【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施形態を更に具体的に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでは無い。
【0075】
(実施例1)
LiF粉末とBaF
2粉末をそれぞれ溶融、固化させることにより得られた塊状のLiF原料およびBaF
2原料を、LiF:BaF
2が0.57:0.43のモル比であり、かつ、原料の合計量が3kgになるように混合して、カーボン製の内径120mmの坩堝に収容しチョクラルスキー結晶育成炉(CZ炉)内に収容した。次に、炉内を1×10
−3Pa以下の真空度に保ち坩堝を600℃まで24時間かけて加熱昇温させ、純度99.999%のCF
4ガスを炉内に導入して炉内の圧力80kPaにした。その後、坩堝を900℃まで2時間かけて加熱昇温させて、上記混合物を融解させた。
【0076】
次いで、坩堝内の原料融液に、BaLiF
3単結晶からなり鉛直方向が<111>方向である種結晶を接触させ、この種結晶を15rpmで回転させながら1.0mm/hの速度で引き上げることにより、BaLiF
3単結晶体からなるインゴットを成長させた。BaLiF
3単結晶体のインゴットを所定の大きさまで成長させた後、溶融液からインゴットを切り離した。次いで、CZ炉を36時間かけて冷却した後に、インゴットをCZ炉から取り出した。得られたインゴットは全長130mm、直胴部の長さが100mm、直胴部の直径が50mmであった。
【0077】
得られたBaLiF
3単結晶体の密度は5.2g/mL、屈折率は1.54であった。単結晶体のうち、透明部分の切り出し粉砕機を用いて細かく粉砕し、目開き200μmの篩にかけ、篩下分を回収しBaF粉末1とした。BaF粉末1の平均粒子径は120μmであった。次に屈折率1.54のポリ塩化ビニル樹脂(PVC)300gにBaF粉末1を3000gの割合で混合し、バンバリーミキサーを用いて混練し、BaF粉末1が72.6容量%含まれる樹脂組成物よりなる放射線遮蔽材料を得た。この放射線遮蔽材料を加圧プレス機により成形し、4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。この放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は91%であり、ヘイズは32%であった。
【0078】
次に、以下の方法で、作製した放射線遮蔽材の放射線透過率を測定した。即ち、Cs137の611eVのガンマ線発生源とNaI−R6249ガンマ線検出器を30cmの距離で相対させ、その間に遮蔽物を置かない状態でのガンマ線強度C0を得る。次にガンマ線発生源とガンマ線検出器の間の検出器の3cm前方に、作製した放射線遮蔽材を配置した状態でのガンマ線強度C1を得る。次式によって放射線透過率を求めた。
【0079】
放射線透過率(%)= C1/C0×100
本実施例にて作製した放射線遮蔽材を上記の方法で評価したところ、放射線透過率は88%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.2mmPbであった。
【0080】
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は73容量%であった。
【0081】
(実施例2)
BaF
2を原料として実施例1と同様の方法により単結晶体を作製した。
BaF
2粉末3kgをカーボン製の内径120mmの坩堝に収容しチョクラルスキー結晶育成炉(CZ炉)内に収容した。次に、炉内を1×10
−3Pa以下の真空度に保ち坩堝を600℃まで24時間かけて加熱昇温させ、純度99.999%のCF
4ガスを炉内に導入して炉内の圧力80kPaにした。その後、坩堝を1400℃まで2時間かけて加熱昇温させて、上記混合物を融解させた。次いで、坩堝内の原料融液に、BaF
2単結晶からなり鉛直方向が<111>方向である種結晶を接触させ、この種結晶を15rpmで回転させながら2.0mm/hの速度で引き上げることにより、BaF
2単結晶体からなるインゴットを成長させた。BaF
2単結晶体のインゴットを所定の大きさまで成長させた後、溶融液からインゴットを切り離した。次いで、CZ炉を36時間かけて冷却した後に、インゴットをCZ炉から取り出した。得られたインゴットは全長130mm、直胴部の長さが100mm、直胴部の直径が50mmであった。
【0082】
得られたBaF
2の単結晶体の密度は4.8g/mL、屈折率は1.48であった。これを、粉砕機を用いて細かく粉砕し、目開き200μmの篩にかけ、篩下分を回収しBaF粉末2とした。BaF粉末2の平均粒子径は108μmであった。次にポリ塩化ビニル樹脂粉末(屈折率1.54)300gに対しBaF粉末2を3000gの割合で予備混合し、これを、バンバリーミキサーを用いて溶融混合し、BaF粉末2を74.1容量%含む樹脂組成物よりなる放射線遮蔽材料を得た。この放射線遮蔽材料を加圧プレス機により成形し、4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0083】
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は65%であり、ヘイズは38%であった。
【0084】
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は88%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.2mmPbであった。
【0085】
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は74容量%であった。
【0086】
(実施例3)
本実施例では、フッ化物粉末としてBaF
2とLaF
3からなる固溶体の粉末を用い、樹脂としてポリ塩化ビニルを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.54及び1.54であり、両者の屈折率の差は0.00である。
【0087】
BaF
2粉末とLaF
3粉末を、BaF
2:LaF
3が0.5:0.5のモル比であり、かつ、合計量が3kgになるように混合してフッ化物粉末の原料を得た。該フッ化物粉末の原料をカーボン製の内径400mmの坩堝に充填し溶融炉内に収容した。次に、炉内を1×10
