特許第6670692号(P6670692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6670692プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6670692
(24)【登録日】2020年3月4日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20200316BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   H01L21/302 101D
   H05H1/46 C
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-128288(P2016-128288)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-69542(P2017-69542A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年10月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-190623(P2015-190623)
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】椎名 正幸
(72)【発明者】
【氏名】安井 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】小野 哲郎
【審査官】 鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−358129(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/016266(WO,A1)
【文献】 特開2008−103428(JP,A)
【文献】 特開2003−173757(JP,A)
【文献】 特開平11−329787(JP,A)
【文献】 特開2010−238960(JP,A)
【文献】 特開平11−224796(JP,A)
【文献】 特開2014−107363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/00−4/04
H01L 21/205
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/461
H01L 21/469
H01L 21/86
H05H 1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料がプラズマ処理されるプラズマ処理室と、プラズマを生成するための第一の高周波電力を供給する第一の高周波電源と、前記試料が載置される試料台と、前記試料台に第二の高周波電力を供給する第二の高周波電源とを備えるプラズマ処理装置において、
第一の期間と第二の期間を有する第一のパルス波形により前記第一の高周波電力をパルス変調し、オン期間とオフ期間を有する第二のパルス波形により前記第二の高周波電力をパルス変調する場合、前記第二の期間の高周波電力を前記第一の期間に生成されたプラズマのアフターグローを維持するような電力値とするとともに前記パルス変調された第二の高周波電力を前記第二の期間に前記試料台へ供給する制御器をさらに備え、
前記制御器は、前記オン期間の高周波電圧のピーク間電圧が所定値に達した場合、前記第二の高周波電源の出力をオフにし、
前記パルス変調された第二の高周波電力が供給される期間は、前記第二の期間より短いことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記制御器は、前記第二の期間の開始に対して前記オン期間の開始を遅延させる遅延回路を具備することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ処理装置において、
前記制御器は、前記オン期間の間、前記オン期間の高周波電圧のピーク間電圧が概ね一定となるように第二の高周波電力を制御することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項4】
オン期間とオフ期間を有する第二のパルス波形によりパルス変調された第二の高周波電力が供給される試料台に載置された試料を第一の期間と第二の期間を有する第一のパルス波形によりパルス変調された第一の高周波電力によって生成されたプラズマを用いて処理するプラズマ処理方法において、
