(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が、45以上であることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ集合体。
前記複数のカーボンナノチューブに、硝酸、硫酸、ヨウ素、臭素、カリウム、ナトリウム、ホウ素及び窒素からなる群から選択される1つ以上の異種元素もしくは分子がドープされていることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ集合体。
前記複数のカーボンナノチューブに、リチウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたいずれかの異種元素がドープされていることを特徴とする、請求項1記載のカーボンナノチューブ集合体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献においては、2層のカーボンナノチューブにヨウ素をドーピングしたカーボンナノチューブ集合体で抵抗率1.55×10
−5Ω・cmが得られることが開示されているにとどまる。すなわち、銅の抵抗率1.68×10
−6Ω・cmやアルミニウムの抵抗率2.65×10
−6Ω・cmと比較すると、上記カーボンナノチューブ集合体の抵抗率は一桁以上も高く、銅やアルミニウムに代替する線材として十分とは言えない。また、各産業分野における高性能化・高機能化が急速且つ飛躍的に進歩することが予測されることから、更なる低抵抗率の実現が求められている。
【0010】
本発明の目的は、従来のカーボンナノチューブ集合体と比較して更なる低抵抗化を実現すると共に、銅やアルミニウムと同等の抵抗率を実現することができ、電気的特性を大幅に向上させることができるカーボンナノチューブ集合体、カーボンナノチューブ複合材料及びカーボンナノチューブ線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、上記課題は以下の発明により達成される。
(1)1層以上の層構造を有する複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体であって、
前記カーボンナノチューブ集合体を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が75%以上であり、
ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドに由来するピークのうち、半導体性のカーボンナノチューブに由来するG+/Gtotal比が0.70以上であることを特徴と
する、カーボンナノチューブ集合体。
(2)前記ラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が、45以上であることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ集合体。
(3)前記複数のカーボンナノチューブに、硝酸、硫酸、ヨウ素、臭素、カリウム、ナトリウム、ホウ素及び窒素からなる群から選択される1つ以上の異種元素もしくは分子がドープされていることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ集合体。
(4)前記複数のカーボンナノチューブに、リチウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたいずれかの異種元素がドープされていることを特徴とする、上記(1)記載のカーボンナノチューブ複合材料。
(5)前記カーボンナノチューブの最外層の外径が、5.0nm以下であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のカーボンナノチューブの複数が束ねられてなるカーボンナノチューブ線材。
(7)1層以上の層構造を有するカーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブの内部に含まれる異種元素とを備えるカーボンナノチューブ複合材料であって、
前記カーボンナノチューブを構成する炭素原子と前記異種元素の原子との最近接距離が、前記カーボンナノチューブを構成する炭素原子と当該カーボンナノチューブの径方向断面における中心との距離よりも小さいことを特徴とする、カーボンナノチューブ複合材料。
(8)前記最近接距離が、2.0オングストローム以上4.0オングストローム以下であることを特徴とする、上記(7)記載のカーボンナノチューブ複合材料。
(9)前記異種元素が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたいずれかの元素であることを特徴とする、上記(7)記載のカーボンナノチューブ複合材料。
(10)前記カーボンナノチューブが、2層又は3層の層構造を有することを特徴とする、上記(7)記載のカーボンナノチューブ複合材料。
(11)前記カーボンナノチューブを構成する前記炭素原子と前記最近接距離に位置する前記異種元素の原子との間における電荷移動量が、前記異種元素1個当たり0.5個以上であることを特徴とする、上記(9)又は(10)記載のカーボンナノチューブ複合材料。
(12)前記カーボンナノチューブの質量に対する前記カーボンナノチューブ複合材料の質量の比が、1.005〜1.25であることを特徴とする、上記(9)〜(11)のいずれかに記載のカーボンナノチューブ複合材料。
(13)上記(7)〜(12)のいずれかに記載のカーボンナノチューブ複合材料の複数が束ねられてなるカーボンナノチューブ線材。
