【文献】
TERS探針先端における増強電場のFDTD計算解析 FDTD calculation of enhanced electric fields of a tip top for tip-enhanced Raman scattering,第62回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,応用物理学会,2015年 3月,13p-P3-24,04-449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料が載置される試料載置面と、金属製の先端を有する探針と、前記試料に近接又は接触した前記探針の先端へ光を照射する照射部と、前記試料から発生するラマン散乱光を集光するレンズと、該レンズが集光したラマン散乱光を検出する検出部とを備えるラマン散乱光測定装置において、
前記レンズ及び前記探針は、前記試料載置面に対する正面側の位置に配置され、
前記レンズ及び前記探針は、前記レンズの光軸、前記探針の中心軸及び前記試料載置面の垂線が同一平面に含まれるように配置され、
前記レンズは、前記垂線に対して光軸を傾けて配置されており、
前記探針は、前記試料載置面に垂直な状態から、前記光軸とのなす角度を広げる向きに、前記垂線に対して傾いていること
を特徴とするラマン散乱光測定装置。
前記レンズ、前記第2のレンズ及び前記探針は、前記レンズの光軸、前記第2のレンズの光軸、前記探針の中心軸及び前記垂線が同一平面に含まれるように配置されていること
を特徴とする請求項6に記載のラマン散乱光測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、探針の先端に誘起されるプラズモンの性質上、強い電場が試料に近づくように、探針の先端を試料の表面に対して垂直に配置している。ラマン散乱光の測定装置では、探針の先端に光を集光し、また発生したラマン散乱光を集光するためのレンズが必要である。試料の表面に対して探針と同じ側にレンズが配置された測定装置では、試料上で探針の先端が近接又は
接触した部分とレンズとの間に探針の一部が位置している。このため、発生したラマン散乱光が探針の一部によって吸収又は反射され、レンズでラマン散乱光を集光する効率が低下し、高感度にラマン散乱光を測定することが困難である。
【0005】
特許文献1に開示された技術では、レンズは試料の裏側に配置されており、レンズでラマン散乱光を集光する効率が低下することは無い。しかしながら、光が試料を透過する必要があるので、不透明で厚みのある試料についてはラマン散乱光の測定ができない。また、特許文献1に開示された技術では、透明基板上に試料を載置する必要がある。このため、何らかの方法で作成した試料を透明基板に載せ換える前処理が必要となり、また、前処理を受けない状態の試料についてラマン散乱光を測定することができない。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、探針及びレンズの配置を改めることにより、どんな試料についても高感度にラマン散乱光を測定することができるラマン散乱光測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るラマン散乱光測定装置は、試料が載置される試料載置面と、金属製の先端を有する探針と、前記試料に近接又は接触した前記探針の先端へ光を照射する照射部と、前記試料から発生するラマン散乱光を集光するレンズと、該レンズが集光したラマン散乱光を検出する検出部とを備えるラマン散乱光測定装置において、前記レンズ及び前記探針は、前記試料載置面に対する正面側の位置に配置され、
前記レンズ及び前記探針は、前記レンズの光軸、前記探針の中心軸及び前記試料載置面の垂線が同一平面に含まれるように配置され、前記レンズは、前
記垂線に対して光軸を傾けて配置されており、前記探針は、
前記試料載置面に垂直な状態から、前記光軸とのなす角度を広げる向きに、前記垂線に対して傾いていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るラマン散乱光測定装置は、
