特許第6670277号(P6670277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6670277金型摩耗性に優れたCu−Ni−Si系銅合金
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  • 特許6670277-金型摩耗性に優れたCu−Ni−Si系銅合金 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670277
(24)【登録日】2020年3月3日
(45)【発行日】2020年3月18日
(54)【発明の名称】金型摩耗性に優れたCu−Ni−Si系銅合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20200309BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20200309BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20200309BHJP
【FI】
   C22C9/06
   !C22F1/08 P
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630F
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-176315(P2017-176315)
(22)【出願日】2017年9月14日
(65)【公開番号】特開2019-52343(P2019-52343A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2018年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】北川 寛之
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/125153(WO,A1)
【文献】 特開2016−191146(JP,A)
【文献】 特開2012−224898(JP,A)
【文献】 特開2013−047360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/06
C22F 1/08
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Ni:2.0〜5.0%、Si:0.3〜1.5%含有し、Ni/Si比が1.3以上6.7以下であり、残部がCu及び不可避不純物からなり、0.2%耐力YSが700MPa以上であり、直径0.5〜0.6μmの第1のNi−Si粒子が0.04×10〜1.4×10個/mm、直径0.5μm未満の第2のNi−Si粒子の個数が前記第1のNi−Si粒子の個数以上4.0×10個/mm未満、かつ直径0.6μmを超えるNi−Si粒子の個数が前記第1のNi−Si粒子の個数以下であるCu−Ni−Si系銅合金。
【請求項2】
降伏比YS/TSが0.9以上、加工硬化係数n値が0.05以下である、請求項1に記載のCu−Ni−Si系銅合金。
【請求項3】
更にMg、Mn、Sn、Zn及びCrの群から選ばれる少なくとも1種以上を総量で0.005〜1.0質量%含有する請求項1に記載のCu−Ni−Si系銅合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコネクタ、端子、リレ−、スイッチ等の導電性ばね材に好適なCu−Ni−Si系銅合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、端子やコネクタの材料として、固溶強化型合金である黄銅やりん青銅が用いられてきた。ところで、電子機器の高性能化に伴い、使用される銅合金には高電流化が求められている。そこで、従来の固溶強化型の銅合金に比べ、強度、電気伝導性および熱伝導性に優れた析出強化型の銅合金が使用されてきている。析出強化型の銅合金は、溶体化処理された過飽和固溶体を時効処理することにより、微細な析出物が均一に分散して、合金の強度が高くなると共に、銅中の固溶元素量が減少して電気伝導性が向上する。このため、強度、ばね性などの機械的性質に優れ、しかも電気伝導性、熱伝導性が良好となる。
