特許第6672162号(P6672162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6672162発酵のための炭水化物の制限的供給を伴うグリセロールの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6672162
(24)【登録日】2020年3月6日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】発酵のための炭水化物の制限的供給を伴うグリセロールの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20200316BHJP
   C12P 7/46 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   C12N15/09 ZZNA
   C12P7/46
【請求項の数】10
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2016-558086(P2016-558086)
(86)(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公表番号】特表2017-507665(P2017-507665A)
(43)【公表日】2017年3月23日
(86)【国際出願番号】EP2015055717
(87)【国際公開番号】WO2015140226
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2018年3月15日
(31)【優先権主張番号】14160638.4
(32)【優先日】2014年3月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】ダンタス コスタ,エスター
(72)【発明者】
【氏名】ツェルダー,オスカー
(72)【発明者】
【氏名】シュレーダー,ハルトヴィヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヘフナー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】クラウチク,ヨアンナ マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】フォン アーベントロート,グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】リーデーレ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】レンツ,トルステン
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−521190(JP,A)
【文献】 Biotechnology and Bioengineering, 2008, Vol.100, p.1088-1098
【文献】 Curr Microbiol, 2011, Vol.62, p.152-158
【文献】 Journal of Bacteriology, 2001, Vol.183, p.1748-1754
【文献】 Bioresource Technology, 2013, Vol.137, p.116-123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12P 7/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
I) 同化可能な炭素源としてグリセロール及びさらなる炭素質化合物が供給される培地において微生物を培養して、微生物に有機酸を産生させ、それにより、有機酸を含む発酵ブロスを得るプロセスステップと、
II) プロセスステップI)において得られた発酵ブロスから有機酸又はその塩を回収するプロセスステップと
を含む、発酵により有機酸を製造するための方法であって、
少なくとも12時間の培養期間の間、さらなる炭素質化合物の供給速度、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)より低く、
有機酸がコハク酸であり、
さらなる炭素質化合物が炭水化物であり、
微生物が改変微生物であり、
改変微生物が由来している野生型が、バスフィア属に属し、且つ
改変微生物が、それの野生型と比較して、ルビン酸ギ酸リアーゼ活性が低下し、且つ乳酸デヒドロゲナーゼ活性が低下している、
前記方法。
【請求項2】
少なくとも30分間の培養期間の間、さらなる炭素質化合物の供給速度、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)より低い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらなる炭素質化合物の供給速度、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)の50%以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
プロセスステップI)において、グリセロール及びさらなる炭素質化合物が、少なくとも5:1のグリセロール:さらなる炭素質化合物の総重量比で培地へ供給される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
炭水化物が、スクロース、D-グルコース、又はそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
プロセスステップI)に用いられる微生物がバスフィア・サクシニシプロデュセンス種に属する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
改変微生物が由来している野生型が、配列番号1の16S rDNA、又は配列番号1と少なくとも96%の配列相同性を示す配列を有する、請求項に記載の方法。
【請求項8】
微生物が、
A) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、 B) pflD遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflD遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflD遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、 C) pflA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、 D) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、及びpflD遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflD遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflD遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、或いは
E) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、及びpflA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入
を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
III) プロセスステップI)で得られた発酵ブロスに含有される有機酸を、又はプロセスステップII)で得られた回収される有機酸を、少なくとも1つの化学反応によって前記有機酸とは異なる二次有機産物に変換するプロセスステップ
をさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
有機酸がコハク酸であり、且つ二次有機産物が、コハク酸エステル又はそのポリマー、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ブタンジオール(BDO)、γ-ブチロラクトン(GBL)、及びピロリドンから成る群から選択される、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵により有機酸を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6個以下の炭素を有する低分子ジカルボン酸などの有機化合物は、多くの用途をもつ商業的に重要な化学物質である。例えば、低分子二酸には、コハク酸、リンゴ酸、及び酒石酸などの1,4-二酸、並びに5炭素分子のイタコン酸が挙げられる。他の二酸には、2炭素のシュウ酸、3炭素のマロン酸、5炭素のグルタル酸、及び6炭素のアジピン酸が挙げられ、さらにそのような二酸の多くの誘導体がある。
【0003】
グループとして、低分子二酸はいくつかの化学的類似性を有し、ポリマー製造においてそれらを使用することにより、その樹脂に特殊な性質を与えることができる。そのような多用途性により、それらが下流の化学インフラ市場に適合するのを容易にしている。例えば、1,4-二酸分子は、それらが様々な工業化学物質(テトラヒドロフラン、ブチロラクトン、1,4-ブタンジオール、2-ピロリドン)、並びにスクシネート誘導体の、スクシンジアミド、スクシノニトリル、ジアミノブタン、及びスクシネートのエステルに変換されることで、ラージスケールの化学物質無水マレイン酸の用途の大部分を達成している。酒石酸は、食品工業、皮革工業、金属工業、及び印刷工業において多くの用途がある。イタコン酸は、3-メチルピロリドン、メチル-BDO、メチル-THFなどの製造のための出発物質を形成する。
【0004】
特に、コハク酸又はスクシネート(これらの用語は本明細書で交換可能に用いられる)は、それが食品工業、化学工業、及び製薬工業における多くの工業的に重要な化学物質の前駆体として用いられているため、相当な関心が寄せられている。実際、米国エネルギー省からの報告により、コハク酸は、バイオマスから製造される上位12個の化学的構成要素の一つであると報告されている。したがって、細菌において二酸を生成する能力は、かなり商業的に重要であるといえるだろう。
【0005】