試料が載置される試料載置面と、金属製の先端を有する探針と、前記試料に近接又は接触した前記探針の先端へ光を照射する照射部と、前記試料から発生するラマン散乱光を集光するレンズと、該レンズが集光したラマン散乱光を検出する検出部とを備えるラマン散乱光測定装置において、前記レンズ及び前記探針は、前記試料載置面に対する正面側の位置に配置され、前記レンズは、前記試料載置面の垂線に対して光軸を傾けて配置されており、前記探針は、前記垂線に対して傾いており、前記照射部から前記探針の先端へ照射される光の偏光方向と前記探針の中心軸の方向とが略一致することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るラマン散乱光測定装置は、
前記探針の中心軸と前記光軸とのなす角度は、前記光軸と前記垂線とがなす角度よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明に係るラマン散乱光測定装置は、前記レンズは、前記探針の先端へ前記照射部が照射する光を集光するためのレンズを兼ねていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るラマン散乱光測定装置は、前記探針の先端へ前記照射部が照射する光を集光する第2のレンズを更に備え、前記レンズ、前記第2のレンズ及び前記探針は、前記レンズの光軸、前記第2のレンズの光軸、前記探針の中心軸及び前記垂線が同一平面に含まれるように配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るラマン散乱光測定装置は、前記探針の先端へ前記照射部が照射する光を集光する第2のレンズを更に備え、前記探針及び前記第2のレンズは、前記探針の中心軸と前記第2のレンズの光軸とが略直交するように配置されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るラマン散乱光測定装置は、前記レンズ、前記第2のレンズ及び前記探針は、前記レンズの光軸、前記第2のレンズの光軸、前記探針の中心軸及び前記垂線が同一平面に含まれるように配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るラマン散乱光測定装置は、前記レンズと前記第2のレンズとは同一であることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、ラマン散乱光測定装置は、試料載置面に載置された試料に探針の金属製の先端を近接又は接触させ、探針の先端へ光を照射し、先端増強ラマン散乱を発生させ、ラマン散乱光をレンズで集光し、検出部で検出する。レンズは、試料載置面に対して正面側に配置されており、試料載置面の垂線に対して光軸を傾けている。探針は試料載置面の垂線に対して傾いている。これにより、探針が試料載置面に垂直に配置されている場合に比べて、探針の先端とレンズとの間に位置している探針の部分が減少する。このため、試料上の探針の先端が近接又は接触した部分で発生したラマン散乱光が探針の一部によって吸収又は反射される割合が低下し、レンズでラマン散乱光を集光する効率が向上する。
【0016】
本発明においては、探針の中心軸とレンズの光軸とのなす角度は、レンズの光軸と試料載置面の垂線とのなす角度よりも大きい。これにより、探針の先端とレンズとの間に位置している探針の部分がより減少し、レンズでラマン散乱光を集光する効率がより向上する。
【0017】
本発明においては、探針の中心軸の方向と探針の先端へ照射する光の偏光方向とを一致させる。探針が振動する方向は偏光方向と同じ方向であるので、局在プラズモンが発生してラマン散乱光が増強される位置が探針の先端からずれることがほとんど無くなる。ラマン散乱光が増強される位置とレンズとの間に位置している探針の部分が可及的に小さくなり、レンズでラマン散乱光を集光する効率が可及的に大きくなる。
【0018】
本発明においては、探針の中心軸と探針の先端へ照射する光を集光する第2のレンズの光軸とを直交させる。これにより、探針の中心軸の方向と探針の先端へ照射する光の偏光方向とを容易に一致させる。
【0019】
本発明においては、レンズの光軸、探針の中心軸及び試料載置面の垂線が同一平面に含まれる。この状態では、そうではない状態に比べて、探針の中心軸とレンズの光軸とのなす角度がより大きくなり、探針の先端とレンズとの間に位置している探針の部分が減少し、レンズでラマン散乱光を集光する効率がより向上する。
