【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、耐熱性に優れるAFX型ゼオライト、更には高温水熱耐久性に優れるAFX型ゼオライトについて検討した。その結果、特定の結晶構造を有するAFX型ゼオライトを見出した。さらに、この様なAFX型ゼオライトが耐熱性に優れること、特に800℃以上の熱水雰囲気下に晒されても劣化が抑制されることを見出した。更に、AFX型ゼオライトは、遷移金属を含有する場合に高温度の熱水雰囲気下に晒されても窒素酸化物還元特性の低下が少なく、なおかつ、低温から高温までの幅広い温度領域でも高い窒素酸化物還元特性を有することを見出した。これにより本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0014】
[1] (004)面の格子面間隔dが4.84Å以上5.00Å以下であり、なおかつ、アルミナに対するシリカのモル比が10以上32以下であることを特徴とするAFX型ゼオライト。
【0015】
[2] 前記(004)面の格子面間隔dが4.925Å以上5.00Å以下である上記[1]に記載のAFX型ゼオライト。
【0016】
[3] 前記アルミナに対するシリカのモル比が10以上30以下である上記[1]又は[2]に記載のAFX型ゼオライト。
【0017】
[4] 下表の格子面間隔dを有する上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のAFX型ゼオライト。
【0018】
【表1】
【0019】
[5] 双六角錐形状を有する一次粒子を含む上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のAFX型ゼオライト。
【0020】
[6] 一次粒子同士が化学結合により凝集した結晶粒子を含む上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のAFX型ゼオライト。
【0021】
[7] 周期表の8族、9族、10族及び11族からなる群の1種以上の遷移金属を含有する上記[1]乃至[6]のいずれかのAFX型ゼオライト。
【0022】
[8] ケイ素源、アルミニウム源、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムカチオン及びアルカリ金属を含み、シリカに対する水酸化物イオンのモル比が0.25未満又はアルミナに対するシリカのモル比が27以下の少なくともいずれかであり、なおかつ、シリカに対する1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムカチオンのモル比が0.20未満である組成物を160℃以上で結晶化する結晶化工程、を有する上記[1]乃至[7]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0023】
[9] 前記組成物が1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムヒドロキシド、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムブロミド、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムクロリド及び1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムヨージドからなる群の少なくとも1種を含む上記[8]に記載の製造方法。
【0024】
[10] 前記組成物が以下の組成を有する上記[8]又は[9]に記載の製造方法。
SiO
2/Al
2O
3 10以上、100未満
OH/SiO
2 0.06以上、0.25未満
アルカリ金属/SiO
2 0.06以上、0.25未満
1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムカチオン/SiO
2
0.02以上、0.20未満
H
2O/SiO
2 5以上、60未満
【0025】
[11] 前記組成物が以下の組成を有する上記[8]又は[9]に記載の製造方法。
SiO
2/Al
2O
3 10以上、25以下
OH/SiO
2 0.25以上、0.40未満
アルカリ金属/SiO
2 0.25以上、0.40未満
1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムカチオン/SiO
2
0.02以上、0.20未満
H
2O/SiO
2 5以上、60未満
【0026】
[12] 上記[1]乃至[7]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトを含む触媒。
【0027】
[13] 上記[1]乃至[7]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトを使用する窒素酸化物の還元除去方法。
