【実施例】
【0078】
以下の実施例、比較例および参考例で使用された吸着剤の構造解析、性能評価等は以下の方法によった。
(1)吸着剤の比表面積;窒素吸着による比表面積測定(BET法)で測定した。使用した機器はマウンテック社製 型式Macsorb Model−1210によった。
(2)X線回折;スペクトリス株式会社製 型式X’Pert PRO MPDを用いて、粉末X線回折法により測定した。
(3)X線光電子分光分析(XPS);アルバック・ファイ株式会社製 型式PHI Quantum2000を用いて測定した。測定ではアルミニウムアノードを使用した。
(4)ルテニウム除去率の測定。ルテニウム濃度の定量には高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(島津製作所(株)製、型式ICPS−8100)を使用し、得られた値から次式を用いてルテニウム除去率を計算した。
ルテニウム除去率(%)=(処理前の試験液中のルテニウム濃度−処理後の試験液中のルテニウム濃度)/(処理前の試験液中のルテニウム濃度)(×100)
【0079】
(実施例1)
吸着剤Aの調製
吸着剤Aの調製法は次のとおりである。700gの硫酸マンガン4水和物を10,000gのイオン交換水に溶解させる。この水溶液に対して、400gの過マンガン酸カリウムと230gの水酸化カリウムを23000gのイオン交換水に溶解した混合水溶液を全量添加し、沈殿物を作成する。生成した沈殿物をろ過・洗浄したあと、得られたケーキを120℃で乾燥する。この操作により粉末状の酸化マンガンを得た。窒素ガス吸着によるBET法を使用して調べた比表面積は、360m
2/gであった。吸着剤AについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンにはα−MnO
2を示す回折ピークだけが確認される。それらすべての回折ピークについて、シェラー式を使用して求めた結晶子サイズは3〜5nmの範囲であった。
【0080】
次いで、pH2.8〜3.2のルテニウムイオン吸着試験用の試験液を次のように調製した。塩化ルテニウム(III)n水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム6水和物、塩化カルシウム2水和物、塩酸をイオン交換水に溶解することによって、10ppmのルテニウムイオン、10000ppmのナトリウムイオン、500ppmのマグネシウムイオン、500ppmのカルシウムイオンを含むpH2.8〜3.2の水溶液とした。
【0081】
大気圧下、25℃にした50mlの上記試験液(塩化ルテニウム(III)、pH2.8〜3.2)に対し、5.0mgの吸着剤Aを加え、振とう機により180回/分で振とうしながら1時間保持する。試験には250mlの蓋付ポリ容器を使用した。処理後、ポリ容器内の内容物を遠沈管に全量移し、4000rpmの回転数で5分間遠心分離を行って上澄み液を採取した。そうして得た上澄み液のルテニウム濃度を測定して、ルテニウム除去率を計算した。
【0082】
(実施例2)
吸着剤Bの調製
実施例1と同じ条件で作製した吸着剤粉末Aを、乾式高圧成形機(新東工業株式会社製、型式BGL0L001)を使用して押し固め、さらに粉砕し、35mesh(500μm)と10mesh(2000μm)の篩で大きさを調整して粒径500〜2000μmの顆粒状の吸着剤Bとした。大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し50mgの吸着剤Bを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0083】
吸着剤Bについて、ルテニウム吸着試験前と試験後のX線光電子分光分析を行い、ワイドスペクトル、Ru 3d XPSスペクトル、O 1s XPSスペクトルを測定した。
【0084】
(実施例3)
吸着剤Cの調製
吸着剤Cの調製法は次のとおりである。900gの硫酸マンガンと780gの硫酸銅を2700gのイオン交換水に溶解させる。この水溶液のpHが6〜7となるまで、当該溶液に、650gの過マンガン酸カリウムと950gの水酸化カリウムを2500gのイオン交換水に溶解した混合水溶液を添加して沈殿物を作製する。生成した沈殿物をろ過・洗浄したあと、得られたケーキを110℃で乾燥する。生成したマンガン酸化物に含まれるマンガンと銅のモル比は、Mn:Cu=75:25である。BET法による比表面積は220m
2/gであり、形状は粉末であった。吸着剤CについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンは2つのブロードなピークからなり、非晶質な物質に特徴的なものであった。
【0085】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Cを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0086】
(実施例4)
吸着剤Dの調製
実施例3の粉末吸着剤Cを使用した顆粒状吸着剤Dの調製法は次のとおりである。実施例2でも使用した乾式高圧成形機(新東工業株式会社製、型式BGL0L001)を使用して粉末吸着剤Cを押し固め、さらに粉砕し、35mesh(500μm)と10mesh(2000μm)の篩で大きさを調整して粒径500〜2000μmの顆粒とした。
【0087】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、50mgの吸着剤Dを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0088】
(実施例5)
吸着剤Eの調製
