(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
亜鉛表面を有する金属部材の連続表面処理用の水性アルカリ浴溶液からの亜鉛イオンの選択的除去のための方法であって、前記水性アルカリ浴溶液はシステムタンク内に貯蔵され、ここで、該水性アルカリ浴溶液は
a)少なくとも50mg/kgの鉄(III)イオン;
b)少なくとも50mg/kgの亜鉛(II)イオン;ならびに
c)水溶性濃縮ホスフェートの形態ならびに/あるいは-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/nから選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物の形態の錯化剤Y[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]
を含有し;
鉄(III)イオンと亜鉛(II)イオンの総量に対するリン元素に換算した錯化剤Yのモル比は1.0より大きく、
該浴溶液の一部を、-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/n[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有する交換対象のアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]から選択される官能基を担持しているイオン交換樹脂と接触させることを特徴とする方法。
亜鉛表面とアルミニウム表面を有する金属部材の湿式化学的表面処理のための方法であって、前記部材は、アルカリ浴溶液と接触させることにより連続的に湿式化学的に前処理され、
該アルカリ浴溶液は、システムタンク内に貯蔵され、
a)水溶性濃縮ホスフェートの形態ならびに/あるいは-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/nから選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物の形態の錯化剤Y[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]ならびに
b)鉄(III)イオン
を含有し、
該湿式化学的前処理における該アルカリ浴溶液のpH値は10より大きく、遊離アルカリ度は少なくとも0.5ポイントであるが50ポイント未満であり、ここで、該システムタンクの該アルカリ浴溶液中の溶存態亜鉛の濃度の下記最大値Znmaxは:
Znmax = 0.0004 ×(pH - 9)× [FA] + 0.6 × [Y]
pH:pH値
Znmax:溶存態亜鉛の濃度の最大値(単位:mmol/l)
[FA]:遊離アルカリ度(単位:mmol/l)
[Y]:P2O6として計算される水溶性濃縮ホスフェートの形態ならびに/あるいは-COOX1/n、-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/nから選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物の形態の錯化剤Yの濃度(単位:mmol/l)[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]
を超えず;
該湿式化学的前処理における最大値Znmaxの超過は、該システムタンクの該アルカリ浴溶液の少なくとも一部を、-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/n[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有する交換対象のアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]から選択される官能基を担持しているイオン交換樹脂と接触させること、ならびに該イオン交換樹脂と接触させた該アルカリ浴溶液の該一部を続いて、該システムタンクに戻すことにおいて抑制されることを特徴とする方法。
該接触させることが、システムタンクから空間的に離れた容器内で行われ、具体的な浴溶液の一部を、該接触させることの後に、該システムタンク内に不連続的または連続的にフィードバックすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
具体的な浴溶液の一部を該イオン交換樹脂と接触させるために該具体的な浴溶液の一部を供給開口部から該容器内に供給し、該具体的な浴溶液の一部を該イオン交換樹脂と接触させた後に排出開口部から送出すること[ここで、該イオン交換樹脂は該容器内に残ったままである]を特徴とする、請求項8に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
金属部品を、さらに加工処理する前に洗浄剤処理および表面コンディショニングすることは、金属加工業界における標準的な作業である。金属部品は、例えば、顔料泥、粉塵、金属残屑、防食油、冷却潤滑油または成形助剤によって汚れ得る。さらなる加工処理の前、例えば、腐食防止処理(ホスフェート処理、クロメート処理、フッ化物錯体との反応など)の前は特に、このような汚染物質は適当な洗浄剤処理溶液によって除去されなければならない。また、洗浄剤処理は、金属表面がその後の腐食防止処理のためにプレコンディショニングされることを確実にするものであるのがよい。プレコンディショニングは、金属表面の活性化の一類型であり、これは、特に、その後の湿式化学的化成処理の場合、充分な層厚を有する均一な無機系の防食皮膜をもたらすものである。かかるプレコンディショニングまたは活性化は、酸洗プロセスによって開始され、また、金属表面を前述の金属元素で被覆することを含むものであってもよい。その後の化成処理の場合に腐食防止特性の改善をもたらす先行技術において知られたプレコンディショニングは、例えば、亜鉛メッキ鋼のアルカリ鉄皮膜処理であり、これはDE102010001686に詳細に記載されている。
【0003】
化成処理前の湿式化学的前処理として、工業用洗浄剤または活性化浴が、例えば前述の鉄皮膜処理の場合、アルカリ性となるように、および7より大きい、例えば9〜12の範囲のpH値を有するように一般的に設定される。その塩基性成分は、溶存態鉄イオンに加えてアルカリ類と錯化剤である。洗浄剤には、多くの場合、非イオン界面活性剤および/または陰イオン界面活性剤がさらなる補助成分として含有されている。
【0004】
