(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Al/Mg比が1.97〜2.03であるMg−Alスピネル粉末又はMg酸化物とAl酸化物の混合粉末からなるスピネル焼結体であって、Al及びMgを除く金属不純物の合計含有量が100ppm未満であり、C、N、F、S及びPの合計含有量が100ppm未満であり、厚さ3mmの試料の厚み方向における190nmから400nmまでの波長範囲の全光線透過率が80%以上である透明スピネル焼結体。
上記紫外線発光素子は、波長315〜400nmのUV−A領域、波長280〜315nmのUV−B領域、波長100〜280nmのUV−C領域の少なくともいずれかの波長領域の光を発する紫外線発光ダイオード素子である請求項5記載の光学部材。
上記透過させる光の出射面が球面若しくは非球面のレンズ形状、球面若しくは非球面のレンズがアレイ状に配置されたアレイ構造、又は微細凹凸若しくは微細ピラミッドからなるテクスチャ構造を有する請求項5〜7のいずれか1項記載の光学部材。
出発原料がMg−Alスピネル粉末のときの焼成温度が700〜950℃であり、Mg酸化物とAl酸化物との混合粉末のときの焼成温度が800〜1100℃である請求項9記載の透明スピネル焼結体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
UV光源は、樹脂硬化、接着、化学物質の分解、治療、殺菌、検査等の様々な分野での利用が進んでおり、最近はLED(light emitting diode)タイプの光源も登場し、その普及促進がさらに進むものと期待されている。
ただし、こと殺菌となると、細菌細胞のDNA鎖を破壊するためには波長250〜280nmの紫外光(紫外線波長の光、UV光)、いわゆるUV−Cと呼ばれる紫外線を照射する必要があり、従来の青色LED用光学部材では紫外線耐性が弱く利用できない問題があった。
【0003】
そこでUV−LED用光学部材として紫外線耐性を持つUV光透過媒体の提案が幾つか出されている。
例えば、特開2016−6832号公報(特許文献1)には、熱可塑性のパーフルオロ樹脂を用いて形成され、一方の表面にレンズ形状を有し、他方の表面に前記レンズ形状と対をなす凹形状を有し、前記凹形状は、表面開口部から内側に行くに従い開口面積が小さくなる形状である光学素子が開示され、また、基板と、基板に接合された発光素子と、基板に接合された発光素子を封止する封止層と、封止層の上に積層され、一方の表面にレンズ形状を有する光学素子とを備え、封止層及び光学素子は、熱可塑性のパーフルオロ樹脂を用いて形成されており、少なくともレンズ形状が形成されている領域において、光学素子の他方の表面と封止層とが密着しているUV−LED素子のパッケージ方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、一般にパーフルオロ樹脂は半導体素子や金属電極、セラミック基板などと直接接合することが困難であり、使用中に簡単に剥離してしまうという問題があった。
【0005】
また、特開2016−49519号公報(特許文献2)には、水性流体からなる被殺菌流体に殺菌作用を有する紫外線を照射して該被殺菌流体の殺菌を行う紫外線殺菌装置が開示されており、その本文中で、紫外線を透過する窓材として、サファイア、天然または合成石英、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ガラスなどの無機材料、PFA、FEP、ETFE、PCTFE等のフッ素系樹脂が開示されている。
【0006】
しかしながら、単結晶サファイアは硬すぎるためにレンズ形状などの形状加工が困難であるという問題があり、石英ガラスの場合は熱伝導率が1W/m・Kしかないため放熱が不十分で素子が劣化してしまうという問題があり、フッ化カルシウムの場合は安定供給が困難で望遠鏡レンズなどの少量特殊用途にしか対応できないという問題があり、フッ化マグネシウムは複屈折性があるため配光設計が困難であるという問題があり、普通のガラスではUV領域の光を吸収してしまうため透過性、長期安定性が劣るという問題があり、その普及を妨げていた。
【0007】
ところで、透光性材料の1つとして従来よりスピネル材料が知られている。例えば、単結晶スピネルは結晶品質の良好なものであれば紫外線を透過することができ、UV−LED用窓材としての応用が期待できる。しかしながら、実際には単結晶スピネルの育成は困難であり1.5インチ程度のインゴットしか引き上げられず、しかも引き上げたインゴットのうちの多くの領域には脈理などの欠陥がはいって、UV透過用部材として大量に提供することは難しかった。
【0008】
そこで多結晶焼結体タイプのスピネル材料も開発されてきた。例えば、特許第5435397号公報(特許文献3)には、スピネル焼結体(MgO・nAl
2O
3)からなる光透過用窓材であって、前記光透過用窓材中に含有される気孔の最大径が100μm以下であり、かつ最大径10μm以上の気孔数が前記光透過用窓材の1cm
3あたり2.0個以下であることを特徴とするスピネル製光透過用窓材が開示されており、光の散乱因子が低減され、機械的強度にも優れるとしている。
しかしながら、当該特許文献の本文中には可視光から中赤外域までの光に対する透過率が高いと言及されているのみで、UV領域での透過率については言及がない。また、当該特許文献の明細書中では、スピネル焼結体を形成するスピネルとして分子式MgO・nAl
2O
3で示される化合物であって、nの値が1.05〜1.30が好ましいとしている。
【0009】
また、特許第4830911号公報(特許文献4)には、透明性とその安定性に優れたスピネル焼結体として、組成が、MgO・nAl
2O
3(1.05≦n≦1.30)であり、Si元素の含有量が3ppm以上20ppm以下であるスピネル焼結体が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献3,4の焼結体ではAl/Mg比が2.1〜2.6とMgOに対してAl
2O
3の割合が多い状態にある。Al−Mgスピネル焼結体では、このようにMgOに対してAl
