(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、レシチン含有油脂組成物であって、ジグリセリン脂肪酸エステルおよび乳化剤Aを含有し、
前記乳化剤Aがモノグリセリン脂肪酸エステル、重合度3以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる一種または二種以上であり、
前記レシチンをアセトン不溶物として0.2質量%以上8質量%以下、
前記ジグリセリン脂肪酸エステルを前記アセトン不溶物1質量部に対し、0.1質量部以上15質量部以下、および、
前記乳化剤Aを前記アセトン不溶物1質量部に対し、0.005質量部以上8質量部以下、
含有する前記レシチン含有油脂組成物である。
【0010】
前記ジグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸は不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0011】
前記乳化剤Aの脂肪酸は不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0012】
前記乳化剤Aの親水性親油性バランス(HLB)は1.8以上7.2以下であることが好ましい。
【0013】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルの重合度は4以上12以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、レシチンをアセトン不溶物として0.2質量%以上8質量%以下含有するレシチン含有油脂組成物に
ジグリセリン脂肪酸エステルを前記アセトン不溶物1質量部に対し、0.1質量部以上15質量部以下、および、
乳化剤Aを前記アセトン不溶物1質量部に対し、0.005質量部以上8質量部以下添加するレシチン含有油脂組成物のレシチンの沈降を抑制する方法であって、
前記乳化剤Aがモノグリセリン脂肪酸エステル、重合度3以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる一種または二種以上である、前記方法である。
【0015】
本発明で用いられるレシチンは、食品または食品添加物の分野で慣用的に用いられているレシチンを総称するものである。大豆、菜種、コーン、ヒマワリ、パーム、落花生などの植物油精製時の副産物(例えば、脱ガム工程で発生する水和物)や卵黄などの粗原料から調製したペースト状レシチンや、この粗原料を溶剤で分別して得た分画レシチン、それにこの粗原料を酵素処理して得た酵素分解レシチンなど、リン脂質を主成分とした混合物からなるレシチンを使用することができる。本発明において、レシチンは特に限定されないが、ペースト状レシチンおよび分画レシチンから選ばれる一種または二種が好ましい。
【0016】
レシチン含有油脂組成物中の前記レシチンの含量は、アセトン不溶物として0.2質量%以上8質量%以下である。含量の下限は、0.3質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、含量の上限は、6質量%以下が好ましい。
【0017】
また、前記レシチンのアセトン不溶物含量は、50質量%以上100質量%以下が好ましく、50質量%以上80質量%以下がより好ましく、55質量%以上70質量%以下がさらに好ましい。
【0018】
レシチンのアセトン不溶物の含量は、食品添加物公定法分析試験法により測定できる。具体的には、以下のような測定により求められる、アセトン不溶物換算値である。
【0019】
レシチン約2gの質量(A)を精密に量り、これを50mL目盛付共栓遠心管に入れ、石油エーテル3mLを加えて溶かし、アセトン15mLを加えてよくかき混ぜた後、氷水中に15分間放置する。これにあらかじめ0〜5℃に冷却したアセトンを加えて50mLとし、よくかき混ぜ、氷水中に15分間放置した後、毎分約3000回転で10分間遠心分離し、上層液をフラスコに採る。さらに共栓遠心管の沈殿物に0〜5℃のアセトンを加えて50mLとし、氷水中で冷却しながらよくかき混ぜた後、同様に遠心分離する。この上層液を先のフラスコに合わせ、水浴上で蒸留し、残留物を105℃で1時間乾燥し、その質量(B)を精密に量る。
【0020】
この測定により、レシチン中のアセトン不溶物含量が、以下の数式により算出される。
アセトン不溶物(質量%)=(1−B/A)×100
【0021】
本発明で用いられるジグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンの重合度が2であるポリグリセリン脂肪酸エステルのことである。脂肪酸の種類は特に問わないが、好ましくは不飽和脂肪酸であり、より好ましくはオレイン酸である。また、ジグリセリン脂肪酸エステルの製造で蒸留精製工程を経たものが好ましい。
【0022】
レシチン含有油脂組成物中の前記ジグリセリン脂肪酸エステルの含量は、前記アセトン不溶物1質量部に対し、0.1質量部以上15質量部以下である。含量の下限は、0.15質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましい。また、含量の上限は、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。所定の含量とすることで、より良い風味とより良い効果を得ることができる。
【0023】
本発明で用いられる乳化剤Aは、モノグリセリン脂肪酸エステル、重合度3以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選ばれる一種または二種以上である。好ましくはモノグリセリン脂肪酸エステル、重合度3以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及び有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる一種または二種以上であり、より好ましくは重合度7以上12以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる一種または二種以上であり、さらに好ましくは重合度7以上12以下のポリグリセリン脂肪酸エステルである。
【0024】
また、前記乳化剤Aの脂肪酸は、好ましくは不飽和脂肪酸であり、より好ましくはエルカ酸またはオレイン酸であり、さらに好ましくはオレイン酸である。
【0025】
また、前記乳化剤Aの親水性親油性バランス(HLB)は1.8以上7.2以下であることが好ましく、2.5以上7.2以下であることがさらに好ましい。
【0026】
また、前記乳化剤Aは、前記アセトン不溶物1質量部に対し、0.005質量部以上8質量部以下含有させる。好ましくは0.005質量部以上6質量部以下であり、より好ましくは0.01質量部以上5質量部以下である。
【0027】
前記モノグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸は特に問わないが、好ましくは不飽和脂肪酸であり、より好ましくはオレイン酸である。
