(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)を、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)で除した値(2位MS/3位MS)が、1.2以下であるヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のHPMCASは、グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)を、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)で除した値(2位MS/3位MS)が1.2以下、好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.8以下のHPMCASである。2位MS/3位MSの値が1.2より大きい場合、溶媒に溶解させた際に未溶解及び半溶解の物質が存在し、フィルターの目詰まり、ノズルの閉塞が発生する。2位MS/3位MSの値の下限は、特に限定されないが、好ましくは0.1以上である。
【0009】
グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)とは、具体的には、グルコース単位の置換可能な3つの水酸基のうち、2位の炭素上の水酸基の水素原子がヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基に置換され、(1)3位及び6位の炭素上の水酸基の水素原子がメチル基に置換された場合の2位の炭素上の水酸基の水素原子に置換したヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基の置換度、(2)3位の炭素上の水酸基の水素原子がメチル基に置換され、6位の炭素上の水酸基の水素原子が非置換である場合の2位の炭素上の水酸基の水素原子に置換したヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基の置換度、(3)6位の炭素上の水酸基の水素原子がメチル基に置換され、3位の炭素上の水酸基の水素原子が非置換である場合の2位の炭素上の水酸基の水素原子に置換したヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基の置換度、(4)3位及び6位炭素上の水酸基の水素原子が非置換である場合の2位の炭素上の水酸基の水素原子に置換したヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基の置換度、の合計値をいう。
一方、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)とは、具体的には、グルコース単位の置換可能な3つの水酸基のうち、3位の炭素上の水酸基の水素原子がヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基に置換され、(1)2位及び6位の炭素上の水酸基の水素原子がメチル基に置換された場合の3位の炭素上の水酸基の水素原子に置換したヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基の置換度、(2)2位の炭素上の水酸基の水素原子がメチル基に置換され、6位の炭素上の水酸基の水素原子が非置換である場合の3位の炭素上の水酸基の水素原子に置換したヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基の置換度、(3)6位の炭素上の水酸基の水素原子がメチル基に置換され、2位の炭素上の水酸基の水素原子が非置換である場合の3位の炭素上の水酸基の水素原子に置換したヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基の置換度、(4)2位及び6位の炭素上の水酸基の水素原子が非置換である場合の3位の炭素上の水酸基の水素原子に置換したヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基の置換度、の合計値をいう。
【0010】
グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)及びグルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)の測定は、まず国際公開2013/154607号公報に記載されているようなHPMCASの脱アシル化(脱アシル化法)を行った後に、Macromolecules,20,2413(1987)や繊維学会誌,40,T−504(1984)に記載されているようなHPMC置換位置分析を行う。
