【文献】
社団法人日本化学会,第5版実験化学講座16,丸善株式会社,2005年 3月31日,P.228,特に実験例2.40
【文献】
Journal of the American Chemical Society,2015年,Vol.137, No.30,pp.9571-9574,Supporting Information, S3-S4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素数3〜5のアルコールと前記塩基の混合物に、60℃〜150℃で、前記フッ素化剤を添加して反応を行うことを特徴とする、請求項1に記載のフッ素化アルカンの製造方法。
前記工程(IV)が、工程(II)で得られるアミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液に含まれる水分を、ディーン・スターク水分離装置を用いて除去するものである、請求項8に記載のアミジン塩基の分離、回収方法。
【背景技術】
【0002】
フッ素化アルカンは、プラズマ反応用ガス、含フッ素医薬中間体、冷媒・熱媒等の媒体として使用されている。特に、高純度化されたフッ素化アルカンは、プラズマ反応を用いた半導体装置の製造分野において、プラズマエッチングガス、化学気相成長法(CVD)用ガス等として好適に用いられている。
【0003】
従来、フッ素化アルカンの製造方法として、対応するアルコールに、フッ素化剤としてアルキルスルホン酸フルオリドを反応させる方法が知られている。
例えば、非特許文献1には、トルエン溶媒中、フッ素化剤としてパーフルオロブタンスルホン酸フルオリドを、塩基として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)を用いて、ステロイド前駆体の水酸基をフッ素化した例が記載されている。
非特許文献2には、テトラヒドロフラン又は塩化メチレン溶媒中、1級から3級アルコールを、パーフルオロブタンスルホン酸フルオリド−トリアルキルアミンフッ化水素錯体−トリアルキルアミンの3元系でフッ素化する方法が記載されている。
非特許文献3には、フッ素化剤としてノナフルオロブタンスルホン酸フルオリド、塩基としてDBUを用いて、各種アルコールをフッ素化した例が記載されている。
特許文献1には、トルエンやジエチレングルコールジメチルエーテル等の溶媒中、フッ素化剤としてフッ素化脂肪族スルホン酸フルオリドを、塩基としてDBUを用いて、高分子量のアルコール化合物をフッ素化したことが記載されている。
また、特許文献2には、トルエンなどの不活性有機溶媒中、フッ素化剤としてノナフルオロブタンスルホン酸フルオリド、塩基としてアミジン塩基を用いて、脂肪族アルコール、芳香族炭化水素化合物、エノール化合物をフッ素化したことが記載されている。
【0004】
しかし、これらの文献において用いられるフッ素化剤のパーフルオロアルカンスルホン酸フルオリドは高価であり、工業的使用には適さない。また、これらのフッ素化剤を使用した場合に生成するパーフルオロアルカンスルホン酸誘導体は、長期毒性の懸念があり、安全上の問題がある。
また、これらの文献には、原料アルコールとして、比較的沸点が高く、構造の複雑なものを用いる例しか記載されておらず、原料として、炭素数3〜5のアルコールを用いる場合の、炭素数3〜5のフッ素化アルカンの製造可能性は不明である。
【0005】
一方、炭素数3〜5のフッ素化アルカンの製造方法として、以下のものが知られている。
特許文献3には、2−ブタノールに、フッ素化剤としてのN,N’−ジエチル−3−オキソ−メチルトリフルオロプロピルアミンを接触させて、収率46%で2−フルオロブタンを得たことが記載されている。
しかし、用いるN,N’−ジエチル−3−オキソ−メチルトリフルオロプロピルアミンは、工業的に入手困難な4−クロロ−3,4,4−トリフルオロ−2−ブタノンと2当量のジエチルアミンから製造されるものであるため、非常に高価なフッ素化剤といえる。また、目的物の2―フルオロブタンの収率も46%と満足のいくものではない。
特許文献4には、無溶媒下、フッ素化剤としてトリエチルアンモニウムヘキサフルオロシクロブタンを用いて、2−ブタノールから収率68%で2−フルオロブタンを得たことが記載されている。
しかし、用いるトリエチルアンモニウムヘキサフルオロシクロブタンは、工業的に非常に高価で、かつ、毒性の強いヘキサフルオロシクロブテンを用いて製造されるものである。
特許文献5には、sec−ブチルリチウムシクロヘキサン−ヘキサン溶液に、六フッ化硫黄を接触させることにより、フッ化sec−ブチルを得たことが記載されている。
しかし、用いるsec−ブチルリチウムシクロヘキサン−ヘキサン溶液は発火性が大きく、取扱い上の問題がある。また、六フッ化硫黄は大気寿命が非常に長いものであるため、安全性に問題がある。
さらに、特許文献6には、2−フルオロブタジエンを、触媒存在下に水素化することにより、2−フルオロブタンを得たことが記載されている。
しかし、この文献に記載の方法には、原料の2−フルオロブタジエンの入手が困難であるという問題がある。
以上のように、これらの文献に記載の方法は、フッ素化アルカンの好ましい工業的製造方法とは言い難いものである。
【0006】
また、これらの文献には、フッ素化剤としてパーフルオロスルホン酸フルオリドを用い、塩基としてアミジン塩基を用いることにより副生成する、アミジン塩基のスルホン酸錯体の処理方法や回収方法等については何ら記載されていない。
【0007】
一方、水溶性アミンを回収する方法として、特許文献7には、廃水中に含まれるテトラメチルプロパンジアミンを活性炭吸着により回収する方法が記載されている。
また、特許文献8には、廃水中のアミンを、陽イオン交換樹脂に吸着させた後、アルカリ溶液を溶離液として用いることにより、アミンを陽イオン交換樹脂から脱着させ、溶出液を濃縮してアミンを回収する方法が記載されている。
しかし、これらの文献には、環境への影響負荷軽減を考慮し、吸着材によって廃水中からアミンの回収を行うことは記載されているものの、回収したアミンの取り扱いについては記載されていない。
また、DBU等のアミジン塩基は、工業的に使用するには非常に高価な塩基であり、可能な限り、回収、再使用することが、コスト低減の観点から望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、第1に、炭素数3〜5のフッ素化アルカンを、工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、第2に、アミジン塩基存在下、フッ素化剤としてスルホン酸フルオリドを用い、アルコールをフッ素化する反応において生成するアミジン塩基のスルホン酸錯体から、工業的に有利に、アミジン塩基を分離、回収し、さらには再使用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、炭素数3〜5のアルコールに、無溶媒下、アミジン塩基等の存在下に、式(1):R
1SO
2F(R
1は、メチル基、エチル基又は芳香族基を表す。)で示されるフッ素化剤を作用させることにより、式(2):R
2−F(R
2は炭素数3〜5のアルキル基を表す。)で示されるフッ素化アルカン(以下、「炭素数3〜5のフッ素化アルカン」ということがある。)を、安全に簡便に、経済的に、かつ、高収率で得ることができることを見出した。
また、本発明者らは、副生成したアミジン塩基のスルホン酸錯体を芳香族炭化水素に溶解させて得られる溶液に、アルカリ水溶液を添加して、スルホン酸アルカリ金属塩を析出させ(工程(I))、そこに水を添加し、スルホン酸アルカリ金属塩を溶解させ、スルホン酸アルカリ金属塩が溶解した水層を除去し(工程(II))、得られるアミジン塩基の芳香族炭化水素溶液から、芳香族炭化水素を留去する(工程(III))ことで、簡便に効率よくアミジン塩基を分離、回収ことができること、及び、この回収したアミジン塩基を用いて、フッ化アルカンを製造することができることを見出した。そして、これらの知見を基に、本発明を完成するに至った。
【0012】
かくして本発明によれば、下記〔1〕〜〔6〕のフッ素化アルカンの製造方法、並びに、〔7〕〜〔12〕のアミジン塩基の分離、回収方法、及び、〔13〕の回収アミジン塩基の使用方法が提供される。
〔1〕炭素数3〜5のアルコールを、無溶媒下、アミジン塩基及びフォスファゼン塩基からなる群から選択される塩基存在下に、式(1):R
1SO
2F(R
1は、メチル基、エチル基又は芳香族基を表す。)で示されるフッ素化剤によりフッ素化することを特徴とする、式(2):R
2−F(R
2は炭素数3〜5のアルキル基を表す。)で示されるフッ素化アルカンの製造方法。
〔2〕前記炭素数3〜5のアルコールと前記塩基の混合物に、60℃〜150℃で、前記フッ素化剤を添加して反応を行うことを特徴とする、〔1〕に記載のフッ素化アルカンの製造方法。