前記浴中のアルカリ類は、例えば、このアルカリ類が脂肪分などの汚染物質をケン化し、前記汚染物質を水溶性にするという点において、その洗浄能に寄与するか、またはこのアルカリ類が金属表面を酸洗するという点において、表面活性化に寄与する。アルカリ度は、かかる反応によって、場合によってはすくい出しによって消耗し、したがって、洗浄剤処理効果が部材の連続表面処理の場合において経時的に減弱される。したがって、洗浄剤処理浴のアルカリ度を一定間隔で確認し、必要であれば、新たに活性成分を溶液に添加するか、または溶液を完全に交換することが典型的である。かかるアルカリ度のリフレッシュ法はEP1051672に記載されている。これは、消耗またはすくい出しされる金属部材の連続アルカリ鉄皮膜処理における浴の鉄イオンおよび錯化剤の場合と同様である。
【0005】
したがって、金属部材の連続表面処理のための工業的方法において、洗浄剤処理浴、活性化浴および化成浴の維持は、一貫性のある機能性と品質を確保するために不可欠である。しかしながら、湿式化学的アルカリ前処理とその後の化成処理を含む金属部材の連続表面処理の場合、個々の浴単独の活性成分の含有量をリフレッシュさせることは、通常、プロセス全体の機能性と品質を持続的に維持するには充分でないことがわかった。金属部材のかかる連続表面処理の場合、多くの場合、アルミニウム表面上の糸状腐食がプラントの一定の稼働時間後に悪化し、活性成分の添加による糸状腐食のこの悪化に対する対抗措置は不充分であることがわかった。
【0006】
しかしながら、洗浄剤処理溶液または鉄皮膜処理溶液の品質と機能性は、酸洗侵食により、亜鉛(II)濃度、金属部材にアルミニウム表面が存在する場合は溶液中のアルミニウム(III)濃度の付随する上昇のため、既に低減され得る。遊離の亜鉛イオンまたはアルミニウムイオンは鉄皮膜形成、特に、その後のプロセス、例えば、ホスフェート処理および顔料添加を障害し、被処理金属表面全体の耐食性を低下させる。
【0007】
したがって、WO2014/0675234には、遊離亜鉛イオンの最大濃度は、その後のプロセスの品質を確保するために超過しないのがよいと教示されている。工業用洗浄剤処理溶液および鉄皮膜処理溶液からの亜鉛(II)イオンの除去のために硫化ナトリウムの計量式添加することがWO2014/0675234に記載されている。かかる薬剤の添加は亜鉛イオンの濃度を有効に安定化および調節し得るが、亜鉛イオンを硫化亜鉛の形態で除去するための硫化物の使用は、多くの場合、副反応としての硫化水素の形成によって引き起こされる臭気の生成のため望ましくない。
【0008】
しかしながら、多価金属カチオン、特に、亜鉛、鉄およびアルミニウムイオンと錯体形成し、それにより、表面上の酸洗侵食を加速させる錯化剤、例えば、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP;CAS番号2809-21-4)の計量式添加では、該プロセスによって引き起こされる溶液中の高い亜鉛イオン含有量の解決には条件付きでしか適していない。HEDPは、亜鉛(II)イオンに加えてアルミニウム(III)と鉄(III)イオンにも非特異的に結合し、したがって、亜鉛とアルミニウムの両方を充分に溶液中でその錯体の形態で維持するために必要な遊離HEDPの量は、劇的に増大するはずであり、酸洗および鉄皮膜処理プロセスの有効性と経済性の両方が害されることになる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明での意味において、化合物は、1μScm
-1以下の導電率を有する脱イオン水中の20℃の温度における溶解度が少なくとも1g/lである場合、水溶性である。
【0012】
本発明によれば、連続表面処理は、多種類の金属部材と、湿式化学的前処理のためのシステムタンク内に貯蔵されたアルカリ浴溶液との接触を、個々の金属部材の各前処理後にシステムタンクのアルカリ浴溶液の新たな調製物との完全な交換を行うことなくもたらすものである。
【0013】
本発明によれば、用語「システムタンク」は、金属部材と接触させるための浴溶液を貯蔵する容器を意味すると理解されたい。金属部材を浴溶液と接触させるために、金属部材を、かかるシステムタンク中に、浸漬状態のまま通過させてもよく、少なくとも該浴溶液の一部をシステムタンク外から、前記浴溶液を金属部材と接触させるために一時的に供給し、次いで、接触させた後、例えば噴霧適用後、少なくとも一部をシステムタンク内にフィードバックしてもよい。
【0014】
したがって、活性構成成分として鉄(III)イオンおよび錯化剤Yと、金属部材から酸洗除去されたある量の亜鉛イオンとを含有するアルカリ浴溶液からの亜鉛イオンの選択的除去のための方法は、特定のイオン交換樹脂による加工処理に基づいたものである。驚くべきことに、錯化剤Yの存在下において、鉄(III)イオンが浴内の溶液中に残存したまま、亜鉛イオンのみが除去される。
【0015】
亜鉛イオンの前記選択的除去のためには、鉄イオンと亜鉛イオンに対して錯化剤Yの官能基がモル過剰であることが確保されるように、浴溶液中における鉄(III)イオンと亜鉛(II)イオンの総量に対するリン元素に換算した錯化剤Yのモル比が1.5より大きい、好ましくは2.0より大きい場合、好都合であることがわかった。他方で、浴溶液中におけるモル比がもっと高いと効率性が低くなる。それは、この場合、一般的なアルカリ度の溶液中で鉄イオンと亜鉛イオンを均一に維持するために、必要であるよりもかなり多くの錯化剤が使用されるためである。むしろ、目的は錯化剤Yの考えられ得る最も経済的な使用であり、これは、本発明による方法では、浴溶液中におけるイオン交換樹脂による亜鉛イオンの選択的除去および付随する未結合錯化剤の再生のため、確保される。したがって、亜鉛イオンの選択的除去のための本発明による方法の浴溶液中における鉄(III)イオンと亜鉛(II)イオンの総量に対するリン元素に換算した錯化剤Yのモル比は好ましくは5.0以下、特に好ましくは4.0以下、特別に好ましくは3.0以下である。
【0016】
また、亜鉛イオンの選択的除去のための本発明による方法において、有機系錯化剤Yが、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/n官能部に対してαまたはβ位に、さらに、アミノ、ヒドロキシルまたはカルボキシル基を含有している、好ましくはヒドロキシル基を含有している、特に好ましくはヒドロキシル基を含有しているがアミノ基は含有していない、特別に好ましくは、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/nから選択される少なくとも2つのかかる官能基を有する水溶性有機化合物から選択されることも好ましい。有機系錯化剤Yの特に好ましい代表的な一例は1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)である。
【0017】
概して、亜鉛イオンの選択的分離のための本発明による方法では、有機系錯化剤Yは高分子化合物ではなく、したがって、有機系錯化剤Yのモル質量は好ましくは500g/mol未満であることが好ましい。
【0018】