WO-A-2009/024294は、最初はルーメンから単離された、パスツレラ科(Pasteurellaceae)のメンバーであり、かつ炭素源としてグリセロールを利用する能力がある、コハク酸産生細菌株、並びに前記能力を保持するそれ由来の変種株及び突然変異株、特に、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、Inhoffenstr. 7B、D-38124 Braunschweig、Germany)に寄託されて、寄託番号DSM 18541 (ID 06-614)を有し、かつコハク酸を産生する能力をもつ、DD1と名付けられた細菌株を開示する。DD1株は、Kuhnertら、2010により分類されているように、パスツレラ科で、バスフィア・サクシニシプロデュセンス(Basfia succiniciproducens)種に属する。ldhA遺伝子及び/又はpflD遺伝子若しくはpflA遺伝子が破壊されているこれらの株の突然変異は、WO-A-2010/092155に開示され、これらの突然変異株は、WO-A-2009/024294に開示されたDD1野生型と比較して、嫌気性条件下で、グリセロール、又はグリセロールと、マルトースなどの炭水化物の混合物などの炭素源からのコハク酸の産生の有意な増加によって特徴づけられる。
【0006】
しかしながら、例えば、WO-A-2009/024294又はWO-A-2010/092155に開示されているような有機酸を製造するための方法において、唯一の炭素源としてグリセロールを用いる場合の空時収率はまだ改善できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、先行技術の不利を克服することが本発明の目的であった。
【0008】
特に、発酵によりコハク酸などの有機酸を製造するための方法であって、主な炭素源としてグリセロールを用いる場合、先行技術において知られた方法と比較してより高い空時収率での、これらの有機酸の製造を可能にする方法を提供することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
I) 同化可能な炭素源としてグリセロール及びさらなる炭素質化合物を供給される培地において微生物を培養して、微生物に有機酸を産生させ、それにより、有機酸を含む発酵ブロスを得るプロセスステップと、
II) プロセスステップI)で得られた発酵ブロスから有機酸又はその塩を回収するプロセスステップと
を含む、発酵により有機酸を製造するための方法であって、さらなる炭素質化合物の消費速度(CRc.c.;1時間、1リットルあたりのg数)が、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)より低い、方法が、前述の目標を達成するのに役立つ。
本発明はまた、以下に関する。
[項目1]
I) 同化可能な炭素源としてグリセロール及びさらなる炭素質化合物が供給される培地において微生物を培養して、微生物に有機酸を産生させ、それにより、有機酸を含む発酵ブロスを得るプロセスステップと、
II) プロセスステップI)において得られた発酵ブロスから有機酸又はその塩を回収するプロセスステップと
を含む、発酵により有機酸を製造するための方法であって、さらなる炭素質化合物の消費速度(CRc.c.;1時間、1リットルあたりのg数)が、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)より低い、前記方法。
[項目2]
少なくとも30分間の培養期間の間、さらなる炭素質化合物の消費速度(CRc.c.;1時間、1リットルあたりのg数)が、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)より低い、項目1に記載の方法。
[項目3]
さらなる炭素質化合物の消費速度(CRc.c.;1時間、1リットルあたりのg数)が、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)の50%以下である、項目1又は2に記載の方法。
[項目4]
プロセスステップI)において、グリセロール及びさらなる炭素質化合物が、少なくとも5:1のグリセロール:さらなる炭素質化合物の総重量比で培地へ供給される、項目1〜3のいずれか1項に記載の方法。
[項目5]
有機酸がコハク酸である、項目1〜4のいずれか1項に記載の方法。
[項目6]
さらなる炭素質化合物が炭水化物である、項目1〜5のいずれか1項に記載の方法。
[項目7]
炭水化物が、スクロース、D-グルコース、又はそれらの混合物から成る群から選択される、項目6に記載の方法。
[項目8]
プロセスステップI)に用いられる微生物が、改変微生物である、項目1〜7のいずれか1項に記載の方法。
[項目9]
改変微生物が由来している野生型が、パスツレラ科に属する、項目8に記載の方法。
[項目10]
改変微生物が由来している野生型が、バスフィア属に属する、項目9に記載の方法。
[項目11]
プロセスステップI)に用いられる微生物がバスフィア・サクシニシプロデュセンス種に属する、項目10に記載の方法。
[項目12]
改変微生物が由来している野生型が、配列番号1の16S rDNA、又は配列番号1と少なくとも96%の配列相同性を示す配列を有する、項目11に記載の方法。
[項目13]
改変微生物が、それの野生型と比較して、
i) ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性が低下している、
ii) 乳酸デヒドロゲナーゼ活性が低下している、又は
iii) ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性が低下し、且つ乳酸デヒドロゲナーゼ活性が低下している、
項目8〜12のいずれか1項に記載の方法。
[項目14]
微生物が、
A) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、 B) pflD遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflD遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflD遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、 C) pflA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、 D) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、及びpflD遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflD遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflD遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、或いは
E) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、及びpflA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入
を含む、項目13に記載の改変微生物。
[項目15]
III) プロセスステップI)で得られた発酵ブロスに含有される有機酸を、又はプロセスステップII)で得られた回収される有機酸を、少なくとも1つの化学反応によって前記有機酸とは異なる二次有機産物に変換するプロセスステップ
をさらに含む、項目1〜14のいずれか1項に記載の方法。
[項目16]
有機酸がコハク酸であり、且つ二次有機産物が、コハク酸エステル又はそのポリマー、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ブタンジオール(BDO)、γ-ブチロラクトン(GBL)、及びピロリドンから成る群から選択される、項目15に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】プラスミドpSacB(配列番号9)の概略的マップを示す図である。
図2】プラスミドpSacB ΔldhA (配列番号10)の概略的マップを示す図である。
図3】プラスミドpSacB ΔpflA (配列番号11)の概略的マップを示す図である。
図4】プラスミドpSacB ΔpflD (配列番号12)の概略的マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本出願の本発明者らは、グリセロールが主な炭素源として用いられる発酵方法においてコハク酸などの有機酸を製造する場合、スクロース又はD-グルコースなどのさらなる炭素質化合物が、制限された様式で加えられたならば、コハク酸などの有機酸の空時収率が、有意に向上し得ることを見出している。さらなる炭素質化合物を、制限された様式で加えることにより、さらなる炭素質化合物の消費速度は、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度より低い。
【0012】
本発明による方法のプロセスステップI)において、同化可能な炭素源としてグリセロール及びさらなる炭素質化合物が供給される培地において微生物を培養して、微生物に有機酸を産生させ、それにより、有機酸を含む発酵ブロスを得る。
【0013】
本発明による適切な微生物は、酵母、菌類、又は細菌であり得る。適切な細菌、酵母、又は菌類は、特に、細菌、酵母、又は菌類の株としてDeutsche Sammlung von Mikroorganismen and Zellkulturen GmbH (DSMZ)、Brunswick、Germanyに寄託されている細菌、酵母、又は菌類である。本発明により適している細菌は、
http://www.dsmz.de/species/bacteria.htm
に詳述されている属に属し、本発明により適している酵母は
http://www.dsmz.de/species/yeasts.htm
に詳述されている属に属し、本発明により適している菌類は、
http://www.dsmz.de/species/fungi.htm
に詳述されている菌類である。
【0014】