【0028】
以下、本発明のAFX型ゼオライトについて説明する。
【0029】
本発明はAFX型ゼオライトに係る。AFX型ゼオライトとは、AFX構造を有するゼオライトであり、特にAFX構造を有するアルミノシリケートである。
【0030】
アルミノシリケートは、アルミニウム(Al)とケイ素(Si)とが酸素(O)を介したネットワークの繰返しからなる構造(以下、「ネットワーク構造」とする。)、及び、ネットワーク構造の末端や欠陥などの端部(以下、「骨格端部」とする。)にシラノール基(Si−OH)を、その骨格に含む。
【0031】
AFX構造とは、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association;以下、「IZA」とする。)のStructure Commissionが定めているIUPAC構造コードで、AFX型となる構造である。
【0032】
本発明のAFX型ゼオライトは、(004)面の格子面間隔d(以下、「d
(004)」ともいう。)が4.84Å以上である。d
(004)は、AFX型ゼオライトの結晶の単位格子のc軸の長さ(以下、「c軸長」とする。)を示す指標となる。例えば、特許文献1等で開示されたSSZ−16はd
(004)が4.83Åであり、当該SSZ−16のc軸長が本発明のAFX型ゼオライトのc軸長よりも短いことを意味する。従来のSSZ−16と比べてd
(004)が大きいことで、本発明のAFX型ゼオライトは水熱雰囲気下に晒された後の劣化に対する耐久性(以下、「水熱耐久性」ともいう。)が高くなると考えられる。本発明のAFX型ゼオライトのd
(004)の下限値として4.84Å、更には4.88Å、また更には4.90Å、また更には4.925Åを挙げることができる。このようなd
(004)であることで、高温水熱耐久性が高くなる。一方、d
(004)の上限値として5.00Å、更には4.99Å、また更には4.98Å、また更には4.97Åを挙げることができる。特に好ましいd
(004)の範囲として4.90Å以上4.98Å以下、更には4.92Å以上4.98Å以下、また更には4.925Å以上4.98Å以下を挙げることができる。
【0033】
AFX型ゼオライトはSDAを含有することで結晶格子が大きくなり、c軸長が長くなる。これにより、SDAを含有するAFX型ゼオライトは、SDAを含有しないAFX型ゼオライトと比べてd
(004)が大きくなる傾向がある。これに対し、本発明のAFX型ゼオライトは、SDAを含有する状態及びSDAを含有しない状態のいずれの状態であっても、d
(004)が4.84Å以上であり、更には、SDAを含有しない状態で上記のd
(004)が4.84Å以上であり、上記の範囲のd
(004)を有することが好ましい。SDAを含有しない状態として、例えば、4級アンモニウムカチオン含有量が0.1重量%以下、更には4級アンモニウムカチオン含有量が検出限界以下であることが挙げられる。
【0034】
d
(004)はc軸長を反映する格子面間隔であり、これは粉末X線回折(以下、「XRD」とする。)測定により求めることができる。XRD測定条件として、以下の条件を挙げることができる。
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件: 毎秒0.01°
発散スリット: 1.00deg
散乱スリット: 1.00deg
受光スリット: 0.30mm
計測時間 : 1.00秒
測定範囲 : 2θ=3.0°〜43.0°
【0035】
焼成によりSDAを除去したSSZ−16のd
(004)は4.83Åであることが特許文献1に開示されている。本発明のAFX型ゼオライト及びSSZ−16はいずれもAFX構造を有するゼオライトであるため、両者は類似したXRDパターンを有する。そのため、本発明のAFX型ゼオライトは、d
(004)以外のピークはSSZ−16と同様な格子面間隔dに相当するピークを有するXRDパターンであってもよい。しかしながら、本発明のAFX型ゼオライトのXRDパターンは、少なくともd
(004)が4.84Å以上、更にはd
(004)が4.96±0.035Åである点で、SSZ−16のXRDパターンと異なる。
【0036】
本発明のAFX型ゼオライトは、下表の格子面間隔dを有することが好ましい。
【0037】
【表2】
【0038】
このような結晶構造を有することで本発明のAFX型ゼオライトがより耐熱性及び高温水熱耐性に優れたものとなる。上記表において、d
(004)に相当する格子面間隔d=4.96±0.035は、d=4.96±0.03であること、更にはd=4.96±0.02であることがより好ましい。
【0039】
本発明のAFX型ゼオライトは、下表の格子面間隔d、及びXRDピーク強度比を有することが好ましい。当該ピーク強度比を示すことにより、耐熱性が向上する。
【0040】
【表3】
【0041】