HPMCASの脱アシル化法は、HPMCAS(10mg)を4mLのジメチルスルホキシド(DMSO)中で、窒素雰囲気下90℃で2時間撹拌することにより溶解させる。次に200mgの水酸化ナトリウム粉末を加え、窒素雰囲気下にて45分間撹拌する。その後に500μLの水を加えて60℃で1時間撹拌し、更に2.5mLの水を加えて60℃で一晩撹拌する。撹拌終了後の液を、透析チューブ(Fisher Scientific社製、再生セルロース材質、規格T1、分画分子量3500)を用いて2日間透析を行う。透析後、チューブの内容物を凍結乾燥して、HPMCASのアセチル基とスクシニル基が脱アシル化されたヒドロキシプロピルメチルセルロースを得ることができる。
次に、HPMC置換位置分析について述べる。前記脱アシル化により得られたヒドロキシプロピルメチルセルロース50mgに3質量%の硫酸水溶液2mLを加え140℃にて3時間加水分解を行った後、炭酸バリウムを約0.7g加えて中和する。3mLのメタノールを加えて加水分解物を溶解して分散液を得、500Gにて遠心分離した後に、上澄み液を0.45μmの目開きのフィルターで濾過する。1.5gのNaBH
4を0.2規定のNaOH水溶液10mL中に溶かした溶液120μLを加えて、グルコース環の還元を37〜38℃にて1時間行い、酢酸100μLを加えた後、溶媒を乾固させ、ピリジン1mL、無水酢酸0.5mLを加えて120℃にて1.5時間アセチル化する。500Gにて遠心分離した後に、上澄み液を0.45μmの目開きのフィルターで濾過する。ろ液から再び溶媒を除去し、ジエチレングリコールジメチルエーテル1mLに再溶解した後、150〜280℃に昇温したJ&W社のDB−5カラムに1μLを通し、FID検出器にて各分解成分の保持時間を測定する。予め各検出ピークについて質量分析装置にて分解成分の構造を同定したピークによる同定と面積比により、グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)を、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)で除した値(2位MS/3位MS)を算出することができる。
【0011】
HPMCASにおける置換基であるメチル基のモル置換度は、特に限定されないが、好ましくは0.70〜2.90、より好ましくは1.00〜2.40、更に好ましくは1.4〜2.0である。
HPMCASにおける置換基であるヒドロキシプロピル基のモル置換度は、特に限定されないが、好ましくは0.20〜1.50、より好ましくは0.20〜1.0、更に好ましくは0.20〜0.80である。
HPMCASにおける置換基であるアセチル基のモル置換度は、特に限定されないが、好ましくは0.10〜2.50、より好ましくは0.10〜1.00、更に好ましくは0.40〜0.95である。
HPMCASにおける置換基であるスクシニル基のモル置換度は、特に限定されないが、好ましくは0.10〜2.50、より好ましくは0.10〜1.00、更に好ましくは0.10〜0.60である。
ヒドロキシプロピル基をはじめとするHPMCASの置換基含量は、第16改正日本薬局方第一追補の医薬品各条「ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル」に記載されている方法により測定できる。
【0012】
20℃におけるHPMCASを2質量%含む希(0.1mol/L)水酸化ナトリウム水溶液の粘度は、好ましくは1.1〜20mPa・s、より好ましくは1.5〜3.6mPa・sである。粘度が1.1mPa・s未満の場合、スプレーコーティングの際にミストが細かくなり回収率が低下する可能性がある。一方、粘度が20mPa・sを超える場合は、液組成物の粘度が増加することでスプレーコーティング時の生産性が著しく低下する可能性がある。粘度の測定方法は、第16改正日本薬局方のHPMCASの一般試験法に記載の方法により測定することができる。
【0013】
一般的に水系コーティングに用いられる方法であるアルカリ中和水系コーティング法において、アルカリ水溶液、例えばアンモニア水にHPMCASを10質量%で溶解させた場合のHPMCAS溶液の透光度は、未溶解及び半溶解の物質を少なくする点で、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは78%以上である。
アルカリ水溶液としては、例えば、アンモニア水、モノエタノールアミン水溶液、水酸化ナトリウム水溶液が挙げられ、好ましくはアンモニア水である。アルカリ水溶液の濃度は、カルボキシ基の濃度に応じて適宜選択できるが、好ましくは後述するHPMCASの中和度が、好ましくは80モル%以上、より好ましくは95〜105モル%となるように添加する。
