特許第6669095号(P6669095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6669095-窒化物半導体発光素子の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6669095
(24)【登録日】2020年3月2日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20200309BHJP
   H01L 33/04 20100101ALI20200309BHJP
【FI】
   H01L33/32
   H01L33/04
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-19717(P2017-19717)
(22)【出願日】2017年2月6日
(65)【公開番号】特開2018-129340(P2018-129340A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2018年4月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】山下 智也
【審査官】 小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−012683(JP,A)
【文献】 特開2015−109383(JP,A)
【文献】 特開2012−178386(JP,A)
【文献】 特開2005−136446(JP,A)
【文献】 特開2013−183126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層を成長させる前に、InGaN層とGaN層を有するn側超格子層を成長させるn側超格子層成長工程を含む窒化物半導体発光素子製造方法であって、
前記n側超格子層成長工程は、1つのInGaN層を成長させるInGaN層成長工程と1つのGaN層をn型不純物ガスを供給せずに成長させるGaN層成長工程とを含む工程をnサイクル繰り返すことを含み、
前記n側超格子層成長工程において、第1サイクル〜第mサイクルにおける前記GaN層成長工程を、N2ガスを含みH2ガスを含まないキャリアガスを用いて行い、第(m+1)サイクル〜第nサイクルにおける前記GaN層成長工程をキャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いて行い、
前記n側超格子層成長工程において、第1サイクル〜第kサイクルにおけるInGaN層成長工程をn型不純物ガスを供給せずに行い、第(k+1)サイクル〜第nサイクルにおけるInGaN層成長工程をn型不純物ガスを供給して行う窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記窒化物半導体発光素子は、発光ピーク波長が500〜570nmの範囲にある請求項1に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項3】
nが20以上40以下である請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項4】
(n−m)が1以上4以下である請求項3に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項5】
(n−k)が2以上5以下である請求項3又は4に記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【請求項6】
mの値がkの値よりも大きい請求項1〜5のいずれか1つに記載の窒化物半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード等の半導体発光素子が各種照明等の種々の用途に使用されている。これに伴い発光素子には低い駆動電圧で高輝度に発光させることが求められている。このような要求に応えるため、例えば、特許文献1には、明るく(高輝度に)発光させることができる発光素子の製造方法が開示されている。特許文献1の製造方法は、n側の層にn側超格子層を含む窒化物半導体発光素子の製造方法であって、n側超格子層形成工程として、InGaN層151と、InGaN層151の上のGaN層152と、GaN層152の上のn型GaN層153と、を繰り返して形成することが開示されている。そして、InGaN層151を形成する際には、キャリアガスとして窒素ガスを用い、n型GaN層153を形成する際には、キャリアガスとして窒素ガスと水素ガスとを混合した混合ガスを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−92253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の製造方法により作製された発光素子は、明るさを向上させる点においては一定の効果が得られるが、その一方で順方向電圧Vfが上昇しやすい。