ここで、上表のXRDピーク強度比と、実際のXRDパターンにおけるI/I
0×100で示されるXRDピークの数値との関係は下表に示す通りである。上記表3において、d
(004)に相当する格子面間隔d=4.96±0.035は、d=4.96±0.03であること、更にはd=4.96±0.02であることがより好ましい。ここで、IおよびI
0は以下のとおりである。
【0042】
I :各格子面間隔dにおけるXRDピーク強度
I
0 :XRDパターンにおいて最大のXRDピーク強度を有するXRDピーク強度
【0043】
【表4】
【0044】
AFX型ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO
2/Al
2O
3」ともいう。)が高い程耐熱性が向上し、かつ、疎水性となる。本発明のAFX型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3は10以上であることで、特に高温熱水耐久性が高くなる。SiO
2/Al
2O
3は11以上、更には12以上、また更には13以上、また更には15以上、また更には16以上、また更には19以上であることが好ましい。固体酸量が多くなり、触媒活性が向上し、親水性となるため、SiO
2/Al
2O
3は32以下であり、31以下、更には30以下、また更には28以下、また更には27以下であることが好ましい。
【0045】
本発明のAFX型ゼオライトは上記のd
(004)及びSiO
2/Al
2O
3を兼備することで、水熱耐久性、特に高温水熱耐久性が高くなり、触媒や触媒担体などに特に適したAFX型ゼオライトとなる。高い窒素酸化物還元率を示す触媒となるため、SiO
2/Al
2O
3は12以上32以下であることが好ましく、12以上30以下であることが特に好ましい。SiO
2/Al
2O
3が32以下であれば優れた触媒特性を有し、なおかつ、工業的に利用しやすいAFX型ゼオライトとなる。例えば、SiO
2/Al
2O
3が32超44.5以下のAFX型ゼオライトなど、SiO
2/Al
2O
3が32を超えるAFX型ゼオライトも触媒や吸着剤として使用することができる。しかしながら、SiO
2/Al
2O
3が高いゼオライトはイオン交換容量が小さいため、例えば、窒素酸化物還元触媒として使用する場合、AFX型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3を32超とする必要はない。
【0046】
本発明のAFX型ゼオライトは双六角錐形状を有する一次粒子を含む。更に、本発明のAFX型ゼオライトの一次粒子は双六角錐形状であることが好ましい。形状が双六角錐形状である一次粒子は、結晶面が良好に成長したAFX型ゼオライトの結晶粒子である。一次粒子が双六角錐形状であることで、本発明のAFX型ゼオライトの結晶面が良好に成長していることが確認できる。このような結晶粒子により結晶の欠陥が少なくなり、耐熱性や高温水熱耐久性が向上する。
【0047】
ここで、本発明における一次粒子とは、単結晶が集合して形成された多結晶体の粒子である。本発明のAFX型ゼオライトは、一次粒子が走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察において観察される最小単位の粒子である。
【0048】
本発明のAFX型ゼオライトは、一次粒子が独立した結晶粒子であってもよく、また、一次粒子が凝集して二次粒子を形成してもよい。二次粒子は、一次粒子同士が化学結合により凝集した結晶粒子(以下、「双晶粒子」ともいう。)である。本発明のAFX型ゼオライトは二次粒子(双晶粒子)を含んでいてもよく、また更には一次粒子及び二次粒子(双晶粒子)を含んでいてもよい。
【0049】
本発明のAFX型ゼオライトの一次粒子や二次粒子の形状はSEM観察によって確認できる。例えば、独立した一次粒子は、その形状が双六角錐形状を有する結晶からなる結晶粒子であることが明確に観察できる。
図4に独立した一次粒子を含む本発明のAFX型ゼオライトの結晶粒子の形状の一例を示す。一次粒子が独立している場合、SEM観察において、結晶粒子の結晶面及び稜線が明確に観察できる。一方、
図6に二次粒子を含む本発明のAFX型ゼオライトの結晶粒子の形状の一例を示す。SEM観察において、二次粒子は、結晶粒子の結晶面及び稜線が部分的に観察できる。
【0050】
これに対し、双六角錐形状を有さない一次粒子からなるAFX型ゼオライトの一例を
図8に示す。
図8より明らかなように、双六角錐形状を有さない一次粒子は、SEM観察において、結晶面及び稜線を観察することができず、略球状又は不定形状をしている。
【0051】
本発明のAFX型ゼオライトは、平均一次粒子径が0.5μm以上であることが好ましい。平均一次粒子径が0.5μm以上であることで、耐熱性が高くなりやすい。平均一次粒子径は0.8μm以上、更には1.0μm以上、また更には1.2μm以上であることで、耐熱性がより高くなりやすい。本発明のAFX型ゼオライトの平均一次粒子径は5μm以下であることが好ましい。平均一次粒子径が5.0μm以下であることで、当該ゼオライトをハニカム等へのコーティングする際の操作性が良好になる。より好ましい平均一次粒子径として、3.0μm以下が挙げられる。