【0020】
本発明においては、ラマン散乱光を集光するレンズと、探針の先端へ照射する光を集光する第2のレンズとは同一である。一つのレンズで二種類のレンズの役割を兼ねることにより、ラマン散乱光測定装置は構成が簡略化される。
【発明の効果】
【0021】
本発明にあっては、ラマン散乱光を集光する効率が向上し、どのような試料であってもラマン散乱光を高感度で測定することが可能になる等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ラマン散乱光測定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】探針の先端、レンズ及び試料載置面の位置関係を示す模式図である。
【
図3A】中心軸が試料載置面に対して垂直な探針のモデル及び光路のモデルを示すモデル図である。
【
図3B】探針の中心軸が試料載置面に対して垂直な場合に検出面へ入射する光の強度分布の計算結果を示す分布図である。
【
図4A】中心軸が試料載置面の垂線に対して傾いた探針のモデル及び光路のモデルを示すモデル図である。
【
図4B】探針の中心軸が試料載置面の垂線に対して30°傾いている場合に検出面へ入射する光の強度分布の計算結果を示す分布図である。
【
図5A】中心軸が試料載置面に対して垂直な探針の先端のモデル及び集光されるレーザ光の偏光方向を示すモデル図である。
【
図5B】
図5Aに示すモデルから得られた、検出面へ入射する光の強度分布の計算結果を示す分布図である。
【
図6A】中心軸が試料載置面の垂線に対して傾いた探針の先端モデル及び集光されるレーザ光の偏光方向を示すモデル図である。
【
図6B】
図6Aに示すモデルから得られた、検出面へ入射する光の強度分布の計算結果を示す分布図である。
【
図7】探針の中心軸が試料載置面に対して垂直な条件で計算した、中心軸に沿った方向の電場強度の二次元分布及び一次元分布を示す図である。
【
図8】探針の中心軸が試料載置面の垂線に対して30°傾いた条件で計算した、中心軸に沿った方向の電場強度の二次元分布及び一次元分布を示す図である。
【
図9】中心軸、光軸及び垂線が同一平面に含まれていない場合の探針の先端、レンズ及び試料載置面の位置関係を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、ラマン散乱光測定装置の構成を示すブロック図である。ラマン散乱光測定装置は、試料6が載置される試料台3と、探針1と、レーザ光を照射する照射部51と、照射部51からのレーザ光を、試料6に近接又は接触した探針1の先端へ集光するレンズ2とを備えている。試料台3は、試料載置面31を有している。探針1は、AFM(Atomic Force Microscope )又はSTM(Scanning Tunneling Microscope )等のSPM(Scanning Probe Microscope )用の探針である。探針1の先端は、ナノスケールの金属構造体で構成されている。なお、探針1の先端は、金属製であればよく、非金属製の先端にメッキ又は蒸着等により金属を被覆させたものであってもよい。また、レーザ光は探針1の先端付近へ集光されてもよい。また、
図1には粒状の試料6を示したが、試料6は平板状等の任意の形状を取り得る。
【0024】
探針1は、カンチレバー41の端部に設けられている。ラマン散乱光測定装置は、カンチレバー41を動かす駆動部42と、レーザ光源43と、光センサ44と、信号処理部45と、制御部55とを備えている。駆動部42は、カンチレバー41を動かすことによって、探針1を試料載置面31上の試料
6へ近づける。レーザ光源43は、カンチレバー41へレーザ光を照射し、光センサ44は、カンチレバー41から反射したレーザ光を検出し、検出結果を示す信号を信号処理部45へ出力する。
図1中には、レーザ光を破線矢印で示している。探針1の先端が試料6に近接又は接触した場合、原子間力によってカンチレバー41がたわみ、光センサ44でレーザ光を検出する位置がずれ、信号処理部45はカンチレバー41のたわみを検出する。カンチレバー41のたわみ量の変化は、探針1と試料6表面との距離の変化に対応する。信号処理部45は、カンチレバー41のたわみが一定になるように、駆動部42の動作を制御する。制御部55は、信号処理部45の動作を制御して、探針1の移動を制御する。なお、ラマン散乱光測定装置は、探針1と試料6との間に流れる電流を計測し、計測した電流に基づいて探針1の移動を制御する構成であってもよい。