(14)1層以上の層構造を有するカーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブの内部に含まれる異種元素とを備えるカーボンナノチューブ複合材料であって、
前記カーボンナノチューブ複合材料を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が75%以上であり、
ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドに由来するピークのうち、半導体性のカーボンナノチューブに由来するG+/Gtotal比が0.70以上であり、
前記カーボンナノチューブを構成する炭素原子と前記異種元素の原子との最近接距離が、前記カーボンナノチューブの最内層を構成する炭素原子と前記最内層の径方向断面における中心との距離よりも小さいことを特徴とする、カーボンナノチューブ複合材料。
(15)上記(14)記載のカーボンナノチューブ複合材料の複数が束ねられてなるカーボンナノチューブ線材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カーボンナノチューブ集合体を構成するカーボンナノチューブの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するカーボンナノチューブの個数の和の比率が75%以上であり、且つ、ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドに由来するピークのうち、半導体性のカーボンナノチューブに由来するG+/Gtotal比が0.70以上である。すなわち、ドーピング処理の効果を最大限に引き出すことができる層数(2層又は3層)を有するCNTが上記範囲内の比率となるように構成し、且つ、CNT集合体を構成するCNTの個数に対する半導体性CNTの個数の割合を上記範囲内とすることで、従来のカーボンナノチューブ線材と比較して、更なる低抵抗化を実現し、また、銅の抵抗率1.68×10
−6Ω・cmやアルミニウムの抵抗率2.65×10
−6Ω・cmとほぼ同等の抵抗率を実現することができる。よって、電気的特性を大幅に向上させるカーボンナノチューブ集合体を提供することが可能となる。
【0013】
また、本発明によれば、カーボンナノチューブ複合材料が、1層以上の層構造を有するカーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブの内部に含まれる異種元素とを備え、カーボンナノチューブを構成する炭素原子と異種元素の原子との最近接距離が、上記カーボンナノチューブを構成する炭素原子と当該カーボンナノチューブの径方向断面における中心位置との距離よりも小さい。これにより、カーボンナノチューブの内部にキャリアが生成され、導電性に寄与するキャリアを増大させることができるので、従来のドープ処理が施されたカーボンナノチューブ複合材料よりも高導電化を実現することでき、電気的特性を大幅に向上させたカーボンナノチューブ複合材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1(a)〜(f)は、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ線材の構成を概略的に示す図である。なお、
図1におけるカーボンナノチューブ線材は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図1のものに限られないものとする。
【0016】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ線材1(以下、CNT線材という)は、
図1(a)及び(b)に示すように、1層以上の層構造を有する複数のカーボンナノチューブの束11,11,・・・(以下、CNTの束、あるいはCNT集合体という)で構成されており、これらCNTの束11の複数が撚り合わされてなる。CNT線材1の外径は、0.01〜1mmである。
【0017】
CNTの束11は、
図1(c)及び(d)の拡大図で示すように、複数のカーボンナノチューブ11a,11a,・・・(以下、CNTという)が纏められた束状体となっており、これら複数のCNTの軸方向がほぼ揃って配されている。
【0018】
また、CNTの束11を構成するCNT11aは、単層構造又は複層構造を有する筒状体であり、それぞれSWNT(single-walled nanotube)、MWNT(multi-walled nanotube)と呼ばれる。
図1(c)〜(f)では便宜上、2層構造を有するCNTのみを記載しているが、実際には、3層構造を有するCNTが存在する。単層構造又は4層以上の層構造を有するCNTはCNTの束11に含まれてもよいが、2層又は3層構造を有するCNTに比べて少量である。
【0019】
CNT11aは、
図2に示すように、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体T1,T2が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(Double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。また、複数のCNT11a,11a、・・・には、後述するドーピング処理により異種元素・分子がドープされている。
【0020】
