特許第6671343号(P6671343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6671343水溶液中のルテニウム吸着剤、及び水溶液中のルテニウムの吸着処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671343
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】水溶液中のルテニウム吸着剤、及び水溶液中のルテニウムの吸着処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20200316BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20200316BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20200316BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20200316BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C22B11/00 101
   C22B3/24
   B01J20/06 A
   B01J20/06 B
   B01J20/28 Z
   B01D15/00 N
【請求項の数】20
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-507501(P2017-507501)
(86)(22)【出願日】2016年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2016001635
(87)【国際公開番号】WO2016152141
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2019年2月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-60857(P2015-60857)
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591110241
【氏名又は名称】クラリアント触媒株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 直仁
(72)【発明者】
【氏名】金 賢中
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貴志
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−227820(JP,A)
【文献】 特開2010−058008(JP,A)
【文献】 門馬俊子ら ,二酸化マンガンなどによる海水中の放射性核種の捕集について,RADIOISOTOPES,日本,公益社団法人日本アイソトープ協会,1967年 2月15日,第16巻, 第2号,p.68-72
【文献】 吉成知博ら,マンガン酸化物担持Ru触媒による一酸化炭素の水素化反応,石油学会誌,日本,公益社団法人石油学会,1989年 9月 1日,第32巻, 第5号 ,p.248-254
【文献】 沖中秀行ら,Fe−Mn−O系平衡状態図,粉体および粉末冶金,日本,一般社団法人粉体粉末冶金協会,1968年10月25日,第15巻, 第6号,p.295-301
【文献】 長岡優輝ら,二酸化マンガンの結晶構造がホルムアルデヒドの常温酸化分解に及ぼす影響,室内環境,日本,一般社団法人室内環境学会,2015年 6月 1日,第18巻, 第1号,p.27-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/00
C22B 3/24
B01J 20/06
B01J 20/28
B01D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マンガン(但し、ε−MnOおよび/またはγ−MnOからなるMnOは除く)を主成分とし、さらに遷移金属元素として銅、または、無機バインダーとして酸化アルミニウムを含む、水溶液中のルテニウム吸着剤。
【請求項2】
水溶液中のルテニウムの形態がルテニウムカチオン、ルテニウム錯イオン、ルテニウム酸イオンのいずれか一種類以上である請求項1の吸着剤。
【請求項3】
酸化マンガンが非晶質および/または層状構造および/またはトンネル構造を持つ、請求項1または2の吸着剤。
【請求項4】
トンネル構造を持つ酸化マンガンにあってはトンネルを囲むMnO八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上であるマンガン酸化物を含む請求項1〜3のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項5】
酸化マンガンが非晶質および/またはα−MnOおよび/またはδ−MnOを有する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項6】
酸化マンガンが非晶質および/またはα−MnOを有し、水溶液中のルテニウムの形態がルテニウムカチオンである、請求項1〜5のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項7】
マンガンの含有量が、二酸化マンガンに換算して、吸着剤100重量部を基準として50重量部以上である、請求項1〜6のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項8】
遷移金属元素が酸化物の形態にある、請求項1〜7のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項9】
酸化マンガンと遷移金属元素が、酸化マンガンと遷移金属元素酸化物の物理的混合物の形態で存在する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項10】
酸化マンガンと遷移金属元素が複合酸化物の形態で存在する、請求項1〜9のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項11】
酸化マンガンと遷移金属酸化物の重量比が、酸化マンガンを二酸化マンガンに換算して、1:0.001〜1:1である、請求項1〜10のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項12】
酸化マンガンと遷移金属元素のモル比が、1:0.001〜1:1である、請求項1〜11のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項13】
70〜700m/gの比表面積を有する、請求項1〜12のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項14】
粉末の形態にある、請求項1〜13のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項15】
成形体の形態にある、請求項1〜14のいずれか1つに記載の吸着剤。
【請求項16】
水中の放射性ルテニウムを吸着除去するための、請求項1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤の使用。
【請求項17】
工業製品生産ラインおよび/または工業製品リサイクル工程で排出される排液から、ルテニウムを回収するための、請求項1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤の使用。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤を、放射性ルテニウム含有水と接触させることを含む、水から放射性ルテニウムを除去する方法。
【請求項19】
請求項1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤をルテニウム含有水(但し、ルテニウム酸イオン含有水を除く)と接触させ、ルテニウムを酸化して除去する方法。
【請求項20】
水が放射性ルテニウムを含む放射性元素で汚染された海水および/またはナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオンなどが含まれている水である、請求項18または19の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中のルテニウム(但し、水溶液中のルテニウムとはルテニウムカチオン、ルテニウム錯イオン、ルテニウム酸イオンの形態のいずれかを含む)を吸着し、回収・再利用、もしくは除去するための吸着剤、及びそれを用いた放射性元素に汚染された海水などを浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属資源の需要が高まっている。その中でも貴金属類は埋蔵量が少なく、供給量が制限されている中で、電子機器類、各種触媒などその需要が増加しているため、回収などして有効に利用するニーズが高まっている。貴金属の一種であるルテニウムについても、ハードディスク用材料、水素製造触媒などの用途が拡大しており、それらの生産ラインからの排液、もしくは工業製品のリサイクルラインから生じる金属溶解液からルテニウムを回収する技術の改良は重要な課題となっている。
