特許第6671145号(P6671145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6671145加工樹脂基板の製造方法およびレーザー加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671145
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】加工樹脂基板の製造方法およびレーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/382 20140101AFI20200316BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20200316BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   B23K26/382
   B23K26/00 H
   B23K26/00 N
   H05K3/00 N
【請求項の数】16
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-214787(P2015-214787)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2017-80796(P2017-80796A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】504221107
【氏名又は名称】株式会社レーザーシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スイット コック ケン
(72)【発明者】
【氏名】林田 雅行
(72)【発明者】
【氏名】酒本 正和
(72)【発明者】
【氏名】玉置 寛人
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−026665(JP,A)
【文献】 特開2006−205261(JP,A)
【文献】 特開2012−061480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/382
B23K 26/00
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層と、前記樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆する金属層とを有する樹脂基板を準備する工程と、
前記樹脂基板に出力が10W以上のパルスレーザー光を200mm/秒以上の走査速度で照射して、前記樹脂基板に貫通孔を形成する工程と、
を含み、
前記貫通孔を形成する工程において、前記パルスレーザー光は、前記貫通孔としての開口部の外縁予定ラインに沿って複数周走査され、
前記外縁予定ライン上の各点における前記パルスレーザー光の周回間の照射間隔は、5ミリ秒以上である、
加工樹脂基板の製造方法。
【請求項2】
樹脂層と、前記樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆する金属層とを有する樹脂基板を準備する工程と、
前記樹脂基板に出力が10W以上のパルスレーザー光を200mm/秒以上の走査速度で照射して、前記樹脂基板に貫通孔を形成する工程と、
を含み、
前記貫通孔を形成する工程において、第1開口部および第2開口部を含む複数の開口部が前記貫通孔として形成され、
前記パルスレーザー光は、前記第1開口部の外縁予定ラインに沿って1周照射された後、前記第1開口部の外縁予定ラインに沿ってさらに1周照射される前に、前記第2開口部の外縁予定ラインに沿って1周照射され、
前記第1開口部の外縁予定ライン上の各点における前記パルスレーザー光の周回間の照射間隔は、5ミリ秒以上である、
加工樹脂基板の製造方法。
【請求項3】
前記貫通孔を形成する工程において、前記パルスレーザー光の走査速度は、1000mm/秒以上である、請求項1または請求項2に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項4】
前記貫通孔を形成する工程において、前記外縁予定ライン上の各点における前記パルスレーザー光の照射間隔は、152.9ミリ秒以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属層は、前記樹脂層の両方の面の一部または全部を被覆している、請求項1〜のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項6】
前記貫通孔を形成する工程において、前記パルスレーザー光は、前記樹脂基板の前記金属層が配置されている側から前記樹脂基板に照射される、請求項1〜のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項7】
前記外縁予定ライン1周あたりの前記パルスレーザー光の走査時間は、5ミリ秒未満であり、
前記パルスレーザー光の照射は、前記外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が5ミリ秒以上となるように間欠的に止められる、
請求項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項8】
前記パルスレーザー光の波長は、250〜2000nmの範囲内である、請求項1〜のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項9】
前記貫通孔を形成する工程において、前記パルスレーザー光の集光点は、前記樹脂層中に位置し、
前記パルスレーザー光の波長は、355nmであり、
前記パルスレーザー光のパルスエネルギーは、3μJ以上であり、
前記樹脂基板表面における前記パルスレーザー光のフルエンスは、3J/cm以上であり、
前記集光点における前記パルスレーザー光のフルエンスは、10J/cm以上である、
請求項1〜のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項10】
前記パルスレーザー光のパルス幅は、10ピコ秒〜100ナノ秒の範囲内である、請求項1〜のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂層を構成する樹脂は、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂およびエポキシ変性シリコーン樹脂からなる群から選択される1または2以上の樹脂である、請求項1〜1のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂層は、ガラス繊維、セラミックス、セラミックス繊維、紙、布、カーボン繊維およびアラミド繊維からなる群から選択される1または2以上の強化材を含む、請求項1〜1のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂層は、ガラスエポキシ基板またはポリカーボネート基板である、請求項1〜1のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項14】
