特許第6671376号(P6671376)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6671376改質剤を含む炭素担持触媒及び炭素担持触媒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671376
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】改質剤を含む炭素担持触媒及び炭素担持触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/648 20060101AFI20200316BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20200316BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20200316BHJP
   B01J 37/00 20060101ALI20200316BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20200316BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20200316BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20200316BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20200316BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20200316BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20200316BHJP
【FI】
   B01J23/648 M
   B01J37/04 102
   B01J37/16
   B01J37/00 F
   H01M12/08 K
   H01M4/92
   H01M4/90 M
   H01M4/86 M
   H01M4/86 B
   H01M4/88 K
   !H01M8/10 101
【請求項の数】20
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-533948(P2017-533948)
(86)(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公表番号】特表2018-507097(P2018-507097A)
(43)【公表日】2018年3月15日
(86)【国際出願番号】EP2015080752
(87)【国際公開番号】WO2016102440
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年11月28日
(31)【優先権主張番号】14199646.2
(32)【優先日】2014年12月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ハース,アンドレアス
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−505548(JP,A)
【文献】 SENEVIRATHNE Keerthi, et al.,Nb-doped TiO2/carbon composite supports synthesized by ultrasonic spray pyrolysis for proton exchange membrane(PEM) fuel cell catalysts,Journal of Power Sources,2012年,220,Pages 1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 12/08
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極触媒として使用される炭素担持触媒であって、
− BET表面積が400m/g〜2000m/gの範囲にある炭素含有担体、
− ニオブ及びチタンを含有する少なくとも1種の混合金属酸化物、及び/又は、酸化ニオブ及び酸化チタンを含有する混合物を含む改質剤、
− 触媒活性金属化合物
を含み、
該触媒活性金属化合物が、白金、又は白金と第2の金属を含む合金、又は白金と第2の金属を含む金属間化合物であり、該第2の金属がコバルト、ニッケル、クロム、銅、パラジウム、金、ルテニウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ニオブ、鉄、バナジウム及びチタンからなる群から選択されるものであり、
0.5質量%〜20質量%のニオブ及び0.5質量%〜10質量%のチタンを含む
ことを特徴とする触媒。
【請求項2】
前記炭素担持触媒に含まれるニオブのモル量の、前記炭素担持触媒に含まれるニオブのモル量とチタンのモル量との合計に対する比が0.01〜0.5の範囲にある請求項1に記載の炭素担持触媒。
【請求項3】
10質量%〜50質量%の白金を含む、請求項1又は2に記載の炭素担持触媒。
【請求項4】
前記触媒活性金属化合物がナノ粒子の形態で存在する請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素担持触媒。
【請求項5】
前記改質剤が、ニオブ、チタン及び酸素からなるものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の炭素担持触媒。
【請求項6】
前記炭素担持触媒に含まれる全ての金属が、改質剤及び触媒活性金属化合物に含まれる請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭素担持触媒。
【請求項7】
前記炭素含有担体が、カーボンブラック、グラフェン、グラファイト、活性炭又はカーボンボンナノチューブを含むものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の炭素担持触媒。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の炭素担持触媒を含むことを特徴とする電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極を含むことを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の炭素担持触媒の製造方法であって、
(a)BET表面積が400m/g〜2000m/gの範囲にある炭素含有担体と、少なくとも2種の金属酸化物前駆体、ニオブを含む第1の前駆体及びチタンを含む第2の前駆体と、溶媒とを含む初期混合物を調製し、該初期混合物を乾燥させて中間生成物を得ること、又は初期混合物を該初期混合物が沸騰する温度まで加熱すること、次いで、濾過することによって、前記炭素含有担体の表面上に前記改質剤を析出させる工程と、
(b)触媒活性金属含有前駆体を堆積、析出、及び/又は還元剤で還元することによって、液体媒体中で該中間生成物の表面上に、粒子の形態の触媒活性金属化合物を担持させる工程、
(c)少なくとも200℃の温度で、工程(b)で生成する触媒前駆体を還元雰囲気下で熱処理する工程
からなることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記初期混合物が酸を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記酸がカルボン酸である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(a)の乾燥を噴霧乾燥として行う請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記乾燥を、不活性な乾燥用ガスを用いて行う請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記金属酸化物前駆体の少なくとも1つが、エタノラート、n−プロパノラート、イソプロパノラート、n−ブタノラート、イソブタノラート及びtert−ブタノラートからなる群から選択されるアルコラートであるか、又は、前記金属酸化物前駆体の少なくとも1つが塩化物である請求項10〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒が、アルコール、カルボン酸エステル、アセトン又はテトラヒドロフランである請求項10〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