【0025】
ラマン散乱光測定装置は、更に、ビームスプリッタ52と、分光器53と、光を検出する検出器(検出部)54とを備えている。照射部51が照射したレーザ光は、ビームスプリッタ52を透過し、レンズ2で集光され、探針1の先端が近接又は接触した試料6へ照射される。試料6上で探針1の先端が近接又は接触した部分では、先端増強ラマン散乱が生起する。発生したラマン散乱光は、レンズ2で集光され、ビームスプリッタ52で反射され、分光器53へ入射する。
図1中では、試料6へ照射されるレーザ光及びラマン散乱光を実線矢印で示している。ラマン散乱光測定装置は、レーザ光及びラマン散乱光の導光、集光及び分離のためにミラー、レンズ及びフィルタ等の多数の光学部品からなる光学系を備えている。
図1では、レンズ2及びビームスプリッタ52以外の光学系を省略している。分光器53は、入射されたラマン散乱光を分光する。検出器54は、分光器53が分光した夫々の波長の光を検出し、夫々の波長の光の検出強度に応じた信号を制御部55へ出力する。レンズ2は、角度及び位置を変更することが可能になっている。制御部
55は、検出器54での光の検出効率が適切になるように、レンズ2の角度及び位置を制御することができる。また、制御部55は、分光器53が分光する光の波長を制御し、検出器54が出力した信号を入力され、分光した光の波長と入力された信号が示す光の検出強度とに基づいてラマンスペクトルを生成する。このようにして、先端増強ラマン散乱が測定される。
【0026】
図2は、探針1の先端、レンズ2及び試料載置面31の位置関係を示す模式図である。
図2中には、探針1の中心軸11を破線で示し、レンズ2の光軸21を
二点鎖線で示し、試料載置面31に垂直な垂線32を二点鎖線で示している。レンズ2は、試料載置面31に対向する位置に配置されている。即ち、探針1及びレンズ2は、試料載置面31に対して正面側の位置に配置されている。ここで、試料載置面31に対する正面側の位置とは、試料載置面31を含む面を境界にして空間を二つの部分空間に分割したときに、試料載置面31に載置される試料6が含まれる部分空間内の位置である。レンズ2は、試料載置面31の垂線32に対して光軸21を傾けて配置されている。探針1は、中心軸11が試料載置面31に垂直な状態から、中心軸11と光軸21とのなす角度を広げる向きに傾いている。これにより、探針1の中心軸11とレンズ2の光軸21とのなす角度は、レンズ2の光軸21と試料載置面31の垂線32とのなす角度よりも大きくなっている。探針1及びレンズ2がこのように配置されていることにより、中心軸11が試料載置面31に垂直になるように探針1が配置されている場合に比べて、探針1の先端とレンズ2との間に位置している探針1の部分が減少する。このため、試料6上の探針1の先端が近接又は接触した部分で発生したラマン散乱光が探針1の一部によって吸収又は反射される割合が低下し、レンズ2でラマン散乱光を集光する効率が向上する。従って、ラマン散乱光測定装置は、発生したラマン散乱光を高感度で測定することが可能である。
【0027】
また、ラマン散乱光測定装置は、特許文献1に開示された技術でラマン散乱光を測定できない試料についても、発生したラマン散乱光を高感度で測定することが可能である。例えば、不透明で厚みのある試料上で先端増強ラマン散乱を生起させ、発生したラマン散乱光を測定することができる。また、試料を透明基板に載せ換える前処理を必要とせずに、発生したラマン散乱光を測定することが可能である。例えば、任意の基板上に成長させた試料上で先端増強ラマン散乱を生起させ、発生したラマン散乱光を測定することができる。従って、本実施形態に係るラマン散乱光測定装置は、どのような試料であっても、試料上で先端増強ラマン散乱を生起させ、発生したラマン散乱光を高感度で測定することが可能である。
【0028】
