(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671291
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】電気化学装置用の電極ユニット
(51)【国際特許分類】
H01M 10/39 20060101AFI20200316BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20200316BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20200316BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20200316BHJP
H01M 4/80 20060101ALN20200316BHJP
【FI】
H01M10/39 Z
H01M10/39 A
H01M10/39 C
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01M4/36 E
!H01M4/80 C
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-550589(P2016-550589)
(86)(22)【出願日】2015年1月28日
(65)【公表番号】特表2017-505980(P2017-505980A)
(43)【公表日】2017年2月23日
(86)【国際出願番号】EP2015051667
(87)【国際公開番号】WO2015117870
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2018年1月26日
(31)【優先権主張番号】14154255.5
(32)【優先日】2014年2月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンナ カタリーナ デュル
(72)【発明者】
【氏名】イェズス エンリケ ゼルパ ウンダ
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター アハハマー
(72)【発明者】
【氏名】ドムニク バイアー
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ハイデブレヒト
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン モイアー
【審査官】
小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−089160(JP,A)
【文献】
特公昭59−10539(JP,B2)
【文献】
特開昭60−235368(JP,A)
【文献】
特開平6−68905(JP,A)
【文献】
特開平07−094210(JP,A)
【文献】
特開平03−179677(JP,A)
【文献】
特開平08−096844(JP,A)
【文献】
特開平01−221869(JP,A)
【文献】
特開平04−079169(JP,A)
【文献】
特開平11−329484(JP,A)
【文献】
特開2005−071774(JP,A)
【文献】
特開平10−270073(JP,A)
【文献】
特公昭57−33836(JP,B2)
【文献】
特開昭52−095034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/39
H01M 4/13−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)硫黄及びアルカリ金属アノード材料の多硫化物からなる群から選択される融液状のカソード材料用の空間と、融液状のアルカリ金属アノード材料用の空間とを隔てる固体電解質、並びに(ii)前記カソード材料用の空間内で前記固体電解質に隣接して存在する多孔質固体電極を有し、前記固体電極と前記固体電解質との間に電子伝導性でない中間層Sが存在する電気化学装置用の電極ユニットにおいて、前記中間層Sは、1〜3mmの範囲内の厚さを有し、かつ、前記電気化学装置の最初の充電の前に、前記中間層Sを形成する出発材料の全体の連続気孔中に、(A)純粋な多硫化物Met2Sx[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択されるアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属であり、かつ、xは、前記アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8であり、Kの場合に2、3、4、5、6である]又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の混合物を含む多硫化物組成物だけが存在することを特徴とする、電気化学装置用の電極ユニット。
【請求項2】
前記電子伝導性でない中間層Sの基材は、酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化ケイ素、アルミニウムとケイ素との混合酸化物、ケイ酸塩及びアルミノケイ酸塩から選択される繊維の平坦な構造物であることを特徴とする、請求項1に記載の電極ユニット。
【請求項3】
前記固体電解質は、片側が閉じた円柱状の成形体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電極ユニット。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に定義されている電極ユニットを有する電気化学装置。
【請求項5】
前記電気化学装置がナトリウム硫黄セルであることを特徴とする、請求項4に記載の電気化学装置。
【請求項6】
請求項1から3までのいずれか1項に定義されている電極ユニット内の、電子伝導性でない中間層Sの製造方法において、前記電子伝導性でない中間層Sを形成する多孔質出発材料を1atm未満の圧力に曝し、かつ前記出発材料に、(A)純粋な多硫化物Met2Sx[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択されるアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属であり、かつxは、前記アルカリ金属に依存し、かつNaの場合には2、3、4又は5であり、Liの場合には2、3、4、5、6、7、8であり、Kの場合には2、3、4、5、6である]又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の混合物を含む、アルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の溶融した多硫化物組成物を含浸することを特徴とする、電子伝導性でない中間層Sの製造方法。
【請求項7】
請求項4又は5に定義されている電気化学装置を最初に充電する方法において、融液状のカソード材料用の空間内に、(A)純粋な多硫化物Met2Sx[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択される所望のアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属であり、かつxは、前記アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8であり、Kの場合に2、3、4、5、6である]、又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の、及び/又はそれぞれ硫黄との混合物、又は(C)それぞれのアルカリ金属硫化物Met2Sの、硫黄及び/又は(A)又は(B)で挙げられた多硫化物Met2Sxとの混合物を含む多硫化物化合物(I)を融液として装入し、更に、融液状のアノード材料用の空間内に、電子伝導性の装置が、固体電解質のアノード材料側の表面に少なくとも下方領域で接触するように、前記電子伝導性の装置を設置し、カソード空間及びアノード空間を電気回路に接続し、かつ前記電気化学装置を通して電流を供給して、前記多硫化物化合物(I)を電離させ、カソード空間中に硫黄を生じさせかつアノード空間中に金属のアルカリ金属を生じさせることを特徴とする電気化学装置を最初に充電する方法。