好ましくは、プロセスステップI)に用いられる微生物は、細菌細胞である。本明細書で用いられる場合、用語「細菌細胞」は、原核生物、すなわち、細菌を指す。細菌は、それらの生化学的及び微生物学的性質、並びにそれらの形態に基づいて分類することができる。これらの分類基準は当技術分野においてよく知られている。本発明による方法の好ましい実施形態によれば、微生物は、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、パスツレラ科、バチルス科(Bacillaceae)、又はコリネバクテリウム科(Corynebacteriaceae)に属する。
【0015】
「腸内細菌科」は、サルモネラ(Salmonella)及びエシェリキア・コリ(Escherichia coli)などのより馴染みの深い細菌の多くを含む、細菌の大きな科を表す。それらはプロテオバクテリアに属し、それら独自の目(腸内細菌目(Enterobacteriales))を与えられている。腸内細菌科のメンバーは桿状である。他のプロテオバクテリアと同様に、それらはグラム陰性株であり、かつそれらは通性嫌気性菌であり、糖を発酵させて、乳酸、及びコハク酸などの様々な他の最終産物を産生する。大部分の菌はまた、硝酸塩を亜硝酸塩に還元する。たいていの類似した細菌とは違って、腸内細菌科は、一般的に、チトクロムCオキシダーゼを欠く。大部分の菌は、動き回るのに用いられる多数の鞭毛を有するが、少数の属は非運動性である。それらは、非胞子形成性であり、ほとんどそれらはカタラーゼ陽性である。この科の多くのメンバーは、ヒト及び他の動物の腸に見出される腸管内菌叢の正常な部分であるが、水若しくは土壌中に見出され、又は様々な異なる動物及び植物における寄生体であるメンバーもある。E.コリとしてよりよく知られている、エシェリキア・コリは、最も重要なモデル生物の一つであり、それの遺伝学及び生化学は綿密に研究されている。腸内細菌科のたいていのメンバーは、細菌細胞のそれらの宿主への接着に関与する周毛性I型線毛を有する。腸内細菌科の例は、E.コリ、プロテウス(Proteus)、サルモネラ、及びクレブシエラ(Klebsiella)である。
【0016】
「パスツレラ科」は、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)などの細菌から動物及びヒト粘膜の共生動物にわたるメンバーを有するグラム陰性プロテオバクテリアの大きなファミリーを含む。たいていのメンバーは、トリ及び哺乳類の粘膜表面上、特に上気道中で共生動物として生きる。パスツレラ科は、典型的には、桿状であり、通性嫌気性菌の有名なグループである。それらは、オキシダーゼの存在により関連腸内細菌科と区別することができ、鞭毛がないことによりほとんどの他の類似した細菌と区別することができる。パスツレラ科の細菌は、代謝特性、並びに16S RNA及び23S RNAのそれらの配列に基づいていくつかの属に分類されている。パスツレラ科の多くは、ピルビン酸ギ酸リアーゼ遺伝子を含有し、炭素源を有機酸へ嫌気的に発酵する能力がある。
【0017】
「バチルス科」は、内生胞子を産生し得るグラム陽性、従属栄養性、桿状細菌の科である。この科の運動型メンバーは、周毛性鞭毛によって特徴づけられる。バチルス科には、好気性であるものもあれば、通気性又は厳密な嫌気性であるものもある。たいていは非病原性であるが、バチルス(Bacillus)種は、ヒトにおいて疾患を引き起こすことが知られている。この科はまた、2つの目、バチルス目(Bacillales)及びラクトバチルス目(Lactobacillales)を含むバチルス綱(Bacilli)を構成する。バチルス種は、37℃での好気性条件下で増殖することができる大きな円柱状細菌を代表する。それらは典型的には、非病原性である。バチルス目は、アリシクロバチルス科(Alicyclobacillaceae)、バチルス科(Bacillaceae)、カリオファノン科(Caryophanaceae)、リステリア科(Listeriaceae)、パエニバチルス科(Paenibacillaceae)、プラノコッカス科(Planococcaceae)、スポロラクトバチルス科(Sporolactobacillaceae)、スタフィロコッカス科(Staphylococcaceae)、サーモアクチノミセス科(Thermoactinomycetaceae)、ツリシバクター科(Turicibacteraceae)を含む。バチルス綱の多くは、ピルビン酸ギ酸リアーゼ遺伝子を含有し、炭素源を有機酸へ嫌気的に発酵する能力がある。
【0018】
「コリネバクテリウム科」は、ユーバクテリウム目の、大部分がグラム陽性、好気性、非運動性の桿状細菌の大きな科である。この科はまた、グラム陽性の桿状細菌の属であるコリネバクテリウム属を含む。コリネバクテリウムは、自然において広く分布しており、大部分が無害である。C.グルタミクム(glutamicum)などのいくつかは、工業環境において有用である。
【0019】
プロセスステップI)に用いられる微生物は、改変微生物であることは特に好ましい。用語「改変微生物」は、それが由来した天然に存在する野生型微生物と比較して、変化した、改変された、又は異なる遺伝子型及び/又は表現型(例えば、遺伝子改変が微生物のコード核酸配列に影響する場合)を示すように、遺伝的に変化し、改変され、又は操作されている(例えば、遺伝子操作されている)微生物を含む。本発明による方法の特に好ましい実施形態によれば、プロセスステップI)に用いられる改変微生物は、組換え微生物であり、それは、微生物が、組換えDNAを用いて得られていることを意味する。本明細書で用いられる場合、「組換えDNA」という表現は、複数の源由来の遺伝子材料を一つにまとめて、そうでなければ生物学的生物体において見出されないだろう配列を生み出す実験方法(分子クローニング)の使用により生じるDNA配列を指す。そのような組換えDNAの例は、異種性DNA配列が挿入されているプラスミドである。
【0020】
好ましくは、プロセスステップI)に用いられる微生物、特に改変微生物は、パスツレラ科に属する野生型に由来している。この関連において、改変微生物が由来している野生型はバスフィア属に属することがさらに好ましく、改変微生物が由来している野生型がバスフィア・サクシニシプロデュセンス種に属することは特に好ましい。
【0021】
最も好ましくは、プロセスステップI)に用いられる改変微生物が由来している野生型は、ブダペスト条約によりDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)、ドイツに寄託された、受託番号DSM 18541を有する、バスフィア・サクシニシプロデュセンスDD1株である。この株は、最初、ドイツ起源のウシのルーメンから単離されている。パスツレラ科細菌は、動物、好ましくは哺乳類の胃腸管から単離することができる。特にDD1細菌株は、ウシルーメンから単離することができ、炭素源としてグリセロール(粗グリセロールを含む)を利用する能力がある。本発明に従って改変微生物を調製するために用いることができるバスフィア属のさらなる株は、受託番号DSM 22022としてDSZMに寄託されているバスフィア株、又はCulture Collection of the University of Goteborg (CCUG)、スウェーデンに寄託されて、受託番号CCUG 57335、CCUG 57762、CCUG 57763、CCUG 57764、CCUG 57765、又はCCUG 57766を有するバスフィア株である。前記株は、最初、ドイツ又はスイス起源のウシのルーメンから単離されている。
【0022】
この関連において、本発明による方法のプロセスステップI)に用いられる改変微生物が由来している野生型は、配列番号1の16S rDNA、又は配列番号1と少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは少なくとも99.9%の配列相同性を示す配列を有することが特に好ましい。本発明による改変微生物が由来している野生型が、配列番号2の23S rDNA、又は配列番号2と少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは少なくとも99.9%の配列相同性を示す配列を有することもまた好ましい。
【0023】
本発明による改変微生物のために用いられる様々なポリペプチド又はポリヌクレオチドに関して言及されるパーセンテージ値による同一性は、好ましくは、例えば、バイオインフォマティクスソフトウェアパッケージEMBOSS(バージョン5.0.0、http://emboss.source-forge.net/what/)からのプログラムNeedleの助けを借りて、デフォルトパラメータ、すなわち、ギャップ開始(ギャップを開始するペナルティ):10.0、ギャップ伸長(ギャップを伸長するペナルティ):0.5、及びデータファイル(パッケージに含まれるスコアリングマトリックス): EDNAFULを用いた、(どちらかと言えば、類似した配列について)計算された同一性などのアライメントされた配列の完全長に対する残基の同一性として計算される。
【0024】
本発明による方法のプロセスステップI)に用いられる改変微生物は、上記で述べられた野生型微生物、特にバスフィア・サクシニシプロデュセンスDD1株に由来することができるだけでなく、これらの株の変種にも由来することができることは、留意されるべきである。この関連において、「株の変種」という表現は、野生型株と同じ、又は本質的に同じ特徴を有するあらゆる株を含む。この関連において、変種の16S rDNAが、その変種が由来している野生型と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、及び最も好ましくは少なくとも99.9%の同一性を有することが特に好ましい。変種の23S rDNAが、その変種が由来している野生型と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.6%、より好ましくは少なくとも99.7%、より好ましくは少なくとも99.8%、及び最も好ましくは少なくとも99.9%の同一性を有することもまた特に好ましい。この定義の意味における株の変種は、例えば、突然変異誘発性化学物質、X線、若しくはUV光で野生型株を処理することにより、又は遺伝子が欠失し、過剰発現し、若しくは異種性遺伝子が細胞へ導入されている組換え方法により得ることができる。
【0025】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、プロセスステップI)に用いられる改変微生物は、野生型と比較して、
i) ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性が低下している、