−3Pa以下の真空度に保ち坩堝を600℃まで24時間かけて加熱昇温させ、純度99.999%のCF
4ガスを炉内に導入して炉内の圧力80kPaにした。その後、坩堝を1500℃の溶融温度まで2時間かけて加熱昇温させて、上記混合物を融解させた。溶融温度で3時間保持した後、12時間かけて室温まで徐冷して凝固させ、BaF
2とLaF
3からなる固溶体(以下、BaF
2−LaF
3ともいう)のインゴットを得た。該BaLaFの密度は5.4g/mLであった。
【0088】
BaF
2−LaF
3のインゴットを粉砕機によって細かく粉砕し、目開き200μmの篩にかけ、篩下分を回収しBaF
2−LaF
3の粉末を得た。該粉末の平均粒子径は115μmであった。
ポリ塩化ビニル樹脂粉末(屈折率1.54)300gに対しBaF
2−LaF
3の粉末を3000gの割合で予備混合し、これを、バンバリーミキサーを用いて溶融混合し、BaF
2−LaF
3の粉末を72.2容量%含む樹脂組成物よりなる放射線遮蔽材料を得た。この放射線遮蔽材料を加圧プレス機により成形し、4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0089】
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は94%であり、ヘイズは20%であった。
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は87%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.3mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は72容量%であった。
【0090】
(実施例4)
本実施例では、フッ化物粉末としてBaY
2F
8の粉末を用い、樹脂としてエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート 25質量%とトリエチレングリコールジメタクリレート 75質量%からなる共重合体を用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.52及び1.52であり、両者の屈折率の差は0.00である。
BaF
2粉末とYF
3粉末を、BaF
2:YF
3が1:2のモル比であり、かつ、合計量が3kgになるように混合したフッ化物粉末の原料を用い、溶融温度を1100℃とする以外は、実施例3と同様にしてBaY
2F
8のインゴットを得た。該BaY
2F
8の密度は5.0g/mLであった。次いでBaY
2F
8のインゴットを実施例3と同様にして粉砕し、篩にかけてBaY
2F
8の粉末を得た。該粉末の平均粒子径は118μmであった。
【0091】
次にエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート 25質量%とトリエチレングリコールジメタクリレート 75質量%を混合した液状樹脂 300gにBaY
2F
8の粉末を3000gの割合で混合し、真空脱泡により気泡を除去した。得られたフッ化物粉末と液状樹脂の混合物を厚みが4.5mmで100mm×100mmのモールドに注入し、液状樹脂を硬化させて4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0092】
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は92%であり、ヘイズは25%であった。
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は88%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.2mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は79容量%であった。
【0093】
(実施例5)
本実施例では、フッ化物粉末としてYbF
3の粉末を用い、樹脂としてポリエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.60及び1.58であり、両者の屈折率の差は0.02である。
【0094】
フッ化物粉末の原料として、YbF
3の微粉末原料 3kgを用い、溶融温度を1300℃とする以外は、実施例3と同様にしてYbF
3のインゴットを得た。該YbF
3の密度は8.2g/mLであった。次いでYbF
3のインゴットを実施例3と同様にして粉砕し、篩にかけてYbF
3の粉末を得た。該粉末の平均粒子径は105μmであった。
【0095】
次にエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート 300gにYbF
3 3600gの割合で混合する以外は、実施例4と同様にして4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0096】
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は75%であり、ヘイズは33%であった。
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は84%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.7mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は72容量%であった。
【0097】
(実施例6)
本実施例では、フッ化物粉末として前記BaF粉末2(密度4.8g/mL)を用い、樹脂としてシリコーンを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.48及び1.41であり、両者の屈折率の差は0.07である。BaF粉末2の平均粒子径は108μmであった。
液状のシリコーン 300gにBaF粉末2 2500gの割合で混合し、真空脱泡により気泡を除去した。得られたフッ化物粉末と液状のシリコーンの混合物を厚みが4.5mmで100mm×100mmのモールドに注入し、シリコーンを硬化させて4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0098】
