特許第6671213号(P6671213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671213
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】自動分析装置および自動分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20200316BHJP
   G01N 27/30 20060101ALI20200316BHJP
   G01N 27/333 20060101ALI20200316BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   G01N27/416 361A
   G01N27/30 311C
   G01N27/333 331K
   G01N35/08 D
   G01N27/416 356
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-67526(P2016-67526)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-181242(P2017-181242A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(72)【発明者】
【氏名】石毛 悠
(72)【発明者】
【氏名】小野 哲義
(72)【発明者】
【氏名】小沢 理
(72)【発明者】
【氏名】岸岡 淳史
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−258277(JP,A)
【文献】 特開平06−288977(JP,A)
【文献】 特開平03−287063(JP,A)
【文献】 特開平02−112751(JP,A)
【文献】 特開平03−035154(JP,A)
【文献】 特開昭59−070957(JP,A)
【文献】 実開平02−101257(JP,U)
【文献】 実開平04−094564(JP,U)
【文献】 特開昭58−024852(JP,A)
【文献】 実開昭54−122896(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0000796(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液が導入される第1の液体導入口と,
参照液が導入される第2の液体導入口と,
液体排出口と,
前記第1の液体導入口と前記第2の液体導入口と前記液体排出口を互いに連結する分岐部を有する流路と,
前記第1の液体導入口と前記分岐部との間の前記流路に設けられる複数の測定電極と,
前記第2の液体導入口と前記分岐部との間の前記流路に設けられる参照電極と
を有し,
前記測定電極は,前記試料液に含まれる測定対象イオンに応答するイオン選択電極であって,塩素イオン選択電極,カリウムイオン選択電極,及びナトリウムイオン選択電極を含み,
前記参照電極は,前記参照液に含まれる,前記測定電極とは異なるイオンに応答するイオン選択電極であり,
前記参照液は,前記測定対象イオンとは異なるイオンを主成分として含み,
前記参照電極は,リチウム選択電極,マグネシウム選択電極,臭素選択電極,よう素選択電極,硫酸選択電極,炭酸選択電極又は硝酸選択電極であり,
前記参照液は,硝酸リチウム,臭化リチウム,よう化リチウム,硫酸リチウム,炭酸リチウム,硝酸マグネシウム,臭化マグネシウム,よう化マグネシウム,硫酸マグネシウム又は炭酸マグネシウムを主成分として含む
自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において,
参照液ボトルに収容されている前記参照液を前記第2の液体導入口に吐出する第1のポンプと,
前記試料液及び前記参照液の両方又は一方を前記液体排出口から吸引する第2のポンプと
を更に有する,ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動分析装置において,
前記参照液を前記参照電極に導入する際,前記第2のポンプと前記第1のポンプは同期動作し,その際における前記第2のポンプの吸引速度は,前記第1のポンプの吐出速度以上である
ことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
試料液が導入される第1の液体導入口と,
参照液が導入される第2の液体導入口と,
液体排出口と,
前記第1の液体導入口と前記第2の液体導入口と前記液体排出口を互いに連結する分岐部を有する流路と,