HPMCASのアルカリ水溶液の透光度の測定は、まずプロペラ型撹拌機でおよそ400rpmの速度で撹拌しながら、アルカリ水溶液に10質量%のHPMCASを添加後、そのまま3時間撹拌を行って、HPMCASの10質量%濃度のアルカリ水溶液を調製する。そして、20℃の範囲に温度を調整した水溶液を透光度計(光電比色計PC−50形:コタキ社製)を用いて、フィルター720nm、20mmセルにより測定することにより透光度を求めることができる。
【0014】
HPMCAS及び溶媒を含む組成物は、例えば薬物のコーティング用組成物として用いられる。HPMCAS及び溶媒を含むコーティング用組成物としては、例えば、アルカリ水溶液を用いてHPMCASを部分的に中和して使用するアルカリ中和水系コーティング用組成物が挙げられる。HPMCASは腸溶性基剤であり、酸性液中での溶解を防ぐためカルボキシ基を含有する。そのカルボキシ基を部分的に中和するのに必要な量のアルカリ水溶液を加えて好ましくは30分間程度撹拌し、HPMCASとアルカリを十分に反応させて、アルカリ中和水系コーティング用組成物を得ることができる。
アルカリ水溶液の種類及び濃度としては、前記透光度測定に用いられた水溶液及び濃度と同様である。特にアンモニア水溶液は、コーティング操作における乾燥工程で揮発して脱アンモニア化が起こり、ほぼ完全にアルカリ塩が残らない点で好ましい。
【0015】
アルカリ中和水系コーティング用組成物は、精製水にHPMCASを加えて前記部分中和工程も含めてプロペラ撹拌又はホモジナイザーにより分散して得られる。その際、泡が発生してHPMCASが集塊しないようにするために、液を比較的穏やかに撹拌する。好ましい回転数は、プロペラ撹拌の場合100〜1200rpm、ホモジナイザーの場合500〜10000rpmである。
【0016】
アルカリ水溶液によるHPMCASの中和度は、HPMCASのカルボキシ基を完全中和するために必要なアルカリ当量を100モル%と定義したときの実際に添加したアルカリの量の比率であり、中和度=(100×添加したアルカリの量/HPMCASのカルボキシ基を完全中和するために必要なアルカリの量)(単位:モル%)として計算される。アルカリ水溶液によるHPMCASの中和度は、HPMCASのカルボキシ基に対して、好ましくは80モル%以上、より好ましくは95〜105モル%である。HPMCASは、水に溶けないため、コーティング液とするにはアルカリを加えて中和させ、水に溶解させる。この際、HPMCASに対して当量のアルカリを加えれば、理論的には中和されて溶解するはずであるが、実際は当量入れても溶けきらない場合があり、更にアルカリを加えるため、結果的に好ましい上限が100モル%を超えた105モル%となる。すなわち、ここでの「中和度」は真に中和された割合ではなく、本来であれば中和されるはずの当量と比べて、どれだけアルカリを添加したかという指標量としての意味合いが強い。
中和度が80モル%未満の場合には、HPMCASの溶解が不十分になる場合がある。中和度が105モル%を超える場合には、アルカリ塩が残留することにより導水性が高くなって十分な耐酸性を確保できない場合がある。また、調製するコーティング用組成物の粘度は、溶解しているHPMCAS濃度にも依存するため、中和度を高くすることによりコーティング操作が可能となるコーティング用組成物の濃度が制限されてしまう場合がある。
【0017】
得られたコーティング用組成物には、製剤学上許容されるトリアセチン、クエン酸トリエチル等の可塑剤、タルクやステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、ラウリル硫酸ナトリウム等の分散剤、酸化チタンや酸化鉄等の顔料、シリコン樹脂等の消泡剤等、各種添加剤を加えても良い。
【0018】
コーティング用組成物の粘度は、コーティングを実施するためにスプレーできる範囲であれば特に制限されるものではないが、通常、20℃におけるコーティング用組成物の粘度は、好ましくは200mPa・s以下、更に好ましくは100mPa・s以下、特に好ましくは50mPa・s以下であり、好ましい下限は1mPa・sである。200mPa・sを超えると、ポンプ及びスプレーガンへの送液が困難となり、コーティング操作性が悪くなる場合がある。なお、前記粘度は第16改正日本薬局方に記載の粘度測定方法で測定できる。
【0019】
前記コーティング用組成物は、従来公知のコーティング装置を用いて薬物を含有する芯部の周囲を被覆し、固形製剤を製造する用途に使用される。
適用される固形製剤としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等が挙げられ、この中には口腔内崩壊錠も含まれる。固形製剤には、薬物含有粒子に加えて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、凝集防止剤、医薬化合物の溶解補助剤等、通常この分野で常用され得る種々の添加剤を配合してもよい。