【0052】
本発明における平均一次粒子径とは、一次粒子の平均粒子径である。従って、SEM観察において複数の一次粒子の凝集体として観察される粒子、いわゆる二次粒子(双晶粒子)の粒子径を平均して求まる平均二次粒子径、並びに、一次粒子や二次粒子が物理的な力で凝集した凝集粒子の凝集径を平均して求まる平均凝集子径と、本発明における平均粒子径は異なるものである。
【0053】
本発明において、平均一次粒子径は、SEM観察によって一次粒子を無作為に100個以上観察し、観察された一次粒子の水平フェレ径の平均値から求めることができる。
【0054】
本発明のAFX型ゼオライトはシラノール基(Si−OH)が少ないことが好ましい。シラノール基の含有量(以下、「シラノール量」とする。)が少ないことにより、AFX型ゼオライトが800℃以上での熱水雰囲気下に晒された後であっても高い結晶性や細孔構造を維持し、低温下における窒素酸化物還元特性、特に150℃以下の低温においても窒素酸化物還元特性等の触媒特性が高くなる。そのため、熱水雰囲気下に晒された前後における、物性及び特性の変化が小さくなりやすく、より寿命の長い触媒や吸着剤として利用できる。
【0055】
AFX型ゼオライトに含まれるシラノール基は骨格端部に含まれる。より具体的には、シラノール基はAFX型ゼオライト結晶の欠陥として、結晶内部に存在するシラノール基(以下、「内部シラノール」とする。)、及びゼオライト結晶の末端として、結晶の外表面に存在するシラノール基(以下、「表面シラノール」とする。)に分けられる。本発明のAFX型ゼオライトは、内部シラノール及び表面シラノールのいずれもが少ないことが好ましい。
【0056】
本発明のAFX型ゼオライトのケイ素に対するシラノール基のモル比(以下、「SiOH/Si」とする。)は0.5×10
−2以下、更には0.4×10
−2以下、また更には0.3×10
−2以下であることが好ましい。
【0057】
AFX型ゼオライトのSiOH/Siは、AFX型ゼオライトのケイ素の含有量に対する1H MAS NMRスペクトルから求まるシラノール量、から求めることができる。
【0058】
AFX型ゼオライトのケイ素の含有量はICP法その他の組成分析により求めることができる。シラノール量の求め方として、例えば、脱水処理をしたAFX型ゼオライトを1H MAS NMR測定し、得られた1H MAS NMRスペクトルから検量線法により、シラノール量を算出することが挙げられる。
【0059】
より具体的なシラノール量の測定方法として、AFX型ゼオライトを真空排気下にて400℃で5時間保持して脱水処理し、脱水処理後のAFX型ゼオライトを窒素雰囲気下で採取し秤量し、1H MAS NMR測定をすることが挙げられる。当該測定により得られる1H MAS NMRスペクトルのシラノール基に帰属されるピーク(2.0±0.5ppmのピーク)の面積強度から、検量線法によりAFX型ゼオライト中のシラノール量を求めることが挙げられる。
【0060】
本発明のAFX型ゼオライトは、その細孔中に実質的にSDAを含まないことが好ましい。
【0061】
本発明のAFX型ゼオライトは水熱耐久性に優れ、特に高温水熱耐久性に優れている。そのため、本発明のAFX型ゼオライトは触媒又は吸着剤、並びに、これらの基材の少なくともいずれか、更には高温高湿下に晒される触媒又は吸着剤の少なくともいずれか、並びに、触媒基材又は吸着剤基材の少なくともいずれとして使用することができ、特に触媒又は触媒基材として使用することが好ましい。
【0062】
これらの用途で使用する場合、本発明のAFX型ゼオライトを任意の形状、大きさで使用すればよい。例えば、本発明のAFX型ゼオライトを粉砕し、粉砕した本発明のAFX型ゼオライトを触媒又は吸着剤、並びに、これらの基材の少なくともいずれかとして使用してもよい。
【0063】
触媒又は吸着剤としての使用において、本発明のAFX型ゼオライトは遷移金属を含有していてもよい。遷移金属を含むことでゼオライトと遷移金属の間に相互作用が生じ、炭化水素吸着等の吸着特性、窒素酸化物還元等の触媒特性が向上する。本発明のAFX型ゼオライトが含有する遷移金属は、周期表の8族、9族、10族及び11族からなる群の1種以上であることが好ましく、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びインジウム(In)からなる群の1種以上であることがより好ましく、鉄又は銅の少なくともいずれかであることが更により好ましく、実質的に、銅のみであることが好ましい。
【0064】
本発明のAFX型ゼオライトが遷移金属を含有する場合、XRDパターンがシフトする場合がある。遷移金属を含有する本発明のAFX型ゼオライト(以下、「本発明の金属含有AFX型ゼオライト」ともいう。)の格子面間隔dとして下表の格子面間隔dを挙げることができる。
