特許第6671388号(P6671388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671388
(24)【登録日】2020年3月5日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】捺染剤、捺染剤の製造方法及び布帛物
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/46 20060101AFI20200316BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C09B67/46 A
   C09B67/20 F
   C09B67/20 L
【請求項の数】6
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2017-546505(P2017-546505)
(86)(22)【出願日】2016年10月11日
(86)【国際出願番号】JP2016080077
(87)【国際公開番号】WO2017069013
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2017年10月19日
【審判番号】不服2018-6885(P2018-6885/J1)
【審判請求日】2018年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-205528(P2015-205528)
(32)【優先日】2015年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-205527(P2015-205527)
(32)【優先日】2015年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】山川 香菜
(72)【発明者】
【氏名】木村 利久
(72)【発明者】
【氏名】土井田 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤田 清実
(72)【発明者】
【氏名】橋本 賢志
【合議体】
【審判長】 瀬良 聡機
【審判官】 佐々木 秀次
【審判官】 齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/072339号(WO,A1)
【文献】 特開2015−147888号公報(JP,A)
【文献】 特開2015−105361号公報(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/115071号(WO,A1)
【文献】 特開2010−235742号公報(JP,A)
【文献】 特開2011−237769号公報(JP,A)
【文献】 特許第6179695号公報(JP,B1)
【文献】 特開2012−251062号公報(JP,A)
【文献】 特開2008−195767号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C09B67/00−67/46,C08F293/00,D06P5/00
DB名 CAPlus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料と、水と、有機溶剤と、アニオン性基としてカルボキシル基またはカルボキシル基が塩基性化合物によって中和されたカルボキシレート基を有する酸価2〜55の水分散性のウレタン樹脂であるバインダー樹脂と、顔料分散剤として、アニオン性基を有し、水への溶解度が0.1g/100ml以下であり、且つ、前記アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成する、数平均分子量が1000〜6000の範囲内である一般式(1)で表されるポリマー(A)を含有することを特徴とする捺染剤。
【化1】
(式(1)中、Aは有機リチウム開始剤残基を表し、Aは芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックを表し、Aはアニオン性基を含むポリマーブロックを表し、nは1〜5の整数を表し、Bは芳香族基またはアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記ポリマー(A)の酸価が40〜400mgKOH/gの範囲である請求項1に記載の捺染剤。
【請求項3】
前記一般式(1)中のAはスチレン系モノマーのポリマーブロックを表し、Aはアニオン性基を含むポリマーブロックを表し、前記アニオン性基がカルボキシル基を表す請求項に記載の捺染剤。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の捺染剤によって印捺された布帛物。
【請求項5】
アニオン性基を有し、水への溶解度が0.1g/100ml以下であり、且つ、前記アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成する、数平均分子量が1000〜6000の範囲内である一般式(1)で表されるポリマー(A)と、塩基性化合物と、水溶性有機溶剤と、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料とを含む分散物を得る工程、前記分散物と水とを混合して水性顔料分散体を得る工程、及び、前記水性顔料分散体と希釈溶媒とアニオン性基としてカルボキシル基またはカルボキシル基が塩基性化合物によって中和されたカルボキシレート基を有する酸価2〜55の水分散性のウレタン樹脂であるバインダー樹脂と添加剤とを混合する工程をこの順に有することを特徴とする捺染剤の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Aは有機リチウム開始剤残基を表し、Aは芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックを表し、Aはアニオン性基を含むポリマーブロックを表し、nは1〜5の整数を表し、Bは芳香族基またはアルキル基を表す。)
【請求項6】
前記ポリマー(A)がマイクロリアクターを用いたリビングアニオン重合体である請求項に記載の捺染剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染剤、捺染剤の製造方法及び布帛物に関する。
【背景技術】
【0002】
織布や不織布、編布などの布帛に、文字、絵、図柄などの画像を印捺する捺染方法としては、例えば水性の顔料インクを使用した顔料捺染法が知られている。顔料捺染法は、着色顔料及びバインダー樹脂からなる顔料組成物である捺染剤を印刷した後、必要に応じ乾燥硬化工程を経て基材に固着させる方法である。この印刷方法としては、スクリーン紗の図柄を布帛に連続的に印刷するシルクスクリーン法(例えば特許文献1参照)、あるいはノズルよりインクを噴射し布帛に付着せしめるインクジェット記録法等(例えば特許文献2参照)が知られている。
【0003】
捺染剤は、通常、顔料の高濃度水分散液(水性顔料分散体や顔料分散体と称されることがある)を水で希釈し、バインダー樹脂やその他添加剤と混合することで調製することができる。その際、前記顔料は水不溶性であるため、顔料を安定に水に分散させる手法が検討されている。
【0004】
捺染用途に使用する顔料の分散手法としては、アルキル(メタ)アクリル酸エステル単量体とカルボキシル基を有する脂肪族ビニル単量体と非カルボキシル基系の架橋性官能基を有する脂肪族ビニル単量体と分子量2000〜20000のエマルジョン重合体を塩基性物質により中和した樹脂を顔料分散剤として使用する方法が知られている(例えば特許文献3参照)。この方法は、架橋性官能基を有する水溶性固着剤を併用し100℃以上で架橋反応させるものであり、加熱工程を必須とする。
【0005】
加熱工程を必要としない水性顔料分散体としては、インクジェット記録用分野では、例えば、ケトン系溶媒やアルコール系溶媒等の有機溶媒の存在下に、特定の酸価を有する合成樹脂、塩基及び着色剤を攪拌機や分散装置を混合し、着色剤の溶解又は分散と合成樹脂の自己水分散化とを行った後、当該着色樹脂溶液と水性媒体とを混合することによって着色剤を含む自己水分散性樹脂溶液の小滴を水性媒体中に分散する方法や(例えば特許文献4参照)、疎水セグメントと、疎水性ユニット及び親水性ユニットを含む親水セグメントとを有するブロックポリマー化合物を顔料分散剤として使用する方法や(例えば特許文献5参照)、A−Bブロックポリマーであり、Aはスチレン、Bはアクリル酸であり、Aの重合度は約5から約50、Bの重合度は約70から約800である(An−Bm)ブロックポリマーを顔料分散剤として使用する方法が知られている(例えば特許文献6参照)。
【0006】
これらの方法はインクジェット記録用水性インクの製造方法として優れた方法であるものの、かかる方法で捺染剤を製造しようとすると、粗大粒子を発生させる場合があった。前記粗大粒子を含む捺染剤を、例えばスクリーン法で印捺すると、印捺部に白筋を発生させる場合があり、また、それをインクジェット法で印捺しようとすると、捺染剤の吐出不良を引き起こし、印捺部の鮮明性等を低下させる場合があった。
【0007】
ところで、捺染剤は、基本色であるイエロー色、マゼンタ色、シアン色、ブラック色のほか、基本色では表現できない色を出すことが可能な特色と呼ばれるレッド色、オレンジ色、グリーン色、ブルー色等を併用して使用することが多い。グリーン色用の顔料としては、C.I.ピグメントグリーン36やC.I.ピグメントグリーン7等のポリハロゲン化金属フタロシアニンが知られ(例えば特許文献7及び8参照)、レッド色やオレンジ色用の顔料としては、ジケトピロロピロール顔料が、知られている(例えば特許文献9〜11参照)
しかし、前記ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料やジケトピロロピロール顔料は、シアン等の基本色に使用される顔料と比較して、比重や一次粒子径が大きいため粗大粒子を形成しやすい傾向があり、どうしても基本色の捺染剤に匹敵するレベルにまで粗大粒子の形成を低減することができない場合があった。
【0008】
また、前記粗大粒子の形成は、顔料の種類と分散樹脂との相互作用に起因する場合が多い。よって、基本色の顔料分散体で使用した分散樹脂を、前記特色用の顔料と組合せ使用した場合であっても、ただちに粗大粒子の形成を低減できるとは限らないため、特色用の捺染剤の粗大粒子の形成を低減するためには、当業者の相当の試行錯誤を伴う場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−332523号公報
【特許文献2】特開2009−215506号公報
【特許文献3】特開2012−251062号公報
【特許文献4】特開平08−183920号公報
【特許文献5】特開2008−195769号公報
【特許文献6】特開平10−7955号公報
【特許文献7】WO99/05230
【特許文献8】特開2011−74321号公報
【特許文献9】特開2015−113366号公報
【特許文献10】特開2014−136709号公報
【特許文献11】特開2012−207106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、粗大粒子の発生を抑制することで、印捺画像への白筋発生や鮮明性の低下を防止し、かつ、洗濯堅牢度、摩擦堅牢度(乾式、湿式)に優れた印捺部を形成可能な捺染剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特定のポリマー(A)を含む顔料分散剤を用いポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料を分散させた捺染剤であれば、上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料と、水と、有機溶剤と、バインダー樹脂と、顔料分散剤として、アニオン性基を有し、水への溶解度が0.1g/100ml以下であり、且つ、前記アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成する、数平均分子量が1000〜6000の範囲内であるポリマー(A)を含有することを特徴とする捺染剤をに関するものである。
【0013】
また、本発明は、前記捺染剤によって印捺された布帛物に関するものである。
【0014】
また、本発明は、アニオン性基を有し、水への溶解度が0.1g/100ml以下であり、且つ、前記アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成する、数平均分子量が1000〜6000の範囲内であるポリマー(A)と、塩基性化合物と、水溶性有機溶剤と、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料とを含む分散物を得る工程、前記分散物と水とを混合して水性顔料分散体を得る工程、及び、前記水性顔料分散体と希釈溶媒とバインダー樹脂と添加剤とを混合する工程をこの順に有することを特徴とする捺染剤の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の捺染剤であれば、粗大粒子の発生を抑制することで、印捺画像への白筋発生や鮮明性の低下を防止し、かつ、洗濯堅牢度、摩擦堅牢度(乾式、湿式)に優れた印捺部を形成することができる。また、本発明の捺染剤であれば、シルクスクリーン法やインクジェット記録法で印捺した場合であっても、白筋の発生等を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料)
ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料は、金属フタロシアニンをハロゲン化した顔料であり、例えばポリクロロ銅フタロシアニン、ポリブロモ銅フタロシアニン、ポリブロモクロロ銅フタロシアニン、ポリクロロ亜鉛フタロシアニン、ポリブロモ亜鉛フタロシアニン、ポリブロモクロロ亜鉛フタロシアニン等が挙げられる。