2O
3の割合が多くなるほど焼結性は良好となり透明化しやすくなるが、その反面、不定比欠陥(積層欠陥のようなもの)が徐々に増大し、焼結体全体の透過率が徐々に悪化する傾向にある。特に、波長200nm以下の紫外線領域での透過率の低下が激しく、UV−C領域での利用が困難となる問題があった。
【0011】
また、特開2015−61813号公報(特許文献5)には、式AxCuByDvEzFwのクリスタリットを有するオプトセラミックスであって、A及びCは、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、Sc
3+、Zn
2+、Cd
2+、Hf
4+、及びその混合物からなる群から選択され、B及びDは、Mg
2+、Al
3+、Ga
3+、In
3+、Sc
3+、Zn
2+、Y
3+、Nb
3+、Ru
3+、Rh
3+、La
3+、Gd
3+及びその混合物からなる群から選択され、E及びFは、S、Se及びOの二価のアニオン並びにその混合物からなる群から主に選択され、x、u、y、v、zかつwは、下記式
0.125<(x+u)/(y+v)≦0.55
z+w=4
を満たし、
A=C=Mg
2+かつB=D=Al
3+のとき、E及びFがともにOであることはできないという条件で、前記クリスタリットの少なくとも95重量%は、スピネルタイプの対称な立方晶結晶構造を示し、380〜800nmの波長を有する可視光の領域で少なくとも200nmの幅を有する窓において、2mmの試料厚みで、95%を超える直線透過率を有している、オプトセラミックが開示されており、高い屈折率、高いアッベ数及び/又は優れた比相対部分分散ならびに低い応力誘導複屈折を有する材料を提供できるとしている。
【0012】
しかしながら、当該特許文献では可視光スペクトル領域(380〜800nm)及び最大5000nmの近IR〜遠赤外線スペクトル領域において高い透過性を有するスピネルタイプのオプトセラミックについての言及しかなく、UV領域での透過率については言及がない。
【0013】
そのような状況の中、最近では、特許第5563766号公報(特許文献6)において、透明スピネルセラミックスであって、(1)結晶構造が実質的にスピネル立方晶からなり、(2)平均結晶粒サイズが5〜250μmの範囲にあり、(3)厚さ10mmの試料の厚み方向において、波長600nm及び3200nmでの光透過のベースラインにおける直線透過率が70%以上であり、(4)セラミックス全体のAl/Mg原子比が2.3〜1.95の範囲にあり、(5)MgF
2及びAlF
3から選択された1種以上を0.1〜1.5重量%含み、(6)MgF
2及びAlF
3を含み、かつ、MgF
2/AlF
3の重量比が0.2〜5.0の範囲である、ことを特徴とする透明スピネルセラミックスが開示され、200nmの紫外線領域でも厚さ10mmの試料でも50%以上の光透過性を実現できることが示された。
【0014】
当該特許文献では、透明スピネルセラミックスを用い、かつ200nmでの紫外線領域でも光透過性がある程度あり、UV透過用部材としての期待を持たせる公知例が示されている。しかしながら、当該材料を仔細に吟味してみると一点大きな問題をはらんでいることがわかる。即ち、MgF
2及びAlF
3の0.1重量%以上の添加である。特に200nmでの紫外線領域での光透過性が良好な実施例においては、MgF
2及びAlF
3の添加量が各々0.3重量%(3000ppm)と非常に多量であることが確認できる。
【0015】
一般に、MgF
2及びAlF
3は紫外線領域から赤外線領域まで広い範囲にわたって吸収のない材料であることが知られている。ただし、これらはいずれも立方晶以外の結晶構造(MgF
2が正方晶、AlF
3が三斜晶)を有しており、複屈折の存在、直線透過率の大幅低下、酸化物焼結体中に異相として混在した場合の大幅な強度低下、といった様々な欠点を示す材料でもある。当該特許文献本文中を確認すると、MgF
2及びAlF
3のスピネル原料への添加の目的は、散乱源となる残量気孔を激減することであると開示されている。しかしながら、残量気孔が低減するかわりに、様々な欠点をかかえる異相(MgF
2及びAlF
3)を多量に添加するのでは、工業的に活用できるUV透過用部材には達することができない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[透明スピネル焼結体]
以下、本発明に係る透明スピネル焼結体について説明する。
本発明に係る透明スピネル焼結体は、Al/Mg比(原子比。以下同じ。)が1.97〜2.03であるMg−Alスピネル粉末又はMg酸化物とAl酸化物の混合粉末からなるスピネル焼結体であって、Al/Mg比が1.97〜2.03のMg−Alスピネル型複合酸化物からなる多数の焼結粒から構成された多結晶焼結体である。また、このMg−Alスピネル焼結体は、Al及びMgを除く金属不純物の合計含有量が100ppm未満であり、紫外光を透過し、厚さ3mmの試料の厚み方向において190nmから400nmまでの波長範囲の全光線透過率が80%以上であることを特徴とする。なお、数値範囲を「A〜B」で表示する場合、A以上B以下の意であり、その両端の数値を含むものとする。また、ここでいうppmは、重量ppm(wt ppm)である。
【0022】
このとき、Mg−Alスピネル焼結体の原子比Al/Mgは化学量論係数に対応した2.00であること(MgAl
2O
4であること)が最も好ましい。この比率からずれた非化学量論組成スピネルになるとその比率ズレの大きさに比例した点欠陥が入ってしまうおそれがある。そこで、本発明では、Al/Mg比を1.97以上2.03以下としたMg−Alスピネル粉末又はMg酸化物とAl酸化物の混合粉末を用いる。Al/Mg比がこの範囲内であれば、ほとんど不定比欠陥吸収が生じず、紫外光に対して高い透過性を有するものとなる。
【0023】
焼結体のAl/Mg比が1.97から2.03の範囲内にあると、その構造はMgAl
2O