本実施形態に係るラマン散乱光測定装置では、レンズ2の光軸21、探針1の中心軸11及び試料載置面31の垂線32が同一平面に含まれるように探針1及びレンズ2が配置されていることが望ましい。光軸21、中心軸11及び垂線32が同一平面に含まれている状態では、そうではない状態に比べて、中心軸11と光軸21とのなす角度がより大きくなり、探針1の先端とレンズ2との間に位置している探針1の部分が減少する。このため、ラマン散乱光が探針1の一部によって吸収又は反射される割合がより低下し、レンズ2でラマン散乱光を集光する効率がより向上し、ラマン散乱光測定装置は、ラマン散乱光をより高感度で測定することが可能である。また、光軸21、中心軸11及び垂線32が同一平面に含まれるように探針1及びレンズ2が配置されていることにより、ラマン散乱光測定装置は、構成が簡略化され、小型化が可能になる。
【0029】
また、本実施形態に係るラマン散乱光測定装置では、探針1の中心軸11とレンズ2の光軸21とが直交していることが望ましい。レンズ2で集光されるレーザ光の偏光方向は、光軸21に直交する方向になるので、中心軸11と光軸21とが直交することによって、偏光方向と中心軸11の方向とが一致する。探針1が振動する方向は偏光方向と同じ方向であるので、偏光方向と中心軸11の方向とが一致しない場合は、局在プラズモンの発生する位置が探針1の先端からずれる。このため、探針1の先端よりもレンズ2から遠い位置で局在プラズモンが発生することがある。この場合は、探針1の先端に局在プラズモンが発生する場合に比べて、局在プラズモンが発生してラマン散乱光が増強される位置とレンズ2との間に位置している探針1の部分が増加し、レンズ2でラマン散乱光を集光する効率が低下する。偏光方向と中心軸11の方向とが一致する場合は、探針1の先端で局在プラズモンが発生するので、ラマン散乱光が増強される位置とレンズ2との間に位置している探針1の部分が最小となり、レンズ2でラマン散乱光を集光する効率が最大になる。また、偏光方向と中心軸11の方向とが一致して探針1の先端に局在プラズモンが発生することにより、発生する電場の強度が大きくなり、ラマン散乱光は最大に増強される。従って、ラマン散乱光測定装置は、ラマン散乱光を可及的に高感度で測定することが可能である。また、中心軸11と光軸21とを直交させることにより、偏光方向と中心軸11の方向とを一致させるための光学系が簡素な構成となり、ラマン散乱光測定装置を小型化できる。
【0030】
なお、探針1の中心軸11とレンズ2の光軸21とが完全に直交しておらずとも、ほぼ直交していれば、ラマン散乱光測定装置は、同様に、ラマン散乱光を可及的に高感度で測定することが可能である。また、ラマン散乱光測定装置は、探針1の中心軸11とレンズ2の光軸21とを直交させずに、他の光学素子を用いて、レンズ2で集光されるレーザ光の偏光方向と中心軸11の方向とを一致させる形態であってもよい。
【0031】
また、本実施形態に係るラマン散乱光測定装置では、レンズ2は、照射部51が照射するレーザ光を探針1の先端へ集光するためのレンズ(第2のレンズ)と、試料6から発生するラマン散乱光を集光するためのレンズとを兼ねている。レンズ2が二種類のレンズの役割を兼ねていることにより、ラマン散乱光測定装置は、構成が簡略化され、小型化が可能になる。なお、ラマン散乱光測定装置は、ラマン散乱光を集光するためのレンズとレーザ光を探針1の先端へ集光するための第2のレンズとを別々に備えた形態であってもよい。
【0032】
本実施形態による効果を検証するためのシミュレーションを行った。まず、探針1の中心軸11が試料載置面31の垂線32に対して傾いていることの効果を検証したシミュレーションの結果を説明する。シミュレーションは、光路解析ソフトウェアのZemaxを用いて行った。
図3Aは、中心軸11が試料載置面31に対して垂直な探針1のモデル及び光路のモデルを示すモデル図である。探針1は、先端角30°の円錐としてモデル化した。探針1の先端から発生する光の光路を計算した。発生する光の波長は、550〜700nmの範囲に含まれる4種類の波長とした。発生する光のパワーは1Wとした。矩形平面状で有限の大きさの検出面22を設定し、検出面22へ入射する光の強度を計算した。検出面22の法線は試料載置面31の垂線32に対して60°傾いている。検出面22の法線は、ラマン散乱光を集光するレンズ2の光軸21に対応する。
図3A中には、検出面22へ入射する光の光路を示している。検出面22へ入射する光は、試料載置面31の垂線32に対して光軸21が60°傾いたレンズ2によって集光され、検出器54で検出されるラマン散乱光に対応する。