前記第1の液体導入口と前記分岐部との間の前記流路に設けられる複数の測定電極と,
前記第2の液体導入口と前記分岐部との間の前記流路に設けられる参照電極であり,前記参照液に含まれる,前記測定電極とは異なるイオンに応答する前記参照電極と,
制御部と
を有する自動分析装置により実行される自動分析方法において,
前記測定電極は,前記試料液に含まれる測定対象イオンに応答するイオン選択電極であって,塩素イオン選択電極,カリウムイオン選択電極,及びナトリウムイオン選択電極を含み,
前記制御部は,
前記測定電極の測定対象イオンとは異なるイオンを主成分として含む前記参照液を,前記第2の液体導入口の側から前記参照電極に導入する工程と,
前記試料液を前記第1の液体導入口の側から前記測定電極に導入する工程と,
前記参照電極と前記測定電極の間の電位差を測定する工程の実行を制御し,
前記参照電極は,リチウム選択電極,マグネシウム選択電極,臭素選択電極,よう素選択電極,硫酸選択電極,炭酸選択電極又は硝酸選択電極であり,
前記参照液は,硝酸リチウム,臭化リチウム,よう化リチウム,硫酸リチウム,炭酸リチウム,硝酸マグネシウム,臭化マグネシウム,よう化マグネシウム,硫酸マグネシウム又は炭酸マグネシウムを主成分として含む
自動分析方法。
【請求項5】
請求項4に記載の自動分析方法において,
前記自動分析装置は,
参照液ボトルに収容されている前記参照液を前記第2の液体導入口に吐出する第1のポンプと,
前記試料液及び前記参照液の両方又は一方を前記液体排出口から吸引する第2のポンプと
を更に有し,
前記参照液を前記参照電極に導入する際,前記制御部は,前記第2のポンプと前記第1のポンプを同期動作させ,その際における前記第2のポンプの吸引速度を,前記第1のポンプの吐出速度以上に制御する
ことを特徴とする自動分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,試料液中のイオン濃度を測定するための自動分析装置及び当該装置を用いた分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン選択電極は,参照電極と共に試料液に接触させるだけで測定対象イオンの濃度に応じた起電力を発生でき,その手軽さから,生物,医用,環境といった幅広い分野で用いられている。例えば,血液中のイオン濃度は医学的観点から重要であるため,血中のナトリウム,カリウム,塩素の測定が毎年何百万件も行われている。これらの測定は,病院,検査センタ,診療所,診療現場において行われている。
【0003】
イオン選択電極を用いた自動分析装置には,後述する液絡部を用いない装置(特許文献1)と,液絡部を用いる装置(特許文献2)がある。前者は1本の流路に沿って参照電極とイオン選択電極(測定電極)を直列に配置するタイプの装置であり,後者はT字型の流路の分岐点を挟んで参照電極とイオン選択電極を配置するタイプの装置である。
【0004】
後者は,測定用のイオン選択電極が配置されている側の流路端から試料液を導入する一方,参照電極が配置されている側の流路端から参照液を導入し,分岐点の部分でこれら2つの溶液を接触させる。ここでの2つの溶液が接する箇所が「液絡部」である。後者は,液絡部で2つの溶液が接触した状態で,参照電極を基準としたイオン選択電極の電位を測定し,試料液中に含まれる各測定対象イオンの濃度を測定する。
【0005】
ここで,液絡部を用いるタイプの装置には,液絡部を用いないタイプの装置と比べ,参照電極に試料液が接触しない利点がある。また,液絡部を用いるタイプの装置では,参照液と試料液はどちらも測定ごとに置換されるため,液絡部は測定ごとに更新される。このため,液絡部の電位は,測定毎に,液間電位の理論式であるヘンダーソンの式に従う電位となる。その結果,液絡部を用いるタイプの装置には,参照電極と液絡部との間の液間電位が安定し,高い測定精度や再現性が得られる利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−145123号公報
【特許文献2】特開平6−102240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,液絡部を用いるタイプの装置では,参照液が試料液に拡散もしくは混入すると,測定電極における測定値に変動が生じる可能性がある。特に測定電極と液絡部の距離が短い場合,試料液に拡散もしくは混入した参照液が測定電極の測定に影響を与え易くなる。