【0003】
析出強化型銅合金として、Cu−Ni−Si系銅合金が開発されている(特許文献1)。しかし、一般にCu−Ni−Si系銅合金は、連続プレス加工におけるプレス打抜き面のせん断面が大きく、金型中のパンチ等の工具が材料と接触する面積が増加するため、摩耗が促進される。このため、金型のメンテナンス頻度が高くなって生産性が低下する問題があり、その抑制が望まれている。
【0004】
そこで、近年、コルソン合金の金型摩耗性を改善する技術として、析出物の個数と分布を制御する方策が提唱されている。例えば、特許文献2の発明では(1)熱間圧延(2)冷間圧延(3)溶体化処理(4)時効処理(5)最終冷間圧延(6)歪取焼鈍をこの順番で含む工程で、熱間圧延最終パス終了後の冷却を開始温度300〜450℃で実施し、溶体化処理前の冷間圧延を1パス当たりの平均圧延率を15〜30%にて総圧延率を70%以上で実施し、溶体化処理を800〜900℃で60〜120秒間で実施し、時効処理を400〜500℃で7〜14時間で実施する。
これにより、表面の粒径20〜80nmのNi−Si析出物粒子の個数を1.5×10〜5.0×10個/mm、表面の粒径100nmを超えるNi−Si析出物粒子の個数が0.5×10〜4.0×10個/mmに制御し、表面からの厚みが全板厚みの20%である表面層における粒径20〜80nmのNi−Si析出物粒子の個数をa個/mm2、前記表面層より内方部分における粒径20〜80nmのNi−Si析出物粒子の個数をb個/mmとした場合に、a/bが0.5〜1.5になるように制御し、耐金型磨耗性を改善している。
【0005】
特許文献3の発明では、(1)鋳造(10〜30℃/秒の冷却速度で鋳造)(2)再熱処理(850〜950℃で2〜8時間)(3)熱間圧延(終了温度680〜780℃、圧延時間180〜450秒、冷却時間40〜180℃/秒)(4)面削(5)冷間圧延(6)溶体化処理(950℃で20秒、その後直ちに水焼入れ)(7)時効熱処理(温度425〜500℃、時間1〜6時間で実施)(8)冷間圧延(圧延率10%)をこの順番で含む工程で実施する。
これにより、(a)(NiとSiを合計で50mass%以上含む3種類の金属間化合物A(直径:0.3μm以上2μm以下)、B(直径:0.05μm以上0.3μm未満)、C(直径:0.001μmを越え0.05μm未満))、(b)(銅合金板材の圧延方向に垂直な断面における結晶粒径の横長さx(μm)と縦長さy(μm)が、関係式[x/y≧2]を満たす)および、(c)(化合物Aの分散密度a、前記金属間化合物Bの分散密度bおよび前記金属間化合物Cの分散密度cが、関係式[a/(b+c)≦0.010]および[0.001≦(b/c)≦0.10]を満足する)、を満足するよう制御し、耐金型磨耗性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2011/068134号
【特許文献2】国際公開第WO2013/094061号
【特許文献3】特開2008−95185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のCu−Ni−Si系銅合金は耐金型磨耗性を改善するが、より強度が高い領域での検討が十分になされていなかった。
これらの事情を鑑みて、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、金型摩耗性に優れるCu−Ni−Si系銅合金の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
析出強化型のCu−Ni−Si系銅合金は、時効処理によってnmレベルの粒径のNi−Si粒子を析出物として大量に析出させるが、強度の向上に寄与しない微細なμmレベルの粒径のNi−Si粒子も多く存在する。
本発明者は、Niの含有量が2.0%以上かつNi/Si比が1.3以上6.7以下であり、0.2%耐力YSが700MPa以上の高強度である場合、Cu−Ni−Si系銅合金の材料をプレス加工した際に、材料の表面及び破面に存在するμmレベルのNi−Si粒子が金型と接触すると、その粒子を起点にひっかき摩耗が発生することを発見した。そして、直径0.5〜0.6μmのNi−Si粒子の個数が引っかき傷の個数と相関があることがわかった。そこで、直径0.5〜0.6μmのNi−Si析出物を抑制することで金型摩耗性を向上できることを見出した。