〔3〕前記フッ素化剤が、メタンスルホン酸フルオリドであることを特徴とする、〔1〕又は〔2〕に記載のフッ素化アルカンの製造方法。
〔4〕前記塩基が、下記式(4)
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、nは0又は2である。)で示されるアミジン塩基である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフッ素化アルカンの製造方法。
【0015】
〔5〕前記塩基が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンであることを特徴とする、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフッ素化アルカンの製造方法。
〔6〕前記フッ素化アルカンが、2−フルオロブタンであることを特徴とする、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のフッ素化アルカンの製造方法。
〔7〕下記式(5)
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、R
1はメチル基、エチル基又は芳香族基を表し、nは0又は2である。)
で示されるアミジン塩基−スルホン酸錯体から、アミジン塩基を分離、回収する方法であって、
アミジン塩基−スルホン酸錯体を芳香族炭化水素に溶解させて得られる溶液に、アルカリ水溶液を添加して、スルホン酸アルカリ金属塩を析出させる工程(I)、
工程(I)で得られた、スルホン酸アルカリ金属塩が析出した溶液に水を添加して、スルホン酸アルカリ金属塩を溶解させ、スルホン酸アルカリ金属塩が溶解した水層と、アミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液の層に分液し、前記スルホン酸アルカリ金属塩が溶解した水層を除去する工程(II)、及び、
工程(II)で得られるアミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液から、芳香族炭化水素を留去する工程(III)を有するアミジン塩基の分離、回収方法。
〔8〕前記アミジン塩基−スルホン酸錯体が、炭素数3〜5のアルコールを、無溶媒下、下記式(4)
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、nは0又は2である。)で示される、アミジン塩基存在下に、式(1):R
1SO
2F(R
1は、メチル基、エチル基又は芳香族基を表す。)で示されるフッ素化剤によりフッ素化する反応を行った反応混合物から得られたものである、〔7〕に記載のアミジン塩基の分離、回収方法。
〔9〕前記アミジン塩基−スルホン酸錯体が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン−メタンスルホン酸錯体であることを特徴とする、〔7〕又は〔8〕に記載のアミジン塩基の分離、回収方法。
〔10〕前記工程(II)の後、工程(III)の前に、工程(II)で得られるアミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液に含まれる水分を除去する工程(IV)を有する、〔7〕〜〔9〕のいずれかに記載のアミジン塩基の分離、回収方法。
【0020】
〔11〕前記工程(IV)が、工程(II)で得られるアミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液に含まれる水分を、ディーン・スターク水分離装置を用いて除去するものである、〔10〕に記載のアミジン塩基の分離、回収方法。
〔12〕前記アミジン塩基が、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンであることを特徴とする、〔7〕〜〔11〕のいずれかに記載のアミジン塩基の分離、回収方法。
〔13〕炭素数3〜5のアルコールを、塩基存在下、式(1):R
1SO
2F(R
1は、メチル基、エチル基又は芳香族基を表す。)で示されるフッ素化剤によりフッ素化し、式(2):R
2−F(R
2は炭素数3〜5のアルキル基を表す。)で示されるフッ素化アルカンを製造する反応において、〔7〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法で分離、回収したアミジン塩基を塩基として用いる、回収アミジン塩基の使用方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、工業的に安価に入手できる、原料及びフッ素化剤を用いて、安全に簡便に、経済的、かつ、高収率で、プラズマエッチングガス、CVD用ガス等として好適な、炭素数3〜5のフッ素化アルカンを製造することができる。
本発明によれば、アミジン塩基存在下、アルコールを、スルホン酸フルオリドによりフッ素化する反応において生成するアミジン塩基−スルホン酸錯体から、アミジン塩基を、簡便に効率よく分離、回収することができる。これにより、非常に粘ちょうな油状物であって、取扱い難く廃棄が困難な、アミジン塩基−スルホン酸錯体の量を減少させ、取扱い性を向上させつつ、環境への負荷を軽減することができる。
また、本発明によれば、非常に高価なアミジン塩基を回収し使用することにより、コスト低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、1)フッ素化アルカンの製造方法、2)アミジン塩基の分離、回収方法、及び、3)回収アミジン塩基の使用方法、に項分けして、詳細に説明する。
【0023】
1)フッ素化アルカンの製造方法
本発明の第1は、炭素数3〜5のアルコールを、無溶媒下、アミジン塩基及びフォスファゼン塩基からなる群から選択される塩基存在下に、式(1):R
1SO
2Fで示されるフッ素化剤によりフッ素化することを特徴とする、式(2):R
2−Fで示されるフッ素化アルカンの製造方法である。
【0024】
(原料アルコール)
本発明の製造方法は、原料として、炭素数3〜5のアルコールを用いる。目的とするフッ素化アルカンが得られるようなアルコール化合物を選択して用いればよい。
炭素数3〜5のアルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール等の炭素数3のアルコール;1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロブタノール等の炭素数4のアルコール;1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、シクロペンタノール等の炭素数5のアルコール;等が挙げられる。
これらの中でも、本発明においては、生成するフッ素化アルカンの取扱い易さ、有用性等の観点から、炭素数4、5のアルコールが好ましく、2−ペンタノール、3−ペンタノール、シクロペンタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノールがより好ましい。
【0025】
(フッ素化剤)
本発明においては、フッ素化剤として、式(1):R
1SO
2Fで示される化合物を用いる。
式(1)中、R
1は、メチル基、エチル基、又は、芳香族基を表す。芳香族基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。これらの芳香族基は、メチル基、エチル基等の置換基を有していてもよい。
【0026】
式(1)で示される化合物の具体例としては、メタンスルホン酸フルオリド、エタンスルホン酸フルオリド等の脂肪族スルホン酸フルオリド;ベンゼンスルホン酸フルオリド、p−トルエンスルホン酸フルオリド等の芳香族スルホン酸フルオリド;等が挙げられる。これらの中でも、経済的に収率良く目的物が得られ、かつ、取扱い易さの観点から、メタンスルホン酸フルオリド、エタンスルホン酸フルオリドが好ましく、メタンスルホン酸フルオリドがより好ましい。
【0027】
式(1)で示される化合物は、従来公知の方法を用いて製造することができる。
例えば、脂肪族スルホン酸フルオリドは、スルホン酸クロリドを、水溶媒中、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等のアルカリ金属フッ化物と接触させる方法(特開平6−263715号公報)や、スルホン酸クロリドを、水溶媒中、二フッ化水素カリウムと接触させる方法(Journal of Chemical Society,173(1956))等により製造することができる。
【0028】
