特許第6670587号(P6670587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670587
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】研磨方法およびポリシング用組成物
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/00 20120101AFI20200316BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20200316BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20200316BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   B24B37/00 H
   H01L21/304 622D
   C09K3/14 550C
   C09K3/14 550Z
   C09G1/02
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-215119(P2015-215119)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-93884(P2016-93884A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2018年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-227388(P2014-227388)
(32)【優先日】2014年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 修平
(72)【発明者】
【氏名】戸松 正利
【審査官】 山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/112218(WO,A1)
【文献】 特開2007−311586(JP,A)
【文献】 特開2010−182782(JP,A)
【文献】 特開2010−023199(JP,A)
【文献】 特開平09−262757(JP,A)
【文献】 特開2006−310362(JP,A)
【文献】 特開2013−120885(JP,A)
【文献】 特開2008−068390(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0237128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00
C09G 1/02
C09K 3/14
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1500Hv以上のビッカース硬度を有する材料を研磨する方法であって、
砥粒APREを含む予備ポリシング用組成物を用いて予備ポリシングを行う工程と;
砥粒APREよりも硬度が低い砥粒AFINを含む仕上げポリシング用組成物を用いて仕上げポリシングを行う工程と;
を含み、
前記予備ポリシングと前記仕上げポリシングは、研磨パッドを用いて行う研磨であり、 前記1500Hv以上のビッカース硬度を有する材料は、ダイヤモンド、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、窒化ケイ素または窒化チタンである、研磨方法。
【請求項2】
前記砥粒APREのビッカース硬度が800〜3000Hvの範囲内であり、
前記砥粒AFINのビッカース硬度が200〜1500Hvの範囲内である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記砥粒APREの平均二次粒子径PPREが、前記砥粒AFINの平均二次粒子径PFINよりも大きい、請求項1または2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記予備ポリシング用組成物は、水溶性の研磨助剤BPREを含み、
前記仕上げポリシング用組成物は、水溶性の研磨助剤BFINを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記研磨助剤BPREは、複合金属酸化物CMOPREを含み、
前記複合金属酸化物CMOPREは、1価または2価の金属元素(ただし、遷移金属元素を除く。)と、周期表の第4周期遷移金属元素と、を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項6】
前記研磨助剤BFINは、複合金属酸化物CMOFINを含み、
前記複合金属酸化物CMOFINは、1価もしくは2価の金属元素(ただし、遷移金属元素を除く。)またはアンモニアと、周期表の第5族または第6族遷移金属元素と、を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の研磨方法。
【請求項7】
前記研磨助剤BFINは、前記複合金属酸化物CMOFINに対して酸素を供給することが可能な酸素含有物をさらに含む、請求項6に記載の研磨方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の研磨方法において、仕上げポリシングの前に行われる予備ポリシングに用いられる組成物であって、
前記仕上げポリシングで用いられる砥粒AFINよりも硬度が高い砥粒APREを含む、予備ポリシング用組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の研磨方法において、予備ポリシングの後で行われる仕上げポリシングに用いられる組成物であって、
前記予備ポリシングで用いられる砥粒APREよりも硬度が低い砥粒AFINを含む、仕上げポリシング用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨方法および該方法に用いられるポリシング用組成物に関する。詳しくは、炭化ケイ素単結晶等の高硬度材料の研磨方法、および該方法に用いられるポリシング用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド、サファイア(酸化アルミニウム)、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、窒化ケイ素、窒化チタン等の高硬度材料の平滑表面は、通常、研磨定盤にダイヤモンド砥粒を供給して行う研磨(ラッピング)によって実現される。しかし、ダイヤモンド砥粒を用いるラッピングでは、スクラッチの発生、残存等のため、表面平滑性の向上には限度がある。そこで、ダイヤモンド砥粒を用いたラッピングの後に、あるいは当該ラッピングに代えて、研磨パッドを用いて該研磨パッドと研磨対象物との間に研磨スラリーを供給して行う研磨(ポリシング)が検討されている。この種の従来技術を開示する文献として、特許文献1〜5が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−288243号公報