前記第二の期間の高周波電力を前記第一の期間に生成されたプラズマのアフターグローを維持するような電力値とする工程と、
前記パルス変調された第二の高周波電力を前記第二の期間に前記試料台へ供給する工程と、
前記オン期間の高周波電圧のピーク間電圧が所定値に達した場合、前記第二の高周波電力を供給する第二の高周波電源の出力をオフにする工程とを有し、
前記パルス変調された第二の高周波電力が供給される期間は、前記第二の期間より短いことを特徴とするプラズマ処理方法
【請求項5】
請求項4に記載のプラズマ処理方法において、
前記第二の期間の開始に対して前記オン期間の開始を遅延させることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項に記載のプラズマ処理方法において、
前記第一の期間の時間を0.1msから0.4msの範囲内の時間とすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス放電を用いたプラズマ処理に好適なプラズマ処理装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の微細化とともにFin Field Effect Transistor(以下、「Fin−FET」と称する)と呼ばれる3次元構造のトランジスタの量産化が開始されている。このような半導体素子を製造するうえでのドライエッチング技術には、更なる微細化、高アスペクト対応および従来の2次元構造のトランジスタに無い複雑な形状の高精度なエッチングが要求される。
【0003】
例えば、Fin−FETのダミーゲートエッチングでは、エッチング中にラインの溝がある深さまで達すると、それまでライン間が被エッチング対象の領域であったものが、Finが露出してFinとラインとによって囲まれた狭い領域、すなわち、被エッチング対象の面積がより小さいエッチング状況に変わる。このような形状のドライエッチングでは、プラズマ処理装置におけるより一層の広いプロセスウインドウ対応が求められる。
【0004】
高精度なプラズマエッチングを実現する技術の一つとして、パルス放電を用いたプラズマエッチング方法がある。例えば、特許文献1には、プラズマによる反応性ガスの分解によって生成されるラジカルの密度および組成を測定し、プラズマ発生装置の電力を一定の周期にてパルス変調し、パルス変調のデュティー比を、測定結果に基づいて制御することによってラジカルの密度および組成を制御する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、放電電力をあるパルス周波数で高電力サイクルと低電力サイクルを交互に繰り返し、低電力サイクル時にポリマがマスク上に堆積するようにして、エッチングの際のマスク腐食を軽減する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、アンテナにHighパワー電力とLowパワー電力を交互に供給し、Highパワー電力時にスパッタによる保護膜形成を行い、Lowパワー電力時にエッチング処理を行って、エッチング工程と保護膜形成工程とを交互に繰り返し実施することでシリコン基板に高アスペクト比のビアを形成する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、バイアス電力と放電電力の両方をオン/オフ変調させ、かつ両方が同時にオンしないようにさせ、処理室壁面へのエッチング反応生成物の吸着・堆積をなくして、クリーンで再現性のよいエッチングを行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−185999号公報
【特許文献2】米国特許第6489245号公報
【特許文献3】特開2010−21442号公報
【特許文献4】特開平8−45903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1ないし4に開示されたパルス放電を用いたエッチング処理においては、いずれもプラズマが生成された、すなわち、解離度が高い状態のプラズマがエッチングに用いられている。
【0010】
このため、Fin−FETのような3次元構造素子の形成に適用し得るエッチング処理、すなわち、エッチング領域がエッチング途中で変化しエッチング面積が小さくなったり、アスペクト比がさらに高くなったりするエッチング処理への対応としては、垂直形状の制御に影響が大きい堆積性ラジカルの制御が重要になり、堆積性ラジカル量を制御するためのプロセスウインドウがまだ十分とはいえなかった。
【0011】