また、芳香族スルホン酸フルオリドは、芳香族スルホン酸クロリドを出発原料とし、相間移動触媒として、ポリエチレングリコール又は18−クラウン−6−エーテルの存在下に、フッ素化剤として、フッ化カリウムを用いてフッ素化する方法(Chemistry Letters,283(1978)、Journal of Organic Chemistry,Vol.42,2031(1977))等により製造することができる。
本発明においては、以上のような、安価で、入手が容易なフッ素化剤を使用する。
【0029】
フッ素化剤の使用量は、原料アルコールに対して、1/3〜1当量となる量が好ましく、1/2〜3/4当量となる量がより好ましい。原料アルコールに対してフッ素化剤を過剰に使用すると、フッ素化剤が効率的に消費されなくなり好ましくない。一方、フッ素化剤の使用量が少なすぎると原料の無駄が多くなる。
【0030】
(塩基)
本発明に用いる塩基は、アミジン塩基及びフォスファゼン塩基からなる群から選択される塩基である。
アミジン塩基とは、−N−C=N−骨格を有する塩基性有機化合物である。アミジン塩基としては、開鎖化合物であっても、4ないし8個、好ましくは5又は6個の環員を含む脂環式環、二環状および三環状環であってもよい。本発明に用いるアミジン塩基としては、好ましくは4ないし20個、より好ましくは4ないし14個、さらに好ましくは4ないし10個の炭素原子を含む化合物である。
アミジン塩基の具体例としては、7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン(MTBD);ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−ウンデカ−7−エン(DBU)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
フォスファゼン塩基とは、分子内に、(−N−)
3P=N−骨格を有する塩基性有機化合物である。フォスファゼン塩基としては、例えば、t−ブチルイミノトリス(ジメチルアミノホスホラン)(略称:P
1−t−Bu)、1−t−ブチル−4,4,4−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]−2Λ
5,4Λ
5−カテナジ(ホスファゼン)(略称:P
4−t−Bu)等が挙げられるが、これらに限定されるものでない。
【0032】
これらの中でも、入手容易性の観点から、アミジン塩基が好ましく、下記式(4)に示す骨格を有するアミジン塩基がより好ましい。
【0034】
(nは0又は2の整数を表す。)
上記骨格を有する化合物は、具体的には、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)であり、DBUが特に好ましい。
【0035】
塩基の使用量は、前記フッ素化剤に対して、1〜2当量が好ましく、1.1〜1.5当量がより好ましい。塩基の使用量が少なすぎると、収率が悪くなるので好ましくない。一方、使用量が多すぎると、反応液の粘度が大きくなり、反応終了後の処理が面倒になる。
【0036】
(反応)
反応は無溶媒で行う。
前記原料アルコール、塩基、フッ素化剤の混合順序は特に制約はないが、収率よく目的物が得られる観点から、原料アルコールと塩基を混合し、得られた混合物中に、フッ素化剤を添加(滴下)するのが好ましい。フッ素化剤は、一度に全量を加えてもよいし、少量ずつ添加してもよい。
【0037】
反応温度は、通常50℃〜150℃、好ましくは60℃〜150℃、より好ましくは60℃〜100℃である。
本発明においては、原料アルコールと塩基の混合物を、予め上記範囲の温度としてから、フッ素化剤を滴下し、滴下終了後、さらに上記温度範囲で反応を進行させるのが好ましい。
反応開始温度及びその後の反応温度が上記温度範囲より低いと、原料転化率が低くなったり、反応時間が非常に長くなる等の不具合を招くおそれがある。一方、反応開始温度及び反応温度が上記温度範囲より高いと、使用する原料アルコールの種類によっては、アルコールが、生成物のフッ素化アルカンと一緒に留出してしまい、収率の低下を招きやすい。
【0038】
反応時間は用いる原料アルコールや塩基の種類にもよるが、通常、1〜48時間、好ましくは3〜20時間である。反応時間が短すぎると原料アルコールの転化率が低くなり、目的物の収率低下を招く。一方、反応時間が長すぎるとエネルギーコストの無駄を生じ好ましくない。
【0039】
反応終了後においては、生成物(目的物)が反応温度より沸点が低いものである場合には、反応容器に接続され、ドライアイスエタノール等の冷媒で冷却された、反応系外の受器に補集し回収することができる
また、生成物(目的物)が反応温度より沸点が高いものである場合には、生成物は、反応停止後、減圧下に、冷媒等で冷却された受器内に回収することができる。この場合、回収される未反応のアルコールは、原料として再使用することができる。
【0040】
受器に捕集されたフッ素化アルカンは、必要に応じて、蒸留精製等の精製を行い、純度をさらに高めることができる。
【0041】
(フッ素化アルカン)
以上のようにして、式(2)で示されるフッ素化アルカンを製造することができる。
式(2)中、R
2は炭素数3〜5のアルキル基を表す。炭素数3〜5のアルキル基としては、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基の炭素数3のアルキル基;n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基の炭素数4のアルキル基;n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、3−メチル−1−ブチル基、3−メチル−2−ブチル基、2−メチル−1−ブチル基、2−メチル−2−ブチル基、2,2−ジメチル−1−プロピル基、シクロペンチル基等の炭素数5のアルキル基;等が挙げられる。
【0042】
式(2)で示されるフッ素化アルカンの具体例としては、1−フルオロプロパン、2−フルオロプロパン等の炭素数3のフッ素化アルカン;1−フルオロブタン、2−フルオロブタン、1−フルオロ−2−メチルプロパン、t−ブチルフルオリド、フルオロシクロブタン等の炭素数4のフッ素化アルカン;1−フルオロペンタン、2−フルオロペンタン、3−フルオロペンタン、3−メチル−1−フルオロブタン、3−メチル−2−フルオロブタン、2−メチル−1−フルオロブタン、2−メチル−2−フルオロブタン、2,2−ジメチル−1−フルオロプロパン、フルオロシクロペンタン等の炭素数5のフッ素化アルカン;が挙げられる。
これらの中でも、本発明の効果がより得られやすい観点から、2−フルオロブタンが好ましい。2−フルオロブタンは、原料アルコールとして2−ブタノールを用いて製造することができる。
【0043】
このように、本発明の製造方法によれば、工業的に安価に入手できる原料及びフッ素化剤を用いて、溶媒を使用することなく、安全に、簡便に、低コストで、かつ、高収率で炭素数3〜5のフッ素化アルカンを製造することができる。
【0044】
2)アミジン塩基の分離、回収方法
本発明の第2は、下記式(5)
【0046】
(式中、R
1、nは前記と同じ意味を表す。)
で表されるアミジン塩基−スルホン酸錯体(以下、単に「アミジン塩基−スルホン酸錯体」という。)から、式(4)
【0048】
(式中、nは前記と同じ意味を表す。)
で表されるアミジン塩基を分離、回収する方法であって、下記の工程(I)〜(III)を有するアミジン塩基の分離、回収方法である。
(I)工程(I):アミジン塩基−スルホン酸錯体を芳香族炭化水素に溶解させて得られる溶液に、アルカリ水溶液を添加して、スルホン酸アルカリ金属塩を析出させる工程
(II)工程(I)で得られた、スルホン酸アルカリ金属塩が析出した溶液に水を添加して、スルホン酸アルカリ金属塩を溶解させ、スルホン酸アルカリ金属塩が溶解した水層と、アミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液の層に分液し、前記スルホン酸アルカリ金属塩が溶解した水層を除去する工程
(III)工程(II)で得られるアミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液から、芳香族炭化水素を留去する工程
【0049】
本発明に用いられる、アミジン塩基−スルホン酸錯体は、前記式(4)で表されるアミジン塩基と、式:R
1−SO
3H(R
1は前記と同じ意味を表す。)で表されるスルホン酸から構成される塩である。具体例としては、DBU−メタンスルホン酸錯体、DBU−エタンスルホン酸錯体、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)−メタンスルホン酸錯体、DBN−エタンスルホン酸錯体等の脂肪族スルホン酸錯体;DBU−ベンゼンスルホン酸錯体、DBU−p−トルエンスルホン酸錯体、DBN−ベンゼンスルホン酸錯体、DBN−p−トルエンスルホン酸錯体等の芳香族スルホン酸錯体;等が挙げられる。
