(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記演算部は、前記検出器によって検出された前記測定子の角度位置毎の変位量Cを、前記傾斜量Bに基づいて算出された前記測定子の検出位置における前記スピンドルの回転軸の傾斜量Dに基づいて補正することにより前記ワークの真円度を算出する、請求項4に記載の真円度測定装置。
前記演算部は、前記変位量Cから前記傾斜量Dを減算して得られた前記角度位置毎の補正値Eに基づき、前記ワークの真円度を算出する、請求項5に記載の真円度測定装置。
前記演算部は、前記傾斜量Bが、設定した閾値よりも大きい場合には、前記傾斜量Dで変位量Cが補正された前記補正値Eに基づいてワークの真円度を算出し、前記閾値よりも小さい場合には、前記傾斜量Dで前記変位量Cを補正することなく前記変位量Cに基づいてワークの真円度を算出する、
請求項6に記載の真円度測定装置。
【背景技術】
【0002】
円柱状又は円筒状のワークの真円度を測定する真円度測定装置は、回転可能なテーブルにワークを載置し、ワークの表面に検出器の測定子を接触させ、ワークの回転に伴う基準値からの測定子の変位量を検出器によって検出することにより、ワークの真円度を測定する(特許文献1参照)。このような真円度測定装置は、ワークの測定に先立って真円度測定装置が有する誤差成分の補正、又は検出器の較正が行われる(特許文献2、3参照)。
【0003】
特許文献2には、円柱状ワークに対して第1の検出器の接触子を水平に、かつ直径方向に案内する水平腕と、この腕の先端に設けられて第1の検出器の接触子を直径の位置の2点に向かって接触可能とした第1の検出器の支持枠と、水平腕の水平移動量を検出する径読取りの第2の検出器と、から構成される真円度測定装置が開示されている。この真円度測定装置は、まずマスターピースを回転台の上にセットし、第1の検出器の接触子をマスターピースの右側面に当て、第2の検出器の読みを求める。次いで、第1の検出器の接触子をマスターピースの左側面に当てて、第2の検出器の読みを求め、第2の検出器の2つの読みからマスターピースの既知寸法により、装置の誤差値を求める。そして、マスターピースを脱してワークをセットし、同様にしてワークの直径寸法を測定し、装置の誤差値の誤差補正を行う。
【0004】
特許文献3には、原点情報取得及び測定物の表面形状を測定する検出器の校正を行う真円度測定装置用の基準治具が開示されている。特許文献3の基準治具は、回転テーブル上のXYテーブルの上面に取り外し可能に載置され、段付きの円板状に形成された台座と、台座の上段部にプローブの感度校正を可能とする校正マスタが設けられ、校正マスタの上方に、その最下面、最上面のX軸方向及び右側面、左側面のZ軸方向の測定が可能なように配置された原点ボールを備え、プローブの各姿勢におけるプローブに設けられたスタイラスの位置ずれを求めて補正値としている。これは、基準治具を測定物回転機構の上に載せ、真円度測定装置の検出器のセンサを基準球に接触させることで真円度測定装置の原点情報を得るとともに、検出器のセンサを校正マスタに関与させることで検出器の感度校正を行うものである。
【0005】
上記の如く、真円度測定装置は、装置の誤差補正や検出器の感度較正をワークの測定に先立って実施することにより、正確な測定結果を得るようにしている。また、ワークが載置されるテーブルの回転精度の誤差もゼロではなく、この回転精度の誤差においても予め取り除いた後、ワークの測定を実施している。なお、テーブルの回転精度とは、テーブルに連結されてテーブルを回転させるスピンドルの回転精度と等価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の真円度測定装置のように、ワークの測定前にテーブルの回転精度の誤差成分を取り除く作業(以下、「偏心較正作業」と言う。)を実施したとしても、テーブルの回転精度の誤差成分を確実に除去することは困難であった。
【0008】