ii) 乳酸デヒドロゲナーゼ活性が低下している、又は
iii) ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性が低下し、かつ乳酸デヒドロゲナーゼ活性が低下している、
微生物である。
【0026】
「野生型と比較して、x遺伝子によりコードされる酵素の活性が低下している改変微生物」(x遺伝子はldhA遺伝子、pflA遺伝子、及び/又はpflD遺伝子である)という表現に関して、用語「野生型」は、x遺伝子によってコードされる酵素の活性が減少していない微生物、すなわち、ゲノムが、x遺伝子(特に、ldhA遺伝子、pflA遺伝子、及び/又はpflD遺伝子)の遺伝子改変の導入前の状態で存在する微生物を指す。好ましくは、「野生型」という表現は、ゲノム、特にx遺伝子が、進化の結果として自然に発生した状態で存在する微生物を指す。その用語は、微生物全体について、ただし好ましくは、個々の遺伝子、例えば、ldhA遺伝子、pflA遺伝子、及び/又はpflD遺伝子についての両方で用いられ得る。
【0027】
本明細書で用いられる場合、用語「酵素活性の低下」は、好ましくは、野生型における対応する酵素の活性と比較して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、及びより好ましくは少なくとも95%分の、対応する酵素の活性の低下に相当する。
【0028】
用語「酵素の活性の低下」は、例えば、前記微生物の野生型により発現した酵素より低いレベルでの、前記遺伝子改変された(例えば、遺伝子操作された)微生物による酵素の発現を含む。酵素の発現を低下させるための遺伝子操作には、酵素をコードする遺伝子又はその部分を欠失させること、酵素をコードする遺伝子の発現に関連した制御配列若しくは部位を(例えば、強いプロモーターを除去すること、又は抑制プロモーターにより)変化させ、若しくは改変すること、酵素をコードする遺伝子の転写及び/若しくは遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば、制御タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写活性化因子など)を改変すること、又は当技術分野において日常的な特定の遺伝子の発現を減少させる任意の他の通常の手段(例として、アンチセンス核酸分子若しくはiRNAの使用、又は標的タンパク質の発現をノックアウト若しくはブロックする他の方法が挙げられるが、それらに限定されない)を挙げることができるが、それらに限定されない。もっと先で、mRNAへ不安定化エレメントを導入し、又はRNAのリボソーム結合部位(RBS)の劣化をもたらす遺伝子改変を導入する可能性がある。翻訳効率及び速度が減少するような様式で、遺伝子のコドン使用頻度を変化させることも可能である。
【0029】
酵素活性の低下はまた、酵素活性の低下をもたらす1つ以上の遺伝子突然変異を導入することにより得ることができる。さらに、酵素活性の低下はまた、活性を低下させることになっている酵素を活性化するために必要である活性化酵素の不活性化(又は発現の低下)も含み得る。後者のアプローチにより、活性を低下させることになっている酵素は、好ましくは、不活性化状態を保つ。
【0030】
乳酸デヒドロゲナーゼを欠損し、及び/又はピルビン酸ギ酸リアーゼ活性を欠損している改変微生物は、WO-A-2010/092155、US 2010/0159543、及びWO-A-2005/052135に開示されており、微生物、好ましくはパスツレラ属、特に好ましくはバスフィア・サクシニシプロデュセンスDD1株の細菌細胞において乳酸デヒドロゲナーゼ及び/又はピルビン酸ギ酸リアーゼの活性を低下させる種々のアプローチに関するそれらの開示は、参照により本明細書に組み入れられている。ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性を決定するための方法は、例えば、Asanuma N及びHino T.、「Effects of pH and Energy Supply on Activity and Amount of Pyruvate-Formate-Lyase in Streptococcus bovis」、Appl. Environ. Microbiol. (2000)、66巻、3773〜3777頁により開示されており、乳酸デヒドロゲナーゼ活性を決定するための方法は、例えば、Bergmeyer, H.U.、Bergmeyer J.、及びGrassl, M. (1983-1986) 「Methods of Enzymatic Analysis」、第3版、III巻、126〜133頁、Verlag Chemie, Weinheimによって開示されている。
【0031】
この関連において、乳酸デヒドロゲナーゼの活性の低下が、(乳酸デヒドロゲナーゼLdhA;EC 1.1.1.27又はEC 1.1.1.28をコードする)ldhA遺伝子の不活性化により達成され、ピルビン酸ギ酸リアーゼの低下が、(ピルビン酸ギ酸リアーゼのアクチベーターPflA;EC 1.97.1.4をコードする)pflA遺伝子、又は(ピルビン酸ギ酸リアーゼPflD;EC 2.3.1.54をコードする)pflD遺伝子の不活性化により達成されることが好ましく、これらの遺伝子(すなわち、ldhA、pflA、及びpflD)の不活性化が好ましくは、これらの遺伝子の若しくはその一部の欠失により、これらの遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失により、又はこれらの遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入により達成され、これらの改変が、好ましくは、上記のように「キャンベル組換え(Campbel recombination)」の手段によって実施される。
【0032】
改変微生物において活性が低下しているldhA遺伝子は、好ましくは、以下からなる群から選択される核酸を含む:
α1) 配列番号3のヌクレオチド配列を有する核酸、
α2) 配列番号4のアミノ酸配列をコードする核酸、
α3) α1)又はα2)の核酸と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一である核酸であって、同一性が、α1)又はα2)の核酸の全長に対する同一性である、核酸、及び
α4) α1)又はα2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、α1)又はα2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長に対する同一性である、核酸。
【0033】
改変微生物において活性が低下しているpflA遺伝子は、好ましくは、以下からなる群から選択される核酸を含む:
β1) 配列番号5のヌクレオチド配列を有する核酸、
β2) 配列番号6のアミノ酸配列をコードする核酸、
β3) β1)又はβ2)の核酸と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一である核酸であって、同一性が、β1)又はβ2)の核酸の全長に対する同一性である、核酸、及び
β4) β1)又はβ2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、β1)又はβ2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長に対する同一性である、核酸。
【0034】
改変微生物において活性が低下しているpflD遺伝子は、好ましくは、以下からなる群から選択される核酸を含む:
γ1) 配列番号7のヌクレオチド配列を有する核酸、
γ2) 配列番号8のアミノ酸配列をコードする核酸、
γ3) γ1)又はγ2)の核酸と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一である核酸であって、同一性が、γ1)又はγ2)の核酸の全長に対する同一性である、核酸、及び
γ4) γ1)又はγ2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、又は少なくとも99.9%、最も好ましくは100%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸であって、同一性が、γ1)又はγ2)の核酸によりコードされるアミノ酸配列の全長に対する同一性である、核酸。
【0035】
この関連において、本発明による方法のプロセスステップI)に用いられる改変微生物は以下を含むことが好ましい:
A) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、
B) pflD遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflD遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflD遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、
C) pflA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、
D) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、及びpflD遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflD遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflD遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、或いは
E) ldhA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、ldhA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はldhA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入、及びpflA遺伝子若しくは少なくともその一部の欠失、pflA遺伝子の制御エレメント若しくは少なくともその一部の欠失、又はpflA遺伝子への少なくとも1つの突然変異の導入。
【0036】