このため,試料液への参照液の拡散もしくは混入による測定値への影響を従来に比して低減できる仕組みが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために,本発明は,例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本明細書は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが,その一例を挙げるならば,「液絡部を用いるタイプの自動分析装置において,その参照電極として,測定電極とは異なるイオンに応答するイオン選択電極を用いる」ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,参照液の主要イオンが測定対象以外のイオンであるので,試料液への参照液の拡散又は混入が生じても,測定電極による測定値への影響を従来に比して低減することができる。前述した以外の課題,構成及び効果は,以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係る自動分析装置の一例を示す概略図。
図2】電極カートリッジの一例を示す図。
図3】実施例1に係る自動分析装置を用いたイオン濃度測定工程の一例を示すフローチャート。
図4】実施例2に係る自動分析装置の一例を示す概略図。
図5】実施例3に係る自動分析装置の一例を示す概略図。
図6】実施例3に係る自動分析装置を用いたイオン濃度測定工程の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,図面に基づいて,本発明の実施の形態を説明する。なお,本発明の実施の態様は,後述する実施例に限定されるものではなく,その技術思想の範囲において,種々の変形が可能である。
【0012】
(1)実施例1
(1−1)装置構成
図1に,自動分析装置の一例であるフロー型の電解質濃度測定装置1の概略構成を示す。電解質濃度測定装置1は,測定対象物である試料液が収容されている試料容器131,試料液を希釈槽120に分注する分注ノズル(図示せず),希釈液が収容されている希釈液ボトル132,希釈液を希釈槽に送液する希釈液用シリンジポンプ141,内部標準液が収容されている内部標準液ボトル133,内部標準液を希釈槽120へ送液する内部標準液用ポンプ142,希釈槽120内の液を吸引するためのシッパーノズル121,液中の電解質濃度を測定するイオン選択電極(塩素イオン選択電極101,カリウムイオン選択電極102,ナトリウムイオン選択電極103),参照液が収容されている参照液ボトル134,電位の基準となる参照電極104,希釈槽120内の液および参照液を吸引するシッパーシリンジポンプ143,イオン選択電極側電磁弁122と参照電極側電磁弁123,希釈槽120から導入された液と参照液とが接触して流路分岐部114で液絡部を形成する液絡部形成ブロック115,参照電極104と各イオン選択電極101〜103との間の電位を計測するための電位計測部151からなる。なお,希釈槽120から吸引された液(試料液)は,シッパーノズル121及び試料液導入用流路111を通じてイオン選択電極に送液される。また,参照液ボトル134から吸引された参照液は,参照電極側電磁弁123及び参照液導入用流路112を通じて参照電極104に送液される。また,流路分岐部114とシッパーシリンジポンプ143との間は排液用の流路113で接続されている。
【0013】
なお,図示していないが,電解質濃度測定装置1は,上記構成要素を制御する制御部と,計測結果や温度条件などを取得し記録演算する記録演算部と,それらの結果や動作状況などを出力する出力部と,試料液や試薬の情報や測定条件などを入力する入力部とを備えている。これらは,いわゆるコンピュータを構成する。本実施例では,試料液の流路上に設けられるイオン選択電極として,塩素,カリウム,ナトリウムの3種類の電極を搭載するが,これ以外のイオン選択電極や他のセンサーを搭載してもよい。また,電極の種類は3種類に限らず,1種類以上の電極が搭載されていればよい。以下では,試料液の流路上に設けるイオン選択電極を「測定電極」ともいう。
【0014】
図2に,イオン選択電極や参照電極として用いられる電極カートリッジの一例を示す。図2(a)は流路202の開口が形成されている側面から見た図であり,図2(b)は流路202の開口が形成されていない側面から見た図であり,図2(c)はA−A’に沿って破断した断面図である。本実施例の場合,直方体形状のパッケージ201を貫通するように流路202が形成されており,流路202に接するようにイオン感応膜205が配置されている。流路202の直径は約1〜3mmである。
【0015】