【0028】
前記重合度3以上16以下のポリグリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンの重合度が3以上16以下のポリグリセリンに脂肪酸がエステル結合したものである。脂肪酸は特に問わないが、好ましくは不飽和脂肪酸であり、より好ましくはオレイン酸である。また、重合度は好ましくは3以上12以下であり、より好ましくは4以上12以下であり、さらに好ましくは4以上10以下であり、最も好ましくは7以上10以下である。
【0029】
前記ソルビタン脂肪酸エステルとは、ソルビタンに脂肪酸がエステル結合したものである。脂肪酸は特に問わないが、好ましくは不飽和脂肪酸であり、より好ましくはオレイン酸である。
【0030】
前記有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルとは、有機酸モノグリセリンに脂肪酸がエステル結合したものである。有機酸は、好ましくはクエン酸である。また、脂肪酸は特に問わないが、好ましくは不飽和脂肪酸であり、より好ましくはオレイン酸である。
【0031】
前記プロピレングリコール脂肪酸エステルとは、プロピレングリコールに脂肪酸がエステル結合したものである。脂肪酸は特に問わないが、好ましくは不飽和脂肪酸であり、より好ましくはオレイン酸である。
【0032】
本発明で使用される油脂は、その種類には特に限定がなく、食用油として用いられるものであればよい。具体例として、大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、紅花油、ひまわり油、綿実油、米油、落花生油、パーム核油、ヤシ油などの植物油脂並びに牛脂、豚脂等の動物脂、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂の単品又は、これらの二種類以上の混合したものでも良い。特に、上昇融点が25℃以下の油脂であることが好ましい。例えば、油脂として、大豆油、菜種油、コーン油、パームオレイン等のヨウ素価が60以上の油脂から選ばれる一種または二種以上の配合量を60質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、上限は特にないが、100質量%以下である。
【0033】
また、前記レシチン含有油脂組成物中の前記油脂の含量は、好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは88質量%以上である。油脂含量の上限は、特に限定されないが、レシチン、乳化剤及び油脂の合計が100質量%以下となるようにする。
【0034】
前記レシチン含有油脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常の油脂に用いられる添加剤が含まれていても良い。具体的には、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、シリコーン、トコフェロール等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【0036】
実施に際しては、以下のものを使用した。
【0037】
菜種油(株式会社J−オイルミルズ社製)
レシチンA(レシチンPW;株式会社J−オイルミルズ社製、アセトン不溶物含量:100質量%)
レシチンB(レシチンAY;株式会社J−オイルミルズ社製、アセトン不溶物含量:60質量%)
【0038】
乳化剤は、表1に記載のものを用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
(油脂組成物の調製)
レシチンおよび乳化剤は、予め、60℃程度に加温した(ただし、レシチンAは加温せずに使用した)。200ml容量のビーカーにレシチン、乳化剤、油脂の順に添加した。80℃で5分間攪拌し、油脂組成物を得た。
【0041】
(レシチン沈降抑制効果の評価)
油脂組成物80gを100mlバイアル瓶に入れ、開放した状態で、40℃、90%の湿度の恒温恒湿槽で1時間保存した。恒温恒湿槽から室温に30分間放置した後、密栓した。一晩放置後、目視で観察し、以下のように評価した。
◎ 濁りや沈殿がなく清澄な状態
○ 沈殿はないが、全体的に若干ボケている状態
△ 沈殿はないが、濁りが発生している状態
× 沈殿が発生している状態
【0042】
表2に記載の油脂組成物を調製し、レシチン沈降抑制効果の評価をおこなった。結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示したように、レシチンとジグリセリン脂肪酸エステルおよび重合度10のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することでレシチンの沈降が抑制されることがわかった。
一方、レシチン単独、レシチンとジグリセリン脂肪酸エステル、レシチンと重合度10のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合した油脂組成物では、レシチンが沈降した。
【0045】
表3に記載の油脂組成物を調製し、比較例2−1と同様に評価をおこなった。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
上記いずれの乳化剤もDO−100Vとの併用で、レシチン沈降抑制効果を発揮した。
【0048】
表4に記載の油脂組成物を調製し、比較例2−1と同様に評価をおこなった。結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4に示したように8070V、O−80V、PO−100V、A−173E、O−50Dのいずれの乳化剤でも、レシチン沈降抑制効果を発揮した。特にO−80VとO−50Dの効果が高かった。
【0051】
(レシチン含量)
表5に記載の油脂組成物を調製し、比較例2−1と同様に評価をおこなった。結果を表5に示す。
【0052】
【表5】
【0053】
実施例5−1〜6に示したように、アセトン不溶物として0.3〜6.0質量%添加した場合には、レシチンの沈降がなかった。
【0054】
(ジグリセリン脂肪酸エステル含量)
表6に記載の油脂組成物を調製し、比較例2−1と同様に評価をおこなった。その結果を表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
実施例6−1〜6に示したように、レシチンのアセトン不溶物1質量部に対し、DO−100Vを0.1〜10質量部の範囲で添加した場合には、レシチンの沈降がなかった。
一方、比較例6−1のように、レシチンのアセトン不溶物1質量部に対し、DO−100Vを0.01質量部添加した場合には、レシチンの沈降抑制効果はなかった。
【0057】
(乳化剤A含量)
表7に記載の油脂組成物を調製し、比較例2−1と同様に評価をおこなった。結果を表7に示す。
【0058】
【表7】
【0059】
実施例7−1〜6に示したように、レシチンのアセトン不溶物1質量部に対し、Q−175Sを0.01〜5質量部の範囲で添加した場合には、レシチンの沈降がなかった。