【0017】
ポリハロゲン化金属フタロシアニンは、分子中の塩素原子及び/又は臭素原子の数が増すと、色相が青色から緑色となる。グリーン色の捺染剤を得るためには、ポリハロゲン化金属フタロシアニンとしては、分子中に塩素原子及び/又は臭素原子を合計8個以上有するものを使用することが好ましい。
【0018】
ポリハロゲン化金属フタロシアニンとしては、より黄味で明度の高い緑色を得るうえで、ポリハロゲン化金属フタロシアニン分子(構造)1個あたり4個のベンゼン環に、合計8〜15個の塩素原子及び/又は臭素原子が結合し、前記ベンゼン環の残りの位置に水素原子が結合した構造を有するものを使用することが好ましく、前記ベンゼン環に塩素原子及び/又は臭素原子が合計9〜15個が結合し、前記ベンゼン環の残りの位置に水素原子が結合した構造を有するものを使用することがより好ましく、前記ベンゼン環の残りの位置に13〜15個の臭素原子が結合し、前記ベンゼン環の残りの位置に水素原子が結合した構造であることが特に好ましい。
【0019】
具体的には、ポリハロゲン化金属フタロシアニンとしては、一般式(2)で示される顔料を使用することができる。
【0020】
【化1】
【0021】
(上記一般式(2)中、Mは銅または亜鉛であり、X〜X16は、いずれも独立して塩素原子、臭素原子または水素原子である。但し、環に結合した塩素原子と臭素原子の合計は8〜15であり、残りは水素原子である。
【0022】
本発明においては、上記一般式(2)を満たすポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料であれば特に限定なく使用することができ、また上記一般式(2)を満たす複数の顔料を混合して使用してもよい。
【0023】
具体的には、一般式(2)中のMが銅でありX〜X16が塩素原子及び水素原子であるC.I.ピグメントグリーン7や、一般式(2)中のMが銅でありX〜X16が塩素原子及び臭素原子及び水素原子であるC.I.ピグメントグリーン36や、一般式(2)中のMが亜鉛でありX〜X16が塩素原子及び臭素原子及び水素原子であるC.I.ピグメントグリーン58等が挙げられ、これらを単品または混合して使用することができる。ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料の形態は粉末状、顆粒状あるいは塊状の乾燥顔料でもよく、ウエットケーキやスラリーでもよい。
【0024】
また、前記ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料は、分散助剤として顔料誘導体を含有してもよい。
【0025】
顔料誘導体としては、フタロシアニン系顔料誘導体、キナクリドン系顔料誘導体、ジケトピロロピロール系顔料誘導体、アントラキノン系顔料誘導体、チアジン系顔料誘導体等、汎用の顔料誘導体を使用することができる。誘導体部としては、フタルイミドメチル基、スルホン酸基、同N−(ジアルキルアミノ)メチル基、同N−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド基、がある。これら誘導体は、異なる種類のものを二種以上併用することもできる。顔料誘導体の使用量は特に限定はないが、例えばポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料100質量部に対して、4〜17質量部が好ましく、6〜13質量部であることがより好ましい。
【0026】
前記ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料は、その粒子径が25μm以下のものを使用することが好ましく、1μm以下であるものを使用することが特に好ましい。粒子径が上記範囲のポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料を使用することによって、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料の沈降を抑制し、粗大粒子を低減でき、その結果、顔料分散性を向上させることができる。前記粒子径は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して測定した値を採用することができる。
【0027】
前記ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料は、その比重が4.5以下のものを使用することが好ましく、4.0以下のものを使用することが、特に好ましい。基本色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)の顔料分散体及びインクに使用される顔料の比重に比べ、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料は比重が大きいため、前記基本色の顔料よりも分散安定性を付与させにくい傾向にある。上記範囲の比重を有するポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料を使用する場合であっても、それと前記特定のポリマー(A)とを組み合わせ使用することによって、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料の沈降が発生しにくく、基本色の顔料分散体に匹敵するレベルにまで粗大粒子を低減でき、その結果、印捺画像への白筋発生や鮮明性の低下をより一層効果的に防止することができ、非常に優れた顔料分散性や吐出安定性を付与することが可能である。
【0028】
(ジケトピロロピロール顔料)
ジケトピロロピロール顔料としては、具体的にはC.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド270、C.I.ピグメントレッド272、ピグメントオレンジ71、C.I.ピグメントオレンジ73、ピグメントオレンジ81及びこれらの顔料から選ばれる少なくとも2種以上の顔料の混合物もしくは固溶体を挙げることができる。色相及び着色力の点から、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255であることがより好ましい。ジケトピロロピロール顔料は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。 顔料の形態は粉末状、顆粒状あるいは塊状の乾燥顔料でもよく、ウエットケーキやスラリーでもよい。
【0029】
前記ジケトピロロピロール顔料としては、その一次粒子径が30〜250nmのものを使用することが好ましく、50〜200nmのものを使用することが、特に好ましい。微細化し過ぎたジケトピロロピロール顔料は、分子間水素結合によって結晶成長し易いという性質を有するため、一般には、経時的に粗大粒子が形成され、分散性の低下を引き起こしやすい傾向にある。本発明では、好ましくは上記範囲の一次粒子径を有するジケトピロロピロール顔料と、前記特定のポリマー(A)とを組み合わせ使用することによって、ジケトピロロピロール顔料の沈降を抑制でき、基本色の顔料分散体に匹敵するレベルにまで粗大粒子を低減でき、その結果、印捺画像への白筋発生や鮮明性の低下をより一層効果的に防止することができ、非常に優れた顔料分散性や吐出安定性を付与することが可能である。
【0030】
また、前記ジケトピロロピロール顔料は、分散助剤として顔料誘導体を含有してもよい。
【0031】
顔料誘導体としては、フタロシアニン系顔料誘導体、キナクリドン系顔料誘導体、ジケトピロロピロール系顔料誘導体、アントラキノン系顔料誘導体、チアジン系顔料誘導体等、汎用の顔料誘導体を使用することができる。誘導体部としては、フタルイミドメチル基、スルホン酸基、同N−(ジアルキルアミノ)メチル基、同N−(ジアルキルアミノアルキル)スルホン酸アミド基、がある。これら誘導体は、異なる種類のものを二種以上併用することもできる。顔料誘導体の使用量は特に限定はないが、例えばポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料100質量部に対して、4〜17質量部が好ましく、6〜13質量部であることがより好ましい。
【0032】
(ポリマー(A))
本発明では、顔料分散剤として、水への溶解度が0.1g/100ml以下であり、且つ、前記アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成する、数平均分子量が1000〜6000の範囲内のポリマー(A)を使用する。
【0033】
(水への溶解度)
本発明では、ポリマー(A)の水への溶解度を、次のように定義した。すなわち、目開き250μm、および90μmの篩を用い250μm〜90μmの範囲に粒子径を整えたポリマー0.5gを、400メッシュ金網を加工した袋に封入し、水50mlに浸漬、25℃の温度下で24時間緩やかに攪拌放置した。24時間浸漬後、ポリマーを封入した400メッシュ金網を110℃に設定した乾燥機において2時間乾燥を行うことにより、乾燥させた。ポリマーを封入した400メッシュ金網の水浸漬前後の重量の変化を測定し、次式により溶解度を算出した。
【0034】
【数1】
【0035】
(微粒子)
また、本発明において、アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成するか否かは、以下に記載の方法で判断した。
(1)ポリマーの酸価を予め、JIS試験方法K 0070−1992に基づく酸価測定方法により測定した。具体的には、テトラヒドロフラン(以下THFと称する場合がある)溶媒にポリマー0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定し酸価を求めた。
(2)水50mlに対して、ポリマーを1g添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和とした。
(3)100%中和させた液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄器(株式会社エスエヌディ超音波洗浄器US−102、38kHz自励発信)中で超音波を照射させた後24時間室温で放置した。
【0036】
24時間放置後、液面から2センチメートルの深部にある液をサンプリングしたサンプル液を、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA−ST150」)を用い、微粒子形成による光散乱情報が得られるか判定することにより、微粒子が存在するか確認した。
【0037】
(微粒子の粒子径)
本発明で使用するポリマー(A)が形成する微粒子の水中で安定をより一層向上させるために、前記微粒子の粒子径は、5〜1000nmの範囲であることが好ましく、7〜700nmの範囲であることがより好ましく、10〜500nmの範囲であることが最も好ましい。また、前記微粒子の粒度分布は、狭いほうがより分散安定性に優れる傾向にあるが、粒度分布が広い場合であっても、従来よりも優れた分散安定性を備えた顔料分散体を得ることができる。なお、前記粒子径及び粒度分布は、前記微粒子の測定方法と同様に、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA−ST150」)を用い測定した。
【0038】
(ポリマー(A)の中和率)
本発明で使用するポリマー(A)の中和率は、以下の式により決定した。
【0039】
【数2】
【0040】
また、前記ポリマー(A)の酸価は、JIS試験方法K 0070−1992に基づいて測定した。具体的には、THF溶媒に試料0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより求めた。
【0041】
(ポリマー(A) 数平均分子量)
本発明で使用するポリマー(A)の数平均分子量は1000〜6000である。前記ポリマー(A)は、前述のとおり水への溶解度が0.1g/100ml以下と低いため、あまり高い分子量のポリマーを、塩基性化合物で中和された状態で水分散させようとすると析出する可能性がある。また、前記ポリマー(A)の顔料凝集体への浸透性が弱くなり、顔料の凝集体の解砕性が低くなる傾向にあり、顔料の水への分散を容易に行うことができない場合がある。
【0042】
一方、数平均分子量が1000に満たないポリマーを使用した場合、得られる水性顔料分散体の分散安定性が低下する場合がある。
【0043】
また、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料は、基本色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のインクに使用される一般的な顔料と比較して分散させにくい顔料である。そのため、数平均分子量が1000〜6000の範囲外のポリマーと前記特定の顔料との組み合わせでは、基本色の顔料分散体に匹敵するレベルにまで粗大粒子を低減し吐出安定性や顔料分散安定性に優れた水性顔料分散体及びインクを得ることができない場合がある。
【0044】
したがって、本願で使用するポリマー(A)としては、上記範囲内のうち小さい数平均分子量のポリマーを使用することが好ましく、数平均分子量1300〜5000のポリマーを使用することがより好ましく、1500〜4500のポリマーを、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料と組み合わせ使用することが、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料の沈降が発生しにくく、基本色の顔料分散体に匹敵するレベルにまで粗大粒子を低減でき、その結果、非常に優れた顔料分散性や吐出安定性を付与することが可能である。
【0045】
前記数平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)によって測定されるポリスチレン換算の値とし、具体的には以下の条件で測定した値とする。