CNT11aの性質は、上記のような筒状体のカイラリティ(chirality)に依存する。カイラリティは、アームチェア型、ジグザグ型、及びそれ以外のカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、カイラル型は半導体性、ジグザグ型はその中間の挙動を示す。よってCNTの導電性はいずれのカイラリティを有するかによって大きく異なり、CNT集合体の導電性を向上させるには、金属性の挙動を示すアームチェア型のCNTの割合を増大させることが重要とされてきた。一方、半導体性を有するカイラル型のCNTに電子供与性もしくは電子受容性を持つ物質(異種元素)をドープすることにより、金属的挙動を示すことが分かっている。また、一般的な金属では、異種元素をドープすることによって金属内部での伝導電子の散乱が起こって導電性が低下するが、これと同様に、金属性CNTに異種元素をドープした場合には、導電性の低下を引き起こす。
【0021】
このように、金属性CNT及び半導体性CNTへのドーピング効果は、導電性の観点からはトレードオフの関係にあると言えることから、理論的には金属性CNTと半導体性CNTとを別個に作製し、半導体性CNTにのみドーピング処理を施した後、これらを組み合わせることが望ましい。しかし、現状の製法技術では金属性CNTと半導体性CNTとを選択的に作り分けることは困難であり、金属性CNTと半導体性CNTが混在した状態で作製される。このため、金属性CNTと半導体性CNTの混合物からなるCNT線材の導電性を向上させるには、異種元素・分子によるドーピング処理が効果的となるCNT構造を選択することが不可欠となる。
【0022】
そこで本実施形態では、低抵抗率のCNT集合体を得るために、ドーピング処理の効果を最大限に引き出すことができる層数を有するCNTが所定比率となるように構成し、且つ、CNT集合体を構成するCNTの総数に対する半導体性CNTの個数の割合を最適化する。
【0023】
<CNT集合体を構成する複数のCNTの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が75%以上であること>
本実施形態では、複数のCNT11a,11a,・・・を束ねて構成されるCNT集合体11において、複数のCNT11a、11a,・・・の個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が75%以上である。CNT集合体11を構成するCNTの層数を測定した結果の一例を
図3のグラフに示す。同図において、CNT集合体11を構成するCNTの総数(186個)に対し、2層構造を有するCNTの個数(55個)と3層構造を有するCNTの個数(90個)との和の割合が78.0%(=145/186×100)である。すなわち、一のCNT集合体を構成する全CNTの総数をN
TOTAL、上記全CNTのうち2層構造を有するCNT(2)の数の和をN
CNT(2)、上記全CNTのうち3層構造を有するCNT(3)の数の和をN
CNT(3)としたとき、下記式(1)で表すことができる。
(N
CNT(2)+N
CNT(3))/N
TOTAL×100(%)≧75(%) ・・・(1)
【0024】
2層構造又は3層構造のような層数が少ないCNTは、それより層数の多いCNTよりも比較的導電性が高い。また、ドーパントは、CNTの最内層の内部、もしくは複数のCNTで形成されるCNT間の隙間に導入される。CNTの層間距離はグラファイトの層間距離である0.335nmと同等であり、多層CNTの場合その層間にドーパントが入り込むことはサイズ的に困難である。このことからドーピング効果はCNTの内部および外部にドーパントが導入されることで発現するが、多層CNTの場合は最外層および最内層に接していない内部に位置するチューブのドープ効果が発現しにくくなる。以上のような理由により、複層構造のCNTにそれぞれドーピング処理を施した際には、2層構造又は3層構造を有するCNTでのドーピング効果が最も高い。また、ドーパントは、強い求電子性もしくは求核性を示す、反応性の高い試薬であることが多い。単層構造のCNTは多層よりも剛性が弱く、耐薬品性に劣るためにドーピング処理を施すと、CNT自体の構造が破壊されることがある。よって本発明ではCNT集合体に含まれる2層構造又は3層構造を有するCNTの個数に着目する。また、2層又は3層構造のCNTの個数の和の比率が75%未満であると、単層構造或いは4層以上の複層構造を有するCNTの比率が高くなり、CNT集合体全体としてドーピング効果が小さくなり、高導電率が得られない。よって、2層又は3層構造のCNTの個数の和の比率を上記範囲内の値とする。
【0025】
また本実施形態では、CNT集合体11を構成するCNTの最外層の外径が5.0nm以下であるのが好ましい。CNT集合体11を構成する複数のCNTの最外層の外径を測定した結果の一例を
図3(b)のグラフに示す。同図において、CNT集合体を構成する全CNTの最外層の外径はいずれも5.0nm以下である。特に、全CNTのうち、最外層の外径が2nm〜2.9nmであるCNTが最も多く、次いで3nm〜3.9nmが多い。CNT集合体11を構成するCNTの最外層の外径が5.0nmを超えると、CNT間および最内層の隙間に起因する空孔率が大きくなり、導電性が低下してしまうため、好ましくない。
【0026】
<ラマン分光法におけるラマンスペクトルのGバンドに由来するピークのうち、半導体性のCNTに由来するG+/Gtotal比が0.70以上であること>
ラマン分光法を用いて炭素系の物質を解析すると、ラマンシフト1590cm
−1付近に、Gバンドと呼ばれる、六員環の面内振動に由来するスペクトルのピークが検出される。また、CNTでは、