吸着剤Eの調製法は次のとおりである。700gの硫酸マンガン4水和物を80℃に加熱した10,000gのイオン交換水に溶解させる。この水溶液に対して、400gの過マンガン酸カリウムと800gの水酸化カリウムを80℃に加熱した30000gのイオン交換水に溶解した混合水溶液を全量添加し、沈殿物を作成する。生成した沈殿物をろ過・洗浄したあと、得られたケーキを120℃で乾燥する。この操作により塊状の酸化マンガンを得た。これを粉砕することにより粉末を得た。窒素ガス吸着によるBET法を使用して調べた比表面積は、350m
2/gであった。吸着剤EについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンにはδ−MnO
2を示す回折ピークだけが確認される。
【0089】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Eを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0090】
(実施例6)
吸着剤Fの調製
顆粒状吸着剤Fの調製法は次のとおりである。実施例5の調製工程にて得られた塊状酸化マンガンを粉砕し、35mesh(500μm)と10mesh(2000μm)の篩で大きさを調整して粒径500〜2000μmの顆粒とした。
【0091】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、50mgの吸着剤Fを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0092】
(実施例7)
吸着剤Gの調製
吸着剤Gの調製法は次のとおりである。吸着剤Aの粉末とベーマイトアルミナ(SASOL製、製品名:PURAL SB)を重量比9:1で混和し、混合粉末を得る。実施例2で使用した乾式高圧成形機を使用して混合粉末を押し固め、さらに粉砕し、35mesh(500μm)と10mesh(2000μm)の篩で大きさを調整して粒径500〜2000μmの顆粒とした。
【0093】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、50mgの吸着剤Gを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0094】
(実施例8)
吸着剤Iの調製
吸着剤Iの調製法は次のとおりである。4gの過マンガン酸カリウムと4mlのエタノールを400gのイオン交換水に溶解させる。得られた水溶液をオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社製、型式TEM−D−1000M)に移し、24時間150℃に保持する。生成した沈殿物をろ過・洗浄したあと、得られたケーキを350℃で乾燥する。この操作により塊状の酸化マンガンを得た。これを粉砕することにより粉末を得た。窒素ガス吸着によるBET法を使用して調べた比表面積は、18m
2/gであった。吸着剤IについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンにはβ−MnO
2を示す回折ピークだけが確認された。
【0095】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Iを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0096】
(実施例9)
吸着剤Jの調製
吸着剤Jの調製法は次のとおりである。2gのスピネル型マンガン酸リチウム(SIGMA−ALDRICH社製、製品名:Lithium manganese oxide)を2,000gの0.5mol/Lの塩酸水溶液に分散させ、24時間撹拌する。得られた沈殿物をろ過・洗浄したあと、真空乾燥することにより粉末を得た。窒素ガス吸着によるBET法を使用して調べた比表面積は、13m
2/gであった。吸着剤JについてCu−Kα線を使用したX線回折測定を行って得られた2θ=10〜70°のX線回折パターンにはλ−MnO
2を示す回折ピークだけが確認された。
【0097】
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Jを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0098】
(実施例10)
pH5.8〜6.8のルテニウムイオン吸着試験用の試験液を次のように調製した。塩化ルテニウム(III)n水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム6水和物、塩化カルシウム2水和物、塩酸をイオン交換水に溶解することによって、10ppmのルテニウムイオン、10000ppmのナトリウムイオン、500ppmのマグネシウムイオン、500ppmのカルシウムイオンを含むpH5.8〜6.8の水溶液とした。
【0099】
大気圧下、25℃にした50mlの上記試験液(塩化ルテニウム(III)、pH5.8〜6.8)に対し、5.0mgの吸着剤Aを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0100】
(実施例11)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例10にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Cを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0101】