【0005】
そこで、本発明では、順方向電圧Vfの上昇を抑えつつ明るさを向上させることができる窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するために、本発明の実施形態に係る窒化物半導体発光素子の製造方法は、発光層を成長させる前に、InGaN層とGaN層を有するn側超格子層を成長させるn側超格子層成長工程を含む窒化物半導体発光素子製造方法であって、
前記n側超格子層成長工程は、1つのInGaN層を成長させるInGaN層成長工程と1つのGaN層を成長させるGaN層成長工程とを含む工程をnサイクル繰り返すことを含み、
前記n側超格子層成長工程において、第1サイクル〜第mサイクルにおけるGaN層成長工程を、N2ガスを含みH2ガスを含まないキャリアガスを用いて行い、第(m+1)サイクル〜第nサイクルにおけるGaN層成長工程をキャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いて行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以上のように構成された本発明の実施形態に係る窒化物半導体発光素子の製造方法によれば、順方向電圧Vfの上昇を抑えつつ明るさを向上させることができる窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る実施形態の発光素子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施形態の窒化物半導体発光素子について説明する。
本実施形態に係る窒化物半導体発光素子100は、基板1と、基板1上に設けられた下地層2、n側コンタクト層3、n側超格子層4、活性層5、p側クラッド層6及びp側コンタクト層7を含む。n側超格子層4は、1つのInGaN層と1つのGaN層とを含む単一ペアをnペア含む。そして、n側超格子層4において、下地層2側からmペアまでのGaN層4aはキャリアガスとして水素を含まないN2ガスを用いて成長されており、活性層5側の(m+1)〜nペアのGaN層4xはキャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いて成長されている。また、n側超格子層4において、好ましくは、下地層2側からkペアまでのInGaN層4bはn型不純物がドープされていないアンドープ層であり、(k+1)〜nペアのInGaN層4sは、n型不純物を含む層である。n側超格子層4において、図1に示すように、例えば、最も下地層2側の層は、GaN層4aであり、最も活性層5側の層は、InGaN層4sである。n側超格子層4の上に形成される活性層5は、交互に設けられた井戸層と障壁層とを含み、例えば、n側超格子層4における最も活性層5側のInGaN層4sに、障壁層が接するようにn側超格子層4上に設けられる。そして、活性層5の上には、p側クラッド層6及びp側コンタクト層7が順に形成される。ここで、nは3以上の整数であり、mはnよりも小さい1以上の整数であり、kはnよりも小さい1以上の整数である。尚、本明細書において、(m+1)〜nペアというときには、m=n−1の場合、すなわち、最も活性層5側のnペアのみの場合も含む。また、本明細書において、(k+1)〜nペアというときには、k=n−1の場合、すなわち、最も活性層5側のnペアのみの場合も含む。
【0010】
また、p側コンタクト層7の表面の一部にはp電極8が設けられ、一部の領域のp側コンタクト層7、p側クラッド層6及び活性層5を除去して露出させたn側コンタクト層3の表面(電極形成面)にはn電極8が設けられている。
【0011】
本実施形態の窒化物半導体発光素子において、窒化物半導体としては、III−V族窒化物半導体(InXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1))が挙げられ、III族元素の一部にBを用いたり、V族元素のNの一部をP、As、Sbで置換した混晶であってもよい。これらの窒化物半導体層は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD)、ハイドライド気相成長法(HVPE)、分子線エピタキシャル成長法(MBE)等により形成することができる。