図4に示すように、その形状が円筒状であるためにGバンドが2つに分裂し、G+バンドとG−バンドの2つのスペクトルのピークが現れる。なお、
図4のスペクトル分析結果は後述する実施例1に対応している。G+バンドはCNT軸方向の縦波(LO)モード、G−バンドは軸方向に垂直な横波(TO)モードにそれぞれ対応しており、G+バンドのピークは、CNTの外径に因らず1590cm
−1付近に現れるのに対し、G−バンドのピークは、CNTの外径の2乗に反比例してG+バンドからシフトして現れる。
【0027】
また、金属性CNTのGバンドは、上述のようにG+バンドとG−バンドに分裂して現れるが、そのピークは小さく、特にG+バンドのピークが小さい。一方、半導体性CNTもG+バンドとG−バンドに分裂するが、そのG+バンドのピークは、金属性CNTのG+バンドと比較して非常に大きい。よって、GバンドにおけるG+バンドの比率が高い場合、CNTが半導体性の挙動を示すと推察され、CNT集合体においても同様に推察することができる。
【0028】
上記のようなスペクトルピークの特性を前提として、本実施形態のCNT集合体11では、
図4に示すように、ラマンスペクトルのGバンドに由来するピークのうち、Gtotalに対する半導体性CNTに由来するG+バンドの比(G+/Gtotal比)が、面積比で0.70以上である。上記G+/Gtotal比が0.70未満であると、半導体性CNTの比率が少なく、ドーピング処理による良好な電導性を得ることができない。
【0029】
一方、
図5(a)〜(d)は、本発明の範囲外であるCNT集合体についてGバンドを検出したものである。なお
図5(a)〜(d)のスペクトル分析結果は、後述する比較例1〜4にそれぞれ対応している。
図5(a)のCNT集合体では、2層又は3層構造のCNT比率が86%で、G+/Gtotal比が0.61、
図5(b)のCNT集合体では、2層又は3層構造のCNT比率が5%以下(主要なCNTの層数:1)、G+/Gtotal比が0.70である。また、
図5(c)CNT集合体では、2層又は3層構造のCNT比率が5%以下(主要なCNTの層数:4〜12)、Gバンドのスペクトルピークが未検出であり、
図5(d)のCNT集合体では、2層又は3層構造のCNT比率が5%以下(主要なCNTの層数:15層以上)、Gバンドのスペクトルピークが未検出である。
図5(a)〜(d)に示すCNT集合体では、後述するように、いずれの抵抗率も1.3×10
−5Ω・cm以上である。
図5(c)及び(d)で現れるD’バンドは、Dバンドと同様に欠陥に由来するピークである。
【0030】
また本実施形態では、ラマンスペクトルのGバンドと、結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が規定される。Dバンドは、ラマンシフト1350cm
−1付近に現れ、欠陥に由来するスペクトルのピークとも言える。このGバンドに対するDバンドの比(G/D比)は、CNT中の欠陥量の指標として用いられ、G/D比が大きい程、CNT中の欠陥が少ないと判断される。
【0031】
本実施形態のCNT集合体11においては、ラマンスペクトルのGバンドと結晶性に由来するDバンドとの比であるG/D比が45以上である。
図6(a)〜(d)に示すように、測定サンプルのばらつきを考慮してCNT集合体11の4点(n=1〜4)を検出した結果、いずれもG/D比が45以上であることが分かる。具体的には、n=1ではG/D比が82(
図6(a))、n=2ではG/D比が66(
図6(b))、n=3ではG/D比が49(
図6(c))、n=4ではG/D比が52(
図6(d))である。上記G/D比が45未満であると、結晶性が低く、良好な導電性を得ることができない。
【0032】
一方、
図7(a)〜(d)は、本発明の範囲外におけるカーボンナノチューブ集合体のラマンスペクトルにおけるG/D比を説明するグラフである。なお
図7(a)〜(d)のスペクトル分析結果は、後述する比較例1〜4にそれぞれ対応しており、後述する比較例では、測定値のバラつきを考慮し、全試料n=3での測定を実施して、その平均値を求めている。すなわち
図7に示すグラフは、n=3のうちの任意の1点を示している。
図7(a)のCNT集合体ではG/D比が52、
図7(b)のCNT集合体ではG/D比が57であるものの、
図7(c)のCNT集合体ではG/D比が1.2、
図7(d)では、G/D比が3.1であり、
図7(c)〜(d)に示すCNT集合体では、後述するように抵抗率の平均値(n=3)が1.3×10
−5Ω・cm以上である。
【0033】
上述したように、本実施形態によれば、CNT集合体11において、ドーピング処理の効果を最大限に引き出すことができる層数(2層又は3層)を有するCNTが75%以上となるように構成し、且つ、CNT集合体11を構成するCNT11a,11a,・・・の全個数に対する半導体性CNTの個数の割合を示すG+/Gtotal比の値を0.70以上とすることで、従来のCNT線材と比較して、更なる低抵抗化を実現し、また、銅の抵抗率1.68×10
−6Ω・cmやアルミニウムの抵抗率2.65×10
−6Ω・cmとほぼ同等の抵抗率を実現することができる。よって、電気的特性を大幅に向上させるCNT集合体を提供することが可能となる。
【0034】
<カーボンナノチューブ複合材料>
図8は、本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ複合材料を概略的に示す図であり、(a)は、単層構造を有するCNTに異種元素であるリチウムをドープさせてなるCNT複合材料の例を示す部分平面図、(b)はその側面図である。