(実施例12)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例10にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Eを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0102】
(実施例13)
ルテニウム錯イオン吸着試験用の試験液を次のように調製した。硝酸ニトロシルルテニウム(III)、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム6水和物、塩化カルシウム2水和物、塩酸をイオン交換水に溶解することによって、10ppmのルテニウム錯イオン、10000ppmのナトリウムイオン、500ppmのマグネシウムイオン、500ppmのカルシウムイオンを含むpH2.8の水溶液とした。
【0103】
大気圧下、25℃にした50mlの上記試験液(硝酸ニトロシルルテニウム(III))に対し、5.0mgの吸着剤Aを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0104】
(実施例14)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例13にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Cを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0105】
(実施例15)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例13にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Eを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0106】
(実施例16)
ルテニウム酸イオン吸着試験用の試験液を次のように調製した。ルテニウム(VI)酸カリウムをイオン交換水に溶解することによって、20ppmのルテニウム酸イオンを含むpH8.6の水溶液とした。
【0107】
大気圧下、25℃にした50mlの上記試験液(ルテニウム(VI)酸カリウム)に対し、50.0mgの吸着剤Aを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0108】
(実施例17)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例16にて使用した試験液に対し、50.0mgの吸着剤Cを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0109】
(実施例18)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例16にて使用した試験液に対し、50.0mgの吸着剤Eを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0110】
(比較例1)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、吸着剤を加えずに、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0111】
(参考例1)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例1にて使用した試験液に対し、5.0mgの粉末の状態である酸化マンガン試薬(和光純薬株式会社製、製品名:酸化マンガン(IV),粉末、等級:和光一級)(吸着剤H)を用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0112】
吸着剤HのXRDパターン(
図1)には、ε―MnO
2およびγ―MnO
2を示す回折ピークだけが確認された。またBET法による比表面積は50m
2/gであった。
【0113】
(比較例2)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例10にて使用した試験液に対し、吸着剤を加えずに、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0114】
(参考例2)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例10にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Hを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0115】
(比較例3)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例13にて使用した試験液に対し、吸着剤を加えずに、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0116】
(参考例3)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例13にて使用した試験液に対し、5.0mgの吸着剤Hを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0117】
(比較例4)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例16にて使用した試験液に対し、吸着剤を加えずに、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0118】