本発明による方法での浴溶液からの亜鉛イオンの考えられ得る最も効率的な除去のためには、イオン交換樹脂は、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/nから選択される官能基を、該イオン交換樹脂1キログラムあたり好ましくは少なくとも1.0mol、特に好ましくは合計で少なくとも1.5mol、特別に好ましくは合計で少なくとも2.0molで有するものである。
【0019】
本発明によれば、イオン交換樹脂が亜鉛イオンに、アルカリ浴溶液中に含有されている錯化剤Yよりも特に少なくとも2倍、好ましくは10倍強く結合する官能基を担持しているものである場合も好ましく、特に好都合である。これにより、イオン交換樹脂により錯体形成亜鉛イオンが浴溶液から除去されること、したがって、例えば、浴溶液中に含有されている錯化剤が再生されることも可能になる。
【0020】
イオン交換樹脂の官能基は、亜鉛イオンに対して高親和性を有すると同時にイオン(III)イオンに対しては低親和性を有するものでなければならない。これは、特に、亜鉛表面の鉄皮膜処理のための表面処理にアルカリ浴溶液が使用される亜鉛イオンの選択的除去のための本発明による方法に当てはまる。かかるアルカリ浴溶液において、鉄(III)画分は活性構成成分であり、これは、本発明による方法において、浴溶液中にできるだけ完全に残っているのがよく、イオン交換樹脂には結合されないのがよい。
【0021】
したがって、イオン交換樹脂の官能基は鉄(III)イオンに、アルカリ浴溶液中に含有されている錯化剤よりも特に少なくとも2倍、好ましくは10倍弱く結合するものであることが好ましい。これにより、Fe(III)イオンの濃度に有意に影響を及ぼすことなく浴溶液からZn(II)イオンを特異的に枯渇させるイオン交換体を使用することが可能になる。これは、特に、該溶液の鉄皮膜処理特性が有意に影響を受けることなく亜鉛イオン濃度がこのように特異的に調節され得るため、好都合である。
【0022】
結合強度は、これとの関連において相対的表現として使用され、特に、錯体形成対象の金属イオンに対する錯化剤の錯体形成定数K
Aに関するものである。錯体形成定数は、錯体形成の個々の素反応、すなわち、配位子結合の連続する個々の工程の平衡定数の積である。したがって、例えば、2倍強い結合は、対応する錯化剤の錯体形成定数K
Aが参照値の2倍大きいことを意味する。固相基材に結合させる本発明による錯化剤の場合であっても、錯体形成定数は常に、溶液中の錯化剤の対応する値に関するものである。
【0023】
これとの関連において、かかる官能基を有し、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/n基に対してαまたはβ位に、さらにアミノ、ヒドロキシルまたはカルボキシル基を有する、特に好ましくはアミノ基を有する、特別に好ましくはアミノ基を有するがヒドロキシル基は有していないイオン交換樹脂を使用することによる亜鉛イオンの選択的分離のための方法が好ましい。特に好ましい一実施形態では、イオン交換樹脂の官能基が、アミノアルキルホスホン酸基から、好ましくはアミノメチルホスホン酸基から、特に好ましくは基-NR
1-CH
2-PO
3X
2/nから選択され、ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有する交換対象のアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかであり、R
1は水素原子または好ましくは6個以下の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルもしくはアリール基である。
【0024】
イオン交換樹脂のマトリックスは既知のポリマーであり得る。例えば、マトリックスは、架橋ポリスチレン、例えばポリスチレン-ジビニルベンゼン樹脂からなるものであり得る。亜鉛イオンの選択的分離のための本発明による方法では、モノマーであるスチレン、ジビニルベンゼンに基づくおよび/またはフェノール-ホルムアルデヒド縮合物に基づくポリマー主鎖がイオン交換樹脂として好ましく、モノマーであるスチレンおよび/またはジビニルベンゼンに基づくポリマー主鎖がイオン交換樹脂として特に好ましい。
【0025】
極めて好ましい一実施形態では、イオン交換樹脂が、キレート性アミノメチルホスホン酸基と架橋ポリスチレンマトリックスを有するものである。かかるイオン交換樹脂は、US4,002,564(第2欄12行目〜第3欄41行目)に詳細に記載されており、本発明において好ましい。
【0026】
使用されるイオン交換樹脂は、好ましくは水不溶性の固形物、特に粒状形態のもの、特に好ましくは、0.2〜2mmの範囲、特に好ましくは0.4〜1.4mmの範囲の好ましいビーズ直径を有するビーズの形態のものである。これにより、イオン交換樹脂を該イオン交換樹脂と接触させたアルカリ浴溶液の一部から分離することが可能になり、該アルカリ浴溶液の該一部は続いて、例えば、濾過、または例えば、サイクロンまたは遠心分離機による他の慣用的な分離方法によって該システムタンクに戻される。あるいはまた、イオン交換樹脂を容器内に提供してもよく、イオン交換樹脂と接触させ、続いてシステムタンクに戻されるアルカリ浴溶液の一部が該容器から流出し、これはイオン交換樹脂に再保持される。
【0027】
本発明の種々の実施形態において、イオン交換樹脂は、少なくとも10g/l、特に少なくとも20g/lの溶存態亜鉛に対する樹脂容量を有するものである。
【0028】
また、亜鉛イオンを担持しているイオン交換樹脂は再生され得る、すなわち、亜鉛イオンが不可逆的に結合されていないことも好ましい。再生方法は、使用される樹脂に依存し、先行技術においてよく知られている。ここで、用語「再生」は、イオン交換樹脂に結合している亜鉛イオンが、過剰に使用されている置き換えイオンによって置き換えられ、該置き換えの結果、イオン交換樹脂が再度、アルカリ浴溶液からの溶存態亜鉛の選択的除去のための錯化剤として利用可能になるこという。
【0029】
亜鉛イオンの選択的除去のための本発明による方法において、アルカリ浴溶液はイオン交換樹脂と、不連続的に接触させても連続的に接触させてもよい。浴溶液の一部をイオン交換樹脂と指定された時間、接触させるか、または浴溶液の一部をイオン交換体と一定時間、連続的に接触させるかのいずれかである。本発明による方法において、該接触させることは、好ましくは、例えば、イオン交換樹脂を保持している容器中に浴溶液を流すことにより連続的に行われる。
【0030】
したがって、浴溶液の一部を、システムタンクから空間的に離れた容器内のイオン交換樹脂と接触させ、前記該浴溶液の一部を、該イオン交換樹脂との接触させた後に該システムタンク内に不連続的または連続的に、特に連続的にフィードバックする、亜鉛イオンの選択的除去のための方法が好ましい。
【0031】