【0065】
【表5】
【0066】
上記表において、d
(004)に相当する格子面間隔d=4.96±0.035は、d=4.96±0.03であること、更にはd=4.96±0.02であることがより好ましい。
【0067】
本発明の金属含有AFX型ゼオライトは、アルミニウムに対する遷移金属の原子割合(以下、「Me/Al」とする。)が0.20以上、更には0.30以上であることが好ましい。Me/Alが大きくなることで炭化水素吸着等の吸着特性や、窒素酸化物還元等の触媒特性などの特性が高くなる傾向がある。一方、Me/Alが小さいほど遷移金属が分散して存在しやすくなる。触媒反応における反応物質と遷移金属が効率よく接触するため、Me/Alは0.50以下、更には0.47以下、また更には0.45以下であることが好ましい。例えば、窒素酸化物還元触媒とする場合、Me/Alは0.2以上0.5以下、更には0.23以上0.47以下であることが好ましい。
【0068】
本発明の金属含有AFX型ゼオライトは、遷移金属の含有量が1.0重量%以上、更には1.5重量%以上、また更には2.0重量%以上であることが好ましい。遷移金属の含有量が1.0重量%以上であることで、本発明の金属含有AFX型ゼオライトの特性が向上しやすい。一方、遷移金属の含有量が5.0重量%以下、更には4.0重量%以下、また更には3.5重量%以下であることが好ましい。遷移金属の含有量が5.0重量%以下であることで、余剰な遷移金属とゼオライト骨格のアルミニウムとの副反応が起こりにくくなる。遷移金属含有量は2重量%以上4重量%以下、更には2.6重量%以上3.5重量%以下であることが好ましい。
【0069】
ここで、遷移金属の含有量(重量%)は、本発明のAFX型ゼオライトの乾燥重量に対する遷移金属の重量である。当該遷移金属の重量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析法による組成分析などにより求めることができる。
【0070】
本発明のAFX型ゼオライトは、その細孔中に実質的にSDAを含まないことが好ましい。
【0071】
本発明の金属含有AFX型ゼオライト、特に遷移金属として鉄又は銅の少なくともいずれかを含む金属含有AFX型ゼオライトは、高い窒素酸化物還元特性を有し、かつ、耐熱性に優れる。そのため、特に水熱耐久処理後であっても窒素酸化物還元特性の低下が少ない。
【0072】
ここで、水熱耐久処理とは、高温下で、含水蒸気の空気にゼオライトを晒す処理である。水熱耐久処理は標準化又は規定化された条件がない。その一方で、処理温度を高くすること、又は、処理時間を長くすることのいずれかにより、水熱耐久処理によるゼオライトへの熱負荷が大きくなる。熱負荷が大きくなることでゼオライト骨格からのアルミニウムの脱離をはじめとする、ゼオライトの崩壊が起こりやすくなる。ゼオライトの崩壊により、水熱耐久処理後のゼオライトの窒素酸化物還元特性は低下する。
【0073】
本発明のおける水熱耐久処理として、以下の条件による処理を挙げることができる。
【0074】
処理温度 :900℃
雰囲気 :10体積%のH
2Oを含む空気
空間速度(SV) :6,000hr
−1
処理時間 :1時間〜5時間
【0075】
次に、本発明のAFX型ゼオライトの製造方法について説明する。
本発明のAFX型ゼオライトは、ケイ素源、アルミニウム源、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムカチオン及びアルカリ金属を含み、シリカに対する水酸化物イオンのモル比が0.25未満又はアルミナに対するシリカのモル比が27以下の少なくともいずれかであり、なおかつ、シリカに対する1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムカチオンのモル比が0.20未満である組成物を160℃以上で結晶化する結晶化工程、を有する製造方法により製造することができる。
【0076】
本発明の製造方法は、ケイ素源、アルミニウム源、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムカチオン(以下、「DAdI
+」ともいう。)及びアルカリ金属源を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を結晶化する。
【0077】
ケイ素源は、シリカ(SiO
2)又はその前駆体となるケイ素化合物であり、例えば、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、沈殿法シリカ、ヒュームドシリカ、ゼオライト及びアルミノシリケートゲルからなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0078】
アルミニウム源は、アルミナ(Al