【0012】
以上のように構成された窒化物半導体発光素子は、活性層を結晶性良く形成することができるので発光出力を高くでき、かつ順方向電圧Vfの上昇を抑えることができる。特に、活性層5がInを比較的多く含む井戸層を備えた発光ピーク波長が500nm以上の窒化物半導体発光素子(例えば、InGaNで構成された井戸層のうち、Inの比率が20.0〜25.0%程度である緑色に発光する発光素子)において顕著な効果が得られる。ここで、本明細書において、数字を用いてA〜Bと記載するときは、数がAである場合と数がBである場合とを含むものとする。
【0013】
以下、本実施形態の製造方法により得られる窒化物半導体発光素子における各構成要素について説明する。
【0014】
(基板1)
半導体層を形成するための基板1は、例えば、C面、R面、及びA面のいずれかを主面とするサファイアやスピネル(MgA124)のような絶縁性基板を用いることができる。中でも、サファイア基板が好ましい。また、基板1として、SiC(6H、4H、3Cを含む)、ZnS、ZnO、GaAs、Siなどを用いても良い。基板1は、最終的に取り除いてもよいし、取り除かなくてもよい。
【0015】
(n側コンタクト層3)
n側コンタクト層3は、少なくともその一部分にn型不純物を含有し、電極形成面内及び発光層へのキャリアの供給、拡散を実現するためのものである。特に、n電極8から活性層5に向かってキャリアを面内拡散して供給するために、比較的高濃度にn型不純物がドープされていることが好ましい。n側コンタクト層3は、GaNにより構成されることが好ましい。
【0016】
(n側超格子層4)
n側超格子層4は、その上に形成される活性層5等の結晶性を良好にするために設ける層であり、上述したように、1つのInGaN層と1つのGaN層とを含む単一ペアをnペア含む。ここで、ペア数nは、例えば、10〜40の範囲、好ましくは、15〜35の範囲、さらに好ましくは、25〜35の範囲に設定される。例えば、活性層5における井戸層のInの含有量が比較的小さい青色の光を発光する窒化物半導体発光素子では、20ペア、活性層5における井戸層のInの含有量が比較的大きい緑色の光を発光する窒化物半導体発光素子では、30ペアに設定される。また、GaN層4a,4xは、好ましくは、1.5nm〜5nmの厚さ、より好ましくは、2nm〜4nmの厚さに設けられる。InGaN層4b,4sは、好ましくは、0.5nm〜3nmの厚さ、より好ましくは、0.7nm〜2nmの厚さに設けられる。GaN層4a,4x及びInGaN層4b,4sの厚さは、単位ペアごとに異なっていてもよく、例えば、n側コンタクト層3側のGaN層4aと活性層5側のGaN層4xとの間で異なっていてもよいし、n側コンタクト層3側のInGaN層4bと活性層側5のInGaN層4sの間で異なっていてもよい。
【0017】
また、上述したように、n側超格子層4において、下地層2側からmペアまでのGaN層4aはキャリアガスとして水素を含まないN2ガスを用いて成長されており、活性層5側の(m+1)〜nペアのGaN層4xはキャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いて成長されている。キャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いて成長させる活性層5側のペア数(n−m)は、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4、さらに好ましくは2又は3とする。キャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いて成長させる活性層5側のペア数(n−m)を1以上とすることで、GaN層4aの表面が大きな凹み(Vピット)を有する表面となりにくく、より平坦な表面とすることができ、またGaN層4aの結晶性を良好にできるため、GaN層4aの上面に形成される活性層5を良好に形成することができる。ここで、GaN層4aの表面に大きな凹みが形成されにくくなった理由としては、GaN層4aをキャリアガスとしてH2ガスを含むガスを供給しつつ成長させたことで、GaN層4aの横方向における成長が促され、GaN層4aの表面に形成される凹みが大きくなることが抑制されたためであると考えられる。キャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いて成長させる活性層5側のペア数(n−m)を5以下とすることで、順方向電圧Vfを上昇させすぎることなく明るさを向上させることができる。