この目的のため、好ましくは、該浴溶液の一部をイオン交換樹脂と接触させるために浴溶液の一部を供給開口部から該容器内に供給し、該浴溶液の一部を該イオン交換樹脂と接触させた後に排出開口部から送出させる(ここで、該イオン交換樹脂は該容器内に残ったままである)(いわゆる、バイパス法)。
【0032】
亜鉛イオンの選択的除去は、本発明によるこの方法では、広範な量の鉄(III)イオンで可能である。しかしながら、浴溶液中の鉄(III)イオンの含有量は好ましくは2g/kgを超えない、特に好ましくは1g/kg以下である。他方で、対応する表面処理における金属部材の亜鉛表面の充分な鉄皮膜処理の目的のため、好ましくは少なくとも100mg/kg、特に好ましくは少なくとも200mg/kgの鉄(III)イオンが、亜鉛イオンの選択的除去のための本発明による方法でのアルカリ浴溶液中に含有されているのがよい。
【0033】
さらに、これとの関連において、すなわち、金属部材の亜鉛表面の充分な鉄皮膜処理のため、少なくとも9、特に好ましくは少なくとも10のpH値を有し、遊離アルカリ度が好ましくは少なくとも0.5ポイントであるが好ましくは50ポイント未満である浴溶液から亜鉛イオンが選択的に除去される場合が好都合である。
【0034】
亜鉛イオンが選択的に除去されるべき本発明による湿式化学的表面処理用のアルカリ浴溶液の遊離アルカリ度は、10mlの浴溶液を0.1N水酸化ナトリウム溶液で8.5のpH値まで滴定することによって測定される。pH値は電位差滴定により、較正ガラス電極を用いて測定される。このとき、添加された滴定剤の容量(単位:ミリリットル)が浴溶液の遊離アルカリ度のポイント数に対応する。前記ポイント数に10を乗算したものが、さらに、単位:ミリモル/リットルでの遊離アルカリ度に対応する。
【0035】
先行技術において一般的な活性成分が、本発明の浴溶液のアルカリ度の設定に使用される。かかる活性成分は、アルカリ性様式で反応する物質であり、好ましくは、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属ホスフェートおよび有機アミン、特にアルカノールアミンから選択される。
【0036】
アルカリ浴溶液からの亜鉛イオンの選択的除去のための本発明による方法は、主に、金属部材の表面処理に適した浴溶液に関するものであるため、アルカリ浴溶液が、好ましくは水中に0.6g/kg以下、特に好ましくは0.4g/kg以下の溶存態アルミニウムを含有するものである方法が好ましいが、上記のこのような濃度のため、該アルカリ浴溶液によって得られる表面コンディショニングは、特に、アルミニウム表面をさらに有する金属部材では、その後の化成被覆の腐食防止特性に関してあまり有効でない。
【0037】
第2の態様において、本発明は、亜鉛表面とアルミニウム表面を含む金属部材の連続湿式化学的表面処理のための方法であって、得られる腐食防止の有効性と品質に関して最適化されており、アルカリ浴溶液が鉄皮膜処理に使用され、亜鉛イオンの濃度が指定の閾値より下に維持される方法に関する。前記第2の態様において、本発明は、金属部材の湿式化学的表面処理のための方法であって、該金属部材は、亜鉛表面とアルミニウム表面を有するか、またはある部材は亜鉛表面および別の部材はアルミニウム表面を有し、前記部材をアルカリ浴溶液に接触させることによって連続的に湿式化学的に前処理され、該アルカリ浴溶液は、システムタンク内に貯蔵され、
a)水溶性濃縮ホスフェートの形態ならびに/あるいは-COOX
1/n、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/n(ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである)から選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物の形態の錯化剤Y[ここで、該錯化剤は特にHEDPである]、ならびに
b)鉄(III)イオン、好ましくは少なくとも50mg/kg、特に好ましくは少なくとも100mg/kg、特別に好ましくは少なくとも200mg/kgの鉄(III)イオンだが好ましくは、2g/kg以下、特に好ましくは1g/kg以下の鉄(III)イオン
を含有し、
該湿式化学的前処理における該アルカリ浴溶液のpH値は10より大きく、遊離アルカリ度は少なくとも0.5ポイントであるが50ポイント未満であり、ここで、該システムタンクの該アルカリ浴溶液中の溶存態亜鉛の濃度の下記最大値Zn
maxは:
Zn
max = 0.0004 ×(pH - 9)× [FA] + 0.6 × [Y]
pH:pH値
Zn
max:溶存態亜鉛の濃度の最大値(単位:mmol/l)
[FA]:遊離アルカリ度(単位:mmol/l)
[Y]:P
2O
6として計算される水溶性濃縮ホスフェートの形態ならびに/あるいは-COOX
1/n、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/nから選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物の形態の錯化剤Yの濃度(単位:mmol/l)[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]
を超えず;
該湿式化学的前処理における最大値Zn
maxの超過は、該システムタンクの該アルカリ浴溶液の少なくとも一部を、該アルカリ浴溶液の該一部から溶存態亜鉛を除去するために亜鉛結合性イオン交換樹脂と接触させることならびに該亜鉛結合性イオン交換樹脂を接触させた該アルカリ浴溶液の該一部を続いて、該システムタンクに戻すことにおいて抑制される
方法に関する。
【0038】
本発明の前記第2の態様によれば、用語「亜鉛結合性イオン交換樹脂」は、亜鉛表面を有する金属部材の表面処理用のアルカリ浴溶液からの亜鉛イオンの選択的分離のための本発明による(本発明のこの第1の態様により記載した)方法にも使用される同じイオン交換樹脂を意味すると理解されたい。したがって、第1の態様にイオン交換樹脂に関して記載した好ましい実施形態は、本発明の第2の態様に関しても好ましい。
【0039】
アルカリ浴溶液での前処理およびその後の化成処理を含む本発明による表面処理のための方法では、亜鉛表面を有する部材、好ましくはアルミニウム表面を有する部材も、好ましくは、亜鉛表面とアルミニウム表面を有する混合設計の部材が処理される連続表面処理において、高品質腐食防止層の形成が維持されることが確保される。これは、特に、アルミニウム表面である部材の表面上の防食皮膜の品質の維持に当てはまる。WO2014/0675234に記載のように、特に、アルカリ浴溶液中の溶存態亜鉛の濃度はこれに極めて重要であり、したがって、本発明による表面処理では、制御対象の制御可変量となる。溶存態亜鉛の最大濃度Zn