【請求項8】
(i)請求項1で定義されたような融液状のカソード材料用の空間と、融液状のアルカリ金属アノード材料用の空間とを隔てる固体電解質、並びに(ii)電子伝導性でない中間層Sにより前記固体電解質と隔てられている多孔質固体電極を有する電気化学装置用の電極ユニット内での、電子伝導性でない中間層Sの使用において、前記電子伝導性でない中間層Sは、1〜3mmの範囲内の厚さを有し、かつ、前記電気化学装置の最初の充電の前に、前記中間層Sを形成する出発材料の全体の連続気孔中に、(A)純粋な多硫化物Met2Sx[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択されるアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属であり、かつxは、前記アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8であり、Kの場合に2、3、4、5、6である]を含むか又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の混合物を含む、アルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の多硫化物組成物だけが存在することを特徴とする、電子伝導性でない中間層Sの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)単体硫黄及びアルカリ金属アノード材料の多硫化物からなる群から選択される融液状のカソード材料用の空間と、融液状のアルカリ金属アノード材料用の空間とを隔てる固体電解質、並びに(ii)カソード材料用の空間内で固体電解質に直接隣接して存在する多孔質固体電極を有し、固体電極と固体電解質との間に電子伝導性でない中間層Sが存在する電気化学装置用の電極ユニットにおいて、中間層Sは、
0.5〜5mmの範囲内の厚さを有し、かつ、電気化学装置の最初の充電の前に、(A)純粋な多硫化物Met
2S
x[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択されるアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属であり、かつxは、アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8であり、Kの場合に2、3、4、5、6である]を含むか又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の混合物を含む多硫化物組成物で完全に含浸されていることを特徴とする電気化学装置用の電極ユニット、特許請求の範囲に定義されたような電極ユニットを含む電気化学装置、特許請求の範囲に定義されているような電極ユニット中の、電子伝導性でない中間層Sの製造方法において、電子伝導性でない中間層Sを形成する多孔質出発材料を1atm未満の気圧に曝し、かつ(A)純粋な多硫化物Met
2S
x[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択されるアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属であり、かつxは、アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8であり、Kの場合に2、3、4、5、6である]を含むか又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の混合物を含む、アルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の溶融した多硫化物組成物を含浸することを特徴とする製造方法、特許請求の範囲に定義されているような電気化学装置を最初に充電する方法において、融液状のカソード材料用の空間中に、(A)純粋な多硫化物Met
2S
x[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択される所望のアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属であり、かつxは、アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8であり、Kの場合に2、3、4、5、6である]、又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の、及び/又はそれぞれ単体硫黄との混合物、又は(C)それぞれのアルカリ金属硫化物Met
2Sの、単体硫黄及び/又は(A)又は(B)で挙げられた多硫化物Met
2S
xとの混合物を含む多硫化物化合物(I)を融液として装入し、更に、融液状のアノード材料用の空間内に、電子伝導性の装置が、固体電解質のアノード材料側の表面に少なくとも下方領域で接触するように、電子伝導性の装置を設置し、カソード空間及びアノード空間を電気回路に接続し、かつこの電気化学装置を通して電流を供給して、多硫化物化合物(I)を電離させ、カソード空間中に単体硫黄を生じさせかつアノード空間中に金属のアルカリ金属を生じさせることを特徴とする電気化学装置を最初に充電する方法、及び(i)ここに定義されたような融液状のカソード材料用の空間と、ここに定義されたような融液状のアルカリ金属アノード材料用の空間とを隔てる固体電解質、並びに(ii)電子伝導性でない中間層Sにより固体電解質と隔てられている多孔質固体電極を有する電気化学装置用の電極ユニット内での、電子伝導性でない中間層Sの使用において、電子伝導性でない中間層Sは、
0.5〜5mmの範囲内の厚さを有し、かつ、電気化学装置の最初の充電の前に、(A)純粋な多硫化物Met
2S
x[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択されるアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属であり、かつxは、アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8であり、Kの場合に2、3、4、5、6である]を含むか又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の混合物を含む、アルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の多硫化物組成物で完全に含浸されていることを特徴とする使用に関する。
【0002】
融液状のカソード材料用の空間と、融液状のアノード材料用の空間と、これらの空間を隔てる固体電解質と、カソード質中に存在する多孔質電極とを備えた電気化学装置は公知であり、かつ以後、「固体電解質を備えた電気化学装置」とも言う。
【0003】
この種の、固体電解質を備えた電気化学装置の例は、いわゆるナトリウム硫黄バッテリーであり、これは例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、第4巻、D. Berndt, D. Spahrbier著、第7.2.2.2.章、第608〜609頁、Wiley-VCH (2003)に記載されている。
【0004】
ナトリウム硫黄バッテリーの場合に、硫黄がカソード材料であり、ナトリウムがアノード材料であり、β−酸化アルミニウムが固体電解質であり、並びに黒鉛フェルトが電極であり、この電極はカソード空間内で硫黄と接触している。