イオン感応膜205のうち流路202と接触していない側の面には,内部液204が接触する。この内部液204には銀塩化銀電極203が接触する。内部液204とイオン感応膜205は,いずれも,パッケージ201の内部に形成された空洞内に設けられている。イオン感応膜205には,測定対象とするイオン(以下「測定対象イオン」ともいう。)を選択的に透過する膜である。本実施例の場合,参照電極104で使用するイオン感応膜205には,イオン選択電極101〜103で使用するイオン感応膜205のいずれとも異なる感応膜を使用する。
【0016】
この構造の電極カートリッジでは,流路202中に試料液が導入されると,銀塩化銀電極203と試料液とが,内部液204とイオン感応膜205を通じて接することになり,試料液中に含まれる測定対象イオンの濃度に応じた起電力が銀塩化銀電極203に発生する。イオン感応膜205としては,論文(Pure Appl. Chem, 2000 Vol.72, pp1851, Pure Appl. Chem, 2002, Vol.74, pp 923, Pure Appl. Chem, 2002, Vol. 74, pp 995)に記載されているようなイオノフォアを含んだもの,イオン交換膜を用いたもの等を用いる。また,イオン感応膜205の部分に銀塩化銀電極203が配置されているものを塩素選択電極として用いることもできる。
【0017】
(1−2)測定動作
図3に,電解質濃度測定装置1において実行される測定動作の一例を示す。以下の動作は,不図示の制御部等で実行されるプログラムを通じて制御される。まず,制御部は,内部標準液用ポンプ142を用いて希釈槽120に内部標準液を送液する(S301)。次に,制御部は,イオン選択電極側電磁弁122を「閉」状態に制御し,参照電極側電磁弁123を「開」状態に制御する(S302)。この後,制御部は,シッパーシリンジポンプ143を吸引駆動させる(S303)。これにより,参照液が参照液導入用流路112から参照電極104に導入され,更に,流路分岐部114を経て排液用の流路113に到達する。このとき,参照液は約20〜200μL程度導入される。
【0018】
続いて,制御部は,イオン選択電極側電磁弁122を「開」状態に制御し,参照電極側電磁弁123を「閉」状態に制御する(S304)。この状態で,制御部は,シッパーシリンジポンプ143を吸引駆動する(S305)。これにより,希釈槽120内の内部標準液が試料液導入用流路111から導入され,イオン選択電極101〜103の流路202,流路分岐部114を経て排液用の流路113に到達する。この時点で,イオン選択電極101〜103の各流路202には内部標準液が,参照電極104の流路202には参照液が存在し,流路分岐部114において内部標準液と参照液が液絡部を形成する。
【0019】
この状態で,制御部は,電位計測部151を用いて電位を計測する(S306)。この際,参照電極104の電位を基準にすると,イオン選択電極101〜103の各電位+液絡部の液間電位−参照電極104の電位が測定される。
【0020】
続いて,制御部は,試料容器131内の試料液を希釈槽120に分注する(S307)。次に,制御部は,希釈液用シリンジポンプ141を用いて希釈槽120に希釈液を送液する(S308)。この後,制御部は,イオン選択電極側電磁弁122を「閉」状態に制御し,参照電極側電磁弁123を「開」状態に制御する(S309)。次に,制御部は,シッパーシリンジポンプ143を吸引駆動する(S310)。これにより,参照液が参照液導入用流路112から参照電極104に導入され,更に,流路分岐部114を経て排液用の流路113に到達する。
【0021】
続いて,制御部は,イオン選択電極側電磁弁122を「開」状態に制御し,参照電極側電磁弁123を「閉」状態に制御する(S311)。この状態で,制御部は,シッパーシリンジポンプ143を吸引させる(S312)。これにより,希釈槽120内の希釈された試料液が試料液導入用流路111から導入され,イオン選択電極101〜103の各流路202,流路分岐部114を経て排液用の流路113に到達する。このとき,試料液は約100〜1000μL程度導入される。
【0022】
この時点で,イオン選択電極101〜103の各流路202には希釈された試料液が,参照電極104の流路202には参照液が存在し,流路分岐部114において希釈された試料液と参照液が液絡部を形成する。制御部は,電位計測部151で電位を計測する(S313)。この際,参照電極104の電位を基準にすると,イオン選択電極101〜103の各電位+液絡部の液間電位−参照電極の電位が測定される。
【0023】
S306で測定された電位とS313で測定された電位は,液絡部の液間電位と参照電極104の電位が同じであるという条件下において,イオン選択電極101〜103の各電位のみで異なる。ネルンストの式によれば,電位はイオン活量の対数に比例して変化するので,S306で測定されたイオン選択電極電位とS313で測定されたイオン選択電極電位の差は,内部標準液と希釈された試料液の濃度比の対数に比例する。