これらの中でも、本発明の効果がより顕著に得られる観点から、脂肪族スルホン酸錯体が好ましく、DBU−メタンスルホン酸錯体が特に好ましい。
【0050】
(工程(I))
本発明において、工程(I)は、アミジン塩基−スルホン酸錯体を、芳香族炭化水素に溶解させて、得られる溶液に、アルカリ水溶液を添加して、スルホン酸アルカリ金属塩を析出させる工程である。
【0051】
本発明に用いる芳香族炭化水素としては、アミジン塩基−スルホン酸錯体を溶解し、水と共沸混合物組成を形成するものが好ましい。具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどのアルキル置換ベンゼン類;フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン置換ベンゼン類;等が挙げられる。これらの中でも、アルキル置換ベンゼン類が好ましく、比較的低温で留去可能なトルエンがより好ましい。
【0052】
芳香族炭化水素の使用量は、反応規模等にもよるが、アミジン塩基−スルホン酸錯体1gに対し、通常0.7〜1mlである。芳香族炭化水素の使用量が少なすぎるとアミジン塩基の抽出効率が悪くなる可能性がある。一方、使用量が多すぎると、後工程での芳香族炭化水素の留去に多大な時間を要し、生産性が悪くなる。
【0053】
本発明に用いられるアルカリ水溶液としては、アミジン塩基−スルホン酸錯体の芳香族炭化水素溶液に添加すると、前記アミジン塩基−スルホン酸錯体を構成するスルホン酸と塩を形成することで、該スルホン酸塩が析出するものであれば、特に制限されない。
なかでも、水との親和性に優れる観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましく、水酸化カリウム、水酸化セシウムの水溶液がより好ましく、安価で、生成するスルホン酸塩の水への溶解度が大きい水酸化カリウムの水溶液が特に好ましい。
【0054】
アルカリ金属水酸化物自体は、通常、ペレット、あるいはフレーク状の固体としても存在するが、工業的な取り扱い易さの観点から、水溶液として用いる。
用いるアルカリ水溶液の濃度としては、特に限定されないが、10重量%〜50重量%程度のものが好ましい。アルカリ水溶液の濃度があまりに低いと、アミジン塩基−スルホン酸錯体中のスルホン酸を中和し、アミジン塩基を遊離させるのに大量のアルカリ水溶液が必要になるので、廃水が多くなり、アミジン塩基の抽出効果が小さくなり、回収率が悪くなる。一方、アルカリ水溶液の濃度があまりに高いと、アミジン塩基−スルホン酸錯体のスルホン酸を中和する際、発熱が大きくなり、危険を伴うおそれがある。
【0055】
アルカリ水溶液中のアルカリの使用量は、アミジン塩基−スルホン酸錯体に対し、通常0.9〜1.5当量である。アルカリ(アルカリ水溶液)の使用量が少なすぎると、スルホン酸との中和反応が完結せず、アミジン塩基の回収率が悪くなる。一方、アルカリ(アルカリ水溶液)の使用量が多すぎると、廃液の処理が面倒になる。
【0056】
アミジン塩基−スルホン酸錯体の芳香族炭化水素溶液にアルカリ水溶液を添加する方法としては、前記溶液を撹拌しながら、0℃から室温(25℃±10℃、以下にて同じ。)の溶液温度範囲で、アルカリ水溶液を滴下する方法が好ましい。添加温度が低すぎると、アミジン塩基−スルホン酸錯体の芳香族炭化水素溶液が粘ちょうな状態になり、スルホン酸とアルカリとの中和反応が円滑に進行しなくなる。一方、添加温度が高すぎると、スルホン酸とアルカリとの中和反応が急激に進行し、突沸等の不具合を生じるおそれがあり好ましくない。
【0057】
アミジン塩基−スルホン酸錯体の芳香族炭化水素溶液を撹拌しながら、0℃から室温でアルカリ水溶液を滴下していくと、中和反応が進行し、アミジン塩基が遊離すると同時に、スルホン酸のアルカリ金属塩が析出する。
【0058】
(工程(II))
本発明において、工程(II)は、工程(I)で得られた、スルホン酸アルカリ金属塩が析出した溶液に水を添加して、スルホン酸アルカリ金属塩を溶解させ、前記スルホン酸アルカリ金属塩が溶解した水層を除去する工程である。
スルホン酸アルカリ金属塩が析出した溶液に水を添加すると、スルホン酸アルカリ金属塩が溶解した水層と、前記遊離したアミジン塩基が溶解した芳香族炭化水素層(有機層)の2層に分離する。
添加する水の量は、スルホン酸アルカリ金属塩を溶解させるのに必要な量であれば良い。添加する水の量が少なすぎると、スルホン酸のアルカリ金属塩の溶け残りが生じ、遊離したアミジン塩基が溶解した(抽出された)有機層との2層分離が困難になる。一方、添加する水の量が多すぎると、アミジン塩基の抽出効果が小さくなり、回収率が悪くなるなどの不具合を生じる。
【0059】
下層のスルホン酸のアルカリ金属塩が溶解した水層を除去することにより、抽出されたアミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液を取得することができる。
なお、アミジン塩基は水溶性であるため、アミジン塩基の抽出効率を高めるために、スルホン酸のアルカリ金属塩が溶解した水層に、さらに、芳香族炭化水素を添加して抽出操作を行っても良い。
【0060】
(工程(III))
本発明の工程(III)は、工程(II)で得られるアミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液から、芳香族炭化水素を留去する工程である。
アミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液から、芳香族炭化水素を留去する方法としては、特に制約はないが、例えば、減圧下に、ロータリーエバポレーター等の濃縮装置を使用する方法が挙げられる。
これにより、アミジン塩基を回収することができる。
【0061】
また、このようにして回収されたアミジン塩基類は、微量のタール成分や、塩類(スルホン酸のアルカリ金属塩)を含む場合があるので、さらに、純度の高いアミジン塩基を得たい場合には、減圧蒸留等の精製工程を設けるのが好ましい。
【0062】
(工程(IV))
回収するアミジン塩基を再使用する場合等には、アミジン塩基は水分を含まないことが好ましい。しかしながら、工程(II)で得られるアミジン塩基の芳香族炭化水素溶液は、水分を含有している場合が多い。そのため、工程(II)の後、工程(III)の前に、工程(II)で得られるアミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液から、水分を除去する工程(IV)を設けるのが好ましい。
【0063】
アミジン塩基を含む芳香族炭化水素溶液から、水分を除去する方法としては、前記芳香族炭化水素溶液に、モレキュラーシーブ、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム等の脱水剤を添加し、脱水剤に水分を吸収させた後、水分を吸収した脱水剤を分離除去する方法、ディーン・スターク水分離装置を用いて水分を除去する方法等が挙げられ、後者の方法が好ましい。ディーン・スターク水分離装置によれば、芳香族炭化水素が水と共沸する性質を利用して、加熱により水と芳香族炭化水素を共沸させ、効率よく水分を除去することができる。
【0064】
芳香族炭化水素と水との共沸温度は、例えば、以下の通りである。トルエン:水=80.1:19.9(重量比、以下にて同じ)(沸点:85℃)、o−キシレン:水=50.1:49.9(沸点93.5℃)、m−キシレン:水=60.0:40.0(沸点:94.5℃)、エチルベンゼン:水=67.0:33.0(沸点:92℃)、クロロベンゼン:水=71.6:28.4(沸点:90.2℃)(いずれも大気圧下)(化学便覧改訂3版、基礎II、日本化学会編)。
【0065】
例えば、芳香族炭化水素としてトルエンを使用した場合、トルエンと水の重量比が80.1:19.9である場合には、共沸点は85℃である。よって、ディーン・スターク水分離装置を用いて、アミジン塩基の溶解したトルエン溶液を85℃より高い温度で加熱を継続し、水を、トルエンとの共沸により除去する。水の留出量に変化が認められなくなったら、加熱を停止し、次いで、工程(III)を行えばよい。
【0066】
3)回収アミジン塩基の使用方法
本発明の第3は、炭素数3〜5のアルコールを、塩基存在下、式(1):R
1SO
2Fで示されるフッ素化剤によりフッ素化し、式(2):R
2−Fで示されるフッ素化アルカンを製造する反応において、本発明の方法で分離、回収したアミジン塩基を塩基として用いる、回収アミジン塩基の使用方法である。
【0067】