4型スピネル立方晶を主相とするものとなり、好ましくはスピネル立方晶からなるものとなる。なお、主相とするとは、結晶構造としてスピネル立方晶が全体の90体積%以上、好ましくは95体積%以上、より好ましくは99体積%以上、更に好ましくは99.9体積%以上、特に好ましくは100体積%を占めることをいう。結晶構造が立方晶であると、複屈折による散乱の影響がなくなり、特にUV波長域での全光線透過率が向上するため好ましい。
【0024】
なお、本発明における透明スピネル焼結体を製造するにあたっては、Al/Mg比=2.00を狙って秤量・作製された出発原料を利用することが好ましい。この場合、予めAl/Mg比=2.00を狙って仮焼されたスピネル原料粉末(MgAl
2O
4粉末)を利用してもよいし、Al/Mg比=2.00となるように各々秤量されたAl酸化物粉末(Al
2O
3粉末)とMg酸化物粉末(MgO粉末)の混合原料を仮焼・混合処理して準備した混合原料を利用してもよい。
【0025】
ただし、UV領域の光を吸収させないために、MgAl
2O
4粉末原料を利用する場合であっても、Al
2O
3粉末とMgO粉末の混合原料を利用する場合であっても、その純度は99.99質量%(4N)以上であることが必要不可欠である。即ち、本発明の透明スピネル焼結体は、純度4N以上の原料を焼結して得られる立方晶MgAl
2O
4スピネルを主成分とする焼結体から構成される。
【0026】
ここで、原料純度が4N以上の出発原料を利用し、それ以外に他の金属成分を含む原料(焼結助剤等)を添加しないことにより、焼結体におけるMgとAl以外の金属不純物の合計濃度(合計含有量)、特にLi不純物濃度を100ppm未満に管理することができる。言い換えれば、純度4Nの残部となるレベル以下の範囲でその他の元素を含有していてもよい。その他の元素は大抵の場合、製造工程の途中で不可抗力的に混入してくる不純物元素が挙げられ、様々な不純物群として、カルシウム(Ca)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(Ta)、モリブデン(Mo)等が典型的に例示できる。
【0027】
その他の元素の含有量は、MgAl
2O
4の全量を100質量部としたとき、その他の元素の酸化物質量部換算で0.01質量部以下であることが好ましく、0.001質量部以下(実質的にゼロ)であることが特に好ましい。
【0028】
また、焼結体におけるC、N、F、S及びPの合計含有量が100ppm未満であることが好ましい。C、Nはバインダー等の有機添加剤に含まれる場合が多い。そのため本発明においては、成形後に必ず大気又は酸素雰囲気中、800℃以上で脱脂処理し、完全にC、Nを分解除去させることが好ましい。S、Pはある種の有機分散剤等に含まれる場合がある。そのため本発明においては、S又はP、あるいはその両方を含有した有機添加剤を一切使用しないことが好ましい。Fは幾つかのフッ化物系焼結助剤(LiF、NaF、KF等)の成分元素として含まれる。そのため本発明においては、フッ化物系焼結助剤を一切添加しないことが好ましい。
【0029】
以上の構成とすることにより、厚さ3mmの試料の厚み方向においてUV−C領域を含む190nmから400nmまでの全波長範囲において吸収がなく、全光線透過率が80%以上ある、UV透過性の透明スピネル焼結体とすることができる。なお、「190nmから400nmまでの全波長範囲において全光線透過率が80%以上ある」とは、その波長範囲におけるいずれの波長においても全光線透過率が80%以上となっていることをいう。また、本発明の透明スピネル焼結体をUV−LED用のUV光透過部材として利用でき、あらゆる応用部材として十分なUV光透過部材となる。
【0030】
本発明の透明スピネル焼結体によれば、波長190nm以上400nm以下の紫外線全波長範囲で吸収がなく、厚さ3mmの試料の厚み方向においてその範囲における全光線透過率が80%以上あり、紫外線耐性の高い無機酸化物接着剤でUV素子と直接接着することもでき、複屈折成分を有する異相の存在もなく、熱伝導率も10W/m・Kを超えた、波長190〜400nmにおける屈折率が1.7以上2.0以下の範囲にある、工業的に活用可能なハイレベルのUV−LED用のUV透過部材を提供できる。
【0031】
以上のような本発明の透明スピネル焼結体を用いれば、該透明スピネル焼結体からなり、波長400nm以下の光を発する紫外線発光素子の出射光側に配置されて該紫外線発光素子からの光を透過させる媒体となる光学部材が得られる。
【0032】
ここで、上記紫外線発光素子は、波長315〜400nmのUV−A領域、波長280〜315nmのUV−B領域、波長100〜280nmのUV−C領域の少なくともいずれかの波長領域の光を発する紫外線発光ダイオード素子であることが好ましい。
【0033】
また、本発明の透明スピネル焼結体は一般的な酸化物であるため、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、CaO、MgO、PbO等の多くの無機酸化物との接着性が良好である。例えば、本発明の透明スピネル焼結体からなる光学部材を、紫外線発光素子(UV−LED素子)の基板であるサファイアやAlNと、これら無機酸化物接着剤で直接貼り合わせて配置することが可能である。このとき、無機酸化物接着剤をある程度の厚みを有するものとすると紫外線発光素子の封止層とすることができる。
【0034】
また、本発明の透明スピネル焼結体は、単結晶と異なり成形体を焼結して得られる透明体であるため、予め種々の形状の成形体を作製することにより、様々な最終形態のUV透過用光学部材を提供することに適している。もちろんこのようにニアネットシェイプ焼結も可能であるが、焼結体を後から加工して所望の形状に仕上げることもできる。
【0035】
該光学部材を上記のように紫外線発光素子の出射光側に配置した場合、上記透過させた光の出射面が球面若しくは非球面のレンズ形状、球面若しくは非球面のレンズがアレイ状に配置されたアレイ構造、又は微細凹凸若しくは微細ピラミッドからなるテクスチャ構造、その他多様なフォトニック形状の少なくともいずれか1つを有するようにするとよい。
【0036】