図8(a)及び(b)に示すように、CNT複合材料12aは、単層構造を有するCNT13と、該CNTの内部に含まれる異種元素14とを備える。以下、本実施形態ではCNT13に異種元素14をドープさせたものをCNT複合材料と称する。CNT13の内部に異種元素14の原子が位置することで、CNT13内に多くのキャリアを生成することができる。
【0035】
このCNT複合材料12aでは、CNT13を構成する炭素原子13aの中心位置Pcと異種元素14の原子の中心位置Pdとの最近接距離L1が、炭素原子13aの中心位置PcとCNT13の径方向断面における中心位置Pとの距離L2よりも小さい(
図8(b))。また、CNT13を構成する炭素原子13aと異種元素14の原子との最近接距離L1が、2.0オングストローム(Å)以上4.0オングストローム以下であるのが好ましい。このように炭素原子13aと異種元素14の原子との最近接距離L1を上記範囲内の値とすると、電荷移動が起こり易くなり、CNT13内部に導電性に寄与するキャリアがより多く生成される。
CNT複合材料12は、例えばドープ原子の蒸気の中に高温で数時間加熱することによって製造することができる。これにより、異種元素14の原子の中心位置PdがCNT13の中心位置PからずれたCNT複合材料を得ることができる。
【0036】
図8(a)及び(b)では、単層構造であるCNT13の内部に異種元素14の原子が位置しているが、これに限らず、
図9に示すように、CNT複合材料15aが、複層構造を有するCNT16と、該複層構造のうちの最内層16−1の内部に含まれる異種元素17とを備えてもよい。また、CNT複合材料は、2層構造又は3層構造を有するCNTと、当該層構造のうちの最内層の内部に位置する異種元素とを備えるのが好ましい。この場合、CNT13の最内層16−1を構成する炭素原子16aの中心位置Pc’と異種元素17の原子の中心位置Pd’との最近接距離L1’が、炭素原子16aの中心位置Pc’と最内層16−1の径方向断面における中心位置P’との距離L2’よりも小さい。
【0037】
また、CNT13を構成する炭素原子13aと異種元素の原子14との最近接距離L1が、2.0オングストローム(Å)以上4.0オングストローム以下であるのが好ましい。最近接距離L1を上記範囲内の値とすると、上記と同様に、電荷移動が起こり易くなり、最内層16−1の内部でキャリアがより多く生成される。
【0038】
上記のように構成されるCNT複合材料において、CNT構造が同じである場合、ドープされる異種元素の種類によってCNT複合材料の電気的特性が異なる。そこで本実施形態では、単層構造のCNTを使用し、主に元素周期表の1族、2族及び17族に類する異種元素に着目し、第一原理計算によるシミュレーションを実施して、各CNT複合材料における(i)ドーパント(異種元素)の安定性、(ii)電荷移動量及び(iii)質量増加割合を以下のように算出、評価した。
第一原理計算でのシミュレーションでは、密度汎関数理論(Density Functional Theory, DFT)に基づくコーン・シャム方程式を用いた。密度汎関数理論では、電子間の相互作用を表す交換相関ポテンシャルを電子密度の汎関数で表すことにより、電子状態の計算を高速化できる利点がある。また、交換相関ポテンシャルをGGA法(密度勾配展開法)によって表現し、さらに、50Rydのカットオフエネルギーを有する平面波基底関数を用いた。なお、カットオフエネルギーは、計算に用いられる波動関数の数にかかわるものであり、波動関数の数はカットオフエネルギーの3/2乗に比例する。k点サンプリング数は、1×1×8とした。計算ソフトウェアとして、「Quantum−ESPRESSO」を用いて計算を行った。
【0039】
安定性の評価は、吸着エネルギーが−1.0eV未満である場合を良好「〇」、−1.0eV以上0.0eV未満である場合をほぼ良好「△」、0.0eV以上である場合を不良「×」とした。
電荷移動量の評価は、CNTを構成する炭素原子と最近接距離に位置する当該異種元素の原子との間における電荷移動量(個/ドーパント)を算出することにより行う。具体的には、上記第一原理計算を行うソフトウェアにより、CNT構造(距離)を精密化し、そのときの電荷移動量を算出する。そして、ドーパントとCNTの間の電荷移動量が、ドーパント1個あたり1.2個以上である場合を極めて良好「◎」、0.8個/ドーパント以上1.2個/ドーパント未満である場合を良好「〇」、0.5個/ドーパント以上0.8個/ドーパント未満である場合をほぼ良好「△」、0.5個/ドーパント未満である場合を不良「×」とした。
また、質量増加割合は、キャリア密度を1.0×10
21個/cm
3(金属性CNTに相当するキャリア密度)とした場合の、CNTの質量に対するCNT複合材料の質量の比を算出した。
【0040】
先ず、欠陥が無いCNTを用いた場合のドーパントの安定性を、表1及び
図10(a)に破線で示す。また、欠陥が無いCNTを用いた場合の電荷移動量及び質量増加割合を算出した結果を、表2及び
図10(b)に破線で示す。
【0042】
この結果、ドーパントが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)であると、吸着エネルギーが0.0eV未満となり、ドーパントの安定性が良好となり、CNT内に安定なドーパントが位置することで、温度特性などの電線に必要な特性を安定して発揮することができる。特にドーパントが、カリウム、ルビジウム、セシウム又はバリウムであると、吸着エネルギーが−1.0eV未満となり、ドーパントの安定性が更に良好であることが分かる。
【0043】