【特許文献2】特表2007−533141号公報
【特許文献3】特開2011−121153号公報
【特許文献4】特開2012−248569号公報
【特許文献5】特開2014−24154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術文献では、ポリシングに使用されるスラリー(ポリシング用組成物)の含有成分(砥粒、酸化剤等)の工夫により、表面平滑性や研磨速度の改善が提案されている。しかし、平滑性向上手段は通常は加工力の減少を伴うことから、平滑性を向上させようとすればするほど、研磨対象面の全体的な平坦性はむしろ悪化してしまう虞がある。例えば特許文献1では、ダイヤモンド砥粒を用いたラッピングの後にコロイダルシリカ砥粒を用いてポリシングを実施しているが、ラッピングによる平坦性向上には限度があり、また、その後にポリシングを実施しても、短時間のうちにラッピング後の表面粗さを低減することは困難である。炭化ケイ素等の高硬度材料のポリシングにおいては、研磨速度や平滑性といった基本性能が実用化に向けて途上段階であり、平坦性に関しては、例えば特許文献4にて言及されてはいるものの、一段階ポリシングにおける検討事項であることから、その要求レベルはそれほど高くはない。平滑性を重視した設計では加工力の低下が顕著になりがちな高硬度材料の研磨において、平滑性と平坦性の両立は、シリコンウェーハやガラス基板等の研磨と比べて困難であることはいうまでもない。これが高硬度材料研磨の技術水準であり、平滑性と平坦性との両立についての検討は、少なくとも実用レベルではなされていないという状況であった。
【0005】
上記のような状況下、本発明者らは、ポリシング用組成物の含有成分の検討という先行技術文献からの延長線上での解決手段の模索から離れることにより、従来技術では実現できなかったレベルの平滑性と平坦性との両立を、より短時間の研磨で効率的に実現し得る基本的な技術思想を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、高硬度材料に対して、平滑性と平坦性との両立を効率的に実現し得る研磨方法を提供することを目的とする。関連する他の目的は、かかる研磨方法を実施するために適したポリシング用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、1500Hv以上のビッカース硬度を有する材料を研磨する方法が提供される。この研磨方法は:砥粒APREを含む予備ポリシング用組成物を用いて予備ポリシングを行う工程と;砥粒APREよりも硬度が低い砥粒AFINを含む仕上げポリシング用組成物を用いて仕上げポリシングを行う工程と;を含む。
上記の研磨方法によると、高硬度材料表面における平滑性と平坦性との両立を効率的に実現することができる。ここに開示される技術によると、高硬度材料表面に対して、従来技術ではなし得なかった平滑性と平坦性との両立が生産性に優れた方法で実現される。
【0007】
なお、本明細書においてラッピングとは、研磨定盤の表面を研磨対象物に押し当てることにより行う研磨をいう。したがって、ラッピング工程では研磨パッドは使用しない。典型的には、ラッピング工程は、研磨定盤と研磨対象物との間に砥粒(典型的にはダイヤモンド砥粒)を供給して行う研磨をいう。またポリシングとは、研磨パッドを用いて行う研磨をいい、典型的には、ラッピング後に、定盤表面に貼り付けられた研磨パッドを用いて該研磨パッドと研磨対象物との間に研磨スラリーを供給して行う研磨をいう。
【0008】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記砥粒APREのビッカース硬度が800〜3000Hvの範囲内であり、前記砥粒AFINのビッカース硬度が200〜1500Hvの範囲内である。上記硬度を有する予備ポリシング用の砥粒APREと仕上げポリシング用の砥粒AFINとをそれぞれ選択して採用することにより、高硬度材料表面における平滑性と平坦性との両立がより高レベルにかつより効率的に実現され得る。
【0009】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記砥粒APREの平均二次粒子径PPREが、前記砥粒AFINの平均二次粒子径PFINよりも大きい。予備ポリシング用の砥粒APREと仕上げポリシング用の砥粒AFINとを、両者の平均二次粒子径が上記関係を満たすように選定することにより、高硬度材料表面における平滑性と平坦性との両立がより高レベルにかつより効率的に実現され得る。
【0010】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記予備ポリシング用組成物は、水溶性の研磨助剤BPREを含み、前記仕上げポリシング用組成物は、水溶性の研磨助剤BFINを含む。予備ポリシング用組成物および仕上げポリシング用組成物それぞれに適した水溶性の研磨助剤を含ませることで、高硬度材料表面の平滑性と平坦性とがより好ましく両立され得る。
【0011】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記研磨助剤BPREは、複合金属酸化物CMOPREを含む。この複合金属酸化物CMOPREは、1価または2価の金属元素(ただし、遷移金属元素を除く。)と、周期表の第4周期遷移金属元素と、を有する。予備ポリシング用の研磨助剤BPREとして上記複合金属酸化物を採用することにより、高硬度材料の平坦性がより向上する傾向がある。
【0012】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記研磨助剤BFINは、複合金属酸化物CMOFINを含む。この複合金属酸化物CMOFINは、1価もしくは2価の金属元素(ただし、遷移金属元素を除く。)またはアンモニアと、周期表の第5族または第6族遷移金属元素と、を有する。仕上げポリシング用の研磨助剤BFINとして上記複合金属酸化物を採用することにより、高硬度材料の平滑性と平坦性とがより高度に両立する傾向がある。
【0013】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記研磨助剤BFINは、前記複合金属酸化物CMOFINに対して酸素を供給することが可能な酸素含有物をさらに含む。このように構成することで、仕上げポリシングにおいて複合金属酸化物CMOFINの化学的作用が継続的に発揮される傾向があり、高硬度材料の平滑性と平坦性とが高度に両立され得る。
【0014】
また、本発明によると、ここに開示されるいずれかの研磨方法において、仕上げポリシングの前に行われる予備ポリシングに用いられる組成物(予備ポリシング用組成物)が提供される。この組成物は、前記仕上げポリシングで用いられる砥粒AFINよりも硬度が高い砥粒APREを含む。上記予備ポリシング用組成物を用いることにより、ここに開示される研磨方法を好ましく実施することができる。
【0015】
