特許第6666053号(P6666053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 雪印メグミルク株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6666053-IALD産生促進剤 図000004
  • 特許6666053-IALD産生促進剤 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6666053
(24)【登録日】2020年2月25日
(45)【発行日】2020年3月13日
(54)【発明の名称】IALD産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/745 20150101AFI20200302BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200302BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20200302BHJP
【FI】
   A61K35/745
   A61P43/00 105
   !C12N1/20 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-71248(P2015-71248)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-190804(P2016-190804A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年3月15日
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-10657
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井利信
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸泰幸
【審査官】 原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/020884(WO,A1)
【文献】 特表2012−526752(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/033151(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C12N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウム・ロンガムSBT−2928(FERM P−10657)を有効成分とするIALD産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフィドバクテリウム属の菌(Bifidobacterium属)、特にビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の菌を有効成分とする、IALD(Indole−3−aldehyde)の産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トリプトファンから分解合成されるIALDはAhRレセプターを介してIL−22の産生を促進することが知られている。IL−22は抗菌ペプチドやムチンの産生を促進するので、有益なサイトカインである。
【0003】
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)がトリプトファンからIALD(Indole−3−aldehyde)の合成を促進する事が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
芳香族炭化水素レセプター(AhR)活性化能を有する乳酸菌、ビフィドバクテリウム属の菌およびプロピオン酸菌からなる群が示されているが、IALDに関する記載も示唆もされていない(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表特許WO2012/033151
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zelante T, Iannitti RG, Cunha C, De Luca A, Giovannini G, Pieraccini G, Zecchi R, D’Angelo C, Massi−Benedetti C, Fallarino F, Carvalho A, Puccetti P, Romani L. Tryptophan catabolites from microbiota engage aryl hydrocarbon receptor and balance mucosal reactivity via interleukin−22. Immunity. 2013 Aug 22;39(2):372−85.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにIALDの産生促進によって、IL−22の産生が促進され、抗菌ペプチドやムチンを産生する事が確認されている。そこで、本発明は効率的にIALDの産生を促進し得る剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、数多くの乳酸菌を試験に供し、ビフィドバクテリウム属の菌、特にビフィドバクテリウム・ロンガムの菌がIALDを産生する機能が非常に高いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)ビフィドバクテリウム属の菌を有効成分とする、IALD産生促進剤。
(2)ビフィドバクテリウム属の菌がビフィドバクテリウム・ロンガムの菌である、上記(1)に記載のIALD産生促進剤。
(3)ビフィドバクテリウム属の菌がSBT−2928(FERM P−10657)である、上記(1)に記載のIALD産生促進剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のビフィドバクテリウム属を有効成分とする、IALD産生促進剤によれば、効率的にIALDの産生を増加でき、これによってIL−22の産生を促進することにより、抗菌ペプチドやムチンの産生を増強する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】各菌株のIALD産生能を比較したものである。
図2】各菌株のIALD産生能を比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「IALD産生促進剤」とは、IALD(Indole−3−aldehyde)の産生を促進するための剤のことをいい、ビフィドバクテリウム属の菌を有効成分とする剤のことをいう。この剤は、有効成分であるビフィドバクテリウム属の菌のみからなる剤であってもよく、IALDの産生を抑制しないその他の物質を含む剤であってもよい。
【0012】
本発明において、「IALD」とは、インドール−3−アルデヒド(Indole−3−aldehyde)のことをいう。
【0013】
本発明の「IALD産生促進剤」の有効成分であるビフィドバクテリウム属の菌として、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ブレイブ(Bifodobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・シュードカテニュラタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・カテニュラタム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・アングラタム(Bifidobacterium angulatum)またはビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)等の菌が挙げられ、これらを一種以上または二種以上組み合わせて含むものであっても良い。このうち、ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌を有効成分とすることが好ましい。ビフィドバクテリウム・ロンガムの菌として、特にSBT−2928(FERM P−10657)を有効成分として含むことが好ましい。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明の実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
〔実施例1〕
1.1.菌体の準備
表1に示した乳酸菌11株及びビフィドバクテリウム属の菌12株を供試菌として使用した。乳酸菌はMRS液体培地にて、ビフィドバクテリウム属の菌はGAM液体培地にて37℃,16時間静置培養した。各菌体を遠心分離(1,912×g,4℃,10min)にて回収し、1mM MgSOを含有する100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7、以下、緩衝液と呼ぶ)を用いて3回洗浄した。
【0016】
【表1】
【0017】
1.2.反応条件
反応は休止菌体系にて実施した。表1に示したように、菌体懸濁液を供試菌によってO.D.600=3.7〜7.9に調整して、次のA、Bの2つの反応液組成にて37℃で18時間、反応を行った。
反応液組成A:20mM トリプトファン
反応液組成B:20mM トリプトファン and 20mM α−ケトグルタル酸
【0018】
1.3.反応産物の定量
反応液は遠心分離後(9,100×g,4℃,10min)、上清を回収し、フィルター(0.22μm)にて不溶物を除去したものをHPLC分析サンプルとした。分析はAgilent社の1200シリーズを使用した。溶離液A(95% Milli−Q water,5% Acetonitrile(ACN),0.05% Trifluoroacetic acid(TFA))で平衡化したODSカラム(Hydrosphere C18 粒子径(μm)S−5,細孔径 4.6X250,品番 HS12S05−2546WT,メーカー YMC)に分析サンプルを10μlインジェクトし、流速1ml/minとして溶離液B(5% Milli−Q water,95% ACN,0.05% TFA)の濃度勾配(%B(time):10(0)→50(16)→50(16)→100(16.1)→100(20)→10(20.1)→10(26))により行った。カラムオーブンは40℃とした。分光光度計にてIALDの吸収波長の試験を行った結果、IALDの検出は300nmにおける吸収を利用した。ここで、合成活性(Synthesizing activity)を、反応により生成したIALD合成量(Concentration. ppm)を供試菌のO.D.600の値で割った値と定義する(式1)。
【0019】
[式1]
【0020】
結果を図1(反応液組成A)、図2(反応液組成B)に示した。
図1図2より、α−ケトグルタル酸の有無に関わらず、ラクトバチルス属(Lactobacillus)と比較して、ビフィドバクテリウム属の菌(Bifidobacterium属)、特にビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)のIALD産生能が優れていることが確認できた。また、その中でも特にSBT−2928(FERM P−10657)の効果が大きい事が確認できた。従って、これらのビフィドバクテリウム属の菌を有効成分として、IALD産生促進剤が提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のビフィドバクテリウム属の有効成分とする、IALD産生促進剤によれば、効率的にIALDの産生を増加でき、これによってIL−22の産生を促進することにより、抗菌ペプチドやムチンの産生を増強する事ができる。
図1
図2