この問題は、真円度測定装置に生じる特有のものである。以下に説明すると、真円度測定装置は、ワークの形状的な中心(形状中心であってテーブルで回転させる中心)をテーブルの回転中心に調芯した後、テーブルを回転させてワークの真円度を測定する。真円度測定装置は、その精度にもよるが、平面形状を厳密に測定するために、また、テーブルの回転運動の運動誤差がワーク個体の測定精度に影響を与えないようにするために、測定対象のワークを滑らかに回転運動させて測定する。特に、運動誤差の小さい高精度なテーブルは、回転時の摺動抵抗を小さくするためにエアベアリング等の静圧軸受で支持するように構成されているが、その分、剛性が小さくなってしまうため、テーブルの回転精度に誤差が生じる場合がある。
【0009】
また、ワークの中でも、時として形状中心が、ワークの重心位置と一致しないワークがある。このようなワークの場合、ワークの形状中心をテーブルの回転中心に調芯しても、ワークの重心位置がテーブルの回転中心に一致しないため、テーブルの剛性の点でどうしても軸触れを起こしてしまい、この場合には、測定精度に大きく影響する。このように、測定時のスピンドル(テーブル)の回転軸(ワークの測定時における回転状態のスピンドルの回転軸)と、偏心較正作業時のスピンドルの回転軸(ワークの測定開始前における回転停止状態のスピンドルの回転軸:以下「A軸」と称する。)と、が相対的に傾斜(軸触れも傾斜と等価)した場合、ワーク形状が理想的な真円であっても回転軸(A軸)に垂直な断面外周をトレースすることではなくなるため、断面外周の形状が楕円形状になってしまう。つまり、従来の真円度測定装置は、上記のような特有の問題を抱えているため、スピンドルの回転軸が測定時に傾斜するという問題が生じる。これにより、精度の高い測定を実施することが困難な場合があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、真円度測定装置が持つ特有の問題、つまり、スピンドルの回転軸が測定時に傾斜した際に、スピンドルの回転軸の傾斜量を検知し、検知したスピンドルの回転軸の傾斜量に基づいて測定精度の向上を図ることができる真円度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の真円度測定装置は、本発明の目的を達成するために、ワークが載置されるテーブルと、テーブルに連結され、テーブルを回転させるスピンドルと、テーブルに載置されたワークの表面に接触する測定子の変位量を検出する検出器と、ワークの測定開始前における回転停止状態のスピンドルの回転軸と、ワークの測定時における回転状態のスピンドルの回転軸との相対的な傾斜量Bを検知する検知部と、を備える。
【0012】
本発明の真円度測定装置の検知部によれば、ワークの測定開始前における回転停止状態のスピンドルの回転軸(A軸)と、ワークの測定時における回転状態のスピンドルの回転軸との相対的な傾斜量Bを検知する。これにより、本発明によれば、真円度測定装置が持つ特有の問題、つまり、スピンドルの回転軸が測定時に傾斜した際に、スピンドルの回転軸の傾斜量Bを検知することができる。なお、スピンドルの回転軸の傾斜量Bは、A軸に対する傾斜量でもよく、A軸に直交する軸に対する傾斜量でもよい。
【0013】
ここでA軸とは、ワークの測定開始前における回転停止状態のスピンドルの回転軸を指す。つまりA軸は、測定前に実施される偏心較正作業によって基準値に誤差補正されたスピンドルの回転軸を指す。また、ワークは、ワークの形状中心が、テーブルの回転中心と等価なスピンドルの回転軸に合された状態でテーブルに載置される。しかしながら、スピンドルの回転軸は前述の如く、真円度測定装置の特有の問題に起因して、ワークの測定時にA軸に対して傾斜するので、この傾斜量Bが測定精度に影響を与える場合がある。このため本発明では、回転状態のスピンドルの回転軸の傾斜量Bを、ワークを測定しながら検知部によって検知している。なお、本発明に記載の傾斜量Bとは、例えばA軸の単位長さに対するスピンドルの回転軸のA軸に直交する方向の傾斜量(離間量)を指す。実際に検知したい傾斜量は、回転状態のテーブルの回転中心の傾斜量であるが、通常の装置において軸長がテーブルよりも長いスピンドルは傾斜量の分解能をテーブルよりも高めることができ、また検知部の配置位置の自由度も広い。このため本発明では、スピンドルの回転軸の傾斜量Bを検知部で検知することで、テーブルの回転中心の傾斜量を間接的に検知している。
【0014】
本発明の一態様は、テーブルは、テーブルの回転中心とワークの形状中心とを調芯する調芯手段を有することが好ましい。
【0015】