maxが超過している場合、前処理において部材のアルミニウム表面の充分な活性化が行われず、これは、化成層の形成に対して不都合な効果を有する。驚くべきことにここに、亜鉛結合性イオン交換樹脂を定量様式で添加することにより、アルカリ浴溶液中に含有されている溶存態亜鉛が選択的に錯体形成され得、したがって、該浴溶液から前処理の活性構成成分を除去することなく除去され得ることがわかり、該前処理は、特に、亜鉛表面の鉄皮膜処理をもたらすものであるのがよい。
【0040】
本発明の第2の態様による方法の一例では、湿式化学的前処理のアルカリ浴溶液の厳密な組成に関係なく、部材の亜鉛表面からのかなりの酸洗除去がもたらされる。本発明による連続表面処理における前記酸洗除去のため、湿式化学的前処理のシステムタンク内には、高い静的画分の溶存態亜鉛が存在するか、または蓄積される。
【0041】
したがって、本発明によれば、化成処理が行われた後の最適な腐食防止を持続的に確保するため、プロセス制御において、システムタンクの浴溶液中の溶存態亜鉛画分を除去または低減させるための技術的措置が取られる。具体的には、アルカリ浴溶液の少なくとも一部を亜鉛結合性イオン交換樹脂と接触させることにより溶存態亜鉛を除去するか、またはその濃度を低減させる。この除去は、連続的に行われても不連続的に行われてもよく、ここでは連続除去が好ましい。本発明による方法によれば、システムタンクのアルカリ浴溶液の一部を処分し、該アルカリ浴溶液の活性成分のみを含有している該アルカリ浴溶液の別の一部を該システムタンクに添加することにより、溶存態亜鉛は排他的には除去されない。
【0042】
これとの関連において、用語「活性成分」は、浴溶液のアルカリ度の設定に必須である成分のみ、または外添元素もしくは化学物質化合物を有する被処理部材の有意な表面皮膜をもたらし、したがって消耗される成分のみを意味すると理解されたい。例えば、金属表面上の外添元素画分または化学物質化合物画分が平均で10mg/m
2より多い場合、有意な表面皮膜が存在している。例えば、これは、DE102010001686によるアルカリ鉄皮膜処理の場合のように、湿式化学的前処理を行った後に外添元素の鉄に関して10mg/m
2より多い表面皮膜がもたらされる場合、鉄(III)イオンは、したがって、かかるアルカリ前処理における活性構成成分である。この事例は、処理対象の金属表面に対して高親和性を有し、したがって、対応する表面皮膜をもたらし得る腐食抑制剤と類似したものであり得る。
【0043】
したがって、最大値Zn
maxに従うためのアルカリ浴溶液からの溶存態亜鉛の除去は、好ましくは、該システムタンクと浴容量の該アルカリ浴溶液の活性成分のみを置き換える水溶液を添加することによりシステムタンク内のすくい出し減損分または蒸発減損分の補給することによってのみ、行われるのではない。溶存態亜鉛画分の低減のためのかかる方法は、最大値Zn
maxより下までの亜鉛画分の低減または必要に応じた厳密な活性成分の補給のいずれかをプロセス制御において優先しなければならないであろうことから、極めて高価であり得、前処理における溶存態亜鉛画分の有効な制御には適さないものであり得る。本発明によれば、硫化亜鉛として沈殿させることによって溶存態亜鉛を除去するための硫化物の使用をなしですませることもまた好ましい。したがって、溶存態亜鉛を沈殿させるための硫化ナトリウムは、好ましくは、本発明による方法では使用されない。
【0044】
連続表面処理に関して、本発明の第2の態様による方法の一例では、少なくとも、下記条件:
V
B:浴容量(単位:m
3)
Zn
max:溶存態亜鉛の最大濃度(単位:mmol/l)
M
Zn:亜鉛のモル質量(単位:g/mol)
Δm
Zn:金属部材の亜鉛表面に対する面積標準化酸洗除去量(単位:g/m
2)
より大きい該金属部材の亜鉛表面のみの総面積(単位:平方メートル)が、システムタンクのアルカリ浴溶液で湿式化学的に前処理されるような金属部材の量に対して、金属部材の連続湿式化学的表面処理が行われることが好ましい。
【0045】
前記量は、連続前処理における部材の亜鉛表面からの酸洗除去によってアルカリ浴溶液中の溶存態亜鉛の最大濃度Zn
maxの超過が引き起こされ得る金属部材の理論的必要量に厳密に対応する。
【0046】
したがって、アルカリ浴溶液を含むシステムタンクの浴容量が完全に交換され、したがって、前述の式に従って計算された亜鉛表面の総面積が処理される前に連続操作が中断される場合、アルカリ浴溶液中の溶存態亜鉛の最大濃度Zn
maxは、単に酸洗プロセスの結果として超過し得ない。もちろん、これは、連続操作の開始時点で溶存態亜鉛が、既にアルカリ浴溶液中に含有されていない場合にのみ当てはまる。
【0047】
湿式化学的表面処理のための本発明による方法は好ましくは、アルカリ浴溶液中の溶存態亜鉛の最大値Zn
maxが、以下の値:
Zn
max = 0.0004 ×(pH - 9)× [FA] + 0.5 × [Y]
pH:pH値
Zn
max:溶存態亜鉛の濃度の最大値(単位:mmol/l)
[FA]:遊離アルカリ度(単位:mmol/l)
[Y]:P
2O
6として計算される水溶性濃縮ホスフェートの形態ならびに/あるいは-COOX
1/n、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/nから選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物の形態の錯化剤Yの濃度(単位:mmol/l)、ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである
を超えないような様式で行われる。
【0048】
湿式化学的表面処理のための本発明による方法では、溶存態亜鉛の最大値Zn
maxは、湿式化学的前処理のアルカリ度および特に、具体的な錯化剤Yの濃度に依存する。前記錯化剤Yの存在下では、溶存態亜鉛に対する許容度が前記錯化剤Yの濃度に比例して増大する。したがって、本発明による方法における前処理のアルカリ浴溶液中における錯化剤Yの存在は好ましい。錯化剤Yは特に好ましくは、少なくとも0.5mmol/lの総濃度、特別に好ましくは少なくとも5mmol/lの総濃度で含有されるが、経済的理由から、好ましくは100mmol/l以下、特に好ましくは80mmol/l以下の総濃度で含有される。
【0049】
特に、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/n(ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである)から選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物から選択される有機系錯化剤Yが、溶存態亜鉛の上限としての安定な最大濃度Zn