また、本発明の透明スピネル焼結体を、UV光を照射することを機能の一部として利用した応用製品の中で、UV光を透過させつつ構造材としても利用される部材、窓材、支持材、ガイド部品、集光部材、流路部品、基板などに利用するようにしてもよい。
【0037】
[透明スピネル焼結体の製造方法]
本発明の透明スピネル焼結体の製造方法について更に詳述する。本発明の透明スピネル焼結体の製造方法は、いわゆるセラミックス製造法である。
【0038】
[原料粉末]
本発明で用いる原料粉末は、所定の主成分の出発原料に所定の処理を施したものである。出発原料として、スピネル(MgAl
2O
4)(即ち、Mg−Alスピネル粉末)、又はアルミナ(即ち、Al酸化物(Al
2O
3))及びマグネシア(即ち、Mg酸化物(MgO))の等モルからなる酸化物粉末、ないしはこれらの前駆体に当たるアルコキシド、あるいはカーボンディオキシド等を好適に利用できる。上記のうち、特に酸化物粉末は安定で安全なため取扱いが容易となるため好ましい。なお、これら原料の純度は99.99質量%(4N)以上が必要である。
【0039】
また、上記出発原料の粉末形状については特に限定されず、例えば角状、球状、板状の粉末が好適に利用できる。また、二次凝集(アグロミレート)している粉末であっても好適に利用できるし、スプレードライ処理等の造粒処理によって造粒された顆粒状粉末であっても好適に利用できる。更に、これらの出発原料の調製方法については特に限定されないが、共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、その他あらゆる合成方法で作製された粉末が好適に利用できる。この中で、アルミニウムとマグネシウムの各塩と炭酸水素アンモニウムを反応させて沈殿させる共沈法で調整された水酸化物を、さらに焼成酸化して得られるスピネル微粉末を出発原料として用いることが最も好ましい。また、得られた出発原料の粉末を適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミルや乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。
【0040】
また、前述したように、Al/Mg比が1.97〜2.03となったMg−Alスピネル粉末を用いるか、Al/Mg比が1.97〜2.03となるように、Mg酸化物とAl酸化物の粉末を秤量して用いる。このとき、Al/Mg比=2.00を狙って秤量するとよい。
【0041】
なお、これらの出発原料をMg−Alスピネル(MgAl
2O
4)粉末であれば秤量して分散処理した後、Al酸化物(Al
2O
3)粉末とMg酸化物(MgO)粉末との組み合わせであれば秤量後に混合した後、るつぼ内で焼成(仮焼)して焼成(仮焼)原料を作製するとよい。この処理を焼成処理という(仮焼処理ともいう)。その後、該焼成原料を粉砕して原料粉末とする。このときの焼成温度は、MgAl
2O
4粉末であれば700〜950℃が好ましく、Al
2O
3粉末とMgO粉末の等モル混合原料であれば800〜1100℃が好ましい。
【0042】
本発明で用いる原料粉末中には、製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本発明においては、脱脂工程において完全に燃焼、及び/又は分解除去可能なC、O、H、N成分のみからなる有機高分子添加剤についてのみ加えることができる。前記条件に合致する限りにおいて、各種の分散剤、消泡剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。
【0043】
なお、原料粉末には、金属フッ化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭化物、金属リン酸化合物等の一切の無機物からなる焼結助剤を添加しないことが好ましい。これら焼結助剤を一切添加しないことにより、製造工程の途中で不可抗力的に混入してくる不純物元素を考慮しても、酸化物以外の異相の析出を出発原料の純度4Nの残部となるレベル以下の範囲、即ち100ppm未満に管理することができ、波長190nm以上の紫外線波長の全範囲で複屈折や散乱の原因となる異相の析出を防止できる。即ち、焼結体におけるMgとAl以外の金属(不純物金属)の合計含有量が100ppm未満であり、かつ、C、N、F、S及びPの合計含有量が100ppm未満であることが好ましい。
【0044】
ただし、一般に焼結助剤を何ら添加せずに多結晶焼結体を透明化することは困難である。本発明の場合、この問題を解決するために、以下のように出発原料の仕様を規定し、更にこの出発原料に所定の処理を施して、本発明の透明スピネル焼結体の製造に供する原料粉末を調製する。
【0045】
(原料粉末の調製)
まず、所定の出発原料を用意する。ここでは、粒径500nm以上、好ましくは400nm以上の粗い1次粒子、並びに同サイズ以上の硬い凝集粒子(アグリゲイト粒子)が混在していない粉末であって、BET法による比表面積(BET比表面積)の値が10m
2/g以上25m
2/g以下の範囲にあり、かつ、20nm未満の細かい1次粒子も極力取り除いた状態及び/又は20nm未満の細かい1次粒子の混入(その粒径の粒子が発生することを含む)が抑制された状態で調製された粉末状の原料を出発原料とするとよい。このような出発原料の粉末として、BET比表面積の値が10m
2/g以上25m
2/g以下の範囲にあり、かつ、典型的には1次粒子の平均粒径(平均一次粒径)が100nm前後であるもの、例えば平均一次粒径が80〜200nm、好ましくは80〜150nm、より好ましくは90〜120nmの粉末原料を準備するとよい。なお、平均粒径は、例えば、レーザー光回折法による重量平均値(又はメジアン径)や、SEM観察によるライン測長平均値として求めることができる。この中で、レーザー光回折法による重量平均値を平均粒径とすることが特に好ましい。
これは出発原料として、MgAl
2O
4粉末原料を利用する場合であっても、Al
2O
3粉末とMgO粉末の混合原料を利用する場合であっても同様である。なお、Al
2O