本発明の一態様によれば、真円度測定装置では、テーブル回転中心(ないしは測定子の回転中心)とワークの形状中心とを合わせることが求められる。調芯手段により、回転中心と形状中心とを合わせることができ、真円度を高精度に測定する環境を設定することが可能となる。その上で、形状中心と重心が一致していないワーク等では、傾斜量を検知する検知手段により、測定子の変位量を精度よく補正することが可能となる。
【0016】
本発明の一態様は、スピンドルは、エアベアリングによって回転自在に支持されることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様によれば、エアベアリングは、摺動抵抗が極めて小さく、エアベアリングの摺動抵抗に伴うノイズが極めて小さいという特徴がある一方で、剛性が小さくなるという欠点がある。形状中心と重心が一致していないワークでは、ベアリングの剛性不足に伴うテーブルの傾斜量を補正することで、高精度な真円度測定を実現する。
【0018】
本発明の一態様は、傾斜量Bと測定子の変位量とに基づいてワークの真円度を算出する演算部を備えることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様は、演算部は、検出器によって検出された測定子の角度位置毎の変位量Cを、傾斜量Bに基づいて算出された測定子の検出位置におけるスピンドルの回転軸の傾斜量Dに基づいて補正することによりワークの真円度を算出することが好ましい。
【0020】
本発明の一態様の演算部によれば、傾斜量Bに基づいて算出された測定子の検出位置におけるスピンドルの回転軸の傾斜量Dに基づき、検出器によって検出された測定子の角度位置毎の変位量Cを補正する。これにより、ワークを測定する際に生じるテーブルの回転精度の誤差成分を取り除いた測定を実施することができるので、ワークの測定精度が向上する。
【0021】
本発明の一態様は、演算部は、変位量Cから傾斜量Dを減算して得られた角度位置毎の補正値Eに基づき、ワークの真円度を算出することが好ましい。
【0022】
本発明の一態様の演算部によれば、変位量Cから傾斜量Dを減算して得られた角度位置毎の補正値Eに基づき、ワークの真円度を算出するので、測定精度が向上する。
【0023】
本発明の一態様は、演算部は、傾斜量Bが、設定した閾値よりも大きい場合には、傾斜量Dで変位量Cが補正された補正値Eに基づいてワークの真円度を算出し、閾値よりも小さい場合には、傾斜量Dで変位量Cを補正することなく変位量Cに基づいてワークの真円度を算出することが好ましい。
【0024】
本発明の一態様によれば、検知部によって検知される傾斜量Bに、測定精度に影響を与えない閾値を設定している。そして、検知部によって検知された傾斜量が、その設定値よりも小さい場合には、傾斜量Dで変位量Cを補正することなく変位量Cをそのまま使用してワークの真円度を算出する。一方、検知部によって検知された傾斜量が、その設定値を超えた場合には、傾斜量Dで変位量Cが補正された補正値Eに基づいてワークの真円度を算出する。これにより、測定精度に影響を与えるテーブルの回転精度の誤差成分を取り除いた測定を実施することができるので、ワークの測定精度が向上する。
【0025】
本発明の一態様は、演算部は、変位量C又は補正値Eに基づいて、ワークの形状をリアルタイムで算出することが好ましい。
【0026】
本発明の一態様の演算部によれば、検出器によって絶えず検出されている変位量Cに基づき、又は補正値Eに基づいて、ワークの真円度を角度位置毎に算出していく。これにより、ワークの真円度をテーブルの回転と同時(リアルタイム)に算出することができる。
【0027】
本発明の一態様は、検知部は、回転停止状態のスピンドルの回転軸の軸方向の互いに異なる高さ位置に配置され、テーブル又はスピンドルまでの距離又は変位量を検出する第1センサ及び第2センサを備え、第1センサ及び第2センサの検出結果に基づいて傾斜量Bを検知することが好ましい。
【0028】
本発明の一態様の検知部によれば、第2センサによって検出された距離又は変位量から、第1センサによって検出された距離又は変位量を減算し、この変位量減算値を、第2センサの第2高さ位置から第1センサの第1高さ位置を減算した高さ減算値で除算する。これによって検知部は、傾斜量Bを検知することができる。
【0029】