濾過後に、前記中間生成物を、溶媒を含む洗浄液で洗浄する請求項10〜12,15又は16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
洗浄に使用する前記溶媒が初期混合物中の溶媒と同じである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記洗浄液が、酸、好ましくはカルボン酸をさらに含む請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
工程(b)を実施する前に、水を洗浄液として使用する洗浄工程を実施する請求項10〜19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有担体、改質剤及び触媒的活性な金属化合物を含む炭素担持触媒に関する。本発明は、さらに、炭素担持触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素担持触媒は、例えばプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)に利用されている。PEMFCは、貯蔵された化学エネルギーを電気エネルギーに効率的に変換するために使用される。将来的には、PEMFCの用途は、特に移動体系(モバイル)用途にあることが予想される。電極触媒(electrocatalyst)については、典型的には、炭素担持白金ナノ粒子が使用されている。しかし、依然として、これらのシステムには、活性と安定性に関して更なる改善が必要である。
【0003】
PEMFCにおいて広く採用されている反応条件下では、種々の失活メカニズムの根底には触媒がある。特に、PEMFCのカソードが影響を受ける。例えば、白金は溶解して、触媒上の又はPEMFC内に存在する膜上の別の部位に再堆積する可能性がある。別の白金粒子上へ堆積することにより、当該粒子の直径が増大する。この湯の花(沈殿物)形成(sintering)作用の結果、接近可能な(触媒的活性な)白金金属原子の数が減少し、したがって触媒活性を低下させることになる。更なる湯の花形成作用として、炭素含有担体の表面上で白金粒子が移動することがあり、それに続いて、凝集現象(agglomeration)が起こり、また活性な表面積が損失してしまう可能性がある。さらには、この結果、触媒の活性が低下することになる。
【0004】
このような電極触媒の失活は、第3の成分として改質剤を当該担体及び白金に添加することによって低減させることができることが知られている。例えば、B.R.Camacho、Catalysis Today 220(2013)、36〜43頁には、TiO及びSnOなどの金属酸化物がもつ安定化効果が示されている。
【0005】
K.Sasakiらの概説によれば、ECS Trans.33(2010)、473〜482頁に記載されているように、中でも、Nb、TiO及びSnOは、所望の用途における安定な改質剤になることが期待されている。
【0006】
US2013/164655A1号明細書には、白金と第2の金属との合金又は金属間化合物及び当該第2の金属の酸化物、並びに炭素含有担体からなる触媒が記載されている。第2の金属としては、ニオブ、タンタル、バナジウム、モリブデンが挙げられている。X線回折測定によれば、白金又はPtNb相を除けば、結晶成分は何も含まれていない。白金と炭素のみを含む触媒と比較して、US2013/164655A1に記載されている触媒がもつ利点は、白金含有量のわりには、酸素還元反応に対する活性が高く、同時に、0.1V〜1Vの電位範囲における安定性が高いことである。炭素(カーボン)含有担体にニオブ酸化物を担持させる(loading)には、ゾル−ゲル法が利用されている。非晶質Nbが、触媒前駆体をアルゴン雰囲気中400℃で熱処理することによって形成されている。続いて、白金前駆体化合物として白金(II)アセチルアセトナートを使用して、30質量%の白金を酸化ニオブ含有触媒前駆体に担持させている。また、US2013/164655A1に記載されている別の方法では、酸化ニオブ前駆体及び白金前駆体をゾル−ゲル法によって炭素含有担体上に同時に堆積させている。加水分解速度に影響を及ぼすために、強酸を添加している。
【0007】
炭素含有担体上へ酸化ニオブを堆積させるには、種々の方法が知られている。一例として挙げられるのは、ゾル−ゲル法により基質を担持させることであり、Landauらが「Handbook of Heterogeneous Catalysis」第2版、G.Ertl、H.Knoezinger、F.Schueth、J.Weitkamp(編)、2009年、119〜160頁に記載している。国際純正応用化学連合によれば、ゾル−ゲル法は、ネットワーク(網状構造・組織)を形成するプロセスであると理解されており、液体前駆物質のゾルへの漸進的変化により、溶液からゲルへと変化させ、多くの場合には最終的に乾燥(dry)ネットワークへと変化させるものである。
【0008】
Landauらの文献には、ゲルの形成は、一般に、該当する加水分解性金属組成物を水により加水分解し、縮合することによって生じるものであることが記載されている。また、Viouxらが、Chemistry of Materials 9(1997)、2292〜2299頁に開示しているように、水が存在しない場合の縮合は、アルコラート及びアセタートのような、2種の異なる金属組成物が存在する場合にのみ可能である。金属アルコラート及び酸のみが存在し、水を全く添加しない場合には、金属組成物の縮合は全く期待されず、むしろ当該アルコラート及び酸からエステルが形成されることが予想される。
【0009】
Thin Solid Films誌、227(1996年)、162〜168頁には、N.Oezerらによると、ニオブエタノラートからゲルを形成するのに要する時間は、多くの場合数日間であるが、少量の酢酸が存在する場合には、52日間にもなると記載している。熟成(エージング)はゾル−ゲル法における重要な工程である。その理由は、ゾル粒子が架橋してポリマー構造になるからである。
【0010】
WO2011/038907A2には、白金と、ニオブ又はタンタルのいずれかから選択される金属とからなる金属間化合物相と、当該金属の二酸化物とを含む触媒組成物が記載されている。その触媒の製造に際し、当該金属、白金化合物及び塩基性塩からなる混合物が調製されている。
【0011】
US2010/0068591A1には、導電性材料上に担持されたニオブの酸化物(Nb)及び/又はタンタルの酸化物(Ta)を含む燃料電池触媒が開示されている。この触媒は、炭素担持白金と塩化ニオブ及び還元剤との懸濁液を混合することにより製造されている。その懸濁液は80℃で6時間乾燥させたものである。
【0012】
Lueらは、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー136(2014年)419〜426頁に、NbをドープしたTiO中の電子輸送を向上させることについて記載している。そこではTiOの導電性が不十分であることが論じられているが、炭素含有担体及び/又は白金のような触媒活性金属化合物との相互作用については研究されていない。
【0013】
Ignaszakら、Electrochimica Acta 78(2012年)、220〜228頁には、パラジウム−白金−合金を含有する電極触媒が議論されている。Vulcan XC72に白金−パラジウム合金と混合金属酸化物とを担持させている。そこで使用された炭素粒子について測定した比表面積は176m/gであった。
【0014】
炭素担持触媒の活性及び安定性をさらに高めるためには、炭素担持触媒の組成、特に改質剤の組成を最適化すること、並びに炭素担持触媒の製造プロセスを最適化することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US2013/164655A1
【特許文献2】WO2011/038907A2
【特許文献3】US2010/0068591A1
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】B.R.Camacho、Catalysis Today 220(2013)、36〜43頁
【非特許文献2】K.Sasakiら、ECS Trans.33(2010)、473〜482頁