2O
3)又はその前駆体となるアルミニウム化合物であり、例えば、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミノシリケートゲル、ゼオライト及び金属アルミニウムからなる群の少なくとも1種を用いることができる。
【0079】
アルカリ金属(M)は、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ金属のハロゲン化物として原料組成物に含まれていればよく、特に塩基性を示すアルカリ金属の水酸物として原料組成物に含まれていればよい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウムからなる群の少なくとも1種、並びに、ケイ素源及びアルミニウム源の少なくともいずれかに含まれるアルカリ成分として原料組成物に含まれていることが挙げられる。
【0080】
DAdI
+はSDAとして機能する。DAdI
+は、その水酸化物又はハロゲン化物の少なくともいずれかの化合物として原料組成物に含まれていることが好ましい。具体的なDAdI
+含有化合物として、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムヒドロキシド(以下、「DAdIOH」とする。)、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムブロミド(以下、「DAdIBr」とする。)、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムクロリド(以下、「DAdICl」とする。)及び1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムヨージド(以下、「DAdII」とする。)からなる群の少なくとも1種であり、更にはDAdIBr、DAdICl及びDAdIIからなる群の少なくとも1種であり、更にはDAdIBrが挙げられる。
【0081】
原料組成物のシリカに対する1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリウムカチオンのモル比(以下、「DAdI
+/SiO
2」ともいう。)は0.20未満である。DAdI
+/SiO
2は0.20未満、更には0.15以下、また更には0.10以下、また更には0.06以下であることが好ましい。これにより原料組成物の結晶化に寄与しないSDAがより少なくなる。DAdI
+/SiO
2は、0.02以上、更には0.03以上、また更には0.04以上であることが好ましい。これによりAFX型以外の構造を有するゼオライトの生成がより抑制される。
【0082】
原料組成物の組成において、シリカに対する水のモル比(以下、「H
2O/SiO
2」とする。)は、5以上、60以下であることが好ましい。H
2O/SiO
2がこの範囲であれば、結晶化中に適度な攪拌が可能な粘度の混合物となる。またH
2O/SiO
2は60未満、更には45以下、また更には40以下であることが好ましい。これによりシリカに対する溶液中の水酸化物イオンのモル比(以下、「OH/SiO
2」とする。)が低くても結晶化が容易になる。
【0083】
原料組成物は、シリカに対する水酸化物イオンのモル比(以下、「OH/SiO
2」ともいう。)が0.25未満又はアルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO
2/Al
2O
3」ともいう。)が27以下の少なくともいずれかであり、さらに、OH/SiO
2が0.06以上0.25未満又はSiO
2/Al
2O
3が10以上27以下の少なくともいずれかであることが好ましい。DAdI
+を含む組成物を原料とするゼオライトの結晶化挙動は水酸化物イオン濃度の影響を大きく受ける。
【0084】
組成物の水酸化物イオン濃度が低い場合、AFX型ゼオライトが結晶化しやすくなり、なおかつ、原料組成物と得られるAFX型ゼオライトとのSiO
2/Al
2O
3の差が小さくなりやすい。OH/SiO
2が0.25未満の原料組成物(以下、「低アルカリ原料」ともいう。)は、AFX型ゼオライトの結晶化が促進されやすい。そのため、低アルカリ原料においては、原料組成物のSiO
2/Al
2O
3が広い範囲でAFX型ゼオライトが結晶化しやすく、更には目的とするSiO
2/Al
2O
3を有するAFX型ゼオライトが得られやすくなる。低アルカリ原料はOH/SiO
2が0.25未満であり、OH/SiO
2が0.06以上0.25未満であることが好ましい。
【0085】
一方、組成物の水酸化物イオン濃度が高い場合、結晶化速度が速くなるが、AFX型ゼオライト以外の構造のゼオライトが結晶化しやすくなる。OH/SiO
2が0.25以上の原料組成物(以下、「高アルカリ原料」ともいう。)では、特にAFX型ゼオライトの結晶化が進行しにくくなる。そのため、高アルカリ原料においては、原料組成物のSiO