【0046】
(数平均分子量(Mn)の測定方法)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
【0047】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
【0048】
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のTHF溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0049】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0050】
(表面張力)
本発明で使用するポリマー(A)を含む水性樹脂分散体の表面張力は70dyn/cmであり、水の表面張力に近い値を示すものがある。前記ポリマー(A)のの表面張力が高いほど、得られる顔料分散体の表面張力を一定以上に維持することが期待できる。
【0051】
一方、前記ポリマー(A)の代わりに、またアニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに前記微粒子を形成しないような、水に溶解するポリマーを用いた場合、ポリマー水溶液の表面張力は非常に低くなる傾向にある。
【0052】
前記ポリマー(A)を用いたポリマー(A)の表面張力は、30dyn/cm以上であることが好ましく、より好ましくは40dyn/cm以上である。なお前記表面張力は、ポリマー(A)を1g添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和したポリマー溶液について測定した値である。
【0053】
前記ポリマー(A)は、前述のとおり顔料分散体の主媒体となる水に対し、未中和の状態では不溶もしくは難溶性であり、且つ100%中和された状態では微粒子を形成するポリマーであり、親水性基であるアニオン性基のほかに疎水性基を1分子中に有するポリマーであるならば、特に限定はされない。
【0054】
このようなポリマー(A)としては、疎水性基を有するポリマーブロックとアニオン性基を有するポリマーブロックとを有するブロックポリマーがあげられる。なおブロックポリマーであっても、水への溶解度が0.1g/100mlを上回ったり、前記アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに微粒子を形成しないポリマーは、本発明の効果を得られない。
【0055】
前記疎水性基と前記アニオン性基の数は、前記アニオン性基数があまりに多いと、水への溶解度が0.1g/100mlを上回ったり、前記アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに微粒子を形成しない可能性が高くなる。この観点から、前記アニオン性基数はあまり高くないほうが好ましい。なおポリマーにおいて、前記アニオン性基の数と水への溶解度は、必ずしも酸価や、ポリマー設計時のアニオン性基の数で特定されるものではなく、例えば同一の酸価を有するポリマーであっても、分子量の低いものは水への溶解度が高くなる傾向にあり、分子量の高いものは水への溶解度は下がる傾向にある。このことから、本発明においては、ポリマー(A)を水への溶解度で特定している。
【0056】
前記ポリマー(A)は、ホモポリマーでも良いが、共重合体であることが好ましく、ランダムポリマーであってもブロックポリマーであっても、交互ポリマーであっても良いが、中でもブロックポリマーであることが好ましい。また、ポリマーは分岐ポリマーであっても良いが、直鎖ポリマーであることが好ましい。
【0057】
また、前記ポリマー(A)は設計の自由度からビニルポリマーであることが好ましく、本発明において所望される分子量や、溶解度特性を有するビニルポリマーを製造する方法としては、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合といった、「リビング重合」を用いることにより製造することが好ましい。
【0058】
中でも、前記ポリマー(A)は(メタ)アクリレートモノマーを原料の1つとして用い製造されるビニルポリマーであることが好ましく、そのようなビニルポリマーの製造方法としては、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合が好ましく、さらにブロックポリマーの分子量や各セグメントをより精密に設計できる観点からリビングアニオン重合が好ましい。
【0059】
(リビングアニオン重合によって製造される前記ポリマー(A))
リビングアニオン重合によって製造される前記ポリマー(A)は、具体的には、一般式(1)で表されるポリマーである。
【0060】
【化2】
【0061】
式(1)中、Aは有機リチウム開始剤残基を表し、Aは芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックを表し、Aはアニオン性基を含むポリマーブロックを表し、nは1〜5の整数を表し、Bは芳香族基またはアルキル基を表す。
【0062】
一般式(1)中、Aは有機リチウム開始剤残基を表す。有機リチウム開始剤として具体的にはメチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム(n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、iso−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなど)、ペンチルリチウム、へキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトシキメチルリチウムなどのアルキルリチウム;ベンジルリチウム、α−メチルスチリルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、フェニルエチルリチウムなどのフェニルアルキレンリチウム;ビニルリチウム、アリルリチウム、プロペニルリチウム、ブテニルリチウムなどのアルケニルリチウム;エチニルリチウム、ブチニルリチウム、ペンチニルリチウム、ヘキシニルリチウムなどのアルキニルリチウム;フェニルリチウム、ナフチルリチウムなどのアリールリチウム;2−チエニルリチウム、4−ピリジルリチウム、2−キノリルリチウムなどのヘテロ環リチウム;トリ(n−ブチル)マグネシウムリチウム、トリメチルマグネシウムリチウムなどのアルキルリチウムマグネシウム錯体などが挙げられる。
【0063】
芳香環を有するモノマーとしては、スチレン、p−tert−ブチルジメチルシロキシスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン、p−tert−(1−エトキシメチル)スチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、p−フロロスチレン、α−メチルスチレン、p−メチル−α−メチルスチレン、などのスチレン系モノマーや、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどがあげられる。
【0064】
また複素環を有するモノマーとしては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのビニルピリジン系モノマーがあげられる。
【0065】
これらのモノマーは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0066】
前記ポリマー(A)としては、前記一般式(1)中のAを構成する芳香環または複素環を有するモノマー由来の繰り返し単位数が5〜40の範囲であるものを使用することが好ましく、6〜30の範囲であるものを使用することがより好ましく、7〜25の範囲であるものを、ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料と組合せ使用することが、前記顔料の沈降を発生させにくく、基本色の顔料分散体に匹敵するレベルにまで粗大粒子を低減でき、その結果、印捺画像への白筋発生や鮮明性の低下を防止し、非常に優れた顔料分散性や吐出安定性を付与することが可能であるため特に好ましい。
【0067】
また、前記ポリマー(A)としては、前記一般式(1)中のA3で示されるアニオン性基を含むポリマーブロック中に存在するアニオン性基の数は、3〜20の範囲であることが好ましく、4〜17の範囲であることがより好ましく、5〜15の範囲がであることが最も好ましい。前記範囲のアニオン性基を有するポリマー(A)とポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料と組合せ使用することによって、前記顔料の沈降を発生させにくく、基本色の顔料分散体に匹敵するレベルにまで粗大粒子を低減でき、その結果、印捺画像への白筋発生や鮮明性の低下を防止し、非常に優れた顔料分散性や吐出安定性を付与することが可能となる。
【0068】
前記一般式(1)中、Aはアニオン性基を含むポリマーブロックを表す。Aは、前述の通り適度な溶解性を与える目的の他、顔料分散体となったときに水中で分散安定性を付与する目的がある。
前記ポリマーブロックAにおけるアニオン性基は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基または燐酸基等があげられる。中でもカルボキシル基がその調製やモノマー品種の豊富さ入手し易さから好ましい。また2つのカルボキシル基が分子内または分子間において脱水縮合した酸無水基となっていてもよい。
【0069】
前記Aのアニオン性基の導入方法は特に限定はなく、例えば該アニオン性基がカルボキシル基の場合は、(メタ)アクリル酸を単独重合もしくは他のモノマーと共重合させて得たホモポリマーまたはコポリマーのポリマーブロック(PB1)であってもよいし、脱保護をすることによりアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを単独重合もしくは他のモノマーと共重合させて得たホモポリマーまたはコポリマーの、該アニオン性基に再生可能な保護基の一部または全てがアニオン性基に再生されたポリマーブロック(PB2)であってもよい。
【0070】
なお、前記ポリマーブロックAで使用する(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとの総称を表す。
【0071】
(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸iso−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ラウリル、(メタ)アクリル酸n−トリデシル、(メタ)アクリル酸n−ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−tert−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸ペンタフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸ペンタデカフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロニトリル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール−ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリアルキレンオキサイド基含有(メタ)アクリレート等があげられる。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0072】
リビングアニオン重合法においては、使用するモノマーがアニオン性基等の活性プロトンを持つ基を有するモノマーの場合、リビングアニオン重合体の活性末端が直ちにこれら活性プロトンを持つ基と反応し失活するため、ポリマーが得られない。リビングアニオン重合では活性プロトンを持つ基を有するモノマーをそのまま重合することは困難であるため、活性プロトンを持つ基を保護した状態で重合し、その後保護基を脱保護することで活性プロトンを持つ基を再生することが好ましい。
【0073】
このような理由から、前記ポリマーブロックAにおいては、脱保護をすることによりアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを用いることが好ましい。該モノマーを使用することで、重合時には前述の重合の阻害を防止できる。また保護基により保護されたアニオン性基は、ブロックポリマーを得た後に脱保護することにより、アニオン性基に再生することが可能である。
【0074】
前記Aのアニオン性基の導入方法は特に限定はなく、例えば該アニオン性基がカルボキシル基の場合、カルボキシル基をエステル化し、後工程として加水分解等で脱保護することによりカルボキシル基を再生することができる。この場合のカルボキシル基に変換可能な保護基としてはエステル結合を有する基が好ましく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基;イソプロポキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基;t−ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基;ベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基;エトキシエチルカルボニル基等のアルコキシアルキルカルボニル基などが挙げられる。
【0075】