【0003】
また原子力発電所事故により放射性元素が地下などを通して流出し、海洋を汚染していると言われ、その汚染の除去が極めて重要な課題となっている。放射性ルテニウムも流出した放射性元素中に含まれており、土壌中、もしくは海水中の放射性ルテニウムの除去・浄化が非常に重要な課題となっている。
【0004】
このような場合、ルテニウムは通常水溶液中でイオンとして存在する。ルテニウムの回収、もしくはルテニウム含有水の浄化のためにはルテニウムを選択的に吸着、濾過するか、もしくはルテニウムと選択的に反応する処理剤が必要とされる。特に、放射性ルテニウムの除去・浄化のためには極めて高い除去性能と、簡易な除去装置、安全かつ安価な吸着剤および/または処理剤が必要とされる。
【0005】
ルテニウムを含む貴金属の回収、除去方法については過去から多くの提案がなされている。例えば特許文献1には、ロジウム、パラジウム、ルテニウムなどの貴金属が担持された材料を加熱して、ペロブスカイト結晶構造を有する材料中に吸蔵させる方法が記載されている。この方法は、使用済自動車排ガス処理触媒から有用金属を回収する方法としては好ましいとしても、1000℃以上での加熱プロセスが必要なため、水中の貴金属イオンを回収・除去する用途への適応は困難である。
【0006】
特許文献2には、水溶液中のイオン交換樹脂もしくはキレート樹脂に金属イオンを吸着する方法が示されている。このようなイオン交換樹脂等を使用して吸着する方法は、吸着剤中の吸着サイトが少ないために、吸着剤体積当たりのルテニウム除去量が少ない。そのため、吸着剤に要するコストがかさむために、大量の処理水を処理しようとすると、ルテニウム吸着処理コストが高くなり、経済的に好ましくない。
【0007】
また特許文献3には、金属フェロシアン化合物を用いて水溶液中の放射性パラジウム、放射性ルテニウムを除去する方法が示されている。この方法は水溶液中のイオンを除去できる点で好ましいが、高温になるとフェロシアンが分解して有害なシアン化水素が発生する恐れがある。また、除去率も十分に高いものとは言えず、更には高pH水溶液中で分解して吸着済み放射性ルテニウムを放出し、除去率が低下する恐れがある。そのために吸着処理システムの管理が煩雑となり、また安全対策のためにシアン排水の処理が必要となる。
【0008】
特に除去対象が、放射性元素により汚染された土壌の洗浄水、海水等である場合には、それらは通常ルテニウム濃度が低く、且つ大量の処理を必要とされる場合が多いため、放射性元素の除去には少量で非常に高い除去性能、低コスト化が求められる。除去率については例えば原子炉爆発などで飛散したストロンチウム等の放射性元素は、その影響の深刻さから浄化後の最終除去率として、99%以上もしくは99.9%以上の除去率が必要とされている。
【0009】
また、原子炉からの排水処理の場合の大きな別の問題点として、ルテニウムが種々の構造として存在する可能性がある。非特許文献1に示されるように、放射性ウランから核分裂する過程において、どのような水溶液に接するかによって、存在するルテニウムの構造が変わるといわれている。水溶液の温度や溶存する化学種などの条件により、ルテニウムが種々の構造で存在する可能性があり、それぞれに対して高い除去性能が求められる。
【0010】
放射性ルテニウムについても、放射性ストロンチウムの場合と同様、もしくはそれに準じる除去率が必要と考えられる。仮に1回の処理あたりの除去率が60%としても、40%が流出するので、99%以上除去するためには、5回以上処理を繰り返す必要があるため、大量の汚染水を処理する用途では非常に効率が悪い。仮に95%以上の除去率の材料を得ることができれば、1回処理後の流出率は5%以下となり、2回の処理で99.75%以上除去できる。仮に吸着剤を用いた一次処理の後に、逆浸透膜などの二次処理設備を設けるにしても、一次処理段階での除去率が例えば95%以上と高ければ、高価な二次処理工程に与える負荷は非常に小さくなり、コスト的に非常に好ましくなる。そのため、特に含有量が高いと想定されるルテニウムカチオンについては95%以上、その他のルテニウム錯イオン、ルテニウム酸イオンなどのイオン種については、同一の吸着剤でそれに近い除去率を有するものが求められている。
【0011】
また吸着剤としては、大量の水を処理できる必要があり、そのためには大量の処理を行っても十分な耐久性が必要とされる。そのような材料としては金属酸化物などの水不溶性の材料が好ましい。
【0012】
安全性の面では、環境汚染を誘発するような吸着剤や処理剤を使用することは好ましくない。また使用する原材料は低価格である必要があり、更にその製造に有機溶剤の揮発を伴う工程、高温焼成などの多量のエネルギーを消費する工程等は好ましくなく、簡易なプロセスで製造できることが必要とされる。
【0013】
以上述べた如く、ルテニウムを除去、もしくは回収する従来の方法を、高い除去率、低価格の吸着剤や処理剤を使用した簡易で安全な方法で置き換えたいというニーズは高いものの、1)種々のイオン種が除去可能で、2)さらにルテニウムカチオンについては70%以上、好ましくは95%以上の高い除去率、安全性、低コストなどの要求性能を満たす吸着剤や処理剤は、未だ実現できていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許5339302
【特許文献2】特開2013−95979
【特許文献3】特開2014−77162
【非特許文献1】日本原子力研究所レポート JAERI−M 9159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の第一の目的は、複雑な装置、高温等のエネルギーを使用せずに、水溶液中のルテニウムカチオンを吸着でき、且つルテニウム錯イオンやルテニウム酸イオンも吸着可能な材料を提供することにある。
【0016】
本発明のさらなる目的は、複雑な装置、高温等のエネルギーを使用せずに、水溶液中のルテニウムカチオンを70%以上、更には95%以上の高効率で吸着でき、且つルテニウム錯イオンやルテニウム酸イオンも吸着可能な材料を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、安価でありかつ環境汚染の怖れの少ない金属酸化物を吸着剤として使用することにより、安価、安全、簡便な処理を可能とする、水溶液中のルテニウムの吸着剤を提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、ルテニウムを含有する水溶液に浸漬するだけで、簡便、安全に当該イオンを吸着できる方法を提供することにある。
【0019】
更に本発明の別の目的は、原子炉などから流出した水中の放射性ルテニウムを吸着除去し、浄化する方法を提供することにある。
【0020】
本発明の他の目的は、以下の記載から明らかとなろう。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者等は、上記の実状に鑑み、従来技術の欠点を解決すべく鋭意研究した結果、本発明の課題を解決するための考えとして以下のような知見、指針を得た。
(1)水溶液中のルテニウムを吸着できる材料を、化学的に安定で、環境汚染の怖れが小さい金属酸化物を中心に探索したところ、酸化マンガンがルテニウムを吸着することが見出された
(2)特に、酸化マンガンが適度な表面積を有する場合に高いルテニウム除去率(例えば、70%以上のルテニウム除去率)を得ることができ、比表面積を70m/g以上とすることが好ましい。
(3)しかしながら酸化マンガン単独の吸着剤では、従来よりも高い吸着性能が得られても、90%以上、好ましくは95%以上のルテニウム除去率を得ることは困難であった。
(4)そこでマンガン以外の金属化合物を混合し、マンガンと共存させる方法を検討した結果、特定の金属を混合することによりルテニウム除去率が著しく向上することを見出した。
(5)混合する金属元素としては、遷移金属が好ましいこと、その中でも鉄、銅、コバルトおよび亜鉛が好ましいこと、更にその中でも銅が特に好ましいことを見出した。
(6)また、マンガンの酸化物の構造が、非晶質もしくは層状構造もしくはトンネル構造を持つマンガン酸化物であって、トンネルを囲むMnO八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である場合に、高いルテニウム除去率を得ることができることも今回見出された。
(7)上記吸着剤は通常、粉末として製造されるが、粉末は作業時の飛散などを伴い、マテリアルハンドリングが容易でない場合もある。そのために顆粒などの形態に成形することが好ましいが、そうすると有効な表面積が低下してルテニウム除去率が低下しやすい。その低下を防止する方法として、上記吸着剤粉末と、例えば酸化アルミニウム粉末を混合、成形すると、比表面積の低下を抑制でき、高いルテニウム除去率を維持できることを見出した。これは酸化アルミニウムが多孔質なため、吸着を妨げずに吸着剤粉末を結着する効果と推測された。