ここで、n側超格子層4において、活性層5側ではなく下地層2側から数ペアまでのGaN層4aをキャリアガスとしてH2ガスを含むガスで成長させた場合、明るさはほとんど向上せず、順方向電圧Vfが上昇する傾向にある。これは、n側超格子層4aにおいて、下地層2側のGaN層4aの表面状態を改善しても、活性層5が形成されるGaN層4aの表面状態は平坦な表面になっておらず、活性層5を効率よく形成することができないためであると考えられる。
【0018】
また、上述したように、n側超格子層4において、好ましくは、下地層2側からkペアまでのInGaN層4bはn型不純物がドープされていないアンドープ層であり、(k+1)〜nペアのInGaN層4sは、n型不純物を含む層である。n型不純物を含むInGaN層4sを備えた活性層5側のペア数(n−k)は、好ましくは2〜5、より好ましくは3又は4とする。n型不純物を含むInGaN層4sを備えた活性層5側のペア数(n−k)を、2以上とすることで、超格子層にn型不純物を含ませることによる順方向電圧Vfを低減させる効果を効率よく得ることができ、順方向電圧Vfの上昇を抑制することができる。n型不純物を含むInGaN層4sを備えた活性層5側のペア数(n−k)を、5以下とすることで、順方向電圧Vfの上昇を抑制しつつ、n型不純物を含ませることによる超格子層の結晶性の悪化を抑制し、静電耐圧特性を維持することができる。
ここで、n側超格子層4において、活性層5側ではなく下地層2側から数ペアまでのInGaN層4bをn型不純物を含む層とした場合、静電耐圧特性は向上するが、順方向電圧Vf、明るさが悪化する傾向にある。これは、n側超格子層4の活性層5側にn型不純物が含まれる層が形成されていないことで、活性層5へキャリアが注入しにくくなったためであると考えられる。
【0019】
また、(k+1)〜nペアのInGaN層4sのn型不純物濃度は、好ましくは1×1018/cm〜5×1018/cm、より好ましくは2×1018/cm〜4×1018/cmとする。
【0020】
さらに、n側超格子層4において、n型不純物を含むInGaN層4sを備えた活性層5側のペア数(n−k)は、キャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いてGaN層を成長させる活性層5側のペア数(n−m)より多いことが好ましい。
【0021】
以上のように構成されたn側超格子層を含む窒化物半導体発光素子は、活性層5の結晶性を良好にできることに加え、駆動時における電流の面内拡散が促進され、耐圧も向上させることができる。したがって、本実施形態の窒化物半導体発光素子によれば、順方向電圧Vfを上昇させることなく明るさを向上させることができ、しかも静電耐圧特性を維持させることができる。
【0022】
(活性層5)
活性層5としては、Inを含む窒化物半導体を用いことが好ましく、In比率を適宜設定することにより、紫外域から可視光(赤色光)の領域において発光が可能でかつ高い発光効率が得られる。例えば、井戸層をInXGa1-XNにより構成する場合には、所望の発光色が得られるようにIn組成xを設定する。窒化物半導体発光素子の発光波長は、発光ピーク波長が430nm〜570nmの範囲、好ましくは500nm〜570nmの範囲とする。また、障壁層は、例えば、GaN、InGaN、AlGaN等により構成することができる。井戸層、障壁層は、Si等のn型不純物及び/又はMg等のp型不純物を含んでいても良いし、アンドープであってもよい。
【0023】
(p側クラッド層6)
p側クラッド層6は、p側クラッド層6は、キャリアを閉じ込めるために設けられる層であり、例えば、Mg等のp型不純物を含むGaN、AlGaN等により構成することができる。p側クラッド層6は、例えば、10nm〜30nmの厚さに設けられる。
【0024】
(p側コンタクト層7)
p側コンタクト層7は、上面に電極が形成される層であり、例えば、Mg等のp型不純物を含むGaN、AlGaN等により構成することができる。p側コンタクト層7は、例えば、100nm〜150nmの厚さに設けられる。
【0025】
以下、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子の製造方法について説明する。
(下地層形成工程)
まず、例えば、サファイアからなる基板1のC面上に、有機金属気相成長法(MOCVD)によりバッファ層を介して下地層2を形成する。
ここで、バッファ層は、例えば、600℃以下の低温で、原料ガスにTMA、TMG、アンモニア等を用いて、基板上にAlGaNを成長させることにより形成する。