また、ドーパントが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ストロンチウム、バリウム、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素であると、ドーパントからCNTへの電荷移動量の絶対値が0.5個/ドーパント以上となり、電荷移動量が良好で、CNT内での導電性が良好であることが分かる。
【0044】
このとき、上記群から選択されたドーパントを用いてドープしたときの質量増加割合として、CNT複合材料を構成するCNTの質量に対する当該CNT複合材料の質量の比(質量増加割合)は1.007〜1.197であり、これによって金属性CNT相当のキャリア密度を実現することができる(表1)。
【0045】
次に、欠陥が在るCNTを用いた場合のドーパントの安定性を、表2及び
図10(a)に実線で示す。また、欠陥が在るCNTを用いた場合の電荷移動量及び質量増加割合を算出した結果を、表2及び
図10(b)の実線で示す。
【0047】
この結果、欠陥が在るCNTにもドーパントを内在させることができ、且つ、ドーパントが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム(Ca)、ストロンチウム、バリウム、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素であると、吸着エネルギーが0.0eV未満であり、電荷移動量が0.5個/ドーパント以上となる。またこのとき、CNTの質量に対するCNT複合材料の質量の比は、1.007〜1.226である。よって、欠陥が在るCNTを用いた場合にも、ドーパントの安定性が良好であると共に、CNT内での導電性が良好であり、CNTに対してより多くの量のドーパントをドープできることが分かる。
【0048】
また、欠陥が在るCNTに異種元素をドープした場合、欠陥が無いCNTに同一の異種元素をドープした場合と比較して、欠陥が在るCNTを用いたCNT複合材料の吸着エネルギーが減少していることから、欠陥にドーパントを吸着させることで、ドーパントの安定性がより向上していると推察される。したがって、本発明に係るCNT複合材料においては、欠陥を有したCNT複合材料であっても高導電性を実現するにあたって一定の効果があることが示された。
【0049】
したがって、表1及び表2の結果から、(a)ドーパントが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたいずれかの元素であり、(b)CNTを構成する炭素原子と最近接距離に位置するドーパントの原子との間における電荷移動量が、0.5個/ドーパント以上であり、また、(c)CNTの質量に対するCNT複合材料の質量の比が、1.005〜1.25であると、ドーパントの安定性が良好であり、且つCNT内での導電性が良好であり、また、CNTに対してより多くの量のドーパントをドープできることが分かる。
【0050】
上述したように、本実施形態によれば、CNT複合材料が、1層以上の層構造を有するCNT13と、該CNTの内部に含まれる異種元素14とを備え、CNT13を構成する炭素原子13aの中心位置Pcと異種元素14の原子の中心位置Pdとの最近接距離L1が、CNT13を構成する炭素原子14の中心位置PcとCNT13の径方向断面における中心位置Pとの距離L2よりも小さい。これにより、CNT13の内部にキャリアが生成され、導電性に寄与するキャリアを増大させることができるので、従来のドープ処理が施されたCNT複合材料よりも高導電化を実現することができ、電気的特性を大幅に向上させたCNT複合材料12aを提供することが可能となる。
【0051】
<カーボンナノチューブ集合体の製造方法>
本実施形態のCNT集合体は、以下の方法で製造される。先ず、浮遊触媒気相成長(CCVD)法により、炭素源に触媒及び反応促進剤を含む混合物を供給して、複数のCNTを生成する。このとき、炭素源には六員環を有する飽和炭化水素、触媒には鉄などの金属触媒、反応促進剤には硫黄化合物をそれぞれ用いることができる。また本実施形態では、キャリアガス流量の増加に伴ってSWNTの割合が減少する点を考慮し、原料組成及び噴霧条件を調整して2層又は3層構造を有するCNTの比率を高める。
【0052】
また、CNTの最外層の外径が5.0nm以下となるように触媒である鉄の大きさを調整するため、原料は噴霧によりミスト粒径が20μm前後となるよう反応炉に供給を行う。その後、複数のCNTの束を撚り合わせて、CNT集合体を作製する。
【0053】
その後、CNT集合体に酸処理を施すことで、残留した鉄触媒を除去する。CCVDによって得られるCNT集合体中には、触媒やアモルファスカーボンなどが多量に含まれており、これらを除去する高純度化プロセスによってCNT集合体の本来の特性を得ることができる。本実施形態では、上記工程にて得られたCNTを大気下、所定温度で加熱し、加熱後のCNTを強酸にて高純度化する。
【0054】
次いで、酸処理後のCNT集合体にドーピング処理を施す。ドーピング処理では、硝酸、硫酸、ヨウ素、臭素、カリウム、ナトリウム、ホウ素及び窒素からなる群から選択される1つ以上の異種元素もしくは分子がドープされるのが好ましく、硝酸がドープされるのがより好ましい。また、複数のカーボンナノチューブに、リチウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素からなる群から選択されたいずれかの異種元素がドープされてもよい。ドーパントは外周側からCNTに注入されるため、CNTが複層(MWNT)である場合には、より外周側に位置する層が優先的にドープされ、内部の層はドープされ難い。そこで本実施形態では、1層〜3層のドーピング量が多く、4層目以降ではドーピング量が少なくなるとの推察に基づき、2層又は3層構造を有するCNTの個数比率が75%以上とすることにより、CNT集合体全体のドーピング量を増大させることができ、優れたドーピング効果が得られる。