また、本発明によると、ここに開示されるいずれかの研磨方法において、予備ポリシングの後で行われる仕上げポリシングに用いられる組成物(仕上げポリシング用組成物)が提供される。この組成物は、前記予備ポリシングで用いられる砥粒APREよりも硬度が低い砥粒AFINを含む。上記仕上げポリシング用組成物を用いることにより、ここに開示される研磨方法を好ましく実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
ここに開示される研磨方法は、予備ポリシング用組成物を用いて予備ポリシングを行う工程(予備ポリシング工程)と、仕上げポリシング用組成物を用いて仕上げポリシングを行う工程(仕上げポリシング工程)と、を含む。以下、研磨対象物、予備ポリシング用組成物、仕上げポリシング用組成物、研磨方法の順で説明する。
【0018】
<研磨対象物>
ここに開示される研磨方法は、1500Hv以上のビッカース硬度を有する材料(高硬度材料ともいう。)を研磨する方法である。ここに開示される研磨方法によると、上記のような高硬度材料の表面における平滑性と平坦性との両立を効率的に実現することができる。高硬度材料のビッカース硬度は、好ましくは1800Hv以上(例えば2000Hv以上、典型的には2200Hv以上)である。ビッカース硬度の上限は特に限定されないが、凡そ7000Hv以下(例えば5000Hv以下、典型的には3000Hv以下)であってもよい。なお、本明細書において、ビッカース硬度は、JIS R 1610:2003に基づいて測定することができる。上記JIS規格に対応する国際規格はISO 14705:2000である。
【0019】
1500Hv以上のビッカース硬度を有する材料としては、ダイヤモンド、サファイア(酸化アルミニウム)、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、窒化ケイ素、窒化チタン等が挙げられる。ここに開示される研磨方法は、機械的かつ化学的に安定な上記材料の単結晶表面に対して好ましく適用することができる。なかでも、研磨対象物表面は、炭化ケイ素から構成されていることが好ましい。炭化ケイ素は、電力損失が少なく耐熱性等に優れる半導体基板材料として期待されており、その表面性状を改善することの実用上の利点は特に大きい。ここに開示される研磨方法は、炭化ケイ素の単結晶表面に対して特に好ましく適用される。
【0020】
<予備ポリシング用組成物>
(砥粒APRE
予備ポリシング用組成物は砥粒APREを含む。砥粒APREは、後述する仕上げポリシングに用いられる砥粒AFINよりも高硬度である。これによって、平坦性を効率よく向上させることができる。具体的には、砥粒AFINのビッカース硬度HFINに対する砥粒APREのビッカース硬度HPREの比(HPRE/HFIN)は、1よりも大きく、平滑性と平坦性との両立を効率的に実現する観点から、好ましくは1.3〜4.0、より好ましくは1.8〜3.0、さらに好ましくは2.1〜2.5である。
【0021】
砥粒APREのビッカース硬度は、平坦性向上の観点から、好ましくは800Hv以上、より好ましくは1200Hv以上、さらに好ましくは1500Hv以上である。砥粒APREのビッカース硬度の上限は、特に限定されないが、平滑性と平坦性とを両立する観点から、好ましくは3000Hv以下、より好ましくは2000Hv以下、さらに好ましくは1700Hv以下である。なお、本明細書において、砥粒のビッカース硬度は、砥粒として用いられる材料につき、上記JIS R 1610:2003に基づいて測定した値が採用される。
【0022】
また、砥粒APREのビッカース硬度は、研磨対象物の表面を構成する材料(研磨対象材料)のビッカース硬度と同等か、あるいはそれよりも低いことが好ましい。砥粒APREの硬度が、研磨対象材料の硬度との相対的関係において制限されていることにより、平滑性の劣化は抑制される傾向がある。砥粒APREのビッカース硬度は、研磨対象材料のビッカース硬度よりも300Hv以上(例えば500Hv以上)低いことがより好ましい。砥粒APREのビッカース硬度と研磨対象材料のビッカース硬度との差異は、平坦性向上の観点から、1000Hv以内(例えば800Hv以内)であることが好ましい。これにより、平滑性と平坦性との両立は好ましく実現される傾向がある。
【0023】
砥粒APREの材質や性状は、後述の砥粒AFINとの間で硬度について相対的関係を満たす限りにおいて特に制限はない。例えば、砥粒APREは無機粒子、有機粒子および有機無機複合粒子のいずれかであり得る。例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化鉄粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等のいずれかから実質的に構成される砥粒が挙げられる。砥粒は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、酸化ジルコニウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化鉄粒子等の酸化物粒子は、良好な表面を形成し得るので好ましい。そのなかでも、アルミナ粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化クロム粒子、酸化鉄粒子がより好ましく、アルミナ粒子が特に好ましい。
【0024】
なお、本明細書において、砥粒の組成について「実質的にXからなる」または「実質的にXから構成される」とは、当該砥粒に占めるXの割合(Xの純度)が、重量基準で90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、例えば99%以上)であることをいう。
【0025】
砥粒APREとしてアルミナ粒子を用いる場合、予備ポリシング用組成物に含まれる砥粒APRE全体に占めるアルミナ粒子の割合は、概して高い方が有利である。例えば、予備ポリシング用組成物に含まれる砥粒APRE全体に占めるアルミナ粒子の割合は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上(例えば95〜100重量%)である。
【0026】
また、ここに開示される予備ポリシング用組成物は、砥粒APREとしてダイヤモンド粒子を実質的に含まないことが好ましい。ダイヤモンド粒子はその高硬度ゆえ、平滑性向上の制限要因となり得る。また、ダイヤモンド粒子は概して高価であることから、コストパフォーマンスの点で有利な材料とはいえず、実用面からは、ダイヤモンド粒子等の高価格材料への依存度は低いことが望ましい。
【0027】
砥粒APREの平均二次粒子径は、通常は20nm以上であり、平坦性向上等の観点から、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上(例えば400nm以上)である。上記の平均二次粒子径を有する砥粒APREによると、優れた平坦性をより効率的に実現することができる。砥粒APREの平均二次粒子径の上限は、単位重量当たりの個数を充分に確保する観点から、凡そ5000nm以下とすることが適当である。平滑性と平坦性とをより高度に両立する観点から、上記平均二次粒子径は、好ましくは3000nm以下、より好ましくは2000nm以下(例えば800nm以下)である。