【非特許文献3】Landauら、「Handbook of Heterogeneous Catalysis」第2版、G.Ertl、H.Knoezinger、F.Schueth、J.Weitkamp(編)、2009年、119〜160頁
【非特許文献4】Viouxら、Chemistry of Materials 9(1997)、2292〜2299頁
【非特許文献5】N.Oezerら、Thin Solid Films、227(1996年)の162〜168頁
【非特許文献6】Lueら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー136(2014年)419〜426頁
【非特許文献7】Ignaszakら、Electrochimica Acta 78(2012年)、220〜228頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的の一つは、活性及び/又は安定性を向上させた炭素担持触媒を提供することである。
【0018】
本発明の更なる目的は、炭素含有担体上に改質剤を均一に分布させることにより、高い比活性及び安定性をもたらす、炭素担持触媒の製造方法を提供することである。改質剤が炭素含有担体上に均一に分布しているために、改質剤と触媒的活性な金属化合物との間の接触面積が大きくなると考えられる。さらに、このプロセスでは、滞留時間が短いことに起因して、空時収率が高い点で経済上の優位性がもたらされる。さらに、熱処理には不燃性ガスだけを使用することが可能であり、連続モードでの製造プロセスの操作を実現することが一層容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例1で製造した炭素担持触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この目的は、炭素担持触媒であって、
− BET表面積が400m/g〜2000m/gの範囲にある炭素含有担体、
− ニオブ及びチタンを含有する少なくとも1種の混合金属酸化物、及び/又は、酸化ニオブ及び酸化チタンを含有する混合物を含む改質剤、
− 触媒活性金属化合物
を含み、該触媒活性金属化合物が、白金、又は白金と第2の金属を含む合金、又は白金と第2の金属を含む金属間化合物であり、該第2の金属がコバルト、ニッケル、クロム、銅、パラジウム、金、ルテニウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ニオブ、鉄、バナジウム及びチタンからなる群から選択されるものであることを特徴とする触媒により達成できる。
【0021】
Nbのような多くの酸化物は電気伝導度が低いものである。電極触媒の改質剤として使用する場合、電気伝導が不十分であると、高電流密度での膜−電極一体構造(アセンブリ)に不利益な性能をもたらす可能性がある。改質剤として触媒に塗布した絶縁性酸化物は、絶縁酸化物上に堆積した触媒活性金属化合物の活性を低下させる可能性がある。酸化ニオブが電気伝導に不十分である点は、本発明に従って酸化チタンを添加することで解消される。ニオブ及びチタンを含む酸化物は、単一金属酸化物に比べて高い導電性を示すものである。さらに、酸化ニオブ改質触媒と比較した場合、同様な触媒活性金属化合物の安定化を得ることができる。
【0022】
さらに、この目的は、炭素担持触媒の製造方法であって、
(a)炭素含有担体と、少なくとも2種の金属酸化物前駆体、ニオブを含む第1の前駆体及びチタンを含む第2の前駆体と、溶媒とを含む初期混合物を調製し、初期混合物を乾燥させて中間生成物を得ること、又は初期混合物を該初期混合物が沸騰する温度まで加熱すること、次いで、濾過することによって、炭素含有担体の表面上に改質剤を析出させる工程と、
(b)触媒活性金属含有前駆体を堆積、析出及び/又は還元剤で還元することによって、液体媒体中で中間生成物の表面上に、粒子の形態の触媒活性金属化合物を担持させる工程、
(c)少なくとも200℃の温度で、工程(b)で生成する触媒前駆体を熱処理する工程
からなることを特徴とする方法によって達成できる。
【0023】
例えば、燃料電池のカソード触媒として使用するため、触媒活性材料は、白金及び白金を含む合金及び/又は金属間化合物から選択する。合金及び/又は金属間化合物に含まれる適切な第2の金属としては、例えばニッケル、コバルト、鉄、バナジウム、チタン、ルテニウム、クロム、スカンジウム、イットリウム、パラジウム、金、ランタン、ニオブ及び銅があり、特には、ニッケル、コバルト及び銅である。白金を含む適切な合金及び/又は金属間化合物は、例えば、PtNi、PtFe、PtV、PtCr、PtTi、PtCu、PtPd及びPtRuからなる群から選択される。白金−ニッケル合金及び/又は金属間化合物、白金−銅合金及び/又は金属間化合物又は白金−コバルト合金及び/又は金属間化合物、又はPtNi、PtCo又はPtCuを含む三元合金及び/又は金属間化合物が特に好ましい。触媒活性金属化合物として合金及び/又は金属間化合物を用いる場合、合金及び/又は金属間化合物中の白金の割合としては、25〜95原子%の範囲が好ましく、より好ましくは40〜90原子%の範囲、より一層好ましくは50〜80原子%の範囲、特には60〜80原子%の範囲である。
【0024】
上記の合金及び/又は金属間化合物の他に、3つ以上の異なる金属、例えば三元合金系を含む合金及び/又は金属間化合物を使用することも可能である。
【0025】
触媒活性金属化合物は、典型的にはpH値が7未満の媒体中で、電気化学的酸素還元反応を触媒する化合物であると理解される。触媒活性金属化合物は白金からなるのが好ましい。また、触媒活性金属化合物の少なくとも一部は、炭素担持触媒中に直径が100μm以下の粒子の形態で存在するのが好ましく、より好ましくは直径が1000nm以下のナノ粒子の形態で存在することである。
【0026】
炭素担体触媒に含まれる触媒活性金属化合物としての白金含有粒子の少なくとも90個数%が、20nm未満、より好ましくは10nm未満、特に好ましくは6nm未満の直径を有することが好ましい。その粒子は、典型的には1nm以上である。
【0027】
炭素担持触媒は、好ましくは10質量%〜50質量%、より好ましくは15質量%〜40質量%、最も好ましくは20質量%〜35質量%の白金を含む。
【0028】
Nbをドープした二酸化チタンが改質剤として好適である。その二酸化チタンは、アナターゼとして存在することが好ましい。改質剤は、ニオブ、チタン及び酸素からなるのが好ましい。この実施形態では、ニオブ及びチタン以外の金属は改質剤に含まれていない。より好ましいのは、炭素担持触媒に含まれる全ての金属が、改質剤及び触媒活性金属化合物に含まれていることである。特に好ましいのは、炭素担持触媒に含まれる全ての金属が白金、ニオブ及びチタンであることである。この実施形態では、炭素担持触媒には、白金、ニオブ及びチタン以外の金属は何も含まれていない。
【0029】
炭素担持触媒は、好ましくはニオブ0.5質量%〜20質量%、より好ましくは0.6質量%〜10質量%、最も好ましくは0.8質量%〜5質量%を含む。また、炭素担持触媒は、好ましくは0.5質量%〜20質量%、より好ましくは0.9質量%〜10質量%、最も好ましくは3質量%〜8質量%のチタンを更に含む。
【0030】
炭素担持触媒に含まれるニオブのモル量の、炭素担持触媒に含まれるニオブのモル量とチタンのモル量の合計に対する比は、好ましくは0.01〜0.5、より好ましくは0.02〜0.2、最も好ましくは0.03〜0.15の範囲である。
【0031】
一実施形態では、炭素含有担体は、カーボンブラック、グラフェン、グラファイト、活性炭又はカーボンナノチューブを含む。より好ましいのは、炭素含有担体が90質量%を超えるカーボンブラックを含むことである。
【0032】
本発明によれば、炭素含有担体のBET表面積は400m/g〜2000m/gの範囲にある。また、炭素含有担体のBET表面積は、好ましくは600m/g〜2000m/gの範囲、より好ましくは1000m/g〜1500m/gの範囲にある。炭素含有担体の表面積が大きくなるほど、より高い活性を持つ炭素担持触媒を得ることができる。BET表面積は、DIN ISO 9277:2014−01に従って測定することができる。例えば、炭素含有担体Black Pearls(登録商標)2000の表面積は約1389m/gである。
【0033】
炭素含有担体は、安定性、導電性及び高い比表面積を付与するものである必要がある。導電性カーボンブラックは、炭素含有担体として特に好ましく使用される。通常使用されるカーボンブラックとしては、例えばファーネスブラック、フレームブラック又はアセチレンブラックがある。特に好適なものは、例えばBlack Pearls(登録商標)2000として入手可能なファーネスブラックである。