(8)上記のように、適切な比表面積、非晶質もしくは適切な構造、特定の遷移金属元素との組み合わせにより何故、95%以上という高いルテニウム除去率が得られるのか、その作用機構は不明であるが、これらの組み合わせによりルテニウムの吸着サイトが増えること、更には化学反応を伴って強吸着するため、吸着したルテニウムが脱着しにくくなるなどの理由が推定された。
(9)このようにして得られた吸着剤を、ルテニウムイオン含有水でテストしたところ、70%以上、好ましくは95%以上の高いルテニウム除去率が得られ、また該吸着剤がルテニウム錯イオンやルテニウム酸イオンをも吸着することから、本発明に到達した。
(10)酸化マンガン吸着剤を用いて3価のルテニウムである塩化ルテニウム(III)水溶液を吸着処理したところ、酸化マンガン上に吸着したルテニウムは4価以上になっていることがわかった。このことから、酸化マンガン吸着剤はルテニウムを酸化することにより、強く吸着することが、高いルテニウム除去率が得られる原因の一つとして推測された。
【0022】
すなわち本発明は、以下に関する:
1.酸化マンガンを主成分とする水溶液中のルテニウム吸着剤。
2.酸化マンガンがε−MnOおよび/またはγ−MnOからなるMnOを除く酸化マンガンである、上記1記載の吸着剤。
3.水溶液中のルテニウムの形態がルテニウムカチオン、ルテニウム錯イオン、ルテニウム酸イオンのいずれか一種類以上である上記1または2の吸着剤。
4.酸化マンガンが非晶質および/または層状構造および/またはトンネル構造を持つ、上記1〜3のいずれか1つに記載の吸着剤。
5.トンネル構造を持つ酸化マンガンにあってはトンネルを囲むMnO八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上であるマンガン酸化物を含む上記1から4のいずれか1つに記載の吸着剤。
6.酸化マンガンが非晶質および/またはα−MnOおよび/またはδ−MnOを有する、上記1〜4のいずれか1つに記載の吸着剤。
7.酸化マンガンが非晶質および/またはα−MnOを有し、水溶液中のルテニウムの形態がルテニウムカチオンである、上記1〜6のいずれか1つに記載の吸着剤。
8.マンガンの含有量が、二酸化マンガンに換算して、吸着剤100重量部を基準として50重量部以上である、上記1から7のいずれかに記載の吸着剤。
9.さらに、マンガン以外の少なくとも1種の他の遷移金属元素を含む、上記1から8のいずれかに記載の吸着剤。
10.遷移金属元素が酸化物の形態にある、上記9に記載の吸着剤。
11.マンガンと遷移金属元素が、酸化マンガンと遷移金属元素酸化物の物理的混合物の形態で存在する、上記10に記載の吸着剤。
12.マンガンと遷移金属元素が複合酸化物の形態で存在する、上記10に記載の吸着剤。
13.酸化マンガンと遷移金属酸化物の重量比が、酸化マンガンを二酸化マンガンに換算して、1:0.001〜1:1である、上記11に記載の吸着剤。
14.マンガンと遷移金属元素のモル比が、1:0.001〜1:1である、上記12に記載の吸着剤。
15.遷移金属元素が鉄、コバルト、銅および亜鉛からなる群から選択される、上記9〜14のいずれか1つに記載の吸着剤。
16.70〜700m/gの比表面積を有する、上記1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤。
17.粉末の形態にある、上記1〜16のいずれか1つに記載の吸着剤。
18.成形体の形態にある、上記1〜16のいずれか1つに記載の吸着剤。
19.遷移金属以外の金属元素および/または半金属元素を含む無機バインダーを含む、上記1〜18のいずれか1つに記載の吸着剤。
20.無機バインダーが酸化アルミニウム又は酸化ケイ素である、上記19に記載の吸着剤。
21.水中の放射性ルテニウムを吸着除去するための、上記1〜20のいずれか1つに記載の吸着剤の使用。
22.工業製品生産ラインおよび/または工業製品リサイクル工程で排出される排液から、ルテニウムを回収するための、上記1〜20のいずれか1つに記載の吸着剤の使用。
23.上記1〜20のいずれか1つに記載の吸着剤を、放射性ルテニウム含有水と接触させることを含む、水から放射性ルテニウムを除去する方法。
24.上記1〜20のいずれか1つに記載の吸着剤をルテニウム含有水(但し、ルテニウム酸イオン含有水を除く)と接触させ、ルテニウムを酸化して除去する方法。
25.水が放射性ルテニウムを含む放射性元素で汚染された海水および/またはナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオンなどが含まれている水である、上記23または24の方法。
【0023】
また、本発明のさらなる態様において、本発明は以下に関する:
1.マンガンを酸化物の形態で含む、水溶液中のルテニウム(Ru)イオン吸着剤。
2.上記の酸化物の形態にあるマンガンの含有量が、二酸化マンガンに換算して、吸着剤100重量部を基準として50重量部以上である、上記1記載の吸着剤。
3.上記の酸化物の形態にあるマンガンが専ら酸化マンガンとして存在する、上記1または2記載の吸着剤。
4.さらに、マンガン以外の少なくとも1種の他の遷移金属元素を含む、上記1または2に記載の吸着剤。
5.上記遷移金属元素が酸化物の形態にある、上記4に記載の吸着剤。
6.マンガンと上記遷移金属元素が、酸化マンガンと上記遷移金属元素の酸化物の物理的混合物の形態で存在する、上記5に記載の吸着剤。
7.マンガンと上記遷移金属元素が複合酸化物の形態で存在する、上記5に記載の吸着剤。
8.酸化マンガンと上記遷移金属酸化物の重量比が、酸化マンガンを二酸化マンガンに換算して、1:0.001〜1:1である、上記6に記載の吸着剤。
9.マンガンと上記遷移金属元素のモル比が、1:0.001〜1:1である、上記7に記載の吸着剤。
10.上記遷移金属元素が鉄、コバルト、銅および亜鉛からなる群から選択される、上記4〜9のいずれか1つに記載の吸着剤。
11.70〜700m/gの比表面積を有する、上記1〜10のいずれか1つに記載の吸着剤。
12.粉末の形態にある、上記1〜11のいずれか1つに記載の吸着剤。
13.成形体の形態にある、上記1〜11のいずれか1つに記載の吸着剤。
14.遷移金属以外の金属元素および/または半金属元素を含む無機バインダーを含む、上記1〜13のいずれか1つに記載の吸着剤。
15.無機バインダーが酸化アルミニウム又は酸化ケイ素である、上記14に記載の吸着剤。
16.水中の放射性Ruイオンを吸着除去するための、上記1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤の使用。
17.工業製品生産ラインおよび/または工業製品リサイクル工程で排出される排液から、Ruイオンを回収するための、上記1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤の使用。
18.上記1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤を、放射性Ruイオンを含有する水と接触させることを含む、水から放射性Ruイオンを除去する方法。
19.水が放射性Ruイオンを含む放射性元素で汚染された海水である、上記18の方法。
20.水中の放射性Ruイオンを吸着除去するための、上記1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤。
21.工業製品生産ラインおよび/または工業製品リサイクル工程で排出される排液から、Ruイオンを回収するための、上記1〜15のいずれか1つに記載の吸着剤。
【発明の効果】
【0024】
上述したところからわかるように本発明によれば、水溶液中のルテニウムの除去率が好ましくは70%以上、より好ましくは95%以上である、高い吸着性能を有する吸着剤を得ることができる。その高い除去率を使用することにより、産業排水やリサイクル工程におけるルテニウムの回収、放射性ルテニウムで汚染された地下水や海水からの放射性ルテニウムの除去、当該地下水や海水の浄化を、高価な装置を必要とせずに、安全かつ経済的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施例1、3、5および参考例1、および実施例8、9に示した吸着剤のXRDパターンを示す。
図2図2は、実施例2に示した吸着剤のルテニウム吸着試験前のXPSワイドスペクトルを示す。
図3図3は、実施例2に示した吸着剤のルテニウム吸着試験後のXPSワイドスペクトルを示す。
図4図4は、実施例2に示した吸着剤のルテニウム吸着試験前と試験後のRu 3d XPSスペクトルを示す。
図5図5は、実施例2に示した吸着剤のルテニウム吸着試験前と試験後のO 1s XPSスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
即ち本発明は、酸化マンガンを含む、水溶液中のルテニウム吸着剤、及びそれを用いたルテニウム含有水、例えば放射性ルテニウムを含む海水からルテニウムを除去するための方法である。
【0027】
本発明の吸着剤の吸着対象となる水溶液中のルテニウムの形態には、ルテニウムカチオン、ルテニウム錯イオン、ルテニウム酸イオンが含まれる。
【0028】
本発明の吸着剤は、酸化マンガンをベースとするものである。
【0029】
上述のように、本発明は、酸化マンガンがルテニウムを吸着する特性を有するという発見に基づくものである。
【0030】