本発明の一態様は、第1センサ、第2センサ及び検出器の検出結果に基づいて、演算部は、振動成分を検出結果から削除して真円度を算出することが好ましい。
【0030】
本発明の一態様は、第1センサ、第2センサ及び検出器の検出結果に基づいて、演算部は、偏心成分を検出結果から削除して真円度を算出することが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の真円度測定装置によれば、真円度測定装置が持つ特有の問題、つまり、スピンドルの回転軸が測定時に傾斜した際に、スピンドルの回転軸の傾斜量を検知するので、検知したスピンドルの回転軸の傾斜量に基づいて測定精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面に従って本発明に係る真円度測定装置の好ましい実施形態について詳説する。
【0034】
図1は、本発明の実施形態の真円度測定装置10の外観斜視図である。
図2は、真円度測定装置10の構成を示したブロック図である。
【0035】
〔真円度測定装置10の全体構成〕
図1、
図2の如く真円度測定装置10は、箱型のベース12と、ベース12の上面に回転可能に設けられ、略円筒状のワーク14を載置するテーブル16と、ベース12の内部に設けられ、テーブル16を回転駆動するモータ18(
図2参照)が内蔵されたスピンドル20と、ベース12の上面にZ方向(鉛直方向)に立設されたコラム22と、コラム22に沿ってZ方向に移動可能なキャリッジ24と、キャリッジ24にX方向(水平方向)に移動可能に取り付けられたアーム26と、アーム26の端部に取り付けられた検出器ホルダ28と、検出器ホルダ28に取り付けられ、先端に測定子30を有する検出器32と、を備える。
【0036】
テーブル16は、ワーク14を載置して回転されるものであり、テーブル16の回転角は、スピンドル20に連結されたエンコーダ52から出力される回転角信号によって検出される。
【0037】
コラム22は、テーブル16の回転中心であるスピンドル20の回転軸A(A軸)に対してZ方向に平行に立設された柱であり、その下端部がベース12の上面に固定される。コラム22には、キャリッジ24がZ方向に移動可能に取り付けられる。コラム22に対してキャリッジ24をZ方向に移動させるための駆動手段としては特に限定されるものではないが、例えば、モータ、ボールネジ、ガイドレール等の組み合わせで構成される。
【0038】
なお、上記のスピンドル20の回転軸A(A軸)とは、ワーク14の測定開始前における回転停止状態のスピンドル20の回転軸を指す。つまり回転軸Aは、ワークの測定前に実施される偏心較正作業によって基準値に誤差補正されたスピンドル20の回転軸を指す。しかし、スピンドル20の回転軸は、テーブル16にワーク14が載置されると、真円度測定装置10が有する特有の問題に起因して回転軸Aに対して傾斜する場合があり、この傾斜量(後述する傾斜量B)が測定精度に影響を与える場合がある。この件については後述する。
【0039】
アーム26は、キャリッジ24にX方向に沿って取り付けられ、キャリッジ24と一体となってZ方向に移動される。また、アーム26の先端には、検出器ホルダ28の下端が取り付けられている。更に、アーム26は、キャリッジ24に対してX方向に移動可能に取り付けられる。キャリッジ24に対してアーム26をX方向に移動させるための駆動手段としては特に限定されるものではないが、モータ、ボールネジ、ガイドレール等の組み合わせで構成される。以上の構成により、アーム26に取り付けられた検出器ホルダ28は、コラム22に沿ったZ方向、及びアーム26に沿ったX方向に移動可能に構成される。
【0040】
検出器ホルダ28は、L字型の部材であり、下端がアーム26に連結され、上端に検出器32が取り付けられる。
【0041】
検出器32は、ワーク14の表面に接触する測定子30と、差動トランス等の変位量検出部(不図示)と、を有し、測定子30の変位量を示す電気信号をアナログ電圧値として出力する。検出器32の検出方向は水平方向である。
【0042】