【0005】
カソード空間とは、本発明の意味範囲で、セルの充電時に多硫化物が単体硫黄に酸化され、かつセルの放電時に単体硫黄が多硫化物に還元される、固体電解質を備えた電気化学装置の空間である。
【0006】
アノード空間とは、本発明の意味範囲で、アルカリ金属イオン、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンが、この装置の充電時に、単体アルカリ金属、例えばリチウム、ナトリウム又はカリウムに還元され、かつ放電時に単体アルカリ金属、例えばリチウム、ナトリウム又はカリウムがアルカリ金属イオン、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン又はカリウムイオンに酸化される、固体電解質を備えた電気化学装置の空間である。
【0007】
固体電解質を備えた電気化学装置は、電気エネルギー用の再充電可能な貯蔵装置として使用することができ、これは学術的に一般的に、「蓄電池」又は「二次電池」とも言われる。この蓄電池は、酸化還元反応によって電流を生じ、従ってガルバニ電池である。
【0008】
他方で、電流が電気化学装置を通して固体電解質に送られる場合、この装置は、電気分解のため、つまり電流による化合物の、例えばその元素の構成成分への分解のために使用することもできる。通常では、学術的に一般的に、電気分解セルについて述べられる。電気エネルギーを大量に貯蔵しかつ必要な場合に電力供給網に送り出すために、相変わらず、電気化学装置の開発が工業的に望ましい。例えば、電力低下時に電力供給網へ消費者に向けて電流を送り出すために、風力発電により製造された電気エネルギーを貯蔵することが望ましい。
【0009】
このために、多大な貯蔵装置容量が必要であり、これは例えばナトリウム硫黄バッテリーによって提供することができる。
【0010】
このナトリウム硫黄バッテリーの問題は、バッテリーの充電時に、電気絶縁体の硫黄が、固体電解質表面のカソード側に堆積することにより、一般に、バッテリーの充電時に、この硫黄層がナトリウムイオンの、固体電解質の表面の方向への移動を遮断し、このことがまたセルの電気抵抗の上昇、電極の早期の分極、及びセルの不完全な充電、つまりバッテリーの容量の損失を引き起こす。
【0011】
このナトリウム硫黄バッテリーの更なる問題は、殊にこのバッテリーの充電した状態での電解質の破壊又は損傷時に、液体ナトリウムが、液体硫黄に、通常では高温で、例えば300〜400℃で直接接触し、かつ、殊に固体電解質の破壊又は損傷の箇所で直接、強い発熱反応が起き、この強い発熱反応が、例えばセル内での急速な圧力上昇と共に硫黄の急激な蒸発を引き起こし、この場合、このセルは損傷又は破壊され、周囲環境と激しく反応しかねず、かつそれにより最終的には他のセルを又はそれどころかバッテリー全体を損傷するか又は破壊しかねないセルの内容物が放出される。
【0012】
GB 1,347,990 Aは、カソード材料として硫黄融液を備え、アノード材料としてナトリウム融液を備え、β−酸化アルミニウム(「sodium beta alumina」)及び黒鉛フェルト電極を備え、この黒鉛フェルト電極が硫黄融液(カソード材料)と接触し、ここで、黒鉛フェルト電極は、数マイクロメートルの薄さの、電気絶縁材料、例えばα−酸化アルミニウムの多孔質層によって固体電解質と隔てられている、ナトリウム硫黄タイプの再充電可能な電気化学ジェネレータを記載している。GB 1,347,990 Aは、この電気絶縁材料が、好ましくはこのジェネレータの最初の充電の前に、アルカリ金属多硫化物で含浸されていることを開示していない。
【0013】
US 4,084,041は、硫黄融液及び/又は多硫化物融液(カソード空間)、ナトリウム融液(アノード空間)、β−酸化アルミニウム固体電解質(「ベータ−アルミナ」)及び黒鉛フェルト電極を備え、この黒鉛フェルト電極は硫黄融液及び固体電解質と接触し、ここで電極の一部が電気絶縁性酸化アルミニウムにより被覆(コート)されているため、所定の最大オーム抵抗に到達され、かつここでこの電極は、カソード空間の全体の容量を満たしていないナトリウム硫黄バッテリーを記載している。US 4,084,041は、電気絶縁性の酸化アルミニウムにより部分的に被覆された黒鉛フェルト電極が、好ましくはこのバッテリーの最初の充電の前に、アルカリ金属多硫化物で含浸されていることを開示していない。
【0014】
J.L. Sudworth, A.R. Tilleyは、「The Sodium Sulfur Battery」、Chapman and Hall Ltd., 1985 (ISBN 0412 164906)、第189頁、「The sulfur electrode」の章の1〜3行で、炭素フェルトと平板型セルの固体電解質との間に、α−酸化アルミニウム繊維の1mmの厚さの層(「ICI Ltd. Saffil low density mat」)を配置できることを述べている。Sudworth及びTilleyは、α−酸化アルミニウム層がアルカリ金属多硫化物で完全に含浸されていることを開示していない。
【0015】
本発明の課題は、先行技術の欠点を示すことがなく、殊にセルの最初の充電の前に、固体電解質の損傷又は破壊時にあまり熱を放出せず、それにより電気化学セル及び最終的にバッテリー全体の高められた安全性を提供し、ここでセルの内部抵抗がいまだに良好である、固体電解質を備えた電気化学装置を提供することであった。
【0016】
この課題は、ここに請求されかつ記載されたような電極ユニット(以後、「本発明による電極ユニット」とも言う)により、ここに請求されかつ記載されたような電気化学装置(以後、「本発明による電気化学装置」とも言う)により、ここに請求されかつ記載されたような電子伝導性でない中間層Sの製造方法により、ここに請求されかつ記載されたような電気化学装置を最初に充電する方法により、並びにここに請求されかつ記載されたような電極ユニット中での電子伝導性でない中間層Sの使用により解決される。
【0017】
本発明による電極ユニットは、電気化学装置の融液状のカソード材料用の空間内に存在し、この電気化学装置は、単体硫黄及びアルカリ金属アノード材料の多硫化物(この多硫化物は好ましくは次のように定義される)からなる群から選択される融液状のカソード材料用の空間と、融液状のアルカリ金属アノード材料用(このアノード材料は好ましくは次のように定義される)の空間とを有し、これらの空間は互いに固体電解質により隔てられていて、ここで、この電極ユニットは、固体電解質に直接隣接する多孔質固体電極と、固体電極と固体電解質との間の電子伝導性ではない中間層Sとを有し、かつこの中間層Sは、電気化学装置の最初の充電の前に、アルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の多硫化物組成物で完全に含浸されていて、このアルカリ金属の多硫化物組成物は、(A)純粋な多硫化物Met
2S
x[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択されるアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属、殊にナトリウムであり、xは、アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5であり、好ましくは3、4又は5であり、殊に4であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8、好ましくは3、4、5、6、7又は8であり、Kの場合に2、3、4、5、6、好ましくは3、4又は5、殊に5である
]又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の混合物を含む。この多硫化物組成物は、以後、「本発明による多硫化物組成物」とも言う。
【0018】