前記金属層を構成する金属は、銅、銀、金およびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の金属、あるいはこれらの金属を主成分として含む合金である、請求項1〜1のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項15】
前記金属層の厚みは、2〜50μmの範囲内である、請求項1〜1のいずれか一項に記載の加工樹脂基板の製造方法。
【請求項16】
樹脂基板にパルスレーザー光を照射して貫通孔を形成するレーザー加工装置であって、
パルスレーザー光を出射するレーザー光源と、
樹脂層と、前記樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆する金属層とを有する樹脂基板を載置するためのステージと、
前記レーザー光源から出射された前記パルスレーザー光を、前記ステージ上に載置された前記樹脂基板に導く光学系と、
前記ステージおよび前記光学系により導かれた前記パルスレーザー光の集光点の少なくとも一方を移動させて、前記ステージ上に載置された前記樹脂基板と前記パルスレーザー光の集光点とを相対的に移動させる走査部と、
前記走査部の動作を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、貫通孔の外縁予定ラインに沿って出力が10W以上の前記パルスレーザー光が200mm/秒以上の走査速度で複数周照射され、かつ前記外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が5ミリ秒以上となるように前記走査部を制御する、
レーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工樹脂基板の製造方法およびレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスエポキシ基板などのプリント基板では、絶縁材料としてエポキシ樹脂やポリイミドなどの樹脂が用いられていることが多い。このような樹脂層を含むプリント基板には、様々な目的のために複数の貫通孔が設けられる。貫通孔は、従来はドリルやルーターなどの機械加工により形成されていたが、近年はレーザー加工により形成されることもある。
【0003】
たとえば、特許文献1には、厚さ25μmのポリイミド樹脂層を含むフレキシブルプリント基板に、波長400nm以上9μm未満のパルスレーザー光を照射して、貫通孔を形成する方法が開示されている。この方法では、貫通孔の外縁予定ラインに対応した環状軌道またはスパイラル軌道に沿って複数周パルスレーザー光を走査することで、貫通孔を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−61480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プリント基板にレーザー加工により貫通孔を形成する場合、レーザー加工の高速化が要求されることが多い。特許文献1に記載の方法のように、貫通孔の外縁予定ラインに沿って複数周パルスレーザー光を走査して貫通孔を形成する場合、加工の高速化を実現するためには、パルスレーザー光の出力を大きくして1つの貫通孔あたりの走査周数を減らしたり、パルスレーザー光の走査速度を上げたりすることが考えられる。
【0006】
しかしながら、加工対象物が樹脂を含む場合、パルスレーザー光の出力を増大させたり、パルスレーザー光の走査速度を上げたりすると、加工部周辺に焦げや抉れなどの好ましくない熱的損傷が発生してしまい、加工品質が低下してしまうことがある。また、ガラスエポキシ基板などのように加工対象物がガラス繊維を含む場合、パルスレーザー光の出力を増大させたり、パルスレーザー光の走査速度を上げたりすると、ガラスの溶融により加工対象物の強度が低下したり、部材が変形したりすることもある。このような問題は、フレキシブルプリント基板よりも厚く、樹脂の量が多いリジットプリント基板においてより顕著に表れる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、熱的損傷の発生を抑制しつつ樹脂基板に貫通孔を形成することができる加工樹脂基板の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このレーザー加工方法を行うことができるレーザー加工装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂層と、前記樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆する金属層とを有する樹脂基板を準備する工程と、前記樹脂基板にパルスレーザー光を照射して、前記樹脂基板に貫通孔を形成する工程と、を含み、前記貫通孔を形成する工程において、前記樹脂基板の各点における前記パルスレーザー光の照射間隔は、5ミリ秒以上である、加工樹脂基板の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、樹脂基板にパルスレーザー光を照射して貫通孔を形成するレーザー加工装置であって、パルスレーザー光を出射するレーザー光源と、樹脂層と、前記樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆する金属層とを有する樹脂基板を載置するためのステージと、前記レーザー光源から出射された前記パルスレーザー光を、前記ステージ上に載置された前記樹脂基板に導く光学系と、前記ステージおよび前記光学系により導かれた前記パルスレーザー光の集光点の少なくとも一方を移動させて、前記ステージ上に載置された前記樹脂基板と前記パルスレーザー光の集光点とを相対的に移動させる走査部と、前記走査部の動作を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、貫通孔の外縁予定ラインに沿って前記パルスレーザー光が複数周照射され、かつ前記外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が5ミリ秒以上となるように前記走査部を制御する、レーザー加工装置に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の加工樹脂基板の製造方法によれば、熱的損傷の発生を抑制しつつ樹脂基板に貫通孔を形成することができる。また、本発明のレーザー加工装置によれば、この加工樹脂基板の製造方法を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1A〜Cは、本発明の一実施の形態に係るレーザー加工方法において、樹脂基板に貫通孔を形成する工程を説明するための模式図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態に係るレーザー加工装置の一例を示す模式図である。
図3図3A〜Fは、実施例1の実験結果を示す基板表面の写真である。
図4図4A〜Qは、実施例2の実験結果を示す基板表面の写真である。
図5図5A、Bは、実施例3の実験結果を示す基板表面の写真である。
図6図6A〜Hは、実施例3の実験結果を示す基板断面の写真である。
図7図7A〜Hは、実施例4の実験結果を示す基板表面の写真である。
図8図8は、実施例5の実験結果を示す基板表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.加工樹脂基板の製造方法