また、下地層2は、例えば、原料ガスにTMG、アンモニアを用い、バッファ層の上にGaNを成長させることにより形成する。この下地層2は、例えば、1050℃の温度で成長させた第1層と1150℃の温度で成長させた第2層を含む複数の層により形成してもよい。
【0026】
(n側コンタクト層形成工程)
次に、例えば、原料ガスとしてTMG、アンモニアを用い、n型不純物ガスとしてモノシランを用い、例えば、1150℃の温度で、例えば、Siからなるn型不純物を含むn型GaNを成長させることにより、n側コンタクト層3を形成する。
【0027】
(n側超格子層形成工程)
次に、温度をn側コンタクト層3を成長させるときの温度より低い、例えば、温度を860℃にして、GaN層とInGaN層とを交互に成長させてn側超格子層4を形成する。
【0028】
各ペアにおいて、GaN層を成長させる際、n側コンタクト層3側からmペアを形成する第1サイクル〜第mサイクルでは、原料ガスにTEG、アンモニア、キャリアガスとしてN2ガスを用いてGaN層を成長させ、活性層5側の(n−m)ペアを形成する第(m+1)サイクル〜第nサイクル(最終サイクル)では、原料ガスにTEG、アンモニア、キャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いてGaN層を成長させる。第(m+1)サイクル〜第nサイクルのGaN層を成長に用いるキャリアガスは、H2ガスのみであることが好ましい。これにより、GaN層4aにおいて、Vピットが大きくなることを抑制するなどの上記効果を得やすい。尚、本明細書において、第(m+1)サイクル〜第nサイクルというときには、m=n−1の場合、すなわち、最終サイクルのみの場合も含む。
【0029】
各ペアにおいて、InGaN層を成長させる際、n側コンタクト層3側からkペアを形成する第1サイクル〜第kサイクルでは、原料ガスにTEG、TMI、アンモニア、キャリアガスとしてN2ガスを用い、n型不純物ガスを供給せずにInGaN層4bを成長させ、活性層5側の(n−k)ペアを形成する第(k+1)サイクル〜第nサイクル(最終サイクル)では、原料ガスであるTEG、TMI、アンモニアにさらにn型不純物ガスを供給して、キャリアガスとしてN2ガスを用いてInGaN層4sを成長させる。ここで、InGaN層4b,4sを成長させる際、n型不純物ガスの濃度は、InGaN層4b、4sのうち、Inの比率が、好ましくは、1%〜10%、より好ましくは、1%〜3%になるように設定する。尚、本明細書において、第(k+1)サイクル〜第nサイクルというときには、k=n−1の場合、すなわち、最終サイクルのみの場合も含む。
【0030】
(活性層5)
次に、例えば、原料ガスにTEG、TMI、アンモニアを用い、例えば、温度を950℃にしてGaNよりなる障壁層を成長させ、温度を800℃にしてInGaNよりなる井戸層を成長させる。これらの障壁層と井戸層とを交互に成長させ、最後にGaNよりなる障壁層を成長させることにより活性層5を形成する。
【0031】
(p側クラッド層6)
次に、例えば、原料ガスとしてTEG、アンモニアを用い、p型不純物ガスとしてCpMg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用い、Mgからなるp型不純物を含むp型AlGaNを成長させることにより、p側クラッド層6を形成する。
【0032】
(p側コンタクト層7)
続いて、例えば、原料ガスとしてTMG、TMA、アンモニアを用いて、アンドープのGaNからなる層を成長させる。その後、このアンドープのGaNからなる層上に原料ガスとしてTMG、TMA、アンモニアを用い、p型不純物ガスとしてCpMg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用いて、Mgからなるp型不純物を含むp型GaNを成長させることにより、p側コンタクト層7を形成する。p側コンタクト層7の不純物濃度は、p側クラッド層6よりも高くすることが好ましい。
【0033】
成長終了後、窒素雰囲中、ウェハを反応容器内において、例えば、700℃程度の上記各層を成長させる温度より低い温度でアニーリングを行い、p側クラッド層6及びp側コンタクト層7を低抵抗化する。
【0034】
アニーリング後、一部の領域のp側コンタクト層7、p側クラッド層6及び活性層5を除去して、n電極8を形成するための表面(電極形成面)を露出させる。
【0035】
最後に、p側コンタクト層7表面の一部及び電極形成面にそれぞれp電極9及びn電極8を形成する。
【0036】
以上のような工程を経て、窒化物半導体発光素子は作製される。
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0037】
実施例1.