【0028】
砥粒の平均二次粒子径は、500nm未満の粒子については、例えば、日機装社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により、体積平均粒子径(体積基準の算術平均径;Mv)として測定することができる。また、500nm以上の粒子についてはBECKMAN COULTER社製の型式「Multisizer 3」を用いた細孔電気抵抗法等により、体積平均粒子径として測定することができる。
【0029】
砥粒APREの平均二次粒子径PPREは、後述する砥粒AFINの平均二次粒子径PFINよりも大きいことが好ましい。これにより、高硬度材料表面の平滑性と平坦性とがより好ましく両立され得る。好ましい一態様では、砥粒AFINの平均二次粒子径PFINに対する砥粒APREの平均二次粒子径PPREの比(PPRE/PFIN)は1.0〜20程度である。上記比(PPRE/PFIN)は、平滑性と平坦性との両立を効率的に実現する観点から、好ましくは2.0〜10、より好ましくは4.0〜6.0である。
【0030】
予備ポリシング用組成物における砥粒濃度は、研磨効率の観点から、通常は1重量%以上とすることが適当である。平坦性向上の観点から、砥粒濃度は3重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましい。また、平滑性と平坦性とを高度にかつ効率的に両立する観点、良好な分散性を得る観点から、予備ポリシング用組成物における砥粒濃度は、通常は50重量%以下とすることが適当であり、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下である。
【0031】
(研磨助剤BPRE
ここに開示される予備ポリシング用組成物は研磨助剤BPREを含むことが好ましい。研磨助剤BPREは、予備ポリシングによる効果を増進する成分であり、典型的には水溶性のものが用いられる。研磨助剤BPREは、特に限定的に解釈されるものではないが、予備ポリシングにおいて研磨対象物表面を変質(典型的には酸化変質)する作用を示し、研磨対象物表面の脆弱化をもたらすことで、砥粒APREによる研磨に寄与していると考えられる。
【0032】
研磨助剤BPREとしては、過酸化水素等の過酸化物;硝酸、その塩である硝酸鉄、硝酸銀、硝酸アルミニウム、その錯体である硝酸セリウムアンモニウム等の硝酸化合物;ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸等の過硫酸、その塩である過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸化合物;塩素酸やその塩、過塩素酸、その塩である過塩素酸カリウム等の塩素化合物;臭素酸、その塩である臭素酸カリウム等の臭素化合物;ヨウ素酸、その塩であるヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸、その塩である過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム等のヨウ素化合物;鉄酸、その塩である鉄酸カリウム等の鉄酸類;過マンガン酸、その塩である過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸類;クロム酸、その塩であるクロム酸カリウム、二クロム酸カリウム等のクロム酸類;バナジン酸、その塩であるバナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム等のバナジン酸類;過ルテニウム酸またはその塩等のルテニウム酸類;モリブデン酸、その塩であるモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸二ナトリウム等のモリブデン酸類;過レニウム酸またはその塩等のレニウム酸類;タングステン酸、その塩であるタングステン酸二ナトリウム等のタングステン酸類;が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。なかでも、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、鉄酸またはその塩が好ましく、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムが特に好ましい。
【0033】
好ましい一態様では、予備ポリシング用組成物は、研磨助剤BPREとして複合金属酸化物を含む。上記複合金属酸化物としては、硝酸金属塩、鉄酸類、過マンガン酸類、クロム酸類、バナジン酸類、ルテニウム酸類、モリブデン酸類、レニウム酸類、タングステン酸類が挙げられる。なかでも、鉄酸類、過マンガン酸類、クロム酸類がより好ましく、過マンガン酸類がさらに好ましい。
【0034】
さらに好ましい一態様では、上記複合金属酸化物として、1価または2価の金属元素(ただし、遷移金属元素を除く。)と、周期表の第4周期遷移金属元素と、を有する複合金属酸化物CMOPREが用いられる。上記1価または2価の金属元素(ただし、遷移金属元素を除く。)の好適例としては、Na、K、Mg、Caが挙げられる。なかでも、Na、Kがより好ましい。周期表の第4周期遷移金属元素の好適例としては、Fe、Mn、Cr、V、Tiが挙げられる。なかでも、Fe、Mn、Crがより好ましく、Mnがさらに好ましい。
【0035】
ここに開示される予備ポリシング用組成物が、研磨助剤BPREとして複合金属酸化物(好ましくは複合金属酸化物CMOPRE)を含む場合、複合金属酸化物以外の研磨助剤BPREをさらに含んでもよく、含まなくてもよい。ここに開示される技術は、研磨助剤BPREとして複合金属酸化物(好ましくは複合金属酸化物CMOPRE)以外の研磨助剤BPRE(例えば過酸化水素)を実質的に含まない態様でも好ましく実施され得る。
【0036】
予備ポリシング用組成物における研磨助剤BPREの濃度は、通常は0.1重量%以上とすることが適当である。平坦性向上の観点から、上記濃度は0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましい。また、平滑性と平坦性とを高度に両立する観点から、上記研磨助剤BPREの濃度は、通常は10重量%以下とすることが適当であり、3重量%以下とすることが好ましく、2重量%以下とすることがより好ましい。
【0037】
(その他の成分)
ここに開示される予備ポリシング用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、キレート剤、増粘剤、分散剤、pH調整剤、界面活性剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の、ポリシング用組成物(典型的には高硬度材料ポリシング用組成物、例えば炭化ケイ素基板ポリシング用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよく、本発明を特徴づけるものではないため、詳しい説明は省略する。