本実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法は、樹脂層と、樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆する金属層とを有する樹脂基板にレーザー加工により貫通孔を形成して加工樹脂基板を得る方法である。ここで「樹脂基板」とは、レーザー加工前の樹脂基板を意味し、「加工樹脂基板」とはレーザー加工後の樹脂基板を意味する。このようにレーザー加工の前後で樹脂基板の呼称を変えているが、レーザー加工の前後でその物性や組成などが大きく変化することはない。
【0013】
また、本実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法で形成される「貫通孔」(広義)は、レーザー光を走査せずに形成されうる点状の「貫通孔」(狭義)およびレーザー光を走査して形成されうる「開口部」を含む。さらに「開口部」は、レーザー光を直線状および/または曲線状に走査して形成される「走査ラインと略同一形状の孔」、および所定の領域を取り囲むようにパルスレーザー光を走査して形成される「前記所定の領域と略同一形状の孔」を含む。
【0014】
本実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法は、樹脂基板を準備する第1工程と、樹脂基板にパルスレーザー光を照射して貫通孔を形成する第2工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0015】
(第1工程)
第1工程では、加工対象物として、樹脂層と、樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆する金属層とを有する樹脂基板を準備する。樹脂基板は、市販品を購入してもよいし、自ら製造してもよい。樹脂基板は、例えばリジットプリント基板であるが、これに限定されない。
【0016】
樹脂層を構成する樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂層を構成する樹脂の例には、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリマー樹脂およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0017】
また、樹脂層は、強度を向上させるための強化材を含んでいてもよいし、強化材を含んでいなくてもよい。強化材の例には、ガラス繊維、セラミックス、セラミックス繊維、紙、布、カーボン繊維、アラミド繊維およびこれらの組み合わせが含まれる。樹脂層の例としては、ガラスエポキシ基板およびポリカーボネート基板が含まれる。樹脂層の厚みは、特に限定されず、例えば200〜500μmの範囲内である。
【0018】
金属層は、樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆している。より具体的には、金属層は、樹脂層の少なくとも貫通孔を形成される部分の少なくとも一方の面を被覆している。金属層は、熱伝導率が高いため、加工時に樹脂層の表面近傍に蓄積された過剰な熱エネルギーを効果的に散逸させる機能を担っている。また、金属層は、外部から樹脂層への酸素の透過を遮断する機能も担っている。これらの機能の相乗効果により、金属層は、加工時における焦げや抉れなどの好ましくない熱的損傷の発生を抑制する。このような観点からは、金属層は、樹脂層の両面を被覆していることが好ましく、樹脂層の両面全面を被覆していることがより好ましい。また、金属層は、1層であってもよいし、2層以上であってもよい。
【0019】
金属層を構成する金属の種類は、特に限定されないが、第2工程において好ましくない熱的損傷の発生を抑制する観点からは熱伝導率が高いものが好ましい。金属層を構成する金属の例には、銅、銀、金およびアルミニウムからなる群から選択される1または2以上の金属、あるいはこれらの金属を主成分として含む合金が含まれる。金属層は、スパッタや蒸着、メッキなどによって形成されうる。
【0020】
金属層の厚みは、特に限定されず、例えば2〜50μmの範囲内である。金属層は、金属箔のように薄いものも含む。前述のとおり、金属層は、樹脂層の両面を被覆していてもよいし、樹脂層の一方の面上に2層以上配置されていてもよい。これらの場合は、各金属層の厚みを薄くすることができる。一方、樹脂層の一方の面のみに1層の金属層が配置されている場合は、樹脂層における熱的損傷の発生を抑制する観点からは、金属層の厚みをある程度厚くする必要がある。
【0021】
また、上記の熱伝導のための金属層と樹脂層との間に、接着力向上やマイグレーション防止などを目的とする他の金属層が配置されていてもよい。このような金属層の例としては、厚み数百nm程度のNi層、Cr層、NiCr合金層などが含まれる。
【0022】
(第2工程)
第2工程では、第1工程で準備した樹脂基板の少なくとも一方の面が金属層で被覆された部分にパルスレーザー光を照射して貫通孔を形成する。たとえば、貫通孔(広義)として開口部を形成する場合には、形成しようとする開口部の外縁予定ラインに沿ってパルスレーザー光を走査することを複数周繰り返すことで、貫通孔(開口部)を形成する。このとき、パルスレーザー光は、複数周にわたり走査されることが好ましい。また、樹脂層における熱的損傷の発生を抑制する観点からは、パルスレーザー光は、樹脂基板の金属層が配置されている側から樹脂基板に照射されることが好ましい。この場合、パルスレーザー光は、樹脂層だけでなく金属層にも照射されることとなる。
【0023】
図1A〜Cは、樹脂基板110に、貫通孔として開口部140を形成する工程を説明するための模式図である。これらの図に示される例では、樹脂層110の両面が金属層120で被覆されている。
【0024】
図1Aに示されるように、樹脂層110と、樹脂層110の両面を被覆する金属層120とを有する樹脂基板100にパルスレーザー光130を照射しながら、パルスレーザー光130の集光点と樹脂基板100との相対的な位置を変える。このとき、パルスレーザー光130の集光点は、樹脂層110の内部に位置し、かつ形成しようとする開口部140の外縁予定ライン150’に沿って複数周に亘り走査される。このようにパルスレーザー光130を複数周走査することで、図1Bに示されるように、開口部140の外縁150の全周に亘り樹脂基板100の厚みと同じ深さの溝160を形成することができる。この後、図1Cに示されるように、溝160により分離された部分を除去することで、開口部140が形成される。以上の手順により、樹脂基板100に開口部140を形成することができる。これにより、加工樹脂基板を製造することができる。
【0025】
なお、開口部140の形状は、図1Cに示す形状に限定されない。開口部140の基板面に沿う方向の断面形状は、特に限定されず、例えば円形、楕円形、矩形、長丸形であるが、より複雑な形状であってもよい。また、パルスレーザー光130の走査方向も、図1Cに示す時計回りに限定されず、反時計回りであってもよい。
【0026】
また、パルスレーザー光130の集光点の位置も、図1Cに示す位置に限定されない。たとえば、パルスレーザー光130の集光点は、外縁予定ライン150’上を走査されてもよいし、外縁予定ライン150’の内側を外縁予定ライン150’と略平行に走査されてもよい。また、樹脂基板100の厚み方向についてのパルスレーザー光130の集光点の位置(深さ)は、加工の進行度に関係なく一定であってもよいし、加工の進行度に応じて変化してもよい。たとえば、樹脂基板100の厚みが不均一である場合は、パルスレーザー光130の集光点の位置(深さ)は、樹脂基板100の厚みに応じて変化してもよい。