3粉末とMgO粉末を分散、混合して混合原料を調製する場合には、20nm未満の微粉末が発生しないようにボールミル装置における分散・混合処理条件に留意する。
【0046】
次に、焼結助剤を何ら添加せずに多結晶焼結体を透明化するための、更に別の重要な条件として、出発原料について少なくとも1回以上の焼成処理を施す。一般に購入した出発原料は、保存中の湿気等による強固な凝集の進行が見られ、そのまま成形工程に流した場合、成形後焼結前のグリーン体内部での粗密のむらが大きくなり、クレバス状失透やクラスター状気泡塊の発生が顕著になる。そのため、今回の原料のような酸化物粉末であれば、酸素含有雰囲気(例えば、酸素、空気、不活性ガスと酸素の混合ガス)中で少なくとも一度以上の焼成処理を施し、脱水と、1次粒子、並びにネッキング複合粒子の表面積を小さくすることと、各々の粒子の結晶性を向上させることとを済ませておくことが必要である。
【0047】
ただし、その焼成温度についての固定解はなく(即ち、予め決まった温度があるわけではなく)、焼成処理前後のSEM写真やBET法による比表面積(BET比表面積)の値を検討しながら適宜調整する必要がある。このとき、焼成温度は、出発原料の粉末について、脱水し、1次粒子やネッキング複合粒子の表面積を小さくし、各々の粒子の結晶性を向上させるために必要な温度以上であると共に、粒径500nm以上の粗い成長粒子や凝集合粒子(アグリゲイト粒子)が発生しないようにその発生温度未満とする。
【0048】
一般的に、MgAl
2O
4粉末のように最終組成と同じ出発原料を焼成する場合にはその温度は比較的低めの範囲がよく、Al
2O
3粉末とMgO粉末の混合原料のように、焼結によって反応して最終組成が生成される場合には、焼成温度を比較的にやや高めに設定することが好ましい。
【0049】
具体的には、前述の粒径とBET比表面積の範囲に管理されたMgAl
2O
4粉末であれば、その焼成温度は700〜950℃が好ましく、同様の範囲に管理されたAl
2O
3粉末とMgO粉末の混合原料の焼成温度は800〜1100℃が好ましい。
【0050】
焼成処理の後、この処理粒子(焼成処理済みの出発原料粉末)についてボールミル装置などにより再度湿式、ないしは乾式で粉砕処理して、強固なアグリゲイト凝集の無くなった、壊砕性の良好な原料粉末を確保する。このとき、過粉砕による粒径20nm未満の微粉末の発生を抑制するように、粉砕処理条件(ボールミル装置におけるビーズ径、投入する粉末総量、処理時間等)を設定するとよい。
【0051】
以上の処理により、BET比表面積が10〜14m
2/gまで低下し、粒径500nm以上の粗い1次粒子、並びに同サイズ以上の硬い凝集粒子(アグリゲイト粒子)が混在せず、20nm未満の細かい1次粒子の混入が抑制された原料粉末が得られる。なお、必要に応じてこの粉末についてスプレードライ処理して顆粒状の原料としてもよい。
【0052】
[製造工程]
本発明では、上記原料粉末を用いて、所定形状にプレス成形した後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が最低でも95%以上に緻密化した焼結体を作製する。その後工程として熱間等方圧プレス(HIP)処理を行うことが好ましい。
【0053】
(成形)
本発明の製造方法においては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、原料粉末を型に充填して一定方向から加圧するプレス工程や変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧するCIP(Cold Isostatic Pressing)工程が利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。更に、プレス成形法ではなく、鋳込み成形法による成形体の作製も可能である。加圧鋳込み成形や遠心鋳込み成形、押出し成形等の成形法も、出発原料である酸化物粉末の形状やサイズと各種の有機添加剤との組合せを最適化することで、採用可能である。
【0054】
(脱脂)
本発明の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。即ち、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、この時の雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、酸素と混合した不活性ガス等が好適に利用できる。ただし成形体が酸化物であるため、酸素雰囲気が特に好ましい。
【0055】
(焼結)
本発明の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。この時の雰囲気は特に制限されないが、不活性ガス、酸素、水素、真空等が好適に利用できる。ただし、焼結体が酸化物であるため、酸素雰囲気が特に好ましい。
【0056】
本発明の焼結工程における焼結温度は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には選択された出発原料を用いて焼結させた場合に、最も緻密化が進む温度、及びそれより数10℃高い温度を確認し、その温度で保持して焼結すると、緻密化が促進するため好ましい。本発明の透明スピネル焼結体の場合には、焼結温度は1350℃から1550℃の範囲にあることが好ましい。
【0057】
一般的に焼結保持時間は、選択される出発原料により適宜調整される。数時間程度で十分な場合が多いが、数10時間保持することも好適に採用できる。また焼結工程後の焼結体の相対密度は最低でも95%以上に緻密化されていなければならない。
【0058】
ここで、本発明の透明スピネル焼結体をUV−LED用のUV光透過部材として利用するためには、UV−C領域を含む190nmから400nmまでの全波長範囲において、厚み3mm厚での全光線透過率が80%以上あることが求められる。焼結体でこのレベルの透明体を作製するためには、焼結体を更にHIP処理することが好ましい。そうすることにより焼結体内部の残留気泡量を0.2体積%以下に低減でき、その副次的効果として、熱伝導率も10W/m・K超、好ましくは14W/m・K以上の確保が可能となる。