【0024】
正確な測定には,液絡部の液間電位と参照電極の電位が2つの測定で同じという条件が成立することが望ましい。本実施例の場合,測定の度に,参照液を参照電極104の流路202に導入するため(S302,S309),参照電極104の電位が複数の測定においてほぼ同じ電位となる。
【0025】
(1−3)実施例で使用する参照電極と参照液の関係
はじめに,従前の装置で使用されている参照電極と参照液の関係について説明する。従前の装置では,参照液に高濃度塩化カリウム水溶液を用いており,液間電位が,内部標準液や希釈された試料液などの試料液に影響され難くしている。
【0026】
液間電位の理論式であるヘンダーソンの式によれば,参照液の主要イオンの陽イオンと陰イオンの輸率が近く,主要イオンの濃度が高い場合に,液間電位が小さくかつ試料液の影響を受け難くなる。高濃度塩化カリウム水溶液は,これらの条件を満たす参照液に適した水溶液である。参照液として高濃度塩化カリウムが用いられる理由は,銀塩化銀参照電極に由来するところも大きい。銀塩化銀参照電極とは,高濃度塩化カリウム水溶液に銀塩化銀電極を浸漬した参照電極である。この参照電極に銀塩化銀電極を使用し,参照液に高濃度塩化カリウム水溶液を使用する構成は,銀塩化銀参照電極の構成と類似した構成となる。
【0027】
当初,発明者らは,従前の参照電極と参照液を採用し,試料液の量を低減するための構成について検討した。すると,実施例2や3で説明するように,流路分岐部114からイオン選択電極103の流路出口(イオン選択電極103の流路202のうち流路分岐部114側に設けられる出口)までの距離を短くすることが効果的であることが分かった。これは,イオン濃度の測定においては,試料液が流路分岐部114まで到達する必要があることによる。
【0028】
一方で,流路分岐部114からイオン選択電極103の流路出口までの距離を短くすると,参照液が試料液側に拡散又は混入してイオン濃度の測定値に誤差をもたらす可能性があることを発見した。特に血液中のカリウム濃度測定において顕著であった。これは,血液中ではカリウム濃度が4mmol/L程度とナトリウム濃度や塩素濃度よりも一桁以上低いことに起因する。
【0029】
そこで,発明者らは,カリウムイオンを含まない参照液を用いることで,この種の課題を解決できることに気がついた。なお,着想の経緯は以上の通りであるが,以下で説明する参照液と参照電極の組合せは,試料液の量の低減を意図した装置構成か否かによらず,参照液の試料液側への拡散又は混入による測定誤差を低減するのに効果的である。
【0030】
本実施例において,発明者らは,1 mol/L程度の高濃度の酢酸リチウム水溶液を参照液に使用し,リチウム選択電極を参照電極104に使用する。因みに,測定電極側で使用されるカリウム選択電極は,通常,リチウムイオンに対して高い選択性(1/1000)を有するため,参照液に含まれるリチウムイオンが試料液側に拡散又は混入しても測定誤差を十分に小さく抑えることができる。
【0031】
また,酢酸イオンとリチウムイオンは輸率が近く,液間電位を小さく抑えることができる。表1に,1 mol/L塩化カリウム水溶液と1 mol/L酢酸リチウム水溶液での液間電位を比較した結果を示す。なお,希釈液として純水を用いることとし,希釈倍率を20倍とした。また,試料液のナトリウムイオン,カリウムイオン,塩素イオンの濃度をそれぞれ140 mmol/L,4 mmol/L,100 mmol/Lとした。表1では,ナトリウム濃度が1.5倍もしくは0.5倍になったとき,カリウム濃度が10倍になったとき,塩素濃度が1.5倍もしくは0.5倍になったときの液間電位の変化量をヘンダーソンの式を用いて求めている。同様の理由から,硫酸リチウム水溶液についても液間電位の変化量を求めた。
【0032】
【表1】
【0033】
表1より,参照液として,塩化カリウム水溶液を用いる場合(従前)と,酢酸リチウム水溶液もしくは硫酸リチウム水溶液を用いる場合(実施例)との間には,液間電位の変動に大きな差が無いことが分かる。リチウム選択電極としては,論文(ECS Transactions,2013 vol: 50 (12) pp: 279-287)に記載されている組成の感応膜を用いることができる。また,当該論文に記載されているような鉄リン酸リチウム電極にリチウム感応膜を接合したものを用いることもできる。
【0034】