本発明に用いられる炭素数3〜5のアルコールとしては、例えば、1−プロパノール、2−プロパノールなどの炭素数3のアルコール;1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロブタノールなどの炭素数4のアルコール;1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、シクロペンタノールなどの炭素数5のアルコール;等が挙げられる。
これらの中でも、本発明においては、生成するフッ素化アルカンの取扱い易さ、有用性等の観点から、炭素数4、5のアルコールが好ましく、2−ペンタノール、3−ペンタノール、シクロペンタノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノールがより好ましい。
【0068】
本発明においては、フッ素化剤として、式(2):R
1SO
2F(R
1は前記と同じ意味を表す。)で示される化合物を用いる。
式(2)で示される化合物の具体例としては、メタンスルホン酸フルオリド、エタンスルホン酸フルオリド等の脂肪族スルホン酸フルオリド;ベンゼンスルホン酸フルオリド、p−トルエンスルホン酸フルオリドなどの芳香族スルホン酸フルオリド;等が挙げられる。これらの中でも、経済的に、かつ、収率よく目的物が得られる観点から、メタンスルホン酸フルオリド、エタンスルホン酸フルオリドが好ましく、メタンスルホン酸フルオリドがより好ましい。
【0069】
式(1)で示される化合物は、従来公知の方法を用いて製造することができる。
例えば、脂肪族スルホン酸フルオリドは、スルホン酸クロリドを、水溶媒中、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等のアルカリ金属フッ化物と接触させる方法(特開平6−263715号公報)や、スルホン酸クロリドを、水溶媒中、二フッ化水素カリウムと接触させる方法(Journal of Chemical Society,173(1956))等により製造することができる。
【0070】
また、芳香族スルホン酸フルオリドは、芳香族スルホン酸クロリドを出発原料とし、相間移動触媒としてポリエチレングリコール又は18−クラウン−6−エーテルの存在下に、フッ素化剤としてフッ化カリウムを用いてフッ素化する方法(Chemistry Letters,283(1978)、Journal of Organic Chemistry,Vol.42,2031(1977))等により製造することができる。
【0071】
フッ素化剤の使用量は、原料アルコールに対して、1/3〜1当量となる量が好ましく、1/2〜3/4当量となる量がより好ましい。原料アルコールに対してフッ素化剤を過剰に使用すると、フッ素化剤が効率的に消費されなくなり好ましくない。一方、フッ素化剤の使用量が少なすぎると原料の無駄が多くなる。
【0072】
回収アミジン塩基の使用量は、前記フッ素化剤に対して、1〜2当量が好ましく、1.1〜1.5当量がより好ましい。塩基の使用量が少なすぎると、収率が悪くなるので好ましくない。一方、使用量が多すぎると、反応液の粘度が大きくなり、反応終了後の処理が面倒になる。
【0073】
反応は、無溶媒で行うのが好ましい。
前記原料アルコール、回収アミジン塩基、フッ素化剤の混合順序は特に制約はないが、収率よく目的物が得られる観点から、原料アルコールと塩基を混合し、得られる混合物中に、前記フッ素化剤を添加(滴下)するのが好ましい。フッ素化剤は、一度に全量を加えてもよいし、少量ずつ添加してもよい。
【0074】
反応温度は、通常50℃〜150℃、好ましくは60℃〜150℃、より好ましくは60℃〜100℃である。
本発明においては、原料アルコールと塩基の混合物を、予め上記範囲の温度としてから、フッ素化剤を滴下し、滴下終了後、さらに上記温度範囲で反応を進行させるのが好ましい。
反応開始温度及びその後の反応温度が上記温度範囲より低いと、原料転化率が低くなったり、反応時間が非常に長くなる等の不具合を招くおそれがある。一方、反応開始温度及び反応温度が上記温度範囲より高いと、使用する原料アルコールの種類によっては、アルコールが、生成物のフッ素化アルカンと一緒に留出してしまい、収率の低下を招きやすい。
【0075】
反応時間は用いる原料アルコールや塩基の種類にもよるが、通常、1〜48時間、好ましくは3〜20時間である。反応時間が短すぎると原料アルコールの転化率が低くなり目的物の収率低下を招く。一方、反応時間が長すぎるとエネルギーコストの無駄を生じ好ましくない。
【0076】
反応終了後においては、生成物(目的物)が反応温度より沸点が低いものである場合には、反応容器に接続され、ドライアイスエタノール等の冷媒で冷却された、反応系外の受器に補集し回収することができる
また、生成物(目的物)が反応温度より沸点が高いものである場合には、生成物は、反応停止後、減圧下に、冷媒等で冷却された受器内に回収することができる。この場合、回収される未反応のアルコールは、原料として再使用することができる。
【0077】
受器に捕集されたフッ素化アルカンは、必要に応じて、蒸留精製等の精製を行い、純度をさらに高めることができる。
【0078】
以上のようにして、式(2):R
2−Fで示されるフッ素化アルカンを製造することができる。
式(2)中、R
2は炭素数3〜5のアルキル基を表す。炭素数3〜5のアルキル基としては、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基の炭素数3のアルキル基;n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基の炭素数4のアルキル基;n−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、3−メチル−1−ブチル基、3−メチル−2−ブチル基、2−メチル−1−ブチル基、2−メチル−2−ブチル基、2,2−ジメチル−1−プロピル基、シクロペンチル基等の炭素数5のアルキル基;等が挙げられる。
【0079】
式(3)で示されるフッ素化アルカンの具体例としては、1−フルオロプロパン、2−フルオロプロパン等の炭素数3のフッ素化アルカン;1−フルオロブタン、2−フルオロブタン、1−フルオロ−2−メチルプロパン、t−ブチルフルオリド、フルオロシクロブタンなどの炭素数4のフッ素化アルカン;1−フルオロペンタン、2−フルオロペンタン、3−フルオロペンタン、3−メチル−1−フルオロブタン、3−メチル−2−フルオロブタン、2−メチル−1−フルオロブタン、2−メチル−2−フルオロブタン、2,2−ジメチル−1−フルオロプロパン、フルオロシクロペンタンなどの炭素数5のフッ素化アルカン;が挙げられる。
【0080】
このように、本発明の使用方法によれば、回収アミジン塩基を用いて、簡便に、低コストで、かつ、高収率で炭素数3〜5のフッ素化アルカンを製造することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によってその範囲を限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0082】
以下において採用した分析条件は下記の通りである。
・ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)
装置:HP−6890(アジレント社製)
カラム:Inert Cap−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm(ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:40℃で10分間保持、次いで、20℃/分で昇温し、その後、240℃で10分間保持
インジェクション温度:200℃
キャリヤーガス:窒素
スプリット比:100/1
検出器:FID
【0083】
・ガスクロマトグラフィー質量分析
GC部分:HP−6890(アジレント社製)
カラム:Inert Cap−1、長さ60m、内径0.25mm、膜厚1.5μm(ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:40℃で10分間保持、次いで、20℃/分で昇温し、その後、240℃で10分間保持
MS部分:5973 NETWORK(アジレント社製)
検出器 EI型(加速電圧:70eV)
・
1H−NMR測定及び
19F−NMR測定
装置:JNM−ECA−500(日本電子社製)
【0084】
[製造例1]メタンスルホン酸フルオリドの合成
撹拌子及び冷却用コンデンサーを付した、容量500mlのガラス製反応器に、フッ化カリウム68部、及び、水172部を入れ、全容を撹拌することによりフッ化カリウムを溶解させた。コンデンサーには0℃の冷媒を循環させた。そこへ、メタンスルホン酸クロリド115部を添加し、添加終了後、全容を温度50℃で7時間撹拌した。その後、反応器を室温まで冷却した後、反応液に水を100g添加して、反応中に析出した塩(塩化カリウム)を溶解させた。反応器内の内容物を分液ロートに移し、静置した後、下層の有機層を分取した。得られた有機層に無水硫酸マグネシウムを添加して乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別した後、ろ液を減圧蒸留(10kPa,55〜56℃)することにより、目的物であるメタンスルホン酸フルオリド77部(収率79%)を得た。