【0027】
本実施の形態に係るレーザー加工方法では、開口部140の外縁予定ライン150’上の各点における周回間の照射間隔が5ミリ秒以上となるようにパルスレーザー光130を走査する。たとえば、図1Aにおいて、外縁予定ライン150’上に位置するA点について見てみたとき、n周目にパルスレーザー光130を照射された時と(n+1)周目にパルスレーザー光130を照射された時との間隔が5ミリ秒以上となるように、パルスレーザー光130は走査される。このようにすることで、周回間の時間に樹脂層110内に蓄積した過剰な熱エネルギーを金属層120に効果的に散逸させることが可能となり、樹脂層110の加工部における熱的損傷の発生を抑制することができる。
【0028】
開口部140の外縁予定ライン150’上の各点における周回間の照射間隔が5ミリ秒以上となるようにパルスレーザー光130を照射する方法は、特に限定されず、開口部140の形状や大きさ、数などに応じて適宜選択されうる。たとえば、パルスレーザー光130の走査速度を遅くすれば、上記の条件を満たすことができる。また、パルスレーザー光130の走査速度が速い(例えば1000mm/秒以上)場合であっても、開口部140が大きい場合は、1周あたりのパルスレーザー光130の走査時間は、5ミリ秒以上となる。
【0029】
一方、パルスレーザー光130の走査速度が速く(例えば1000mm/秒以上)、かつ開口部140の大きさが小さい場合は、1周あたりのパルスレーザー光130の走査時間は、5ミリ秒未満となる。このような場合は、開口部140の外縁予定ライン150’上の各点における周回間の照射間隔が5ミリ秒以上となるように、パルスレーザー光130の照射(走査)を間欠的に止めればよい。たとえば、1周あたりのパルスレーザー光130の走査時間が3ミリ秒の場合、1周ごとにパルスレーザー光130の走査を2ミリ秒以上止めればよい。パルスレーザー光130の照射を止めるタイミングは、特に限定されず、例えば半周ごとであってもよい。
【0030】
また、1枚の樹脂基板100に対して複数の開口部140を形成する場合は、1周ごとにパルスレーザー光130を照射する領域(開口部140を形成しようとしている領域)を切り替えてもよい。たとえば、第1開口部および第2開口部の2つの開口部を形成する場合、第1開口部の外縁予定ラインに沿ってパルスレーザー光を1周照射した後、さらに1周照射する前に、第2開口部の外縁予定ラインに沿ってパルスレーザー光を1周照射すればよい。このように第1開口部を形成しようとする領域と第2開口部を形成しようとする領域とで交互にパルスレーザー光を照射することで、加工効率をほとんど低減させることなく開口部140の外縁予定ライン150’上の各点における周回間の照射間隔を5ミリ秒以上とすることが可能となる。
【0031】
パルスレーザー光130の波長は、樹脂基板100に適切に溝160を形成することができれば特に限定されない。樹脂層110の加工部における好ましくない熱的損傷の発生を抑制する観点からは、パルスレーザー光130の波長は、250〜2000nmの範囲内であることが好ましく、250〜1500nmの範囲内であることがより好ましい。たとえば、パルスレーザー光130の波長は、355nmである。
【0032】
パルスレーザー光130のパルスエネルギーは、樹脂基板100に適切に溝160を形成することができれば特に限定されない。加工速度を高速化する観点からは、パルスレーザー光130のパルスエネルギーは、3μJ以上であることが好ましい。
【0033】
パルスレーザー光130の出力は、樹脂基板100に適切に溝160を形成することができれば特に限定されない。加工速度を高速化する観点からは、パルスレーザー光130の出力は、10W以上であることが好ましい。
【0034】
パルスレーザー光130のパルス幅は、樹脂基板100に適切に溝160を形成することができれば特に限定されない。加工品質を向上させる観点からは、パルスレーザー光130のパルス幅は、10ピコ秒〜100ナノ秒の範囲内であることが好ましい。
【0035】
パルスレーザー光130の繰り返し周波数は、樹脂基板100に適切に溝160を形成することができれば特に限定されない。加工品質を向上させる観点からは、パルスレーザー光130の繰り返し周波数は、100kHz以上であることが好ましく、1MHz以上であることがより好ましい。
【0036】
パルスレーザー光130のパルスエネルギーおよびフルエンスは、樹脂基板100に適切に溝160を形成することができれば特に限定されない。たとえば、パルスレーザー光130の波長が355nmである場合、加工速度を高速化する観点からは、パルスレーザー光130のパルスエネルギーは、3μJ以上であることが好ましい。同様に、パルスレーザー光130の波長が355nmである場合、加工速度を高速化する観点からは、パルスレーザー光130の樹脂基板100の表面(パルスレーザー光130を照射される金属層110の表面)におけるパルスレーザー光130のフルエンスは、3J/cm以上であり、集光点におけるパルスレーザー光130のフルエンスは、10J/cm以上であることが好ましい。ここで「樹脂基板100の表面」とは、樹脂層110の表面のうち金属層120が形成されている面にパルスレーザー光130を照射する場合は、金属層120の表面を意味し、樹脂層110の表面のうち金属層120が形成されていない面にパルスレーザー光130を照射する場合は、樹脂層110の表面を意味する。
【0037】
パルスレーザー光130の走査速度は、特に限定されないが、加工速度を高速化する観点からは1000mm/秒以上であることが好ましい。また、1つの開口部140あたりのパルスレーザー光130の走査周数は、樹脂基板100の厚みと同じ深さの溝160を形成することができれば特に限定されず、樹脂基板100の材料やパルスレーザー光130の出力などに応じて適宜設定されうる。
【0038】
以上のとおり、本実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法は、樹脂層の少なくとも一方の面の一部を金属層で被覆するとともに、樹脂基板の各点におけるパルスレーザー光の照射間隔を5ミリ秒以上とすることで、出力が高い(例えば10W以上の)レーザー光を速い走査速度(例えば1000mm/秒以上)で照射しても、焦げや抉れなどの好ましくない熱的損傷の発生を抑制しつつ樹脂基板(樹脂層)に貫通孔を形成することができる。したがって、本実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法は、加工品質を低下させることなく高速に樹脂基板に貫通孔を形成することができる。また、本実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法は、樹脂層中にガラス繊維などの強化材が存在していても、強化材を溶融させることなく樹脂基板に貫通孔を形成することができる。
【0039】
本実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法を実施する手段は、特に限定されない。たとえば、本実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法は、次に説明する本実施の形態に係るレーザー加工装置を用いて実施されうる。