以下に説明する製造方法により窒化物半導体発光素子を作製した。
(基板1)
基板1として、サファイアよりなる基板を用い、最初に、MOCVD反応容器内において、窒化物半導体を成長させるサファイア(C面)を水素雰囲気中、1050℃の温度でクリーニングした。
【0038】
(バッファ層)
温度を550℃にして、原料ガスにTMA、TMG、アンモニアを用い、基板上にAlGaNよりなるバッファ層を約12nmの膜厚に成長させた。
(下地層2)
温度を1050℃にして、原料ガスにTMG、アンモニアを用い、バッファ層上にGaNを約1μmの膜厚に成長させた。続いて、温度を1150℃にして、原料ガスにTMG、アンモニアを用い、GaNを約1μmの膜厚に成長させた。このように成長させた2層のGaNをまとめて下地層2とする。
【0039】
(n側コンタクト層3)
次に、1150℃の温度でTMG、アンモニア、モノシランを用い、Siを1×1019/cmドープしたn型GaNよりなるn側コンタクト層3を6μmの膜厚に成長させて形成した。
【0040】
(n側超格子層4)
次に、温度を860℃にして、以下のようにしてGaN層とInGaN層とを一層ずつ成長させる工程を30サイクル繰り返してn側超格子層4を形成した。
まず、原料ガスにTEG、アンモニアを用い、キャリアガスとしてN2ガスを用いてGaN層4aを3nmの厚さに成長させた(A1工程)。なお、本実施例において、キャリアガスとして一種のガスしか記載していない場合は、キャリアガスは実質的にその一種のガスのみからなり、他の種類のガスを実質的に含まないことを意味する。つまり、A1工程では、キャリアガスは実質的にN2ガスのみからなる。
次に、原料ガスにTEG、TMI、アンモニアを用い、キャリアガスとしてN2ガスを用いてInGaN層4bを1nmの厚さに成長させた(B1工程)。
このA1工程とB1工程とを1サイクルとして、第1〜第27サイクルまで27サイクル繰り返した。
【0041】
第28サイクルでは、原料ガスにTEG、アンモニアを用い、キャリアガスとしてH2ガスを用いてGaN層4xを3nmの厚さに成長させた(A2工程)。ここで、H2ガスの流量を80slmとした。なお、本実施例では、各層を成長する際に、基板の成長面における原料ガスとキャリアガスの混合ガスの流れを制御するために、基板の成長面の斜め上方からN2ガスからなる制御ガスを流している。このため、MOCVD反応容器内には原料ガス、キャリアガス、制御ガスが混在することになるが、基板の成長面に主として吹き付けられるのは原料ガスを含むキャリアガスであり、制御ガスではない。したがって、N2からなる制御ガスを用いたとしても、キャリアガスとしてH2を用いていれば、GaN層4xの成長を制御することができる。本実施例におけるA2工程では、キャリアガスであるH2ガスの流量を80slm、制御ガスであるN2ガスの流量を150slmとした。つまり、H2ガスの流量とN2ガスの流量とを合わせたガスの流量に対して、H2ガスの流量の割合を約35%とした。
【0042】
次に、原料ガスにTEG、TMI、アンモニアを用い、n型不純物ガスにモノシランを用い、キャリアガスとしてN2ガスを用いてSiが3×1018/cmドープされたInGaN層4sを成長させた(B2工程)。
このA2程とB2工程とをそれぞれ第28サイクル〜第30サイクルまで3サイクル繰り返した。
以上のようにして、それぞれGaN層を30層、InGaN層を30層を含む超格子層を形成した。つまり、nを30、m及びkを27としてn側超格子層4を形成した。
【0043】
(活性層5)
次に、温度を930℃にして、原料ガスにTEG、TMI、アンモニアを用い、n型不純物ガスにモノシランを用い、Siが4×1018/cmドープされた膜厚が6nmのGaN層を成長させ、その上に膜厚が3nmのアンドープのGaN層を成長させた。さらにその上に、温度を800℃にして、原料ガスにTEG、TMI、アンモニアを用いて成長させたIn0.25Ga0.75Nよりなる膜厚が3nmの井戸層と、温度960℃にして、原料ガスにTEG、アンモニアを用いて成長させたGaNよりなる膜厚が19nmの障壁層とを交互に9ペア成長させた。さらにその上に、温度を800℃にして、原料ガスにTEG、TMI、アンモニアを用いて成長させたIn0.25Ga0.75Nよりなる膜厚が3nmの井戸層と、温度を960℃にして、原料ガスにTEG、アンモニアを用いて成長させたGaNよりなる膜厚が16nmの障壁層とを交互に3ペア成長させ活性層5を形成した。
【0044】
(p側クラッド層6)
次に、930℃の温度にして、原料ガスにTEG、TMA、アンモニアを用い、p型不純物ガスにCpMg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用い、Mgを2×1020/cmドープしたAl0.13Ga0.87Nよりなるp側クラッド層6を11nmの膜厚に形成した。
【0045】
(p側コンタクト層7)