maxを確実にすることがわかった。したがって、前記有機系錯化剤が本発明による方法において好ましい。さらに、亜鉛結合性イオン交換樹脂による亜鉛イオンの選択的除去(この除去の場合、鉄(III)イオンは溶液中に残っている)には、表面処理方法における有機系錯化剤Yが、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/n官能部に対してαまたはβ位に、さらにアミノ、ヒドロキシルまたはカルボキシル基を含有している、好ましくはヒドロキシル基を含有している、特に好ましくは、ヒドロキシル基を含有しているがアミノ基は含有していない、特別に好ましくは、-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/nから選択される少なくとも2つのかかる官能基を有する水溶性有機化合物から選択されることが好ましい。有機系錯化剤Yの特に好ましい代表的な一例は1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)である。
【0050】
一般に、有機系錯化剤Yは高分子化合物ではなく、有機系錯化剤Yのモル質量は好ましくは500g/mol未満であることが好ましい。
【0051】
連続湿式化学的表面処理のための本発明による特に好ましい方法の一例では、アルカリ浴溶液は:
a)0.05〜2g/lの鉄(III)イオン、
b)0.1〜4g/lのホスフェートイオン、
c)-OPO
3X
2/nおよび/または-PO
3X
2/nから選択される少なくとも1つの官能基を有する有機化合物から選択される少なくとも0.1g/lの錯化剤Y、ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである、
d)0.01〜10g/l(合計で)の非イオン界面活性剤、
e)金属ニッケル、コバルト、マンガン、モリブデン、クロムおよび/またはセリウムの10mg/l未満(合計で)のイオン性化合物、特に、金属ニッケルおよび/またはコバルトの1mg/l未満のイオン性化合物
を含有するものであり、
ここで、PO
4として計算される10g/l以下の濃縮ホスフェートが含有されており、鉄(III)イオンと亜鉛(II)イオンの総量に対するリン元素に換算した錯化剤Yのモル比は1.0より大きい、好ましくは1.5より大きい、特に好ましくは2.0より大きい。
【0052】
本発明による特に好ましい方法の一例では、アルカリ浴溶液の一部の容量をシステムタンクから連続的に取り出して亜鉛結合性イオン交換樹脂を接触させ、接触したら、それに応じて処理された該アルカリ浴溶液の該一部の容量は該イオン交換樹脂から分離され、続いて該システムタンクに戻されることにおいて、溶存態亜鉛が湿式化学的前処理のアルカリ浴溶液から連続的に除去される。また、一部の容量がシステムタンクから取り出され、加工され、続いて該システムタンクに戻される方法は一般的に、先行技術においてバイパス法とも称される。
【0053】
アルミニウム表面を有する部材もまた処理される本発明による金属部材の連続表面処理の場合、酸洗プロセスのため、高値の溶存態アルミニウム画分もまた湿式化学的前処理のアルカリ浴溶液中に蓄積され得る。高値の溶存態アルミニウム画分は、さらに、アルミニウム表面の活性化に対してマイナスの効果を有する場合があり得、その結果、化成処理後の腐食防止の低下が観察される。本発明による方法において、0.4g/Lより上のアルミニウム画分では、腐食防止特性の若干の悪化が観察されるが、この悪化は0.6g/Lより上では有意になる。
【0054】
本発明による表面処理の好ましい一実施形態では、したがって、湿式化学的前処理のアルカリ浴溶液は、水中に溶存態アルミニウムを含有するものであるが、このとき、アルカリ浴溶液中の溶存態アルミニウムの濃度の最大値0.6g/l、好ましくは0.4g/lは超過しない。これは、該システムタンクの該アルカリ浴溶液の少なくとも一部が、ケイ酸アニオンの供給源である水溶性化合物と混合され、該アルカリ浴溶液の前記一部において形成される沈殿物が該アルカリ浴溶液から好ましくは濾過によって分離されるためである。
【0055】
本発明による特に好ましい方法の一例では、システムタンクの浴溶液から一部の容量が連続的に取り出され、ケイ酸アニオンの供給源である水溶性化合物と混合され、混合されたら、該アルカリ浴溶液の前記一部の容量において生じた固形分画分が該アルカリ浴溶液から好ましくは濾過によって分離され、次いで、該固形分が除かれた該アルカリ浴溶液の該一部の容量が該システムタンクに好ましくは濾液として戻されることにおいて、湿式化学的前処理のアルカリ浴溶液中の溶存態アルミニウム画分が低減される。
【0056】
かかる好ましいバイパス法の一例では、ケイ酸アニオンの供給源である水溶性化合物の計量式添加が、亜鉛結合性イオン交換樹脂との接触と独立して行われ得る。このように、システムタンク内の溶存態亜鉛画分と溶存態アルミニウム画分は、互いに独立して制御され得る。したがって、特に好ましいバイパス法の一例では、システムタンクから取り出されたアルカリ浴溶液の一部の容量をまず、適切な量のこのような沈殿試薬と混合し、主にケイ酸アルミニウムからなる固形分画分を該浴溶液から好ましくは濾過によって分離し、次いで、好ましくは濾液として、前記固形分画分が除かれた該アルカリ浴溶液の該一部の容量を亜鉛結合性イオン交換樹脂と接触させ、最後にシステムタンクに戻す。あるいはまた、好ましさは低いが、亜鉛結合性イオン交換樹脂による溶存態亜鉛の除去を最初に行い、次いで、アルミニウムの沈殿を行う。
【0057】
好ましくは、アルカリ金属ケイ酸塩およびアルカリ土類金属ケイ酸塩および/またはケイ酸が、ケイ酸アニオンの供給源であり、したがって溶存態アルミニウムの沈殿試薬である水溶性化合物として使用される。
【0058】
本発明による表面処理方法の前述の好ましい実施形態における濾過は、好ましくは0.5μmの排除限界で、特に好ましくは0.1μmの排除限界で行われる。
【0059】
湿式化学的前処理のアルカリ浴溶液中の溶存態亜鉛画分および溶存態アルミニウム画分は好ましくは、該プロセスと同時に、すなわち、本発明による金属部材の連続表面処理中に分析により測定され、システムタンク内の溶存態亜鉛画分および/または溶存態アルミニウム画分を低減させるための技術的措置のための制御可変量として直接または間接的に使用される。この目的のため、好ましくは、ある流量がシステムタンクから取り出し、好ましくは0.1μmの排除限界で濾過した後、濾液を該システムタンク内にフィードバックし、サンプル容量を取り出し、溶存態亜鉛画分と溶存態アルミニウム画分を好ましくは測光的に測定し、このとき、これらの溶存態画分の測定値を次いで、溶存態アルミニウムの前述の好ましい最大値および最大値Zn