特に特許文献1に開示された装置のようにECR放電を用いた装置は、高密度且つ解離度の大きいプラズマが生成されるので、逆に低解離のプラズマを生成するのは難しく、堆積性ラジカルの付着確率の調整は十分でなかった。
【0012】
本発明の目的は、プラズマの解離度を制御しプロセスウインドウを広げることのできるプラズマ処理装置および方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、微細化エッチングに対応し、エッチング面に粗密差がある場合においても垂直エッチングが可能なエッチング処理装置およびエッチング方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、エッチング途中に被エッチング形状がさらに小さく変化する場合にも対応可能なエッチング処理装置およびエッチング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、試料がプラズマ処理されるプラズマ処理室と、プラズマを生成するための第一の高周波電力を供給する第一の高周波電源と、前記試料が載置される試料台と、前記試料台に第二の高周波電力を供給する第二の高周波電源とを備えるプラズマ処理装置において、第一の期間と第二の期間を有する第一のパルス波形により前記第一の高周波電力をパルス変調し、オン期間とオフ期間を有する第二のパルス波形により前記第二の高周波電力をパルス変調する場合、前記第二の期間の高周波電力を前記第一の期間に生成されたプラズマのアフターグローを維持するような電力値とするとともに前記パルス変調された第二の高周波電力を前記第二の期間に前記試料台へ供給する制御器をさらに備え、前記制御器は、前記オン期間の高周波電圧のピーク間電圧が所定値に達した場合、前記第二の高周波電源の出力をオフにし、前記パルス変調された第二の高周波電力が供給される期間は、前記第二の期間より短いことを特徴とする。
【0016】
本発明は、オン期間とオフ期間を有する第二のパルス波形によりパルス変調された第二の高周波電力が供給される試料台に載置された試料を第一の期間と第二の期間を有する第一のパルス波形によりパルス変調された第一の高周波電力によって生成されたプラズマを用いて処理するプラズマ処理方法において、前記第二の期間の高周波電力を前記第一の期間に生成されたプラズマのアフターグローを維持するような電力値とする工程と、前記パルス変調された第二の高周波電力を前記第二の期間に前記試料台へ供給する工程と、前記オン期間の高周波電圧のピーク間電圧が所定値に達した場合、前記第二の高周波電力を供給する第二の高周波電源の出力をオフにする工程とを有し、前記パルス変調された第二の高周波電力が供給される期間は、前記第二の期間より短いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によりプラズマの解離度を制御しプロセスウインドウを広げることのできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るプラズマエッチング装置の概略を示す縦断面図である。
図2】本発明に係るプラズマ電力およびバイアス電力の供給を示すタイミングチャートである。
図3】プラズマ生成時の飽和イオン電流密度と時間の関係を示す図である。
図4】プラズマ電力をパルス化しオンオフした場合の飽和イオン電流密度を示す図である。
図5】本発明の一実施例であるプラズマ処理方法(表1)におけるプラズマ電力およびバイアス電力の供給状態を示すタイミングチャートである。
図6図5の電力を用いた表1のエッチング条件により処理された試料のエッチング形状を示す縦断面図である。
図7】本発明の一実施例における比較例である表2のプラズマ電力およびバイアス電力の供給状態を示すタイミングチャートである。
図8図7の電力を用いた表2のエッチング条件により処理された試料のエッチング形状を示す縦断面図である。
図9】本発明の第二の実施例であるプラズマ処理方法(表3)におけるプラズマ電力およびバイアス電力の供給状態を示すタイミングチャートである。
図10図9の電力を用いた表3のエッチング条件により処理された試料のエッチング形状を示す縦断面図である。
図11】本発明の第二の実施例における比較例である表4のプラズマ電力およびバイアス電力の供給状態を示すタイミングチャートである。
図12図11の電力を用いた表4のエッチング条件により処理された試料のエッチング形状を示す縦断面図である。
図13】本発明に係るバイアス電力の制御方法の一例を示すタイミングチャートである。
図14】本発明に係るバイアス電力のさらに他の制御方法を示すタイミングチャートである。