【0055】
<カーボンナノチューブ集合体の電気的特性>
上記製法にて得られた本実施形態のCNT集合体では、抵抗率が6.9×10
−6Ω・cm以下である。この抵抗率は、上記従来技術における最小の抵抗率1.55×10
−5Ω・cmと比較して、約45%の低抵抗化を実現している。また、銅の抵抗率1.68×10
−6Ω・cmやアルミニウムの抵抗率2.65×10
−6Ω・cmと比較すると若干高いものの、これらと同じオーダー(×10
−6)の抵抗率を達成している。よって、本実施形態のCNT集合体を、銅あるいはアルミニウム線材に代わる線材として使用すれば、銅やアルミニウムと同等の抵抗率を維持しつつ、軽量化を実現することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態に係るCNT集合体及びCNT複合材料について述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態のCNT集合体が束ねられてなるカーボンナノチューブ線材と、該カーボンナノチューブ線材の外周を被覆する被覆層とを備えるCNT被覆電線を構成してもよい。特に、本実施形態のCNT集合体及びCNT複合材料は、電力や信号を伝送するための電線用線材の材料として好適であり、四輪自動車などの移動体に搭載される電線用線材の材料としてより好適である。金属電線よりも軽量になり燃費の向上が期待されるためである。
【0058】
また、上記カーボンナノチューブ被覆電線を少なくとも1つを有するワイヤハーネスを構成してもよい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を説明する。なお本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜2)
浮遊触媒気相成長(CCVD)法を用い、
図11に示すようなCNT製造装置にて、電気炉21によって1300℃に加熱された、内径φ60mm、長さ1600mmのアルミナ管22内部に、炭素源であるデカヒドロナフタレン、触媒であるフェロセン、及び反応促進剤であるチオフェンを含む原料溶液Lを、スプレー噴霧により供給した。キャリアガスGは、水素を9.5L/minで供給した。得られたCNTを回収機23にてシート状に回収し、これを巻いて撚りをかけることによりCNT集合体を製造した。次に、得られたCNT集合体を、大気下において500℃に加熱し、さらに酸処理を施すことによって高純度化を行った。その後、高純度化したCNT集合体に対し、硝酸ドープを施した。
図12(a)に示すような直径約180μmのCNT集合体を得た。
【0060】
次に、下記の方法にてCNT集合体の構造、特性を測定、評価した。
(a)CNT集合体を構成するCNTの層数及び外径の測定
上記条件により生成したCNT集合体の断面を、
図12(b)に示すように透過型電子顕微鏡で観察及び解析し、約200個のCNTのそれぞれの層数、及びCNT集合体の最外周に位置するCNTの外径を測定した。
【0061】
(b)CNT集合体におけるG+/Gtotal比およびG/D比の測定
ラマン分光装置(Thermo Fisher Scientific社製、装置名「ALMEGA XR」により、励起レーザ:532nm、レーザ強度:10%に減光、対物レンズ:50倍、露光時間:1秒×60回の条件にて測定し、ラマンスペクトルを得た。次に日本分光社製のスペクトル解析ソフトウェア「Spectra Manager」により、ラマンスペクトルの1000〜2000cm
-1のデータを切り出し、この範囲で検出されるピーク群をCurve Fittingにより分離解析を行った。尚、ベースラインは1000cm
-1と2000cm
-1での検出強度を結んだ線とする。Gバンドのうち、1590cm
-1付近に検出される最も大きい強度で検出されるピークがG+バンド、これよりも低波数側で1550〜1590cm
-1付近に観測されるピークがG−バンドであり、”Gtotal=(G+ピークの面積値 + G−ピークの面積値)”と定義し、G+/Gtotal比を算出した。G/D比については上記と同様に切り出したラマンスペクトルから、GバンドとDバンドそれぞれのピークトップ高さ(ピークトップからベースラインの値を差し引いた検出強度)から算出した。
【0062】
(c)CNT複合材料の抵抗率測定
抵抗測定機(ケースレー社製、装置名「DMM2000」)にCNT複合材料を接続し、4端子法により抵抗測定を実施した。抵抗率は、r=RA/L(R:抵抗、A:CNT集合体の断面積、L:測定長さ)の計算式に基づいて抵抗率を算出した。
【0063】
(比較例1〜4)
比較例1〜4について、従来技術の製法にてCNT複合材料を得た。得られたCNT集合体におけるCNTの層数及び外径、CNT集合体の抵抗率、並びにG/D比及びG+/Gtotal比を、実施例と同様方法にて測定した。各比較例では、3点を測定し(n=3)、その平均値を求めた。
上記実施例1〜2及び比較例1〜4の測定結果を、表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
実施例1〜2では、1000〜2000cm
−1付近に明瞭なGバンドとDバンドに由来するスペクトルピークが観測された。そして表1の結果から、実施例1では、1層構造のCNTは少なく、2層構造又は3層構造を有するCNTが85%含まれていた(