maxと比較する。アルカリ浴溶液からのサンプル採取後、溶存態亜鉛画分および/または溶存態アルミニウム画分は、難溶性水酸化物の後沈殿の結果、さらに低減され得る。したがって、サンプルを取り出した直後、すなわち5分以内の溶存態亜鉛および溶存態アルミニウムの実際の濃度(したがって、本発明による濃度)の測定のために、サンプルをまず、フィルターによって0.5μm、特に好ましくは0.1μmの排除限界で濾過し、次いで、好ましくは3.0未満のpH値まで酸性化することが好ましい。かかる様式で調製されるサンプルは、酸性サンプル容量中の溶存態亜鉛画分または溶存態アルミニウム画分は変化しないため、後の任意の時点で分析により測定され得る。溶存態亜鉛および溶存態アルミニウムのどの測定方法でも、測定方法は、一次標準物質の標準溶液を用いて較正しなければならない。溶存態亜鉛画分と溶存態アルミニウム画分の測光的測定は、同じサンプル容量で行ってもよく、取り出したサンプル容量を分割して互いに別々に行ってもよい。誘導結合アルゴンプラズマ光学発光分光法(ICP-OES)による測定が好ましい。
【0060】
本発明による表面処理方法では、アルカリ浴溶液での湿式化学的前処理の後に、好ましくは、金属部材の化成処理が行われる。本発明によれば、化成処理は好ましくは、湿式化学的無電解前処理であり、この処理過程では、金属部材のアルミニウム表面上に無機系皮膜が作製され、これは、少なくとも一部分が酸素原子のみでない処理溶液の元素から構成されたものである。化成処理は先行技術でよく知られており、例えば、金属フッ化物錯体をベースにした、例えば、ホスフェート処理、クロメート処理およびクロム無含有代替法として何度も報告されている。
【0061】
本発明による表面処理方法は、アルカリ浴溶液での湿式化学的前処理後の化成処理が、元素Zr、Ti、および/またはSiの水溶性化合物を含有する酸性水性組成物を用いて行われる場合に特に好都合である。これとの関連において、フッ化物イオンの供給源である化合物をさらに含有している酸性水性組成物が好ましい。元素Zr、Ti、および/またはSiの水溶性化合物は好ましくは、前記元素のヘキサフルオロ酸およびその塩から選択され、一方、フッ化物イオンの供給源である化合物は好ましくはアルカリ金属フッ化物から選択される。本発明による表面処理の化成処理の酸性水性組成物中の元素Zr、Ti、および/またはSiの水溶性化合物の総画分は好ましくは少なくとも5ppm、特別に好ましくは少なくとも10ppmであるが、該酸性組成物は、好ましくは、前述の元素に対して合計で1000ppm以下の前記化合物を含むものである。酸性水性組成物のpH値は好ましくは2〜4.5の範囲である。
【0062】
本発明による方法は、混合設計で作製された金属部材の連続表面処理に特に適している。それは、かかる部材に対して、接触腐食を最小限にするための部材全面にわたる広く均一な防食皮膜が、本発明による連続表面処理によって持続的に得られ得るためである。本発明による連続表面処理のための方法は、特に、少なくとも2%、好ましくは少なくとも5%のアルミニウム表面と少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%の亜鉛表面からなる表面を有する混合設計の金属部材に有効である。アルミニウム表面と亜鉛表面のパーセンテージは常に、湿式化学的前処理のアルカリ浴溶液と接触させる金属部材の全表面に関するものである。
【0063】
本発明との関連において、亜鉛とアルミニウムの合金の金属表面もまた、亜鉛表面とアルミニウム表面であるとみなされるが、合金化元素として添加される元素画分は50原子%未満であるものとする。さらに、本発明での意味において、亜鉛表面はまた、亜鉛メッキ鋼要素または合金亜鉛メッキ鋼要素(これらは、金属部材を形成するために単独または他の金属部品とともに組み立てられる)によって形成されたものである。
【実施例】
【0064】
アルカリ鉄皮膜処理溶液を調製し、異なるイオン交換樹脂を有するパラレルなカラムに送液した。カラムあたりの比負荷量は5BV/時(20℃)とし、樹脂容量は層高30cmで0.1lとした。鉄皮膜処理溶液は以下のとおりに構成した:
遊離アルカリ度(FA):16ポイント
結合アルカリ度:46ポイント
pH値:11.7
Fe(III)イオン濃度:0.35g/l
Zn(II)イオン濃度:1.0g/l
HEDP:12.0g/l
P
2O
7:1.5g/l
PO
4:3.0g/l
【0065】
異なるイオン交換樹脂の分離性能を調べ、表1に示す。分離性能を調べるため、亜鉛元素と鉄元素の濃度を、10BV(ベッドボリューム)の鉄皮膜処理溶液のスループット中の鉄皮膜処理溶液の排出液サンプルを20℃でICP-OESによって調べた。
【表1】
本明細書の当初の開示は、少なくとも下記の態様を包含する。
[1]亜鉛表面を有する金属部材の連続表面処理用の水性アルカリ浴溶液からの亜鉛イオンの選択的除去のための方法であって、前記水性アルカリ浴溶液はシステムタンク内に貯蔵され、ここで、該水性アルカリ浴溶液は
a)少なくとも50mg/kgの鉄(III)イオン;
b)少なくとも50mg/kgの亜鉛(II)イオン;ならびに
c)水溶性濃縮ホスフェートの形態ならびに/あるいは-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/nから選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物の形態の錯化剤Y[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]
を含有し;
鉄(III)イオンと亜鉛(II)イオンの総量に対するリン元素に換算した錯化剤Yのモル比は1.0より大きく、
該浴溶液の一部を、-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/n[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有する交換対象のアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]から選択される官能基を担持しているイオン交換樹脂と接触させることを特徴とする方法。
[2]浴溶液中における鉄(III)イオンに対するリン元素に換算した錯化剤Yのモル比が1.5より大きい、好ましくは2.0より大きいことを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]浴溶液中の鉄(III)イオンの含有量が少なくとも100mg/kg、好ましくは少なくとも200mg/kgであるが、好ましくは2g/kg以下、特に好ましくは1g/kg以下であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の方法。
[4]浴溶液のpH値が少なくとも9、好ましくは少なくとも10であり、遊離アルカリ度が好ましくは少なくとも0.5ポイントであるが好ましくは50ポイント未満であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]亜鉛表面とアルミニウム表面を有する金属部材の湿式化学的表面処理のための方法であって、前記部材は、アルカリ浴溶液と接触させることにより連続的に湿式化学的に前処理され、