図15】本発明に係るプラズマ電力およびバイアス電力の他の供給方法を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、解離度の低いプラズマ処理を可能とするプラズマ処理装置および方法に関するものであり、図1ないし図4により説明する。
【0020】
図1は、本発明のプラズマ処理装置の一例である有磁場マイクロ波プラズマエッチング装置を示す。内部を減圧排気されプラズマ処理室を形成するチャンバ101には、その内部に試料であるウエハ102を配置するための試料台103が設けられている。チャンバ101の上部開口にはマイクロ波透過窓104を介して導波管105およびマイクロ波を発振するマグネトロン106が順次設けられている。
【0021】
マグネトロン106には高周波電力を供給するためのプラズマ生成用の電源である第一の高周波電源113が接続されている。チャンバ101および導波管105の外周には、チャンバ101内に磁場を形成するためのソレノイドコイル107が設けられている。チャンバ101にはガス導入口111が接続され、処理ガス供給装置(図示省略)からエッチング処理用のガスが供給される。チャンバ101内に供給された処理ガスは、マグネトロン106からのマイクロ波電界とソレノイドコイル107による磁界との作用により励起され、チャンバ101内にプラズマ112が形成される。
【0022】
チャンバ101はウエハ102を搬入出するウエハ搬送口110を有し、ウエハ搬送口110を介して図示を省略した搬送装置によりチャンバ101内にウエハ102が搬入され、ウエハ102は試料台103上に配置される。試料台113には、ウエハを吸着保持するための静電チャックが設けられ、静電吸着電源108が接続されるとともに、プラズマ処理中のウエハに対しプラズマ中のイオンを入射させるためのバイアス電源である第二の高周波電源109が接続されている。また、前記バイアス電源は、前記試料台に印加された高周波電力のバイアスピーク間電圧を前記電力供給期間の間、一定に制御される。
【0023】
第1の高周波電源113および第2の高周波電源109は制御器114につながり、それぞれの高周波電力の出力を制御される。制御器114は、図2に示すようにプラズマ発生用の電力とバイアス用の電力をパルス的に出力制御可能であり、一方の電力の印加タイミングを任意に遅らせるとともにそれぞれの電力を同期させることが可能になっている。また、前記制御器は、前記プラズマ生成用の高周波電力の第二の期間に対し前記バイアス用の高周波電力の電力供給期間の供給開始を遅延制御する遅延回路を有する。
【0024】
また、前記制御器は、前記試料台に供給された高周波電力のバイアスピーク間電圧が予め定められた値に達した場合、前記バイアス電源の出力をオフにする。図2(a)は第一の高周波電源113からの出力値および出力タイミングを制御するパルス波形を示し、1周期内で高い出力値を維持する期間(以下、「ハイ(High)期間」と呼ぶ)と小さい出力値を維持する期間(以下、「ロウ(Low)期間」と呼ぶ)とを交互に繰り返す。
【0025】
図2(b)は第二の高周波電源109からの出力値および出力タイミングを制御するパルス波形を示し、プラズマ電力パルスに同期し、1周期内のハイ期間が終了し所定の遅れ時間Δt後にバイアス用の電力パルスを発生する。バイアス用の電力パルスは、プラズマ電力パルスのロウ期間のみに発生させるようになっている。
【0026】
図2(a)にはプラズマ電力パルス波形(実線)と、それに対応するウエハ上で測定した飽和イオン電流(破線)を示している。ハイ期間のプラズマ電力は、プラズマ着火が可能な電力であり、このときの飽和イオン電流は破線に示すように急激に増加する。図3は飽和イオン電流密度を示し、プラズマ着火とともに0.1ms程度で飽和状態に近づき、約0.4msで実質的に飽和状態に達する。このことからハイ期間の時間は0.1から0.4msの範囲内に設定すれば、プラズマ中のイオン密度が高い、言い換えると、電子密度が高いプラズマを得ることができる。
【0027】
電子はプラズマの解離に作用する。また、ハイ期間にはプラズマに高い高周波電力が供給され、プラズマの解離度を上げるエネルギーが電子に与えられ電子温度が高くなり、解離度の高いプラズマを得ることができる。ハイ期間のパルス出力が停止した後、図4に示すようにプラズマ電力の供給がなくなると飽和イオン電流の低下が始まり、プラズマ生成時の飽和イオン電流密度の値,ガス種,磁場の有無等によって異なるが、プラズマは概ね0.2ms位で実質的に消滅状態と同様の状態になる。
【0028】