アニオン性基がカルボキシル基の場合、使用できるモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコサニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のフェニルアルキレン(メタ)アクリレート;エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの(メタ)アクリレートの中でも、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートを用いると、カルボキシル基への変換反応が容易であることから好ましい。また、工業的に入手のしやすさを考慮すると、t−ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0076】
一般式(1)中、Bは芳香族基または炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。またnは1〜5の整数を表す。
【0077】
リビングアニオン重合法においては、(メタ)アクリレートモノマーを求核性の強いスチレン系ポリマーの活性末端に直接重合しようとした場合、カルボニル炭素への求核攻撃により、ポリマー化できない場合がある。このため、前記A1−A2に(メタ)アクリレートモノマーの重合を行う際には反応調整剤を使用し、求核性を調整した後、(メタ)アクリレートモノマーを重合することが行われる。一般式(1)におけるBは該反応調整剤に由来する基である。反応調整剤としては、具体的にはジフェニルエチレンやα−メチルスチレン、p−メチル−α−メチルスチレン等があげられる。
【0078】
(マイクロリアクターを使用したリビングアニオン重合)
リビングアニオン重合法は、反応条件を整えることにより、従来のフリーラジカル重合で用いられるようなバッチ方式により実施できる他、マイクロリアクターによる連続的に重合する方法を挙げることもできる。マイクロリアクターは、重合開始剤とモノマーの混合性が良好であるため、反応が同時に開始し、温度が均一で重合速度を揃えることができるため、製造される重合体の分子量分布を狭くできる。また同時に、成長末端が安定であるためブロックの両成分が混じりあわないブロック共重合体を製造することが容易になる。また、反応温度の制御性が良好であるため副反応を抑えることが容易である。
【0079】
マイクロリアクターを使用したリビングアニオン重合の一般的な方法を、マイクロリアクターの模式図である図1を参照しながら説明する。
第一のモノマーと重合を開始させる重合開始剤とを、それぞれチューブリアクターP1及びP2(図1中7及び8)から、複数の液体を混合可能な流路を備えるT字型マイクロミキサーM1(図1中1)に導入し、T字型マイクロミキサーM1内で、第一のモノマーをリビングアニオン重合し第一の重合体を形成する(工程1)。
【0080】
次に、得られた第一の重合体をT字型マイクロミキサーM2(図1中2)に移動させ、同ミキサーM2内で、得られた重合体の成長末端を、チューブリアクターP3(図1中9)から導入された反応調整剤によりトラップし、反応調節を行う(工程2)。
なお、このとき反応調整剤の種類や使用量により、前記一般式(1)におけるnの数をコントロールすることが可能である。
【0081】
次に、前記T字型マイクロミキサーM2内の反応調節を行った第一の重合体を、T字型マイクロミキサーM3(図1中3)に移動させ、同ミキサーM3内で、チューブリアクターP4から導入された第二のモノマーと、前記反応調節を行った第一の重合体とを、連続的にリビングアニオン重合を行う(工程3)。
【0082】
その後メタノール等活性プロトンを有する化合物で反応をクエンチすることで、ブロック共重合体を製造する。
【0083】
本発明の一般式(1)で表されるポリマー(A)を、前記マイクロリアクターで製造する場合は、前記第一のモノマーとして芳香環または複素環を有するモノマーを使用し、前記開始剤として有機リチウム開始剤により反応させることで、前記Aの芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロック(該ポリマーブロックAの片末端には前記Aの有機リチウム開始剤残基である有機基が結合している)を得る。
次に、反応調整剤を使用して成長末端の反応性を調整した後、前記アニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを前記第二のモノマーとして反応させポリマーブロックを得る。
【0084】
この後、加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生することにより、前記A即ちアニオン性基を含むポリマーブロックが得られる。
【0085】
前記アニオン性基に再生可能な保護基のエステル結合を、加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生させる方法を詳細に述べる。
【0086】
エステル結合の加水分解反応は、酸性条件下でも塩基性条件下でも進行するが、エステル結合を有する基によって条件がやや異なる。例えばエステル結合を有する基がメトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基又はイソプロポキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基の場合は、塩基性条件下で加水分解を行うことでカルボキシル基を得ることができる。この際、塩基性条件下とする塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物などが挙げられる。
【0087】
また、エステル結合を有する基が、t−ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基の場合は、酸性条件下で加水分解を行うことにより、カルボキシル基を得ることができる。この際、酸性条件下とする酸性化合物としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸;トリフルオロ酢酸等のブレステッド酸;トリメチルシリルトリフラート等のルイス酸などが挙げられる。t−ブトキシカルボニル基の酸性条件下で加水分解の反応条件については、例えば、「日本化学会編第5版 実験化学講座16 有機化合物の合成IV」に開示されている。
【0088】
さらに、t−ブトキシカルボニル基をカルボキシル基に変換する方法として、上記の酸に代えて、陽イオン交換樹脂を用いた方法も挙げられる。前記陽イオン交換樹脂としては、例えば、ポリマー鎖の側鎖にカルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SOH)等の酸基を有する樹脂が挙げられる。これらの中でも、当該樹脂の側鎖にスルホ基を有する強酸性を示す陽イオン交換樹脂が、反応の進行を速くできることから好ましい。本発明で使用できる陽イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、オルガノ株式会社製強酸性陽イオン交換樹脂「アンバーライト」等が挙げられる。この陽イオン交換樹脂の使用量は、効果的に加水分解できることから、前記一般式(1)で表されるポリマー100質量部に対し、5〜200質量部の範囲が好ましく、10〜100質量部の範囲がより好ましい。
【0089】
また、エステル結合を有する基が、ベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基の場合は、水素化還元反応を行うことにより、カルボキシル基に変換できる。この際、反応条件としては、室温下、酢酸パラジウム等のパラジウム触媒の存在下で、水素ガスを還元剤として用いて反応を行うことにより定量的にフェニルアルコキシカルボニル基をカルボキシル基に再生できる。
【0090】
上記のように、エステル結合を有する基の種類によってカルボキシル基への変換の際の反応条件が異なるため、例えばAの原料としてt−ブチル(メタ)アクリレートとn−ブチル(メタ)アクリレートを用い共重合して得られたポリマーは、t−ブトキシカルボニル基とn−ブトキシカルボニル基とを有することになる。ここで、t−ブトキシカルボニル基が加水分解する酸性条件下では、n−ブトキシカルボニル基は加水分解しないことから、t−ブトキシカルボニル基のみを選択的に加水分解してカルボキシル基へ脱保護が可能となる。したがって、Aの原料モノマーであるアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを適宜選択することにより親水ブロック(A)の酸価の調整が可能となる。
【0091】
また、前記一般式(1)で表されるポリマー(A)において、ポリマーブロック(A)とポリマーブロック(A)は、明確に分離されている方が、得られる水性顔料分散体の安定性において有利である。ポリマーブロック(A)とポリマーブロック(A)のモル比A:Aは、100:10〜100:500の範囲が好ましい。Aの比率がAの100に対して10に満たない場合、顔料の分散安定性やインクジェット吐出時の吐出安定性に劣る傾向にある。一方Aの比率がAの100に対して500を超えると、ポリマーの親水性が高くなりすぎ、記録媒体が紙等の場合であると中へ浸透しやすくなり、発色性が低下する。比率は、中でも、A:A=100:10〜100:450であることが好ましい。
【0092】
また、前記一般式(1)で表されるポリマー(A)において、ポリマーブロック(A)を構成する芳香環または複素環を有するモノマー数は5〜40の範囲が好ましく、6〜30の範囲がなお好ましく、7〜25の範囲が最も好ましい。またポリマーブロック(A)を構成するアニオン性基の数は、3〜20の範囲が好ましく、4〜17の範囲がなお好ましく、5〜15の範囲が最も好ましい。
前記ポリマーブロック(A)とポリマーブロック(A)のモル比A:Aを、ポリマーブロック(A)を構成する芳香環または複素環を有するモル数と、(A)を構成するアニオン性基のモル数のモル比で表した場合は100:7.5〜100:400が好ましい。
【0093】
また、前記一般式(1)で表されるポリマー(A)の酸価は40〜400mgKOH/gが好ましく、より好ましくは40〜300mgKOH/gであり、最も好ましく40〜190mgKOH/gである。酸価が40mgKOH/gを満たない場合、顔料の分散安定性、インクジェット吐出時の吐出安定性が充分ではない可能性がある。一方、酸価が400mgKOH/gを超える場合、ポリマーの親水性が高まり、記録媒体中へ浸透しやすくなるため発色性が低下する。また酸価が190mgKOH/gを超える場合、場合によっては得られるインクの耐水性に影響が生じる場合がある。
【0094】
なお、前記ポリマー(A)の酸価は、前記ポリマー(A)の微粒子の酸価の測定方法と同様の方法で測定した。
【0095】
(塩基性化合物(中和剤))
本発明の水性顔料分散体において、前記ポリマー(A)のアニオン性基は中和されていることが好ましい。
【0096】
前記ポリマー(A)のアニオン性基の中和に使用する塩基性化合物としては、公知慣用のものを使用することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等の無機塩基性物質や、アンモニア、トリエチルアミン、アルカノールアミンの様な有機塩基性化合物を用いることができる。
【0097】
水性顔料分散体中に存在する前記ポリマー(A)が有するアニオン性基の塩基性化合物による中和率は、ポリマー(A)が有するアニオン性基が100%中和されている必要はない。具体的には、前記ポリマー(A)が有するアニオン性基の20%〜200%が中和されることが好ましく、80%〜150%が中和されていることがより好ましい。
【0098】
(水)
本発明で使用する水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、インク組成物を長期保存する場合にカビまたはバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0099】
前記水は、捺染剤で顔料やバインダー樹脂の溶媒として機能する。水性捺染剤の場合は、溶媒は大部分が水であり、一部水溶性溶媒を添加している場合が多い。たとえば水:水溶性溶媒の割合は4:1〜1:1の範囲で使用することが一般的である。
【0100】
(有機溶剤)
本発明で使用する有機溶剤は、従来より捺染用のスクリーン記録用インクや水性インクジェット記録用インクに用いられているものをいずれも使用できる。有機溶剤としては、保湿剤として機能するもの及び浸透溶剤として機能するものに大別される。
【0101】
前記保湿剤として使用可能な有機溶剤としては、例えば、グリセリン、グリセリンのエチレングリコール付加物(具体例:リポニックEG−1(リポケミカル社製)等)、ジグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(具体例:和光純薬社製「#200」、「#300」、「#400」、「#4000」、「#6000」)、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリノン、チオジグリコール、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ネオペンチルアルコール、トリメチロールプロパン、2,2−ジメチルプロパノール等が挙げられる。これら有機溶剤は単独または2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0102】