図3Bは、探針1の中心軸11が試料載置面31に対して垂直な場合に検出面22へ入射する光の強度分布の計算結果を示す分布図である。色が濃いところほど、光の強度が大きいことを示す。強度分布中の強度を合計することにより、検出面22へ入射する光のパワーを計算した。探針1の中心軸11が試料載置面31に対して垂直な場合、検出面22へ入射する光のパワーは2.58×10
-1Wであった。
【0033】
図4Aは、中心軸11が試料載置面31の垂線32に対して傾いた探針1のモデル及び光路のモデルを示すモデル図である。探針1の中心軸11は垂線32に対して30°傾いている。中心軸11、垂線32及びレンズ2の光軸21は同一平面に含まれており、中心軸11と光軸21とは直交している。図中には、検出面22へ入射する光の光路を示している。
図4Bは、探針1の中心軸11が試料載置面31の垂線32に対して30°傾いている場合に検出面22へ入射する光の強度分布の計算結果を示す分布図である。色が濃いところほど、光の強度が大きいことを示す。強度分布中の強度を合計することにより、検出面22へ入射する光のパワーを計算した。中心軸11が垂線32に対して30°傾いている場合、検出面22へ入射する光の合計パワーは2.70×10
-1Wであった。中心軸11が試料載置面31に対して垂直な場合に比べて、検出面22へ入射する光の強度が向上している。中心軸11を垂線32に対して傾けることによって、探針1の先端とレンズ2との間に位置している探針1の部分が減少し、レンズ2でラマン散乱光を集光する効率が向上することが示された。
【0034】
次に、探針1の先端に集光されるレーザ光の偏光方向と探針1の中心軸11の方向とが一致することによる効果を検証したシミュレーションの結果を説明する。シミュレーションは、同様に、光路解析ソフトウェアのZemaxを用いて行った。
図5Aは、中心軸11が試料載置面31に対して垂直な探針1の先端のモデル及び集光されるレーザ光の偏光方向を示すモデル図である。探針1は、先端角10°の円錐としてモデル化した。探針1の先端は、直径5μmの球としてモデル化した。探針1の先端のモデルを先端モデル12と言う。レンズ2が集光するレーザ光の偏光方向は探針1の中心軸11と方向が一致している。図中には、偏光方向を矢印で示している。中心軸11が試料載置面31に対して垂直であり、偏光方向は中心軸11と方向が一致していることにより、電場が集中し局在プラズモンが誘起される位置は探針1の先端の直下となる。先端増強ラマン散乱はこの位置で発生する。この位置から発生する光の光路を計算した。図中には光の光路を示している。発生する光の波長は、550〜700nmの範囲に含まれる4種類の波長とした。発生する光のパワーは1Wとした。
図5Aに示すように、光の一部は先端モデル12によって遮蔽されている。検出面22を設定し、検出面22へ入射する光の強度を計算した。
図5Bは、
図5Aに示すモデルから得られた、検出面22へ入射する光の強度分布の計算結果を示す分布図である。色が濃いところほど、光の強度が大きいことを示す。強度分布中の強度を合計することにより、検出面22へ入射する光のパワーを計算した。探針1の中心軸11が試料載置面31に対して垂直な場合、検出面22へ入射する光のパワーは1.16×10
-1Wであった。
【0035】
図6Aは、中心軸11が試料載置面31の垂線32に対して傾いた探針1の先端モデル12及び集光されるレーザ光の偏光方向を示すモデル図である。探針1の中心軸11は垂線32に対して30°傾いている。レンズ2が集光するレーザ光の偏光方向は探針1の中心軸11と方向が一致している。図中には、偏光方向を矢印で示している。偏光方向が中心軸11と方向が一致していることにより、電場が集中し局在プラズモンが誘起される位置は探針1の先端である。中心軸11が試料載置面31の垂線32に対して傾いていることにより、電場が集中し局在プラズモンが誘起される位置は、
図5Aに示した中心軸11が試料載置面31に垂直な場合に比べて、より試料載置面31から離れた位置になっている。この位置から発生する光の光路を計算した。図中には光の光路を示している。
図6Bは、
図6Aに示すモデルから得られた、検出面22へ入射する光の強度分布の計算結果を示す分布図である。色が濃いところほど、光の強度が大きいことを示す。
