセリンがアルギニンに置換
(61)配列番号4の196番目のアスパラギンがリジンに置換
(62)配列番号4の201番目のスレオニンがアラニンに置換
(63)配列番号4の203番目のアスパラギンがイソロイシンまたはリジンに置換
(64)配列番号4の207番目のスレオニンがアラニンに置換
(65)配列番号4の94番目のアラニンがセリンに置換
(66)配列番号4の98番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(67)配列番号4の117番目のグルタミンがアルギニンに置換
(68)配列番号4の174番目のチロシンがヒスチジンに置換
(69)配列番号4の181番目のリジンがグルタミン酸に置換
(70)配列番号4の203番目のアスパラギンがアスパラギン酸またはチロシンに置換
(71)配列番号4の56番目のリジンがグルタミンに置換
(72)配列番号4の62番目のリジンがアスパラギンに置換
(73)配列番号4の66番目のアラニンがスレオニンに置換
(74)配列番号4の72番目のアスパラギンがチロシンに置換
(75)配列番号4の78番目のヒスチジンがロイシンに置換
(76)配列番号4の81番目のセリンがグリシンに置換
(77)配列番号4の90番目のチロシンがヒスチジンに置換
(78)配列番号4の138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(79)配列番号4の153番目のヒスチジンがグルタミンに置換
(80)配列番号4の156番目のスレオニンがアラニン、アルギニン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、セリン、バリンまたはメチオニンに置換
(81)配列番号4の157番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(82)配列番号4の174番目のチロシンがロイシン、システイン、イソロイシン、リジン、トリプトファンまたはバリンに置換
(83)配列番号4の206番目のイソロイシンがバリンに置換
(84)配列番号4の207番目のスレオニンがイソロイシンに置換
本発明におけるFc結合性タンパク質中、特定位置のアミノ酸残基については、抗体結合活性を有する限り前述したアミノ酸以外のアミノ酸に置換してもよい。その一例として、両アミノ酸の物理的性質と化学的性質またはそのどちらかが類似したアミノ酸間で置換する保守的置換があげられる。保守的置換は、Fc結合性タンパク質に限らず一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、アスパラギン酸とグルタミン酸間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間に生じる置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。また本発明におけるFc結合性タンパク質には糖鎖を付加されていてもよいし、付加されていなくてもよい。
【0017】
本発明の方法は、前述したヒトFc結合性タンパク質を担体に固定化した後、前記固定化した担体にヒト免疫グロブリン(抗体)を含む溶液を添加し反応させることでヒトFc結合性タンパク質−ヒト免疫グロブリン複合体を形成し、添加した標識物質を結合した抗ヒト免疫グロブリン抗体との抗原抗体反応によりヒトFc結合性タンパク質−ヒト免疫グロブリン(抗体)−抗ヒト免疫グロブリン抗体複合体を形成した後、形成したヒトFc結合性タンパク質−ヒト免疫グロブリン(抗体)−抗ヒト免疫グロブリン抗体複合体を抗ヒト免疫グロブリン抗体に結合した標識物質を用いて分析することで、抗体依存性細胞障害活性の強さに基づきヒト免疫グロブリン(抗体)を分析する方法である。
【0018】
ヒトFc結合性タンパク質を固定化するのに用いる担体の一例として、通常ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay、酵素結合免疫吸着)測定に用いられている96ウェルプレートや384ウェルプレートがあげられる。中でも、タンパク質の非特異吸着を抑制したプレートを用いると好ましく、前記好ましいプレートの一例としてImmunoplate Maxisorp(ThermoScientific社製)があげられる。
【0019】
ヒトFc結合性タンパク質の固相への固定化条件は、通常、当業者がELISA測定用プレート等を作製するときの条件で行なえばよい。具体的には、緩衝液はTBS(Tris−buffered saline)やPBS(Phosphate−buffered saline)等の生理条件に近い緩衝液を用いると好ましく、緩衝液中に含まれるヒトFc結合性タンパク質の濃度は0.01から10μg/mLの間(より好ましくは0.1から1μg/mLの間)とすると好ましく、反応温度/時間は4から40℃の間で10分から24時間(より好ましくは4から10℃の間で12から16時間)とすると好ましい。固定化反応終了後は、例えばTBST(Tween 20を0.05%含んだTBS)等の洗浄液を用いてヒトFc結合性タンパク質が固定化されたウェルを洗浄すればよい。
【0020】
前記洗浄操作終了後、固相化したヒトFc結合性タンパク質との非特異的な結合を抑制するため、ブロッキング剤をウェルに添加しブロッキング処理を行なう。ブロッキング剤の例としては、スキムミルク、ウシ血清アルブミン(BSA)といった当業者がブロッキング剤として通常用いる物質や、市販のブロッキング剤(ECL Blocking Agents、GEヘルスケア社製)があげられる。ブロッキング剤の濃度は、非特異的結合を抑制できれば特に限定はなく、0.1から5%とすると好ましく、0.3から2%の間とするとより好ましく、0.5から1%の間とするとさらに好ましい。ブロッキング処理の温度や時間も特に限定はないが、25から40℃の間で10分から2時間反応させると好ましく、30から37℃の間で30分から1時間反応させるとより好ましい。
【0021】
本発明の分析方法で用いる、抗ヒトグロブリン抗体に標識させる物質は、検出方法により適宜選択すればよい。例えばELISA法により検出する場合は酵素を標識させればよい。なお標識に使用される酵素は特に限定はなく、一般的に使用されているアルカリフォスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)などが使用できる。またFIA法(Fluorescence ImmunoAssay、蛍光免疫測定法)により検出する場合は蛍光物質を標識させればよく、CLIA法(ChemiLuminescence ImmunoAssay、化学発光免疫測定法)により検出する場合は発光物質を標識させればよく、RIA法(RadioImmunoAssay、放射免疫測定法)により検出する場合は放射性同位物質を標識させればよい。
【0022】
本発明のヒト免疫グロブリンの分析方法は、ヒト免疫グロブリンと、ヒトFc結合性タンパク質を固定化した担体との反応を酸性条件で実施することを特徴としている。前記反応を酸性条件で実施することで抗体依存性細胞障害(ADCC)活性に基づく、ヒト免疫グロブリンの分析が容易となる。なおpH3.0からpH6.0までの酸性条件で実施すると好ましく、pH4.0からpH5.5までの酸性条件で実施するとさらに好ましく、pH4.3からpH4.8までの酸性条件で実施するとさらにより好ましい。なお添加する標識物質を結合した抗ヒトグロブリン抗体の濃度は、適宜調製され、適切な濃度希釈系列にて反応させればよく、反応条件も、通常ELISA法等で使用する温度、時間等の条件とすればよい。
【0023】
本発明の分析方法をELISA法を用いて行なう場合は、前述した反応後、抗ヒト免疫グロブリン抗体に標識した酵素に適した基質を添加し、当該酵素と基質との反応生成物由来の発光または蛍光を検出することで、ヒト免疫グロブリンを分析すればよい。例えば、標識酵素としてHRPを用いる場合は、TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を基質として用いることができる。
【0024】
本発明の分析対象であるヒト免疫グロブリンは、固定化したヒトFc結合性タンパク質と親和性(反応性)を有するFc領域を少なくとも含んでいればよく、一般に抗体医薬品として用いられているキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体やそのアミノ酸改変体等をあげることができる。また、二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)、抗体−薬物複合体(ADC)、抗体Fc領域と他のタンパク質との融合タンパク質などの人工的に構造改変した抗体も分析対象に含まれる。