また、テーブル16には、X方向微動つまみ34及びY方向微動つまみ36を備えたXY駆動機構(調芯手段)が備えられる。X方向微動つまみ34及びY方向微動つまみ36は、それぞれスピンドル20に連結されており、X方向微動つまみ34及びY方向微動つまみ36を操作することによってテーブル16をX方向及びY方向(X方向に直交する水平方向)に微動送りすることができる。これにより、テーブル16の水平位置が微調整される。更に、テーブル16には、X方向傾斜つまみ(不図示)及びY方向傾斜つまみ(不図示)が設けられており、X方向傾斜つまみ及びY方向傾斜つまみを操作することによって、テーブル16をX方向及びY方向に傾斜させることができる。これにより、テーブル16の傾斜方向の姿勢が微調整される。このような水平方向及び傾斜方向の微調整作業によって、つまりテーブル16の偏心較正作業によって、テーブル16の回転精度の誤差が取り除かれる。
【0043】
また、ワーク14をテーブル16に載置して、ワーク14の円筒面の形状中心である中心軸を、テーブル16の回転中心であるスピンドル20の回転軸Aに合わせる調芯作業について説明する。この調芯作業は、まず、ワーク14を、テーブル16上に、ワーク14の円筒面の中心軸がスピンドル20の回転軸の中心にほぼ一致するように載置する。次に、測定子30がワーク14の測定する位置に接触するように、キャリッジ24を移動して上下方向の位置を調整し、アーム26を移動して径方向の位置を調整する。
【0044】
この状態で、ワーク14を回転して、ワーク14の円筒部の中心軸とスピンドル20の回転軸との偏心を測定し、テーブル16に設けられたXY移動機構のX方向微動つまみ34及びY方向微動つまみ36を操作して、ワーク14の円筒部の中心軸をスピンドル20の回転軸に正確に一致させる。この調芯作業を実施することにより、真円度を高精度に測定する環境を設定することが可能となる。その上で、形状中心と重心が一致していないワーク14等では、後述するように、傾斜量Bを検知する検知手段によって、測定子30の変位量を精度よく補正することが可能となる。
【0045】
<真円度測定装置10の演算処理装置40>
図2の如く、真円度測定装置10は、演算処理装置40を有する。
【0046】
演算処理装置40には、検出器32から出力される測定子30の変位量を示す電気信号(アナログ電圧値)が入力される。演算処理装置40は、増幅器42、A/D変換器44、演算処理部46、及び動作プログラムが記憶されたメモリ48を有し、さらに測定結果を表示するディスプレイ50を備える。
【0047】
測定子30をワーク14に接触させて得られた電気信号は、検出器32から演算処理装置40に送信される。演算処理装置40では、電気信号をまず増幅器42によって増幅し、この後、A/D変換器44によってデジタル信号に変換し、演算処理部46によって演算処理する。
【0048】
<真円度測定装置10によるワーク14の測定方法の一例>
まず、ワーク14の測定に先立ち、真円度測定装置10の誤差補正と、検出器32の感度較正と、テーブル16の偏心較正作業と、を実施し、真円度測定装置10を基準値に設定する。つまり、テーブル16にマスターピースを載置して、このマスターピースを検出器32で測定して得られる真円度が真円となるように真円度測定装置10を基準値に設定する。
【0049】
この後、被測定物であるワーク14をテーブル16の上面に載置し、まず、ワーク14の円筒面の中心軸をスピンドル20の回転軸Aに合わせる調芯作業と、スピンドル20の回転軸Aに対するワーク14の傾斜補正を行う。これにより、スピンドル20の回転軸Aとワーク14の中心とが一致したものとして設定される。
【0050】
次に、検出器32の測定子30をワーク14の側面に接触させた状態で、テーブル16をスピンドル20によって1回転させ、ワーク14の側面の1周分のデータを検出器32からアナログ電圧値として採取する。アナログ電圧値として得られた電気信号は、上述したように増幅器42で増幅され、A/D変換器44でデジタル信号に変換されて、演算処理部46に入力される。演算処理部46は、エンコーダ52から出力される回転角度データであって、テーブル16の回転方向において分割された複数の角度位置毎の回転角度データと、前述の角度位置毎に検出器32で検出された変位量と、に基づいてワーク14の真円度を演算し、演算結果をディスプレイ50に表示する。
【0051】
ところで、スピンドル20の回転軸は、前述の如く、テーブル16にワーク14が載置されると、真円度測定装置10の特有の問題に起因して回転軸Aに対し傾斜する場合があり、この傾斜量Bが測定精度に影響を与える場合がある。よって、ワーク14の測定精度を高めるためには、傾斜量Bを検知することが重要な要素となる。