飽和イオン電流がゼロになる、すなわち、プラズマが消滅するまでの間は、アフターグローと称されるプラズマ状態にある。アフターグローの状態では時間の経過とともにプラズマの解離度が低下する。概念的に説明すると、例えば、メタン(CH4)ガスの場合、図4に示すプラズマ電力のオン期間(ハイ期間)である飽和イオン電流の状態(i)においては、ガスと電子の衝突頻度が高くなりCH+3Hのように解離が進んでいる。
【0029】
プラズマ電力のオフ期間における状態(ii)においてはガスと電子の衝突頻度が減少しCH2+2Hのように解離が低下したものが増えてくる。プラズマ電力のオフ期間における状態(iii)においてはガスと電子の衝突頻度がさら減少しCH3+Hのように解離がさらに低下したものが増えてくる。プラズマ電力のオフ期間における状態(iv)においてはガスと電子の衝突頻度がさらに減少しCH4のように供給時のガス状態のものが増えてくる。
【0030】
なお、ハイ期間終了直後は飽和イオン電流密度が高いが、少し時間が経過すると解離度は下がり飽和イオン電流密度は半分以下になる。本発明では、ハイ期間終了後、プラズマ着火を生じさせない低い電力に制御するプラズマ電力パルスを制御器114から第一の高周波電源113に出力することにより、図2に示すようにアフターグローを消滅させることなく所定の範囲の飽和イオン電流値を有する解離度が低いプラズマを維持することができる。
【0031】
また、低い電力値のプラズマ電力パルスが出力されるロウ期間の間で、解離度が低いプラズマが維持されているとき、すなわち、所定の飽和イオン電流値以下のときに、第二の高周波電源109から試料台103にバイアス電力を印加するように、制御器114から第二の高周波電源109にパルス信号を出力する。
【0032】
これにより、解離度の低いプラズマを用いてウエハ102をプラズマ処理することができる。また、遅れ時間Δtを調整することで、任意の解離度のプラズマ状態になったアフターグローにおけるイオンに対してバイアス電力を作用させることができ、被対象物の処理に適したプラズマを用いることが可能となる。なお、第二の高周波電源109から印加するバイアス電力のインピーダンスマッチングは、ロウ期間のプラズマ安定を待って整合器(図示省略)により行われる。
【0033】
以下に、本発明を用いた一実施例を図5および図6により説明する。
【0034】
図1に示した装置を用い表1に示すレシピによってPoly−Si膜をエッチング処理する場合について説明する。
【0035】
【表1】
【0036】
エッチング処理は、この場合、処理ガスとしてCl2,O2,HBr,およびAr+CH4ガスによる混合ガスを用いる。このガス系ではPoly−Si膜の側壁のサイドエッチを抑えるためにメタン(CH4)ガスが混合されている。プラズマ生成用のマイクロ波電力は表1に示す値で図5に示すように、高低2つ値、この場合、750Wと200Wの値を周波数1kHz、デューティ15%/85%で時間変調し交互に切替え供給する。
【0037】
なお、本装置の場合は、プラズマ電力として2.45GHzのマイクロ波を用いており、この場合、約400W以上の出力でプラズマ着火する。バイアス電力はプラズマ電力のロウ期間のみに供給するように周波数1KHzでプラズマ電力に同期させ、デューティ80%で供給される。この場合の遅れ時間Δtは0.05msである。
【0038】
上述の条件でエッチング処理されたウエハのエッチング断面を図6に示す。この場合のウエハはSi基板201上に酸化膜202を5nm、Poly−Si膜203を50nm、窒化膜マスク204を10nm堆積した構造であり、エッチング後のPoly−Si膜のラインアンドスペースの断面図が示されている。本実施例のエッチング処理によれば、エッチングはロウ(Low)期間に進行する。
【0039】
ロウ期間のプラズマ電力は200Wで、通常の連続放電ではプラズマを生成できず維持することができない領域である。しかし、ハイ期間で生成されたプラズマを次のハイ期間までの短い期間だけ維持することは可能で、このロウ期間は低いプラズマ密度を保てる。
【0040】
プラズマ密度が低いと電子とラジカルの衝突頻度が減少して、この場合、プラズマ中のラジカルはCH3のように比較的付着係数が低いラジカルが主となる。付着係数が低いと最初に衝突した面に付着せず、ライン奥にもラジカルが入りやすくなりPoly−Si膜203のライン間の広い部分と狭い部分の付着量の差が小さくなる。その結果、図6に示すようにラインに面する空間が広い側の側壁、この場合、ライン外側の側壁の太りを抑えた垂直な形状が得られる。
【0041】
上述の本発明を用いた一実施例の比較例として表2に示すレシピで同様のPoly−Si膜をエッチングした場合について説明する。
【0042】