「完全に」とは、この関連で、電子伝導性でない中間層Sを形成する出発材料の全体の連続気孔中に、実質的に本発明による多硫化物組成物だけが存在することを意味する。連続気孔とは、次のように定義される:通常の方法で、例えば質量及び体積の決定により、中間層Sを形成する出発材料の嵩密度を測定する。中間層Sを形成する出発材料の固有の密度を通常の方法で測定するか又は文献から推知し、かつ次のように連続気孔を計算する:1−上述の出発材料の試験体の嵩密度/試験体を形成する上述の出発材料の固有の密度。具体的には、この連続気孔は、例えば中間層Sを形成する出発材料の繊維間の間隙である。電子伝導性でない中間層Sを形成する出発材料を、ここで詳細に記載する。
【0019】
カソード材料として、通常では、アノード材料と化学的に反応することができ、通常では電気化学装置の作動条件下で融液である材料を使用する。
【0020】
融液状のカソード材料は、単体硫黄及びアルカリ金属アノード材料の多硫化物、換言すると、アルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の多硫化物からなる群から選択される。好ましい融液状のカソード材料は、単体硫黄だけであるか又はアルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の多硫化物と組み合わせた単体硫黄である。
【0021】
アルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の多硫化物として、好ましくは、(A)純粋な多硫化物Met
2S
x[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択される、アルカリ金属アノード材料のアルカリ金属、殊にナトリウムを表し、xは、アルカリ金属に依存して、かつNaの場合に2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8、好ましくは3、4、5、6、7又は8であり、Kの場合に2、3、4、5、6、好ましくは3、4又は5であり、殊に5である]又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の、及び/又はそれぞれ単体硫黄との混合物、(C)それぞれのアルカリ金属硫化物Met
2Sからの、単体硫黄及び/又は(A)又は(B)で挙げられた多硫化物Met
2S
xとの混合物が考えられる。
【0022】
融液状のカソード材料は、融液状(溶融した固体)で又は固体として、好ましくは融液状で、本発明による電気化学装置中に充填することができ、かつ電気化学装置の充電/放電時及び作動時に、通常では300〜400℃の範囲内の温度で、液状の、溶融した状態で存在する。
【0023】
アルカリ金属アノード材料は、リチウム、ナトリウム及びカリウム、好ましくはナトリウム、カリウム、殊にナトリウムからなる群から選択される。
【0024】
融液状のアルカリ金属アノード材料は、本発明の意味範囲で、通常では、カソード材料の電気分解により形成されるが、固体として本発明による電気化学装置中に充填することもできかつ充電、放電及び作動時に、通常では300〜400℃の範囲内の温度で、液状の、溶融した状態で、つまり融液状で存在する。
【0025】
リチウム、ナトリウム及びカリウム、好ましくはナトリウム、カリウム、殊にナトリウムからなる群から選択される融液状のアノード材料は、通常ではアノード空間と接続されていてかつ本来の電気化学セルの外側に存在する容器中に保管される。電気化学セルの放電された状態で、この貯蔵容器は、一般に実際に空であり、かつこの電気化学セルの充電された状態で、この貯蔵容器は、一般に実際に満杯である。
【0026】
この融液状のアノード材料は、通常では、外部の回路と、通常では適切な集電装置を介して電気接続している。
【0027】
融液状のカソード材料用の空間と、融液状のアルカリ金属アノード材料用の空間とを隔てている固体電解質は、通常では多結晶のセラミック材料であり、このセラミック材料は、アルカリ金属アノード材料に相当するアルカリ金属イオンに対して、好ましくはリチウムイオン又はナトリウムイオン又はカリウムイオンに対して、特に好ましくはナトリウムイオン又はカリウムイオンに対して、殊にナトリウムイオンに対してイオン伝導性を示す。
【0028】
良好に適した多結晶のセラミック材料は、酸化アルミニウム単位及びアルカリ金属酸化物単位を含み、このアルカリ金属酸化物単位のアルカリ金属、好ましくはリチウム又はナトリウム又はカリウム、特に好ましくはナトリウム又はカリウム、殊にナトリウムは、これらのイオンに対して伝導性であるように意図される。
【0029】
アルカリ金属アノード材料がリチウムである本発明による電気化学装置について、例えば固体電解質として、次の材料:リチウムドープしたペロブスカイト、一般式Li
2+2xZn
1-xGeO
4のLISICON型の化合物、Li−ベータ−酸化アルミニウム、ガーネット構造を示すリチウムイオン伝導性の固体電解質、例えばWO 2009/003695 A又はWO 2005/085138 Aに記載されたような固体電解質が挙げられる。
【0030】
アルカリ金属アノード材料がカリウムである本発明による電気化学装置について、例えば次の材料:β″−Al
2O
3構造を示す固体の、多結晶のカリウムイオン伝導体、例えばEP 1 672 098 A2中に、特にその段落[0013]、[0016]〜[0019]及び関連する実施例に記載されている及びこの開示がここで明確に採り入れられているカリウムイオン伝導体が挙げられる。
【0031】
アルカリ金属アノード材料がナトリウムである本発明による電気化学装置について、好ましくはナトリウム含有酸化アルミニウムが挙げられる。ナトリウム含有酸化アルミニウムは、「アルミン酸ナトリウム」とも言われ、公知である。当業者間でも及び文献中でもβ−酸化アルミニウム又はβ−Al
2O
3と言われ、例えばUllmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、第6巻、2000 Electronic Release, Wiley、見出し語:「酸化アルミニウム」1.6の箇所を参照。アルミン酸ナトリウム中のNa
2O:Al
2O
3のモル比は、通常では1:1〜1:11の範囲内にある。
【0032】
β−酸化アルミニウムの概念は、当業者間で及び文献中で、殊に、理想的な空間群P6
3/mmcの六方晶結晶構造を示すアルミン酸ナトリウムについて使用される。
【0033】
しかしながら理想的な空間群R/3mの六方晶結晶構造を示すアルミン酸ナトリウムは、β″−酸化アルミニウムと言われる。
【0034】
以後、β−酸化アルミニウムもβ″−酸化アルミニウムも含み、後者のβ″−酸化アルミニウムを優先して含む「ベータ−酸化アルミニウム」の概念を使用する。更に、ここで使用されるベータ−酸化アルミニウムの概念は、β−酸化アルミニウム及びβ″−酸化アルミニウムからなるあらゆる混合物又は相混合物、好ましくはβ″−酸化アルミニウムの割合が90質量%より多い、特に好ましくは95質量%より多い混合物又は相混合物を含む。
【0035】
固体電解質、好ましくはベータ−酸化アルミニウムの形状は極めて多様で、例えば多角形の、平坦な成形体又は多角形又は円形又は楕円形の横断面形状を有する中実のロッド又はあらゆる横断面形状の、例えば長方形、正方形、多角形、楕円形、円形の横断面形状の、閉じていないか又は片側が閉じていてもよい長い中空成形体であることができる。
【0036】
良好に適した固体電解質成形体は、例えばあらゆる横断面形状の、例えば正方形、長方形、多角形、楕円形、円形の横断面形状のロッドであり、好ましくはこのロッドは円柱状の形状を示す。更に好ましくは、固体電解質成形体として、あらゆる横断面形状の、例えば正方形、長方形、多角形、楕円形、円形の横断面形状の長い中空体、特に好ましくは円柱状の成形体、つまり管であり、この管は、両側が開放しているか又は好ましくは片側が閉じていることができる。
【0037】
更に特に好ましくは、固体電解質としては、好ましくはベータ−酸化アルミニウム固体電解質は、片側が閉じた円柱状の管である。