好ましくは、本発明による方法のプロセスステップI)において微生物により産生される有機酸は、ギ酸、乳酸、プロピオン酸、2-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシ酪酸、アクリル酸、ピルビン酸などのカルボン酸、又はこれらのカルボン酸の塩、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、グルタル酸、イタコン酸、アジピン酸などのジカルボン酸又はその塩、クエン酸などのトリカルボン酸又はその塩を含む。本発明による方法の特に好ましい実施形態によれば、有機酸は、コハク酸である。本発明の関連で用いられる場合、用語「コハク酸」は、それの最も広い意味で理解されるべきであり、その塩(すなわち、スクシネート)、例として、Na+及びK+塩のようなアルカリ金属塩、若しくはMg2+及びCa2+塩のような土類アルカリ塩、若しくはアンモニウム塩、又はコハク酸の無水物も包含する。
【0037】
微生物は、好ましくは、約10〜60℃又は20〜50℃又は30〜45℃の範囲での温度、2.5〜9.0又は3.5〜8.0又は4.5〜7.0のpHで、培地中でインキュベートされる。
【0038】
好ましくは、有機酸、特にコハク酸は、嫌気性条件下で産生される。嫌気性条件は、通常の技術の手段、例えば、反応培地の成分を脱気し、二酸化炭素若しくは窒素又はそれらの混合物、及び任意で、水素を、例えば、0.1〜1又は0.2〜0.5vvmの流速で導入することにより嫌気性条件を維持することにより、確立され得る。好気性条件は、通常の技術の手段、例えば、空気又は酸素を、例えば、0.1〜1又は0.2〜0.5vvmの流速で導入することにより確立され得る。適切な場合、0.1〜1.5バールのわずかな過圧がその過程で加えられてもよい。
【0039】
本発明による方法は、さらなる炭素質化合物の消費速度(CRc.c.;1時間(あたり)、1リットルあたりのg数)が、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)より低い点で特徴づけられる。さらなる炭素質化合物の量(すなわち、培地へ供給される量、及び培地中にすでに含有されている可能性があるが、まだ消費されていない量)が、細胞が理論的に消費することができるさらなる炭素質化合物の最大量より少ない場合には、さらなる炭素質化合物の消費速度は、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度より低い。このように、さらなる炭素質化合物の量は制限される。
【0040】
本発明の方法において、さらなる炭素質化合物の消費速度は、例えば、さらなる炭素質化合物の供給速度によって調節することができる(ただし、培地中にすでに存在する可能性があり、かつまだ消費されていないさらなる炭素質化合物の量が十分少ないという条件で)。この関連において、さらなる炭素質化合物の供給速度は、さらなる炭素質化合物の最高消費速度の50%以下、より好ましくは25%以下、より好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下であることが好ましい。さらなる炭素質化合物の消費速度をさらなる炭素質化合物の供給速度により調節することは、培地が、(まだ消費されていない)いかなるさらなる炭素質化合物も本質的に含まないならば、又はさらなる炭素質化合物の量が、0.5g/l未満、好ましくは0.05g/l未満、最も好ましくは検出限界未満であるならば、特に、可能である。好ましい実施形態において、培地へ供給されるさらなる炭素質化合物は、細胞によってすぐに、かつ完全に消費される。そのような条件下で、さらなる炭素質化合物は、制限された様式で供給される。
【0041】
本発明の方法において、さらなる炭素質化合物の消費速度が、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度より低いという条件が、ある一定期間、好ましくは、少なくとも30分間、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも6時間、さらにより好ましくは少なくとも12時間、最も好ましくは少なくとも20時間の培養期間の間、維持されることがさらに好ましい。一般的に、さらなる炭素質化合物の制限的供給の条件は、総培養時間の少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも70%の間、実現化される。
【0042】
好ましくは、さらなる炭素質化合物の消費速度(CRc.c.;1時間、1リットルあたりのg数)は、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)の50%以下、より好ましくは25%以下、より好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下である。例えば、さらなる炭素質化合物についての最高消費速度が1g/L/時間である場合には、消費速度は、0.5g/L/時間(50%)以下、好ましくは0.25g/L/時間(25%)以下、より好ましくは0.1g/L/時間(10%)以下、最も好ましくは0.05g/L/時間(5%)以下である。
【0043】
この関連において、同時に(すなわち、さらなる炭素質化合物の消費速度がさらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度より低いのと同じ期間内で)、グリセロールの量は制限されないが、好ましくは、過剰量で存在すること(グリセロールが、好ましくは、それが細胞培養に加えられるより、及び/又はそれが培地中に存在するより速く細胞がグリセロールを消費することができないような量で加えられ、及び/又はそのような量で培地中に存在することを意味する)がさらに好ましい。この関連において、グリセロールの消費速度(CRg.;1時間、1リットルあたりのg数)は、グリセロールの理論的最高消費速度(CRg. max;1時間、1リットルあたりのg数)の25%より高く、好ましくは50%より高く、より好ましくは75%より高く、さらにより好ましくは90%より高く、最も好ましくは95%より高いことが好ましい。例えば、グリセロールの最高消費速度が1g/L/時間である場合には、消費速度は、0.5g/L/時間(50%)より高く、好ましくは0.75g/L/時間(75%)より高く、より好ましくは0.9g/L/時間(90%)より高く、最も好ましくは0.95g/L/時間(95%)より高い。
【0044】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、少なくとも30分間、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも6時間、さらにより好ましくは少なくとも12時間、最も好ましくは少なくとも20時間の培養期間の間、
- さらなる炭素質化合物の消費速度(CRc.c.;1時間、1リットルあたりのg数)は、さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度(CRc.c. max;1時間、1リットルあたりのg数)の50%以下、より好ましくは25%以下、より好ましくは10%以下、最も好ましくは5%以下であり、
及び、同時に
- グリセロールの消費速度(CRg.;1時間、1リットルあたりのg数)は、グリセロールの理論的最高消費速度(CRg. max;1時間、1リットルあたりのg数)の25%より高く、好ましくは50%より高く、より好ましくは75%より高く、さらにより好ましくは90%より高く、最も好ましくは95%より高い。
【0045】
さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度CRc.c. max及びグリセロールの理論的最高消費速度CRg. maxの決定については、細胞は、過剰量のさらなる炭素質化合物及び過剰量のグリセロール、それぞれの存在下でインキュベートされる。過剰量のさらなる炭素質化合物及びグリセロールは、少なくともある一定期間、そのまだ消費されていない基質(すなわち、さらなる炭素質化合物又はグリセロール)のある一定の最小量、すなわち少なくとも1g/L、ましくは少なくとも2.5g/Lの量が、培地中に検出することができるならば、存在する。
【0046】
さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度CRc.c. maxの決定については、細胞は、CRc.cの決定(すなわち、炭素質化合物が、制限された量で存在する場合の炭素質化合物の実際の消費速度の決定)の場合と正確に同じ培養条件下で1時間、培養されるが、炭素質化合物の初期量が1リットルあたり少なくとも5gであり、かつ培地中のまだ消費されていない炭素質化合物の濃度が常に1g/Lより高いような量で炭素質化合物のさらなる連続的添加を行う。さらに、本明細書で用いられる場合、CRc.c. maxの決定に関しての「正確に同じ培養条件下で」という表現は、CRc.c. maxの決定が、CRc.cを決定する場合に存在するのと同じ量のグリセロールの存在下で行われるが、過剰量の炭素質化合物を含むことを示す。グリセロールの理論的最高消費速度CRg. maxの決定については、細胞はまた、CRg.の決定(すなわち、グリセロールの実際の消費速度)の場合と正確に同じ培養条件下で1時間、培養されるが、唯一の炭素源としてのグリセロールの初期量が1リットルあたり少なくとも5gであり、かつ培地中のまだ消費されていないグリセロールの濃度が常に1g/Lより高いような量でグリセロールのさらなる連続的添加を行う。本明細書で用いられる場合、CRg. maxの決定に関しての「正確に同じ培養条件下で」という表現は、CRg. maxの決定が、CRg.を決定する場合に存在するのと同じ量のさらなる炭素質化合物の存在下で行われるが、過剰量のグリセロールを含むことを示す。
【0047】
炭素源(すなわち、グリセロール及びさらなる炭素質化合物)は、培養時間に、培養の開始時点で一気に加えることができ、又はそれらは定期的に、若しくは連続的に加えることができる。例えば、1つの炭素源(例えば、グリセロール)を培養の開始時点で一気に加え、その他の炭素源(例えば、さらなる炭素質化合物)を定期的に、又は連続的に加えることもまた、もちろん、可能である。炭素源が発酵培地に加えられる様式に関わらず、さらなる炭素質化合物の制限的供給及びグリセロールの好ましい無制限的供給についての上記の条件は、少なくとも30分間、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも6時間、さらにより好ましくは少なくとも12時間、最も好ましくは少なくとも24時間の培養期間の間、維持されることは好ましい。