前記浸透溶剤として使用可能な有機溶剤としては、1価又は多価のアルコール類、アミド類、ケトン類、ケトアルコール類、環状エーテル類、グリコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ポリアルキレングリコール類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類,エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類および多価アルコールアラルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等のラクタム類、1,3−ジメチルイミダゾリジノンアセトン、酢酸エチル、N−メチルー2−ピロリドン、m−ブチロラクトン、グリセリンのポリオキシアルキレン付加物、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジオキソラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルスルホキシド、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミドプロピレングリコールモノメチルエーテルなどである。これら有機溶剤は単独または2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0103】
(バインダー樹脂)
本発明で使用するバインダー樹脂は、粒子状で溶媒中に存在する分散体の形態や、水に完全に溶解して存在する水溶性樹脂の形態等、いずれの形態でも構わない。
【0104】
前記バインダー樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体などのアクリル共重合体;スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体などのスチレン−アクリル酸樹脂;スチレン−マレイン酸;スチレン−無水マレイン酸;ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体;ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体;酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びこれらの塩を使用することができる。
【0105】
なかでも、前記バインダー樹脂としては、ウレタン樹脂及び/またはアクリル樹脂を使用することが、入手しやすく、且つ印捺物の洗濯堅牢度、摩擦堅牢度(乾式、湿式)をより一層向上させるうえで好ましい。
【0106】
ウレタン樹脂としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールからなる群より選ばれる1種以上のポリオールと、アニオン性基、カチオン性基、ポリオキシエチレン基またはポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン基である親水性基を有するポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂を使用する。摩擦堅牢度の観点から、ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールから選択することが好ましい。
【0107】
前記ウレタン樹脂の重量平均分子量は、洗濯堅牢度、摩擦堅牢度(乾式、湿式)をより一層向上させるうえで、5000〜200000のものを使用することが好ましく、20000〜100000がより好ましい。
【0108】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ショ糖、アコニット糖、フェミメリット酸、燐酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノールアミン、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタール酸、1,2,3−プロパントリチオール等の活性水素基を2個以上有する化合物にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロフェキシレン等の環状エーテル化合物を付加重合したもの、又は、前記環状エーテル化合物をカチオン触媒、プロトン酸、ルイス酸等を触媒として開環重合したものが挙げられる。
【0109】
前記ポリエステルポリオールは、ジオール化合物、ジカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸化合物等の脱水縮合反応、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応、及びこれらの反応によって得られるポリエステルを共重合させることによって得られる。このポリエステルポリオールの原料となるジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0110】
また、前記ポリエステルポリオールの原料となるジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸等が挙げられる。
【0111】
さらに、前記ポリエステルポリオールの原料となるヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸等が挙げられる。
【0112】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば炭酸エステルと、低分子量のポリオール、好ましくは直鎖脂肪族ジオールとを反応させて得られるものを使用することができる。
【0113】
前記炭酸エステルとしては、メチルカーボネートや、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネ−ト等を使用することできる。
【0114】
前記炭酸エステルと反応しうる低分子量のポリオールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノール−A、ビスフェノール−F、4,4’−ビフェノール等の比較的低分子量のジヒドロキシ化合物や、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールや、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリカプロラクトン等のポリエステルポリオール等を使用することができる。
【0115】
ポリカーボネート構造は、ポリカーボネート系ウレタン樹脂の製造に使用するポリオール及び前記ポリイソシアネートの合計質量に対して、10〜90質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0116】
また、前記ウレタン樹脂は、捺染剤中における分散安定性を付与するうえで親水性基を有する。
【0117】
前記親水性基としては、一般にアニオン性基やカチオン性基、ノニオン性基といわれるものを使用することができるが、なかでもアニオン性基やカチオン性基を使用することが好ましい。
【0118】
前記アニオン性基としては、例えばカルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基、スルホネート基等を使用することができ、なかでも、一部または全部が塩基性化合物等によって中和されたカルボキシレート基やスルホネート基を使用することが、良好な水分散性を維持するうえで好ましい。
【0119】
前記アニオン性基としてのカルボキシル基やスルホン酸基の中和に使用可能な塩基性化合物としては、例えばアンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミンや、モノエタノールアミン等のアルカノールアミンや、Na、K、Li、Ca等を含む金属塩基化合物等が挙げられるが、なかでも、乾燥皮膜への残留を少なくする意味から、沸点100℃以下の有機アミンを選択することが好ましい。
【0120】
また、前記カチオン性基としては、例えば3級アミノ基等を使用することができる。前記3級アミノ基の一部又は全てを中和する際に使用することができる酸としては、例えば、蟻酸、酢酸等を使用することができる。また、前記3級アミノ基の一部又は全てを4級化する際に使用することができる4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類を使用することができる。
【0121】
また、前記ノニオン性基としては、例えばポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)基、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基を使用することができる。なかでもオキシエチレン単位を有するポリオキシアルキレン基を使用することが、親水性をより一層向上させるうえで好ましい。
【0122】
前記親水性基は、前記ウレタン樹脂全体に対して100mmol/kg〜1200mmol/kg存在することがより一層良好な水分散性を付与し、150mmol/kg〜1000mmol/kgの範囲であることがより好ましい。
【0123】
前記親水性基は、前記ウレタン樹脂全体に対して0.5〜30%存在することがより一層良好な水分散性を付与し、1〜20%の範囲であることがより好ましい。
【0124】
また、本発明の捺染剤は、洗濯堅牢性、摩擦堅牢性をより一層向上することを目的として、後述する架橋剤を使用する場合がある。前記架橋剤を使用する場合、前記ウレタン樹脂としては、前記架橋剤の有する官能基と架橋反応しうる官能基を有するものを使用することが好ましい。
【0125】
前記官能基としては、前記親水性基として使用可能なカルボキシル基やカルボキシレート基等が挙げられる。前記カルボキシル基等は、水性媒体中においてウレタン樹脂の水分散安定性に寄与し、それらが架橋反応する際には、前記官能基としても作用し、前記架橋剤の一部架橋反応しうる。
【0126】
前記官能基としてカルボキシル基等を使用する場合、前記ウレタン樹脂としては、2〜55の酸価を有するものであることが好ましく、15〜50の酸価を有するものを使用することが、洗濯堅牢性、摩擦堅牢性を向上するうえで好ましい。なお、本発明で言う酸価は、前記ウレタン樹脂の製造に使用したカルボキシル基含有ポリオール等の酸基含有化合物の使用量に基づいて算出した理論値である。
【0127】
前記ウレタン樹脂は、例えばポリオールとポリイソシアネートと、必要に応じて鎖伸長剤とを反応させることによって製造することができる。
【0128】
前記鎖伸長剤としては、ポリアミンや、その他活性水素原子含有化合物等を使用することができる。
【0129】
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミン類;N−ヒドロキシメチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシエチルアミノエチルアミン、N−ヒドロキシプロピルアミノプロピルアミン、N−エチルアミノエチルアミン、N−メチルアミノプロピルアミン;ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン;ヒドラジン、N,N’−ジメチルヒドラジン、1,6−ヘキサメチレンビスヒドラジン;コハク酸ジヒドラジッド、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド;β−セミカルバジドプロピオン酸ヒドラジド、3−セミカルバジッド−プロピル−カルバジン酸エステル、セミカルバジッド−3−セミカルバジドメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサンを使用することができ、エチレンジアミンを使用することが好ましい。
【0130】
前記その他活性水素含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等のグリコール類;ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン等のフェノール類、及び水等を使用することができる。
【0131】
前記鎖伸長剤は、例えば前記鎖伸長剤の有するアミノ基及び活性水素原子含有基の当量が、前記ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られたウレタンプレポリマーの有するイソシアネート基の当量に対して、1.9以下(当量比)となる範囲で使用することが好ましく、0.0〜1.0(当量比)の範囲で使用することがより好ましく、より好ましくは0.5質量%が好ましい
【0132】
前記鎖伸長剤は、前記ポリオールとポリイソシアネートを反応させる際、または、反応後に使用することができる。また、前記で得たウレタン樹脂を水性媒体中に分散させ水性化する際に、前記鎖伸長剤を使用することもできる。
【0133】
また、上記以外のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン及びそれらのアルキレンオキシド付加物、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、ペンタエリスリトール等の比較的低分子量のポリオールが挙げられる。これらの前記ポリオールは、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0134】
前記ポリオールと反応しウレタン樹脂を形成するポリイソシアネートとしては、例えばフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂肪族環式構造含有ジイソシアネート等を、単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。
【0135】
アクリル樹脂としては、特に制限はなく、(メタ)アクリレートの単独重合または共重合、及び(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーとを共重合させた樹脂があげられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸とアクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルの一方又は両方をいう。