【0038】
本発明による電極ユニットの1つの構成要素は、多孔質固体電極である。この多孔質固体電極は、一般に、導電性(電子伝導性)であり、先に詳細に記載されているカソード材料用の空間内で、固体電解質に直接隣接して存在する。通常では、この多孔質固体電極は、通常では、先に詳細に記載されている融液状のカソード材料並びに外部回路と、通常では適切な集電装置を介して電気接続している。
【0039】
通常では、多孔質固体電極は、更に、先に詳細に記載されている融液状のカソード材料に対して実質的に耐久性である。実質的に耐久性とは、この関連で、多孔質固体電極を形成する材料が、融液状のカソード材料と、分解又は腐食しながら、化学的又は電気化学的に反応しないことを意味する。
【0040】
多孔質固体電極用の材料として良好に適しているのは、例えば無定型炭素、黒鉛、ガラス状炭素(英語では「vitreous carbon」とも言われる)、好ましくは黒鉛フェルト、黒鉛フォーム(英語では「vitreous carbon foam」とも言われる)である。特に黒鉛フェルトが好ましく、これは公知であり、例えばJ.L. Sudworth, A.R. Tilley著、「The Sodium Sulfur Battery」、Chapman and Hall Ltd.、1985 (ISBN 0412 164906)、5.3.1章及び5.3.2章、第159〜164頁に記載されている。
【0041】
多孔質固体電極用の材料、好ましくは黒鉛又は黒鉛フェルトは、上述の融液状の多硫化物によって、溶融した単体硫黄によるよりも良好に濡れるように部分的に又は完全に変性されていてもよい。例えば、多孔質固体電極用の材料、好ましくは黒鉛又は黒鉛フェルトは、このために、例えばUS 4,084,041に記載されているように、元素の周期表の1、2又は3族の硫化物又は酸化物、例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)で、部分的に又は完全に含浸される。
【0042】
多孔質固体電極は、カソード材料用の空間を完全に又は部分的に満たすことができる。好ましくは、多孔質固体電極は、カソード材料用の空間を部分的に満たし、つまり固体電解質に直接隣接し、単にこの固体電解質から、空間的に、後に詳細に記載されている電子伝導性でない中間層Sによって隔てられているため、通常では次の構造を生じる:固体電解質/中間層S/多孔質固体電極、例えば:ベータ−酸化アルミニウム固体電解質/電子伝導性でない中間層S/黒鉛フェルトからなる多孔質固体電極。
【0043】
多孔質固体電極、好ましくは黒鉛又は黒鉛フェルトは、カソード材料側の固体電解質の表面を、通常では完全に又は部分的に、例えばその表面の50〜100%、好ましくは90〜100%を覆い、この場合、固体電解質の底部領域、例えば片側が閉じた円柱状の管の底部は、通常ではこの計算に含まれない。
【0044】
電子伝導性でない中間層Sの形成のために、
本発明に従って、硫化物化合物を収容する材料(ここでは「出発材料」とも言われる)は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、二酸化ケイ素、例えばガラス繊維、アルミニウムとケイ素との混合酸化物、ケイ酸塩及びアルミノケイ酸塩から選択される。これらの材料は、通常の条件下で、例えば25℃で1atmで、実際に導電性を示さない。
【0045】
電子伝導性ではない中間層S用の出発材料並びに電子伝導性でない中間層S自体は、一般に、(i)50〜99.99%、好ましくは80〜99%、特に好ましくは90〜95%の範囲内の連続気孔で(この場合、この連続気孔は次のように計算される:1−(試験体の嵩密度/試験体を形成する材料の密度)×100)で及び(ii)光学顕微鏡の方法により測定して、通常では1〜10マイクロメートルの範囲内の平均細孔直径で、通常では多孔性である。
【0046】
通常では、電子伝導性でない中間層Sの基材は、上述のような材料から選択される、好ましくは酸化アルミニウムからなる繊維、例えばSaffil社のSaffil(登録商標)、及び/又は二酸化ケイ素からなる繊維、例えばガラス繊維から選択される平坦な構造物、例えば織物、フェルト又はマットである。
【0047】
本発明の場合に、電子伝導性でない中間層Sの厚さは
、0.5〜5mm、好ましくは1.0〜3mm、特に好ましくは1〜2mmの範囲内である。
【0048】
電子伝導性でない中間層Sは、多孔質固体電極と固体電解質との間に配置されていて、実際に固体電解質表面に対して接している。
【0049】
電子伝導性でない中間層Sは、通常では実際に、固体電解質の側の、固体電極の全体の面を覆う。
【0050】
電子伝導性でない中間層Sは、電気化学装置の最初の充電の前に、(A)純粋な多硫化物Met
2S
x[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択されるアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属、殊にナトリウムであり、xは、アルカリ金属に依存して、かつ、Naの場合に2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8、好ましくは3、4、5、6、7又は8であり、Kの場合に2、3、4、5、6、好ましくは3、4又は5、殊に5である
]又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の混合物を含む、アルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の多硫化物組成物で完全に含浸される。この本発明による多硫化物組成物は、好ましくは電子伝導性でない中間層Sの全体にわたって均質に分配されている。
【0051】
一般に、電子伝導性でない中間層Sは、電気化学装置の最初の充電の後でも、例えば電気化学装置の作動又は放電又は再充電の間でも、本発明による多硫化物組成物を含む。
【0052】
本発明による多硫化物組成物を含む中間層Sを形成するため良好に適した方法は、上述したような電子伝導性でない中間層S用の出発材料、例えば酸化アルミニウム繊維及び/又はSaffil(登録商標)繊維の含浸である。好ましくはこの含浸は、実際に水不含でかつ実際に酸素不含で又は酸化しない条件下で行われる。
【0053】
本発明による多硫化物組成物を含む中間層Sを形成するための好ましい方法の場合に、次のように行う:
中間層S用の出発材料、例えば酸化アルミニウム繊維及び/又はSaffil(登録商標)繊維を、好ましくは1枚の紙に似た構造物の形で、固体電解質のカソード空間側の表面に、例えばここに記載された片側が閉じた円柱状の管のカソード空間側の表面に被着させ、上述の円柱状の管の場合には、巻き付けにより被着させる。こうして準備された電極ユニット又は固体電解質を備えた電気化学装置を組み立て、かつカソード空間内に、例えばその中に存在するガスの少なくとも一部をポンプ排気することにより負圧を生じさせ;それによりカソード空間中の圧力は、例えば10〜20mbar(絶対圧)となる。次いで、通常では融液の形の、アノード材料を形成する本発明によるアルカリ金属の多硫化物組成物を、減圧下に保たれたカソード空間内へ、好ましくは貯蔵容器から送り込む。この場合、通常では、本発明による多硫化物組成物は、貯蔵用器中ではまず、カソード空間内の圧力よりも高い圧力下にある。好ましい本発明による多硫化物組成物は、例えば(i)純粋な多硫化物Na
2S
x(式中、xは2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4又は5である)又は(ii)(i)からの多硫化物の混合物である。
【0054】
この措置は、一般に、電子伝導性でない中間層S及び多孔質固体電極の完全な含浸を引き起こし、この場合、「完全な」とは上述の定義と同様である。この通常では「最初の充填」といわれるコンディショニングの後に、本発明による電気化学装置は、通常では、電流の供給又は電圧の印加によって充電することができる。