本発明の1つの実施態様において、本発明の吸着剤における、マンガンの含有量は、二酸化マンガンに換算して、吸着剤100重量部を基準として50重量部以上、例えば、60重量部以上、70重量部以上、80重量部以上、90重量部以上または95重量部以上であることができる。例えば、本発明の吸着剤は、マンガンを、二酸化マンガンに換算して、吸着剤100重量部を基準として50重量部〜100重量部の量で含むことができる。上記含有量が100重量部の場合、本発明の吸着剤は二酸化マンガンのみからなる。
【0031】
また、本発明の1つの実施態様において、本発明の吸着剤はさらに、マンガン以外の少なくとも1種の他の遷移金属元素を含むことができる。
【0032】
このような少なくとも1種の他の遷移金属元素を含むことにより、本発明の吸着剤のルテニウム除去率が向上することも本願においては見出された。上記遷移金属元素としては、銅、鉄、コバルトおよび亜鉛が例示される。遷移金属元素の中でも特に銅を使用するのが特に好ましく、銅を使用した場合には、ルテニウム除去率を特に顕著に向上させることができる。
【0033】
上記の遷移金属元素は、例えば、酸化物の形態であることができる。この場合に、マンガンと上記遷移金属元素は、酸化マンガンと上記遷移金属元素の酸化物の物理的混合物の形態で存在することができる。例えば、上記遷移金属元素が銅である場合には、マンガンと銅は、酸化マンガンと銅酸化物の物理的混合物の形態で存在することができる。このように、他の遷移金属が、酸化物として酸化マンガンと混合され、吸着剤中において酸化マンガンと共存することが、化学的安定性、ルテニウム除去率、コスト等の点から好ましい。
【0034】
また、上記の遷移金属元素は、マンガンと複合酸化物として存在することもできる。上記の遷移金属元素がマンガンと複合酸化物の形態で吸着剤中に存在するこのような態様もまた、化学的安定性、ルテニウム除去率、コスト等の点から好ましい。例えば、上記遷移金属元素が銅である場合には、本発明の吸着剤は、マンガンと銅の複合酸化物を含む。
【0035】
さらに、本発明の吸着剤は、酸化マンガンと上記遷移金属元素の酸化物の物理的混合物、ならびにマンガンと上記遷移金属との複合酸化物の両方を含むこともできる。すなわち、本発明の吸着剤では、マンガンと上記遷移金属元素は、酸化マンガンと上記遷移金属元素の酸化物の物理的混合物の形態で存在するか、マンガンと上記遷移金属元素の複合酸化物の形態で存在するか、または、両方の形態で存在することができる。
【0036】
ここで、「物理的混合物」とは、単一酸化物および/または複合酸化物が2種類以上混合されたものを意味する。
【0037】
また、「複合酸化物」とは、同一構造内に酸素以外の原子が2種類以上ある酸化物を意味し、例えば、マンガンと銅の複合酸化物は、同一構造内にマンガンと銅を有する酸化物である。
【0038】
本発明の吸着剤が、マンガン以外の少なくとも1種の他の遷移金属元素を含み、マンガンと上記遷移金属元素が、酸化マンガンと上記遷移金属元素の酸化物の物理的混合物の形態で存在する場合、酸化マンガンと他の遷移金属元素の酸化物(遷移金属元素を2種以上含む場合にはそれら全ての酸化物)の割合(重量比)は、遷移金属元素の種類により変化するが、酸化マンガンを二酸化マンガンに、そして遷移金属元素をその金属の安定酸化物(例えば、銅の場合には酸化銅(CuO)、鉄の場合には酸化鉄(Fe))に換算したときに、1:0〜1:1.0、例えば1:0.001〜1:1であることができ、好ましくは1:0.01〜1:0.5、例えば1:0.05〜1:0.5または1:0.1〜1:0.4であることができる。ルテニウム除去率の低下を防ぐ観点から、重量比はこれらの範囲内であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の吸着剤が、マンガン以外の少なくとも1種の他の遷移金属元素を含み、マンガンと上記遷移金属元素が複合酸化物の形態で存在する場合、マンガンと上記遷移金属元素のモル比は、1:0〜1:1.0、例えば1:0.001〜1:1であることができ、好ましくは1:0.01〜1:0.5、例えば1:0.05〜1:0.5または1:0.1〜1:0.4であることができる。ルテニウム除去率の低下を防ぐ観点から、モル比はこれらの範囲内であることが好ましい。
【0040】
例えば、上記遷移金属元素が銅であり、本発明の吸着剤が酸化マンガンと銅の酸化物の物理的混合物を含む場合には、酸化マンガンと酸化銅の重量比は、MnO、CuOにそれぞれ換算して、MnO:CuO=1:0〜1:1、例えば1:0.001〜1:1であることができる。ルテニウム除去率の低下を防ぐ観点から、重量比はこの範囲内であることが好ましい。特に好ましくは、MnO:CuO=1:0.01〜1:0.5、例えば1:0.05〜1:0.5であり、より好ましくはMnO:CuO=1:0.1〜1:0.4である。
【0041】
また、例えば、上記遷移金属元素が銅であり、本発明の吸着剤がマンガンと銅の複合酸化物を含む場合には、マンガンと銅のモル比は、1:0〜1:1、例えば1:0.001〜1:1であることができる。ルテニウム除去率の低下を防ぐ観点から、モル比はこの範囲内であることが好ましい。特に好ましくは、Mn:Cu=1:0.01〜1:0.5、例えば1:0.05〜1:0.5であり、より好ましくはMn:Cu=1:0.1〜1:0.4である。
【0042】
ここで、酸化マンガンの量、酸化マンガンと他の遷移金属の酸化物との重量比、および、複合酸化物におけるマンガンと他の遷移金属元素のモル比は、例えば、高周波誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて吸着剤中のマンガンや他の遷移金属(例えば銅)の量を測定し、それらを適宜、二酸化マンガンや遷移金属酸化物(例えばCuO)に換算するか、あるいはモルに換算することにより決定することができる。
【0043】
本発明の吸着剤は、例えば、70〜700m/gの比表面積を有することができる。70m/g以上の比表面積を有する場合に良好なルテニウム除去率を達成することができ、また比表面積が700m/g以下の場合に、発熱、水の沸騰を招くような、水への接触時の急激な吸着を避けることができるため、比表面積は上記の範囲内にあることが好ましい。このような発熱や水の沸騰が生じると、特に吸着剤として顆粒状の成形体を使用した場合、発泡により成形体が崩壊し、被洗浄水などの通過特性、ルテニウム除去率などが低下する。それを防止するために冷却装置などを設けると設備費、消費エネルギーが増加して経済的に好ましくないなどの副作用を伴う。比表面積のより好ましい範囲は、100〜500m/g、例えば、125〜450m/gであり、特に好ましい範囲は、150〜400m/gである。
【0044】
なお、比表面積は、窒素吸着による比表面積測定(BET法)により測定することができる。
【0045】
また、本発明では、吸着剤に含まれる酸化マンガンが、特定の構造、例えば非晶質およびトンネル構造を持つα−MnOおよび層状構造を持つδ−MnOを有する場合に、さらに良好なルテニウム除去率を達成できることが確認された。一方で、トンネル構造を持つβ−MnO、スピネル構造を持つλ−MnOのルテニウム除去率は、α−MnOおよび層状構造を持つδ−MnOより低いことが確認された。
【0046】
トンネル構造を持つ酸化マンガンはトンネルを囲むMnO八面体の横方向 m と縦方向の連結数 n を用いて(m×n)で分類される。α−MnOは(2×2)、β−MnOは(1×1)、γ−MnOは(1×1)と(1×2)が共存している。ε−MnOはγ−MnOと類似した構造であるが、ミクロ双晶が形成し、構造欠陥を多く有している。
従って、本発明の1つの実施態様において、本発明の吸着剤は、非晶質または層状構造またはトンネル構造であってトンネルを囲むMnO八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造を有する酸化マンガンを含む。
【0047】
なお、上記構造は、Cu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られるXRDスペクトルにより確認することができる。
【0048】
上記のような構造が何故好ましいのか、推測の域を出ないが、ルテニウムが吸着するサイトが増加することや、また一旦吸着すると脱着しにくいサイトが形成されることが、その理由の一つとして挙げられる。
【0049】
本発明の吸着剤には吸着したルテニウムを酸化する特徴がある。吸着されたルテニウムの電子状態はX線光電子分光分析を行って得られるXPSスペクトルにより確認することができる。
【0050】
本発明の酸化マンガンまたはマンガンと他の遷移金属元素との複合酸化物は、例えば以下のように製造することができる。
【0051】
本発明における酸化マンガンは、例えば下記の実施例にあるように、硫酸マンガン水溶液をアルカリ性にして(例えば水酸化ナトリウム、炭酸カリウムまたは水酸化カリウムのようなアルカリ化合物の水溶液との混合により)、過マンガン酸カリウムによる酸化処理を行うことによって沈澱を析出させ、当該沈澱をろ過、洗浄、乾燥することにより得ることができる。
【0052】
本発明におけるマンガンと他の遷移金属元素との複合酸化物は、例えば、マンガン化合物と他の遷移金属化合物を混合して酸化物を得る方法により得ることができる。
【0053】