【0038】
(溶媒)
予備ポリシング用組成物に用いられる溶媒は、砥粒を分散させることができるものであればよく、特に制限されない。溶媒としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。ここに開示される予備ポリシング用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、予備ポリシング用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99〜100体積%)が水であることがより好ましい。
【0039】
予備ポリシング用組成物のpHは特に限定されない。通常は、予備ポリシング用組成物のpHを2〜12程度とすることが適当である。予備ポリシング用組成物のpHが上記範囲内であると、実用的な研磨効率が達成されやすい。予備ポリシング用組成物のpHは、好ましくは6〜10、より好ましくは8.5〜9.5である。
【0040】
ここに開示される予備ポリシング用組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、予備ポリシング用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0041】
<仕上げポリシング用組成物>
(砥粒AFIN
仕上げポリシング用組成物は砥粒AFINを含む。砥粒AFINは、予備ポリシングに用いられる砥粒APREよりも低硬度である。これによって平滑性を効率よく向上させることができる。具体的には、砥粒AFINのビッカース硬度は、平滑性と平坦性とを両立する観点から、好ましくは200Hv以上、より好ましくは400Hv以上、さらに好ましくは600Hv以上である。砥粒AFINのビッカース硬度の上限は、特に限定されないが、平滑性向上の観点から、好ましくは1500Hv以下、より好ましくは1000Hv以下、さらに好ましくは800Hv以下である。
【0042】
砥粒AFINの材質や性状は、前述の砥粒APREとの間で硬度について相対的関係を満たす限りにおいて特に制限はない。例えば、砥粒AFINは無機粒子、有機粒子および有機無機複合粒子のいずれかであり得る。砥粒AFINとしては、上記砥粒APREにおいて例示したもののうち1種または2種以上を好ましく用いることができる。なかでも、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、酸化ジルコニウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化鉄粒子、酸化マグネシウム粒子等の酸化物粒子がより好ましく、シリカ粒子、酸化セリウム粒子、二酸化マンガン粒子がさらに好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。
【0043】
シリカ粒子としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。平滑性向上の観点から、好ましいシリカ粒子としてコロイダルシリカおよびフュームドシリカが挙げられる。なかでもコロイダルシリカが特に好ましい。
【0044】
砥粒AFINとしてシリカ粒子を用いる場合、仕上げポリシング用組成物に含まれる砥粒AFIN全体に占めるシリカ粒子の割合は、概して高い方が有利である。例えば、仕上げポリシング用組成物に含まれる砥粒AFIN全体に占めるシリカ粒子の割合は、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上(例えば95〜100重量%)である。
【0045】
砥粒AFINの平均二次粒子径は特に限定されないが、研磨効率等の観点から、好ましくは20nm以上、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは90nm以上である。また、より平滑性の高い表面を得るという観点から、砥粒AFINの平均二次粒子径は、500nm以下が適当であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは130nm以下、特に好ましくは110nm以下である。
【0046】
仕上げポリシング用組成物における砥粒濃度は、研磨効率の観点から、通常は3重量%以上とすることが適当である。効率よく平滑性を向上する観点から、上記砥粒濃度は10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。また、平滑性と平坦性とを高度にかつ効率的に両立する観点から、仕上げポリシング用組成物における砥粒濃度は、通常は50重量%以下とすることが適当であり、40重量%以下とすることが好ましく、30重量%以下とすることがより好ましい。
【0047】
(研磨助剤BFIN
ここに開示される仕上げポリシング用組成物は研磨助剤BFINを含むことが好ましい。研磨助剤BFINは、仕上げポリシングによる効果を増進する成分であり、典型的には水溶性のものが用いられる。研磨助剤BFINは、特に限定的に解釈されるものではないが、前述した予備ポリシングにおける研磨助剤BPREの場合と同様に、仕上げポリシングにおいて研磨対象物表面を変質(典型的には酸化変質)する作用を示し、研磨対象物表面の脆弱化をもたらすことで、研磨効率、研磨対象物の表面品質(特に平滑性向上)に寄与していると考えられる。
【0048】
研磨助剤BFINとしては、前述の研磨助剤BPREとして例示したもののうち1種または2種以上を好ましく用いることができる。なかでも、バナジン酸またはその塩、ヨウ素化合物、モリブデン酸またはその塩、タングステン酸またはその塩が好ましく、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウムが特に好ましい。
【0049】
好ましい一態様では、仕上げポリシング用組成物は、研磨助剤BFINとして複合金属酸化物を含む。上記複合金属酸化物としては、硝酸金属塩、鉄酸類、過マンガン酸類、クロム酸類、バナジン酸類、ルテニウム酸類、モリブデン酸類、レニウム酸類、タングステン酸類が挙げられる。なかでも、バナジン酸類、モリブデン酸類、タングステン酸類がより好ましく、バナジン酸類がさらに好ましい。
【0050】
さらに好ましい一態様では、上記複合金属酸化物として、1価もしくは2価の金属元素(ただし、遷移金属元素を除く。)またはアンモニアと、周期表の第5族または第6族遷移金属元素と、を有する複合金属酸化物CMOFINが用いられる。上記1価もしくは2価の金属元素(ただし、遷移金属元素を除く。)またはアンモニアの好適例としては、Na、K、Mg、Ca、アンモニアが挙げられる。なかでも、Na、Kがより好ましい。周期表の第5族または第6族遷移金属元素は、第4周期、第5周期および第6周期のなかから選択されることが好ましく、第4周期および第5周期のなかから選択されることがより好ましく、第4周期のなかから選択されることがさらに好ましい。上記遷移金属元素は、第5族のなかから好ましく選択される。その具体例としては、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wが挙げられる。なかでも、V、Mo、Wがより好ましく、Vがさらに好ましい。