更に、製品の引張強度TS(MPa)と0.2%耐力YS(MPa)の比である降伏比YS/TSが0.9以上であり、加工硬化指数n値(以下、n値)が0.05以下である場合に、さらに耐金型磨耗性が向上することを見出した。
【0009】
又、直径0.5μm未満のNi−Si粒子の個数が直径0.5〜0.6μmのNi−Si粒子の個数より少なくなると凝着摩耗が促進され、直径0.6μmを超えるNi−Si粒子の個数が直径0.5〜0.6μmのNi−Si粒子の個数より多くなるとひっかき摩耗が促進されることも判明した。
なお、Niの含有量が2.0%未満であり、0.2%耐力YSが700MPa未満の場合は、Ni−Si粒子の個数が金型摩耗性に影響を与える現象は顕著にみられなかった。
【0010】
そして、nmレベルの粒径のNi−Si粒子であれば、溶体化および時効処理の条件を制御して調整できるが、μmレベルのNi−Si粒子を制御しようとすると、過時効等を行わなければならず、強度等の特性を損ねてしまう。そこで、熱間圧延条件を制御して熱間圧延直後のNi−Si粒子の直径と個数を規制することを見出した。
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のCu−Ni−Si系銅合金は、質量%で、Ni:2.0〜5.0%、Si:0.3〜1.5%含有し、Ni/Si比が1.3以上6.7以下であり、残部がCu及び不可避不純物からなり、0.2%耐力YSが700MPa以上であり、直径0.5〜0.6μmの第1のNi−Si粒子が0.04×10〜1.4×10個/mm、直径0.5μm未満の第2のNi−Si粒子の個数が前記第1のNi−Si粒子の個数以上4.0×10個/mm未満、かつ直径0.6μmを超えるNi−Si粒子の個数が前記第1のNi−Si粒子の個数以下である。


【0012】
降伏比YS/TSが0.9以上、加工硬化係数n値が0.05以下であることが好ましい。
本発明のCu−Ni−Si系銅合金は、更にMg、Mn、Sn、Zn及びCrの群から選ばれる少なくとも1種以上を総量で0.005〜1.0質量%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金型摩耗性に優れるCu−Ni−Si系銅合金が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】金型摩耗を定量化するためのパンチの摩耗面積を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るCu−Ni−Si系銅合金について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0016】
(組成)
[Ni、Co及びSi]
銅合金中にNi:2.0〜5.0%、Si:0.3〜1.5%含有しNi/Si比が1.3以上6.7以下である。Ni及びSiは、適当な熱処理を施すことにより金属間化合物を形成し,導電率を劣化させずに強度を向上させる。
Ni及びSiの含有量が上記範囲未満であると、強度の向上効果が得られず、上記範囲を超えると導電性が低下すると共に熱間加工性が低下する。
Ni/Si比が1.3未満の場合、及びNi/Si比が6.7を超える場合は、いずれも導電率が著しく低下する。
【0017】
[他の添加元素]
合金中に、更にMg、Mn、Sn、Zn及びCrの群から選ばれる少なくとも1種以上を総量で0.005〜1.0質量%含有してもよい。
Mgは強度と耐応力緩和特性を向上させる。Mnは強度と熱間加工性を向上させる。Snは強度を向上させる。Znは半田接合部の耐熱性を向上させる。Crは、Niと同様にSiと化合物を形成するため、析出硬化により導電率を劣化させずに強度を向上させる。
なお、上記した各元素の総量が上記範囲未満であると上記した効果が得られず、上記範囲を超えると導電率の低下を招く場合がある。
【0018】
[Ni−Si粒子]
