特許第6671772号(P6671772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6671772
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】高硬度高靭性粉末
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/07 20060101AFI20200316BHJP
   C22C 27/04 20060101ALI20200316BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20200316BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C22C19/07 Z
   C22C27/04 101
   C22C27/04 102
   C22C30/00
   B22F1/00 M
   B22F1/00 P
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-249199(P2015-249199)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-115177(P2017-115177A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩之
【審査官】 本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−023383(JP,A)
【文献】 特開昭59−211546(JP,A)
【文献】 特開昭62−207847(JP,A)
【文献】 米国特許第03410732(US,A)
【文献】 特開2006−316745(JP,A)
【文献】 特開平09−150257(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0142026(US,A1)
【文献】 韓国公開特許第2003−0052570(KR,A)
【文献】 藤田正仁、外2名,Cu-10%Sn-10%Pb,鉛青銅焼結合金のCo系硬質粒子添加効果,粉体粉末冶金協会講演概要集,日本,1998年11月18日,Page.125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/07
B22F 1/00−1/02
C22C 27/04
C22C 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Moまたは/およびWを合計で25〜50%未満、Crを5〜15%、Siを0.05〜0.3%含み、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高硬度高靭性粉末。
【請求項2】
請求項1に加えて、質量%で、Mnを35%以下、Vを20%以下、Feを15%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする高硬度高靭性粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットピーニング用投射材、塩酸耐食性に優れる高硬度粉末冶金材用の原料粉末、硬質摩擦粉末、焼結用硬質粒子などに用いる高硬度高靭性粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Co−Mo、Co−W系の合金は、それぞれの2元状態図からわかるとおり、様々な金属間化合物を生成する。これらの金属間化合物は高硬度を有しており、各種の高硬度材料、耐摩耗材料に適している。また、Mo、Wは、Coに固溶することにより、耐食性を改善する効果もあり、特に塩酸のような還元性酸に対する耐食性を改善する効果が大きい。また、Co自身もベース金属として各種酸に対し高い耐食性も有する。したがって、これら合金組成の粉末は、ショットピーニング用投射材、塩酸耐食性に優れる高硬度粉末冶金材用の原料粉末、硬質摩擦粉末、焼結用硬質粒子などに利用できる。
【0003】