被覆する方法としては、例えば、前記コーティング用組成物を、薬物を含有する芯部に塗布する方法が挙げられる。
前記コーティング装置としては、特に限定されず、例えば、パンコーティング装置、流動層コーティング装置、転動流動層コーティング装置等を用いることができる。
【0020】
HPMCAS及び溶媒を含む組成物は、コーティング用組成物の他に、例えば固体分散体の調製用途に用いることもできる。固体分散体の調製の方法としては、HPMCASと薬物に、必要に応じて賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、又は凝集防止剤等のその他の成分を含む溶液又は分散液から溶媒を除去又は析出させることにより製造する。溶媒を除去する方法としては、蒸留乾固法、スプレードライ法等が挙げられる。スプレードライ法は、水難溶性薬物を含む溶液混合物を小さな液滴に分解(噴霧)し、液滴からの溶媒を蒸発により急速に除去する方法を広く指す。好ましい態様としては、液滴を高温乾燥ガスと混合する又は溶媒除去装置内での圧力を不完全真空に維持する等の方法が挙げられる。
固体分散体の調製用途で用いる溶媒は、例えばアセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルアセテート、エチルアセテート、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン及びそれらの混合物が挙げられるが、特に溶解性又は分散性の観点から、アセトンが好ましい。
【0021】
次に、本発明のHPMCASの製造方法について説明する。
まず、例えば、パルプを水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物溶液に所定量含浸させてアルカリ化して、アルカリセルロースを得る。
ここで、本発明に使用するパルプは、木材パルプ、リンターパルプ等、通常セルロースエーテルの原料となるものであり、粉末状、シート状、チップ状等の全てのパルプの形態が使用できる。また、パルプの重合度は目標とするセルロースエーテルの粘度に応じて適宜選択することができる。
【0022】
その後、必要量の塩化メチル等のメチルエーテル化剤及び酸化プロピレン等のヒドロキシプロピルエーテル化剤を反応させてヒドロキシプロピルメチルセルロースを製造する。
セルロースのグルコース単位は置換可能な水酸基を3つ有している。一般にメチルエーテル化は、グルコース単位の2位炭素上水酸基で最も反応性が高く、6位炭素上水酸基での反応性はそれより劣り、3位炭素上水酸基は最も反応性が低い。ヒドロキシプロピルエーテル化は、グルコース単位の6位炭素上水酸基で最も反応性が高く、2位及び3位炭素上水酸基での反応性はそれより劣り、また2位炭素上水酸基での反応性と3位炭素上水酸基での反応性は同程度である。そこで、2位炭素上水酸基のヒドロキシプロピルエーテル化を抑え、優先的に3位炭素上水酸基をヒドロキシプロピルエーテル化して、グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)を、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)で除した値(2位MS/3位MS)が1.2以下のヒドロキシプロピルメチルセルロースを製造するために、好ましくは、ヒドロキシプロピルエーテル化剤よりもメチルエーテル化剤を先行反応させる。
【0023】
好ましくは、メチルエーテル化剤による先行反応を行う。メチルエーテル化剤とヒドロキシプロピルエーテル化剤は、同時に添加してもメチルエーテル化剤もしくはヒドロキシプロピルエーテル化剤を先に添加してもよいが、メチルエーテル化剤の反応率が30%の時点において、ヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率が40%以下、好ましくは0%を超えて40%以下となるよう、又はメチルエーテル化剤の反応率が50%の時点において、ヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率が90%以下、好ましくは0%を超えて90%以下となるようメチルエーテル化剤あるいはヒドロキシプロピルエーテル化剤を連続又は適宜仕込みながら製造することが好ましい。ここで、メチルエーテル化剤の反応率とは、ストイチオメトリックな量に対する任意の時点の反応量のモル比をいう。例えば、塩化メチルの反応の場合は、塩化メチルが反応すると等モル量のアルカリが消費されるため、塩化メチルの反応率とは、反応機内初期アルカリ量に対する現時点の塩化メチルの反応量のモル比を表す。通常、メチルエーテル化剤とアルカリを用いてメチルエーテル化を行う場合、メチルエーテル化の効率を高めるため、メチルエーテル化剤の添加量はアルカリに対してストイチオメトリックな量以上となるように添加する。