【0048】
好ましくは、グリセロール及びさらなる炭素質化合物は、少なくとも5:1、より好ましくは少なくとも7.5:1、最も好ましくは少なくとも10:1のグリセロール:さらなる炭素質化合物の総重量比で、培地へ供給される。本明細書で用いられる場合、用語「総重量比」は、プロセスステップI)において加えられるさらなる炭素質化合物の総量とグリセロールの総量の比と定義する。
【0049】
本発明による方法の一実施形態によれば、さらなる炭素質化合物は、さらなる炭素質化合物の発酵培地中の濃度が0.1g/l/時間未満、好ましくは0.01g/l/時間未満、増加するような量で発酵培地に供給される。最も好ましくは、発酵培地中のさらなる炭素質化合物の濃度は、全く増加しない(なぜなら、加えられる炭素質化合物がすぐに消費されるから)。この関連において、培地中のさらなる炭素質化合物の濃度が0g/Lから1g/Lの間であることもまた好ましく、好ましくは0.6g/L未満、より好ましくは0.3g/L未満、さらにより好ましくは0.1g/L未満であり、最も好ましくは、培地中のさらなる炭素質化合物の濃度は、例えば、培地中の残留濃度として決定される、適切な標準アッセイ(好ましくは、本明細書における実験パートで記載されているように、HPLCによる)で測定された場合、さらなる炭素質化合物の微生物による迅速な消費のために、検出限界より下である。
【0050】
さらなる炭素質化合物は、好ましくは、グリセロールを除く炭水化物、より好ましくは、スクロース、D-フラクトース、D-グルコース、D-キシロース、L-アラビノース、D-ガラクトース、D-マンノース、及びそれらの混合物、又は前記化合物の少なくとも1つを含有する組成物からなる群から選択される炭水化物である。最も好ましくは、さらなる炭素質化合物は、スクロース及びD-グルコース、最も好ましくは、スクロース、D-グルコース、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0051】
同化可能な炭素源として用いられるグリセロールは、純粋なグリセロールの形で、又は、例えば、事前精製なしの、バイオディーゼル若しくはバイオエタノール製造から得られている粗グリセロールの形で用いられ得る。
【0052】
同化可能な炭素源の初濃度(すなわち、グリセロール及び少なくとも1つのさらなる炭素質化合物の合計)は、好ましくは、0〜100g/l、好ましくは0〜75g/l、より好ましくは0〜50g/l、さらにより好ましくは0〜25g/lの範囲内の値に調整され、培養中、前記範囲内に維持され得る(さらなる炭素質化合物が、それが細胞培養に供給されるより速く消費される場合には、同化可能な炭素源の初濃度は0g/lであり得る)。反応培地のpHが、適切な塩基、例えば、気体アンモニア、NH4HCO3、(NH4)2CO3、NaOH、Na2CO3、NaHCO3、KOH、K2CO3、KHCO3、Mg(OH)2、MgCO3、Mg(HCO3)2、Ca(OH)2、CaCO3、Ca(HCO3)2、CaO、CH6N2O2、C2H7N、及び/又はそれらの混合物の添加によって調節され得る。これらのアルカリ性中和剤は、発酵過程の経過中に形成される有機酸がカルボン酸又はジカルボン酸である場合には特に必要とされる。有機酸としてコハク酸の場合、Mg(OH)2及びMgCO3が特に好ましい塩基である。
【0053】
本発明による発酵ステップI)は、例えば、撹拌発酵槽、気泡塔、及びループ型反応器において実施することができる。撹拌型及び幾何学的設計を含む可能な方法の型の包括的な概説は、Chmiel:「Bioprozesstechnik:Einfuhrung in die Bioverfahrenstechnik」1巻に見出すことができる。本発明による方法において、利用可能な典型的な変型は、当業者に知られた、又は、例えば、Chmiel、Hammes、及びBailey:「Biochemical Engineering」に説明された以下の変型である:例えば、バッチ、フェドバッチ、反復フェドバッチ、或いは、バイオマスのリサイクル有り及びなしの連続発酵。生産株によっては、空気、酸素、二酸化炭素、水素、窒素、又は適切なガス混合物の散布が、高収率(YP/S)を達成するために実施され得る。
【0054】
プロセスステップI)において有機酸、特にコハク酸を製造するための特に好ましい条件は以下である:
同化可能な炭素源:グリセロール+D-グルコース、グリセロール+スクロース
温度: 30〜45℃
pH: 5.5〜8.0
補給されるガス: CO2
【0055】
同化可能な炭素源(すなわち、グリセロール及びさらなる炭素質化合物)が有機酸、好ましくはコハク酸に、少なくとも0.75g/g、好ましくは少なくとも0.85g/g、最も好ましくは少なくとも1.0g/gの炭素収率YP/S(有機酸/炭素、好ましくはコハク酸/炭素)で変換されることが、プロセスステップI)においてさらに好ましい。
【0056】
同化可能な炭素源(すなわち、グリセロール及びさらなる炭素質化合物)が有機酸、好ましくはコハク酸に、少なくとも0.6g g DCW-1時間-1の有機酸、好ましくはコハク酸、又は少なくとも0.65g g DCW-1時間-1、少なくとも0.7g g DCW-1時間-1、少なくとも0.75g g DCW-1時間-1、若しくは少なくとも0.77g g DCW-1時間-1の有機酸、好ましくはコハク酸の比生産性収率で変換されることがプロセスステップI)においてさらに好ましい。
【0057】
同化可能な炭素源(すなわち、グリセロール及びさらなる炭素質化合物)が有機酸、好ましくはコハク酸に、少なくとも2.2g/(L×時間)、又は少なくとも2.5 g/(L×時間)、少なくとも2.75g/(L×時間)、少なくとも3 g/(L×時間)、少なくとも3.25g/(L×時間)、少なくとも3.5g/(L×時間)、少なくとも3.7g/(L×時間)、少なくとも4.0g/(L×時間)、少なくとも4.5 g/(L×時間)、若しくは少なくとも5.0g/(L×時間)の有機酸、好ましくはコハク酸の、有機酸、好ましくはコハク酸の空時収率で変換されることがプロセスステップI)においてさらに好ましい。本発明による方法の別の好ましい実施形態によれば、プロセスステップI)において、微生物は、少なくとも20g/L、より好ましくは少なくとも25g/l、さらにより好ましくは少なくとも30g/lの同化可能な炭素源(すなわち、グリセロール及び少なくとも1つのさらなる炭素質化合物の合計)を少なくとも20g/L、より好ましくは少なくとも25g/l、さらにより好ましくは少なくとも30g/lの有機酸、好ましくはコハク酸に変換している。
【0058】
本明細書に記載されているような種々の収率パラメータ(「炭素収率」若しくは「YP/S」、「比生産性収率」、又は「空時収率(STY)」)は当技術分野においてよく知られており、例えば、Song及びLee、2006により記載されているように、決定される。「炭素収率」及び「YP/S」(それぞれ、産生される有機酸の質量/消費される同化可能な炭素源の質量で表される)は、本明細書では同義語として用いられる。比生産性収率は、1gの乾燥バイオマスあたり、1時間、1Lの発酵ブロスあたり、産生される、コハク酸のような産物の量を記載する。「DCW」と示される乾燥細胞重量の量は、生化学的反応における生物活性のある微生物の量を記載する。値は、1時間、1gのDCWあたりの産物のg数(すなわち、g g DCW-1時間-1)として示される。空時収率(STY)は、培養時間全体に対して考慮された、培養物の体積に対する発酵過程において形成される有機酸の総量の比として定義される。空時収率はまた、「体積生産性」としても知られている。
【0059】
プロセスステップII)において、有機酸、好ましくはコハク酸、又はその塩は、プロセスステップI)で得られた発酵ブロスから回収される。
【0060】
通常、回収方法は、いわゆる「バイオマス」として発酵ブロスから微生物を分離するステップを含む。バイオマスを除去するための方法は当業者に知られており、濾過、沈降、浮上分離法、又はそれらの組み合わせを含む。したがって、バイオマスは、例えば、遠心機、分離器、デカンター、フィルターを用いて、又は浮上分離装置において、除去することができる。有用な産物の最大限の回収のために、バイオマスの洗浄は、得策である場合が多く、例えば、ダイアフィルトレーションの形をとる。方法の選択は、発酵ブロスにおけるバイオマス含有量及びバイオマスの性質、並びにまた、バイオマスの有機酸(すなわち、有用な産物)との相互作用に依存する。一実施形態において、発酵ブロスは、滅菌、又は低温殺菌することができる。さらなる実施形態において、発酵ブロスは濃縮される。要求に応じて、この濃縮は、バッチ式で、又は連続的に行うことができる。圧力及び温度範囲は、第一に産物の損傷が生じず、第二に、必要とされる装置及びエネルギーの使用が最小限であるように選択されるべきである。特に多段階蒸発のための圧力及び温度レベルの巧妙な選択は、エネルギーの節約を可能にする。
【0061】
回収方法はさらに、有機酸、好ましくはコハク酸がさらに精製される追加の精製ステップを含んでもよい。しかしながら、有機酸が、下記のような化学反応によって二次有機産物へ変換される場合には、有機酸のさらなる精製は、反応の種類及び反応条件によって、必ずしも必要とは限らない。プロセスステップII)で得られた有機酸の精製、好ましくはコハク酸の精製について、当業者に知られた方法を用いることができ、例として、結晶化、濾過、電気透析、及びクロマトグラフィーである。例えば、有機酸としてコハク酸の場合、コハク酸は、中和のために水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、又は炭酸水素カルシウムを用いることによりそれをコハク酸カルシウム産物として沈殿させ、沈殿物を濾過することにより単離され得る。コハク酸は、硫酸での酸性化、続いて、沈殿している硫酸カルシウム(石膏)を除去するための濾過により、沈殿コハク酸カルシウムから回収される。生じた溶液は、望ましくない残留イオンを除去するためにイオン交換クロマトグラフィーを用いてさらに精製され得る。或いは、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、又はそれらの混合物が、発酵ブロスを中和するために用いられている場合には、プロセスステップI)で得られた発酵ブロスは、酸性化されて、培地中に含有されるコハク酸マグネシウムを酸性型(すなわち、コハク酸)へ転換され得、その酸性型は、その後、酸性化培地を冷却することにより結晶化することができる。さらなる適切な精製方法の例は、EP-A-1 005 562、WO-A-2008/010373、WO-A-2011/082378、WO-A-2011/043443、WO-A-2005/030973、WO-A-2011/123268、及びWO-A-2011/064151、並びにEP-A-2 360 137に開示されている。