カリウムを含まない参照液としては,酢酸リチウムの他に,硝酸リチウム,塩化リチウム,臭化リチウム,よう化リチウム,硫酸リチウム,炭酸リチウム,酢酸マグネシウム,硝酸マグネシウム,塩化マグネシウム,臭化マグネシウム,よう化マグネシウム,硫酸マグネシウム,炭酸マグネシウム,酢酸ナトリウム,硝酸ナトリウム,塩化ナトリウム,臭化ナトリウム,よう化ナトリウム,硫酸ナトリウム,炭酸ナトリウムの水溶液を用いることができ,それぞれの参照液の陰イオン選択電極もしくは陽イオン選択電極を参照電極に用いる。望ましくは,イオン選択電極の測定対象イオン(一例として,ナトリウム,カリウム,塩素)を主要イオンとして含まない参照液が好適であり,この場合は,硝酸リチウム,臭化リチウム,よう化リチウム,硫酸リチウム,炭酸リチウム,硝酸マグネシウム,臭化マグネシウム,よう化マグネシウム,硫酸マグネシウム,炭酸マグネシウムなどを参照液として用いることができる。
【0035】
(1−4)効果
以上説明したように,電解質濃度測定装置1(図1)においては,参照液として,試料液に含まれる測定対象イオンを主要イオンに含まない水溶液を使用する。これにより,試料液に参照液が混入したとしても,測定電極における測定値に与える影響を従来に比して低減することができ,安定した測定が可能になる。
【0036】
また,本実施例では,参照液の主要な陽イオンと陰イオンの輸率がなるべく近くなるようにしている。輸率が近いことにより,液絡部での液間電位の変動が小さくなり,より正確な測定を行うことができる。
【0037】
また,参照電極104として,参照液の主要イオンに感応するイオン選択電極を使用することにより,試料液に参照液が混入しても,参照電極104の電位が安定し,より正確な測定を行うことができる。
【0038】
(2)実施例2
図4に,自動分析装置の一例であるフロー型の電解質濃度測定装置2の概略構成を示す。図4には,図1との対応部分に同一符号を付して示している。本実施例に係る電解質濃度測定装置2(図4)は,イオン選択電極側電磁弁122が,イオン選択電極101〜103よりも上流に位置している点で,実施例1に係る電解質濃度測定装置1(図1)と相違する。このように,イオン選択電極側電磁弁122をイオン選択電極101〜103よりも上流に設けることにより,流路分岐部114とイオン選択電極103の距離を短くすることが容易になる。
【0039】
本実施例の場合も,参照液として,試料液に含まれる測定対象イオンを主要イオンに含まない水溶液を使用し,参照電極104として,参照液の主要イオンに感応するイオン選択電極を使用する。この構成により,流路分岐部114とイオン選択電極103との間の距離を短くしても(その結果として,実施例1の構成に比して,試料液に参照液が拡散又は混入し易くなっても),参照電極104の電位が安定し,従前の装置構成に比して,より正確な測定を行うことができる。また,本実施例に係る電解質濃度測定装置2は,流路分岐部114とイオン選択電極103の距離を短くできるため,試料液の量を実施例1に比して低減することができる。
【0040】
(3)実施例3
図5に,自動分析装置の一例であるフロー型の電解質濃度測定装置3の概略構成を示す。図5には,図1との対応部分に同一符号を付して示している。本実施例に係る電解質濃度測定装置3(図5)は,イオン選択電極側電磁弁122が存在しない点,及び,参照液ボトル134と参照電極側電磁弁123の間に参照液用ポンプ144が存在する点で,実施例1に係る電解質濃度測定装置1(図1)と相違する。
【0041】
図6に,電解質濃度測定装置3において実行される測定動作の一例を示す。以下の動作は,不図示の制御部等で実行されるプログラムを通じて制御される。まず,制御部は,内部標準液用ポンプ142を用いて希釈槽120に内部標準液を送液する(S601)。次に,制御部は,参照電極側電磁弁123を「開」状態に制御する(S602)。この後,制御部は,シッパーシリンジポンプ143を吸引駆動し,同時に参照液用ポンプ144で参照液を吐出する(S603)。すなわち,シッパーシリンジポンプ143と参照液用ポンプ144は同期動作する。これにより,参照液が参照液導入用流路112から参照電極104に導入され,更に,流路分岐部114を経て排液用の流路113に到達する。この際,制御部は,シッパーシリンジポンプ143の吸引速度を,参照液用ポンプ144の吐出速度と同じか,それよりも大きくする。これにより,参照液は,流路分岐部114でイオン選択電極103の側に向かうことなく流路113に向かう。
【0042】
続いて,制御部は,参照電極側電磁弁123を「閉」状態に制御する(S604)。この状態で,制御部は,シッパーシリンジポンプ143を吸引駆動する(S605)。これにより,希釈槽120内の内部標準液が試料液導入用流路111から導入され,イオン選択電極101〜103の流路202,流路分岐部114を経て排液用の流路113に到達する。この時点で,イオン選択電極101〜103の流路202には内部標準液が,参照電極104の流路202には参照液が存在し,流路分岐部114において内部標準液と参照液が液絡部を形成する。