【0040】
2.レーザー加工装置
本実施の形態に係るレーザー加工装置は、本実施の形態に係るレーザー加工方法の第2工程に用いられる装置である。すなわち、本実施の形態に係るレーザー加工装置は、樹脂層と、樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆する金属層とを有する樹脂基板にパルスレーザー光を照射して貫通孔を形成する装置である。
【0041】
本実施の形態に係るレーザー加工装置は、少なくとも、パルスレーザー光を出射するレーザー光源と、ステージと、レーザー光源から出射されたパルスレーザー光をステージ上に載置された樹脂基板に導く光学系と、ステージ上に載置された樹脂基板とパルスレーザー光の集光点とを相対的に移動させる走査部と、走査部の動作を制御する制御部と、を有する。以下、各構成要素について説明する。
【0042】
レーザー光源は、樹脂基板に照射するためのパルスレーザー光を出射する。レーザー光源として用いるレーザーの種類は、特に限定されず、樹脂基板の種類などに応じて適宜選択される。レーザーの例には、ファイバーレーザーなどが含まれる。
【0043】
ステージは、加工対象物、すなわち樹脂層と、樹脂層の少なくとも一方の面の一部を被覆する金属層とを有する樹脂基板を載置される。
【0044】
光学系は、所望の位置に集光点が位置するように、レーザー光源から出射されたパルスレーザー光をステージ上に載置された樹脂基板に導く。通常、光学系は、パルスレーザー光のビーム径を最適化するテレスコープ光学系や、パルスレーザー光を所望の位置に集光させる集光レンズなどを含む。
【0045】
走査部は、ステージおよびパルスレーザー光の集光点の少なくとも一方を移動させて、ステージ上に載置された樹脂基板とパルスレーザー光の集光点とを相対的に移動させる。これにより、形成しようとする貫通孔(開口部)の外縁予定ラインに沿うようにパルスレーザー光の集光点を走査して、樹脂基板に貫通孔(開口部)を形成することができる。走査部は、樹脂基板を載置するステージを移動させてもよいし、パルスレーザー光の集光点を移動させてもよいし、これらの両方を移動させてもよい。駆動部は、例えばXYステージコントローラーやガルバノスキャナーなどである。
【0046】
制御部は、形成する貫通孔(開口部)の外縁予定ラインに沿ってパルスレーザー光が複数周照射され、かつ外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が5ミリ秒以上となるように走査部を制御する。制御部は、例えば走査部に接続されたコンピューターである。
【0047】
その他、レーザー加工装置は、樹脂基板内の所望の位置にパルスレーザー光の集光点を位置させるための自動照準システムなどを有していてもよい。
【0048】
図2は、本発明の一実施の形態に係るレーザー加工装置を示す模式図である。図2に示されるように、レーザー加工装置200は、レーザー光源210、テレスコープ光学系220、ガルバノスキャナー230、fθレンズ240、ステージ250、AFカメラ260、XYステージコントローラー270、Zコントローラー280およびコンピューター290を有する。この例では、加工対象の樹脂基板100は、樹脂層110と、樹脂層110の両面を被覆する金属層120とを有している。
【0049】
レーザー光源210は、所定の波長のパルスレーザー光130を出射する。前述のとおり、レーザー光源210として用いるレーザーの種類は、加工対象の樹脂基板110の種類などに応じて適宜選択される。
【0050】
テレスコープ光学系220は、好ましい加工形状を得るために、レーザー光源210から出射されたパルスレーザー光130のビーム径を最適化する。
【0051】
ガルバノスキャナー230は、コンピューター290の指示に基づいて、テレスコープ光学系220により最適化されたパルスレーザー光130の進行方向を変化させる。ガルバノスキャナー230で進行方向を制御されたパルスレーザー光130は、fθレンズ240により樹脂基板100内に集光される。このようにガルバノスキャナー230およびfθレンズ240を組み合わせることで、形成しようとする開口部140の外縁予定ライン150’に沿って一定速度でパルスレーザー光130の集光点を走査することができる。
【0052】
ステージ250は、樹脂基板100が載置される載置台と、この載置台を移動させることができる駆動機構とを有する。駆動機構は、載置台をX軸またはY軸方向に移動させたり、X軸またはY軸を中心として回転させたりすることができる。ステージ250上の樹脂基板100は、この駆動機構によってXY軸方向に移動させられる。
【0053】
AFカメラ260は、樹脂基板100の加工部位の表面プロファイルを取得するためのカメラである。取得されたプロファイルは、コンピューター290に出力される。
【0054】
XYステージコントローラー270は、コンピューター290の指示に基づいて、パルスレーザー光130の集光点が樹脂基板100の開口部140を形成しようとする領域に位置するように、ステージ250をXY軸方向に移動させる。
【0055】
Zコントローラー280は、コンピューター290の指示に基づいて、パルスレーザー光130の集光点が樹脂層120内に位置するように、fθレンズ240をZ軸方向に移動させる。
【0056】
コンピューター290は、レーザー光源210、ガルバノスキャナー230、AFカメラ260、XYステージコントローラー270およびZコントローラー280に接続されており、これら各部を総合的に制御する。たとえば、コンピューター280は、AFカメラ260およびXYステージコントローラー270を制御して、樹脂基板100の表面プロファイルを取得する。また、コンピューター290は、ガルバノスキャナー230およびZコントローラー270を制御して、開口部140の外縁予定ライン150’に沿って複数周パルスレーザー光130を走査させる。また、コンピューター280は、XYステージコントローラー260を制御して、開口部140を形成しようとする領域にパルスレーザー光130を照射することができるようにステージ250を移動させる。
【0057】
次に、レーザー加工装置200を用いて樹脂基板100に貫通孔として開口部140を形成する手順を説明する。
【0058】
まず、樹脂基板100をステージ250の載置台に載置して、AFカメラ260およびXYステージコントローラー270により樹脂基板100の表面プロファイルを取得する。
【0059】
次いで、XYステージコントローラー270により樹脂基板100を所定の位置に移動させた後、レーザー光源210からパルスレーザー光130を出射して、パルスレーザー光130を樹脂基板100に照射する。このとき、ガルバノスキャナー230によりパルスレーザー光130の進行方向を変化させることで、形成する開口部140の外縁予定ライン150’に沿って複数周パルスレーザー光130を走査する(図1A参照)。また、開口部140の外縁予定ライン150’上の各点における周回間の照射間隔が5ミリ秒以上となるようにパルスレーザー光130を走査する。たとえば、開口部140の外縁予定ライン150’上の各点における周回間の照射間隔が5ミリ秒以上となるように、パルスレーザー光130の走査を1周ごとに所定の時間止める。このようにパルスレーザー光130を照射することで、焦げや抉れなどの好ましくない熱的損傷の発生を抑制しつつ、樹脂基板100の裏面に到達する溝160を開口部140の外縁予定ライン150’に沿って形成することができる(図1B参照)。樹脂基板100に複数の開口部140を形成する場合は、XYステージコントローラー270により樹脂基板100を移動させた後、上記工程を繰り返せばよい。