【表2】
【0043】
前述の一実施例のエッチング処理と異なる点は、プラズマ電力およびバイアス電力が時間変調されたものではなく、図7に示すように連続供給されていることである。このためPoly−Si膜のエッチングは連続的に進むため、エッチング時間は前述の一実施例より短い時間で終了する。
【0044】
上述の条件でエッチング処理されたウエハのエッチング断面を図8に示す。なお、図6と同符号は同一部材を示し説明を省略する。本比較例の場合、エッチング処理に用いられる、すなわち、バイアス電力が印加されている間のプラズマ電力が大きく、したがってプラズマ密度も大きくなる。このガス系では前述のようにPoly−Si膜の側壁のサイドエッチを抑えるためにメタン(CH4)ガスが混合されている。
【0045】
このため、プラズマ密度が高いとメタンガスと電子との衝突頻度が高くなりCH4→CH+3Hのように解離が進み、未結合手の数が大きい、すなわち、付着係数の大きいCHラジカルが多く存在する。付着係数の大きいラジカルが多いと、Poly−Si膜203の側壁に面する空間が広いライン側の側壁でのラジカルの衝突頻度が高くなり、当該側壁、すなわち広い空間に面した側壁が太り、図8のようにテーパ形状となる。
【0046】
このように、本一実施例によれば、ハイ期間で生成したプラズマのアウターグローの状態のプラズマを処理に用いることができるので、低解離度のプラズマを用いたエッチング処理が可能になり、堆積性のラジカルの付着確率を調整することができる。これにより、ライン幅に粗密差がある被エッチング対象物であっても、堆積性のラジカルの付着状態を最適にすることができ、粗密差があるラインの側壁を垂直にエッチング処理することができる。
【0047】
このように通常のプラズマ生成では処理が難しい場合でも、解離度の低いプラズマを処理に用いることが可能となり、処理装置のプロセスウインドウを広げることができる。また、プロセスウインドウが広げられるので形状制御性の良いエッチング処理を行うことができる。
【0048】
さらに、本一実施例によれば、ハイ期間で生成したプラズマのアウターグローの状態において、ハイ期間よりも小さい所定のプラズマ電力をロウ期間に供給するので、プラズマが消滅する不安定期間のアフターグローの状態を所定の状態で安定に維持できる。これにより、ロウ期間にバイアス電力を印加して処理するエッチング処理を安定させることができる。
【0049】
また、プラズマ処理装置として、有磁場マイクロ波プラズマ処理装置を用いた装置とすることにより、ECRプラズマを生成できるので容量結合方式や誘導結合方式のプラズマ処理装置よりも高真空での処理が可能となる。高真空状態の方がイオンやラジカルの衝突確率が少なくなるので、アフターグローの状態のプラズマを用いるのに有利となる。
【0050】
また、ECRプラズマは他の方式のプラズマに比べ高密度プラズマが形成できるので、飽和イオン電流密度の高い状態から飽和イオン電流密度が低くなるまでの範囲を広くできる、すなわち、プラズマ処理に使用するロウ期間における電力出力値の設定範囲が広くなり、よりプロセスウインドウを広くできる。
【0051】
次に、本発明を用いた第二の実施例を図9および図10により説明する。
【0052】
図1に示した装置を用い表3に示すレシピによって3次元構造のFin−FETをエッチング処理する場合について説明する。Fin−FETは、この場合、図10に示すようにSi基板301上に酸化膜302を5nm、酸化膜302上のFin303を跨ぎPoly−Si膜304を150nm、窒化膜マスク305を10nm堆積した構造である。図10(b)は図10(a)をAから見た図であり、図10(c)は図10(a)をBから見た図である。
【0053】
【表3】
【0054】
エッチング処理は、この場合、4つのステップからなり、処理ガスとしてCl2,O2,CO2,HBrおよびAr+CH4ガスを用い、表3に示すようにステップ毎にこれらのガスの幾つかを組み合わせた混合ガスを用いる。なお、このガス系では必要に応じエッチング時のサイドエッチを抑えるためにメタン(CH4)ガスが混合される。
【0055】
各ステップにおけるプラズマ生成用のマイクロ波電力は表3に示す値で、図9に供給タイミングを示す。ステップ1は自然酸化膜を除去する。ステップ2はFin303が露出するまでPoly−Si膜304をエッチングする。ステップ1および2は図9(a)に示すようにプラズマ電力とバイアス電力のオン・オフを同期させてパルス制御される(パルス周波数:1KHz、デューティ:50%/40%)。
【0056】