【0034】
本発明は、さらに、炭素担持触媒を含む電極及び該電極を含む燃料電池に関する。
【0035】
炭素担持触媒を製造する本発明の方法の最初の工程(a)では、炭素含有担体の表面に改質剤を付着又は担持させる。乾燥に供される初期混合物は、炭素含有担体、(前記少なくとも1種の混合金属酸化物及び/又は酸化ニオブ及び酸化チタンを含有する前記混合物に転化される)少なくとも2種の金属酸化物前駆体、及び溶媒を含む。乾燥により得られた固形物を、さらに中間生成物として加工する。この中間生成物が改質剤を担持した炭素含有担体である。本発明に関連して、乾燥する工程には、水を除去すること、及び固形物から有機溶媒を除去することが含まれるものと理解される。
【0036】
上記の少なくとも2種の金属酸化物前駆体は、それぞれ、アルコラート又はハロゲン化物であることが好ましい。好適なアルコラートは、エタノラート、n−プロパノラート、イソプロパノラート、n−ブタノラート、イソブタノラート及びtert−ブタノラートであり、特に好ましいのは、それぞれ、ニオブ(V)エトキシド及びチタン(IV)n−ブトキシドである。塩化物(クロリド)は好適なハロゲン化物である。含まれている金属、すなわち、ニオブ又はチタンを除いては、上記の少なくとも2種の金属酸化物前駆体は、同じ組成又は異なる組成を有することができる。
【0037】
上記溶媒には、好ましくは、アルコール、カルボン酸エステル、アセトン又はテトラヒドロフランが含まれる。2−プロパノールが初期混合物の溶媒として好適なアルコールである。最も好ましいのは、溶媒が少なくとも98体積%の2−プロパノールを含むことである。
【0038】
好適な実施形態においては、初期混合物は、水を2質量%未満、好ましくは1質量%未満、特に好ましくは0.5質量%未満、最も好ましくは0.2質量%未満含む。この実施形態では、初期混合物中に存在する少量の残留水は、初期混合物中に存在する成分の少なくとも1種の一部として初期混合物中に導入されたものである。例えば、溶媒又は炭素含有担体は、その純度が限られたものとして商業的に入手可能であり、少量の水を含んでいる可能性があるからである。市販の炭素含有担体は、貯蔵条件に応じて、例えば最大で5質量%までの、一般的には最大で2質量%までの、好ましくは最大で1質量%までの水を含む場合がある。この実施形態では、追加の水を、初期混合物に又は初期混合物に添加する成分に加えることはない。
【0039】
別の好適な実施形態では、初期混合物には、最大で20質量%までの水、好ましくは2質量%〜10質量%の水、特に好ましくは3質量%〜8質量%の水が含まれる。この別の実施形態では、水は、初期混合物の独立した成分であって、追加的に添加されたものである。
【0040】
初期混合物としては、酸を含むことが好ましい。当該酸は、好ましくはカルボン酸である。好ましくは、その酸のpKa値は3以上である。特に好適な態様においては、酸は酢酸である。初期混合物中に酸が存在すると、溶液中で改質剤前駆体が安定化し、初期混合物を乾燥させる前に、初期混合物中に不要の固体又はゲルが形成するのを回避できる。
【0041】
初期混合物は、通常、1質量%〜30質量%、好ましくは2質量%〜6質量%の範囲の炭素含有量を有する。
【0042】
好ましくは、改質剤前駆体に含まれるニオブとチタンとの合計の、初期混合物中の炭素含有担体に含まれる炭素に対するモル比は0.005〜0.13、より好ましくは0.01〜0.1である。
【0043】
工程(a)における乾燥工程は噴霧(スプレー)乾燥によって行うのが好ましい。
【0044】
初期混合物を噴霧乾燥することにより、改質剤を炭素含有担体の表面全体に極めて均質に、微細に、一様に分布させることができる。改質剤が均質に分布する場合には、改質剤と粒子からなる触媒活性金属化合物との間の界面を大きくすることができ、これにより密接な接触がもたらされる。このことは、中間生成物の表面に担持された触媒活性金属化合物が溶解しないように、これを効果的に安定化させるのに重要である。製造した炭素担持触媒は、電気化学的溶解に対する安定性が増加することを示している。したがって、溶解した触媒活性金属化合物が、炭素担持触媒の表面上に存在する粒子からなる別の触媒活性金属化合物へ再堆積することが抑制される。このような堆積が起こると、担持された粒子からなる触媒活性金属化合物の大きさが増大することになる。このように粒子の大きさが大きくなることは不都合なことである。何故なら、触媒活性金属化合物の質量に対する比活性が低減するからである。同時に、噴霧乾燥を適用するときには、滞留時間を短縮化でき、また空時収量を高めることができる。
【0045】
乾燥する工程は、不活性の乾燥用ガスを用いて、かつ、60℃〜300℃、特に好ましくは100℃〜260℃、最も好ましくは150℃〜220℃の乾燥用ガス温度で行うことが好ましい。不活性の乾燥用ガスとは、初期混合物の各成分に対する反応性が低いガスであると理解される。乾燥用ガス温度としては、空気中で180℃の温度で蒸発する各成分中の残渣が、乾燥後に固体中に30質量%未満の含有量で存在するように選択することが好ましい。乾燥機、好ましくは噴霧乾燥機の排気ガスの温度は、好ましくは50℃〜160℃、特に好ましくは80℃〜120℃、最も好ましくは90℃〜110℃の範囲にある。
【0046】
噴霧乾燥は、二流体ノズル、圧力ノズル又は遠心噴霧器(アトマイザー)を用いて行うのが好ましい。二流体ノズルを有する噴霧乾燥機のノズルの直径は、好ましくは1mm〜10mm、特に好ましくは1.5mm〜5mm、最も好ましくは2mm〜3mmである。二流体ノズルの場合、ノズル圧力は、好ましくは1.5バール〜10バール(絶対圧)、特に好ましくは2バール〜5バール(絶対圧)、最も好ましくは3バール〜4バール(絶対圧)である。
【0047】
更なる好適な実施形態では、噴霧乾燥を向流方式で実施する。この場合、作業容積を削減する利点がある。
【0048】
別の更なる好適な実施形態では、噴霧乾燥機の乾燥ゾーンでの固形物の滞留時間を3分未満、好ましくは2分未満、特に好ましくは1分未満として、噴霧乾燥を行う。実験室規模では、噴霧乾燥機のノズルと固形物の分離装置との間の距離が典型的には1m以下であり、滞留時間は好ましくは1分より短く、特に好ましくは30秒未満である。工業規模では、滞留時間は好ましくは2分未満であり、特に好ましくは1分未満である。滞留時間が短いと、プロセスの空時収率が高まるという利点が供され、したがって効果的な生産がもたらされる。滞留時間が比較的短いことから、実質的なゲル形成は予測できない。さらに、初期混合物から液体成分を迅速に除去することにより、炭素含有担体の表面上に改質剤を微細に及び均一に分布させることが促進されることになる。対照的に、数時間かけて初期混合物の液体成分をゆっくりと除去すると、炭素含有担体の表面上の改質剤の分布がより不均一なものとなる。この原因は、溶剤がゆっくりと蒸発している間に反応物質の濃度分布が不均一になること、また、気/液界面の領域で改質剤前駆体濃度が局所的に増加することによるものと考えられる。
【0049】
中間生成物としての固形物は、乾燥させた後に、サイクロンにより分離するのが好ましい。工業的規模では、この目的のためにフィルターを利用することができ、これにより、結露を防止する目的で当該フィルターを一定温度まで加熱することができる。
【0050】
別の実施形態では、初期混合物を該初期混合物が沸騰する温度に加熱し、続いて濾過し、溶媒を含む洗浄液で洗浄することによって中間生成物を得ている。初期混合物を加熱するに当たり、当業者に知られている任意のヒーターを使用することができる。好適なヒーターは、加熱媒体、例えば熱媒油又は蒸気と間接的に作動するヒーターである。一般に、初期混合物の加熱は、68〜150℃の範囲の、好ましくは80〜120℃の範囲の温度で、20分〜24時間、好ましくは30分〜8時間行う。
【0051】
加熱後、その混合物を、好ましくは室温まで冷却し、次いで濾過し、洗浄する。濾過工程には、混合物から固体の中間体生成物を除去するのに適した任意のフィルターを使用することができる。
【0052】
液体成分の残り分を除去するために、好適な実施形態では、濾過した中間生成物を、溶媒を含む洗浄液で洗浄する。当該溶媒は、初期混合物に使用する溶媒に相当するものであることが好ましい。初期混合物が更に酸、特にカルボン酸を含む場合、洗浄液は溶媒と酸とを含む混合物であるのが好ましい。当該酸は、初期混合物中の酸と同じ酸であることが好ましい。
【0053】