【0052】
そこで、実施形態の真円度測定装置10は、傾斜量Bを検知するために、テーブル16にワーク14を載置した状態で、スピンドル20によってテーブル16を1回転させたときのA軸に対するスピンドル20の回転軸の傾斜量Bを、回転方向において分割された複数の角度位置毎に検知する検知部54を備えている。すなわち、検知部54は、ワーク14の測定開始前における回転停止状態のスピンドル20の回転軸(A軸)と、ワーク14の測定時における回転状態のスピンドル20の回転軸との相対的な傾斜量Bを検知する。
【0053】
<検知部54の一例>
検知部54は
図2の如く、基準位置RP(Reference Position)に対するA軸方向の第1高さ位置H1における、スピンドル20までの距離又は変位量を検出する第1センサ56と、基準位置RPに対するA軸方向の第2高さ位置H2であって、第1高さ位置H1よりも高さの高い第2高さ位置H2における、スピンドル20までの距離及び変位量を検出する第2センサ58と、を備え、第1センサ56及び第2センサ58によって検出された距離又は変位量(検出結果)に基づいて傾斜量Bを演算処理部46によって算出することにより検知している。すなわち、検知部54は、A軸方向の互いに異なる高さ位置に配置された第1センサ56及び第2センサ58と、演算処理部46と、を備えている。
【0054】
第1センサ56と第2センサ58のそれぞれの検出方向は水平方向であり、真円度測定装置10の検出器32の測定方向と平行である。また、検出器32、第1センサ56及び第2センサ58は、A軸方向と平行な同一の鉛直線上に配置されており、検出器32、第1センサ56及び第2センサ58のそれぞれの検出点は、同一の鉛直線上に位置している。なお、実施形態では、真円度測定装置10のベース12の底部を基準位置RPに設定したが、この位置に限定されるものではなく、第1センサ56の下方の任意の位置であればよい。また、第1センサ56及び第2センサ58として、渦電流型のセンサ又は差動変圧器型のセンサ等の非接触式変位センサを適用することが好ましいが、接触式のセンサであっても適用することができる。
【0055】
<演算処理部46による傾斜量Bの検知方法>
演算処理部46は、第2センサ58によって検出された基準値からの変位量(距離でもよい)から、第1センサ56によって検出された基準値からの変位量(距離でもよい)を減算し、この変位量減算値を、第2高さ位置H2から第1高さ位置H1を減算した高さ減算値で除算する。これによって検知部54は、傾斜量Bを検知することができる。
【0056】
具体的に説明すると、エンコーダ52から出力される回転角度データの複数の角度位置毎に検出される変位量であって、第1センサ56によって検出される基準値からの変位量をD1、第2センサ58によって検出される基準値からの変位量をD2としたときに、演算処理部46は下記の式(1)にて傾斜量Bを算出する。
【0057】
B=(D2−D1)/(H2−H1)…(1)
これにより、実施形態の真円度測定装置10によれば、A軸に対するスピンドル20の測定時の回転軸の傾斜量Bを検知することができる。
【0058】
<傾斜量Bに基づくワーク14の測定方法>
実施形態の演算処理部46は、ワーク14の真円度を算出する演算部として機能する。すなわち、演算部である演算処理部46は、検出器32によって検出された測定子30の角度位置毎の変位量Cを、傾斜量Bに基づいて算出された測定子30の検出位置におけるスピンドル20の回転軸の傾斜量Dに基づいて補正することによりワーク14の真円度を算出する。具体的には、変位量Cから傾斜量Dを減算して得られた角度位置毎の補正値Eに基づき、ワーク14の真円度を算出する。
【0059】
図3は、傾斜量Bに基づくワーク測定方法の一例を示したフローチャートである。
【0060】
まず、テーブル16に載置されたワーク14に検出器32の測定子30を接触させてテーブル16を回転させる(Step(S)100)。
【0061】
次に、演算処理部46は以下の変位量を取得する。すなわち、テーブル16の角度位置毎に第1センサ56によって検出される基準値からの変位量(検出値)D1、第2センサ58によって検出される基準値からの変位量(検出値)D2、及び検出器32によって検出される変位量(検出値)Cを取得する(S110)。