ステップ3はFin303の露出部から下のPoly−Si膜304をエッチングする。ステップ3では図9(b)に示すようにプラズマ電力のロウ期間に同期させてバイアス電力を印加する。プラズマ電力は高低2つの値、この場合、800Wと200Wの値を周波数1kHz、デューティ15%/85%で時間変調し交互に切替え供給する。なお、本装置の場合は、プラズマ電力として2.45GHzのマイクロ波を用いており、この場合、約400W以上の出力でプラズマ着火する。バイアス電力はプラズマ電力のロウ期間のみに供給するよう周波数1KHzでプラズマ電力に同期させ、デューティ50%で供給される。
【0057】
この場合のバイアス電力パルスの遅れ時間Δtは0.05msである。ステップ4は残渣を除去するオーバエッチングである。ステップ4は図9(c)に示すようにプラズマ電力は連続とし、バイアス電力をオン・オフするパルス制御を行う(パルス周期:1KHz、デューティ:50%)。
【0058】
上述の条件でエッチング処理されたウエハのエッチング断面を図10に示す。本第二の実施例のエッチング処理によれば、ステップ2のエッチング処理によってFin303が露出し始めると、それまでのPoly−Si膜304のエッチング面積に対し、Fin303露出後のPoly−Si膜304のエッチング面積はFin303の面積を除いた部分の面積になり、エッチング領域の周辺環境が大きく変わる。
【0059】
すなわち、ステップ3では図10(c)に示すようにPoly−Si膜304とFin303で囲まれた密部分をエッチングすることになり、アスペクト比もさらに大きくなっていき、エッチング環境がステップ2のエッチング環境と大きく変わる。このため、狭い領域のエッチングに適したエッチング条件に変更する必要がある。
【0060】
Fin303が露出すると、エッチングされる領域、言い換えると、エッチング空間がさらに狭くなるため、ラインの粗密差がエッチング形状に大きく影響してくる。また、ステップ3ではFin303のスパッタエッチングを防ぐためバイアス電力を小さくしている。このため、等方性エッチングの性質が強くなるので側壁保護が重要となるが、堆積性ラジカルの付着係数を小さくし狭い空間および深い空間への供給を可能とするため、ハイ期間でのプラズマ生成後のロウ期間でアフターグローにおける解離度の低いプラズマを維持させ、堆積性ラジカルの付着係数を小さくする。
【0061】
ロウ期間のプラズマ電力は200Wで、通常の連続放電ではプラズマを生成できず維持することができない領域である。しかし、ハイ期間で生成されたプラズマを次のハイ期間までの短い期間だけ維持することは可能で、このロウ期間は低いプラズマ密度を保てる。バイアス電力はロウ期間に供給され、エッチングはロウ期間に進行する。
【0062】
これにより、堆積し易い粗の部分と堆積し難い密の部分との差が小さくなり、粗の部分への過剰な堆積を抑制でき垂直なエッチングが可能となり、3次元構造のFin−FETを形状制御良くエッチング粗利することができる。
【0063】
上述の本発明を用いた第二の実施例の比較例として表4に示すレシピで同様の3次元構造のFin−FETをエッチングした場合について説明する。
【0064】
【表4】
【0065】
前述の第二の実施例のエッチング処理と異なる点はステップ3であり、他のステップ1,2,4は第二の実施例と同様であり説明を省略する。
【0066】
ステップ3は、プラズマ電力を高低2値で時間変調するのではなく、図11に示すようにオン・オフによりプラズマ電力を時間変調している(切替え周期:1KHz、デューティ:50%)。また、バイアス電力もプラズマ電力に同期させ、プラズマ電力がオンのときにバイアス電力をオンするよう時間変調している(切替え周期:1KHz、デューティ:50%)。
【0067】
上述の条件でエッチング処理されたウエハのエッチング断面を図12に示す。なお、図10と同符号は同一部材を示し説明を省略する。本比較例の場合、ステップ3におけるエッチング処理に用いられる、すなわち、バイアス電力が印加されている間のプラズマ電力は大きく、このため、プラズマ密度も大きくなる。このガス系では前述のようにPoly−Si膜の側壁のサイドエッチを抑えるためにメタン(CH4)ガスが混合されている。
【0068】
このため、プラズマ密度が高いとメタンガスと電子との衝突頻度が高くなりCH4→CH+3Hのように解離が進み、未結合手の数が大きい、すなわち、付着係数の大きいCHラジカルが多く存在する。付着係数の大きいラジカルが多いと、Poly−Si膜304の側壁に面する空間が広い側の側壁でラジカルとの衝突頻度が高くなり、当該側壁が太り、図12(a)のようにテーパ形状となる。
【0069】