この方法では、例えば、マンガン化合物と他の遷移金属化合物とを含む水溶液を調製し、この水溶液にアルカリ水溶液(例えば水酸化ナトリウム、炭酸カリウムまたは水酸化カリウムのようなアルカリ化合物の水溶液)と過マンガン酸カリウムを加え、得られた沈殿物をろ過、洗浄、乾燥することによって、マンガンと他の遷移金属元素との複合酸化物を得ることができる。
【0054】
例えば、上記遷移金属元素が銅の場合には、実施例で示されるように硫酸マンガンと硫酸銅を水溶液中で、過マンガン酸カリウムなどで酸化、沈殿、洗浄、乾燥することにより、マンガンと銅の複合酸化物を得ることができる。
【0055】
なお、例えば、上記の乾燥のための温度を適宜変えることによって比表面積を調節することができ、また、複合酸化物の場合には各原料の量を目的の割合に応じて適宜設定することにより、マンガンと他の遷移金属元素のモル比を調節することができる。
【0056】
また、本発明における酸化マンガンと他の遷移金属の酸化物の物理的混合物は、上記のようにして製造した酸化マンガンと、別途入手もしくは製造した他の遷移金属酸化物を混合することにより、例えば両方の粉末を所定量取り、均一に混合することにより、調製することができる。
【0057】
本発明の吸着剤の形状は特に限定されないが、例えば粉末の形状で使用することができる。一方で、吸着剤からの粉末飛散を小さくしたり、水溶液が吸着剤中を通過しやすく、もしくは濾過の圧損を小さくしたり、吸着剤を水溶液中で均一に混合させるために、所定の形状に成形することが好ましい。その形状としては、例えば粒径が0.1mm〜10mm、より好ましくは0.2〜7mm程度の顆粒状、ペレット、円筒状などの形態とすることができる。
【0058】
成形体、例えば顆粒、ペレットまたは円筒状成形体は、公知の成形方法を用いて製造することができる。例えば、顆粒を製造する場合には、高圧成形機によって粉末状の吸着剤を押し固め、その後粉砕することによって顆粒の形態の吸着剤を得ることができる。この際、顆粒の大きさの調整を、篩のメッシュサイズを調整することにより、適宜行うことができる。
【0059】
なお、成形体の粒径は、分析篩を用いた粒度測定方法(JIS K0069の化学製品のふるい分け試験方法に従う)によって測定することができる。
【0060】
本発明の吸着剤を成形体の形態にする場合、例えば、上述の吸着剤粉末をそのまま成形するか、あるいは、バインダー(結着剤)と混合して成形することができる。吸着剤粉末をそのまま成形・顆粒化すると表面積が低下して吸着活性が低下しやすい。一方、特定の金属酸化物および/または半金属酸化物をバインダーとして上記粉末と混合し、混合物を成形することによりその吸着活性の低下を抑制できる場合が存在した。従って、成形体を製造する場合には、バインダーとの混合後に成形を行うことが好ましい。そのようなバインダーとしては、アルミニウム、ケイ素などの酸化物、もしくはゼオライトのようなアルミニウムとケイ素の両方を含む酸化物が、活性低下抑止効果が大きく、好ましい。本発明では、特に酸化アルミニウムが好ましい。
【0061】
従って、本発明の1つの実施態様において、本発明の吸着剤はさらに、バインダー、好ましくは遷移金属以外の金属元素および/または半金属元素を含む無機バインダーを含むことができる。ここで、半金属元素とは、金属と非金属の中間的な性質を持つ元素であり、例えば、ケイ素、ホウ素、ゲルマニウム、ヒ素、スズ、テルル、ポロニウムが挙げられる。
【0062】
本発明の吸着剤がバインダーを含む場合、酸化マンガン(または酸化マンガンと他の遷移金属酸化物の混合物)とバインダーの重量比は、酸化マンガン(または酸化マンガンと他の遷移金属酸化物の混合物):バインダー=1:0〜1:1、より好ましくは1:0.01〜1:0.7、より好ましくは1:0.03〜1:0.3、例えば1:0.05〜1:0.2である。
【0063】
なお、本発明の吸着剤は、本発明の効果を損なわない限り、酸化マンガン(または酸化マンガンと他の遷移金属酸化物の混合物)およびバインダー以外にも他の成分を必要に応じて含むことができる。
【0064】
一方、本発明の1つの実施態様において、本発明の吸着剤は、酸化マンガン(または酸化マンガンと他の遷移金属酸化物の混合物)とバインダーのみからなることもできる。
【0065】
本発明の吸着剤は、他の担体に担持して使用することも好ましい。そのような担体としては特に限定されないが、不織布、紙、プラスチックシート、セラミックシートなどが挙げられる。それらの中でもフレキシブルな材料が好ましく、その中でも不織布が特に好ましい。フレキシブルな担体を使用することにより、使用時の取り扱い性がよく、また使用時の形態をロール状とすることができるため、単位体積当たりの処理能力を向上させることができる。不織布の材料としては水に不溶な材料であれば特に限定されず、例えばセルロース繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などを挙げることができる。担体へ吸着剤を担持する方法としては、各担体に関して、各種材料を担持させる際に通常使用される方法を適宜使用することができる。例えば、上記の繊維を絡み合わせてシート状にした不織布に本発明の吸着剤を担持する方法としては、接着剤により、粉末形態のもしくは顆粒などに成形した吸着剤を不織布に接着する方法、または当該吸着剤をバインダーなどと共に不織布上にコーティングする方法を使用することができる。
【0066】
上記のように、本発明の吸着剤は、水溶液中のルテニウムを高い除去率で吸着することができる。
【0067】
従って、本発明の1つの態様において、本発明は、水溶液中のルテニウムを除去するための、マンガンを酸化物の形態で含む吸着剤の使用に関する。
【0068】
また、本発明の吸着剤を用いることにより、水溶液中のルテニウムを吸着剤に吸着させ、場合によりその後適当な公知の方法を用いて吸着剤を被処理水から分離することにより、ルテニウムを水から除去することができる。
【0069】
この際、水溶液中のルテニウムを吸着させるために、ルテニウム含有水を本発明の吸着剤と接触させる。
【0070】
従って、本発明の1つの態様において、本発明は、本発明の吸着剤を、ルテニウム含有水、例えば放射性ルテニウム含有水と接触させることを含む、水から放射性ルテニウムを除去する方法に関する。これにより、水を浄化することができる。
【0071】
上記方法は、ルテニウムを吸着した吸着剤を被処理水から分離することをさらに含むこともできる。
【0072】
本発明の吸着剤で処理される水溶液としては、ルテニウムを含むものであれば特に限定されないが、例えば、工業製品生産ラインおよび/または工業製品リサイクル工程で排出される廃液、放射性元素で汚染された海水や放射性元素で汚染されたナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオンなどが含まれている水などが挙げられる。
【0073】
本発明の吸着剤をルテニウム含有水と接触させる方法としては、例えば、ルテニウム含有水中に吸着剤を浸漬する方法、例えば、スタンドアロンのタンクに吸着剤を仕込み、ルテニウム含有水に浸漬させる方法、もしくは吸着剤を充填した配管、容器、タンクに、ルテニウム含有水を連続的に供給する配管を接続して、ルテニウム含有水を供給する方法を採用することができる。また本発明の吸着剤の処理槽を複数段接続してもよく、本吸着剤処理槽の後に、例えばイオン交換樹脂塔などを接続してもよい。それぞれの吸着剤の近傍には、金属イオン濃度測定検知器を設け、吸着剤の交換などの管理を適切に行うことも出来る。
【0074】
また、ルテニウム含有水は、本発明の吸着剤と接触させる前に、前処理、例えばイオン交換樹脂やキレート樹脂を用いた処理に適宜付すことも可能である。
【0075】
本発明の吸着剤を用いることにより、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上のルテニウムカチオン除去率を達成することができる。
【0076】
ルテニウムなどの金属を吸着した吸着剤は、場合により適当な公知の方法を用いて被処理水から分離した後に、酸やアルカリ等、吸着種である金属に適した処理剤での処理によって金属を脱着し、必要に応じて濃縮することにより回収もしくは再利用することができる。また場合によっては、金属を吸着したままセメントなどで固化して廃棄することも可能である。
【0077】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例等によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0078】
以下の実施例、比較例および参考例で使用された吸着剤の構造解析、性能評価等は以下の方法によった。
(1)吸着剤の比表面積;窒素吸着による比表面積測定(BET法)で測定した。使用した機器はマウンテック社製 型式Macsorb Model−1210によった。
(2)X線回折;スペクトリス株式会社製 型式X’Pert PRO MPDを用いて、粉末X線回折法により測定した。
(3)X線光電子分光分析(XPS);アルバック・ファイ株式会社製 型式PHI Quantum2000を用いて測定した。測定ではアルミニウムアノードを使用した。