Cu−Ni−Si系銅合金に含まれる直径0.5〜0.6μmの第1のNi−Si粒子(析出物)が0.04×10〜1.4×10個/mmである。
第1のNi−Si粒子は、上述のように金型のひっかき摩耗を生じさせる。
従って、第1のNi−Si粒子の個数が少ない方が良いが、Cu−Ni−Si系銅合金の単位面積当たり、第1のNi−Si粒子が0.04×10個/mm未満の場合、金型へCu−Ni−Si系銅合金が凝着する凝着摩耗が促進される。
【0019】
ここで、Ni−Si粒子はプレス時に応力集中し、クラックの起点となるため、Ni−Si粒子が大きいか、多数分布しているほど材料のせん断面に対する割合が少なくなる。これは、Ni−Si粒子の個数が多いほど応力集中部分が多く、早期にクラックが進展するため、材料のせん断面に対する割合は小さくなるためである。そして、せん断面はプレス中の金型と接触する面であるため、その面積が増えると金型と材料の接触時間が長くなり、材料から金型へ凝着物が付着しやすくなる。
一方、第1のNi−Si粒子が1.4×10個/mmを超えると、金型のひっかき摩耗が促進される。
【0020】
Cu−Ni−Si系銅合金に含まれる直径0.5μm未満の第2のNi−Si粒子の個数が、第1のNi−Si粒子の個数以上、かつ4.0×10個/mm未満である。
第2のNi−Si粒子の個数が第1のNi−Si粒子の個数より少なくなると凝着摩耗が促進される。一方、第2のNi−Si粒子の個数が4.0×10個/mm以上になると、ひっかき摩耗が促進される。
【0021】
ここで、第2のNi−Si粒子の個数による金型摩耗への影響は第1のNi−Si粒子の個数による金型摩耗への影響と同様であるため、第2のNi−Si粒子の個数が少ないと凝着摩耗が促進され、個数が多いとひっかき摩耗が促進される。
なお、第2のNi−Si粒子の個数の増減は、第1のNi−Si粒子の個数の増減につれて変化する傾向にある。
【0022】
第1〜第2のNi−Si粒子の粒径及び個数は、Cu−Ni−Si系銅合金の圧延平行断面を研磨し,エッチング後に、FE−SEM(電解放射型走査電子顕微鏡)を用いて1500〜5000倍程度の倍率の像をもとに測定する。粒子解析ソフト及びEDS(エネルギー分散型X線分析)を用いて上記画像中の成分を測定し、母材成分と異なる成分で構成される粒子を第1〜第3のNi−Si粒子とみなす。各粒子のそれぞれの粒径を測定し、画像処理ソフト(例えば、アメリカ国立衛生研究所が公開しているImageJ)を使用して個数を数える。ここで、析出物に外接する円の直径を各Ni−Si粒子の粒径とする。
【0023】
Cu−Ni−Si系銅合金の降伏比YS/TSが0.9以上であり、加工硬化係数(n値)が0.05以下であると好ましい。
降伏比YS/TSの値が0.9以上であると、TSとYSの差が小さいため、伸び始めるとすぐに破断する。すなわち、降伏比が高いと材料がプレス中にすぐ破断することで、金型と材料の接触時間が短くなり、耐金型磨耗性が向上する。
また、加工硬化係数(n値)は材料の均一伸びと相関のある値である。この値が小さいほど材料をプレスした際に、打ち抜きまでに必要な塑性変形領域が小さくなる。すなわち、n値が0.05以下であると、金型と材料の接触時間が短くなるため、耐金型磨耗性が向上する。
【0024】
なお、加工硬化係数(n値)は次のようにして求める。
引張試験において試験片を引張り、荷重を負荷すると、弾性限度を越えて最高荷重点に達するまでの塑性変形域では試験片各部は一様に伸びる(均一伸び)。この均一伸びが発生する塑性変形域では真応力σtと真ひずみεtの間には式1
σt=Kεtn
の関係が成立し、これをn乗硬化則という。「n」を加工硬化係数とする(須藤一:材料試験法、内田老鶴圃社、(1976)、p.34)。nは0≦n≦1の値をとり、nが大きいほど加工硬化の程度が大きく、局所的な変形を受けた部分が加工硬化した際に他の部分に変形が移り、くびれが生じにくくなる。このため、n値が大きい材料は一様な伸びを示す。
【0025】
降伏比とn値はそれぞれ仕上げ圧延加工度と相関があり、後述する仕上げ圧延の圧延加工度を制御することで、降伏比とn値を調整できる。
【0026】