続いて、温度850℃〜1000℃程度で、TMG、アンモニアを用い、アンドープのGaNからなる層を約80nmの膜厚で成長させ、その上に、TMG、アンモニア、Cp2Mgを用い、Mgを5×1020/cmドープしたp型GaNよりなる層を約40nmの膜厚で成長させて、p側コンタクト層7を形成した。
【0046】
成長終了後、窒素雰囲中、窒化物半導体が形成された基板1を反応容器内において、700℃の温度でアニーリングを行い、p側クラッド層6及びp側コンタクト層7を低抵抗化した。
【0047】
アニーリング後、一部の領域のp側コンタクト層7、p側クラッド層6活性層5を除去して、n電極8を形成するための表面(電極形成面)を露出させた。
【0048】
最後に、p側コンタクト層7表面の一部及び電極形成面にそれぞれp電極9及びn電極8を形成した。
【0049】
以上のように作製した実施例1の窒化物半導体発光素子は、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.30Vであり、VLは107.31であった。また、平均発光ピーク波長は532.9nmであった。ここでVLとは、窒化物半導体発光素子の明るさを示す指標であり、その値が大きければ明るいことを、小さければ暗いことを意味する。VLは、本実施形態において、プローバーを用い、基板1上に形成された窒化物半導体発光素子のp電極とn電極との間に電流を流すことにより発光させ、放射された光をフォトダイオードで受光することにより、測定している。また、本明細書において、VLの値は、基板1上に形成された複数の窒化物半導体発光素子におけるVLの値を平均した平均値である。
【0050】
実施例2.
実施例2の窒化物半導体発光素子は、n側超格子層4を以下のように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0051】
(n側超格子層4)
実施例2では、第1〜第26サイクルまでA1工程を行い、第1〜第27サイクルまでB1工程を行った。さらに、第27〜第30サイクルまでA2工程を行い、第28〜第30サイクルまでB2工程を行った。つまり、nを30、mを26、kを27としてn側超格子層4を形成した。
【0052】
以上のようにして作製した実施例2の窒化物半導体発光素子において、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.38Vであり、VLは106.97であった。また、平均発光ピーク波長は531.6nmであった。
【0053】
実施例3.
実施例3の窒化物半導体発光素子は、n側超格子層4を以下のように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0054】
(n側超格子層4)
実施例3では、第1〜第25サイクルまでA1工程を行い、第1〜第27サイクルまでB1工程を行った。さらに、第26〜第30サイクルまでA2工程を行い、第28〜第30サイクルまでB2工程を行った。つまり、nを30、mを25、kを27としてn側超格子層4を形成した。
【0055】
以上のようにして作製した実施例3の窒化物半導体発光素子において、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.49Vであり、VLは109.52であった。また、平均発光ピーク波長は532.2nmであった。
【0056】
実施例4.
実施例4の窒化物半導体発光素子は、n側超格子層4を以下のように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0057】
(n側超格子層4)
実施例4では、第1〜第28サイクルまでA1工程を行い、第1〜第27サイクルまでB1工程を行った。さらに、第29〜第30サイクルまでA2工程を行い、B2工程を第28〜第30サイクルまでB2工程を行った。つまり、nを30、mを28、kを27としてn側超格子層4を形成した。
【0058】
以上のようにして作製した実施例4の窒化物半導体発光素子において、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.28Vであり、VLは105.53であった。また、平均発光ピーク波長は530.3nmであった。
【0059】
実施例5.
実施例5の窒化物半導体発光素子は、n側超格子層4を以下のように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0060】
(n側超格子層4)
実施例5では、第1〜第29サイクルまでA1工程を行い、第1〜第27サイクルまでB1工程を行った。さらに、第30サイクルでA2工程を行い、第28〜第30サイクルまでB2工程を行った。つまり、nを30、mを29、kを27としてn側超格子層4を形成した。
【0061】
以上のようにして作製した実施例5の窒化物半導体発光素子において、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.26Vであり、VLは102.95であった。また、平均発光ピーク波長は529.5nmであった。
【0062】
実施例6.