【0136】
(メタ)アクリレートや(メタ)アクリレートと共重合しうるビニルモノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;2−ヒドロドキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルキルポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート等のフッ素系(メタ)アクリレート;スチレン、スチレン誘導体(p−ジメチルシリルスチレン、(p−ビニルフェニル)メチルスルフィド、p−ヘキシニルスチレン、p−メトキシスチレン、p−tert−ブチルジメチルシロキシスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン等)、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールテトラ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシメトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートトリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ウレタン(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリレート;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等のビニルピリジン化合物;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエン等の共役ジエンなどが挙げられる。これらのモノマーは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0137】
本発明で使用するアクリル樹脂は、上記汎用のモノマーの他、特定の官能基を有するモノマーを共重合させることで、印捺物の風合い等が改善され好ましい。このような官能基を有するモノマーとしては、カルボキシル基を有するモノマーや、エポキシ基を有するモノマー、加水分解性シリル基を有するモノマー、アミド基を有するモノマー等があげられる。
【0138】
カルボキシル基を有するモノマーでは、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、無水マレイン酸、シトラコン酸等を用いることができる。
【0139】
エポキシ基を有するモノマーでは、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアリルエーテル等を用いることができる。
【0140】
加水分解性シリル基を有するモノマーでは、例えば、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物;3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルシラン化合物などを用いることができる。これらのモノマーは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0141】
アミド基を有するモノマーでは、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド化合物;等を用いることが出来る。
【0142】
アクリル樹脂の水中での樹脂粒子の分散形態は特に限定はなく、例えば乳化剤で強制乳化させたエマルジョンや、樹脂中にノニオン性基または中和されたイオン性基を有したディスパージョン等があげられる。特に上記ポリアクリル樹脂の原料である化合物のうち、カルボキシル基を有するモノマーを共重合させたアクリル樹脂を、塩基性化合物で中和して得たディスパージョンが好ましい。中和に使用する塩基性化合物は、前記ポリウレタン樹脂で述べた塩基性化合物を使用することができる。なお酸価も前述と同様に測定した値とする。
【0143】
本発明において使用するバインダー樹脂は、顔料を繊維上に固着するためのものであるが、配合量が多いと、洗濯堅牢度と乾式摩擦堅牢度と湿式摩擦堅牢度が向上する一方、繊維の風合いが若干硬くなる傾向にある。したがって、前記バインダー樹脂は、前記捺染剤の合計質量に対し20質量%以下の範囲で使用することが好ましく、10質量%以下の範囲で使用することより好ましく、その下限は1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。
【0144】
前記バインダー樹脂と顔料との比率は、通常スクリーン記録用インクやインクジェット記録用インクに使用する範囲の比率でよく、例えばバインダー樹脂と顔料との比率=1:3〜8:1の範囲が好ましい。
【0145】
洗濯堅牢度と乾式摩擦堅牢度と湿式摩擦堅牢度は、前述の通り使用するバインダー樹脂の重量平均分子量が寄与し、重量平均分子量が大きいほど高い堅牢度を与えるが、この他に、バインダー樹脂の使用量も堅牢度に寄与する。従って、より高い堅牢度を得るためには、バインダー樹脂の使用量は多いほうが好ましく、本発明においては、例えば1:1〜8:1であると、より高い堅牢度を与える。但し高分子量のバインダー樹脂の過剰な使用は、高粘度化につながるため、インクジェット方式で捺染剤を吐出等する場合は、粘度とのバランスを考慮してバインダー樹脂の使用量を決定することが好ましい。
【0146】
(捺染剤の製造方法)
本発明の捺染剤は、前記顔料の高濃度水分散液(以後、水性顔料分散体と称す)を作成し、それを更に水で希釈し前記バインダー樹脂、必要に応じてその他の添加剤を添加して調製することができる。
【0147】
本発明で使用する水性顔料分散体は、顔料は溶媒である水中に分散される前に、予め前記ポリマー(A)と、水溶性有機溶剤などの有機溶剤との混合物中に分散することが好ましい。即ち、有機溶剤が存在する状態で、前記ポリマー(A)、塩基性化合物及び顔料を、攪拌機や分散装置を用いてよく混合して顔料とポリマー(A)の自己水分散化とを行った後、該分散物と水とを混合することによって、水性顔料分散体が得られる。
【0148】
本発明においては、各原料の配合量は特に限定はないが、以下の配合比を目安に配合を行うことが好ましい。
【0149】
例えば前記ポリマー(A)は、顔料100質量部に対し、5〜200質量部配合することが好ましく、より好ましくは5〜100質量部である。
【0150】
また水溶性有機溶剤は、顔料100質量部に対し、20〜200質量部配合することが好ましく、より好ましくは30〜200質量部である。
【0151】
また、塩基性化合物は、前述の通り、前記ポリマー(A)の中和率が20%〜200%になるように使用することが好ましく、中和率が65%〜150%となるように使用することがなお好ましい。このときの中和率は、前述の通り次の式で算出される。
【0152】
【数3】
【0153】
塩基性化合物としては、100%純正物を使用してもよいが、発熱等の恐れがあることから、予め水に溶解して得た水溶液を使用することが好ましい。
【0154】
有機溶剤としては、脱溶剤等の必要がないことから高沸点の水溶性有機溶剤を使用することが好ましく、また、捺染剤に調整した際に特性に支障をきたさないような水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。このような水溶性有機溶剤としては、例えば、前述の高沸点の水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。
【0155】
前記ポリマー(A)と、塩基性化合物と、水溶性有機溶剤と、顔料との分散物を得る工程(以後、工程(1)と称す)において、本発明の効果を損なわない範囲で若干量の水を使用してもよいが、初期の顔料分散における大量の水の存在は、前記ポリマー(A)の顔料分散効率が低下する可能性があることや、ポリマー(A)のみの塊を形成する可能性があることから、少量にとどめておくことが好ましい。
【0156】
前記工程(1)の分散方法は、特に限定されず公知の分散方法でよい。例えば、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドミル、ボールミル等のメディアを使用するメディアミル分散法や、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、アルティマイザー等を使用したメディアレス分散法、ロールミル、ヘンシェルミキサー、常圧ニーダー、インテンシブミキサー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等、強い剪断力を与える混練分散法等が挙げられる。このうち混練分散法は、顔料を含有する高固形分濃度の混合物に混練機で強い剪断力を与えることによって顔料粒子を微細化させる方法であり、顔料濃度の高い水性顔料分散体を得ることができ、且つ粗大粒子の低減に有効な方法であり好ましい。
【0157】
前記混練分散法で工程(1)を行う場合は、混練機中に、前記ポリマー(A)と、塩基性化合物と、水溶性有機溶剤と、顔料とを仕込み混練を行う。このときの仕込み順序には特に限定はなく全量を同時に仕込んで混練を開始してもよいし、各々を少量ずつ仕込んでもよいし、例えばポリマー(A)と塩基性化合物と顔料とを仕込んだのち水溶性有機溶剤を仕込む等、原料によって仕込み順を変えてもよい。各々の原料の仕込み量は前述の範囲で行うことができる。
【0158】
混練分散法のメリットである強い剪断力を混合物に与えるためには、該混合物の固形分比率が高い状態で混練するほうが好ましく、より高い剪断力を該混合物に加えることができる。
【0159】
このとき、顔料や前記ポリマー(A)に加わる好ましい剪断力は、使用する混練機によるが、例えば180MPa以上、さらに好ましくは1800MPa以上である。本発明で使用する前記ポリマー(A)は、高い剪断力が加わった状態でも、良好な分散を維持することができ、粗大粒子が低減された水性顔料分散体を得ることができる。
【0160】
より高い剪断力を加えるためには、顔料とポリマー(A)とを含む固形分比率は40質量%以上が好ましく、50質量%以上がなお好ましい。また、得られる水性顔料分散体の顔料濃度を高濃度とするために、前記混合物中の顔料量はなるべく多くすることが好ましい。例えば、前記混合物全量に対して35質量%以上とすることが好ましく、40質量%以上であることがなお好ましい。
また、顔料とポリマー(A)との含有比率は、特に限定はないが、通常は質量比で10/0.5〜10/20の範囲で行うことが多く、より好ましくは10/0.5〜10/10である。
【0161】
また、前記水溶性有機溶剤は、質量比で顔料の1/5以上使用することが好ましく、1/3以上使用することが最も好ましい。
【0162】
本発明の捺染剤の製造に使用する水性顔料分散体は、前記工程1で得られた分散物に水を混合する工程(以後工程(2)と称す)を経ることによって製造することができる。
【0163】
水中に前記分散物を加えても良いが、逆に前記分散物中に水を加えるほうが、均一な粒子径の水性顔料分散体が得られる点で好ましい。
【0164】
前記分散物に水を混合する方法は特に限定はないが、一度に水を添加して混合することは、時として均一な水性顔料分散体が得られない可能性があるので、水を少量ずつに分けて添加し混合することが好ましい。また通常、前記分散物は、分散機を使用して分散させる。
【0165】
工程2で使用する分散機としては、公知のものを用いることができ、例えば、メディアを用いたものではペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミルなどが挙げられる。またメディアを用いないものとしては、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機などが挙げられる。なお、前記方法で分散して得た分散物は、必要に応じて前記有機溶剤で濃度調整を行っても良い。
【0166】
なお、用いる分散機などの種類によっては、分散機で水分散を行う前に、必要に応じて前記分散物に更に水溶性有機溶剤を添加し、混合、希釈して、前記分散機で処理するのに適した粘度に調整すると好ましい(以下、この粘度調整されたものを粘度調整物と呼ぶ場合がある)。例えばサンドミルを用いる時には、固形分濃度で10〜40質量%となる様に希釈し、数十〜数百センチポイズの粘度に調整した後にサンドミルを駆動させて分散を行うと好ましい。
【0167】
また、前記分散物は、工程2の水分散化を行った後、必要に応じて遠心分離や濾過工程をいれてもよい。
【0168】
なお本願においては、該工程2により、転相乳化あるいはその類似機構により水を媒体とする水性顔料分散体を形成する。
【0169】
本願の工程(1)と工程(2)とをこの順に経ることで、粗大粒子が低減された水性顔料分散体を得ることができる。
【0170】
またこのようにして得られた水性顔料分散体は、顔料がポリマー(A)に内包あるいは一部吸着して安定化していると推定される。
【0171】
また、粗大粒子が、画像特性を劣化させる原因になるため、捺染剤を製造した後に、遠心分離、あるいは濾過処理等により粗大粒子を除去することが好ましい。
【0172】
分散工程の後に、イオン交換処理や限外処理による不純物除去工程を経て、その後に後処理を行っても良い。イオン交換処理によって、カチオン、アニオンといったイオン性物質(2価の金属イオン等)を除去することができ、限外処理によって、不純物溶解物質(顔料合成時の残留物質、分散液組成中の過剰成分、有機顔料に吸着していない樹脂、混入異物等)を除去することができる。イオン交換処理は、公知のイオン交換樹脂を用いる。限外処理は、公知の限外ろ過膜を用い、通常タイプ又は2倍能力アップタイプのいずれでもよい。
【0173】
前記水性顔料分散体を作成した後、水と、バインダー樹脂と、その他必要に応じた添加剤を混合して、着色したい繊維に応じて浸染、捺染など好ましい処理方法に合わせた捺染剤を得る。