2/Al
2O
3が27を超えると、DAdI
+を含む組成物からAFX型ゼオライトを結晶化が特に進みにくくなる。仮に、SiO
2/Al
2O
3が27を超える高アルカリ原料からAFX型ゼオライトが結晶化した場合であっても、結晶成長が十分にされないため、得られるAFX型ゼオライトは高温熱水耐久性が低くなりやすい。高アルカリ原料はOH/SiO
2が0.25以上であり、OH/SiO
2が0.25以上0.40未満、更には0.25以上0.35未満であることが好ましい。
【0086】
原料組成物のOH/SiO
2は、0.06以上、更には0.08以上、また更には0.10以上、また更には0.12以上、また更には0.14以上であることが好ましい。これにより原料の溶解が促進され、結晶成長が速くなる。
【0087】
低アルカリ原料は、SiO
2/Al
2O
3が10以上、更には12以上、また更には14以上、また更には15以上であることが好ましい。これにより得られるAFX型ゼオライトの耐熱性がより向上する。一方、SiO
2/Al
2O
3は100以下であることが好ましく、45以下、更には35以下、また更には32以下、また更には30以下であることが好ましい。これにより得られるAFX型ゼオライトの固体酸量が増加するため、化学吸着特性が向上し、また、より多くの金属イオンを交換できる。
【0088】
低アルカリ原料は、シリカに対する溶液中のアルカリ金属のモル比(以下、「M/SiO
2」とする。)が、0.06以上、更には0.08以上、また更には0.10以上、また更には0.12以上、また更には0.14以上であることが好ましい。これにより原料の溶解が促進され、結晶成長が速くなる。また、M/SiO
2は0.25未満、更には0.22以下、また更には0.20以下、また更には0.18以下であることが好ましい。これにより不純物の生成が抑制されるため、シリカの回収率が高くなる。
【0089】
低アルカリ原料は以下の組成を有することが好ましい。なお、以下の組成におけるMはアルカリ金属であり、各割合はモル(mol)割合である。
SiO
2/Al
2O
3 10以上、100未満
OH/SiO
2 0.06以上、0.25未満
M/SiO
2 0.06以上、0.25未満
DAdI
+/SiO
2 0.02以上、0.20未満
H
2O/SiO
2 5以上、60未満
【0090】
また、低アルカリ原料は以下の組成を有していることが更に好ましい。
SiO
2/Al
2O
3 15以上、45以下
OH/SiO
2 0.08以上、0.22以下
M/SiO
2 0.08以上、0.22以下
DAdI
+/SiO
2 0.03以上、0.15以下
H
2O/SiO
2 5以上、60未満
【0091】
また更には、低アルカリ原料は以下の組成を有していることがより好ましい。
SiO
2/Al
2O
3 15以上、30以下
OH/SiO
2 0.10以上、0.20以下
M/SiO
2 0.10以上、0.20以下
DAdI
+/SiO
2 0.04以上、0.10以下
H
2O/SiO
2 5以上、60未満
【0092】
高アルカリ原料は、SiO
2/Al
2O
3が10以上、更には12以上、また更には14以上、また更には15以上であることが好ましい。これにより得られるAFX型ゼオライトの耐熱性がより向上する。また、SiO
2/Al
2O
3は27以下であり、25以下、更には22以下であることが好ましい。これにより固体酸量が増加し、化学吸着特性が向上し、また、より多くの金属イオンを交換できる。
【0093】
高アルカリ原料は、M/SiO
2が0.40未満、更には0.35以下、また更には0.30以下であることが好ましい。これによりAFX型以外の構造のゼオライトの生成が抑制される。M/SiO
2は0.1以上、更には0.15以上であればよい。
【0094】
高アルカリ原料は以下の組成を有することが好ましい。
SiO
2/Al
2O
3 10以上、25以下
OH/SiO
2 0.25以上、0.40未満
M/SiO
2 0.25以上、0.40未満
DAdI
+/SiO
2 0.02以上、0.20未満
H
2O/SiO
2 5以上、60未満
【0095】
高アルカリ原料は以下の組成を有していることが更に好ましい。
SiO
2/Al
2O
3 15以上、25以下
OH/SiO
2 0.25以上、0.35以下
M/SiO
2 0.25以上、0.35以下
DAdI
+/SiO
2 0.03以上、0.15以下
H
2O/SiO
2 5以上、60未満
【0096】
結晶化工程は、160℃以上で行う。結晶化温度が160℃未満では、AFX型ゼオライトが得られないだけでなく、原料組成物が結晶化しない場合がある。より好ましい結晶化温度として、160℃以上、190℃以下、更には170℃以上、190℃以下が挙げられる。これにより高結晶性のAFX型ゼオライトが得られやすい。
【0097】