工程(a)で得た中間生成物は、0.1μm〜10μmの平均直径を有する固体粒子を得るように粉砕することができる。触媒活性金属化合物が担持された(loaded)中間生成物の粒子は、好ましくは0.1μm〜5μmの平均直径を有する。
【0054】
一実施形態では、工程(a)で乾燥させた後、又は洗浄液で洗浄した後、中間生成物を水で洗浄し、また、工程(b)で触媒活性金属化合物を担持させる前に、乾燥させて、触媒活性金属化合物を担持プロセスを妨害する可能性のある溶媒及び酸残留物を除去する。洗浄工程は、安定で活性な生成炭素担持触媒には必須ではないが、触媒活性金属化合物の分布を均一化し、また触媒活性金属化合物の粒径を小さくするには有利である。
【0055】
次に続く工程(b)においては、改質剤が既に担持された中間生成物の表面に、触媒活性金属化合物をさらに担持させる。
【0056】
担体表面上又は中間生成物上へ触媒活性金属化合物を付着塗布するには、当業者に公知の任意の方法によって行うことができる。したがって、例えば、触媒活性金属化合物は、溶液から堆積(deposition)させることによって付着させることができる。この目的のために、例えば、触媒活性金属化合物を溶媒に溶解することが可能である。その金属は、共有結合、イオン結合又は錯体化によって結合させることができる。さらに、当該金属を還元的に、前駆体として、又は対応する水酸化物の析出によって堆積させることも可能である。触媒活性金属化合物を堆積させる更なる可能性としては、触媒活性金属化合物を含む溶液を用いる含浸法(初期湿潤incipient wetness)、化学蒸着(CVD)又は物理蒸着(PVD)、及び、その他に、触媒活性金属化合物を堆積させることができる、当業者に知られた全てのプロセスが挙げられる。白金が触媒活性金属化合物に含まれることから、当該金属の塩を還元的に沈殿させることが好ましい。
【0057】
好ましい実施形態では、触媒活性金属化合物を中間生成物の表面に担持させるために、触媒活性金属含有前駆体を、好ましくは白金(II)水酸化物又は白金(IV)水酸化物を液体媒体中で中間生成物の表面上に堆積させ、還元剤を液体媒体に添加し触媒活性金属含有前駆体を還元する。
【0058】
還元剤としては、種々の化合物、例えば、エタノール又は2−プロパノールのようなアルコール、ギ酸、ギ酸ナトリウム、ギ酸アンモニウム、アスコルビン酸、グルコース、エチレングリコール又はクエン酸から選択することができる。アルコール、特にエタノールが好ましい。触媒活性金属含有前駆体を還元剤で析出させることにより、炭素含有担体の表面上全体にわたって均質に触媒活性金属化合物を分布させることができる。その理由は、堆積が、炭素含有担体の表面上に既に存在する改質剤を選択的に対象として行うものではないからである。
【0059】
更なる別の好適な実施形態では、触媒活性金属化合物は、当業者に知られている任意の方法によって中間生成物の表面上に直接担持される。中間生成物の表面へ触媒活性金属化合物を担持させる一具体例としては、中間生成物に白金(II)アセチルアセトナートを含浸させ、これを還元雰囲気中で熱処理することによって還元させる方法がある。
【0060】
触媒活性金属化合物を析出により付着させる場合、例えば、NHOOCH又はNaBHによる還元的析出を利用すること、例えばエタノールによる硝酸白金からの白金の還元的析出を利用することが可能である。代替手段として、例えば中間生成物と混合した白金アセチルアセトナートをH/N中で分解及び還元することも可能である。極めて特に有利なのは、エタノールによる還元的析出である。更なる実施形態では、還元的析出をギ酸により行う。
【0061】
好ましくは、改質剤前駆体に由来し、かつ、中間生成物に含まれるニオブとチタンとの合計の、液体媒体中に含まれる白金に対するモル比は、0.05〜2.0の間、好ましくは0.2〜1.5の間である。
【0062】
一実施形態においては、液体媒体中で触媒活性金属化合物が中間生成物の表面の表面上に担持されるのであるが、その液体媒体は水を含むものである。液体媒体中の含水量は、好ましくは50質量%より大きく、特に好ましくは70質量%より大きい。しかし、別法として、その液体媒体は水を含まないことも可能である。
【0063】
炭素含有担体の表面に改質剤及び触媒活性金属化合物を担持させて触媒前駆体を得たら、その触媒前駆体を第3の工程(c)で少なくとも200℃の温度で熱処理する。工程(c)における熱処理は、主に改質剤に影響を与え、それにより、改質剤と触媒活性金属化合物との間の相互作用をさらに安定化させ、ひいては電気化学的溶解及び/又は沈殿物形成(sintering)に対して一層安定な触媒活性金属化合物をもたらすものである。
【0064】
触媒前駆体については、熱処理する前に200℃未満の温度で乾燥させることが好ましい。
【0065】
熱処理は、少なくとも400℃の温度で行うことが好ましい。少なくとも550℃の温度がより好ましく、少なくとも600℃の温度が特に好ましい。780℃〜820℃の温度が最も好ましい。
【0066】
工程(c)における熱処理は、還元性雰囲気中で、より好ましくは水素を含む還元性雰囲気中で行うことが好ましい。還元性雰囲気には、好ましくは、30質量%未満、特に好ましくは20質量%未満の水素が含まれる。特に好適な実施形態では、還元性雰囲気には、わずかに最大で5体積%の水素が含まれるにすぎない。このように水素濃度が低いことから、還元性雰囲気は不燃性ガス混合物であり、したがってプラント建設のための投資コスト及びプラント運転のコストを削減することができる。工程(c)における熱処理中、還元成分を含まない不活性ガスの存在下では、還元工程よりも乾燥工程が優勢である。酸素の存在下では、触媒活性金属化合物に不動態化が起こり、この不動態化は典型的には、熱処理した後に生じるものである。
【0067】
熱処理は炉内で実施することができる。適切な炉としては、例えば、ロータリーバルブ炉がある。ロータリーバルブ炉はバッチ運転又は連続運転のいずれかで使用することができる。炉を用いることとは別に、プラズマを使用すること、又はマイクロ波操作を活用することも、加熱を行うのに可能である。
【0068】
一つのプロセスで噴霧乾燥と組み合わせて連続運転可能な炉を使用することにより、炭素担持触媒を製造する連続的プロセスを企画することが可能となる。
【0069】
炭素担持触媒は、例えば、電池、燃料電池又は電解セルなどの電気化学セルに使用する電極を製造するのに使用することができる。触媒はアノード側とカソード側の両方で使用することができる。特にカソード側では、劣化に対して安定な活性カソード触媒を使用することが必要であり、その安定性は、溶解、粒子成長及び粒子移動に対する、担体自体の安定性と触媒活性金属化合物の安定性との双方によって判定されるが、触媒活性金属化合物と担体表面との相互作用の影響を受ける。具体的な応用例は、燃料電池、例えばプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)、直接メタノール燃料電池(DMFC)、直接エタノール燃料電池(DEFC)などにおける電極の使用である。そのような燃料電池の応用分野としては、例えば家庭用燃料電池システム用の局所的エネルギーの発生、及び、例えば自動車での利用のような移動手段での用途がある。特に好ましいのは、PEMFCに使用することである。
【0070】
炭素担持触媒の更なる触媒的用途は、金属空気電池などにおけるカソード触媒(酸素発生反応(OER)用、及び、好ましくは酸素還元反応(ORR)用の両方)として用いることである。
【実施例】
【0071】
実施例及び比較例
I.炭素担持触媒の調製
実施例
酸化チタン中に度合いが異なる三通りのニオブドーピングした本発明の触媒を調製した。炭素担持触媒に含まれるニオブのモル量の、炭素担持触媒に含まれるニオブのモル量とチタンのモル量との合計に対する比(nNb/(nNb+nTi)は、実施例1〜3につき、それぞれ、0.08、0.05、0.46であった。
【0072】
実施例1
1a)混合ニオブ酸化チタン(mixed niobium titanium oxide)の炭素上への析出