このように、本第二の実施例によれば、前述の実施例と同様の効果があるとともに、3次元構造のFin−FETにおいても、低解離度のプラズマを用いたエッチング処理が可能なので、堆積性のラジカルの付着確率を調整することができ、Finにダメージを与えることなくFinが露出した後にもPoly−Si膜を垂直にエッチング加工することができる。
【0070】
なお、上述のこれら実施例においては、バイアス電力が所定の電力で出力されるように一定の値のバイアス電力パルスを出力するようにしている。図13にプラズマ電力のパルス、バイアスのピーク間電圧(以下、「Vpp」と称する)およびバイアス電力のパルスの関係をタイムチャートで示す。プラズマ電力のロウ期間にはアフターグローが消滅することはないが、飽和イオン電流が時間とともに少しずつ減少する。このロウ期間におけるバイアス電力供給において、定電力電源を使用すると飽和イオン電流の低下に伴いVppが増加する。
【0071】
ウエハに入射するイオンのエネルギーは概ねVppに比例するので、Vppが大きく変動することがあればエッチング特性が変動してしまう。このため、バイアス電力のデューティ設定以外の対応として、Vppに上限値(Vmax)を定めて、VppがVmaxに達したら、制御器114により第二の高周波電源109をオフさせるようにしても良い。これによりVppに変動が生じた場合においてもエッチング特性の安定化を図ることができる。
【0072】
また、バイアス電力のさらに他の制御方法を図14により説明する。図14はプラズマ電力のパルス、バイアスのピーク間電圧(Vpp)およびバイアス電力のパルスの関係をタイムチャートである。本図が図13と異なる点は、Vppを一定制御する点である。制御器114はこの場合、バイアス電力のパルスのオンの間、飽和イオン電流密度の減少に伴いバイアス電力を低下させ、Vppの上昇を防ぎVppが一定になるように制御する。これによれば、エッチング特性に影響するVppを一定にできるので、エッチング特性の更なる安定化を図ることができる。
【0073】
上述のこれら実施例は有磁場マイクロ波源によるプラズマエッチング装置を用いた場合について説明したが、本発明は、容量結合型プラズマ源や誘導結合型プラズマ源等の他のプラズマ生成方式によるプラズマ処理装置に適用可能なことはいうまでもない。なお、プラズマの生成の際に処理室内に磁場を形成し、磁場を作用させることは生成効率の高いプラズマを得たり、グロー放電を長く維持するのに有効である。
【0074】
また、本実施例では、プラズマ電力のロウ期間のみにバイアス電力を供給して、すなわち、解離度の低いプラズマ中のイオンをウエハに入射させて試料をエッチング処理するようにしたが、エッチング形状やウエハへのダメージが許容し得る範囲内であれば、図15に示すようにプラズマ電力のハイ期間にもバイアス電力を供給しても良い。このときハイ期間に供給されるバイアス電力の出力値は処理に応じ、ロウ期間のバイアス電力値に合わせる必要はなく適宜設定できる。このようにすることにより、エッチング処理時間を短縮することができる。
【0075】
また、同様にエッチング形状やウエハへのダメージが許容し得る範囲内であれば、1工程中のエッチング処理において、プラズマ電力のハイ期間のみにバイアス電力を供給する時間と、プラズマ電力のロウ期間のみにバイアス電力を供給する時間とを交互に、例えば、10secおきに繰り返すエッチング処理としても良い。
【0076】
さらに本発明により、所望の解離度のプラズマによる処理が可能となり、プロセスウインドウを広くすることができる。また、微細化エッチングに対応し、エッチング面に粗密差がある場合においても垂直エッチングが可能となる。また、エッチング途中に被エッチング形状がさらに小さく変化する場合にも対応可能なエッチング処理ができる。
【0077】
上述のように、ロウ期間のバイアス電力供給によるプラズマ処理とハイ期間のバイアス電力供給によるプラズマ処理とを交互に用いることにより、ハイ期間のより安定したプラズマによる処理が加えられるので、処理の安定性(再現性)を向上させることができる。
【符号の説明】
【0078】
101 チャンバ
102 ウエハ
103 試料台
104 マイクロ波透過窓
105 導波管
106 マグネトロン
107 ソレノイドコイル
108 静電吸着電源
109 第二の高周波電源
110 ウエハ搬送口
111 ガス導入口
112 プラズマ
113 第一の高周波電源
114 制御器
201、301 Si基板
202、302 酸化膜
203、304 Poly−Si膜
204、305 窒化膜マスク
303 Fin
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15