特許第6672906号(P6672906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6672906-液体クロマトグラフ用送液装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6672906
(24)【登録日】2020年3月9日
(45)【発行日】2020年3月25日
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフ用送液装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/32 20060101AFI20200316BHJP
   F04B 53/08 20060101ALI20200316BHJP
【FI】
   G01N30/32 C
   F04B53/08 B
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-44479(P2016-44479)
(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2017-161295(P2017-161295A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福川 一成
(72)【発明者】
【氏名】藤井 崇史
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−218488(JP,A)
【文献】 特開2015−034702(JP,A)
【文献】 特開昭60−008747(JP,A)
【文献】 特開2001−074721(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/178101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/32
F04B 53/08
F04B 49/00−51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路中に液体を収容するポンプ室を画成し、このポンプ室の流入口および流出口に流れ方向を制御する弁を設けたポンプヘッドと、
前記ポンプ室の容積を周期的に増減するためのプランジャー機構と、
前記ポンプヘッドの温度を調節するポンプヘッドの温調部と、
前記プランジャー機構の温度を調節するプランジャー機構の温調部と、
を備えたことを特徴とする、液体クロマトグラフに用いる送液装置。
【請求項2】
前記プランジャー機構の温調部において、温度を調節する対象は、プランジャーと、シリンダー部材と、モーターからの駆動力伝達部材とを含む請求項1の送液装置。
【請求項3】
前記ポンプヘッドの温調部と、前記プランジャー機構の温調部とを互いに独立に制御する請求項1または2に記載の送液装置。
【請求項4】
前記ポンプヘッドの温調部と、前記プランジャー機構の温調部とを関連付けて制御する請求項1または2に記載の送液装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフで用いられる送液装置に関する。特に、本発明は温調手段に特徴を有する送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフにおいて溶媒を送液する流量に変化が生じると、結果的に液体クロマトグラフにおける目的物のカラム通過速度にむらが生じるために、分析精度や再現性に影響を生じるため、高精度な分析をする際には、送液流量の変化が少ない、安定した送液装置が望まれてきた。モーターの回転駆動力をカムの回転運動に伝え、プランジャーの往復運動に変換するカム駆動式のプランジャーポンプは従来から広く用いられている。また近年は、カムを用いずボールねじやすべりネジをモーターで直接駆動させる、ストローク長が可変のプランジャーポンプも知られている。
【0003】
溶媒の送液流量は、プランジャーの径とストローク長から決まるストローク容量とプランジャーの往復速度とによって決定する。液体クロマトグラフに用いるポンプには、物理化学的特性の異なる様々な溶液を安定して送液するために溶液の種類に応じてプランジャーの往復速度やストローク長を補正するポンプ、圧力計で送液圧力を計測し、プランジャーの往復速度やストローク長にフィードバックをかけることで一定流量となるよう補正するポンプ、そして幅広い流量範囲での送液を実現するために設定流量毎に補正パラメータを要するポンプがある。更に送液安定性を高めるために、温度によって変化する溶媒の物理化学的特性(比重や粘度、圧縮率など)を一定にするべく、温調機能を有するポンプもある。温調箇所としては、溶媒やポンプの液体が通る部分(ポンプヘッド)に限定して温調するもの(特許文献1)や、ポンプユニット自体を温風循環式の恒温槽に入れてポンプ全体を温調するもの(特許文献2)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−218488号公報
【特許文献2】特開2001−074721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