図5Bに示した中心軸11が試料載置面31に垂直な場合に比べて、検出面22内のより広い範囲に入射する光が分布している。強度分布中の強度を合計することにより、検出面22へ入射する光のパワーを計算した。中心軸11が垂線32に対して30°傾いている場合、検出面22へ入射する光の合計パワーは3.91×10
-1Wであった。中心軸11が試料載置面31に対して垂直な場合に比べて、検出面22へ入射する光の強度が大幅に向上している。探針1の先端に集光されるレーザ光の偏光方向と探針1の中心軸11の方向とが一致する状態で中心軸11を試料載置面31の垂線32に対して傾けることにより、ラマン散乱光が増強される位置とレンズ2との間に位置している探針1の部分が減少し、レンズ2でラマン散乱光を集光する効率が向上することが示された。
【0036】
更に、探針1の先端に集光されるレーザ光の偏光方向と探針1の中心軸11の方向とが一致することによって強い電場が得られる効果を検証したシミュレーションの結果を説明する。試料載置面31の垂線32に対して光軸21が60°傾いたレンズ2によって探針1の先端へ直線偏光を集光することにより発生する電場を、ベクトル解析理論を用いて計算した。
図7は、探針1の中心軸11が試料載置面31に対して垂直な条件で計算した、中心軸11に沿った方向の電場強度の二次元分布及び一次元分布を示す図である。
図8は、探針1の中心軸11が試料載置面31の垂線32に対して30°傾いた条件で計算した、中心軸11に沿った方向の電場強度の二次元分布及び一次元分布を示す図である。即ち、
図8に示す計算結果は、探針1の中心軸11とレンズ2の光軸21とが直交しており、集光されるレーザ光の偏光方向と中心軸11の方向とが一致する条件での計算結果である。
【0037】
図7及び
図8は、電場強度の試料載置面31に沿った分布を示している。夫々の二次元分布の横軸及び縦軸はピクセル数を示し、ピクセルが明るいほどその位置での電場強度が高いことを示す。ピクセルは正方形であり、一辺の長さは100nmである。一次元分布は、二次元分布上で電場強度が最大になる直線上の電場強度の分布である。夫々の一元分布の横軸はピクセル数を示し、縦軸は任意単位を示す。
図7に示す電場の最大強度は任意単位で10であり、
図8に示す電場の最大強度は任意単位で13である。即ち、探針1の先端に集光される直線偏光の偏光方向と探針1の中心軸11の方向とが一致する場合は、一致していない場合に比べて、探針1の先端に生じる電場強度が大きくなる。電場強度が大きいので、ラマン散乱光はより増強されることになる。従って、探針1の先端に集光されるレーザ光の偏光方向と探針1の中心軸11の方向とを一致させることにより、発生する電場の強度が大きくなり、ラマン散乱光が大きく増強されることが示された。
【0038】
なお、本実施形態においては、探針1の中心軸11、レンズ2の光軸21及び試料載置面31の垂線32が同一平面に含まれている形態を主に説明したが、ラマン散乱光測定装置は、光軸21、中心軸11及び垂線32が同一平面に含まれていない形態であってもよい。
図9は、中心軸11、光軸21及び垂線32が同一平面に含まれていない場合の探針1の先端、レンズ2及び試料載置面31の位置関係を示す模式的平面図である。
図9は、試料載置面31を上から見た図を示し、試料載置面31の垂線32は
図9に対して直交している。探針1の中心軸11及びレンズ2の光軸21は、夫々に、垂線32に対して傾斜しており、垂線32と非直角に交差する。
図9中には、中心軸11及び垂線32を含む平面と試料載置面31とに直交し、探針1の先端を通る平面33を破線で示している。
【0039】
図9に示すような、中心軸11、光軸21及び垂線32が同一平面に含まれていない場合であっても、中心軸11及び光軸21が夫々に垂線32に対して傾斜してあれば、ラマン散乱光測定装置は、先端増強ラマン散乱を生起させ、発生したラマン散乱光を高感度で測定することが可能である。但し、光軸21が平面33よりも中心軸11に近づいた場合は、探針1の先端とレンズ2との間に位置している探針1の部分が増加し、レンズ2でラマン散乱光を集光する効率が低下する。ラマン散乱光を集光する効率を高く保つために、レンズ2の探針1に対する相対位置は、光軸21が中心軸11から平面33よりも離れるような位置であることが望ましい。即ち、レンズ2は、
図9中のハッチングで示した範囲に光軸21が位置するように配置されていることが望ましい。