【0059】
なお、残留気泡量が0.2体積%以下の範囲で、故意に残留気泡を残しておき、そのサイズや分布を制御できると、UV領域の波長の光を吸収することなく適度に散乱させることができるため、一部の応用製品用部材としては却って好ましい。
【0060】
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明の製造方法においては、焼結工程を経た後に更に追加で熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Pressing))処理を行う工程を設けることができる。
【0061】
なお、このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr−O
2が好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50〜300MPaが好ましく、100〜300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透明性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透明性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0062】
また、その際の処理温度(所定保持温度)はスピネルの焼結状態により適宜設定すればよく、例えば1350〜1900℃、好ましくは1400〜1650℃の範囲で設定される。熱処理温度が1900℃を超えて2300℃以下であれば、HIP処理は可能であるが、処理前の焼結体の密度を適宜管理しておかないと、粒成長暴走が起こるため管理が難しくなる。また、装置のヒーター材や断熱材を劣化させるリスクも高まるため、あまり好ましくはない。
【0063】
なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、又はタングステン(W)が好適に利用できる。
【0064】
(アニール)
本発明の製造方法においては、HIP処理を終えた後に、得られた透明スピネル焼結体中に酸素欠損が生じてしまい、薄灰色の外観を呈する場合がある。この場合には、前記HIP処理温度以下(例えば、800〜1500℃)でアニール処理を施すことが好ましい。
アニール処理の雰囲気ガス、並びに圧力は求める組成により適宜調整することが好ましい。真空、Ar、H
2、N
2、又はO
2、並びにそれらの加圧環境(真空の場合には減圧環境)が好適に選択できる。
【0065】
(加工)
本発明の製造方法においては、上記一連の工程によって得られた透明スピネル焼結体を適宜所望の形状、サイズ、厚みに加工することにより、利用が想定されるUV−LED用窓材、支持材、ガイド部品、集光部材、流路部品、基板などに利用することができる。
【0066】
以上の工程により、UV光を照射することを機能の一部として利用した応用製品に利用される、本発明のUV光透過性の透明スピネル焼結体が得られる。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
本発明の透明スピネル焼結体のうち、出発原料がMgAl
2O
4粉末である場合について取り上げる。
出発原料として、大明化学工業(株)製のスピネル粉末を入手した。純度は99.99質量%以上であった(4N−MgAl
2O
4と表記する)。なお、このスピネル粉末のBET法による比表面積は、19m
2/gであった。また、平均一次粒径(レーザー光回折法による重量平均値)は、100nmであり、粒径400nm以上の粗い1次粒子は、製造元からの出荷時に壊砕処理されており、含まれない。更に製造元出荷時に20nm未満の細かい1次粒子はほぼ混入していない。
また、比較例において使用する助剤及び添加剤の粉末として、AlfaAesar製のLiF粉末、MgF
2粉末、AlF
3・xH
2O粉末を入手した。純度は99.99質量%以上であった。
上記原料を用いて、出発原料として表1のように実施例原料及び3種類の比較例原料を調製した。なお、Sの添加量は分散剤であるドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムに含まれるSの割合から計算によって求めた。
【0069】
【表1】
【0070】
続いて、それぞれの出発原料について互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は10時間であった。その後スラリーを乾燥させ、得られた各出発原料の粉末を酸素雰囲気中で700〜950℃で焼成処理した。その上で再度互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。得られた各スラリーのうち、実施例1−1の一部については、そのままエバポレータで乾固させて粒径確認用乾燥粉末を得た。残りの各スラリーをすべて、スプレードライ処理によって、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料に仕上げた。
ここで、実施例1−1から抜き取り乾固させた原料粉末、すなわち出発原料について焼成・粉砕処理した原料粉末の電子顕微鏡像(SEM像)を
図1に示す。
図1に示すように、得られた原料粉末は30〜300nm程度の粒径の粒子からなっていた。即ち、焼成処理温度の上限が前記の範囲内となっていることにより、粒径500nm以上の粗い成長粒子や凝集合体粒子の発生を抑えていることを確認した。また得られた原料粉末の比表面積をBET法により求めると10〜14m
2/gまで低下していた。更に電子顕微鏡像を詳細に観察した結果、過粉砕による20nm未満の微粉末の発生をほぼ抑制できていることが確認された。これは、前記の焼成処理後のボールミル装置による分散・混合処理の際のビーズ径を2mmφ以下、かつその総量を処理粉末がエタノール中に浸る最小限度の体積以下に管理し、かつ、処理時間を25時間以内に管理することで達成できたものである。