【0085】
[製造例2]エタンスルホン酸フルオリドの合成
撹拌子及び冷却用コンデンサーを付した、容量500mlのガラス製反応器に、フッ化カリウム68部、及び、水173部を入れ、撹拌によりフッ化カリウムを溶解させた。コンデンサーには0℃の冷媒を循環させた。そこへ、エタンスルホン酸クロリド128部を添加し、添加終了後、全容を温度50℃で8時間撹拌した。反応器を室温まで冷却し、反応液に水を100g添加し、反応で析出した塩(塩化カリウム)を溶解させた。反応器内の内容物を分液ロートに移し、静置後、下層の有機層を分離した。得られた有機層に無水硫酸マグネシウムを添加して乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別した後、ろ液を減圧蒸留(5kPa、54〜55℃)することにより、目的物であるエタンスルホン酸フルオリド105部(収率94%)を得た。
【0086】
[製造例3]p−トルエンスルホン酸フルオリドの合成
撹拌子を付した容量300mlのガラス反応器に、p−トルエンスルホン酸クロリド38部、乾燥アセトニトリル68部、及び、18−クラウン−6−エーテル1部を仕込み、窒素雰囲気下に撹拌した。そこに、フッ化カリウム24部を入れ、全容を、室温で、15時間撹拌した。反応終了後、反応液を水に投入し、全体の体積で500mlとした。静置後、デカンテーションにより下層の有機層を分取した。得られた有機層を純水で洗浄した後、3日間室温下に放置した。析出した白色個体を集め、デシケーター中の静置、減圧乾燥後、白色結晶33部を得た(収率94%)。
【0087】
[実施例1]
撹拌子、滴下ロート、温度計及び捕集用受器を付した、容量300mlのガラス製反応器に、2−ブタノール56.7g、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)85.3gを仕込み、窒素雰囲気下に置いた後、反応器を60℃に加温した。内温が一定になったところで、滴下ロートから製造例1で得たメタンスルホン酸フルオリド50gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃でさらに5時間反応を継続し、その後、反応器を100℃に昇温し、さらに 1時間反応を継続した。その間、留出する有機成分はドライアイスエタノール浴に浸した受器に捕集した。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが27.6g得られていた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率71.2%)。
目的物の構造は、
1H−NMRスペクトル、
19F−NMRスペクトルで同定した。
【0088】
1H−NMR(CDCl
3,TMS,δppm):0.88(t,3H)、1.17(dq,3H),1.73(m,2H),4.35(m,1H)
19F−NMR(CDCl
3、CFCl
3,δppm):−173(m,F)
【0089】
[実施例2]
実施例1において、塩基をDBU85.3gから、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)69.7gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが19.4g得られていた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率50%)。
【0090】
[実施例3]
実施例1において、原料のアルコールを、2−ブタノール56.7gから2−プロパノール45.9gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロプロパンが19.7g得られていた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率60.7%)。
目的物の構造は、
1H−NMRスペクトル、
19F−NMRスペクトルで同定した。
【0091】
1H−NMR(CDCl
3,TMS,δppm):1.32(dd,3H×2)、3.67(m,H)
19F−NMR(CDCl
3、CFCl
3,δppm):−165ppm(m,F)
【0092】
[実施例4]
実施例1において、原料のアルコールを2−ブタノール56.7gから2−ペンタノール67.4gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロペンタンが31.4g得られていた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率68.2%)。
目的物の構造は、
1H−NMRスペクトル、
19F−NMRスペクトルで同定した。
【0093】
1H−NMR(CDCl
3,TMS,δppm):0.96(t,3H)、1.26(d、2H),1.35(m,2H),1.56(m,2H),4.54−4.78(m,2H)
19F−NMR(CDCl
3,CFCl
3,δppm):−173ppm(m,F)
【0094】
[実施例5]
撹拌子、滴下ロート、温度計、捕集用受器を付した容量300mlのガラス製反応器に、2−ブタノール57部、DBU85.3gを仕込み、窒素雰囲気下に置いた後、反応器を60℃に加温した。温度計の温度が一定になったところで、滴下ロートから製造例2で製造したエタンスルホン酸フルオリド57.2gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃でさらに5時間反応を継続し、その後、反応器を100℃に昇温し、さらに、1時間反応を継続した。その間、留出する有機成分はドライアイスエタノール浴に浸した受器に捕集した。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが27.5g得られていた(エタンスルホン酸フルオリド基準での収率70.9%)。
【0095】
[実施例6]
撹拌子、滴下ロート、温度計、捕集用受器を付した容量300mlのガラス製反応器に、2−ブタノール56.7g、製造例3で製造した、p−トルエンスルホン酸フルオリド88.8gを仕込み、窒素雰囲気下に置いた後、反応器を60℃に加温した。温度計の温度が一定になったところで、滴下ロートから、DBU85.3gを約1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃で5時間反応を継続し、その後、反応器を100℃に昇温し、さらに1時間反応を継続した。その間、留出する有機成分はドライアイスエタノール浴に浸した受器に捕集した。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが21.3g得られていた(p−トルエンスルホン酸フルオリド基準での収率54.9%)。
【0096】
[実施例7]
撹拌子、滴下ロート、温度計及び捕集用受器を付した、容量300mlのガラス製反応器に、イソブタノール56.7g、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)85.3gを仕込み、窒素雰囲気下に置いた後、反応器を60℃に加温した。内温が一定になったところで、滴下ロートから製造例1で得たメタンスルホン酸フルオリド50gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃でさらに5時間反応を継続し、その後、反応器を100℃に昇温し、さらに 3時間反応を継続した。その間、留出する有機成分はドライアイスエタノール浴に浸した受器に捕集した。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物であるイソブチルフルオリドが23.0g得られていた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率59.3%)。
目的物の構造は、
1H−NMRスペクトル、
19F−NMRスペクトルで同定した。
【0097】
1H−NMR(CDCl
3,TMS)δppm:1.03(t,3H×2)、1.97(m,1H)、4.41(m,2H)、4.45(m,2H)
19F−NMR(CDCl
3,CFCl
3)δppm:−220(m,F)
【0098】
[実施例8]