環境温度が変動した際、ポンプのプランジャー駆動部品の温度も変化し、部品の熱膨張率に従って部品は膨張・収縮する。そのため、プランジャーのストローク容量が変化するので送液流量が変動する。前述のとおり、温度によって変化する溶媒の物理化学的特性を一定に保つためには温調機能を有するポンプがあるが、溶媒がポンプ内部で液漏れしたとき、流出した溶液や揮発した溶媒ガスが充満する部分を、保守性向上のために限定していた。更に経済性等を考慮するため、密閉された槽内にポンプに流入する溶媒の配管や予熱コイル、ポンプヘッド等、溶媒やポンプの溶媒が通る部分を限定して配置し、槽内を温調していた。そのため、プランジャー駆動部品の温度変動を抑える効果は低かった。また、ポンプユニット全体を恒温槽内に配置し温調をするポンプ(特許文献2)もあるが、槽内の熱容量が大きくなるため、ヒーターの容量を大きくする必要があり、大きな槽内で温度分布が小さくなるよう高精度な温調をしなければならないため、装置の大きさが大きくなり、経済性に課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、環境温度が変動した際の送液流量の変動を抑え、送液安定性を高めた、液体クロマトグラフに用いる送液装置を小型で安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の態様を包含する。
【0008】
本発明に係る、液体クロマトグラフに用いる送液装置は、
流路中に液体を収容するポンプ室を画成し、このポンプ室の流入口および流出口に流れ方向を制御する弁を設けたポンプヘッドと、
前記ポンプ室の容積を周期的に増減するためのプランジャー機構と、
前記ポンプヘッドの温度を調節するポンプヘッドの温調部と、
前記プランジャー機構の温度を調節するプランジャー機構の温調部と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記プランジャー機構の温調部において、温度を調節する対象は、プランジャーと、シリンダー部材と、モーターからの駆動力伝達部材とを含むように構成するのが好ましい。
【0010】
前記ポンプヘッドの温調部と、前記プランジャー機構の温調部とは互いに独立に制御してもよいし、あるいは前記ポンプヘッドの温調部と、前記プランジャー機構の温調部とを関連付けて制御することもできる。
【0011】
本発明においてプランジャー機構とは、プランジャーを動作させる駆動源であるモーターの動作をプランジャーに伝達するカムやボールねじ等の伝達部材、プランジャーの往復運動を支えるシリンダー、ベアリング、ばね等の摺動ガイド部材、およびポンプ室内を往復運動するプランジャーからなる群の一部または全体を表す。本発明の送液装置で用いるプランジャー機構の温調部の構成としては、たとえばプランジャー機構を構成する部材(シリンダー部材、プランジャーおよび駆動力伝達部材をすくなくとも含む。)を包囲する筐体に直接加熱・冷却する部材を貼り付け、さらに断熱材で覆う構成としてもよい。あるいはプランジャー機構を構成する部材を包囲し断熱する筐体を空気恒温槽として、ヒーターや温度センサーを筐体内部に設置する構成としてもよい。前者の場合、筐体はたとえばシリンダー部材と一体化した部材とすることもでき、こうすることにより装置サイズを小型にし、小さいヒーター容量で高精度にプランジャー機構を温調することができる。
【0012】
なお、本発明の各温調部で使用する温度センサーとしては、熱電対、サーミスタ、測温抵抗体等を用いることができる。また、加熱・冷却部材としては、セラミックヒーター、電熱線、抵抗器、トランジスター、ペルチェ素子、エア・コンディショナー等を用いることができる。
【0013】
一方、本発明の送液装置で用いるポンプヘッドの温調部の構成としては、ポンプヘッド、流入配管、流出配管に加えて予熱コイル等を直接もしくは間接的に加温・冷却する部材を配設することができる。実際は、これらの部材を包囲し断熱する筐体を空気恒温槽としてヒーターや温度センサー、ファンを筐体内部に設置する構成とするのが好適である。この空気恒温槽に開閉扉を設けておけば、プランジャーシールの交換や配管の締め直し等の保守作業の操作性を向上させることができる。
【0014】
本発明の送液装置は、往復運動するプランジャー機構とポンプヘッドを備えているが、流量変動を抑えるために2組のプランジャー/ポンプヘッドを並列あるいは直列に接続したダブルプランジャーポンプとしてもよい。また、本発明の送液装置をクロマトグラフ分析に使用する場合、検出器の測定対象試料側と参照試料側に溶液を同時に送液するため、上記のダブルプランジャーポンプを2台設置することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る、液体クロマトグラフに用いる送液装置は、ポンプヘッドの温調部に加えてプランジャー機構の温調部を設けたので、環境温度によるプランジャー駆動部品の熱膨張・熱収縮を低減することができる。その結果、環境温度によるクロマトグラフ分析の結果への影響を抑制することができる。
【0016】
プランジャー機構の温度を調節する対象を、送液速度に直接関わるプランジャーと、シリンダー部材と、モーターからの駆動力伝達部材とを含むように構成することにより、温調対象をコンパクトにして熱容量を抑制し、熱交換の効率を高めるとともに保温材・断熱材の使用を節約することができる。
【0017】
ポンプヘッドの温調部と、プランジャー機構の温調部とを互いに独立に制御可能とすることにより、双方の温調部の部品構成や筐体の構造、断熱性能、熱容量の違い等により、双方の温調部に最適な温度制御方法を選択することが可能になる。
【0018】