例えば、WO2012/063512A1号公報(特許文献1)に開示されている、CoMoCrSi系合金粉末〔トリバロイ(登録商標)〕が多く用いられている。一方、Siは合金中で高硬度化のために添加されており、硬質ではあるが脆性な珪化物を生成し、合金の抗折強度が低下するため、特に高い抗折強度が必要な用途においては問題となる場合もあった。これらのことから、MoおよびWは硬さ、耐食性改善のために、可能な限り多量に添加したい場合でも、抗折強度や靭性を考慮し、添加量を低く留めざるを得ない状況が実状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2012/063512A1公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで発明者らは、Coをベースとし、Mo、Wを合計で25%以上含む粉末に関し、Si添加量を詳細に検討し、高い靭性(抗折強度)を有する範囲を見出し本発明に至った。なお、本発明合金の組成範囲においては、硬質かつ脆性な珪化物を生成せず、一方、Co−Mo系やCo−W系の金属間化合物の生成により、時効硬化性を有することも見出しており、例えばHIP法などにより固化成形した後、熱処理により硬さを変化させることが可能であることから、低硬度の状態で機械加工し、その後、時効処理により硬度を上げて使用することもできる。したがって、機械加工が容易な低硬度の状態で加工し、耐摩耗性に優れる高硬度の状態にして使用することを可能とした。
【0006】
その発明の要旨とするところは、
(1)質量%で、Moまたは/およびWを合計で25〜50%、Crを5〜15%、Siを0.3%以下含み、残部Coおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高硬度高靭性粉末。
(2)前記(1)に加えて、質量%で、Mnを35%以下、Vを20%以下、Feを15%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする高硬度高靭性粉末にある。
【発明の効果】
【0007】
以上述べたように、本発明により、ショットピーニング用投射材、塩酸耐食性に優れる高硬度粉末冶金材用の原料粉末、硬質摩擦粉末、焼結用硬質粒子などに用いる高硬度高靭性粉末を提供できる。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における最大の特徴はSiの添加量を、従来のCoMoCrSi合金より低減することにより、高硬度と高靭性を両立させたことである。また、この成分範囲において、時効硬化性を有することも見出した。さらに、これらの特徴に影響しない添加元素の範囲として、Mn、V、Feの1種または2種以上の添加も可能である。
【0009】
なお、粉末の製法としては従来より知られている、ガスアトマイズ、水アトマイズ、ディスクアトマイズ、急冷箔帯や鋳造材の粉砕などが利用できる。ガスアトマイズ、ディスクアトマイズ法など球形状が得られる工法(例えば画像解析による円形度が0.85〜0.75以上)や、水アトマイズ法など概ね球形状が得られる工法(例えば円形度が0.80〜0.70以上)による粉末は、ショットピーニング投射材として用いた場合に被投射材の表面荒れを抑制したり、焼結用原料粉末に用いる場合は成形時の充填率が高くなりニアネットの成形に有利となる。
【0010】
一方、各種粉砕法などの、不定形状が得られる工法(例えば円形度が0.80〜0.70未満)による粉末は、溶射など成膜処理の前処理としてのショットピーニング用投射材として用いた場合に被投射材の表面粗度を上げ皮膜の密着性を改善したり、焼結用原料粉末に用いる場合は成形時の保形性を高める効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る成分組成を規制した理由について説明する。
Moまたは/およびW:25〜50%
本発明合金においてMoとWは合金の硬さを増加させるが、抗折強度や靭性を低下させる元素である。しかし、その合計量が25%未満では、十分な硬さが得られない。一方、50%を超えると抗折強度が低下する。好ましくは30%を超え50%未満、より好ましくは35%を超え45%未満である。
【0012】
Cr:5〜15%
本発明合金においてCrは、MoやWとともに硬さを上昇させる元素であり、耐食性改善の効果も有する。しかし、5%未満では硬さ、耐食性が不十分であり、15%を超えると時効前硬さが高くなり、時効硬化幅が小さくなってしまう。好ましくは6〜14%、より好ましくは7〜13%である。
【0013】
Si:0.3%以下
本発明合金においてSiは、珪化物生成により抗折強度を低下させ、また時効硬化幅を小さくする元素であるため、上限を規定する必要がある。0.3%を超えて含むと抗折強度の低下が顕著となり、時効硬化幅も小さくなる。好ましくは0.19%以下、より好ましくは0.15%未満である。
【0014】
Mn:35%以下、V:20%以下、Fe:15%以下の1種または2種以上