【0051】
ここに開示される仕上げポリシング用組成物が、研磨助剤BFINとして複合金属酸化物(好ましくは複合金属酸化物CMOFIN)を含む場合、複合金属酸化物以外の研磨助剤BFINとして、上記複合金属酸化物(好ましくは複合金属酸化物CMOFIN)に対して酸素を供給することが可能な酸素含有物をさらに含むことが好ましい。これにより、複合金属酸化物(好ましくは複合金属酸化物CMOFIN)の化学的作用が継続的に発揮され、仕上げポリシングにおける研磨効率が有意に向上し、高硬度材料の平滑性と平坦性とが高度に両立され得る。上記酸素含有物の好適例としては、過酸化水素、オゾンおよび過酸が挙げられる。なかでも、過酸化水素が特に好ましい。
【0052】
仕上げポリシング用組成物における研磨助剤BFINの濃度は、通常は0.1重量%以上とすることが適当である。平滑性と平坦性とを高度にかつ効率的に両立する観点から、上記濃度は0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上(例えば1.5重量%以上)がより好ましい。また、平滑性向上の観点から、上記研磨助剤BFINの濃度は、通常は15重量%以下とすることが適当であり、10重量%以下とすることが好ましく、5重量%以下(例えば3重量%以下、あるいは2.5重量%以下)とすることがより好ましい。
【0053】
研磨助剤BFINとして、複合金属酸化物(好ましくは複合金属酸化物CMOFIN)と該金属酸化物に対して酸素を供給することが可能な酸素含有物とを併用する場合、複合金属酸化物の濃度は、通常は0.1重量%以上とすることが適当である。平滑性と平坦性とを高度にかつ効率的に両立する観点から、上記濃度は0.5重量%以上が好ましく、1.5重量%以上がより好ましい。また、平滑性向上の観点から、上記複合金属酸化物の濃度は、通常は10重量%以下とすることが適当であり、3重量%以下とすることが好ましく、2.5重量%以下とすることがより好ましい。その場合の上記酸素含有物の濃度は、通常は0.1〜10重量%とすることが適当であり、酸素供給作用を好ましく発揮する観点から、上記濃度は0.5〜3重量%が好ましく、1〜2重量%がより好ましい。
【0054】
仕上げポリシング用組成物のpHは特に限定されない。通常は、仕上げポリシング用組成物のpHを2〜12程度とすることが適当である。仕上げポリシング用組成物のpHが上記範囲内であると、優れた平滑性が効率よく達成されやすい。仕上げポリシング用組成物のpHは、好ましくは4〜10、より好ましくは6〜8である。
【0055】
仕上げポリシング用組成物に用いられ得るその他の成分や溶媒としては、予備ポリシング用組成物に含まれ得るものを好ましく採用することができるので、ここでは重複する説明は行わない。また、仕上げポリシング用組成物は、例えば前述の予備ポリシング用組成物の調製方法と同様の方法を採用することにより、あるいは当業者の技術常識に基づき適宜改変を加えることにより調製することができる。
【0056】
<ポリシング用組成物セット>
ここに開示される技術には、例えば、以下のようなポリシング用組成物セットの提供が含まれ得る。すなわち、ここに開示される技術によると、互いに分けて保管される予備ポリシング用組成物と、仕上げポリシング用組成物と、を備えるポリシング用組成物セットが提供される。上記予備ポリシング用組成物は、ここに開示される研磨方法における予備ポリシング工程に用いられるポリシング用スラリーまたはその濃縮液であり得る。上記仕上げポリシング用組成物は、ここに開示される研磨方法における仕上げポリシング工程に用いられるポリシング用スラリーまたはその濃縮液であり得る。上記ポリシング用組成物セットによると、多段ポリシングプロセスにおいて、高硬度材料表面の平滑性と平坦性との両立が効率的に実現され得る。また、かかるポリシング用組成物セットは、研磨時間の短縮および生産性向上に寄与し得る。
【0057】
<研磨方法>
ここに開示される研磨方法は、予備ポリシングを行う工程(予備ポリシング工程)と;仕上げポリシングを行う工程(仕上げポリシング工程)と;を含む。予備ポリシング工程は、少なくとも表面(研磨対象面)が1500Hv以上のビッカース硬度を有する材料から構成された研磨対象物に対して、砥粒APREを含む予備ポリシング用組成物を用いて予備ポリシングを行う工程である。仕上げポリシング工程は、予備ポリシングが行われた研磨対象物に対して、砥粒APREよりも硬度が低い砥粒AFINを含む仕上げポリシング用組成物を用いて仕上げポリシングを行う工程である。
【0058】
上記研磨方法では、ここに開示されるいずれかの予備ポリシング用組成物を含む予備ポリシング用スラリーを用意する。また、ここに開示されるいずれかの仕上げポリシング用組成物を含む仕上げポリシング用スラリーを用意する。上記スラリーを用意することには、各ポリシング用組成物をそのままポリシング用スラリー(研磨液)として使用することを包含し、あるいは各ポリシング用組成物に濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えてポリシング用スラリーを調製することが含まれ得る。
【0059】
用意した予備ポリシング用スラリーを用いて予備ポリシングを行う。具体的には、予備ポリシング用スラリーを研磨対象物である高硬度材料表面に供給し、常法により研磨する。例えば、ラッピング工程を経た研磨対象物を一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物表面に予備ポリシング用スラリーを供給する。典型的には、上記予備ポリシング用スラリーを連続的に供給しつつ、研磨対象物表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。
【0060】
次いで、用意した仕上げポリシング用スラリーを用いて仕上げポリシングを行う。具体的には、仕上げポリシング用スラリーを研磨対象物である高硬度材料表面に供給し、常法により研磨する。仕上げポリシングは、研磨装置の研磨パッドを通じて、予備ポリシングを終えた後の研磨対象物表面に仕上げポリシング用スラリーを供給して行う。典型的には、上記仕上げポリシング用スラリーを連続的に供給しつつ、研磨対象物表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。上記のような研磨工程を経て高硬度材料表面の研磨が完了する。
【0061】
なお、本明細書において予備ポリシング工程とは、砥粒を含むポリシング用スラリーを用いて行われるポリシング工程であって仕上げポリシング工程より前に行われるポリシング工程のことをいう。典型的な一態様では、予備ポリシング工程は、仕上げポリシング工程の直前に配置されるポリシング工程である。予備ポリシング工程は、1段のポリシング工程であってもよく、2段以上の複数段のポリシング工程であってもよい。
【0062】