あるいは、ポンプヘッドの温調部と、プランジャー機構の温調部とを関連付けて制御することにより、互いの温調部に対する温度的な干渉を抑制すること、目標温度を連動して設定すること等が可能になる。たとえば、プランジャー機構の温調部と、ポンプヘッドの温調部の温調温度は連動して設定され、各温調部に温度的な干渉を及ぼさないようプランジャー機構とポンプヘッドの温度が同じになることが望ましい。ほとんどの場合は、プランジャー機構の温調部とポンプヘッドの温調部の温調温度を同じ温度に設定すれば、プランジャー機構とポンプヘッドの温度が同じになるが、ポンプを設置する装置の筐体の構造、各温調部の断熱性能や熱容量の違いによっては、一方の温調部の設定温度を、もう一方の温調部の設定温度からオフセットさせて、プランジャー機構と溶媒の温度を同一にする方法もある。温調温度を連動させるもう一つの利点としては、装置の使用者が意図せずとも、ポンプの温調を設定すれば、自動的にプランジャー機構とポンプヘッドの二つの温調部の設定がなされ、温調機能の一方の設定忘れや、異なる温調温度へ設定する等の人為的なミスを減らすことが可能となる。
【0019】
前述のように本発明においては、ポンプヘッドの温調部と、プランジャー機構の温調部とは温度的に隔離可能となっていると同時に別体の構成物となっている。このためポンプヘッド付近から揮発性溶媒が漏れたときに揮発ガスをモーターポンプヘッドの筐体に留めておくことができる。本発明は、おもに有機溶媒を移動相とし、高い再現性が求められるサイズ排除クロマトグラフィーのような液体クロマトグラフィーにとくに好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】従来の送液装置の一例を示す断面図である。
図2】本発明による送液装置の一例を示す断面図である。
図3】本発明の送液装置と、その送液装置においてプランジャー機構の温調部の温調機能を働かせなかった場合の、室温変動に対する溶出時間の変動を示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
従来の液体クロマトグラフに用いる送液装置の断面図を図1に示す。ポンプヘッドの温調部16には、ポンプ室5を画成しプランジャーシール3を設け、流入口および流出口に流れ方向を制御するチェック弁6を設けたポンプヘッド4と、ポンプ流入配管17と、予熱コイル18とを収容した筐体19が配設される。ポンプヘッドの筐体19は、断熱材14で覆われ、不図示のヒーター、温度センサーおよびファンにより内部が温調されているが、モーター11とプランジャー機構を構成するシリンダー部材2(プランジャー機構の筐体を兼ねる)、プランジャー1、プランジャーを支えるシャフト9、ばね20、およびモーターの回転運動をプランジャー/シャフトの往復運動に変換するカム10は温調されていない。送液流量は、プランジャー径7とプランジャーストローク8で決まるプランジャー容量と、プランジャーを往復運動させる速度とによって決定される。
【0022】
本発明による送液装置の一例を図2の断面図に示す。プランジャー機構を構成するプランジャー1、シャフト9およびカム10を含むシリンダー部材2には温度センサー12、ヒーター13および断熱材14が設けられる。温調部を破線15で示す。プランジャー1に直結したシャフト9が往復運動可能な状態で設置され、モーター11によって回転したカム10の曲面に沿ってシャフト9が往復運動することによりプランジャー1を往復させる。なお、モーター11は、回転中は発熱するため温調部には含ませない。断熱材14で覆わないで放熱させることが望ましい。
【0023】
プランジャー機構の温度が変化した際、プランジャー機構を構成する部品であるカム10、シャフト9等の寸法が材料の熱膨張率に従って変化する。すると、シャフト9、カム10によって往復運動していた往復距離が変化することによって、送液流量が変化する。本発明は、環境温度が変動した際にも、プランジャー機構の温調部15によってプランジャー機構は一定温度に保たれるため、プランジャー機構の構成部材の温度変化に起因する送液流量の変化を抑えることが可能となる。
【0024】
図2におけるポンプヘッドの温調部16の構成は、実質的に図1のそれと同様である。プランジャー機構の温調部とポンプヘッドの温調部は、本実施例においては設定温度を連動させて同一とし、両者の測定温度は等しくなる。
【実施例】
【0025】
本発明の送液装置において、ポンプヘッドの温調部とプランジャー機構の温調部とを両方作動させた場合と、ポンプヘッドの温調部のみ作動させた場合とで、ポンプヘッドの流出口から流出させた溶媒を液体クロマトグラフ装置に導入したときの、クロマトピークの溶出時間の変動の比較結果を図3に示す。プランジャー機構の温調を作動させなかった後者の場合においては、室温が1℃変動することにより溶出時間が0.0080分変動している。一方、本発明の送液装置においてポンプヘッドの温調部とプランジャー機構の温調部とを両方作動させた場合では、室温が1℃変動した際の溶出時間の変動が0.0022分に抑えられており、室温変動による溶出時間(送液流量)の変動を約27.5%程度まで抑えることが可能となった。
【0026】
クロマト分析の測定条件は下記のとおり:
カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ−M×2
溶媒:THF
流量:0.35mL/min
温調温度:溶媒温調部、プランジャー駆動部温調部、カラムオーブン、RI検出器すべて40℃
サンプル:標準ポリスチレンF1 0.2mg/mL 10μL注入
【符号の説明】
【0027】
1 プランジャー
2 シリンダー部材(プランジャー機構の筐体を兼ねる)
3 プランジャーシール
4 ポンプヘッド
5 ポンプ室
6 チェック弁
7 プランジャー径
8 プランジャーストローク
9 シャフト
10 カム
11 モーター
12 温度センサー
13 ヒーター
14 断熱材
15 プランジャー機構の温調部(破線)
16 ポンプヘッド部の温調部
17 ポンプ流入配管
18 予熱コイル
19 ポンプヘッドの筐体
20 ばね
図1
図2
図3