上記メチルエーテル化剤の反応率の定義に従えば、最終的にアルカリに対してストイチオメトリックな量以上のメチルエーテル化剤を加えたとしても、その過剰分は反応率の計算には無関係である。若干異なるが同様に、ヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率とは、最終的に反応機に加えた全量のヒドロキシプロピルエーテル化剤に対する任意の時点のヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応量のモル比をいう。メチルエーテル化ではアルカリに対してストイチオメトリックな量を基準としたが、ヒドロキシプロピルエーテル化におけるアルカリは触媒であり、アルカリとストイチオメトリックに反応が進行しないため、最終的に反応機に加えた全量のヒドロキシプロピルエーテル化剤を基準とした。
【0024】
メチルエーテル化剤又はヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率は、反応機から素早くメチルエーテル化剤又はヒドロキシプロピルエーテル化剤を除去、回収することにより、その時点で反応機内に残留していたメチルエーテル化剤又はヒドロキシプロピルエーテル化剤の量を調べ、最終的に反応機に加えるはずだったメチルエーテル化剤又はヒドロキシプロピルエーテル化剤の量でその時点の反応量を除する方法(ただし、メチルエーテル化剤はストイチオメトリックな量を基準とする)により求めることができる。また、実験により求められた化学反応速度式によるシミュレーションを用いることによっても求めることができる。
【0025】
メチルエーテル化剤による先行反応を行うことによって、競合するヒドロキシプロピルエーテル化剤のエーテル化反応効率は低下するので、メチルエーテル化剤の反応率が30%の時点におけるヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率、又はメチルエーテル化剤の反応率が50%の時点におけるヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率を、メチルエーテル化剤先行反応の指標とすることができる。
【0026】
メチルエーテル化剤の仕込み時間は、好ましくは5〜80分間、更に好ましくは5〜50分間である。ヒドロキシプロピルエーテル化剤の仕込み時間は、好ましくは10〜90分間、更に好ましくは30〜90分間である。ただし、前記メチルエーテル化剤の仕込み時間には、ヒドロキシプロピルエーテル化剤仕込み開始からメチルエーテル化剤仕込み開始までの遅れ時間を含まない時間であり、前記ヒドロキシプロピルエーテル化剤の仕込み時間には、メチルエーテル化剤仕込み開始からヒドロキシプロピルエーテル化剤仕込み開始までの遅れ時間を含まない時間である。
メチルエーテル化剤あるいはヒドロキシプロピルエーテル化剤を連続又は適宜仕込みながら製造することにより、メチルエーテル化剤の反応率が30%の時点において、ヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率が40%以下となるか、又はメチルエーテル化剤の反応率が50%の時点において、ヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率が90%以下となる。その結果、グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)を、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)で除した値(2位MS/3位MS)が1.2以下のヒドロキシプロピルメチルセルロースを製造することができる。
【0027】
エーテル化反応の温度は、メチルエーテル化剤の反応率が30%の時点におけるヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率、又はメチルエーテル化剤の反応率が50%の時点におけるヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率が本発明の値となれば特に制限はないが、好ましくは、反応初期(いずれかのエーテル化剤の供給開始時点)が50〜80℃の範囲であり、0.5時間後に50〜80℃の範囲、1時間後に55〜90℃の範囲、1.5時間後に65〜110℃の範囲、2時間後に80〜110℃の範囲にする。その後は、好ましくは80〜110℃を保持する。前記スケジュールに関わらずエーテル化反応が完結した時点で反応を終了してよい。