【0062】
次に、演算処理部46は、上記の(1)式にて傾斜量Bを算出した後、傾斜量Bに基づいて算出された測定子30の検出位置におけるスピンドル20の回転軸の傾斜量Dを、下記の式(2)にて算出する。式(2)のH3は、基準位置RPからの測定子30の検出位置までの第3高さ位置を示す。
【0063】
D=(D2−D1)×(H3−H2)/(H2−H1)=B×(H3−H2)…(2)
次に、演算処理部46は、変位量Cから傾斜量Dを減算して得られた角度位置毎の補正値Eを、下記の式(3)にて算出する(S120)。
【0064】
E=C−D…(4)
そして、演算処理部46は、角度位置毎の補正値Eからワーク14の真円度を算出する(S130)。これにより、ワーク14を測定する際に生じるテーブル16の回転精度の誤差成分を取り除いた測定を実施することができるので、ワーク14の測定精度が向上する。
【0065】
また、演算処理部46においては、補正値Eに基づいて、ワーク14の真円度をリアルタイムで算出することが好ましい。
【0066】
すなわち、演算処理部46は、検出器32によって絶えず検出されている変位量Cから、検知部54によって絶えず算出されている傾斜量Dを減算する。これによって得られる補正値Eに基づいて、ワーク14の真円度を角度位置毎に測定していく。これにより、ワーク14の真円度をテーブル16の回転と同時(リアルタイム)に算出することができる。また、後述するように傾斜量Bが閾値よりも小さい場合には、補正値Eで補正することなく、変位量Cに基づいてワーク14の真円度を角度位置毎に測定していく。ここで、例えば、傾斜量Bがある閾値よりも小さい場合には、それを正として、真円度を補正せずにそのまま算出することもある。すなわち、本発明においては、演算処理部46は、必ずしも使用しない場合がある。
【0067】
<ワーク14の他の測定方法>
図4は、ワーク14の偏心較正作業の一例を示した説明図であり、
図5は、
図4の偏心較正作業後に行われるワーク14の測定形態を示した説明図である。
【0068】
図4に示すテーブル16の偏心較正作業は、前述の如くテーブル16を水平方向及び傾斜方向に微調整等することにより、第1センサ56によって検出された第1高さ位置H1における楕円形状の真円度データRD(Roundness Data)1を基準の真円に較正する。そして、第2センサ58によって検出された第2高さ位置H2における楕円形状の真円度データRD2を基準の真円に較正する。これによって、偏心較正作業が終了する。
【0069】
この後、
図5の如く、較正した値を基準値としてワーク14を測定する。この測定は上記実施形態の測定手順と同様である。
図5では、A軸に対するスピンドル20の測定時の回転軸が符号A1で示されている。演算処理部46は、テーブル16の角度位置毎の第1センサ56によって検出される基準値からの変位量D1、第2センサ58によって検出される基準値からの変位量D2、検出器32によって検出される変位量C、及び各高さ位置H1、H2、H3に基づき、角度位置毎の補正値Eを算出し、それらの補正値Eからワーク14の真円度を算出する(式(1)、(2)、(3)参照)。すなわち、
図5では、変位量Cで測定されたワーク14の楕円形状の真円度が補正値Eによって補正されることが示されている。
【0070】
図6は、傾斜量Bに閾値を設定し、傾斜量Bが閾値よりも小さい場合のワーク測定方法を示した説明図である。
図7は、傾斜量Bが閾値よりも大きい場合のワーク測定方法を示した説明図である。
【0071】
演算処理部46で検知した傾斜量Bが、設定した閾値よりも小さい場合には、
図6の如く、補正値Eで補正することなく変位量Cに基づいてワーク14の真円度を算出する。
図6の真円度データRD1、RD2は、基準の真円に近い円形状なので較正する必要がないことを示している。
【0072】
また、傾斜量Bが設定した閾値よりも大きい場合には、
図7の如く、傾斜量Dで変位量Cが補正された補正値Eに基づいてワーク14の真円度を算出する。
図7の真円度データRD1、RD2は、基準の真円に対して形状の異なる楕円形なので較正する必要があることを示している。
【0073】
上記形態を実施するためには、測定精度に影響を与えない傾斜量Bの閾値を設定し、この閾値をメモリ48(