(4)ルテニウム除去率の測定。ルテニウム濃度の定量には高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(島津製作所(株)製、型式ICPS−8100)を使用し、得られた値から次式を用いてルテニウム除去率を計算した。
ルテニウム除去率(%)=(処理前の試験液中のルテニウム濃度−処理後の試験液中のルテニウム濃度)/(処理前の試験液中のルテニウム濃度)(×100)
【0079】
(実施例1)
吸着剤Aの調製
吸着剤Aの調製法は次のとおりである。700gの硫酸マンガン4水和物を10,000gのイオン交換水に溶解させる。この水溶液に対して、400gの過マンガン酸カリウムと230gの水酸化カリウムを23000gのイオン交換水に溶解した混合水溶液を全量添加し、沈殿物を作成する。生成した沈殿物をろ過・洗浄したあと、得られたケーキを120℃で乾燥する。この操作により粉末状の酸化マンガンを得た。窒素ガス吸着によるBET法を使用して調べた比表面積は、360m/gであった。吸着剤AについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンにはα−MnOを示す回折ピークだけが確認される。それらすべての回折ピークについて、シェラー式を使用して求めた結晶子サイズは3〜5nmの範囲であった。
【0080】
次いで、pH2.8〜3.2のルテニウムイオン吸着試験用の試験液を次のように調製した。塩化ルテニウム(III)n水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム6水和物、塩化カルシウム2水和物、塩酸をイオン交換水に溶解することによって、10ppmのルテニウムイオン、10000ppmのナトリウムイオン、500ppmのマグネシウムイオン、500ppmのカルシウムイオンを含むpH2.8〜3.2の水溶液とした。
【0081】
大気圧下、25℃にした50mlの上記試験液(塩化ルテニウム(III)、pH2.8〜3.2)に対し、5.0mgの吸着剤Aを加え、振とう機により180回/分で振とうしながら1時間保持する。試験には250mlの蓋付ポリ容器を使用した。処理後、ポリ容器内の内容物を遠沈管に全量移し、4000rpmの回転数で5分間遠心分離を行って上澄み液を採取した。そうして得た上澄み液のルテニウム濃度を測定して、ルテニウム除去率を計算した。
【0082】
(実施例2)
吸着剤Bの調製
実施例1と同じ条件で作製した吸着剤粉末Aを、乾式高圧成形機(新東工業株式会社製、型式BGL0L001)を使用して押し固め、さらに粉砕し、35mesh(500μm)と10mesh(2000μm)の篩で大きさを調整して粒径500〜2000μmの顆粒状の吸着剤Bとした。大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し50mgの吸着剤Bを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0083】
吸着剤Bについて、ルテニウム吸着試験前と試験後のX線光電子分光分析を行い、ワイドスペクトル、Ru 3d XPSスペクトル、O 1s XPSスペクトルを測定した。
【0084】
(実施例3)
吸着剤Cの調製
吸着剤Cの調製法は次のとおりである。900gの硫酸マンガンと780gの硫酸銅を2700gのイオン交換水に溶解させる。この水溶液のpHが6〜7となるまで、当該溶液に、650gの過マンガン酸カリウムと950gの水酸化カリウムを2500gのイオン交換水に溶解した混合水溶液を添加して沈殿物を作製する。生成した沈殿物をろ過・洗浄したあと、得られたケーキを110℃で乾燥する。生成したマンガン酸化物に含まれるマンガンと銅のモル比は、Mn:Cu=75:25である。BET法による比表面積は220m/gであり、形状は粉末であった。吸着剤CについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンは2つのブロードなピークからなり、非晶質な物質に特徴的なものであった。
【0085】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Cを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0086】
(実施例4)
吸着剤Dの調製
実施例3の粉末吸着剤Cを使用した顆粒状吸着剤Dの調製法は次のとおりである。実施例2でも使用した乾式高圧成形機(新東工業株式会社製、型式BGL0L001)を使用して粉末吸着剤Cを押し固め、さらに粉砕し、35mesh(500μm)と10mesh(2000μm)の篩で大きさを調整して粒径500〜2000μmの顆粒とした。
【0087】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、50mgの吸着剤Dを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0088】
(実施例5)
吸着剤Eの調製
吸着剤Eの調製法は次のとおりである。700gの硫酸マンガン4水和物を80℃に加熱した10,000gのイオン交換水に溶解させる。この水溶液に対して、400gの過マンガン酸カリウムと800gの水酸化カリウムを80℃に加熱した30000gのイオン交換水に溶解した混合水溶液を全量添加し、沈殿物を作成する。生成した沈殿物をろ過・洗浄したあと、得られたケーキを120℃で乾燥する。この操作により塊状の酸化マンガンを得た。これを粉砕することにより粉末を得た。窒素ガス吸着によるBET法を使用して調べた比表面積は、350m/gであった。吸着剤EについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンにはδ−MnOを示す回折ピークだけが確認される。
【0089】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Eを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0090】
(実施例6)
吸着剤Fの調製
顆粒状吸着剤Fの調製法は次のとおりである。実施例5の調製工程にて得られた塊状酸化マンガンを粉砕し、35mesh(500μm)と10mesh(2000μm)の篩で大きさを調整して粒径500〜2000μmの顆粒とした。
【0091】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、50mgの吸着剤Fを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0092】
(実施例7)
吸着剤Gの調製
吸着剤Gの調製法は次のとおりである。吸着剤Aの粉末とベーマイトアルミナ(SASOL製、製品名:PURAL SB)を重量比9:1で混和し、混合粉末を得る。実施例2で使用した乾式高圧成形機を使用して混合粉末を押し固め、さらに粉砕し、35mesh(500μm)と10mesh(2000μm)の篩で大きさを調整して粒径500〜2000μmの顆粒とした。
【0093】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、50mgの吸着剤Gを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0094】
(実施例8)
吸着剤Iの調製
吸着剤Iの調製法は次のとおりである。4gの過マンガン酸カリウムと4mlのエタノールを400gのイオン交換水に溶解させる。得られた水溶液をオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社製、型式TEM−D−1000M)に移し、24時間150℃に保持する。生成した沈殿物をろ過・洗浄したあと、得られたケーキを350℃で乾燥する。この操作により塊状の酸化マンガンを得た。これを粉砕することにより粉末を得た。窒素ガス吸着によるBET法を使用して調べた比表面積は、18m/gであった。吸着剤IについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンにはβ−MnOを示す回折ピークだけが確認された。
【0095】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Iを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0096】
(実施例9)
吸着剤Jの調製
吸着剤Jの調製法は次のとおりである。2gのスピネル型マンガン酸リチウム(SIGMA−ALDRICH社製、製品名:Lithium manganese oxide)を2,000gの0.5mol/Lの塩酸水溶液に分散させ、24時間撹拌する。得られた沈殿物をろ過・洗浄したあと、真空乾燥することにより粉末を得た。窒素ガス吸着によるBET法を使用して調べた比表面積は、13m/gであった。吸着剤JについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンにはλ−MnOを示す回折ピークだけが確認された。
【0097】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Jを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0098】