原料組成物の結晶化方法は適宜選択することができる。好ましい結晶化方法として、原料組成物を水熱処理することが挙げられる。水熱処理は、原料組成物を密閉耐圧容器に入れ、これを加熱すればよい。水熱処理条件として以下のものを挙げることができる。
【0098】
処理時間 :2時間以上、500時間以下
処理圧力 :自生圧
より好ましい水熱処理時間として、10時間以上240時間以下が挙げられる。
【0099】
水熱処理の間、原料組成物は静置された状態又は攪拌された状態のいずれでもよい。得られるAFX型ゼオライトの組成がより均一になるため、結晶化は原料組成物が攪拌された状態で行うことが好ましい。
【0100】
本発明の製造方法では、結晶化工程の後、洗浄工程、乾燥工程又はSDA除去工程のいずれかを含んでもよい。
【0101】
洗浄工程は、結晶化工程後の生成物からAFX型ゼオライトと液相とを固液分離する。洗浄工程は、公知の方法で固液分離をし、固相として得られるAFX型ゼオライトを純水で洗浄すればよい。具体的には、水熱処理を行った混合物をろ過、洗浄し、液相と固相に分離し、AFX型ゼオライトを得る方法が挙げられる。
【0102】
乾燥工程は、結晶化工程後又は洗浄工程後のAFX型ゼオライトから水分を除去する。乾燥工程の条件は任意であるが、結晶化工程後の混合物、又は洗浄工程後で得られたAFX型ゼオライトを、大気中、100℃以上、150℃以下の条件下で2時間以上処理することが例示できる。乾燥方法として、静置又はスプレードライヤーが例示できる。
【0103】
SDA除去工程では、例えばSDAの除去を焼成、又は分解により行うことができる。
【0104】
焼成は400℃以上、800℃以下の温度で行う。更には700℃以下の温度で行うことが好ましい。これにより脱アルミニウムの少ないAFX型ゼオライトが得られやすい。具体的な熱処理条件としては、大気中、600℃、1〜2時間を挙げることができる。
【0105】
本発明の製造方法では、必要に応じてアンモニウム処理工程を有していてもよい。
【0106】
アンモニウム処理工程は、AFX型ゼオライトに含有されるアルカリ金属を除去し、カチオンタイプをアンモニウム型(以下、「NH
4+型」とする。)にするために行う。アンモニウム処理工程は、例えば、アンモニウムイオンを含有する水溶液をAFX型ゼオライトと接触させることで行う。
【0107】
NH
4+型のAFX型ゼオライトである場合、再度熱処理を行なってもよい。当該熱処理により、カチオンタイプがプロトン型(以下、「H
+型」とする。)のAFX型ゼオライトとなる。より具体的な熱処理条件としては、大気中、500℃、1〜2時間を挙げることができる。
【0108】
本発明のAFX型ゼオライトに遷移金属を含有させる場合、本発明の製造方法は、AFX型ゼオライトに遷移金属を含有させる遷移金属含有工程を有していてもよい。
【0109】
遷移金属含有工程で使用する遷移金属としては、周期表の8族、9族、10族及び11族からなる群の1種以上の遷移金属を含む化合物であることが好ましく、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びインジウム(In)からなる群の1種以上を含む化合物であることがより好ましく、鉄又は銅の少なくともいずれかを含む化合物であることが更により好ましく、銅を含む化合物であることが好ましい。遷移金属を含む化合物として、これらの遷移金属の硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物及び複合酸化物からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0110】
AFX型ゼオライトに遷移金属を含有させる方法としては、AFX型ゼオライトと遷移金属化合物とを混合する方法(以下、「後含有法」とする。)、又は、原料組成物に少なくとも1種類以上の遷移金属化合物を加え、当該原料組成物を結晶化させる方法(以下、「前含有法」とする。)が挙げられる。
【0111】
後含有法として、例えば、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法、及び物理混合法からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0112】
前含有法として、遷移金属を含む原料組成物を結晶化する方法が挙げられる。前記遷移金属を含む原料組成物は、混合工程で遷移金属化合物を加えた原料組成物、又は、ケイ素源、アルミニウム源、アルカリ源及びDAdI
+のいずれかひとつ以上に、遷移金属を含有する化合物を用いた原料組成物を挙げることができる。
【0113】
本発明のAFX型ゼオライトは、遷移金属を含有させることにより、これを窒素酸化物還元触媒として、特にSCR触媒として使用することができる。さらには、排気ガス温度が高いディーゼル車用のSCR触媒として使用することができる。
【0114】
本発明のAFX型ゼオライトを含む窒素酸化物還元触媒は、窒素酸化物還元方法に使用することができる。