【0174】
スクリーン記録用の捺染剤としては、添加剤として、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、又は架橋剤等を含有するものを使用することができる。スクリーン記録用の捺染剤の顔料濃度としては、1〜10質量%の範囲であることが好ましい。このような場合、前記添加剤は、前記のバインダー樹脂と一緒に添加することが好ましい。
【0175】
また、浸染用の捺染剤としては、添加剤として、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、又は架橋剤等とバインダー樹脂とを含有するものを使用することができる。浸染用の捺染剤としては、顔料濃度が1〜10質量%の範囲であるものを使用することが好ましい。浸染用の捺染剤の粘度は、1mPa・s〜100mPa・sの範囲で印捺装置に合わせて任意に設定される。
【0176】
スプレー捺染用の捺染剤としては、添加剤として、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等とバインダー樹脂とを含有するものを使用することができる。スプレー記録用の捺染剤としては、顔料濃度が1質量%〜10質量%の範囲のものを使用することが好ましい。スプレー記録用の捺染剤の粘度は1mPa・s〜100mPa・sの範囲で装置に合わせて任意に設定される。
【0177】
また、インクジェット記録用の捺染剤は、添加剤として、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、又は架橋剤等とを含有するものを使用することができる。インクジェット記録用の捺染剤としては、充分な画像濃度を得る必要性と、捺染剤中の顔料の良好な分散安定性を確保するために、顔料濃度が1質量%〜20質量%であることが好ましい。前記添加剤は、前記水性顔料分散体に、前記バインダー樹脂ととともに添加することが好ましい。
【0178】
防腐剤または防かび剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(アーチケミカルズ社のプロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルLV、プロキセルAQ、プロキセルBD20、プロキセルDL)等が挙げられる。
【0179】
粘度調整剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、スターチ等の主として水溶性の天然あるいは合成高分子物が挙げられる。
【0180】
pH調整剤の具体例としては、コリジン、イミダゾール、燐酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等が挙げられる。
【0181】
キレート化剤の具体例としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン二酢酸、ニトリロ三酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、イミノ二酢酸、ウラミル二酢酸、1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸及びこれらの塩(水和物を含む)等があげられる。
【0182】
酸化防止剤または紫外線吸収剤の具体例としては、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類等、L−アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024等、あるいはランタニドの酸化物等が挙げられる。
【0183】
本発明の捺染剤をインクジェット記録法に適用する場合、その表面張力を20mN/m以上60mN/m以下と調整することが好ましい。より好ましくは、20mN以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、20mN/m以上40mN/m以下である。表面張力が20mN/m未満となるとノズル面に液体が溢れ出し、正常に印字できない場合がある。一方、60mN/mを超えると非吸収基材でのはじきが発生し易い傾向がある。 また粘度は、1.2mPa・s以上20.0 mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2.0 mPa・s以上 15.0mPa・s未満、更に好ましくは3.0mPa・s以上 12.0 mPa・s未満である。粘度がこの範囲において、優れた吐出性と、長期間にわたる良好な噴射性の維持が達成できる。表面張力は前記界面活性剤により適宜調整可能である。
【0184】
また、前記捺染剤としては、それに含まれるポリマー(A)やバインダー樹脂が有してもよい架橋性官能基と反応性を有する基を2つ以上持つ架橋剤を含有するものを使用することができる。
【0185】
架橋剤としては、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂等のアミノ樹脂、トリメチロールフェノール、その縮合物等のフェノール樹脂、テトラメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、それらの変性イソシアネートやブロックドイソシアネート等のポリイソシアネート、脂肪族アミン、芳香族アミン、N−メチルピペラジン、トリエタノールアミン、モルホリン、ジアルキルアミノエタノール、ベンジルジメチルアミン等のアミン類、ポリカルボン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート等の酸無水物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノール系エポキシ樹脂、グリシジルメタクリレート共重合体、カルボン酸のグリシジルエステル樹脂、脂環式エポキシ等のエポキシ化合物、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエングリコール、ポリカプロラクトンポリオール、トリスヒドロキシエチルイソシアネート等のアルコール類等が挙げられる。
【0186】
前記架橋剤は、前記ポリマー(A)及びバインダー樹脂が有する架橋性官能基に見合う量を配合することが好ましく、前記ポリマー(A)及びバインダー樹脂が有する架橋性官能基の質量に対して20質量%以下となる範囲で使用することが好ましく、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7%質量以下である。
【0187】
(被着体)
本発明の捺染剤は、布帛、人工皮革、天然皮革等に対して印捺することができる。特に布帛に対しての印捺に優れる。
【0188】
本発明で使用する布帛は、繊維で構成される媒体であることが好ましく、織物の他不織布でもよい。素材は綿、絹、羊毛、麻、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、レーヨン等の任意の天然・合成繊維からなる布帛を用いることができる。
【0189】
(セット)
本発明の捺染剤は、グリーン色及びブルー色の捺染剤として使用する以外、基本色であるイエロー色、マゼンタ色、シアン色、ブラック色、または、ブルー色等を併用して使用することができる。これらの捺染剤は、本発明のグリーン色及びレッド色の捺染剤で使用するポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料及びジケトピロロピロール顔料の代わりに、各々の発色を有する顔料をする以外は本発明のグリーン色及びレッド色の捺染剤と同様の方法で得ることができる。もちろん市販の捺染剤と組み合わせてもよい。
【0190】
使用できる顔料としては、具体的には、水や水溶性有機溶剤に分散可能な公知の無機顔料や有機顔料が使用できる。無機顔料としては例えば、酸化チタン、酸化鉄、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック等がある。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0191】
顔料の具体例としては、カーボンブラックとして、三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等が、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等が挙げられる。
【0192】
イエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0193】
マゼンタインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209、等が挙げられる。
【0194】
シアンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、 15:4、15:5,15:6、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0195】
レッドインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド270、C.I.ピグメントレッド272等が挙げられる。
【0196】
オレンジ色インクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントオレンジ71、C.I.ピグメントオレンジ73、C.I.ピグメントオレンジ81等が挙げられる。
【0197】
本発明で使用する顔料は、ドライパウダー及びウェットケーキのいずれも用いることができる。また、これらの顔料は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0198】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例を用いて具体的に説明する。
【0199】
(ポリマー(A)の合成例)
(合成例1)
重合開始剤としてn−ブチルリチウム(BuLi)と第一のモノマーとしてスチレン(St)とを図1におけるチューブリアクターP1及びP2とから、図1におけるT字型マイクロミキサーM1に導入し、リビングアニオン重合させ重合体を形成させた。
【0200】
次に、得られた重合体を図1におけるチューブリアクターR1を通じて図1におけるT字型マイクロミキサーM2に移動させ、該重合体の成長末端を、図1におけるチューブリアクターP3から導入した反応調整剤(1,1−ジフェニルエチレン(DPE))によりトラップした。
【0201】
次いで、第二のモノマーとしてメタクリル酸tert−ブチルエステル(t−BMA)を図1に示すチューブリアクターP4からT字型マイクロミキサーM3に導入し、図1におけるチューブリアクターR2を通じて移動させた前記重合体と、連続的なリビングアニオン重合反応を行った。その後メタノールで反応をクエンチしてブロック共重合体(PA−1)を製造した。
【0202】
この際、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで、反応温度を24℃に設定した。また、マイクロリアクターに導入するモノマーおよび反応調整剤はテトラヒドロフラン(THF)で溶解し、またBuLiは市販の2.6Mヘキサン溶液をヘキサンで希釈し、その希釈濃度及び導入速度により、ブロック共重合体(PA−1)のmol比を以下の通り調整した。
【0203】
ブロック共重合体(PA−1)のmol比
重合開始剤/第一モノマー/反応調整剤/第二モノマー=1.0/13.3/1.0/8.1
【0204】
得られたブロック共重合体(PA−1)は、陽イオン交換樹脂で処理することでt−BMAブロックのt−ブトキシカルボニル基を加水分解し、カルボキシル基に再生した。反応溶液を減圧下で留去し、得られた固体を粉砕して、ポリマー(A)としてポリマー(P−1)の粉体を得た。
【0205】
なお、得られたポリマー(A)の数平均分子量、酸価、水への溶解度、中和率100%時の微粒子の有無/平均粒径(nm)、表面張力(dyn/cm)は後述の表に示した。
【0206】
(合成例2)
重合開始剤としてBuLiと第一のモノマーとしてStとを図1におけるチューブリアクターP1及びP2とから、図1におけるT字型マイクロミキサーM1に導入し、リビングアニオン重合させ重合体を形成させた。
【0207】
次に、得られた重合体を図1におけるチューブリアクターR1を通じて図1におけるT字型マイクロミキサーM2に移動させ、該重合体の成長末端を、図1におけるチューブリアクターP3から導入した反応調整剤(α−メチルスチレン(α−MeSt))によりトラップした。
【0208】
次いで、第二のモノマーとしてt−BMAを図1に示すチューブリアクターP4からT字型マイクロミキサーM3に導入し、図1におけるチューブリアクターR2を通じて移動させた前記重合体と、連続的なリビングアニオン重合反応を行った。その後メタノールで反応をクエンチしてブロック共重合体(PA−2)を製造した。
【0209】
この際、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで、反応温度を24℃に設定した。また、マイクロリアクターに導入するモノマーおよび反応調整剤はTHFで溶解し、またBuLiは市販の2.6Mヘキサン溶液をヘキサンで希釈し、その希釈濃度及び導入速度により、ブロック共重合体(PA−2)のmol比を以下の通り調整した。
【0210】
ブロック共重合体(PA−2)のmol比
重合開始剤/第一モノマー/反応調整剤/第二モノマー=1.0/12.0/1.3/8.1
【0211】
得られたブロック共重合体(PA−2)は、陽イオン交換樹脂で処理することで加水分解させ、反応溶液を減圧下で留去し、得られた固体を粉砕して、ポリマー(P−13)の粉体を得た。
【0212】
(比較合成例1 比較例用ポリマー(PH−1)の合成例)