【0043】
この状態で,制御部は,電位計測部151を用いて電位を計測する(S606)。この際,参照電極104の電位を基準にすると,イオン選択電極101〜103の各電位+液絡部の液間電位−参照電極104の電位が測定される。
【0044】
続いて,制御部は,試料容器131内の試料液を希釈槽120に分注する(S607)。この後,制御部は,希釈液用シリンジポンプ141を用いて希釈槽120に希釈液を送液する(S608)。更に,制御部は,参照電極側電磁弁123を「開」状態に制御する(S609)。次に,制御部は,シッパーシリンジポンプ143を吸引駆動し,同時に参照液用ポンプ144で参照液を吐出する(S610)。すなわち,シッパーシリンジポンプ143と参照液用ポンプ144は同期動作する。これにより,参照液が参照液導入用流路112から参照電極104に導入され,流路分岐部114を経て排液用の流路113に到達する。この際,シッパーシリンジポンプ143の吸引速度を参照液用ポンプ144の吐出速度と同じか,それよりも大きくする。これにより,参照液は,流路分岐部114でイオン選択電極103の側に向かうことなく流路113に向かう。
【0045】
次に,制御部は,参照電極側電磁弁123を「閉」状態に制御し(S611),シッパーシリンジポンプ143を吸引駆動する(S612)。これにより,希釈槽120内の希釈された試料液が試料液導入用流路111から導入され,イオン選択電極101〜103の流路202,流路分岐部114を経て排液用の流路113に到達する。この時点で,イオン選択電極101〜103の流路202には希釈された試料液が,参照電極104の流路202には参照液が存在し,流路分岐部114において希釈された試料液と参照液が液絡部を形成する。制御部は,電位計測部151で電位を計測する(S613)。この際,参照電極104の電位を基準にすると,イオン選択電極101〜103の各電位+液絡部の液間電位−参照電極104の電位が測定される。
【0046】
S606で測定された電位とS613で測定された電位は,液絡部の液間電位と参照電極104の電位が同じであるという条件下において,イオン選択電極101〜103の各電位のみで異なる。ネルンストの式によれば,電位はイオン活量の対数に比例して変化するので,S606で測定されたイオン選択電極電位とS613で測定されたイオン選択電極電位の差は,内部標準液と希釈された試料液の濃度比の対数に比例する。
【0047】
本実施例の場合,イオン選択電極側電磁弁122を設けなくても参照液の送液が可能であるため,送液の際に試料液への参照液の混入の可能性を一層低減することができる。また,イオン選択電極側電磁弁122を設けないことで,流路分岐部114とイオン選択電極103の距離を短くでき(例えば100mmほど短くでき),実施例1に比して試料液の量を低減することができる。例えば流路202の径を1mmとする場合,70〜80μL程度低減することができる。また,イオン選択電極側電磁弁122は設置スペースが嵩張るため,本実施例に係る電解質濃度測定装置3は,実施例1に比して小型化できる
【0048】
(4)他の実施例
本発明は,前述した実施例に限定されるものではなく,様々な変形例が含まれる。例えば,上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり,必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また,ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり,また,ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また,各実施例の構成の一部について,他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1,2,3…電解質濃度測定装置,
101〜103…イオン選択電極,
104…参照電極,
111…試料液導入用流路,
112…参照液導入用流路,
113…排液用の流路,
114…流路分岐部,
120…希釈槽,
121…シッパーノズル,
122…イオン選択電極側電磁弁,
123…参照電極側電磁弁,
131…試料容器,
132…希釈液ボトル,
133…内部標準液ボトル,
134…参照液ボトル,
141…希釈液用シリンジポンプ,
142…内部標準液用ポンプ,
143…シッパーシリンジポンプ,
144…参照液用ポンプ,
151…電位計測部,
201…パッケージ,
202…流路,
203…銀塩化銀電極,
204…内部液,
205…イオン感応膜。
図1
図2
図3
図4
図5
図6