【0055】
本発明による電極ユニット及びこの電極ユニットを有する本発明による電気化学装置の良好に適した実施形態を次に記載する。
【0056】
ここでは、固体電解質は、ベータ−酸化アルミニウムからなる円柱状の、片側が閉じた管、例えば20〜60mmの範囲内の内径及び0.05〜2mの範囲内の長さ、例えば0.5〜2mの範囲内の長さ、0.5〜3mmの範囲内の壁厚の管である。この固体電解質の内部には、この実施形態の場合に、融液状のアルカリ金属アノード材料のナトリウムが存在する。
【0057】
この円柱状の、片側が閉じた固体電解質の外側には、この実施形態の場合に、好ましくは酸化アルミニウムの繊維、例えばSaffil社のSaffil(登録商標)又は二酸化ケイ素の繊維、例えばガラス繊維からなる電子伝導性でない中間層Sが存在し、この中間層Sは、最初の充電の前に、好ましくは(i)純粋な多硫化物Na
2S
x[式中、xは、2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4である]又は(ii)(i)からの多硫化物の混合物を含む。この電子伝導性でない中間層Sの厚さは、この実施形態の場合に、通常では0.5〜5mm、好ましくは1.0〜3mm、特に好ましくは1〜2mmの範囲内である。この中間層Sに続いて、円柱状の、片側が閉じた電解質の外側を取り囲み、上述したような多孔質固体電極があり、この多孔質固体電極の材料は上述されていて、好ましくは黒鉛又は黒鉛フェルトである。
【0058】
多孔質固体電極は、一般に及びこの実施形態の場合に、電子伝導体、例えば集電装置を介して又は電気化学装置の金属製のセルハウジング自体を介して、外部回路に接続されている。
【0059】
多孔質固体電極は、通常では及びこの実施形態の場合に、一般に金属から、例えば特殊鋼から作製された装置、例えばカソード空間の金属製容器壁により取り囲まれる。
【0060】
本発明による電極ユニット及び本発明による電気化学装置の先に記載の良好に適した実施形態は、例えば
図1に示されていて、この
図1中の符号は次の意味を有する:
1 ディスプレーサ体
2 多孔質固体電極、例えば黒鉛フェルト
3 固体電解質、例えばベータ−酸化アルミニウム
4 カソード空間、例えば融液状の多硫化ナトリウム及び硫黄を有するカソード空間
5 アノード空間、例えば融液状のナトリウム金属を有するアノード空間
6 集電装置
7 中間層S、例えば本発明による多硫化物組成物を含浸したSaffil(登録商標)
8 セルハウジング
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本発明による電極ユニット及び本発明による電気化学装置の実施形態を示す図。
【0062】
本発明の主題は、本発明による電極ユニット中の、電子伝導性でない中間層Sの製造方法でもあり、この場合、電子伝導性でない中間層Sを形成する多孔質の出発材料を、1atm未満の、例えば10〜20mbar(絶対圧)の圧力に曝し、かつこの出発材料を溶融した本発明による多硫化物組成物で含浸する。この場合、電子伝導性でない中間層S用の好ましい出発材料は、好ましくは平面形状の、例えば織物、フェルトなどとしての酸化アルミニウム繊維及び/又はSaffil繊維である。この場合、好ましい本発明による多硫化物組成物は、例えば(i)純粋な多硫化物Na
2S
x(式中、xは2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4又は5である)又は(ii)(i)からの多硫化物の混合物である。
【0063】
本発明による電極ユニット中の、電子伝導性でない中間層Sの、この種の良好に適した製造方法は、次のように実施される:
電子伝導性でない中間層S用の出発材料を、固体電解質のカソード空間側の表面に被着する。次いで、固体電極を中間層Sに被着する。こうして準備された電極ユニット又は固体電解質を備えた電気化学装置を組み立て、カソード空間内に負圧を、例えば10〜20mbar(絶対圧)を生じさせる。次いで、通常では融液の形の、アノード材料を形成するアルカリ金属の本発明による多硫化物組成物を、減圧下に保たれたカソード空間内へ送り込む。好ましい本発明による多硫化物組成物は、例えば(i)純粋な多硫化物Na
2S
x(式中、xは2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4又は5である)又は(ii)(i)からの多硫化物の混合物である。
【0064】
本発明による電極ユニット中の、電子伝導性でない中間層Sの製造方法の一実施形態を、次に記載する:
電子伝導性でない中間層S用の出発材料、例えば酸化アルミニウム繊維及び/又はSaffil(登録商標)繊維を、好ましくは1枚の紙に似た構造物の形で、好ましくはベータ−酸化アルミニウムからなる固体電解質のカソード空間側の表面に、例えばここに記載された片側が閉鎖された円柱状の管のカソード空間側の表面に被着させ、上述の円柱状の管の場合には、巻き付けにより被着させる。次いで、好ましくは黒鉛フェルトからなる固体電極を、この中間層Sに被着させる。こうして準備された電極ユニット又は固体電解質を備えた電気化学装置を組み立て、かつカソード空間内に、例えばその中に存在するガスの少なくとも一部をポンプ排気することにより負圧を生じさせ;それによりカソード空間中の圧力は、例えば10〜20mbar(絶対圧)となる。次いで、通常では融液の形の、アノード材料を形成するアルカリ金属の本発明による多硫化物組成物を、減圧下に保たれたカソード空間内へ、好ましくは貯蔵容器から送り込む。この場合、通常では、本発明による多硫化物組成物は、貯蔵用器中ではまず、カソード空間内の圧力よりも高い圧力下にある。好ましい本発明による多硫化物組成物は、この場合、例えば(i)純粋な多硫化物Na
2S
x(式中、xは2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4又は5である)又は(ii)(i)からの多硫化物の混合物である。
【0065】
この措置は、一般に、中間層S及び多孔質固体電極の完全な含浸を引き起こし、この場合、「完全な」とは上述の定義と同様である。この通常では「最初の充填」といわれるコンディショニングの後に、電気化学装置は、通常では、電流の供給又は電圧の印加によって充電することができる。
【0066】
本発明の主題は、本発明による電極ユニットを含む電気化学装置でもある。この電気化学装置は、電気エネルギー用の再充電可能な貯蔵装置(これは「蓄電池」又は「二次電池」とも言われる)又は例えばここで定義されたような相応する多硫化物からアルカリ金属Met
2S
xを製造するための電気分解セルであることができる。本発明による電気化学装置はここに記載されたような装置である。
【0067】
本発明による好ましい電気化学装置には、いわゆるナトリウム硫黄セル又はナトリウム硫黄バッテリーが挙げられる。これらは、例えばUllmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry、第4巻、D. Berndt, D. Spahrbier著、第7.2.2.2章、第608〜609頁、(2003)に記載されている。
【0068】
本発明によるナトリウム硫黄セルの実施態様は、次のように構成されていて(実施態様1)かつ例えば
図1に示されていて、ここで符号は上述の意味を有する:
固体電解質は、上述のような材料、好ましくはベータ−酸化アルミニウムからなる、上述のような円柱状の、片側が閉じた管である。
【0069】
実施態様1中のアノード空間は、円柱状の、片側が閉じた固体電解質管の内部であり、この内部に融液状のアルカリ金属アノード材料のナトリウムが存在する。大量の融液状のアルカリ金属アノード材料のナトリウムは、通常ではアノード空間と接続されていてかつ本来の電気化学セルの外側に存在する容器内に保管される。電気化学セルの放電された状態で、この貯蔵容器は、一般に実際に空であり、かつこの電気化学セルの充電された状態で、この貯蔵容器は、一般に実際に満杯である。通常では、円柱状の、片側が閉じた管の内部に、融液状のナトリウムの他に、円柱状の、片側が閉じた電解質管とは似ているがより小さい寸法を有する中実又は中空の円柱体(「ディスプレーサ」、