また、本明細書において仕上げポリシング工程とは、砥粒を含むポリシング用スラリーを用いて行われるポリシング工程のうち最後に(すなわち、最も下流側に)配置される研磨工程のことをいう、したがって、ここに開示される仕上げポリシング用組成物は、高硬度材料の研磨過程で用いられるポリシング用スラリーのうち、最も下流側で用いられる種類のポリシング用スラリーとして把握され得る。
【0063】
予備ポリシングおよび仕上げポリシングの条件は、研磨対象物や、目標とする表面性状(具体的には平滑性および平坦性)、研磨効率等に基づいて当業者の技術常識に基づき、適切に設定される。例えば、研磨効率の観点から、研磨対象物の加工面積1cmあたりの研磨圧力は、好ましくは50g以上であり、より好ましくは100g以上である。また、負荷増大に伴う過度な発熱による研磨対象物表面の変質や砥粒の劣化を防ぐ観点から、通常は、加工面積1cmあたりの研磨圧力は1000g以下であることが適当である。
【0064】
線速度は、一般に、定盤回転数、キャリアの回転数、研磨対象物の大きさ、研磨対象物の数等の影響により変化し得る。線速度の増大によって、より高い研磨効率が得られる傾向にある。また、研磨対象物の破損や過度な発熱を防止する観点から、線速度は所定以下に制限され得る。線速度は、技術常識に基づき設定すればよく特に限定されないが、凡そ10〜1000m/分の範囲とすることが好ましく、50〜300m/分の範囲とすることがより好ましい。
【0065】
ポリシング時におけるポリシング用組成物の供給量は特に限定されない。上記供給量は、研磨対象物表面にポリシング用組成物がムラなく全面に供給されるのに十分な量となるように設定することが望ましい。好適な供給量は、研磨対象物の材質や、研磨装置の構成その他の条件等によっても異なり得る。例えば、研磨対象物の加工面積1mmあたり0.001〜0.1mL/分の範囲とすることが好ましく、0.003〜0.03mL/分の範囲とすることがより好ましい。
【0066】
予備ポリシングおよび仕上げポリシングの合計時間(総ポリシング時間)は、特に限定されない。ここに開示される研磨方法によると、5時間未満の総ポリシング時間で高硬度材料表面に対して平滑性と平坦性との両立を実現することができる。好ましい一態様では、3時間未満(例えば2.5時間以内、典型的には2時間以下)の総ポリシング時間で、高硬度材料表面に対して平滑性と平坦性との両立を実現することができる。なお、総ポリシング時間には、各ポリシング工程の間の時間(ポリシングを行っていない時間、非ポリシング時間)は含まれない。例えば、予備ポリシング工程終了後から仕上げポリシング工程開始までの時間は、総ポリシング時間には含まれない。
【0067】
予備ポリシングおよび仕上げポリシングは、片面研磨装置による研磨、両面研磨装置による研磨のいずれにも適用可能である。片面研磨装置では、セラミックプレートにワックスで研磨対象物を貼りつけたり、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、ポリシング用組成物を供給しながら研磨対象物の片面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させることにより研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方よりポリシング用組成物を供給しながら、研磨対象物の対向面に研磨パッドを押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を同時に研磨する。
【0068】
ここに開示される各ポリシング工程で使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、硬質発泡ポリウレタンタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。
【0069】
ここに開示される方法により研磨された研磨物は、典型的にはポリシング後に洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、公知、慣用のものを適宜選択して用いることができる。洗浄液の温度は、特に制限されず、例えば20〜90℃の範囲とすることが好ましく、50〜80℃の範囲とすることがより好ましい。
【0070】
なお、ここに開示される研磨方法は、上記予備ポリシング工程および仕上げポリシング工程に加えて任意の他の工程を含み得る。そのような工程としては、予備ポリシング工程の前に行われるラッピング工程が挙げられる。上記ラッピング工程は、研磨定盤(例えば鋳鉄定盤)の表面を研磨対象物に押し当てることにより研磨対象物の研磨を行う工程である。したがって、ラッピング工程では研磨パッドは使用しない。ラッピング工程は、典型的には、研磨定盤と研磨対象物との間に砥粒(典型的にはダイヤモンド砥粒)を供給して行われる。また、ここに開示される研磨方法は、予備ポリシング工程の前や、予備ポリシング工程と仕上げポリシング工程との間に追加の工程(洗浄工程やポリシング工程)を含んでもよい。
【0071】
<研磨物の製造方法>
ここに開示される技術には、例えば、研磨物(例えば基板)の製造方法の提供が含まれ得る。すなわち、ここに開示される技術によると、少なくとも表面が1500Hv以上のビッカース硬度を有する材料から構成された研磨対象物に対して、砥粒APREを含む予備ポリシング用組成物を用いて予備ポリシングを行う工程と、予備ポリシングが行われた研磨対象物に対して、砥粒APREよりも硬度が低い砥粒AFINを含む仕上げポリシング用組成物を用いて仕上げポリシングを行う工程と、を含む研磨物(例えば基板)の製造方法が提供される。上記製造方法は、ここに開示される研磨方法の内容を好ましく適用することにより実施され得る。上記製造方法によると、平滑性と平坦性とが両立された高硬度材料表面を有する研磨物(例えば基板)が効率的に提供される。
【0072】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0073】
<例1〜34>
(予備ポリシング用組成物の調製)
砥粒APREと研磨助剤BPREと脱イオン水とを混合して予備ポリシング用スラリーを調製した。各例で使用した砥粒APREの種類、ビッカース硬度(Hv)および平均二次粒子径(nm)、研磨助剤BPREの種類、ならびに各例に係る予備ポリシング用スラリーの組成(砥粒APREおよび研磨助剤BPREの濃度)およびpHは表1,2に示すとおりである。
【0074】
(仕上げポリシング用組成物の調製)
砥粒AFINと研磨助剤BFINと脱イオン水とを混合して仕上げポリシング用スラリーを調製した。各例で使用した砥粒AFINの種類、ビッカース硬度(Hv)および平均二次粒子径(nm)、研磨助剤BFINの種類、ならびに各例に係る仕上げポリシング用スラリーの組成(砥粒AFINおよび研磨助剤BFINの濃度)およびpHは表1,2に示すとおりである。
【0075】
(予備ポリシング)
用意した予備ポリシング用スラリーを使用して、平均粒子径5μmのダイヤモンド砥粒を用いてラッピングを予め実施したSiCウェーハの表面に対し、下記の条件で予備ポリシングを実施した。