次に、各々の顆粒状原料を直径8mmの金型であって一方のパンチに凹面鏡面加工処理を施したものに原料の嵩が縦長になるまで充填したもの、直径35mmの金型に薄く板状に充填したもの、及び直径65mmの金型に薄く板状に充填したものを準備し、一軸プレス成形機でそれぞれ直径8mm、長さ8mmの砲弾状、直径35mm、厚さ3mmの板状、直径65mm、厚さ4mmの板状に仮成形したのち、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で500〜1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を抵抗加熱式大気炉に仕込み、酸素雰囲気中、1350〜1550℃で3〜20時間処理して計12種の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が95%になるように焼結温度を適宜調整した。
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1400〜1650℃、2時間の条件でHIP処理した。
こうして得られた各セラミックス焼結体につき、表面を軽く研磨処理して透明スピネル焼結体の構造部材を作製した。なお、このときの寸法は砲弾型のものが直径6mmφ×長さ6mmLの砲弾レンズ形状、小さな板状のものが直径25mmφ×厚さ2mm、大きな板状のものが直径50mmφ×厚さ3mmの基板状であった。
【0071】
得られた各焼結体のうち、砲弾レンズ形状のサンプルはUV透過部材の形状見本として外観をチェックしたのみで、正式な評価については直径50mmφ、25mmφの基板状焼結体を用いて行った。
【0072】
(全光線透過率の測定方法)
実施例及び比較例の各基板状焼結体について日本分光(株)製の分光光度計(型式:V−670)を用いて以下の要領でUV波長域190〜400nmでの全光線透過率を測定した。
全光線透過率は、サンプルを透過した全光線を前方散乱成分まで含めて積算して評価する方法であり、具体的には積分球で光を集光して評価する。手順としては、まずサンプルを載せずにブランク状態で波長190〜400nm帯でのブランク透過率を積分球で集光してベース光量;I
0の波長ごとの数値を取得する。続いて、光路中にサンプルを配置し、波長190〜400nm帯(具体的には、190、280、315、400nmの各波長)でのサンプルを透過してきた全光線を積分球で集光して光量;Iの波長ごとの数値を取得する。全光線透過率は以下の式で算出される。
全光線透過率=I/Io×100
【0073】
(複屈折性散乱状態の観察)
続いて同じサンプルについて、ツァイス製の偏光顕微鏡にて倍率100倍で粒界観察を行った。このとき、オープンニコルで粒界が複屈折に起因してモヤモヤとした不明瞭な状態が観察されるか否かに着目して、実施例、比較例それぞれのサンプルの複屈折性散乱状態を判定した。即ち、モヤモヤとした不明瞭な状態が観察されない場合を合格、モヤモヤとした不明瞭な状態が観察された場合を不合格とした。
【0074】
(熱伝導率の測定方法)
次に、直径25mmφの実施例及び比較例の各基板状焼結体を用いて、熱伝導率を測定した。
熱伝導率λ[W/m・K]は、サンプルの密度ρ[kg/m
3]と比熱C
p[J/kg・K]、熱拡散率α[m
2/s]の積である以下の式で算出される。
熱伝導率λ=αρC
p
密度はアルキメデス法で求めることができ、比熱はPerkin−Elmer製の示差走査熱量計Pyris1DSC装置を用いてDSC(Differential scanning calorimetry)法により求め、熱拡散率はNETZSCH製LFA447を用いてレーザフラッシュ法により求めた。
【0075】
(鋼球落下試験方法)
次に、直径50mmφの実施例及び比較例の各焼結体について、以下の鋼球落下試験による破損の有無を確認した。
質量110gの鋼球を準備し、各焼結体の鉛直上部1mの位置から当該鋼球を自由落下させ、各々の焼結体に衝突させる。その結果、それぞれの焼結体について衝撃破損が生じたか否かを目視にて観測することで評価した。
このとき、破損が認められないものを合格、破損が認められたものを不合格とした。
【0076】
(屈折率の測定方法)
実施例1−1の直径25mmφサンプルについて波長190〜400nmの範囲での屈折率を測定した。
J.A.Woollam製の高速分光エリプソメーターM−2000(回転補償子型)を用いた、反射光の偏光状態変化測定による、解析ソフト(フィッティング法)を用いた光学定数計算により求めた。
【0077】
以上の一連の評価結果をまとめて表2に示す。なお、代表して実施例1−1の全光線透過率の測定結果を
図2に、同じく実施例1−1の屈折率の測定結果を
図3に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
上記結果より、焼結助剤や気化しにくい成分(S)を含む分散剤を添加した比較例の群ではいずれもUV−C波長域で全光線透過率が80%未満に低下したが、4N原料を用い、かつ意図的な添加成分を加えていない実施例ではUV−AからUV−Cまでの全波長域で全光線透過率80%以上の真に透明なUV透過焼結体に仕上がっていることが確認できた。
また顕微鏡による複屈折観察においても、実施例のみが粒界の影響のない均一な良好な光学品質を得ており、他の比較例では粒界がモヤモヤと観察される複屈折成分の存在する状態に仕上がっていることが確認された。
更に、鋼球落下テストにおいても、実施例のみ合格し、他は多かれ少なかれ破損することが確認された。
なお、実施例の試作結果から、板状窓材や砲弾レンズ型窓材の作製が可能であることが確認できた。本発明の透明スピネル焼結体はセラミック焼結体であることにより、その他の様々な形状に仕上げることが可能であることは議論するまでもない。
更に、実施例サンプルについて測定した屈折率の値は、波長190〜400nmにおいて1.73以上1.97以下であった。この屈折率の値は、本発明の透明スピネル焼結体は紫外線波長領域において市販のUV−LED素子の屈折率(例えば、250nmで3.0、280nmで2.5、315nmで2.4、400nmで2.3程度)より小さく、基板として利用されることの多いサファイアとほぼ同等の屈折率であることが確認された。このことから、紫外線耐性の高い、例えば信越化学工業(株)製のSiO