なお、本発明に使用するエーテル化反応における、メチルエーテル化剤の反応率が30%の時点におけるヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率、又はメチルエーテル化剤の反応率が50%の時点におけるヒドロキシプロピルエーテル化剤の反応率以外の製造条件は、公知の方法を使用することができる。
【0028】
前記の方法で得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースを、例えばコーティング用組成物として用いるために、必要に応じて解重合反応を行い、粘度を調整することができる。解重合反応は、例えば特公平4−76361号公報に記載の方法を用いて行うことができる。すなわち、ヒドロキシプロピルメチルセルロースに、塩化水素が該ヒドロキシプロピルメチルセルロースの0.1〜1質量%及び反応系の水分が3〜8質量%となるように塩化水素水溶液を接触させ、40〜85℃の温度で反応させた後、塩化水素を除去することにより行うことができる。解重合反応後の20℃におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース2質量%の水溶液の粘度は、第16改正日本薬局方の毛細管粘度計法に準じて測定され、好ましくは1.2〜30mPa・s、より好ましくは1.6〜4.5mPa・sである。
【0029】
HPMCASは、このようにして得られたヒドロキシプロピルメチルセルロースを原料として、例えば特開昭54−61282号公報に記載の方法を用いて製造できる。前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースを氷酢酸に溶解し、エステル化剤として無水酢酸と無水コハク酸、反応触媒として酢酸ナトリウムを添加して加熱反応させる。反応終了後、反応液に多量の水を添加してHPMCASを析出させ、その析出物を水洗後、乾燥する。このとき、グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)を、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)で除した値(2位MS/3位MS)が1.2以下のヒドロキシプロピルメチルセルロースを原料として使用すれば、生成するHPMCASのグルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)を、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)で除した値(2位MS/3位MS)も1.2以下となる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
木材由来の高純度溶解パルプを、49質量%NaOH水溶液とパルプ中の固体成分との質量比(49質量%NaOH水溶液/パルプ中の固体成分)が100になるように50℃の49質量%NaOH水溶液に12秒間浸漬した後に、プレスして余剰の49質量%NaOH水溶液を除去し、アルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロース中のNaOHとパルプ中の固体成分との質量比(NaOH/パルプ中の固体成分)は1.20だった。
得られたアルカリセルロースのうち、2029g(セルロース分570g)をプロシェア型内部撹拌羽根つきの圧力容器に仕込み、−97kPaまで減圧後、窒素を封入して大気圧まで戻した。更に、−97kPaまで再減圧した。
次に、加圧ポンプを用いて塩化メチル1127gを30分間で反応機に仕込んだ。塩化メチル仕込み開始と同時に加圧ポンプを用いて酸化プロピレンの反応機への仕込みを開始し、酸化プロピレンは491gを50分間で反応機に仕込んだ。反応機の内温は50〜80℃からスタートし0.5時間後に50〜80℃の範囲、1時間後に55〜90℃の範囲、1.5時間後に65〜110℃の範囲、2時間後に80〜110℃の範囲になるよう調節されエーテル化反応を完結させた。サンプリングのために同じ条件で別途行った実験では、塩化メチルの反応率が30%の時点において酸化プロピレンの反応率が25.5%、塩化メチルの反応率が50%の時点において酸化プロピレンの反応率が36%だった。
反応物を95℃以上の熱水にて洗浄し、乾燥して小型ウィリーミルにて乾燥した。第16改正日本薬局方記載のヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の置換度分析方法に従って分析し、メチル基の平均置換度(DS)1.89、ヒドロキシプロピル基の置換モル数(MS)0.24のヒドロキシプロピルメチルセルロースを得た。
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース450gを10Lヘンシェルミキサーに入れ200rpmで混合しながら、10質量%濃度の塩化水素水溶液を塩化水素が3g添加されるように噴霧した。その後、2Lのガラス製反応器に移し、反応器を75℃の水浴中で回転させながら20℃における2質量%水溶液の粘度が3.4mPa・sとなるまで解重合反応をした後、減圧(80mmHg)下に30分間塩化水素及び水を揮散させた。