図2参照)に記憶させておく。そして、検知部54によって検知された傾斜量Bがその閾値よりも小さい場合には、
図6の如く、検出器32によって検出される変位量Cをそのまま使用してワーク14の真円度を算出する。一方、検知部54によって検知された傾斜量Bが、その設定値を超えた場合には、
図7の如く、補正値Eに基づいてワーク14の真円度を算出する。これにより、測定精度に影響を与えるテーブル16の回転精度の誤差成分を取り除いた測定を実施することができるので、ワーク14の測定精度が向上する。
【0074】
なお、上述の実施形態では、スピンドル20の回転軸A1の傾斜量Bを検知部54で検知することで、テーブル16の測定時の回転軸A1の傾斜量を間接的に検知したが、テーブル16の測定時の回転軸A1の傾斜量を直接的に検知してもよい。つまり、第1センサ56及び第2センサ58によってテーブル16の2か所の高さ位置における基準位置RPからの変位量と、2か所の高さ位置とに基づいて傾斜量Bを検知してもよい。実際に検知したい傾斜量は、A軸に対するテーブル16の測定時の回転中心の傾斜量であるからである。しかしながら、通常の装置において軸長がテーブル16よりも長いスピンドル20は傾斜量の分解能をテーブル16よりも高めることができ、また検知部54を構成する第1センサ56及び第2センサ58の配置位置の自由度も広いので、実施形態では、スピンドル20の回転軸A1の傾斜量Bを検知部54で検知することで、テーブル16の測定時の回転軸A1の傾斜量を間接的に検知している。
【0075】
<検知部54を用いた他の較正方法>
図8は、スピンドル20に突発的な振動が発生した場合の較正方法を示した説明図である。
【0076】
スピンドル20はエアベアリングを有する。真円度測定装置10では、スピンドル20の回転時にエアベアリング21とスピンドル20との間の隙間に起因して突発的な振動が発生し、この振動に起因して真円度データRD1、RD2及び変位量Cに振動成分であるED(Error Data)が重畳する。この場合、演算処理部46は、同一の角度位置において発生したEDを測定データから除外する処理を行う。つまり、演算処理部46は、第1センサ56及び第2センサ58によって検出されたEDを変位量Cから削除するように変位量Cを較正し、その演算結果を出力する。これにより、EDを除去したワーク14の測定が可能となる。
【0077】
ここで、実施形態の真円度測定装置10のスピンドル20は、エアベアリング21によって回転自在に支持されているが、エアベアリング21は、摺動抵抗が極めて小さく、エアベアリング21の摺動抵抗に伴うノイズが極めて小さいという特徴がある一方で、剛性が小さくなるという欠点がある。形状中心と重心が一致していないワーク14では、エアベアリング21の剛性不足に伴うテーブル16の傾斜量Bを補正することで、高精度な真円度測定を実現することができる。
【0078】
図9は、スピンドル20の測定時の回転軸A1がA軸に対して偏芯した場合の較正方法を示した説明図である。
【0079】
第1センサ56及び第2センサ58によって検出された真円度データRD1、RD2の中心が、偏心較正作業で設定された基準値の中心からそれぞれ同量分ずれている場合、演算処理部46は、軸Aに対して回転軸A1は傾斜しておらず、その差分だけ偏心していると判断し、その偏心成分を削除した演算結果を出力する。
【0080】
以上のように検知部54を構成する第1センサ56及び第2センサ58から出力される検出値を有効利用することによって、傾斜量Bを検知するだけでなく、スピンドル20に生じる突発的な振動や偏芯量を取り除いた演算結果を得ることができる。よって、ワーク14の形状を精度よく測定することができる。
【0081】
なお、検知部54は、スピンドル20の回転軸Aに対してラジアル方向である上下の2点で傾斜量Bを求めたが、これに限定されない。例えば、テーブル16の下部のスラスト面等、いずれの場所に第1センサ56及び第2センサ58を付け足すことも可能である。すなわち、スピンドル20の回転軸A1の傾斜量Bは、A軸基準に限定されず、例えばA軸に直交する軸を基準とした傾斜量Bであってもよい。ただし、より定量的な傾斜量を求めて補正する上では、
図2に記載のようにラジアル方向で上下の2点に第1センサ56及び第2センサ58を取り付けたほうが、高精度に補正することが可能となる。