撹拌子、滴下ロート、温度計及び捕集用受器を付した、容量300mlのガラス製反応器に、1−ブタノール56.7g、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)85.3gを仕込み、窒素雰囲気下に置いた後、反応器を60℃に加温した。内温が一定になったところで、滴下ロートから製造例1で得たメタンスルホン酸フルオリド50gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃でさらに5時間反応を継続し、その後、反応器を100℃に昇温し、さらに 2時間反応を継続した。その間、留出する有機成分はドライアイスエタノール浴に浸した受器に捕集した。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である1−フルオロブタンが26.9g得られていた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率62.5%)。
目的物の構造は、
1H−NMRスペクトル、
19F−NMRスペクトルで同定した。
【0099】
1H−NMR(CDCl
3,TMS)δppm:0.95ppm(t,3H)、1.43(m,2H),1.70(m,2H)、4.45(dt,2H)
19F−NMR(CDCl
3、CFCl
3)δppm:−219ppm(m,F)
【0100】
[比較例1]
攪拌機、滴下ロート、捕集用トラップを付した容量1Lのガラス製反応器に、スプレードライフッ化カリウム86g(アルドリッチ社製)、及びジエチレングリコール400mlを仕込み、捕集用トラップの出口管から窒素を通気し、窒素雰囲気下に置いた。反応器をオイルバスに浸して、90℃に加熱した。滴下ロートから、2−(p−トルエンスルホニルオキシ)ブタン135gを2.5時間かけて滴下した。90℃で反応を8時間継続し、反応で生成する揮発成分をドライアイス/エタノール浴に浸した捕集用トラップに捕集した。その後、オイルバスの温度を80℃まで下げ、反応器にドライアイス−エタノール浴に浸したガラス製トラップを直列に2つ繋げた。さらに、ガラス製トラップの出口には圧力コントローラー、及び真空ポンプを繋げた。真空ポンプを起動し、圧力コントローラーを使って、系内の圧力を50〜45kPa、次いで、35〜30kPa、さらに、30〜25kPaまで段階的に下げて、揮発成分をガラストラップに回収した。最初の捕集トラップ、及び2つのガラス製トラップの中身を合わせて、ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、2−フルオロブタンが13.5g得られたにすぎなかった(2−(p−トルエンスルホニルオキシ)ブタン基準での収率29.1%)。
【0101】
[比較例2]
実施例1において、塩基を、DBU85.3gから、1,1,3,3−テトラメチルグアニジン(TMG)64.6gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが6.8g得られていた(メタンスルホン酸フルオロリド基準での収率17.5%)。
【0102】
[参考例1]
撹拌子、滴下ロート、温度計、捕集用受器を付した容量300mlのガラス製反応器に、2−ブタノール57部、DBU85.3gを仕込み、窒素雰囲気下に置いた後、反応器を室温下に置き内容物を撹拌させながら、滴下ロートから製造例1で製造したメタンスルホン酸フルオリド50gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で、さらに、19時間反応を継続した。その間、留出する有機成分はドライアイスエタノール浴に浸した受器に捕集した。反応終了後、ガラス製トラップの出口に圧力コントローラー、及び真空ポンプを繋げた。真空ポンプを起動し、圧力コントローラーを使って、系内の圧力を50〜45kPa、次いで、35〜30kPa、さらに、30〜25kPaまで段階的に下げて、揮発成分をガラストラップに回収した。最初の捕集受器、及びガラス製トラップの中身を合わせて、ガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが11.4g得られた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率29.4%)。
【0103】
実施例1〜8では、収率よく目的物を得ることができることがわかる。
一方、従来法による場合(比較例1)、及び、塩基として、アミジン塩基又はフォスファゼン塩基を用いない場合(グアニジン塩基を用いた場合)(比較例2)には、収率よく目的物を得ることができないことがわかる。
また、反応を室温で行った場合(参考例1)には、反応を60℃以上で行った場合(実施例)に比して、収率よく目的物を得ることができないことがわかる。
【0104】
[製造例4]1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)−メタンスルホン酸錯体の合成
撹拌子、滴下ロート、温度計及び捕集用受器を付した容量300mlのガラス製反応器に、2−ブタノール56.7g、DBU85.3gを仕込み、窒素雰囲気下に置いた後、反応器を60℃に加温した。内温が一定になったところで、滴下ロートからメタンスルホン酸フルオリド50gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃でさらに5時間反応を継続し、その後、反応器を100℃に昇温し、さらに、1時間反応を継続した。その間、留出する有機成分はドライアイスエタノール浴に浸した受器に捕集した。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが27.6g得られていた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率71.2%)。
また、ガラス製反応器内には、DBU−メタンスルホン酸錯体が、粘ちょうな茶褐色の油状物として残存していた。
【0105】
[製造例5]DBU−エタンスルホン酸錯体の合成
撹拌子、滴下ロート、温度計及び捕集用受器を付した容量300mlのガラス製反応器に、2−ブタノール56.7g、DBU85.3gを仕込み、窒素雰囲気下に置いた後、反応器を60℃に加温した。温度計の温度が一定になったところで、滴下ロートからエタンスルホン酸フルオリド57.2gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃でさらに5時間反応を継続し、その後、反応器を100℃に昇温し、さらに、1時間反応を継続した。その間、留出する有機成分はドライアイスエタノール浴に浸した受器に捕集した。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが27.5g得られていた(エタンスルホン酸フルオリド基準での収率70.9%)。
また、ガラス製反応器内には、DBU−エタンスルホン酸錯体が、粘ちょうな茶褐色の油状物として残存していた。
【0106】
[製造例6]1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)−メタンスルホン酸錯体の合成
撹拌子、滴下ロート、温度計及び捕集用受器を付した容量300mlのガラス製反応器に、2−ブタノール56.7g、DBN69.7gを仕込み、窒素雰囲気下に置いた後、反応器を60℃に加温した。内温が一定になったところで、滴下ロートからメタンスルホン酸フルオリド50gを約1時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃でさらに5時間反応を継続し、その後、反応器を100℃に昇温し、さらに、1時間反応を継続した。その間、留出する有機成分はドライアイスエタノール浴に浸した受器に捕集した。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが19.4g得られていた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率50%)。
また、ガラス製反応器内には、DBN−メタンスルホン酸錯体が、粘ちょうな茶褐色の油状物として残存していた。
【0107】
[実施例9]
製造例4で回収した、DBU−メタンスルホン酸錯体の粗体147gを、撹拌子を付したガラス製ビーカーに入れ、トルエン120mlに溶解した。ここに、撹拌しながら、48重量%の水酸化カリウム水溶液72.5gを、室温(25℃、以下にて同じ)にて、約10分かけて滴下した。ビーカーの中には、発熱を伴いながら、大量の固形分が析出した。20分後、水70gを加え、固形分を溶解した。その後、ビーカーの内容物を分液ロートに移し、トルエン層と水層の2層に分離させた。
下層の水層をビーカーに抜き出し、新たにトルエン120mlを入れ強撹拌を行った。内容物を再度、分液ロートに移し、静置後、下層の水層をビーカーに抜き出した。