炭素60g(Black Pearls(登録商標)2000、Cabot社製)、純度100%の酢酸455g、純度99.7%の2−プロパノール676g、金属含有量に基づいて、純度99.95%のニオブ(V)エトキシド10.4g、及び純度99%のチタン(IV)n−ブトキシド100gから1種の混合物を調製した。各成分を均質化するために、超音波処理を10分間適用した。その混合物を噴霧乾燥機で乾燥させた。混合物の沈降を防止するために、攪拌しながら噴霧塔に搬送した。噴霧乾燥すべき混合物の流速は636g/hであり、噴霧乾燥機のノズルの直径は1.4mmであり、ノズル圧力は3.5バール絶対圧、ノズルガスは窒素、ノズルガスの体積流量は3.5Nm/h、ノズルガスの温度は室温、乾燥用ガスは窒素、乾燥用ガスの体積流量は25Nm/h、乾燥用ガスの温度は190℃、噴霧乾燥機での滞留時間は15秒であった。粒子分離に当たっては、直径が少なくとも10μmの粒子を分離することができるサイクロンを使用した。噴霧乾燥機の排ガス温度に相当する、サイクロンの温度は102℃〜104℃であった。上記製造工程の全ては湿気を排除して実施した。上記のいずれの製造工程においても余分な水を添加することはなく、噴霧乾燥の対象となる混合物は窒素雰囲気中で調製した。
【0073】
元素分析は、噴霧乾燥した粒子を基準として、1.3質量%のニオブ含有量、及び6.5質量%のチタン含有量を示した。分析目的で180℃の空気流中で乾燥する間に、28.7質量%の質量損失が測定された。
【0074】
1b)洗浄
残留有機化合物を洗浄によって除去した。工程1a)で得られた固形物71gをフィルター上に置き、水を加えた。全容積7Lの水を洗浄に使用した。その後、洗浄した固体を80℃の真空オーブンで10時間乾燥させた。
【0075】
元素分析によると、洗浄し乾燥した固体を基準にして、1.7質量%のニオブ含有量及び7.7質量%のチタン含有量を示した。分析目的で180℃の空気流中で乾燥する間に、12.2質量%の質量損失が測定された。
【0076】
1c)白金の堆積
白金の堆積のために、工程1b)で得た固体15gをULTRA−TURRAX(登録商標)を用いて412mLの水に懸濁させた。次いで、161mLの水中の10.95gの硝酸白金(II)の溶液を添加した。撹拌しながら、354mLのエタノールと487mLの水との混合物を加え、懸濁液を82℃に加熱した。82℃で6時間後、懸濁液を室温まで冷却し、濾過し、固体残留物を6Lの水で洗浄した。生成した固体を80℃の真空オーブンで乾燥させた。
【0077】
1d)800℃での熱処理
工程1c)で生成した固体12gを回転式チューブ炉内で熱処理した。95体積%の窒素及び5体積%の水素を含むガス流中で、温度を10ケルビン(Kelvin)/分ずつ800℃まで上昇させた。800℃の温度に達したとき、温度を1時間一定に保った。続いて、炉の内部を室温に冷却し、50℃未満の温度で、そのガス流を100体積%の窒素を含む流れに切り替えた。次いで、熱処理した固体を、9体積%の空気と91体積%の窒素とを含むガス流で12時間不動態化して、炭素担持触媒を形成させた。空気は、典型的には、約78体積%の窒素と21体積%の酸素を含むものである。
【0078】
元素分析により、炭素担持触媒を基準にして、1.0質量%のニオブ含有量、5.8質量%のチタン含有量及び33質量%の白金含有量を測定した。
【0079】
炭素担持触媒について粉末X線回折法によりさらに分析を行った。シェラー(Scherrer)の式を適用した粉末X線回折測定結果から、炭素担持触媒に含まれる白金の平均微結晶サイズを計算した。3.2nmと32nmの二峰性分布が、白金微結晶について測定された。TEM結果を併用する、この積分法によれば、大部分の白金粒子が約3nmの小さなサイズであり、さらに約32nmの平均微結晶サイズを有するより大きな白金粒子群が存在することを示した。さらに、粉末X線回折法により、炭素担持触媒にTiOの結晶学的相(アナターゼ)が観察された。
【0080】
図1は、実施例1で製造した炭素担持触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた写真を示す。その透過型電子顕微鏡にエネルギー分散型X線分光分析(EDX)分析を併用した。最初の画像(高角度環状暗視野、HAADF)は、試料中の電子密度を基準とした、材料密度の分布の概要を示す。白金は最も高いコントラストを示し、灰色の領域は炭素、並びにニオブ及びチタンの酸化物に帰属する。他の3つの画像には、単一元素のニオブ、白金及びチタンの分布が別々に示されている。全ての画像に比較用目盛90nmが与えられている。白金、ニオブ及びチタンの各元素は、炭素担持触媒の表面上に均一に分布していた。
【0081】
実施例2
2a)混合ニオブ酸化チタン(mixed niobium titanium oxide)の炭素上への析出
炭素60g(Black Pearls(登録商標)2000、Cabot社製)、純度100%の酢酸455g、純度99.7%の2−プロパノール676g、金属含有量に基づいて、純度99.95%のニオブ(V)エトキシド4.92g、及び純度99%のチタン(IV)n−ブトキシド100gから1種の混合物を調製した。各成分を均質化するために、超音波処理を10分間適用した。その混合物を噴霧乾燥機で乾燥させた。混合物の沈降を防止するために、攪拌しながら噴霧塔に搬送した。噴霧乾燥すべき混合物の流速は743g/hであり、噴霧乾燥機のノズルの直径は1.4mmであり、ノズル圧力は3.5バール絶対圧、ノズルガスは窒素、ノズルガスの体積流量は3.5Nm/h、ノズルガスの温度は室温、乾燥用ガスは窒素、乾燥用ガスの体積流量は25Nm/h、乾燥用ガスの温度は190℃、噴霧乾燥機での滞留時間は15秒であった。粒子分離に当たっては、直径が少なくとも10μmの粒子を分離することができるサイクロンを使用した。噴霧乾燥機の排ガス温度に相当する、サイクロンの温度は101℃〜104℃であった。上記製造工程の全ては湿気を排除して実施した。上記のいずれの製造工程においても余分な水を添加することはなく、噴霧乾燥の対象となる混合物は窒素雰囲気中で調製した。
【0082】
元素分析は、噴霧乾燥した粒子を基準として、0.6質量%のニオブ含有量、及び5.6質量%のチタン含有量を示した。分析目的で180℃の空気流中で乾燥する間に、31質量%の質量損失が測定された。
【0083】
2b)洗浄
残留有機化合物を洗浄によって除去した。工程2a)で得られた固形物71gをフィルター上に置き、水を加えた。全容積7Lの水を洗浄に使用した。その後、洗浄した固体を80℃の真空オーブンで10時間乾燥させた。
【0084】
元素分析によると、洗浄し乾燥した固体を基準にして、0.9質量%のニオブ含有量及び8.6質量%のチタン含有量を示した。分析目的で180℃の空気流中で乾燥する間に、4.1質量%の質量損失が測定された。
【0085】
2c)白金の堆積
白金の堆積のために、工程2b)で得た固体15gをULTRA−TURRAX(登録商標)を用いて414mLの水に懸濁させた。次いで、159mLの水中の10.95gの硝酸白金(II)の溶液を添加した。撹拌しながら、354mLのエタノールと487mLの水との混合物を加え、懸濁液を82℃に加熱した。82℃で6時間後、懸濁液を室温まで冷却し、濾過し、固体残留物を6Lの水で洗浄した。生成した固体を80℃の真空オーブンで乾燥させた。
【0086】
2d)800℃での熱処理
工程2c)で生成した固体15gを回転式チューブ炉内で熱処理した。95体積%の窒素及び5体積%の水素を含むガス流中で、温度を10ケルビン/分ずつ800℃まで上昇させた。800℃の温度に達したとき、温度を1時間一定に保った。続いて、炉の内部を室温に冷却し、50℃未満の温度で、そのガス流を100体積%の窒素を含む流れに切り替えた。次いで、熱処理した固体を、9体積%の空気と91体積%の窒素とを含むガス流で12時間不動態化して、炭素担持触媒を形成させた。
【0087】
元素分析により、炭素担持触媒を基準にして、0.58質量%のニオブ含有量、6.2質量%のチタン含有量及び30質量%の白金含有量を測定した。
【0088】
炭素担持触媒について粉末X線回折法によりさらに分析を行った。シェラー(Scherrer)の式を適用した粉末X線回折測定結果から、炭素担持触媒に含まれる白金の平均微結晶サイズを計算した。3.2nmと32nmの二峰性分布が、白金微結晶サイズについて測定された。さらに、粉末X線回折法により、炭素担持触媒にTiOの結晶学的相(アナターゼ)が観察された。
【0089】
実施例3
3a)混合ニオブ酸化チタン(mixed niobium titanium oxide)の炭素上への析出