2接着膜を介してUV−LED素子と直接接着することにより、全反射閉じ込めを抑えた、外部取り出し効率の良好なレンズ材として機能し得ることが確認された。
以上の結果から、本実施例の透明スピネル焼結体を用いることにより、波長190nm〜400nmのUV−AからUV−Cまでの全紫外線波長範囲で吸収がなく、その全光線透過率が80%以上あり、複屈折成分の存在もなく、無機酸化物接着剤で直接貼り付けることにも適した、耐衝撃性も熱伝導率も良好な、真に工業的に活用可能なレベルのUV−LED用、UV透過部材を提供できることが分かった。
【0080】
実施例1−1の上記評価後のサンプル(スピネル焼結体サンプル)について、グロー放電質量分析法(Glow Discharge Mass Spectrometry:GDMS)により該スピネル焼結体中の不純物量を分析した。その結果を表3に示す。なお、表中の「<」は検出下限未満を示し、「≦」は対象元素の測定について妨害元素が存在し、そのピークが測定ピークに重なっているが、表示の数値以下であること示している。
その結果、Al及びMgを除く金属不純物(K,Na,Ca,Li,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Zr,Sn,Ba,Pb)の合計含有量は92.24wtppm未満であった。また、F,P,Sの合計含有量は7.8wtppm未満であった。
【0081】
【表3】
【0082】
[実施例2]
本発明の透明スピネル焼結体のうち、出発原料がAl
2O
3粉末とMgO粉末の混合原料である場合について取り上げる。
出発原料として、大明化学工業(株)製のアルミナ粉末と宇部マテリアルズ(株)製のマグネシア粉末を入手した。純度はアルミナ粉末が99.99質量%以上、マグネシア粉末が99.995質量%以上であった。
なお、このアルミナ粉末、マグネシア粉末それぞれのBET法による比表面積は、それぞれ15m
2/g、8m
2/g、また、平均一次粒径(レーザー光回折法による重量平均値)は、100nm、200nmであり、それぞれにおいて粒径500nm以上の粗い1次粒子、並びに同サイズ以上の硬い凝集粒子は混在していない。更に製造元出荷時に20nm未満の細かい1次粒子はほぼ混入していない。
上記出発原料(主剤原料)を用いて、焼結助剤及び分散材その他の添加剤を添加することなく実施例の出発原料を作製した。
即ち、主剤原料をエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は15時間であった。その後スラリーを乾燥させ、得られた混合粉末を950℃で焼成処理した。その上で再度エタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。得られたスラリーを、スプレードライ処理によって、平均粒径が20μmの顆粒状原料に仕上げた。
なお、焼成処理温度を上記とすることにより、一部スピネル化した原料粉末の粒径を500nm以上に粒成長させることを抑えている。更に焼成処理とその後の分散・混合処理により、原料粉末のBET法による比表面積は10〜12m
2/gの範囲内となる。また、上記の仮焼処理後のボールミル装置による分散・混合処理の際のビーズ径を2mmφ以下、かつその総量を原料粉末がエタノール中に浸る最小限度の体積以下に管理し、かつ、処理時間を25時間以内に管理することにより、過粉砕による20nm未満の微粉末の発生をほぼ抑制させるように制御している。
次に、当該顆粒状原料につき、直径8mmの金型であって、一方のパンチに凹面鏡面加工が施されているパンチと、凹面加工が施されており、かつ凹面部全面にサブミクロンサイズのエンボス加工処理が施されているパンチとの、それぞれの金型にて、原料の嵩が縦長になるまで充填したものを2種類準備し、一軸プレス成形機で厚さ8mmの砲弾状に仮成形したのち、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で800℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を抵抗加熱式大気炉に仕込み、酸素雰囲気中、1350〜1550℃で3〜20時間処理して焼結体を得た。このとき、焼結相対密度が95%になるように焼結温度を適宜調整した。
得られた2種の焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1400〜1650℃、2時間の条件でHIP処理した。
こうして得られたセラミックス焼結体につき、フラットな端面の側のみ軽く研磨処理して透明スピネル焼結体の構造部材を作製した。得られた焼結体の寸法はどちらも直径6mmφ×長さ6mmLの砲弾レンズ形状であった。
これらの2種の光学性能評価を以下の要領で行った。即ち、まず市販の発光波長が365nmのLED素子(ナイトライド・セミコンダクター(株)製NS365C−3SAA)を入手した。この素子には電極側に反射材がコートされており、基板側はサファイア単結晶で構成されていた。当該素子をサファイア基板が上面になるように置き、その上に前記2種の砲弾型UVレンズをそれぞれ置いて、両者の凸面砲弾側から出射してくる光量を積分球で集光して比較した。なお、砲弾型レンズ状のサンプルからの取出し効率を1として、エンボスレンズ状サンプルからの取出し効率はその相対値として比較した。その結果、砲弾エンボスレンズ状サンプルの取り出し効率は、砲弾型レンズ状のサンプルの1.2倍となった。
【0083】
以上の結果より、セラミック焼結体の特性を活かし、成形体に光取出し効率を向上させる工夫を施す成形処理も可能であることが確認された。即ち、本実施例の透明スピネル焼結体を用いることにより、光取出し効率を向上させる工夫を施したUV−LED用、UV透過部材を提供できる。
【0084】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。