上層のトルエン層に、先に得られた上層のトルエン層を合わせ、撹拌子を付したガラス製の反応器に入れた。ガラス製反応器に、Dean−Stark水分離器を設置し、上部にジムロート型コンデンサーを設置し、0℃の冷媒を循環させた。ガラス製反応器を135℃に加温し、トルエン−水の共沸混合物の抜出しを行った。約2時間後、水の留出量に変化が認められなくなったので、加温を停止し、反応器を室温まで冷却した。反応器内のトルエン溶液をガラス製フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにてトルエンを留去した。フラスコ内の残渣を真空ポンプで減圧しながら単蒸留し、塔頂温度90℃の留分を72.0g回収した(製造例4で使用したDBU基準での回収率は84.4%)。
【0108】
[実施例10]
製造例4で回収した、DBU−メタンスルホン酸錯体の粗体147gを撹拌子を付したガラス製ビーカーに入れ、キシレン120mlに溶解した。ここに、撹拌しながら、48重量%の水酸化カリウム水溶液72.5gを、室温にて、約10分かけて滴下した。ビーカーの中では発熱を伴いながら、大量の固形分が析出した。
20分後、水60gを加え、固形分を溶解した。ビーカーの内容物を分液ロートに移し、水層とキシレン層の2層に分離させた。下層の水層をビーカーに抜き出し、新たにキシレン120mlを入れ強撹拌を行った。内容物を再度、分液ロートに移し、静置後、下層の水層をビーカーに抜き出した。
上層のキシレン層に、先に得られたキシレン層を合わせ、撹拌子を付したガラス製の反応器に入れた。ガラス製反応器に、Dean−Stark水分離器を設置し、上部にジムロート型コンデンサーを設置し、0℃の冷媒を循環させた。ガラス製反応器を150℃に加温し、キシレン−水の共沸混合物の抜出しを行った。約3.5時間後、水の留出量に変化が認められなくなったので、加温を停止し、反応器を室温まで冷却した。反応器内のキシレン溶液をガラス製フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにてキシレンを留去した。フラスコ内の残渣を真空ポンプで減圧しながら単蒸留し、塔頂温度90℃の留分を63.3g回収した(製造例4で使用したDBU基準での回収率は74.2%)。
【0109】
[実施例11]
製造例4で回収した、DBU−メタンスルホン酸錯体の粗体147gを、撹拌子を付したガラス製ビーカーに入れ、トルエン120mlに溶解した。ここに、撹拌しながら、50重量%の水酸化ナトリウム水溶液48gを、室温にて、約10分かけて滴下した。ビーカーの中では発熱を伴いながら、大量の固形分が析出した。20分後、水70gを加え、固形分を溶解させ、静置した。ビーカーの内容物を分液ロートに移し、水層とトルエン層の2層に分離させた。下層の水層をビーカーに抜き出し、新たにトルエン120mlを入れ強撹拌を行った。内容物を再度、分液ロートに移し、静置後、下層の水層をビーカーに抜き出した。上層のトルエン層に、先に得られたトルエン層を合わせ、撹拌子を付したガラス製の反応器に入れた。ガラス製反応器に、Dean−Stark水分離器を設置し、上部にジムロート型コンデンサーを設置し、0℃の冷媒を循環させた。ガラス製反応器を135℃に加温し、トルエン−水の共沸混合物の抜出しを行った。約
3.5時間後、水の留出量に変化が認められなくなったので、加温を停止し、反応器を室温まで冷却した。反応器内のトルエン溶液をガラス製フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにてトルエンを留去した。フラスコ内には55.1gの油状物が残っていた(製造例4で使用したDBU基準での回収率は64.6%)。
【0110】
[実施例12]
製造例4で回収した、DBU−メタンスルホン酸錯体の粗体147gを撹拌子を付したガラス製ビーカーに入れ、トルエン120mlに溶解した。ここに、撹拌しながら、水酸化セシウム水和物87.5gを水40gに溶解させた水溶液を、室温にて、約15分かけて滴下した。ビーカーの中では発熱を伴いながら、大量の固形分が析出した。約30分後、水10gを加え、固形分を溶解させた後、静置した。ビーカーの内容物を分液ロートに移し、水層とトルエン層の2層分離させた。下層の水層をビーカーに抜き出し、新たにトルエン120mlを入れ強撹拌を行った。内容物を再度、分液ロートに移し、静置後、下層の水層をビーカーに抜いた。上層のトルエン層に、先に得られたトルエン層を合わせ、撹拌子を付したガラス製の反応器に入れた。ガラス製反応器に、Dean−Stark水分離器を設置し、上部にジムロート型コンデンサーを設置し、0℃の冷媒を循環させた。ガラス製反応器を135℃に加温し、トルエン−水の共沸混合物の抜出しを行った。約3時間後、水の留出量に変化が認められなくなったので、加温を停止し、反応器を室温まで冷却した。反応器内のトルエン溶液をガラス製フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにてトルエンを留去した。フラスコ内の残渣を真空ポンプで減圧しながら単蒸留し、塔頂温度90℃の留分を54.8g回収した(製造例4で使用したDBU基準での回収率は64.2%)。
【0111】
[実施例13]
製造例5で回収した、DBU−エタンスルホン酸錯体の粗体153gを撹拌子を付したガラス製ビーカーに入れ、トルエン120mlに溶解した。ここに、撹拌しながら、48重量%の水酸化カリウム水溶液67.8gを、室温にて、約10分かけて滴下した。ビーカーの中では発熱を伴いながら、大量の固形分が析出した。20分後、水60gを加え、固形分を溶解させ、静置した。ビーカーの内容物を分液ロートに移し、水層とトルエン層の2層に分離させた。下層の水層をビーカーに抜き出し、新たにトルエン120mlを入れ強撹拌を行った。内容物を再度、分液ロートに移し、静置後、下層の水層をビーカーに抜いた。上層のトルエン層に、先に得られたトルエン層を合わせ、撹拌子を付したガラス製の反応器に入れた。ガラス製反応器に、Dean−Stark水分離器を設置し、上部にジムロート型コンデンサーを設置し、0℃の冷媒を循環させた。ガラス製反応器を135℃に加温し、トルエン−水の共沸混合物の抜出しを行った。約3時間後、水の留出量に変化が認められなくなったので、加温を停止し、反応器を室温まで冷却した。反応器内のトルエン溶液をガラス製フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにてトルエンを留去した。フラスコ内の残渣を真空ポンプで減圧しながら単蒸留し、塔頂温度90℃の留分を66.9g回収した(製造例5で使用したDBU基準での回収率は78.7%)。
【0112】
[実施例14]
製造例4で使用したDBUを、実施例7で得られたDBUに変更したこと以外は、製造例4と同様にして反応を行った。受器に捕集した有機物をガスクロマトグラフィーにて分析した結果、目的物である2−フルオロブタンが27部得られていた(メタンスルホン酸フルオリド基準での収率71%)。このことから、本発明によって回収されたDBUを使用することにより、フレッシュなDBUを使用した場合と同等の反応成績が得られることが分かった。
【0113】
[実施例15]
製造例6で回収した、DBN−メタンスルホン酸錯体の粗体145gを、撹拌子を付したガラス製ビーカーに入れ、トルエン120mlに溶解した。ここに、撹拌しながら、48重量%の水酸化カリウム水溶液67.8gを、室温にて、約10分かけて滴下した。ビーカーの中では発熱を伴いながら、大量の固形分が析出した。20分後、水40gを加え、固形分を溶解させ、静置した。ビーカーの内容物を分液ロートに移し、水層とトルエン層の2層に分離させた。下層の水層をビーカーに抜き出し、新たにトルエン120mlを入れ強撹拌を行った。内容物を再度、分液ロートに移し、静置後、下層の水層をビーカーに抜いた。上層のトルエン層に、先に得られたトルエン層を合わせ、撹拌子を付したガラス製の反応器に入れた。ガラス製反応器に、Dean−Stark水分離器を設置し、上部にジムロート型コンデンサーを設置し、0℃の冷媒を循環させた。ガラス製反応器を135℃に加温し、トルエン−水の共沸混合物の抜出しを行った。約2.5時間後、水の留出量に変化が認められなくなったので、加温を停止し、反応器を室温まで冷却した。反応器内のトルエン溶液をガラス製フラスコに移し、ロータリーエバポレーターにてトルエンを留去した。フラスコ内の残渣は43.9gであった(製造例6で使用したDBU基準での回収率は64.7%)。
【0114】
[比較例3]
実施例9において、トルエンをメチルシクロヘキサンに変更し、共沸蒸留による水分離を行わなかったこと以外は、実施例9と同様の操作を行った。DBUは5.4g(製造例4で使用したDBU基準での回収率は6%)回収されたに過ぎなかった。