炭素60g(Black Pearls(登録商標)2000、Cabot社製)、純度100%の酢酸455g、純度99.7%の2−プロパノール676g、金属含有量に基づいて、純度99.95%のニオブ(V)エトキシド43.49g、及び純度99%のチタン(IV)n−ブトキシド46.51gから1種の混合物を調製した。各成分を均質化するために、超音波処理を10分間適用した。その混合物を噴霧乾燥機で乾燥させた。混合物の沈降を防止するために、攪拌しながら噴霧塔に搬送した。噴霧乾燥すべき混合物の流速は516g/hであり、噴霧乾燥機のノズルの直径は1.4mmであり、ノズル圧力は3.5バール絶対圧、ノズルガスは窒素、ノズルガスの体積流量は3.5Nm/h、ノズルガスの温度は室温、乾燥用ガスは窒素、乾燥用ガスの体積流量は25Nm/h、乾燥用ガスの温度は190℃、噴霧乾燥機での滞留時間は15秒であった。粒子分離に当たっては、直径が少なくとも10μmの粒子を分離することができるサイクロンを使用した。噴霧乾燥機の排ガス温度に相当する、サイクロンの温度は100℃〜107℃であった。上記製造工程の全ては湿気を排除して実施した。上記のいずれの製造工程においても余分な水を添加することはなく、噴霧乾燥の対象となる混合物は窒素雰囲気中で調製した。
【0090】
元素分析は、噴霧乾燥した粒子を基準として、5.3質量%のニオブ含有量、及び2.8質量%のチタン含有量を示した。分析目的で180℃の空気流中で乾燥する間に、26質量%の質量損失が測定された。
【0091】
3b)洗浄
残留有機化合物を洗浄によって除去した。工程3a)で得られた固形物71gをフィルター上に置き、水を加えた。全容積7Lの水を洗浄に使用した。その後、洗浄した固体を80℃の真空オーブンで10時間乾燥させた。
【0092】
元素分析によると、洗浄し乾燥させた固体を基準にして、6.4質量%のニオブ含有量及び3.9質量%のチタン含有量を示した。分析目的で180℃の空気流中で乾燥する間に、14.3質量%の質量損失が測定された。
【0093】
3c)白金の堆積
白金の堆積のために、工程3b)で得た固体15gをULTRA−TURRAX(登録商標)を用いて414mLの水に懸濁させた。次いで、159mLの水中の10.95gの硝酸白金(II)の溶液を添加した。撹拌しながら、354mLのエタノールと487mLの水との混合物を加え、懸濁液を82℃に加熱した。82℃で6時間後、懸濁液を室温まで冷却し、濾過し、固体残留物を6Lの水で洗浄した。生成した固体を80℃の真空オーブンで乾燥させた。
【0094】
3d)800℃での熱処理
工程3c)で生成した固体15gを回転式チューブ炉内で熱処理した。95体積%の窒素及び5体積%の水素を含むガス流中で、温度を10ケルビン/分ずつ800℃まで上昇させた。800℃の温度に達したとき、温度を1時間一定に保った。続いて、炉の内部を室温に冷却し、50℃未満の温度で、そのガス流を100体積%の窒素を含む流れに切り替えた。次いで、熱処理した固体を、9体積%の空気と91体積%の窒素とを含むガス流で12時間不動態化して、炭素担持触媒を形成させた。
【0095】
元素分析により、炭素担持触媒を基準にして、4.7質量%のニオブ含有量、2.9質量%のチタン含有量及び34質量%の白金含有量を測定した。
【0096】
炭素担持触媒について粉末X線回折法によりさらに分析を行った。シェラー(Scherrer)の式を適用した粉末X線回折測定結果から、炭素担持触媒に含まれる白金の平均微結晶サイズを計算した。2.9nmと27nmの二峰性分布が、白金微結晶サイズについて測定された。さらに、粉末X線回折法により、炭素担持触媒にTiOの結晶学的相(アナターゼ)が観察された。
【0097】
実施例4
4a)炭素上への混合ニオブ酸化チタンの反応性堆積
炭素15g(Black Pearls(登録商標)2000、Cabot社製)、純度100%の酢酸114g、純度99.7%の2−プロパノール169g、金属含有量に基づいて、純度99.95%のニオブ(V)エトキシド2.61g、及び純度99%のチタン(IV)n−ブトキシド24.99gから1種の混合物を調製した。この混合物を、マグネチックスターラー、オイルバス及び水冷凝縮器を備えたフラスコに移した。窒素でパージした後、混合物を94℃で1時間加熱還流した。混合物を室温に冷却し、濾過し、純度100%の酢酸570g、純度99.7%の2−プロパノール845gの混合物で洗浄した。その後、濾液のpHが7になるまで60℃の水で粉末を洗浄した。洗浄した固体を80℃の真空オーブンで10時間乾燥させた。
【0098】
乾燥した固体の元素分析によると、1.4質量%のニオブ含有量及び6.8質量%のチタン含有量を示した。分析目的で180℃の空気流中で乾燥させる間に、1.1質量%の質量損失が測定された。
【0099】
4c)白金の堆積
白金の堆積のために、工程4b)で得た固体10gをULTRA−TURRAX(登録商標)を用いて276mLの水に懸濁させた。次いで、106mLの水中の7.30gの硝酸白金(II)の溶液を添加した。撹拌しながら、236mLのエタノールと326mLの水との混合物を加え、懸濁液を82℃に加熱した。82℃で6時間後、懸濁液を室温まで冷却し、濾過し、固体残留物を6Lの水で洗浄した。生成した固体を80℃の真空オーブンで乾燥させた。
【0100】
4c)800℃での熱処理
工程3c)で生成した固体15gを回転式チューブ炉内で熱処理した。95体積%の窒素及び5体積%の水素を含むガス流中で、温度を10ケルビン/分ずつ800℃まで上昇させた。800℃の温度に達したとき、温度を1時間一定に保った。続いて、炉の内部を室温に冷却し、50℃未満の温度で、そのガス流を100体積%の窒素を含む流れに切り替えた。次いで、熱処理した固体を、9体積%の空気と91体積%の窒素とを含むガス流で12時間不動態化して、炭素担持触媒を形成させた。
【0101】
元素分析により、炭素担持触媒を基準にして、0.96質量%のニオブ含有量、4.8質量%のチタン含有量及び28質量%の白金含有量を測定した。
【0102】
炭素担持触媒について粉末X線回折法によりさらに分析を行った。シェラー(Scherrer)の式を適用した粉末X線回折測定結果から、炭素担持触媒に含まれる白金の平均微結晶サイズを計算した。3.1nmと29nmの二峰性分布が、白金微結晶サイズについて測定された。さらに、粉末X線回折法により、炭素担持触媒にTiOの結晶学的相(アナターゼ)が観察された。
【0103】
比較例
比較例1
C1a)未改質炭素上への白金の堆積
20gのBlack Pearls(登録商標)2000を、ULTRA−TURRAX(登録商標)を用いて550mLの水に懸濁させた。次いで、215mLの水中の14.6gの硝酸白金(II)の溶液を添加した。攪拌しながら、471mLのエタノールと650mLの水との混合物を懸濁液に加え、懸濁液を82℃に加熱した。82℃で6時間後、懸濁液を室温に冷却し、濾過し、固体残留物を6Lの水で洗浄した。生成した固体を80℃の真空オーブン中で乾燥させた。
【0104】
元素分析により、比較例1で生成した触媒を基準にして、28.1質量%の白金含有量を測定した。生成した触媒をX線回折法により分析し、Scherrer式を適用して白金の平均微結晶サイズを計算した。1.8及び6.5nmの二峰性分布が得られた。
【0105】
比較例2
C2a)炭素上への酸化ニオブの析出
炭素(Black Pearls(登録商標)2000、Cabot社製)120g、純度100%の酢酸1090g、純度99.7%の2−プロパノール1217g、金属含有量に基づいて、純度99.95%のニオブ(V)エトキシド104.9gから混合物を調製した。各成分を均質化するために、超音波処理を10分間適用した。その混合物を噴霧乾燥機で乾燥させた。混合物の沈降を防止するために、攪拌しながら噴霧塔に搬送した。噴霧乾燥すべき混合物の流速は700g/hであった。噴霧乾燥機のノズルの直径は2.3mmであり、ノズル圧力は3.5バール絶対圧、ノズルガスは窒素、ノズルガスの体積流量は3.5Nm/h、ノズルガスの温度は室温、乾燥用ガスは窒素、乾燥用ガスの体積流量は25Nm/h、乾燥用ガスの温度は190℃、噴霧乾燥機での滞留時間は15秒であった。粒子分離に当たっては、直径が少なくとも10μmの粒子を分離することができるサイクロンを使用した。噴霧乾燥機の排ガス温度に相当する、サイクロンの温度は101℃〜103℃であった。上記製造工程の全ては湿気を排除して実施した。上記のいずれの製造工程においても余分な水を添加することはなく、噴霧乾燥の対象となる混合物は窒素雰囲気中で調製した。
【0106】
元素分析により、噴霧乾燥した固体を基準にして、10.6質量%のニオブ含有量が観察された。分析目的で180℃の空気流中で乾燥させる間に、24.0質量%の質量損失が測定された。
【0107】
C2b)白金の堆積
工程C2a)で得た固体20gをULTRA−TURRAX(登録商標)を用いて444mLの水に懸濁させた。次いで、174mLの水中の11.98gの硝酸白金(II)の溶液を添加した。撹拌しながら、380mLのエタノールと524mLの水との混合物を加え、懸濁液を82℃に加熱した。82℃で6時間後、懸濁液を室温に冷却し、濾過し、固体残留物を6Lの水で洗浄した。生成した固体を80℃の真空オーブン中で乾燥させた。