実施例6の窒化物半導体発光素子は、n側超格子層4を以下のように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0063】
(n側超格子層4)
実施例6では、第1〜第27サイクルまでB2工程を行い、第1〜第28サイクルまでB1工程を行った。さらに、第28〜第30サイクルまでA2工程を行い、第29〜第30サイクルまでB2工程を行った。つまり、nを30、mを27、kを28としてn側超格子層4を形成した。
【0064】
以上のようにして作製した実施例6の窒化物半導体発光素子において、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.37Vであり、VLは106.92であった。また、平均発光ピーク波長は528.1nmであった。
【0065】
実施例7.
実施例7の窒化物半導体発光素子は、n側超格子層4を以下のように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0066】
(n側超格子層4)
実施例7では、第1〜第27サイクルまでA1工程を行い、第1〜第26サイクルまでB1工程を行った。さらに、第28〜第30サイクルまでA2工程を行い、第27〜第30サイクルまでB2工程を行った。つまり、nを30、mを27、kを26としてn側超格子層4を形成した。
【0067】
以上のようにして作製した実施例7の窒化物半導体発光素子において、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.30Vであり、VLは108.46であった。また、平均発光ピーク波長は528.8nmであった。
【0068】
実施例8.
実施例8の窒化物半導体発光素子は、n側超格子層4を以下のように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0069】
(n側超格子層4)
実施例8では、第1〜第27サイクルまでA1工程を行い、第1〜第25サイクルまでB1工程を行った。さらに、第28〜第30サイクルまでA2工程を行い、第26〜第30サイクルまでB2工程を行った。つまり、nを30、mを27、kを25としてn側超格子層4を形成した。
【0070】
以上のようにして作製した実施例2の窒化物半導体発光素子において、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.29Vであり、VLは109.75であった。また、平均発光ピーク波長は527.1nmであった。
【0071】
実施例9.
実施例9の窒化物半導体発光素子は、n側超格子層4を以下のように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0072】
(n側超格子層4)
実施例9では、第1〜第27サイクルまでA1工程を行い、第1〜第30サイクルまでB1工程を行った。さらに、第28〜第30サイクルまでA2工程を行った。つまり、nを30、mを27、kを30としてn側超格子層4を形成した。
【0073】
以上のようにして作製した実施例9の窒化物半導体発光素子において、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.68Vであり、VLは107.30であった。また、平均発光ピーク波長は530.3nmであった。
【比較例1】
【0074】
比較例に係る窒化物半導体発光素子は、n側超格子層を以下のように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0075】
(n側超格子層4)
比較例1では、第1〜第30サイクルまでA1工程を行い、第1〜第27サイクルまでB1工程を行った。さらに、第28〜第30サイクルまでB2工程を行った。つまり、nを30、mを30、kを27としてn側超格子層4を形成した。
【0076】
以上のようにして作製した比較例1の窒化物半導体発光素子において、順方向電流65mAを流すために必要な順方向電圧Vfは3.23Vであり、VLは97.60であった。
【0077】
以上の実施例と比較例のn側超格子層の構成と評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示す結果から以下のことが理解できる。
(1)n側超格子層4における活性層5側のGaN層をキャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いて成長させることにより、明るさを向上させることができる(実施例1〜9と比較例1との比較)。
(2)n側超格子層4における活性層5側のInGaN層にn型不純物をドープすることにより、順方向電圧Vfを低くすることができる(実施例1〜8と実施例9との比較)。
【0080】
以上の実施例に示すように、本実施例の窒化物半導体発光素子によれば、n側超格子層4における活性層5側のGaN層をキャリアガスとしてH2ガスを含むガスを用いて成長させることにより明るさを向上させることができる。さらに、n側超格子層4における活性層5側のInGaN層にn型不純物をドープすることにより、順方向電圧Vfを低く抑えつつ明るさを向上させることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 基板
2 下地層
3 n側コンタクト層
4 n側超格子層
4a GaN層
4x GaN層
4b InGaN層
4s InGaN層
5 活性層
6 p側クラッド層
7 p側コンタクト層
100 窒化物半導体発光素子
図1