【0060】
最後に、溝160により分離された部分を除去することで、開口部140が形成される(図1C参照)。
【0061】
以上の手順により、焦げや抉れなどの好ましくない熱的損傷の発生を抑制しつつ樹脂基板100に貫通孔を形成することができる。
【0062】
なお、図2では、ガルバノスキャナー230によりパルスレーザー光130の進行方向を変えることで、開口部140の外縁予定ライン150’に沿ってパルスレーザー光130を照射する例を示したが、開口部140の外縁予定ライン150’に沿ってパルスレーザー光130を照射する手段は、パルスレーザー光130の集光点と樹脂基板100とを相対的に移動させることができれば特に限定されない。たとえば、ガルバノスキャナー230を用いることなく、ステージ250または光学系(テレスコープ光学系220および集光レンズ)を移動させてもよい。
【実施例】
【0063】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0064】
[実施例1]
加工対象物として、その両面に銅層(厚み2〜5μm)が貼られているガラスエポキシ基板(厚み300〜330μm)を準備した。
【0065】
図2に示されるレーザー加工装置を用いて、開口部の外縁予定ラインに沿ってガラスエポキシ基板にパルスレーザー光を照射して、長丸形状の開口部(直線部分の長さ:2mm、円弧部分の直径:0.55mm)を形成した。開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間は2.9ミリ秒であった。また、パルスレーザー光を1周走査するごとにパルスレーザー光の照射(走査)を所定の時間(0〜150ミリ秒)停止して、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔を変化させた。開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔は、「2.9ミリ秒(1周あたりの走査時間)+0〜150ミリ秒(走査停止時間)」で算出される。
【0066】
加工条件は以下のとおりである。「スポット径」とは、中心部に対して光強度が1/eまでの範囲の直径を意味する(以下の実施例でも同じ)。
波長:355nm
パルス幅:2ns
出力:30W
パルスエネルギー:15μJ
繰り返し周波数:2MHz
集光点の位置:表側の銅層の表面から100μm
表側の銅層の表面におけるスポット径:10.5μm
表側の銅層の表面におけるフルエンス:18J/cm
集光点におけるスポット径:5.6μm
集光点におけるフルエンス:61J/cm
走査速度:2000mm/s
走査周数:60周
【0067】
図3A〜Fは、開口部の外縁予定ラインに沿って60周パルスレーザー光を照射した後(図1B参照)の基板の写真(平面視)である。図3Aは、走査停止時間が0ミリ秒(連続走査)でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図3Bは、走査停止時間が10ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図3Cは、走査停止時間が20ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図3Dは、走査停止時間が50ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図3Eは、走査停止時間が100ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図3Fは、走査停止時間が150ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。
【0068】
図3Aに示されるように、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が2.9ミリ秒の場合(走査停止時間が0ミリ秒の場合)、加工部の周囲に焦げが発生した。一方、図3B〜Fに示されるように、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が12.9ミリ秒以上の場合(走査停止時間が10〜150ミリ秒の場合)、加工部の周囲に焦げがほとんど発生しなかった。これらの結果から、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔を5ミリ秒以上とすることで、焦げなどの好ましくない熱的損傷を抑制できることがわかる。
【0069】
[実施例2]
加工対象物として、その両面に銅層(厚み2〜5μm)が貼られているガラスエポキシ基板(厚み300〜330μm)を準備した。
【0070】
図2に示されるレーザー加工装置を用いて、開口部の外縁予定ラインに沿ってガラスエポキシ基板にパルスレーザー光を照射して、円形状の開口部(直径1mm)を形成した。開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間は0.8ミリ秒であった。また、パルスレーザー光を1周走査するごとにパルスレーザー光の照射(走査)を所定の時間(0〜100ミリ秒)停止して、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔を変化させた。開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔は、「0.8ミリ秒(1周あたりの走査時間)+0〜100ミリ秒(走査停止時間)」で算出される。
【0071】
加工条件は以下のとおりである。
波長:355nm
パルス幅:2ns
出力:30W
パルスエネルギー:15μJ
繰り返し周波数:2MHz
集光点の位置:表側の銅層の表面から100μm
表側の銅層の表面におけるスポット径:10.5μm
表側の銅層の表面におけるフルエンス:18J/cm
集光点におけるスポット径:5.6μm
集光点におけるフルエンス:61J/cm
走査速度:2000mm/s
走査周数:60周
【0072】
図4A〜Qは、開口部の外縁予定ラインに沿って60周パルスレーザー光を照射した後(図1B参照)の基板の写真(平面視)である。