【0108】
C2c)800℃での熱処理
工程C2b)で生成した固体を、それぞれ9.1g、10.4g及び10.5gを含む三部分について熱処理した。その熱処理は回転式チューブ炉内で行った。95体積%の窒素及び5体積%の水素を含むガス流中で、温度を10ケルビン/分ずつ800℃まで上昇させた。800℃の温度に達したとき、温度を1時間一定に保った。続いて、炉の内部を室温に冷却し、50℃未満の温度で、そのガス流を100体積%の窒素を含む流れに切り替えた。次いで、熱処理した固体を、9体積%の空気と91体積%の窒素とを含むガス流で12時間不動態化して、炭素担持触媒を形成させた。この固体の三つの部分をスパチュラで混合し、その後の全ての工程で、この三部分の混合物を使用した。
【0109】
元素分析により、炭素担持触媒を基準にして9.6質量%のニオブ含有量及び33質量%の白金含有量を測定した。
【0110】
炭素担持触媒を粉末X線回折法により分析し、Scherrerの式を適用して白金の平均微結晶サイズを計算した。3及び22nmの二峰性分布が得られた。
【0111】
比較例3
C3a)比表面積の小さい炭素上への酸化ニオブの析出
炭素(Vulcan XC72(登録商標)、Cabot社製)(BET比表面積約250m/g)120g、純度100%の酢酸1099g、純度99.7%の2−プロパノール1217g、金属含有量に基づいて、純度99.95%のニオブ(V)エトキシド209.8gから混合物を調製した。各成分を均質化するために、超音波処理を10分間適用した。178gの水と178gの2−プロパノールとの混合物を滴加した。その混合物を噴霧乾燥機で乾燥させた。混合物の沈降を防止するために、攪拌しながら噴霧塔に搬送した。噴霧乾燥すべき混合物の流速は521g/hであり、噴霧乾燥機のノズルの直径は2.3mmであり、ノズル圧力は3.0バール絶対圧、ノズルガスは窒素、ノズルガスの体積流量は3.5Nm/h、ノズルガスの温度は室温、乾燥用ガスは窒素、乾燥用ガスの体積流量は25Nm/h、乾燥用ガスの温度は190℃、噴霧乾燥機での滞留時間は15秒であった。粒子分離に当たっては、直径が少なくとも10μmの粒子を分離することができるサイクロンを使用した。噴霧乾燥機の排ガス温度に相当する、サイクロンの温度は104℃〜107℃であった。
【0112】
元素分析により、噴霧乾燥した固体を基準にして、13.5質量%のニオブ含有量が測定された。分析目的で180℃の空気流中で乾燥させる間に、12.8質量%の質量損失が測定された。
【0113】
C3b)白金の堆積
工程C3a)で得た固体10gをULTRA−TURRAX(登録商標)を用いて229mLの水に懸濁させた。次いで、89mLの水中の6.18gの硝酸白金(II)の溶液を添加した。撹拌しながら、196mLのエタノールと270mLの水との混合物を加え、懸濁液を82℃に加熱した。82℃で6時間後、懸濁液を室温に冷却し、濾過し、固体残留物を4Lの水で洗浄した。生成した固体を80℃の真空オーブン中で乾燥させた。
【0114】
C3c)800℃での熱処理
工程C3b)で生成した固体12.7gを回転式チューブ炉内で熱処理した。窒素を含む流れの中で、温度を毎分10ケルビンで400℃まで上昇させた。400℃の温度に達した後、そのガス流を、95体積%の窒素及び5体積%の水素を含む流れに切り替えた。温度を毎分10ケルビンで800℃まで上昇させた。800℃の温度に達したとき、温度を1時間一定に保った。続いて、炉の内部を室温に冷却し、50℃未満の温度で、そのガス流を100体積%の窒素を含むガス流に切り替えた。次いで、熱処理した固体を、9体積%の空気と91体積%の窒素とを含むガス流で12時間不動態化して、炭素担持触媒を形成させた。
【0115】
元素分析により、炭素担持触媒を基準にして13.5質量%のニオブ含有量及び28.5質量%の白金含有量を測定した。さらに、NbとNbOの結晶学的相が、それぞれ粉末X線回折法により炭素担持触媒中に観察された。
【0116】
II.炭素担持触媒の電気化学試験
実施例1及び比較例1、2及び3で得た炭素担持触媒について、室温の回転ディスク電極(RDE)上で酸素還元反応(ORR)に関し試験した。この装置には3つの電極が含まれていた。対電極として白金箔を、参照電極としてHg/HgSO電極を設置した。記した電位は、可逆水素電極(RHE)を基準とするものである。炭素担持触媒を含むインク(ink)を、0.055μS/cm未満の導電率を有する4.7gの脱塩超純水、シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.)から市販されているパーフルオロ樹脂溶液の、ナフィオンNafion(登録商標)5質量%溶液であって80質量%〜85質量%の低級脂肪族アルコールと20質量%〜25質量%の水とを含む溶液0.04g、及び2−プロパノール1.2gからなる溶液に、約0.01gの炭素担持触媒を分散させることにより、調製した。そのインクを15分間超音波処理した。
【0117】
7.5μLのインクを直径5mmのガラス状炭素電極上にピペットで入れた。窒素流中で電極を回転させることなくインクを乾燥させた。電解質として、アルゴンで飽和させた0.1MのHClO溶液を使用した。
【0118】
最初に、洗浄(クリーニング)サイクル、及びバックグラウンド減算(background subtraction)(Ar−CV)用サイクロボルタモグラム(cyclovoltamograms)を使用した。これらの工程については、表1の工程1及び2としてさらにその内容を明示する。
【0119】
続いて、電解液を酸素で飽和させ、酸素還元活性を測定した(表1、工程3)。
【0120】
その後、促進劣化試験をアルゴン飽和電解液中にて適用した。したがって、矩形波サイクルに従って電位を変化させた(表1、工程5)。
【0121】
その後、電解液を新しい0.1MのHClO溶液と交換し、アルゴン飽和電解液中で洗浄工程及びAr−CV工程を繰り返し(表1の工程6及び7)、酸素還元(ORR)活性を酸素飽和電解液中で再び測定した(表1の工程8)。
【0122】
【表1】
【0123】
各種炭素担持触媒の電気化学的性能は、劣化試験(工程5)前後(工程3及び工程8)のORR活性を比較することによって示される。
【0124】
第3のORR−CVのアノード部分から、バックグラウンド電流を除去するために、前の工程からのAr−CVを差し引いた。0.9Vでの電流(I0,9V)、約0.25Vでの限界電流(Ilim)、及び電極上の白金の質量(mPt)を考慮に入れて、白金−質量に関連する運動(kinetic)活性Ikinを計算した。
【0125】
kin=I0.9V・Ilim/(Ilim−I0.9V)/mPt
【0126】
この計算方法についての前提及びその詳細は、Paulusら、Journal of Electroanalytical Chemistry、495(2001)、134〜145頁に記載されている。
【0127】
【表2】
【0128】
例えば燃料電池の用途での、ある特定の性能を発揮するのに必要な白金の量は、炭素担持触媒の安定性及び新鮮な(製造したての)炭素担持触媒の初期活性に強く依存する。劣化試験後の使用済み炭素担持触媒がもつ残留活性は、実際の燃料電池における触媒活性金属相の劣化を大いに再現(mimicking)する重要なパラメータである。
【0129】
ニオブ及びチタンを含む酸化物で改質した、実施例1で調製した、本発明に係る触媒が、全ての実施例及び比較例の中で、劣化後残留活性に関し最も高い値287mA/mgPtを示した。実施例1、2及び3の本発明の触媒の全てが、改質剤を含まない触媒、又は改質剤としてニオブ及びチタンの両方を含む酸化物の代わりに酸化ニオブのみを含む触媒よりも、劣化後残留活性が高く、電気化学的劣化に対して高い安定性を示した。
【0130】
実施例1及び比較例2で得た炭素担持触媒に含まれる酸化物改質剤の濃度は同様であった。したがって、実施例1で得た本発明の炭素担持触媒の方がより高い残留活性を示したのは、ニオブとチタンの両方を含む酸化物で炭素担体を改質したことによるものと考えられる。
【0131】
さらに、比較例2で得た、酸化ニオブで改質した触媒は、比較例1で得た、改質剤を有しない触媒よりも、劣化試験後残留活性がより高い値を示すものであった。
【0132】
比較例3で得た触媒は、酸化ニオブで改質し、かつ、表面積の小さい炭素含有担体を含むものであるが、全ての実施例及び比較例を通じて、炭素担持触媒中の酸化ニオブ及び白金の含有量が同様であるにもかかわらず、残留活性が最も低い値を示した。
図1