(実施例10)
pH5.8〜6.8のルテニウムイオン吸着試験用の試験液を次のように調製した。塩化ルテニウム(III)n水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム6水和物、塩化カルシウム2水和物、塩酸をイオン交換水に溶解することによって、10ppmのルテニウムイオン、10000ppmのナトリウムイオン、500ppmのマグネシウムイオン、500ppmのカルシウムイオンを含むpH5.8〜6.8の水溶液とした。
【0099】
大気圧下、25℃にした50mlの上記試験液(塩化ルテニウム(III)、pH5.8〜6.8)に対し、5.0mgの吸着剤Aを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0100】
(実施例11)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例10にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Cを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0101】
(実施例12)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例10にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Eを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0102】
(実施例13)
ルテニウム錯イオン吸着試験用の試験液を次のように調製した。硝酸ニトロシルルテニウム(III)、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム6水和物、塩化カルシウム2水和物、塩酸をイオン交換水に溶解することによって、10ppmのルテニウム錯イオン、10000ppmのナトリウムイオン、500ppmのマグネシウムイオン、500ppmのカルシウムイオンを含むpH2.8の水溶液とした。
【0103】
大気圧下、25℃にした50mlの上記試験液(硝酸ニトロシルルテニウム(III))に対し、5.0mgの吸着剤Aを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0104】
(実施例14)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例13にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Cを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0105】
(実施例15)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例13にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Eを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0106】
(実施例16)
ルテニウム酸イオン吸着試験用の試験液を次のように調製した。ルテニウム(VI)酸カリウムをイオン交換水に溶解することによって、20ppmのルテニウム酸イオンを含むpH8.6の水溶液とした。
【0107】
大気圧下、25℃にした50mlの上記試験液(ルテニウム(VI)酸カリウム)に対し、50.0mgの吸着剤Aを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0108】
(実施例17)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例16にて使用した試験液に対し、50.0mgの吸着剤Cを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0109】
(実施例18)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例16にて使用した試験液に対し、50.0mgの吸着剤Eを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0110】
(比較例1)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、吸着剤を加えずに、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0111】
(参考例1)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの粉末の状態である酸化マンガン試薬(和光純薬株式会社製、製品名:酸化マンガン(IV),粉末、等級:和光一級)(吸着剤H)を用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0112】
吸着剤HのXRDパターン(図1)には、ε―MnOおよびγ―MnOを示す回折ピークだけが確認された。またBET法による比表面積は50m/gであった。
【0113】
(比較例2)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例10にて使用した試験液に対し、吸着剤を加えずに、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0114】
(参考例2)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例10にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Hを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0115】
(比較例3)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例13にて使用した試験液に対し、吸着剤を加えずに、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0116】
(参考例3)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例13にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Hを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0117】
(比較例4)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例16にて使用した試験液に対し、吸着剤を加えずに、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0118】
(参考例4)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例16にて使用した試験液に対し、50.0mgの吸着剤Hを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0119】
上記実施例1〜9、比較例1および参考例1の測定結果を表1に示した。表1において、吸着剤(粉末)、もしくは吸着剤成形体(顆粒)に含まれるマンガン以外の金属を添加第二金属と称した。
【0120】
【表1】
【0121】
表1から以下のようなことが言える。
1)参考例1の比表面積が50m/gである吸着剤Hのルテニウム除去率が19%に対して、実施例1の比表面積が360m/gの吸着剤Aのルテニウム除去率は84%と、著しく増加する。
2)上記1)の理由は、比表面積が適切な値となるために、ルテニウムの吸着サイトが増加することと理解される。α−MnOである吸着剤Aは、ε−MnOおよびγ−MnOからなる吸着剤Hとは異なり、その構造自体がルテニウム吸着サイトの増加に寄与し、ルテニウム除去率を高めている可能性もある。
3)実施例8のβ−MnOである吸着剤Iのルテニウム除去率は7%であり、例えば実施例1の場合と比較すると低かった。α−MnOやβ−MnOやε−MnOやγ−MnOはトンネル構造を持つ。トンネル構造はトンネルを囲むMnO八面体の横方向 m と縦方向の連結数 n を用いて(m×n)で分類される。α−MnOは(2×2)、β−MnOは(1×1)、γ−MnOは(1×1)と(1×2)が共存したものに分類される。ε−MnOはγ−MnOと類似した構造であるが、ミクロ双晶が形成し、構造欠陥を多く有している。トンネルを囲むMnO八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造がルテニウム吸着サイトの増加に寄与し、ルテニウム除去率を高めている可能性がある。
4)実施例1の粉末状吸着剤Aに比べ、それを顆粒化した実施例2の吸着剤Bは、その使用量(充填量)を増加させても、ルテニウム除去率が低下する。これは、顆粒とすることによりルテニウムと吸着サイトの接触頻度が低下するためと推定される。