図4Aは、走査停止時間が0ミリ秒(連続走査)でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Bは、走査停止時間が1ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Cは、走査停止時間が2ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Dは、走査停止時間が3ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Eは、走査停止時間が4ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Fは、走査停止時間が5ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Gは、走査停止時間が6ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Hは、走査停止時間が7ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Iは、走査停止時間が8ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Jは、走査停止時間が9ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Kは、走査停止時間が10ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Lは、走査停止時間が15ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Mは、走査停止時間が20ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Nは、走査停止時間が25ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Oは、走査停止時間が30ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Pは、走査停止時間が50ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図4Qは、走査停止時間が100ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。
【0073】
図4A〜Eに示されるように、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が0.8〜4.8ミリ秒の場合(走査停止時間が0〜4ミリ秒の場合)、加工部の周囲に焦げが発生した。一方、図4F〜Qに示されるように、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が5.8ミリ秒以上の場合(走査停止時間が5〜100ミリ秒の場合)、加工部の周囲に焦げがほとんど発生しなかった。これらの結果から、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔を5ミリ秒以上とすることで、焦げなどの好ましくない熱的損傷を抑制できることがわかる。
【0074】
[実施例3]
加工対象物として、その両面に銅層(厚み2〜5μm)が貼られているガラスエポキシ基板(厚み300〜330μm)を準備した。
【0075】
図2に示されるレーザー加工装置を用いて、開口部の外縁予定ラインに沿ってガラスエポキシ基板にパルスレーザー光を照射して、直線部分の長さが異なる2種類の長丸形状の開口部(直線部分の長さ:2mmまたは14.6mm、円弧部分の直径:0.55mm)を形成した。直線部分の長さが2mmの開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間は2.9ミリ秒であった。直線部分の長さが14.6mmの開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間は15.5ミリ秒であった。また、パルスレーザー光を1周走査するごとにパルスレーザー光の照射(走査)を所定の時間(0〜100ミリ秒)停止して、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔を変化させた。直線部分の長さが2mmの開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔は、「2.9ミリ秒(1周あたりの走査時間)+0〜100ミリ秒(走査停止時間)」で算出される。同様に、直線部分の長さが14.6mmの開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔は、「15.5ミリ秒(1周あたりの走査時間)+0〜100ミリ秒(走査停止時間)」で算出される。
【0076】
加工条件は以下のとおりである。
波長:355nm
パルス幅:2ns
出力:30W
パルスエネルギー:15μJ
繰り返し周波数:2MHz
集光点の位置:表側の銅層の表面から100μm
表側の銅層の表面におけるスポット径:10.5μm
表側の銅層の表面におけるフルエンス:18J/cm
集光点におけるスポット径:5.6μm
集光点におけるフルエンス:61J/cm
走査速度:2000mm/s
走査周数:60周
【0077】
図5A、Bは、開口部の外縁予定ラインに沿って60周パルスレーザー光を照射した後(図1B参照)の基板の写真(平面視)である。図5Aは、直線部分の長さが2mmの開口部を形成するためにパルスレーザー光を照射した後の基板の写真であり、図5Bは、直線部分の長さが14.6mmの開口部を形成するためにパルスレーザー光を照射した後の基板の写真である。いずれの基板においても、各走査停止時間について7つの開口部を形成した。たとえば、右上の破線で囲まれている7つの照射領域は走査停止時間が0ミリ秒(連続走査)でパルスレーザー光を照射されており、左下の破線で囲まれている7つの照射領域は走査停止時間が100ミリ秒でパルスレーザー光を照射されている。
【0078】
図5Aに示されるように、開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間が2.9ミリ秒の場合、各点における周回間の照射間隔が2.9〜4.9ミリ秒のとき(走査停止時間が0〜2ミリ秒のとき)は加工部の周囲に焦げが発生したが、各点における周回間の照射間隔が5.9〜102.9ミリ秒のとき(走査停止時間が3〜100ミリ秒のとき)は加工部の周囲に焦げがほとんど発生しなかった。一方、図5Bに示されるように、開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間が15.5ミリ秒の場合、走査停止時間に関係なく加工部の周囲に焦げがほとんど発生しなかった。これらの結果から、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔を5ミリ秒以上とすることで、焦げなどの好ましくない熱的損傷を抑制できることがわかる。また、開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間が5ミリ秒以上である場合には、パルスレーザー光の走査を止める必要がないこともわかる。
【0079】
図6A〜Hは、開口部を形成した後(図1C参照)の開口部の写真(断面視)である。図6A〜Cは、直線部分の長さが2mmの開口部の加工断面の写真であり、図6D〜Hは、直線部分の長さが14.6mmの開口部の加工断面の写真である。図6A、Dは、走査停止時間が0ミリ秒(連続走査)で形成された開口部である。図6Eは、走査停止時間が10ミリ秒で形成された開口部である。図6Fは、走査停止時間が20ミリ秒で形成された開口部である。図6B、Gは、走査停止時間が50ミリ秒で形成された開口部である。図6C、Hは、走査停止時間が100ミリ秒で形成された開口部である。
【0080】