(ランダムポリマーの調製方法)
撹拌装置、滴下装置、還流装置を有する反応容器にメチルエチルケトン100部を仕込み、撹拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら加温しメチルエチルケトンの還流状態とした後、滴下装置からSt74部、アクリル酸11部、メタクリル酸15部および重合開始剤(和光純薬工業社製/「V−75」)8部の混合液を2時間かけて滴下した。なお滴下の途中より反応系の温度を80℃に保った。
滴下終了後、同温度でさらに25時間反応を続けた。なお、反応の途中において、原料の消費状況を確認しながら、適宜、重合開始剤を追加した。反応終了後、メチルエチルケトンを減圧下で留去し、得られた固体を粉砕して、ポリマー(PH−1)の粉体を得た。
ポリマー(PH−1)の数平均分子量は5255、重量平均分子量は9000で、酸価は185mgKOH/gであった。
【0213】
(ポリマーの物性値の測定方法)
得られた各ポリマー(A)の物性値は以下のように測定した。
【0214】
(数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定方法)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
【0215】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
【0216】
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のTHF溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0217】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0218】
JIS試験方法K 0070−1992に準拠して測定した。テトラヒドロフラン(THF)溶媒にポリマー0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより求めた。
【0219】
(水への溶解度の測定方法)
目開き250μm、および90μmの篩を用い250μm〜90μmの範囲に粒子径を整えたポリマー0.5gを、400メッシュ金網を加工した袋に封入し、水50mlに浸漬、25℃の温度下で24時間緩やかに攪拌放置した。24時間浸漬後、ポリマーを封入した400メッシュ金網を110℃に設定した乾燥機において2時間乾燥を行うことにより、乾燥させた。ポリマーを封入した400メッシュ金網の水浸漬前後の重量の変化を測定し、次式により溶解度を算出した。
【0220】
【数4】
【0221】
(水中での微粒子形成の判断方法、および平均粒径(nm)の測定方法))
(1)前記酸価の測定方法に従い、ポリマーの酸価を求める。
(2)水50mlに対して、ポリマーを1g添加後、上記(1)で得たポリマーの酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和とする。
(3)100%中和させた液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄機(株式会社エスエヌディ超音波洗浄器US−102、38kHz自励発信)中で超音波を照射し分散させた後、24時間室温で放置する。
【0222】
24時間放置後、液面から2センチメートルの深部にある液をサンプリングしたサンプル液を、日機装株式会社製動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA−ST150」を用い、微粒子形成による光散乱情報が得られるか判定することにより、微粒子が存在するか確認した。同時に、平均粒子径を測定した。
【0223】
(表面張力の測定方法)
前記水中での微粒子形成の判断方法で得たサンプル液と同様のサンプル液を、ウィルヘルミ表面張力計を用い測定した値とした。
【0224】
前記合成例、比較合成例で得られたポリマーの原料、反応条件、物性値を表に示す。
【0225】
【表1】
【0226】
【表2】
【0227】
表1及び2中、BuLiはノルマルブチルリチウムを表し、Stはスチレンを表し、DPEは1,1−ジフェニルエチレンを表し、αMeStはαメチルスチレンを表し、tBMAはメタクリル酸tert−ブチルエステルを表す。
【0228】
(水性顔料分散体の製造方法)
以下のいずれかの方法で、水性顔料分散体を得た。なお使用したポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料、及びポリマー(A)の種類、及び各々の原料の使用量は、後述の表中に記載した。
【0229】
<常圧ニーダーを使用した水性顔料分散体の製造方法(X1)>
ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料を120質量部、前述の合成方法で得たポリマー(A)であるPA―1もしくはPA−2または比較合成例で得たPH−1の36質量部を0.2Lの常圧ニーダー(株式会社アドバンス製)に仕込み、ジャケット温度を80℃(羽回転数:40rpm)で混合した。その後、水溶性溶剤としてジエチレングリコール52質量部、塩基性化合物として34質量%水酸化カリウム水溶液15質量部を添加し、1時間混練を行う工程1を行った。
【0230】
続いて、容器内の混練物に、撹拌を継続しながらイオン交換水360質量部を徐々に加えた後、ジエチレングリコール68質量部、イオン交換水149質量部(なおイオン交換水は先に加えた34質量%水酸化カリウム水溶液15質量部と合わせて164質量部となるように調整している)の混合液を加え混合する工程2を行い、顔料濃度15.0質量%の水性顔料分散体を得た。
【0231】
<インテンシブミキサーを使用した水性顔料分散体の製造方法(X2)>
ポリハロゲン化金属フタロシアニン顔料またはジケトピロロピロール顔料を150質量部、前述の合成方法で得たポリマー(A)であるPA―1もしくはPA−2または比較合成例で得たPH−1を45質量部、水溶性溶剤としてトリエチレングリコールを95質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液19質量部を、1.0Lのインテンシブミキサー(日本アイリッヒ株式会社)に仕込み、ローター周速2.94m/s、パン周速1m/sで、25分間混練を行う工程1を行った。
【0232】
続いて、インテンシブミキサー容器内の混練物に、撹拌を継続しながらイオン交換水450質量部を徐々に加えた後、水溶性溶剤としてトリエチレングリコールを55質量部、イオン交換水186質量部の混合液を加え混合する工程2を行い、顔料濃度は15.0質量%の水性顔料分散体を得た。
【0233】
<バインダー樹脂の製造方法>
<ポリカーボネート系ウレタン樹脂の合成>
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、1,6−ヘキサンジオールとメチルカーボネートとを反応して得られるポリカーボネートポリオール(数平均分子量2000)500質量部、2,2―ジメチロールプロピオン酸37.7質量部及びメチルエチルケトン 420質量部を加え、均一に混合した。次いで、トリレンジイソシアネート 92.4質量部を加えた後、ジブチル錫ジラウレート0.1質量部を加え、80℃で7時間反応させることによって、重量平均分子量が37000のポリウレタン(酸価25)の有機溶剤溶液を得た。
【0234】
その後、50℃まで冷却し、トリエチルアミン29.8質量部及び水2069質量部を加え、減圧下、40℃〜60℃の温度下でメチルエチルケトンを除去し、水を加えて濃度調節を行うことによって、前記ウレタン樹脂が水性媒体中に分散された不揮発分23質量%の樹脂組成物(PUD−1)を得た。
【0235】
<アクリル共重合体の製造方法>
アクリル酸n−ブチル300質量部、メタクリル酸メチル50質量部、スチレン100質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート5質量部、アクリル酸10質量部、グリシジルメタクリレート5質量部、水200質量部、及び非イオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製「ノイゲンEA−207D」、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル)5質量部を混合した後、ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製「TKホモディスパー」)を用いて乳化して単量体乳化物を調製した。
【0236】
次いで、撹拌機、窒素導入管及び還流冷却器を取り付けたフラスコに、水300質量部を入れ窒素ガス雰囲気下で撹拌混合しながら50℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム(以下、「APS」と略記する。)2質量部及びメタ重亜硫酸ナトリウム(以下、「SMS」と略記する。)2質量部をフラスコ内に添加して溶解した。その後、上記で調製した単量体乳化物、5質量%APS水溶液20質量部、及び5質量%SMS水溶液20質量部を3時間かけてフラスコ内に滴下した。なお、この滴下中のフラスコ内の温度は50〜60℃に制御した。滴下終了後、60℃でさらに1時間反応してアクリル共重合体(A−1)を得た。その後、室温まで冷却した後、25質量%アンモニア水3.5質量部を加えて中和し、樹脂分が45質量%となるように水を加えて均一に混合して、アクリル共重合体(A−1)の水性樹脂エマルジョンを得た。
【0237】
<実施例 捺染剤の調製>
後述する表に記載の配合割合となるように、前記水性顔料分散体20質量部に、前記製造方法で得たバインダー樹脂と、界面活性剤、水溶性有機溶剤及び水の混合物を添加し、分散攪拌機(特殊機化工業(株)製のTKホモディスパー L)を用い十分攪拌することによって捺染剤を得た。
捺染剤の全量に対するバインダー樹脂(固形分)の含有量は、5質量%となるように調整した。
【0238】
(評価方法)
前記得られた捺染剤は、以下の項目を測定して評価を行った。
【0239】
<体積平均粒子径>
作製した捺染剤を1000倍に希釈し、マイクロトラックUPA−ST150(日機装社製)で測定を行った。測定値は3度測定した平均値を取った。
【0240】
<粗大粒子数>
作製した捺染剤を10倍に希釈し、アキュサイザー780APS(インターナショナル・ビジネス社製)にて測定を行った。粗大粒子数は希釈前の捺染剤1ml当たりの粒子数に換算した。表中の粒子数には(×104個/ml)の単位を用いた。
【0241】
本発明においては、1.0μm以上の粗大粒子数は1000×104個/mlを超えたものを不合格とした。
【0242】
<評価用布帛の作製>
上記の実施例及び比較例で得られた捺染剤を用いて、下記の方法により、布帛表面に印捺して、各種評価用布帛を得た。
【0243】
<堅牢度評価用布帛の作製_スクリーン法>
オートスクリーン捺染機(辻井染機工業株式会社製)を用いてスクリーン印刷法により印字評価を行った。135メッシュのストライプ柄のスクリーンにて、各捺染剤をポリエステル/綿布帛に印捺後、120℃、2分間乾燥させ、150℃、2分間の加熱処理を行った。印捺物を目視した結果、いずれも良好な品質であった。
【0244】
<評価用布帛の作製_インクジェット記録法>
インクジェットプリンター(セイコーエプソン(株)製、MJ−510C)のインクカートリッジに充填し、印字した。各捺染剤をポリエステル/綿布帛に印捺後、120℃、2分間乾燥させ、150℃、2分間の加熱処理を行った。印捺物を目視した結果、白筋を目視で確認できなかったものを「良好」と評価し、白筋を確認できたものを「不良」と評価した。
【0245】
<洗濯堅牢度の評価方法>
インクジェット記録法で得た印捺物について、JIS L 0844:2005のA−4法に準拠して試験を繰り返し30回行った後、JIS L 0801:2004の変退色用グレースケールを用いた視感法の判定基準にしたがって、1級〜5級で等級を判定した。なお、等級は、1級が最も退色が大きく、5級に近づくほど退色が少ない。
【0246】
<摩擦堅牢度(乾式、湿式)の評価方法>
インクジェット印刷により得た印捺物について、JIS L 0849:2004に準拠して、学振型摩擦堅牢度試験機を使用して、乾式及び湿式の試験を行った後、JIS L 0801:2004の変退色用グレースケールを用いた視感法の判定基準にしたがって、1級〜 5級で等級を判定した。なお、等級は、1級が最も退色が大きく、5級に近づくほど退色が少ない。
【0247】
実施例及び比較例の捺染剤の組成、各種評価結果を表3〜表5に示す。
【0248】
【表3】
【0249】
【表4】
【0250】
【表5】
【0251】
表3〜5中、
PG36は、「FASTOGEN Green 2YK−MJ」または「FASTOGEN Green 2YK−CF」であり、
PG7+PG36は、C.I.Pigment Green 7 90%以上とC.I.Pigment Green 36 1−5%の混合物であるDIC社製の「FASTOGEN Green S−K」であり、
PG58は、「FASTOGEN Green A110」である。
【0252】
表3〜表5の結果から、本発明(実施例1〜10)の捺染剤は、スクリーン法での白筋等の原因やインクジェット記録法での吐出不良の原因となりうる粗大粒子数が少なく、且つ印刷した印捺部は、いずれも良好な堅牢度を有していた。一方比較例1〜3の捺染剤は、粗大粒子数が多く、また堅牢度は不良であった。
【0253】
【表6】
【0254】
【表7】
【0255】
表中、略語は以下の通りである。
PR.254:C.I.Pigment Red254の略であり、「Irgagin Red L 3630」である。
【0256】
表3の結果から、本発明(実施例14〜18)の捺染剤により印刷した印捺部は、いずれも良好な堅牢度を有しているのに対し、比較例4〜6の捺染剤の堅牢度は不良であった。