5)実施例3の銅を共存させた粉末状吸着剤Cは、銅の存在しない吸着剤Aに比べ比表面積が低下したにもかかわらず、ルテニウム除去率が96%と非常に高くなる。これはルテニウムの吸着が比表面積だけによらず、吸着サイトの性質と数に依存することを示している。吸着剤Cは非晶質である。銅の導入と非晶質であることの両方が寄与し、ルテニウム除去率を高めている可能性がある。
6)更に実施例4の顆粒状のマンガンと銅の複合酸化物からなる吸着剤を50mg使用した系は、粉末5mgの系(実施例3)に比べルテニウム除去率の低下が認められない。顆粒化によるこの効果は、吸着剤Aとは全く異なるものであり、顆粒化によるマテリアルハンドリングの簡便化とルテニウム除去率を両立させる上で、大変好ましい。同じ50mg充填の実施例2と実施例4を比較すると、銅を含まない場合に顆粒化によりルテニウム除去率が低下するのに対して、銅を含む系ではルテニウム除去率の低下が認められない。その原因は明確ではないが、他の遷移金属である銅を含むことにより吸着剤表面が一部変化する、もしくは処理水と顆粒状吸着剤との接触が容易となるなどの理由が推察される。
7)実施例5の粉末状吸着剤Eは層状構造を持つδ−MnOに分類される。層状構造もルテニウム吸着サイトの増加に寄与し、ルテニウム除去率を高めている可能性がある。
8)実施例7は、吸着剤に、酸化アルミニウムを混合して、顆粒化することによっても高いルテニウム除去率が得られることを示している。実施例1と実施例2のように、何も加えずに吸着剤粉末を顆粒化すると比表面積が低下するのに対して、酸化アルミニウムを混合・顆粒化すると比表面積が増加しており、その比表面積増加が高いルテニウム除去率に反映されていると推定される。酸化アルミニウムを混合して成形することにより表面積が増加する理由は明確ではないが、酸化アルミニウムが多孔質のバインダーとして働き、顆粒化した後もルテニウムと吸着サイトの接触を容易にしているものと推測される。
9)吸着剤の結晶構造としてはα−MnOのようなトンネル構造を持ち、トンネルを囲むMnO八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造を有するもの又は非晶質又は層状構造を有するものが好ましい。
10)実験前後の吸着剤BについてXPSワイドスペクトルを測定し、定性分析をおこなった(図2,3)。それらを比較すると、試験後吸着剤には結合エネルギー280eV付近に強度の高いRu 3dピークが現れることから、ルテニウムが析出していることが分かった。試験は塩化ルテニウム(III)n水和物を使用したが、試験後吸着剤に見られる結合エネルギー200eV付近の塩素のCl 2pピークはきわめて小さい。この結果から、ルテニウムが塩化ルテニウム(III)として析出したのではないことが分かる。試験前の吸着剤に見られる主だったピークはマンガンと酸素であった。一方で、試験後の吸着剤に見られる主だったピークはルテニウムと酸素であり、吸着剤上にルテニウム化合物が析出していることが示唆された。Ru 3dとO 1sのXPSスペクトルを測定し、析出したルテニウム化合物について調べた(図4図5)。Ru 3d5/2ピークとO 1sピークに着目すると、試験に用いた3価のルテニウムは、RuOおよびRuOといった4価以上の酸化ルテニウムとなって酸化マンガン剤上に吸着したことが示唆された。ルテニウムの酸化を伴う強吸着がルテニウム除去率を高めている可能性がある。
11)上記実施例、比較例、参考例は実験の安全性のために、非放射性ルテニウムを使用した。非放射性ルテニウムも放射性ルテニウムと同じ電子構造、電子的性質を有しており、それらのイオンは同様の吸着特性を示すため、放射性ルテニウムについても同様の結果が得られるものと理解される。
【0122】
上記実施例10〜12、比較例2、参考例2の測定結果を表2に示した。表2において、吸着剤に含まれるマンガン以外の金属を添加第二金属と称した。
【0123】
【表2】
【0124】
表2から以下のようなことが言える。
1)実施例10の吸着剤Aは96%のルテニウム除去率、実施例11の吸着剤Cは99%のルテニウム除去率、実施例12の吸着剤Eは98%のルテニウム除去率を示した。一方で参考例2の吸着剤Hは83%のルテニウム除去率であった。溶液のpHがpH2.8〜3.2からpH5.8〜6.8へと高くなることにより、ルテニウム除去率は高くなる。
2)pH5.8〜6.8であっても、吸着剤の結晶構造としてはα−MnOのようなトンネル構造を持ち、トンネルを囲むMnO八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造を有するもの又は非晶質又は層状構造を有するものが好ましい。
3)表1、表2は、塩化ルテニウム(III)水溶液を試験液とした結果であり、最高99%という極めて高いルテニウム除去率を示した。塩化ルテニウム(III)水溶液中では、ルテニウムはルテニウムカチオンとして存在していると考えられ、本発明の吸着剤はこのようなルテニウムカチオンに対して極めて高い除去性能を示すと理解される。
4)上記実施例、比較例、参考例は実験の安全性のために、非放射性ルテニウムを使用した。非放射性ルテニウムも放射性ルテニウムと同じ電子構造、電子的性質を有しており、それらのイオンは同様の吸着特性を示すため、放射性ルテニウムについても同様の結果が得られるものと理解される。
【0125】
上記実施例13〜15、比較例3、参考例3の測定結果を表3に示した。表3において、吸着剤に含まれるマンガン以外の金属を添加第二金属と称した。
【0126】
【表3】
【0127】
表3から以下のようなことが言える。
1)本発明の吸着剤、特に実施例14のような銅などの遷移金属を含む吸着剤は54%程度のルテニウム除去率を示した、一方で参考例3の吸着剤Hは6%のルテニウム除去率であった。表1、2のルテニウムカチオンの結果に比べルテニウム除去率はやや低いものの、本発明の吸着剤が有効であることを示している。
2)実施例13の吸着剤Aは39%のルテニウム除去率、実施例14の吸着剤Cは54%のルテニウム除去率、実施例15の吸着剤Eは34%のルテニウム除去率を示した。一方で参考例3の吸着剤Hは6%のルテニウム除去率であった。硝酸ニトロシルルテニウム(III)を吸着処理した場合も、吸着剤の結晶構造としてはα−MnOのようなトンネル構造を持ち、トンネルを囲むMnO八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造を有するもの又は非晶質又は層状構造を有するものが好ましい。
3)上記実施例、比較例、参考例は実験の安全性のために、非放射性ルテニウムを使用した。非放射性ルテニウムも放射性ルテニウムと同じ電子構造、電子的性質を有しており、それらのイオンは同様の吸着特性を示すため、放射性ルテニウムについても同様の結果が得られるものと理解される。
【0128】
表1〜3の結果より、結晶構造としてα−MnOのようなトンネル構造を持ち、トンネルを囲むMnO八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造を有するもの又は非晶質又は層状構造を有する酸化マンガンからなる吸着剤は、他の構造の酸化マンガンに比べて、ルテニウムを高効率で除去できるといえる。吸着剤の種類に関わらず、塩化ルテニウム(III)を使用したルテニウムカチオンのルテニウム除去率より硝酸ニトロシルルテニウム(III)を使用したルテニウム錯イオンのルテニウム除去率は低かった。硝酸ニトロシルルテニウム(III)のようにルテニウム錯イオンは配位子の種類によって吸着剤表面への吸着特性が異なることや、配位子の影響でルテニウムの酸化が起こりづらいといったことが原因で、ルテニウム錯イオンのルテニウム除去率が低かったものと推測される。
【0129】
上記実施例16〜18、比較例4、参考例4の測定結果を表4に示した。この表4において、吸着剤に含まれるマンガン以外の金属を添加第二金属と称した。
【0130】
【表4】
【0131】
表4から以下のようなことが言える。
1)実施例16の吸着剤Aは79%の高いルテニウム除去率を有し、実用的にも高い可能性を示した。実施例17の吸着剤Cは65%のルテニウム除去率、実施例18の吸着剤Eについても70%のルテニウム除去率を示した。一方で、参考例4の吸着剤Hは57%のルテニウム除去率であった。
2)表4に示した本発明の吸着剤と吸着剤Hとのルテニウム除去率の差は、表1〜3に示したそれと比べ小さいものであった。
3)ルテニウム(VI)酸カリウムに含まれるルテニウムは6価なので、塩化ルテニウム(III)や硝酸ニトロシルルテニウム(III)について推測される酸化を伴う吸着とは違ったメカニズムで吸着剤がルテニウム酸カリウムを吸着しているものと予想される。そのためか、塩化ルテニウム(III)や硝酸ニトロシルルテニウム(III)を用いた場合とは異なり、酸化マンガンの構造がルテニウム酸カリウムのルテニウム除去率に及ぼす影響は明確でない。高比表面積であるほどルテニウム酸カリウムのルテニウム除去率が高い可能性がある。
4)上記実施例、比較例、参考例は実験の安全性のために、非放射性ルテニウムを使用した。非放射性ルテニウムも放射性ルテニウムと同じ電子構造、電子的性質を有しており、それらのイオンは同様の吸着特性を示すため、放射性ルテニウムについても同様の結果が得られるものと理解される。
図1
図2
図3
図4
図5