仕上げ圧延の圧延加工度が10%未満である場合、降伏比は0.9より小さくなり、n値は0.05より大きくなる。仕上げ圧延の圧延加工度が10%以上15%未満である場合は、加工硬化によりYSの値が増加することで降伏比が0.9以上となるので好ましい。一方でn値は、0.05より大きいままである。
仕上げ圧延の圧延加工度が15%以上30%以下である場合、降伏比は0.9以上となり、均一伸びが低下することでn値は0.05以下となり、最も好適な条件となる。
【0027】
仕上げ圧延の圧延加工度が30%を超えて40%以下の範囲では、TSと比較してYSの強度が早期に飽和することから降伏比が0.9未満となり、n値は0.05以下となる。圧延加工度が40%を超えても同様の傾向であるが、降伏比がより小さくなることで金型摩耗性は悪化する。
【0028】
[0.2%耐力]
Cu−Ni−Si系銅合金の圧延平行方向の0.2%耐力は、例えば700MPa以上である。0.2%耐力を700MPa以上とすると、強度が向上する。
なお、引張強さは、JIS−Z2241に従い引張試験して求める。引張試験の条件は、試験片幅12.7mm、室温(15〜35℃)、引張速度5mm/min、ゲージ長さ50mmとした。
【0029】
[伸び]
Cu−Ni−Si系銅合金の圧延平行方向の伸びは、例えば13%以下である。伸びの下限は特に制限されないが、例えば1%である。
又、伸びは、破断伸びであり、引張試験機により、JIS−Z2241に従い、上述の引張強さを測定するのと同時に測定した。そして、試験片が破断したときの標点間の長さL(ゲージ長さ)と、試験前の標点距離L0との差を%で求めた。
引張試験の条件は、試験片幅12.7mm、室温(15〜35℃)、引張速度5mm/min、ゲージ長さL=50mmで、銅箔の圧延方向に引張試験する。
【0030】
[導電率]
Cu−Ni−Si系銅合金の導電率(%IACS)は、例えば30以上である。
【0031】
<製造方法>
本発明のCu−Ni−Si系銅合金は、通常、インゴットを熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、仕上げ圧延、歪取焼鈍の順で行って製造することができる。溶体化処理前の冷間圧延や再結晶焼鈍は必須ではなく、必要に応じて実施してもよい。
【0032】
<熱間圧延>
ここで、熱間圧延後で冷間圧延前の材料中の直径1.0μm以上3.5μm以下の第3のNi−Si粒子が3.5×10〜8.5×10個/mmの範囲内となるよう、熱間圧延を設定する。これは、溶体化および時効処理の条件を調整してμmレベルのNi−Si粒子を制御しようとすると、過時効等を行わなければならず、強度等の特性を損ねてしまうからである。
直径1.0μm以上3.5μm以下の第3のNi−Si粒子の個数を制御することは、最終製品の第1のNi−Si粒子の個数を制御することに対応する。
第3のNi−Si粒子が3.5×10個/mm未満であると、第1のNi−Si粒子が0.04×10個/mm未満となり、凝着摩耗が促進する。第3のNi−Si粒子が8.5×10個/mmを超えると、第1のNi−Si粒子が1.4×10個/mm以上となり、ひっかき摩耗が促進される。
第3のNi−Si粒子の直径及び個数を規制するための熱間圧延の条件としては、例えば熱間圧延温度800〜1000℃、保持時間1〜5hの範囲で調整することができる。
【実施例1】
【0033】
大気溶解炉中にて電気銅を溶解し、必要に応じて表1に示す添加元素を所定量投入し、溶湯を攪拌した。その後、鋳込み温度1200℃にて鋳型に出湯し、表1に示す組成の銅合金インゴットを得た。インゴットを熱間圧延し、板厚を10mmとした。その後、面削、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、低温熱処理、仕上げ圧延の順に行い、板厚0.05〜0.4mmの試料を得た。仕上げ冷間圧延の後に200℃〜500℃の温度範囲で1秒〜1000秒間歪取焼鈍を行った。
なお、熱間圧延は1000℃で3時間行い、溶体化処理を700〜900℃で行った。時効処理は400℃〜550℃で1〜15時間の範囲で、仕上げ圧延後の引張強さが最大となる温度及び時間で行い、仕上げ圧延は加工率10〜40%の範囲で実施した。
【0034】
<評価>
得られた試料について以下の項目を評価した。
[導電率]