本発明合金においてMn、V、Feは過度に添加しない範囲において本発明の特徴を損なうことのない元素であり、必要に応じて添加することができる。それぞれの元素の添加量が、35%、20%、15%を超えると抗折強度が低下する。一方、Mn、Feは原料費の低減に寄与する元素である。したがって、Mnは20%、Feは5%をそれぞれ超えて添加することが好ましい。また、Vは抗折強度の低下を抑制するため、好ましくは15%未満である。
【実施例】
【0015】
以下、本発明について、実施例によって具体的に説明する。
先ず、粉末の作製として、供試粉末は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、急冷リボン粉砕法、鋳造粉砕法で作製した。アトマイズ法は、25kgに秤量した溶解原料を、減圧Ar下の耐火物製坩堝内で1750℃まで誘導溶解し、坩堝下部の直径7mmのノズルから出湯し、窒素ガスもしくは水を噴霧媒体としアトマイズを行なった。
【0016】
急冷リボン粉砕法は、30gに秤量した溶解原料を、減圧Ar下の石英管内で誘導溶解し、石英管底の1mmのノズルから、直径300mm、回転数500rpmの銅ロールに出湯し急冷リボンを得た。これを、Ar置換した遊星ボールミル内で粉砕した。これを、石英管中に真空封入し、加熱炉内で1200℃で1時間保持した後、空冷する溶体化処理を行った。
【0017】
鋳造粉砕法は、200gに秤量した溶解原料を、直径50mmの水冷銅鋳型内で、減圧Ar下でアーク溶解し、凝固させたインゴットを、スタンプミルで粗粉砕した後、Ar置換した遊星ボールミル内で粉砕した。これを、石英管中に真空封入し、加熱炉内で1200℃で1時間保持した後、空冷する溶体化処理を行った。なお、セイシン企業社製のPITA−1で測定した平均円形度は、ガスアトマイズ粉末が0.80以上、水アトマイズ粉末が0.75以上、粉砕粉末は0.75未満であった。
【0018】
粉末の硬さについては、150μm以下に分級した粉末を樹脂に埋め、研磨し、ビッカース硬さを評価した。試験荷重は2.94N(300gf)、n=5平均で評価した。また、Ar中において、800℃で3時間時効処理した粉末についても同様にビッカース硬さを測定した。
【0019】
粉末冶金体の硬さ、抗折強度については、150μmに分級した粉末を、内径30mm、高さ30mmのステンレス製カプセルに充填、脱気、封入し、保持温度1150℃、保持時間3h、成形圧力147MPaでHIP成形し、その後徐冷した。この成形体について、ビッカース硬さ(粉末と同様の方法)と抗折強度(支点間距離10mmの三点曲げ試験)を評価した。
【0020】
各項目の評価については、表1に示す組成の粉末を作製し評価を行なった。粉末の硬さとして、粉末の時効処理後のビッカース硬さが700HV以上のものをA、700HV未満500HV以上のものをB、500HV未満のものをCとした。
【0021】
粉末の時効硬化幅としては、「粉末の冶金体の硬さ−時効処理前粉末の硬さ」が200HV以上のものをA、200HV未満100HV以上のものをB、100HV未満のものをCとした。
【0022】
粉末冶金体の抗折強度としては、粉末の冶金体の抗折強度が800MPa以上のものをA、800MPa未満400MPa以上のものをB、400MPa未満のものをCとした。
【0023】
【表1】
表1に示すように、No.1〜12は本発明例であり、No.13〜23は比較例である。
【0024】
表1に示す比較例No.13は、粉末組成であるMo元素とW元素の合計量が少ないために、供試粉末での硬さが劣る。比較例No.14は、粉末組成であるMo元素とW元素の合計量が多いために、抗折強度が劣る。比較例No.15は、粉末組成にCrが含有しないために、供試粉末での硬さ、および耐食性が劣る。比較例No.16は、粉末組成であるCrの含有量が多いために、供試粉末での時効前硬さが高くなり、時効硬化幅が小さくなる。
【0025】
比較例No.17〜20は、いずれも粉末組成であるSiの含有量が多いために、抗折強度の低下が顕著となり、供試粉末での時効硬化幅が小さくなる。比較例No.21〜23は、粉末組成であるMn,V、Feの含有量がいずれも多いために、抗折強度が劣る。これに対して、本発明であるNo.1〜12は、いずれも本発明の条件を満たしていることから供試粉末の硬さ、供試粉末の時効硬化幅、抗折強度に優れていることが分かる。
【0026】
以上のように、特に、MoとWを合計で25〜50%含有することにより、十分な硬度を得ると同時に、Crによる耐食性を高め、Siの上限を規制することで、抗折強度と大きな時効硬化幅の両立を図り、時効硬化性、抗折強度に優れたショットピーニング用投射材、塩酸耐食性に優れる高硬度粉末冶金材用の原料粉末、硬質摩擦粉末、焼結用硬質粒子などに用いる高硬度高靱性粉末を提供することができる。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