次に、双軸撹拌機を有する5Lニーダー型反応機に前記解重合されたヒドロキシプロピルメチルセルロース400gと、氷酢酸640g、無水コハク酸81g、無水酢酸227gを加え、酢酸ナトリウム193gの存在下で、85℃で5時間反応させた。これに精製水450gを加えて撹拌した後、この溶液に精製水を添加してHPMCASを粒状に沈殿させ、濾過により粗HPMCASを採取した。この粗HPMCASを精製水にて洗浄し、乾燥後、10メッシュ(目開き:1700μm)の篩にて篩過し、最終水分1.2質量%のHPMCASを得た。
次に、HPMCASの、グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)を、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)で除した値(2位MS/3位MS)を求めた。まず、HPMCAS脱アシル化法によりHPMCASを脱アシル化し、引き続きHPMC置換位置分析により2位MS/3位MSを算出したところ、0.65であった。
また、HPMCASの透光度を測定した。HPMCASのアンモニア水溶液透光度の測定方法は、室温下で精製水228.8gにHPMCAS(26g)をプロペラ型撹拌機で400rpmの速度で撹拌しながら分散し、HPMCAS水懸濁液を調製し、ここに、プロペラ型撹拌機で撹拌しながら10質量%アンモニア水溶液5.21gを加えて、HPMCASのカルボキシ基の100モル%を中和して、更に3時間撹拌して20℃の10質量%濃度のアンモニア水溶液を調製した。溶液は透光度計(光電比色計PC−50形:コタキ社製)を用いて、フィルター720nm、20mmセルにより測定した。結果を表1に示した。
【0031】
実施例2
塩化メチルの仕込み時間を34分間、酸化プロピレンの仕込み量を445gとする以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0032】
実施例3
塩化メチルの仕込み時間を50分間、酸化プロピレンの仕込み時間を33分間、酸化プロピレンの仕込み量を348gとする以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0033】
実施例4
塩化メチルの仕込み時間を80分間、酸化プロピレンの仕込み時間を10分間、酸化プロピレンの仕込み量を268gとする以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0034】
実施例5
塩化メチルの仕込み時間を80分間、酸化プロピレンの仕込み時間を10分間、酸化プロピレンの仕込み量を268g、塩化メチルの仕込み開始時間を酸化プロピレンの仕込み開始から10分後とする以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0035】
比較例1
塩化メチルの仕込み時間を80分間、酸化プロピレンの仕込み時間を10分間、酸化プロピレンの仕込み量を268g、塩化メチルの仕込み開始時間を酸化プロピレンの仕込み開始から15分後とする以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0036】
比較例2
塩化メチルの仕込み時間を80分間、酸化プロピレンの仕込み時間を10分間、酸化プロピレンの仕込み量を268g、塩化メチルの仕込み開始時間を酸化プロピレンの仕込み開始から20分後とする以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0037】
比較例3
塩化メチルの仕込み時間を80分間、酸化プロピレンの仕込み時間を10分間、酸化プロピレンの仕込み量を268g、塩化メチルの仕込み開始時間を酸化プロピレンの仕込み開始から27分後とする以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
グルコース単位の2位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(2位MS)を、グルコース単位の3位炭素上の水酸基の水素原子に直接置換しているヒドロキシプロピル基モル置換度(3位MS)で除した値(2位MS/3位MS)が1.2以下であるHPMCASを用いた実施例1〜5は、透光度が高く75%程度の透光度を保持していた。一方で、2位MS/3位MSの値が1.2より大きい比較例1〜3は、透光度が比較的低く、見た目に濁りが強いことが確認された。これは2位MS/3位MSの値が低下することにより溶解性が高まったためであると考えられる。