該アルカリ浴溶液は、システムタンク内に貯蔵され、
a)水溶性濃縮ホスフェートの形態ならびに/あるいは-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/nから選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物の形態の錯化剤Y[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]ならびに
b)鉄(III)イオン
を含有し、
該湿式化学的前処理における該アルカリ浴溶液のpH値は10より大きく、遊離アルカリ度は少なくとも0.5ポイントであるが50ポイント未満であり、ここで、該システムタンクの該アルカリ浴溶液中の溶存態亜鉛の濃度の下記最大値Znmaxは:
Znmax = 0.0004 ×(pH - 9)× [FA] + 0.6 × [Y]
pH:pH値
Znmax:溶存態亜鉛の濃度の最大値(単位:mmol/l)
[FA]:遊離アルカリ度(単位:mmol/l)
[Y]:P2O6として計算される水溶性濃縮ホスフェートの形態ならびに/あるいは-COOX1/n、-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/nから選択される少なくとも1つの官能基を有する水溶性有機化合物の形態の錯化剤Yの濃度(単位:mmol/l)[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有するアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]
を超えず;
該湿式化学的前処理における最大値Znmaxの超過は、該システムタンクの該アルカリ浴溶液の少なくとも一部を、-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/n[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有する交換対象のアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかである]から選択される官能基を担持しているイオン交換樹脂と接触させること、ならびに該イオン交換樹脂と接触させた該アルカリ浴溶液の該一部を続いて、該システムタンクに戻すことにおいて抑制されることを特徴とする方法。
[6]浴溶液中の鉄(III)イオンの含有量が少なくとも50mg/kg、特に好ましくは少なくとも100mg/kg、特別に好ましくは少なくとも200mg/kgであるが、好ましくは2g/kg以下、特に好ましくは1g/kg以下であることを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7]具体的な浴溶液が、好ましくは、水中に0.6g/kg以下、特に好ましくは0.4g/kg以下の溶存態アルミニウムを含有することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8]具体的な浴溶液の一部をイオン交換樹脂と不連続的または連続的に、特に連続的に接触させることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
[9]該接触させることが、システムタンクから空間的に離れた容器内で行われ、具体的な浴溶液の一部を、該接触させることの後に、該システムタンク内に不連続的または連続的に、特に連続的にフィードバックすることを特徴とする、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]具体的な浴溶液の一部を該イオン交換樹脂と接触させるために該具体的な浴溶液の一部を供給開口部から該容器内に供給し、該具体的な浴溶液の一部を該イオン交換樹脂と接触させた後に排出開口部から送出すること[ここで、該イオン交換樹脂は該容器内に残ったままである]を特徴とする、[8]に記載の方法。
[11]イオン交換樹脂が、該イオン交換樹脂1キログラムあたり合計で少なくとも1.0mol、特に好ましくは少なくとも1.5mol、特別に好ましくは少なくとも2.0molの、-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/nから選択される官能基を有することを特徴とする、[1]〜[10]のいずれかに記載の方法。
[12]イオン交換樹脂が、モノマーであるスチレン、ジビニルベンゼンに基づくおよび/またはフェノール-ホルムアルデヒド縮合物に基づく、好ましくはモノマーであるスチレンおよび/またはジビニルベンゼンに基づくポリマー主鎖を有することを特徴とする、[1]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]イオン交換樹脂の官能基が、アミノアルキルホスホン酸基から、好ましくはアミノメチルホスホン酸基から、特に好ましくは基-NR1-CH2-PO3X2/n[ここで、Xは、水素原子であるか、あるいは具体的な原子価nを有する交換対象のアルカリ金属原子および/またはアルカリ土類金属原子であるかのいずれかであり、R1は水素原子またはアルキル、シクロアルキルもしくはアリール基である]から選択されることを特徴とする、[1]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14]具体的な浴溶液の錯化剤Yが、-OPO3X2/nおよび/または-PO3X2/n基に対してαまたはβ位に、さらにアミノ、ヒドロキシルまたはカルボキシル基を含有している、好ましくはヒドロキシル基を含有している、特に好ましくはヒドロキシル基を含有しているがアミノ基は含有していないことを特徴とする、[1]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15]イオン交換樹脂が固形物であり、これは好ましくは粒状形態、特に好ましくは0.2〜2mmの範囲、特に好ましくは0.4〜1.4mmの範囲の好ましいビーズ直径を有するビーズの形態であることを特徴とする、[1]〜[14]のいずれかに記載の方法。
[16]少なくとも、下記条件:
VB:浴容量(単位:m3)
Znmax:溶存態亜鉛の最大濃度(単位:mmol/l)
MZn:亜鉛のモル質量(単位:g/mol)
ΔmZn:金属部材の亜鉛表面に対する面積標準化酸洗除去量(単位:g/m2)
より大きい該金属部材の亜鉛表面のみの総面積(単位:平方メートル)が、システムタンクのアルカリ浴溶液で湿式化学的に前処理されるような金属部材の量に対して、金属部材の連続湿式化学的表面処理が行われることを特徴とする、[5]〜[15]のいずれかに記載の方法。