歪取焼鈍後の圧延平行方向の試料について、JISH0505に準拠し、ダブルブリッジ装置を用いた四端子法により求めた体積抵抗率から導電率(%IACS)を算出した。
[引張強さ]
歪取焼鈍後の試料につき、引張方向が圧延方向と平行になるように、プレス機を用いてJIS13B号試験片を作製した。JIS−Z2241に従ってこの試験片の引張試験を行ない、引張強さTSを測定した。引張試験の条件は、試験片幅12.7mm、室温(15〜35℃)、引張速度5mm/min、ゲージ長さL=50mmで、銅箔の圧延方向に引張試験した。
【0035】
[伸び]
上記引張試験により、破断伸びを求めた。試験片が破断したときの標点間の長さLと、試験前の標点距離L0との差を%で求めて伸びとした。
【0036】
[ひっかき摩耗評価]
パンチキズ数:5mm角のパンチを使用し、各試料の圧延平行方向を長手方向として5×15mmに切り出した試料10枚に対し、それぞれ1ショット(計10ショット)打ち抜いた後のパンチ側面についたキズの数を目視で計数した。パンチキズ数が20個以下であれば、金型のひっかき摩耗が少なく、金型摩耗性に優れる。
【0037】
[凝着摩耗評価]
凝着摩耗の判定はボールオンディスク式の摩擦摩耗試験機を使用して行った。試験は、荷重1N、摺動距離125mで実施し、ボール(相手材)の材質はSUJ2とした。
摩耗試験前後にボールの摺動部断面のプロファイルをレーザー顕微鏡で測定し、摺動部の長さ1μm以上の部位につき、試験前に比べて試験後の断面プロファイルの高さが高くなった場合に、凝着摩耗が生じたと判断した。
【0038】
[金型摩耗性の評価]
金型磨耗性は、上記のひっかき摩耗評価、凝着摩耗評価のみでは判断できず、材料の機械的特性にも影響を受ける。これらの影響を総合的に判断するため、タレットパンチプレス機を使用し、200×300mm切り出した試料5枚に対して、各試料を10万ショット打ち抜いた後のパンチ刃の摩耗量を測定することで金型摩耗性を評価した。パンチ刃の摩耗量は、プレス前を基準として測定した。
円筒形のパンチを使用し、クリアランスは板厚の5%、プレス速度は290shot/minとし、パンチの押し込み深さは板厚の50%に設定した。また、パンチとダイはそれぞれ硬度の異なるものを使用し、パンチの硬度がダイの硬度の60〜80%の値となるよう設定した。
【0039】
パンチ刃の摩耗量は、レーザー顕微鏡を使用し、図1に示すように、プレス前のパンチ刃の断面プロファイルP1とプレス後のパンチ刃の断面プロファイルP2の間で高低差が生じた面積S1を摩耗した面積とみなし、その面積を算出した。図1の符号Dはプレス方向を示す。以下の基準で金型摩耗性を評価した。評価が○であれば、金型摩耗性が優れており、◎であればさらに優れていることを示す。
◎:摩耗面積が1000μm以下
○:摩耗面積が1000μmを超え1500μm未満
×:摩耗面積が1500μm以上
【0040】
得られた結果を表1、表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1、表2から明らかなように、第1のNi−Si粒子〜第2のNi−Si粒子の個数を所定範囲内に規制した各実施例の場合、金型摩耗性に優れていた。また、仕上げ圧延の加工度が15〜30%のものはさらに金型摩耗性に優れ、降伏比YS/TSが0.9以上、加工硬化係数n値が0.05以下となった。これは、金型と材料の接触時間が減少したためと考えられる。
なお、仕上げ圧延の加工度が10%以上15%未満の実施例5、7、9の場合、降伏比が0.9以上となったものの、n値は、0.05より大きかった。又、仕上げ圧延の加工度が30%を超えて40%以下の実施例2、3、10、11の場合、n値が0.05以下となったものの、降伏比が0.9より小さかった。但し、これらの実施例も実用上、問題はない。
【0044】
一方、第1のNi−Si粒子が1.4×10個/mmを超え、第2のNi−Si粒子の個数が4.0×10個/mm以上になった比較例1〜4および比較例6の場合、パンチキズ数が20個を超え、金型のひっかき摩耗が促進されて金型摩耗性が劣った。
第1のNi−Si粒子が0.04×10個/mm未満、第2のNi−Si粒子の個数が第1のNi−Si粒子の個数未満の比較例5の場合、凝着摩耗が促進されて金型摩耗性が劣った。
図1