図6A〜Cに示されるように、開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間が2.9ミリ秒の場合、各点における周回間の照射間隔が2.9ミリ秒のとき(走査停止時間が0ミリ秒のとき)は加工部においてガラス繊維が溶融していたが、各点における周回間の照射間隔が12.9〜102.9ミリ秒のとき(走査停止時間が10〜100ミリ秒のとき)はガラス繊維の溶融はほとんど発生しなかった。一方、図6D〜Hに示されるように、開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間が15.5ミリ秒の場合、走査停止時間に関係なくガラス繊維の溶融はほとんど発生しなかった。これらの結果から、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔を5ミリ秒以上とすることで、ガラス繊維の溶融などの加工品質の低下を抑制できることがわかる。また、開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間が5ミリ秒以上である場合には、パルスレーザー光の走査を止める必要がないこともわかる。
【0081】
[実施例4]
加工対象物として、その両面に銅層(厚み2〜5μm)が貼られているガラスエポキシ基板(厚み300〜330μm)を準備した。
【0082】
図2に示されるレーザー加工装置を用いて、開口部の外縁予定ラインに沿ってガラスエポキシ基板にパルスレーザー光を照射して、円形状の開口部(直径0.4mm)を形成した。開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間は2.1ミリ秒であった。このとき、パルスエネルギーを変化させた(8.3〜50.3μJ)。また、パルスレーザー光を1周走査するごとにパルスレーザー光の照射(走査)を100ミリ秒停止した(比較のため連続照射も行った)。開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔は、「2.1ミリ秒(1周あたりの走査時間)+100ミリ秒(走査停止時間)」で算出される。
【0083】
加工条件は以下のとおりである。
波長:355nm
パルス幅:2ns
出力:4.98〜30.18W
パルスエネルギー:8.3〜50.3μJ
繰り返し周波数:600kHz
集光点の位置:表側の銅層の表面から100μm
表側の銅層の表面におけるスポット径:10.5μm
表側の銅層の表面におけるフルエンス:10.0〜60.0J/cm
集光点におけるスポット径:5.6μm
集光点におけるフルエンス:33.7〜204J/cm
走査速度:600mm/s
走査周数:10周
【0084】
図7A〜Hは、開口部の外縁予定ラインに沿って10周パルスレーザー光を照射した後(図1B参照)の基板の写真(平面視)である。図7A〜Dは、走査停止時間が0ミリ秒(連続走査)でパルスレーザー光を照射した基板の写真であり、図7E〜Hは、走査停止時間が100ミリ秒でパルスレーザー光を照射した基板の写真である。図7A、Eは、パルスエネルギーが8.3μJのパルスレーザー光(表面フルエンス:10.0J/cm、内部集光フルエンス:33.7J/cm)を照射した基板の写真である。図7B、Fは、パルスエネルギーが10.6μJのパルスレーザー光(表面フルエンス:12.7J/cm、内部集光フルエンス:43.1J/cm)を照射した基板の写真である。図7C、Gは、パルスエネルギーが13.8μJのパルスレーザー光(表面フルエンス:16.6J/cm、内部集光フルエンス:56.1J/cm)を照射した基板の写真である。図7D、Hは、パルスエネルギーが50.3μJのパルスレーザー光(表面フルエンス:60.0J/cm、内部集光フルエンス:204J/cm)を照射した基板の写真である。なお、図7D、Hでは、レーザー照射により分離された部分が脱落している。
【0085】
図7A〜Dに示されるように、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が2.1ミリ秒の場合(走査停止時間が0ミリ秒の場合)、パルスエネルギーに関係なく加工部の周囲に焦げが発生した。一方、図7E〜Hに示されるように、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が102.1ミリ秒の場合(走査停止時間が100ミリ秒の場合)、パルスエネルギーに関係なく加工部の周囲に焦げがほとんど発生しなかった。これらの結果から、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔を5ミリ秒以上とすることで、パルスエネルギーに関係なく、焦げなどの好ましくない熱的損傷を抑制できることがわかる。
【0086】
[実施例5]
加工対象物として、その両面に銅層(厚み2〜5μm)が貼られているガラスエポキシ基板(銅層を含めた厚み200μm)を準備した。
【0087】
図2に示されるレーザー加工装置を用いて、開口部の外縁予定ラインに沿ってガラスエポキシ基板にパルスレーザー光を照射して、長丸形状の開口部(直線部分の長さ:5.5mm、円弧部分の直径:0.5mm)を形成した。開口部の外縁予定ライン1周あたりの走査時間は63ミリ秒であった。また、パルスレーザー光を1周走査するごとにパルスレーザー光の照射(走査)を184ミリ秒停止した。開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔は、「63ミリ秒(1周あたりの走査時間)+184ミリ秒(走査停止時間)」で算出される。
【0088】
加工条件は以下のとおりである。
波長:1064nm
パルス幅:15ps
出力:12W
パルスエネルギー:60μJ
繰り返し周波数:200kHz
集光点の位置:表側の銅層の表面から70μm
表側の銅層の表面におけるスポット径:9.9μm
表側の銅層の表面におけるフルエンス:78J/cm
集光点におけるスポット径:5μm
集光点におけるフルエンス:300J/cm
走査速度:200mm/s
走査周数:30周
【0089】
図8は、開口部の外縁予定ラインに沿って30周パルスレーザー光を照射した後(図1B参照)の基板の写真(平面視)である。中央の照射領域では、レーザー照射により分離された部分が脱落している。図8に示されるように、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔が247ミリ秒の場合、加工部の周囲に焦げがほとんど発生しなかった。この結果から、波長1064nmのパルスレーザー光を用いた場合であっても、開口部の外縁予定ライン上の各点における周回間の照射間隔を5ミリ秒以上とすることで、焦げなどの好ましくない熱的損傷を抑制できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の一実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法は、加工品質を低下させることなく高速に樹脂基板に貫通孔を形成することができる。たとえば、本発明の一実施の形態に係る加工樹脂基板の製造方法を利用すれば、半導体素子の製造工程の高速化を実現することができる。
【符号の説明】
【0091】
100 樹脂基板
110 樹脂層
120 金属層
130 パルスレーザー光
140 開口部(貫通孔)
150 外縁
150’ 外縁予定ライン
160 溝
200 レーザー加工装置
210 レーザー光源
220 テレスコープ光学系
230 ガルバノスキャナー
240 fθレンズ
250 ステージ
260 AFカメラ
270 XYステージコントローラー
280 Zコントローラー
290 コンピューター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8