【0062】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、方法はさらに、
III) プロセスステップI)で得られた発酵ブロスに含有される有機酸を、又はプロセスステップII)で得られた回収された有機酸を、少なくとも1つの化学反応によってその有機酸とは異なる二次有機産物に変換するプロセステップ
を含む。
【0063】
有機酸としてコハク酸の場合、好ましい二次有機産物は、コハク酸エステル及びそのポリマー、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ブタンジオール(BDO)、γ-ブチロラクトン(GBL)、並びにピロリドンからなる群から選択される。
【0064】
THF、BDO、及び/又はGBLの製造のための好ましい実施形態によれば、この方法は、
b1) プロセスステップI)又はII)で得られたコハク酸のTHF及び/若しくはBDO及び/若しくはGBLへの直接的な接触水素化、又は
b2) プロセスステップI)又はII)で得られたコハク酸及び/若しくはコハク酸塩の、それの対応するジ-低級アルキルエステルへの化学的エステル化、並びに、前記エステルのTHF及び/若しくはBDO及び/若しくはGBLへのその後の接触水素化
のいずれかを含む。
【0065】
ピロリドンの製造のための好ましい実施形態によれば、この方法は、
b) プロセスステップI)又はII)で得られたコハク酸アンモニウム塩の、それ自体知られた様式での、ピロリドンへの化学的変換
を含む。
【0066】
これらの化合物を調製する詳細については、US-A-2010/0159543及びWO-A-2010/092155が参照される。
【0067】
次に、図面及び非限定的実施例を活用して、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0068】
[実施例1]
バスフィア・サクシニシプロデュセンスの一般的な形質転換方法
【0069】
【0070】
バスフィア・サクシニシプロデュセンスDD1(野生型)を、以下のプロトコールを用いてエレクトロポレーションによりDNAで形質転換した:
【0071】
前培養物を調製するために、DD1を、凍結ストックから100ml振盪フラスコ中の40ml BHI(ブレインハートインフュージョン、Becton, Dickinson and Company)へ接種した。インキュベーションを37℃、200rpmで一晩、実施した。本培養物を調製するために、100ml BHIを、250ml振盪フラスコに入れ、それに前培養物を0.2の最終OD(600nm)まで接種した。インキュベーションを37℃、200rpmで、実施した。およそ0.5、0.6及び0.7のODの時点で細胞を収集し、ペレットを4℃での10%の冷たいグリセロールで1回、洗浄し、2ml 10%グリセロール(4℃)中に再懸濁した。
【0072】
次に、100μlのコンピテント細胞を2〜8μgプラスミド-DNAと混合し、0.2cmの幅のエレクトロポレーションキュベット中で氷上、2分間、維持した。以下の条件下でのエレクトロポレーション:400Ω、25μF、2.5kV(Gene Pulser、Bio-Rad)。1mlの冷却BHIを、エレクトロポレーション後すぐに加え、37℃でおよそ2時間、インキュベーションを実施した。
【0073】
細胞を、BHI上に5mg/Lクロラムフェニコールと共に蒔き、形質転換体のコロニーが目に見えるまで37℃で2〜5日間、インキュベートした。クローンを単離し、BHI上に5mg/Lクロラムフェニコールと共に、クローンの純粋性が得られるまで再び画線した。
【0074】
[実施例2]
欠失/突然変異構築物の作製
欠失構築物の作製
欠失プラスミドを、ベクターpSacB(配列番号9)に基づいて構築した。図1は、プラスミドpSacBの概略的マップを示す。除去されるべきである染色体断片の5'-及び3'-フランキング領域(それぞれ、およそ1500bp)を、バスフィア・サクシニシプロデュセンスの染色体DNAからPCRによって増幅し、標準技術を用いて前記ベクターへ導入した。正常に、そのORFの少なくとも80%が欠失の標的となった。そのような方法で、乳酸デヒドロゲナーゼldhAについての欠失プラスミド、pSacB_delta_ldhA (配列番号10)、ピルビン酸ギ酸リアーゼ活性化酵素pflAについての欠失プラスミド、pSacB_delta_ pflA (配列番号11)、及びピルビン酸ギ酸リアーゼpflDについての欠失プラスミド、pSacB_delta_pflD (配列番号12)を構築した。図2、3、及び4は、それぞれ、プラスミドpSacB_delta_ldhA、pSacB_delta_pflA、及びpSacB _delta_pflDの概略的マップを示す。
【0075】
pSacBのプラスミド配列(配列番号9)において、sacB遺伝子が、塩基2380〜3801に含有されている。sacBプロモーターは、塩基3802〜4264に含有されている。クロラムフェニコール遺伝子は、塩基526〜984に含有されている。E.コリの複製開始点(ori EC)は、塩基1477〜2337に含有されている(図1参照)。
【0076】
pSacB_delta_ldhAのプラスミド配列(配列番号10)において、バスフィア・サクシニシプロデュセンスのゲノムと相同であるldhA遺伝子の5'フランキング領域は、塩基1519〜2850に含有されており、一方、バスフィア・サクシニシプロデュセンスのゲノムと相同であるldhA遺伝子の3'フランキング領域は、塩基62〜1518に含有されている。sacB遺伝子は塩基5169〜6590に含有されている。sacBプロモーターは、塩基6591〜7053に含有されている。クロラムフェニコール遺伝子は、塩基3315〜3773に含有されている。E.コリの複製開始点(ori EC)は、塩基4266〜5126に含有されている(図2参照)。
【0077】
pSacB_delta_pflAのプラスミド配列(配列番号11)において、バスフィア・サクシニシプロデュセンスのゲノムと相同であるpflA遺伝子の5'フランキング領域は、塩基1506〜3005に含有されており、一方、バスフィア・サクシニシプロデュセンスのゲノムと相同であるpflA遺伝子の3'フランキング領域は、塩基6〜1505に含有されている。sacB遺伝子は塩基5278〜6699に含有されている。sacBプロモーターは、塩基6700〜7162に含有されている。クロラムフェニコール遺伝子は、塩基3424〜3882に含有されている。E.コリの複製開始点(ori EC)は、塩基4375〜5235に含有されている(図3参照)。
【0078】
pSacB_delta_pflDのプラスミド配列(配列番号12)において、バスフィア・サクシニシプロデュセンスのゲノムと相同であるpflD遺伝子の5'フランキング領域は、塩基1533〜2955に含有されており、一方、バスフィア・サクシニシプロデュセンスのゲノムと相同であるpflD遺伝子の3'フランキング領域は、塩基62〜1532に含有されている。sacB遺伝子は塩基5256〜6677に含有されている。sacBプロモーターは、塩基6678〜7140に含有されている。クロラムフェニコール遺伝子は、塩基3402〜3860に含有されている。E.コリの複製開始点(ori EC)は、塩基4353〜5213に含有されている(図4参照)。
【0079】
[実施例3]
向上したコハク酸産生株の作製
欠失突然変異体の作製:
a) バスフィア・サクシニシプロデュセンスDD1を、上記のように、pSacB_delta_ldhAで形質転換し、「キャンベルイン」して、「キャンベルイン」株が生じた。形質転換及びバスフィア・サクシニシプロデュセンスのゲノムへの組込みを、PCRによって確認し、バスフィア・サクシニシプロデュセンスのゲノムへのプラスミドの組込み事象についてのバンドが生じた。
【0080】
その後、「キャンベルイン」株を、対抗選択培地としてスクロースを含有する寒天プレートを用いて「キャンベルアウト」し、sacB遺伝子の(機能の)喪失について選択した。したがって、25〜35mlの非選択培地(抗生物質を含有しないBHI)中、37℃、220rpmで一晩、インキュベートした。その後、一晩の培養物を、新鮮に調製されたスクロース含有BHIプレート(10%、抗生物質なし)上に画線し、37℃で一晩、インキュベートした(「1回目のスクロース移動」)。1回目の移動から得られた単一のコロニーを再び、新鮮に調製されたスクロース含有BHIプレート(10%)上に画線し、37℃で一晩、インキュベートした(「2回目のスクロース移動」)。この手順を、スクロースにおいて最低限5回の移動(「3回目、4回目、5回目のスクロース移動」)が完了するまで、繰り返した。用語「1〜5回目のスクロース移動」は、sacB遺伝子及び周辺プラスミド配列を喪失する株について選択することを目的とする、sacB-レバン-スクラーゼ遺伝子を含有するベクターの染色体組込み後の株の、スクロース及び増殖培地を含有する寒天プレート上への移動を指す。5回目の移動プレートからの単一コロニーを、25〜35mlの非選択培地(抗生物質を含有しないBHI)上に接種し、37℃、220rpmで一晩、インキュベートした。一晩の培養物を段階希釈し、BHIプレート上に蒔いて、単離された単一コロニーを得た。
【0081】
ldhA遺伝子座の野生型状況か又はldhA遺伝子の突然変異/欠失のいずれかを含む「キャンベルアウト」株を、クロラムフェニコール感受性によって確認した。これらの株の中の突然変異/欠失突然変異体を同定し、PCR分析によって確認した。これにより、ldhA欠失突然変異体バスフィア・サクシニシプロデュセンスDD1 ΔldhAがもたらされた。
【0082】
b) バスフィア・サクシニシプロデュセンスDD1 ΔldhAを、上記のように、pSacB_delta_pflAで形質転換し、「キャンベルイン」して、「キャンベルイン」株が生じた。形質転換及び組込みをPCRによって確認した。その後、「キャンベルイン」株を、前に記載されているように、「キャンベルアウト」した。これらの株の中の欠失突然変異体を同定し、PCR分析によって確認した。これにより、ldhA pflD-二重欠失突然変異体バスフィア・サクシニシプロデュセンスDD1 ΔldhA ΔpflAがもたらされた。