(参考例4)
大気圧下、25℃にした50mlの実施例16にて使用した試験液に対し、50.0mgの吸着剤Hを用いて、実施例1と同様の方法によりルテニウム除去率を測定した。
【0119】
上記実施例1〜9、比較例1および参考例1の測定結果を表1に示した。表1において、吸着剤(粉末)、もしくは吸着剤成形体(顆粒)に含まれるマンガン以外の金属を添加第二金属と称した。
【0120】
【表1】
【0121】
表1から以下のようなことが言える。
1)参考例1の比表面積が50m
2/gである吸着剤Hのルテニウム除去率が19%に対して、実施例1の比表面積が360m
2/gの吸着剤Aのルテニウム除去率は84%と、著しく増加する。
2)上記1)の理由は、比表面積が適切な値となるために、ルテニウムの吸着サイトが増加することと理解される。α−MnO
2である吸着剤Aは、ε−MnO
2およびγ−MnO
2からなる吸着剤Hとは異なり、その構造自体がルテニウム吸着サイトの増加に寄与し、ルテニウム除去率を高めている可能性もある。
3)実施例8のβ−MnO
2である吸着剤Iのルテニウム除去率は7%であり、例えば実施例1の場合と比較すると低かった。α−MnO
2やβ−MnO
2やε−MnO
2やγ−MnO
2はトンネル構造を持つ。トンネル構造はトンネルを囲むMnO
6八面体の横方向 m と縦方向の連結数 n を用いて(m×n)で分類される。α−MnO
2は(2×2)、β−MnO
2は(1×1)、γ−MnO
2は(1×1)と(1×2)が共存したものに分類される。ε−MnO
2はγ−MnO
2と類似した構造であるが、ミクロ双晶が形成し、構造欠陥を多く有している。トンネルを囲むMnO
6八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造がルテニウム吸着サイトの増加に寄与し、ルテニウム除去率を高めている可能性がある。
4)実施例1の粉末状吸着剤Aに比べ、それを顆粒化した実施例2の吸着剤Bは、その使用量(充填量)を増加させても、ルテニウム除去率が低下する。これは、顆粒とすることによりルテニウムと吸着サイトの接触頻度が低下するためと推定される。
5)実施例3の銅を共存させた粉末状吸着剤Cは、銅の存在しない吸着剤Aに比べ比表面積が低下したにもかかわらず、ルテニウム除去率が96%と非常に高くなる。これはルテニウムの吸着が比表面積だけによらず、吸着サイトの性質と数に依存することを示している。吸着剤Cは非晶質である。銅の導入と非晶質であることの両方が寄与し、ルテニウム除去率を高めている可能性がある。
6)更に実施例4の顆粒状のマンガンと銅の複合酸化物からなる吸着剤を50mg使用した系は、粉末5mgの系(実施例3)に比べルテニウム除去率の低下が認められない。顆粒化によるこの効果は、吸着剤Aとは全く異なるものであり、顆粒化によるマテリアルハンドリングの簡便化とルテニウム除去率を両立させる上で、大変好ましい。同じ50mg充填の実施例2と実施例4を比較すると、銅を含まない場合に顆粒化によりルテニウム除去率が低下するのに対して、銅を含む系ではルテニウム除去率の低下が認められない。その原因は明確ではないが、他の遷移金属である銅を含むことにより吸着剤表面が一部変化する、もしくは処理水と顆粒状吸着剤との接触が容易となるなどの理由が推察される。
7)実施例5の粉末状吸着剤Eは層状構造を持つδ−MnO
2に分類される。層状構造もルテニウム吸着サイトの増加に寄与し、ルテニウム除去率を高めている可能性がある。
8)実施例7は、吸着剤に、酸化アルミニウムを混合して、顆粒化することによっても高いルテニウム除去率が得られることを示している。実施例1と実施例2のように、何も加えずに吸着剤粉末を顆粒化すると比表面積が低下するのに対して、酸化アルミニウムを混合・顆粒化すると比表面積が増加しており、その比表面積増加が高いルテニウム除去率に反映されていると推定される。酸化アルミニウムを混合して成形することにより表面積が増加する理由は明確ではないが、酸化アルミニウムが多孔質のバインダーとして働き、顆粒化した後もルテニウムと吸着サイトの接触を容易にしているものと推測される。
9)吸着剤の結晶構造としてはα−MnO
2のようなトンネル構造を持ち、トンネルを囲むMnO
6八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造を有するもの又は非晶質又は層状構造を有するものが好ましい。
10)実験前後の吸着剤BについてXPSワイドスペクトルを測定し、定性分析をおこなった(
図2,3)。それらを比較すると、試験後吸着剤には結合エネルギー280eV付近に強度の高いRu 3dピークが現れることから、ルテニウムが析出していることが分かった。試験は塩化ルテニウム(III)n水和物を使用したが、試験後吸着剤に見られる結合エネルギー200eV付近の塩素のCl 2pピークはきわめて小さい。この結果から、ルテニウムが塩化ルテニウム(III)として析出したのではないことが分かる。試験前の吸着剤に見られる主だったピークはマンガンと酸素であった。一方で、試験後の吸着剤に見られる主だったピークはルテニウムと酸素であり、吸着剤上にルテニウム化合物が析出していることが示唆された。Ru 3dとO 1sのXPSスペクトルを測定し、析出したルテニウム化合物について調べた(
図4,
図5)。Ru 3d
5/2ピークとO 1sピークに着目すると、試験に用いた3価のルテニウムは、RuO
2およびRuO
3といった4価以上の酸化ルテニウムとなって酸化マンガン剤上に吸着したことが示唆された。ルテニウムの酸化を伴う強吸着がルテニウム除去率を高めている可能性がある。