[予備ポリシング条件]
研磨装置:日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ−380IN」
研磨パッド:ニッタ・ハース社製「SUBA800」
研磨圧力:300g/cm
定盤回転数:80回転/分
ヘッド回転数:80回転/分
研磨液の供給レート:20mL/分(掛け流し)
研磨液の温度:25℃
研磨対象物:SiCウェーハ(伝導型:n型、結晶型4H 4°off)2インチ
予備ポリシングの実施時間は1時間とした。ただし、例33については、平滑性が一定になるまで実施した。例34については予備ポリシングは実施しなかった。
【0076】
(仕上げポリシング)
次いで、用意した仕上げポリシング用スラリーを使用して、予備ポリシングを実施したSiCウェーハの表面に対し、下記の条件で仕上げポリシングを実施した。
[仕上げポリシング条件]
研磨装置:日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ−380IN」
研磨パッド:フジミインコーポレーテッド社製「SURFIN 019−3」
研磨圧力:300g/cm
定盤回転数:80回転/分
ヘッド回転数:80回転/分
研磨液の供給レート:20mL/分(掛け流し)
研磨液の温度:25℃
研磨対象物:SiCウェーハ(伝導型:n型、結晶型4H 4°off)2インチ
仕上げポリシングの実施時間は、平滑性が一定になるまでとした。例33については仕上げポリシングは実施しなかった。
【0077】
<平坦性>
各例に係るポリシング後の研磨物表面につき、非接触表面形状測定機(商品名「NewView 5032」、Zygo社製)を用いて、倍率10倍、測定領域700μm×500μmの条件で表面粗さRa(nm)を測定した。結果を表1,2に示す。
【0078】
<平滑性>
各例に係るポリシング後の研磨物表面につき、原子間力顕微鏡(AFM;商品名「D3100 Nano Scope V」、Veeco社製)を用いて、測定領域10μm×10μmの条件で表面粗さRa(nm)を測定した。結果を表1,2に示す。
【0079】
<研磨時間>
各例における総ポリシング時間(予備ポリシングおよび仕上げポリシングの合計時間)を、例1の総ポリシング時間を100とする相対値に換算して表1,2に示す。値が大きいほど研磨時間は長く、値が小さいほど研磨時間は短い。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表1および表2に示されるように、予備ポリシングと仕上げポリシングとを実施し、仕上げポリシング用の砥粒AFINとして、予備ポリシング用の砥粒APREよりも硬度の低い砥粒を用いた例1〜31に係る研磨方法によると、平滑性と平坦性との両立を効率的に実現することができた。これに対して、予備ポリシング用の砥粒APREの硬度と仕上げポリシング用の砥粒AFINの硬度とが同じであった例32では、研磨時間を長くしても平滑性と平坦性とを両立することができなかった。一段階ポリシングを実施した例33,34でも、研磨時間を長くしても平滑性と平坦性とを両立することができなかった。また、例1〜16,18〜31と、例17,32との対比から、砥粒APREのビッカース硬度が800〜3000Hvの範囲内であり、砥粒AFINのビッカース硬度が200〜1500Hvの範囲内であることにより、高硬度材料表面における平滑性と平坦性との両立がより高レベルにかつより効率的に実現されることがわかる。さらに、例1,2,4〜31と、例3,32との対比から、砥粒APREの平均二次粒子径PPREは砥粒AFINの平均二次粒子径PFINよりも大きい方が高硬度材料表面における平滑性と平坦性との両立がより高レベルにかつより効率的に実現されることがわかる。
【0083】
より具体的には、砥粒APREの平均二次粒子径を変化させた例1〜6の結果から、砥粒APREの平均二次粒子径は大きくなるにつれて平滑性、平坦性はともに改善し、平均二次粒子径が500nm付近を超え、それ以上大きくなると、平滑性、平坦性はともに低下(悪化)する傾向が認められた。また砥粒APREの濃度を変化させた例7,8の結果から、優れた平坦性を得るには砥粒濃度は高い方が望ましいことがわかる。また研磨助剤BPREの濃度を変化させた例9,10の結果から、研磨助剤BPREは、多すぎても少なすぎても平滑性、平坦性は低下(悪化)傾向となり、研磨助剤BPREの濃度には最適範囲が存在することが推察される。砥粒APREの種類を変化させた例11,12の結果から、砥粒APREとして、より高いビッカース硬度を有するものが平坦性向上には有利であり、具体的にはAlが最も優れることがわかる。研磨助剤BPREの種類を変化させた例13〜16の結果から、研磨助剤BPREとして複合金属酸化物(特に複合金属酸化物CMOPRE)を採用することにより、平滑性と平坦性とがより高いレベルで両立されることがわかる。なお、NaIOを使用した例15では、ポリシング後にパッドの変色が認められた。同様の変色は、仕上げポリシングにてNaIOを使用した例22でも認められた。
【0084】
また、砥粒AFINの種類を変化させた例17〜19の結果から、砥粒AFINとして、より高いビッカース硬度を有するものが平滑性と平坦性との両立には有利であり、具体的にはSiOが最も優れた性能を示した。研磨助剤BFINの種類を変化させた例20〜22の結果から、研磨助剤BFINとしてはNaVOが最も優れた性能を示すことがわかる。なお、例20,21では、仕上げポリシング用組成物にゲル化が認められ、研磨助剤BFINの種類によっては組成物の安定性が低下することが判明した。砥粒AFINの平均二次粒子径を変化させた例23〜27の結果から、砥粒AFINとして、所定範囲の平均二次粒子径を有するものであれば、平滑性と平坦性とを両立し得ることがわかる。また砥粒AFINの濃度を変化させた例28,29の結果から、砥粒濃度は高い方が平坦性向上には有利であることがわかる。研磨助剤BFINの濃度を変化させた例30,31の結果から、研磨助剤BFINの濃度はある程度制限されている方が平滑性向上には有利であると推察される。
【0085】
また、例1〜例31に係る研磨方法によると、一段階ポリシングを実施した例33,34の場合と比べて、具体的には例33の場合と比べて2/3以下の研磨時間で、例34の場合と比べて1/2以下の研磨時間で、所望の性能(平滑性と平坦性との両立)を実現することができた。例1〜10,13〜15,18,19,22〜31では、例33の場合と比べて1/2以下の研磨時間で、所望の性能を実現することができた。なかでも、例1,4,8,10,23〜26,29(特に例1,8,25,26,29)では、例33の場合と比べて1/3程度の研磨時間で、例34の場合と比べて1/4程度の研磨時間で、一段階ポリシングの場合と比べて顕著に高いレベルで平滑性と平坦性とを両立することができた。ここに開示される技術によると、SiC等の高硬度材料表面に対して、従来技術ではなし得なかった平坦性と平滑性との両立が生産性に優れた方法で実現されることがわかる。
【0086】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。