図3(a))。また、生成したCNT集合体の最外周に位置するCNTの直径は、5.0nm以下であった(
図3(b))。そして、CNTの結晶性の指標となるG/D比が73、G+バンド(1589cm
−1)とG−バンド(1563cm
−1)に基づいて得られるG+/Gtotalが0.81であり、このときの抵抗率が6.3×10
−6Ω・cmとなり、従来と比べてより低い抵抗率が得られた。
【0066】
実施例2では、2層又は3層構造を有するCNTの比率が78%、G/D比が47、G+/Gtotalが0.77であり、抵抗率が6.9×10
−6Ω・cmとなり、実施例1と同様、従来と比べてより低い抵抗率が得られた。
【0067】
一方、比較例1では、2層又は3層構造を有するCNTの比率が86%、G/D比が66、G+/Gtotalが0.61であり、G+/Gtotal比が本発明の範囲外であることから、抵抗率が1.3×10
−5Ω・cmと劣った。
比較例2では、2層又は3層構造を有するCNTの比率が5%以下(主要なCNTは、単層構造)、G/D比が42、G+/Gtotal比が0.70であり、2層又は3層構造を有するCNTの比率が本発明の範囲外であることから、抵抗率が2.1×10
−4Ω・cmと劣った。
【0068】
比較例3では、2層又は3層構造を有するCNTの比率が5%以下(主要なCNTは、4層〜12層構造)、G/D比が1.3、G+/Gtotalが算出不可(Gバンドのスペクトルピークが未検出)であり、2層又は3層構造を有するCNTの比率、G/D比及びG+/Gtotal比が本発明の範囲外であることから、抵抗率が3.9×10
−4Ω・cmと劣った。
比較例4では、2層又は3層構造を有するCNTの比率が5%以下(主要なCNTは、15層構造以上)、G/D比が2.2、G+/Gtotal比が算出不可(Gバンドのスペクトルピークが未検出)であり、2層又は3層構造を有するCNTの比率、G/D比及びG+/Gtotal比が本発明の範囲外であることから、抵抗率が7.0×10
−4Ω・cmと劣った。
【0069】
(実施例3〜4)
次に、実施例3として、実施例1と同様の製法にて作製したCNT集合体を準備し、当該CNT集合体に対し、実施例1のドーパントである硝酸に代えてヨウ素を用いてドーピングを施した。また、実施例4として、ドーパントをカリウムに代えてドーピングを施したこと以外は、実施例3と同様の方法にてCNT複合材料を作製した。
【0070】
(比較例5〜7)
比較例5として、実施例1と同様の製法にてCNT集合体を作製し、ドーピングを施さないものを準備した。また、比較例6として、実施例2と同様の製法にてヨウ素ドープを施したCNT複合材料を作製し、ドーパントであるヨウ素が、実施例2のCNT複合材料と比較して、2層又は3層構造を有するCNTにおける最内層のより中心側に位置するものを得た。また、比較例7として、ドーパントをカリウムに代えたこと以外は、実施例3と同様のCNT複合材料を作製し、ドーパントであるカリウムが、2層又は3層構造を有するCNTにおける最内層のより中心側に位置するものを得た。
【0071】
そして、実施例3〜4及び比較例5〜7について、CNT複合材料を構成するCNTの最内層とドーパントとの最近接距離を以下の様に算出した。また、上記と同様の方法にてCNT複合材料の抵抗率を測定、評価した。
(d)CNT最内層とドーパントとの最近接距離の算出
実施例3,4で生成したCNT複合材料について、単層構造のCNTを使用して第一原理計算によるシミュレーションを実施し、各CNT複合材料におけるCNT最内層とドーパントとの最近接距離を算出、評価した。
第一原理計算でのシミュレーションには計算ソフトウェア「Quantum−ESPRESSO」を用い、密度汎関数理論(DFT)に基づくコーン・シャム方程式を用いた。また、交換相関ポテンシャルをGGA法によって表現した。更に、50Rydのカットオフエネルギーを有する平面波基底関数を用いた。k点サンプリング数を1×1×8として計算を行った。
また、確認のため、CNT内層−ヨウ素の最近接距離を測定し、計算値と照合した。2層又は3層構造を有するCNTにヨウ素をドーピングしたものを用い、上記ドーピング後のCNT断面のTEM写真からランダムに約200点の測定を行ない、最近接距離を求めた。この結果、最近接距離の測定値(実測値)に対する、シミュレーションによる最近接距離の計算値の誤差は1割未満となり、計算値と実測値がほぼ一致することが確認できた。
【0072】
【表4】
【0073】
表4に示すように、実施例3では、
図13(a)に示すようにCNT最内層にヨウ素が位置していることが確認された。また、CNT最内層とドーパントであるヨウ素原子との最近接距離が3.61Åであり、抵抗率が8.9×10
−6Ω・cmであった。また、実施例4では、
図13(b)に示すようにCNT最内層にカリウムが位置していることが確認された。また、CNT最内層とドーパントであるヨウ素との最近接距離が2.98Åであり、抵抗率が9.6×10
−6Ω・cmであった。
一方、比較例5では抵抗値が7.8×10
−5Ω・cmであり、実施例3,4の抵抗値に対して劣った。また、比較例6では、ヨウ素が実施例3よりもCNT最内層のより中心側に位置しており、抵抗値が5.2×10
−5Ω・cmであり、実施例3,4の抵抗値に対して劣った。また、比較例7では、カリウムが実施例4よりもCNT最内層のより中心側に位置しており、抵抗値が6.4×10
−5Ω・cmであり、実施例3,4の抵抗値に対して劣った。
よって、CNT最内層とドーパントとの最近接距離が2.0Å以上4.0Å以下であると、従来のCNT複合材料と比較して、低抵抗化及び高導電化を実現できることが分かった。