図1の符号1)が同軸に配置されているため、電解質の内壁とディスプレーサの外壁との間に環状の間隙が形成され、この環状の間隙中に、融液状のアルカリ金属アノード材料のナトリウムが存在する。通常、ディスプレーサは金属、例えばアルミニウム、鋼、特殊鋼又は他の、記載されたアルカリ金属に対して耐性の金属から製造されている。
【0070】
実施形態1のカソード空間は、円柱状の、片側が閉じた固体電解質管の外側表面に始まりかつ例えば鋼、特殊鋼、クロムめっきされたアルミニウム又は他の、好ましくは耐腐食性の材料からなるハウジングにより、例えば
図1に図示されているように、外側に向かって区切られている(符号8)。
【0071】
円柱状の、片側が閉じた固体電解質管の外側表面に、上述のように、まず電子伝導性でない中間層Sが、その上に多孔質固体電極が、例えば
図1では符号2(多孔質固体電極)及び符号7(電子伝導性でない中間層S)示されているように被着されている。
【0072】
実施態様1の融液状のカソード材料は、(A)純粋な多硫化物Na
2S
x[式中、xは、2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4である]又は(B)互いに(A)の中からの多硫化物の、及び/又はそれぞれ単体硫黄との混合物又は(C)Na
2Sと、単体硫黄及び/又は(A)又は(B)で挙げられた多硫化物Na
2S
xとの混合物から選択される。
【0073】
実施態様1の好ましい融液状のカソード材料は、単体硫黄だけであるか又はこれと上述の多硫化物Na
2S
xの1種以上との組み合わせである。
【0074】
融液状のカソード材料も、融液状のアノード材料も、通常では回路に導電性に接続されている。
【0075】
実施態様1は、いわゆる「ナトリウムセンター型セル(Central Sodium Cell)」であり、この場合、アノード材料のナトリウムが固体電解質の内部にあり、かつ実施態様
1では上述した融液状のカソード材料はこの電解質を取り囲む。
【0076】
本発明によるナトリウム硫黄セルの別の実施態様(実施態様2)は、融液状のカソード材料を有するカソード空間は、実施態様1に記載されているように、固体電解質の内部にあり、通常ではディスプレーサを有しない他は、実際に実施多様1と類似に構成されている。融液状のナトリウムを有するアノード空間は、実施態様2の場合には電解質を取り囲み、かつ金属ハウジングによって区切られる。実施態様2は、いわゆる「硫黄センター型セル(Central Sulfur Cell)」である。
【0077】
本発明の意味範囲で、実施態様1、つまりナトリウムセンター型セルが好ましい。
【0078】
本発明による電気化学装置は、通常では300〜400℃の範囲内の温度で作動される。
【0079】
本発明による電気化学装置、好ましくは実施態様1の電気化学装置は、通常では蓄電池であるが、電気分解セルとしても使用することができる。
【0080】
本発明による電気化学装置を電気分解セルとして使用する場合、通常では、カソード空間中にアルカリ金属硫化物Met
2S及び/又はアルカリ金属多硫化物Met
2S
xを場合により単体硫黄と組み合わせて、それぞれここに記載されたかつ定義されたように装入する。固体電解質は、相応するアルカリ金属イオンに対してイオン伝導性を示し、かつアノード空間は、回路を介してカソード空間に導電性に接続されている。
【0081】
回路中に組み込まれた電源は、通常では、本発明による電気化学装置を通して電流を供給し、かつカソード空間内で、アルカリ金属硫化物Met
2S及び/又はアルカリ金属多硫化物Met
2S
x(ここに記載及び定義されたようなMet
2S及びMet
2S
x[式中、好ましくは、Metはアルカリ金属としてリチウム、ナトリウム、カリウムを表す])を、相応する単体のアルカリ金属に、アノード空間内で硫黄を析出させながら分解する。
【0082】
本発明の主題は、ここに定義されているような電気化学装置を最初に充電する方法において、融液状のカソード材料用の空間内に、(A)純粋な多硫化物Met
2S
x[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択される所望のアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属、殊にナトリウムであり、かつxは、アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8、好ましくは3、4、5、6、7又は8であり、Kの場合に2、3、4、5、6、好ましくは3、4又は5、殊に5である]、又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の、及び/又はそれぞれ単体硫黄との混合物、又は(C)それぞれのアルカリ金属硫化物Met
2Sの、単体硫黄及び/又は(A)又は(B)で挙げられた多硫化物Met
2S
xとの混合物を含む多硫化物化合物(I)を融液として装入し、更に、融液状のアノード材料用の空間内に、電子伝導性の装置が、固体電解質のアノード材料側の表面に少なくとも下方領域で接触するように、電子伝導性の装置を設置し、カソード空間及びアノード空間を電気回路に接続し、かつ電気化学装置を通して電流を供給して、多硫化物化合物(I)を電離させ、カソード空間中に単体硫黄を生じさせかつアノード空間中に金属のアルカリ金属を生じさせることを特徴とする電気化学装置を最初に充電する方法でもある。
【0083】
蓄電池としての本発明による化学装置の作動時に、ここに記載されたように、融液状のアルカリ金属アノード材料が収容される空間内に、電子伝導性の装置が、電解質の、アノード材料側の表面と少なくとも下方領域で接触し、かつ電気接続が形成されるように電子伝導性の装置が取り付けられている。この装置は、例えば上述のディスプレーサであってもよく、このディスプレーサはその表面の少なくとも一部に、導電性の、通常では金属製の、例えば特殊鋼又はアルミニウムからなるばね部材が取り付けられ、このばね部材は固体電解質の内側表面と接触する。
【0084】
この固体電解質は、多硫化物化合物(I)の相応するアルカリ金属イオンに対してイオン伝導性を示す。
【0085】
アノード空間は、回路を介してカソード空間と導電性に接続されているので、回路内に配置されている電源は、本発明による電気化学装置を通して電流を供給して、多硫化物化合物(I)は電気分解され、その際、カソード空間中には単体硫黄が生じ、かつアノード空間中には金属のアルカリ金属、好ましくはナトリウムが生じる。これにより、通常では電気化学セルは充電される。
【0086】
本発明による電気化学装置の最初の充電並びに後の作動は、通常では、300〜400℃の範囲内の温度で実施される。
【0087】
このように最初に充電された本発明による電気化学装置は、蓄電池として機能することができかつ電気エネルギーを消費者に送り出すことができる。この電気化学装置が放電された後、この電気化学装置は、上述のように、再度充電することができる。
【0088】
最初に充電する方法のための、好ましい電気化学装置は、実施態様1としての、例えば
図1に示された上述の本発明によるナトリウム硫黄セルである。電気化学装置を最初に充電するための好ましい方法は、次の相違点と共に、上述のように実施される:
固体電解質は、ベータ−酸化アルミニウムからなる、上述のような、円柱状の、片側が閉じた管である。
【0089】
アノード空間は、円柱状の、片側が閉じた管の内部であり、この内部にセルの充電時に融液状のアルカリ金属アノード材料のナトリウムが形成される。
【0090】
電子伝導性の装置は、円柱状の、片側が閉じた管の内部に、この円柱状の片側が閉じた管と似ているが小さい寸法の中実の又は中空の円柱体(「ディスプレーサ」、