11)上記実施例、比較例、参考例は実験の安全性のために、非放射性ルテニウムを使用した。非放射性ルテニウムも放射性ルテニウムと同じ電子構造、電子的性質を有しており、それらのイオンは同様の吸着特性を示すため、放射性ルテニウムについても同様の結果が得られるものと理解される。
【0122】
上記実施例10〜12、比較例2、参考例2の測定結果を表2に示した。表2において、吸着剤に含まれるマンガン以外の金属を添加第二金属と称した。
【0123】
【表2】
【0124】
表2から以下のようなことが言える。
1)実施例10の吸着剤Aは96%のルテニウム除去率、実施例11の吸着剤Cは99%のルテニウム除去率、実施例12の吸着剤Eは98%のルテニウム除去率を示した。一方で参考例2の吸着剤Hは83%のルテニウム除去率であった。溶液のpHがpH2.8〜3.2からpH5.8〜6.8へと高くなることにより、ルテニウム除去率は高くなる。
2)pH5.8〜6.8であっても、吸着剤の結晶構造としてはα−MnO
2のようなトンネル構造を持ち、トンネルを囲むMnO
6八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造を有するもの又は非晶質又は層状構造を有するものが好ましい。
3)表1、表2は、塩化ルテニウム(III)水溶液を試験液とした結果であり、最高99%という極めて高いルテニウム除去率を示した。塩化ルテニウム(III)水溶液中では、ルテニウムはルテニウムカチオンとして存在していると考えられ、本発明の吸着剤はこのようなルテニウムカチオンに対して極めて高い除去性能を示すと理解される。
4)上記実施例、比較例、参考例は実験の安全性のために、非放射性ルテニウムを使用した。非放射性ルテニウムも放射性ルテニウムと同じ電子構造、電子的性質を有しており、それらのイオンは同様の吸着特性を示すため、放射性ルテニウムについても同様の結果が得られるものと理解される。
【0125】
上記実施例13〜15、比較例3、参考例3の測定結果を表3に示した。表3において、吸着剤に含まれるマンガン以外の金属を添加第二金属と称した。
【0126】
【表3】
【0127】
表3から以下のようなことが言える。
1)本発明の吸着剤、特に実施例14のような銅などの遷移金属を含む吸着剤は54%程度のルテニウム除去率を示した、一方で参考例3の吸着剤Hは6%のルテニウム除去率であった。表1、2のルテニウムカチオンの結果に比べルテニウム除去率はやや低いものの、本発明の吸着剤が有効であることを示している。
2)実施例13の吸着剤Aは39%のルテニウム除去率、実施例14の吸着剤Cは54%のルテニウム除去率、実施例15の吸着剤Eは34%のルテニウム除去率を示した。一方で参考例3の吸着剤Hは6%のルテニウム除去率であった。硝酸ニトロシルルテニウム(III)を吸着処理した場合も、吸着剤の結晶構造としてはα−MnO
2のようなトンネル構造を持ち、トンネルを囲むMnO
6八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造を有するもの又は非晶質又は層状構造を有するものが好ましい。
3)上記実施例、比較例、参考例は実験の安全性のために、非放射性ルテニウムを使用した。非放射性ルテニウムも放射性ルテニウムと同じ電子構造、電子的性質を有しており、それらのイオンは同様の吸着特性を示すため、放射性ルテニウムについても同様の結果が得られるものと理解される。
【0128】
表1〜3の結果より、結晶構造としてα−MnO
2のようなトンネル構造を持ち、トンネルを囲むMnO
6八面体の横方向と縦方向の連結数がともに2以上である構造を有するもの又は非晶質又は層状構造を有する酸化マンガンからなる吸着剤は、他の構造の酸化マンガンに比べて、ルテニウムを高効率で除去できるといえる。吸着剤の種類に関わらず、塩化ルテニウム(III)を使用したルテニウムカチオンのルテニウム除去率より硝酸ニトロシルルテニウム(III)を使用したルテニウム錯イオンのルテニウム除去率は低かった。硝酸ニトロシルルテニウム(III)のようにルテニウム錯イオンは配位子の種類によって吸着剤表面への吸着特性が異なることや、配位子の影響でルテニウムの酸化が起こりづらいといったことが原因で、ルテニウム錯イオンのルテニウム除去率が低かったものと推測される。
【0129】
上記実施例16〜18、比較例4、参考例4の測定結果を表4に示した。この表4において、吸着剤に含まれるマンガン以外の金属を添加第二金属と称した。
【0130】
【表4】
【0131】
表4から以下のようなことが言える。
1)実施例16の吸着剤Aは79%の高いルテニウム除去率を有し、実用的にも高い可能性を示した。実施例17の吸着剤Cは65%のルテニウム除去率、実施例18の吸着剤Eについても70%のルテニウム除去率を示した。一方で、参考例4の吸着剤Hは57%のルテニウム除去率であった。
2)表4に示した本発明の吸着剤と吸着剤Hとのルテニウム除去率の差は、表1〜3に示したそれと比べ小さいものであった。
3)ルテニウム(VI)酸カリウムに含まれるルテニウムは6価なので、塩化ルテニウム(III)や硝酸ニトロシルルテニウム(III)について推測される酸化を伴う吸着とは違ったメカニズムで吸着剤がルテニウム酸カリウムを吸着しているものと予想される。そのためか、塩化ルテニウム(III)や硝酸ニトロシルルテニウム(III)を用いた場合とは異なり、酸化マンガンの構造がルテニウム酸カリウムのルテニウム除去率に及ぼす影響は明確でない。高比表面積であるほどルテニウム酸カリウムのルテニウム除去率が高い可能性がある。
4)上記実施例、比較例、参考例は実験の安全性のために、非放射性ルテニウムを使用した。非放射性ルテニウムも放射性ルテニウムと同じ電子構造、電子的性質を有しており、それらのイオンは同様の吸着特性を示すため、放射性ルテニウムについても同様の結果が得られるものと理解される。