得られた放射線遮蔽材は透明性を有しており、その全光線透過率は65%であり、ヘイズは40%であった。
次に、実施例1と同じ方法で、得られた放射線遮蔽材の放射線透過率を測定したところ、放射線透過率は89%であり、放射線遮蔽能(鉛当量)は1.1mmPbであった。
得られた放射線遮蔽材の断面をSEMで観察し、フッ化物粉末が存在する層(充填層)の厚み及び該層におけるフッ化物粉末の充填率を測定したところ、厚みは4.0mm、充填率は74容量%であった。
【0099】
表1に、実施例1〜6の評価結果をまとめて示す。
【0100】
【表1】
【0101】
(比較例1)
本比較例では、フッ化物粉末として密度3.2g/mLのCaF
2の粉末を用い、樹脂としてシリコーンを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.43及び1.41であり、両者の屈折率の差は0.02である。
【0102】
フッ化物粉末の原料として、CaF
2の微粉末原料 3kgを用いる以外は、実施例3と同様にしてCaF
2のインゴットを得た。該CaF
2の密度は3.2g/mLであった。次いでCaF
2のインゴットを実施例3と同様にして粉砕し、篩にかけてCaF
2の粉末を得た。該粉末の平均粒子径は123μmであった。
【0103】
次に、液状のシリコーン 300gにCaF
2の粉末 1700gの割合で混合する以外は、実施例6と同様にして4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0104】
得られた放射線遮蔽材について、フッ化物粉末が存在する層の厚み、該層におけるフッ化物粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。フッ化物粉末の密度が3.2g/mLと小さいため、1mmPbに満たない放射線遮蔽能しか得られなかった。
【0105】
(比較例2)
本比較例では、フッ化物粉末として前記BaF粉末1を用い、樹脂としてシリコーンを用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.54及び1.41であり、両者の屈折率の差は0.13である。
【0106】
液状のシリコーン 300gにBaF粉末1 2500gの割合で混合する以外は、実施例6と同様にして4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0107】
得られた放射線遮蔽材について、フッ化物粉末が存在する層の厚み、該層におけるフッ化物粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。フッ化物粉末と樹脂との屈折率の差が0.13と大きかったため、透明性は低かった(全光線透過率57%、ヘイズ62%)。
【0108】
(比較例3)
本比較例では、ポリ塩化ビニル樹脂300gにBaF粉末1を450gの割合で混合し、BaF粉末1が28.8容量%含まれる樹脂組成物を調製する以外は、実施例1と同様にして4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0109】
得られた放射線遮蔽材について、フッ化物粉末が存在する層の厚み、該層におけるフッ化物粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。フッ化物粉末の充填率(29%)が低いため、1mmPbに満たない放射線遮蔽能しか得られなかった。
【0110】
(比較例4)
本比較例では、フッ化物粉末としてYb
2O
3の粉末を用い、樹脂としてエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートの重合体を用いた。該フッ化物粉末及び樹脂の屈折率はそれぞれ1.95及び1.58であり、両者の屈折率の差は0.37である。
Yb
2O
3の微粉末原料をレニウム製の内径80mmの坩堝に充填し溶融炉内に収容した。次に、炉内にO
2 0.01%、H
2 10%、N
2 90%のガスを流通させて炉内の圧力を大気圧に保ちながら、坩堝を2500℃の溶融温度まで8時間かけて加熱昇温させて、上記混合物を融解させた。溶融温度で3時間保持した後、12時間かけて室温まで徐冷して凝固させ、Yb
2O
3のインゴットを得た。該Yb
2O
3のインゴットの密度は9.2g/mLであった。
【0111】
Yb
2O
3のインゴットを粉砕機によって細かく粉砕し、目開き200μmの篩にかけ、篩下分を回収しYb
2O
3の粉末を得た。該粉末の平均粒子径は125μmであった。
次にエトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート 50gにYb
2O
3 670gの割合で混合する以外は、実施例5と同様にして4.5mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0112】
得られた放射線遮蔽材について、Yb
2O
3粉末が存在する層の厚み、該層におけるYb
2O
3粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。フッ化物粉末と樹脂との屈折率の差が0.37と非常に大きかったため、透明性は低かった(全光線透過率51%、ヘイズ85%)。
【0113】
(比較例5)
本比較例では、BaSO
4粉末をポリ塩化ビニル樹脂に充填した放射線遮蔽材を作製した。該BaSO
4粉末及びポリ塩化ビニル樹脂の屈折率はそれぞれ1.64及び1.54であり、両者の屈折率の差は0.10である。
ポリ塩化ビニル樹脂300gに市販のBaSO
4粉末(平均粒子径 15μm)を2700gの割合で混合する以外は、実施例1と同様にして4mmの厚みを有する100mm×100mmの放射線遮蔽材を得た。
【0114】
得られた放射線遮蔽材について、BaSO
4粉末が存在する層の厚み、該層におけるBaSO
4粉末の充填率、全光線透過率、ヘイズ、放射線透過率及び放射線遮蔽能を表2に示す。ある程度の放射線遮蔽効果は得られるものの(1.1mmPb)、実施例1〜6よりも透明性は低かった(全光線透過率59%、ヘイズ61%)。
【0115】
【表2】