【0083】
c) バスフィア・サクシニシプロデュセンスΔldhAを、上記のように、pSacB_delta_pflDで形質転換し、「キャンベルイン」して、「キャンベルイン」株が生じた。形質転換及び組込みをPCRによって確認した。その後、「キャンベルイン」株を、前に記載されているように、「キャンベルアウト」した。これらの株の中の欠失突然変異体を同定し、PCR分析によって確認した。これにより、ldhA pflD-二重欠失突然変異体バスフィア・サクシニシプロデュセンスDD1 ΔldhA ΔpflDがもたらされた。
【0084】
[実施例4]
DD1 ΔldhA ΔpflAについてのグルコース又はグリセロール消費速度の決定
1. 培地調製
種培養に用いられる培地の組成は、表1に記載されている。本培養発酵については、用いられる培地は表2に記載されている。
【0085】
【0086】
2. 培養及び分析
本培養には、1回の種培養ステップ後、接種した。種培養について、表1に記載された培地を、2Lのボトル中で水、MgCO3、及びNa2CO3をオートクレーブすることにより調製した。他の成分を調製し、別々に滅菌し、その後、無菌様式でボトルに加えた。1800mLの上記の液体培地を含有する2Lボトルにおいて、1%の冷凍ストックを接種した。ボトルにおいては、CO2雰囲気を適用した。培地の開始pHは、MgCO3の存在及びCO2雰囲気により7.5〜8.0の範囲であった。インキュベーションを、37℃、170rpm(振盪直径:2.5cm)、嫌気性条件下で12時間、実施した。培養物は、21のOD600nmに達した。
【0087】
上記の種培養物の合計5%を用いて、本培養に接種した。本培養を、表2に記載された、500mLの初期体積の液体培地を含有する1L発酵槽において実施した。培地を、発酵槽において水、Na2CO3、及び消泡剤をオートクレーブすることにより調製した。他の成分を溶液として別々に調製し、その後、無菌様式で発酵槽に加えた。グルコースを、コハク酸産生株によるそれの消費速度を決定するために、これらの発酵のための炭素源として用いた。45g/Lのグルコースを培地においてバッチとして与え、また、2g/L/時間の速度で加えられる供給により発酵に沿って与えた。発酵の開始から4時間後、供給が始まった。グルコースは、全発酵時間を通して、過剰量で存在し、それを、次のセクションで記載されているように、HPLCによって測定した(過剰量のグルコースは、発酵中の検出可能なグルコース濃度が常に1g/Lより高いという事実により確認された)。pH 6.5を、発酵中、一定に保ち、それを、水酸化マグネシウム15重量%の添加によって調節した。CO2は、0.1vvmの流量で発酵槽にアプライされ、ステアリング速度は500rpmであった。種培養及び本培養の分析は、次のセクションに記載されている。
【0088】
3. 分析
カルボン酸の産生をHPLCによって定量化した。適用されたHPLC方法についての詳細は、表3及び4に記載されている。細胞増殖を、分光光度計(Ultrospec3000、Amersham Biosciences、Uppsala Sweden)を用いて600nmでの吸光度(OD600nm)を測定することにより測定した。
【0089】
【0090】
4. 結果
グルコース消費速度を計算するために、バッチ式グルコースでの発酵を実施した。この発酵において、グルコースは、時間経過にわたるグルコース消費速度の計算を可能にするために過剰量であった。グルコースの濃度を、発酵中、HPLCによりオフラインでチェックし、グルコースは、培地中で常に検出された。グルコースが培地中、常に過剰量であることが測定値により確認された。この実験において、45g/Lのグルコースをバッチとして与え、4時間後、2g/L/時間の供給速度を適用した。
【0091】
【0092】
消費速度を計算するために、ある一定の時間間隔で消費されたグルコースの量を決定した。
【0093】
[実施例5]
制限された、又は制限されていないグルコースと組み合わせてグリセロールを用いる、DD1 ΔldhA ΔpflAでの発酵の比較
5. 培地調製
種培養及び本培養に用いられた培地の組成は、前のセクション(実施例4)に記載されている。
【0094】
6. 培養及び分析
本培養は、1つの種培養からなるシードトレイン(seed train)から接種される。種培養について、表1に記載された1800mLの液体培地を含有し、CO2雰囲気での2Lボトルにおいて、1%の冷凍ストックを接種した。培地の開始pHは、MgCO3の存在及びCO2雰囲気により7.5〜8.0の範囲であった。インキュベーションは、37℃、170rpm(振盪直径:2.5cm)、嫌気性条件下で12時間、一晩であった(21のOD600nm)。
【0095】
種培養物の合計5%を用いて、表2に記載された、500mLの初期体積の液体培地を含有する1L発酵槽において本培養に接種した。グリセロール及びグルコースが炭素源であった。54g/Lのグリセロール及び8g/Lのグルコースを、発酵開始前にバッチとして与えた。グリセロールを、全発酵期間を通じて過剰量に維持し、グルコースを、制限された量か又は制限されていない量のいずれかのグルコースを細胞に与える速度で供給した。供給速度が、前に決定されたグルコースの消費速度より低い場合、供給は、制限されたとみなされる。供給は、4時間の発酵後に始まり、グルコースの供給速度は、2.5g/L/時間(無制限)又は0.25g/L/時間(制限)であった。利用された塩基は、水酸化マグネシウム15重量%であった。CO2は、0.1vvmの流量で発酵槽にアプライされ、ステアリング速度は500rpmであった。種培養及び本培養の分析を、前のセクション(表3)に記載されているように実施している。グルコースの濃度を、発酵中、HPLCによりオフラインでチェックし、グルコースは、2.5g/L/時間で供給された場合、培地中で常に検出された。グルコースの制限的供給が適用された場合(0.25g/L/時間)、ある一定の時間間隔の間、培養上清においてその糖は検出されなかった。
【0096】
7. 結果
7a. グルコース消費速度の決定
この実験において、8g/Lのグルコース及び54g/Lのグリセロールを、発酵の開始前にバッチとして与え、2.5g/L/時間の供給速度のグルコースを、4時間の発酵後、アプライした。グルコース消費速度を、実施例4に記載されているように計算し、この特定の実験設定についての時間間隔ごとの結果は、表6に記載されている。この実験において、発酵における検出可能なグルコース濃度は常に1g/Lより高かった。したがって、表6に示されたグルコースの消費速度は、所定の培養条件下での「さらなる炭素質化合物の理論的最高消費速度CRc.c. max」を表している。
【0097】
【0098】
7b. B. サクシニシプロデュセンスDD1 ΔldhA ΔpflDでの発酵のコハク酸滴定量及び空時収率におけるグルコースの制限的供給と無制限的供給の比較
上記のグルコース消費速度の決定後、グルコースの制限的供給か又は無制限的供給のいずれかを発酵において適用した。制限的及び無制限的グルコース濃度を与える異なる供給速度は表7に示されている。コハク酸滴定量及び空時収率もまた表7に示されている。
【0099】
【0100】
0.25g/L/時間の速度でグルコースを供給する場合(制限的供給)、発酵におけるグルコース濃度は常に検出限界より下であった。
【0101】
結果は、グルコースが、制限された様式で加えられる場合の、産生されるコハク酸の滴定量の増加及びより高い空時収率を示している。
【0102】
[実施例6]
B. サクシニシプロデュセンスDD1 ΔldhA ΔpflDでの発酵におけるグルコースの異なる制限的供給間での比較
8. 培地調製
種培養及び本培養に用いられた培地の組成は、セクション1(実施例4)に記載されている。
【0103】
9. 培養及び分析
本培養は、1つの種培養からなるシードトレインから接種される。種培養について、表1に記載された1800mLの液体培地を含有し、CO2雰囲気での2Lボトルにおいて、1%の冷凍ストックを接種した。培地の開始pHは、MgCO3の存在及びCO2雰囲気により7.5〜8.0の範囲であった。インキュベーションは、37℃、170rpm(振盪直径:2.5cm)、嫌気性条件下で12時間、一晩であった(21のOD600nm)。
【0104】
種培養物の合計5%を用いて、表2に記載された、500mLの初期体積の液体培地を含有する1L発酵槽において本培養に接種した。グリセロール及びグルコースが炭素源であった。50g/Lのグリセロール及び8g/Lのグルコースを、発酵開始前にバッチとして供給した。グリセロールを、全発酵期間を通じて過剰量に維持し、グルコースを、制限された量のグルコースを細胞に与える速度で供給した。供給速度が、前に決定されたグルコースの消費速度より低い場合、供給は、制限されたとみなされる。供給は、4時間の発酵後に始まり、グルコースの供給速度は、表8に記載されている。利用された塩基は、水酸化マグネシウム15重量%であった。CO2は、0.1vvmの流量で発酵槽にアプライされ、ステアリング速度は500rpmであった。種培養及び本培養の分析を、前のセクション(表3)に記載されているように実施している。グルコースの濃度を、発酵中、HPLCによりオフラインでチェックし、グルコースは、ある一定の時間間隔の間、培養上清において検出されなかった。
【0105】
10. 結果
グルコース消費速度を、実施例1に記載されているように計算した後、消費速度より低いグルコースの供給速度での発酵(制限的供給)を実施した。グリセロールは発酵において過剰量である。コハク酸滴定量及び空時収率は、発酵槽へ供給されるグルコースの量により直接的に影響される(表8)。表8に認められる結果により、グリセロールが主な炭素源である場合の発酵において、コハク酸の量及び空時収率は、制限された量のグルコースで向上することが確認される。グルコースの供給速度が低いほど、コハク酸滴定量及び空時収率は高くなる。
【0106】
【0107】
実施例は、コハク酸発酵について主なC源としてグリセロールを用いる場合、制限された量のグルコースが有益であることを示している。
【0108】
配列
【受託番号】
【0109】
受託番号:DSM 18541
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]