図1中の符号1)の形で、固体電解質の内壁とディスプレーサの外壁との間に環状の間隙が形成され、かつディスプレーサが固体電解質の内面に、少なくとも下方領域で、少なくとも一点で、例えばばねエレメントを介して電気接続が形成されて接触するように同軸に配置されている。通常、ディスプレーサは金属、例えばアルミニウム、鋼、特殊鋼又は他の、アルカリ金属に対して耐性の金属から製造されている。
【0091】
実施形態1のカソード空間は、円柱状の、片側が閉じた管の外側表面に始まりかつ例えば鋼、特殊鋼、クロムめっきされたアルミニウム又は他の、好ましくは耐腐食性の材料からなるハウジングにより、例えば
図1に図示されているように、外側に向かって区切られている(符号8)。
【0092】
固体電解質の、円柱状の、片側が閉じた管の外側表面に、上述のように、まず電子伝導性でない中間層Sが、更にその上に多孔質固体電極が、例えば
図1では符号2(多孔質固体電極)及び符号7(電子伝導性でない中間層S)で示されているように被着されている。
【0093】
融液状のカソード材料は、(A)純粋な多硫化物Na
2S
x[式中、xは、2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4である]又は(B)互いに(A)の中からの多硫化物の、及び/又はそれぞれ単体硫黄との混合物又は(C)Na
2Sと、単体硫黄及び/又は(A)又は(B)で挙げられた多硫化物Na
2S
xとの混合物から選択される。好ましい融液状のカソード材料は、上述の成分(A)又は(B)である。
【0094】
融液状のカソード材料も融液状のアノード材料も、回路に導電性に接続されている。
【0095】
本願の主題は、(i)融液状のカソード材料用の空間と、融液状のアルカリ金属アノード材料用の空間とを隔てる固体電解質、並びに(ii)電子伝導性でない中間層Sにより前記固体電解質と隔てられている多孔質固体電極を有する電気化学装置用の電極ユニット内での、電子伝導性でない中間層Sの使用において、中間層Sは、
0.5〜5mmの範囲内の厚さを有し、かつ、電気化学装置の最初の充電の前に、(A)純粋な多硫化物Met
2S
x[式中、Metは、リチウム、ナトリウム、カリウムから選択されるアルカリ金属アノード材料のアルカリ金属、殊にナトリウムであり、かつxは、アルカリ金属に依存し、かつNaの場合に2、3、4又は5、好ましくは3、4又は5、殊に4であり、Liの場合に2、3、4、5、6、7、8、好ましくは3、4、5、6、7又は8であり、Kの場合に2、3、4、5、6、好ましくは3、4又は5、殊に5である
]又は(B)互いに(A)の中からの1種の同じアルカリ金属の多硫化物の混合物を含む、アルカリ金属アノード材料を形成するアルカリ金属の多硫化物組成物で完全に含浸されていることを特徴とする使用でもある。
【0096】
本発明の利点は、本発明による電気化学装置中で、固体電解質の破壊又は損傷の際に、殊にバッテリーの充電状態で、液体ナトリウムが液体硫黄と、例えば高温で、例えば300〜400℃で直接接触し、かつ、殊に電解質の破壊又は損傷の箇所で直接、強い発熱反応が起き、この強い発熱反応が、例えばセル内での急速な圧力上昇と共に硫黄の急激な蒸発を引き起こし、この場合、このセルは損傷又は破壊され、周囲環境と激しく反応しかねず、かつそれにより最終的には他のセルを又はそれどころかバッテリー全体を損傷するか又は破壊しかねないセルの内容物が放出されることを抑制又は低減し、この場合、損傷のない本発明による電気化学装置の内部抵抗は、電子伝導性でない中間層Sにもかかわらず低く保たれることである。
【0097】
実施例
実施例1:比較のため
充電状態での、中間層Sなしのナトリウム硫黄セルの意図的な破壊
通常のナトリウム硫黄セル(ナトリウムセンター型セル)を、ベータ″−酸化アルミニウムからなる、内径5.6cm、壁厚0.2cm及び長さ50cmの円柱状の、下側が閉じた電解質から構築し、この電解質中に軸中心に、特殊鋼1.440からなる中実の円柱状のディスプレーサ体(直径5.5cm、長さ45.5cm)が存在し、このディスプレーサ体の外側表面と固体電解質の内側表面との間に環状の間隙が形成され、この場合、この環状の間隙はアノード空間であった。固体電解質の外側表面に直接、5mmの厚さの層の黒鉛フェルト電極及びこの電極の電気接続のための装置、つまり集電装置が存在していた。この電極ユニット/固体電解質は、実際に中心軸に、内径10.8cmの特殊鋼からなる円柱状の金属ハウジング中に収容されていて、かつ固体電解質の外側表面と金属ハウジングとの間の空間は、カソード空間であった。
【0098】
このセルを300℃に加熱した。このカソード空間は、真空ポンプを用いて排気し、次いで、約5kgの融液状の硫黄を充填した。このアノード空間は、負圧下にはなく、かつオーバーフローシステムによって外部の貯蔵容器から溶融したナトリウム45gが充填された。温度及び圧力用の測定箇所を、カソード空間内の多様な箇所に配置した。金属ハウジングの底部には、T字型の導管を取り付け、その垂直方向の脚部には、10barの過圧で破裂する破裂板が存在していた。この導管の水平方向の遮断可能な脚部は、硫黄をカソード空間に充填するために利用した。
【0099】
液圧ポンプで、この条件下でナトリウムに対して実際に不活性の高沸点油を、液体ナトリウムで実際に完全に充填されたアノード空間内へ圧送し、それにより固体電解質の内側表面にも圧力をかけた。約80barの圧力で、電解質は破断により破壊された。固体電解質の破壊の際にナトリウムと硫黄とが直接接触し、熱及び圧力の形成下で激しく反応した。
【0100】
このセルの上部の温度は、固体電解質の破壊後の最初の数秒の間に、1200℃を越えるまで上昇した。セル内のいくつかの箇所での突然の温度上昇により、ミリ秒の範囲内で、10barの局所的な圧力が生じるほどの大量の硫黄の蒸発が生じた。それにより、最初の数秒の間にセル内の全体の圧力は、破裂板が破壊される少なくとも11barの圧力に達した。
【0101】
実施例2:本発明による
充電状態での、中間層Sありのナトリウム硫黄セルの意図的な破壊
試験構造は、実施例1と同様であったが、固体電解質の外側表面に、Saffil社のSaffil(登録商標)Paperとして市販されている、フェルト状にされた多結晶酸化アルミニウム繊維からなる1mmの厚さの層が存在した。この層に直接、5mmの厚さの黒鉛フェルト電極の層が取り付けられ、この層は、この電極の電気接続のための装置を備えていた。
【0102】
このセルを300℃に加熱した。カソード空間は、真空ポンプを用いて約20mbar(絶対圧)の圧力にされ、次いで約5kgの融液状のNa
2S
5(五硫化二ナトリウム)を充填し、従って、中間層S及び多孔質固体電極はNa
2S
5で含浸された。窒素で充填されたアノード空間中に、まず(試験の開始時に)ナトリウムは存在しない;次いで、セルを通して電流を供給しかつこの五硫化二ナトリウムを電気化学的に分解することにより、ナトリウムで充填された。このようにして、セルは充電された。
【0103】
温度及び圧力用の測定箇所を、カソード空間内の多様な箇所に配置した。
このセルは、80%まで充電され、つまり、開始時に充填された五硫化二ナトリウム(Na
2S
5)の80%が電気化学的に、単体ナトリウム及び単体硫黄に反応されていた。
【0104】
固体電解質を、次いで、80barの液圧で、上述の実施例1に記載されたように破壊し、この場合、あまり激しい反応は観察されなかった。
【0105】
セル内部の温度上昇は、数分にわたりゆっくりと進行し、わずかな箇所でだけ約470℃に達した。この圧力は、セル内部で、1分間で0.6bar(絶対圧)に上昇しただけであり、破裂板は損なわれなかった。セル内での圧力上昇は、相変わらずナトリウム硫黄セルの通常の作動圧力の範囲内であった。
【0106】
この試験によって、中間層Sは、ナトリウム硫黄セルの電解質の破壊時に、制御できない爆発的な反応を妨げ、それによりこのようなセルの安全性を高めることを示した。